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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  A61L
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A61L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61L
管理番号 1354969
異議申立番号 異議2019-700422  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-27 
確定日 2019-09-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6429490号発明「コラーゲン線維架橋多孔体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6429490号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6429490号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成26年5月12日に出願され、平成30年11月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和1年5月27日に特許異議申立人株式会社高研(代表者 垂水有三)は特許異議の申立てを行い、令和1年7月2日に上申書を提出した。


第2 本件発明
特許第6429490号の請求項1?8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従い「本件特許発明1」?「本件特許発明8」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)。
「【請求項1】
コラーゲン線維で構成され、三次元の細胞培養が可能な多孔質海綿状構造を有し、且つ、架橋処理が施されたことを特徴とするコラーゲン線維架橋多孔体。
ただし、前記コラーゲン線維架橋多孔体の電子顕微鏡像における、最表面に観察される孔の数が少なくとも30個である一定区画内において、当該孔の最大個数がnであるときに、
平均孔径={Σ(孔iの最大幅+孔iの最小幅)/2}/n(但し、i=1?n)
の数式によって算出される平均孔径が、50?300μmの範囲である。
なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。
【請求項2】
前記多孔質構造の少なくとも一部において、D周期性の横縞を有するコラーゲン線維が観察される請求項1記載のコラーゲン線維架橋多孔体。
【請求項3】
前記コラーゲン線維架橋多孔体を細胞培養基材として用いて、マウス線維芽細胞株L929を10日間培養したときに、培養後の細胞培養基材が、金属製ピンセットによって保持できる強度を有するものである請求項1又は2記載のコラーゲン線維架橋多孔体。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項記載のコラーゲン線維架橋多孔体を細胞培養基材として用い、細胞培養することによって形成された移植用材料。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項記載のコラーゲン線維架橋多孔体を細胞培養基材として用いる細胞培養方法であって、乾燥または脱水状態の当該多孔体に、細胞懸濁液を吸収させることによって、細胞を当該多孔体内で三次元的に分布させることを特徴とする細胞培養方法。
【請求項6】
可溶化コラーゲン溶液とアルカリ金属重炭酸塩とを混合して線維化コラーゲンを析出させる第一工程、
凍結乾燥する第二工程、
架橋処理する第三工程
を含むことを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項記載のコラーゲン線維架橋多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記第三工程の架橋処理が、下記(1)と(2)のいずれか一方又は(1)と(2)の組み合わせによる処理である、請求項6記載のコラーゲン線維架橋多孔体の製造方法。
(1)γ線照射、電子線照射、プラズマ照射、UV照射又は熱脱水によって物理的架橋する処理。
(2)水溶性化学架橋剤又は気化能を有する化学架橋剤によって化学的架橋する処理。
【請求項8】
アルカリ金属重炭酸塩の適用量が、コラーゲンの分子量を30万としたときに、アルカリ金属重炭酸塩/可溶化コラーゲン溶液中のコラーゲン(モル比)=3×10^(2)?3×10^(4)の範囲である請求項6又は7記載のコラーゲン線維架橋多孔体の製造方法。」


第3 申立理由の概要及び証拠

特許異議申立人は、以下の甲第1号証(以下、「甲1」と記載する。他の証拠も同様とする。)?甲9の証拠を提出し、また、上申書とともに参考資料1?5を提出して、以下の特許異議申立理由を主張している。

1 申立理由の概要
(1)異議申立理由1(特許法第29条第1項第2号(公然実施))について
本件特許発明1?5は、甲3から甲8によって示される、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジと同一であるから、本件出願前に公然実施された発明である。よって、本件特許発明1?5に係る特許は、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(2)異議申立理由2(特許法第29条第2項(進歩性))について
本件特許発明1?5は、公然実施された発明(甲3から甲8によって示される、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジ)と出願当時の技術常識又は甲第2号証に記載の発明と出願当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本件特許発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(3)異議申立理由3(特許法第17条の2第3項(新規事項))について
平成30年6月28日付手続補正書による特許請求の範囲の補正のうち、請求項1およびこれを引用する請求項2?8に「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。よって、本件特許発明1?8は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(4)異議申立理由4(特許法第36条第4項第1号(実施可能要件))について
甲9に示すとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載通りに作製したコラーゲン線維架橋多孔体は、請求項1に記載される「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を充足しないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?8を当業者が実施できるように記載されていない。よって、本件特許発明1?8は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(5)異議申立理由5(特許法第36条第6項第1号(サポート要件))について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、請求項1に記載される「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を充足するコラーゲン線維架橋多孔体の効果の開示がなく、出願時の技術常識に照らしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を前記のコラーゲン線維架橋多孔体にまで拡張ないし一般化できない。よって、本件特許発明1?8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(6)異議申立理由6(特許法第36条第6項第2号(明確性))について
請求項1に記載される「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を充足し、三次元の細胞培養が可能な多孔質海綿状構造がどのような孔の形状及び該孔の孔径であるかが、本件特許発明1の記載からでは不明確であり、さらに、本件特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても不明確である。よって、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2?8は、特許法第36条第6号第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。

