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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07D
管理番号 1355715
審判番号 不服2019-695  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-18 
確定日 2019-11-05 
事件の表示 特願2014-106388「レナリドミドの光学分割方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月10日出願公開、特開2015-221758、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成26年5月22日の出願であって、平成30年1月16日付けで拒絶理由通知がされ、同年5月10日に意見書及び手続補正書が提出された後、同年10月17日付けで拒絶査定がされたものであって、その後、平成31年1月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年3月7日付けで前置報告がされ、令和1年6月19日に審判請求人から前置報告に対する上申書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年10月17日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。

この出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2003/097052号
2.国際公開第2002/064083号

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、
請求項1を
「レナリドミドのエナンチオマーを分離・精製するための方法であって、レナリドミドのエナンチオマー混合物をクロマトグラフィーに供し、そして、非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いることにより、レナリドミドのラセミ体混合物からレナリドミドの各エナンチオマーを光学分割し、前記非プロトン性溶媒が、酢酸エチル、アセトニトリル又はこれらの組み合せであることを特徴とする、方法。」から
「レナリドミドのエナンチオマーを分離・精製するための方法であって、前記方法が、レナリドミドのエナンチオマー混合物をクロマトグラフィーに供し、そして、非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いることにより、レナリドミドのラセミ体混合物からレナリドミドの各エナンチオマーを光学分割することを含み、ここで、前記非プロトン性溶媒が、酢酸エチル、アセトニトリル又はこれらの組み合せであり、かつ、前記第二級アルコールが、イソプロパノールであることを特徴とする、方法(ただし、酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を移動相として用いる場合を除く)。」にするとともに、
請求項5及び請求項7を削除するものである。
この補正は、補正前後の請求項間の引用関係を考慮すると、
1.補正前の請求項5のうち、補正前の請求項1を引用するものを、補正後の請求項1とするとともに「酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を移動相として用いる場合を除く」ものとし、
2.補正前の請求項5のうち、補正前の請求項2を引用するものを、補正後の請求項2とするとともに「酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を移動相として用いる場合を除く」ものとし、
3.補正前の請求項5のうち、補正前の請求項3を引用するものを、補正後の請求項3とするとともに「酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を移動相として用いる場合を除く」ものとし、
4.補正前の請求項5のうち、補正前の請求項4を引用するものを、補正後の請求項4とするとともに「酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を移動相として用いる場合を除く」ものとし、
5.補正前の請求項6のうち、補正前の請求項1?4を引用する請求項5をさらに引用するものを、補正後の請求項5とするとともに「酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を移動相として用いる場合を除く」ものとし、
6.残余のものを削除するものといえる。
してみると、この補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除及び同第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、以下の「第4 本願発明」?「第5 当審の判断」において示すように、補正後の請求項1?5に係る発明は、独立して特許を受けることができるものであるから、この補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

第4 本願発明
この出願の請求項1?5に係る発明は、平成31年1月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。(以下、請求項順にそれぞれ「本願発明1」、「本願発明2」、……、「本願発明5」といい、まとめて「本願発明」ともいう。)

「 【請求項1】
レナリドミドのエナンチオマーを分離・精製するための方法であって、前記方法が、レナリドミドのエナンチオマー混合物をクロマトグラフィーに供し、そして、非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いることにより、レナリドミドのラセミ体混合物からレナリドミドの各エナンチオマーを光学分割することを含み、ここで、前記非プロトン性溶媒が、酢酸エチル、アセトニトリル又はこれらの組み合せであり、かつ、前記第二級アルコールが、イソプロパノールであることを特徴とする、方法(ただし、酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を移動相として用いる場合を除く)。
【請求項2】
前記レナリドミドのエナンチオマーがS体であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レナリドミドのエナンチオマーがR体であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記光学分割において、レナリドミドのS体がレナリドミドのR体よりも早く溶出することを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
多糖誘導体が固定相であるカラムが用いられることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。」

第5 当審の判断
1 引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1(国際公開第2003/097052号)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。
(引用文献1は英文で記されているため、当審による邦訳文で示す。)

記載事項1-ア
「化合物3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオン(REVIMID^(TM))は、以下の化学構造を有する:

」(12頁2?4行)

