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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61G |
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管理番号 | 1355465 |
審判番号 | 不服2018-17525 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-28 |
確定日 | 2019-10-15 |
事件の表示 | 特願2018- 27269号「補助力発生装置付き車椅子」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月29日出願公開、特開2019-141255号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成30年2月19日に出願されたものであって、同年4月25日付けで拒絶理由が通知され、同年7月6日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成30年10月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 <引用文献等一覧> 1.特開平9-131377号公報 2.特開平11-29086号公報 3.特開平11-164853号公報 第3 本願発明 本願請求項1、2に係る発明(以下「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成30年7月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下の発明である。 「 【請求項1】 搭乗者の操作力を補助する補助力を発生する補助力発生装置を備えた補助力発生装置付き車椅子において、 前記補助力発生装置は、電動モータと、該電動モータに電力を供給するバッテリと、前記車椅子が走行する走行路の傾斜状態を検出する傾斜状態検出センサと、該傾斜状態検出センサで検出された前記走行路の傾斜状態及び前記車椅子の総重量に基づいて前記補助力を決定し、前記電動モータが前記補助力を発生するように前記電動モータを制御する制御装置とを備え、 複数の互いに異なる勾配範囲が予め設定されており、 前記制御装置は、前記傾斜状態検出センサで検出された前記走行路の傾斜状態が登り勾配であると判定された場合に、各勾配範囲内で前記補助力が一定となるように、かつ、当該補助力が、前記各勾配範囲内の前記走行路で静止状態にある前記車椅子が登り方向に動き出す力未満となるように決定し、当該決定された補助力を、前記車椅子の停止時及び走行時に発生するように前記電動モータを制御するように構成されていることを特徴とする補助力発生装置付き車椅子。 【請求項2】 請求項1に記載の補助力発生装置付き車椅子において、 前記制御装置は、前記傾斜状態検出センサで検出された前記走行路の傾斜状態が登り勾配であると判定された場合に、前記車椅子が下り方向に動き出すのを阻止する力を前記補助力とすることを特徴とする補助力発生装置付き車椅子。」 第4 引用文献の記載事項等 1 引用文献1について (1)記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付加した。以下同様。)。 (1a)「【請求項1】 車体(3)後部に配置する手押しハンドル(4)を車体(3)に取り付け、その車体(3)の走行用車輪(2)を駆動するための走行補助用の電動モーター(7)を設け、その電動モーター(7)を制御する制御手段(8)を設けてある電動アシスト型手押し車であって、前記車体(3)の前後傾きを検出する傾斜センサ(9)を設け、前記制御手段(8)に、その傾斜センサ(9)の検出値に応じて前記電動モーター(7)を制御する傾斜制御手段(13)を組み込んである電動アシスト型手押し車。」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、介護車や軽運搬車など、走行負荷が大きくなる登板時にその作業者による手押し走行を助けるアシストパワーを有する手押し車で、詳しくは、車体後部に配置する手押しハンドルを車体に取り付け、その車体の走行用車輪を駆動するための走行補助用の電動モーターを設け、その電動モーターを制御する制御手段を設けてある電動アシスト型手押し車に関する。」 (1c)「【0008】〔作用〕登板走行に移ると、傾斜センサの検出値が変化し、登板走行に移ったことが検出される。 そして、傾斜制御手段を制御手段に組み込んで傾斜センサの検出値に応じて電動モーターを制御するようにしてあるから、傾斜センサで登板走行であることが検出されたならば、電動モーターを作動させるとか、或いは、傾斜センサの検出値に応じて電動モーターの力を調整するといった制御を行うことにより、登板走行時には自動的に電動モーターを作動させ、登板走行の終了時には自動的に電動モーターを停止させることができる。 【0009】〔効果〕その結果、登板走行に必要となる電動モーターの発停を自動化できて、登板走行は電動モーターによる助けでその作業者の手押しによる登板走行を軽快に行える一方、登板走行が終了すれば電動モーターが自動停止することで、電力消費を抑制できるようになった。」 (1d)「【0016】 【発明の実施の形態】電動アシスト型手押し車の一例である手押し介護車は、図1に示すように、前部に操向自在な左右一対のキャスター式の走行用車輪1を、かつ、後部に左右一対の走行用車輪2をそれぞれ備えた車体3に、その車体3の後部に配置する手押しハンドル4と被介護者着座用の座席5とを取り付け、前記後部の走行用車輪2を差動装置6を介して駆動するための走行補助用の電動モーター7を設け、その電動モーター7を制御する制御手段8を設けて構成されている。 【0017】かつ、手押し介護車は、車体3の前後傾きを検出する傾斜センサ9と、車体3の前後進を検出する前後進検出手段10とを備えている。 【0018】前記制御手段8は、図2に示すように、走行スイッチ11のオン・オフにより前記電動モーター7を発停する手動制御手段12と、前記傾斜センサ9の検出値に応じて前記電動モーター7を制御する傾斜制御手段13とを備えている。 【0019】前記前後進検出手段10は、後部の走行用車輪2の回転方向(進行方向)を検出する回転センサ14と、回転センサ14の検出回転から前後進を判断する判定器15とから構成されている。 【0020】前記傾斜制御手段13は、前記電動モーター7を前記前後進検出手段10により検出された進行方向に駆動する駆動回路16と、後部の走行用車輪2により電動モーター7を回転駆動させることによりその電動モーター7を発電機として作用させて走行に制動力を付与させる発電制動回路17とを備えている。 【0021】そして、傾斜制御手段13は、前記前後進検出手段10の検出結果が前進の場合には、車体3が設定値以上の前上がり傾斜姿勢に位置するときにのみ、つまり、傾斜センサ9が設定値以上の前上がり傾斜姿勢を検出しているときにのみその傾斜センサ9の検出値に応じて前記駆動回路16を介する前記電動モーター7に対する制御を行う一方、前記前後進検出手段10の検出結果が後進の場合には、車体3が設定値以上の後ろ上がり傾斜姿勢に位置するときにのみ、つまり、傾斜センサ9が設定値以上の後ろ上がり傾斜姿勢を検出しているときにのみその傾斜センサ9の検出値に応じて駆動回路16を介する前記電動モーター7に対する制御を行う手段である。なお、傾斜制御手段13は、傾斜センサ9の検出値が大きいほど、つまり、傾斜の勾配が大きいほど、トルクを大きくするように電動モーター7を制御するものである。 【0022】更に、傾斜制御手段13は、前後進検出手段10の検出結果が前進の場合で、かつ、傾斜センサ9の検出結果が設定値以上の後ろ上がり傾斜姿勢である場合には、発電制動回路17を介して電動モーター7を発電機として制御する一方、前後進検出手段10の検出結果が後進の場合で、かつ、傾斜センサ9の検出結果が設定値以上の前上がり傾斜姿勢出ある場合には、発電制動回路17を介して電動モーター7を発電機として制御するものである。 【0023】まとめると、 【0024】〔1〕前後進検出手段10の検出結果が前進で、かつ、傾斜センサ9の検出結果が前上がり傾斜姿勢の場合には、つまり、前進登板走行時の場合には、駆動回路16を介して電動モーター7を前進側に駆動し、その前進登板走行をアシストし、 【0025】〔2〕前後進検出手段10の検出結果が後進で、かつ、傾斜センサ9の検出結果が後ろ上がり傾斜姿勢の場合には、つまり、後進登板走行時の場合には、駆動回路16を介して電動モーター7を後進側に駆動し、その後進登板走行をアシストし、 【0026】〔3〕前後進検出手段10の検出結果が前進で、かつ、傾斜センサ9の検出結果が後ろ上がりの傾斜姿勢の場合には、つまり、前進降坂走行時の場合には、発電制動回路17を介して電動モーター7を発電機として作用させ、その前進降坂走行に制動力を付与し、 【0027】〔4〕前後進検出手段10の検出結果が後進で、かつ、傾斜センサ9の検出結果が前上がり傾斜姿勢の場合には、つまり、後進降坂走行時の場合には、発電制動回路17を介して電動モーター7を発電機として作用させ、その後進降坂走行に制動力を付与し、 【0028】〔5〕前後進検出手段10の検出結果が前進で、かつ、傾斜センサ9の検出結果が設定値以下の前後傾斜姿勢である場合には、つまり、電動アシスト及び発電制動が不要な平坦地等での前進走行時の場合には、電動モーター7の駆動及び発電機としての使用を停止し、 【0029】〔6〕前後進検出手段10の検出結果が後進で、かつ、傾斜センサ9の検出結果が設定値以下の前後傾斜姿勢である場合には、つまり、電動アシスト及び発電制動が不要な平坦地等での後進走行時の場合には、電動モーター7の駆動及び発電機としての使用を停止するように構成されている。 【0030】車体3には電動モーター7を駆動するための電源であるバッテリー18が搭載されている。 【0031】上記の構成によるときは、設定値以上の勾配の手押し前進登板走行に移れば、電動モーター7が自動的に、かつ、勾配の応じたトルクで駆動され、その手押し前進登板走行を助け、設定値以上の勾配の手押し後進登板走行に移れば、電動モーター7が自動的に、かつ、勾配に応じたトルクで駆動され、その引き上げ後進登板走行を助ける。他方、設定値以上の勾配の引き止め前進降坂走行に移れば、電動モーター7が自動的に発電機になって、制動力を付与し、その引き止め前進降坂走行の引き止めを助けてその降坂走行を安全に行わせ、設定以上の勾配の受け止め後進降坂走行に移れば、電動モーター7が自動的に発電機になって制動力を付与し、その受け止め後進降坂走行の受け止めを助けてその降坂走行を安全に行わせることができるのである。」(合議体注;段落【0022】の「前上がり傾斜姿勢出ある場合」は、「前上がり傾斜姿勢である場合」の誤記と認める。また、段落【0031】の「勾配の応じたトルクで駆動され」は、「勾配に応じたトルクで駆動され」の誤記と認める。) (1e)【図1】は次のとおりである。 (1f)【図2】は次のとおりである。 (2)引用発明 記載事項(1b)、(1e)より、「手押しハンドル4」は「作業者」が操作するものであることは明らかである。 以上のことと、上記(1)の各記載事項からみて、引用文献1には次の発明(【図1】に係る例に対応。以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「車体3の後部に配置され作業者が操作する手押しハンドル4と被介護者着座用の座席5とを車体3に取り付け、 その車体3の走行用車輪2を駆動するための走行補助用の電動モーター7を設け、その電動モーター7を制御する制御手段8を設けてあり、 前記車体3には電動モーター7を駆動するための電源であるバッテリー18が搭載される、作業者による手押し走行を助けるアシストパワーを有する電動アシスト型手押し介護車であって、 前記車体3の前後傾きを検出する傾斜センサ9を設け、前記制御手段8に、その傾斜センサ9の検出値に応じて前記電動モーター7を制御する傾斜制御手段13を組み込んであり、 設定値以上の勾配の手押し前進登板走行に移れば、電動モーター7が自動的に、かつ、勾配の応じたトルクで駆動され、その手押し前進登板走行を助け、設定値以上の勾配の手押し後進登板走行に移れば、電動モーター7が自動的に、かつ、勾配に応じたトルクで駆動され、その引き上げ後進登板走行を助け、設定値以上の勾配の引き止め前進降坂走行に移れば、電動モーター7が自動的に発電機になって、制動力を付与し、その引き止め前進降坂走行の引き止めを助けてその降坂走行を安全に行わせ、設定以上の勾配の受け止め後進降坂走行に移れば、電動モーター7が自動的に発電機になって制動力を付与し、その受け止め後進降坂走行の受け止めを助けてその降坂走行を安全に行わせることができる電動アシスト型手押し介護車。」 2 引用文献2について (1)記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (2a)「【0002】 【従来の技術】主動力による進行方向への推進力を補助するための補助動力源を有する装置としては、例えば、モータを補助動力源とするアシスト自転車(あるいは電気自転車)が知られており、これはバッテリーで駆動されるモータの動力によって運転者の脚力の不足分を補うことで体力の消耗を抑えるようにしたものである。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のアシスト自転車にあっては、坂道において上り方向に発進させようとした場合に勾配抵抗が働くため、平坦路での発進に比べてペダルの踏み込み力をより多く必要とし、よって、坂道の傾斜角がきつくなると自転車を発進し難いという問題がある。 【0004】つまり、図12に概念的に示すように、自転車及び運転者の重量和を「W」とし、勾配角(勾配面が水平面に対してなす角度)を「θ」、重力加速度を「g」とするとき、自転車の進行方向Aに対して逆向きに勾配抵抗「W・g・sinθ」が作用するため、ブレーキ解除後に自転車を進行方向Aにこぎ出す際には、勾配抵抗に抗してかなりの力をクランクに与えなければ自転車が動き出さない。よって、運転者は平坦路での発進に比べて不安定な状態での運転を強いられることになる。 【0005】また、勾配角に対して運転者の脚力が不足する場合には勾配抵抗に打ち勝てずに発進不能となってしまう虞がある。つまり、坂道での上り方向への発進時における補助動力の制御を、平坦路における補助動力の制御と同様に行っていたのでは運転者に負担がかかり、また、坂道での発進に際してペダルに足をかけ難いため、充分な補助力が得られない場合がある。 【0006】そこで、本発明は、発進時において走行抵抗に打ち勝つのに充分な補助動力を得ることで主動力の負担を軽減して、走行の安定化を図ることを課題とする。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明は上記した課題を解決するために、走行抵抗に抗して装置が発進する際に、走行抵抗と推進力とを均衡させるための補助動力を算出してこれを主動力に加算する動力制御手段を設けたものである。 【0008】従って、本発明によれば、発進時の補助動力により推進力と走行抵抗とがつり合った静止状態から僅かな主動力を加えるだけで移動装置を容易に動かすことができる。」 (2b)「【0054】図10は坂道発進モードにおけるアシスト制御の一例を示すものであり、横軸に発進開始時点を起点とした時間「t」をとり、縦軸にアシスト量「AV」(つまり、モータ12による補助動力を規定する量であり、モータ電流に比例する。)をとってAVの時間的変化を示したものである。 【0055】図中の期間「Ta」(0≦t≦tab)において上記モード(A)の制御が行われ、車輪の逆転(自転車の進行方向に対応する方向への車輪の回転を正転とする。)中は、一定時間(これを「Δt」と記す。)毎にアシスト量AVを2倍に増大させていく(つまり、上記した方法(I)においてα=2の場合に相当する 【0056】そして、期間「Tb」において上記モード(B)の制御が行われ、モータの正転及びその停止(勾配抵抗による逆転。)を繰り返すことによって、アシスト量AVの変動幅を時間経過とともに減少させていき、AVを一定値「AVs」に収束させることで、勾配抵抗と補助動力とを均衡させて静止状態にする。 【0057】尚、アシスト量AVの初期値(これを「AV0」と記す。)は、勾配検出用センサ17の検出信号から勾配角θを得て、これから勾配抵抗(=W・g・sinθ)の概算値を求め、これに抗するに足る値に設定する。」 3 引用文献3について (1)記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、以下の事項が記載されている。 (3a)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は電動補助(アシスト)車椅子の惰行制御装置に関し、特に平地走行時には自然な惰行感を確保し、かつ登坂路走行時の惰行時には電動補助が得られるようにした電動補助車椅子の惰行制御装置に関する。 【0002】 【従来の技術】従来から、歩行の不自由な人の補助装置として、電動補助車椅子が開発されている。この電動補助車椅子は、ハンドリムを介して車輪に間欠的に加えられる人力を検知し、その人力に応じた補助動力を車輪に加算することにより、乗り手がハンドリムを回す力を軽減するものである。」 (3b)「【0006】 【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、この発明は、間欠的に加えられる人力に電動補助力を加算して進行する電動補助車椅子の惰行制御装置において、該電動補助車椅子の電動補助力が、登坂角度が所定値以下の路面走行時の惰行時には作用せず、該登坂角度が所定値より大きい路面走行時の惰行時には作用するようにする手段を具備した点に第1の特徴がある。また、電動モータの駆動力を、一方向クラッチを介して駆動輪に伝達するようにした点に第2の特徴がある。 【0007】前記第1の特徴によれば、登坂角度が所定値以下の路面走行時の惰行時には電動補助力が作用しないので、乗り手は自然な惰行感で惰行することができ、該登坂角度が所定値より大きい路面を走行している時には、惰行時にも電動補助力が作用することになり、乗り手は楽に走行することができるようになる。また、第2の特徴によれば、入力軸回転数>出力軸回転数の条件が成立する時に一方向クラッチは接続されるので、前記第1の特徴のような制御が可能になる。」 (3c)「【0032】このことは、電動補助車椅子の乗り手が前進するために、手に力を入れて、ハンドリム9を正方向にぐんと一こぎすると、このときに得られるトルクはb_(1)に示す波形になるが、波形制御部115から出力される波形はd_(1)+d_(2)になることを示している。なお、時間t_(1 )?t_(2)は、乗り手が一こぎして、手をハンドリム9から離した期間、すなわち惰行期間を示している。 【0033】さらに詳細に説明すると、本実施形態では、前記惰行期間の波形d_(2) に関し、平地での惰行では電動補助(アシスト)をしないが、例えば登坂角度が2°を越えると電動補助が作動するような波形になされている。すなわち、図9に示されているように、電動補助車椅子が平地で一こぎされた時の車椅子の速度曲線が(s_(1)+s_(2))になったとし、s_(2)が惰行期間(t_(1)?t_(8))の速度であるとすると、該惰行期間においては、前記ワンウェイクラッチ5の入力軸の回転数が出力軸の回転数より小さくなる(入力軸回転数<出力軸の回転数)ように前記波形d_(2)を設定して、該ワンウェイクラッチ5が非接続状態になるようにする。一方、例えば電動補助車椅子が角度2°の登坂で一こぎされた時の車椅子の速度曲線が(r_(1)+r_(2))であったとし、r_(2)が惰行期間(t_(1)?t_(7))の速度であるとすると、該惰行期間においては、前記ワンウェイクラッチ5の入力軸の回転数が出力軸の回転数とほぼ等しくなるように前記波形d_(2)を設定して、該ワンウェイクラッチ5が接続を開始する状態になるようにする。 【0034】この結果、電動補助車椅子が平地?角度2°の登坂の間の路面を進行している時の惰行時には、電動補助トルクは作用しないが、角度2°以上の登坂を進行している時の惰行時には、電動補助トルクが作用することになる。このため、電動補助車椅子が平地?角度2°の登坂の間の路面を進行している時には、電動補助が働かない自然な惰行感を乗り手に与え、一方角度2°以上の登坂を進行している時には電動補助トルクを受けて惰行距離を延ばすことができるようになる。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 後者の「電動モーター7」は前者の「電動モータ」に相当し、以下同様に、「バッテリー18」は「バッテリ」に、「制御手段8」は「制御装置」に、「傾斜センサ9」は「傾斜状態検出センサ」に、「アシストパワー」は「補助力」にそれぞれ相当する。 また、後者の「電動モーター7」、「バッテリー18」、「傾斜センサ9」、「傾斜制御手段18」を組み込んである「制御手段8」からなるものは、「アシストパワー」を発生させるものであるから、前者の「補助力発生装置」に相当するといえる。 イ 「車椅子」の字義は「歩行の不自由な人などが移動するための、車つきの椅子。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)というものであって、搭乗者自身が操作するものに限られない。そうすると、後者の「電動アシスト型手押し介護車」は「被介護者着座用の座席5」を有するものであるから、上記アも踏まえると、前者の「補助力発生装置付き車椅子」に相当するといえる。 ウ 上記ア、イを踏まえると、後者の 「車体3の後部に配置され作業者が操作する手押しハンドル4と被介護者着座用の座席5とを車体3に取り付け、 その車体3の走行用車輪2を駆動するための走行補助用の電動モーター7を設け、その電動モーター7を制御する制御手段8を設けてあり、 前記車体3には電動モーター7を駆動するための電源であるバッテリー18が搭載される、作業者による手押し走行を助けるアシストパワーを有する電動アシスト型手押し介護車であって、 前記車体3の前後傾きを検出する傾斜センサ9を設け、前記制御手段8に、その傾斜センサ9の検出値に応じて前記電動モーター7を制御する傾斜制御手段13を組み込んであ」るということと、前者の 「搭乗者の操作力を補助する補助力を発生する補助力発生装置を備えた補助力発生装置付き車椅子において、 前記補助力発生装置は、電動モータと、該電動モータに電力を供給するバッテリと、前記車椅子が走行する走行路の傾斜状態を検出する傾斜状態検出センサと、該傾斜状態検出センサで検出された前記走行路の傾斜状態及び前記車椅子の総重量に基づいて前記補助力を決定し、前記電動モータが前記補助力を発生するように前記電動モータを制御する制御装置とを備え」ているということとは、 「操作力を補助する補助力を発生する補助力発生装置を備えた補助力発生装置付き車椅子において、 前記補助力発生装置は、電動モータと、該電動モータに電力を供給するバッテリと、前記車椅子が走行する走行路の傾斜状態を検出する傾斜状態検出センサと、該傾斜状態検出センサで検出された少なくとも前記走行路の傾斜状態に基づいて前記補助力を決定し、前記電動モータが前記補助力を発生するように前記電動モータを制御する制御装置とを備え」ていることの限度で一致するといえる。 エ 以上より、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。 〔一致点〕 「操作力を補助する補助力を発生する補助力発生装置を備えた補助力発生装置付き車椅子において、 前記補助力発生装置は、電動モータと、該電動モータに電力を供給するバッテリと、前記車椅子が走行する走行路の傾斜状態を検出する傾斜状態検出センサと、該傾斜状態検出センサで検出された少なくとも前記走行路の傾斜状態に基づいて前記補助力を決定し、前記電動モータが前記補助力を発生するように前記電動モータを制御する制御装置とを備えている補助力発生装置付き車椅子。」 〔相違点1〕 「操作力」の発生主体について、本願発明1が「搭乗者」であるのに対し、引用発明は「作業者」である点。 〔相違点2〕 「補助力を決定」することについて、本願発明1が「該傾斜状態検出センサで検出された前記走行路の傾斜状態及び前記車椅子の総重量」に基づいているのに対し、引用発明は「傾斜センサ9の検出値に応じて」いるもの、すなわち、走行路の傾斜状態のみに基づくものであって、該傾斜状態に加え「電動アシスト型手押し介護車」の総重量の両者に基づくものではない点。 〔相違点3〕 本願発明1が「複数の互いに異なる勾配範囲が予め設定されており、前記制御装置は、前記傾斜状態検出センサで検出された前記走行路の傾斜状態が登り勾配であると判定された場合に、各勾配範囲内で前記補助力が一定となるように、かつ、当該補助力が、前記各勾配範囲内の前記走行路で静止状態にある前記車椅子が登り方向に動き出す力未満となるように決定し、当該決定された補助力を、前記車椅子の停止時及び走行時に発生するように前記電動モータを制御するように構成されている」という事項を有するのに対し、引用発明は当該事項を有していない点。 (2)判断 事案に鑑み、上記相違点3について検討する。 本願発明1は、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を有することにより、本願明細書(平成30年7月6日の手続補正により補正されている。)の段落【0015】(願書に最初に添付された明細書の段落【0015】に対応。)に記載される「所定の勾配範囲内では、加えられた操作力の大小に関わらず補助力が一定であるため、車椅子の速度を増加させようとした場合には、その分、搭乗者または介助者による操作力を大きくすればよく、特に手動式車椅子から乗り換えたときに速度のコントロール性が良好になる。」という作用効果を奏するものと認められる。 しかしながら、上記「第4 2(1)、3(1)」の各記載事項から明らかなように、引用文献2及び3には上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項に係る技術的事項(特に「勾配範囲」に係る事項)の開示はなく、引用発明に引用文献2及び3に記載された技術的事項を適用したとしても、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を有するものには至らないし、引用発明において上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を設計的事項とする事情も見当たらず、また、上記の作用効果の予測性があるともいえない。 したがって、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。 以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定したものであるので、本願発明1と同様の理由により、当業者が引用発明及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-09-30 |
出願番号 | 特願2018-27269(P2018-27269) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A61G)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 井出 和水 |
特許庁審判長 |
氏原 康宏 |
特許庁審判官 |
一ノ瀬 覚 中村 泰二郎 |
発明の名称 | 補助力発生装置付き車椅子 |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |