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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1354966
異議申立番号 異議2019-700461  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-05 
確定日 2019-09-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6435431号発明「合金部材、セルスタック及びセルスタック装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6435431号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6435431号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成30年 3月23日(優先権主張 平成29年 4月24日)の出願であって、平成30年11月16日に特許権の設定登録がされ、同年12月 5日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 1年 6月 5日差出で、請求項1?4(全請求項)に係る本件特許に対し、特許異議申立人である亀崎伸宏(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、
前記アンカー部に接続される酸化クロム膜と、
前記酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備える合金部材。
【請求項2】
前記マンガンを含む酸化物におけるマンガンの含有率は、カチオン比で0.05以上である、
請求項1に記載の合金部材。
【請求項3】
2つの燃料電池セルと、
請求項1又は2に記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記2つの燃料電池セルを電気的に接続する集電部材である、
セルスタック。
【請求項4】
燃料電池セルと、
請求項1又は2に記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記燃料電池セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。」

第3 申立理由の概要

申立人は、証拠として、特許異議申立書に添付して下記甲第1号証?甲第6号証を提出し、以下の申立理由1?5によって、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(サポート要件違反)
請求項1?4に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4項の規定により取り消されるべきものである。

2 申立理由2(明確性要件違反)
請求項1?4に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4項の規定により取り消されるべきものである。

3 申立理由3(実施可能要件違反)
請求項1?4に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4項の規定により取り消されるべきものである。

4 申立理由4(新規性進歩性欠如)
本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、本件発明3?4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1?4に係る特許は、同法113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

5 申立理由5(新規性進歩性欠如)
本件発明1?2は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、本件発明3?4は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1?4に係る特許は、同法113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:Lei Chen, et al. "Strontium transport and conductivity of Mn_(1.5)Co_(1.5)O_(4) coated Haynes 230 and Crofer 22 APU under simulated solid oxide fuel cell condition", Solid State Ionics, 2011.10.28, 204-205(2011), p111-119
甲第2号証:Chun-Lin Chu, et al. "Oxidation behavior of metallic interconnect coated with La-Sr-Mn film by screen painting and plasma sputtering", INTERRATIONAL JOURNAL OF HYDROGEN ENERGY, 2008.11.21, 34(2009), p422-434
甲第3号証:特許第5395303号公報
甲第4号証:特許第5315476号公報
甲第5号証:特開2015-35418号公報
甲第6号証:国際公開第2013/172451号

なお、甲第1号証?甲第6号証を、それぞれ、甲1?甲6ということがある。

第4 当審の判断

1 申立理由1(サポート要件違反)について
(1)申立人の主張
申立理由1について、申立人が主張する内容は以下のとおりである(異議申立書第9頁第1行?第16頁第11行)。

ア 本件特許明細書の段落【0005】、【0007】、【0008】によれば、従来、剥離抑制のために基板の凹部に埋設された酸化クロムについて、運転開始前には先細り形状であったものが、運転中に丸みを帯びた形状になりアンカー効果が低下してしまい、基板から被覆膜が剥離するおそれがあるとの問題があったことに対して、同段落【0009】によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材を提供することを目的とすることである。

イ そこで、本件特許明細書の段落【0073】によれば、本件発明は、基材の凹部に配置されるアンカー部を、マンガンを含む酸化物を含有するものとすることにより、被覆膜及び酸化クロム膜を透過してくる酸素をアンカー部に優先的に取り込むことができ、基材のうちのアンカー部を取り囲む領域に含まれるCrが酸化することを抑制し、その結果、アンカー部の形態を長期間に亘って維持できるので、アンカー部のアンカー効果が長期に亘って得られるという技術的意義を有するものである。

ウ しかしながら、本件発明は、アンカー部の形状について何らの限定もないので、アンカー部の形状として、丸みを帯びた形状である形態も含んでいることとなるが、アンカー部の形状が丸みを帯びていると被覆膜の剥離抑制効果を得られないことは、上記アに記載したことから明らかであるし、アンカー部による被覆膜の剥離抑制効果はアンカー部の長さや幅によって左右されるものと理解されるから、アンカー部の形状や長さや幅が特定されていない本件発明は、発明の課題が解決できない形態を含んでいる。

エ また、「アンカー部」が含有する「マンガンを含む酸化物」には、段落【0073】に記載された「MnO」や「MnCr_(2)O_(4)」以外にも種々の酸化物があり、Mnの価数によってはそれ以上酸素を取り込むことができず、酸素をアンカー部に優先的に取り込むことができないものも含まれるから、Mnの価数について特定されていない本件発明は、発明の課題が解決できない形態を含んでいる。

オ よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(2)当審の判断
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであるところ(平成17年(行ケ)第10042号・特別部判決参照)、以下、上記観点に立って検討する。

