• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1354965
異議申立番号 異議2019-700493  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-19 
確定日 2019-09-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6438894号発明「グラフェンを含む熱電材料およびデバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6438894号の請求項1ないし22に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6438894号の請求項1?22に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は、2014年2月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年2月14日、英国)を国際出願日として出願したものであって、平成30年11月22日にその特許権の設定登録がされ、同年12月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和1年6月19日に特許異議申立人松山徳子により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6438894号の請求項1?22の特許に係る発明(以下、それぞれ順に「本件発明1」?「本件発明22」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
金属酸化物材料と、
前記金属酸化物材料全体にわたって分散されたグラフェンまたは修飾グラフェンとを含み、前記グラフェンまたは修飾グラフェンが浸透閾値未満の量で存在する、熱電コンポジット材料。
【請求項2】
プリスチングラフェンを含む、請求項1に記載のコンポジット材料。
【請求項3】
酸化グラフェンまたは部分酸化グラフェンを含む、請求項1に記載のコンポジット材料。
【請求項4】
前記金属酸化物材料が、Ca_(3)CoO_(9)、Na_(x)CoO_(2)、Bi_(2)Sr_(2)Co_(2)O_(x)、SrTiO_(3)、CaMnO_(3)、およびZnOから選択され、ドーパントを含んでいても含んでいなくてもよい、請求項1から3のいずれか一項に記載のコンポジット材料。
【請求項5】
前記金属酸化物材料が、ドーパントを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のコンポジット材料。
【請求項6】
前記グラフェンまたは修飾グラフェンが、前記熱電コンポジット材料の0.05?1wt%の量で存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載のコンポジット材料。
【請求項7】
前記熱電コンポジット材料が、n型熱電金属酸化物材料を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のコンポジット材料。
【請求項8】
前記熱電コンポジット材料が、p型熱電金属酸化物材料を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のコンポジット材料。
【請求項9】
2つ以上の熱電ユニットを含む熱電デバイスであって、
少なくとも1つの熱電ユニットがp型ユニットであり、かつ少なくとも1つの熱電ユニットがn型ユニットであり、前記熱電ユニットが互いに電気的に接触しており、少なくとも1つの熱電ユニットが、
n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と、
前記金属酸化物材料全体にわたって分散されたグラフェンまたは修飾グラフェンとを含み、前記グラフェンまたは修飾グラフェンが浸透閾値未満の量で存在する、熱電デバイス。
【請求項10】
前記少なくとも1つのn型ユニットが、請求項7に記載のn型熱電金属酸化物コンポジット材料を含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記少なくとも1つのp型ユニットが、請求項7に記載のp型熱電金属酸化物コンポジット材料を含む、請求項9または請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
熱電コンポジット材料を作製する方法であって、前記熱電コンポジット材料が、
n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と、
前記金属酸化物材料全体にわたって分散されたグラフェンまたは修飾グラフェンとを含み、前記グラフェンまたは修飾グラフェンが浸透閾値未満の量で存在し、前記方法が、前記n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と前記グラフェンまたは修飾グラフェンとを混合するステップを含む、方法。
【請求項13】
前記n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と前記グラフェンまたは修飾グラフェンとを混合する前記ステップが、前記n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と前記グラフェンまたは修飾グラフェンとをスラリーで混合して、混合物を形成する、ステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
液相剥離によりグラフェン得るステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と前記グラフェンまたは修飾グラフェンとを混合する前記ステップが、前記グラフェンまたは修飾グラフェンを前記n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料の粒子上に堆積させ、前記粒子を磨砕しまたは粉砕して、混合物を形成する、ステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記堆積が電着法である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記堆積が化学蒸着法である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と前記グラフェンまたは修飾グラフェンとを混合するステップの後に、前記混合物をプレスしてペレットを形成するステップをさらに含む、請求項13から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記混合物をプレスして前記ペレットを形成するステップの後に、前記ペレットを焼結するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記グラフェンまたは修飾グラフェンが、前記熱電コンポジット材料の0.05?1wt%の量で存在する、請求項12から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記金属酸化物が、Ca_(3)CoO_(9)、Na_(x)CoO_(2)、Bi_(2)Sr_(2)Co_(2)O_(x)、SrTiO_(3)、CaMnO_(3)、およびZnOから選択され、ドーパントを含んでいても含んでいなくてもよい、請求項12から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記金属酸化物がドーパントを含む、請求項21に記載の方法。」

第3 申立理由の概要
(1)申立理由1
特許異議申立人松山徳子は、主たる証拠として特開2011-225993号公報(以下「文献1」という。)、並びに従たる証拠として「Thermoelectric Ceramics for Energy Harvesting」、Journal of the American Ceramic Society、2013年、第96巻、[1]、p.1?23(以下「文献2」という。)、中国特許出願公開第102760830号明細書(以下「文献3」という。)、中国特許出願公開第102760829号明細書(以下「文献4」という。)、及び「Complex thermoelectric materials」、nature materials、2008年2月、第7巻、p.105?114(以下「文献5」という。)を提出し、請求項1?22に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされた(以下「申立理由1」という。)ものであるから、請求項1?22に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

(2)申立理由2
特許異議申立人松山徳子は、請求項1?22に係る特許は同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた(以下「申立理由2」という。)ものであるから、請求項1?22に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

(3)申立理由3
特許異議申立人松山徳子は、請求項1?22に係る特許は同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた(以下「申立理由3」という。)ものであるから、請求項1?22に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

(4)申立理由4
特許異議申立人松山徳子は、請求項1?22に係る特許は同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた(以下「申立理由4」という。)ものであるから、請求項1?22に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 文献の記載
1 文献1の記載と引用発明
(1)文献1の記載
「【請求項1】
ベース金属と、
前記ベース金属内に分散され、前記ベース金属の強化材として作用するグラフェンと、
を含み、
前記グラフェンは、前記ベース金属の金属粒子の間に薄膜形態で介在され、前記金属粒子と結合し、
前記ベース金属内の前記グラフェンの含量は、前記グラフェン相互間の反応によって前記グラフェンの構造変形が防止されることができる限度である0vol%超過且つ30vol%未満であるグラフェン/金属ナノ複合粉末。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ複合粉末及びその製造方法に関し、より詳細には、グラフェン/金属ナノ複合粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属は、強度とともに熱及び電気伝導性に優れた材料である。また、軟性が良いため、加工が他の材料に比べて容易で、産業全般にわたって多用途に適用されている。
【0003】
最近、金属にナノ技術を結合して、産業的側面の応用範囲が高い金属ナノ粉末を製造しようとする研究が活発に進行されている。すなわち、金属ナノ粉末に対する研究の場合、金属自体が有している特性以外に、前記金属の粒子サイズが微細になるにつれて新しく登場する機械的物理的特徴が注目されていて、特に、表面効果、体積効果、粒子間相互作用がもたらす新しい特性は、先端材料として高温構造材料、工具材料、電気磁気材料、フィルタ及びセンサーなどへの応用が期待されている。
【0004】
このような金属ナノ粉末において、既存の金属粉末の特性を維持させながら、新しい機能を追加するか、または既存の金属粉末の機械的電気的特性を向上させようとする研究も一緒に進行されている。」

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、材料の機械的または電気的特性が向上したグラフェン/金属ナノ複合粉末を提供することにある。
【0006】
また、本発明の他の目的は、材料の機械的または電気的特性が向上したグラフェン/金属ナノ複合粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、グラフェン/金属ナノ複合粉末を提供する。前記グラフェン/金属ナノ複合粉末は、ベース金属と、前記ベース金属内に分散され、前記ベース金属の強化材として作用するグラフェンとを含む。前記グラフェンは、前記ベース金属の金属粒子の間に薄膜形態で介在され、前記金属粒子と結合する。前記ベース金属内の前記グラフェンの含量は、前記グラフェン相互間の反応により前記グラフェンの構造変形が防止され得る限度である0vol%超過且つ30vol%未満である。
…(略)…
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施例によれば、グラフェンがベース金属の金属粒子の間に薄膜形態で介在され、前記金属粒子と結合することによって、ベース金属の機械的または電気的特性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の実施例によれば、前述した機械的または電気的特性が強化されたグラフェン/金属ナノ複合粉末を容易に製造することができる。」

