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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  A61L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61L
管理番号 1354957
異議申立番号 異議2019-700257  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-03 
確定日 2019-09-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6400753号発明「コーティングおよびコーティング方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6400753号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6400753号の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、2009年2月27日(パリ条約による優先権主張 2008年2月29日、2008年5月9日 いずれも米国(US))を国際出願日とする特願2010-548902号(以下「親出願」という。)の一部を、平成27年2月6日に新たな出願(特願2015-22429号)とし、さらにその一部を、平成29年2月3日に新たな出願としたものであって、平成30年9月14日にその特許権の設定登録がされ、同年10月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成31年4月3日に特許異議申立人 鈴木秀仁(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6400753号の請求項1ないし16の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」ないし「本件発明16」という)。

「【請求項1】
医療用インプラントのためのコーティングであって、前記コーティングが、置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し、前記コーティングが、コーティングの厚さ全体にわたって分布している個々の金属銀粒子である抗菌金属剤をさらに含有する、コーティング。
【請求項2】
抗菌金属剤が、銀のイオンとして、または金属銀として、または銀化合物として、宿主組織に放出される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
金属銀粒子の形状が球または不規則である、請求項1または2に記載のコーティング。
【請求項4】
金属銀粒子の直径が、15nmから10μmまでの範囲のサイズである、請求項3に記載のコーティング。
【請求項5】
銀置換骨結合剤が、銀を0.1から10重量%含有する、請求項1から4の何れか一項に記載のコーティング。
【請求項6】
銀置換骨結合剤が、銀を0.5から3.0重量%含有する、請求項5に記載のコーティング。
【請求項7】
抗菌金属剤の濃度が、抗菌効果を有するのに十分である、請求項1から6の何れか一項に記載のコーティング。
【請求項8】
抗菌金属剤の濃度が0.1から10重量%である、請求項7に記載のコーティング。
【請求項9】
前記カルシウム誘導体が、ヒドロキシアパタイトおよび/またはβ型リン酸3カルシウムの1種または組合せである、請求項1から8の何れか一項に記載のコーティング。
【請求項10】
コーティングの厚さが、1μmよりも厚い、請求項1から9の何れか一項に記載のコーティング。
【請求項11】
コーティングの厚さが、10μmから200μmである、請求項10に記載のコーティング。
【請求項12】
コーティングの厚さが、30μmから100μmである、請求項11に記載のコーティング。
【請求項13】
医療用インプラントの金属基材に対するコーティングの引張り接着強さが15MPa以上である、請求項1から12の何れか一項に記載のコーティング。
【請求項14】
1つまたは複数の骨伝導性、骨促進性、および/または抗菌特性を有する、請求項1から13の何れか一項に記載のコーティング。
【請求項15】
銀置換骨結合剤が、下記の物質、即ち、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および/または亜鉛の1種または複数で置換されている、請求項1から14の何れか一項に記載のコーティング。
【請求項16】
少なくとも1つの面が、請求項1から15の何れか一項に記載のコーティングによって少なくとも部分的にコーティングされている、少なくとも1つの面を含む医療用インプラント。」

第3 申立理由の概要
異議申立人は、下記に示す甲第1号証?甲第20号証(以下「甲1」?「甲20」という。)を示し、特許異議申立書において、次に示す申立理由により、本件発明1ないし16に係る特許は取り消すべきである旨主張する。

1 理由1(特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号))
(1)親出願は、優先権主張の利益を享受することができず、本件発明の基準日は親出願の実際の出願日である平成21年2月27日になるところ、本件発明1、3ないし16は、平成21年2月27日より前に公開された甲1及び甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)本件発明2は、甲8に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2 理由2(特許法第29条の2(同法第113条第2号))
本件発明1、3ないし16は、甲1に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

3 理由3(特許法第29条第2項(同法第113条第2号))
(1)本件発明1、3ないし16は、甲3に記載された発明、及び、甲4、7、9、13、17に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(2)本件発明2は、甲8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

<甲各号証>
甲1:特願2006-252933号(特開2008-73098号公報)
甲2:J.Mater.Sci:Mater.Med.,2008,19:3603-3609
甲3:Materials Science Forum Vols.,2007,544-545,p.841-844
甲4:特開2000-143219号公報
甲5:Wiley InterScience ,2006,p.581-591
甲6:Ann.Chim.Sci.Mat,1998,23,p.61-64
甲7:第37回日本人工関節学会 プログラム・抄録集、203頁
会期:平成19年2月2日(金)・3日(土)
甲8:第37回日本人工関節学会 プログラム・抄録集、205頁
会期:平成19年2月2日(金)・3日(土)
甲9:溶射工学便覧,日本溶射協会発行,2010,第1章,3-5頁
(参照URL:http://www.jtss.or.jp/journal/handbook.htm)
甲10:ACS Appl.Mater.Interfaces,2012 Mar.,4(3),p.1341-1349
甲11:8^(th )world Biomaterials Congress 2008 Proceedings,
No.P-Sat-F-439
甲12:Journal of the Ceramic Society of Japan,2000,108[9],
p.865-868
甲13:特開平5-270945号公報
甲14:特開平6-1708号公報
甲15:Key Engineering Materials Vols.,2005,280-283,p.1529-1532
甲16:特開平3-218765号公報
甲17:特開平3-208807号公報
甲18:歯科学報,2003,Vol.103,No.6,p.481-490
甲19:WIPO国際事務局に提出された本件発明の優先権出願1の明細書
(米国仮出願61/032621)
甲20:WIPO国際事務局に提出された本件発明の優先権出願2の明細書
(米国仮出願61/051783)