2 証拠方法
甲1 本件特許の審査過程で通知された平成30年2月23日付の拒絶理由通知書
甲2 特許第3170693号公報
甲3 「アテロコラーゲンの高研から 細胞培養・移植用アテロコラーゲン担体 Collagen for Cell Culture AteloCell(R)」と題するカタログ(合議体注:「(R)」は丸囲いのRである。以下、同様。)
甲4 平成10年8月に頒布された「KOKENCELLGEN 組織培養研究用試薬・器具」と題するカタログ
甲5-1 平成31年4月1日に株式会社東海電子顕微鏡解析により作成された電子顕微鏡撮影報告書
甲5-2 令和1年5月22日に特許異議申立人により作成された甲5-1の「Methods」の訳文
甲6 平成23年1月11日付の「製品出荷許可書」の写し
甲7-1 平成19年4月に発行された、Artificial lymph nodes induce potent secondary immune responses in naive and immunodeficient mice, J.Clin.Invest.,2007, vol.117, p.997-1007
甲7-2 令和1年5月22日に特許異議申立人により作成された甲7-1の部分訳
甲8 平成31年4月22日に特許異議申立人により作成された実験成績報告書2
甲9 平成31年4月8日に特許異議申立人により作成された実験成績報告書1
甲10 本件特許の審査過程で通知された平成30年2月23日付の拒絶理由通知書(甲1)対して補正書と同日に提出された平成30年6月28日付の意見書
参考資料1 株式会社丸庄が株式会社高研に宛てて作成した平成26年5月13日付けの納品書の写し
参考資料2 令和1年6月24日に株式会社丸庄により作成された証明書
参考資料3 令和1年6月20日にフナコシ株式会社により作成された証明書
参考資料4 平成3年11月1日に発行された「ライフサイエンス研究用試薬と機器 フナコシニュース No.67」
参考資料5 平成9年9月1日に発行された「FUNAKOSHI総合カタログ No.11 1997?98 ライフサイエンス研究用試薬 Part 2」と題するカタログ


第4 証拠の記載事項
1 甲3の記載事項
甲3の最終頁には、以下の事項が記載されている。
「コラーゲンスポンジ35mmディッシュ用
ウシ腱由来の不溶性コラーゲンを凍結乾燥させたスポンジです。表面には明確なポア構造が無いため、スポンジ上での培養に適しています。
用途 初代培養 器官培養
特徴 スポンジ上に播種した細胞の上下から栄養や酸素が供給されるため、細胞増殖を促進します。
製品番号 CS-35
製品 コラーゲンスポンジ35mmディッシュ用 無菌
包装 5枚入り/箱 保管常温 価格(税別)¥15,000」

2 甲4の記載事項
甲4には以下の事項が記載されている。
(1)「(98.08)」(末尾)

(2)「コラーゲンスポンジ 細胞培養用・・・CS-35,・・・
組織培養用コラーゲンスポンジは,三次元培養用に開発した,新しい組織培養用コラーゲンです。
牛アキレス腱の不溶性コラーゲンを凍結乾燥することにより,ポーラスなスポンジにしました。細胞はこの中に入り込み,三次元培養ができます。また高密度培養にも応用できます。
メーカー略称 KOK 品名 組織培養用コラーゲンスポンジ,CS-35
Ф32mm×1mm(35mmディッシュ用),無菌 メーカー商品コードCS-35
商品番号 KO-1030-35 包装 5 pieces 価格 ¥5,500
商品番号 KO-0030-35 包装 50 pieces 価格 ¥40,000」(2頁)

3 甲5-1の記載事項
甲5-1には、樹脂包埋超薄切片法で調製された「CS-35 Lot No.732117」の4つの電子顕微鏡撮影画像が示されている。
そして、特許異議申立書(9頁(ア-3))によれば、左上図は全体写真(以下、「画像1」ともいう。)、右上図と左下図は画像1の拡大写真(以下、それぞれ「画像2」、「画像3」ともいう。)、右下図は画像3の矢印の周辺の拡大写真(以下、「画像4」ともいう。)である。
そして、画像2?4から以下の事項が看取される。
画像2には、その中央部に縞模様を有する細長い形状が1つ存在し、その他の部分に縞模様はない。
画像3には、その上部に縞模様を有する細長い形状が少なくとも2つ並んで存在し、同下部の左側から中央には明瞭ではないが縞の模様が見受けられる。その他の部分に縞模様はない。
画像4の拡大された縞模様の幅は、倍率(63200:1)及び200nmのスケールからみて、50nmを少し上回る幅を有する。

4 甲6の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
「製品出荷許可書
2011年1月11日
・・・
品目No 品目略称 3304761 コラーゲンスポンジ35MMディッシュ用
規格No MAPS
製造番号 732117-1
製造日 2010.12.28
・・・」

5 甲7-1の記載事項
甲7-1には、以下の事項が記載されている。甲7-1は英語で記載されているので訳文で摘示する。(訳文は当審による。)
「・・・TEL-2-LTα間質細胞と活性化DCの混合物は、立方体スポンジ様コラーゲン足場(コラーゲンスポンジ,CS-35; KOKEN)に吸収された。このマトリックスは、ウシのアキレス腱から調製された不溶性コラーゲンからなり凍結乾燥法で製造され、主にインビトロ三次元または高密度細胞培養の目的で使用される。マトリックスのポアの形状は一様ではないが、推定ポアサイズは50-300μmである。厚さ1mmの濾紙の外観を有するコラーゲンスポンジを3mm^(2)程度の正方形片に切り、その大きさはすべての実験で一定に保たれた。」(1006頁左欄1?9行)

