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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1355846
審判番号 不服2018-14093  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-24 
確定日 2019-10-10 
事件の表示 特願2014- 56554号「電動モータの着磁方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月8日出願公開,特開2015-180145号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概略
本願は,平成26年3月19日の出願であって,平成29年12月20日付けで拒絶理由が通知され,平成30年2月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成30年7月13日付けで拒絶査定がなされた。これに対し,平成30年10月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年10月24日付けの手続補正書による補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の結論]
平成30年10月24日付けの手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
(1) 平成30年10月24日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
固定子鉄心の内周に設けられているティース部にコイルボビンを介して巻装されているコイル巻線に直流電流を流すことによって,回転子鉄心に組み込まれている複数の磁石を着磁する電動モータの着磁方法において,
前記コイル巻線に直流電流を流して前記回転子鉄心に組み込まれている前記磁石を着磁する際,前記コイルボビンの全高に亘って,かつ,内周に沿って,該コイルボビンに作用するラジアル方向の力を受け止める環状部材を挿入し,
その状態で前記コイル巻線に直流電流を流すことにより前記磁石を着磁し,
着磁が終了した後,前記環状部材を取り外すことを特徴とする電動モータの着磁方法。」
と補正された(なお,下線は,本件補正により補正された箇所を示す。)。

(2) 前記の請求項1に係る本件補正は,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「環状部材」に関し,「該コイルボビンに作用するラジアル方向の力を受け止める」ものであることを特定するものである。
そして,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3) そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

2 引用文献に記載された事項
(1) 引用文献1
ア 原査定(平成30年7月13日付け拒絶査定)の拒絶の理由に示された引用文献1であり,本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である,特開2000-224818号公報には,以下の事項が記載されている(下線は,当審にて付与した。以下同様。)。
・「【請求項1】固定子鉄心の複数の磁極歯に絶縁性ボビンを介して多層巻線を巻装し,この多層巻線により回転子鉄心に備えた未着磁の磁石を着磁し永久磁石を形成する圧縮機用電動機の着磁方法において,
磁石の着磁を行う際に複数の磁極歯に巻装した多層巻線間にスぺーサを挿入し,
着磁が終了した後に挿入したスぺーサを抜き取る,
ようにしたことを特徴とする圧縮機用電動機の着磁方法。
【請求項2】スペーサは少なくとも電流が同方向に流れるスロットの多層巻線間に挿入し抜き取るようにしたことを特徴とする請求項1記載の圧縮機用電動機の着磁方法。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は圧縮機用電動機の着磁方法および圧縮機用電動機に係り,特に,未着磁の磁石を着磁する際に固定子鉄心に巻装した多層巻線,絶縁性ボビン等を損傷しないようにした圧縮機用電動機の着磁方法および圧縮機用電動機に関するものである。」
・「【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】冷凍サイクル用圧縮機を駆動する電動機10としては図11に示すように6つの磁極歯11に多層巻線12Ua,12Ub,12Va,12Vb,12Wa,12Wbを巻装した固定子13と,この固定子13の内部に4つの永久磁石14を90°の角度もって設けた回転子15とから成る電動機がある。
【0003】この永久磁石14は回転子15の4つの円弧状孔16に備えた未着磁の磁石を固定子13,回転子15等を組み込んだ後に多層巻線12Ua等に大きな直流電流を流して着磁するようになっている。
【0004】この着磁には図12に示すように多層巻線12Ua等が2相接続され,これに直流電源17からの直流電流を流すようになっている。この多層巻線12Ua等に直流電流を流すと電動機10には図13に矢印で示すような磁束が生ずる。この磁束と多層巻線12Ua等を流れる電流により相の異なる巻線12Ua,12Va等に同一方向の直流電流が流れる部分がある。この部分の巻線12Ua,12Va間,12Ub,12Vb間等には互いに引き合う力Fが働きこれらの巻線12Ua,12Va,12Ub,12Vb等は図14に示すように変形させられる。
【0005】この変形が大きいと巻線12Ua,12Va等同士が接触して絶縁破壊を起こすばかりか各多層巻線12Ua,12Ub等を巻装する絶縁性ボビン19の隅部19aや鍔部の根元部に大きな力が加わりこれを亀裂させる。
【0006】そのため,これらの多層巻線12Ua,12Ub等が地絡事故を起こすと言う問題があった。
【0007】そこで本発明は着磁に際し固定子に巻装した多層巻線,絶縁性ボビン等を損傷しないようにした圧縮機用電動機の着磁方法および圧縮機用電動機を提供することを目的とするものである。」
・「【0017】本発明電動機20には図1に示すように環状の固定子21Sが備えられる。この固定子21Sは薄鉄板を積層して固定子鉄心21に半径方向に等間隔で延びる複数の磁極歯22が設けられ,これに絶縁性ボビン23を装着するようになっている。
【0018】この絶縁性ボビン23には図2に示すようにその内周側および外周側には鍔部23a,23aが設けられ,この鍔部23a,23a間に固定子鉄心21の内周側から多層巻線24Ua,24Ub,24Va,24Vb,24Wa,24Wbが巻装され,回転磁界を発生するようになっている。
【0019】環状の固定子21Sの内周部には回転子25Rが備えられ,多層巻線24Ua等により発生した回転磁界により図示しない圧縮機を回転駆動するようになっている。
【0020】回転子25Rの薄鉄板を積層して構成した回転子鉄心25には軸方向に延び,かつ,等間隔に配置された4つの円弧状孔26が開けられ,これに未着磁の磁石27を嵌め込むようになっている。
【0021】図3には多層巻線24Ua,24Vaとの間,24Ub,24Vbとの間に挿入されあるいは抜き取られる絶縁材料からなるスペーサ28Aが示されている。このスペーサ28Aの厚さM1は図6に示す多層巻線24Ua,24Va間等の隙間Mの70%?110%の厚さに形成されている。スペーサ28Aの厚さM1が巻線間の隙間Mの70%未満では巻線の変形を充分に抑制できず,また,巻線間の隙間Mの110%を越えると挿入作業性が悪化し,巻線に傷をつけるおそれがある。」
・「【0024】つぎに,このように構成された電動機20の着磁方法を説明する。
【0025】固定子鉄心21の磁極歯22にボビン23を装着しこれに多層巻線24Ua,24Ub,24Va等を巻装した固定子21Sの内周部に回転子鉄心25の円弧状孔26に未着磁の磁石27を嵌め込んだ回転子25Rを組み込む。
【0026】この巻装した多層巻線,特に,着磁をする際に異相の多層巻線に同方向の直流電流が流れこれらの多層巻線に引き合い力Fが働く多層巻線24Ua,24Vaの間にはスペーサ28Cを挿入し,また,多層巻線24Ub,24Vbの間には図6に示すようにスペーサ28Aを挿入する。
【0027】このような準備が完了したら図12で示すものと同様に多層巻線24Ua,24Ub,24Vb,24Va等を2相通電を行い図13に示すものと同様に大きな直流電流を流しその直流磁界により磁石27を磁化する。
【0028】このとき異相の多層巻線24Ua,24Va,24Ub,24Vbの間等に大きな引き合い力Fが発生するが多層巻線24Ua,24Va等の間にはスペーサ28A,28Cが挿入してあるからその変形を防止する。
【0029】そのため,絶縁性ボビン23に大きな力を加わることを防止し亀裂を発生を防止できいるばかりか多層巻線24Ua,24Va等の接触を防止し地絡事故等を起こすことがない。
【0030】この磁化が終了したらスペーサ28A,28Cを抜き取り電動機20を完成させる。これによりスペーサ28A,28C等を何回も使用でき部品の節約により製造コストを低減することができる。」
・「【0031】図7に示す本発明の第2の実施の形態は多層巻線24Ubb,24Vbb,24Wbb等を図2に示すような完全な整列巻状態にしないで,少なくとも一部を乱巻状態,すなわち,下層の巻線と上層の巻線の少なくとも一部が交わる(クロスする)ようにしたものである。
