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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1355386
審判番号 不服2018-12251  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-12 
確定日 2019-10-08 
事件の表示 特願2014-139194「非水電解液及びこれを備えたリチウムイオン二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 1日出願公開、特開2016- 18619、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年 7月 4日の出願であって、平成30年 2月 5日付けで拒絶理由が通知され、同年 4月 4日付けで意見書、手続補正書が提出され、同年 6月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年 9月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」とい、これらを総称して「本願発明」という。)は、平成30年 4月 4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
下記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物と、芳香族化合物とを含み、
前記芳香族化合物は、最高占有分子軌道のエネルギー準位が-7eV以下のフッ素含有芳香族化合物であることを特徴とする非水電解液。
(XSO_(2))(FSO_(2))NLi (1)
(一般式(1)中、Xはフッ素原子、炭素数1?6のアルキル基又は炭素数1?6のフルオロアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記フッ素含有芳香族化合物は、4.6V以上で分解し、重合を開始するものである請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記フッ素含有芳香族化合物が、フッ素含有ベンゼン、フッ素含有ビフェニル、フッ素含有アルキル基置換ベンゼンよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の非水電解液。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
定格充電電圧が4.25V?4.5Vである請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。」

第3 原査定の概要
原査定(平成30年 6月13日付け拒絶査定)における拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1.本願請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2.本願請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.国際公開第2014/024990号

第4 引用文献、引用発明
1.引用文献1について
1-1.引用文献1の記載事項
本願の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、「非水系電解液、およびそれを用いた非水系電解液二次電池」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。(「…」によって記載の省略を表す。また、下線は当審による。以下同様。)

1ア 「 請求の範囲
[請求項1]
金属イオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と金属イオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池に用いられる非水系電解液であって、下記一般式(1)で表される化合物を含有し、更に、不飽和結合を有する環状カーボネート化合物、フッ素原子を有する環状カーボネート化合物、ニトリル化合物、イソシアネート化合物、芳香族炭化水素、フッ素化ベンゼン化合物、不飽和結合を有する脂肪族置換基を有さずにSi-Si結合を有する化合物、S=O基を有する化合物、下記一般式(6)で表される化合物、モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、非水系電解液。


(式(1)中、R^(1) ?R^(6) はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を表す。)

(式(6)中、Mは、遷移金属、周期表の第13、14若しくは15族元素、又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1?6の炭化水素基を表す。前記Mが遷移金属、又は周期表の13、14若しくは15族元素の場合、Z^(a+)は、金属イオン、プロトン、又はオニウムイオンであり、aは1?3、bは1?3、lはb/a、mは1?4、nは1?8、tは0?1、pは0?3、qは0?2、rは0?2をそれぞれ表す。前記Mがヘテロ原子を有していてもよい炭素数1?6の炭化水素基の場合、Z^(a+)は存在せず、a=b=l=n=0、m=1、tは0?1、pは0?3、qは0?2、rは0?2を表す。
R^(21)は、ハロゲン原子、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1?20の炭化水素基、又はX^(3)R^(24)を表し、n個存在するR^(21)はそれぞれが結合して環を形成してもよい。R^(22)は、直接結合、又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1?6の炭化水素基を表し、X^(1)?X^(3)はそれぞれ独立してO、S、又はNR^(25)を表す。R^(23)及び前記R^(21)又はR^(22)におけるR^(24)又はR^(25)は、それぞれ独立して水素原子、又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1?10の炭化水素基を表し、前記R^(23)?R^(25)が複数個存在する場合、それぞれが結合して環を形成してもよい。
Y^(1)及びY^(2)はそれぞれ独立してC、S、又はSiを表す。ただし、前記Y^(1)又はY^(2)がC又はSiの場合、q又はrはそれぞれ0又は1であり、前記Y^(1)又はY^(2)がSの場合、q又はrはそれぞれ2である。)

[請求項8]
前記フッ素化ベンゼン化合物が、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン及びベンゾトリフルオリドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1?7のいずれか1項に記載の非水系電解液。

[請求項17]
金属イオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と金属イオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、請求項1?16のいずれか1項に記載の非水系電解液を備える非水系電解液二次電池。」

1イ 「 技術分野
[0001]
本発明は、非水系電解液、およびそれを用いた非水系電解液二次電池に関するものである。
背景技術
[0002]
電子機器の急速な進歩に伴い、二次電池に対する高容量化への要求が高くなっており、ニッケル・カドミウム電池やニッケル・水素電池に比べてエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池等の非水系電解液電池が広く使用され、また活発に研究されている。
非水系電解液電池に用いる電解液は、通常、主として電解質と非水系溶媒とから構成されている。リチウムイオン二次電池の電解液としては、LiPF_(6) 、LiBF_(4) 、LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)等の電解質を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の高誘電率溶媒と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の低粘度溶媒との混合溶媒に溶解させた非水系電解液が用いられている。また、上記のような電解液をマトリックスポリマーに含有させ、ゲル状態にしたゲル電解質も用いられている。
[0003]
リチウムイオン二次電池等に代表される非水系電解液二次電池は、充放電を繰り返すと、電解質が電極上で分解したり、電池を構成する材料の劣化などが起き、電池の容量が低下する。また、場合によっては電池の膨れや発火、爆発などに対する安全性が低下する可能性もある。
これまでに、酸無水物を非水系電解液中に含有させることで、非水系電解液二次電池の電池特性を改善する方法が提案されている。例えば、特許文献1では、分子内に炭素-炭素不飽和結合及び/または芳香環を有する無水カルボン酸を含有する非水系溶媒と電解質とからなることを特徴とする非水系電解液が提案されている。それによれば、Li金属と天然黒鉛負極を用いたコインセルを充電状態で60℃に保った時の漏れ電流が抑制される。
[0004]
また、特許文献2では、非水系溶媒、電解質、非水系溶媒および電解質の合計量に対して0.0005?0.7重量%のフッ化水素、並びに、非水系溶媒と電解質の合計量に対して、0.01?4.0重量%のカルボキシル基または無水カルボン酸基を有する化合物を含む非水系電解液が提案されている。それによれば、天然黒鉛負極とLiCoO_(2) 正極を用いたコインセルを用いると、負荷特性および4.2Vにおいて60℃で7日間保存した後の残存容量が改善する。
[0005]
また、特許文献3では、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る負極及び正極と非水系電解液とを備え、該負極がSi原子、Sn原子及びPb原子よりなる群から選ばれる少なくとも一種の原子を有する負極活物質を含む非水系電解液二次電池に用いられる非水系電解液であって、不飽和結合及びハロゲン原子のうち少なくとも一方を有するカーボネートと、特定構造の酸無水物とを少なくとも含有することを特徴とする、非水系電解液が提案されている。それによれば、特定の負極と、不飽和結合及びハロゲン原子のうち少なくとも一方を有するカーボネートと、特定構造の酸無水物の条件が揃うことで、サイクル特性が向上する。
先行技術文献
特許文献
[0006]
特許文献1:日本国特開2001-057236号公報
特許文献2:日本国特開2001-307770号公報
特許文献3:日本国特開2007-299541号公報」

1ウ 「 発明が解決しようとする課題
[0007]
しかしながら特許文献1及び2にはいずれも、非水系電解液中のカルボン酸に関する記載はなく、また、分子内に炭素-炭素不飽和結合及び/または一定の含有量の芳香環を有する無水カルボン酸と特定の化合物を組み合わせることにより、特異的に特性が向上するという記載も示唆もされていない。特許文献3にも、非水系電解液中のカルボン酸に関する記載はなく、また、数ある酸無水物の中でも特定構造の酸無水物を特定の化合物と組み合わせることで特異的に特性が向上することについては何ら示唆されていない。また、これら特許文献1?3のいずれにも、非水系電解液中のカルボン酸によってサイクル特性が低下する恐れがあることについても何ら示唆されていない。
[0008]
上記実情に鑑みて本発明では、非水系電解液二次電池において、サイクル特性・負荷特性を向上させる非水系電解液と、この非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供することを課題とする。また、当該二次電池をサイクルさせた際のガス発生を抑制することも課題とする。」

1エ 「 発明の効果
[0022]
本発明によれば、負荷特性やサイクル特性などに優れた非水系電解液二次電池を得ることができる。また、充放電サイクルを繰り返した際のガス発生量を抑制することができる。」

1オ 「 発明を実施するための形態
[0023]
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、以下に記載する説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は請求項に記載の要旨を超えない限り、これらの内容に特定されるものではない。
ここで“重量%”及び“重量部”と、“質量%”及び“質量部”とはそれぞれ同義である。

[0029]
〔1-1.一般式(1)で表される化合物〕
上記一般式(1)中のR^(1) ?R^(6) はそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を表し、好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基である。なお、R^(1) ?R^(6) がアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基である場合、これらに含まれる水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
[0030]
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、アミル基、t-アミル基、2-エチルヘキシル基などが挙げられる。
アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、2-ブテニル基などが挙げられる。
アルキニル基の具体例としては、エチニル基、プロパルギル基などが挙げられる。
アリール基の具体例としては、フェニル基、2-トリル基、3-トリル基、4-トリル基、2-t-ブチルフェニル基、3-t-ブチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、2-t-アミルフェニル基、3-t-アミルフェニル基、4-t-アミルフェニル基などが挙げられる。
[0031]
化合物(1)の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。

[0033]
上記化合物の中でも、下記化合物A?Dを用いることが好ましい。
[0034]

[0035]
中でも、より好ましくは化合物A?Cであり、更に好ましくは化合物Bである。これらの化合物は、入手・製造が比較的容易であり、適度な反応性を有するため、電池特性の向上効果も大きい。
本発明の非水系電解液αは、化合物(1)を含有することを特徴としているが、含有する化合物(1)は1種類に限られず、複数種を併用してもよい。
[0036]
また、化合物(1)の含有量(複数種を併用する場合はその合計量)としては、特に制限はないが、非水系電解液α全量に対し、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。上記の範囲内であると、安定な皮膜を形成できるだけでなく、抵抗の上昇も抑制できるので、電池特性を特に向上させることが期待できる。
[0037]
〔1-2.不飽和結合を有する環状カーボネート化合物、フッ素原子を有する環状カーボネート化合物、ニトリル化合物、イソシアネート化合物、芳香族炭化水素、フッ素化ベンゼン化合物、不飽和結合を有する脂肪族置換基を有さずにSi-Si結合を有する化合物、S=O基を有する化合物、一般式(6)で表される化合物、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩〕
本発明の非水系電解液αは、不飽和結合を有する環状カーボネート化合物、フッ素原子を有する環状カーボネート化合物、ニトリル化合物、イソシアネート化合物、芳香族炭化水素、フッ素化ベンゼン化合物、不飽和結合を有する脂肪族置換基を有さずにSi-Si結合を有する化合物、S=O基を有する化合物、一般式(6)で表される化合物、モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する事を特徴とし、好ましくは、ニトリル化合物、イソシアネート化合物、芳香族炭化水素、フッ素化ベンゼン化合物、不飽和結合を有する脂肪族置換基を有さずにSi-Si結合を有する化合物、S=O基を有する化合物、一般式(6)で表される化合物、モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、更に好ましくは、ニトリル化合物、イソシアネート化合物、芳香族炭化水素、フッ素化ベンゼン化合物、一般式(6)で表される化合物、モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。

[0052]
(フッ素化ベンゼン化合物)
フッ素化ベンゼン化合物としては、フッ素化されたベンゼン化合物であれば限定されるものではないが、具体的には、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド等が挙げられる。
[0053]
上記の中ではフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリドが好ましい。これらのフッ素化ベンゼン化合物は本発明における化合物(1)と併用すると電池特性が特に向上するため好ましい。
本発明の非水系電解液αにフッ素化ベンゼン化合物が含有される場合、フッ素化ベンゼン化合物は1種類に限られず、複数種を併用してもよい。
[0054]
また、非水系電解液α全量に対し、フッ素化ベンゼン化合物の含有量として(複数種を併用する場合はその合計量)は、通常0.01質量%以上、通常20質量%以下であり、下限値として好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、上限値として好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。上記の範囲内であると、化合物(1)の効果を損なうことなく、電池特性を特に向上させることが期待できる。

