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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C03C |
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管理番号 | 1355385 |
審判番号 | 不服2018-11791 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-09-03 |
確定日 | 2019-10-08 |
事件の表示 | 特願2014-202516「ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月 9日出願公開、特開2016- 69254、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成26年9月30日の出願であって、平成30年2月26日付けで拒絶理由が通知され、同年4月26日付けで手続補正がされ、同年6月1日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対して、同年9月3日に拒絶査定不服審判の請求がされ、令和1年5月17日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和1年7月22日付けで手続補正がされたものである。 なお、審判段階の令和1年8月1日付けで刊行物等提出書が提出されている。 2 原査定の理由の概要 原査定(平成30年6月1日付け拒絶査定)の理由の概要は、平成30年4月26日付けで手続補正された特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていないというものである。 請求項1に係る発明の「La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が50?70%」及び「質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.15以上」との特定事項によれば、Y_(2)O_(3)含有量は7.5%より小さい値とはなり得ず、「Y_(2)O_(3)含有量が30%以下」との特定事項と矛盾しているから、請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2?14に係る発明は明確でない。 3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、平成30年4月26日付けで手続補正された特許請求の範囲の記載が以下の(1)?(3)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。 (1)物性要件が不足している点に関して 本願明細書の段落【0004】?【0006】の記載からみて、請求項1に係る発明の課題は、高屈折率・低分散光学ガラスであって、熱的安定性に優れ、かつ、接合ガラスの作製に好適な吸収特性を有するガラスを提供することにより解決されるものといえる。 ここで、本願明細書の実施例1(No.10?20、22?25、27、29?31)(以下、「実施例」という。)に記載された各成分の含有量の数値範囲のガラスであれば、当業者が上記課題を解決できると認識できるところ、請求項1に係る発明のガラスの各成分の含有量の数値範囲は、上記実施例に記載された数値範囲から大きく外れる数値を含むため、液相温度LTや着色度λ5を特定することなく、請求項1に係る発明のガラスの各成分の含有量の数値範囲の特定のみで、熱的安定性に優れ、且つ、接合ガラスの作製に好適な吸収特性を有するガラスが得られるといえない。 したがって、ガラスの液相温度LT及び着色度λ5の物性要件を特定しない請求項1に係る発明は、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるいうことができない。 よって、請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2?14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。 (2)物性要件が広すぎる点に関して 請求項1に係る発明の物性要件のうち、「アッベ数」の上限値は、実施例に記載されたアッベ数の数値範囲から大きく外れており、屈折率を大きく(小さく)すると、アッベ数が小さく(大きく)なるという傾向があるとの光学ガラスの技術常識(特開平6-316433号公報の段落【0005】参照)を踏まえると、請求項1に係る発明の屈折率の数値範囲(1.800?1.830)を満足したまま、当該上限値にすることは困難であるから、請求項1に係る発明のアッベ数の数値範囲のうち、上記実施例に記載されたアッベ数の範囲から大きく外れた数値範囲のガラスは、発明の詳細な説明に記載された発明であると当業者が認識できる範囲のものであるいうことができない。 よって、請求項1に係る発明及びこれを引用する本願請求項2?14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。 (3)組成要件が物性要件に対して広すぎる点に関して 請求項1に係る発明の各成分の含有量のうち、「La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量」の上限値及び下限値、「ZrO_(2)含有量」の上限値及び下限値、「TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量」の上限値、「WO_(3)含有量」の上限値、「SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量」の上限値及び下限値、並びに、「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))」の上限値は、実施例に記載された各成分の含有量の数値範囲から大きく外れているため、本願明細書の記載や技術常識を考慮しても、請求項1に係る発明の各成分の数値範囲において、請求項1に係る発明の物性要件を満たす配合組成が存在することを当業者が認識できないから、請求項1に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 よって、請求項1に係る発明及びこれを引用する本願請求項2?11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。 