「【0018】
グラフェン/金属ナノ複合粉末
本発明の一実施例によるグラフェン/金属ナノ複合粉末は、ベース金属と、前記ベース金属内に分散されるグラフェンとを含む。前記グラフェンは、前記ベース金属の金属粒子の間に薄膜形態で介在され、前記金属粒子と結合する。前記グラフェンは、炭素原子の単一層または複数層であることができ、一例として、約100nm以下の厚さを有する膜であることができる。一実施例によれば、前記ベース金属は、銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、鉄、カリウム、ルテニウム、クロム、金、銀、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タングステン、鉛、ジルコニウム、亜鉛及び白金よりなる群から選択される少なくとも1つを含む金属または合金であることができるが、必ずこれらに限定されるものではない。他の実施例によれば、前記ベース金属として、溶媒内で金属塩を形成することができる多様な種類の金属が適用されることができる。以下では、前記ベース金属として銅が適用される一実施例を図1と関連して説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施例によるグラフェン/金属ナノ複合粉末を説明するための走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)写真である。具体的に、図1の(a)は、本発明の一実施例において、グラフェンが分散されていないベース金属としての銅を示す走査電子顕微鏡写真であり、図1の(b)は、本発明の一実施例において、グラフェンがベース金属としての銅に分散されたグラフェン/銅ナノ複合粉末の走査電子顕微鏡写真である。
【0020】
図1の(a)及び(b)を比較すれば、本発明の一実施例によるグラフェン/銅ナノ複合粉末は、銅ベース金属内にグラフェン130が分散されて形成される。図1の(a)では、銅金属内の銅粒子110の規則的な結合配置を示している。これに対し、図1の(b)に示されたように、グラフェン/銅ナノ複合粉末は、前記銅ベース金属とグラフェンが混在されている構造を有する。前記銅ベース金属内の金属粒子120は、数百nm以下のサイズを有する。グラフェン130は、前記銅ベース金属内の金属粒子120の間に薄膜形態で介在される。グラフェン130は、前記銅ベース金属内に分散されて金属粒子120と結合することによって、前記銅ベース金属の引張強度のような機械的特性を向上させる強化材として作用する。但し、本発明の発明者は、前記銅ベース金属内に分散されるグラフェン130の量が所定のしきい値を超える場合、一例として、グラフェン130相互間の反応によってグラフェン130同士の凝縮によってグラフェン130の構造変形が発生すると判断する。グラフェン130の前記構造変形は、一例として、グラフェン130の黒煙への構造変形などを挙げることができる。前記ナノ複合粉末内の一部分においてグラフェン130の前記構造変形は、グラフェン130が前記銅ベース金属の前記機械的特性を向上させる役目を鈍化させるものと判断する。したがって、前記銅ベース金属内に分散されるグラフェン130の量は、適宜制御される必要があり、前記グラフェン130の量の所定のしきい値は、約30vol%であることができる。したがって、ナノ複合粉末内でのグラフェン130は、0vol%超過且つ30vol%未満の体積比を有するように調節されることができる。一実施例としての図1の(b)に示されたグラフェン/金属ナノ複合粉末は、5vol%グラフェン体積比を有する。
…(略)…
【0022】
前述したように、本発明の実施例によるグラフェン/金属ナノ複合粉末において、ベース金属内に分散されるグラフェンは、0vol%超過且つ30vol%未満の体積比を有するように調節される。前記グラフェンは、ベース金属の金属粒子と結合することによって、前記ベース金属の機械的特性を向上させる強化材の作用をすることができる。他のいくつかの実施例によれば、伝導体である前記グラフェンがベース金属の金属粒子と結合するようにして、前記ベース金属の電気伝導度のような電気的特性を向上させることができる。前記グラフェンは、面上で約20,000?50,000cm^(2)/Vsの高い移動度を有するものと知られていて、これにより、前記金属粒子との結合によって製造される本発明のナノ複合粉末は、その自体で高伝導度、高弾性の電線被服材料、耐摩耗コーティング素材のような高付加価値の部品素材に適用されることができる。」

「【0041】
<実施例1>
本発明の一実施例によるグラフェン/金属ナノ複合粉末のベース金属として銅及びニッケルを適用した。まず、前記ハマーズ工程を適用して黒煙からグラフェン酸化物粉末を形成した。前記グラフェン酸化物をエチレングリコール溶媒に添加した後、超音波工程を実施することによって、前記グラフェン酸化物を前記エチレングリコール溶媒内に均一に分散させた。これにより、グラフェン酸化物分散溶液を製造した。
【0042】
前記製造されたグラフェン酸化物分散溶液に金属塩として、銅水和物及びニッケル水和物を各々添加した。前記グラフェン酸化物及び前記銅水和物の混合溶液に還元剤であるヒドラジンを添加して熱処理することによって、銅ベース金属内にグラフェンが分散されたグラフェン/銅ナノ複合粉末を形成した。また、前記グラフェン酸化物及び前記ニッケル水和物の混合溶液に還元剤であるヒドラジンを添加して熱処理することによって、ニッケルベース金属内にグラフェンが分散されたグラフェン/ニッケルナノ複合粉末を形成した。製造されたグラフェン/銅ナノ複合粉末及びグラフェン/ニッケルナノ複合粉末をエタノールと水などを利用して洗浄し、オーブンで乾燥した。前記グラフェン/銅ナノ複合粉末は、5vol%のグラフェン体積比を有するように製造し、前記グラフェン/ニッケルナノ複合粉末は、1vol%のグラフェン体積比を有するように製造した。
【0043】
本発明の実施例によるグラフェン/金属ナノ複合粉末の機械的特性を評価するために、別途のグラフェン/銅ナノ複合粉末を製造した。前記グラフェン酸化物12mg及び前記銅水和物として銅酢酸塩水和物(Cu(II)acetate monohydrate)16gをエチレングリコール溶媒を利用して混合した。前述した本発明の製造方法からグラフェン/銅ナノ複合粉末を製造し、前記グラフェン/銅ナノ複合粉末内のグラフェンの体積比は、0.69vol%であり、重量比は、0.17wt%に換算された。」

「【0048】
<考察>
図6は、本発明の一実施例によるグラフェン/銅ナノ複合粉末の透過電子顕微鏡写真である。…(略)…
【0050】
図9は、本発明の一実施例によるグラフェン/銅ナノ複合粉末の応力-変形測定結果である。前記実施例1のグラフェンの体積比が0.69vol%である前記グラフェン/銅ナノ複合粉末及び純粋銅粉末を利用して測定した応力-変形(stress-strain)結果であ
る。図9を参照すれば、前記グラフェン/銅ナノ複合粉末は、前記純粋銅粉末より弾性領域及び塑性領域の両者に対して引張応力(tensile stress)が高いことを観察することができる。具体的に、変形が0.01以上の区域で前記グラフェン/銅ナノ複合粉末の引張応力は前記純粋銅粉末の引張応力より約30%高く測定された。したがって、前記グラフェンがベース金属としての銅内に分散され、前記ベース金属の金属粒子と結合することによって、ナノ複合粉末の機械的強度を増加させる強化材として作用していることを判断することができる。
【0051】
図10は、本発明の一実施例によるグラフェン/銅ナノ複合粉末の応力-変形測定結果である。前記実施例2のグラフェン体積比が5vol%である前記グラフェン/銅ナノ複合粉末及び純粋銅粉末を利用して測定した応力-変形結果である。図10を参照すれば、降伏強度(yield strength)は、前記グラフェン/銅ナノ複合粉末の場合、221MPa、前記純粋銅粉末の場合、77.1MPaを示した。また、弾性係数(elastic modulus)は、前記グラフェン/銅ナノ複合粉末の場合、72.5GPa、前記純粋銅粉末の場合、46.1GPaを示した。このように、前記グラフェン/銅ナノ複合粉末は、純粋銅粉末に比べて弾性領域で相対的に優れた機械的特性を示した。」

(2)引用発明
そうすると、文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ベース金属と、
前記ベース金属内に分散され、前記ベース金属の強化材として作用するグラフェンと、
を含み、
前記グラフェンは、前記ベース金属の金属粒子の間に薄膜形態で介在され、前記金属粒子と結合し、
前記ベース金属内の前記グラフェンの含量は、前記グラフェン相互間の反応によって前記グラフェンの構造変形が防止されることができる限度である0vol%超過且つ30vol%未満である、グラフェン/金属ナノ複合粉末。」

2 文献2?文献5の記載
(1)文献2の記載
「Metal oxides (Ca_(3)Co_(4)O_(9), CaMnO_(3), SrTiO_(3), In_(2)O_(3)), Ti sulfides, and Mn silicides are promising thermoelectric (TE) material candidates for cascade-type modules that are usable in a temperature range of 300-1200 K in air.」(1ページ左欄第1?4行)
(「金属酸化物(Ca_(3)Co_(4)O_(9)、CaMnO_(3)、SrTiO_(3)、In_(2)O_(3))、Ti硫化物、およびMn硫化物は、空気中での温度範囲300-1200Kで利用可能であるカスケード型モジュールのための有望な熱電(TE)材料の候補である。」)(審決注:合議体にて翻訳。以下同じ。)
「Some oxides commencing with NaCo_(2)O_(4)^(19) and Ca_(3)Co_(4)O_(9).^(20-22) (generally called Co-349 phase) have been demonstrated to exhibit high thermoelectric performances. The Bi- and Sr-doped (Ca, Sr, Bi)3Co4O9 compound has a Seebeck coefficient higher than 100 μV/K while ρ is decrreased to below ?1.6 × 10^(5) Ωm above ?200 K.^(21)」(2ページ右欄第15?21行)
(「NaCo_(2)O_(4)^(19)およびCa_(3)Co_(4)O_(9)、^(20-22)(一般的にCo-349相当という)で始まる酸化物には、高い熱電性能を示すものがあることが実証されている。BiおよびSrをドープした(Ca、Sr、Bi)3Co4O9化合物のゼーベック係数は100μV/Kより高く、一方、ρは、温度が約200Kを超えると、約1.6×10^(5)Ωm以下に減少する。^(21)」)
「Promsing n-type thermoelectric oxides with strongly correlated electrons are perovskite-type calcium manganese oxides. CaMnO_(3) is an insulator with a Seebeck coefficient of -350 μV/K^(86) at room temperature.」(7ページ左欄第45?48行)
(「強い相関電子を有する有望なn型熱電酸化物は、ペロブスカイト型カルシウムマンガン酸化物である。CaMnO_(3)は、室温で-350μV/Kのゼーベック係数^(86)を有する絶縁体である。」)

「CaMn_(1-x)Nb_(x)O_(3-ρ) phases (x = 0.02, 0.05, and 0.08) exhibit large absolute Seebeck coefficients and low electrical resistivity (ρ? 20 mΩcm) at high temperatures (T > 500 K).」(7ページ右欄第17?19行)
(「CaMn_(1-x)Nb_(x)O_(3-δ)相(x=0.02、0.05、0.08)は、高温(T>500K)で、高い絶対ゼーベック係数、及び、低い電気抵抗率(ρ:約20mΩcm)を有する。」)

「(B) STO Epitaxial Films: In 2005, Ohta et al. studied systematically the TE properties of a series of heavily doped SrTi_(1-x)Nb_(x)O_(3) (x = 0.05-0.4) epitaxial films prepared using a pulsed-laser-deposition (PLD) technique, which allowed a high Ti-site-Nb-doping up to 40% for further optimization.^(124) The record ZT of ?0.37 at 1000 K was achieved in 20 at.% Nb-doped STO with n ?4×10^(21) cm^(-3) (Fig. 18), which is primarily benefited from the large S^(2)σ(?1.3 mWm^(-1)K^(-2) at 1000K).」(10ページ右欄第29?37行)
(「(B) STOエピタキシャル膜: 2005年に、オオタ(Ohta)らは、パルスレーザー堆積(PLD)技術を用いて用意した、一連の高濃度ドープSrTi_(1-x)Nb_(x)O_(3)(x=0.05?0.4)エピタキシャル膜のTE特性について、系統的に研究した。その研究により、さらなる最適化に関し、最大40%の高濃度のTiサイトNbドーピングが可能とされた。^(124)1000Kで約0.37であるZTの記録は、nが約4×10^(21)cm^(-3)の20原子%でNbドープしたSTOで達成され(図18)、これは、主に、S^(2)σが大きいこと(1000Kで約1.3mWm^(-1)K^(-2))によるものである。」)

(2)文献3の記載
「要約
本発明は、ナノオーダーでのCoSb_(3)粒子とグラフェンとからなるCoSb_(3)/グラフェン複合材料を開示する。グラフェンの分散、担持および隔離作用によって、ナノCoSb_(3)粒子は熱処理プロセスにおいて焼結を避けることができ、その結果、CoSb_(3)材料の熱電特性を改善するために非常に重要であるフォノンへのナノ結晶の効果的な散乱を維持する。該複合材料は熱電材料として使用できる。本発明はまた、簡単な工程、低コスト、短サイクルおよび低エネルギー消費などの利点を有する、複合材料の一段階水熱法または一段階ソルボサーマル調製法を開示する。」(審決注:原文は省略。要約の日本語翻訳。以下同じ。)

「[0049] 実施例4
[[0050] 1)分析的に純粋なSb(CH_(3)COO)_(3)とCo(CH_(3)COO)_(2)・4H_(2)OをCo:Sbの原子比1:3の割合でベンゼンに混合して、濃度0.15mol/LのCoSb_(3)の混合物を調製した。混合物の体積は80mlであった。
[0051] 2)、ステップ1の混合物に21mgのGOを添加し、完全に超音波分散させた後、容量100mlのオートクレーブ(充填度80%、体積百分率)に入れ、10.7グラムの還元剤KBH_(4)を添加し、次いで直ちに密封した。
[0052] 3)、オートクレーブを220℃に加熱し、そして72時間反応させた。
[0053] 4)、反応後、自然に室温まで冷却し、オートクレーブの底にある粉末状の反応生成物を回収し、脱イオン水と無水エタノールで数回洗浄した後、100℃で1時間真空乾燥し、5.1グラムの複合材料粉末を得た。複合材料中のグラフェンの重量パーセントは0.16%であった。
[0054] 得られた複合材料粉末をX線回折および透過型電子顕微鏡により分析した。得られた複合材料粉末は、コバルトトリアンチモン/グラフェン(CoSb_(3)/G)複合材料であり、CoSb_(3)粒子は、ナノメートルスケールであり、10nmから20nmの直径を有し、比較的均一な分布を有していた。25℃から700℃で行われた熱電性能試験は、複合材料がこの温度範囲内において、0.70の最高熱電性能指数(ZT値)を有し、熱電材料として使用できることを示した。」

(3)文献4の記載
「要約
本発明は、ナノオーダーでのPbTe立方粒子とグラフェンとからなるPbTe立方粒子/グラフェン複合材料を開示する。グラフェンの分散、担持および隔離作用によって、PbTeナノ粒子は熱処理プロセスにおいて焼結を避けることができ、その結果、PbTe材料の熱電特性を改善するために非常に重要であるフォノンへのナノ結晶の効果的な散乱を維持する。また、該複合材料は熱電材料とすることも可能である。本発明はまた、水熱法または一段階ソルボサーマル調製法、および調製法を適用することによる複合材料の製造方法を開示し、該製造方法は、簡単な工程、低コスト、短サイクル、低エネルギー消費などの利点を有する。」(審決注:原文は省略。要約の日本語翻訳。以下同じ。)

「[0049] 実施例4
[[0050] 1)分析的に純粋なPbC2O_(4)とTe粉末をPb:Teの原子比1:1の割合で配合し、トルエン中で、濃度0.15mol/LのPbTeの混合物を調製した。混合物の体積は80mlであった。
[0051] 2)、ステップ1の混合物に16mgのGOを添加し、完全に超音波分散させた後、容量100mlのオートクレーブ(充填度80%、体積百分率)に入れ、1.6グラムの還元剤N_(2)H_(4)・H_(2)Oを溶液に添加し、6MのKOH水溶液を添加してpH値を12に調製した後、直ちに密封した。
[0052] 3)、オートクレーブを240℃に加熱し、そして72時間反応させた。
[0053] 4)、反応後、自然に室温まで冷却し、オートクレーブの底にある粉末状の反応生成物を回収し、脱イオン水と無水エタノールで数回洗浄した後、100℃で1時間真空乾燥し、4.0グラムの複合材料粉末を得た。複合材料中のグラフェンの重量パーセントは0.16%であった。
[0054] 得られた複合材料粉末をX線回折および透過型電子顕微鏡により分析した。得られた複合材料粉末は、鉛ビスマス化合物/グラフェン(PbTe/G)複合材料であり、PbTe粒子は、ナノメートルスケールであり、直径200nmで、比較的均一な分布を有する立方体粒子であった。25℃から600℃で行われた熱電性能試験は、複合材料がこの温度範囲内において、0.77の最高熱電性能指数(ZT値)を有し、熱電材料として使用できることを示した。」

(4)文献5の記載
「Figure 1 Optiminzing zT through carrier concentration tuning. a, Maximizing the efficiency (zT) of a thermoelectric involves a compromise of…(略)…Good thermoelectric materials are typically heavily doped semiconductors with a carrier concentration between 10^(19) and 10^(21) carrier per cm^(3).…(略)…Trends shown were modelled from Bi_(2)Te_(3), based on empirical data in ref.78.」(107ページ右欄Figure1 a の説明)
(「図1 キャリア濃度を変化させることによるzTの最適化。a,熱電変換の効率(zT)を最大にするには、…(略)…の折衷点が必要である。…(略)…優れた熱電材料は、通常cm^(3)当たり10^(19)?10^(21)のキャリア濃度を有する高濃度ドープ半導体である。…(略)…傾向は、参考文献78の経験的データに基づき、Bi_(2)Te_(3)からモデルとされた。」)(審決注:合議体にて翻訳。)

第5 当審の判断
1 申立理由1(特許法第29条第2項違反)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)本件発明1の「熱電コンポジット材料」と引用発明の「グラフェン/金属ナノ複合粉末」とを対比すると、引用発明の「グラフェン/金属ナノ複合粉末」は、「ベース金属」と、「グラフェン」とを含み、「前記グラフェンは、前記ベース金属の金属粒子の間に薄膜形態で介在され、前記金属粒子と結合」するものであるから、両者は「コンポジット材料」である点で共通する。

(イ)本件発明1の「金属酸化物材料」と引用発明の「ベース金属」とを対比すると、両者は「金属元素を含む材料」である点で共通する。

(ウ)そうすると、本件発明1と引用発明との間には、次の一致点と相違点がある。
<一致点>
「金属元素を含む材料と、
前記金属元素を含む材料に分散されたグラフェンとを含む、コンポジット材料。」

<相違点>
<相違点1>
コンポジット材料について、本件発明1では、「金属酸化物材料」を含む、「熱電コンポジット材料」であるのに対し、引用発明は、「ベース金属」を含む「グラフェン/金属ナノ複合粉末」であり、本件発明1のような特定はなされていない点。
<相違点2>
グラフェンまたは修飾グラフェンについて、本件発明1では、「前記金属酸化物材料全体にわたって分散された」ものであるのに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。
<相違点3>
本件発明1では、「前記グラフェンまたは修飾グラフェンが浸透閾値未満の量で存在する」のに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
a 文献1には、【背景技術】について、段落【0002】に、「金属は、強度とともに熱及び電気伝導性に優れた材料である。」と記載されており、段落【0003】、【0004】に、「金属ナノ粉末に対する研究の場合、金属自体が有している特性以外に、金属の粒子サイズが微細になるにつれて新しく登場する機械的物理的特徴が注目されていて、…(略)…先端材料として高温構造材料、工具材料、電気磁気材料、フィルタ及びセンサーなどへの応用が期待されている。このような金属ナノ粉末において、…(略)…または既存の金属粉末の機械的電気的特性を向上させようとする研究も一緒に進行されている。」と記載されている。
文献1には、【発明が解決しようとする課題】について、段落【0005】に、「本発明の目的は、材料の機械的または電気的特性が向上したグラフェン/金属ナノ複合粉末を提供することにある。」と記載されており、【発明の効果】について、段落【0012】に、「グラフェンがベース金属の金属粒子の間に薄膜形態で介在され、前記金属粒子と結合することによって、ベース金属の機械的または電気的特性を向上させることができる。」と記載されている。
また、文献1には、ベース金属について、段落【0018】に、「前記ベース金属は、銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、鉄、カリウム、ルテニウム、クロム、金、銀、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タングステン、鉛、ジルコニウム、亜鉛及び白金よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる」、「前記ベース金属として、溶媒内で金属塩を形成することができる多様な種類の金属が適用されることができる」と記載されている。
文献1の段落【0020】には、「グラフェン130は、前記銅ベース金属内に分散されて金属粒子120と結合することによって、前記銅ベース金属の引張強度のような機械的特性を向上させる強化材として作用する。」と、段落【0022】には、「前記グラフェンは、ベース金属の金属粒子と結合することによって、前記ベース金属の機械的特性を向上させる強化材の作用をすることができる。…(略)…伝導体である前記グラフェンがベース金属の金属粒子と結合するようにして、前記ベース金属の電気伝導度のような電気的特性を向上させることができる。…(略)…前記金属粒子との結合によって製造される本発明のナノ複合粉末は、その自体で高伝導度、高弾性の電線被服材料、耐摩耗コーティング素材のような高付加価値の部品素材に適用されることができる。」と記載されている。
段落【0050】には、「前記ベース金属の金属粒子と結合することによって、ナノ複合粉末の機械的強度を増加させる強化材として作用している」と、段落【0051】には、「前記グラフェン/銅ナノ複合粉末は、純粋銅粉末に比べて弾性領域で相対的に優れた機械的特性を示した。」と記載されている。

b しかしながら、文献1の上記箇所以外を精査しても、文献1には、グラフェン/金属ナノ複合粉末の熱電材料への応用について、記載も示唆もされていない。また、ナノ複合粉末のベース金属に金属酸化物材料を適用できることについても、記載も示唆もされていない。

むしろ、文献1の上記の段落【0003】、【0004】、【0005】、【0012】、【0022】等の記載から、引用発明の「グラフェン/金属ナノ複合粉末」において、当該ナノ複合粉末が含む「ベース金属」は、機械的または電気的特性を向上させることができるという効果を得られるものであると理解でき、機械的特性と電気的特性とは、段落【0002】や【0022】の記載からも明らかなように、金属が、「強度とともに熱及び電気伝導性に優れた材料」であるという、「金属自体が有している特性」のことであると理解できる。
そうすると、引用発明において、ベース金属として、金属に代えて金属酸化物材料を採用すること、ないし、ベース金属に金属酸化物材料を適用することは、電気伝導度が低下するなど、金属材料自体の有する特性を損なうこととなるから、むしろ阻害要因があるといえる。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到することができたものではない。

c この点について、仮に、引用発明において、ベース金属に金属酸化物を適用することは、当業者が容易に想到し得たとして、更に検討する。
文献2には、「金属酸化物(Ca_(3)Co_(4)O_(9)、CaMnO_(3)、SrTiO_(3)、In_(2)O_(3))、Ti硫化物、およびMn硫化物は、空気中での温度範囲300-1200Kで利用可能であるカスケード型モジュールのための有望な熱電(TE)材料の候補である。」と記載されているものの、熱電材料について、グラフェンまたは修飾グラフェンを含む熱電コンポジット材料とすることは記載も示唆もされていない。
また、文献3には、CoSb_(3)とグラフェンとからなるCoSb_(3)/グラフェン複合材料を熱電材料として使用することが記載されており、文献4には、PbTe立方粒子とグラフェンとからなるPbTe立方粒子/グラフェン複合材料を熱電材料として使用することが記載されているものの、文献3、4には、熱電材料について、「金属酸化物材料」を含む、「熱電コンポジット材料」であることは記載も示唆もされていない。
また、文献5には、金属酸化物材料を含む熱電材料についても、熱電コンポジット材料についても記載も示唆もされていない。