6 甲8の記載事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
「1 実験の概要
特許異議申立人は、・・・製品名CS-35 Lot No.732117(コラーゲンスポンジCS)の強度確認及び細胞培養効果を本件特許明細書の実施例1及び実施例2の記載を基にして実施した。
2 実験方法
・・・
3 実験結果
・・・
(写真1?4 省略)
写真1は、使用したコラーゲンスポンジは製品名CS-35 Lot No.732117であることを示す。
写真2は、24時間浸漬した後に、・・・金属製ピンセットによる損傷は、外観的には認められなかった。また、コラーゲンスポンジCSを細胞培養液に24時間浸漬しても外観的には形状が維持されていた。加えて、細胞が培養されていることを確認した。
写真3は、1週間浸漬した後に、・・・金属製ピンセットによる損傷は、外観的には認められなかった。また、コラーゲンスポンジCSを細胞培養液に24時間浸漬しても外観的には形状が維持されていた。加えて、細胞が培養されていることを確認した。
写真4は、3週間浸漬した後に、・・・金属製ピンセットによる損傷は、外観的には認められなかった。また、コラーゲンスポンジCSを細胞培養液に24時間浸漬しても外観的には形状が維持されていた。加えて、細胞が培養されていることを確認した。
・・・
以上により、本実験で使用したコラーゲンスポンジCSは、本件特許明細書の実施例1及び実施例2の記載のコラーゲン線維架橋多孔体と同等以上の強度及び細胞培養効果を有することを確認した。
加えて、乾燥状態のコラーゲンスポンジCSに、細胞懸濁液を吸収させることによって、細胞を該コラーゲンスポンジCSの多孔体内で三次元的に分布できていることを確認した。」

7 甲9の記載事項
甲9には、以下の事項が記載されている。
(1)「1 実験の概要
特許異議申立人は、本件特許明細書に記載の実施例1及び実施例2の記載の通りにコラーゲン線維架橋多孔体を作製した。さらに、該コラーゲン線維架橋多孔体の特性を確認した。

2 実験方法
2.1 実験方法
本件特許明細書の段落0048、0049及び0054の記載の通りにコラーゲン線維架橋多孔体を作製した。
・・・
線維多孔体Yを、減圧条件下で110℃・10時間で熱脱水架橋することによって、架橋線維多孔体Eを得た。
架橋線維多孔体Eを三次元培養可能な100μmにスライスして、走査型電子顕微鏡画像・・・を用いて観察した。」(1頁1?24行)

(2)「3.1.2 架橋線維多孔体Eの画像
架橋線維多孔体Eの走査型電子顕微鏡の画像を以下に示す。
○画像1
(画像 省略)
上記左上図、右上図及び下左図は、架橋線維多孔体Eの独立した各表面画像である。上記画像中の矢印は、孔を示す。
○画像2
(画像 省略)
上記右画像は、上記左画像を45度傾けた画像である。」(2頁下から3行?3頁下から6行)

(3)「架橋線維多孔体Eの表面に観察される複数の孔の孔径の平均は118μmであった。架橋線維多孔体Eの孔の平均直径の測定方法は、無作為に9個の孔を選択し、甲9には、架橋線維多孔体Eの表面に観察される孔から無作為に9個の孔を選択し、この孔の長径および長径の中央を通り長径と直交する方向の径を測定し、この2つの値の平均値をこの孔の直径とした。」(4頁「3.1.6 1-e」の1?5行)。

(4)「より詳しくは、画像2の左画像と右画像を比較すると、孔は真直で連通していることを確認できる。すなわち、架橋線維多孔体Eは、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造を含むので、1-fの構成要件を充足しない。」(4頁?5頁「3.1.7 1-f」)。

8 甲10の記載事項
甲10には、以下の事項が記載されている。
(1)「審査官殿は、平成30年2月23日付け起案の拒絶理由通知書において、本願発明に対し特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との拒絶理由を提示されましたが、これに対し意見を申し述べます。」(【意見の内容】)

(2)「[I]補正について
1.補正後の特許請求の範囲
補正後の特許請求の範囲を以下に示します。

【請求項1】
コラーゲン線維で構成され、三次元の細胞培養が可能な多孔質海綿状構造を有し、且つ、架橋処理が施されたことを特徴とするコラーゲン線維架橋多孔体。
ただし、前記コラーゲン線維架橋多孔体の電子顕微鏡像における、最表面に観察される孔の数が少なくとも30個である一定区画内において、当該孔の最大個数がnであるときに、
平均孔径={Σ(孔iの最大幅+孔iの最小幅)/2}/n(但し、i=1?n)
の数式によって算出される平均孔径が、50?300μmの範囲である。
なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」([I]1.)
)