【0032】図2に示すような完全な整列巻状態にした場合には,着磁時には図14に示すような引き合い力が生じた時に,上層の巻線が下層の巻線間に入り込もうとして絶縁性ボビン23の顎部23aを外側に広げようする大きな力が作用して顎部23aの根元部に亀裂を生じやすい。
【0033】これに対して,本実施例の形態のものにおいては図8に示すように着磁時に引き合い力Fが生じても,下層の巻線の方向と上層の巻線の方向とが交わる(クロスする)ようになっているから上層の巻線が下層の巻線間に入り込もうとするのを防止でき,その結果,絶縁性ボビン23の顎部23aに作用する力を低減でき,鍔部23aの根元部の亀裂の発生を防止できる。」
・「【0046】
【発明の効果】請求項1,2,3,4,5,6の発明は固定子鉄心の複数の磁極歯に絶縁性ボビンを介して多層巻線を巻装し,この多層巻線により回転子鉄心に備えた未着磁の磁石を着磁し永久磁石を形成する圧縮機電動機の着磁方法において,磁石の着磁を行う際に複数の磁極歯に巻装した多層巻線間にスぺーサを挿入し,着磁が終了した後に挿入したスぺーサを抜き取るようにしたから着磁の際に多層巻線等の短絡等を防止することができる。」
イ 上記の記載及び図面の記載からみて,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(引用発明)
「固定子鉄心の内周に設けられている磁極歯に,内周側及び外周側に鍔部が設けられた絶縁性ボビンを介して巻装されている多層巻線に直流電流を流すことによって,回転子鉄心に組み込まれている複数の未着磁の磁石を着磁する圧縮機用電動機の着磁方法において,
前記多層巻線に直流電流を流して前記回転子鉄心に組み込まれている前記未着磁の磁石を着磁する際,前記磁極歯に巻装した多層巻線間にスペーサを挿入し,
その状態で前記多層巻線に直流電流を流すことにより前記未着磁の磁石を着磁し,
着磁が終了した後,前記スペーサを抜き取るようにした圧縮機電動機の着磁方法。」

(2) 引用文献2
原査定(平成30年7月13日付け拒絶査定)の拒絶の理由に示された引用文献2であり,本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である,特開2003-47188号公報には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項2】 固定子の歯部に直接巻線が巻き付けられ集中巻された電動機において,前記固定子端面から飛び出した前記巻線の内径側に前記巻線を保護する非磁性の環状部材が配置され,前記環状部材の側面から前記固定子の外径方向に向かい放射状に伸びた複数の仕切り板が設けてあり,前記仕切り板により前記固定子端面から飛び出した,隣り合う前記巻線同士が接触しないようにしたことを特徴とする電動機。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,産業用機器,事務用機器,家電用機器に使用される電動機の固定子の構造に関する。特に,永久磁石が用いられる永久磁石型回転子を備えた電動機の固定子に関する。」
・「【0009】また,電動機の回転子に永久磁石型回転子等を備えた,密閉圧縮機等に組み込まれる電動機においては,密閉圧縮機内に電動機を組み込んだ後に,この電動機の固定子巻線を着磁巻線として流用し,この固定子と対向配置された永久磁石を備えた回転子に着磁を施す,いわゆる組み込み着磁と称される方法が一般的に採用されている。
【0010】この方法を図9及び図10の着磁結線図で説明する。図9では固定子巻線の三相とも着磁巻線として流用する場合である。例えば,固定子巻線のU相を着磁電源側の+側に接続し,V相及びW相を-側に接続させ,永久磁石を備えた回転子を所定の位置に合わせ,前記固定子巻線に着磁電流を流すことによって着磁することができる。また,図10も同様に固定子の巻線の二相を着磁巻線として流用し回転子に取り付けられた永久磁石を着磁する方法である。例えば,固定子巻線のU相を着磁電源側の+側に接続し,V相を-側に接続させW相を開放させている。また,別の方法として,U相を着磁電源側の+側に接続し,W相を-側に接続させV相を開放させている。この場合も前記同様に永久磁石を備えた回転子を所定の位置に合わせ,前記固定子巻線に着磁電流を流すことによって着磁することができる。
【0011】この様な方法においては,回転子に取り付けた永久磁石を完全に着磁するために固定子巻線に大電流を流し着磁をしなくてはならず,固定子巻線に流れる電流の向きにより巻線自体の吸引反発が起こる。特に,固定子内径側に巻線が倒れ込む場合が多く,電動機運転中に回転子と接触し焼損事故となる。このような現象は,図9では特にU相で顕著に表れる。また,図10ではU相を着磁電源側の+側に接続し,V相を-側に接続させた場合,U相及びV相の両方で表れる。また,U相を着磁電源側の+側に接続し,W相を-側に接続させた場合,U相及びW相の両方で表れる。更に,着磁の際の強い磁界により固定子の内径側に配置した磁性材である回転子に巻線が引き寄せられ固定子内径側に巻線が倒れ込む場合も多く,前記同様,電動機運転中に回転子と接触し焼損事故となる。
【0012】また,冷蔵庫,エアコン等の密閉圧縮機内の電動機として用いる場合,環境問題に配慮したHFC134a,HFC410a,HFC407c等の代替冷媒を使用するため密閉圧縮機内の冷凍機油としては,ポリアルキレングリコール系油,ポリエステル系油,エーテル系油等を使用する場合が多く,水分を溶解しやすくなっている。従って,電動機の絶縁材料としては水分による加水分解を引き起こさない材料としなくてはならない。」
・「【0023】また,図2には,6スロット三相4極の固定子1bの歯部8に直接巻線2bが巻き付ける集中巻された電動機を示している。前記したように1つの歯部8に直接巻線2bが巻き付けられている。この場合も図1と同様に,固定子1bのスロット9bには,巻線2bと固定子1bの鉄心とを絶縁するために,スロット絶縁5bが施されている。スロット絶縁5bは,フィルム状または樹脂等で成形されたボビンによって絶縁される。図1との相違点としては,補歯部3がないことである。(破線は固定子1bの端面から飛び出している巻線2bの周長部分を示している。)
【0024】図2も同様に,電動機の回転子に永久磁石型回転子等を使用する場合,この電動機の固定子1bの巻線2bを着磁巻線として,この固定子1bと対向配置された永久磁石型回転子に着磁を施す場合,固定子1bの巻線2bに流れる電流の向きにより巻線2bが吸引及び反発したり,あるいは,固定子1bの内径側に配置した磁性材である回転子に引き寄せられ固定子1bの内径側へ巻線2bが倒れ込み電動機の運転中に回転子と接触して焼損事故とならないように,この電動機の固定子1bの端面から飛び出した巻線2bの内径側に,巻線2bを保護する非磁性の環状部材6aを配置することによって絶縁不良の発生を防ぐことができる。」
・「【0027】図3(a)は,図1及び図2に取り付ける環状部材6aの斜視図である。また,図3(b)は,スロット内相間絶縁11を環状部材の仕切り板と共用する場合を示し,環状部材6bの側面から固定子1bの外径方向に向かい放射状に伸びた複数の仕切り板10bが設けられ,仕切り板10bが固定子1bのスロット9b内を軸方向に伸ばしスロット内相間絶縁とした場合の環状部材6bの斜視図である。
【0028】図1及至図3の環状部材6a及び6bを固定子1a及び1bに取り付ける方法として,環状部材6a及び6bを固定子1a及び1b端面から飛び出た巻線2a及び2bの内径側に環状部材6a及び6bを装着させた後に巻線固定紐等及び結束バンド等により巻線2aや2bと同時に縛り固定される。尚,環状部材6a及び6bの固定方法は,この方法に限定されるものでは無い。
【0029】図4は,図3に示した環状部材6a及び6bの別の実施例である。例えば,電動機の回転子に永久磁石型回転子等を使用する場合,フェライト磁石より更に強力な磁界が必要とする希土類磁石では,図3に示した環状部材6a及び6bでは,固定子1a及び1bの巻線2a及び2bを着磁巻線として,固定子1a及び1bと対向配置された永久磁石型回転子に着磁を施す場合,固定子内径側へ巻線の倒れ込みをこの環状部材6a及び6b等で防ぐことができない場合がある。
【0030】このことに鑑みて,図4及び図5に示す環状部材6cの形状のように,固定子端面側とは反対側に位置する環状部材6cの端部から固定子1a及び1bの外径側に向かい鍔7を形成することにより環状部材6a及び6bより強度を上げることができる。図4は本実施の環状部材6cを示し,図5は図4の環状部材6cの鍔7がわかる様にしたA-A’断面図である。
【0031】また,図6に示す環状部材6dは,固定子端部で引き回すリード線や固定子スロットから引き出される巻線等が固定子内径側に落ち込み電動機運転中に回転子に接触し焼損事故を起さないように非磁性の環状部材6dの高さを,環状部材6dの側面から固定子の外径方向に向かい放射状に伸びた複数の仕切り板10cの高さより高くすることでリード線及び巻線等が固定子内径側へ落ち込むのを防止することができる。また,リード線及び巻線等が固定子内径側へ落ち込むことがなくなるためリード線及び巻線等の固定作業も容易に行うことができる。
【0032】尚,図7の(a)は図6のB-B’断面図である。図中の破線は,リード線12及び巻線2c等を示している。図7の(b)には,図7の(a)で説明したようにリード線12及び巻線2c等が固定子内径側へ落ち込むのを防止すると伴に,仕切り板10dの固定子外径側に位置する外端部分を固定子端面側と反対の軸方向に伸ばすことによりリード線12及び巻線2c等が固定子外径側へ落ち込むのも防止することができる。また,本実施形態を,図3(b)及び図4に用いることで,更により良い効果を得る事ができる。」

3 対比及び判断
(1) 対比
ア 本願補正発明と引用発明とを,その有する機能に照らして対比してみるに,引用発明の「磁極歯」,「絶縁性ボビン」,「多層巻線」は,それぞれ,本願補正発明の「ティース部」,「コイルボビン」,「コイル巻線」に相当し,引用発明の「圧縮機用電動機」は,本願補正発明の「電動モータ」と,「電動モータ」である点で共通する。
また,引用発明において,「多層巻線」が「内周側及び外周側に鍔部が設けられた絶縁性ボビンを介して巻装されている」点は,その態様からして,本願補正発明における「コイル巻線」が「コイルボビンを介して巻装されている」点に相当する。
そして,引用発明は「固定子鉄心の内周に設けられている磁極歯に,内周側及び外周側に鍔部が設けられた絶縁性ボビンを介して巻装されている多層巻線に直流電流を流すことによって,回転子鉄心に組み込まれている複数の未着磁の磁石を着磁する圧縮機用電動機の着磁方法」であるから,本願補正発明と同様に,「固定子鉄心の内周に設けられているティース部にコイルボビンを介して巻装されているコイル巻線に直流電流を流すことによって,回転子鉄心に組み込まれている複数の磁石を着磁する電動モータの着磁方法」であるといえる。
イ 引用発明は,「前記多層巻線に直流電流を流して前記回転子鉄心に組み込まれている前記未着磁の磁石を着磁する際」に,「前記磁極歯に巻装した多層巻線間にスペーサを挿入し」,「その状態で前記多層巻線に直流電流を流すことにより前記未着磁の磁石を着磁し」,「着磁が終了した後,前記スペーサを抜き取る」ものであるが,当該「スペーサ」は,着磁の際に挿入される部材である点で,本願補正発明の「環状部材」に対応する部材といえ,「スペーサを抜き取る」ことは「スペーサ」を取り外すことといえる。
よって,引用発明は,本願補正発明と,「前記コイル巻線に直流電流を流して前記回転子鉄心に組み込まれている前記磁石を着磁する際」,「部材を挿入し」,「その状態で前記コイル巻線に直流電流を流すことにより前記磁石を着磁し」,「着磁が終了した後,前記部材を取り外す電動モータの着磁方法」である点共通する。
ウ そうすると,本願補正発明と引用発明1とは,次の点で一致し,相違する。
(一致点)
「固定子鉄心の内周に設けられているティース部にコイルボビンを介して巻装されているコイル巻線に直流電流を流すことによって,回転子鉄心に組み込まれている複数の磁石を着磁する電動モータの着磁方法において,
前記コイル巻線に直流電流を流して前記回転子鉄心に組み込まれている前記磁石を着磁する際,部材を挿入し,
その状態で前記コイル巻線に直流電流を流すことにより前記磁石を着磁し,
着磁が終了した後,前記部材を取り外す電動モータの着磁方法。」
(相違点)
本願補正発明は,「前記コイルボビンの全高に亘って,かつ,内周に沿って,該コイルボビンに作用するラジアル方向の力を受け止める環状部材を挿入」するのに対し,引用発明は,「前記磁極歯に巻装した多層巻線間にスペーサを挿入」するものであって,「スペーサ」は絶縁性ボビンに作用するラジアル方向の力を受け止めるものではない点。

(2) 判断
ア 引用文献2には,電動機の固定子の巻線を着磁巻線として,この固定子と対向配置された永久磁石型回転子に着磁を施す場合に,固定子の巻線に流れる電流の向きにより巻線が吸引及び反発したり,あるいは,固定子の内径側に配置した磁性材である回転子に引き寄せられ固定子の内径側,すなわちラジアル方向へ巻線が倒れ込むこと,それを防止するために,固定子の端面から飛び出した巻線の内径側に,巻線を保護する非磁性の環状部材を配置する点が記載されている(前記2(2))。
他方,引用文献1には,多層巻線を完全な整列巻状態にした場合には,着磁時において多層巻線間に引き合い力が生じた際に,上層の巻線が下層の巻線間に入り込もうとして絶縁性ボビンの鍔部を外側に広げようとする大きな力,すなわち,ラジアル方向の力が作用して鍔部の根元部に亀裂を生じやすい旨記載されており(【0032】),引用文献1には,引用発明において,着磁する際に,絶縁性ボビンの鍔部の変形を防止することに関する示唆が認められる。
引用文献2に記載された事項は,圧縮機内の電動機を想定しているところ(前記2(2)【0012】),着磁する際の巻線に生じる力に起因する,ラジアル方向への変形に着目した引用文献2に記載された事項を,圧縮機用電動機の着磁方法に係る引用発明に適用し,絶縁性ボビンの内側鍔部の内周に沿って,外側に広げようとする大きな力,すなわちラジアル方向の力を受け止める環状部材を挿入することについて,動機付けが認められる。
そして,環状部材を挿入する場合,環状部材の軸方向長さをどの程度にするかは,当業者が適宜に決定できるものであって,その機能を発揮するために必要十分な長さとすべきことは当然である。引用文献1において鍔部の変形に着目していることからすれば,鍔部全体を環状部材により支持することは合理的な発想といえるし,引用文献2に記載の環状部材が,固定子の端部から飛び出した巻線の内径側に配置されることを踏まえれば,その内側に固定子の端部の多層巻線が配される鍔部に関し,その全高に亘って力を受け止めるような長さを有する環状部材を挿入することに,格別の困難性は認められない。
よって,引用発明に引用文献2に記載された事項を適用し,前記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものと認められる。
本願補正発明の効果をみても,引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別ではない。
イ この点に関し,請求人は,引用文献2によって開示されている技術思想は,“固定子の端面から飛び出した部分の巻線に作用するラジアル方向の力を受ける”という技術思想であって,本願発明のように“全高に亘って,かつ,内周に沿って,コイルボビンに作用するラジアル方向の力を受け止める”という技術思想ではない,仮に引用文献2の環状部材を引用文献1に適用したとしても,固定子の端面から飛び出した部分の巻線に作用するラジアル方向の力を受ける環状部材が更に設けられた引用文献1に記載の電動機となるだけである,などと主張している(審判請求書,平成31年2月21付け上申書)。
しかしながら,引用文献2に記載された事項は,引用文献1に記載された事項と同様に,着磁時に固定子の端部の巻線に生じる力に起因する,ラジアル方向への変形に着目した技術であるから,引用発明において,絶縁性ボビンの鍔部のラジアル方向への変形を防止するための手段を講じるに当たり,十分に参考になるものである。
そして,そのような引用文献2に記載された事項を,引用発明に適用することによって,全高に亘って,かつ,内周に沿って,コイルボビンに作用するラジアル方向の力を受け止める環状部材を用いることは,多層巻線と鍔部との位置関係に照らせば,当業者にとって格別困難なこととは認められない。

(3) そうすると,本願補正発明は,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 以上を総合すると,本願補正発明は,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反する。

4 まとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,前記のとおり却下されたので,本願の請求項1?4に係る発明は,平成30年2月26日付けの手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるが,そのうち,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】
固定子鉄心の内周に設けられているティース部にコイルボビンを介して巻装されているコイル巻線に直流電流を流すことによって,回転子鉄心に組み込まれている複数の磁石を着磁する電動モータの着磁方法において,
前記コイル巻線に直流電流を流して前記回転子鉄心に組み込まれている前記磁石を着磁する際,前記コイルボビンの全高に亘って,かつ,内周に沿って,該コイルボビンに作用するラジアル方向の力を受ける環状部材を挿入し,
その状態で前記コイル巻線に直流電流を流すことにより前記磁石を着磁し,
着磁が終了した後,前記環状部材を取り外すことを特徴とする電動モータの着磁方法。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(引用文献)
引用文献1:特開2000-224818号公報
引用文献2:特開2003-47188号公報

3 引用文献に記載された事項
引用文献に記載された事項は,前記第2・2のとおりである。

4 対比及び判断
本願補正発明は,本願発明の「環状部材」に関し「該コイルボビンに作用するラジアル方向の力」を「受け止める」ものであることを特定したものであるから,本願発明はそのような本願補正発明を包含するものである(前記第2・1)。
そうすると,本願発明を特定するために必要な事項をすべて含む本願補正発明が,前記第2・3で検討したとおり,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 むすび
以上第3のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-31 
結審通知日 2019-08-06 
審決日 2019-08-27 
出願番号 特願2014-56554(P2014-56554)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 堀川 一郎
窪田 治彦
発明の名称 電動モータの着磁方法  
代理人 川上 美紀  
代理人 三苫 貴織  
代理人 藤田 考晴  
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