このように、文献2?5には、金属酸化物とグラフェンとを含むコンポジット材料は記載されていないから、引用発明のグラフェン/金属ナノ複合粉末について、文献2?5に記載の技術的事項に基づき、当該ナノ複合粉末を熱電材料とする動機付けはない。
また、文献2?5のうち、唯一、金属酸化物材料についての記載がある文献2には、グラフェンまたは修飾グラフェンの記載はなく、しかも、引用発明と文献2に記載の技術とは、技術分野が異なり、また、引用発明のグラフェン/金属ナノ複合粉末と文献2に記載の技術の金属酸化物とは、共通する材料もないので、引用発明のグラフェン/金属ナノ複合粉末について、文献2に記載の技術的事項に基づき、ベース金属を金属酸化物材料からなるものに代える動機付けも存在しない。
したがって、引用発明において、文献2?5の存在を前提としても、ベース金属を金属酸化物材料に代えるとともに、複合粉末を熱電材料とする、動機付けは存在しない。

よって、仮に、引用発明において、ベース金属に金属酸化物を適用することは、当業者が容易に想到し得たとしても、引用発明及び文献2?5に記載の技術的事項に基づいて、相違点1に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るものとは認められない。

(イ)したがって、相違点2、3について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明及び文献2?5に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)特許異議申立人松山徳子は、申立理由1について、「甲第2号証に記載のように、金属酸化物の中にはNaCO_(2)O_(4)やCa_(3)Co_(4)O_(9)等の熱電特性に優れたものが存在することは公知であり、また、甲第3号証、甲第4号証に示されているとおり、金属化合物とグラフェンとの複合材料が熱電材料として使用できることも公知であるから、当業者であれば、甲第1号証のグラフェンと金属単体や合金とを組み合わせた材料に代えて、グラフェンと金属酸化物とを組み合わせたものを熱電材料として用いることに容易に想到する。」と主張する(異議申立書32ページを参照。甲第1号証ないし甲第4号証は、それぞれ文献1ないし文献4が対応する。)。

しかしながら、上記(ア)cのとおりであるから、「当業者であれば、甲第1号証のグラフェンと金属単体や合金とを組み合わせた材料に代えて、グラフェンと金属酸化物とを組み合わせたものを熱電材料として用いることに容易に想到する。」ということはできない。
よって、申立人の上記主張には理由がない。

(2)本件発明2?8について
本件発明2?8は、それぞれ、本件発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2?8は、引用発明及び文献2?5に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明9?11について
本件発明9は、「2つ以上の熱電ユニットを含む熱電デバイス」に係る発明であり、「少なくとも1つの熱電ユニットが、n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と、前記金属酸化物材料全体にわたって分散されたグラフェンまたは修飾グラフェンとを含み、前記グラフェンまたは修飾グラフェンが浸透閾値未満の量で存在する」との発明特定事項を有するものである。
本件発明10、11は、それぞれ、本件発明9に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
上記(1)イ(ア)bで検討したように、「引用発明において、ベース金属として、金属に代えて金属酸化物材料を採用すること、ないし、ベース金属に金属酸化物材料を適用することは、むしろ阻害要因があるといえる。」こと、また、上記(1)イ(ア)cで検討したように、仮に、引用発明において、ベース金属に金属酸化物を適用することは、当業者が容易に想到し得たとしても、「引用発明において、文献2?5の存在を前提としても、ベース金属を金属酸化物材料に代えるとともに、複合粉末を熱電材料とする、動機付けは存在しない。」ことから、本件発明9?11は、引用発明及び文献2?5に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明12?22について
本件発明12は、「熱電コンポジット材料を作製する方法」に係る発明であり、「前記熱電コンポジット材料が、n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と、前記金属酸化物材料全体にわたって分散されたグラフェンまたは修飾グラフェンとを含み、前記グラフェンまたは修飾グラフェンが浸透閾値未満の量で存在」との発明特定事項を有するものである。
本件発明13?22は、それぞれ、本件発明12に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
上記(1)イ(ア)bで検討したように、「引用発明において、ベース金属として、金属に代えて金属酸化物材料を採用すること、ないし、ベース金属に金属酸化物材料を適用することは、むしろ阻害要因があるといえる。」こと、また、上記(1)イ(ア)cで検討したように、仮に、引用発明において、ベース金属に金属酸化物を適用することは、当業者が容易に想到し得たとしても、「引用発明において、文献2?5の存在を前提としても、ベース金属を金属酸化物材料に代えるとともに、複合粉末を熱電材料とする、動機付けは存在しない。」ことから、本件発明12?22は、引用発明及び文献2?5に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1?22は、引用発明及び文献2?5に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 申立理由2(特許法第36条第4項第1号違反)、申立理由3(特許法第36条第6項第1号違反)、申立理由4(特許法第36条第6項第2号違反)について
(1)「記載不備の理由」の(ア)について
ア 特許異議申立人松山徳子は、特許異議申立書の「3 申立ての理由」の(4)「エ 記載不備の理由」(ア)(42?43ページを参照。)において、要するに、本件特許明細書の実施例の結果のみをもって、どのような金属元素の酸化物を用いた場合であっても本件特許発明の課題を解決できることを当業者が理解できるとは到底言えず、実施例の結果を本件特許発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるとは到底いえないので、本件特許発明1?22はサポート要件違反であると主張している。

イ 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲の記載に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであると解される(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決)。

ウ 本件発明1?22の課題について
本件特許明細書の段落【0015】?【0019】の記載から、本件発明1?22の課題は、「先行技術の材料よりも低密度である熱電材料を提供すること、より高レベルの電力密度を実現する熱電材料を提供すること、先行技術の材料よりも安価である熱電材料を提供すること、先行技術の材料よりも毒性の低い熱電材料を提供すること、先行技術の材料よりも、より幅広い温度範囲にわたり、またはより有用性のある温度範囲にわたり、有効である熱電材料を提供すること、類似のまたは異なる熱電材料よりも低い絶対ZT値を有するが、より幅広い作動温度範囲を有する材料を提供すること、作動温度範囲にわたって実質的に均一レベルの電力エネルギーを実現すること、電力出力が、温度とともに変動するが直線的に変動するものを提供すること、材料は熱電力出力のレベルが良好であるものであること、先行技術の材料よりもZTが高い熱電材料を提供すること」であり、本件発明1?22の課題は、「上記の目的の1つ、幾つか、または全てを満たしている」ものであると認められる。

エ 発明の詳細な説明について
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【0008】
充分なZT値を示す既存の材料は、理論的な興味は残るものの、一般的な用途を見出すのには、通常、重すぎ、高価すぎ、および/または毒性が強すぎる。
【0009】
熱電材料は、「サーマルウィンドウ」を有し、このウィンドウ領域内で熱エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。サーマルウィンドウは、作動範囲であると考えられ、この範囲内で材料は有用な特徴を示す。この温度範囲外では、温度範囲はあらゆる特定の材料に特有であるが、材料には、熱に応答して、電気エネルギーを生じる能力はほとんどないか、またはまったくない。その結果、種々の用途におけるこのような材料の開発は、材料のZT値による制限を受けるばかりでなく、材料が作動する温度の範囲によっても制限を受ける。熱電材料の作動温度範囲を予測する経験的手段はないが、それにもかかわらず、一般に使用されている熱電材料は、その作動温度範囲を参照することで分類することができる。一般的にいえば、既知の熱電材料を3つの最適温度範囲に分けることができる。
I.低温材料(最高でおよそ200℃まで):室温付近用途用および冷却用で、通常、アンチモン、テルル、スズまたはセレンと組み合わせたビスマス合金をベースとしている。このような材料のピークZTは、約0.8?1.1の範囲で、p型が最大値を達成する。このような材料は、冷却用途におよび低温廃熱回収に有効であるが、そのような低い作動温度を使用する用途に限定され、かつ毒性の希元素を含有する。
II.中温材料(最高でおよそ600℃まで):鉛、スズおよびテルルの合金。このような材料のピークZTは、0.6?0.8において最適化される。このような材料は、現在、遠隔地での熱電発電に使用されている。このような材料には、幅広い用途が見出せていない。なぜなら、それら材料は、600℃未満に限られ、かつ400℃付近で最適化されるからである。
III.高温材料(最高でおよそ800℃まで):シリコンおよびゲルマニウムの合金。このような材料は、自動車の排気熱電発電装置のプロトタイプで使用されてきたが、このような材料には、特に、p型には、ダイヤモンド構造の格子熱伝導率が高いことでZTがかなり低いという難点がある。
【0010】
もっとも有効な熱電材料の多くはテルルを含み、Bi2Te3が一般に使用されている。テルルは金のように希少で、製鋼業において、タイヤの加硫に、ならびに携帯電話および太陽電池の部品としてなど、他の多くの産業において用途がある。原材料の価格は非常に高く、劇的に上昇している。このような材料は、ZT値が良好であるという利点を有するが、この利点は、これら材料は重くなりやすく、また毒性があるおよび/または環境に優しくないという事実によって相殺されることもある。」