イ 発明の詳細な説明に記載された事項
(ア)本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(なお、下線は当審で付与したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、合金部材、セルスタック及びセルスタック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の燃料電池セルが集電部材によって電気的に接続されたセルスタックと、各燃料電池セルを支持するマニホールドとを備えたセルスタック装置が知られている(特許文献1及び2参照)。集電部材及びマニホールドには、合金部材が用いられる。
・・・
【0004】
特許文献2の集電部材では、Fe-Cr系合金やNi-Cr系合金などによって構成される基材からCrが揮発することを抑制するために、基材の表面を覆う被覆膜が設けられている。
【0005】
また、特許文献2では、基材と被覆膜の間に形成される酸化クロム膜の一部が、基材表面の凹部に入り込むことによって、被覆膜が基材から剥離することを抑制できるとされている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の集電部材では、セルスタック装置の運転中、凹部に埋設された酸化クロムを取り囲む基材の酸化が進行することによって、酸化クロムが大きく成長してしまう。
【0008】
その結果、運転開始前には先細り形状であった酸化クロムが、運転中には丸みを帯びた形状になりアンカー効果が低下してしまうため、基材から被覆膜が剥離するおそれがある。
【0009】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材、セルスタック及びセルスタック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る合金部材は、表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、アンカー部に接続される酸化クロム膜と、酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜とを備える。」

「【0052】
[マニホールド200の詳細構成]
次に、マニホールド200の詳細構成について、図面を参照しながら説明する。図6は、図2のP-P断面図である。図7は、図6の領域Aの拡大図である。
【0053】
天板201と容器202は、接合材103によって接合されている。天板201と容器202の間には、燃料ガスが供給される内部空間S1が形成されている。
【0054】
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有する。容器202は、基材220と、酸化クロム膜221と、被覆膜222と、アンカー部223とを有する。
【0055】
天板201及び基材210は、それぞれ「合金部材」の一例である。基材210及び基材220は、それぞれ「基材」の一例である。酸化クロム膜211及び酸化クロム膜221は、それぞれ「酸化クロム膜」の一例である。被覆膜212及び被覆膜222は、それぞれ「被覆膜」の一例である。アンカー部213及びアンカー部223は、それぞれ「アンカー部」の一例である。
【0056】
容器202の構成は、天板201の構成と同様であるため、以下においては、図7を参照しながら、天板201の構成について説明する。
【0057】
基材210は、板状に形成される。基材210は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。基材210の厚みは特に制限されないが、例えば0.5?4.0mmとすることができる。
【0058】
基材210は、表面210aと凹部210bとを有する。表面210aは、基材210の外側の表面である。凹部210bは、表面210aに形成される。凹部210bは、穴状であってもよいし、溝状であってもよい。
【0059】
凹部210bの個数は特に制限されないが、表面210aに広く分布していることが好ましい。また、凹部210bどうしの間隔は特に制限されないが、均等な間隔で配置されていることが特に好ましい。これによって、後述するアンカー部213によるアンカー効果を、酸化クロム膜211全体に対して均等に発揮させることができるため、基材210から被覆膜212が剥離することを特に抑制できる。
【0060】
また、基材210の表面210aに垂直な厚み方向における凹部210bの垂直深さL1(後述する、アンカー部213の垂直長さと同じ。)は、厚み方向に垂直な面方向における凹部210bの幅Wより大きいことが好ましい。これによって、後述するアンカー部213の食い込み深さを大きくしたり、或いは、アンカー部213の断面形状を鋭利にしたりできるため、アンカー部213によるアンカー効果をより向上させることができる。
【0061】
凹部210bの垂直深さL1は特に制限されないが、0.5?300μmとすることができ、1.0?250μmが好ましく、1.5?200μmがより好ましい。凹部210bの幅Wは特に制限されないが、0.1?100μmとすることができ、0.15?70μmが好ましく、0.2?50μmがより好ましい。また、凹部210bの垂直深さL1に対する幅Wの比(W/L)は特に制限されないが、0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
【0062】
図7では、断面形状が楔形の凹部210bが図示されており、凹部210bの最深部が鋭角的であるが、これに限られるものではない。凹部210bの最深部は、鈍角状であってもよいし、丸みを帯びていてもよい。従って、凹部210bの断面形状は、例えば、半円形、矩形、及びその他の複雑形状であってもよい。また、凹部210bは、基材210の内部に向かって真っ直ぐに延びていなくてもよく、例えば、厚み方向に対して斜めに形成されていてもよいし、部分的に曲がっていてもよい。図7では、凹部210bの一例として、断面形状が直線状楔形の第1凹部210bxと、断面形状が湾曲状楔形の第2凹部210byとが図示されている。
【0063】
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などを用いることができる。基材210におけるCrの含有率は特に制限されないが、4?30質量%とすることができる。」

「【0065】
酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続される。酸化クロム膜211は、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置される。酸化クロム膜211は、基材210の表面210aの少なくとも一部を覆っていればよいが、表面210aの略全面を覆っていてもよい。酸化クロム膜211は、アンカー部213の表面213aの少なくとも一部を覆っていればよいが、表面213aの略全面を覆っていることが好ましい。酸化クロム膜211は、基材210の凹部210bの開口を塞ぐように形成される。酸化クロム膜211の厚みは、0.5?10μmとすることができる。
【0066】
被覆膜212は、酸化クロム膜211の少なくとも一部を覆う。詳細には、被覆膜212は、酸化クロム膜211のうちセルスタック装置100の運転中に酸化剤ガスと接触する領域の少なくとも一部を覆う。被覆膜212は、酸化クロム膜211のうち酸化剤ガスと接触する領域の全面を覆っていることが好ましい。被覆膜212の厚みは特に制限されないが、例えば3?200μmとすることができる。」

「【0069】
アンカー部213は、基材210の凹部210bに配置される。アンカー部213は、凹部210bの開口部付近において被覆膜212に接続される。これにより、アンカー部213が凹部210bに係止されることでアンカー効果が生まれるため、被覆膜212の基材210に対する密着力を向上させることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを抑制できる。
【0070】
アンカー部213は、凹部210bの内表面の少なくとも一部と接触していればよいが、凹部210bの内表面の略全面と接触していることがより好ましい。
【0071】
基材210の表面210aに垂直な厚み方向におけるアンカー部213の垂直長さL1は特に制限されないが、例えば0.1μm以上300μm以下とすることができる。垂直長さL1は、基材210の厚み方向におけるアンカー部213の全長である。図7では、第1凹部210bx内に配置された第1アンカー部213xと、第2凹部210by内に配置された第2アンカー部213yとが例示されている。第1アンカー部213xは、断面形状が直線状楔形であって、基材210の内部に向かって真っ直ぐに延びている。第2アンカー部213yは、断面形状が湾曲状楔形であって、基材210の内部に向かって斜めに湾曲しながら延びている。図7に示す例では、第1アンカー部213xの垂直長さL1xが、第2アンカー部213yの垂直長さL1yより短い。
【0072】
アンカー部213の延在方向におけるアンカー部213の実長さL2は特に制限されないが、例えば0.2μm以上600μm以下とすることができる。実長さL2は、基材210の表面210aに平行な面方向におけるアンカー部213の中点を、基端部から先端部まで連ねた線の全長である。従って、実長さL2は、垂直長さL1とは異なる概念である。図7に示す例では、第1アンカー部213xの実長さL2xは、第1アンカー部213xの垂直長さL1xと同等であるのに対して、第2アンカー部213yの実長さL2yは、第2アンカー部213yの垂直長さL1yより長い。
【0073】
アンカー部213は、Mn(マンガン)を含む酸化物を含有する。Mnを含む酸化物としては、例えば、MnO、MnCr_(2)O_(4)などが挙げられるが、これに限られるものではない。Mnは、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素であり、Crよりも酸素との親和力が大きいため、セルスタック装置100の運転中、被覆膜212及び酸化クロム膜211を透過してくる酸素をアンカー部213に優先的に取り込むことができる。従って、基材210のうちアンカー部213を取り囲む領域に含まれるCrが酸化することを抑制できるため、アンカー部213の形態を長期間に亘って維持することができる。その結果、アンカー部213によるアンカー効果が長期間に亘って得られるため、被覆膜212が基材210から剥離することを長期間に亘って抑制できる。
【0074】
アンカー部213におけるMnの含有率は、全構成元素のうち酸素を除く元素の総和に対する各元素のモル比をカチオン比と定義した場合、カチオン比で0.01以上が好ましい。これによって、Crが酸化することをより抑制でき、アンカー部213の形態をより長期間に亘って維持することができる。アンカー部213におけるMnの含有率は、カチオン比で0.05以上がより好ましく、0.10以上が特に好ましい。」

(イ)前記(ア)によれば、発明の詳細な説明には以下の事項が記載されているものと認められる。

a 本件発明は、燃料電池セルの集電部材やマニホールドに用いられる合金部材に関する(【0002】)。

b 従来、基材と被覆膜の間に形成される酸化クロム膜の一部が基板表面の凹部に入り込むことによって、被覆膜が基材から剥離することを抑制していたが(【0005】)、セルスタック装置の運転中、酸化クロムが大きく成長してしまい、運転開始前には先細り形状であった酸化クロムが、運転中には丸みを帯びた形状になりアンカー効果が低下してしまうため、基材から被覆膜が剥離するおそれがあるという問題があった(【0007】、【0008】)。

c 本件発明は、このような従来の問題点に鑑み、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材を提供することを目的とするものであるから(【0009】)、本件発明が解決しようとする課題は、基板の凹部に入り込むことによって、被覆膜が基材から剥離することを抑制するアンカー部が、セルスタック装置の運転中、酸化クロムが大きく成長することによってその形状が丸みを帯び、アンカー効果が低下して、基板から被覆膜が剥離することを抑制することである(以下、単に「課題」という。)。

d 前記cの課題は、合金部材を、表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、アンカー部に接続される酸化クロム膜と、酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜とを備えるものとすることで解決することができる(【0010】)。

e 本件発明のアンカー部が被覆膜の剥離を抑制できる機序については、次のように説明されている。
まず、アンカー部は、基材の凹部に配置されるものであり、アンカー部が凹部に係止され、凹部開口部付近でアンカー部が被覆膜に接続されることによって、アンカー効果が生まれる(【0069】)。
そして、アンカー部は、Mnを含む酸化物を含有しており、MnはCrよりも酸素との親和力が大きいため、セルスタック装置の運転中に被覆膜を透過してくる酸素を、アンカー部に優先的にとり込むことができる。従って、アンカー部を取り囲む領域に含まれるCrが酸化することを抑制できるため、アンカー部の形態を長期間に亘って維持することができ、その結果、アンカー部によるアンカー効果が長期間に亘って得られるため、被覆膜が基材から剥離することを長期間に亘って抑制できる、というものである(【0073】)。
つまり、本件発明のアンカー部は、Mnを含む酸化物を含有することによって、アンカー部周囲のCrの酸化を抑制でき、アンカー部の形態を長期に亘って維持できるので、アンカー効果が長期間に亘って継続し、被覆膜の剥離を長期間に亘って抑制できるのである。

f アンカー部の剥離抑制効果について、実施例と比較例についての剥離評価についての試験結果がまとめられた段落【0109】の【表1】を参照すると、マンガン含有率が0.05以上である実施例1?20については、評価が◎、すなわち、剥離が観察されなかったものであり、マンガン含有率が0.05未満である実施例21?26については、評価が○、すなわち、重量変化は伴わないが電子顕微鏡で観察すると微小な剥離が観察されたものであり、マンガン含有率が測定限界以下である比較例1?6については、評価が×、すなわち、重量変化を伴う剥離が観察されたものである。
したがって、表1の剥離評価から、アンカー部に微量であってもマンガン酸化物が含有されていれば、剥離の抑制効果があることが確認されたといえる。

