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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2016700567 審決 特許
不服20164490 審決 特許
異議2018700985 審決 特許
異議2018700371 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1355936
異議申立番号 異議2018-700984  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-05 
確定日 2019-08-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6340257号発明「粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6340257号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6340257号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6340257号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成26年6月23日(優先権主張 平成25年8月5日、日本)に出願され、平成30年5月18日にその特許権の設定登録がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年12月5日に特許異議申立人杉山弘子(以下、「申立人A」という。)、同月6日に特許異議申立人山下桂(以下、「申立人B」という。)及び特許異議申立人中川賢治(以下、「申立人C」という。)は、それぞれ特許異議の申立てを行った。当審は、平成31年2月22日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年4月26日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人Aは令和1年6月13日に、申立人Bは同年同月14日に、申立人Cは同年同月17日に、それぞれ意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、請求項1における「該基材のΔL*値の絶対値が、0.01以上、45.00以下であり、」と記載されているのを「該基材のΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?9も同様に訂正する。)というものである。
また、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-9〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正は、「基材のΔL*値の絶対値」の上限を、「45.00以下」から、上限値を小さくして、「30.00以下」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、明細書の発明の詳細な説明の【0020】には、「基材のΔL*値(角度20度)の絶対値は0.01以上、45.0以下であることが必要であり、0.01以上、30.00以下であることが好ましく」と記載されており、上記訂正は、願書に添付された明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?9に係る発明(以下、請求項に記載された発明を、請求項の番号に従って「本件発明1」、「本件発明2」などといい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シートであって、前記基材の静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり、また、該基材のΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であり、前記基材が表面保護層および基材層を有し、該表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、該基材層がエステル系熱可塑性ポリウレタンを含有し、前記表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されていることを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上、15N/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記基材を10%まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上、100%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記エステル系熱可塑性ポリウレタンが、無黄変性エステル系熱可塑性ポリウレタンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記基材は、測定角度20度におけるグロス値が70以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記表面保護層が、イソシアネート系架橋剤及び/又はオキサゾリン系架橋剤を用いて形成された層であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記基材層のショア硬度が80A以上、65D以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記アクリル系樹脂は、水酸基価20?120(KOHmg/g)の(メタ)アクリル系ポリマーを含有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項9】
前記粘着シートが、被着体の表面を保護するための保護シートとして使用されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の粘着シート。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して、当審が平成31年2月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「(サポート要件)本件の請求項1?9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。


本件の請求項1に係る発明は、「少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シート」において、「前記基材の静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり、また、該基材のΔL*値の絶対値が、0.01以上、45.00以下」である点(以下、「特定の特性」という。)、及び、「該表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有」する点(以下、「表面保護層の特定の材料」という。)を発明特定事項とするところ、発明の詳細な説明に記載された、実施例1?7(基材層については4種、表面保護層については4種)から、上記の「特定の特性」の全ての範囲、及び、「表面保護層の特定の材料」の全ての範囲まで、拡張、一般化できる理由について、明らかではない。

したがって、本件請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?9についても同様である。」

2 当審の判断
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するかどうか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲の記載に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
上記の観点に立って、本件について検討することとする。

(2)本件発明の課題は、「表面滑り性を有しており、かつ、耐汚染性にも優れた粘着シートを提供すること」(本件明細書【0005】)と認められる。

(3)ア まず、本件明細書の実施例以外の記載をみると、本発明の粘着シートの表面滑り性及び耐汚染性に関連して次の記載が認められる。
「【技術分野】
【0001】
本発明は粘着シートに関し、特に、表面滑り性および耐汚染性を有する保護用の粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車、航空機業界においては、自動車等のボディーの塗装面の損傷防止のために、またはマーキング等のために、粘着シートが貼り付けられることがある。この粘着シートは、スキージ等を用いて手作業で塗装面に直接貼り付けられるが、粘着シートの表面をスキージが滑らないため粘着シートにシワやキズが発生する等の問題があった。
【0003】
また、表面を保護する等のために貼着される粘着シートには、汚れが付着したり、汚れを含んだ雨水が付着したり、汚れ落としに使用された洗浄水等が付着することもあるので、表面の耐汚染性が要求される。」
「【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の粘着シートは、基材と粘着剤層とを有する粘着シートであり、基材の静摩擦係数は、0.05以上、1.50以下であることが必要であり、好ましくは0.05以上、1.00以下であり、特に好ましくは0.05以上、0.5以下である。静摩擦係数が0.05未満または1.50より大きいと、良好な表面滑り性を実現することができない。なお、静摩擦係数の測定方法は実施例で具体的に説明する。
【0020】
また、基材のΔL*値(角度20度)の絶対値は0.01以上、45.0以下であることが必要であり、0.01以上、30.00以下であることが好ましく、0.01以上、15.00以下であることが更に好ましく、0.01以上、8.00以下であることが特に好ましい。
【0021】
本発明においては、耐汚染性の指標としてΔL*値を採用する。ただし、ΔL*値の測定は、以下のようにして行う。すなわち、基材をアクリル焼付白色塗板に貼り付けた後、多角度分光測色計を用いて、初期のL*値(受光角度15度、25度、45度、75度、110度の平均値)を測定する。なお、基材の一方の面に厚さ50μmのアクリル系粘着剤層を形成して粘着シートを作製し、この粘着シートをアクリル焼付白色塗板にローラーを用いて貼り付けてもよい。
【0022】
その後、基材(ex.粘着シート)上に汚染水(JIS Z-8901-84)を塗布した後乾燥させる工程を8サイクル実施した後、水洗しながら汚染水塗布膜を洗浄した基材(ex.粘着シート)について、多角度分光測色計を用いて、試験後のL*値(受光角度15度、25度、45度、75度、110度の平均値)を測定する。これらの数値を次式に代入して、ΔL*値を算出する。

ΔL*値=試験後のL*値 - 初期のL*値」
「【0097】
本発明の粘着シートの各層には、すなわち、例えば基材層、表面保護層、粘着剤層等には、必要に応じて、通常使用される添加剤、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、顔料、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、光安定剤、レベリング剤、増粘剤などを本発明の効果を阻害しない範囲内で添加することができる。これらの添加剤は、その種類に応じて通常の量で用いられる。」
「【0117】
本発明の粘着シートは、表面滑り性に優れているので、貼付時にスキージ等によるキズやシワが発生しにくく、良好な外観が要求される保護用粘着シートとして好適である。また、本発明の粘着シートは、耐汚染性に優れているので、泥汚れ等が酷い部位や手垢等で汚れ易い部位などへの保護用粘着シートとしても好適である。さらにまた、本発明によれば、曲面に対する追従性にも優れている粘着シートを実現することができるので、このような粘着シートは、三次元曲面が厳しい被着物に対しても優れた貼付作業性を示すことができる。したがって、大面積の被着体(被着物)、厳しい三次元曲面を有する被着物の保護用粘着シートとして好適である。輸送機械、例えば、自動二輪、自転車、鉄道車両、船舶、スノーモービル、ゴンドラ、リフト、エスカレーター、自動車、航空機等、特に自動車、航空機、自動二輪等の塗装面を保護するための保護用の粘着シート、携帯電話の導光フィルム、電極基板の封止材料、エスカレーターの手すりの装飾用フィルム、透明ガラスと組み合わせて用いる透明フィルム等の用途に好適である。」
「【0123】
(3)静摩擦係数の測定
基材を、幅80mm×長さ100mmのサイズに切断し、この基材を支持体に貼り付け、この支持体を両面粘着テープ等で標準試験板(JISG3141:日本テストパネル株式会社製)の上に貼着し、基材の上に滑り片を載せ、JISK7125に準じて最表面層(ex. 表面保護層)の静摩擦係数を測定した。なお、滑り片の接触面積は63mm×63mm、滑り片の全質量を200g(1.96N)とし、滑り片の基材表面との接触面にはスキージークロスを貼り付け、滑り速度100mm/minの条件で滑り片を引っ張って測定を行った。静摩擦係数は、JISK7125に準ずる下記算出式を用いて求めた。なお、基材の基材層面に厚さ50μmのアクリル系粘着剤層を形成し、粘着シートとして支持体に貼り付けてもよい。」
「【0126】
(4)耐汚染性の評価
基材の基材層面に厚さ50μmのアクリル系粘着剤層を形成して粘着シートを作製した。この粘着シートをアクリル焼付白色塗板(日本テストパネル(株)製、標準試験板)にローラーを用いて貼り付けた後、多角度分光測色計(MA68II、エックスライト(株)製)を用いて、初期のL*値(受光角度15度、25度、45度、75度、110度の平均値)を測定した。
【0127】
その後、粘着シート上に汚染水(JIS Z-8901-84 8種ダスト/水/カーボンブラック/イエローオーカー=1.3/98/0.5/0.2の質量比で混合したもの)を塗布した後、50℃で10分間乾燥させ、この工程を8サイクル実施した後、水洗しながらウェスで一定の力で汚染水塗布膜を洗浄した。この粘着シートについて、多角度分光測色計(MA68II、エックスライト(株)製)を用いて、試験後のL*値(受光角度15度、25度、45度、75度、110度の平均値)を測定した。次式により、ΔL*値を算出し、その数値から耐汚染性の評価を行った。

ΔL*値=試験後のL*値 - 試験前のL*値」

イ そうすると、まず、表面滑り性に関する記載について検討すると、上記【0002】には、スキージ等を用いて手作業で塗装面に直接貼り付けられる粘着シートの表面をスキージが滑らないため粘着シートにシワやキズが発生する等の問題があったことが記載され、本件発明は、表面滑り性を有した粘着シートを提供するというものであるから、本件発明の粘着シートは、その表面をスキージ等が容易に滑るようにしたものといえる。
また、粘着シートの表面をスキージ等が容易に滑るかどうかは、その表面の静摩擦係数で評価することができることは技術常識であって、上記【0019】にも、「表面滑り性」は、粘着シートの静摩擦係数で表されるものであることが記載されている。
そして、該静摩擦係数の値が大きくなれば、粘着シートの表面に接触したスキージ等が粘着シート上で滑らないことから粘着シートにシワやキズが発生し、該静摩擦係数は小さすぎれば、スキージ等を滑らせる作業に支障が出ることは当業者にとって明らかである。
そうすると、上記【0019】に記載されるように、粘着シートの表面の静摩擦係数が、0.05以上、1.50以下であれば、良好な表面滑り性を有する粘着シートが実現されることが理解できる。

ウ 次に、耐汚染性に関する記載について検討すると、上記【0021】及び【0022】には、ΔL*値は、色空間における、基材の初期の明度と、基材に汚染水(JIS Z-8901-84)を塗布した後乾燥させる工程を8サイクル実施した後、水洗しながら汚染水塗布膜を洗浄した際の基材の明度との差であると記載されており、基材が汚染水で汚れた場合に基材の明度は低下し、次に、洗浄した場合、汚れが落ちれば、その明度は汚染水で汚れる前の基材の明度より下がらず、その汚れが落ちなければ、その明度は汚染水で汚れる前の基材の明度より下がることから、本件発明における「ΔL*値」は、耐汚染性について指標となることが理解できる。
したがって、「ΔL*値」の値が小さければ小さいほど、粘着テープは耐汚染性に優れたものであるということが理解できる。また、「ΔL*値」がゼロになることはないことも当業者にとって明らかである。
そうすると、上記【0020】の記載から、「ΔL*値」が0.01以上、30.00以下であれば、耐汚染性に優れた粘着シートが実現されることが理解できる。

(4)ア 次に、本件明細書の実施例の記載をみると、本件発明の実施例及び比較例について、次の記載が認められる。
「【0129】
以下のようにして、基材における表面保護層(B層)用の樹脂組成物(b1?b4)を調整した。
(製造例1:樹脂組成物b1の調整)
アクリル系樹脂の酢酸エチルによる43%濃度溶液((株)日本触媒製、商品名「ハルスハイブリッドUV-G301」、(メタ)アクリル系ポリマーの水酸基価45(KOHmg/g))を100部と、イソシアネート系架橋剤(旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「デュラネートTSE-100」)を28.07部と、希釈溶媒として酢酸エチルを108.8部添加して、表面保護層用の樹脂組成物b1を調整した。
【0130】
(製造例2:樹脂組成物b2の調整)
アクリル系樹脂の酢酸ブチルによる70%濃度溶液(Nuplex Resins GmbH製、商品名「SETALUX D A 870BA」、(メタ)アクリル系ポリマーの水酸基価99(KOHmg/g))を100部と、イソシアネート系架橋剤(住化バイエルウレタン(株)製、商品名「スミジュールN3300」)を34.00部と、希釈溶媒として、酢酸エチルとキシレンの混合溶剤(酢酸エチル/キシレン=1/1 wt%)を51.31部添加して、表面保護層用の樹脂組成物b2を調整した。
【0131】
(製造例3:樹脂組成物b3の調整)
フルオロエチレン/ビニルエーテル交互共重合体のキシレン及びトルエンによる50%濃度溶液(旭硝子(株)製、商品名「ルミフロンLF600」)を100部と、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン(株)製、商品名「コロネートHX」)を9.51部と、希釈溶媒として酢酸エチルを76.46部とを添加して、表面保護層用の樹脂組成物b3を調整した。
【0132】
(製造例4:樹脂組成物b4の調整)
水系ウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製、カーボネート系ポリウレタンエマルジョン、商品名「F-2954D-5」)を、74.72部、水系ウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製、カーボネート系ポリウレタンエマルジョン、商品名「スーパーフレックス460」)を25.28部、オキサゾリン系架橋剤((株)日本触媒製、商品名「エポクロスWS-700」)を6.17部、レベリング剤として、ポリエーテル系変性シロキサン(ビックケミー-ジャパン(株)製、商品名「BUK-349」)を0.10部とパーフルオロアルケニルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム((株)ネオス製、商品名「フタージェント100」(10%希釈溶媒))を1.00部、増粘剤として「レオレート216」(エレメンティスジャパン(株)製を1.00部、水分散型光安定剤として「UC-606」((株)ADEKA製)を0.80部、および、水分散型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として「UC-3140」((株)ADEKA製)を0.20部の割合で混合した。次いで、ディスパーを用いて回転速度2,000rpmで10分間攪拌した後、脱泡装置(2,000rpm、10min)を用いて脱泡し、表面保護層の樹脂組成物b4を調整した。
【0133】
(実施例1)
基材層(A層)として、厚さ240μm、ショア硬度95Aの無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタンフィルム(a1)を使用した。このフィルム(a1)の上に、樹脂組成物b1を硬化後の厚みが10μmとなるように塗布し、温度120℃で2分間、乾燥および硬化させて基材層(A層)の上に表面保護層(B層)を形成し、基材を作製した。
得られた基材について、5%伸長時荷重の測定、応力緩和率の測定、静摩擦係数の測定、防汚性の評価、および、グロス値の測定を行った。その結果を表1に記載した。
【0134】
(実施例2)
表面保護層(B層)の形成において、樹脂組成物b1の替わりに樹脂組成物b2を使用し、温度120℃で3分間、乾燥および硬化させて表面保護層(B層)を形成した以外は実施例1と同様にして、基材を作製した。
得られた基材について、5%伸長時荷重の測定、応力緩和率の測定、静摩擦係数の測定、防汚性の評価、および、グロス値の測定を行った。その結果を表1に記載した。
【0135】
(実施例3)
表面保護層(B層)の形成において、樹脂組成物b2の替わりに樹脂組成物b3を使用して表面保護層(B層)を形成した以外は実施例2と同様にして、基材を作製した。
得られた基材について、5%伸長時荷重の測定、応力緩和率の測定、静摩擦係数の測定、防汚性の評価、および、グロス値の測定を行った。その結果を表1に記載した。
【0136】
(実施例4)
表面保護層(B層)の形成において、樹脂組成物b1の替わりに樹脂組成物b4を使用して表面保護層(B層)を形成した以外は実施例1と同様にして、基材を作製した。
得られた基材について、5%伸長時荷重の測定、応力緩和率の測定、静摩擦係数の測定、防汚性の評価、および、グロス値の測定を行った。その結果を表1に記載した。
【0137】
(実施例5)
基材層(A層)として、厚さ140μm、ショア硬度85Aの無黄変アジペートエステル系熱可塑性ポリウレタン(a2)を使用した以外は実施例1と同様にして、基材層の上に表面保護層を有する基材を作製した。
得られた基材について、5%伸長時荷重の測定、応力緩和率の測定、静摩擦係数の測定、防汚性の評価、および、グロス値の測定を行った。その結果を表1に記載した。
【0138】
(実施例6)
基材層(A層)として、厚さ40μm、ショア硬度95Aの無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン(a3)を使用した以外は実施例1と同様にして、基材層の上に表面保護層を有する基材を作製した。
得られた基材について、5%伸長時荷重の測定、応力緩和率の測定、静摩擦係数の測定、防汚性の評価、および、グロス値の測定を行った。その結果を表1に記載した。
【0139】
(実施例7)
基材層(A層)として、厚さ90μm、ショア硬度85Aの無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン(a4)を使用した以外は実施例1と同様にして、基材層の上に表面保護層を有する基材を作製した。
得られた基材について、5%伸長時荷重の測定、応力緩和率の測定、静摩擦係数の測定、防汚性の評価、および、グロス値の測定を行った。その結果を表1に記載した。
【0140】
(比較例1?4)
表1に示すように、表面保護層を設けずに基材を作製した。すなわち、基材として、基材層a1、基材層a2、基材層a3、および、基材層a4を、比較例1?4のそれぞれの基材とした。
得られた基材について、5%伸長時荷重の測定、応力緩和率の測定、静摩擦係数の測定、防汚性の評価、および、グロス値の測定の評価を行った。その結果を表1に記載した。
【0141】
【表1】

【0142】
表1から明らかなように、実施例1?7の基材は5%伸長時荷重が15N/cm以下であり、応力緩和率が40%以上であり、静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり、かつ、耐汚染性(ΔL*値)が0.01?8.00の範囲内であることが分かった。
【0143】
実施例1?7の基材を用いて粘着シートを作製した。
《粘着剤層の作製》
モノマー成分として、イソノニルアクリレート90部およびアクリル酸10部を混合した混合物に、光重合開始剤として、商品名「イルガキュア 651」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.05部と、商品名「イルガキュア 184」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.05部とを配合した後、粘度が約25Pa・s(BH粘度計No.5ローター、10rpm、測定温度30℃)になるまで紫外線を照射して、一部が重合したアクリル組成物(UVシロップ)を作製した。
【0144】
得られたUVシロップの100部に対して、イソノニルアクリレートを0.20部、トリメチロールプロパントリアクリレートを0.20部、ヒンダードフェノール型酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品名「イルガノックス1010」)を1部添加して粘着剤組成物を作製した。
【0145】
この粘着剤組成物を、仮支持体2として厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離処理面に、最終製品としての厚みが50μmになるように塗布した。
【0146】
この上に、セパレータとして剥離処理したPETフィルムを重ねて被覆し、次いで、PETフィルム面にメタルハライドランプを用いて紫外線(照度290mW/cm2、光量4,600mJ/cm^(2))を照射して硬化させて、仮支持体2の上に粘着剤層を形成した。その後、140℃で3分間乾燥させて、未反応の残存アクリル系モノマーを乾燥させ、粘着剤層を作製した。
【0147】
《粘着シートの作製》
セパレータを除去し、得られた基材の表面保護層側の面とは反対側の面(すなわち基材層面)に、粘着剤層が重なるように貼り合わせて粘着シート(仮支持体1/表面保護層/基材層/粘着剤層/仮支持体2の層構成)を作製した。
【0148】
実施例1?7の基材を用いて得られた各粘着シートは、いずれも、曲面追従性に優れていて三次元曲面を持った部位においても良好に追従することができ、貼付した後に反発したり、浮いたりせずに、きれいに貼り付けることができ、また、良好な表面滑り性および優れた耐汚染性も実現できることが分かった。
【0149】
すなわち、本発明により、柔軟性、応力緩和率、表面滑り性および耐汚染性の全てに優れた粘着シートを実現することができた。」

イ 【0141】【表1】の実施例1?7及び比較例1?4について検討する。
まず、比較例1?4は、表面保護層を有さない基材のみからなるものであって、それぞれ、無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン(比較例1、a1)、無黄変アジペートエステル系熱可塑性ポリウレタン(比較例2、a2)、無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン(比較例3、a3)、無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン(比較例4、a4)によって構成されている。そして、いずれも、静摩擦係数の値が大きく(1.52(比較例3)?1.99(比較例2))、ΔL*値の絶対値が大きい(50.38(比較例1)?60.07(比較例2))ことから、表面滑り性に優れたものとはいえないし、耐汚染性に優れたものであるともいえない。
次に、実施例1?4は、比較例1で用いられた基材(a1)を基材層として用い、実施例5?7は、それぞれ、比較例2?4で用いられた基材(a2?a4)を基材層として用い、その基材層の上に、アクリル系樹脂(実施例1?2、5?7、b1、b2)、フルオロエチレン/ビニルエーテル交互共重合体(実施例3、b3)、カーボネート系ポリウレタンエマルジョンを用いた水系ウレタン樹脂(実施例4、b4)の表面保護層を設けたものである。そして、同じ材質の表面保護層であっても、基材層によって静摩擦係数の値やΔL*値は変化するものの、実施例1?7は、いずれも、比較例に比較して、摩擦係数の値は小さく(0.54(実施例1)?0.99(実施例4))、ΔL*値の絶対値も小さい(0.11(実施例2)?4.92(実施例3))ことから、実施例1?7の粘着シートは、表面滑り性に優れ、耐汚染性に優れたものであるといえる。

ウ そうすると、実施例1?7は、本件発明の課題を解決することが確認されたものであって、基材層の材質は、いずれも、「エステル系熱可塑性ポリウレタン」であり、表面保護層の材質は、アクリル系樹脂(実施例1、2、5?7)、水系ウレタン樹脂(実施例4)又はフッ素系樹脂(実施例3)であることが理解できる。

エ また、表面保護層の静摩擦係数やΔL*値は、潤滑剤、充填剤、レベリング剤といった添加剤を含有させて静摩擦係数を調整したり、表面保護層の樹脂に親水基又は疎水基を表面に備えるようにして親水性や撥水性を持たせたりして、適宜変更できることは技術常識であるところ、本件明細書【0097】には、「本発明の粘着シートの各層には、・・・添加剤、例えば・・・充填剤、・・・光安定剤、レベリング剤、増粘剤などを・・・添加することができる。」と記載されており、発明の詳細な説明には、実施例のものに、さらに、添加剤を用いること等によって、実施例に基いて、静摩擦係数やΔL*値を実施例のものとは異なる、所望の値とすることが記載されていると認められる。
そして、静摩擦係数とΔL*値の相関は明らかではないものの、表面が平滑になり静摩擦係数が小さくなれば、汚れもつきにくくなる(ΔL*値が小さくなる)と考えられることから、静摩擦係数とΔL*値の一方を調整すると他方が本件発明で規定される範囲外のものとなるとはいえず、実施例のものに対して添加剤を用いた場合においても、静摩擦係数とΔL*値の両方について、実施例のものとは異なる、本件発明の範囲のものとすることも可能であるといえる。
さらに、表面保護層の材質が、エーテル系ポリウレタンポリマーの場合に、静摩擦係数の値が大きくなるとか、ΔL*値が大きくなるといった、本件発明の課題を解決しないものとなるという技術常識は見出すことはできない。

(5)以上のことから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された実施例1?7などから、当業者が本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲のものであって、本件発明1が特定する「少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シートであって、前記基材の静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり、また、該基材のΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下」の全ての範囲、及び、「表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有」する点については、発明の詳細な説明において十分に裏付けられているというべきである。

したがって、本件請求項1及び請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?9の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とはいえない。

第5 申立理由について
1 申立理由の概要
(1)申立人A
申立人Aは、証拠として、以下のアの甲第1?9号証(以下、申立人Aの甲各号証は、その番号に従って、「甲A1」などという。)を提出し、次のイ?エの点について主張している。

ア 甲A1?甲A9
甲A1:特開2005-272558号公報
甲A2:橋本幹夫、「ユーザーのための高分子材料の物性評価技術」、株式会社工業調査会、2006年8月20日、256頁
甲A3:岡崎貴彦他、「ポリウレタンの摩擦・摩耗特性への類延長剤の混合比率の影響」、日本ゴム協会誌、社団法人日本ゴム協会、1995年6月15日、68巻6号、417?426頁
甲A4:財団法人日本色彩研究所、「デジタル色彩マニュアル」、株式会社クレオ、2004年4月25日、34?35頁
甲A5:渡辺健三、「配合ゴムの応力緩和」、高分子、社団法人高分子学会、1962年3月20日、第11巻第121号、268?274頁
甲A6:特開2001-151970号公報
甲A7:JISK7125 (プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法)
甲A8:通版サイト「アリババ」で商品「squeegee cloth」を検索した結果(https://www.alibaba.com/trade/search?fsb=yIndexArea=product_enCatId=SearchText=squeegee+cloth)のプリント
甲9A:通販サイト「楽天」で「スキージ フェルト」を検索した結果
(https//search.rakuten.co.jp/search/mall/%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%80%80%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%88/?f=1grp=product)のプリント

イ 理由A1(特許法第29条第1項第3号又は同条第2項)
本件発明1及び2と甲A1に記載の発明(甲A1発明)とは同一発明であり、本件発明1及び2は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
また、仮に本件発明1及び2と甲A1発明とが同一でないとしても、本件発明1及び2は、甲A1発明と甲A2?甲A6に基づき当業者が容易に想到できるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
そして、本件発明3?9は、甲A1発明と甲A2?甲A6に基づき当業者が容易に想到できるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。なお、申立人Aは、本件発明4?9について、理由A1についての具体的な主張はしていない。

ウ 理由A2(特許法第36条第4項第1号)
本件特許は、次の(ア)、(イ)の点で発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
(ア)本件発明1の「表面保護層の静摩擦係数」の「0.05以上、1.50以下」という範囲について
本件明細書の【0099】(以下、特に断りのない限り、「【】」は、本件明細書の段落番号を示す。)には、「表面保護層の静摩擦係数」の測定方法は、JISK7125に準じた方法であると記載されているところ、JISK7125(甲A7)の833頁の下から9行目には、「参考1.フィルムの摩擦係数は、通常、0.2から1の範囲にある。」と記載されている。
また、甲A2の256頁の11行目には、「実用上、摩擦係数は0.3?0.6くらいが使用可能な範囲であり、0.3以下なら滑りすぎ、0.6以上なら滑らないなどの問題が発生する。」と記載されている。
そうすると、本件特許の請求項1における「表面保領層の静摩擦係数」の「0.05以上、1.50以下」という範囲は、下限値も上限値も通常のフィルムの摩擦係数の範囲から大きく離れている。
しかしながら、この「0.2」の40分の1の「0.05」という桁外れに小さい摩擦係数のフィルムの表面状態をどのようにして製作するのかについて、本件明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本件発明1についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(イ)本件発明1の「表面保護層の静摩擦係数」の測定方法について
本件明細書の発明の詳細な説明には、表面保護層の静摩擦係数の測定方法に関し、【0123】に、「基材を、幅80mm×長さ100mmのサイズに切断し、この基材を支持体に貼り付け、この支持体を両面粘着テープ等で標準試験板(JISG3141:日本テストパネル株式会社製)の上に貼着し、基材の上に滑り片を載せ、JISK7125に準じて最表面層(ex. 表面保護層)の静摩擦係数を測定した。なお、滑り片の接触面積は63mm×63mm、滑り片の全質量を200g(1.96N)とし、滑り片の基材表面との接触面にはスキージークロスを貼り付け、滑り速度100mm/minの条件で滑り片を引っ張って測定を行った。静摩擦係数は、JISK7125に準ずる下記算出式を用いて求めた。」と記載され、【0124】には、「均一な圧力分布をかけるために、滑り片の底面を弾力性のある材料(フェルト等)で覆う。」と記載されている。
しかしながら、上記「スキージークロス」(【0123】)の具体的な材質が不明であり、上記「滑り片の底面を弾力性のある材料(フェルト等)」(【0124】)の記載では、どのような材料か特定できない。
実際、甲A8、甲A9のとおり、「スキージークロス」は、商品により材質もマイクロファイバー、コットン、ポリエステル、酢酸ビニル、セルロース、スパンレース不織布等さまざまであり、商品によっては、1つのブランドであっても、硬さについて「ハード」「ミディアム」「マイルド」「ソフト」と、種々のグレードを揃えている商品もある。
したがって、滑り片の基材表面との接触面におけるスキージークロス、フェルトというだけでは、その表面の粗さや硬さが特定できないし、材料の粗さ、硬さが変われば、滑り性が当然変わり、測定値も変わる。

以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された表面保護層の静摩擦係数の測定方法は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

エ 理由A3(特許法第36条第6項第1号(サポート要件))
本件特許は、次の(ア)?(ケ)の点で請求項の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
(ア) 本件請求項1の記載について
a 本件請求項1においては、「基材の静摩擦係数が0.05以上、1.50以下」と規定されている。
本件明細書の【0019】には、「静摩擦係数が0.05未満または1.50より大きいと、良好な表面滑り性を実現することができない。」と記載されている。
しかしながら、本件明細書の実施例1?7における「基材の静摩擦係数」の最小値は、実施例1の「0.54」(【0141】【表1】)であるのに対し、本件発明1における「基材の静摩擦係数」の範囲の下限値は、「0.05」であり、上記最小値は、本件発明1における「基材の静摩擦係数」の範囲の下限値の10倍以上である。
同様に、上記実施例1?7における「基材の静摩擦係数」の最大値は、上記実施例4の「0.99」(【0141】【表1】)であるのに対し、本件発明1における「基材の静摩擦係数」の範囲の上限値は、「1.50」であり、本件発明1における「基材の静摩擦係数」の範囲の上限値は、上記最大値の1.5倍以上である。
また、本件請求項1には、「基材が表面保護層および基材層を有」するものと記載されていることから、「基材の静摩擦係数」は、「表面保護層の静摩擦係数」といえるところ、「表面保護層」のない上記【表1】の比較例3(無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン)の「静摩擦係数」は、本件発明1における「基材の静摩擦係数」の上限値に近い「1.52」であるから、上記上限値の「1.50」はウレタンそのものが有する程度の数値であることがわかる。
このように、本件請求項1における「基材の静摩擦係数」の「0.05以上、1.50以下」という範囲は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている「基材の静摩擦係数」の範囲よりも不当に広い範囲であり、本件請求項1における「基材の静摩擦係数」の「0.05以上、1.50以下」という範囲をサポートする記載が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。

b 本件請求項1においては、「基材の△L*値の絶対値が、0.01以上、45.00以下」と規定されている。
しかしながら、上記実施例1?7の「耐汚染性(△L*値)」の最大値は、実施例4の「4.92」(【0141】【表1】)であるのに対し、本件請求項1における「耐汚染性(△L*値)」の範囲の上限値は、「45.00」であり、上記最大値は本件発明1の「基材の△L*値の絶対値」の範囲の上限値の9分のl以下であり、「4.92」を超える範囲については、比較例1の「50.38」までの間の測定値は示されていない。
したがって、本件請求項1における「基材の△L*値の絶対値」の「0.01以上、45.00以下」という範囲は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている「基材の△L*値の絶対値」の範囲よりも不当に広い範囲である。
以上のように、本件請求項1の「基材の△L*値の絶対値」の「0.01以上、45.00以下」という範囲をサポートする記載が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。

c 本件請求項1においては、「表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し」と規定されている。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている実施例・比較例の表面保護層はアクリル系ポリマーが2種類(実施例1、2、5?7)とフッ素系ポリマーが1種類(実施例3)のみであり、「エーテル系ウレタンポリマー」についてはなんら記載されていない。
なお、本件明細書の実施例4で表面保護層として用いられているカーボネート系ウレタンポリマ一は、本件請求項1における「エーテル系ウレタンポリマー」とは異なるものである。
したがって、本件請求項1における「表面保講層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し」という範囲は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている「表面保護層」の範囲よりも不当に広い範囲である。
したがって、「表面保護層が、…エーテル系ウレタンポリマー…を含有し」という範屈をサポートする記載が本件明細書の「発明の詳細な説明」に記載されていない。

(イ)本件請求項2の記載について
本件請求項2においては、「基材の5%伸長時の荷重が15N/cm以下」と規定されている(当審注:本件請求項2においては、「基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上、15N/cm以下」と規定されている)。
一方、本件明細書の発明の詳細な説明の【0023】には、「基材の5%伸長時の荷重は、実施例で具体的に説明しているように、基材に50μm厚のアクリル系粘着剤層を設けた状態で測定したものである。」と記載されている。
実施例の測定方法について記載された同【0120】にも、「基材の一方の表面に厚さ50μmのアクリル系粘着剤層を形成して粘着テープを作製した。この粘着テープを、幅10mm×長さ160mmに切断し、引張速度200mm/min、チャック間距離100mm、23℃で引張試験を実施し、応力-歪み曲線を求めた。粘着シートの5%伸長時における荷重を求めた。」との記載がある。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、粘着剤層の影響については言及されていない。また、実施例6は、「基材層(A層)として、厚さ40μm、ショア硬度95Aの無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン(a3)を使用」しており、粘着剤層の厚みである50μmよりも薄いフィルムを用いており、「基材層(A層)」よりも厚みのある粘着剤層が物性値に与える影響は少なくないと推察される。
したがって、本件発明2における「基材の5%伸長時の荷重が15N/cm以下」という範囲をサポートする記載が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。

(ウ)本件請求項3の記載について
本件請求項3においては、「基材を10%まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上、100%以下」と規定されている。
一方、本件明細書の発明の詳細な説明の【0024】には、「基材の応力緩和率は、実施例で具体的に説明しているように、基材に50μm厚のアクリル系粘着剤層を設けた状態で測定したものである。」と記載されている。
実施例の測定方法について記載された同【0121】にも、「粘着シートを、幅10mm×長さ160mmに切断し、引張速度200mm/min、チャック間距離100mm、23℃で、チャック間距離が110mmになるまで引っ張り続けて10%伸ばした状態で停止した。その停止から600秒経過した後の負荷(残留応力)を測定し、下記算出式を用いて応力緩和率を求めた。」との記載がある。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、粘着剤層の影響については言及されていない。また、実施例6は、「基材層(A層)として、厚さ40μm、ショア硬度95Aの無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン(a3)を使用」しており、粘着剤層の厚みである50μmよりも薄いフィルムを用いており、「基材層(A層)」よりも厚みのある粘着剤層が物性値に与える影響は少なくないと推察される。
したがって、本件請求項3における「基材を10%まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上、100%以下」という範囲をサポートする記載が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。

(エ)本件請求項4の記載について
本件請求項4は、本件請求項1?3のいずれかに従属するものである。
したがって、本件請求項4の記載は、本件請求項1?請求項3の記載と同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(オ)本件請求項5の記載について
本件請求項5は、本件請求項1?4のいずれかに従属するものである。
したがって、本件請求項5の記載は、本件請求項1?請求項4の記載と同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(カ)本件請求項6の記載について
本件請求項6は、本件請求項1?5のいずれかに従属するものである。
したがって、本件請求項6の記載は、本件請求項1?請求項5の記載と同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(キ)本件請求項7の記載について
本件請求項7においては、「基材層のショア硬度が80A以上、65D以下」と規定されている。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例では、「ショア硬度95Aの無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン」(実施例1?4、6)、「ショア硬度85Aの無黄変アジペートエステル系熱可塑性ポリウレタン」(実施例5)、「ショア硬度85Aの無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン」(実施例7)の3種類しか用いられていない。
よって、「基材層のショア硬度が80A以上、65D以下」という規定の範囲をサポートする記載が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず、本件請求項7の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(ク)本件請求項8の記載について
本件請求項8は、本件請求項1?7のいずれかに従属するものである。
したがって、本件請求項8の記載は、本件請求項1?請求項7の記載と同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(ケ)本件請求項9の記載について
本件請求項9は、本件請求項1?8のいずれかに従属するものである。
したがって、本件請求項9の記載は、本件請求項1?請求項7の記載と岡様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2) 申立人B
申立人Bは証拠として、以下のアの甲第1?18号証(以下、申立人Bの甲各号証は、その番号に従って、「甲B1」などという。)を提出し、次のイ?オの点について主張している。

ア 甲B1?甲B18
甲B1:特開2012-62454号公報
甲B2:特開2005-272558号公報
甲B3:特開2007-40792号公報
甲B4:技術研究部会 材料施工専門部会 外装材の汚れ評価に関するWG、「塗装の汚れ評価方法に関する研究?促進汚染試験方法の提案、一般社団法人日本建設業連合会、平成29年2月、5頁
甲B5:特開2011-116808号公報
甲B6:特開2011-116809号公報
甲B7:大澤善次郎、「高分子劣化・長寿命化ハンドブック」丸善出版株式会社、平成23年7月25日、238頁
甲B8:橋本幹夫、「ユーザーのための高分子材料の物性評価技術」、株式会社工業調査会、2006年8月20日、80頁
甲B9:内野文二、「塗料用ふっ素樹脂「FEVE樹脂」の耐汚染性と洗浄性」、日本建築仕上学会1993年大会、13?16頁
甲B10:特開平10-96198号公報
甲B11:特開2002-82620号公報
甲B12:特開2011-16341号公報
甲B13:「日本プラスチック工業連盟誌 プラスチックス 2011年7月号」、日本工業出版、2011年7月、37?43頁
甲B14:BASF社の熱可塑性ポリウレタンElastollanR(当審注:「R」は「○」の中に「R」の上付き文字)(BASF社)に関するカタログ、2007年4月
甲B15:特開2002-347179号公報
甲B16:特開2013-136705号公報
甲B17:特表平4-502287号公報
甲B18:特開平11-28182号公報

イ 理由B1(特許法第36条第6項第2号)
本件特許は、次の(ア)?(ウ)の点で請求項の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
(ア)理由B1-1
本件請求項1には、基材の「△L*値の絶対値」が、0.01以上、45.00以下である旨が記載されている。
しかし、「△L*値の絶対値」なる用語は、当業者にとって慣用されている用語ではなく、請求項1でこの用語の定義がされているわけでもない。「△」の記号から何らかの数値変化を表すことや、「L*」という表記から明度に関係すること程度は推認可能だが、それ以上のことは請求項1の記載から全く推認することはできない。
よって、「△L*値の絶対値」なる用語の意味内容を当業者は理解することができなない。
したがって、本件発明1?9は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。本件発明1を引用する本件発明2?9についても同様である。

なお、「△L*値の絶対値」の用語について、本件明細書【0126】及び【0127】には、次のように記載されている。
「【0126】
(4)耐汚染性の評価
基材の基材層面に厚さ50μmのアクリル系粘着剤層を形成して粘着シートを作製した。この粘着シートをアクリル焼付白色塗板(日本テストパネル(株)製、標準試験板)にローラーを用いて貼り付けた後、多角度分光測色計(MA68II、エックスライト(株)製)を用いて、初期のL*値(受光角度15度、25度、45度、75度、110度の平均値)を測定した。
【0127】
その後、粘着シート上に汚染水(JIS Z-8901-84 8種ダスト/水/カーボンブラック/イエローオーカー=1.3/98/0.5/0.2の質量比で混合したもの)を塗布した後、50℃で10分間乾燥させ、この工程を8サイクル実施した後、水洗しながらウェスで一定の力で汚染水塗布膜を洗浄した。この粘着シートについて、多角度分光測色計(MA68II、エックスライト(株)製)を用いて、試験後のL*値(受光角度15度、25度、45度、75度、110度の平均値)を測定した。次式により、ΔL*値を算出し、その数値から耐汚染性の評価を行った。

ΔL*値=試験後のL*値 - 試験前のL*値」

しかしながら、この記載や当業者の技術常識を考慮しても、以下のa?eの点で、本件発明1における「△L*値の絶対値」なる用語は、一義的に解釈することはできない。

a 汚染水の「塗布」の条件(汚染水の塗布量等)が不明確
汚染水そのものについては本件明細書【0127】の記載に基づき一意に定まるとしても、例えば汚染水の塗布量により、基材に蓄積される汚れの量が変動し、それにより△L*値が変動することは明らかである(汚染水は乾燥させられるから、単純には、塗布量が2倍になれば、残存する汚れの量は2倍になる)。しかし、本件明細書に汚染水の塗布量に関する記載は見当たらず、また、汚染水の塗布量について当業者の共通認識が存在するわけでもない。
b そもそも適切に「塗布」できるか不明
特に本件発明では、基材が「フッ素系樹脂を含む表面保護層」を備え、撥水性がかなり大きい場合があり得るところ、そのような場合は、基材が汚染水を「はじく」と考えられる。そうすると、定量的かつ再現性高く△L*値を測定できるような、汚染水の「均一な塗布」ができないと考えられる。また、基材が汚染水をはじく場合の取り扱いについて、本件明細書に記載はなく、また、技術常識から明らかとも言えない。
汚染水をはじかない適切な塗布ができるのは、例えば、表面保護層が、本件請求項8の「水酸基価20?120(KOHmg/g)の(メタ)アクリル系ポリマー」を含有する場合などに限られると考えられる(水酸基が適度に存在し、適度に親水的であるため)。
c 「水洗」の条件が不明確
汚染水にはカーボンブラック(水不溶性の黒色微粒子)等が含まれ、これは水洗によりある程度が基材から除去されるが、水洗で除去できずに基材に蓄積(固着等)するカーボンブラック等の量は、水洗の条件(例:流水/溜めた水のどちらか、水洗時間、流水の揚合は流量や流水の当て方、等)により大きく変動することが明らかである。そして、黒色微粒子であるカーボンブラック等の基材への蓄積量が変動することにより、「明度」の指標であるL*値も変動することは明らかである。
しかし、本件明細書には、水洗の条件に関する具体的記載は無く、また、技術常識から水洗条件が一意に明らかとも言えない。
d 「ウェス」の種類が不明確
「ウェス」とは、一般には機械器具類の清掃に用いられる紙切れや布切れのことを言うが、その素材、繊維の細さ、布の織り方等により様々な種類のものが存在し、このことは甲B18の記載からも裏付けられる。そして、素材や布の織り方等により汚染の除去性は変動し、それにより△L*値が変動することは明らかである(例えば、メガネ拭きのように細い繊維からなる布と、雑巾のように太い繊維からなる布では、汚れの除去性が異なることを思い出して頂きたい)。
しかし、本件明細書にウェスとして具体的にどのようなものを用いたのか具体的な記載は無く、また、汚染性評価においてどのようなウェスを用いるかについて当業者の共通認識が存在するわけでもない。
ちなみに、甲B3の【0049】【表2】や【0052】【表3】などには、繊維素材の違いなどにより、汚れのふき取り性が変わる旨が記載されている。
e 「一定の力」が、どのような大きさ・方向の力なのか不明確
ウェスを汚染された基材に当てる際の力の大きさにより、基材から除去されずに基材に蓄積(固着等)するカーボンブラック等の量が変動することは明らかである。そして、黒色微粒子であるカーボンブラック等の基材への蓄積量が変動することにより、「明度」の指標である△L*値が変動することは明らかである。しかし、その力の大きさについて、本件明細書には「一定の力」と記載されているのみであり、定量的に全く明らかでない。また、汚染性評価において「一定の力」がどの程度であるのかについて当業者の共通認識が存在するわけでもない。
さらに、ここでの「力」が、ウェスを基材に押し当てる力(基材に垂直な方向の力)を意味するのか、ウェスを動かす際の力(基材に平行な方向の力)を意味するのか、これらの両方を意味するのか等も本件明細書に具体的記載は無く、当業者の共通認識が存在するわけでもない。
加えて、どのようにして「一定の力」を基材に加えるのか、本件明細書や技術常識から明らかでない。手作業においては常に「一定の力」を加えることは難しいと考えられるし、「一定の力」を加えるための装置が本件明細書に示されているわけでもない。

(イ)理由B1-2
本件発明1は「少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シート」を対象とするものである。
一方、本件発明2及び3は、文言上、本件発明1の粘着シートにおける「基材」の力学的特性(5%伸長時の荷重や応力緩和率)をさらに規定するものである。換言すると、本件発明2及び3は、文言上、「基材と粘着剤層とを有する粘着シート」における「基材のみ」の力学的特性を規定するものである。
しかし、第三者が、自らの粘着シート製品(基材と粘着剤層とを備える)における「基材のみ」の力学的特性を測定しようとしたとき、具体的にどのように測定すればよいのか、本件明細書や技術常識からは明らかでない。より具体的には、基材と粘着剤層とを備える粘着シート製品中の「基材のみ」の力学的特性を測定しようとした場合、何らかの手段で、基材の特性を維持したまま、基材以外の層を剥離等する必要があると考えられるが、そのような剥離法等に関する具体的事項は何ら本件明細書に記載されておらず、また、当業者の技術常識から明らかでもない。
なお、本件明細書の【0023】には「基材の5%伸長時の荷重は、実施例で具体的に説明しているように、基材に50μm厚のアクリル系粘着剤層を設けた状態で測定したものである。」との記載がある。しかし、本件発明1では「基材」と「粘着剤層」は別個の構成として規定されている以上、上記明細書記載を参酌して本件発明2及び3の力学的特性の測定方法を解釈することは妥当ではない。
また、仮に、本件発明2及び3で規定された力学的特性が「基材に50μm厚のアクリル系粘着剤層を設けた状態で測定したもの」であるとしても、第三者の製品が、アクリル系ではない粘着剤層を備えたものであったり、粘着剤層の厚みが50μmとは異なるものであったりしたときなどには、どのように測定すればよいのか、依然として明らかではない。

また、本件発明7では、粘着シート中の「基材層」のショア硬度が80A以上、65D以下である旨が規定されているが、これについても上記と同様の理由により不明確である。

(ウ)理由B1-3
本件発明6では、「前記表面保護層が、イソシアネート系架橋剤及び/又はオキサゾリン系架橋剤を用いて形成された層である」と規定されている。
上記は、明らかに、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレーム)に該当する。よって、本件発明6及びこれを引用する本件発明7?9は不明確である。

ウ 理由B2(特許法第36条第6項第1号)
本件特許は、次の(ア)?(エ)の点で請求項の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
(ア)理由B2-1
本件発明の課題は「表面滑り性を有しており、かつ、耐汚染性にも優れた粘着シートを提供すること」であり(明細書【0005】等)、そのような課題を解決するために、本件発明1等の構成が採用されている。そして、本件明細書の特に実施例では、本件発明1等の構成(各層の素材や、静摩擦係数、△L*などの値)を満たす粘着シートがいくつか製造されている。
しかし、本件発明1等の構成を満たす粘着シートが課題を解決できたか否か(十分な効果を奏するのか否か)については、本件明細書の【0148】に「実施例1?7の基材を用いて得られた各粘着シートは・・・(中略)・・・良好な表面滑り性および優れた耐汚染性も実現できることが分かった。」と記載されているのみである。具体的にどのようにして「表面滑り性」や「耐汚染性」を評価し、そしてどの程度のレベルをもって、表面滑り性が「良好」/耐汚染性が「優れた」と判断したのか等は、明細書の記載から全く明らかでない。
すなわち、本件明細書においては、本件発明1等の構成を有する粘着シートが、表面滑り性や耐汚染性などの課題を解決可能なことが立証されておらず、よって当業者は本件発明1?9が課題を解決可能と理解することはできない。

(イ)理由B2-2
本件発明1は「少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シート」を対象とするものである。
一方、本件発明2及び3は、文言上、本件発明1の粘着シートにおける「基材」の力学的特性(5%伸長時の荷重や応力緩和率)をさらに規定するものである。換言すると、本件発明2及び3は、文言上、「基材と粘着剤層とを有する粘着シート」における「基材のみ」の力学的特性を規定するものである。
一方、本件実施例では「基材の一方の表面に厚さ50μmのアクリル系粘着剤層を形成」して作製された「粘着テープ(シート)」の力学的特性のみが測定され(【0120】?【0122】)、「基材」の力学的特性は測定されていない。すなわち、本件発明2及び3は、実施例によりサポートされていない。

(ウ)理由B2-3
請求項1において、基材の静摩擦係数は「0.05以上、1.50以下」と広く規定されている。しかし、実施例で示されている静摩擦係数の値は「0.54以上、0.99以下」の範囲のみである。
また、請求項1において、基材の△L*値の絶対値は「0.01以上、45.00以下」(訂正前)と極めて広く規定されている。
しかしながら、実施例で示されている数値は「0.11以上、4.92以下」の範囲のみである。
すなわち、本件明細書に記載された実施例は、本件発明1?9で規定された広い範囲のごく一部に限られている。
このことからすると、仮に上記理由B2-1のサポート要件違反の問題を措いて、実施例に記載の粘着テープが本件発明の課題を解決できていると仮定したとしても、実施例等の記載および当業者の技術常識をもって、本件発明1?9の全範囲において本件発明の課題を解決できると理解することはできない。

(エ)理由B2-4
本件発明1において、表面保護層は「アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つ」を含むとされている。
しかしながら、実施例において、表面保護層の素材として、アクリル系樹脂やフッ素系樹脂は用いられているが、「エーテル系ウレタンポリマー」は用いられていない。実施例4では「樹脂組成物b4」が表面保護層の形成に用いられ、これは「カーボネート系ポリウレタン」を含むが、「エーテル系ウレタンポリマー」を含むものではない。
また、本件明細書の記載や当業者の技術常識から、実施例で表面保護層に用いられているアクリル系樹脂やフッ素系樹脂と、これら樹脂とは化学的構造等が大きく異なるエーテル系ウレタンポリマーが、課題解決に関する物性・性能において等価であるとも言えない。
すなわち、本件実施例の記載等からは、請求項1およびその従属項に係る発明のうち少なくとも「表面保護層がエーテル系ウレタンポリマー」の部分について、本件発明の課題を解決できると理解することはできない。

エ 理由B3(特許法第36条第4項第1号)
本件特許は、次の(ア)?(ウ)の点で発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
(ア)理由B3-1
本件発明の課題は「表面滑り性を有しており、かつ、耐汚染性にも優れた粘着シートを提供すること」である(本件明細書の【0005】)。
上記課題の解決のため、本件発明1では「基材の静摩擦係数」や「基材の△L*値の絶対値」が、特定の数値範囲内にあることが規定されている。
しかし、これら規定は、課題の裏返し、解決すべき課題を数値に置き換えたものに過ぎない。具体的には、「基材の静摩擦係数が0.05以上、1.50以下」であることは、課題の「表面滑り性を有して」いることの裏返しに過ぎず、「基材の△L*値の絶対値が、0.01以上、45.00以下」であることは、課題の「耐汚染性に優れた」ことの裏返しに過ぎない。
また、これら課題は表面保護用の粘着シートの分野において公知の課題に過ぎない。例えば、表面滑り性の課題については、(4.2.5)および(4.2.6)で説明した甲B5、甲B6に記載されている。また、「曲面追従性」については、例えば甲B1の課題(屈曲部追従性)や、甲B2の【0005】等(三次凹曲面に貼着した場合でも、浮きやトンネリングが発生しにくい)に示されている。
つまり、本件発明1?9は、公知の課題を数値に置き換えたものに過ぎず、いわゆる「願望クレーム」に当たる。そして、極めて限られた材料を用いた実施例のみしか、実施可能に記載されていない。
すなわち、本件発明1?9は、実施可能要件を満たさない。

(イ) 理由B3-2
a 「基材の静摩擦係数」について
本件発明1において、基材の静摩擦係数は「0.05以上、1.50以下」と広く規定されている。
しかし、実施例では、静摩擦係数が「0.54以上、0.99以下」の粘着シートのみが製造され、この範囲外の静摩擦係数の基材を得たことは記載されていない。また、本件明細書において、本件発明1で規定された「アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つ」を表面保護層に用いつつ、静摩擦係数を「0.54未満」としたり「0.99超」としたりすることの具体的設計指針が示されているわけでもない。後述するように、甲B7、甲B8に示されるように、各種樹脂の静摩擦係数は、おおよそ、0.1?0.8程度の値であることも考慮すると、「静摩擦係数が0.05以上、1.50以下」の範囲全体を実施することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものである。

b 「基材の△L*値の絶対値」について
本件発明1において、基材の△L*値の絶対値は「0.01以上、45.00以下」と極めて広く規定されている。
しかし、実施例では、△L*値が「0.11以上、4.92以下」の粘着シートのみが製造され、この範囲外の△L*値の基材を得たことは記載されていない。また、本件明細書において、本件発明1で規定された「アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つ」を表面保護層に用いつつ、△L*値を「0.11未満」としたり「4.92超」としたりすることの具体的設計指針が示されているわけでもない。各種樹脂の汚染性評価において、△L*値はおおよそ1?20程度という技術常識も考慮すると、「△L*値の絶対値が、0.01以上、45.00以下」の範囲全体を実施することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものである。
以上、本件明細書(特に実施例)の記載から、本件発明1およびこれを引用する本件発明2?9の全範囲が実施可能とは言えない。

(ウ)理由B3-3
本件発明2においては、基材の5%伸長時の荷重が「1N/cm以上、15N/cm以下」と規定されている。ここでの荷重の単位が「N/cm」であることから、上記規定は、基材の幅1cmあたりの荷重を規定したものであることが理解される。

一般に、基材の伸長時の荷重を制御するには、基材の材質を適切に選択することだけでなく、基材の厚みを適切に設計することも重要である。より具体的には、基材全体の厚みや、基材層と表面保護層それぞれの厚み、基材層と表面保護層の厚みのバランス等を適切に設計することが、基材の伸長時の荷重制御には必要である。全体の厚みまたは各層の厚みが厚すぎたり薄すぎたりする場合や、基材層と表面保護層の厚みのバランスが適切ではない場合などには、伸長時の荷重を「1N/cm以上、15N/cm以下」に制御することはできない。
しかし、本件発明2において、基材全体、基材層、表面保護層などの厚みや比率については何ら規定されていない。すなわち、本件発明2及びこれを引用する本件発明3?9は当業者が実施可能でない部分を含んでいる。

オ 理由B4(特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項)
(ア)理由B4-1
本件発明1は、甲B1に記載された発明(甲B1発明)であり、新規性を有しない。
また、仮に、本件発明1が甲B1発明と相違するとしても、甲B1発明から当業者が容易に想到できたものであるため、進歩性を有しない。

(イ)理由B4-2
本件発明1は、甲B2に記載された発明(甲B2発明)であり、新規性を有しない。
また、仮に、本件発明1が甲B2発明と相違するとしても、甲B2発明から当業者が容易に想到できたものであるため、進歩性を有しない。

(3)申立人C
申立人Cは証拠として、以下のアの甲第1?33号証(以下、申立人Cの甲各号証は、その番号に従って、「甲C1」などという。)及び参考資料1を提出し、次のイ?エの点について主張している。

ア 甲C1?甲C33、参考資料1
甲C1:特開2012-62454号公報
甲C2:特表2008-539107号公報
甲C3:特表2010-505663号公報
甲C4:特開2002-309188号公報
甲C5:特開2012-46723号公報
甲C6:特開2009-299035号公報
甲C7:特開2010-83137号公報
甲C8:特開2011-121359号公報
甲C9:特開2005-272558号公報
甲C10:特開2011-127103号公報
甲C11:特開2006-84764号公報
甲C12:特開2005-246639号公報
甲C13:特開2002-82620号公報
甲C14:国際公開第2013/69784号
甲C15:特開2001-322216号公報
甲C16:特開2000-290622号公報
甲C17:特開平8-218043号公報
甲C18:特開2007-70401号公報
甲C19:特開2000-309652号公報
甲C20:特表2002-531294号公報
甲C21:特表2003-531028号公報
甲C22:特開2006-289818号公報
甲C23:特開2007-160933号公報
甲C24:特開2006-8835号公報
甲C25:特開2006-328272号公報
甲C26:特開2004-291308号公報
甲C27:特開2001-152118号公報
甲C28:特開2004-189933号公報
甲C29:特開2007-262380号公報
甲C30:特表2002-512294号公報
甲C31:特開2001-55457号公報
甲C32-1:国際公開第2012/31168号
甲C32-2:特表2013-536776号公報
甲C33:特開2006-28416号公報
参考資料1:知財高裁、平成28年(行ケ)第10041号判決、平成28年9月28日判決言渡、写し

イ 理由C1(特許法第29条第2項)
本件発明1?9は、甲C1及び本件優先日当時の技術常識乃至周知技術、あるいは、これらと更に甲C5(従属請求項に係る発明については、場合によっては、更に、甲C9及び甲C14)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきである。

ウ 理由C2(特許法第36条第6項第1号)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、次の(ア)?(ウ)に述べるように、本件明細書によってサポートされておらず、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていないから、本件特許は特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきである。

(ア)エーテル系ウレタンポリマーを含む表面保護層を備える本件発明の粘着シートが目標とする表面滑り性及び耐汚染性を発揮することは本件明細書によってサポートされていない

本件発明では、表面保護層がエーテル系ウレタンポリマーを含み得るが、本件明細書の【実施例】では、エーテル系ウレタンポリマーを含む表面保護層を有する粘着シートは製造も評価もされていない。本件明細書の【実施例】において本件発明が目標とする表面滑り性及び耐汚染性を発揮することが確認されているのはアクリル系樹脂(実施例1及び実施例2)又はフッ素系樹脂(実施例3)を含む表面保護層を有する場合のみである。

なお、本件明細書の【実施例】における実施例4はポリカーボネート系ウレタンポリマーを使用した例であり、エーテル系ウレタンポリマーを使用した例ではない。

そして、表面保護層の構成成分の種類が当該層の表面の特性に実質的な影響を与え得ることは当業者には自明であるところ、エーテル系ウレタンポリマーを含む場合も表面保護層の表面が目標とする表面滑り性及び耐汚染性を発揮するか否かは本件明細書の【実施例】からは不明である。

したがって、エーテル系ウレタンポリマーを含む表面保護層を備える本件発明の粘着シートが目標とする曲面追従性及び耐薬品性を発揮することは本件明細書によってサポートされていない。

(イ)本件発明2は本件明細書によってサポートされていない
本件発明2において、基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上、15N/cm以下とする目的は曲面追従性の向上である(本件明細書【0023】)。

しかし、本件明細書の【0141】【表1】に実施例とともに記載されている(本件発明に該当しない)比較例1、2及び4の基材は本件発明2の「基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上、15N/cm以下である」の条件を満たすものであるから、本件発明2の「基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上、15N/cm以下である」の発明特定事項により曲面追従性が向上するのか否かは不明である。

したがって、明らかに、本件発明2は本件明細書によってサポートされていない。

(ウ)本件発明3は本件明細書によってサポートされていない
本件発明3において、基材を10%まで伸長させ、その状態で伸長を停止してから600秒(10分間)経過後の応力緩和率を40%以上100%以下とする目的は明らかに曲面追従性の向上である(本件明細書【0023】)。

しかし、本件明細書の[実施例]の欄で使用されている実施例1?7の基材も(本件発明に該当しない)比較例1?4の基材も全て本件発明3の「10%まで伸長させ、その状態で伸長を停止してから600秒(10分間)経過後の応力緩和率が40%以上100%以下である」の条件を満たすものであるから、本件発明3の「10%まで伸長させ、その状態で伸長を停止してから600秒(10分間)経過後の応力緩和率が40%以上100%以下である」の発明特定事項により曲面追従性が向上するのか否かは不明である。

したがって、明らかに、本件発明3は本件明細書によってサポートされていない。

エ 理由C3(特許法第36条第4項第1号)
本件明細書の記載は実施可能要件を満たしておらず、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていないから、本件特許は特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきである。

(ア)たとえ当業者といえども、本件発明2及び3のエステル系熱可塑性ポリウレタンを入手するには過度の試行錯誤を要するから、明らかに、本件明細書は少なくとも本件発明2及び3について実施可能要件を満たしていない。

すなわち、本件発明は「エステル系熱可塑性ポリウレタン」からなる基材層を必須に含むものであるが、当該「エステル系熱可塑性ポリウレタン」について本件明細書には「本発明に好ましく用いられるエステル系熱可塑性ポリウレタンとしては、例えば、アジペートーエステル系熱可塑性ポリウレタン、ポリカプロラクトンーエステル系熱可塑性ポリウレタン等が挙げられる。」(本件明細書【0028】)としか記載されていない。

そして、本件明細書では、実施例1?7において、本件発明における「エステル系熱可塑性ポリウレタン」として「無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン」(a1、a3及びa4)並びに「無黄変アジペートエステル系熱可塑性ポリウレタン」(a2)、を使用しているが、それらの化学構造、製造例、入手先等は全く不明である。

一方、本件発明2では、基材層と表面保護層を組み合わせた基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上15N/cm以下と規定されており、また、本件発明3では、前記基材を10%まで伸長させ、その状態で伸長を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上100%以下と規定されている。

したがって、本件発明2及び3で使用される「エステル系熱可塑性ポリウレタン」は、エステル系熱可塑性ポリウレタンであれば何でもよい訳ではなく、「エステル系熱可塑性ポリウレタン」を基材層とし、更に、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する表面保護層を設けたとき(実際には更に粘着剤層を設ける)に、それぞれ、少なくとも、(a)5%伸長時の荷重が1N/cm以上15N/cm以下、及び、(b)10%まで伸長させ、その状態で伸長を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上100%以下の条件を満たさなければならない。

そして、エステル系熱可塑性ポリウレタンの原料としては極めて多数の化合物が存在しているところ、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する表面保護層を設けたときに、上記(a)乃至(b)の条件を満たすように、原料を選択して、合成条件を整えた上で、エステル系熱可塑性ポリウレタンを合成することは、技術常識を考慮しても、当業者に過度の試行錯誤を求めるものである。

すなわち、当業者は、エステル系熱可塑性ポリウレタンの原料として既知の極めて多数の化合物の中から試行錯誤により原料を選択し、試行錯誤により合成条件を決定して、エステル系熱可塑性ポリウレタンを合成し、得られたエステル系熱可塑性ポリウレタンを用いて基材層を製造して、更に、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する表面保護層を基材層上に設けた上で、このようにして得られた基材が上記(a)乃至(b)の条件を満たすか否かを逐一試験しなければならない。そのような試験が膨大となることは明らかであり、これを全て行うことは非現実的である。

したがって、たとえ当業者といえども、本件発明2及び3を実施するには過度の試行錯誤を要するから、明らかに、本件明細書は少なくとも本件発明2及び3について実施可能要件を満たしていない。

2 甲各号証の記載と甲A1発明、甲B1発明、甲B2発明、甲C1発明
(1)甲各号証の記載
ア 甲A1(甲B2)について
甲A1には、「粘着シート」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
基材と前記基材の少なくとも片方の面に形成された粘着剤層とを含む粘着シートであって、
(a)前記基材のヤング率が20?110MPaであり、
(b)前記粘着シート全体を或る一方向に200mm/minの速度で徐々に伸張させた場合に、10%伸び状態での応力と40%伸び状態での応力との伸長応力の変化率が-50%?+60%であり、かつ、
(c)前記粘着シート全体を或る一方向に40%伸び状態まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから3分間経過後の応力緩和率が30%以上である
ことを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記粘着シート全体を或る一方向に200mm/minの速度で徐々に伸張させた場合に、応力ヒズミ曲線の変曲点が、1%伸張点と15%伸張点との間に存在する、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記基材が、
(1)ヤング率が500MPa以上の樹脂からなる硬質層少なくとも1層と
(2)ヤング率が50MPa以下のポリウレタン樹脂からなる軟質層少なくとも1層と
を含む、請求項1又は2に記載の粘着シート。」
「【請求項7】
前記硬質層に属する層として、表面に設けた汚染防止コート層を含む、請求項3?6のいずれか一項に記載の粘着シート。」
「【請求項11】
自動車の塗装鋼板表面への貼着用である、請求項1?10のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項12】
耐チッピングシート、マーキングシート、又は表面保護シートである、請求項1?11のいずれか一項に記載の粘着シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関し、特には、自動車の塗装鋼板表面上に貼着するための粘着シートに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、粘着テープとして求められる物性を維持したまま、特には、自動車塗装鋼板用の粘着テープ(例えば、耐チッピングシート、マーキングシート、又は表面保護シート)としての物性を維持したまま、三次凹曲面に貼着した場合でも、浮きやトンネリングが発生しにくい粘着シートを提供することにある。」
「【0006】
前記の課題は、本発明により、基材と前記基材の少なくとも片方の面に形成された粘着剤層とを含む粘着シートであって、
(a)前記基材のヤング率が20?110MPaであり、
(b)前記粘着シート全体を或る一方向に200mm/minの速度で徐々に伸張させた場合に、10%伸び状態での応力と40%伸び状態での応力との伸長応力の変化率が-50%?+60%であり、かつ、
(c)前記粘着シート全体を或る一方向に40%伸び状態まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから3分間経過後の応力緩和率が30%以上である
ことを特徴とする粘着シートによって解決することができる。」
「【0020】
本発明による粘着シートの基材は、単独の層から構成することもできるが、前記条件(a)を満足する基材を有し、前記条件(b)及び(c)を満足する粘着シートの調製を容易にするために、特には、
(1)ヤング率が500MPa以上の樹脂からなる硬質層少なくとも1層と
(2)ヤング率が50MPa以下のポリウレタンからなる軟質層少なくとも1層と
を含むことが好ましい。」
「【0022】
前記硬質層を構成する樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、あるいはそれら樹脂のブレンドを挙げることができ、これらの樹脂から、ヤング率が500MPa以上(好ましくは700MPa以上、より好ましくは850?2000MPa)の樹脂を選択して前記硬質層を形成することができる。ヤング率が500MPa以上の硬質層を含有しない粘着シートは、充分な粘着力を示すことができない。なお、前記硬質層のヤング率の上限は、特に限定されないが、2000MPaを超えると柔軟性に劣る。」
「【0023】
本発明の粘着シートにおける基材は、前記硬質層を1層単独で含むか、又は硬質層に属する層を複数層含むことができる。前記硬質層の厚さは、特に限定されないが、1層単独の場合はその厚さ(Th)が、あるいは複数層からなる場合はそれらの合計の厚さ(Th)が、基材全体の厚さ(Tw)に対する比(Th/Tw)として、好ましくは1/5以下、より好ましくは1/8以下、最も好ましくは1/10?1/150である。また、前記硬質層の厚さは、1層単独の場合は、その厚さが、あるいは複数層からなる場合は、それらの合計の厚さが、好ましくは60μm以下、より好ましくは、40μm以下、最も好ましくは1?30μmである。前記の厚さ比(Th/Tw)が1/5を超えるか、あるいは、前記硬質層の厚さが60μmを超えると、柔軟性に劣ることがある。なお、前記硬質層に属する層が複数層存在する場合は、それらが隣接していてもよく、あるいは硬質層間に別の層(すなわち、前記軟質層及び/又は中間硬度層)1又はそれ以上が介在していてもよい。」
「【0024】
本発明の粘着シートにおける基材は、前記硬質層に属する層として、表面に設けた汚染防止コート層を含むことが好ましい。汚染防止コート層としては、ポリウレタン、ポリアクリル樹脂、シリコーン樹脂、若しくはフッ素系樹脂、又はそれらを混合したブレンドを使用することができ、耐薬品性、耐磨耗性、及び/又は耐汚染性等の特性を付与することができる。」
「【0026】
前記軟質層は、ポリウレタン樹脂からなり、公知のポリウレタン樹脂の中から、ヤング率が50MPa以下(好ましくは30MPa以下、より好ましくは5?20MPa)の樹脂を選択して前記軟質層を形成することができる。ヤング率が50MPa以下の軟質層を含有する粘着シートを耐チッピング粘着シートとして使用すると、良好な耐チッピング性を示すことができる。」
「【0030】
本発明の粘着シートにおける基材は、基材を構成する各樹脂が無黄変性樹脂からなり、基材全体が無黄変性基材であることが好ましい。すなわち、硬質層、軟質層、及び中間硬度層(存在する場合)を構成する各樹脂の全てが無黄変性樹脂からなり、基材全体が無黄変性基材であることが好ましい。」
「【0049】
《実施例1》
厚さ7μmのポリカーボネート系ポリウレタン(ヤング率=1250MPa)と厚さ293μmのポリエステル系ポリウレタン(ヤング率=15MPa)とからなる基材のポリエステル系ポリウレタン表面に、プライマーとしてポリカーボネート系ポリウレタン(ヤング率=55MPa)をマイクログラビア方式で塗布厚が1μmとなるよう塗布した。プライマー塗布後の前記基材全体のヤング率は、50MPaであった。
続いて、モノマー成分として、2-エチルヘキシルアクリレート/メチルアクリレート/酢酸ビニル/アクリル酸(重量成分比=49.4/24.7/24.7/1.2)から形成された共重合体(重量平均分子量=約65万)100重量部に、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)0.2重量部(乾燥後の重量比)を添加することにより得られた粘着剤を、乾燥後の厚さが60μmとなるように、剥離紙上に塗工し、転写塗工によって前記プライマー層の上に転写することによって粘着シートとした。」
【0050】
《実施例2》
基材を、厚さ15μmのポリカーボネート系ポリウレタン(ヤング率=1250MPa)と厚さ285μmのポリエステル系ポリウレタン(ヤング率=15MPa)とからなる基材としたこと以外は、前記実施例1に記載の操作を繰り返すことにより、粘着シートを作成した。プライマー塗布後の前記基材全体のヤング率は、80MPaであった。
【0051】
《実施例3》
基材を、厚さ20μmのポリカーボネート系ポリウレタン(ヤング率=1250MPa)と厚さ280μmのポリエステル系ポリウレタン(ヤング率=15MPa)とからなる基材としたこと以外は、前記実施例1に記載の操作を繰り返すことにより、粘着シートを作成した。プライマー塗布後の前記基材全体のヤング率は、100MPaであった。
【0052】
《実施例4》
粘着剤を、モノマー成分として、2-エチルヘキシルアクリレート/メチルアクリレート/アクリル酸/無水マレイン酸(重量成分比=75/25/5/5)から形成された共重合体(重量平均分子量=約65万)100重量部に、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)0.2重量部(乾燥後の重量比)を添加することにより得られた粘着剤としたこと以外は実施例1と同様にして粘着シートを作成した。」
「【0059】
(4)応力緩和
測定対象となる粘着シートから測定用サンプル(幅=10mm;長さ=150mm)を切り出し、チャック間の距離が100mmになるように、前記測定用サンプルを引張り試験機(TENSILON RTA-100:オリエンテック社製)に固定した(固定用部分の長さ合計=45mm)。続いて、速度200mm/分で引っ張りながら、応力変化を記録し続け、チャック間距離が140mmとなって40%伸ばした状態(最初の長さの1.4倍の伸張状態)としてから停止し、その停止から3分経過後の負荷(残留応力)をN単位で測定した。
なお、耐チッピング粘着シートは、自動車のリアフェンダーに多用されている。リアフェンダーには、図4に示すように、車体1に溝状の凹部2が設けられており、リアフェンダーの三次凹面のR部の角度(θ)は、一般に90°?120°の範囲内である。R部の角度(θ)が120°の場合の伸張率は、およそ15%(2/√3)であり、R部の角度(θ)が90°の場合の伸張率は、およそ40%(2/√2)であるので、最大伸張率と考えられる90°の場合を想定し、40%伸張後の応力緩和を測定した。」
「【0062】
以下の表1及び2に前記の方法で測定した各物性を示す。
【表1】

