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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03H
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03H
管理番号 1355203
審判番号 不服2018-5282  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-17 
確定日 2019-09-11 
事件の表示 特願2015-519036「加飾エレメント及び加飾エレメントを備えるセキュリティドキュメント」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 3日国際公開,WO2014/001283,平成28年 2月18日国内公表,特表2016-505161〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,2013年(平成25年)6月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年6月26日,ドイツ)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成27年2月6日に国際出願日における明細書,請求の範囲及び図面の中の説明文の翻訳文(特許法184条の6第2項の規定により,明細書及び請求の範囲の翻訳文が,それぞれ,願書に添付して提出した明細書及び特許請求の範囲と,国際出願日における図面(図面の中の説明文を除く。)及び図面の中の説明文の翻訳文が願書に添付して提出した図面とみなされる。),並びに特許協力条約34条(2)(b)の規定に基づき提出された補正書の翻訳文(特許法184条の8第2項の規定により,当該翻訳文により特許請求の範囲について同法17条の2第1項の規定による補正がされたものとみなされる)が提出され,平成28年6月22日に手続補正書が提出され,平成29年3月30日付けで拒絶理由が通知され,同年7月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年12月8日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。
本件査定不服審判事件は,これを不服として,平成30年4月17日に請求されたものであって,本件の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。なお,同年8月27日に請求人より上申書が提出されている。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成30年4月17日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 平成30年4月17日提出の手続補正書による手続補正の内容
(1)補正前後の請求項1の記載
平成30年4月17日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成29年7月3日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ,本件補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
ア 本件補正前の請求項1
「加飾エレメント(2)であって,前記加飾エレメント(2)は,入射光及び/または透過光で光学効果を生じるマイクロ構造(4)を有し,前記マイクロ構造(4)は,第一のエリア(31,32)において,一つのベース表面(40)と,それぞれが前記ベース表面(40)に対して隆起または沈降するエレメント表面(411)及び前記エレメント表面(411)と前記ベース表面(40)との間に配置される傾斜面(410)を有する複数のベースエレメント(41)とを有し,前記マイクロ構造の前記ベース表面(40)が,座標軸x及びyにより広がるベース平面を規定し,前記ベースエレメント(41)の前記エレメント表面(411)が,それぞれ前記ベース平面に平行であり,前記第一のエリア(31,32)の少なくとも一つ以上の第一のゾーン(333,351)において,前記ベースエレメント(41)の前記エレメント表面(411)と前記ベース表面(40)とが,座標軸zの方向における前記ベース平面に垂直な方向において,第一の距離(61)で離間し,前記第一の距離が,前記ベース平面と前記エレメント表面とで反射される入射光の光の干渉によって,及び/または,前記エレメント表面及び前記ベース平面を透過する透過光の光の干渉によって,一つ以上の前記第一のゾーン(333,351)において,第一のカラーを生じるように選択され,前記傾斜面(410)の表面比率は50%より小さい,加飾エレメント(2)。」

イ 本件補正後の請求項1
「加飾エレメント(2)であって,前記加飾エレメント(2)は,入射光及び/または透過光で光学効果を生じるマイクロ構造(4)を有し,前記マイクロ構造(4)は,第一のエリア(31,32)において,一つのベース表面(40)と,それぞれが前記ベース表面(40)に対して隆起または沈降するエレメント表面(411)及び前記エレメント表面(411)と前記ベース表面(40)との間に配置される傾斜面(410)を有する複数のベースエレメント(41)とを有し,前記マイクロ構造の前記ベース表面(40)が,座標軸x及びyにより広がるベース平面を規定し,前記ベースエレメント(41)の前記エレメント表面(411)が,それぞれ前記ベース平面に平行であり,前記第一のエリア(31,32)の少なくとも一つ以上の第一のゾーン(333,351)において,前記ベースエレメント(41)の前記エレメント表面(411)と前記ベース表面(40)とが,座標軸zの方向における前記ベース平面に垂直な方向において,第一の距離(61)で離間し,前記第一の距離が,前記ベース平面と前記エレメント表面とで反射される入射光の光の干渉によって,及び/または,前記エレメント表面及び前記ベース平面を透過する透過光の光の干渉によって,一つ以上の前記第一のゾーン(333,351)において,第一のカラーを生じるように選択され,前記傾斜面(410)の表面比率は50%より小さく,前記ベースエレメントの前記傾斜面の傾斜角は,70度より大きい,加飾エレメント(2)。」

(2)本件補正の内容
本件補正のうち請求項1に係る補正は,本件補正前の請求項1に「50%より小さい」と記載されているのを,「50%より小さく,前記ベースエレメントの前記傾斜面の傾斜角は,70度より大きい」に補正するものである。

2 補正の目的について
本件補正のうち請求項1に係る補正は,請求項1に係る発明の発明特定事項である「傾斜面(410)」について,本件補正前には,その傾斜角が任意であったものを,「70度より大きい」ものに限定する補正である。
また,本件補正の前後で請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められる。
したがって,本件補正のうち請求項1に係る補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
前記2で述べたとおり,本件補正のうち請求項1に係る補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから,本件補正後の請求項1に係る発明が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するのか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否か)について判断する。
(1)本件補正後の請求項1に係る発明
ア 本件補正後の請求項1に係る発明は,前記1(1)イに示した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるもの(以下,「本件補正発明」という。)と認められる。