ウ 当審の判断
上記イ(イ)に記載した事項によれば、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものは、上記イ(イ)dに記載したとおり、表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、アンカー部に接続される酸化クロム膜と、酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜とを備える合金部材であるといえ、これは、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明そのものである。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるといえるから、請求項1の記載は、サポート要件に適合する。
また、同様の理由により、請求項1を引用する請求項2?6の記載についても、サポート要件に適合する。

エ 申立人の意見について
(ア)上記(1)ウに記載した、アンカー部の形状の特定が必要であるとの申立人の意見(以下、「第1の意見」という。)については、本件特許明細書の段落【0062】に「凹部210bの断面形状は、例えば、半円形、矩形、及びその他の複雑形状であってもよい。また、凹部210bは、基材210の内部に向かって真っ直ぐに延びていなくてもよく、例えば、厚み方向に対して斜めに形成されていてもよいし、部分的に曲がっていてもよい。」と記載されているとおり、凹部の形状、すなわち、アンカー部の形状によらずにアンカー効果が発揮されることが記載されている。
また、本件特許明細書の段落【0005】、【0007】、【0008】に記載された、剥離抑制のために基板の凹部に埋設された酸化クロムについて、運転開始前には先細り形状であったものが、運転中に丸みを帯びた形状になりアンカー効果が低下するとの記載は、運転中に基材中のクロムが酸化して酸化クロムが成長し、酸化クロムからなるアンカー部の形状が変化することがアンカー効果の低下につながるという従来技術の問題点を説明しており、これに対して、本件発明は、アンカー部にマンガンを含む酸化物を含有させることにより、アンカー部の形状の変化を抑制することができるものであり、その結果、アンカー効果の低下を抑制することができるといえる。
そして、アンカー部がアンカー部にマンガンを含む酸化物を含有している限り、たとえアンカー部の形状が丸みを帯びていたとしても、それ以上丸くなることを抑制できるので、アンカー効果の低下を抑制することができるといえる。
したがって、本件発明が、アンカー部の形状や長さや幅が特定されていないとしても、発明の課題が解決できない形態を含んでいるということはできないので、申立人の上記第1の意見を採用することができない。

(イ)また、上記(1)エに記載した、マンガンを含む酸化物についてMnの価数の特定が必要であるとの申立人の意見(以下、「第2の意見」という。)については、本件特許明細書の段落【0073】には「Mnを含む酸化物としては、例えば、MnO、MnCr_(2)O_(4)などが挙げられるが、これに限られるものではない。」と記載されており、Mnを含む酸化物の種類は限定されないと説明されているし、申立人によって、Mnの価数に応じて、どのようなマンガン酸化物であれば酸素を取り込むことができないのか、具体的な物質とその酸素の取込能力について開示した証拠が提出されていないため、上記第2の意見を採用することができない。

(3)小括
以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2(明確性要件違反)について
(1)申立人の主張
申立理由2について、申立人が主張する内容は以下のとおりである(異議申立書第16頁第12?17行)。

本件発明の「アンカー部」との記載は、それ自体で明確ではなく、出願時の技術常識をもってしても、特許を受けようとする発明が明確に把握することができない。

(2)当審の判断
明確性要件の判断手法
請求項に係る発明が明確性要件に適合するか否かは、当該請求項の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、当該請求項の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきところ、以下、上記観点に立って検討する。

イ 請求項1には「凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部」と記載されていることから、「アンカー部」とは、基材の「凹部に配置されるもの」であり、「マンガンを含む酸化物を含有する」ものであると定義されており、これら「基材」、「凹部」、「マンガンを含む酸化物」なる文言について、特段、不明確といえる点はなく、上記文言によって定義される「アンカー部」についても不明確といえる点はない。

ウ また、「アンカー部」という記載自体は、アンカー効果を備える部材を意味するものと認められるところ、「アンカー効果」については、例えば、本件特許明細書の段落【0008】や【0073】の記載から、基材から被覆膜が剥離することを抑制する効果であるということができ、「アンカー効果」自体についても、同段落【0102】?【0106】に記載された「剥離試験」を行うことによって、被覆膜の剥離の有無を観察することにより当業者であれば容易に確認し得る効果であるといえる。

エ したがって、「アンカー部」の定義は明確であり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。
よって、「アンカー部」なる特定事項を含む本件発明1と、本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2?4は、いずれも明確性要件に適合する。

(3)小括
以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。

3 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1)申立人の主張
申立理由3について、申立人が主張する内容は以下のとおりである(異議申立書第16頁第18?第17頁8行)。