[0091]
〔1-3.電解質〕
本発明の非水系電解液αに用いる電解質に制限は無く、目的とする非水系電解液二次電池用電解液として用いられるものであれば公知のものを任意に採用することができる。本発明の非水系電解液αをリチウム二次電池に用いる場合には、通常は、電解質としてリチウム塩を用いる。
[0092]
電解質の具体例としては、LiClO_(4) 、LiAsF_(6) 、LiPF_(6) 、LiBF_(4) 、LiSbF_(6) 、LiSO_(3)F、LiN(FSO_(2))_(2)等の無機リチウム塩;
LiCF_(3)SO_(3)、LiN(FSO_(2))(CF_(3)SO_(2))、LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiN(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)、リチウム環状1,3-ヘキサフルオロプロパンジスルホニルイミド、リチウム環状1,2-テトラフルオロエタンジスルホニルイミド、LiN(CF_(3)SO_(2))(C_(4)F_(9)SO_(2))、LiC(CF_(3)SO_(2))_(3)、LiPF_(4)(CF_(3))_(2)、LiPF_(4)(C_(2)F_(5))_(2)、LiPF_(4)(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiPF_(4)(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)、LiBF_(2)(CF_(3))_(2)、LiBF_(2)(C_(2)F_(5))_(2)、LiBF_(2)(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiBF_(2)(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)等の含フッ素有機リチウム塩;
リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート等の含ジカルボン酸錯体リチウム塩などが挙げられる。
[0093]
これらのうち、非水系溶媒への溶解性・解離度、電気伝導度および得られる電池特性の点から、LiPF_(6)、LiBF_(4)、LiSO_(3)F、LiN(FSO_(2))_(2)、LiN(FSO_(2))(CF_(3)SO_(2))、LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiN(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートが好ましく、特にLiPF_(6)、LiBF_(4)が好ましい。
[0094]
また、電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。中でも、特定の無機リチウム塩の2種を併用したり、無機リチウム塩と含フッ素有機リチウム塩とを併用したりすると、トリクル充電時のガス発生が抑制されたり、高温保存後の劣化が抑制されるので好ましい。特に、LiPF_(6)とLiBF_(4)との併用や、LiPF_(6)、LiBF_(4)等の無機リチウム塩と、LiCF_(3)SO_(3)、LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiN(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)等の含フッ素有機リチウム塩との併用が好ましい。

[0097]
本発明の非水系電解液α中におけるリチウム塩の濃度は、本発明の要旨を損なわない限り任意であるが、通常0.5mol/L以上、好ましくは0.6mol/L以上、より好ましくは0.8mol/L以上である。また、通常3mol/L以下、好ましくは2mol/L以下、より好ましくは1.8mol/L以下、更に好ましくは1.6mol/L以下の範囲である。リチウム塩の濃度が上記範囲にあることにより、非水系電解液の電気伝導率が十分となり、また、粘度上昇による電気伝導率が低下、本発明の非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池の性能の低下を抑制する。」

1カ 「実施例
[0259]
以下、実施例、比較例及び参考例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
[0260]
<<試験例A>>
<非水系電解液αの調製>
[実施例1A-1]
乾燥アルゴン雰囲気下、環状カーボネートとしてエチレンカーボネート(EC)、鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)をEC:DMC:EMC=30:30:40の体積比率で混合し、十分に乾燥したLiPF_(6)を1.0mol/Lとなるように加えた(これを「基準電解液」と呼ぶ。)。基準電解液全体に対してメタクリル酸無水物を0.5質量%、ビニレンカーボネート(VC)を1質量%となるように加えて非水系電解液を調製した。
[0261]
[実施例1A-2?1A-8、比較例1A-1?1A-8、参考例1A-1?1A-11]
実施例1A-1と同様にして基準電解液を調製し、得られた基準電解液全体に対して、下記表1に記載の化合物をそれぞれ割合で加えて、各々の非水系電解液を調製した。ただし、比較例1A-1は基準電解液そのものである。

[0264]
<コイン型電池の作製>
2032タイプのコイン型セルを用いて、上記正極と上記負極をポリエチレン製セパレータを挟んで対向させ、実施例1A-1?1A-8、比較例1A-1?1A-9及び参考例1A-1?1A-11で得られた電解液をそれぞれ加えて、コイン型の非水系電解液二次電池を作製した。
[0265]
<サイクル試験>
上記のように作製したコイン型電池を、25℃において、4.2Vまで充電した後に3Vまで放電し、容量が安定するまでコンディショニングを行った。その後、25℃において1.2mAの電流値で4.2Vまで充電、3Vまで放電を繰り返してサイクル試験を行った。
このとき、コンディショニング後の放電容量を「初期容量」、70サイクル後の容量を「サイクル後容量」とし、(サイクル後容量/初期容量)×100で求められる値を「サイクル容量維持率(%)」とした。結果を表1に示す。なお、表中の含有量はいずれも重量%を表す。
[0266]

[0267]
表1から次のことが言える。基準電解液を用いた比較例1A-1に対し、化合物(1)として、メタクリル酸無水物のみを使用した比較例1A-2および、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、t-ペンチルベンゼン又はt-ブチルベンゼンのみをそれぞれ使用した比較例1A-3、1A-4、1A-6、1A-7はいずれもサイクル容量維持率が向上したものの、その効果は小さかった。また、アジポニトリル、ヘキサメチレンジイソシアネートを使用した比較例1A-5、1A-8では、サイクル容量維持率が低下した。
[0268]
一方で、化合物(1)としてのメタクリル酸無水物と、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、アジポニトリル、t-ペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、ヘキサメチレンジイソシアネート又はフルオロベンゼンとをそれぞれ同時に用いた実施例1A-1?1A-8では、サイクル容量維持率が大きく向上することが確認できた。
[0269]
一方で、本発明における化合物(1)に該当しない化合物である酸無水物として、例えば、日本国特開2000-268859号公報により公知であるコハク酸無水物を使用した参考例1A-1は、基準電解液のみを用いた比較例1A-1に対しサイクル容量維持率が向上する。しかしながら、化合物(1)に該当しない酸無水物であるコハク酸無水物を用い、さらにビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、アジポニトリル、t-ペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ヘキサメチレンジイソシアネート又はフルオロベンゼンをそれぞれ同時に用いた参考例1A-1?1A-8では、参考例1A-1に対しサイクル容量維持率の向上は確認できなかった。
[0270]
また、化合物(1)に該当しない酸無水物としてイソ酪酸無水物のみを使用した参考例1A-9は、基準電解液のみを用いた比較例1A-1に対してサイクル容量維持率が向上する。しかしながら、化合物(1)に該当しない酸無水物であるイソ酪酸無水物とビニレンカーボネートを同時に用いた参考例1A-10では、化合物(1)であるメタクリル酸無水物とビニレンカーボネートを同時に用いた実施例1A-1に比べると、化合物(1)とビニレンカーボネートの相乗効果は小さいものであった。さらに、化合物(1)に該当しない酸無水物であるイソ酪酸無水物とヘキサメチレンジイソシアネートを同時に用いた参考例1A-11は化合物(1)に該当しない酸無水物としてイソ酪酸無水物を使用した参考例1A-9よりもサイクル容量維持率が低下してしまった。
[0271]
このことから、特定構造を有する化合物(1)と、本発明に記載の化合物を組み合わせた非水系電解液とすることで、特異的な特性向上効果が認められ、その特異的な効果は公知の他の酸無水物を使用しても得られないといえる。
これらの特異的な効果が発現される理由は必ずしも明確ではないが、化合物(1)が負極表面で反応するときに、組み合わせる化合物が同時、または追随して反応することで、良好な性質を有する皮膜を形成するためであると考えられる。

[0303]
[実施例7A-1]
基準電解液1全体に対してメタクリル酸無水物を0.5質量%、ビニレンカーボネートを2質量%となるように加えて電解液を調製した。
[0304]
[実施例7A-2、比較例7A-1、実施例8A-1?8A-3、比較例8A-1?8A-3]
基準電解液1全体に対して、下記表7に記載の割合で化合物を加えて電解液を調製した。
[0305]
<負極の作製>
実施例1A-1と同様に作製した負極活物質の塗膜を、活物質が幅30mm、長さ40mmとなるように切り出して負極とした。作製した負極は摂氏60度で12時間減圧乾燥して用いた。
[0306]
<正極の作製>
実施例1A-1と同様に作製した正極活物質の塗膜を、活物質が幅30mm、長さ40mmとなるように切り出して正極とした。作製した正極は摂氏80度において12時間減圧乾燥して用いた。
[0307]
<二次電池の作製>
実施例4A-1と同様にして二次電池を作製した。
[0308]
<高温保存試験>

実施例8A-1?8A-3では、上記のように作製した電池を、25℃において、4.35Vまで充電した後3Vまで放電し、容量が安定するまでコンディショニングを行った。その後、4.35Vに充電した状態で80℃の条件下、3日間放置する高温保存試験を行った。高温保存試験後の発生ガス量を測定し、比較例8A-1を100としたときの発生ガス量を表8に示した。
[0309]

[0310]
ビニレンカーボネートを単独で用いた比較例7A-1に対し、式(1)で表される化合物であるメタクリル酸無水物およびビニレンカーボネートを使用した実施例7A-1および7A-2は高温保存後のガス発生量も抑制された。
[0311]

[0312]
ビニレンカーボネートを単独で用いた比較例8A-1に対し、式(1)で表される化合物であるメタクリル酸無水物およびビニレンカーボネートを使用した実施例8A-1および8A-2は高温保存後のガス発生量も抑制された。これにより、4.35Vにおいても本発明の有効性が示された。
ビニレンカーボネートを単独で用いた比較例8A-1に対し、ビニレンカーボネートとフルオロベンゼンを同時に用いた比較例8A-2は高温保存後のガス発生量が抑制された。ここで、フルオロベンゼンの含有量を10質量%に増加させた比較例8A-3に対し、式(1)で表される化合物であるメタクリル酸無水物およびビニレンカーボネートとフルオロベンゼンを同時に用いた実施例8A-3は、非常に大きなガス発生抑制効果があることが分かった。これにより、フルオロベンゼンを増量しても到達しえない効果を、本発明は有していることが明らかになった。」

1-2.引用文献1に記載された発明
ア 上記1ウによれば、引用文献1において解決しようとする課題は、非水系電解液二次電池において、サイクル特性・負荷特性を向上させる非水系電解液と、この非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供することであり、また、当該二次電池をサイクルさせた際のガス発生を抑制することも課題としている(以下、単に「課題」という。)。

イ 上記アの課題を解決するための手段として、上記1アによれば、金属イオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と金属イオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池に用いられる非水系電解液であって、一般式(1)で表される化合物を含有し、更に、不飽和結合を有する環状カーボネート化合物、フッ素原子を有する環状カーボネート化合物、ニトリル化合物、イソシアネート化合物、芳香族炭化水素、フッ素化ベンゼン化合物、不飽和結合を有する脂肪族置換基を有さずにSi-Si結合を有する化合物、S=O基を有する化合物、一般式(6)で表される化合物、モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する非水系電解液が開示されている。

ウ 上記1カによれば、上記アの課題を解決し得る、上記イの非水系電解液の具体例として、メタクリル酸無水物とフルオロベンゼンとを含有する非水電解液(実施例1A-8)や、メタクリル酸無水物とビニレンカーボネートとフルオロベンゼンとを含有する非水電解液(実施例8A-3)等が開示されており、前者ではサイクル容量維持率に優れることが、後者では高温保存試験後の発生ガス量が少ないことが、それぞれ確認されている([0268]、[0312]参照。)。また、当該実施例において、電解質としてはLiPF_(6)のみが用いられている([0260]?[0261]参照。)。

エ 上記ウの具体例の中でも、実施例1A-8は、上記イの構成を過不足なく満たしている例であり、かつサイクル特性の向上という課題の解決が直接的に確認された例であるといえる。

オ そこで、上記1ア?1カの記載及び上記ア?エの検討によれば、実施例1A-8に注目すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「金属イオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と金属イオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池に用いられる非水系電解液であって、メタクリル酸無水物を含有し、更に、フルオロベンゼンを含有し、電解質としてLiPF_(6)を含む、非水系電解液。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1のフルオロベンゼンは、本願実施例の電解液6(【0062】の【表1】、【0063】参照。)でも用いられた最高占有分子軌道のエネルギー準位が-7eV以下であるフッ素含有芳香族化合物である(【0029】参照。)。
イ 本願明細書の段落【0021】、【0034】によれば、本願発明の非水電解液において、一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物は、電解質塩として溶解されるものであるから、引用発明1の「LiPF_(6)」と本願発明1の「一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物」とは、いずれも電解質(電解質塩)である点で共通している。

ウ したがって、本願発明1と引用発明1は、次の点で一致し、相違する。

(一致点)
「電解質と、芳香族化合物を含み、
前記芳香族化合物は、最高占有分子軌道のエネルギー準位が-7eV以下であるフッ素含有芳香族化合物であることを特徴とする非水電解液。」

(相違点)
「非水電解液」に含まれる「電解質」が、本願発明1においては「一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物」であるのに対して、引用発明1は「LiPF_(6)」である点。

(2)相違点についての判断
ア まず、「電解質」として「一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物」を採用する動機付けの有無について検討する。
上記1オの特に[0092]には、電解質の具体例として、無機リチウム塩であるLiPF_(6)と共に、同じく無機リチウム塩であるLiN(FSO_(2))_(2)や、含フッ素有機リチウム塩であるLiN(FSO_(2))(CF_(3)SO_(2))が挙げられており、[0094]には、電解質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよいことが示唆されている。また、[0094]には、無機リチウム塩と含フッ素有機リチウム塩とを併用すると、トリクル充電時のガス発生や高温保存後の劣化が抑制されることも示唆されている。
ここで、上記LiN(FSO_(2))_(2)、LiN(FSO_(2))(CF_(3)SO_(2))は、「一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物」のXがフッ素原子、炭素数1のフルオロアルキル基である場合に相当するから、「一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物」に相当する。
したがって、引用文献1に接した当業者にとって、引用発明1において、電解質として、LiPF_(6)と併用して、LiN(FSO_(2))_(2)やLiN(FSO_(2))(CF_(3)SO_(2))等の「一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物」を採用する動機付けが存在するといえる。

イ 次いで、本願発明における、LiPF_(6)と併用して「一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物」を採用することによる効果について検討する。
「一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物」を採用することによる効果について、本願明細書には、次の記載がある。

2ア 「【0014】
スルホニルイミド化合物(1)は正極にスルホニルイミド化合物由来の成分からなる導電性の良い被膜を形成する。これにより正極の抵抗が低くなり、かつ正極の自己放電が抑えられるため、充放電時や高温放置時の正極電位が高くなる。したがって非水電解液にスルホニルイミド化合物(1)が含まれている場合には正極電位が高い状態となり、電解液材料を酸化させ易いという特徴がある。
【0015】
このような特徴を有する、スルホニルイミド化合物(1)を含む非水電解液に、過充電抑制剤として使用されるシクロヘキシルベンゼン(CHB)やビフェニル(BP)といった芳香族系化合物を添加した場合には電池の放電性能の低下や電池膨れが生じてしまう。これは、CHBやBPは酸化電圧が比較的低い(4.4V?4.5V)ためと推測される。すなわち、スルホニルイミド化合物(1)の影響により正極でのCHBやBPの分解が促進され、対向するセパレーターや負極に分解生成物が堆積し、また、芳香族系化合物の分解ガスが発生するためと考えられる。
【0016】
しかしながら、芳香族系化合物の中でもフッ素原子を有する化合物は比較的酸化電圧が高いものである。また、フッ素含有芳香族化合物の中でもHOMOエネルギー準位が-7.0eV以下である化合物は、酸化電圧が更に高く4.6Vでも分解しにくいものと考えられる。そのため非水電解液中にスルホニルイミド化合物(1)が存在していても正極でのフッ素含有芳香族化合物(3)の分解は進行し難く、負極やセパレーターへの分解生成物の堆積も生じ難くなるため、非水電解液にCHBやBPが含まれる場合のような電池性能の低下が抑制されるものと考えられる。
また、スルホニルイミド化合物(1)は、LiPF_(6)の分解を抑制する事で電解液中でのフッ化水素の発生を抑制し、正極活物質中の遷移金属の溶出を抑制する効果を有することに加え、比較的高いイオン伝導度を示すという効果も有する。
【0017】
以上の効果が相互に作用することによって、スルホニルイミド化合物(1)とフッ素含有芳香族化合物(3)とを含む本発明の非水電解液は高電圧条件下で使用しても電池の性能低下を抑制でき、良好な電池特性を維持できるものと考えられる。また、上述の通りフッ素含有芳香族化合物(3)の分解が抑制されるため、電池が過充電状態となった場合にも電解液中にフッ素含有芳香族化合物(3)が十分存在しており、フッ素含有芳香族化合物(3)に由来する過充電防止性能が発揮され、電池膨れも抑制できるものと推測される。」

2イ 「 【0072】


ウ 上記2アによれば、スルホニルイミド化合物(1)は、正極にスルホニルイミド化合物由来の成分からなる導電性の良い被膜を形成すること、及びこれにより充放電時や高温放置時の正極電位が高い状態となり、電解液材料が酸化され易い状態となることが把握される(段落【0014】参照。)。また、上記2イによれば、電解液1と3との対比から、FBz(フルオロベンゼン)非存在下において、スルホニルイミド化合物(1)であるLIFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)は保管後レートを悪化させることが見て取れる一方、電解液6と10との対比から、FBz存在下において、スルホニルイミド化合物(1)であるLIFSIは、むしろ保管後レートを改善していることが見て取れる。

エ つまり、本願明細書から、スルホニルイミド化合物(1)は電解液材料が酸化されやすい状態とする傾向があり、現に保管後レートを悪化させた例も確認されているが(電解液3)、FBzが共存する系においてはむしろ保管後レートを改善させるという効果が把握される(電解液6)。

オ 次に、上記エで把握された、本願発明における、スルホニルイミド化合物(1)とFBzの共存下での保管後レートの改善効果が格別顕著な効果であるか否かについて検討する。
上記アで検討したとおり、引用文献1には無機リチウム塩と含フッ素有機リチウム塩とを併用することで、「高温保存後の劣化が抑制」されることが記載されている。ここで、引用発明1で用いているLiPF_(6)は無機リチウム塩であり、[0094]に記載されているとおり、LiN(FSO_(2))(CF_(3)SO_(2))等の含フッ素有機リチウム塩を併用すると、「高温保存後の劣化が抑制」されるので好ましい旨が一応は示唆されているといえる。
しかし、引用文献1には当該効果を実際に確認した実施例、比較例は開示されておらず、この「高温保存後の劣化」が保管後レートの悪化を意味するのかは判然とせず、劣化抑制の程度も不明であるし、そもそも、いずれも無機リチウム塩であるLiPF_(6)とLIFSIを併用した場合に「高温保存後の劣化が抑制」されるのかも不明である。しかも、当該効果は電解質単独の効果として記載されており、電解質とFBzが共存した場合の効果については何ら記載されていない。引用文献1の上記1オと1カ以外の部分を精査しても、電解質とFBzとを同時に使用した場合の効果についての記載は存在しない。

カ したがって、電解質であるスルホニルイミド化合物(1)とFBzとの共存下での保管後レートの改善効果は、引用文献1には記載も示唆もされておらず、また当業者にとって周知ないし既知であるともいえないから、当該効果は引用文献1に接した当業者が予測し得ない、格別顕著なものであるといえる。

(3) 小括
以上の検討から、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるとはいえないし、引用発明1において、引用文献1に記載された技術的事項や周知の技術に基づいて、上記相違点1に係る本願発明1の特定事項を採用することが、当業者にとって容易になし得ることであるともいえない。

2.本願発明2?5について
本願発明2?5はいずれも、請求項1を引用することによって、本願発明1の「下記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物と、最高占有分子軌道のエネルギー準位が-7eV以下であるフッ素含有芳香族化合物とを含む」という特定事項を有するから、本願発明1について上記1.で検討したのと同様の理由により、本願発明2?5は、引用文献1に記載された発明ではないし、引用発明1において、引用文献1に記載された技術的事項や周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?5はいずれも、引用文献1に記載された発明ではないし、引用文献1に記載された技術的事項や周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-20 
出願番号 特願2014-139194(P2014-139194)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01M)
P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 池渕 立
中澤 登
発明の名称 非水電解液及びこれを備えたリチウムイオン二次電池  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  

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