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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
管理番号 1355935
異議申立番号 異議2019-700049  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-24 
確定日 2019-08-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6380598号発明「粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6380598号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6380598号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6380598号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年3月15日に出願された特願2013-53352号の一部を平成29年4月12日に新たな特許出願としたものであって、平成30年8月10日にその特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年1月24日に特許異議申立人渡辺広基(以下、単に、「申立人」ということもある。)は特許異議の申立てを行った。当審は、平成31年4月17日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和元年6月13日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は同年7月18日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、請求項1における「前記アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万である」と記載されているのを「前記アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万であり、前記アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量がアクリル系共重合体を構成するモノマー成分中の0.1?3.5質量%である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?4も同様に訂正する。)というものである。
また、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-4〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正は、請求項1における「水分散型アクリル系粘着剤組成物」において「アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量がアクリル系共重合体を構成するモノマー成分中の0.1?3.5質量%である」点を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の【0023】には、「アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量は、アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中の0.1?10質量%とすることが好ましく、0.1?4質量%が好適である。」と記載され、「アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマー」の好適な含有量について、下限が0.1重量%であることが記載されている。
また、同【0098】?【0099】、【0112】の【表2】には、水分散型アクリル系共重合体の調製例18として、「n-ブチルアクリレート467.5g、メチルメタクリレート15g、アクリル酸17.5g、連鎖移動剤ラウリルメルカプタン0.2gを加えて乳化し、乳化液632.7g」によって水分散型アクリル系共重合体を調製することが記載されている。ここで、「アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量」は、[アクリル酸17.5g]/{[n-ブチルアクリレート467.5g]+[メチルメタクリレート15g]+[アクリル酸17.5g]+[連鎖移動剤ラウリルメルカプタン0.2g]}×100(%)で求めることができ、約3.5質量%(3.498・・質量%)となる。また、上記【表2】の「調製例18」には、アクリル共重合体のモノマー組成について、「BA」が「93.5」(質量%)、「MMA」が「3」(質量%)、「AA」が「3.5」(質量%)と記載されており、カルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量は、「AA」(アクリル酸)の含有量、すなわち、単に、3.5重量%であるということもできる。
したがって、願書に添付された明細書には、上記含有量の上限である3.5重量%のものが記載されているといえる。
そうすると、上記訂正は、願書に添付された明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、請求項に記載された発明を、請求項の番号に従って「本件発明1」、「本件発明2」などといい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂フィルム基材と粘着剤層とを有する粘着テープであって、
前記粘着剤層が、重合性不飽和基を有する乳化剤を含有するアクリル系共重合体、及び粘着付与樹脂を含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物からなり、
前記粘着剤層のガラス転移温度が-15℃以下であり、
前記水分散型アクリル系粘着剤組成物中の粘着付与樹脂の含有量が、水分散型アクリル系粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体100質量部に対し、3?18質量部であり、前記アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万であり、前記アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量がアクリル系共重合体を構成するモノマー成分中の0.1?3.5質量%であることを特徴とする粘着テープ。
【請求項2】
前記粘着剤層のゲル分率が、25?55質量%である請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記アクリル系共重合体が、炭素数4?12のアルキル基を有する(メタ)アクリレート及びカルボキシル基含有モノマーをモノマー成分として含有する請求項1又は2に記載の粘着テープ。
【請求項4】
電子機器の部材固定用に用いられる請求項1?3のいずれか一項に記載の粘着テープ。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、当審が平成31年4月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「理由1(新規性)本件の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本件の請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性)本件の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
●理由1、2について
1.引用文献
特開2007-217594号公報(甲第1号証)」

2 当審の判断
(1)引用文献の記載
引用文献には、「アクリル系水性粘着剤」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、アクリル系水性粘着剤に関する。更に詳しくは、従来の粘着剤に較べて良好な接着力と保持力を有し、特にウレタンフォームなどのような凹凸のある粗面に対して、優れた接着力と保持力を有するアクリル系水性粘着剤に関する。」
「【0008】
本発明の課題は、乳化重合時の副反応の結果生じる、ポリマー鎖の枝分かれを抑制し、分岐構造の少ない実質的に直鎖構造のアクリル系重合体を得て、更に架橋剤の添加後でも被膜の柔軟性を維持でき、接着力と保持力がバランスよく共に優れ、特にウレタンフォームなどのような凹凸のある粗面に対しても接着力(粗面接着性)に優れるアクリル系水性粘着剤、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体と特定のアルキル(メタ)アクリレートとを必須に含有する重合性単量体成分を、重合開始剤の存在下、水性媒体中で乳化重合して得られるアクリル系重合体を架橋してなるアクリル系水性粘着剤であって、(1)重合開始剤の使用量に基づき計算されるラジカル発生量(Rd)を特定の範囲内に制御することで、乳化重合時の副反応である枝分かれ反応が抑制でき、得られるアクリル系重合体のポリマー鎖が分岐構造の少ない直線構造になること、次いで、(2)前記分岐構造の少ない直線構造を有するアクリル重合体を油溶性エポキシ化合物で架橋することにより、粘着剤被膜の柔軟性が維持でき、接着力、特にウレタンフォームのような凹凸のある粗面に対しても優れた接着力(粗面接着性)を維持したまま保持力が向上すること、などを見出して本発明を完成するに到った。
【0010】
即ち、本発明は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)0.1?10重量%と炭素原子数1?12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(B)45?99.9重量%の範囲で含有する重合性単量体成分を、重合開始剤(X)の存在下、水性媒体中で乳化重合して得られるアクリル系重合体(P)を、更に油溶性エポキシ化合物(C)により架橋させてなるアクリル系水性粘着剤であって、前記重合開始剤(X)の使用量に基づき計算されるラジカル発生量(Rd)が、反応系内の重合性単量体成分1リットル当たり、毎分2×10-13?150×10-13モルの範囲であり、且つ、架橋前の該アクリル系重合体(P)から形成される被膜のゲル分率が20重量%以下であり、前記油溶性エポキシ化合物(C)による架橋後の被膜のゲル分率が10?50重量%であることを特徴とするアクリル系水性粘着剤、を提供するものである。」
「【0012】
先ず、本発明のアクリル系水性粘着剤において、第1の必須成分である、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)〔以下、不飽和単量体(A)ともいう。〕とは、分子内にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有する化合物であれば特に限定せず、例えば(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(メタ)アクリレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β-(メタ)ヒドロキシエチルハイドロゲンフタレート、及びこれらの塩等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。これらの中でも、単量体の重合時の安定性、接着物性、耐水白化性などに優れる点で、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0013】
前記不飽和単量体(A)の使用量は、重合性単量体成分の合計量に対して0.1?10重量%の範囲であり、好ましくは1?10重量%の範囲であり、より好ましくは2.5?10重量%の範囲である。前記不飽和単量体(A)の使用量がかかる範囲であれば、優れた接着力と保持力を発現でき、後記架橋剤である油溶性エポキシ化合物(C)との架橋反応が効率良く進行する。」
「【0032】
また、本発明のアクリル系水性粘着剤を用いて形成される被膜のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-25℃以下であり、より好ましくは-25?-60℃の範囲である。アクリル系水性粘着剤を用いて形成される被膜のTgがかかる範囲あれば、優れた接着力と保持力をバランス良く得ることができる。」
「【0034】
また、アクリル系重合体(P)のテトラヒドロフラン(THF)溶解分をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した場合の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10万?150万の範囲であり、より好ましくは20万?120万の範囲であり、更に好ましくは25万?100万の範囲である。アクリル系重合体(P)のTHF溶解分のMwがかかる範囲であれば、粗面接着性、保持力、接着力、耐剥がれ性などの優れた粘着特性を得ることができる。尚、GPCの測定は、ポリマー濃度が0.4%となるようにTHFに溶解し、不溶分を濾過で除去した後の溶解分のみをGPCで測定した値である。」
「【0042】
更に、一般的に「反応性乳化剤」と称される重合性不飽和基(即ち、重合し得る不飽和基)を分子内に有する乳化剤を使用することもでき、例えば、スルホン酸基及びその塩を有する「ラテムルS-180」〔花王株式会社製〕、「エレミノールJS-2」〔三洋化成工業株式会社製〕、「エレミノールRS-30」〔同社製〕等;硫酸基及びその塩を有する「アクアロンHS-10」〔第一工業製薬株式会社製〕、「アクアロンHS-20」〔同社製〕、「アクアロンKH-05」〔同社製〕、「KH-10」〔同社製〕、「アデカリアソープSE-10」〔旭電化工業株式会社製〕、「アデカリアソープSE-20」〔同社製〕、「アデカリアソープSR-10N」〔同社製〕、「アデカリアソープSR-20N」〔同社製〕等;リン酸基を有する「ニューフロンティアA-229E」〔第一工業製薬株式会社製〕等;非イオン性親水基を有する「アクアロンRN-10」〔第一工業製薬株式会社製〕、「アクアロンRN-20」〔同社製〕、「アクアロンRN-30」〔同社製〕、「アクアロンRN-50」〔同社製〕、「アクアロンER-10」〔同社製〕、「アクアロンER-20」〔同社製〕、「アクアロンER-30」〔同社製〕、「アクアロンER-40」〔同社製〕等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。反応性乳化剤を用いることは、重合時の安定性を向上させ、且つ本発明のアクリル系水性粘着剤により形成される被膜の耐水性が一層向上するため好ましい。」
「【0075】
[接着力の測定方法]
厚さ25μmのPETフィルムの表面に、乾燥後における膜厚が25μmとなるように後記実施例で得られたアクリル系水性粘着剤を塗布し、100℃で2分間乾燥して粘着シートを作成した。粘着シート及び被着体として鏡面仕上げしたステンレス板を用いて、JIS Z-0237に準じて23℃、相対湿度50%の雰囲気下で180度剥離強度を測定し、接着力を評価した。」
「【0082】
〔実施例4〕
(1)乳化液(I-d-1)、及び乳化液(I-d-2)の調製
容器に、乳化剤としてラテムルE-118B〔花王株式会社製;有効成分25%〕10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、アルキル(メタ)アクリレート(B)として2-エチルヘキシルアクリレート250部、n-ブチルアクリレート230部、不飽和単量体(A)としてアクリル酸20部、及びラウリルメルカプタン0.5部を加えて乳化し、乳化液(I-d-1)を得た。
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、乳化剤のラテムルE-118Bを0.2部と脱イオン水320部を入れ、窒素を吹き込みながら45℃まで昇温した。攪拌下、過硫酸アンモニウム水溶液10部(固形分5%)を添加し、続いて乳化液(I-d-1)を6.1部仕込み、45℃を保ちながら1時間で重合させ、樹脂粒子の分散体を製造した後、これをシードとして引き続き、残りの乳化液(I-d-1)の一部(90.7部)と、過硫酸アンモニウム水溶液6.75部(有効成分10%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を45℃に保ちながら1時間かけて滴下して重合した。この間、滴下しなかった乳化液(I-d-1)(513.7部)に、反応性乳化剤であるアクアロンKH-10〔第一工業製薬株式会社製;有効成分100%〕3部を加え、均一になるまで攪拌し、乳化液(I-d-2)を調製した。
乳化液(I-d-1)の滴下終了後、直ちに乳化液(I-d-2)(516.7部)と、過硫酸アンモニウム水溶液38.25部(有効成分10%)を別々の滴下漏斗を使用して反応容器を45℃に保ちながら5時間かけて滴下重合した。滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、水分散型アクリル系重合体を得た。ここで得られた水分散型アクリル系重合体(P)の固形分濃度、粘度、平均粒子径、重量平均分子量(Mw)、該水分散型アクリル系重合体(P)から得られる被膜のガラス転移温度(Tg)、ゲル分率を表1に示した。
(2)アクリル系水性粘着剤(II-d)の製造
上記の水分散型アクリル系重合体(P)に、レベリング剤としてサーフィノール420〔エアー・プロダクツ・ジャパン株式会社製;有効成分100%〕1.2部、架橋剤の油溶性エポキシ化合物(C)としてTETRAD-C〔三菱ガス化学株式会社製;有効成分100%〕0.1部、粘着付与樹脂(D)としてスーパーエステルE-788〔荒川化学工業株式会社製;有効成分50%〕150部を添加、1時間攪拌した後、100メッシュ金網で濾過し、本発明のアクリル系水性粘着剤(II-d)を得た。このアクリル系水性粘着剤(II-d)の安定性、及び該アクリル系水性粘着剤を用いて得た被膜のゲル分率(トルエン不溶解分率)、および粘着シートの接着力、粗面接着力、保持力、タックの評価結果を表1に示した。」
「【0088】
【表1】



(2)引用文献に記載された発明(引用発明)の認定
引用文献の【0082】?【0083】及び【0088】の【表1】それぞれ、以下の発明が記載されていると認められる。なお、【0034】の「、アクリル系重合体(P)のテトラヒドロフラン(THF)溶解分をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した場合の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10万?150万の範囲であり、より好ましくは20万?120万の範囲であり、更に好ましくは25万?100万の範囲である。」という記載から、【0088】の【表1】の「架橋剤添加前の性状」の「重量平均分子量」の単位は、「万」であると認める。
「樹脂粒子の分散体は、
不飽和単量体(A)として、アクリル酸20部、及びラウリルメルカプタン0.5部、
アルキル(メタ)アクリレート(B)として、2-エチルヘキシルアクリレート250部、n-ブチルアクリレート230部、
重合開始剤として、過硫酸アンモニウム水溶液10部(固形分5%)、
反応性乳化剤として、アクアロンKH-10〔第一工業製薬株式会社製;有効成分100%〕3部から得られたものであり、
該樹脂粒子は 架橋剤添加前の性状として、重量平均分子量120万、被膜のTgが-47℃であり、
該樹脂粒子の分散体に対し、
架橋剤の油溶性エポキシ化合物(C)として、TETRAD-C〔三菱ガス化学株式会社製;有効成分100%〕0.1部、
粘着付与樹脂(D)として、スーパーエステルE-788〔荒川化学工業株式会社製;有効成分50%〕150部を添加した得られた、アクリル系水性粘着剤を、厚さ25μmのPETフィルムの表面に、乾燥後における膜厚が25μmとなるように塗布した、ゲル分率が31%の粘着シート。」(以下、「引用発明」)という。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の、「PETフィルム」、「厚さ25μmのPETフィルムの表面に、乾燥後における膜厚が25μmとなるように塗布」された「アクリル系水性粘着剤」、「粘着シート」、「樹脂粒子」、「アクアロンKH-10」及び「スーパーエステルE-788」は、本件発明1の「樹脂フィルム基材」、「粘着剤層」、「粘着テープ」、「アクリル系共重合体」、「重合性不飽和基を有する乳化剤」、及び「粘着付与樹脂」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「スーパーエステルE-788」の量は、「樹脂粒子」505.5質量部に対して、150部×50%(有効成分量)であるから、「樹脂粒子」100質量部に対して、14.8質量部と求めることができ、本件発明1の「水分散型アクリル系粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体100質量部に対」する「水分散型アクリル系粘着剤組成物中の粘着付与樹脂の含有量」である「3?18質量部」に含まれるる。
そして、引用発明の「樹脂粒子」を得るために用いられた「アクリル酸」、「ラウリルメルカプタン」、「2-エチルヘキシルアクリレート」及び「n-ブチルアクリレート」は、本件発明1の「アクリル系共重合体を構成するモノマー成分」に相当し、引用発明の「アクリル酸」は、本件発明1の「アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマー」に相当する。
また、引用発明の「樹脂粒子」の重量平均分子量は、本件発明1の「アクリル系共重合体の重量平均分子量」の範囲である「50?120万」に含まれる。

そうすると、本件発明1と引用発明とは、
「樹脂フィルム基材と粘着剤層とを有する粘着テープであって、
前記粘着剤層が、重合性不飽和基を有する乳化剤を含有するアクリル系共重合体、及び粘着付与樹脂を含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物からなり、
前記水分散型アクリル系粘着剤組成物中の粘着付与樹脂の含有量が、水分散型アクリル系粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体100質量部に対し、3?18質量部であり、前記アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万である粘着テープ。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
粘着剤層のガラス転移温度について、本件発明1は、「-15℃以下」であるのに対し、引用発明の「厚さ25μmのPETフィルムの表面に、乾燥後における膜厚が25μmとなるように塗布」された「アクリル系水性粘着剤」のガラス転移温度は不明な点。
(相違点2)
アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量について、本件発明1は、「アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中の0.1?3.5質量%である」のに対し、引用発明の「アクリル酸」の含有量は、3.996質量%である点([アクリル酸20部]/{[アクリル酸20部]+[ラウリルメルカプタン0.5部]+[2-エチルヘキシルアクリレート250部]+[n-ブチルアクリレート230部]}×100で求められる。)。

ここで、事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。
引用文献には、「第1の必須成分である、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)〔以下、不飽和単量体(A)ともいう。〕」(【0012】)について、「前記不飽和単量体(A)の使用量は、重合性単量体成分の合計量に対して0.1?10重量%の範囲であり、好ましくは1?10重量%の範囲であり、より好ましくは2.5?10重量%の範囲である。」(【0013】)と記載され、引用発明の「アクリル酸」は、上記「不飽和単量体(A)」に相当するものであるから、引用文献には、引用発明の「アクリル酸」の含有量は、重合性単量体成分の合計量に対して0.1?10重量%(当審注:質量%と等価である)の範囲内のものになることは記載されているといえる。
しかしながら、上記記載は、引用文献に記載された発明においては、不飽和単量体(A)が重合性単量体成分の合計量に対して0.1?10重量%の範囲内のものであることが必要である、ということを示したものであって、引用発明の「アクリル酸」の含有量を「3.996質量%」から増減させて、「0.1?10重量%」又は「2.5?10重量%」の範囲のものとしても、その全ての範囲において、引用発明と同様なもの(たとえば、【0013】に記載されたような、「優れた接着力と保持力を発現でき、後記架橋剤である油溶性エポキシ化合物(C)との架橋反応が効率良く進行する」ものであること)となることを示すものではない。
しかも、引用文献の【0013】に記載された「不飽和単量体(A)」の含有量の範囲の上限は、引用発明の「アクリル酸」の含有量である3.996質量%よりも大きいことから、上記【0013】の記載は、引用発明の「アクリル酸」を3.996質量%から0.1?3.5質量%以下のものまで低下させることを積極的に示唆するものとはいえない。

また、特開2013-1865号公報(甲3)の【0027】には、「また、本発明の水系粘着剤組成物は、共重合分散体を得るための共重合反応に供される(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体と(b)アルキル基の炭素数4?12のアクリル酸エステル単量体と(c)エチレン系不飽和単量体の総量100質量部に対して(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体の量が0.1?10質量部であることにより、粘着力および耐水性が十分に高められている。」という記載があり、「エチレン系不飽和カルボン酸単量体」には、引用発明の「アクリル酸」が含まれるとしても、甲3は、その請求項1に、「(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1?10質量部と(b)アルキル基の炭素数4?12のアクリル酸エステル単量体60?99質量部と(c)エチレン系不飽和単量体0?39.9質量部[但し、(a)+(b)+(c)=100質量部]とを、平均粒子径0.05?1.00μmの非水溶性粘着付与剤0.1?10質量部を含む反応系において乳化重合させて得られる共重合分散体を含有し、
前記共重合分散体に含まれる粒子の平均粒子径が0.3?10μmであり、
前記共重合分散体は、ガラス転移点が-70?-30℃、テトラヒドロフランに溶解させたときの不溶分が70質量%以下である水系粘着剤組成物。」という「水系粘着剤組成物」における「エチレン系不飽和カルボン酸単量体」の含有量について述べたものといえ、同記載は、引用発明の「アクリル酸」が「0.1?10重量%」の全ての範囲において、「粘着力および耐水性が十分に高められている」ことを示したものであるとまではいえず、上記記載が、引用発明の「アクリル酸」を3.996質量%から0.1?3.5質量%のものまで低下させることを直接的に示唆するものとはいえない。

そして、特許権者が、令和1年7月18日付けの意見書の6頁において示した追加実験の結果では、アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量が、アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中、3.5質量%程度のもの(実施例18)が、同4質量%(追加比較例1)のものと比較して、耐落下衝撃に優れたものであることが示されている。

そうすると、本件発明1は、本件明細書の【0012】に記載されたように、「人体や環境への悪影響が少ない」、「また、被着体との好適な接着性を示し、落下による衝撃に対しても好適な耐衝撃性を有する」という作用効果を奏するものであり、特に、「落下による衝撃に対しても好適な耐衝撃性」については、引用発明の記載から予測し得るものではなく、本件発明1は、引用発明に比較して、格別顕著な作用効果を奏するものであるといえる。

したがって、引用発明の「アクリル酸」の含有量を3.996質量%から0.1?3.5質量%以下のものとすることを当業者が容易になし得たものである、ということはできない。

よって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明と同一であるとはいえないし、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

本件発明1を直接的又は間接的に引用して、さらに限定する本件発明2?4も同様であり、本件発明2?4は、引用発明と同一であるとはいえないし、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、次の理由1?3である。
1 理由1(新規性)特許法第29条第1項第3号について(同法第113条第2号)
本件発明1、3、4は、特開2004-26882号公報(甲2)に開示されている。
2 理由2(進歩性)特許法第29条第2項について(同法第113条第2号)
(1)本件発明1?4は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明1?4は、特開2013-1865号公報(甲3)、及び、甲1又は甲2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明1?4は、特開2003-327933号公報(甲4)、及び、甲1又は甲2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 理由3(サポート要件)特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、本件特許発明1?4は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明1では、アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万である。
これに対し、実施例における水分散型アクリル系共重合体の重量平均分子量は、57万、60万、61万、65万のみである(段落0074、段落0081、段落0089、段落0099)。
出願時の技術常識に照らしても、アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万である請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件特許発明1?4は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むものであり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第6 申立理由についての当審の判断
1 理由1、2について
(1)1 甲2?甲4の記載
ア 甲2(下線は当審が付与した。)
甲2には、次の記載がある。
「【請求項1】
表面基材と該表面基材上に形成された粘着剤層とを有する粘着シートであって、
前記粘着剤層を構成する粘着剤が、
ガラス転移温度が-80?-20℃、重量平均分子量15万以上、かつカルボキシル基による酸価が30以下の粘着性ポリマー(A)、
重量平均分子量が10万以下で、アルカリ化する前のカルボキシル基による酸価が190以上であり、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)、
重量平均分子量が10万以下で、カルボキシル基を有しておらず、かつカルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に少なくとも1個有する化合物(C)、
重量平均分子量が10万以下で、酸価が190未満の粘着付与剤(D)、
重量平均分子量が10万以下で、分子中にロジン骨格を有しておらず、1分子中に少なくとも1つのカルボキシル基を持ち、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有乳化剤(E)、および
ノニオン型の浸透剤(F)
を必須として含むアクリル系エマルション型粘着剤であることを特徴とする粘着シート。」
「【請求項2】
前記アクリル系エマルション型粘着剤が、予め、前記カルボキシル基含有乳化剤(E)で前記粘着付与剤(D)を水分散体化したものを、前記粘着性ポリマー(A)と前記カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)と前記化合物(C)とを含むエマルションに添加して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。」
「【請求項6】
前記表面基材が、ポリオレフィン系フィルムまたはポリエステル系フィルムを用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の粘着シート。」
「【0019】
粘着性ポリマー(A)は、重量平均分子量(Mw)が15万以上である。・・・」
「【0021】
粘着性ポリマー(A)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主な構成成分とするアクリル系ポリマーが用いられる。
アクリル系ポリマーを構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の炭素数4?12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、これらのエステルを1種、または2種以上混合して、使用することができる。」
「【0022】
これらのアクリル系ポリマーは、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのみで構成されていてもよいが、その他のモノマーを共重合させてもよい。そのときは、粘着特性の観点から、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル類をモノマー全体の60質量%以上用いることが好ましい。
その他のモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸シクロアルキル類、炭素数3以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルのようなヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族不飽和炭化水素類、ビニルエステル類、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル等の不飽和シアン化合物、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等の窒素原子含有モノマー等、あるいはイソプレンやブタジエンを共重合させても良い。」
「【0029】
さらなる耐水性向上のためには、粘着性ポリマー(A)の合成用の乳化剤として、粘着性ポリマー(A)用のモノマーとの反応性を有する乳化剤、すなわち、エチレン性不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(以下、「反応性乳化剤(c)」または単に「乳化剤(c)」という。)を使用することが好ましい。反応性乳化剤(c)を用いて乳化重合を行うと、粘着性ポリマー(A)用のモノマーの有するエチレン性不飽和二重結合と反応して、粘
着性ポリマー(A)の分子鎖に反応性乳化剤(c)が重合反応で結合する。その結果、粘着性ポリマー(A)と反応性乳化剤(c)とが一体化して、エマルション中に反応性乳化剤(c)が単一の分子で存在しなくなるので、耐水性を低下させることがなくなるからである。」
「【0068】
粘着付与剤(D)としては、ロジン誘導体(B’)の酸変性前のロジン類、すなわち、ガムロジン、ウッドロジン、トールロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等や、これらのロジン類のグリセリンエステル等のロジンエステル類等のロジン系樹脂のほか、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等のテルペン系樹脂等の天然樹脂系粘着付与剤が使用可能である。また、脂肪族系(C_(5)系)石油樹脂、芳香族系(C_(9)系)石油樹脂、共重合系(C_(5)/C_(9))石油樹脂、脂環族系石油樹脂等の石油樹脂;クマロン・インデン樹脂、スチレン系石油樹脂等の重合系樹脂;フェノール系樹脂、キシレン樹脂等の縮合系樹脂等で代表される合成樹脂系粘着付与剤も用いることができる。粘質付与剤(D)の軟化点については、前記したロジン誘導体(B’)を選択するときと同様の基準を採用すればよい。
中でも、粘着特性の改質効果に優れ、かつカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)との親和性の高い点で、ロジン類やロジンエステル類が好ましく使用できる。」
「【0076】
乳化剤(E)の粘着付与剤(D)に対する配合比は、粘着付与剤(D)100質量部に対して、0.5?20質量部が好ましい。より好ましい下限は1質量部、さらに好ましい下限は3質量部である。またより好ましい上限は10質量部、さらに好ましい上限は8質量部である。
【0077】
粘着付与剤(D)と乳化剤(E)の粘着性ポリマー(A)に対する配合比は、粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、合計で1?50質量部とすることが好ましい。より好ましい下限は2質量部、さらに好ましい下限は5質量部である。またより好ましい上限は30質量部、さらに好ましい上限は20質量部である。従って、粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)と粘着付与剤(D)と乳化剤(E)との合計は、2?100質量部とすることが好ましい。」

イ 甲3
甲3には、次の記載がある。
「【請求項1】
(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1?10質量部と(b)アルキル基の炭素数4?12のアクリル酸エステル単量体60?99質量部と(c)エチレン系不飽和単量体0?39.9質量部[但し、(a)+(b)+(c)=100質量部]とを、平均粒子径0.05?1.00μmの非水溶性粘着付与剤0.1?10質量部を含む反応系において乳化重合させて得られる共重合分散体を含有し、
前記共重合分散体に含まれる粒子の平均粒子径が0.3?10μmであり、
前記共重合分散体は、ガラス転移点が-70?-30℃、テトラヒドロフランに溶解させたときの不溶分が70質量%以下である水系粘着剤組成物。」
「【0027】
また、本発明の水系粘着剤組成物は、共重合分散体を得るための共重合反応に供される(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体と(b)アルキル基の炭素数4?12のアクリル酸エステル単量体と(c)エチレン系不飽和単量体の総量100質量部に対して(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体の量が0.1?10質量部であることにより、粘着力および耐水性が十分に高められている。
【0028】
また、本発明の水系粘着剤組成物は、共重合分散体のガラス転移点が-70?-30℃であることにより、投錨性や粘着力が高まる。
【0029】
本発明の水系粘着剤組成物に用いうる(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体とは、α,β不飽和カルボン酸のことをいう。例えば、本発明の水系粘着剤組成物に用いうる(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びフタル酸モノ[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]などのハーフエステル体、コハク酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、カルボキシエチルアクリレートなどを挙げることができる。これらのエチレン系不飽和カルボン酸単量体は、単独で若しくは2種類以上を組み合わせて使用することができる。ここに挙げたエチレン系不飽和カルボン酸単量体の中では、重合時の安定性が良好になり、耐水性が高まる観点からは、アクリル酸やメタクリル酸を本発明に用いることが好ましい。」
「【0040】
本発明の水系粘着剤組成物を用いて粘着性ラベル・シート・テープ類の粘着層を形成する場合、粘着性ラベル・シート・テープ類の基材としては、紙、布、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、発泡体、金属箔などを用いることができる。また、粘着性ラベル・シート・テープ類の被着体としては、プラスチック、金属、紙、ガラス、シリコーン、セラミック、肌などを挙げることができる。」
「【0052】
本発明の水系粘着剤組成物に含まれる共重合分散体を得るに際し、重合反応に用いうる乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの界面活性剤を挙げることができる。例えば、花王(株)製の「ラテムルS-180A」、「PD-104」;三洋化成(株)製の「エレミノールJS-2」;第一工業製薬(株)製の「アクアロンKH-10」;旭電化工業(株)製の「アデカリアソープSE-10N」、「SR-10N」;日本乳化剤(株)製の「AntoxMS-60」;東邦化学工業(株)製の「サーフマーFP-120」などの反応性乳化剤などのいずれも用いることができる。」

ウ 甲4
甲4には、次の記載がある。
「【請求項1】 フィルム基材の片面に、粘着付与剤の存在下に乳化重合させて得られ、ゲル分率が50%以上であり、平均粒子径が300nm以下のアクリル系エマルジョン型粘着剤を用いて粘着剤層を設けてなる粘着シートであって、(a)粘着剤層の厚さ20μm、シート形状25mm×25mm、試験板SUS380及び40℃の乾燥条件下で、荷重9.8Nで測定した70000秒後のシートのズレ量が300μm以下である保持力を有し、かつ(b)60℃の温水中に24時間浸漬した後のシートのヘイズ値が7.00以下である耐水白化性を有することを特徴とする粘着シート。
【請求項2】 アクリル系エマルジョン型粘着剤が、粘着付与剤の存在下、エチレン性不飽和単量体を反応性乳化剤を用いて乳化重合することにより得られ、かつ内部架橋剤としてケト基含有エチレン性不飽和単量体を用いたものである請求項1記載の粘着シート。
【請求項3】 アクリル系エマルジョン型粘着剤が、粘着付与剤の存在下、エチレン性不飽和単量体を反応性乳化剤を用いて乳化重合することにより得られ、かつ外部架橋剤としてヒドラジド系化合物を用いたものである請求項1記載の粘着シート。」
「【0003】この粘着シートの用途としては、例えば包装・結束用、事務・家庭用、接合用、塗装マスキング用、表面保護用、防食・防水用、シーリング用、電気絶縁用、電子機器・光学部品用、医療・衛生材用、識別・装飾用、ラベル用などを挙げることができる。この粘着シートは、一般に基材シートと、その表面に形成された粘着剤層と、必要に応じて粘着剤層上に設けられる剥離シートから構成されており、使用に際しては、剥離シートが設けられている場合には、該剥離シートを剥がし、粘着剤層を被着体に当接させて貼付することが行われている。」
「【0014】本発明の粘着シートにおいて、前記フィルム基材の片面に設けられる粘着剤層には、粘着剤として、粘着付与剤の存在下に乳化重合して得られ、かつゲル分率が50%以上であり、平均粒子径が300nm以下のアクリル系エマルジョン型粘着剤が用いられる。前記ゲル分率が50%未満では凝集力が低く、所望の保持力を有し、耐粘着剤はみ出し性に優れる粘着シートが得られにくく、本発明の目的が達せられない。また、このゲル分率が高すぎると接着性能が不充分となる場合があるので、好ましいゲル分率は55?65%の範囲である。なお、上記ゲル分率は、下記の方法により測定した値である。」
「【0020】本発明に係るアクリル系エマルジョン型粘着剤に含まれるアクリル系樹脂としては、エチレン性不飽和単量体から得られた重合体である(メタ)アクリル酸エステル系重合体が用いられる。この(メタ)アクリル酸エステル系重合体としては、通常のアクリル系粘着剤において使用される(メタ)アクリル酸エステル系重合体の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このようなものとしては、例えば(メタ)アクリル酸エステル単独重合体、(メタ)アクリル酸エステル単位二種以上を含む共重合体及び(メタ)アクリル酸エステルと他の官能性単量体やその他の単量体などのエチレン性不飽和単量体との共重合体などを挙げることができ、これらは一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素数が1?20の(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】また、他の官能性単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸アセトアセトキシメチル;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-メチロ-ルアクリルアミド、N-メチロ-ルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのアクリルアミド類;(メタ)アクリル酸モノ又はジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノ又はジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノ又はジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノ又はジエチルアミノプロピルなどの(メタ)アクリル酸モノ又はジアルキルアミノアルキル;アクリ酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸などが挙げられる。これらの単量体は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。」
「【0031】本発明においては、前記粘着付与剤の配合量は、アクリル系樹脂の原料として用いられる各エチレン性不飽和単量体の合計量100重量部に対し、通常1?50重量部の範囲で選定される。この配合量が1重量部未満では充分な接着性能、特にポリオレフィンに対する接着性能が得られにくく、一方50重量部を超えると重合が不安定になると共に、充分な接着性能やタックが得られない原因となり、好ましくない。この粘着付与剤の好ましい配合量は5?40重量部であり、特に7?30重量部の範囲が好ましい。
【0032】本発明に係るアクリル系エマルジョン型粘着剤は、前記粘着付与剤の存在下、各エチレン性不飽和単量体を乳化重合させることにより、製造されるが、この乳化重合においては、乳化剤として反応性乳化剤が用いられる。この反応性乳化剤については特に制限はなく、従来公知のイオン性、非イオン性の乳化剤の中から、適宜選択して用いることができる。該反応性乳化剤としては、例えば一般式(I)?(VII)」
「【0036】このような反応性乳化剤の具体例としては、市販品としてアデカリアソープSE-20N(アニオン性)、アデカリアソープSE-10N(アニオン性)、アデカリアソープNE-10(ノニオン性)、アデカリアソープNE-20(ノニオン性)、アデカリアソープNE-30(ノニオン性)、アデカリアソープNE-40(ノニオン性)、アデカリアソープSDX-730(アニオン性)、アデカリアソープSDX-731(アニオン性)〔以上、旭電化(株)製〕、エレミノールJS-2(アニオン性)、エレミノールRS-30(アニオン性)〔以上、三洋化成(株)製〕、ラテムルS-180A(アニオン性)、ラテムルS-180(アニオン性)〔以上、花王(株)製〕、アクアロンBC-05(アニオン性)、アクアロンBC-10(アニオン性)、アクアロンBC-20(アニオン性)、アクアロンHS-05(アニオン性)、アクアロンHS-10(アニオン性)、アクアロンHS-20(アニオン性)、アクアロンRN-10(ノニオン性)、アクアロンRN-20(ノニオン性)、アクアロンRN-30(ノニオン性)、アクアロンRN-50(ノニオン性)、ニューフロンティアS-510(アニオン)〔以上、第一工業製薬(株)製〕、フォスフィノールTX(アニオン性)〔東邦化学工業(株)製〕等を挙げることができる。このような反応性乳化剤を用いることにより、耐水性の良好なアクリル系エマルジョン型粘着剤を得ることができる。」

(2)甲2?甲4に記載された発明(甲2発明?甲4発明)
ア 甲2に記載された発明(甲2発明)
【請求項1】には、表面基材と該表面基材上に形成された粘着剤層とを有する粘着シートであって、粘着剤層を構成する粘着剤が、ガラス転移温度が-80?-20℃の粘着性ポリマー(A)、及び、粘着付与剤(D)を含むアクリル系エマルジョン型粘着剤が記載されている。
【請求項2】には、アクリル系エマルジョン型粘着剤が、水分散型であることが記載されている。
【請求項6】には、表面基材が、ポリオレフィン系フィルム又はポリエステル系フィルムを用いて形成されたものであることが記載されている。
【0019】には、粘着性ポリマー(A)は、重量平均分子量(Mw)が15万以上であることが記載されている。
【0021】には、粘着性ポリマー(A)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主な構成成分とするアクリル系ポリマーが用いられること、および、アクリル系ポリマーを構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数4?12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましいことが開示されている。
【0022】には、アクリル系ポリマーは、その他のモノマーを共重合させてもよいことが記載され、当該その他のモノマーの例として、(メタ)アクリル酸が例示されている。
【0029】には、粘着性ポリマー(A)の合成用の乳化剤として、粘着性ポリマー(A)用のモノマーとの反応性を有する乳化剤、すなわち、エチレン性不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(c)を使用することが好ましいことが記載されている。
【0076】には、乳化剤(E)の粘着付与剤(D)に対する配合比は、粘着付与剤(D)100質量部に対して、0.5?20質量部が好ましいことが開示されている
【0077】には、粘着付与剤(D)と乳化剤(E)の粘着性ポリマー(A)に対する配合比は、粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、合計で1?50質量部とすることが好ましいことが記載されている。

そうすると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリオレフィン系フィルム又はポリエステル系フィルムを用いて形成された表面基材と該表面基材上に形成された水分散型アクリル系エマルジョン型粘着剤層とを有する粘着シートであって、
粘着剤層は、
ガラス転移温度が-80?-20℃のアクリル系ポリマーである粘着性ポリマー(A)と、
粘着性ポリマー(A)用のモノマーと反応性を有するエチレン性不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(c)と、
粘着付与剤(D)を含み、
粘着付与剤(D)と乳化剤(E)の粘着性ポリマー(A)に対する配合比は、粘着性ポリマー(A)100質量部に対して合計で1?50質量部であり、
乳化剤(E)の粘着付与剤(D)に対する配合比は、粘着付与剤(D)100質量部に対して0.5?20質量部であり、
粘着性ポリマー(A)は、重量平均分子量(Mw)が15万以上である粘着剤層である、粘着シート。」

イ 甲3に記載された発明(甲3発明)
【請求項1】には、(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体、(b)アルキル基の炭素数4?12のアクリル酸エステル単量体60?99質量部を、非水溶性粘着付与剤0.1?10質量部を含む反応系において乳化重合させて得られる共重合分散体を含み、テトラヒドロフランに溶解させたときの不溶分が70質量%以下である水系粘着剤組成物が記載されている。
【0028】には、共重合分散体のガラス転移点が-70?-30℃であることにより、投錨性や粘着力が高まることが開示されている。
【0040】には、本発明の水系粘着剤組成物を用いて粘着性ラベル・シート・テープ類の粘着層を形成する場合、粘着性ラベル・シート・テープ類の基材としては、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミドなどを用いることができることが示されている。
【0052】には、水系粘着剤組成物に含まれる共重合分散体を得るに際し、重合反応に用いうる乳化剤としては、例えば、花王(株)製の「ラテムルS-180A」、「PD-104」;三洋化成(株)製の「エレミノールJS-2」;第一工業製薬(株)製の「アクアロンKH-10」;旭電化工業(株)製の「アデカリアソープSE-10N」、「SR-10N」;日本乳化剤(株)製の「AntoxMS-60」;東邦化学工業(株)製の「サーフマーFP-120」などの反応性乳化剤などのいずれも用いることができることが記載されている。なお、これらの反応性乳化剤は、本件明細書の【0055】に、重合性不飽和基を分子内に有する乳化剤として例示されている。

そうすると、甲3には以下の発明(以下、「甲3」という)が記載されていると認められる。
「(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体、(b)アルキル基の炭素数4?12のアクリル酸エステル単量体60?99質量部を、非水溶性粘着付与剤0.1?10質量部を含む反応系において乳化重合させて得られる共重合分散体を含み、テトラヒドロフランに溶解させたときの不溶分が70質量%以下である水系粘着剤組成物を用いて形成された粘着層を有する粘着性ラベル・シート・テープであり、
基材は、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、又はポリイミドであり、 共重合分散体の重合反応に反応性乳化剤を用い、
共重合分散体のガラス転移点は、-70?-30℃である粘着性ラベル・シート・テープ。」

ウ 甲4に記載された発明(甲4発明)
【請求項1】には、フイルム基材の片面に、粘着剤層を設けてなる粘着シートが記載されている。
【請求項2】、【請求項3】には、アクリル系エマルジョン型粘着剤が、粘着付与剤の存在下、エチレン性不飽和単量体を反応性乳化剤を用いて乳化重合することにより得られることが記載されている。
【0020】には、アクリル系エマルジョン型粘着剤に含まれるアクリル系樹脂としては、エチレン性不飽和単量体から得られた重合体である(メタ)アクリル酸エステル系重合体が用いられることが記載されている。
【0021】には、(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素数が1?20の(メタ)アクリル酸エステルが好ましいことが開示されている。
【0022】には、他の官能性単量体としては、アクリ酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸などが記載されている。
【0031】には、粘着付与剤の配合量は、アクリル系樹脂の原料として用いられる各エチレン性不飽和単量体の合計量100重量部に対し、通常1?50重量部の範囲で選定されることが記載されている。
【0036】には、反応性乳化剤の具体例として、アデカリアソープSE-20N(アニオン性)、アデカリアソープSE-10N(アニオン性)、アクアロンHS-10(アニオン性)、アクアロンHS-20(アニオン性)、アクアロンRN-10(ノニオン性)、アクアロンRN-20(ノニオン性)が記載されている。なお、これらの反応性乳化剤は、本件明細書の【0055】に、重合性不飽和基を分子内に有する乳化剤として例示されている。

そうすると、甲4には以下の発明(以下、「甲4発明」という)が記載されていると認められる。
「フイルム基材の片面に、粘着剤層を設けてなる粘着シートであって、
アクリル系エマルジョン型粘着剤が、粘着付与剤の存在下、エチレン性不飽和単量体を反応性乳化剤を用いて乳化重合することにより得られ、
粘着付与剤の配合量は、アクリル系樹脂の原料として用いられる各エチレン性不飽和単量体の合計量100重量部に対し、1?50重量部の範囲である粘着シート。」

(3)対比・判断
ア 甲2発明を主引用発明とした場合
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ポリオレフィン系フィルム又はポリエステル系フィルムを用いて形成された表面基材」、「粘着剤層」、「粘着シート」、「粘着性ポリマー(A)用のモノマーと反応性を有するエチレン性不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(c)」、「ガラス転移温度が-80?-20℃のアクリル系ポリマー」及び「粘着付与剤(D)」は、本件発明1の「樹脂フィルム基材」、「粘着剤層」、「粘着テープ」、「重合性不飽和基を有する乳化剤」、「ガラス転移温度が-15℃以下」の「アクリル系共重合体」及び「粘着付与樹脂」に、それぞれ相当する。
また、本件発明1の「粘着付与樹脂を含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物」と甲2発明の「水分散型アクリル系エマルジョン型粘着剤層」の粘着剤の組成とは、「粘着付与樹脂を含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物」である点で共通する。
そして、本件発明1の「アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万であ」る構成と、甲2発明の「粘着性ポリマー(A)は、重量平均分子量(Mw)が15万以上である」構成とは、「アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万であ」る点で一部重複する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「樹脂フィルム基材と粘着剤層とを有する粘着テープであって、
前記粘着剤層が、重合性不飽和基を有する乳化剤を含有するアクリル系共重合体、及び粘着付与樹脂を含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物からなり、
前記粘着剤層のガラス転移温度が-15℃以下であり、
前記アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万である、粘着テープ。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点甲2-1)
水分散型アクリル系粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体100質量部に対する、水分散型アクリル系粘着剤組成物中の粘着付与樹脂の含有量が、本件発明1では、「3?18質量部」であるのに対し、甲2発明における、「粘着性ポリマー(A)」に対する「粘着付与剤(D)」の配合比は不明な点。
(相違点甲2-2)
アクリル系共重合体の重量平均分子量について、本件発明1では、「50?120万」であるのに対し、甲2発明の「粘着性ポリマー(A)」は、15万以上である点。
(相違点甲2-3)
アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中、アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量について、本件発明1では、「0.1?3.5質量%」であるのに対し、甲2発明の「粘着性ポリマー(A)」におけるカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量は不明な点。

ここで、事案に鑑み、まず、相違点甲2-3について検討する。
甲2には、「粘着性ポリマー(A)」におけるカルボキシル基を含有するビニルモノマーについて、【0022】には、アクリル系ポリマーの共重合させるモノマーの例として、(メタ)アクリル酸が例示されているものの、その含有量は不明といわざるを得ない。
したがって、上記相違点甲2-3は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲2発明であるということはできない。

また、甲2には、「粘着性ポリマー(A)」におけるカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量を「0.1?3.5質量%」の範囲のものとすることについては、記載も示唆もない。

そして、上記第4 2(3)で述べたように、本件発明1は、アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中、アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量が「0.1?3.5質量%」であることによって、格別顕著な作用効果を奏するものといえ、上記相違点甲2-3に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

したがって、上記相違点甲2-1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明と同一であるとはいえないし、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

本件発明1を直接的又は間接的に引用して、さらに限定する本件発明2?4も同様であり、本件発明2?4は、甲2発明と同一であるとはいえないし、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 甲3発明を主引用発明とした場合
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、又はポリイミド」の「基材」、「粘着層」及び「粘着性ラベル・シート・テープ」、「ガラス転移点は、-70?-30℃である」「(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体、(b)アルキル基の炭素数4?12のアクリル酸エステル単量体60?99質量部を、非水溶性粘着付与剤0.1?10質量部を含む反応系において乳化重合させて得られる共重合分散体」は、本件発明1の「樹脂フィルム基材」、「粘着剤層」、「粘着テープ」及び「ガラス転移温度が-15℃以下」の「アクリル系共重合体」に、それぞれ相当する。
また、本件発明1の「粘着付与樹脂」と甲3発明の「非水溶性粘着付与剤」とは、粘着付与剤である点で共通する。
本件発明1の「水分散型アクリル系粘着剤組成物」と、甲3発明の「水系粘着剤組成物」とは、「水分散型アクリル系粘着剤組成物」である点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「樹脂フィルム基材と粘着剤層とを有する粘着テープであって、
前記粘着剤層が、アクリル系共重合体、及び粘着付与剤を含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物からなり、
前記粘着剤層のガラス転移温度が-15℃以下である、粘着テープ。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点甲3-1)
アクリル系共重合体について、本件発明1は、「重合性不飽和基を有する乳化剤を含有する」のに対し、甲3発明の「共重合分散体」の乳化剤の種類は不明な点。
(相違点甲3-2)
水分散型アクリル系粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体100質量部に対する、水分散型アクリル系粘着剤組成物中の粘着付与樹脂の含有量が、本件発明1では、「3?18質量部」であるのに対し、甲3発明における、「共重合分散体」に対する「粘着付与剤」の含有量は明確には定まらない点。
(相違点甲3-3)
アクリル系共重合体の重量平均分子量について、本件発明1では、「50?120万」であるのに対し、甲3発明の「共重合分散体」の重量平均分子量は不明な点。
(相違点甲3-4)
アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中、アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量について、本件発明1では、「0.1?3.5質量%」であるのに対し、甲3発明の「共重合分散体」におけるカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量は不明な点。
(相違点甲3-5)
粘着付与剤について、本件発明1では、「粘着付与樹脂」であるのに対し、甲3発明の「粘着付与剤」は、樹脂であることは規定されていない点。