本件特許明細書には、「アンカー部」の形状を特定する記載がなく、本件特許明細書の段落【0092】?【0111】に記載された実施例と比較例についても、「アンカー部」がどのような形状とされたかについては一切記載がない。
また、本件特許明細書には、「マンガンを含む酸化物」を特定する記載がなく、本件特許明細書の段落【0092】?【0111】に記載された実施例と比較例についても、「マンガンを含む酸化物」として具体的にどの酸化物が用いられたかについては、一切記載されていない。
そのため、当業者は、どのような「マンガンを含む酸化物」を用いて、どのような形状の「アンカー部」を形成すればよいか、理解できない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「アンカー部」を備えることが特定された本件発明1?4について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2)当審の判断
ア 物の発明についての実施可能要件の判断手法
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が上記の実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきであるところ、以下、上記観点に立って検討する。

イ 本件特許明細書には、アンカー部を備えたマニホールドの製造方法について次の記載がある。
「【0080】
まず、図8に示すように、基材210の表面210aに凹部210bを形成する。例えばサンドブラストを用いることによって、楔状の凹部210bを効率的に形成することができる。この際、研磨剤の粒径を調整したり、又は、適宜ローラーで表面を均したりすることによって、凹部210bの垂直深さL1及び幅Wを調整することができる。
【0081】
次に、図9に示すように、基材210の表面210a上にMnを含む酸化物のペーストを塗布する。これにより凹部210bの内部にMnを含む酸化物のペーストを充填する。なお、Mnを含む酸化物のペーストは、Mnを含む酸化物の粉末にエチルセルロースとテルピネオールを添加することによって調製できる。
【0082】
次に、図10に示すように、表面210a上に塗布された余分なペーストを例えばスキージで除去することによって、凹部210bの内部にだけペーストを残す。
【0083】
次に、図11に示すように、基材210を大気雰囲気で熱処理(800?900℃、5?20時間)することによって、凹部210bにアンカー部213を形成するとともに、アンカー部213を覆う酸化クロム膜211を形成する。」

ウ 上記イの記載によれば、基材の楔状の凹部は、基材に対してサンドブラストを用いることによって形成することができるのであり(【0080】)、アンカー部は凹部を埋めるように形成されることから凹部と同じ形状となるといえるので、アンカー部の形状も楔状であることが理解できる。したがって、アンカー部の具体的形状と、そのようなアンカー部を形成する方法について、発明の詳細な説明に記載が認められる。

エ また、上記イの記載によれば、Mnを含む酸化物のペーストは、Mnを含む酸化物の粉末にエチルセルロースとテルピネオールを添加することによって調製できると記載されているだけであり(【0081】)、Mnの酸化物の具体例は示されていない。しかしながら、Mnの酸化物について、別途、「MnO、MnCr_(2)O_(4)などが挙げら」れると記載されている(上記1(2)イ(ア)の【0073】参照。)。
したがって、「マンガンを含む酸化物」について、実施例としては具体的な物質名が記載されていないけれども、発明の詳細な説明の記載も参照すれば、「マンガンを含む酸化物」として具体的に「MnO」や「MnCr_(2)O_(4)」が利用可能であると理解できる。

オ したがって、発明の詳細な説明は、当業者が、過度の試行錯誤をすることなく、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(3)小括
以上のとおりであるから、申立理由3には理由がない。

4 申立理由4(新規性進歩性欠如)について
(1)甲1の記載事項
ア 本願の優先権主張日前に外国において頒布された刊行物である、甲1には、「Strontium transport and conductivity of Mn_(1.5)Co_(1.5)O_(4) coated Haynes 230 and Crofer 22 APU under simulated solid oxide fuel cell condition(当審訳:固体酸化物燃料電池を再現した条件下での、Mn_(1.5)Co_(1.5)O_(4) によって被覆されたHaynes 230 と Crofer 22 APUにおけるストロンチウムの輸送と導電性)」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。なお、枠囲みは申立人が引用箇所を示すために付したものである。

1a「


」(111頁左欄11?14行の上記枠囲み部)(訳:SOFCインターコネクタや集電体の電気伝導性が、広範囲にわたって調べられた。
Fe-CrおよびNi-Cr系のクロミアを形成する合金は、定置式のSOFCパワープラントのための空気極インターコネクタの材料として検討されてきている。)

1b「

」(111頁右欄7?13行の上記枠囲み部)(訳:Fe-CrおよびNi-Cr系のインターコネクタは、共に、揮発性Cr種によるセルの汚染を防止するために、被覆される必要がある。(MnCo)_(3)O_(4)(MCO)のようなスピネルコーティングは、フェライト系ステンレスのために、酸化を遅らせると共にクロミアの蒸発を抑制するという点で、有効性を示している。MCO被覆は、また、AL441SS、430SSおよびCrofer22APUといったフェライト系ステンレス製のインターコネクタの電気抵抗の増加を抑制した。)

1c「

」(112頁左欄27?28行の上記枠囲み部)(訳:薄いシート状のCrofer22APU(厚さ0.5mm)が、フェライト系ステンレス基材として使用された。)

1d「

」(115頁右欄14?15行の上記枠囲み部)(訳:LSCF/MCO-H230およびLSCF/MCO-Crofer22APUのサンプルのEPMA(電子線マイクロアナライザ)元素マップが、それぞれ図8および図9に示される。)