イ なお,本件補正発明の「傾斜面(410)の表面比率」なる発明特定事項については,本件出願の明細書の「【0137】・・・(中略)・・・各傾斜面410に隣接するエレメント表面411と,該傾斜面に隣接するベース表面40とは,ベース平面に対して垂直な方向において,互いにステップ高hで離間している。マイクロ構造4の傾斜面410は,その高さが,隣接するベース表面40よりも,ステップ高hの少なくとも10%高く,隣接するエレメント表面411よりも,ステップ高hの少なくとも10%低い,表面として,規定されることが好ましい。
【0138】
周期がpであり,ベース平面上に突出する傾斜面410の表面積がΔfの,二次元構造の場合,ベース平面上に突出する傾斜面の表面比率Δfは,

である。」との記載,及び図1dにおいて「△f」が指し示す大きさを参酌すると,「マイクロ構造4の断面でみて,ベース表面40からの高さがエレメント表面411の高さhの1/10及び9/10となる傾斜面410上の2点を,それぞれベース表面40上に投影してなる2点を結ぶ線分の長さを「△f」としたときに,エレメント表面411の両端にそれぞれ接続される各傾斜面410の「△f」の合計値が,ベースエレメント41の1周期pの長さ中に占める割合を,百分率で表した値」を指していると解するのが相当である。

(2)引用例
ア 特開2012-78447号公報の記載
原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用された特開2012-78447号公報(以下,原査定と同様に「引用文献1」という。)は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偽造防止効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,商品券及び小切手などの有価証券類,クレジットカード,キャッシュカード及びIDカードなどのカード類,並びにパスポート及び免許証などの証明書類には,それらの偽造を防止するために,通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。・・・(中略)・・・
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては,複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には,例えば,観察条件に応じて変化する像を表示させることや,立体像を表示させることができる。また,回折格子が表現する虹色に輝く分光色は,通常の印刷技術では表現することができない。そのため,回折格子を含んだ表示体は,偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
・・・(中略)・・・
【0005】
回折格子を利用した表示体では,複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。・・・(中略)・・・
【0011】
しかしながら,偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果,この技術が広く認知され,これに伴い,偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため,回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は,特徴的な視覚効果を示す表示体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1側面は,複数の第1レリーフ構造を備え,前記複数の第1レリーフ構造の各々は,平滑な第1反射面と,複数の凸部又は複数の凹部とを含み,前記複数の第1レリーフ構造の各々において,前記複数の凸部の上面又は前記複数の凹部の底面の各々は前記第1反射面に対して平行であり且つ平滑な第2反射面であり,それら第2反射面は,前記第1反射面に垂直な方向から見たときに一方向に延びた形状を有し,等しい長さ方向を有するように幅方向に配列し,前記第1反射面を基準とした高さ又は深さが互いに等しく,幅及び中心間距離の少なくとも一方が不規則であり,前記複数の第1レリーフ構造の各々は,特定の方向から前記レリーフ構造を白色光で照明したときに,前記第1反射面による第1反射光と前記第2反射面による第2反射光との弱め合う干渉に起因して着色した散乱光を反射光として射出するように構成され,前記複数の第1レリーフ構造の1つと他の1つとは前記第2反射面の長さ方向が異なっている表示体である。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0020】
本発明によると,特徴的な視覚効果を示す表示体が提供される。
【0021】
本発明の第1側面に係る表示体を,特定の方向から白色光で照明した場合,この第1レリーフ構造に対応した領域は,上記の弱め合う干渉に起因して着色して見える。この領域が表示する色は,先の長さ方向に対して垂直な面内で照明方向又は観察方向を変化させることにより僅かに変化する可能性がある。但し,この場合,回折格子ほど,照明方向又は観察方向の角度が表示色に影響を及ぼすことはない。
【0022】
また,極軸が第1反射面に垂直であり,原線が先の長さ方向に平行な極座標を考えた場合,観察方向の方位角を90°から0°へと変化させると,第1及び第2反射光は殆ど干渉しなくなる。それ故,第1レリーフ構造に対応した領域は,無彩色,例えば銀白色に見える。
【0023】
即ち,本発明の第1側面に係る表示体の各第1レリーフ構造は,凸部又は凹部の長さ方向に平行な軸の周りで揺動させながら,この軸に対して垂直な方向から観察した場合には,一般的な回折格子ほど表示色が大きく変化することはない。そして,第1レリーフ構造は,第1反射面の法線の周りで回転させながら,斜め方向から観察した場合には,表示色が,有彩色と無彩色,例えば銀白色との間で変化する。
【0024】
しかも,本発明の第1側面に係る表示体では,第1レリーフ構造の1つと他の1つとは,上記の長さ方向が異なっている。それ故,特定の観察条件のもとでは,或る第1レリーフ構造に対応した領域は有彩色を表示し,他のレリーフ構造に対応した領域は無彩色を表示する。
このように,本発明の第1側面に係る表示体は,特徴的な視覚効果を示す。」

(イ) 「【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体のII-II線に沿った断面図。
・・・(中略)・・・
【図5】図1に示す表示体に採用可能な第1レリーフ構造の一例を概略的に示す平面図。
【図6】図5に示す構造のVI-VI線に沿った断面図。
・・・(中略)・・・
【図9】第1レリーフ構造が散乱光を射出する様子を概略的に示す図。」