4 本願発明について 本願請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、令和1年7月22日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。なお、当該手続補正による補正箇所に下線を付した。 「【請求項1】 質量%表示で、 SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が23?32%、 La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?67%、 La_(2)O_(3)含有量が37%以上、 Gd_(2)O_(3)含有量が0?3%、 Y_(2)O_(3)含有量が9?25%、 Yb_(2)O_(3)含有量が0%以上2%未満、 ZrO_(2)含有量が2?10%、 TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%、 WO_(3)含有量が0?2%、 であり、 質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0?0.40の範囲であり、ただしNb_(2)O_(5)を必須成分として含み、 質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が2.1/28.9以上9/26.6以下であり、 質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.15以上であり、 屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45?47.0の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たすガラス。 【請求項2】 質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.18以上である請求項1のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項3】 質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0?0.21の範囲である請求項1または2に記載のガラス。 【請求項4】 質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が3.3/30以上である請求項1?3のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項5】 SiO_(2)含有量が5%以下である請求項1?4のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項6】 質量比(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が1.95以上である請求項1?5のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項7】 質量比(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が1.83以上である請求項1?6のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項8】 Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)OおよびCs_(2)Oの合計含有量が0?5質量%の範囲である請求項1?7のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項9】 MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が0?5質量%の範囲である請求項1?8のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項10】 着色度λ5が335nm以下である請求項1?9のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項11】 比重を屈折率ndで除した値が2.00?2.56の範囲である請求項1?10のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項12】 請求項1?11のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。 【請求項13】 請求項1?11のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。 【請求項14】 請求項1?11のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子。」 5 原査定の理由について 本願発明1では、「Y_(2)O_(3)含有量が9?25%」と新たに特定されている。 そして、Y_(2)O_(3)含有量が下限値(9%)である場合には、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)及びYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?60%のいずれかの値であれば、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.15以上になるから、本願発明1の「La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?67%」及び「質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.15以上」との特定事項と矛盾しない。 よって、本願発明1及びこれを引用する本願発明2?14は明確であるから、原査定の理由は理由がない。 