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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1355284
審判番号 不服2018-12447  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-18 
確定日 2019-09-12 
事件の表示 特願2014- 54488「アンテナ装置、振動型アンテナ装置および通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 5日出願公開、特開2015-177493〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年3月18日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月15日付け:拒絶理由通知書
平成30年 4月23日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 6月11日付け:拒絶査定
平成30年 9月18日 :拒絶査定不服審判の請求

第2 本願発明
平成30年4月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである(下線は請求人による。)。
「周波数13.56MHzの通信を行う磁気結合型のアンテナ装置であって,
板形状の磁性体と,
前記磁性体に巻回されるコイル状のアンテナと,を備えることを特徴とするアンテナ装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は,次のとおりのものである(請求項7,9に係る発明については省略。)。
請求項1-6,8,10に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献4?6に記載された周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開2012-70164号公報
2.特開2005-224603号公報
3.特開平10-126286号公報
4.特開2012-215953号公報
5.特開2011-22981号公報
6.特開2008-251283号公報

第4 引用文献の記載,引用発明,周知技術,技術常識
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由で引用された特開2012-70164号公報(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに次の記載がある(下線は当審による。以下同様。)。
ア 「【0017】
(第1実施形態)
図1に,本実施形態の低周波用アンテナ1の全体構成を示す。本実施形態の低周波用アンテナ1は,車両に搭載されるスマートエントリーシステムにおいて,車載用送受信機が低周波の電波(リクエスト信号)を送信するための送信用アンテナとして用いられるものである。なお,スマートエントリーシステムは,車両と電子キーとの間の無線通信により,ユーザがキーを手に取ることなくドアのロック/アンロックやエンジンスタート等を可能とするものである。また,低周波の電波とは,電波法で定義される30kHz?300kHzの電波を意味する。
【0018】
低周波用アンテナ1は,2軸方向に磁界を放射する2軸アンテナであり,具体的には,図1に示すように,第1のループコイル10と,第2のループコイル20とを備え,第1のループコイル10のコイル開口面の法線方向(コイルの向き)10aと,第2のループコイル20のコイル開口面の法線方向(コイルの向き)20aとが互いに直交している。これにより,低周波用アンテナ1は,互いに直交した磁界放射成分を持っている。
【0019】
第1のループコイル10と第2のループコイル20とは,同じ磁性体コア30に交差するように銅線等の導線が複数回巻かれたものであり,それぞれが,複数のループを有している。第1のループコイル10は,そのコイル方向10aでの磁性体コア30の中心側に位置し,両端には存在していない。同様に,第2のループコイル20も,そのコイル方向20aでの磁性体コア30の中心側に位置し,両端には存在していない。
【0020】
磁性体コア30としては,例えば,フェライトコアが用いられる。磁性体コア30の体格は,立方体もしくは直方体であり,図1の例では,縦30a×横30b×長さ30cが,例えば,10mm×20mm×70mmの直方体である。なお,この磁性体コア30を省略して,第1,第2のループコイル10,20を空芯コイルとしても良い。」

イ 図1


(2)上記(1)から,引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「磁界を放射する低周波用アンテナであって,
10mm×20mm×70mmの直方体の磁性体コアと,
前記磁性体コアに複数回巻かれた導線であるループコイルと,を備える低周波用アンテナ。」

2 周知技術
(1)原査定の拒絶の理由で引用された特開2012-215953号公報には,次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
情報を記憶し,外部の装置との間で情報の送受信ができる非接触通信媒体は,情報の記憶と送受信を制御する機能を有するICと,電磁波の送受信を行うアンテナとからなり,ICカードやICタグとして広く普及している。このような非接触通信媒体による個体識別技術は,RFID(Radio Frequency IDentification)と呼ばれ,電磁誘導や電波を介して通信が行われる。その通信の無線周波数としては,電磁誘導で通信を行う場合は125kHz帯や13.56MHz帯が使用され,電波で通信を行う場合は800MHz帯から1000MHz帯,2400MHz帯などを使用したものが多い。特に,電磁誘導で13.56MHz帯を使用した非接触通信媒体は,電子マネーや交通乗車券などとして実用化されている。」

(2)原査定の拒絶の理由で引用された特開2011-22981号公報には,次の記載がある。
「【0004】
RFIDタグとも呼ばれるこの電磁誘導方式によるパッシヴ型の無線ICタグは,コイルアンテナに印加する135kHzのLF帯,13.56MHzのHF帯により,アンテナ周囲に発生する磁界を伝送媒体とし,アンテナに誘起される誘導起電力により外部と通信を行うものである。」

(3)原査定の拒絶の理由で引用された特開2008-251283号公報には,次の記載がある。
「【0005】
RFIDにおける通信方式の1つに,電磁誘電方式がある。この電磁誘電方式では,リーダ/ライタ装置及びICタグがアンテナコイルを有し,リーダ/ライタ装置はアンテナコイルに電流を流して磁界を発生させる。この磁界をICタグのアンテナコイルと結合させることにより,ICタグのアンテナコイルに電流を発生させる。ICタグは,この電流を用いて電磁波(例えば周波数135kHz,13.56MHz)を放射し,又はリーダ/ライタ装置から放射された電磁波を受信する。これにより,ICタグとリーダ/ライタ装置とは,データ通信を行う。」