1e「

」(115頁右欄22?24行の上記枠囲み部)(訳:LSCF/MCOとCrofer22APUとの界面の化学構造は、Mnマップから明らかなように、MCO-Crofer22の境界領域がMnを豊富に含んでいるという点でも、LSCF/MCOとH230との界面と明らかに相違している。)

1f「Fig.9

」(117頁上部)(図9の標題訳:ASR(面積比抵抗)のために空気中で800℃1100時間のテストが行われたLSCF/MCO/Crofer22のEPMAマップ。)

イ 前記アによれば、甲1には、以下の事項が記載されているものと認められる。

(ア)甲1では、SOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタについて調べられており、クロミア(酸化クロム)を形成する、Fe-Cr系の合金を用いてインターコネクタを形成することが検討されている。(1a)

(イ)Fe-Cr系の合金を材料とするインターコネクタは、セルのCr被毒を防止するために被覆する必要があり、フェライト系ステンレスでは、その酸化を遅らせると共にクロミア(酸化クロム)の蒸発を抑制するために、(MnCo)_(3)O_(4)(MCO)のようなスピネルコーティングをすることが有効である。(1b)

(ウ)図9には、フェライト系ステンレスであるCrofer22APU基材がLSCF/MCOの二重コートで覆われたサンプルに対して800℃1100時間のテストが行われたものについてのEPMA(電子線マイクロアナライザ)元素マップが示されている。(1c、1d)

(エ)図9の左上の図から、上記サンプルが、上方からの3つの層(それぞれ、「上層」、「中層」、「下層」という。)が積層して構成されている様子を見て取ることができ、上記上層、中層、下層は、それぞれ、LSCF、MCO、Crofer22APUに該当するものであると理解することができる。また、上記中層と下層の界面、すなわち、MCOとCrofer22APUの界面、もしくは、Crofer22APUの表面に、凹凸形状が存在する様子を見て取ることができる。(1f)

(オ)図9のCrマップを見ると、灰色で表示されており、上記下層であるCrofer22APU層の上部に、白く表示されたCr濃度が高い領域が存在することを見て取ることができ、上記1bの、MCOはクロミア(酸化クロム)の蒸発を抑制する機能があるとの記載を参照すると、Crofer22APU層内を拡散したCrが、クロミア(酸化クロム)となり、MCO層によって上方への拡散を抑制されることにより、Crofer22APU層の上部に集中しているものと解することができる。また、上記クロミアが存在する領域は、上記(エ)で検討した界面の凹凸形状に略沿うように配置されている様子を見て取ることができる。(1f)

(カ)図9のMnマップを見ると、白色で表示されており、上記中層であるMCO層の下方に、Mnが斑に含まれる領域が存在することを見て取ることができる。当該Mnが斑に含まれる領域は、上記(エ)で検討した界面の凹凸形状に略沿うように配置されているとともに、上記(オ)で検討したクロミア(酸化クロム)が存在する界面領域とほぼ重なっていることを見て取ることができる。(1f)

(キ)上記(オ)と(カ)の検討によれば、Crofer22APUとMCOの界面に形成された凹凸形状に略沿った同じ領域に、クロミア(酸化クロム)とMnを含む領域が存在しているということができる。

(ク)上記(ア)?(キ)の検討から、図9に記載されたインターコネクタのサンプルに注目すると、甲1には、次のSOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタが記載されているものと認められる。

「表面に凹凸形状を有し、フェライト系ステンレスであるCrofer22APUによって構成される基材と、
前記凹凸形状に略沿うように配置された、クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む界面領域と、
前記界面領域を覆うMCO/LSCF二重コート層と、
を備えるSOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタ。」
(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「フェライト系ステンレスであるCrofer22APUによって構成される基材」は、下記甲2の2cの組成表を参照するとCrofer22APUがCrを含有する鉄系合金であることがわかるから、本件発明1の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当し、甲1発明の「表面」の「凹凸形状」は、その凹部に注目すると、本件発明1の「表面」の「凹部」に相当する。

イ 甲1発明の「クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む界面領域」は、マンガンを含む、酸化クロムの領域であるといえるから、本件発明1の「マンガンを含む酸化物を含有する」部分に相当し、したがって、甲1発明において、「クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む界面領域」が「前記凹凸形状に略沿うように配置され」ることは、本件発明において、「マンガンを含む酸化物を含有する部分」が「前記凹部に配置され」ることに相当する。

ウ 甲1発明の「MCO/LSCF二重コート層」は、少なくとも「クロミア(酸化クロム)」を含む領域を覆う層であるから、本件発明1の「酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜」に相当する。

エ 甲1発明の「SOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタ」は、Crofer22APUというフェライト系ステンレス合金で形成された部材であるといえるから、本件発明の「合金部材」に相当する。

オ そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有する部分と、
酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備える合金部材。」

<相違点1>
「凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有する部分」が、本件発明1では、「アンカー部」すなわちアンカー機能を有する部分であるのに対して、甲1発明の「凹凸形状に略沿うように配置された、クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む界面領域」がアンカー機能を有する部分であるか不明である点。

<相違点2>
本件発明1は「アンカー部に接続される酸化クロム膜」を備えるもの、換言すれば、「アンカー部」とは別体として当該「アンカー部」に接続される「酸化クロム膜」を備えるものであるのに対して、甲1発明は、「クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む界面領域」において、「クロミア(酸化クロム)」と「マンガン」は同一の領域に含まれており、別体として形成されておらず、接続されているものでもない点。

