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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C08L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L |
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管理番号 | 1355557 |
審判番号 | 不服2018-17230 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-26 |
確定日 | 2019-10-23 |
事件の表示 | 特願2016-538334「難燃性樹脂組成物およびそれからの成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 4日国際公開、WO2016/017571、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年7月27日(優先権主張:平成26年7月31日)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月1日付けで拒絶理由通知がされ、同年5月7日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月1日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年12月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 平成30年10月1日付け拒絶査定(原査定)の概要は次のとおりである。 1 理由1(新規性)及び理由2(進歩性) 本願の請求項1?11に係る発明は、以下の引用文献1?6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 本願請求項1?11に係る発明は、以下の引用文献1?6に記載された発明及び引用文献7?12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2003-267984号公報 2.特開2002-003727号公報 3.国際公開第2013/147294号 4.特開昭50-105560号公報 5.特開昭50-060481号公報 6.特開昭50-068978号公報 7.特開2004-018380号公報 8.特開2004-018381号公報 9.特開2004-018382号公報 10.特開2004-018383号公報 11.特開2004-010586号公報 12.特開2004-010587号公報 第3 本願発明 本願の請求項1?11に係る発明は、平成30年12月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本願発明1」等という。)。 「【請求項1】 ポリオレフィン系樹脂(A成分)100重量部に対して、下記式(1)で表される有機リン化合物(B成分)5?100重量部を含み、該ポリオレフィン系樹脂は、(i)JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが50g/10分以下のポリエチレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であるか、(ii)JIS K7210規格に準じ、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが0.1?50g/10分のポリプロピレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であるか、(iii)JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが20g/10分以下のポリ1-ブテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であるか、または(iv)JIS K7210規格に準じ、260℃、5.0kg荷重にて測定したメルトフローレートが1?200g/10分のポリ4-メチル-1-ペンテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であり、該有機リン化合物は、有機純度が97.0%以上であり、塩素含有量が1000ppm以下であり、ΔpHが1.0以下であり、残存溶媒量が1000ppm以下である難燃性樹脂組成物。 【化1】 (式中、X^(1)、X^(2)は同一もしくは異なり、下記式(2)で表される芳香族置換アルキル基である。) 【化2】 (式中、ALは炭素数1?5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基である。nは1?3の整数を示し、ArはAL中の任意の炭素原子に結合することができる。) 【請求項2】 A成分のポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ1-ブテン系樹脂、ポリ4-メチル-1-ペンテン系樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂を60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。 【請求項3】 B成分の有機リン化合物が、下記式(3)で表される有機リン化合物である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。 【化3】 【請求項4】 B成分の有機リン化合物は、有機純度が98.0%以上であり、塩素含有量が500ppm以下であり、ΔpHが0.8以下であり、残存溶媒量が800ppm以下である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。 【請求項5】 A成分のポリオレフィン系樹脂が、JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが30g/10分以下のポリエチレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。 【請求項6】 A成分のポリオレフィン系樹脂が、JIS K7210規格に準じ、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが0.2?45g/10分のポリプロピレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。 【請求項7】 A成分のポリオレフィン系樹脂が、JIS K7210規格に準じ、190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが15g/10分以下のポリ1-ブテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。 【請求項8】 A成分のポリオレフィン系樹脂が、JIS K7210規格に準じ、260℃、5.0kg荷重にて測定したメルトフローレートが5?180g/10分のポリ4-メチル-1-ペンテン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。 【請求項9】 請求項1記載の難燃性樹脂組成物より形成された成形品。 【請求項10】 請求項1記載の難燃性樹脂組成物を紡糸することにより得られた繊維および繊維製品。 【請求項11】 請求項1記載の難燃性樹脂組成物より得られた不織布。」 第4 当審の判断 1 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明 (1)引用文献1の記載事項及び引用発明1 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 下記一般式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物。 【化1】 (式中、R^(1)およびR^(4)は、同一または異なっていてもよく、水素原子または下記一般式(2)で表される1価の芳香族基である。R^(2)、R^(3)、R^(5)およびR^(6)は、同一または異なっていてもよく、下記一般式(2)で表される1価の芳香族基である。) 【化2】 (式中、Arはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基およびトリアジル基から選択されるいずれか一つの基を表し、nは0?5の整数である。R^(7)はそれぞれが同一であっても異なっていてもよく、Ar上の炭素原子を介してリンに結合している部分以外のどの部分に結合していてもよく、メチル、エチル、プロピル、ブチル、もしくはそのArへの結合基が、酸素原子、イオウ原子または炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を介する炭素数5?14のアリール基を示す。) ・・・ 【請求項9】 請求項1記載のペンタエリスリトールジホスホネート化合物よりなる樹脂用難燃剤。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、特定の構造を有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物およびその製造方法に関する。更に詳しくは、難燃剤、結晶核剤、可塑剤、酸化防止剤等の添加剤として使用でき、殊に樹脂用難燃剤として優れた効果を有する新規なペンタエリスリトールジホスホネート化合物およびその製造方法に関する。」 ウ 「【0065】本発明のペンタエリスリトールジホスホネート化合物によって難燃化される樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、高密度ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ナイロン6、ナイロン6・6等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、エポキシ樹脂等が挙げられる。」 エ 「【0069】[実施例1] (1)(ジフェニル)メチルホスホン酸ジエチルの製造 ・・・ 【0070】(2)(ジフェニル)メチルホスホン酸ジクロライドの製造 ・・・ 【0071】(3)3,9-ジ((ジフェニル)メチル)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジオキシドの製造 攪拌装置、攪拌翼、還流冷却管、温度計を備えた10リットル三ツ口フラスコに、前記(2)の反応で得られた(ジフェニル)メチルホスホン酸ジクロライド2058.5g(7.22mol)、ペンタエリスリトール468.1g(3.44mol)、ピリジン1169.4g(14.8mol)およびクロロホルム8200gを仕込み、窒素ガス気流下、60℃まで加熱し、6時間攪拌させた。反応終了後、クロロホルムを40℃、1.3kPaの減圧下で留去し、留去後の残留物を塩化メチレン3Lに溶解させた。この反応処理液に蒸留水6Lを加え攪拌し、白色粉末を析出させた。これを吸引濾過により濾取し、得られた白色物をメタノールを用いて洗浄した。さらに、この白色物を100℃、0.13kPaで10時間、減圧乾燥させた。得られた固体は、^(31)P NMR、^(1)H NMRスペクトルにより、3,9-ジ(ジフェニルメチル)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジオキシド(前記式(1)で、R^(1)およびR^(4)が水素原子、R^(2)、R^(3)、R^(5)およびR^(6)がフェニル基である化合物、化合物(A)と称する)1156.2gであることを確認した。 【0072】^(1)H NMR(化学シフト δ ppm、DMSO-d6):4.15?4.55(m、8H)、5.25(d、2H)、7.20?7.60(m、20H)^(31)P NMR(化学シフト δ ppm、DMSO-d6):20.9 示差走査熱量計(DSC)分析による融点:265℃ HPLC純度:99%以上 酸価:0.3mgKOH/g以下 次に、ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、上記方法により得られた化合物(A)を30重量部添加し、タンブラーを用いて均一に混合した後、15mmφ二軸押出機((株)テクノベル社製、KZW-15)にてペレット化し、射出成形機((株)日本製鋼所製、J75Si)を用いて、厚さ3.2mmのテストピースを成形した。得られたテストピースの難燃性を、米国UL規格のUL-94に規定されている垂直燃焼試験に従って評価したところ、V-2ランクであった。」 オ 「【0077】 【発明の効果】本発明の新規なペンタエリスリトールジホスホネート化合物は、難燃剤、可塑剤、酸化防止剤、結晶核剤等の添加剤として使用でき、殊に樹脂に高度な難燃性を付与する効果が高く、樹脂用の難燃剤として好ましく使用することができる。このペンタエリスリトールジホスホネート化合物を配合した樹脂成形物は、高い難燃性を有しており、樹脂本来の耐熱性の低下が少なく、OA機器、家電製品等の用途に極めて有用である。」 カ 上記摘記エの実施例1より、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、3,9-ジ(ジフェニルメチル)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジオキシド(化合物(A))を30重量部添加した混合物であって、該化合物(A)のHPLC純度が99%以上であり、酸価が0.3mgKOH/g以下である、樹脂組成物。」(以下、「引用発明1」という。) (2)引用文献7の記載事項 引用文献7には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 下記式(1)で示される環状ホスホネート化合物であって、該化合物の残留揮発物の含有量が5000ppm以下であることを特徴とする環状ホスホネート化合物。 【化1】 (式中、Ar^(1)およびAr^(2)は、同一または異なっていてもよく、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R^(1)、R^(2)、R^(3)およびR^(4)は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子もしくは炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1?20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。) 【請求項2】 前記式(1)で示される環状ホスホネート化合物の純度が94%以上である請求項1記載の環状ホスホネート化合物。」 イ 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、工業的に有利な生産性に優れた方法でかつ樹脂に混合した際に大きな問題であるガス発生、或いはそれに起因するヤケ現象の如き耐熱性を向上させ、かつ高度に難燃性を付与することができる残留揮発分の低い特性を保有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物を提供することにある。 【0011】 本発明者は、前記目的を達成すべく誠意検討した結果、特に、環状ホスホネートの残留揮発分が、一定の値以下に低減すれば、該化合物が、樹脂形成時点での操作性、環境対策上の利点、が発現すると共に、物性、外観色度に悪影響を与えない事を見出し、同時に、所期の高度の難燃性を付与することができる事を見出し、本発明に至った。 ・・・ 【0013】 殊に樹脂混合に際して大きな問題となるガス発生を抑制し、同時に、色相、あるいは、樹脂そのものの変性を生起することなく、高度の難燃性を付与することができる環状ホスホネート化合物、及び、その残留溶媒の低下に関する知見を提供することにある。」 ウ 「【0030】 本発明の環状ホスホネート化合物は、該化合物の純度が94%以上であることも重要な案件である。このような環状ホスホネート化合物を得るためには、反応性生成物の洗浄が好適に採用される。かかる洗浄方法として、芳香族系溶媒に生成物が溶解している場合には、一旦濃縮乾固し、あるいは、反応系でスラリー状態になっている場合は、そのままで回収した後、その固体を、一般式R-OHで表される脂肪族アルコール化合物を用い、洗浄する事が生成物の純度向上に必要である。その際、洗浄温度が50℃以上120℃以下である事が望ましく、この温度以上では、加熱変化の可能性が存在し、これより低い温度では、繰り返し回数の増加につながり、好ましくない。 ・・・ 【0035】 さらに、本発明の環状ホスホネート化合物は、残留揮発物の含有量が5000ppm以下であり、2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下が特に好ましい。残留揮発物の含有量が少なければ、樹脂混合に際して大きな問題となるガス発生を抑制し、同時に、ヤケ現象らの耐熱安定性低下による、色相、あるいは、樹脂そのものの変性を生起することなく、高度の難燃性を付与することができる。かつ、かかる物性値は、該化合物を用いて、樹脂製品を形成する時点での操作性、環境対策上の利点、が発現すると共に、物性、外観色度に悪影響を与えないという事が重要である。さらなる効果として、かかるヤケらの着色の低減は、成形時点での金属洗浄、あるいは、多量の洗浄樹脂を必要とするなど、作業性を低下する事らの事例に対して、樹脂組成物製造の生産性の向上に大きく寄与する事ができる。」 (3)引用文献8の記載事項 引用文献8には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 下記式(1)で示される環状ホスホネート化合物であって、該化合物の残留揮発物の含有量が5000ppm以下であることを特徴とする環状ホスホネート化合物。 【化1】 (式中、Ar^(1)およびAr^(2)は、同一または異なっていてもよく、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)およびR^(8)は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子もしくは炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数7?30の置換もしくは非置換のアラルキル基、または炭素数1?20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。) 【請求項2】 前記式(1)で示される環状ホスホネート化合物の純度が94%以上である請求項1記載の環状ホスホネート化合物。」 イ 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、工業的に有利な生産性に優れた方法でかつ樹脂に混合した際に大きな問題であるガス発生、或いはそれに起因するヤケ現象の如き耐熱性を向上させ、かつ高度に難燃性を付与することができる残留揮発分の低い特性を保有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物を提供することにある。 【0011】 本発明者らは、前記目的を達成すべく誠意検討した結果、特に、環状ホスホネートの残留揮発分が、一定の値以下に低減すれば、該化合物が、樹脂形成時点での操作性、環境対策上の利点、が発現すると共に、物性、外観色度に悪影響を与えない事を見出し、同時に、所期の高度の難燃性を付与することができる事を見出し、本発明に至った。 ・・・ 【0013】 殊に樹脂混合に際して大きな問題となるガス発生を抑制し、同時に、色相、あるいは、樹脂そのものの変性を生起することなく、高度の難燃性を付与することができる環状ホスホネート化合物、及び、その残留溶媒の低下に関する知見を提供することにある。」 ウ 「【0028】 本発明の環状ホスホネート化合物は、該化合物の純度が94%以上であることも重要な案件である。このような環状ホスホネート化合物を得るためには、反応性生成物の洗浄が好適に採用される。かかる洗浄方法として、芳香族系溶媒に生成物が溶解している場合には、一旦濃縮乾固し、あるいは、反応系でスラリー状態になっている場合は、そのままで回収した後、その固体を、一般式R-OHで表される脂肪族アルコール化合物を用い、洗浄する事が生成物の純度向上に必要である。その際、洗浄温度が50℃以上120℃以下である事が望ましく、この温度以上では、加熱変化の可能性が存在し、これより低い温度では、繰り返し回数の増加につながり、好ましくない。 ・・・ 【0033】 さらに、本発明の環状ホスホネート化合物は、残留揮発物の含有量が5000ppm以下であり、2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下が特に好ましい。残留揮発物の含有量が少なければ樹脂混合に際して大きな問題となるガス発生を抑制し、同時に、ヤケ現象らの耐熱安定性低下による、色相、あるいは、樹脂そのものの変性を生起することなく、高度の難燃性を付与することができる。かつ、かかる物性値は、該化合物を用いて、樹脂製品を形成する時点での操作性、環境対策上の利点、が発現すると共に、物性、外観色度に悪影響を与えないという事が重要である。さらなる効果として、かかるヤケらの着色の低減は、成形時点での金属洗浄、あるいは、多量の洗浄樹脂を必要とするなど、作業性を低下する事らの事例に対して、樹脂組成物製造の生産性の向上に大きく寄与する事ができる。」 (4)引用文献9の記載事項 引用文献9には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 下記式(1)で示される環状ホスホネート化合物であって、該化合物の全残留ハロゲン分が3000ppm以下であり、イオン性のハロゲン分が1000ppm以下であることを特徴とする環状ホスホネート化合物。 【化1】 (式中、Ar^(1)およびAr^(2)は、同一または異なっていてもよく、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R^(1)、R^(2)、R^(3)およびR^(4)は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子もしくは炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1?20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。) 【請求項2】 前記式(1)で示される環状ホスホネート化合物の純度が94%以上である請求項1記載の環状ホスホネート化合物。」 イ 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、工業的に有利な生産性に優れた方法により、樹脂に混合した際に大きな問題であるハロゲン系ガス発生、或いはそれに起因するヤケ現象の如き耐熱性を向上させ、かつ高度に難燃性を付与することができる残留ハロゲン分の低い特性を保有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物を提供することにある。 【0011】 本発明者は、前記目的を達成すべく誠意検討した結果、特に、環状ホスホネートの残留揮発分が、この数値が、一定以下に低減すれば、該化合物が、樹脂形成時点での操作性、環境対策上の利点、が発現すると共に、物性、外観色度に悪影響を与えない事を見出し、同時に、所期の高度の難燃性を付与することができる事を見出し、本発明に至った。 【0012】 【課題を解決するための手段】 すなわち、本発明によれば、下記式(1)で示される環状ホスホネート化合物であって、該化合物の全残留ハロゲン分が3000ppm以下であり、イオン性のハロゲン分が1000ppm以下であることを特徴とする環状ホスホネート化合物が提供され、さらに好適には純度が94%以上である環状ホスホネート化合物が提供される。 ・・・ 【0014】 ・・・ 本発明は、従来法では、特に保存安定性、あるいは、樹脂混合時点、で大きな問題になる残留ハロゲン量を低減させ、殊に樹脂混合に際して大きな問題となるハロゲン系ガス発生、或いはそれに起因するガス発生を抑制し、同時に、それに起因する樹脂成形時においては、ヤケ現象の如き耐熱性を向上させ、色相、あるいは、樹脂そのものの変性を生起することなく、高度の難燃性を付与させるし、或いは、紙袋保存時の腐蝕の低減、樹脂成形用金型の腐蝕、あるいは、モールドデポジットとして問題になる金型汚染らを抑制できる環状ホスホネート化合物、及び、その残留ハロゲン分の低下に関する知見を提供することにある。」 ウ 「【0030】 本発明の環状ホスホネート化合物は、該化合物の純度が94%以上であることも重要な案件である。このような環状ホスホネート化合物を得るためには、反応性生成物の洗浄が好適に採用される。かかる洗浄方法として、芳香族系溶媒に生成物が溶解している場合には、一旦濃縮乾固し、あるいは、反応系でスラリー状態になっている場合は、そのままで回収した後、その固体を、一般式R-OHで表される脂肪族アルコール化合物を用い、洗浄する事が生成物の純度向上に必要である。その際、洗浄温度が50℃以上120℃以下である事が望ましく、この温度以上では、加熱変化の可能性が存在し、これより低い温度では、繰り返し回数の増加につながり、好ましくない。 ・・・ 【0035】 本発明の環状ホスホネートは、該化合物の全残留ハロゲン分が3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、特に好ましくは300ppm以下である。また、イオン性のハロゲン分が1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは100ppm以下、特に好ましくは80ppm以下である。これらの数値をどちらかが超えると、明らかに加熱処理時点で、ハロゲン化水素系の悪臭が観測され、あるいは、時として、ある種の樹脂では明瞭なヤケが観測される。」 (5)引用文献10の記載事項 引用文献10には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 下記式(1)で示される環状ホスホネート化合物であって、該化合物の全残留ハロゲン分が3000ppm以下であり、イオン性のハロゲン分が1000ppm以下であることを特徴とする環状ホスホネート化合物。 【化1】 (式中、Ar^(1)およびAr^(2)は、同一または異なっていてもよく、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)およびR^(8)は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子もしくは炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数7?30の置換もしくは非置換のアラルキル基、または炭素数1?20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。) 【請求項2】 前記式(1)で示される環状ホスホネート化合物の純度が94%以上である請求項1記載の環状ホスホネート化合物。」 イ 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、工業的に有利な生産性に優れた方法により、樹脂に混合した際に大きな問題であるハロゲン系ガス発生、或いはそれに起因するヤケ現象の如き耐熱性を向上させ、かつ高度に難燃性を付与することができる残留ハロゲン分の低い特性を保有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物を提供することにある。 【0011】 本発明者は、前記目的を達成すべく誠意検討した結果、特に、環状ホスホネートの残留揮発分が、この数値が、一定以下に低減すれば、該化合物が、樹脂形成時点での操作性、環境対策上の利点、が発現すると共に、物性、外観色度に悪影響を与えない事を見出し、同時に、所期の高度の難燃性を付与することができる事を見出し、本発明に至った。 【0012】 【課題を解決するための手段】 すなわち、本発明によれば、下記式(1)で示される環状ホスホネート化合物であって、該化合物の全残留ハロゲン分が3000ppm以下であり、イオン性のハロゲン分が1000ppm以下であることを特徴とする環状ホスホネート化合物が提供され、さらに好適には純度が94%以上である環状ホスホネート化合物が提供される。 ・・・ 【0014】 ・・・ 本発明は、従来法では、特に保存安定性、あるいは、樹脂混合時点、で大きな問題になる残留ハロゲン量を低減させ、殊に樹脂混合に際して大きな問題となるハロゲン系ガス発生、或いはそれに起因するガス発生を抑制し、同時に、それに起因する樹脂成形時においては、ヤケ現象の如き耐熱性を向上させ、色相、あるいは、樹脂そのものの変性を生起することなく、高度の難燃性を付与させるし、或いは、紙袋保存時の腐蝕の低減、樹脂成形用金型の腐蝕、あるいは、モールドデポジットとして問題になる金型汚染らを抑制できる環状ホスホネート化合物、及び、その残留ハロゲン分の低下に関する知見を提供することにある。」 ウ 「【0028】 本発明の環状ホスホネート化合物は、該化合物の純度が94%以上であることも重要な案件である。このような環状ホスホネート化合物を得るためには、反応性生成物の洗浄が好適に採用される。かかる洗浄方法として、芳香族系溶媒に生成物が溶解している場合には、一旦濃縮乾固し、あるいは、反応系でスラリー状態になっている場合は、そのままで回収した後、その固体を、一般式R-OHで表される脂肪族アルコール化合物を用い、洗浄する事が生成物の純度向上に必要である。その際、洗浄温度が50℃以上120℃以下である事が望ましく、この温度以上では、加熱変化の可能性が存在し、これより低い温度では、繰り返し回数の増加につながり、好ましくない。 ・・・ 【0033】 本発明の環状ホスホネートは、該化合物の全残留ハロゲン分が3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、特に好ましくは300ppm以下である。また、イオン性のハロゲン分が1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは100ppm以下、特に好ましくは80ppm以下である。これらの数値をどちらかが超えると、明らかに加熱処理時点で、ハロゲン化水素系の悪臭が観測され、あるいは、時として、ある種の樹脂では明瞭なヤケが観測される。」 (6)引用文献11の記載事項 引用文献11には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 下記式(1)で示される環状ホスホネート化合物であって、該化合物1g当りのKOH対応の酸価が、0.7mg以下であることを特徴とする環状ホスホネート化合物。 【化1】 (式中、Ar^(1)およびAr^(2)は、同一または異なっていてもよく、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R^(1)、R^(2)、R^(3)およびR^(4)は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子もしくは炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数1?20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。) 【請求項2】 前記式(1)で示される環状ホスホネート化合物の純度が94%以上である請求項1記載の環状ホスホネート化合物。」 イ 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、工業的に有利な生産性に優れた方法でかつ樹脂に混合した際に大きな問題となる樹脂の強度低下を抑制し高度に難燃性を付与することができる特性を保有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物を提供することにある。 【0011】 本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、かかる物性値を有するペンタエリスリトールジホスホネートが、樹脂に対して高度な難燃性を付与することができると同時に各種樹脂物性に悪影響を与えない事を見出し、本発明に至った。」 ウ 「【0030】 本発明の環状ホスホネート化合物は、該化合物1g当りのKOH対応の酸価が0.7mg以下であることが重要な要件であり、かつ、純度94%以上であることも他の重要な案件である。このような環状ホスホネート化合物を得るためには、反応性生成物の洗浄が好適に採用される。かかる洗浄方法として、芳香族系溶媒に生成物が溶解している場合には、一旦濃縮乾固し、あるいは、反応系でスラリー状態になっている場合は、そのままで回収した後、その固体を、一般式R-OHで表される脂肪族アルコール化合物を用い、洗浄する事が生成物の純度向上に必要である。その際、洗浄温度が50℃以上120℃以下である事が望ましく、この温度以上では、加熱変化の可能性が存在し、これより低い温度では、繰り返し回数の増加につながり、好ましくない。 ・・・ 【0035】 いかなる方法で製造しても、かかる洗浄方法を適用した場合、最終生成物は、基本的に該化合物1g当りのKOH対応の酸価は、0.7mg以下である。このことは、特に本材料が純度94%以上である事で、樹脂用難燃剤として使用するに際して、樹脂への化学的変化の発生を抑制し、単なる難燃という機能以外に、実用的見地から問題点を低減させるために重要である。 【0036】 更なる効果として、酸価の低減は、金属腐蝕の可能性を低下し、樹脂組成物の生産性の向上に大きく寄与する事ができる。」 (7)引用文献12の記載事項 引用文献12には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 下記式(1)で示される環状ホスホネート化合物であって、該化合物1g当りのKOH対応の酸価が、0.7mg以下であることを特徴とする環状ホスホネート化合物。 【化1】 (式中、Ar^(1)およびAr^(2)は、同一または異なっていてもよく、炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)およびR^(8)は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子もしくは炭素数6?20の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数7?30の置換もしくは非置換のアラルキル基、または炭素数1?20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。) 【請求項2】 前記式(1)で示される環状ホスホネート化合物の純度が94%以上である請求項1記載の環状ホスホネート化合物。」 イ 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、工業的に有利な生産性に優れた方法でかつ樹脂に混合した際に大きな問題となる樹脂の強度低下を抑制し高度に難燃性を付与することができる特性を保有するペンタエリスリトールジホスホネート化合物を提供することにある。 【0011】 本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、かかる物性値を有するペンタエリスリトールジホスホネートが、樹脂に対して高度な難燃性を付与することができると同時に各種樹脂物性に悪影響を与えない事を見出し、本発明に至った。」 ウ 「【0028】 本発明の環状ホスホネート化合物は、該化合物1g当りのKOH対応の酸価が0.7mg以下であることが重要な要件であり、かつ、純度94%以上であることも他の重要な案件である。このような環状ホスホネート化合物を得るためには、反応性生成物の洗浄が好適に採用される。かかる洗浄方法として、芳香族系溶媒に生成物が溶解している場合には、一旦濃縮乾固し、あるいは、反応系でスラリー状態になっている場合は、そのままで回収した後、その固体を、一般式R-OHで表される脂肪族アルコール化合物を用い、洗浄する事が生成物の純度向上に必要である。その際、洗浄温度が50℃以上120℃以下である事が望ましく、この温度以上では、加熱変化の可能性が存在し、これより低い温度では、繰り返し回数の増加につながり、好ましくない。 ・・・ 【0033】 いかなる方法で製造しても、かかる洗浄方法を適用した場合、最終生成物は、基本的に該化合物1g当りのKOH対応の酸価は、0.7mg以下である。このことは、特に本材料が純度94%以上である事で、樹脂用難燃剤として使用するに際して、樹脂への化学的変 化の発生を抑制し、単なる難燃という機能以外に、実用的見地から問題点を低減させるために重要である。 【0034】 更なる効果として、酸価の低減は、金属腐蝕の可能性を低下し、樹脂組成物の生産性の向上に大きく寄与する事ができる。」 2 対比・判断 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「ポリプロピレン樹脂」は、本願発明1の「ポリオレフィン系樹脂(A成分)」に相当し、「該ポリオレフィン系樹脂は、」「(ii)」「ポリプロピレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分」である点で一致する。また、引用発明1の「3,9-ジ(ジフェニルメチル)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジオキシド(化合物(A))」は、本願発明1の「式(1)で表される有機リン化合物(B成分)」であって、「X^(1)」及び「X^(2)」が、「式(2)で表される芳香族置換アルキル基」であり、該式(2)の「AL」が炭素数1の直鎖状の脂肪族炭化水素基、「Ar」がフェニル基、nが2である化合物に相当する。 そして、引用発明1の「ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、」「化合物(A)」「を30重量部」は、本願発明1の「ポリオレフィン系樹脂(A成分)100重量部に対して、」「式(1)で有機リン化合物(B成分)5?100重量部」と、重複一致する。 また、本願明細書の段落【0039】?【0040】に、「HPLCにて測定された有機純度」と記載されていることから、引用発明1の「HPLC純度」は、本願発明1の「有機純度」に相当し、引用発明1の「99%以上」は、本願発明1の「97.0%以上」と重複一致する。 さらに、引用発明1の「樹脂組成物」は、摘記1(1)エに示されるとおり、それから得られる成形体が難燃性を有していることから、本願発明1の「難燃性樹脂組成物」に相当する。 そうすると、両者は、 「ポリオレフィン系樹脂(A成分)100重量部に対して、下記式(1)で表される有機リン化合物(B成分)5?100重量部を含み、該ポリオレフィン系樹脂は、(ii)ポリプロピレン系樹脂を少なくとも60重量%以上含有する樹脂成分であり、該有機リン化合物は、有機純度が97.0%以上である難燃性樹脂組成物。 【化1】 (式中、X^(1)、X^(2)は同一もしくは異なり、下記式(2)で表される芳香族置換アルキル基である。) 【化2】 (式中、ALは炭素数1?5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基である。nは1?3の整数を示し、ArはAL中の任意の炭素原子に結合することができる。)」 の点で一致し、以下の相違点1?4で相違する。 <相違点1> 本願発明1は、ポリプロピレン系樹脂の「JIS K7210規格に準じ、230℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレートが0.1?50g/10分」であるのに対し、引用発明1は、ポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが不明である点。 <相違点2> 本願発明1は、有機リン化合物の「塩素含有量が1000ppm以下で」あるのに対し、引用発明1は、化合物(A)の塩素含有量が不明である点。 <相違点3> 本願発明1は、有機リン化合物の「ΔpHが1.0以下で」あるのに対し、引用発明1は、化合物(A)のΔpHが不明である点。 <相違点4> 本願発明1は、有機リン化合物の「残存溶媒量が1000ppm以下で」あるのに対し、引用発明1は、化合物(A)の残存溶媒量が不明である点。 イ 相違点についての判断 まず、相違点3について検討する。 本願発明1は、有機リン化合物の「ΔpH」なる特性を「1.0以下」と規定するものであるところ、本願明細書の段落【0039】?【0049】、【0058】?【0059】の記載によれば、該有機リン化合物の調製において、リパルプ洗浄を行うことで、不純物が除去され、有機純度が向上すると共にΔpHの値が減少するものと解される。 一方、引用発明1の「3,9-ジ(ジフェニルメチル)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジオキシド(化合物(A))」は、「HPLC純度が99%以上であり、酸価が0.3mgKOH/g以下で」あるものの、引用文献1には、「一般式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物」なる有機リン化合物についての「ΔpH」なる特性は、記載も示唆もされていない。また、引用文献1には、該化合物(A)の製造時に析出物をメタノールで洗浄することが記載されている(摘記1(1)エ)が、得られた化合物(A)の「ΔpHが1.0以下」であるかどうか不明である。そして、有機リン化合物において、「ΔpH」なる特性を規定することや、リパルプ洗浄を行うことにより得られた有機リン化合物が、通常、「ΔpHが1.0以下」を満たすことが、本願優先日当時の技術常識であったともいえない。 以上によれば、相違点3は、実質的な相違点である。 また、引用文献7、8には、環状ホスホネート化合物を得るにあたり、反応生成物を洗浄することによって、純度を高め、残留揮発物の含有量を一定値以下とすることが記載され(摘記1(2)ウ、1(3)ウ)、引用文献9、10には、環状ホスホネート化合物を得るにあたり、反応生成物を洗浄することによって、純度を高め、全残留ハロゲン分及びイオン性のハロゲン分を一定値以下とすることが記載される(摘記1(4)ウ、1(5)ウ)ものの、「ΔpH」を一定値以下とすることは、引用文献7?10のいずれにも記載も示唆もされていない。 さらに、引用文献11、12には、環状ホスホネート化合物を得るにあたり、反応生成物を洗浄することによって、純度を高め、該化合物1g当りのKOH対応の酸価を一定値以下とすることが記載される(摘記1(6)ウ、1(7)ウ)ものの、「ΔpH」を一定値以下とすることは、記載も示唆もされていない。 ここで、引用文献11、12に記載される「酸価」は、反応生成物を洗浄することによって低減されるものであることから、該「環状ホスホネート化合物」が含有する酸性の不純物に由来するものであると解される。そして、本願明細書の段落【0047】?【0048】及び【0056】?【0057】の記載から、本願発明1の「ΔpH」は、蒸留水と分散剤の混合溶液のpHと、該混合溶液に有機リン化合物を添加した際の濾液のpHとの差であるところ、「酸価」を有する「環状ホスホネート化合物」を該混合溶液に添加すると、濾液は上記の酸性の不純物を含有し、pHが低下するものと推測される。そうだとすると、引用文献11、12に記載される「酸価」と、本願発明1の「ΔpH」の間には何らかの相関関係があるものといえるが、その関係は明らかでない。してみると、引用文献11、12に「化合物1g当りのKOH対応の酸価」を「0.7mg」以下とすることが記載されているとしても、「ΔpH」を「1.0以下」とすることが示唆されているとはいえない。 以上のとおり、引用文献1、7?12のいずれにも、有機リン化合物において「ΔpHが1.0以下」とすることは何ら記載されておらず、それが本願優先日当時の技術常識であったともいえないから、引用発明1において、化合物(A)について「ΔpHが1.0以下」であると特定することが動機付けられるとはいえない。 また、本願発明1が奏する効果について以下に検討する。 本願明細書の段落【0008】の記載によれば、本願発明1は、高度な難燃性を有し、耐熱性の低下の無い難燃性樹脂組成物が得られるという効果を奏するものと解される。そして、本願明細書の【表1】、【表2-1】及び【表2-2】の、例えば実施例1、2、4と比較例5、6、8とを比較すると、調製時の洗浄の操作を省略し、ΔpH、有機純度、塩素含有量及び残留溶媒量が本願発明1の範囲外であるB成分(FR-2)を用いた場合と比較して、本願発明1に係るB成分(FR-1)を用いた場合は、得られる難燃性樹脂組成物の難燃性、耐熱性保持率(荷重たわみ温度保持率)及び色相が向上していることが読み取れる。 一方、引用文献1には、特定のペンタエリスリトールジホスホネート化合物を配合した樹脂成形物が、高い難燃性を有し、樹脂本来の耐熱性の低下が少ないことが記載され(摘記1(1)オ)、引用文献7、8には、環状ホスホネート化合物の純度を高め、残留揮発物の含有量を低減することによって、ガス発生を抑制し、同時に、色相、あるいは、樹脂その他の変性を生起することなく、高度の難燃性を付与することができる旨記載され(摘記1(2)イ、1(3)イ)、引用文献9、10には、環状ホスホネート化合物の純度を高め、残留ハロゲン分を低減することによって、ハロゲン系ガス発生、或いはそれに起因するヤケ現象の如き耐熱性を向上させ、かつ高度に難燃性を付与することができる旨記載され(摘記1(4)イ、1(5)イ)、引用文献11、12には、環状ホスホネート化合物の純度を高め、酸価を低減することによって、樹脂の強度低下を抑制し高度に難燃性を付与することができる旨記載されている(摘記1(6)イ、1(7)イ)。しかしながら、環状ホスホネート化合物の純度を高め、ΔpH、塩素含有量及び残留溶媒量を低減することによって、難燃性がより向上することや、耐熱性保持率(荷重たわみ温度保持率)が向上することは、上記いずれの文献にも記載されていない。 してみると、有機純度を高め、ΔpHをはじめとして、塩素含有量及び残留溶媒量を一定値以下とすることによって、色相のみならず、難燃性や耐熱性保持率(荷重たわみ温度保持率)が向上するという本願発明1が奏する効果は、引用文献1、7?12のいずれにも記載も示唆もされておらず、それが当業者が予測し得るものであるとはいえない。 したがって、引用発明1において、化合物(A)について「ΔpHが1.0以下」であると特定することが、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本願発明1と引用発明1とは、相違点1?4の点で相違し、少なくとも相違点3は実質的な相違点であるから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではない。 また、上記イで述べたとおりであるから、相違点1、2、4について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献7?12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本願発明2?11について 本願発明2?11は、本願発明1を引用するものであるから、上記(1)で述べたのと同様に、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1に記載された発明及び引用文献7?12に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)その他の引用文献について 引用文献2には、本願発明1の「式(1)で表される有機リン化合物」に相当する有機リン化合物と樹脂成分からなる難燃性樹脂組成物が記載される(【請求項1】)ものの、該有機リン化合物の「ΔpH」に関する記載や示唆はない。 引用文献3には、本願発明1の「式(1)で表される有機リン化合物」に相当する有機リン化合物を含む繊維用防炎加工剤が記載され、該有機リン化合物をリパルプ洗浄して調製することが記載される(請求項1、第14頁11行-第15頁第1行)ところ、同文献には、その「ΔpHが1.0以下」であることは明記されていないが、(1)イで述べたとおり、リパルプ洗浄によってΔpHの値はある程度低下しているものともいえる。しかしながら、同文献には、該有機リン化合物を樹脂溶液等の分散剤と混合して繊維用防炎加工剤として使用することが記載され、該樹脂としてオレフィン系モノマーの重合物が記載される(第8頁第14行-第9頁第7行)ものの、特定のメルトフローレートを有するポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等と混合して難燃性樹脂組成物とすることが記載も示唆もされていない。 引用文献4?6には、本願発明1の「式(1)で表される有機リン化合物」に相当する有機リン化合物が記載も示唆もされていない。 したがって、本願発明1?11は、引用文献2?6の各々に記載された発明ではなく、また、引用文献2?6の各々に記載された発明を主引用発明としたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、本願発明1?11は、いずれも、引用文献1?6に記載された発明ではなく、また、引用文献1?6に記載された発明及び引用文献7?12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、本願について、理由1及び理由2によって拒絶すべきものとすることはできない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の拒絶理由を検討しても、本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-10-07 |
出願番号 | 特願2016-538334(P2016-538334) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C08L)
P 1 8・ 113- WY (C08L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 安田 周史 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
井上 猛 武貞 亜弓 |
発明の名称 | 難燃性樹脂組成物およびそれからの成形品 |
代理人 | 為山 太郎 |