(3)「[2] 請求項1のなお書き部分
請求項1のなお書き部分の補正は、「多孔質海綿状構造」を明確にするためのものです。当業者の技術常識によれば、「多孔質海綿状」はスポンジ状、すなわち、大小さまざまな孔が複雑に入り組んだものであることを意味するものです。そこで、「多孔質海綿状構造」(スポンジ状構造)の範疇には、引用文献3の「50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している」という特殊な貫通孔を有する多孔質海綿状構造が含まれないことを明確にする補正を行いました。
ちなみに、引用文献3では、「気泡」という用語が主として用いられていますが、この補正では「孔」を用いました。「気泡」によって形成されたものが「孔」であることは、引用文献3の段落[0007]における「そして、この製造方法において、コラ-ゲン量とアンモニアガス濃度との調節によって気泡径をコントロ-ルすることができ、コラ-ゲンスポンジの孔径を変化することができる。」の記載からも明らかです。
この補正は、審査基準における「除くクレーム」の取り扱いに照らしても適正な補正であると思料いたします。」([I]2.[2])

(4)「3.引用文献3
引用文献3には、コラーゲンの酸性溶液をアンモニアガスに曝してコラーゲンをゲル化させ、これを凍結乾燥することにより一方の面(表面層)から他方の面(裏面層)に真直で且つ実質的に各気泡相互が独立に存在する気泡を有するコラーゲンスポンジが得られることが記載されています。この気泡(孔)の形状は、蓮根のように独立した孔が一方面から他方面まで貫通しているものと理解できます。
[1] 孔の形状
孔の形状については、上記「補正の説明」で説明したように、本願請求項1の「多孔質海綿状構造」の範疇には、引用文献3の特殊な貫通孔を有する多孔質海綿状構造は含まれません。したがって、本願請求項1の孔の形状は、引用文献3の孔の形状と異なるものであります。
・・・
[3] 小括
以上をまとめると、次の(i)(ii)となります。
(i) 本願請求項1の孔の形状は、引用文献3の孔の形状とは異なります。
・・・
したがって、本願請求項1?4は、引用文献3に対して新規性を有するものであり、・・・。」(「3.引用文献3」)

9 参考資料1の記載事項
異議申立人が、甲3の発行日を立証する目的で令和1年7月2日付け上申書に添付して提出した参考資料1には、以下の事項が記載されている。
「納品書 2014年5月13日 No.994381
株式会社高研様
下記の通り納品致します。
品名 カタログ2種(1)アテロジーン(2)アテロセル
・・・」

10 参考資料2の記載事項
異議申立人が、甲3の発行日を立証する目的で令和1年7月2日付け上申書に添付して提出した参考資料2には、以下の事項が記載されている。
「株式会社高研 御中 2019年6月24日
・・・
株式会社 丸正
証明書
印刷物の納品に関して、下記の通り証明致します。

印刷物:AteloCellカタログ
・・・
納品日:2014年5月13日
・・・」

11 参考資料3の記載事項
異議申立人が、甲4の発行日を立証する目的で令和1年7月2日付け上申書に添付して提出した参考資料3には、以下の事項が記載されている。
「株式会社高研 御中 2019年6月20日
・・・
フナコシ株式会社
証明書
研究用試薬カタログの発行日に関して、下記の通り証明致します。

カタログ:KOKENCELLGEN 組織培養研究用試薬・器具
・・・
発行日:1998年8月
・・・」


第5 当審の判断
事案に鑑み、異議申立理由3、同4、同5、同6、同1、同2の順に判断をする。

1 異議申立理由3(特許法第17条の2第3項(新規事項))について

(1)異議申立人の主張
平成30年6月28日付け手続補正書により請求項1に追加された「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」は、請求項1をいわゆる除くクレームに補正するものであるところ、除かれた部分は、発明の課題(コラーゲン線維で構成され、且つ、三次元の細胞培養が可能な多孔質構造を有するコラーゲン成形体の提供)を解決するために不可欠な要素である多孔質海綿状構造の形状、特に孔の形状及び該孔の孔径に該当する。課題を解決するために不可欠な要素の補正は、新たな技術的事項の追加に当たるから、上記手続補正は新規事項を追加するものである。

