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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1355287
審判番号 不服2019-5286  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-22 
確定日 2019-09-12 
事件の表示 特願2018-207342号「三次元座標測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年3月7日出願公開、特開2019-35764号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月30日にされた特許出願(特願2015-16243号)に基づく優先権の主張を伴う、平成28年1月29日にされた特許出願(特願2016-15852号)の一部を、平成30年2月5日に新たな特許出願(特願2018-18410号)とし、その一部を平成30年11月2日に新たな特許出願(特願2018-207342号)としたものであって、平成30年12月13日付けの拒絶理由通知に対し、平成31年1月8日に意見書が提出されたところ、平成31年2月4日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ(送達日:平成31年2月6日)、これに対して、平成31年4月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の概要
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1において、「第1の支柱部材の移動をガイドする側面支持部」に係る事項を補正することを主旨とするものであり、本件補正前と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載はそれぞれ、以下のとおりである(下線部は、補正箇所を示す。)。

(本件補正前:本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲)
「【請求項1】
測定対象物を載置する定盤と、
測定プローブを支持し、前記定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する二つの支柱部材で支持されるYキャリッジと、を備え、
前記二つの支柱部材は、前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構をもつ第1の支柱部材と、前記第1の支柱部材に追従移動する第2の支柱部材とを有し、
前記第1の支柱部材側には、前記定盤の上面に溝が形成され、前記溝を境に前記定盤上に測定領域部と前記Y軸方向に平行なガイド部とが形成され、前記測定領域部の上面と前記ガイド部の上面とは同一平面上にあり、
前記ガイド部の側面側で前記第1の支柱部材の移動をガイドする側面支持部を有する、
三次元座標測定装置。」

(本件補正後:平成31年4月22日付け手続補正)
「【請求項1】
測定対象物を載置する定盤と、
測定プローブを支持し、前記定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する二つの支柱部材で支持されるYキャリッジと、を備え、
前記二つの支柱部材は、前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構をもつ第1の支柱部材と、前記第1の支柱部材に追従移動する第2の支柱部材とを有し、
前記第1の支柱部材側には、前記定盤の上面に溝が形成され、前記溝を境に前記定盤上に測定領域部と前記Y軸方向に平行なガイド部とが形成され、前記測定領域部の上面と前記ガイド部の上面とは同一平面上にあり、
前記ガイド部の両側面を挟み込むと共に前記ガイド部の上下面を挟み込んで前記第1の支柱部材の移動をガイドする上下両側面支持部を有する、
三次元座標測定装置。」

2.補正の適否
(以下では、本件補正後や本件補正前を単にそれぞれ「補正後」や「補正前」ともいう。)
補正後の請求項1は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「前記第1の支柱部材の移動をガイドする側面支持部」について、「前記ガイド部の両側面を挟み込むと共に前記ガイド部の上下面を挟み込んで」と特定するとともに、「上下両側面支持部」であると特定することにより、補正前の請求項1に記載の「側面支持部」を限定するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、本願の願書に最初に添付された明細書の段落【0044】?【0058】及び図面【図6】?【図7】の記載に基づいており、いわゆる新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

そこで、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、について以下検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1.本件補正の概要」において示した次に特定されるとおりのものである。
(A?Hについては、発明特定事項を分説するため当審で付した。)
「A 測定対象物を載置する定盤と、
B 測定プローブを支持し、前記定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する二つの支柱部材で支持されるYキャリッジと、を備え、
C 前記二つの支柱部材は、前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構をもつ第1の支柱部材と、前記第1の支柱部材に追従移動する第2の支柱部材とを有し、
D 前記第1の支柱部材側には、前記定盤の上面に溝が形成され、
E 前記溝を境に前記定盤上に測定領域部と前記Y軸方向に平行なガイド部とが形成され、
F 前記測定領域部の上面と前記ガイド部の上面とは同一平面上にあり、
G 前記ガイド部の両側面を挟み込むと共に前記ガイド部の上下面を挟み込んで前記第1の支柱部材の移動をガイドする上下両側面支持部を有する、
H 三次元座標測定装置。」

(2)刊行物に記載された事項、引用発明
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭62?235514号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(下線は当審で付した。)