(ウ) 「【発明を実施するための形態】
【0031】・・・(中略)・・・
【0032】
図1は,本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は,図1に示す表示体のII-II線に沿った断面図である。なお,図1及び図2において,X方向及びY方向は表示面に対して平行であり且つ互いに対して垂直な方向である。また,Z方向は,X方向及びY方向に対して垂直な方向である。
【0033】
この表示体1は,図2に示すように,光透過層11と光反射層12との積層体を含んでいる。この例では,光透過層11側を前面側(観察者側)とし,光反射層12側を背面側としている。
【0034】
光透過層11は,基材111とレリーフ構造形成層112とを含んでいる。
基材111は,光透過性を有している。基材111は,典型的には透明,特には無色透明である。基材111の材料としては,例えば,PET及びポリカーボネート(PC)のように比較的高い耐熱性を有している樹脂を用いることができる。
【0035】
基材111は,それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートである。基材111は,レリーフ構造形成層112の下地としての役割を果たすとともに,レリーフ構造形成層112を損傷から保護する役割を果たす。基材111は,省略することができる。
【0036】
レリーフ構造形成層112は,基材111上に形成された層である。レリーフ構造形成層112は,光透過性を有している。レリーフ構造形成層112は,典型的には透明,特には無色透明である。
【0037】
レリーフ構造形成層112の表面のうち,図1に示す領域13及び領域17内に位置した部分には,それぞれ,後で詳述する第1レリーフ構造RS1及び第2レリーフ構造RS2が設けられている。そして,レリーフ構造形成層112の表面のうち,領域18内に位置した部分は平坦である。
【0038】
レリーフ構造形成層112の材料としては,例えば,熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用することができる。レリーフ構造形成層112は,例えば,基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し,この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られる。
【0039】
光反射層12は,レリーフ構造形成層112のレリーフ構造RS1及びRS2が設けられた面を被覆している。光反射層12としては,例えば,アルミニウム,銀,金,及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。・・・(中略)・・・光反射層12は,例えば,真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
・・・(中略)・・・
【0044】
次に,レリーフ構造RS1及びRS2について説明する。
図1及び図2に示す表示体1では,レリーフ構造形成層112の表面に,レリーフ構造RS1及びRS2が設けられている。
【0045】
レリーフ構造RS1は,レリーフ構造形成層112の表面であって,図1に示す領域13に対応した位置に設けられている。ここでは,レリーフ構造形成層112の表面には3つのレリーフ構造RS1が設けられており,これらレリーフ構造RS1は,図1に示す文字「T」,「O」及び「P」をそれぞれ表示する。
【0046】
レリーフ構造RS2は,レリーフ構造形成層112の表面であって,図1に示す領域17に対応した位置に設けられている。これらレリーフ構造RS2は,レリーフ構造RS1が表示する文字「T」,「O」及び「P」の影をそれぞれ表示する。
【0047】
レリーフ構造RS1及びRS2は,以下に説明するように構造が異なっている。
【0048】
(第1レリーフ構造)
・・・(中略)・・・
【0060】
次に,レリーフ構造RS1の構造と光学的性質とについて説明する。
【0061】
図5は,図1に示す表示体に採用可能な第1レリーフ構造の一例を概略的に示す平面図である。図6は,図5に示す構造のVI-VI線に沿った断面図である。
【0062】
レリーフ構造RS1は,平滑な第1反射面21と,上面及び側面を各々が有している複数の凸部又は底面及び側壁を各々が有している複数の凹部とを含んでいる。凸部の上面又は凹部の底面は,反射面21に対して平行であり且つ平滑な第2反射面22である。なお,ここでは,一例として,第2反射面22は,基材111側から見たときに凸部の上面を構成していることとする。
【0063】
凸部又は凹部は,反射面21に垂直な方向から見たときに一方向に延びた形状を有し且つ長さ方向が揃っている。即ち,反射面22は,反射面21に垂直な方向から見たときに一方向に延びた形状を有し且つ長さ方向が揃っている。ここでは,反射面22は,X方向に延びた形状を有している。
【0064】
反射面22の平均幅は,例えば0.5μm乃至5μmの範囲内にあり,典型的には1μm乃至2μmの範囲内にある。平均幅を過剰に大きく又は小さくすると,レリーフ構造RS1の表示色が薄くなる。
【0065】
反射面22の幅方向における平均寸法に対する長さ方向における平均寸法の比,即ち,反射面22の平均幅に対する平均長さの比は,例えば2以上であり,典型的には10以上である。この比を小さくすると,後述する光学的異方性を観察者に知覚させることが難しくなる。
【0066】
3つのレリーフ構造RS1の1つは,他の2つとは,反射面22の長さ方向が異なっている。ここでは,一例として,図1の文字「T」及び「P」をそれぞれ表示する2つのレリーフ構造RS1は反射面22の長さ方向がX方向に平行であり,文字「O」を表示する1つのレリーフ構造RS1は反射面22の長さ方向がY方向に平行であるとする。
【0067】
凸部又は凹部の配列は,肉眼で知覚可能な回折光を射出する回折格子又はホログラムを構成しないように定められている。ここでは,幅方向に隣り合った反射面22の中心線間距離は不規則であり,反射面22の幅も不規則である。幅方向に隣り合った反射面22の中心線間距離は一定であってもよい。或いは,反射面22の幅は等しくてもよい。
【0068】
幅方向に隣り合った反射面22の中心線間距離の平均は,例えば0.5μm乃至5μmの範囲内にあり,典型的には2μm乃至4μmの範囲内にある。平均中心線間距離を大きくすると,レリーフ構造RS1の表示色が薄くなる。平均中心線間距離を小さくすると,光を吸収することによる反射防止効果が起きやすくなり,表示色の彩度が低下する。
【0069】
反射面22は,様々な長さを有している。また,反射面22の長さ方向に関するそれら位置は不規則である。反射面22は,等しい長さを有していてもよく,長さ方向に関して規則的に配置されていてもよい。
【0070】