(2)判断
特許法第17条の2第3項に規定する、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができ、新規事項を追加するものではない。
この点、本件特許の審査過程で通知された平成30年2月23日付の拒絶理由通知書に対して補正書と同日に提出された平成30年6月28日付の意見書である甲10によれば(第4 8(1)?(4))、上記除くクレームとする補正は、引用文献3に基づく新規性欠如の拒絶理由通知を契機として、「コラーゲン線維で構成され、三次元の細胞培養が可能な多孔質海綿状構造を有し、且つ、架橋処理が施されたことを特徴とするコラーゲン線維架橋多孔体。ただし、前記コラーゲン線維架橋多孔体の電子顕微鏡像における、最表面に観察される孔の数が少なくとも30個である一定区画内において、当該孔の最大個数がnであるときに、平均孔径={Σ(孔iの最大幅+孔iの最小幅)/2}/n(但し、i=1?n)の数式によって算出される平均孔径が、50?300μmの範囲である。」の「前記多孔質海綿状構造の範疇」から、「50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を除外するものに過ぎない。そして、本件特許明細書の「三次元の細胞培養が可能な多孔質構造としては、細胞が基材内部にまで進入できるように、円滑な細胞遊走に適した孔径の連続孔を有する海綿状(スポンジ状)構造であれば特に制限はない。」(段落【0024】)の記載から、「前記多孔質海綿状構造の範疇」において、多孔質海綿状構造における「細胞が基材内部にまで進入できるように、円滑な細胞遊走に適した孔径の連続孔」の連通の態様は種々であり得ると解されるから、その範疇から、各孔が「一方の面より他方の面に真直で連通」する態様を除外する上記の補正は、「前記多孔質海綿状構造の範疇」から特有の構造を有するもののみを除外するものといえる。加えて、補正前のコラーゲン線維架橋多孔体も、特有の構造を有するもののみを除外した補正後のコラーゲン線維架橋多孔体も、いずれも、「三次元の細胞培養が可能な多孔質構造としては、細胞が基材内部にまで進入できるように、円滑な細胞遊走に適した孔径の連続孔を有する海綿状(スポンジ状)構造」を有するものである点に変わりはない。そうすると、当該補正は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
異議申立人は、課題を解決するために不可欠な要素の補正は、新たな技術的事項の追加に当たると主張するが、上記除くクレームとする補正が、新たな技術的事項を導入するものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは上述のとおりである。
したがって、異議申立理由3は理由がない。

2 異議申立理由4(特許法第36条第4項第1号/実施可能要件)について
(1)異議申立人の主張
甲9に示された画像1、2において、画像中の孔は真直で連通していることから(第4 7(2)、(4))、本件特許明細書に記載の実施例1及び実施例2の記載の通りに作製されたコラーゲン線維架橋多孔体である(第4 7(1))、甲9の本実験で作製した架橋線維多孔体Eは、「50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を含むといえる。そうすると、本件特許明細書に記載の実施例1及び実施例2の記載の通りに作製されたコラーゲン線維架橋多孔体は、本件特許発明1の構成要件である「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を充足していない。よって、本件特許明細書は、本件特許発明1のコラーゲン線維架橋多孔体の製造方法を開示していないし、当該製造方法は本件出願当時の技術常識であるとも認められないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1及びこれを直接的又は間接的に引用する本件特許発明2?8を当業者が実施できるように記載されていない。

(2)判断
甲9に示された画像1、2は、本件特許明細書に記載の実施例1及び実施例2の記載の通りに作製したと異議申立人が説明する架橋線維多孔体Eを100μmにスライスしたものの走査型電子顕微鏡画像であり(第4 7(1)?(2))、甲9において架橋線維多孔体Eの平均孔径は118μmと算出されている(第4 7(3))。
ここで、厚さ100μmにスライスされた架橋線維多孔体Eは、その厚みが平均孔径より小さく、その厚さ方向、すなわち架橋線維多孔体Eの一方の面より他方の面に向かう方向に、平均孔径程度の径を有する孔が2以上並んで存在し得ないから、架橋線維多孔体Eの一方の面より他方の面に平均孔径程度の径を有する孔が真直連通して存在することもない。よって、甲9に示された画像1、2からでは、「該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している」か否かを判断し得ないから、特許異議申立人の前記主張は失当である。
また、甲9には、「架橋線維多孔体Eを三次元の細胞培養可能な100μmにスライスして」(第4 7(1))と記載されているが、平均孔径より小さい100μmの厚さにスライスされた架橋線維多孔体Eは、とても薄く、「三次元の細胞培養を可能にする」ものとして本件特許明細書に記載された「細胞が基材内部まで進入できるように、細胞遊走が可能な孔径を備えた連続孔で構成された多孔体」(本件特許明細書段落【0008】、同【0024】)に相当するものとはいえない。よって、甲9における厚さ100μmにスライスされた架橋線維多孔体Eは、「三次元の細胞培養が可能な多孔質海綿状構造」を有する本件特許発明のサンプルとして不適切であり、そのようなサンプルの走査型電子顕微鏡画像に基づいてなされた特許異議申立人の前記主張は採用できない。
以上のことから、「本件特許明細書に記載の実施例1及び実施例2の記載の通りに作製されたコラーゲン線維架橋多孔体は、本件特許発明1の構成要件である「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を充足していない」との特許異議申立人の主張は採用できない。
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、コラーゲン線維架橋多孔体の製造方法が具体的に記載され(実施例1及び2)、かつ、実施例1で製造したγ線架橋線維多孔体について、平均孔径は116.0μmであり、電子顕微鏡像でD周期性の横縞が随所に観察され、かつ、脱水状態にしたγ線架橋線維多孔体に細胞培養液を吸収させた後に細胞を培養した細胞培養試験において、所定の強度を有し、細胞がγ線架橋線維多孔体内において三次元的に均一に分布していたことが開示されているから(本件特許明細書の段落【0048】?【0062】)、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1のコラーゲン線維架橋多孔体及びこれを直接的又は間接的に引用する本件特許発明2?4のコラーゲン線維架橋多孔体又は移植用材料を当業者が製造し、かつ、使用できるように記載されているといえるし、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明5?8の方法を当業者が実施できるように記載されているといえる。
したがって、異議申立理由4は理由がない。

