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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1355766 |
審判番号 | 不服2018-7908 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-07 |
確定日 | 2019-10-29 |
事件の表示 | 特願2016-136559「偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月10日出願公開、特開2016-191943、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成22年7月23日に出願した特願2010-165722号の一部を、平成26年3月28日に特願2014-67544号として出願し、その一部をさらに、平成27年7月2日に特願2015-133162号として出願し、その一部をさらに、平成28年7月11日に新たな特許出願としたものである。 そして本願は、平成29年2月22日付けで拒絶理由が通知され、同年3月7日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年8月28日付けで拒絶理由が通知され、同年10月31日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成30年3月14日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年6月7日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。 その後、平成31年4月17日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和元年6月20日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。 2 本件発明 本願の請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 ポリビニルアルコールおよびイソシアネート系化合物を含有する塗布液から形成された塗布層をポリエステルフィルムの一方の面に直接有し、当該ポリエステルフィルムの当該塗布層側に偏光膜を有し、当該塗布層と当該偏光膜との間に接着剤層を有し、当該偏光膜がポリビニルアルコール-ヨウ素の偏光膜であり、但し、当該塗布層に占める全樹脂構成成分中の自己架橋性ポリウレタン樹脂の含有量が50重量%以上である場合を除く、偏光板。 【請求項2】 ポリビニルアルコールおよびイソシアネート系化合物を含有する塗布液から形成された塗布層とは反対面側のポリエステルフィルム面に塗布層を有する請求項1に記載の偏光板。 【請求項3】 ポリビニルアルコールおよびイソシアネート系化合物を含有する塗布液から形成された塗布層とは反対面側のポリエステルフィルム面の塗布層が、絶対反射率が波長300?800nmの範囲に1つの極小値を有し、当該極小値が3.5%以下である請求項2に記載の偏光板。 【請求項4】 ポリビニルアルコールのケン化度が70mol%以上である請求項1?3のいずれかに記載の偏光板。 【請求項5】 塗布液に占める全不揮発成分中のポリビニルアルコールとイソシアネート系化合物の重量比が1.0?8.0:1.0?8.0の範囲である請求項1?4のいずれかに記載の偏光板。 【請求項6】 塗布液がポリエステル樹脂を含有する請求項1?5のいずれかに記載の偏光板。 【請求項7】 塗布液中のポリエステル樹脂が親水性の官能基を含有する請求項6に記載の偏光板。」 3 原査定の概要 原査定の拒絶理由の概要は、本願の請求項1、3?10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献Aに記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 なお、引用文献A及び副引用文献として用いられた引用文献B、周知技術を示す文献として用いられた引用文献C及び引用文献Dは、以下のとおりである。 引用文献A:特開2009-269302号公報 引用文献B:特開平9-281333号公報 引用文献C:特開2010-89311号公報 引用文献D:特開平11-301104号公報 4 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 理由1(進歩性) 本願の請求項1?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、引用文献1及び周知技術を示す文献として用いられた引用文献2?5は、以下のとおりである。 引用文献1:特開2004-37841号公報 引用文献2:特開2009-157361号公報 引用文献3:特開2004-354557号公報 引用文献4:特開2005-37927号公報 引用文献5:特開2003-121606号公報 理由2(明確性) 本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 理由3(サポート要件) 本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 5 引用文献の記載事項及び引用発明に記載された発明 (1)引用文献1 ア 引用文献1の記載事項 当審拒絶理由に引用され、本願出願前の平成16年2月5日に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1(特開2004-37841号公報)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が引用発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。