各レリーフ構造RS1では,それが含んでいる全ての反射面22について,反射面21を基準とした反射面22の高さは一定である。そして,この高さは,レリーフ構造RS1を特定の方向から白色光で照明したときに,可視域内の波長を有し,反射面21によって反射される第1反射光と,この波長を有し,反射面22によって反射される第2反射光とが,強め合う干渉又は弱め合う干渉を生じることにより,反射光として着色光を射出するように定められている。この高さは,例えば,0.1μm乃至0.5μmの範囲内にあり,典型的には0.15μm乃至0.4μmの範囲内にある。
【0071】
この高さを小さくすると,レリーフ構造RS1が射出する着色光の色が薄くなる。また,この高さを小さくすると,製造時の外的要因,例えば,製造装置の状態及び環境の変動並びに材料組成の僅かな変化が,レリーフ構造RS1の光学的性質に及ぼす影響が大きくなる。他方,この高さが大きい場合,レリーフ構造RS1を高い形状精度及び寸法精度で形成することが難しい。
【0072】
反射面21の端から反射面22への端へと延びた凸部の側面(凹部の場合は側壁)は,例えば,反射面21に対してほぼ垂直である。この側壁(又は側面)は,反射面21に対して傾いていてもよい。
【0073】
反射面21に平行な平面へのレリーフ構造RS1の正射影の面積をSとした場合,面積Sに対する反射面21の面積S1の比S1/Sは,例えば20%乃至80%の範囲内にあり,典型的には40%乃至60%の範囲内にある。また,面積Sに対する反射面22の面積S2の比S2/Sは,例えば80%乃至20%の範囲内にあり,典型的には60%乃至40%の範囲内にある。そして,面積S1と面積S2との和S1+S2の面積Sに対する比(S1+S2)/Sは,例えば10%乃至100%であり,典型的には50%乃至100%である。比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に,最も明るい表示が可能である。一例によると,比S1/S及びS2/Sの一方が20%であり,他方が80%である場合に達成可能な明るさは,比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に達成可能な明るさの約3割である。
・・・(中略)・・・
【0080】
図9に示すレリーフ構造RS1では,反射面22は,長さ方向がX方向に平行であり,不規則に配置されている。このようなレリーフ構造RS1は,Y方向に沿って格子定数が変化した回折格子と見なすことができる。そして,式(1)から明らかなように,波長λの光の射出角βは格子定数dに応じて変化する。従って,X方向に対して垂直な方向からレリーフ構造RS1に照明光ILが入射すると,レリーフ構造RS1はX方向に対して垂直な方向に散乱光を射出する。
【0081】
それ故,レリーフ構造RS1をX方向に対して垂直な方向から白色光で照明した場合,レリーフ構造RS1は,散乱光として白色光を射出する筈である。しかしながら,この場合,レリーフ構造RS1は着色光を射出する。この理由を以下に説明する。
【0082】
回折格子では,溝の幅L及び格子定数dは一定である。それ故,式(2)から明らかなように,回折格子の回折効率ηは,溝の深さr(又は凸部の高さ)と照明光の波長λとの関数であると言える。これを踏まえて,回折格子を白色光で照明しながら観察することを考えると,或る波長域の回折効率が他の波長域の回折効率と比較して低くなること,及び,これら波長域は溝の深さrに依存することを理解できる。このように,回折格子を白色光で照明した場合に観察者が知覚する色には,照明光の入射角θ及び格子定数d並びに観察方向だけでなく,溝の深さrも影響を及ぼす。
【0083】
レリーフ構造RS1は,回折格子とは異なり,一定の格子定数dを有しておらず,散乱光を射出する。それ故,レリーフ構造RS1を白色光で照明した場合に観察者が知覚する色には,観察方向並びに反射面22幅及びの中心線間距離は大きな影響を及ぼさない。
【0084】
また,表示に反射光を利用する表示体を観察する場合,通常,この表示体に対する照明光の入射角は特定の範囲内にある。そして,多くの場合,照明光は拡散光である。それ故,レリーフ構造RS1を白色光で照明した場合,観察者が知覚する色に照明条件が及ぼす影響は小さい。
【0085】
従って,レリーフ構造RS1が表示する色は,主として,反射面21を基準とした反射面22の高さに依存し,照明条件,観察条件,並びに反射面22幅及びの中心線間距離がこれに及ぼす影響は小さい。従って,レリーフ構造RS1を白色光で照明した場合,観察者に届く光は,白色照明光と比較して特定の波長域の強度が低いスペクトルを有することとなる。そして,このスペクトルは,照明方向又は観察方向を多少変化させたとしても,大きく変化することはない。
・・・(中略)・・・
【0089】
このように,レリーフ構造RS1を反射面21の法線の周りで回転させながら斜め方向から観察した場合,表示色は,有彩色と無彩色,例えば銀白色との間で変化する。そして,レリーフ構造RS1を反射面22の長さ方向に平行な軸の周りで揺動させながら,この軸に対して垂直な方向から観察した場合には,一般的な回折格子ほど表示色が大きく変化することはない。
【0090】
このような視覚効果は,一般的な印刷物によって達成できないのは勿論,回折格子及びホログラムで達成することもできず,また,光散乱構造と着色層との組み合わせによって達成することもできない。即ち,レリーフ構造RS1は,極めて特殊な視覚効果を提供する。
・・・(中略)・・・
【0116】
或るレリーフ構造RS1と他のレリーフ構造RS1とで,反射面21を基準とした反射面22の高さを異ならしめてもよい。こうすると,それらレリーフ構造RS1に,上記の混色として,異なる有彩色を表示させることができる。特に,或るレリーフ構造RS1と他のレリーフ構造RS1とで,反射面21を基準とした反射面22の高さを0.02μm以上異ならしめると,それらレリーフ構造RS1が表示する混色の相違を,肉眼で容易に判別することができる。
【0117】
(第2レリーフ構造)
図2に示すように,第2レリーフ構造RS2は,レリーフ構造形成層112の表面に設けられている。第2レリーフ構造RS2は,構造色を表示する。第2レリーフ構造RS2は,第1レリーフ構造RS1とは異なる光学効果を示す。なお,第2レリーフ構造RS2は省略することができる。
【0118】
第2レリーフ構造RS2は,例えば,回折格子又はホログラムである。或いは,第2レリーフ構造RS2は,観察方向に拘らず無彩色を表示する光散乱構造である。或いは,第2レリーフ構造RS2は,光吸収構造である。光散乱構造及び光吸収構造については,後で図面を参照しながら説明する。
【0119】
上記の通り,第2レリーフ構造RS2は,第1レリーフ構造RS1とは異なる光学効果を示す。それ故,第2レリーフ構造RS2を設けた場合,第2レリーフ構造RS2を省略した場合と比較して,第1レリーフ構造RS1が示す特徴的な光学効果が際立つ。また,第2レリーフ構造RS2を設けると,より複雑な視覚効果を達成でき,表示体1の偽造もより困難になる。」