6 当審拒絶理由について (1)物性要件が不足している点に関して 本願明細書には、ZnOはガラスの熱的安定性を低下させる成分であるため、ZnO含有量を0?2%の範囲とすること、Nb_(2)O_(5)はガラスの熱的安定性を向上させる成分であり、質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)を小さくすることで、ガラスの熱的安定性が向上するため、質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)を0?1.0の範囲とすること、さらに、Y_(2)O_(3)はガラスの熱的安定性を向上させる成分であるが、多量の導入によりガラスの熱的安定性を低下させるため、Y_(2)O_(3)含有量を3?30%の範囲とすることが記載されている(段落【0013】及び【0028】)ことからみて、本願発明1は、「質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0?0.40の範囲であり、ただしNb_(2)O_(5)を必須成分として含」むことを特定し、また、「TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%」であることを特定することで、ZnO含有量が2%以下(=Nb_(2)O_(5)の最大含有量5.0%×0.40)であることも特定し、さらに、「Y_(2)O_(3)含有量が9?25%」であることを特定することで、液相温度TLの物性要件の特定がなくとも、熱的安定性が優れたガラスであることを当業者であれば認識できる。 また、本願明細書には、WO_(3)は、分光透過率の短波長側の光吸収端を長波長化する成分であるところ、WO_(3)含有量を0?2%の範囲とすることで、前記光吸収端を短波長化することができ、接合レンズの作製に好適な吸収特性を実現できることが記載されている(段落【0005】及び【0030】)ことからみて、本願発明1は、「WO_(3)含有量が0?2%」であることを特定することによって、着色度λ5の物性要件の特定がなくとも、接合ガラスの作製に好適な吸収特性を有するガラスであることを当業者であれば認識できる。 (2)物性要件が広すぎる点に関して 本願発明1では、「屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45?47.0の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たす」との物性要件が新たに特定されている。 そして、屈折率ndが1.80445、アッベ数νdが46.42である実施例のガラス(No.23)を基本として、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本願明細書にガラスの熱的安定性を改善しつつ屈折率を高める成分と記載されているZrO_(2)(段落【0023】)の一部を、屈折率を高め、熱的安定性を低下させにくい成分と記載されているLa_(2)O_(3)(段落【0018】及び【0020】)から置換し、いずれも屈折率を高める成分と記載されているTiO_(2)とNb_(2)O_(3)(段落【0024】)を置き換えることによって、本願発明1の屈折率ndが1.800?1.830の範囲を満たしつつ、アッベ数を47.0に近い値にまで増やすことを当業者であれば認識できるから、上記物性要件は、発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できる範囲のものといえる。 (3)組成要件が物性要件に対して広すぎる点に関して ア La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)及びYb_(2)O_(3)の合計含有量の上限値及び下限値について 本願発明1では、「La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?67%」と新たに特定されている。 そして、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)及びYb_(2)O_(3)の合計含有量の上限値に近い実施例におけるガラス(No.11)の当該合計含有量が63.1%であるところ、その屈折率は1.81791、アッベ数は46.05であり、本願発明1の物性要件を十分な余裕をもって満たしているから、ガラス(No.11)のガラス組成において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本願明細書にガラスの熱的安定性や熔融性を改善する成分であって、含有量が多くなると屈折率が低下する傾向がある成分と記載されているB_(2)O_(3)及びSiO_(2)(段落【0015】?【0017】)の一部を、分散を高めずに屈折率を高める成分と記載されているLa_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)(段落【0018】)に置き換えると共に、屈折率を高める成分と記載されているZrO_(2)及びNb_(2)O_(5)(段落【0023】及び【0024】)の一部をLa_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)に置き換えることによって、本願発明1の物性要件を満たしつつ、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)及びYb_(2)O_(3)の合計含有量が上限値(67%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、また、このように組成調整されたガラスが、実施例のガラス(No.11)と同様に、上記3(1)で示した本願発明1の課題を解決できることも当業者であれば認識できる。 また、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)及びYb_(2)O_(3)の合計含有量の下限値に近い実施例におけるガラス(No.17)の当該合計含有量が57.4%であるところ、その屈折率ndは1.80362、アッベ数νdは46.51であり、本願発明1の物性要件を十分な余裕をもって満たしているから、ガラス(No.17)のガラス組成において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本願明細書に屈折率を高め且つ熱的安定性を低下させにくい成分と記載されているLa_(2)O_(3)(段落【0018】及び【0020】)の一部を、ガラスの熱的安定性を改善させつつ屈折率を高める成分と記載されているZrO_(2)(段落【0023】)、高屈折率成分と記載されているTa_(2)O_(5)(段落【0027】)、及び、ガラスの熱的安定性や熔融性を改善する成分と記載されているB_(2)O_(3)(段落【0017】)に置き換えることによって、本願発明1の物性要件を満たしつつ、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)及びYb_(2)O_(3)の合計含有量が下限値(55%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、また、このように組成調整されたガラスが、実施例のガラス(No.17)と同様に、上記3(1)で示した本願発明1の課題を解決できることも当業者であれば認識できる。 