他の文献についても同様である。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 偏光子と偏光子の保護フィルムとを接着積層する偏光板の製造方法において、少なくとも水性エマルジョンとポリビニルアルコールとポリイソシアネート化合物とを含有してなり、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整された水性ウレタン系接着剤を用いて、上記偏光子と保護フィルムとをウェットラミネートすることを特徴とする偏光板の製造方法。」 (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、偏光板の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 近年、液晶ディスプレイは車載用や携帯情報機器用として用いられることが多くなり、液晶ディスプレイの高温環境下および高温高湿環境下における信頼性が強く要望されている。 【0003】 液晶ディスプレイを構成する偏光板としては、延伸配向したポリビニルアルコールにヨウ素もしくは二色性染料を吸着させて作製した偏光子の両面にトリアセチルセルロース(TAC)を保護フィルムとして接着積層したものが一般的に用いられ、この偏光板は、透明電極を形成した2枚の電極基板間に液晶を封入した液晶セルの片側もしくは両側に貼り付けて用いられる。 【0004】 上記TACは、そのままでは偏光子との接着性が悪いため、アルカリ処理したTAC(以下、「鹸化TAC」と記す)として用いられている。しかし、鹸化TACを保護フィルムとして用いた偏光板は、鹸化TACの透湿度が高すぎるため、高温高湿環境下において偏光性能の低下を起こすという問題点がある。また、TACは光弾性係数が高いので、高温環境下に放置した後の偏光板をクロスニコル状態で観察すると画面の周囲が額縁状に光り漏れを起こす現象、いわゆる“白抜け現象”が起きるという問題点もある。 【0005】 これらの問題点に対応するために種々の試みがなされており、例えば、特開平5-212828号公報では、ポリビニルアルコール系シート(偏光子)の少なくとも片面にアクリル系粘着剤層を介して熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シート(保護フィルム)が積層され、加熱圧着されてなる複合シート(偏光板)が開示されている。また、特開平10-130402号公報では、光線透過率が80%以上、水蒸気透過度が100g/m^(2) ・24h以下、かつ、偏光膜(偏光子)との接着強度が5.5kg/cm^(2) 以上である、偏光子に積層するための高分子フィルム(保護フィルム)が開示されている。 【0006】 しかし、特開平5-212828号公報に開示されている偏光板や特開平10-130402号公報に開示されている保護フィルムを用いた偏光板には、加熱圧着に起因する偏光度の低下や褪色が避けられないという問題点や、接着力が不十分であり、耐久性も低いという問題点がある。また、従来の製造工程をそのまま適用することはできないという問題点もある。 【0007】 上記従来の製造工程とは、偏光子と保護フィルムとの接着工程を指し、保護フィルムとして透湿度の高い鹸化TACを用いて、偏光子にこの保護フィルムを水系のPVA系接着剤でウェットラミネートする工程であるが、上記特開平5-212828号公報に開示されている偏光板や特開平10-130402号公報に開示されている保護フィルムを用いた偏光板の場合、偏光子と保護フィルムとをドライラミネート法で接着する必要があり、さらに加熱圧着装置を必要とすることから、従来の製造工程をそのまま適用することは困難である。 【0008】 これらの問題点に対応するために、例えば、特開2000-321432号公報では、ポリビニルアルコールからなる偏光子と熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂からなる保護フィルムとがポリウレタン系接着剤により接着されている偏光板が開示されている。 【0009】 上記公報に開示されている偏光板は、十分な接着力および耐久性を発現するものの、ポリウレタン系接着剤にウレタンプレポリマー(一液型)やイソシアネート系硬化剤(二液型)を用いているため、初期接着力の発現が遅く、次工程に移行できる程度の接着力を発現させるためには相応の養生時間が必要であるという問題点がある。また、上記ポリウレタン系接着剤が粘度の低い水系のポリウレタン系接着剤である場合、製造工程中において、乾燥するまでの間に偏光子もしくは保護フィルムの剥がれや浮きが発生するという問題点もある。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、上記問題点に鑑み、製造工程中において剥がれや浮きを発生せず、初期接着力の発現が速く、しかも高温環境下や高温高湿環境下においても優れた接着力、優れた耐久性および優れた光学特性を発現する偏光板の製造方法を提供することにある。 【0011】 【課題を解決するための手段】 請求項1に記載の発明による偏光板の製造方法は、偏光子と偏光子の保護フィルムとを接着積層する偏光板の製造方法において、少なくとも水性エマルジョンとポリビニルアルコールとポリイソシアネート化合物とを含有してなり、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整された水性ウレタン系接着剤を用いて、上記偏光子と保護フィルムとをウェットラミネートすることを特徴とする。」 (ウ)「【0015】 本発明における偏光板とは、偏光子に偏光子の保護フィルムが接着積層されてなるものであり、上記保護フィルムは、偏光子の少なくとも片面に接着積層されていれば良いが、偏光板の耐久性をより向上させるためには、偏光子の両面に接着積層されていることが好ましい。 【0016】 本発明で用いられる偏光子とは、偏光子としての機能を有するフィルム(シートも含む)のことであり、その具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムにヨウ素を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸したPVA・ヨウ素系偏光子、PVAフィルムに二色性の高い直接染料を拡散吸着させた後、一軸延伸したPVA・染料系偏光子、一軸延伸PVAの脱水処理物や一軸延伸ポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物のようなポリエン配向偏光子等が挙げられる。これらの偏光子は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。 【0017】 本発明で用いられる保護フィルムとは、上記偏光子を保護する機能を有する透明な熱可塑性樹脂フィルムのことであり、偏光子の片面もしくは両面に接着積層されることにより、保護フィルムとしての機能を発揮する。 【0018】 上記保護フィルムを形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられ、なかでも、ポリオレフィン系樹脂やアクリル系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。 (中略) 【0033】 上記保護フィルムの偏光子と接着積層される表面には、偏光子に対する接着力をより向上させるために、予めコロナ放電処理、プラズマ放電処理、紫外線照射処理等の表面処理が施されていても良い。上記表面処理の程度は、保護フィルム表面の水滴の接触角で65°以下であることが好ましく、より好ましくは60°以下であり、さらに好ましくは55°以下である。 【0034】 本発明の偏光板の製造方法においては、水性ウレタン系接着剤を用いて、上記保護フィルムを偏光子の少なくとも一方の表面にウェットラミネートすることにより接着積層する。上記保護フィルムを偏光子の一方の表面にのみ接着積層する場合には、偏光子の非液晶セル側の表面に接着積層する。この場合、偏光子の他方の表面(液晶セル側の表面)に接着積層する保護フィルムは、上記保護フィルムであることが好ましいが、上記保護フィルムとは異なる保護フィルムであっても良い。」 (エ)「【0036】 本発明で用いられる水性ウレタン系接着剤は、少なくとも水性エマルジョンとポリビニルアルコールとポリイソシアネート化合物とを含有してなる。 【0037】 上記水性ウレタン系接着剤は、少なくとも水性エマルジョンとPVAとを含有する主剤とポリイソシアネート化合物を含有する硬化剤とからなる2液型の水性ウレタン系接着剤であっても良いし、少なくとも水性エマルジョンを含有する主剤とポリイソシアネート化合物を含有する硬化剤とからなる2液型の接着剤に、後からPVA水溶液を添加する3液型の水性ウレタン系接着剤であっても良い。 【0038】 本発明で用いられる水性ウレタン系接着剤に含有される水性エマルジョンとしては、例えば、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン、ポリエステル系樹脂エマルジョン、ポリオレフィン系樹脂エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂エマルジョン、イソシアネート基を有しないポリウレタン系樹脂エマルジョンなどの樹脂エマルジョンや、天然ゴム系ラテックス、合成ゴム系ラテックスなどのゴム(エラストマー)ラテックス等が挙げられる。これらの水性エマルジョンは、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。 【0039】 本発明においては、水性ウレタン系接着剤や偏光板の耐久性をより向上させるために、上記水性エマルジョンにポリエステル系樹脂を含有させることが好ましい。 (中略) 【0044】 本発明で用いられる水性ウレタン系接着剤に含有されるPVAとしては、公知の如何なるPVAであっても良いが、なかでも、偏光板の耐久性をより向上させるために、例えば、鹸化度が94モル%以上であり、重合度が500以上であるPVAを用いることが好ましい。これらのPVAは、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。 (中略) 【0047】 本発明で用いられる水性ウレタン系接着剤に含有されるポリイソシアネート化合物としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する公知の如何なる化合物であっても良く、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニルメタン)、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェートなどのイソシアネート単量体;イソシアネート単量体の二量体、三量体、カルボジイミド体、アロハネート、ビュレット、ウレア変性体などのイソシアネート変性体;ウレタンプレポリマー;ブロックイソシアネート等が挙げられ、なかでもウレタンプレポリマーが好適に用いられる。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。 (中略) 【0055】 本発明で用いられる水性ウレタン系接着剤は、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整されていることが必要であり、好ましくは0.03?0.8Pa・sであり、より好ましくは0.03?0.6Pa・sである。 (中略) 【0057】 水性ウレタン系接着剤の上記粘度(20℃)が0.03Pa・s未満であると、ウェットラミネートされた偏光子と保護フィルムとの乾燥後の初期接着力が不十分となったり、製造工程中において剥がれや浮きが発生する等の不具合が生じ、逆に1Pa・sを超えると、水性ウレタン系接着剤の調製時に混入した気泡の除去に時間がかかり、作業性が悪くなる。また、水性ウレタン系接着剤の上記粘度(20℃)を1Pa・s超とするためには、多量のPVAを配合する必要が生じ、PVAの配合量が増えると、保護フィルムに対する接着力が不十分となる。」 (オ)「【0058】 上記水性ウレタン系接着剤を用いて、偏光子と保護フィルムとをウェットラミネートする方法は、例えば、塗工の円滑性、乾燥後の塗工厚み等を考慮して、水性ウレタン系接着剤の粘度(20℃)が上記範囲を逸脱しない前提で、必要に応じて水性ウレタン系接着剤の樹脂分もしくは固形分を例えば1?70重量%に調整し、例えばグラビアコーター、マイクログラビアコーター、フローコーター(カーテンコーター)等の公知の塗工機を用いて、偏光子もしくは保護フィルムの所定の表面に塗工してウェットラミネートした後、熱風等を用いて乾燥することにより、接着積層すれば良い。」 イ 引用文献1に記載された発明 引用文献1の請求項1の記載に基づけば、引用文献1には、偏光板として、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「少なくとも水性エマルジョンとポリビニルアルコールとポリイソシアネート化合物とを含有してなり、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整された水性ウレタン系接着剤を用いて、偏光子と保護フィルムとをウェットラミネートして接着積層された偏光板。」 (2)引用文献2 当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の平成21年7月16日に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献2(特開2009-157361号公報)には、以下の記載事項がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、偏光子と少なくとも1枚のフィルムが積層された偏光板に関する。さらに本発明は、当該偏光板を用いた画像表示装置に関する。さらに、本発明は該画像表示装置の製造方法に関する。 (中略) 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、ポリエステルは偏光子や他の樹脂層との接着性が十分でなく、特許文献4?7等に開示されている共押出による場合でも、ポリエステル層と他の樹脂層の界面で剥がれが生じやすいといった課題を有していた。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明は、上記観点に鑑み、接着性に優れ、フィルム剥がれが生じにくい、ポリエステル層を有する偏光板を提供するものである。 【0009】 本願発明者らは、鋭意検討の結果、特定の構成により上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は、少なくとも一方主面に易接着層Hが形成された、少なくとも1枚のポリエステルフィルムEと偏光子Pとが、該ポリエステルフィルムの易接着層形成面と該偏光子とが対向するように接着剤層Gを介して積層されている偏光板に関する。」 イ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0015】 本発明は、少なくとも一方主面に易接着層Hが形成された、少なくとも1枚のポリエステルフィルムEと偏光子Pとが接着剤層Gを介して積層された偏光板に関する。以下、該ポリエステルフィルムE、易接着層H、偏光子P、接着剤層Gに関する好ましい形態を順次説明する。 【0016】 [ポリエステルフィルム] ポリエステルフィルムEは、偏光子保護フィルムとして用いられるものである。 (中略) 【0020】 [易接着層] 本発明の偏光板において、上記ポリエステルフィルムEは、少なくとも一方主面に易接着層Hが形成されている。かかる易接着層Hとしては、親水性セルロース誘導体、ポリビニルアルコール系化合物、親水性ポリエステル系化合物、ポリビニル系化合物、(メタ)アクリル酸化合物、エポキシ樹脂、ポリウレタン化合物、天然高分子化合物等により形成されたものが挙げられる (中略) 【0022】 ポリビニルアルコール系化合物としては、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリニビルベンザール等が挙げられる。特に、ポリエステルフィルムとの接着性の観点からは架橋剤を配合することが好ましい。好ましい架橋剤については後述する。 (中略) 【0029】 上記の中でも、接着性の観点から、ポリビニルアルコール系誘導体、又はポリウレタン化合物を好適に用いることができる。 【0030】 さらに、上記易接着層Hは、架橋剤を含んでいてもよい。特に、易接着層が主としてポリビニルアルコール系化合物やポリビニル系化合物等のように、一般にポリエステルフィルムとの接着性(密着性)が低いものである場合、易接着層Hは架橋剤を含むことが好ましい。かかる架橋剤としては、例えばアクリル系、スチレン系、エポキシ系、フェノール系、フェノキシエーテル系、フェノキシエステル系、メラミン系、ウレタン系等の架橋剤が挙げられる。中でも、ポリエステルと易接着層の密着性を向上させる観点からは、オキサゾリン基、ジイミド基、ヒドラジン基、エポキシ基を有している架橋剤を好適に用いることができる。 【0031】 易接着層Hは、上記の化合物を溶液、分散液、あるいは乳化液としてポリエステルフィルム上に塗布することによって形成することが好ましい。塗布にあたっては、環境汚染を防ぎ、防爆性を得る観点から、水性塗液として用いることが好ましい。 (中略) 【0038】 塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法を提供することができる。これらは単独で用いてもよく、組合せて用いてもよい。ポリエステルフィルム上に塗布された塗液は、加熱等によって乾燥することで、易接着層としてフィルム上に形成される。 【0039】 [偏光子] 偏光子とは、自然光や偏光から任意の偏光に変換し得るフィルムをいう。本発明に用いられる偏光子としては、任意の適切な偏光子が採用され得るが、自然光又は偏光を直線偏光に変換するものが好ましく用いられる。 【0040】 本発明の偏光板においては、偏光子Pとして、目的に応じて任意の適切ものが採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。 (中略) 【0043】 前記ポリビニルアルコール系フィルム(未延伸フィルム)は、常法に従って、一軸延伸処理、ヨウ素染色処理が少なくとも施される。さらには、ホウ酸処理、ヨウ素イオン処理を施すことができる。また前記処理の施されたポリビニルアルコール系フィルム(延伸フィルム)は、常法に従って乾燥されて偏光子となる。 (中略) [接着剤層] 【0056】 前記の少なくとも一方主面に易接着層Hが形成されたポリエステルフィルムEと偏光子Pとは、ポリエステルフィルムの易接着層形成面と偏光子とが対向するように接着剤層Gを介して積層される。この際、接着剤層により両者を空気間隙なく積層することが望ましい。接着剤層Gは接着剤により形成される。接着剤の種類は特に制限されず、種々のものを用い得る。 (中略) 【0075】 前記偏光子Pと易接着層Hが形成されたポリエステルフィルムEとを、接着剤を用いて積層する場合において、接着剤の塗布は、ポリエステルフィルムEの易接着層H形成面、偏光子Pのいずれにおこなってもよく、両者におこなってもよい。接着剤の塗布は、乾燥後の接着剤層Gの厚みが10?300nm程度になるように行なうのが好ましい。接着剤層Gの厚みは、均一な面内厚みを得ることと、十分な接着力を得る点から、10?200nmであることがより好ましく、20?150nmであることがさらに好ましい。また、接着剤として、前述のポリビニルアルコール系樹脂、架橋剤及び平均粒子径が1?100nmの金属化合物コロイドを含有してなる樹脂溶液を用場合、接着剤層Gの厚みは、接着剤に含有されている金属化合物コロイドの平均粒子径よりも大きくなるように設計することが好ましい。 (中略) 【0077】 また、接着剤を塗工する前に、ポリエステルフィルムEに形成された易接着層Hに、さらに表面改質処理を施してもよい。具体的な処理としてば、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、プライマー処理、ケン化処理等を行うことができる。 【0078】 接着剤を塗布した後は、偏光子PとポリエステルフィルムEをロールラミネーター等により貼り合わせる。前述のごとく、この貼り合わせる工程に供される偏光子の水分率は、10?30重量%とすることが好ましく、12?28重量%とすることがより好ましく、16?25重量%とすることがさらに好ましい。水分率を上記範囲とすることで、偏光度を高く保ち、かつ、クニックや外観上のムラの発生を防止することができる。 さらに、偏光度や色相等の光学特性を安定化する観点においては、偏光子の両面にポリエステルフィルムを貼り合わせた後に、適切な乾燥温度で乾燥させることが好ましい。光学特性の観点から乾燥温度は90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。また、乾燥温度に下限はないが、工程の効率や実用性を考慮すると、50℃以上であることが好ましい。また、乾燥温度は上記温度範囲内で段階的に昇温して実施することもできる。」 (3)引用文献3 当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の平成16年12月16日に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献3(特開2004-354557号公報)には、以下の記載事項がある。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、偏光板に関する。当該偏光板はこれ単独でまたはこれを積層した光学フィルムとして液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等の画像表示装置を形成しうる。 (中略) 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、偏光子と保護フィルムとの接着性がよく、耐湿性、耐熱性の良好な偏光板を提供することを目的とする。また本発明は、当該偏光板を積層した光学フィルム、さらには当該偏光板または光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す偏光板により前記目的に達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0008】 すなわち本発明は、ポリビニルアルコール系偏光子の少なくとも一方の面に、接着層を介して保護フィルムが設けられている偏光板において、 前記保護フィルムは、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有してなり、 前記保護フィルムは、ポリビニルアルコール系偏光子側にウレタン変性共重合ポリエステル樹脂を主成分とする易接着処理層を有しており、かつ 前記易接着処理層付き保護フィルムは、乾燥後の残存溶剤量(ppm)が、 残存溶剤量(ppm)<9000×(45/H)、 (但し、Hは易接着処理層付き保護フィルムの厚み(μm))を満足することを特徴とする偏光板、に関する。」 イ 「【0020】 【発明の実施の形態】 本発明の偏光板は、図1、図2に示すように、ポリビニルアルコール系偏光子1の少なくとも一方の面に、接着剤により形成された接着層2を介して、保護フィルム3が設けられている。また、保護フィルム3には、偏光子1側にウレタン変性共重合ポリエステル樹脂を主成分とする易接着処理層aを有する。図1は、偏光子1の片側にのみ保護フィルム3が設けられており、図2では偏光子1の両側に保護フィルム3が設けられている。 【0021】 ポリビニルアルコール系偏光子としては、たとえば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等があげられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適である。 (中略) 【0023】 保護フィルムとしては、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニル基およびニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有してなるもの使用する。 (中略) 【0049】 前記保護フィルムの偏光子側を接着させる面には、偏光子との接着性を向上させるためウレタン変性共重合ポリエステル樹脂を主成分とする易接着処理層が設けられる。当該易接着処理層の形成は、ウレタン変性共重合ポリエステル樹脂の溶液を保護フィルムに塗布、乾燥することにより行うことができる。 【0050】 ウレタン変性共重合ポリエステル樹脂は、共重合ポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物を反応させて得られる樹脂である。共重合ポリエステルポリオールは多塩基酸成分とポリオール成分を、多塩基酸成分のカルボキシル基に対してポリオール成分の水酸基が過剰になるように反応させて得られるものである。一般的には、二塩基酸成分とジオール成分からなる直鎖状の共重合ポリエステルポリオールが用いられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。 (中略) 【0061】 保護フィルムに設けた易接着処理層と偏光子は、接着剤を用いて貼り合わせる。前記接着剤は光学的に透明であれば、特に制限されず溶剤系、水系、ホットメルト系の各種形態のものが用いられるが水系接着剤が好適である。接着剤としては、ポリビニルアルコール系、ゼラチン系、ビニル系ラテックス系、ポリウレタン系、イソシアネート系、ポリエステル系、エポキシ系等を例示できる。前記接着剤には各種架橋剤を含有することができる。また前記接着剤には、触媒、カップリング剤、各種粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐加水分解安定剤などの安定剤等を配合することもできる。接着剤の固形分は一般に10?50重量%で用いられる。」 6 対比・判断 (1)本件発明1 ア 対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 (ア)引用発明1の「ポリビニルアルコール」及び「ポリイソシアネート化合物」は、技術的にみて、それぞれ、本件発明1の「ポリビニルアルコール」及び「イソシアネート系化合物」に相当する。そして、引用発明1の「少なくとも水性エマルジョンとポリビニルアルコールとポリイソシアネート化合物とを含有してなり、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整された水性ウレタン系接着剤」と本件発明1の「ポリビニルアルコールおよびイソシアネート系化合物を含有する塗布液」とは、「ポリビニルアルコールおよびイソシアネート系化合物を含有する液」である点で共通する。 (イ)引用発明1の「保護フィルム」と本件発明1の「ポリエステルフィルム」とは、「フィルム」である点で共通する。 (ウ)引用発明1の「偏光子」は、技術的にみて、本件発明1の「偏光膜」に相当する。 (エ)引用発明1の「少なくとも水性エマルジョンとポリビニルアルコールとポリイソシアネート化合物とを含有してなり、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整された水性ウレタン系接着剤」は、「偏光子」と「保護フィルム」との間に「接着積層」されるものである。そうすると、引用発明1の「少なくとも水性エマルジョンとポリビニルアルコールとポリイソシアネート化合物とを含有してなり、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整された水性ウレタン系接着剤」により形成される「層」と、本件発明1の「ポリビニルアルコールおよびイソシアネート系化合物を含有する塗布液から形成された塗布層」とは、「ポリビニルアルコールおよびイソシアネート系化合物を含有する液から形成された層」である点で共通し、本件発明1における「フィルムの一方の面」に有するものであって、当該「層側に偏光膜」を有するとの要件を満たしている。 (オ)引用発明1の「偏光板」は、前記(ア)?(エ)からみて、本件発明1の「偏光板」に相当する。 (カ)以上より、本件発明1と引用発明1とは、 「ポリビニルアルコールおよびイソシアネート系化合物を含有する液から形成された層をフィルムの一方の面に有し、当該フィルムの当該層側に偏光膜を有する、偏光板。」である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1]ポリビニルアルコールおよびイソシアネート系化合物を含有する液から形成された層が、本件発明1では、「塗布」液から形成された「塗布」層であって、フィルムの一方の面に「直接」有するのに対し、引用発明1では、接着剤を用いて接着積層されたものであって、「塗布」されたものであるか、フィルムの一方の面に「直接」有するものであるかが明らかでない点。 [相違点2]本件発明1は、当該塗布層と当該偏光膜との間に「接着剤層」を有するのに対し、引用発明1は、接着剤層を有さない点。 [相違点3]偏光膜が、本件発明1では「ポリビニルアルコール-ヨウ素の偏光膜」であるのに対し、引用発明1では特定されていない点。 [相違点4]本件発明1は、層に占める全樹脂構成成分中の自己架橋性ポリウレタン樹脂の含有量が50重量%以上である場合を除くとされているのに対し、引用発明1はそのように特定されていない点。 [相違点5]フィルムが、本件発明1では、「ポリエステル」フィルムであるのに対し、引用発明1では、保護フィルムの材質を特定していない点。 イ 判断 事案に鑑みて、[相違点2]について検討する。 まず、引用文献1には、引用発明において、上記[相違点2]に係る本件発明1の構成を採用することについて記載がなく、また、示唆もない。この点は、引用文献A?引用文献D及び引用文献2?引用文献5についてみても同様である。 引用文献2の記載事項アには、「少なくとも一方主面に易接着層Hが形成された、少なくとも1枚のポリエステルフィルムEと偏光子Pとが、該ポリエステルフィルムの易接着層形成面と該偏光子とが対向するように接着剤層Gを介して積層されている偏光板」(段落【0009】)が記載されており、引用文献2の記載事項イには、「易接着層Hとしては、・・・ポリビニルアルコール系化合物、等により形成されたものが挙げられる」(段落【0020】)、「易接着層が主としてポリビニルアルコール系化合物・・・のように、一般にポリエステルフィルムとの接着性(密着性)が低いものである場合、易接着層Hは架橋剤を含むことが好ましい」(段落【0030】)と記載されている。また、引用文献3の記載事項イにも、「ポリビニルアルコール系偏光子1の少なくとも一方の面に、接着剤により形成された接着層2を介して、保護フィルム3が設けられている」偏光板において、「保護フィルム3には、偏光子1側にウレタン変性共重合ポリエステル樹脂を主成分とする易接着処理層aを有する」こと(段落【0020】)が記載されている。以上のとおり、偏光子とフィルムとを積層した偏光板において、フィルム上に設けられた樹脂と架橋剤とからなる層と偏光子との間に、さらに接着剤層を設けることは周知技術であるといえる。 しかしながら、引用発明1は、「水性ウレタン系接着剤を用いて、偏光子と保護フィルムとをウェットラミネートして接着積層された偏光板」であることを要件としている。そして、引用文献1の記載事項(オ)には、「上記水性ウレタン系接着剤を用いて、偏光子と保護フィルムとをウェットラミネートする方法は、・・・水性ウレタン系接着剤の粘度(20℃)が上記範囲を逸脱しない前提で、必要に応じて水性ウレタン系接着剤の樹脂分もしくは固形分を例えば1?70重量%に調整し、・・・公知の塗工機を用いて、偏光子もしくは保護フィルムの所定の表面に塗工してウェットラミネートした後、熱風等を用いて乾燥することにより、接着積層すれば良い。」(段落【0058】)と記載されている。上記記載に基づけば、ウェットラミネートは、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整された水性ウレタン系接着剤を用いて行われ、偏光子と保護フィルムとがウェットラミネートされた後で、熱風等を用いて乾燥がなされるものである。そうすると、引用発明1は、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整された水性ウレタン系接着剤を介して偏光子と保護フィルムが接着されるものであるから、上記接着剤を乾燥することにより形成される層と偏光子との間に、他の層を設けることができない。 そして、引用文献1の記載事項(イ)の「また、従来の製造工程をそのまま適用することはできないという問題点もある。」(段落【0006】)、「上記従来の製造工程とは、偏光子と保護フィルムとの接着工程を指し、保護フィルムとして透湿度の高い鹸化TACを用いて、偏光子にこの保護フィルムを水系のPVA系接着剤でウェットラミネートする工程である」(段落【0007】)、「ポリウレタン系接着剤にウレタンプレポリマー(一液型)やイソシアネート系硬化剤(二液型)を用いているため、初期接着力の発現が遅く、次工程に移行できる程度の接着力を発現させるためには相応の養生時間が必要であるという問題点がある。また、上記ポリウレタン系接着剤が粘度の低い水系のポリウレタン系接着剤である場合、製造工程中において、乾燥するまでの間に偏光子もしくは保護フィルムの剥がれや浮きが発生するという問題点もある。」(段落【0009】)、「本発明の目的は、上記問題点に鑑み、製造工程中において剥がれや浮きを発生せず、初期接着力の発現が速く、しかも高温環境下や高温高湿環境下においても優れた接着力、優れた耐久性および優れた光学特性を発現する偏光板の製造方法を提供することにある。」(段落【0010】)との記載に基づけば、引用発明1は、「ウェットラミネートする工程」を適用することを前提としており、「製造工程中において剥がれや浮きを発生せず、初期接着力の発現が速く、しかも高温環境下や高温高湿環境下においても優れた接着力、優れた耐久性および優れた光学特性を発現する偏光板の製造方法を提供する」という課題を解決しようとするものである。そうすると、当業者であっても、引用発明1において、ウェットラミネート以外の製造工程を採用することを試みるということはできない。 したがって、たとえ、上記のとおり、偏光子とフィルムとを積層した偏光板において、フィルム上に設けられた樹脂と架橋剤とからなる層と偏光子との間に、さらに接着剤層を設けることが周知技術であるとしても、引用発明1の「少なくとも水性エマルジョンとポリビニルアルコールとポリイソシアネート化合物とを含有してなり、B型粘度計による粘度(20℃)が0.03?1Pa・sとなるように調整された水性ウレタン系接着剤」により形成される「層」と、「偏光子」との間に、さらに「接着剤層」を設けることには阻害要因があるというべきであるから、当業者が容易になし得るということはできない。 あるいは、引用文献1の「水性ウレタン系接着剤」は、いわゆる「易接着剤」ではなく、ウェットラミネートに用いる「接着剤」である。そうしてみると、既に述べた理由も相まって、引用発明1においては、「水性ウレタン系接着剤」からなる塗布層と光子との間に、さらに「接着剤層」を設けることは、予定されていないと理解される。そして、この点において、引用発明1において、上記[相違点2]に係る本件発明1の構成を採用する動機づけは生じ得ないといえる。 ウ むすび 以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明1に基づいて容易に発明できたものということはできない。 (2)本件発明2?7 本件発明2?7は、本件発明1と同じ、塗布層と偏光膜との間に「接着剤層」を有するという構成を有するものである。そうすると、本件発明2?7も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1に基づいて容易に発明できたものということはできない。 7 原査定についての判断 原査定の拒絶理由は、引用文献Aに記載された発明を主引用発明とし、平成29年10月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、3?10に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、請求項2に係る発明については、拒絶理由が通知されていない。 一方、本件発明1は、平成29年10月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2に係る発明について、さらに限定を加えた発明に該当する。また、本件発明1の記載を引用する本件発明2?7についても同様である。 したがって、原査定を維持することはできない。 8 当審拒絶理由についての判断 (1)理由1について 前記6に記載したとおり、本件発明1及び本件発明2?7は、当業者であっても、引用発明1に基づいて容易に発明できたものということはできない。したがって、当審拒絶理由の理由1は解消した。 (2)理由2について ア 本件特許1には、「但し、当該塗布層に占める全樹脂構成成分中の自己架橋性ポリウレタン樹脂の含有量が50重量%以上である場合を除く」との記載がある。これについて、原査定の拒絶理由に引用された引用文献Aの段落【0037】には、「本発明では、該易接着層は、自己架橋性ポリウレタン樹脂を主たる構成成分とする。ここで、「主たる構成成分」とは、易接着層に含まれる全樹脂構成成分中として50%以上含有することを意味する。該易接着層は、水系塗布液を塗布、乾燥した後、少なくとも一方向に延伸された塗布層であることが望ましい。前記塗布層は、ポリエステルフィルムの延伸工程中の熱で加熱することにより、自己架橋反応により均一な膜を生成する。ここで、自己架橋性ポリウレタン樹脂とは、ポリイソシアネート化合物が系中の水分と反応してウレア結合をすることにより生成された網目状の構造を有するウレタン樹脂をいう。」と記載されている。当該記載を参酌すれば、本件特許1において「除く」とする範囲を特定することができる。 イ また、本件特許5には、「塗布液に占める全不揮発成分中のポリビニルアルコールとイソシアネート系化合物の重量比が1.0?8.0:1.0?8.0の範囲である」との記載がある。当該記載は、重量比において、ポリビニルアルコールとイソシアネート系化合物の双方を1.0?8.0の範囲としたものを包含するものと解釈することができる。そうすると、ポリビニルアルコール1.0に対しイソシアネート系化合物の重量比が1.0?8.0の範囲である場合と、イソシアネート系化合物1.0に対しポリビニルアルコール重量比が1.0?8.0の範囲である場合の双方を含む範囲を特定しているものといえる。 ウ 以上のとおりであるから、当審拒絶理由の理由2は解消した。 (3)理由3について 本件発明1?7は、本件補正によって、「偏光膜がポリビニルアルコール-ヨウ素の偏光膜」であることを構成要件とするものとなった。この結果、当審拒絶理由の理由3は解消した。 9 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-10-16 |
出願番号 | 特願2016-136559(P2016-136559) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 藤岡 善行 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
高松 大 宮澤 浩 |
発明の名称 | 偏光板 |
代理人 | 岡田 数彦 |