第4 甲各号証の記載
1 主引用例として異議申立人が提示した甲各号証(下線は当合議体が付したものがある。)
(1)甲1
ア 甲1には、次のとおりの記載がある。

(摘記1a)「【請求項1】
インプラントの所定部位に結晶度が90%以下のリン酸カルシウム系材料からなる消失性コーティング膜を形成し、抗菌剤又は抗菌薬を含有させてなることを特徴とする生体インプラント。
【請求項2】
リン酸カルシウム系材料がハイドロキシアパタイト(HA)、第3リン酸カルシウム(TCP)、第4リン酸カルシウム(TeCP)を含むリン酸カルシウム系セラミックス、リン酸カルシウム系ガラス、およびリン酸カルシウム系ガラスセラミックスから選ばれる1種又は2種以上の混合物からなる請求項1記載の生体インプラント。
【請求項3】
膜形成方法が、フレーム溶射、高速フレーム溶射、プラズマ溶射などの溶射法又はスパッタリング、イオンプレーテイング、イオンビーム蒸着、イオンミキシング法などの物理的蒸着法或いはゾルゲル法などの湿式コーティング法が選択される請求項1記載の生体インプラント。」

(摘記1b)「【0007】
本発明者らは、上記結晶性ヒドロキシアパタイトのコーティング層の結晶度を90%以下に調整するとコーティング層の体内での消失性が得られ、その結晶度および組成により消失速度が制御できるだけでなく、膜厚により消失期間を調整できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、インプラントの所定部位に結晶度が90%以下のリン酸カルシウム系材料からなる消失性コーティング膜を形成し、抗菌剤又は抗菌薬を含有させてなることを特徴とする生体インプラントにある。」

(摘記1c)「【0009】
…リン酸カルシウム系材料組成は本発明のコーティング膜の消失速度を制御する1因子であり、難溶解性のリン酸カルシウムである結晶性ハイドロキシアパタイト(HA)、溶解性のリン酸カルシウムである第3リン酸カルシウム(TCP)、第4リン酸カルシウム(TeCP)、リン酸カルシウム系ガラス、およびリン酸カルシウム系ガラスセラミックスを適宜比率で混成することにより消失速度を調整することができる。」

(摘記1d)「【0010】
膜形成方法が、フレーム溶射、高速フレーム溶射、プラズマ溶射などの溶射法又はスパッタリング、イオンプレーテイング、イオンビーム蒸着、イオンミキシング法などの物理的蒸着法或いはゾルゲル法などの湿式コーティング法が選択されるが、膜生成方法は生成膜の結晶度に関連する。…
他方、溶射方法は5μm以上100μmまでの厚いコーティング膜を形成するのに適しており、結晶度100%のHAを溶射すると通常結晶度10%程度のコーティング膜が形成される。」

(摘記1e)「【0012】
…その溶出量は通常コーティング膜の消失速度に依存するので、コーティング槽が複数層からなり、各層の抗菌剤または抗菌薬の単位時間あたりの溶出量を各層の抗菌剤または抗生物質の含有量又は各層の消失速度により調整する。」

(摘記1f)「【0015】
本発明のコーティング膜に抗菌剤又は抗生剤を担持させる方法は、薬剤の種類によって異なる。…一方、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンなどの金属イオンの抗菌作用を利用する無機系抗菌剤の場合はこれらを予めリン酸カルシウム系材料に担持させ、上記各種コーティング法を採用して担持させることができる。なお、抗菌剤と抗生剤とを両方担持させることができる。」

(摘記1g)「【実施例1】
【0016】
HA97%、酸化銀3%を混合し、フレーム溶射法にてチタン基板上に平均20μmの溶射被膜を形成させた。その結晶度は10%であった。図1は本発明の機能を示す概念図である。チタン基板上に形成されたコーティング膜は体液中で次第に溶解し、消失する。溶出に伴い、銀イオンを液中に放出する。
1)銀イオン溶出試験
37℃のリン酸緩衝生理食塩水、牛血清で溶出試験を行った所、24時間でそれぞれ520ppb、4000ppbの溶出を示した
2)抗菌性能試験
JIS Z 2801に従って、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性能を評価した所、それぞれ抗菌活性値4.1及び5.0という高い値を示した
3)被膜の消失
37℃の生理食塩水に浸漬した所、約6ヶ月で被膜が溶解、消失した。」

(摘記1h)「 図1



イ 上記アの記載(特に(摘記1a)(摘記1b)(摘記1g))によれば、甲1には、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「抗菌剤を含有させてなる、生体インプラントのための消失性コーティング膜であって、ヒドロキシアパタイト(HA)97%と酸化銀3%とを混合し、フレーム溶射法にて形成した、結晶度が10%のHAからなる消失性コーティング膜。」

(2)甲2
ア 甲2には、次のとおりの記載がある。なお、甲2は英語のため翻訳文で示す。

(摘記2a)「プラズマ溶射銀含有HAコーティングの抗菌及び細胞毒性」(標題)

(摘記2b)「銀含有ヒドロキシアパタイト(HA)コーティングを、真空プラズマ溶射(VPS)法でチタン基板に作製し、コーティングの抗菌性を試験した。」(3603頁左欄1?4行)

(摘記2c)「骨に対するインプラントの結合を向上させるために、プラズマ溶射を用いて、チタンやチタン合金インプラントにヒドロキシアパタイト(HA)コーティングが一般的に適用されている[1]。しかし、細菌感染症は、通常コーティングされたインプラント上の細菌の付着及びコロニー形成によって引き起こされる[2,3]。術後感染症の発生率を低減するために、ラクトフェリン、ビオロゲン、ケイ素、銀、銅、亜鉛などの様々な物質を含む抗菌材料について研究が行われている[4-8]。
銀と銀イオンは、広い抗菌活性スペクトルを有するだけでなく、強い抑制及び殺菌効果を有することが知られている[9-14]。ゾル-ゲル法、イオン注入、イオン交換及びスパッタリングのような、コーティング材料に銀を導入する異なる方法がある[15-19]。いくつかの研究で、銀含有HAコーティングとフィルムの抗菌効果が報告され[[7,18,20]、これらのコーティングとフィルムは、良好な抗菌効果を発揮することが示された。しかし、プラズマ溶射HAコーティングは広く臨床応用されているが、銀を添加したその抗菌特性は報告されていない。
本論文では、プラズマ溶射銀含有HAコーティングの抗菌及び生物学的特性を研究した。」(3603頁左欄20行?同頁右欄21行)