記載事項1-イ
「本発明の種々の免疫調節性化合物は、1つ以上のキラル中心を含有し、エナンチオマーのラセミ混合物またはジアステレオマーの混合物として存在することができる。本発明は、そのような化合物のステレオマー的に純粋な形態の使用およびそれらの形態の混合物の使用を包含する。たとえば、等量または不等量の本発明の特定の免疫調節性化合物のエナンチオマーを含む混合物を、本発明の方法および組成物で使用することが可能である。これらの異性体は、キラルなカラムまたはキラルな分割剤のような標準的方法を用いて、不斉合成または分割することが可能である。」(13頁27?34行)

記載事項1-ウ
「特許請求の範囲
1.特定の癌を治療、管理、または予防する方法であって、そのような治療、管理、または予防の必要な患者に治療上または予防上有効な量の免疫調節性化合物またはその製薬上許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、もしくはプロドラッグを投与することを含む、上記方法。
2.特定の癌を治療、管理、または予防する方法であって、そのような治療、管理、または予防の必要な患者に治療上または予防上有効な量の免疫調節性化合物またはその製薬上許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、もしくはプロドラッグの投与と、治療上または予防上有効な量の第2の活性成分の投与、放射線療法、ホルモン療法、生物学的療法、または免疫療法とを行うことを含む、上記方法。
3.望ましくない血管新生に関連づけられる疾患を治療、管理、または予防する方法であって、そのような治療、管理、または予防の必要な患者に治療上または予防上有効な量の免疫調節性化合物またはその製薬上許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、もしくはプロドラッグを投与することを含む、上記方法。
4.望ましくない血管新生に関連づけられる疾患を治療、管理、または予防する方法であって、そのような治療、管理、または予防の必要な患者に治療上または予防上有効な量の免疫調節性化合物またはその製薬上許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、もしくはプロドラッグと、治療上または予防上有効な量の第2の活性成分とを投与することを含む、上記方法。
……
12.前記免疫調節性化合物が3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンである、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
13.前記免疫調節性化合物がエナンチオマー的に純粋である、請求項12に記載の方法。」

本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】には、
「【0013】
レナリドミド(LL)は、多発性骨髄腫治療薬として知られるサリドマイド(TD)の誘導体であり、多発性骨髄腫など多様な悪性血液疾患に有効な免疫調製薬として広く用いられている。以下の式により表される化学構造を有し、サリドマイドと同様に、ジオキソピペリジン環上に不斉中心を有する。
【化1】

」との記載があって、「レナリドミド」の化学構造が上記記載事項1-ア及び上記記載事項1-ウに示された化合物3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオン(REVIMID^(TM))の化学構造と一致することから、引用文献1に記載された「3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオン」は本願発明にいう「レナリドミド」であると認められる。
そして、上記記載事項1-イに「たとえば、等量または不等量の本発明の特定の免疫調節性化合物のエナンチオマーを含む混合物を、本発明の方法および組成物で使用することが可能である。これらの異性体は、キラルなカラムまたはキラルな分割剤のような標準的方法を用いて、不斉合成または分割することが可能である。」とあることから、
引用文献1には、
「レナリドミドのエナンチオマーを分離・精製するための方法であって、前記方法が、レナリドミドのエナンチオマー混合物をキラルなカラムを用いた標準的方法に供し、レナリドミドのラセミ体混合物からレナリドミドの各エナンチオマーを光学分割することを含む、方法。」の発明(以下、「引用発明」ともいう。)が記載されているといえる。

(2)引用文献2(国際公開第2002/064083号)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(引用文献2は英文で記されているため、当審による邦訳文で示す。)

記載事項2-ア


」(17頁)

記載事項2-イ
「実施例4
S(-)-3-アミノ-サリドマイドの合成:
3-ニトロ-サリドマイド(1g、3.3ミリモル)を50mL ジオキサン/メタノール 4:1混合液中に溶解し、Parr水素化装置中でPd/C 5%触媒の存在下で40psiの水素で約4時間水素化した。その反応混液をセライトろ過剤を通過させてろ過した後、溶媒を真空下で蒸発させて黄色の粉末を得た。その産物を酢酸エチル/ジオキサンから再結晶させて800mg(純度85%)のS(-)-3-アミノ-サリドマイドを得た。
DMSO-D_(6)中での1H NMRで、その産物がS(-)-3-アミノ-サリドマイドであることを確認した。融点 318.2-319.5℃。 1H NMR(DMSO-D_(6), PPM), 11.10(1H, s broad), 7.45(1H, t, J=7.5), 7.05(1H, d, J=5.2), 6.95(1H, d, J=5,2), 6.5(2H, s broad), 5.05(1H, dd, J=5.0, 13.42), 2.95-2.80(1H, m), 2.65-2.5(2H, m), 2.05-1.95(1H, m)。絶対配置はR-およびS-3-アミノ-サリドマイドの比旋光度[a]^(25)_(D)を類似の化合物であるR(+)-およびS(-)-サリドマイドと比較して定めた。旋光計での産物の分析では(-)の旋光、[a]^(25)_(D)(c=0.5、ジオキサン)=-27.7.0°を示し、その産物がS(-)-3-アミノ-サリドマイドであることを確認した。
3-アミノ-サリドマイドの2種のエナンチオマーはキラルHPLCカラムWelk-01(10mm x 750mm)で分け、CH3CN/MeOH/H2O 1:1:5混合物で溶出した。流速2mL/分, 240nmで保持時間はそれぞれ、S(-)エナンチオマーでは33.74分で、R(+)エナンチオマーでは35.62分であった。」(27頁10行?28頁9行)

(3)その他の引用文献
拒絶査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献3(浅原照三ら,溶剤ハンドブック,株式会社講談社,1985年,p.568-572)には、酢酸エチルの物性・化学的性質・用途等が記載されており、引用文献4(浅原照三ら,溶剤ハンドブック,1985年,株式会社講談社,p.642-648)には、アセトニトリルの物性・化学的性質・用途等が記載されている。

2 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
キラルなカラムを用いたクロマトグラフィーによる方法が、ラセミ体混合物からエナンチオマーを光学分割するための標準的な方法の一つであることは、技術常識であるから、引用発明における「エナンチオマー混合物をキラルなカラムを用いた標準的な方法に供し、……光学分割すること」は、本願発明1における「エナンチオマー混合物をクロマトグラフィーに供し、……光学分割すること」に相当する。
すると、本願発明1と引用発明とは、
「レナリドミドのエナンチオマーを分離・精製するための方法であって、前記方法が、レナリドミドのエナンチオマー混合物をクロマトグラフィーに供し、レナリドミドのラセミ体混合物からレナリドミドの各エナンチオマーを光学分割することを含む、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
クロマトグラフィーの移動相について、本願発明1は「非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いる」ものであり、ここで「前記非プロトン性溶媒が、酢酸エチル、アセトニトリル又はこれらの組み合せ」であり、かつ、「前記第二級アルコールが、イソプロパノール」であるとされた上で、「ただし、酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を移動相として用いる場合を除く」とされる一方、引用発明は移動相について特に定められていない点。

イ 判断
引用文献1?4には、エナンチオマー混合物をクロマトグラフィーに供し、ラセミ体混合物から各エナンチオマーを光学分割する際に、移動相として、酢酸エチル、アセトニトリル又はこれらの組み合せである非プロトン性溶媒、イソプロパノールである第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒(ただし、酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を除く)を用いることは記載されておらず、クロマトグラフィーを用いて光学分割する際には、酢酸エチル、アセトニトリル又はこれらの組み合せである非プロトン性溶媒、イソプロパノールである第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒(ただし、酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を除く)を用いることが技術常識であるといえる根拠を見出すこともできない。
したがって、引用文献1?4の記載に接した当業者が、引用発明に対して、移動相として、酢酸エチル、アセトニトリル又はこれらの組み合せである非プロトン性溶媒、イソプロパノールである第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒(ただし、酢酸エチル及びイソプロパノールからなる混合物であって、イソプロパノールの組成割合が25%超である混合物を除く)を用いることを容易に想到し得たとすることはできない。

よって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本願発明2?5について
本願発明2?5はいずれも、本願発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、前記(1)で説示したとおり、本願発明1が、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本願発明2?5も、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
前記(1)及び(2)に説示したとおり、本願発明1?5は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、この出願を拒絶することはできない。
また、他にこの出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-21 
出願番号 特願2014-106388(P2014-106388)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C07D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 工藤 孝幸清水 紀子山本 昌広  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 村上 騎見高
関 美祝
発明の名称 レナリドミドの光学分割方法  
代理人 中島 勝  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  
代理人 池田 達則  

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