(3)相違点についての判断
ア 事案に鑑みて、相違点2について検討する。

イ 甲1発明の「SOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタ」は、上記1fの標題に記載されているように、LSCF/MCO/Crofer22の積層体を空気中で800℃1100時間の熱処理を行うことにより得られた構造であるから、「クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む領域」は、MCOに含まれるMnと、Crofer22に含まれるCrと、空気中の酸素がインターコネクタ中を拡散することにより一体として形成された領域であると推定される。
そして、そのように一体として形成された「クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む領域」を、「クロミア(酸化クロム)」と「マンガンを含む酸化物」とが別体であるように形成すること、具体的には、上記3(2)で検討したように、基材に形成された凹部にMnを含む酸化物の粉末を添加したペーストを埋めこみ、これを熱処理することによって、アンカー部と酸化クロム膜を別体として形成し、さらにこれら別体として形成されたものを「接続される」ものとすることについては、甲1に何ら記載も示唆もされていない。

ウ さらに、本件発明1は、「凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続される酸化クロム膜」を備える「合金部材」とすることにより、セルスタック装置の運転中に被覆膜を透過してくる酸素を、アンカー部に優先的にとり込むことができ、アンカー部を取り囲む領域に含まれるCrが酸化することを抑制できるため、アンカー部の形態を長期間に亘って維持することができ、その結果、アンカー部によるアンカー効果が長期間に亘って得られるため、被覆膜が基材から剥離することを長期間に亘って抑制できるとの格別の効果を奏するものである。

エ したがって、本件発明1は、少なくとも、上記相違点2で相違するため、甲1発明と同一ではない。
また、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件発明2?4について
本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?4についても、本件発明1について検討した理由と同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由4には理由がない。

5 申立理由5(新規性進歩性欠如)について
(1)甲2の記載事項
ア 本願の優先権主張日前に外国において頒布された刊行物である、甲2には、「Oxidation behavior of metallic interconnect coated with La-Sr-Mn film by screen painting and plasma sputtering(当審訳:スクリーン印刷とプラズマスパッタで形成されたLa-Sr-Mnフィルムで覆われた金属インターコネクタの酸化挙動)」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。なお、枠囲みは申立人が引用箇所を示すために付したものである。

2a「

」(422頁のアブストラクト1?6行の上記枠囲み部)(訳:特定の会社がCrofer22APUおよびZMG232として開発し指定した、2つのFeベースの合金が、広く評価され、金属インターコネクタの優れた材料として検討されてきた。これらの合金の両方は、それぞれ多量及び微量のCrおよびLaを含有する。本研究では、腐食耐性および電気抵抗に関するLa-Sr-Mn(LSM)の効果を見極めるために、Crofer22APUおよびZMG232は、スクリーンペインティングおよびプラズマスパッタリングという2つの方法を用いて、LSMのフィルムにより被覆された。)

2b「

」(422頁左欄2?4行。?cells.まで。)(訳:インターコネクタは、数多くの連続して積層されたスタックユニットセルを構造的及び電気的に接続するので、固体酸化物燃料電池(SOFC)の重要な部品である。)

2c「

」(423頁上部)(標題の訳:表1 合金の化学組成(wt%))

2d「

」(428頁左欄6?8行の上記枠囲み部)(訳:図11(a)は、焼結された、LSMで被覆されたCrofer22APUの界面における微構造および元素分布を示す。)

2e「

」(428頁左欄11?14行の上記枠囲み部)(訳:図11(a)に示された、Cr、Mn、Fe、La、Sr、Oの元素分布から、LSMと合金との間にCr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化層が存在することが推定される。)

2f「

」(428頁左欄15?17行の上記枠囲み部)(訳:LSM被覆されたZMF232の断面EPMA組成マップが、図11(b)に示される。)

2g「

」(428頁左欄19行?右欄3行の上記枠囲み部)(訳:挿入されたXRDパターンが表面エリア(矢印で示される)から得られ、これは、La_(2)O_(3)、SrMnO_(3)、MnO_(2)、またはCr_(2)O_(3)組成物の存在を示している。)

2h「

」(428頁右欄5?8行の上記枠囲み部)(訳:酸化物フィルムと金属基材との境界において、LSMフィルムの下方の層は、Cr、OおよびMnの強い集積を示していると同様に、フィルムの底部でのFeの強い集積を示している。)

2i「Fig.11a

」(429頁)(標題訳:LSMで被覆された合金の断面における、BEI(後方散乱電子像)、XRD、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)の像は、この組成物がCr、O、Fe、La、SrとMnで構成されていることを示している。(a)はCrofer22APUであり、(b)はZMG232と等価なものである。両者とも、(LSMが)スクリーン印刷され、1100℃で2.5時間熱処理することによって準備されたものである。)

イ 前記アによれば、甲2には、以下の事項が記載されているものと認められる。
(ア)甲2では、SOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタの材料として検討されてきた、Crofer22APUおよびZMG232と呼ぶ2つのFeベースの合金について、La-Sr-Mnフィルム(LSM)で被覆した効果が調べられている。(2a、2b)