(4)上記(1)の「電磁波の送受信を行うアンテナ」が「電磁誘導で通信を行う」とは,電磁波を受信する場合については,通信相手のアンテナ装置が発生する磁束と磁気的に結合することを意味することが明らかである。また,上記(2)の「アンテナに誘起される誘導起電力により外部と通信を行う」こと,上記(3)の「リーダ/ライタ装置から放射された電磁波を受信する」ことは,それぞれ「通信相手のアンテナ装置が発生する磁束と磁気的に結合することを意味すること」が明らかである。

(5)上記(1)?(4)から,次の事項は周知技術と認められる。
「通信相手のアンテナ装置が発生する磁束と磁気的に結合するアンテナ装置を用いて,周波数13.56MHzの通信を行うこと。」

3 技術常識
(1)特開2007-336416号公報には,次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
従来より,磁界検出型のアンテナ装置としては,バーアンテナと呼称されるアンテナ装置が広く知られている。バーアンテナは,フェライト焼結体等からなる磁性体コアにワイヤを巻回した構成を有しており,磁性体を通過する交播磁束を感磁することによって,コイルの両端に電磁誘導による電圧を発生させる。このような磁界検出型のアンテナ装置は,電界を検出するタイプの線状アンテナとは異なり,その形状が使用周波数帯域の波長に依存しないことから,短波帯以下の周波数帯,特に,中波帯を利用するAMラジオ放送受信用のアンテナ装置として広く用いられてきた。」

(2)国際公開第2012/111430号には,次の記載がある。
「背景技術
[0002] リーダライタとRFIDタグとを非接触方式で通信させ,リーダライタとRFIDタグとの間で情報を伝達するRFID(Radio Frequency Identification)システムや,二つの通信装置が近距離で通信する近距離無線通信(NFC:Near Field Communication)システムが知られている。例えば13.56MHz帯等のHF帯を通信周波数として利用したRFIDシステムや近距離無線通信システムであれば,主に誘導磁界を介して結合するアンテナが用いられている。
[0003] 近年,携帯電話等の通信端末装置にRFIDシステムや近距離無線通信システムが導入され,この通信端末装置がRFIDタグやそのリーダライタとして利用されたり,近距離無線通信の端末として利用されたりすることがある。HF帯の高周波信号の送受信用のアンテナ装置として磁性体アンテナが知られている。この磁性体アンテナは,たとえば特許文献1や特許文献2に記載されているように,磁性体コアの表面にコイル導体を巻回した構造を有している。
[0004] 図1は特許文献2の磁性体アンテナの分解斜視図である。この磁性体アンテナは,電極層2およびスルーホール1によるコイル4が形成された複数の磁性層5,その上下面を挟む絶縁層6,ならびに絶縁層上面に形成された導電層7を備えた積層体である。
[0005] 特許文献1:特開2005-317674号公報
特許文献2:特開2007-019891号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0006] HF帯を通信周波数として利用したシステムにおいて,アンテナ装置間の通信距離は,コイルアンテナを通過する磁束に依存する。」

(3)国際公開第2010/087413号には,次の記載がある。
「背景技術
[0002] 磁性体を使用し電磁波を送受信するアンテナ(以下,「磁性体アンテナ」という)は,コア(磁性体)に導線を巻き線してコイルを作り,外部から飛来する磁界成分を磁性体に貫通させコイルに誘導させて電圧(または電流)に変換するアンテナであり,小型ラジオやTVには広く利用されてきた。また,近年,普及してきたRFタグと呼ばれる非接触型の物体識別装置に利用されている。
[0003] 周波数がより高くなると,RFタグにおいては,磁性体を使用せず識別対象物と平面が平行になるループコイルがアンテナとして使用され,さらに周波数が高くなると(UHF帯やマイクロ波帯),RFタグを含めて磁界成分を検出するよりも,電界成分を検出する電界アンテナ(ダイポールアンテナや誘電体アンテナ)が広く使用されている。」

(4)上記(1)の「フェライト焼結体等からなる磁性体コアにワイヤを巻回した構成」,上記(2)の「磁性体コアの表面にコイル導体を巻回した構造」(段落[0003]),上記(3)の「コア(磁性体)に導線を巻き線してコイルを作り」という構成は,いずれも,磁性体と,磁性体に巻回されるコイルとからなるアンテナ装置であるといえる。
上記(1)の「磁性体を通過する交播磁束を感磁する」,上記(2)の「コイルアンテナを通過する磁束」(段落[0006]),上記(3)の「外部から飛来する磁界成分を磁性体に貫通させコイルに誘導させて電圧(または電流)に変換する」(段落[0002])とは,いずれも,通信相手のアンテナ装置が発生する磁束と磁気的に結合することを意味することが,明らかである。
上記(1),(2)のそれぞれ「短波帯以下の周波数帯」,「HF帯」には,いずれも13.56MHzが含まれることが明らかであり,上記(3)の段落[0002]の「TV」の帯域はVHFであると解されることから,段落[0003]に記載されているよりも周波数が低い帯域に13.56MHzが含まれることが明らかである。

(5)上記(1)?(4)から,以下のア,イの事項はいずれも技術常識である(以下,それぞれ,「技術常識1」,「技術常識2」という。)。
ア 技術常識1
「磁性体と,磁性体に巻回されるコイルとからなるアンテナ装置は,通信相手のアンテナ装置が発生する磁束と磁気的に結合するものであること。」

イ 技術常識2
「磁性体と,磁性体に巻回されるコイルとからなるアンテナ装置は,13.56MHzを含む,比較的低い帯域で使用されること。」

第5 対比・判断
1 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「10mm×20mm×70mmの直方体の磁性体コア」は,板形状であるといえ,本願発明の「板形状の磁性体」に相当する。
引用発明の「導線」が磁性体コアに「複数回巻かれ」ることは,巻回されることである。
引用発明の「ループコイル」は,それ自体アンテナとして機能し得ることが明らかであるから,本願発明の「コイル状のアンテナ」に相当する。
引用発明の「低周波用アンテナ」は,アンテナ装置である。
以上のことから,引用発明は「磁性体と,磁性体に巻回されるコイルとからなるアンテナ装置」であるといえ,ここで,技術常識1(上記第4の3(5)ア)に照らすと,当該アンテナ装置が,通信相手のアンテナ装置が発生する磁束と磁気的に結合するものであることは,自明であって,引用発明の「低周波用アンテナ」が「磁界を放射する」ことは,アンテナの送受信の可逆性から,当該アンテナ装置が発生する磁束を通信相手のアンテナ装置へ放射することであることも自明である。
そして,本願明細書の段落【0003】の記載によれば,「磁気結合型のアンテナ装置」は,通信相手となるアンテナ装置が発生する磁束と磁気的に結合することによって通信を行うアンテナ装置であり,ここで,通信相手となるアンテナ装置が発生する磁束と結合する場合は,「磁気結合型のアンテナ装置」は受信アンテナとして動作していること,「磁気結合型のアンテナ装置」が,発生する磁束を通信相手のアンテナ装置へ放射する場合は,「磁気結合型のアンテナ装置」は送信アンテナとして動作していることが,それぞれ明らかである。
そうすると,引用発明の「低周波用アンテナ」は,本願発明の「磁気結合型のアンテナ装置」に相当する。

(2)したがって,本願発明と引用発明とは,
(一致点)「磁気結合型のアンテナ装置であって,
板形状の磁性体と,
前記磁性体に巻回されるコイル状のアンテナと,を備えるアンテナ装置。」
という点で一致し,また,両者は以下の点で相違する。
(相違点)本願発明では「アンテナ装置」が,周波数13.56MHzの通信を行うものであるのに対し,引用発明では,「低周波用アンテナ」がその周波数の通信を行うものではない点。

2 判断
そこで,相違点について検討する。
上記1(1)のとおり,引用発明は,「磁性体と,磁性体に巻回されるコイルとからなるアンテナ装置」といえるものであって,当該アンテナ装置は,技術常識2(上記第4の3(5)イ)によれば,13.56MHzを含む,比較的低い帯域で使用されるから,引用発明において,周知技術(上記第4の2(5))に従って周波数13.56MHzの通信を行うものとすることは,当業者が適宜なし得ることである。
また,本願発明の作用効果は,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる程度のものである。

3 請求人の主張について
(1)請求人は,審判請求書において,引用文献1の段落[0017]には,「本実施形態の低周波用アンテナ1の全体構成を示す。本実施形態の低周波用アンテナ1は,車両に搭載されるスマートエントリーシステムにおいて,車載用送受信機が低周波の電波(リクエスト信号)を送信するための送信用アンテナとして用いられるものである。」と記載されているように,低周波の電波を送信する送信用アンテナであり,この記載から,磁界型のアンテナではなく,電界型のアンテナであることは明らかである旨,主張する。
しかしながら,「電波を送信する」ことと「電界型のアンテナである」こととが同じ意味であることは,引用文献1に記載も示唆もされておらず,自明であるともいえない。

(2)また,請求人は,引用文献1の段落[0018]の記載は,前述した電波の伝送理論における磁界成分の説明をしているに過ぎず,磁界を用いて通信を行う磁気結合型アンテナを記載しているものではなく,引用文献1の段落[0018]の「磁界を放射」という記載のみで磁気結合型アンテナと断定しているのは誤りである旨,主張する。
しかしながら,上記1(1)のとおり,引用発明の「低周波用アンテナ」が「磁界を放射する」ことが,当該アンテナ装置が発生する磁束を通信相手のアンテナ装置へ放射することであることは,技術常識1から自明であって,引用発明は,磁界を用いて通信を行う磁気結合型アンテナである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-03 
結審通知日 2019-07-09 
審決日 2019-07-26 
出願番号 特願2014-54488(P2014-54488)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮田 繁仁  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 富澤 哲生
衣鳩 文彦
発明の名称 アンテナ装置、振動型アンテナ装置および通信装置  
代理人 舘野 千惠子  

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