ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A45B |
---|---|
管理番号 | 1355295 |
審判番号 | 不服2018-11326 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-08-21 |
確定日 | 2019-09-10 |
事件の表示 | 特願2015-239044「風方向に倒れる傘」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月15日出願公開、特開2017-104199〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年12月8日の出願であって、平成29年11月28日付けの拒絶理由の通知に対し、平成30年3月16日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成30年5月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成30年8月21日に審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、「傘を保持する中棒6全体が一体であり、中棒の断面形状が変化することにより、中棒6の一部が柔軟性であることにより、風方向に倒れるようにしたことを特徴とする傘。」であると認める。 なお、平成30年3月16日提出の手続補正書により補正された請求項1には「倒れるようにしらこと」と記載されているが、これは、「倒れるようにしたこと」の明らかな誤記と認められるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)を上記のように認定した。 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1.実願昭49-51731号(実開昭50-143761号)のマイクロフィルム 引用文献2.特開2002-322号公報 第4 引用文献 1.引用文献1の記載 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与した。以下同様。)。 (1)「2 実用新案登録請求の範囲 洋傘の上部の一部をバネにする事に依って傘の方向を風上に自然に向かわせる事が出来るなぜなら傘の風にあたる方向は其の部分が風圧の作用する面となり風が強くあたればあたる程傘の面が風圧を避けようとする爲ますます傘は風上に向く様になる原理を利用したもの」(第2頁4行ないし同頁10行) (2)「3 考案の詳細な説明 従来の傘では風雨の強い時は人の力で風上に傘を向けねばならず逆らえばオチョコになったが図1の部分か又図2の部分をバネにする事に依ってどんなに強い風雨でも風圧が作用して風上に傘が向く爲神経と力を使はずに風雨を避ける事が出来る様にしたものです」(第2頁11行ないし同頁17行) (3)「4 図面の簡單な設明(当審注:「設明」は、「説明」の誤記。) 本図は洋傘の骨組の大部分の縦断面図にしてバネの処が本考案の主たるものです 符号1は符号2に記す本考案のバネをつける位置を符号2の箇所でなくて符号1の箇所でも良いと云う場所を示す符号です 符号2は直経(当審注:「直経」は、「直径」の誤記。)1.8mm?2mm米のバネにして風速四米位ひで作動して傘の雨のあたる布面が風上に自動的に向く様に考案したものです 又周囲に他人がいてもこの直経(当審注:「直経」は、「直径」の誤記。)のバネなら除々(当審注:「除々」は、「徐々」の誤記。)に風上に向くので迷惑をかける事は有りません」(第5頁1行ないし13行) (4)また、引用文献1には、下に示す図が記載されている。 (5)引用文献1には、上記(1)より、傘の上部の一部をバネにする事により、風上に自然に向かわせる傘について記載されている。このバネにする傘の上部の一部は、(4)に示す図からみて、傘を保持するシャフトの一部であるといえる。そして、この図からみて、傘を保持するシャフトは、棒状部材とバネから構成されているといえ、このシャフトは、一部がバネであることにより、弾性変形可能であるといえる。 (6)上記(1)ないし(5)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「傘を保持するシャフトが棒状部材とバネから構成され、シャフトの一部がバネであることにより、シャフトの一部が弾性変形可能であることにより、風上に向かわせるようにした傘。」 2.引用文献2の記載 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (1)「【請求項1】 中棒と、該中棒の上端に固着された上ろくろと、前記中棒に摺動自在に外挿されて、下部が握り部となった下ろくろと、前記上ろくろの外周部に、それぞれの一端部が放射状に軸支された多数本の親骨と、前記下ろくろの上部外周部に各一端部が放射状に軸支される一方、各他端部が親骨の長さ方向の途中部に軸支された多数本の支骨と、前記各親骨間に展張された傘地と、前記中棒の上部および下部にそれぞれ配設されて、前記下ろくろを掛止する一対のばね掛止体とを備えた傘において、 前記中棒は、該中棒の上部および/または下部を分割点として複数本の部分中棒に分割され、 隣接する該部分中棒同士は、前記ばね掛止体が内蔵された中棒連結部材によって連結されている傘。」 (2)「【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このように傘ホルダを介して傘を装身すると、前述したように中棒がほとんど弾性のない棒であったため、例えば雨が真上からではなく斜め方向から吹いてきた際には、仮に傘の先に紐や把手をつなぎ、これを雨の方向へ引いたとしても、傘の向きを変えることはできなかった。そこで、中棒を細くし、この棒に弾性を与えることが考えられる。しかしながら、円筒タイプの中棒または中実タイプの中棒のいずれの場合でも、中棒が細くなると強度が低下して折れやすくなったり、埋め込み式ばね掛止体の埋め込み作業がむずかしくなるといった懸念があった。また、従来の埋め込み式ばね掛止体は、中棒に直接埋め込まれた長尺な金属製の板ばねであった。そのため、中棒が曲がろうとしても、このばね掛止体が邪魔をして、充分に曲げられなかった。仮に、強引に曲げようとすれば、埋め込み式ばね掛止体の周辺が破損する懸念があった。」 (3)「【0007】 【発明の目的】この発明は、傘用としての良好な強度を維持して中棒を弾性変形させることができ、中棒へのばね掛止体の組み付けが容易で、しかも中棒の弾性変形をばね掛止体が阻害したりせず、これにより中棒を大きく曲げてもばね掛止体の周辺が壊れにくい傘を提供することを、その目的としている。また、この発明は、閉傘時に指先を上側のばね掛止体と下ろくろとの間に挟んで怪我をするおそれがすくない傘を提供することを、その目的としている。さらに、この発明は、断面多角形の中棒を使用して、中棒をねじれにくくすることができる傘を提供することを、その目的としている。」 (4)「【0008】 【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は、中棒と、該中棒の上端に固着された上ろくろと、前記中棒に摺動自在に外挿されて、下部が握り部となった下ろくろと、前記上ろくろの外周部に、それぞれの一端部が放射状に軸支された多数本の親骨と、前記下ろくろの上部外周部に各一端部が放射状に軸支される一方、各他端部が親骨の長さ方向の途中部に軸支された多数本の支骨と、前記各親骨間に展張された傘地と、前記中棒の上部および下部にそれぞれ配設されて、前記下ろくろを掛止する一対のばね掛止体とを備えた傘において、前記中棒は、該中棒の上部および/または下部を分割点として複数本の部分中棒に分割され、隣接する該部分中棒同士は、前記ばね掛止体が内蔵された中棒連結部材によって連結されている傘である。 【0009】親骨および支骨の使用本数は限定されない。また、傘地の素材も限定されない。例えば、各種の布帛(織布,不織布,網布)、各種のプラスチックシートなどが挙げられる。中棒の素材は限定されない。大きな外力を加えてもほとんど曲がらない例えば剛性素材でもよし、簡単に曲がる弾性素材でもよい。剛性素材としては、例えば各種の金属,木材,カーボンなどが挙げられる。また、弾性素材としては、例えば各種のゴム,各種の軟質プラスチックなどが挙げられる。しかも、後者の弾性素材の際、中棒の弾性素材からなる部分は、中棒の一部でも全部でもよい。さらに、このときの中棒の弾性の度合いは、閉傘時や開傘時において、傘をスムーズに開閉することができる一方、使用者が例えば傘の先端に結びつけられた紐などを引けば、容易に風向きに合わせて傘の向きを変えられるくらいが適当である。中棒の太さ、断面形状も限定されない。例えば、円形,楕円形または三角形以上の多角形でもよい。」 (5)「【0013】 【作用】この発明の傘は、通常通りに手で下ろくろを握り、この下ろくろを中棒に沿って摺動させることで、傘を開いたり閉じたりすることができる。また、このように中棒を複数本に分割し、これらをばね掛止体を内蔵した中棒連結部材により連結したので、仮に中棒を細くして中棒に弾性変形力を与えても、傘としての必要な強度を維持しやすく、中棒の弾性変形をばね掛止体が阻害することもなく、さらには、中棒を大きく曲げたとしてもばね掛止体の周辺が壊れたりするおそれが少ない。このように、中棒を細くして弾性を与えれば、前述した傘ホルダ用の傘として好適なものとなる。しかも、このように中棒を中棒連結部材による連結構造とすれば、請求項2のように、中棒の縦割れを起こさず、上下のばね掛止体を中棒の外周面の中棒軸線に沿った仮想線上に並べることができる。しかも隣接する部分中棒同士を中棒連結部材によって連結すれば、簡単にばね掛止体を中棒に組み込むことができる。」 