3 異議申立理由5(特許法第36条第6項第1号/サポート要件)について
(1)異議申立人の主張
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を充足するコラーゲン線維架橋多孔体の効果の開示又は示唆がなく、当業者は、出願時の技術常識に照らしても、前記のコラーゲン線維架橋多孔体が本件特許発明の細胞培養効果を有すると容易に想到することはできないから、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2?8についても同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。

(2)判断
「異議申立理由4について」において前述のとおり(2(2))、「本件特許明細書に記載の実施例1及び実施例2の記載の通りに作製されたコラーゲン線維架橋多孔体は、本件特許発明1の構成要件である「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を充足していない」との特許異議申立人の主張は採用できない一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1?8についての製造方法や実施例などの具体的な開示がある。
加えて、本件特許発明は、コラーゲン線維で構成され、且つ、三次元の細胞培養が可能な多孔質構造を有するコラーゲン成形体の提供を課題とするところ(本件特許明細書段落【0017】)、2(2)にて前述のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明にはその課題を解決するための具体的な手段が説示されているから、当業者は、本件特許発明1のコラーゲン線維架橋多孔体が上記の課題を解決できることを発明の詳細な説明の記載から認識し得る。
よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明において前記の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるといえ、異議申立理由5は理由がない。

4 異議申立理由6(特許法第36条第6項第2号/明確性)について
(1)異議申立人の主張
本件特許発明1の課題を解決するための必須の発明特定事項の一つは、多孔質海綿状構造の形状、特に孔の形状及び該孔の孔径であるところ、「なお、前記多孔質海綿状構造の範疇からは、次の多孔質海綿状構造は除かれる。すなわち、50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を充足し、かつ、三次元の細胞培養が可能な多孔質海綿状構造がどのような孔の形状及び該孔の孔径であるかは、本件特許発明1の記載からでは不明確であり、さらに、本件特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても不明確である。

(2)判断
本件特許発明1の「コラーゲン線維で構成され、三次元の細胞培養が可能な多孔質海綿状構造を有し、且つ、架橋処理が施されたことを特徴とするコラーゲン線維架橋多孔体。ただし、前記コラーゲン線維架橋多孔体の電子顕微鏡像における、最表面に観察される孔の数が少なくとも30個である一定区画内において、当該孔の最大個数がnであるときに、平均孔径={Σ(孔iの最大幅+孔iの最小幅)/2}/n(但し、i=1?n)の数式によって算出される平均孔径が、50?300μmの範囲である。」コラーゲン線維架橋多孔体が、どのような構造のコラーゲン線維架橋多孔体であるかは、その請求項における記載、本件特許明細書及び図面の記載から当業者が明確に把握をすることができるものであり、かつ、それから除外された「50?2000μmの範囲のコントロ-ルされた孔径を有し、且つ、該孔は一方の面より他方の面に真直で連通し、且つ実質的に各孔相互は独立的に存在している多孔質海綿状構造。」を有するコラーゲン線維架橋多孔体についても、それが、そのような構造のコラーゲン線維架橋多孔体であるかを当業者が明確に把握をすることができるものであるから、結局、本件特許発明1に、具体的にどのような構造のコラーゲン線維架橋多孔体が含まれ、また、含まれないかは、当業者に明確である。
したがって、異議申立理由6は理由がない。

5 異議申立理由1(特許法第29条第1項第2号/公然実施))について

異議申立人は、甲3?甲8によって示される、本願出願前に公然実施された製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが、本件特許発明1?5と同一である旨主張する。
しかしながら、当審は、次のとおり、甲3から甲8から把握される製品番号CS-35のコラーゲンスポンジは、本件特許発明1?5の発明特定事項のうち(ア)「コラーゲン線維で構成され」かつ(イ)「架橋処理が施された」コラーゲン線維架橋多孔体とは認めることができないから、異議申立理由1は理由がないと判断する。

(1)甲3
甲3は、「アテロコラーゲンの高研から 細胞培養・移植用アテロコラーゲン担体 Collagen for Cell Culture AteloCell(R)」と題するカタログであって、甲3には、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが記載されている(第4 1)。
甲3の記載事項からでは、そのカタログの発行日は不明であるところ、参考資料1?2の記載事項(第4 9及び10)を考慮すると、甲3は本願特許出願前に頒布されたと認めることはできない。
よって、甲3は、それのみでは本件出願前に公然実施された発明を示すための証拠として採用できないが、一応検討すると、甲3には、 製品番号CS-35のコラーゲンスポンジについて、「ウシ腱由来の不溶性コラーゲンを凍結乾燥させたスポンジ」と記載されているところ(第4 1)、不溶性コラーゲンであるからといって線維状であるか否かは不明であるから、当該コラーゲンスポンジが(ア)「コラーゲン線維で構成され」たものであるとまでは認めることができないし、また、甲3には、 架橋処理についてなんら記載がないところ、コラーゲンは架橋処理を施さなくてもスポンジの三次元構造を構成することができるものと認められるから、当該コラーゲンスポンジが(イ)「架橋処理が施された」ものであると認めることもできない。
したがって、甲3は、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが、本件特許発明の発明特定事項(ア)及び(イ)を満たすコラーゲン線維架橋多孔体であることを立証するものではない。

(2)甲4
甲4は、「KOKENCELLGEN 組織培養研究用試薬・器具」と題するカタログであって、「(98.08)」の記載(第4 2(1))及び参考資料3の記載事項(第4 11)に照らして、本件出願日前に発行されたものと認めるが、甲4には、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジについて、「牛アキレス腱の不溶性コラーゲンを凍結乾燥することにより,ポーラスなスポンジにしました。細胞はこの中に入り込み,三次元培養ができます。」と記載されるに留まるし、かつ、架橋処理についてはなんら記載がない(第4 2(2))。
そうすると、甲3の場合と同様に甲4においても、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが(ア)「コラーゲン線維で構成され」たコラーゲン線維架橋多孔体であるとも、(イ)「架橋処理が施された」コラーゲン線維架橋多孔体であるとも認めることもできない。
したがって、甲4は、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが、本件特許発明の発明特定事項(ア)及び(イ)を満たすコラーゲン線維架橋多孔体であることを立証するものではない。

(3)甲5-1(訳文は、甲5-2)及び甲6
ア 甲5-1は、CS-35 Lot No.732117というコラーゲンスポンジにおけるコラーゲン線維の形態を樹脂包埋超薄切片法で透過型電子顕微鏡観察した結果を示すものであり、異議申立人は、甲6の「製品出荷許可書」により、甲5-1のサンプルであるCS-35 Lot No.732117が本件特許出願前に製造されたものであることを主張する。
しかしながら、特許異議申立人は、甲6の「製品出荷許可書」の作成目的や位置づけ等をなんら説明しておらず、甲6がいかなる書類であるか不明であるし、仮に、甲6の「製品出荷許可書」が、特許異議申立人である株式会社高研の製品の製造日を裏付け得る書類であると仮定しても、特許異議申立人は、甲6に品目略称として記載される「コラーゲンスポンジ35MMディッシュ用」(第4 4)とCS-35 Lot No.732117の関係や甲6に製造番号として記載される「732117-1」(第4 4)とCS-35 Lot No.732117の関係をなんら説明していないから、甲5-1のサンプルであるCS-35 Lot No.732117が本件特許出願前に製造されたものであると認めることはできない。

イ また、特許異議申立人は、特許異議申立書において「甲3号証から甲8号証に記載された各発明又は事実は、すべて製品番号CS-35のコラーゲンスポンジで共通しており」と主張して(特許異議申立書の14頁8?9行)、甲5-1の結果を甲3や甲4の製品番号CS-35のコラーゲンスポンジに一般化しているが、甲5-1のCS-35 Lot No.732117と甲3や甲4の製品番号CS-35のコラーゲンスポンジとの関係は、特許異議申立人が提出したいずれの証拠にも示されておらず、両者が同一ものであるか否か、特に、両者が材料組成や処理、多孔質海綿状構造において同一のものであるか否か不明であるから、甲5-1の結果を甲3や甲4の製品番号CS-35のコラーゲンスポンジに一般化できることを前提としてなされる甲5-1の結果に基づく主張は、採用することができない。
加えて、たとえ、甲5-1の結果を甲3や甲4の製品番号CS-35のコラーゲンスポンジに一般化したとしても、甲5-1に示される電子顕微鏡撮影画像の画像4からD周期性の横縞であることが推認される縞模様は画像1?3の一部分に存在するに留まり(第4 3)、そのような画像のみから甲5-1において電子顕微鏡撮影された対象が(ア)「コラーゲン線維で構成され」たものであると直ちに認めることはできないし、かつ、甲5-1にはサンプルの架橋処理についてはなんら記載がないから、甲5-1は、他の証拠と組合せても、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが、本件特許発明の発明特定事項(ア)及び(イ)を満たすコラーゲン線維架橋多孔体であることを立証するものではない。

(4)甲7-1(訳文は7-2)
甲7-1は、本件特許出願日前に発行された学術論文であるが、甲7-1には、「コラーゲンスポンジ,CS-35; KOKEN」たるマトリックスについて、「ウシのアキレス腱から調製された不溶性コラーゲンからなり凍結乾燥法で製造され、主にインビトロ三次元または高密度細胞培養の目的で使用される。」と記載されるに留まるし、かつ、架橋処理についてはなんら記載がない(第4 5)。そうすると、甲3あるいは甲4の場合と同様に、甲7-1に記載される「コラーゲンスポンジ,CS-35; KOKEN」たるマトリックスについても、(ア)「コラーゲン線維で構成され」たものであるとも、(イ)「架橋処理が施された」ものであるとも認めることもできない。
したがって、甲7-1は、「コラーゲンスポンジ,CS-35; KOKEN」たるマトリックスが、本件特許発明の発明特定事項(ア)及び(イ)を満たすコラーゲン線維架橋多孔体であることを立証するものではない。