(イ)図11a、bには、LSMで被覆されたCrofer22APUおよびZMG232からなる2つのサンプルの断面における、BEI(後方散乱電子像)、XRD、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)の像が示されており、図11aの上方の像(BEI像と認められる)からは、当該サンプルが、上方からの3つの層(それぞれ、「上層」、「中層」、「下層」という。)が積層して構成されている様子を見て取ることができ、上記上層、中層、下層は、それぞれ、LSM、酸化物スケール、合金(Crofer22APU)に該当するものである。(2i)

(ウ)図11aの上方の像(BEI像)によれば、上記下層の合金層の表面に微小な凹凸形状が存在しており、当該凹凸形状に沿うように、上記中層の酸化物スケール層が配置されていることが見て取れる。(2i)

(エ)上記2eの記載によれば、図11aの下方のEPMAで取得された各元素マップに示された元素分布から、上記上層であるLSMの層と、上記下層である合金の層との間に、Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物層が存在することが推定されとされており、この複合酸化物層は上記(イ)、(ウ)に記載した酸化物スケールに対応しているものと認められる。

(オ)上記(ウ)と(エ)によれば、下層である合金の層の表面の微小な凹凸形状に沿うように、Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物層が存在しているということができる。

(カ)上記(ア)?(オ)の検討から、図11aに記載されたインターコネクタのサンプルに注目すると、甲2には、次のSOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタが記載されているものと認められる。

「表面に微小な凹凸形状を有し、Crofer22APUからなる基材と、
前記凹凸形状に沿うように配置された、Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物層と、
前記界面酸化物層を覆うLSMフィルムと、
を備えるSOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタ。」
(以下、「甲2発明」という。)

(2)本件発明1と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「Crofer22APUからなる基材」は本件発明1の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当し、甲2発明の「表面」の「微小な凹凸形状」は、その凹部に注目すると、本件発明1の「表面」の「凹部」に相当する。

イ 甲2発明の「Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物層」は、マンガンを含む、酸化クロムの層であるといえるから、本件発明1の「マンガンを含む酸化物を含有する」部分に相当し、したがって、甲2発明において、「Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物層」が「前記凹凸形状に沿うように配置され」ることは、本件発明において、「マンガンを含む酸化物を含有する部分」が「前記凹部に配置され」ることに相当する。

ウ 甲2発明の「LSMフィルム」は、「Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物層」、すなわち、少なくとも「Cr_(2)O_(3)」を含む層を覆うフィルムであるから、本件発明1の「酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜」に相当する。

エ 甲2発明の「SOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタ」は、Crofer22APUという合金で形成された部材であるといえるから、本件発明の「合金部材」に相当する。

オ そうすると、本件発明1と甲2発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有する部分と、
酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備える合金部材。」

<相違点3>
「凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有する部分」が、本件発明1では、「アンカー部」すなわちアンカー機能を有する部分であるのに対して、甲2発明の「凹凸形状に沿うように配置された、Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物層」がアンカー機能を有する層であるか不明である点。

<相違点4>
本件発明1は「アンカー部に接続される酸化クロム膜」を備えるもの、換言すれば、「アンカー部」とは別体として当該「アンカー部」に接続される「酸化クロム膜」を備えるものであるのに対して、甲2発明は、「Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物層」において、「Cr_(2)O_(3)」と「Cr-Mn複合酸化物」は同一の領域に含まれており、別体として形成されておらず、接続されているものでもない点。

(3)相違点についての判断
ア 事案に鑑みて、相違点4について検討する。

イ 甲2発明の「SOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタ」は、上記2iの標題に記載されているように、LSMがスクリーン印刷されたCrofer22APU基材を、1100℃で2.5時間熱処理することによって準備されたものであるから、「Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物層」は、LSM(La-Sr-Mnフィルム)に含まれるMnと、Crofer22APU基材に含まれるCrと、空気中の酸素がインターコネクタ中を拡散することにより一体として形成された領域であると推定される。
そして、そのように一体として形成された「Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物」を、「Cr_(2)O_(3)」と「マンガンを含む酸化物」とが別体であるように形成すること、具体的には、上記3(2)で検討したように、基材に形成された凹部にMnを含む酸化物の粉末を添加したペーストを埋めこみ、これを熱処理することによって、アンカー部と酸化クロム膜を別体として形成し、さらにこれら別体として形成されたものを「接続される」ものとすることについては、甲2に何ら記載も示唆もされていない。

ウ さらに、本件発明1は、「凹部に配置され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続される酸化クロム膜」を備える「合金部材」とすることにより、セルスタック装置の運転中に被覆膜を透過してくる酸素を、アンカー部に優先的にとり込むことができ、アンカー部を取り囲む領域に含まれるCrが酸化することを抑制できるため、アンカー部の形態を長期間に亘って維持することができ、その結果、アンカー部によるアンカー効果が長期間に亘って得られるため、被覆膜が基材から剥離することを長期間に亘って抑制できるとの格別の効果を奏するものである。

エ したがって、本件発明1は、少なくとも、上記相違点4で相違するため、甲2発明と同一ではない。
また、甲2発明において、相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件発明2?4について
本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?4についても、本件発明1について検討した理由と同様の理由により、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由5には理由がない。

第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-06 
出願番号 特願2018-56284(P2018-56284)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 池渕 立
土屋 知久
登録日 2018-11-16 
登録番号 特許第6435431号(P6435431)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 合金部材、セルスタック及びセルスタック装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
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