ア 「[実施例]
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
第1図、第2図および第3図を参照するに、3次元測定装置1における箱型形状の内部を空洞にしたベース3が床などに載置されている。ベース3上の第1図において左右両側部に、箱型形状の内部を空洞にした摺動案内部5,7が設けられている。この摺動案内部5,7はそれぞれ第2図において前後方向すなわちX軸方向に延伸してある。摺動案内部5,7上には、門型形状のメインキャレッジ9が設けられ、該メインキャレッジ9の左右下部には、それぞれ摺動案内部材11,13がX軸方向に沿って移動自在に取付けてある。摺動案内部材13の後方部には、X軸モータ15が設けてあり、かつ摺動案内部7上にラック17がX軸方向に延伸して設けてある。
上記構成により、X軸モータ15により摺動案内部材11,13がベース3上の摺動案内部5,7に沿って、ラック17に案内されてX軸方向に移動されてメインキャレッジ9がX軸方向に移動されることになる。」(第2頁左上欄第12行?同頁右上欄第13行)

イ 「前記メインキャレッジ9の上部ビーム9U上には、第1図および第2図において左右方向すなわちY軸方向に移動自在なセントラルキャレッジ19が設けてある。(中略)
セントラルキャレッジ19の前方内には、第1図、第2図および第3図に示してあるように、スピンドル25が上下方向すなわちZ軸方向へ移動自在に設けてある。スピンドル25の下方部に向けて、アダプタ27を介して先端部にプローブ29が着脱自在に装着してある。」(第2頁右上欄第14行?同頁左下欄第11行)

ウ 「メインキャレッジ9のX軸方向における移動制御は、摺動案内部7の外側に第2図および第3図に示されているように、X軸方向に延伸して取付けてあるリニアスケール35と、摺動案内部材13の内側の一部に取付けてあるセンサ37とによって行なわれている。」(第2頁左下欄第19行?同頁右下欄第4行)

エ 「ベース3上にあって、摺動案内部5と7との間にX軸方向に向けてワーク支持テーブル39が載置してあって、該ワーク支持テーブル39上に測定しようとする被測定物の図示省略のワークが載置される。X軸、Y軸およびZ軸に移動制御されるプローブ29がワークに当接して各種の測定データが測定されることになる。」(第2頁右下欄第10行?同頁同欄第16行)

オ 「前述したメインキャレッジ9の左右下部に移動自在に取付けられた摺動案内部材11,13の裏側には、各種のエアパッドが設けられている。
より詳細には、第1図および第3図に示すように、摺動案内部材11における上部右側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド41が設けてある。また、摺動案内部材11における下部左側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド43が設けてある。
さらに、摺動案内部材13における上部左側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド45が設けてある。摺動案内部材13における下部右側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド47が設けてある。同様に、摺動案内部材13における左部上側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド49が設けてある。また、摺動案内部材13における右部下側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド51が設けてある。」(第2頁右下欄第17行?第3頁左上欄第16行)

カ 「上記構成により、エアパッド49とエアパッド51に図示省略のエア供給装置から乾燥したエアを供給することによって、エアパッド49と摺動案内部7の左外側との間にエア膜が形成されると共に、エアパッド51と摺動案内部7の右外側との間にエア膜が形成される。その結果、セントラルキャレッジ19がメインキャレッジ9の上部ビーム9Uのほぼ真中にある場合には、摺動案内部5,7に対して、摺動案内部材11,13がX軸方向にスムーズに移動される状態となる。
エアパッド41,43,45および47に図示省略のエア供給装置から乾燥したエアを供給することによって、エアパッド41と摺動案内部5の上面との間にエア膜が形成されると共に、エアパッド43と摺動案内部5の下面との間にエア膜が形成される。また、エアパッド45と摺動案内部7の上面との間にエア膜が形成されると共に、エアパッド47と摺動案内部7の下面との間にエア膜が形成される。その結果、セントラルキャレッジ19が例えばメインキャレッジ9の上部ビーム9Uの左側に移動して、メインキヤレッジ9自体が左下りに傾斜しようとすると、右側のエアパッド47が上記傾斜を阻止し精度を維持する。また、セントラルキャレッジ19が例えばメインキャレッジ9の上部ビーム9Uの右側に移動して、メインキヤレッジ9自体が右下りに傾斜しようとすると、左側のエアパッド43が上記傾斜を阻止し精度を維持する。」
(第3頁左上欄第17行?同頁左下欄第4行)

キ 第1図


ク 上記ア?カの記載事項及び上記キの図示内容から、以下の認定事項が導かれる。

(ア)上記アには、「3次元測定装置1」が記載されている。

(イ)上記エには、「被測定物」「が載置される」「ワーク支持テーブル39」が「載置」される「ベース3」が記載されている。

(ウ)上記アには、「ベース3上」の「左右両側部」の「摺動案内部5,7上に」「設けられ」、「X軸方向に移動される」「門型形状のメインキャレッジ9」が記載されている。
上記キの図示内容から、「門型形状のメインキャレッジ9」は、「上部ビーム9U」と、「上部ビーム9U」を支持する左右のビームからなることが読み取れる。
上記イには、「上部ビーム9U上」に「設け」られた「セントラルキャレッジ19」の「前方内」に「設け」られた「スピンドル25」の「先端部にプローブ29が着脱自在に装着してある」ことが記載されている。

(エ)上記アには、「メインキャレッジ9の左右下部には、それぞれ摺動案内部材11,13がX軸方向に沿って移動自在に取付けて」あり、「摺動案内部材13の後方部には、X軸モータ15が設けてあり」、「X軸モータ15により摺動案内部材11,13がベース3上の摺動案内部5,7に沿って」、「X軸方向に移動されてメインキャレッジ9がX軸方向に移動される」ことが記載されている。

(オ)上記アには、「摺動案内部5,7」は「それぞれ」「X軸方向に延伸して」あることが記載されており、上記エには、「摺動案内部5と7との間にX軸方向に向けてワーク支持テーブル39が載置して」あることが記載されている。

(カ)上記オ及び上記カにより、「摺動案内部材13における上部左側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド45が設けて」あり、「エアパッド45と摺動案内部7の上面との間にエア膜が形成される」ことが記載されており、
「摺動案内部材13における下部右側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド47が設けて」あり、「エアパッド47と摺動案内部7の下面との間にエア膜が形成される」ことが記載されており、
「摺動案内部材13における左部上側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド49が設けて」あり、「エアパッド49と摺動案内部7の左外側との間にエア膜が形成される」ことが記載されており、
「摺動案内部材13における右部下側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド51が設けて」あり、「エアパッド51と摺動案内部7の右外側との間にエア膜が形成される」ことが記載されている。

上記(ア)?(カ)の認定事項を総合すれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(a?hは本件補正発明の分説に対応させて当審で付した。)

[引用発明]
「a 被測定物が載置されるワーク支持テーブル39が載置されるベース3と、

b 前記ベース3上の左右両側部の摺動案内部5,7上に設けられ、X軸方向に移動される門型形状のメインキャレッジ9と、を備え、
前記メインキャレッジ9は、上部ビーム9Uと、前記上部ビーム9Uを支持する左右のビームからなり、
前記上部ビーム9U上に設けられたセントラルキャレッジ19の前方内に設けられたスピンドル25の先端部にプローブ29が着脱自在に装着してあり、

c 前記メインキャレッジ9の左右下部には、それぞれ摺動案内部材11,13がX軸方向に沿って移動自在に取付けてあり、前記摺動案内部材13の後方部には、X軸モータ15が設けてあり、前記X軸モータ15により摺動案内部材11,13がベース3上の摺動案内部5,7に沿って、X軸方向に移動されて前記メインキャレッジ9がX軸方向に移動され、

e 前記摺動案内部5,7はそれぞれX軸方向に延伸してあり、前記摺動案内部5と7との間にX軸方向に向けて前記ワーク支持テーブル39が載置してあり、

g 前記摺動案内部材13における上部左側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド45が設けてあり、前記エアパッド45と前記摺動案内部7の上面との間にエア膜が形成され、
前記摺動案内部材13における下部右側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド47が設けてあり、前記エアパッド47と前記摺動案内部7の下面との間にエア膜が形成され、
前記摺動案内部材13における左部上側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド49が設けてあり、前記エアパッド49と前記摺動案内部7の左外側との間にエア膜が形成され、
前記摺動案内部材13における右部下側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド51が設けてあり、前記エアパッド51と前記摺動案内部7の右外側との間にエア膜が形成される、

h 3次元測定装置1。」


(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
なお、見出しは(a)?(h)とし、本件補正発明の分説に対応させている。