(5)甲8及び甲6
甲8は、製品名CS-35 Lot No.732117のコラーゲンスポンジを細胞培養基材として用いた細胞培養実験の結果を示すものであり、異議申立人は、甲6の「製品出荷許可書」により、甲8の実験で用いられた製品名CS-35 Lot No.732117のコラーゲンスポンジが本件特許出願前に製造されたものであることを主張するが、製品名CS-35 Lot No.732117のコラーゲンスポンジが本件特許出願前に製造されたものであると認めることはできないことは、(3)アにて甲5-1の製品名CS-35 Lot No.732117について述べたのと同様である。
また、特許異議申立人は、甲8の結果を甲3や甲4の製品番号CS-35のコラーゲンスポンジに一般化しているが、甲8の実験で用いられた製品名CS-35 Lot No.732117のコラーゲンスポンジと甲3や甲4の製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが同一ものであるか否かが不明であることは(3)イにて甲5-1のCS-35 Lot No.732117について述べたのと同様であるから、甲8の結果を甲3や甲4の製品番号CS-35のコラーゲンスポンジに一般化できることを前提としてなされる甲8の結果に基づく主張は、採用することができない。
加えて、たとえ、甲8の結果を甲3や甲4の製品番号CS-35のコラーゲンスポンジに一般化したとしても、甲8(第4 6)には、製品名CS-35 Lot No.732117のコラーゲンスポンジを構成するコラーゲンについても、その架橋処理についてもなんら記載がないから、甲8の実験で用いられたものが(ア)「コラーゲン線維で構成され」たものであるとも、(イ)「架橋処理が施された」ものであるとも認めることもできない。
一方、特許異議申立人は、「架橋処理を施すとは、コラーゲンの強度を高めるのと同じ意味であると認められる。」(特許異議申立書16頁2?3行)と主張するとともに、製品名CS-35 Lot No.732117のコラーゲンスポンジが本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載のコラーゲン線維架橋多孔体と比較して同等以上の強度を有することを甲8で確認しているから、本件特許発明1と製品名CS-35 Lot No.732117のコラーゲンスポンジの「架橋処理が施されたことを特徴とする」の発明特定事項の有無の相違は実質的な相違でない旨を主張する(特許異議申立書16頁4?9行)。
しかし、コラーゲンの強度を向上させる手段は架橋処理を施すこと以外にも種々に存在するから、架橋処理が施されたものとコラーゲンの強度が向上したものとを同視することはできず、加えて、架橋処理を施したものと、他の手段で強度を高めたものとでは、その組成や形状、構造が同じであるとは認められないから、特許異議申立人の前記の主張は失当である。
以上のことから、甲8は、他の証拠と組合せても、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが、本件特許発明の発明特定事項(ア)及び(イ)を満たすコラーゲン線維架橋多孔体であることを立証するものではない。

(6)小括
以上のとおり、甲3?8のいずれにも、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが、本件特許発明1?5の発明特定事項(ア)「コラーゲン線維で構成され」及び(イ)「架橋処理が施された」を満たすコラーゲン線維架橋多孔体であることは記載されておらず、また、甲5-1、甲8の実験結果をふまえた異議申立人の種々の主張を検討しても、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジが、本件特許発明1?5の発明特定事項(ア)「コラーゲン線維で構成され」及び(イ)「架橋処理が施された」を満たすコラーゲン線維架橋多孔体であると認めることはできない。
したがって、異議申立理由1は理由がない。

6 異議申立理由2(特許法第29条第2項/進歩性)について

異議申立人は、本件特許発明1?5は製品番号CS-35のコラーゲンスポンジと出願当時の技術常識又は甲第2号証に記載の発明と出願当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、本件特許発明1?5の発明特定事項のうち(ア)「コラーゲン線維で構成され」に関して、すべての証拠を検討しても、当業者が製品番号CS-35のコラーゲンスポンジにおける不溶性コラーゲンに代えてそれとは異なるコラーゲン線維を採用する動機は見当たらず、当該技術分野における技術常識を考慮しても、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジの不溶性コラーゲンに代えてそれとは異なるコラーゲン線維を採用することが当業者にとって容易であるとはいえない。
また、本件特許発明1?5の発明特定事項のうち(イ)「架橋処理が施された」に関して、すべての証拠を検討しても、当業者が製品番号CS-35のコラーゲンスポンジに架橋処理を施す動機は見当たらず、また、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジは、甲7-1に記載されているように、細胞培養基材としてすでに使用されているものであるから、その強度をさらに向上させる動機も見当たらないため、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジに架橋処理を施すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

よって、本件特許発明1?5は、製品番号CS-35のコラーゲンスポンジと出願当時の技術常識又は甲第2号証に記載の発明と出願当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものものではない。
また、本件特許発明2?5は本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する引用するから、本件特許発明2?5は本件特許発明1と同様に製品番号CS-35のコラーゲンスポンジと出願当時の技術常識又は甲第2号証に記載の発明と出願当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものものではない。
したがって、異議申立理由2は理由がない。


第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1?8係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-03 
出願番号 特願2014-99087(P2014-99087)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61L)
P 1 651・ 112- Y (A61L)
P 1 651・ 55- Y (A61L)
P 1 651・ 537- Y (A61L)
P 1 651・ 536- Y (A61L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 参鍋 祐子幸田 俊希  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 澤田 浩平
天野 貴子
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6429490号(P6429490)
権利者 多木化学株式会社
発明の名称 コラーゲン線維架橋多孔体  
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