(エ) 「【図1】

【図2】

・・・(中略)・・・
【図5】

【図6】

・・・(中略)・・・
【図9】



イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した記載から,【0032】に記載された「一態様に係る表示体」のうち,レリーフ構造RS1が第1反射面21と複数の凸部とを有する態様についての発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。(なお,引用文献1の図1では,「13」という符号が文字「T」,「O」及び「P」にそれぞれ付され,「17」という符号が文字「T」,「O」及び「P」の影にそれぞれ付されており,また,【0045】及び【0046】に「レリーフ構造RS1は,・・・(中略)・・・図1に示す領域13に対応した位置に設けられている。ここでは,レリーフ構造形成層112の表面には3つのレリーフ構造RS1が設けられており,これらレリーフ構造RS1は,図1に示す文字「T」,「O」及び「P」をそれぞれ表示する。・・・(中略)・・・レリーフ構造RS2は,・・・(中略)・・・図1に示す領域17に対応した位置に設けられている。これらレリーフ構造RS2は,レリーフ構造RS1が表示する文字「T」,「O」及び「P」の影をそれぞれ表示する。」(前記ア(ウ))と記載されていることからみて,引用文献1においては,各文字を表す3つの領域及び各文字の影を表す3つの領域のそれぞれを1つの「領域13」及び1つの「領域17」と呼称しており,また,各「領域13」及び各「領域17」に形成されたレリーフ構造RS1及びレリーフ構造RS2については,領域ごとにそれぞれ1つの「レリーフ構造RS1」及び1つの「レリーフ構造RS2」と呼称しているものと解される。以下で認定する発明の構成においては,「領域13」,「領域17」,「第1レリーフ構造RS1」及び「第2レリーフ構造RS2」という文言を同様の意味で用いた。)

「光透過層11と光反射層12との積層体を含む表示体1であって,
前記光透過層11は,光透過性を有し,それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートである基材111と,光透過性を有し,前記基材111上に形成された層であるレリーフ構造形成層112とを含み,
前記レリーフ構造形成層112は,前記基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し,この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られたものであって,その表面は,それぞれに第1レリーフ構造RS1が設けられている3つの領域13と,それぞれに第2レリーフ構造RS2が設けられている3つの領域17と,平坦な領域18とにより構成され,
前記光反射層12は,前記レリーフ構造形成層112の前記第1レリーフ構造RS1及び前記第2レリーフ構造RS2が設けられた面を被覆しており,
前記第1レリーフ構造RS1は,平滑な第1反射面21と,上面及び側面を各々が有する複数の凸部とを含み,前記凸部は,前記第1反射面21に垂直な方向から見たときに一方向に延びた形状を有し且つ長さ方向が揃っており,
前記凸部の上面は,前記第1反射面21に対して平行であり且つ平滑な第2反射面22であり,
前記第2反射面22は,様々な長さを有し,その長さ方向に関する位置が不規則であり,その幅が不規則であって,平均幅が1μm乃至2μmの範囲内にあり,前記平均幅に対する平均長さの比が10以上であり,幅方向に隣り合った前記第2反射面22の中心線間距離が不規則であって,中心線間距離の平均が2μm乃至4μmの範囲内にあり,
前記3つの領域13に設けられた各第1レリーフ構造RS1は,それぞれ,それが含んでいる全ての前記第2反射面22について,前記第1反射面21を基準とした高さが一定であり,この高さは,反射光として着色光を射出するように定められたものであって,0.15μm乃至0.4μmの範囲内にあり,
前記第1レリーフ構造RS1の1つは,第2反射面22の長さ方向が他の2つとは異なっており,
前記第1反射面21の端から前記第2反射面22への端へと延びた前記凸部の側面は,前記第1反射面21に対してほぼ垂直であり,
前記第2レリーフ構造RS2は,回折格子,ホログラム,観察方向に拘らず無彩色を表示する光散乱構造,又は,光吸収構造であり,
前記第1反射面21の法線の周りで回転させながら斜め方向から観察した場合,観察者が知覚する前記第1レリーフ構造RS1の表示色は,有彩色と無彩色との間で変化し,前記第2反射面22の長さ方向に平行な軸の周りで揺動させながら,この軸に対して垂直な方向から観察した場合には,観察者が知覚する前記第1レリーフ構造RS1の表示色は,一般的な回折格子ほど大きく変化することがない,表示体1。」(以下,「引用発明」という。)

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「表示体1」,「第1レリーフ構造RS1」,「3つの領域13」,「各『領域13』」,「第1反射面21」,「『凸部の上面』,『第2反射面22』」,「凸部の側面」及び「凸部」は,技術的にみて,本件補正発明の「加飾エレメント(2)」,「マイクロ構造(4)」,「第一のエリア(31,32)」,「第一のゾーン(333,351)」,「ベース表面(40)」,「エレメント表面(411)」,「傾斜面(410)」及び「ベースエレメント(41)」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明は,「表示体1」(本件補正発明の「加飾エレメント(2)」に対応する。以下,「(3)対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付された()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件補正発明の発明特定事項を表す。)であって,当該「表示体1」が有する「第1レリーフ構造RS1」(マイクロ構造(4))は,「第1反射面21の法線の周りで回転させながら斜め方向から観察した場合,観察者が知覚する第1レリーフ構造RS1の表示色は,有彩色と無彩色との間で変化し,第2反射面22の長さ方向に平行な軸の周りで揺動させながら,この軸に対して垂直な方向から観察した場合には,観察者が知覚する第1レリーフ構造RS1の表示色は,一般的な回折格子ほど大きく変化することがない」という「光学効果」を生じさせるものである。
そして,当該「光学効果」が得られる作用機序が,第1反射面21を基準とした「第2反射面22の高さ」が,反射光として着色光を射出するように,0.15μm乃至0.4μmの範囲内の一定の値に定められているという引用発明の構成によって,「第1レリーフ構造RS1」に入射した照明光(すなわち,入射光)が第1反射面21及び第2反射面で反射し,観察者に届いたときの光のスペクトルに,干渉によって強度が低い波長域が生じるというものであることは,技術常識に照らし自明である。このことは,引用文献1の【0085】の「レリーフ構造RS1を白色光で照明した場合,観察者に届く光は,白色照明光と比較して特定の波長域の強度が低いスペクトルを有することとなる」という記載から確認できることでもある。
したがって,引用発明の「第1レリーフ構造RS1」を,「入射光」で「光学効果」を生じる「第1レリーフ構造RS1」(マイクロ構造(4))ということができる。
したがって,引用発明は,本件補正発明の「加飾エレメント(2)であって,前記加飾エレメント(2)は,入射光及び/または透過光で光学効果を生じるマイクロ構造(4)を有」するという発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明の「第1レリーフ構造RS1」(マイクロ構造(4))は,レリーフ構造形成層112の表面の「3つの領域13」(第一のエリア(31,32))にそれぞれ設けられており,それぞれが,平滑な「第1反射面21」(ベース表面(40))と,「上面」(エレメント表面(411))及び「側面」(傾斜面(410))を各々が有する複数の「凸部」(ベースエレメント(41))とを含んでいる。
したがって,引用発明は,本件補正発明の「マイクロ構造(4)は,第一のエリア(31,32)において,一つのベース表面(40)と,それぞれが前記ベース表面(40)に対して隆起または沈降するエレメント表面(411)及び前記エレメント表面(411)と前記ベース表面(40)との間に配置される傾斜面(410)を有する複数のベースエレメント(41)とを有」するという発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 引用発明の「第1反射面21」(ベース表面(40))により規定される平面を,「座標軸x及びyにより広がるベース平面」ということができる。
また,引用発明の「凸部」(ベースエレメント(41))の「上面」(エレメント表面(411))は,「第1反射面21」(ベース表面(40))に対して平行であるから,「第1反射面21」により規定される前記「座標軸x及びyにより広がるベース平面」に対しても平行である。
したがって,引用発明は,本件補正発明の「前記マイクロ構造の前記ベース表面(40)が,座標軸x及びyにより広がるベース平面を規定し,前記ベースエレメント(41)の前記エレメント表面(411)が,それぞれ前記ベース平面に平行であ」るという発明特定事項に相当する構成を具備している。

オ 引用発明の「第1レリーフ構造RS1」(マイクロ構造(4))は,レリーフ構造形成層112の表面の「3つの領域13」(第一のエリア(31,32))に設けられており,各第1レリーフ構造RS1は,それが含んでいる全ての「第2反射面22」(エレメント表面(411))について,「第1反射面21」(ベース表面(40))を基準とした高さが一定である。
しかるに,「第1反射面21」(ベース表面(40))を基準とした高さとは,「第1反射面21により規定される平面」(ベース平面)に垂直な方向における距離にほかならないから,引用発明において,「第1レリーフ構造RS1」(マイクロ構造(4))は,「3つの領域13」(第一のエリア(31,32))中の「各領域13」(第一のゾーン(333,351))で,「第1反射面21」(ベース表面(40))と「第2反射面22」(エレメント表面(411))とが,「第1反射面21により規定される平面」(ベース平面)に垂直な方向において,同じ距離で離間しているといえる。
したがって,引用発明は,本件補正発明の「前記第一のエリア(31,32)の少なくとも一つ以上の第一のゾーン(333,351)において,前記ベースエレメント(41)の前記エレメント表面(411)と前記ベース表面(40)とが,座標軸zの方向における前記ベース平面に垂直な方向において,第一の距離(61)で離間し」ているという発明特定事項に相当する構成を具備している。

カ 引用発明において,「第1反射面21」(ベース表面(40))を基準とした「第2反射面22」(エレメント表面(411))の高さは,反射光として着色光を射出するように定められたものである。
しかるに,引用発明の「各領域13」(第一のゾーン(333,351))の各「第1レリーフ構造RS1」の反射光がそれぞれ着色光となる現象が,「第1反射面21」(ベース表面(40))で反射した光と,「第2反射面22」(エレメント表面(411))で反射した光の干渉によって生じることは,引用文献1の【0080】の「レリーフ構造RS1は,Y方向に沿って格子定数が変化した回折格子と見なすことができる。」という記載や技術常識等から,明らかである。
したがって,引用発明は,本件補正発明の「前記第一の距離が,前記ベース平面と前記エレメント表面とで反射される入射光の光の干渉によって,及び/または,前記エレメント表面及び前記ベース平面を透過する透過光の光の干渉によって,一つ以上の前記第一のゾーン(333,351)において,第一のカラーを生じるように選択され」ているという発明特定事項に相当する構成を具備している。

キ 前記アないしカによれば,本件補正発明と引用発明とは,
「加飾エレメント(2)であって,前記加飾エレメント(2)は,入射光及び/または透過光で光学効果を生じるマイクロ構造(4)を有し,前記マイクロ構造(4)は,第一のエリア(31,32)において,一つのベース表面(40)と,それぞれが前記ベース表面(40)に対して隆起または沈降するエレメント表面(411)及び前記エレメント表面(411)と前記ベース表面(40)との間に配置される傾斜面(410)を有する複数のベースエレメント(41)とを有し,前記マイクロ構造の前記ベース表面(40)が,座標軸x及びyにより広がるベース平面を規定し,前記ベースエレメント(41)の前記エレメント表面(411)が,それぞれ前記ベース平面に平行であり,前記第一のエリア(31,32)の少なくとも一つ以上の第一のゾーン(333,351)において,前記ベースエレメント(41)の前記エレメント表面(411)と前記ベース表面(40)とが,座標軸zの方向における前記ベース平面に垂直な方向において,第一の距離(61)で離間し,前記第一の距離が,前記ベース平面と前記エレメント表面とで反射される入射光の光の干渉によって,及び/または,前記エレメント表面及び前記ベース平面を透過する透過光の光の干渉によって,一つ以上の前記第一のゾーン(333,351)において,第一のカラーを生じるように選択された,加飾エレメント(2)。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点1:
本件補正発明では,「傾斜面(410)」の表面比率が50%より小さく,その傾斜角が70度より大きいのに対して,
引用発明では,「凸部の側面」の表面比率について特定されておらず,その傾斜角が70度より大きいのか否かが定かでない点。

(4)判断
ア 引用発明の「凸部」(ベースエレメント(41))の「側面」(傾斜面(410))は,第1反射面21に対して「ほぼ垂直」である。
しかるに,引用文献1の【0072】の「凸部の側面(凹部の場合は側壁)は,例えば,反射面21に対してほぼ垂直である。この側壁(又は側面)は,反射面21に対して傾いていてもよい。」という記載によれば,第1反射面21に対して「ほぼ垂直」とは,第1反射面21とのなす角度が,「傾いている」とは評価できない程度に90度に近いことを指していると解するのが相当である。
ここで,「70度」という角度が,「傾いている」と評価できる角度であって,「ほぼ垂直」といえないことは,常識的にみて明らかである。
そうすると,引用発明は,本件補正発明の「ベースエレメントの傾斜面の傾斜角は,70度より大きい」という発明特定事項に相当する構成を具備していると認められる。

イ 前記(1)イで認定したように,本件補正発明の「傾斜面(410)の表面比率」とは,「マイクロ構造4の断面でみて,ベース表面40からの高さがエレメント表面411の高さhの1/10及び9/10となる傾斜面410上の2点を,ベース表面40上に投影したときの両位置間の距離を「△f」としたときに,エレメント表面411の両端にそれぞれ接続される各傾斜面410の「△f」の合計値が,ベースエレメント41の1周期p中に占める割合を,百分率で表した値」を指していると解するのが相当である。
ここで,「傾斜面(410)の傾斜角」をαとすると,「tan(α)=(8/10×h)/△f 」が成立するから,「傾斜面(410)の表面比率」の大きさは,「傾斜面(410)」の傾斜角αと「エレメント表面411」の高さhと「ベースエレメント41」の1周期pとを用いて,「{(8/10×h)/tan(α)}/p×100」と表すことができる。
引用発明において,「第2反射面22」の高さは0.15μm乃至0.4μmの範囲内にあり,幅方向に隣り合った第2反射面22の中心線間距離の平均は2μm乃至4μmの範囲内にあるから,「凸部の側面の表面比率」が最も大きくなるのは,「第2反射面22」の高さが0.4μmで,幅方向に隣り合った第2反射面22の中心線間距離の平均が2μmのときであり,その値は「16/tan(α)」(={(8/10×0.4)/tan(α)}/2×100)である。
しかるに,当該「16/tan(α)」の値が「50」を越えるのは,傾斜角αの値が約17.7度より小さいときであるから,「凸部の側面」(傾斜面(410))が第1反射面21に対して「ほぼ垂直」とされている(すなわち,傾斜角αが,「傾いている」とは評価できない程度に90度に近い)引用発明において,「凸部の側面の表面比率」の最大値(=16/tan(α))が「50」を越えることは,数学的にみてあり得ない。
したがって,引用発明は,本件補正発明の「傾斜面(410)の表面比率は50%より小さ」いという発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 前記ア及びイによれば,引用発明は,相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備していると認められ,相違点1は相違点ではない。
したがって,本件補正発明は引用発明と同一である。

エ なお,仮に,引用発明において,「凸部の側面」と「第1反射面21」とがなす「ほぼ垂直」という角度が,70度より大きい角度であるとまでは断言できないとした場合でも,次のとおり,引用発明を,相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
すなわち,引用文献1の【0073】には,第1反射面21に平行な平面への第1レリーフ構造RS1の正射影の面積をSとし,第1反射面21の面積をS1とし,第2反射面22の面積をS2としたときに,比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に,最も明るい表示が可能であることが説明されている。しかるに,比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合とは,第1反射面21に平行な平面への「凸部の側面」の正射影の面積がゼロとなる場合,すなわち,「凸部の側面」が「第1反射面21」に対してなす角度が90度となる場合にほかならない。
一方で,引用発明において,レリーフ構造形成層112は,基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し,この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られたものであって,当該レリーフ構造形成層112の表面に設けられた第1レリーフ構造RS1は,前記スタンパの表面形状が複製されたものである。しかるに,スタンパにより表面に凹凸形状を形成する場合に,当該凹凸形状の側面が第1反射面21に平行な平面に対してなす角度を大きくして,90度に近づけるほど,硬化した塗膜からスタンパを剥離する作業が容易でなくなることは,当業者における技術常識である。
そうすると,引用発明において,「凸部の側面」と「第1反射面21」とがなす角度をいかなる値に設定するのかは,得られる表示の明るさと,レリーフ構造形成層112の形成工程における作業効率等を総合的に勘案して,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項というべきである。
そして,「凸部の側面」と「第1反射面21」とがなす角度を,「70度より大きい」値に設定することで,異質な効果や格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
以上によれば,引用発明において,「凸部の側面」と「第1反射面21」とがなす角度を70度より大きい値に設定することは,単なる数値範囲の最適化であり,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
また,前記イで述べた事項によれば,引用発明において,「凸部の側面」と「第1反射面21」とがなす角度を70度より大きい値に設定すれば,「凸部の側面の表面比率」は約5.82(=16/tan(70度))未満となるのであって,必然的に,「傾斜面(410)の表面比率は50%より小さ」いという本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備することになる。
したがって,本件補正発明は,少なくとも,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)上申書で提示された補正案について
請求人は,平成30年8月27日に提出された上申書において,請求項1に,傾斜面の傾斜角が90度より小さいとの限定を付す補正案を示しているが,前記(4)エで述べた事項に鑑みれば,引用発明を,当該限定に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項というべきである。
したがって,補正案に係る発明は,少なくとも,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本件補正発明は,本件優先日より前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された引用発明と同一であるか,少なくとも,前記引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条1項3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるか,少なくとも,同条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件出願の請求項1に係る発明について
1 請求項1に係る発明
(1) 本件補正は前記第2〔補正却下の決定の結論〕のとおり却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,前記第2〔理由〕1(1)アにおいて本件補正前の請求項1の記載として示した事項により特定されるものと認められる。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略,本件発明は,本件優先日より前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明と同一であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,又は,同引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同条2項の規定により,特許を受けることができない,という理由を含んでいる。

3 引用例
引用文献1の記載,及び当該引用文献1の記載から把握される引用発明については,前記第2〔理由〕3(2)ア及びイにて示したとおりである。

4 対比・判断
本件発明は,前記第2[理由]3で検討した本件補正発明から,「ベースエレメントの傾斜面の傾斜角は,70度より大きい」という限定事項を削除したものである。
そうすると,本件発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2[理由]3(3)ないし(5)に記載したとおり,本件優先日より前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された引用発明と同一であるか,少なくとも,前記引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明も,前記引用発明と同一であるか,少なくとも,前記引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件発明は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,少なくとも,同条2項の規定により,特許を受けることができない。


第4 むすび
前記第3のとおり,本件発明は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,少なくとも,同条2項の規定により,特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-29 
結審通知日 2019-04-09 
審決日 2019-04-22 
出願番号 特願2015-519036(P2015-519036)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03H)
P 1 8・ 575- Z (G03H)
P 1 8・ 113- Z (G03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 英樹後藤 亮治  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
清水 康司
発明の名称 加飾エレメント及び加飾エレメントを備えるセキュリティドキュメント  
代理人 西脇 民雄  

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