(a)引用発明の「被測定物」は、本件補正発明の「測定対象物」に相当し、引用発明の「ベース3」は、本件補正発明の「定盤」に相当する。
よって、本件補正発明の構成Aと引用発明の構成aとは、「測定対象物をその上位に配置する定盤」を備える点で共通する。

(b)引用発明の「X軸方向」は、本件補正発明の「定盤のY軸方向」に相当するから、引用発明の「X軸方向に移動される門型形状のメインキャレッジ9」の「上部ビーム9U」は、本件補正発明の「前記定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する」「Yキャリッジ」に相当し、引用発明の「前記上部ビーム9Uを支持する左右のビーム」は、本件補正発明の「二つの支柱部材」に相当する。
また、引用発明の「プローブ29」は、本件補正発明の「測定プローブ」に相当し、引用発明では、「前記メインキャレッジ9の上部ビーム9U上に設けられたセントラルキャレッジ19の前方内に設けられたスピンドル25の先端部にプローブ29が着脱自在に装着してあ」るから、このことは、本件補正発明の「Yキャリッジ」が「測定プローブを支持」することに相当する。
よって、引用発明の構成bは、本件補正発明の構成Bに相当する。

(c)引用発明の「X軸モータ15」は、「メインキャレッジ9」を「X軸方向に移動」するものであるから、本件補正発明の「前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構」に相当する。
そして、引用発明では、「前記メインキャレッジ9の左右下部には、それぞれ摺動案内部材11,13がX軸方向に沿って移動自在に取付けてあり、前記摺動案内部材13の後方部には、X軸モータ15が設けて」あるから、引用発明の「前記上部ビーム9Uを支持する左右のビーム」のうち、「摺動案内部材13」が取付けてあるもの(右ビーム)は、本件補正発明の「第1の支柱部材」に相当し、「摺動案内部材11」が取付けてあるもの(左ビーム)は、本件補正発明の「第2の支柱部材」に相当する。
ここで、引用発明の「X軸モータ15」は、「摺動案内部材13の後方部」に設けられており、それにより、「メインキャレッジ9」を「X軸方向に移動」するものであるから、この「X軸モータ15」は、右ビームを駆動するものであり、左ビームは、右ビームに追従して移動するものであると認められる。
そうすると、本件補正発明の構成Cと引用発明の構成cとは、「前記二つの支柱部材は、前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構が配置される第1の支柱部材と、前記第1の支柱部材に追従移動する第2の支柱部材とを有」する点で共通する。

(e)引用発明の「X軸方向に延伸」する「摺動案内部5,7」は、本件補正発明の「前記Y軸方向に平行なガイド部」に相当し、引用発明の「前記摺動案内部5と7との間にX軸方向に向けて」「載置」された「ワーク支持テーブル39」の領域は、本件補正発明の「測定領域部」に相当する。
そうすると、本件補正発明の構成Eと引用発明の構成eとは、「測定領域部と前記Y軸方向に平行なガイド部とを」備える点で共通する。

(g)引用発明の「摺動案内部材13」は、「ベース3上の摺動案内部7に沿って、X軸方向に移動されて前記メインキャレッジ9がX軸方向に移動され」るから(構成c参照)、本件補正発明の「前記第1の支柱部材の移動をガイドする」「支持部」に相当する。
引用発明の「前記摺動案内部7の上面」及び「前記摺動案内部7の下面」は、本件補正発明の「ガイド部の上下面」に相当し、「前記摺動案内部材13における上部左側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド45が設けてあり、前記エアパッド45と前記摺動案内部7の上面との間にエア膜が形成され」、「前記摺動案内部材13における下部右側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド47が設けてあり、前記エアパッド47と前記摺動案内部7の下面との間にエア膜が形成され」るから、引用発明の「前記摺動案内部材13」は、本件補正発明の「ガイド部の上下面を挟み込」み、「上下面」を支持する「支持部」に相当する。
引用発明の「前記摺動案内部7の左外側」及び「前記摺動案内部7の右外側」は、本件補正発明の「ガイド部の両側面」に相当し、「前記摺動案内部材13における左部上側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド49が設けてあり、前記エアパッド49と前記摺動案内部7の上面との間にエア膜が形成され」、「前記摺動案内部材13における右部下側の裏側には、X軸方向に沿って一定間隔毎に複数のエアパッド51が設けてあり、前記エアパッド51と前記摺動案内部7の右外側との間にエア膜が形成され」るから、引用発明の「前記摺動案内部材13」は、本件補正発明の「両側面を挟み込」み、「両側面」を支持する「支持部」に相当する。
そうすると、引用発明の「摺動案内部材13」は、本件補正発明の「上下両側面支持部」に相当するから、引用発明の構成gは、本願発明の構成Gに相当する。

(h)引用発明の構成hの「3次元測定装置1。」は、本件補正発明の構成Hの「三次元座標測定装置。」に相当する。

上記(a)?(h)の対比により、本件補正発明と引用発明とは、

「A’測定対象物をその上位に配置する定盤と、
B 測定プローブを支持し、前記定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する二つの支柱部材で支持されるYキャリッジと、を備え、
C’ 前記二つの支柱部材は、前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構が配置される第1の支柱部材と、前記第1の支柱部材に追従移動する第2の支柱部材とを有し、
E’ 測定領域部と前記Y軸方向に平行なガイド部とを備え、
G 前記ガイド部の両側面を挟み込むと共に前記ガイド部の上下面を挟み込んで前記第1の支柱部材の移動をガイドする上下両側面支持部を有する、
H 三次元座標測定装置。」

である点で一致し(以下、「一致点」という。)、以下の相違点1?5で相違する。

[相違点1]
「測定対象物」が、本件補正発明では、「定盤」に「載置」されるのに対して、引用発明では、「ワーク支持テーブル39」に「載置」される点。(構成A)

[相違点2]
「駆動機構」について、本件補正発明では、「第1の支柱部材」が「もつ」のに対して、引用発明では、「X軸モータ15」は、「摺動案内部材13の後方部」に「設けて」あり、「右のビーム」が「もつ」とはいえない点。(構成C)

[相違点3]
本件補正発明では、「前記第1の支柱部材側には、前記定盤の上面に溝を形成され」ているのに対して、引用発明では、そのような構成を備えていない点。(構成D)

[相違点4]
「測定領域部」と「ガイド部」について、本件補正発明では、「前記溝を境にして」「前記定盤上に」「形成」されているのに対して、引用発明では、そのような構成を備えていない点。(構成E)

[相違点5]
本件補正発明では、「前記測定領域部の上面と前記ガイド部の上面とは同一平面上にあ」るのに対して、引用発明では、そのような構成を備えていない点。(構成F)


(4)判断
上記相違点1?5ついて検討する。
(4-1)相違点1について
三次元座標測定装置において、測定対象物が定盤に載置されることは、例えば、原査定の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭64-35310号公報(以下、「引用文献3」という。)、特開平7?139936号公報(以下、「引用文献4」という。)に記載されているように周知の技術である(以下、「周知技術1」という。)。
(引用文献3については、第2頁右上欄第3?4行の「被測定物を載置するための上面を有するテーブル」、第5頁右下欄第2?3行の「テーブル60は、石材から形成された石定盤であり」との記載を参照。
引用文献4については、段落【0014】の「基台14上に載置されたワーク」との記載を参照。)
したがって、上記周知技術1を引用発明に適用して、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に為し得たものである。

(4-2)相違点2について
三次元座標測定装置において、Yキャリッジを支持する支柱部材の一方が、駆動機構をもつことは、例えば、上記引用文献4、原査定の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2014-130091号公報(以下、「引用文献5」という。)に記載されているように周知の技術である(以下、「周知技術2」という。)。
(引用文献4については、段落【0016】の「脚部26Aの下端部内には駆動機構30の駆動モータ32が配設されている。」との記載を参照。
引用文献5については、段落【0013】の「Yキャリッジ3における一方の脚部3aには、Yキャリッジ3をY方向に沿って駆動するY駆動部8が備えられている。」との記載を参照。)
したがって、上記周知技術2を引用発明に適用して、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に為し得たものである。

(4-3)相違点3及び4について
上記相違点3と相違点4とは、「定盤の上面」に「形成」された「溝」という構成において関連しているので、両者を合わせて検討する。
三次元座標測定装置において、Yキャリッジを支持する支柱部材の一方側において、測定対象物を載置する定盤の上面に溝を形成することは、例えば、原査定の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-312556号公報(以下、「引用文献2」という。)、上記引用文献4に記載されているように周知の技術である(以下、「周知技術3」という。)。
(引用文献2については、段落【0003】の「前記従来例において、Yキャリッジ10はガイド12に沿って移動するように構成されていたが、図7及び図8に示すように、定盤14の溝22に沿ってYキャリッジ10を移動する3次元座標測定機も一般に知られている。」との記載を参照。
引用文献4については、段落【0028】の「前記実施例1、2では本発明を3次元座標測定機に適用する場合について説明したが、これに限らず、Yキャリッジが門型に構成されている座標測定機であれば、本実施例に示したYキャリッジのY軸方向の水平方向のガイドは、基台の両側を用いる方式や、基台の上又は下に基台と別にガイドを設ける方式もしくは基台の上又は下に角溝を設ける方式等、いずれの方式でもよく、3次元以外の多次元座標測定機に適用することができる。」との記載を参照。)
したがって、上記周知技術3を引用発明に適用して、上記相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に為し得たものである。
また、このような適用を行った際、「前記溝を境にして」、定盤上の内側領域を「測定領域部」とし、外側領域を「ガイド部」とすることにより、「測定領域部」及び「ガイド部」が「定盤上に」「形成」されたものとして、上記相違点4に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者ならば、格別の困難性はない。

(4-4)相違点5について
測定領域部の上面とガイド部の上面とが同一平面上にあることは、例えば、上記引用文献2、上記引用文献5に記載されているように周知の技術である(以下、「周知技術4」という。)。
(引用文献2については、【図7】の記載を参照。引用文献5については、【図1】の記載を参照。)
したがって、上記周知技術4を引用発明に適用して、上記相違点5に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に為し得たものである。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び上記周知技術1?4の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ここで、審判請求書において、請求人は、概略、
「具体的には本願発明1は、駆動側(第1の支柱部材側)において定盤の一部であるガイド部の両側面及び上下面をそれぞれ挟み込む上下両側面支持部(特定事項1)を有しています。」
「(3-2)理由3について
本願発明1は、上記の通り技術課題である「ヨーイング誤差及びピッチング誤差」を解決するために駆動側(第1の支柱部材側)において「特定事項1」を備えています。」
「<まとめ>
各引用文献には、本願発明1の特定事項1については開示されていません。また、各引用文献には、Yキャリッジのヨーイング誤差及びピッチング誤差の低減という本願発明1の技術課題及びその解決手段に関する開示及び示唆は一切なされていません。このため、たとえ各引用文献に接した当業者であったとしても、各引用文献の記載から特定事項1を備える本願発明1を想起することは困難であると考えます。
さらに本願発明1は、上記特定事項1の採用により、ヨーイング誤差の低減及びピッチング誤差の低減という顕著な効果を奏します(段落[0145]、[0149]、[0150]、[0168]参照)。そして、当該各効果についても各引用文献に開示及び示唆されておらず、各引用文献に記載された発明から予想できるものではないと考えます。
よって、本願発明1は、各引用文献に記載された事項から当業者が容易に想到し得るものではなく、進歩性を有するものです。」
と主張している。

しかしながら、上記「(3)対比」において示したように、引用発明と本件補正発明とは、「C’ 前記二つの支柱部材は、前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構が配置される第1の支柱部材と、前記第1の支柱部材に追従移動する第2の支柱部材とを有し、」、「G 前記ガイド部の両側面を挟み込むと共に前記ガイド部の上下面を挟み込んで前記第1の支柱部材の移動をガイドする上下両側面支持部を有する、」の一致点を有しているのであるから、引用発明は、「駆動側においてガイド部の両側面及び上下面をそれぞれ挟み込む上下両側面支持部」に相当する構成を備えているものである。また、上記「(4-3)相違点3及び4について」において示したように、溝を形成して定盤の一部としてガイド部を構成することは、三次元座標測定装置において周知の技術であって、かかる周知の技術を引用発明に適用することは、当業者が容易に為し得たものである。
すなわち、「ヨーイング誤差及びピッチング誤差」といった課題の認識の如何に関わらず、本件補正発明は引用発明及び上記周知技術1?4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。
またそもそも、引用発明は、「駆動側においてガイド部の両側面及び上下面をそれぞれ挟み込む上下両側面支持部」に相当する構成を備えているのであるから、「ヨーイング誤差及びピッチング誤差」については、少なくとも本件補正発明と同程度には既に解決できていることも明らかである。
なお、上記引用文献3の第6頁右上欄第10?19行及び第1図には、Yキャリッジを支持する2つの支柱(66、68)の一方側(68)において、定盤(60)の一部であるガイド部の両側面及び上下面をそれぞれ挟み込む上下両側面支持部(エアベアリング80及び82)を設け、他方側(66)において、定盤(60)の上面に対向する上面支持面(エアベアリング84)を設けることが記載されているところ、上記引用文献3の2つの支柱66と68の構成を比べると、支柱68はY軸案内部78を備えているのに対して、支柱66はY軸案内部78を備えておらず、両側面を支持するエアベアリングもないことから、測定時において主に操作されるのは、支柱68側であると考えるのが通常である。
そして、そのことは、支柱68側の脚部69に微動機構102が設けられていることからも窺える(引用文献3の第7頁左上欄第3行及び第2図の記載を参照)。
そうすると、上記引用文献3には、支柱68側が「駆動側」であり、支柱66側が「従動側」であるとは明示されてはいないものの、駆動側(第1の支柱部材側)において「特定事項1」を備えるように構成することが、引用文献3に記載も示唆も一切されていないとまではいえず、支柱68側に駆動機構を設けるようにすることは、当業者ならば容易に想到し得たものであるというべきである。
また、Yキャリッジのヨーイング誤差及びピッチング誤差の低減という課題も特段新規なものではなく、従来から知られているものであるから(例えば、特開2014-238376号公報の段落【0004】の記載を参照)、「ヨーイング誤差及びピッチング誤差」を解決するために、駆動側(第1の支柱部材側)において「特定事項1」を備えるように構成することは、当業者にとって格別の困難性はないというべきである。
そして、請求人が主張する、ヨーイング誤差の低減及びピッチング誤差の低減という効果についても、引用発明及び上記周知技術1?4から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

よって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知技術1?4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。


3.むすび
以上より、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記第2において述べたとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された、上記第2の1.で本件補正前として記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
測定対象物を載置する定盤と、
測定プローブを支持し、前記定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する二つの支柱部材で支持されるYキャリッジと、を備え、
前記二つの支柱部材は、前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構をもつ第1の支柱部材と、前記第1の支柱部材に追従移動する第2の支柱部材とを有し、
前記第1の支柱部材側には、前記定盤の上面に溝が形成され、前記溝を境に前記定盤上に測定領域部と前記Y軸方向に平行なガイド部とが形成され、前記測定領域部の上面と前記ガイド部の上面とは同一平面上にあり、
前記ガイド部の側面側で前記第1の支柱部材の移動をガイドする側面支持部を有する、
三次元座標測定装置。」

2.原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、理由3は、
本願発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1?6に記載された発明に基いて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
というものである。

引用文献1.特開昭62-235514号公報
引用文献2.特開平5-312556号公報
引用文献3.特開昭64-35310号公報
引用文献4.特開平7-139936号公報
引用文献5.特開2014-130091号公報
引用文献6.特開2014-56352号公報

3.引用文献に記載された事項
上記引用文献1は、「第2 本件補正についての補正の却下の決定」の「3.独立特許要件」の「(2)刊行物に記載された事項、引用発明」において引用した引用文献1であり、上記引用文献1には、上記「(2)刊行物に記載された事項、引用発明」において認定したとおりの「引用発明」が記載されていると認められる。

4.対比・判断
本願発明は、本件補正発明の構成Gの「上下両側面支持部」について、「前記ガイド部の両側面を挟み込むと共に前記ガイド部の上下面を挟み込んで、」との特定を省いて「前記ガイド部の側面側で」とし、「上下両側面支持部」の「上下両」との特定を省いて「側面支持部」としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 本件補正についての補正の却下の決定」の[理由]「2.補正の適否」の「(3)対比」、「(4)判断」において示したとおり、引用発明及び上記周知技術1?4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び上記周知技術1?4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-16 
結審通知日 2019-07-17 
審決日 2019-07-31 
出願番号 特願2018-207342(P2018-207342)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G01B)
P 1 8・ 575- Z (G01B)
P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 梶田 真也
濱野 隆
発明の名称 三次元座標測定装置  
代理人 松浦 憲三  

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