第5 対比(一致点、相違点の認定) 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 引用発明の「シャフト」、「弾性変形可能」は、それぞれ、本願発明の「中棒」、「柔軟性」に相当する。また、本願発明の「風方向」とは、風が吹いてくる方向、すなわち風上となる方向であるから、引用発明の「風上に向かわせるようにした」ことは、本願発明の「風方向に倒れるようにした」ことに相当する。 そうすると、本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。 「傘を保持する中棒の一部が柔軟性であることにより、風方向に倒れるようにした傘。」 また、本願発明と引用発明は、以下の[相違点]で相違する。 [相違点] 中棒の一部が柔軟性である点について、本願発明は、「中棒6全体が一体であり、中棒の断面形状が変化する」ことによるのに対して、引用発明は、「シャフトが棒状部材とバネから構成され、シャフトの一部がバネである」ことによる点。 第6 判断(相違点についての検討) 1 相違点について まず、引用発明の傘は、「シャフトが棒状部材とバネから構成され」ているものではあるが、棒状部材とバネがシャフトとして機能することを考慮すれば、これらは連結され、分けられない状態であると解される。 一方、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、傘ホルダを介して傘を装着した場合であっても、容易に風向きに合わせて、傘の向きを変えることができるようにするために、傘の中棒を細くして弾性変形力を与え(上記、「第4 引用文献」の「2.引用文献2の記載」、(2)及び(4)、(5)参照。)ることが記載されている。そして、引用発明のシャフトと引用文献2に記載された中棒とは、共に傘の向きを変えるように弾性変形力を与えられるものである点で共通するから、弾性変形力を与える手段として、引用発明のバネに代えて、引用文献2に記載された中棒を細くして弾性変形力を与えることを適用し、その結果、引用発明におけるバネの箇所のシャフトを弾性変形力を有する細いものとし、シャフトの他の部分と分けられない状態とすることで、断面形状が変化した一体のものとし、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得た事項である。 さらに、単一の素材から構成された棒状部材の特定箇所の断面形状を変化させて、柔軟性を持たせることは、当業者が適宜行う設計事項でもあるから、引用発明のシャフトにおいて、弾性変形可能とされた部分の断面形状を変化させて、相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことでもある。 2 請求人の主張について 請求人は、審判請求書において「本願発明による傘は、中棒の中央部より上部の一部を、断面を細めにし(請求項1)、又は材質に柔軟性にある樹脂を用いる(請求項2)ことにより、風方向に自動的に倒れるようにした点を特徴としてい」る旨を主張する。 しかしながら、本願発明は、上記「第2 本願発明」において認定したとおりであって、「中棒の断面形状を変化すること」は、特定されているが、中棒の中央部より上部の一部を、断面を細めにすることは、特定されていないから、請求人の主張は本願発明の発明特定事項に基づくものではない。なお、引用発明のバネは、引用文献1の図面の記載からみて、シャフトの中央部より上部の一部にバネを設けているといえ、中棒の断面を細くすることにより弾性変形可能とすることは引用文献2に記載(上記(上記、「第4 引用文献」の「2.引用文献2の記載」、(5)参照。)されている。 また、本願の特許請求の範囲に記載された請求項の数は、上記「第2 本願発明」において認定した請求項1のみの1つであって、上記請求人の主張において「材質に柔軟性にある樹脂を用いる(請求項2)」と記載されている趣旨が不明であるが、上記主張は、請求項2に係る発明の進歩性に関連する主張であって、請求項1に係る発明である本願発明の進歩性の判断に影響する主張とは解されない。なお、柔軟性のある樹脂を中棒に用いることは引用文献2に記載(上記、「第4 引用文献」の「2.引用文献2の記載」、(4)参照。)されている。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-06-21 |
結審通知日 | 2019-07-02 |
審決日 | 2019-07-18 |
出願番号 | 特願2015-239044(P2015-239044) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A45B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大瀬 円 |
特許庁審判長 |
佐々木 芳枝 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 長馬 望 |
発明の名称 | 風方向に倒れる傘 |