ここで、相違点について検討する。
相違点甲3-2、3、5は、実質的な相違点であり、本件発明1と甲3発明とは同一とはいえない。
また、相違点甲3-4について検討すると、甲3には、「共重合分散体」におけるカルボキシル基を含有するビニルモノマーについて、【0029】には、「本発明の水系粘着剤組成物に用いうる(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びフタル酸モノ[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]などのハーフエステル体、コハク酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、カルボキシエチルアクリレートなどを挙げることができる。」と記載され、カルボキシル基を含有するビニルモノマーが例示され、【0029】には、「共重合分散体を得るための共重合反応に供される(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体と(b)アルキル基の炭素数4?12のアクリル酸エステル単量体と(c)エチレン系不飽和単量体の総量100質量部に対して(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体の量が0.1?10質量部である」と記載されているものの、甲3発明の「共重合分散体」におけるカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量について、「0.1?3.5質量%」とすることは容易想到ではない。また、上記第4 2(3)で述べたように、本件発明1においては、アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中、アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量が「0.1?3.5質量%」であることによって、格別顕著な作用効果を奏するものといえ、上記「0.1?3.5質量%」よりも広い範囲の含有量が示された、甲3の【0029】の上記「(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体の量が0.1?10質量部である」という記載に基いて、上記相違点甲3-4に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

したがって、相違点甲3-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明と同一であるとはいえないし、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

本件発明1を直接的又は間接的に引用して、さらに限定する本件発明2?4も同様であり、本件発明2?4は、甲2発明と同一であるとはいえないし、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 甲4発明を主引用発明とした場合
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「フイルム基材」、「粘着剤層」及び「粘着シート」、「アクリル系エマルジョン型粘着剤」は、本件発明1の「樹脂フィルム基材」、「粘着剤層」、「粘着テープ」及び「水分散型アクリル系粘着剤組成物」に、それぞれ相当する。
また、甲4発明の「エチレン性不飽和単量体を反応性乳化剤を用いて乳化重合することにより得られ」たもの(以下、単に、「共重合体」という。)は、本件発明1の「アクリル系共重合体」に相当する。
そして、本件発明1の「粘着付与樹脂」と甲4発明の「粘着付与剤」とは、粘着付与剤である点で共通し、甲4発明の「粘着付与剤」の含有量は、本件発明1の「水分散型アクリル系粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体100質量部に対し、3?18質量部である」点で一部重複する。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「樹脂フィルム基材と粘着剤層とを有する粘着テープであって、
前記粘着剤層が、粘着付与剤を含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物からなり、
粘着付与剤の含有量が、水分散型アクリル系粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体100質量部に対し、3?18質量部である粘着テープ。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点甲4-1)
アクリル系共重合体について、本件発明1は、「重合性不飽和基を有する乳化剤を含有する」のに対し、甲4発明の「反応性乳化剤」の種類は不明な点。
(相違点甲4-2)
水分散型アクリル系粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体100質量部に対する、水分散型アクリル系粘着剤組成物中の粘着付与樹脂の含有量が、本件発明1では、「3?18質量部」であるのに対し、甲4発明における、「共重合分散体」に対する「粘着付与剤」の含有量は明確には規定されない点。
(相違点甲4-3)
アクリル系共重合体の重量平均分子量について、本件発明1では、「50?120万」であるのに対し、甲4発明の「共重合分散体」の重量平均分子量は不明な点。
(相違点甲4-4)
アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中、アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量について、本件発明1では、「0.1?3.5質量%」であるのに対し、甲4発明の「共重合分散体」におけるカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量は不明な点。
(相違点甲4-5)
粘着付与剤について、本件発明1では、「粘着付与樹脂」であるのに対し、甲4発明の「粘着付与剤」は、樹脂であることは規定されておらず、しかも、その含有量が、甲4発明では、「アクリル系樹脂の原料として用いられる各エチレン性不飽和単量体の合計量100重量部に対し、1?50重量部の範囲である」である点。

ここで、相違点について検討する。
相違点甲4-2、3、5は、実質的な相違点であり、本件発明1と甲4発明とは同一とはいえない。
次に、相違点甲4-4について検討すると、甲4には、「アクリル系エマルジョン型粘着剤に含まれるアクリル系樹脂」について、【0022】に「他の官能性単量体としては、・・・アクリ酸(当審注:「アクリル酸」の誤記と認める。)、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸などが挙げられる。」と記載されているものの、「エチレン性不飽和カルボン酸」の含有量は不明といわざるを得ない。
そして、甲4発明の「共重合分散体」におけるカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量について、「0.1?3.5質量%」とすることは容易想到ではない。
また、上記第4 2(3)で述べたように、本件発明1においては、アクリル系共重合体を構成するモノマー成分中、アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量が「0.1?3.5質量%」であることによって、格別顕著な作用効果を奏するものといえ、上記相違点甲4-4に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

したがって、相違点甲4-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明と同一であるとはいえないし、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

本件発明1を直接的又は間接的に引用して、さらに限定する本件発明2?4も同様であり、本件発明2?4は、甲2発明と同一であるとはいえないし、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(まとめ)
したがって、上記理由1、2について、理由はない。

2 理由3について
本件発明の課題は、「有機溶剤の含有量を低減でき、優れた耐衝撃性を有する粘着テープを提供すること」(本件明細書【0009】)にあると認められるところ、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例における水分散型アクリル系共重合体の重量平均分子量は、57万、60万、61万、65万であり、いずれも、本件発明の課題を解決することが確認されている。
一方、本件発明と実施例とが、水分散型アクリル系共重合体の重量平均分子量の違いによって、「有機溶剤の含有量」及び「耐衝撃性」について、差異をもたらすという技術常識は見当たらない。
したがって、上記理由3について、理由はない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム基材と粘着剤層とを有する粘着テープであって、
前記粘着剤層が、重合性不飽和基を有する乳化剤を含有するアクリル系共重合体、及び粘着付与樹脂を含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物からなり、
前記粘着剤層のガラス転移温度が-15℃以下であり、
前記水分散型アクリル系粘着剤組成物中の粘着付与樹脂の含有量が、水分散型アクリル系粘着剤組成物に含まれるアクリル系共重合体100質量部に対し、3?18質量部であり、前記アクリル系共重合体の重量平均分子量が50?120万であり、前記アクリル系共重合体中のカルボキシル基を含有するビニルモノマーの含有量がアクリル系共重合体を構成するモノマー成分中の0.1?3.5質量%であることを特徴とする粘着テープ。
【請求項2】
前記粘着剤層のゲル分率が、25?55質量%である請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記アクリル系共重合体が、炭素数4?12のアルキル基を有する(メタ)アクリレート及びカルボキシル基含有モノマーをモノマー成分として含有する請求項1又は2に記載の粘着テープ。
【請求項4】
電子機器の部材固定用に用いられる請求項1?3のいずれか一項に記載の粘着テープ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-02 
出願番号 特願2017-78931(P2017-78931)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田澤 俊樹  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 木村 敏康
川端 修
登録日 2018-08-10 
登録番号 特許第6380598号(P6380598)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 粘着テープ  
代理人 岩本 明洋  
代理人 大野 孝幸  
代理人 岩本 明洋  
代理人 大野 孝幸  
代理人 小川 眞治  
代理人 小川 眞治  
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