「【0024】
グラフェンまたは修飾グラフェンを熱電金属酸化物材料に加えると、ZTが上昇することがわかった。金属酸化物のZTは、より幅広い温度範囲にわたって、かつより低温で有効になることがさらにわかった。
【0025】
本発明により、グラフェンまたは修飾グラフェンでドープすることで、基になる熱電金属酸化物のZT値が、実質的に改良される。このことを実現する正確なメカニズムは未知である。しかし、このような材料でのZT値の相対的な上昇は、既知の材料の値でみられる、あらゆる対応する上昇より数倍も良好であることは注目すべきである。かくして、このような材料は、ドープされるもともとの熱電材料と比較して、5倍または10倍または100倍を超えるZT値の改良。これに対して、先行技術において、材料をドープする試みでは、ZT値に有意差は生じなかった。
【0026】
本発明のいくつかの材料におけるさらなる驚くべき利益は、この改良は広い温度範囲にわたって現れるという事実に存在すると思われる。例えば、本発明は、数百度に及ぶ作動温度を有する熱電材料を提供する。実際、本発明のいくつかの実施例では、材料が600℃を超える温度にわたって、許容されるZT値を示す。好都合に、本発明による特定の材料は、50℃もの低温にまで及び、許容されるZT値を示すことができ、また、このような同一材料の一部は、600℃または700℃において類似のZTレベルを実現することもなお可能である。50℃または100℃などの比較的低温で許容されるZT値を達成する能力は、普通ではなし得ない可能性がある、熱源から電力回収するためのアクセスを可能とする。本発明のいくつかの材料は、ある温度範囲にわたって実質的な直線発電応答も示す。そのような材料は広い範囲の潜在的用途において使用可能であるので、このことは、本発明の材料における大きな利点を意味する。
【0027】
さらに、従来の熱電材料と比較して、本発明の材料の密度はより小さいので、より軽量な発電デバイスの生産が可能となる。本発明の材料は、良好な電力密度を有し、また良好な熱電力出力(熱電力出力はμボルト/Kで定義される)も示す。」

「【0037】
金属酸化物材料は、Ca_(3)Co_(4)O_(9)、Na_(x)CoO_(2)、Bi_(2)Sr2Co_(2)O_(x)、SrTiO_(3)、CaMnO_(3)およびZnOから選択されるのが好ましく、これは、ドーパントを含んでいても含んでいなくてもよい。特定の実施形態では、金属酸化物材料は、SrTiO_(3)およびCa_(3)CoO_(9)から選択され、これは、ドーパントを含んでいても含んでいなくてもよい。
【0038】
一実施形態では、金属酸化物材料は、SrTiO_(3)、CaMnO_(3)およびZnOから選択され、これは、ドーパントを含んでいても含んでいなくてもよい。特定の実施形態では、金属酸化物材料は、SrTiO_(3)であり、これは、ドーパントを含んでいても含んでいなくてもよい。
【0039】
一実施形態では、金属酸化物材料は、Ca_(3)Co_(4)O_(9)、Na_(x)CoO_(2)(式中、xは典型的には約0.5?約0.85である)から選択され、これは、ドーパントを含んでいても含んでいなくてもよい。特定の実施形態では、金属酸化物材料は、Ca_(3)Co_(4)O_(9)であり、これは、ドーパントを含んでいても含んでいなくてもよい。」

「【0076】
酸化物材料は、1種もしくは複数種の遷移金属および/または他の元素(例えば、金属)種ならびに酸素を含む。本発明で使用可能な熱電金属酸化物材料の多くは混合金属酸化物であるが、これはそれらのみに限定されるということではない。金属酸化物は、当該金属が2種以上の酸化状態にある混合酸化物であってもよい。本発明の酸化物は、ドープされていてもよい。金属酸化物の特性が(熱電特性を含めて)、ドーパントを使用して修飾可能なことは、当分野で周知である。金属酸化物をドープすることは、小さい割合で成分金属イオンを1種または複数種の代替金属イオンで置き換えること(すなわち、酸化物の成分金属イオンの1つの、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上または15%以上を別の金属で置き換えること)を含む。ドーパントが存在する場合、ドーパントの量は0.01重量%?15重量%である。ドープされていてもされていなくとも、本発明の使用に適切な酸化物は、いくつかの熱電特性を示した酸化物である。本発明で使用可能な、酸化物/ドーパントの組合せ範囲に関する説明については、Koumoto et al.(Thermoelectric Ceramics for Energy Harvesting. J. Am. Ceram. Soc, 1-23, 2012)およびFergus, (Oxide Materials for high Temperature Thermoelectric Energy conversion, Journal of the European Ceramic Society, 32, 525-540, 2012)を参照されたい。本明細書全体を通して、そうではないと明記されていない限り、用語「金属酸化物」には、混合金属酸化物、ドープした酸化物およびドープした混合金属酸化物が含まれる。
【0077】
本発明の金属酸化物は、ナノ構造金属酸化物の形態であってもよい。ナノ構造金属酸化物とは、1?100nmのサイズ範囲で種々の形状(例えば、球状およびクラスター)で存在する、離散金属酸化物粒子から構成される固形物として、広義には定義できる。理論によって制限されることを望まないが、フォノン(すなわち熱エネルギー)がナノ構造固形物材料でナノ粒子間の境界に到達すると、フォノンが分散/偏向されるので、ナノ構造酸化物を使用することで、熱電特性の改良が提供されると考えられている。これによって、材料の熱伝導率が低下し、ナノ構造化されていない同一材料から得られるより、高いZTがもたらされることになる可能性がある。
【0078】
本発明の熱電金属酸化物は、n型金属酸化物またはp型金属酸化物のいずれでもよい。
【0079】
n型熱電金属酸化物には、過剰の電子が存在している。熱電発電では、材料のより温かい部分から材料のより冷たい部分へと電子が移動する。n型酸化物の例としては、SrTiO_(3)、CaMnO_(3)およびZnOが挙げられる。
【0080】
p型熱電金属酸化物には、過剰の正孔が存在している。熱電発電では、材料のより温かい部分から材料のより冷たい部分へと正孔が移動する。本発明で使用可能なp型金属酸化物の1つの部類には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との組合せが多いが、コバルトが含まれる。p型金属酸化物の例としては、Ca_(3)Co_(4)O_(9)、Na_(x)CoO_(2)(式中、xは、典型的には約0.5?約0.85である)、LaCoO、CuAlO_(2)およびLaCuO_(4)が挙げられる。p型金属酸化物には、Ca_(3)CoO_(9)およびNa_(x)CoO_(2)が含まれることが好ましい。
【0081】
本発明の金属酸化物(p型であろうとn型であろうと)に存在してもよいドーパントの例としては、La、Yb、Sm、Gd、Dy、Ca、Ba、Nb、Ta、Nd、Y、Pr、Ce、Al、Lu、Bi、Ni、Ti、Sn、Sb、Ag、Cu、Fe、Mn、Rh、Pb、Ga、Eu、Ho、Er、Na、K、Sr、Mg、Znが挙げられる。金属酸化物は、これらドーパントのいずれか1種でドープされていてもよく、あるいは、金属酸化物は、これらドーパントのいずれか1種または複数種でドープされていてもよい。
【0082】
SrTiO_(3)とともに使用するのに特に適しているドーパントとしては、La、Yt、Sm、Gd、Dy、Ca、Ba、Nb、Ta、NdおよびYが挙げられる。CaMnO_(3)とともに使用するのに特に適しているドーパントとしては、Yb、Nb、Ta、Dy、Pr、La、Yb、Ce、Al、Sm、Gd、Lu、Biが挙げられる。ZnOとともに使用するのに特によく適しているドーパントとしては、Al、Ni、Ti、Sn、Sbが挙げられる。Ca_(3)Co_(4)O_(9)とともに使用するのに特によく適しているドーパントとしては、Bi、Ag、Cu、Fe、Mn、Ti、Ni、Rh、Ta、Pb、Ga、La、Nd、Eu、Ho、Dy、Er、Yb、Lu、Gd、Na、Na+Mn、K+La、Ba、Sr、Yが挙げられる。Na_(x)CoO_(2)とともに使用するのに特によく適しているドーパントとしては、Ag、Cu、Ni、Zn、Sr、K、Ndが挙げられる。LaCoOとともに使用するのに特に適しているドーパントとしては、Sr、Rh、Niが挙げられる。CuAlO_(2)とともに使用するのに特に適しているドーパントとしては、Mg、Ag、Znが挙げられる。」

「【0090】
本発明で使用されるグラフェンは、プリスチングラフェンでもよく、または修飾されていてもよい。本発明の熱電材料は、異なって官能化されたグラフェンの混合物、例えば、プリスチングラフェンおよび1種もしくは複数種の官能化グラフェンの混合物、または、2種以上の異なって官能化されたグラフェンを含んでいてもよい。修飾グラフェンの1つの形態は、官能化グラフェンである。グラフェンは、炭素ナノチューブを修飾するのと同じように、官能化されていてもよい。当業者は、官能化炭素ナノチューブを製造する様々な合成手順に精通し、かつ修飾グラフェンの製造にこのような手法を容易に適用することが可能であろう。これには、ハロゲン(例えば、フッ素原子および/または塩素原子)による官能化および/または酸素含有基(例えば、カルボン酸、水酸化物、エポキシ化合物およびエステルなど)による官能化を含めることができる。酸化されたグラフェンは、酸化グラフェン、部分酸化グラフェンまたは部分還元酸化グラフェンを意味することができる。
【0091】
グラフェンの化学的機能化は、グラフェン金属酸化物コンポジットを製造するのに有用であり得る。グラフェン金属酸化物コンポジットが、グラフェンと金属酸化物との単純混合により作製されている場合、グラフェンの官能化(例えば、グラフェンの部分酸化)によって、例えば、スラリー媒体材料でのグラフェン分布を改良することができる。
【0092】
グラフェンまたは修飾グラフェンは単一層であることができる。あるいは、グラフェンまたは修飾グラフェンは、多層グラフェン、すなわち、厚さが1?10層であることができる。グラフェン形成の方法に応じて、グラフェンは、グラフェンの各粒子(例えば、フレーク)内に、層分布を有するであろう。まとめて考慮すると、グラフェンは、層分布を有するであろう。90重量%を超えるグラフェンが、厚さが1?10層の形態であるだろう。80重量%を超えるグラフェンが、厚さが1?10層の形態であるだろう。70重量%を超えるグラフェンが、厚さが1?10層の形態であるだろう。50重量%を超えるグラフェンが、厚さが1?10層の形態であるだろう。グラフェンが主として単一層グラフェンである場合、90重量%を超えるグラフェンが、単一層グラフェンであるだろう。80重量%を超えるグラフェンが、単一層グラフェンであるだろう。70重量%を超えるグラフェンが、単一層グラフェンであるだろう。50重量%を超えるグラフェンが、単一層グラフェンであるだろう。
【0093】
理論に制限されないが、グラフェンまたは修飾グラフェンにより、熱伝導率が有意に上昇することなく、酸化物の導電率が上昇し、したがって、改良されたZT値を有する酸化物材料の全ての利益(低密度、低価格、低毒性)を有する材料が製造されると考えられる。本発明で使用されるグラフェンまたは修飾グラフェンは、複数の境界(すなわち、グラフェンシートの非局在化層構造が中断する場所)を有していてもよい。電子は、このような境界を通過する(飛び越える)ことができるが、フォノン(すなわち、熱エネルギー)はこのような境界で分散および/または反射する。
【0094】
コンポジットが含有することのできるグラフェンの上限量は、金属酸化物中のグラフェンの分布の仕方ならびにグラフェンまたは修飾グラフェンおよび金属酸化物の特質に基づいてかなり変化する。この上限量は、浸透により決定される。コンポジットにおける浸透とは、試料を通して、強化相(この場合、グラフェンまたは修飾グラフェン)の結合経路が形成されることである。この経路が形成される濃度は、浸透閾値にあると知られている。浸透網状構造の形成は、典型的には、コンポジットの1つまたは複数の特性、例えば、導電率、熱伝導率または弾性率における段階的増加と関連する。浸透閾値を上回ると、これらの特性は、濃度が上昇するにつれて、次いで徐々に上昇することになる。浸透が発生する強化濃度は、粒子サイズ、粒子方向に依存し、決定的には浸透がランダムに分布していることに依存する(さらなる情報としては、書籍"An Introduction to Percolation theory" by D. Stauffer & A. Aharonyを参照のこと。)。
【0095】
本明細書のコンポジットの場合、伝導性グラフェン経路が材料を通じて形成されると、次いで、電流は、最小抵抗パスを取り、活性熱電を迂回し、デバイスを短絡させる。したがって、このような経路の形成を避けることが重要である。これを達成するアプローチとしては、それらに限定されないが、
1.ランダムに分布するグラフェンを含有するコンポジットの場合、浸透閾値より低いグラフェン濃度を使用すること、
2.グラフェンを非ランダムに配置すること、
3.熱電にグラフェンをコーティングすること、
が挙げられる。
【0096】
本発明のコンポジットは、金属酸化物およびグラフェンまたは修飾グラフェン、ならびにこの2つの材料の結合の仕方に依存して、様々な温度で最適ZTを示す。」

「【実施例11】
【0156】
コンポジット
上記方法を用いて、次のコンポジットを作製した。
1および2wt%グラファイトナノ粒子を有するSrTiO_(3)(STO)(比較例)。
0.05、0.1、0.6、1、2および5wt%剥離グラフェンを有するSrTiO_(3)。
0.1、0.6、および1wt%剥離グラフェンを有するSr_(0.8)La_(0.2/3)Ti_(0.8)Nb_(0.2)O_(3)(L2R)。
0.1、0.3、0.6、および1wt%剥離グラフェンを有するLa0.067Sr_(0.9)TiO_(3)(LSTO)(この試料はAr/5%H_(2)雰囲気中1427℃で焼結した)。
【0157】
これらコンポジットを試験し、親金属酸化物である、SrTiO_(3)、Sr_(0.8)La_(0.2/3)Ti_(0.8)Nb_(0.2)O_(3)およびLa_(0.067)Sr_(0.9)TiO_(3)と比較した。図1?4を参照のこと。
【0158】
一般に、本発明のコンポジットでは、これらが由来する金属酸化物よりもZT値が高い。550℃において、剥離グラフェン0.1wt%を有するSTOは、STOそれ自体よりも5桁程度高いZTを有する(図2)。
【0159】
剥離グラフェン0.1wt%を有するLSTOは、全温度範囲0?700℃にわたって約0.2より大きいZT(平均0.28)を示す。700℃において、剥離グラフェン0.1wt%を有するLSTOのZTは0.35を示す。全温度において、剥離グラフェンを有するLSTOのZTは、LSTOより高かった。
【0160】
全ての場合において、グラフェンドープ材料は、低温で、親材料よりも幾倍も高いZTを示す。」

図2?4は、以下のとおりである。


オ 判断
本件特許明細書の上記記載からすると、本件特許明細書に接した当業者は、熱電材料として、通常用いられる熱電金属酸化物材料について、当業者に期待し得る通常の創作能力の発揮によって原料を選択し、本件特許明細書に記載された上記記載及び技術常識に基づいて、請求項1に記載された構成を備えた熱電コンポジット材料を得ることができ、このような熱電コンポジット材料を用いて、上記課題のいずれかを選択することができることを認識できるものと認められる。

したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1の熱電コンポジット材料が、先行技術の材料よりも、より幅広い温度範囲にわたり、またはより有用性のある温度範囲にわたり、有効である熱電材料を提供すること、又は、先行技術の材料よりもZTが高い熱電材料を提供すること、すなわち、本件発明の課題のいずれかを解決できることを当業者が理解することができる程度に記載されているといえる。

また、本件発明9は、「2つ以上の熱電ユニットを含む熱電デバイス」に係る発明であり、「少なくとも1つの熱電ユニットが、n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と、前記金属酸化物材料全体にわたって分散されたグラフェンまたは修飾グラフェンとを含み、前記グラフェンまたは修飾グラフェンが浸透閾値未満の量で存在する」との発明特定事項を有するものであり、本件発明10、11は、それぞれ、本件発明9に対して、さらに技術的事項を追加したものであり、本件発明12は、「熱電コンポジット材料を作製する方法」に係る発明であり、「前記熱電コンポジット材料が、n型金属酸化物材料またはp型金属酸化物材料と、前記金属酸化物材料全体にわたって分散されたグラフェンまたは修飾グラフェンとを含み、前記グラフェンまたは修飾グラフェンが浸透閾値未満の量で存在」との発明特定事項を有するものであり、本件発明13?22は、それぞれ、本件発明12に対して、さらに技術的事項を追加したものであるから、これらについても同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明2?22の課題のいずれかを解決できることを当業者が理解することができる程度に記載されているといえる。
よって、特許異議申立人の「3 申立ての理由」の(4)「エ 記載不備の理由」(ア)における上記主張は、理由がない。

(2)「記載不備の理由」の(イ)について
ア 特許異議申立人松山徳子は、特許異議申立書の「3 申立ての理由」の(4)「エ 記載不備の理由」(イ)(43?45ページを参照。)において、要するに、本件特許発明1において、熱電コンポジット材料が含むグラフェンまたは修飾グラフェンは「浸透閾値未満の量で存在する」ものであるところ、浸透閾値自体の意味するところが不明確であり、浸透閾値未満の量でグラフェンまたは修飾グラフェンを含むことにどのような技術的意義があるのかを理解することができず、またグラフェンまたは修飾グラフェンの量が浸透閾値未満の量であるか否かを確認する具体的な方法も不明であるから、当業者が本件特許発明を実施することができるとはいえないので、本件特許発明1?22は、実施可能要件違反及び明確性要件違反であると主張している。

イ 本件特許明細書には、以下のように記載されている。
「【0094】
コンポジットが含有することのできるグラフェンの上限量は、金属酸化物中のグラフェンの分布の仕方ならびにグラフェンまたは修飾グラフェンおよび金属酸化物の特質に基づいてかなり変化する。この上限量は、浸透により決定される。コンポジットにおける浸透とは、試料を通して、強化相(この場合、グラフェンまたは修飾グラフェン)の結合経路が形成されることである。この経路が形成される濃度は、浸透閾値にあると知られている。浸透網状構造の形成は、典型的には、コンポジットの1つまたは複数の特性、例えば、導電率、熱伝導率または弾性率における段階的増加と関連する。浸透閾値を上回ると、これらの特性は、濃度が上昇するにつれて、次いで徐々に上昇することになる。浸透が発生する強化濃度は、粒子サイズ、粒子方向に依存し、決定的には浸透がランダムに分布していることに依存する(さらなる情報としては、書籍"An Introduction to Percolation theory" by D. Stauffer & A. Aharonyを参照のこと。)。
【0095】
本明細書のコンポジットの場合、伝導性グラフェン経路が材料を通じて形成されると、次いで、電流は、最小抵抗パスを取り、活性熱電を迂回し、デバイスを短絡させる。したがって、このような経路の形成を避けることが重要である。これを達成するアプローチとしては、それらに限定されないが、
1.ランダムに分布するグラフェンを含有するコンポジットの場合、浸透閾値より低いグラフェン濃度を使用すること、
2.グラフェンを非ランダムに配置すること、
3.熱電にグラフェンをコーティングすること、
が挙げられる。」

ウ また、浸透しきい値(パーコレーションしきい値)とは、複合材料において、導電性が得られる最低のしきい値であることは技術常識(必要であれば、特表2012-509972号公報の段落【0002】等、特開2011-82517号公報の段落【0060】等を参照。)である。
また、グラフェンまたは修飾グラフェンの量が浸透閾値未満の量であるか否かを確認するには、グラフェンまたは修飾グラフェンによる導電性経路の形成について、複合材料の導電性を試験することによって、容易に試験することができることは、本件特許明細書の上記記載からも理解できる。

エ したがって、本件特許明細書の上記記載を参照すれば、本件発明における「浸透閾値」の意味は、グラフェンにより導電性経路が形成されるところのしきい値であることが明確であり、また、「浸透閾値未満の量でグラフェンまたは修飾グラフェンを含む」ことには、デバイスが短絡することがないとの技術的意義があることを理解することができる。
また、グラフェンまたは修飾グラフェンの量が浸透閾値未満の量であるか否かを確認するには、複合材料の導電性を試験することによって、容易に試験することができると理解することができる。

以上のとおりであるから、本件特許発明1?22は、実施可能要件違反及び明確性要件違反であるとはいえない。
よって、特許異議申立人の「3 申立ての理由」の(4)「エ 記載不備の理由」(イ)における上記主張は、理由がない。

(3)「記載不備の理由」の(ウ)について
ア 特許異議申立人松山徳子は、特許異議申立書の「3 申立ての理由」の(4)「エ 記載不備の理由」(ウ)(45ページを参照。)において、要するに、以下のように主張している。
「本件特許発明1は「熱電コンポジット材料」に係る発明である。本件特許出願の実体審査において、本件特許権者は、平成30年2月1日に提出した意見書で、「引用文献1に開示されているナノコンポジット材料は、熱電変換材料として有効ではないので、熱電変換材料として使用しなかったであろう。」のように主張しているから、本件特許発明1に記載の熱電コンポジット材料は、熱電変換材料用途に使用されるものを意図していると解釈される。一方で、本件特許明細書の段落【0021】には、「本発明では、熱電材料とは、温度勾配に応じて電力を生じることができる材料をいう。」と記載されており、熱電特性を有する材料を熱電材料というと記載されている。
このように、意見書での本件特許権者の主張と本件特許明細書の記載とが整合していないため、本件特許発明1の「熱電コンポジット材料」の意味が不明確である。
したがって、本件特許発明1?22は明確性要件違反である。」

イ 熱電材料とは、熱と電気エネルギーを相互に変換する特性を持つ固体材料のことをいうことは、文献を示すまでもない技術常識であるところ、本件特許権者による意見書の上記主張は、「引用文献1のナノコンポジット材料は、熱電変換材料、すなわち、熱と電気エネルギーを変換する材料として使用しなかったであろう。」の意味で、本件特許明細書の上記段落の記載と矛盾するものでもない。
すなわち、「熱電特性を有する材料」が、「絶電変換材料用途に使用されるもの」であることは自明の関係であって、「本件特許権者の主張と本件特許明細書の記載とが整合していない」ということはできない。
したがって、本件発明1の「熱電コンポジット材料」の意味が明確であるから、本件発明1?22は、明確である。

以上のとおりであるから、本件特許発明1?22は、明確性要件違反であるとはいえない。
よって、特許異議申立人の「3 申立ての理由」の(4)「エ 記載不備の理由」(ウ)における上記主張は、理由がない。

(4)まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?22を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、本件発明1?22は発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしており、また、本件発明1?22は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしている。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-13 
出願番号 特願2015-557516(P2015-557516)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 肇  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 飯田 清司
恩田 春香
登録日 2018-11-22 
登録番号 特許第6438894号(P6438894)
権利者 ザ・ユニバーシティ・オブ・マンチェスター
発明の名称 グラフェンを含む熱電材料およびデバイス  
代理人 藤田 尚  
代理人 小林 浩  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