(摘記2d)「2.1 コーティングの作製
15?50μmの粒径範囲を有するHA粉末を、スイスのスルザーメトコ社から入手した。純度99.9%、代表サイズが40?100μmである銀粉末を、本研究の抗菌添加剤として用いた。表1に示す組成を有するHA粉末と銀粉末を、2時間ボールミルを行い、コーティングの作製に供した。

表1 コーティングの作製ためのHAと銀の粉末の組成
コーティング HA HA1 HA3 HA5
HA wt% 100 99 97 95
Ag wt% 0 1 3 5


表2 溶射パラメータ
プラズマガス Ar 40slpm
プラズマガス H_(2) 10slpm
スプレー距離 300mm
チャンバ圧力 100mbar
粉末キャリアガス Ar 2.0slpm
電流 650A
電圧 68V
slpm:毎分標準リットル

10×30×2mm^(3)のチタン板を基板に用いた。真空プラズマ溶射(VPS)システム(F4-VB、スルザーメトコ、スイス)を用い、表2に示す溶射パラメータ条件で、HAと銀含有HAのコーティングを作製した。」(3603頁右欄27行?3604頁左欄8行)

(摘記2e)「溶射HA、HA1、HA3及びHA5コーティングのXRDパターンを図1に示す。これは、銀含有HAコーティングはHA、TCP、CaO及びAgから構成されていることを示している。TCPとCaOのピークは、プラズマ溶射時にHAが分解したことを示している。…
大腸菌、緑膿菌及び黄色ブドウ球菌に対する銀含有HAコーティングの抗菌効果を図2-4に示す。…銀含有HAコーティングの計算された抗菌比anti-bacterial ratiosを表3に示すが、3種の全てのバイクテリアに対して95%を超えていることを明らかにする。」(3606頁左欄2行?同頁右欄4行)

(摘記2f)「図5 銀含有HAコーティングをSBFに異なる時間浸漬した時の銀イオンの濃度変化」(3607頁右欄)

イ 上記アの記載によれば、甲2には、次のとおりの発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「チタンやチタン合金インプラントのための、銀含有ヒドロキシアパタイト(HA)コーティングであって、HA粉末と銀粉末とをボールミルを行い、H_(2)とArを含む雰囲気で真空プラズマ溶射を行うことにより形成した、XRDパターンによりHA、TCP、CaO及びAgから構成されていることが示された、コーティング。」

(3)甲3
ア 甲3には、次のとおりの記載がある。なお、甲3は英語のため翻訳文で示す。

(摘記3a)「真空プラズマ溶射(VPS)された、銀担持リン酸ジルコニウムを含むヒドロキシアパタイト(HA)コーティングを、チタニウム基板上に作製した。」(841頁、要約1?2行)

(摘記3b)「この研究は、銀含有VPHAコーティングが、歯のインプラントとして有望な候補であることを示した。」(841頁、要約11?12行

(摘記3c)「有害な微生物を非活性化するため、無機殺菌材料が商業的に開発されている。ゼオライトやリン酸ジルコニウム等のイオン交換性基材の場合、微生物に対して有効であるにもかかわらず他の重金属に比べて哺乳類に対する毒性の少ないAg^(+)が、通常組み込まれている。本研究では、銀担持リン酸ジルコニウムを含むHAコーティングをVPSにより作製した。コーティングの非活性化試験と生物活性評価を、細菌培養試験とSBF浸漬試験により行った。」(841頁下から6?1行)

(摘記3d)「コーティングの作製。市販のHA粉末(…)と銀担持ジルコニウム抗菌剤(Ag含量=3.8重量%、…)をボールミル粉砕器で2時間混合した。複合粉末の組成を表1に示す。VPSシステム(…)を用い、改良パラメータの条件で、チタン基材上に銀含有HAコーティングを作製した。比較のため、HAコーティングも作製した。」(842頁2?7行)

(摘記3e)「抗菌効果.HAコーティング上と銀含有HAコーティング上の48時間後の寒天平板培地の細菌コロニーを図1に示す。3種の全ての細菌について、対照サンプルと比較すると、銀含有HAコーティングの場合、細菌のコロニー数が顕著に減少していた。これは、銀含有HAコーティングが細菌の成長抑制に重要な役割を果たしていることを意味している。計算により得られた抗菌比を図2に示す。図2から、抗菌剤量が増加すると抗菌比が増加することがわかる。」(842頁下から9?4行)

イ 上記アの記載によれば、甲3には、次のとおりの発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「ヒドロキシアパタイト(HA)粉末と銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤をボールミル粉砕器で混合し、真空プラズマ溶射により作製した、歯のインプラントのための銀含有HAコーティング。」

(4)甲8
ア 甲8には、次のとおりの記載がある。

(摘記8a)「銀系抗菌生体剤量の開発(5)-in vivo抗菌性の評価-」(標題)

(摘記8b)「【目的】骨内インプラントである人工関節および固定材料を用いた整形外科手術における感染は,周術期のみならず長期的にも大きな問題となる.…今回我々は,骨誘導能を有するhydroxyapatiteに無機抗菌金属である銀を添加したコーティング材料(以下銀HA)を開発し,これをコーティングしたチタン板の生体内抗菌評価を行ったので報告する.

(摘記8c)「【方法】フレーム溶射法を用いてhydroxyapatiteのみをコーティングしたチタン板をコントロール群(以下HA群)とし,同法で銀HAコーティングしたチタン板を対照群(以下銀HA群)とした.これらをSDラット雄5週齢の背部皮下に埋入し,同部にバイオフィルム形成能を有するMRSAを接種し,7日後に試験片を摘出、表面をswab methodにて評価した.また,経過中の体温・体重を測定した.
【結果】銀HA群はHA群に対して10^(3?4)倍の有意な抗菌活性を有していた.」

イ 上記アの記載によれば、甲8には、次のとおりの発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。

「ハイドロキシアパタイト(HA)に無機抗菌金属である銀を添加したコーティング材料(銀HA)を、フレーム溶射法を用いて形成した、骨内インプラントのコーティングであって、前記骨内インプラントをラット背部皮下に埋入した際に抗菌活性を発揮する、コーティング。」

2 上記1以外の甲各号証
(1)甲4
(摘記4a)甲4には、人工関節などに利用されるチタン板等の芯材に、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム系の化合物の層をプラズマ溶射により形成した後、リンイオンと、Mg,Zn,B等の微量元素イオンを含む水溶液を塗布し、真空又は不活性ガス雰囲気下で、焼成(好ましくは800?1200℃)すると、微量元素がコーティング層に固溶することが記載されている(特許請求の範囲、【0001】、【0008】、【0011】、【0014】、【0016】、【0019】)。

(2)甲5
(摘記5a)甲5には、銀置換ハイドロキシアパタイト(AgHA)サンプルのXRDパターンを測定すると、最小二乗法で求めたAgHAサンプルの格子パラメータは、置換銀量とともに増加することがわかったこと、及び、格子パラメータの増加は、Ca^(2+)に比べて大きなサイズを有するAg^(+)の置換によるものであることが記載されている。(582頁右欄3?26行、585頁左欄5?10行)

(3)甲6
(摘記6a)甲6には、リン酸塩溶液(Na_(2)HPO_(4))及び硝酸カルシウムと硝酸銀の混合溶液から化学量論的に沈殿させて、カルシウム-銀ヒドロキシアパタイトを合成し、種々の分析技術(化学分析、X線回折、赤外分光法)を用いて分析したところ、格子パラメータaおよびcは、銀の添加量に対して直線的に増加し、その増加は、これらアパタイトのサイトMe(I)での銀イオンの優先的な置換によるものであること、及び、原子比Ag/(Ag+Ca)が0?0.055の範囲でAg^(+)を含むヒドロキシアパタイトを製造するのに成功したように思われることが記載されている。(要約、62頁1?2行、63頁13?15行)

(4)甲7
(摘記7a)甲7には、酸化銀を添加したハイドロキシアパタイト粉末をフレーム溶射法で、生体インプラントに用いられるチタン基材に被膜形成したところ、被膜はチタン表面に均一にコーティングされており、溶射法に特有の溶融粒子の積層構造が観察されたことが記載されている。(203頁上段)

(5)甲9
(摘記9a)甲9には、溶射の成膜工程に関し、「溶射における成膜の素過程は,(1)熱源による溶射材料の加熱と加速,(2)溶滴の基材への衝突,偏平化そして凝固,(3)偏平化した粒子(スプラットと呼ぶ)の積層過程から構成されると言える」ことが記載されている。(3頁17?20行)

(6)甲10
甲10には、次のとおりの記載がある。原文は英語なので翻訳文で示す。

(摘記10a)「本研究では、HAの4種の組成物を用いた:HA、Agを2.0,4.0、6.0重量%ドープしたHA。無水エタノール75mlと直径5mmのジルコニア製ミリング媒体100gを含む250mlのポリプロピレンボトルの中で、HAと酸化銀(Ag_(2)O)を混合して、ドープ粉末を作製した。スラリーを70rpmで6時間粉砕した後、オーブン中60℃で72時間乾燥した。前駆体粉末の粒径分布を維持するために、ボールミル粉末を800℃で6時間熱処理して粒状化した。…プラズマ溶射システム(…)を用いてコーティングを行った。以下、2.0,4.0、6.0重量%のAgをドープしたHAを、それぞれ、HA、HA-2Ag、HA-4Ag、HA-6Agと表示する。」(1343頁9?19行)

(摘記10b)「HAとAgドープHAのコーティングのX線回折パターンを図1に示す。…Ag(…)とAg_(2)O(…)に関係するピークは、HA-2Ag、HA-4Ag、およびHA-6Ag中で認められ、金属AgとAg_(2)Oが別の相に取り込まれていることを示している。(101)Ag_(2)Oのピーク強度は、コーティング中のAg_(2)O濃度の増加とともに増加した。」(1345頁36?44行)

(摘記10c)「XRDの結果は、Ag_(2)Oを含むサンプルの2θ値の僅かなピークシフトを示しており、それは、Ca^(2+)の置換と考えられる、HA格子構造の中への銀イオンの取り込みを示している。」(1347頁39?41行)

(摘記10d)「本研究では、Agは、金属AgやAg_(2)Oの堆積物としてコーティング中に存在するだけでなく、HA格子構造の中へのAg^(+)の形で置換され、コーティング中に構造的に取り込まれている。」(1348頁32?34行)

(7)甲11
(摘記11a)甲11には、3重量%酸化銀を含むHAをアセチレン炎を用いるフレーム溶射法により溶射して形成したAg-HAコーティングは、FBS中で、24時間で260ppb、70時間で333ppb、168時間で373ppbの濃度の銀イオンを放出したことが記載されている。(左欄21?24行、左欄37?38行、右欄3?8行、図2)

(8)甲12
甲12には、次のとおりの記載がある。

(摘記12a)「溶射HAp層の酸化チタン(IV)基板への付着強度をTi_(3)Pが生成したチタン基板への付着強度の10?20MPaと比較するという本研究の目的を達成するには、焼結体自体の強度を少なくともこの程度までに高める必要がある。」(867頁左欄24?27行)

(9)甲13
甲13には、次のとおりの記載がある。

(摘記13a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、多孔質セラミック材料、および、その製造方法に関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、多数の特定寸法の空孔と、少くともこれらを外部空間に連通する、多数の特定寸法の毛細管状空隙通路とを有し、骨の再生、その他の医療的用途に用いられる材料、電子材料、および遺伝子工学用材料として有用な多孔質セラミック材料、およびその製造方法に関するものである。」

(摘記13b)「【0017】…ヒドロキシアパタイトは、組成式Ca_(5) (PO_(4))_(3) OH又は、Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)を有する化合物を基本成分とするもので、Ca成分の一部分は、Sr,Ba,Mg,Fe,Al,Y,La,Na,K,Hなどの1種以上で置換されていてもよく、また(PO_(4) )成分の一部分が、VO_(4) ,BO_(3) ,SO_(4) ,CO_(3) ,SiO_(4) などの1種以上で置換されていてもよく、更に(OH)成分の一部分が、F,Cl,O,CO_(3) などの1種以上で置換されていてもよい。」

(10)甲14
甲14には、次のとおりの記載がある。

(摘記14a)「【0011】これらリン酸カルシウム系セラミックスに担持させる金属又はそのイオンは、銀、亜鉛、銅、ニッケル、白金、錫、ヒ素、鉛、カドミウム、及びクロムより選ばれた1種又は2種以上の金属塩より選択され、これら金属塩水溶液をリン酸カルシウム系セラミックスに、常法により吸着又はイオン交換により金属又は金属塩を担持させて金属又は金属塩担持したリン酸カルシウム系セラミックスをえる。担持する金属塩の量は、処理する金属塩水溶液濃度により任意に選択できるが、一般に担持した金属又はそのイオンの量は、使用したリン酸カルシウム系セラミックスに対し、重量で0.001%以上、好ましくは0.1?15%程度になるように水溶液濃度を選択する。」

(11)甲15
(摘記15a)甲15には、ヒドロキシアパタイト粉末、硝酸銀、硝酸アルミニウム及びフッ化ナトリウムを、蒸留水に添加し、1時間攪拌し、5時間放置した後、蒸留水で洗浄乾燥して約5%の銀を含む抗菌銀含有ヒドロキシアパタイト粉末を得て、その粉末を1100℃で1時間処理し、そのX線回折スペクトルを測定したことが記載されている。(1529頁下から10?6行、1530頁8?14行)

(12)甲16
(摘記16a)甲16には、ハイドロキシアパタイトに銀等の水溶性金属塩を吸着保持させた後焼成して得られる抗菌性セラミックス材料は、イオン交換により担持された金属イオンより極めて多量の金属及び/又は金属イオンが吸着保持されるため、抗菌力が優れていることが記載されている。(特許請求の範囲、3頁左上欄8?17行)

(13)甲17
(摘記17a)甲17には、リン酸ジルコニル等のリン酸塩化合物は、1200℃以上の高温においては熱分解しリン(P)分が蒸発することが記載されている。(1頁右下欄下から3行?2頁左上欄5行)

(14)甲18
(摘記18a)甲18には、ヒドロキシアパタイトを溶射材料として生体インプラントの溶射コーティングに利用することが記載され、図4には、市販HAコーティングの断面SRM像が、15μmや60μmなどのスケールとともに記載されている。(481頁左欄12行?右欄10行、487頁右欄17行?488頁左欄7行、図4)

第5 当審の判断
1 理由1(特許法第29条第1項第3号)のうち甲1を主引用例とする理由について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「生体インプラントのための」「消失性コーティング」、及び、「ヒドロキシアパタイト(HA)」は、それぞれ本件発明1の「医療用インプラントのためのコーティング」、及び、「カルシウム誘導体である」「骨結合剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「医療用インプラントのためのコーティングであって、前記コーティングが、カルシウム誘導体である骨結合剤を含有する、コーティング。」
<相違点1>
コーティングにおける銀の存在状態について、本件発明1は、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し、前記コーティングが、コーティングの厚さ全体にわたって分布している個々の金属銀粒子である抗菌金属剤をさらに含有する」ことを特定しているのに対し、甲1発明は、コーティング膜が「HA97%と酸化銀3%とを混合し、フレーム溶射法にて形成した」ものであるものの、銀がどのような状態として存在しているかは特定していない点。

イ 判断
(ア)甲1発明は、HAと酸化銀を混合しフレーム溶射法にて形成したコーティング膜であるところ、甲1には、(i)コーティング膜において、HAにおけるカルシウムと銀が置換し、コーティングの厚さ全体に渡って均質に分布されている銀濃度を有すること、及び、(ii)酸化銀が還元されて個々の金属銀粒子となり、コーティング膜の厚さ全体にわたって分布していることは、記載も示唆されていない。
特に、甲1に記載されたフレーム溶射法は、酸素とアセチレン等の燃焼フレーム(炎)の中で粉末を溶融・加速させる溶射法であるから、酸化銀が、還元された状態である個々の金属銀粒子となるとはいえない。

(イ)本件明細書には、本件発明1を製造する方法の実施形態として、
「(3)銀は、銀変性HAとして未変性のHA結晶構造に完全に組み込むことができ、HAコーティングの全体にわたり均質に分布することができる。(4)銀は、プラズマの還元雰囲気中で形成される、金属である銀の形をとることができる。そのような銀は、HAコーティングのマトリックス中に銀の個々の粒子として分布される。金属である銀は、HAコーティングの外面から固定深さまで存在することができまたはHAコーティングの全厚に存在することができる。」(【0039】)と記載され、実施例1及び2において、HA粉末を硝酸銀溶液に3日間浸漬することにより、硝酸銀溶液からのいくらかのAgイオンをHA構造におけるCaイオンに置換させ、いくらかの銀化合物はHA表面に物理的に吸着されるものとした銀変性HA粉末を、従来の真空プラズマ溶射プロセスで使用し、コーティングを形成したことが記載されている(【0097】?【0157】)。
このように、甲1発明を製造する方法(HAと銀を混合したものをフレーム溶射する方法)は、本件明細書に具体的に開示された本件発明1を製造する方法(HA粉末を硝酸銀溶液に浸漬しイオン交換したものを、還元雰囲気中でプラズマ溶射(又は従来の真空プラズマ溶射)する方法)とは異なることからみても、甲1発明において、本件発明1と同様な銀の存在状態となっているとはいえない。

(ウ)他方、甲4に、チタン板等の芯材に、ハイドロキシアパタイト(合議体注:ヒドロキシアパタイトと同義)等のリン酸カルシウム系の化合物の層をプラズマ溶射により形成した後、リンイオンと、Mg,Zn,B等の微量元素イオンを含む水溶液を塗布し、真空又は不活性ガス雰囲気下で、焼成(好ましくは800?1200℃)すると、微量元素がコーティング層に固溶することが記載されているように(摘記4a)、特定の条件において、リン酸カルシウムのカルシウムイオンの一部が、Fe、Zn、Mg等の金属イオンで置換されることは知られており、また、甲5及び甲6に記載のとおり(摘記5a、6a)、X線回折(XRD)法を用いて測定した格子パラメータの数値と銀置換量が関連していることが知られていた。
しかしながら、これらの技術的知見及び、その他の甲号証の記載を検討しても、HAと酸化銀とを混合しフレーム溶射法して形成したコーティング膜が、相違点1に係る本件発明1の銀の存在状態となることが、技術常識となっていたとはいえない。

(エ)したがって、相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。

(2)本件発明3ないし16について
本件発明3ないし16は、本件発明1を更に特定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明ではない。

(3)異議申立人の主張について
ア 異議申立人は、銀がリン酸カルシウムのカルシウムイオンの一部を置換することは技術常識であり、甲4記載のとおり、高温(例えば800℃?1200℃)でリン酸カルシウムイオンの一部がFe,Zn,Mg等の金属イオンで置換されることは公知であり、甲5及び甲6に記載のとおり、カルシウムが金属イオンで置換されたリン酸カルシウムの周知の分析技術であるX線回折(XRD)法を用いれば、当業者は容易に、甲1発明のインプラント材料には銀置換結合剤が含まれていることを知ることができた旨を主張する(異議申立書31頁)。
しかしながら、甲4に記載された方法は、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム系の化合物の層をプラズマ溶射により形成した後、リンイオンと、Mg,Zn,B等の微量元素イオンを含む水溶液を塗布し、真空又は不活性ガス雰囲気下で、焼成する方法であって、甲1発明のように、リン酸カルシウム系の化合物の粉末と微量元素の酸化物の粉末とを混合したものをフレーム溶射する方法とは異なるから、甲4の記載から直ちに、甲1発明においても、酸化銀の粉末に含まれていた銀が、ヒドロキシアパタイトのカルシウムと置換し、コーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有するものとはいえない。

イ 異議申立人は、「本明細書で使用される『銀』という用語は、実質的な銀、銀ベースの成分を有する組成物、銀ベースの成分を有する前駆体、銀化合物、または銀を含有する合金を含んでいてよい。先の考察から、銀および/または銀化合物を、…組み込むことが可能である。」(【0065】)との記載があるから、甲1発明の「溶射膜に担持された酸化銀」は、本件発明1における「個々の金属銀粒子である抗菌金属剤」に相当する旨を主張する(異議申立書33?34頁)。
しかしながら、本件発明1は、単なる「銀粒子」ではなく、「金属銀粒子」を含むものであり、本件明細書の実施例1においても、銀が、「金属の銀」「硝酸銀」「酸化銀」としてそれぞれ存在することを実証したと記載され(【0112】)、酸化銀と、金属の銀(金属銀)とは区別していることから、本件発明1の「金属銀」とは、酸化物のような銀化合物ではなく、純粋な金属としての銀(Ag)の粒子を意味すると解される。
したがって、甲1発明の「酸化銀」は、本件発明1の「個々の金属銀粒子である抗菌金属剤」とは異なるものである。

ウ 異議申立人は、本件発明1では、HA/銀粉末配合物をプラズマ溶射すれば、金属銀は、個々の金属粒子としてコーティングされると理解されるところ、本件発明1と甲1発明との間に製造方法としての相違はないから、甲1発明においても、個々の金属銀粒子である抗菌金属剤が存在することとなる旨主張する(異議申立書33頁)。
しかしながら、上記(1)イ(イ)に示したように、本件発明1と甲1発明とはその製造方法が相違するから、異議申立人の上記主張は採用できない。

エ 異議申立人は、甲10は、本件の優先権主張日後に公開されたものであるが、甲10には、酸化銀粉末とヒドロキシアパタイト粉末を原料粉末としてプラズマ溶射法を用いて作製したコーティング膜をXRD法により分析したところ、金属AgやAg_(2)OだけでなくCa^(2+)の一部がAg^(+)で置換された銀置ヒドロキシアパタイトを含むことが記載されている旨主張する(異議申立書34頁)。
しかしながら、甲10に記載された特定の条件で製造したプラズマ溶射コーティングは、甲1に記載された製造条件を正確に再現して製造したプラズマ溶射コーティングではないから、甲1発明における銀の存在状態が、甲10に記載されたものと同じであるとはいえないし、また、甲10は、本件優先日(又は親出願の実際の出願日)当時の技術常識を示すものとはいえないので、本件発明1が甲1に記載された発明であるか否かの判断に、甲10の記載は影響しない。

オ 異議申立人は、甲1の【0016】、甲11の図2に示された銀イオンの放出量をみても、本件発明1は、甲10発明(あるいは既知技術)に対して格別顕著な効果を奏するとはいえないので、本件発明1は、甲1に記載された発明と同一である旨を主張する(異議申立書33?34頁)。
しかしながら、本件発明1の効果の顕著性を議論するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえないことは、上記したとおりである。

カ 上記ア?オのとおり、異議申立人の主張はいずれも採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1、3?16は、甲1に記載された発明とはいえない。

2 理由1(特許法第29条第1項第3号)のうち甲2を主引用例とする理由について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「チタンやチタン合金インプラントのための」「コーティング」、及び、「ヒドロキシアパタイト(HA)」は、それぞれ本件発明1の「医療用インプラントのためのコーティング」、及び、「カルシウム誘導体である」「骨結合剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「医療用インプラントのためのコーティングであって、前記コーティングが、カルシウム誘導体である骨結合剤を含有する、コーティング。」
<相違点2>
コーティングにおける銀の存在状態について、本件発明1は、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し、前記コーティングが、コーティングの厚さ全体にわたって分布している個々の金属銀粒子である抗菌金属剤をさらに含有する」ことを特定しているのに対し、甲2発明は、HA粉末と銀粉末とをボールミルを行い、H_(2)とArを含む雰囲気で真空プラズマ溶射を行うことにより形成したコーティングが、XRDパターンによりHA、TCP、CaO及びAgから構成されていること特定している点。

イ 判断
(ア)甲2発明は、XRDパターンによりHA、TCP、CaO及びAgから構成されていることが示されたものであるが、XRDパターンによるAgは、金属銀又は銀化合物の結晶質層を示すものであり、HA結晶中に置換された銀を意味するものではないから、甲2には、甲2発明が「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し」ていることは具体的に示されていない。

(イ)また、本件明細書に具体的に開示された本件発明1を製造する方法()HA粉末を硝酸銀溶液に浸漬しイオン交換したものを用いる方法)と、甲2発明のHA粉末と銀粉末の混合粉末を用いる方法とは、用いる粉末が異なることからみても、甲2発明においては、本件発明1と同様に、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し」ているとはいえない。

(ウ)そして、本件優先日(又は親出願の実際の出願日)当時、甲2発明のように、HA粉末と銀粉末を、直接、還元環境下で真空プラズマ溶射した場合に、HAのカルシウムが銀に置換した銀置換HAとなり、コーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有するものとなることは、技術常識となっていたとはいえない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。

(2)本件発明3ないし16について
本件発明3ないし16は、本件発明1を更に特定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明ではない。

(3)異議申立人の主張について
異議申立人は、甲2発明の「銀含有HAコーティング」は、HA粉末と銀粉末とを真空プラズマ溶射でHAと銀含有HAのコーティングを作製したものであり、該コーティングは、銀含有HAコーティングはHA、YCP、CaO、およびAgから構成されていることが確認されているので、甲2発明は、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、」という構成を有する旨を主張する(異議申立書35?36頁)。
しかしながら、XRDパターンにより存在が確認されたAgは、金属銀又は銀化合物の結晶質層を示すものであり、HA中に置換された銀を意味するものではないから、甲2発明は「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、」という構成を有するとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1、3?16は、甲2に記載された発明とはいえない。

3 理由1(特許法第29条第1項第3号)のうち甲8を主引用例とする理由について
(1)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲8発明とを対比する。
甲8発明の「銀HAを含むコーティング」は、骨内インプラントのためコーティングを意図しており(摘記8b)、ラット背部皮下に埋入した際に抗菌活性を発揮するものであるから、本件発明2の「医療用インプラントのためのコーティング」に相当する。
甲8発明の「HA」は、本件発明2の「カルシウム誘導体である」「骨結合剤」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲8発明との一致点は次のとおりであり、少なくとも下記の相違点3において相違する。

<一致点>
「医療用インプラントのためのコーティングであって、前記コーティングが、カルシウム誘導体である骨結合剤を含有する、コーティング。」
<相違点3>
コーティングの銀の存在状態について、本件発明2は、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し、前記コーティングが、コーティングの厚さ全体にわたって分布している個々の金属銀粒子である抗菌金属剤をさらに含有する」ことを特定しているのに対し、甲8発明は、ハイドロキシアパタイトに無機抗菌金属である銀を添加したコーティング材料(銀HA)をフレーム溶射法を用いて形成したコーティングであるものの、得られたコーティングにおける銀の存在状態については特定していない点。

イ 判断
甲8発明は、HAに無機抗菌金属である銀を添加したコーティング材料を、フレーム溶射法を用いて形成したコーティングであるところ、甲8には、(i)コーティングにおいて、HAにおけるカルシウムと銀が置換し、コーティングの厚さ全体に渡って均質に分布されている銀濃度を有すること、及び、(ii)銀が個々の金属銀粒子として、コーティング膜の厚さ全体にわたって分布していることは、記載も示唆されていない。
特に、甲8発明におけるフレーム溶射法は、酸素とアセチレン等の燃焼フレーム(炎)の中で粉末を溶融・加速させる溶射法であるから、銀が、還元された状態である個々の金属銀粒子として存在しているとはいえない。
したがって、相違点3は、実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲8に記載された発明ではない。

(2)異議申立人の主張について
異議申立人は、甲8は、宿主組織であるラット背部皮下における銀の抗菌作用を見たものであり、抗菌金属剤が、銀のイオンとして、または金属銀として、または銀化合物として、宿主組織に放出されることを明らかにしたものであり、また、前記のとおり、銀置換カルシウム誘導体がコーティング中に含まれるコーティングである本件発明1は新規性がないものであるので、これを用いて本件発明2とすることは、甲8に記載された発明と同一であるから、本件発明2は、甲8に記載されたものである旨を主張する(異議申立書36?37頁)。
異議申立人の上記主張は、本件発明2が、甲8に記載されたものであるとする具体的な理由を述べておらず、本件発明1が甲1又は甲2に記載された発明であり新規性がない旨の主張を、その理由としているようである。
しかしながら、上記(1)に示したように、本件発明2は、甲8に記載されたものであるとはいえず、また、本件発明2が引用する本件発明1は、甲1又は甲2に記載された発明ではないことは、上記したとおりである。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲8に記載された発明とはいえない。

4 理由2(特許法第29条の2)について
異議申立人は、理由1と同様の理由により、甲2に記載された技術を周知技術として考慮すれば、本件発明1、3?16は、甲1に記載された発明と同一であると主張する。
しかしながら、上記1に示したように、本件発明1、3?16は、甲1に記載された発明と同一ではない。

5 理由3(特許法第29条第2項)のうち甲3を主引用例とする理由について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「歯のインプラントのための銀含有HAコーティング」は、本件発明1の「医療用インプラントのためのコーティング」に相当する。
甲3発明の「HA」は、本件発明1の「カルシウム誘導体である」「骨結合剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「医療用インプラントのためのコーティングであって、前記コーティングが、カルシウム誘導体である骨結合剤を含有する、コーティング。」
<相違点4>
コーティングにおける銀の存在状態について、本件発明1は、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し、前記コーティングが、コーティングの厚さ全体にわたって分布している個々の金属銀粒子である抗菌金属剤をさらに含有する」ことを特定しているのに対し、甲3発明は、「ヒドロキシアパタイト(HA)粉末と銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤をボールミル粉砕器で混合し、真空プラズマ溶射により作製した」ことを特定しているものの、銀の存在状態については特定していない点。

イ 判断
甲4には、人工関節などに利用されるチタン板等の芯材に、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム系の化合物の層をプラズマ溶射により形成した後、リンイオンと、Mg,Zn,B等の微量元素イオンを含む水溶液を塗布し、真空又は不活性ガス雰囲気下で、焼成(好ましくは800?1200℃)すると、微量元素がコーティング層に固溶することが記載されているが(摘記4a)、銀置換リン酸カルシウムは記載されていない。
また、甲7には、酸化銀を添加したハイドロキシアパタイト粉末をフレーム溶射法で、生体インプラントに用いられるチタン基材に被膜形成したところ、被膜はチタン表面に均一にコーティングされており、溶射法に特有の溶融粒子の積層構造が観察されたことが示されているが(摘記7a)、被膜中のヒドロキシアパタイトに銀が置換していることは記載されていない。
そうすると、甲4及び甲7には、銀置換リン酸カルシウム(銀置換ヒドロキシアパタイト)は記載されていないので、甲3、甲4及び甲7を組み合わせても、本件発明1には至らない。
また、甲3、甲4及び甲7を組み合わせても、甲3発明において、HA粉末とともに用いられる銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤に代えて、銀置換リン酸カルシウム(銀置換ヒドロキシアパタイト)を用いる動機付けがあるとはいえない。
また、甲9、13、17等のその他の甲号証の記載を考慮しても、同様である。
したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明、及び、甲4、7、9、13、17に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3ないし16について
本件発明3ないし16は、本件発明1を更に特定したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明、及び、甲4、7、9、13、17に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)異議申立人の主張について
異議申立人は、甲3、甲4及び甲7は、いずれも抗菌剤たる銀を含む医療用インプラントについての発明であるので、技術分野が共通し、解決すべき課題も共通するので、これらを組み合わせることの動機付けは充分であり、甲4及び甲7の記載に基づいて、甲3に記載された銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤に代えて銀置換リン酸カルシウムを採用することは当業者であれば容易である旨を主張する(異議申立書51?52頁)。
しかしながら、上記(1)に示したように、甲3、甲4及び甲7を組み合わせても、本件発明1には至らないし、甲3発明において、銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤に代えて銀置換リン酸カルシウムを採用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1、3?16は、甲3に記載された発明、及び、甲4、9、13、17に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 理由3(特許法第29条第2項)のうち甲8を主引用例とする理由について
(1)本件発明2について
ア 対比
上記3に示したように、本件発明2と甲8発明とは、少なくとも下記の相違点3において相違する。

<相違点3>
コーティングの銀の存在状態について、本件発明2は、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し、前記コーティングが、コーティングの厚さ全体にわたって分布している個々の金属銀粒子である抗菌金属剤をさらに含有する」ことを特定しているのに対し、甲8発明は、ハイドロキシアパタイトに無機抗菌金属である銀を添加したコーティング材料(銀HA)をフレーム溶射法を用いて形成したコーティングであることを特定しているものの、銀の存在状態については特定していない点。

イ 判断
上記3に示したように、甲8には、ハイドロキシアパタイトに無機抗菌金属である銀を添加したコーティング材料が、具体的にどのような組成であるのかを記載しておらず、また、フレーム溶射法は、酸素とアセチレン等の燃焼フレーム(炎)の中で粉末を溶融・加速させる溶射法であるからであるから、銀が、還元された状態である個々の金属銀粒子として存在しているとはいえない。
また、甲8発明において、溶射条件等を変更して、相違点3に係る本件発明2の銀の存在状態とする動機付けは見出せない。
したがって、本件発明2は、甲8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)異議申立人の主張について
異議申立人は、甲8は、宿主組織であるラット背部皮下における銀の抗菌作用を見たものであり、抗菌金属剤が、銀のイオンとして、または金属銀として、または銀化合物として、宿主組織に放出されることを明らかにしたものであるので、本件発明2は甲8から容易になし得たものである旨を主張する(異議申立書54?55頁)。
しかしながら、異議申立人は、甲8については、抗菌金属剤が銀のイオンなどとして宿主組織に放出されることについて説明するだけであって、本件発明2と甲8発明との相違点3が当業者が容易になし得たものであることについて、具体的に説明していない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1ないし16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-08-26 
出願番号 特願2017-18284(P2017-18284)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A61L)
P 1 651・ 16- Y (A61L)
P 1 651・ 121- Y (A61L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 樹理  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 藤原 浩子
小川 知宏
登録日 2018-09-14 
登録番号 特許第6400753号(P6400753)
権利者 スミス アンド ネフュー インコーポレイテッド
発明の名称 コーティングおよびコーティング方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
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