イ ZrO_(2)含有量の上限値及び下限値について 本願発明1では、「ZrO_(2)含有量が2?10%」と新たに特定されている。 そして、ZrO_(2)含有量の上限値に最も近い実施例におけるガラスは、当該含有量が8.7%のガラス(No.23)であるところ、その屈折率ndは1.80445、アッベ数νdは46.42であり、本願発明1の物性要件を十分な余裕をもって満たしているから、ガラス(No.23)のガラス組成において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本願明細書に屈折率を高め且つ熱的安定性を低下させにくい成分と記載されているLa_(2)O_(3)(段落【0018】及び【0020】)の一部を、ガラスの熱的安定性を改善しつつ屈折率を高める成分と記載されているZrO_(2)(段落【0023】)に置き換えると共に、いずれも屈折率を高める成分と記載されているTiO_(2)の一部をNb_(2)O_(3)(段落【0024】)に置き換えることによって、本願発明1の物性要件を満たしつつ、ZrO_(2)含有量の上限値(10%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、また、このように組成調整されたガラスが、実施例のガラス(No.23)と同様に、本願発明1の課題を解決できることも当業者であれば認識できる。 また、ZrO_(2)含有量の下限値に最も近い実施例におけるガラスは、当該含有量が6.2%のガラス(No.13)であるところ、その屈折率ndは1.8169、アッベ数νdは45.64であり、本願発明1の物性要件を十分な余裕をもって満たしているから、ガラス(No.13)のガラス組成において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本願明細書にガラスの熱的安定性を改善しつつ屈折率を高める成分と記載されているZrO_(2)(段落【0023】)の一部を、ガラスの熱的安定性を改善しつつ屈折率を高めアッベ数の調整が可能な成分と記載されているNb_(2)O_(5)(段落【0013】及び【0024】)やガラスの熱的安定性や熔融性を改善する成分と記載されているB_(2)O_(3)(段落【0017】)に置き換えることによって、本願発明1の物性要件を満たしつつ、ZrO_(2)含有量の下限値(2%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、また、このように組成調整されたガラスが、実施例のガラス(No.13)と同様に、本願発明1の課題を解決できることも当業者であれば認識できる。 ウ TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)及びTa_(2)O_(5)の合計含有量の上限値について 本願発明1では、「TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%」と新たに特定されている。 そして、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)及びTa_(2)O_(5)の合計含有量の上限値に最も近い実施例におけるガラスは、当該含有量が4%のガラス(No.13)であるところ、その屈折率ndは1.8169、アッベ数νdは45.64であり、本願発明1の物性要件を十分な余裕をもって満たしているから、ガラス(No.13)のガラス組成において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本願明細書にガラスの熱的安定性を改善しつつ屈折率を高める成分と記載されているZrO_(2)(段落【0023】)の一部を、ガラスの熱的安定性を改善しつつ屈折率を高めアッベ数の調整が可能な成分と記載されているNb_(2)O_(5)(段落【0013】及び【0024】)に置き換えると共に、ZrO_(2)の一部を、ガラスの熱的安定性や熔融性を改善する成分と記載されているB_(2)O_(3)(段落【0017】)に置き換えることによって、本願発明1の物性要件を満たしつつ、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)及びTa_(2)O_(5)の合計含有量の上限値(5.0%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、また、このように組成調整されたガラスが、実施例のガラス(No.13)と同様に、本願発明1の課題を解決できることも当業者であれば認識できる。 エ WO_(3)含有量の上限値について 本願発明1では、「WO_(3)含有量が0?2%」と特定されている。 そして、WO_(3)含有量が0%の実施例のガラス(No.14)に着目すると、その屈折率ndは1.81608、アッベ数νdは46.21であり、本願発明1の物性要件を十分な余裕をもって満たしているから、ガラス(No.14)のガラス組成において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本願明細書に屈折率を高める成分と記載されているWO_(3)、ZrO_(2)、Ta_(2)O_(5)、La_(2)O_(3)及びNb_(2)O_(3)(段落【0018】、【0023】、【0024】及び【0030】)の間で、これら成分のアッベ数の影響(段落【0018】及び【0024】)や紫外線の透過率の影響(段落【0005】及び【0030】)を考慮して置換することによって、本願発明1の物性要件を満たしつつ、WO_(3)含有量の上限値(2%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、また、このように組成調整されたガラスが、実施例のガラス(No.14)と同様に、本願発明1の課題を解決できることも当業者であれば認識できる。 オ SiO_(2)及びB_(2)O_(3)との合計含有量の上限値及び下限値について 本願発明1では、「SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が23?32%」と新たに特定されている。 そして、B_(2)O_(3)及びSiO_(2)との合計含有量の上限値に最も近い実施例におけるガラスは、当該合計含有量が30%のガラス(No.15)であるところ、その屈折率ndは1.80405、アッベ数νdは46.32であり、本願発明1の物性要件を十分な余裕をもって満たしているから、ガラス(No.15)のガラス組成において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本願明細書に分散を高めずに屈折率を高める成分と記載されているLa_(2)O_(3)やY_(2)O_(3)(段落【0018】)の一部を、ガラスの熱的安定性や熔融性を改善する成分と記載されているB_(2)O_(3)(段落【0017】)、及び、熱的安定性を改善しつつ屈折率を高める成分と記載されているZrO_(2)(段落【0023】)に置き換えることによって、本願発明1の物性要件を満たしつつ、B_(2)O_(3)及びSiO_(2)との合計含有量が上限値(32%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、また、このように組成調整されたガラスが、実施例のガラス(No.15)と同様に、本願発明1の課題を解決できることも当業者であれば認識できる。 また、B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量の下限値に最も近い実施例のガラスは、当該合計含有量が26.5%のガラス(No.11)であるところ、その屈折率は1.81791、アッベ数は46.05であり、本願発明1の物性要件を十分な余裕をもって満たしているから、ガラス(No.11)のガラス組成において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本願明細書にガラスの熱的安定性や熔融性を改善する成分であって、含有量が多くなると屈折率が低下する傾向がある成分と記載されているB_(2)O_(3)及びSiO_(2)(段落【0015】?【0017】)の一部を、分散を高めずに屈折率を高める成分と記載されているLa_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)(段落【0018】)に置き換えると共に、屈折率を高める成分と記載されているZrO_(2)及びNb_(2)O_(5)(段落【0023】、及び【0024】)の一部を、アッベ数の調整に有効であり熔融性を改善する成分と記載されているZnO(段落【0028】)に置き換えることによって、本願発明1の物性要件を満たしつつ、B_(2)O_(3)及びSiO_(2)との合計含有量が下限値(23%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、また、このように組成調整されたガラスが、実施例のガラス(No.11)と同様に、本願発明1の課題を解決できることも当業者であれば認識できる。 カ 質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))の上限値について 本願発明1では、「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が2.1/28.9以上9/26.6以下」と新たに特定されている。 そして、質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))の上限値(9/26.6)のガラスは、実施例のガラス(No.14)であるから、本願発明1の物性要件を満たしつつ、質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が上限値(9/26.6)であるガラス組成が得られること、及び、当該ガラス組成のガラスが本願発明1の課題を解決できることを当業者が認識できる。 (4)小括 以上で検討したとおり、本願発明1は、その課題を解決できるものであって、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 また、本願発明1を引用する本願発明2?14についても同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 よって、当審拒絶理由は理由がない。 7 情報提供に対する判断 令和1年8月1日付けの刊行物等提出書において、本願発明1では、「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が2.1/28.9以上9/26.6以下」と特定され、SiO_(2)は必須成分であるのに対して、本願発明1を引用する本願発明5では、「SiO_(2)含有量が5質量%以下」とのSiO_(2)が0%を含む任意成分として規定されているため、本願発明5は明確でない旨が主張されている。 しかしながら、本願発明5の「SiO_(2)含有量が5質量%以下」は、本願発明1の「SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が23?32%」及び「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が2.1/28.9以上9/26.6以下」との特定事項により把握されるSiO_(2)含有量の範囲(約1.67%?約10.83%)において、SiO_(2)含有量の上限値を減縮するものであることは明らかであるから、本願発明5は明確である。 よって、上記主張は採用できない。 8 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-09-24 |
出願番号 | 特願2014-202516(P2014-202516) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(C03C)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 増山 淳子 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 金 公彦 |
発明の名称 | ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子 |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |