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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1355609 |
審判番号 | 不服2018-14367 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-30 |
確定日 | 2019-10-03 |
事件の表示 | 特願2013-258075「インプリントモールドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月22日出願公開、特開2015-115524〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 平成25年12月13日 特許出願 平成29年 7月10日 拒絶理由通知(同年7月18日発送) 平成29年 9月 5日 意見書・手続補正書 平成30年 1月 5日 拒絶理由通知(最後、同年1月16日発送) 平成30年 3月16日 意見書・手続補正書 平成30年 7月 3日 平成30年3月16日付け手続補正の却下の決 定・拒絶査定(同年7月31日送達) 平成30年10月30日 本件審判請求・手続補正書 第2 平成30年10月30日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成30年10月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の概略 本件補正は、補正前の特許請求の範囲(注:平成29年9月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲である。)の請求項1に、 「微細凹凸パターンを有するインプリントモールドを製造する方法であって、 被加工基材の主面上に樹脂パターンを形成するパターン形成工程と、 前記樹脂パターンに対し電離放射線を照射する電離放射線照射工程と、 前記電離放射線が照射された前記樹脂パターンをマスクとして前記被加工基材をエッチングする基材エッチング工程と を含み、 前記樹脂パターンを構成する樹脂組成物が、構成単位中にハロゲン原子を有する重合体を含み、 前記パターン形成工程において、前記インプリントモールドの前記微細凹凸パターンの設計寸法よりも2nm?20nm大きい寸法の前記樹脂パターンを形成することを特徴とするインプリントモールドの製造方法。」 とあるものを、 「微細凹凸パターンを有するインプリントモールドを製造する方法であって、 被加工基材の主面上に樹脂パターンを形成するパターン形成工程と、 前記樹脂パターンに対し電離放射線を照射する電離放射線照射工程と、 前記電離放射線が照射された前記樹脂パターンをマスクとして前記被加工基材をドライエッチングする基材エッチング工程と を含み、 前記樹脂パターンを構成する樹脂組成物が、構成単位中にハロゲン原子を有する重合体を含み、 前記電離放射線照射工程において、前記ハロゲン原子が前記重合体から脱離可能な程度に前記電離放射線を前記樹脂パターンに対し照射し、 前記パターン形成工程において、前記インプリントモールドの前記微細凹凸パターンの設計寸法よりも2nm?20nm大きい寸法の前記樹脂パターンを形成することを特徴とするインプリントモールドの製造方法。」(注:下線は、請求人が補正箇所に付したものである。) に補正しようとするものである。 上記請求項1についてする補正は、 ア 基材エッチング工程における「エッチング」を「ドライエッチング」に限定する補正事項、 イ 「前記電離放射線照射工程において、前記ハロゲン原子が前記重合体から脱離可能な程度に前記電離放射線を前記樹脂パターンに対し照射し、」との発明特定事項を追加して限定する補正事項、 からなる。上記ア、イの補正事項は、何れも特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項である。そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて検討する。 2 引用例と引用発明 (1)本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2012-38809号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ナノインプリント用モールドの製造方法およびレジストパターンの形成方法に関し、より詳しくは、ナノインプリント用モールドの転写パターン形成に用いるレジストのドライエッチング耐性を向上させ、パターン形状劣化を防止する技術に関するものである。」(注:下線は当審が付加した。以下、同様である。) イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 …、レジストは微細加工においてドライエッチングのマスクに用いられるものであるから、レジストを薄膜化するためには、よりドライエッチング耐性を向上させる必要がある。 … 【0016】 …、例えば、レジストパターン形成後、レジストパターン全面に電子線を照射することで前記レジストを改質し、ドライエッチング耐性を向上させる方法が提案されている(特許文献3)。 【0017】 しかしながら、大気中のように、酸素が存在する雰囲気中で、レジストパターン全面に電子線を照射すると、レジストパターンの形状が劣化するという問題が判明した。 … 【0022】 本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、大気中のように、酸素が存在する雰囲気中で電子線照射を行いつつも、レジストパターンの形状劣化を防止して、レジストパターンのドライエッチング耐性を向上させ、前記レジストパターンをエッチングマスクに用いることにより、微細な転写パターンを形成することを可能とするナノインプリント用モールドの製造方法およびレジストパターンの形成方法を提供することを目的とする。」 ウ 「【発明の効果】 【0032】 本発明によれば、レジストパターン上に形成した保護膜により、オゾンアッシングからレジストパターンを保護してレジストパターンの形状劣化を防止できるため、真空中で電子線照射する方法に比べて、生産性や経済性の面から優位な、大気中で電子線照射する方法を用いることができ、ドライエッチング耐性が向上した略矩形状の断面を有する微細なレジストパターンを、生産性良く、低コストで形成することができる。 【0033】 そして、前記レジストパターンをエッチングマスクに用いることにより、従来、製造困難であった微細な凹凸の転写パターンを有するナノインプリント用モールドを製造することができる」 エ 「【0035】 以下、本発明に係るナノインプリント用モールドの製造方法およびレジストパターンの形成方法について説明する。 【0036】 本発明に係るナノインプリント用モールドの製造方法およびレジストパターンの形成方法は、レジストパターンのドライエッチング耐性を向上させる工程、すなわち、保護膜形成工程、電子線一括照射工程、保護膜除去工程を有することに特徴があり、その他の工程、例えば、モールド基板へのレジスト形成工程、ドライエッチング耐性を向上させる前のレジストパターン形成工程、ドライエッチング工程、レジスト除去工程については、従来の方法と同様な方法を用いることができる。 【0037】 図1および図2は、本発明に係るナノインプリント用モールドの製造方法の例を示す模式的工程図である。 【0038】 まず、図1(a)に示すように、モールド基板1を準備し、このモールド基板1の上にレジスト2を形成する。 【0039】 モールド基板1の材料は、ナノインプリント用のモールドに用いられるものであれば用いることができ、一般的には、石英やSiである。 【0040】 レジスト2は、電子線一括照射でドライエッチング耐性が向上するものであれば用いることができる。ただし、ナノインプリント用としては、微細なパターン形成を必要とすることから、高解像性のレジストであることが必要である。 【0041】 上述のような高解像性のレジストとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)や、α-クロロアクリル酸メチルとα-メチルスチレンとの共重合体などを主成分とする主鎖切断型のレジストや、ノボラック系樹脂などを主成分とする結合鎖切断型レジストなどが挙げられる。 【0042】 次に、図1(b)に示すように、レジストパターン2Aを形成する。レジストパターン2Aの形成には、例えば、レジスト2を電子線描画し、現像する方法を用いることができる。 【0043】 次に、図1(c)に示すように、レジストパターン2Aを被覆するように保護膜3を形成する。 【0044】 保護膜3は、続く電子線一括照射工程におけるオゾンアッシングからレジストパターン2Aを保護するものであり、レジストパターン2A上に被覆でき、オゾンアッシングで消失せずに残留し、レジストパターン2Aから剥離できるものであれば用いることができる。 … 【0052】 次に、図1(d)に示すように、大気圧中で、保護膜3の上から電子線を一括照射する。 【0053】 この電子線一括照射は、レジストを改質してドライエッチング耐性を向上させるために行うものであり、加速電圧や照射量は、各レジストや保護膜の種類、その後のエッチングに用いられるガス種や条件等によって、適宜最適な条件を選択されるものである。 【0054】 例えば、市販の電子線照射装置を用いて、加速電圧30kV?300kV、照射量300Mrad?3000Mradの電子線照射を行うことができる。 … 【0056】 上述の電子線一括照射後、保護膜3を剥離し、図2(e)に示すように、ドライエッチング耐性が向上したレジストパターン5Aを得る。 【0057】 上述のように、水に難溶性のレジストと、水溶性の保護膜との組み合わせであれば、この剥離作業は容易になるため、好ましい。 【0058】 次いで、図2(f)に示すように、レジストパターン5Aをエッチングマスクに用いて、モールド基板1をドライエッチング、またはウェットエッチング加工し、その後、レジストパターン5Aを除去して、図2(g)に示すように、微細な凹凸構造の転写パターン6を有するモールド10を得る。 【0059】 ここで、ドライエッチング加工条件や、レジストパターン除去の方法は、従来の方法を用いることができる。例えば、レジストパターン除去の方法は、酸素プラズマによるアッシング方法を用いることができる。」 オ 「【実施例】 【0064】 以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。 (実施例1) まず、本発明におけるレジストのドライエッチング耐性向上の効果について評価した。 【0065】 モールド基板として6インチ角の合成石英基板を用い、この基板の主面上に、Cr(クロム)をスパッタ成膜して膜厚3nmのCr薄膜を形成し、その上に、α-クロロアクリル酸メチルとα-メチルスチレンとの共重合体からなる電子線レジスト(日本ゼオン社製、ZEP520A)を膜厚60nmで塗布形成した。 【0066】 次に、上記レジストの上に、保護膜としてポリアニリンスルホン酸を含む水溶性導電膜(三菱レイヨン社製、aquaSAVE-57xs、登録商標)を膜厚200nmで塗布形成し、超低エネルギー電子線照射装置(アイ・エレクトロンビーム社製、EC250/15/180L)を用いて、基板を冷却させながら、加速電圧175kV、照射量800Mradで、上記保護膜の上から全面に電子線を照射した。」 カ 図1、図2は、以下のとおりである。 (2)上記(1)の記載によれば、引用例には以下の発明が記載されている。 「モールド基板1を準備し、 モールド基板1の上にレジスト2を形成し、 レジストパターン2Aを形成し、 レジストパターン2Aを被覆するように保護膜3を形成し、 大気圧中で、保護膜3の上から電子線を一括照射し、レジストを改質してドライエッチング耐性を向上させ、 保護膜3を剥離し、ドライエッチング耐性が向上したレジストパターン5Aを得、 レジストパターン5Aをエッチングマスクに用いて、モールド基板1をドライエッチング加工し、 レジストパターン5Aを除去して、微細な凹凸構造の転写パターン6を有するモールド10を得る、 ナノインプリント用モールドの製造方法であって、 レジストは、α-クロロアクリル酸メチルとα-メチルスチレンとの共重合体からなる電子線レジスト(日本ゼオン社製、ZEP520A)であり、 一括照射する電子線は、例えば、加速電圧175kV、照射量800Mradである、 ナノインプリント用モールドの製造方法。」(以下「引用発明」という。) 3 対比・判断 (1)本願補正発明と引用発明を対比する。 ア 本願補正発明の「微細凹凸パターンを有するインプリントモールドを製造する方法」と、引用発明の「微細な凹凸構造の転写パターン6を有するモールド10を得る、ナノインプリント用モールドの製造方法」を対比する。 引用発明の「微細な凹凸構造の転写パターン6」は、本願補正発明の「微細凹凸パターン」に相当し、引用発明の「ナノインプリント用モールドの製造方法」は、本願補正発明の「インプリントモールドを製造する方法」に相当する。 してみると、両者は相当関係にある。 イ 本願補正発明の「被加工基材の主面上に樹脂パターンを形成するパターン形成工程」と、引用発明の「モールド基板1の上にレジスト2を形成し、レジストパターン2Aを形成」することを対比する。 引用発明の「モールド基板1」は、本願補正発明の「被加工基材」に相当し、引用発明の「レジストパターン2A」は、本願補正発明の「樹脂パターン」に相当する。 してみると、両者は相当関係にある。 ウ 本願補正発明の「前記樹脂パターンに対し電離放射線を照射する電離放射線照射工程」と、引用発明の「大気圧中で、保護膜3の上から電子線を一括照射し、レジストを改質してドライエッチング耐性を向上させ」ることを対比する。 (ア)本願の発明の詳細な説明には、「【0057】図1(c)に示す工程において樹脂パターン31に照射する電離放射線60としては、例えば、電子線、硬X線、軟X線、γ線等が挙げられる。」との記載がある。該記載によれば、本願補正発明の「電離放射線」は「電子線、硬X線、軟X線、γ線等」であると解される。 (イ)上記(ア)を踏まえると、本願補正発明の「電離放射線」と引用発明の「電子線」は「電子線」の点で一致する。 また、引用発明の「レジストパターン5A」は本願補正発明の「樹脂パターン」に相当する。そして、引用発明は「レジストを改質してドライエッチング耐性を向上させ」ていることから、レジストに電子線が照射されている。 (ウ)してみると、両者は、「前記樹脂パターンに対し電子線を照射する電離放射線照射工程」の点で一致する。 エ 本願補正発明の「前記電離放射線が照射された前記樹脂パターンをマスクとして前記被加工基材をドライエッチングする基材エッチング工程」と、引用発明の「レジストパターン5Aをエッチングマスクに用いて、モールド基板1をドライエッチング加工」することを対比する。 上記ウ(イ)で検討したとおり、引用発明のレジストには電子線が照射されている。そして、引用発明の「レジストパターン5A」は本願補正発明の「樹脂パターン」に相当し、引用発明の「モールド基板1」は本願補正発明の「被加工基材」に相当する。 してみると、両者は、「前記電子線が照射された前記樹脂パターンをマスクとして前記被加工基材をドライエッチングする基材エッチング工程」の点で一致する。 オ 以上によれば、本願補正発明と引用発明は、 「微細凹凸パターンを有するインプリントモールドを製造する方法であって、 被加工基材の主面上に樹脂パターンを形成するパターン形成工程と、 前記樹脂パターンに対し電子線を照射する電離放射線照射工程と、 前記電子線が照射された前記樹脂パターンをマスクとして前記被加工基材をドライエッチングする基材エッチング工程と を含む、 インプリントモールドの製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:「樹脂パターン」について、本願補正発明は、「前記樹脂パターンを構成する樹脂組成物が構成単位中にハロゲン原子を有する重合体を含」むのに対し、引用発明の「α-クロロアクリル酸メチルとα-メチルスチレンとの共重合体からなる電子線レジスト(日本ゼオン社製、ZEP520A)」は、そのようなものなのか否か明らかでない点。 相違点2:「電離放射線照射工程」において、本願補正発明は「前記ハロゲン原子が前記重合体から脱離可能な程度に前記電離放射線を前記樹脂パターンに対し照射」するのに対し、引用発明は、「レジストを改質してドライエッチング耐性を向上させ」るようにレジストパターン2Aに電子線を照射している点 相違点3:本願補正発明は、「前記パターン形成工程において、前記インプリントモールドの前記微細凹凸パターンの設計寸法よりも2nm?20nm大きい寸法の前記樹脂パターンを形成する」のに対し、引用発明は、そのような特定を有しない点。 (2)判断 以下、上記相違点について検討する。 ア 相違点1について (ア)はじめに、引用発明の「α-クロロアクリル酸メチルとα-メチルスチレンとの共重合体からなる電子線レジスト(日本ゼオン社製、ZEP520A)」について検討する。 引用発明の「日本ゼオン社製、ZEP520A」は「α-クロロアクリル酸メチルとα-メチルスチレンとの共重合体からなる電子線レジスト」であるから、その構成単位中に塩素原子(ハロゲン原子)を有する重合体である。また、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2003-66619号公報には、 「【0021】また、第2レジスト層13として、下記の一般式(2)で示される構造を含むZEP-520A(日本ゼオン製商品名)を用いる。 【化6】 」 との記載があり、引用発明の「日本ゼオン社製、ZEP520A」は、「構成単位中にハロゲン原子を有する重合体」である。 してみると、相違点1は実質的な相違点ではない。 イ 相違点2について (ア)はじめに、本願補正発明が「前記電離放射線照射工程において、前記ハロゲン原子が前記重合体から脱離可能な程度に前記電離放射線を前記樹脂パターンに対し照射」することの技術的意義について検討する。 本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 a 「【0015】 上記発明(発明1)において樹脂パターンのエッチング耐性が向上する理由は、以下の通りであると考えられる。 【0016】 一般に、樹脂パターンは、エッチャント(エッチングガス)による樹脂パターン表面へのエッチング作用の他、内部に侵入したエッチャント(エッチングガス)のエッチング作用によりエッチングされる。上記樹脂組成物は、構成単位中にハロゲン原子を有する重合体を含有しているため、樹脂パターンへの電離放射線の照射によりハロゲン原子と炭素原子との結合が切れて、ハロゲン原子が脱離する。これにより、樹脂パターンの自由体積が減少する。その結果、樹脂パターン内部にエッチャント(エッチングガス)が侵入し難くなり、エッチング耐性が向上すると推察される。」 b 「【0064】 〔実施例1〕 厚さ3nmのCrからなるハードマスク層20が主面11に設けられているインプリントモールド基材10としての石英基板を用意し、下記式(III)に示す構成単位を有する重合体を含有するポジ型レジスト(製品名:ZEP520A,日本ゼオン社製)をメトキシベンゼンで16質量%に希釈し、ハードマスク層20上にスピンコート法により塗布し、180℃で3分間の加熱処理を施して、厚さ30nmの樹脂層30を形成した(図1(a)参照)。 … 【0069】 続いて、電子線照射装置を用いて樹脂パターン31の一部の領域に大気雰囲気下で電子線を照射した(図1(c)参照)。なお、電子線照射条件としては、加速電圧175kV、照射線量500Mrad?2400Mradとした。」 上記記載によれば、本願補正発明の「ハロゲン原子が前記重合体から脱離可能な程度に前記電離放射線を前記樹脂パターンに対し照射」することの技術的意義は、電離放射線を樹脂パターンに照射してハロゲン原子が脱離することにより樹脂パターンの自由体積を減少させ、その結果、樹脂パターン内部にエッチャント(エッチングガス)を侵入し難くしてエッチング耐性を向上させることにあるものと認められる。ここで、樹脂パターンを構成する樹脂組成物は、実施例1ではポジ型レジスト(製品名:ZEP520A,日本ゼオン社製)であり、電子線(電離放射線)の照射条件は、実施例1では加速電圧175kV、照射線量500Mrad?2400Mradである。 (イ)上記(ア)を踏まえ、相違点2について検討する。引用発明は、「大気圧中で、保護膜3の上から電子線を一括照射して、ドライエッチング耐性が向上したレジストパターン5Aを得」るものである。そして、「レジストは、α-クロロアクリル酸メチルとα-メチルスチレンとの共重合体からなる電子線レジスト(日本ゼオン社製、ZEP520A)であり、一括照射する電子線は、例えば、加速電圧175kV、照射量800Mradである」。 そうすると、本願補正発明と引用発明は、何れも、樹脂組成物が「日本ゼオン社製、ZEP520A」であり、電子線照射条件に格別の差異はなく、エッチング耐性が向上しているものであるから、引用発明のレジストパターンに電子線を一括照射した際には、本願補正発明と同様の現象がレジストパターン内部で生じているものと解される。すなわち、引用発明は、レジストパターンに電子線を一括照射すると、塩素原子(ハロゲン原子)が脱離し、レジストパターンの自由体積が減少し、その結果、レジストパターン内部にエッチングガスが侵入し難くくなり、ドライエッチング耐性が向上しているものと認められる。 してみると、引用発明は、塩素原子が重合体から脱離可能な程度に電子線をレジストパターンに対し照射しているものと認められるから、相違点2は実質的な相違点ではない。 ウ 相違点3について (ア)はじめに、本願補正発明の発明特定事項である「前記パターン形成工程において、前記インプリントモールドの前記微細凹凸パターンの設計寸法よりも2nm?20nm大きい寸法の前記樹脂パターンを形成する」ことの技術的意義について検討する。 本願の発明の詳細な説明には、 「【0051】 後述するように、樹脂層30上に形成されるレジストパターン41をマスクとして当該樹脂層30をエッチングして樹脂パターン31を形成し(図2(d)参照)、当該樹脂パターン31に対して電離放射線を照射することで樹脂パターン31のエッチング耐性を向上させる(図1(c)参照)。この電離放射線の照射により、樹脂パターン31の自由体積が減少するため、結果的に樹脂パターン31の寸法が僅かに(1?10nm程度)小さくなる。そのため、電離放射線を照射した後の樹脂パターン31の寸法は、上記インプリントモールド50を用いて形成されるレジストパターン41の寸法よりも僅かに(2?20nm程度)小さくなる。そして、電離放射線の照射後の樹脂パターン31の寸法に応じた寸法で、インプリントモールド1の微細凹凸パターン2が形成されることになるが、上記インプリントモールド50の微細凹凸パターン51の寸法が、製造予定のインプリントモールド1の微細凹凸パターン2の設計寸法よりも僅かに(2?20nm程度)大きいことで、設計寸法通りの微細凹凸パターン2を有するインプリントモールド1を製造することができる。」 との記載がある。上記記載によると、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項が有する技術的意義は、樹脂パターンに電離放射線を照射すると寸法が僅かに(2?20nm程度)小さくなるから、製造予定のインプリントモールド1の微細凹凸パターン2の設計寸法よりも僅かに(2?20nm程度)大きい寸法の微細凹凸パターンを形成しておくことで、設計寸法通りの微細凹凸パターン2を有するインプリントモールド1製造することにあるものと解される。 (イ)上記(ア)を踏まえて、相違点3について検討する。 ArFレジストではあるが、メタクリレート樹脂のレジスト、シクロオレフィン樹脂系レジスト、ノボラック樹脂系のレジスト、あるいはフェノール樹脂系のレジストに電子線を照射するとレジストがシュリンク(収縮)することは、例えば、特開2005-79226号公報(【0019】の記載を参照。)、特開2009-187967号公報(【0007】には、電子線照射によるシュリンクは従来から使用しているレジストについても生じていること、アクリル系ポリマーを使用するものは特に大きいことが開示されている。)に記載されるように周知の技術事項であることを踏まえると、引用発明の「α-クロロアクリル酸メチルとα-メチルスチレンとの共重合体からなる電子線レジスト」もまた、同様に樹脂を用いるレジストであるから、電子線を照射するとレジストがシュリンク(収縮)することは予測される。そして、物を製造する際に、製造した物が設計寸法通りであるか否か、実際に寸法を測定して確認することは当業者であれば当然に行うものであること、設計上の寸法どおりにパターンを製造する目的で、予めシュリンク(収縮)量に相当する寸法だけレジストパターンを太らせておくことは周知技術であるから、シュリンク(収縮)量に応じて「設計寸法よりも2nm?20nm大きい寸法の前記樹脂パターンを形成し」、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項となすことに困難性はない。 (3)作用効果について そして、本願補正発明が奏する作用効果は、引用発明と周知技術に基づいて当業者が容易に予測しうる程度のものと認められる。 (4)小括 したがって、本願補正発明は、引用発明と周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 本件補正についてのむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成29年9月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「微細凹凸パターンを有するインプリントモールドを製造する方法であって、 被加工基材の主面上に樹脂パターンを形成するパターン形成工程と、 前記樹脂パターンに対し電離放射線を照射する電離放射線照射工程と、 前記電離放射線が照射された前記樹脂パターンをマスクとして前記被加工基材をエッチングする基材エッチング工程と を含み、 前記樹脂パターンを構成する樹脂組成物が、構成単位中にハロゲン原子を有する重合体を含み、 前記パターン形成工程において、前記インプリントモールドの前記微細凹凸パターンの設計寸法よりも2nm?20nm大きい寸法の前記樹脂パターンを形成することを特徴とするインプリントモールドの製造方法。」(以下「本願発明」という。) 2 引用する刊行物と引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、その記載事項、及び引用発明は、前記「第2 2」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の発明特定事項から、上記第2 1 ア、イの特定事項による限定を解除したものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに上記第2 1 ア、イの特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明と周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-07-30 |
結審通知日 | 2019-08-06 |
審決日 | 2019-08-21 |
出願番号 | 特願2013-258075(P2013-258075) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今井 彰 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
小松 徹三 山村 浩 |
発明の名称 | インプリントモールドの製造方法 |
代理人 | 太田 昌孝 |