【0063】
【表2】



イ 甲B1(甲C1)について
甲B1(甲C1)には、「粘着シート」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
少なくともウレタンポリマーを含有するフィルムを備えた基材層と、粘着剤層とを有する粘着シートであって、当該基材層は、(a)200mm/minの引張速度で伸長させた場合に、10%伸張までの移動量と応力の積から求められる仕事量が35?160N・mmであり、かつ(b)200mm/minの引張速度で10%まで伸張させ、その状態で伸長を停止した時の応力が、最大応力の36.8%まで減衰する緩和時間が30秒以下である基材層であることを特徴とする粘着シート。」
「【請求項7】
前記基材層が、フッ素、ウレタン、または(メタ)アクリルのいずれかを含有する表面コート層を、少なくとも一方の面に有することを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の粘着シート。」
「【請求項9】
前記粘着シートが、被着体の表面を保護するための保護シートとして使用されることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の粘着シート。」
「【0028】
ウレタンポリマーは、ジオールとジイソシアネートとを反応させて得られる。ジオールの水酸基とイソシアネートとの反応には、一般的には触媒が用いられるが、本発明によれば、ジブチルチンジラウレート、オクトエ酸錫のような環境負荷が生じる触媒を用いなくても反応を促進させることができる。
【0029】
低分子量のジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の2価のアルコールが挙げられる。
【0030】
また、高分子量のジオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等を付加重合して得られるポリエーテルポリオール、あるいは上述の2価のアルコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のアルコールとアジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の2価の塩基酸との重縮合物からなるポリエステルポリオールや、アクリルポリオール、カーボネートポリオール、エポキシポリオール、カプロラクトンポリオール等が挙げられる。これらの中では、例えば、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリアルキレンカーボネートジオール(PCD)等が好ましく使用される。
【0031】
アクリルポリオールとしては水酸基を有するモノマーの共重合体の他、水酸基含有物とアクリル系モノマーとの共重合体等が挙げられる。エポキシポリオールとしてはアミン変性エポキシ樹脂等がある。
【0032】
本発明においては、上記ジオールを、アクリル系モノマーへの溶解性、イソシアネートとの反応性等を考慮して、単独あるいは併用して使用することができる。強度を必要とする場合には、低分子量ジオールによるウレタンハードセグメント量を増加させると効果的である。伸びを重視する場合には、分子量の大きなジオールを単独で使用することが好ましい。また、ポリエーテルポリオールは、一般的に、安価で耐水性が良好であり、ポリエステルポリオールは、強度が高い。本発明においては、用途や目的に応じて、ポリオールの種類や量を自由に選択することができ、また、塗布する基材等の特性、イソシアネートとの反応性、アクリルとの相溶性などの観点からもポリオールの種類、分子量や使用量を適宜選択することができる。」
「【0051】
本発明の粘着シートを構成する基材層は、ウレタンポリマーを含有するフィルム(特に複合フィルム)の一方の面に表面コート層を設けることができる。但し、表面コート層を設けた基材層は、(a)200mm/minの引張速度で伸長させた場合に、10%伸張までの移動量と応力の積から求められる仕事量が35?160N・mmであり、(b)200mm/minの引張速度で10%まで伸張させ、その状態で伸長を停止した時の応力が、最大応力の36.8%まで減衰する緩和時間が30秒以下であることを満たすことが必要である。表面コート層は、耐候性、柔軟性等の観点から、フッ素、ウレタン、(メタ)アクリルを含有するものであることが好ましい。例えば、表面コート層として、フルオロエチレンビニルエーテル層を設けることが好ましい。表面コート層を設けることにより、光沢性、耐摩耗性、防汚性、撥水性、耐薬品性等の特性を付与することが可能となり、また、複合フィルム等自体の劣化を抑制する効果もある。なお、基材層が表面コート層を有する場合には、複合フィルム等の一方の面に表面コート層を有し、他方の面に粘着剤層を有する構成とすることが好ましい。」
「【実施例】
【0070】
以下に実施例を用いて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりがない限り、部は重量部を意味し、%は重量%を意味する。また、以下の実施例において使用された測定方法および評価方法を下記に示す。
【0071】
(測定方法および評価方法)
(1)仕事量
仮支持体付きのままの状態で、基材層を、幅1cm×長さ13cmに切断した後、仮支持体1と剥離処理したPETフィルムとを除去し、引張試験機として「オートグラフASG-50D型」(島津製作所製)を用い、引張速度200mm/min、チャック間距離100mm、23℃で引張試験を行い、応力-歪み曲線(図1参照)を求めた。この図より、10%伸長までの曲線の積分値を、株式会社ヒューリンクス社製「Kaleida Graph Ver.4インテグレードエリア」により解析することで仕事量を算出した。
【0072】
(2)緩和時間
仮支持体付きのままの状態で、基材層を、幅1cm×長さ13cmに切断した後、仮支持体1(またはアプリケーションシート)と剥離処理したPETフィルムとを除去し、引張試験機として「オートグラフASG-50D型」(島津製作所製)を用い、引張速度200mm/min、チャック間距離100mm、23℃で引張試験を行い、基材層が10%伸張(10mm伸張)した状態で保持し、その時の応力の推移を測定した。伸長時の最大応力の36.8%に相当する応力まで減衰する時間を緩和時間とした。」
「【0076】
(実施例1)
《複合フィルム用塗布液の作製》
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、(メタ)アクリル成分として、アクリル酸(AA)を5部、イソボルニルアクリレート(IBXA)を35.5部、n-ブチルアクリレート(BA)を9.5部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(数平均分子量650、三菱化学(株)製)を35.05部とを投入し、攪拌しながら、イソホロンジイソシアネート(IPDI)の14.95部を滴下し、65℃で10時間反応させた。その後、4-ヒドロキシブチルアクリレートを1.95部滴下した後、65℃で1時間反応させた。なお、ポリイソシアネート成分とポリオール成分の使用量は、NCO/OH(当量比)=1.25であった。
【0077】
その後、多官能(メタ)アクリル系モノマーとして、トリメチロールプロパントリアクリレートを6部添加し、光重合開始剤として、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・ジャパン社製の「IRGACURE819」)を0.15部添加して、ウレタンポリマーと(メタ)アクリル系モノマーの混合物(複合フィルム用塗布液)を得た。ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、46/54であった。
【0078】
《表面コート層用塗布液の作製》
フルオロエチレンビニルエーテルのキシレンおよびトルエンによる溶解液(旭硝子(株)製の「LF600」、固形分50重量%含有)の100部に、硬化剤として、10.15部のイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン(株)製の「コロネートHX」)と、触媒として、3.5部のジブチル錫ラウリン酸のキシレン希釈液(固形分濃度が0.01%)と、希釈溶媒として、101部のトルエンとを添加して、表面コート層用塗布液(固形分率28%)を作製した。
【0079】
《基材層の作製》
得られた表面コート層用塗布液を、仮支持体1として剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ75μm)の上に塗布し、温度140℃で3分間乾燥および硬化させてフルオロエチレンビニルエーテル層を形成した。なお、乾燥後の表面コート層の厚みは10μmであった。
【0080】
得られた表面コート層の上に、作製した複合フィルム用塗布液を、硬化後の厚みが192μmと成るように塗布し、この上にセパレータとして剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを重ねた。このPETフィルム面に、メタルハライドランプを用いて紫外線(照度290mW/cm^(2)、光量4,600mJ/cm^(2))を照射して硬化させて、仮支持体1の上に複合フィルム(表面コート層を備えている)を形成した。その後、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータ)を剥がした後、120℃で3分間乾燥させて、未反応の残存アクリル系モノマーを乾燥させ、基材層を得た。
【0081】
《粘着剤層の作製》
モノマー成分として、2-エチルへキシルアクリレート91部、アクリル酸4部およびイソボルニルアクリレート5部を混合した混合物に、光重合開始剤として、商品名「イルガキュア 651」(チバ・ジャパン社製)を0.05部と、商品名「イルガキュア 184」(チバ・ジャパン社製)を0.05部とを配合した後、粘度が約20Pa・s(B型粘度計No.6ローター、60rpm、測定温度23℃)になるまで紫外線を照射して、一部が重合したアクリル組成物(UVシロップ)を作製した。
【0082】
得られたUVシロップの100部に対して、ヘキサンジオールジアクリレートを0.5部、ヒンダードフェノール型酸化防止剤(チバ・ジャパン社製の商品名「イルガノックス1010」)を1部添加して粘着剤組成物を作製した。
【0083】
この粘着剤組成物を、仮支持体2として厚み75μmのポリエステルフィルムの剥離処理面に、最終製品としての厚みが50μmになるように塗布した。
この上に、剥離処理したPETフィルムを重ねて被覆し、次いで、PETフィルム面にメタルハライドランプを用いて紫外線(照度290mW/cm^(2)、光量4,600mJ/cm^(2))を照射して硬化させて、仮支持体2の上に粘着剤層を形成した。その後、剥離処理したPETフィルムを剥がした後、120℃で3分間乾燥させて、未反応の残存アクリル系モノマーを乾燥させ、粘着剤層を作製した。
【0084】
《粘着シートの作製》
得られた基材層の表面コート層と反対の面に、粘着剤層が重なるように貼り合わせて粘着シート(仮支持体1/表面コート層/複合フィルム/粘着剤層/仮支持体2の層構成)を作製した。
【0085】
《測定および評価》
得られた基材層および粘着シートについて、上記に示す測定方法および評価方法に従い、仕事量、緩和時間、貼付性、屈曲部追従性の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。」
「【0098】
(実施例5)
複合フィルム用塗布液を下記に示すものに変更し、かつ、複合フィルムの厚みを164μmとなるように変更した以外は実施例1と同様にして粘着シートを作製した。」
「【図1】



(2)甲A1発明、甲B1発明、甲B2発明及び甲C1発明の認定(各発明を申立人A?Cの主張に沿って認定したので、同一の文献であっても認定した発明は異なる場合がある。)
ア 甲A1に記載された発明(甲A1発明)について
甲A1には、自動車塗装鋼板用の粘着テープ(表面保護シート)(【0005】)について、基材と前記基材の少なくとも片方の面に形成された粘着剤層とを含む粘着シートであって、粘着シート全体をある一方向に40%伸び状態まで伸長させ、その状態で伸長を停止してから3分間経過後の応力緩和率が30%以上であり(【0006】)、基材として硬質層とポリウレタンからなる軟質層とを有する(【0020】)、ことが記載されている。また、【0062】【表1】には、実施例1?4の粘着テープについて、その10%伸長応力(N/10mm)が、それぞれ、7.2、9.5、10.8、7.2であることが記載されている。

そうすると、甲A1には、
「基材と、基材の片方の面に形成された粘着剤層とを含む粘着シートであって、前記基材が、硬質層とポリウレタン樹脂からなる軟質層とを含み、粘着シートの10%伸長応力が、7.2?10.8N/cm、粘着シート全体を或る一方向に40%伸び状態まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから3分間経過後の応力緩和率が30%以上の、自動車の保護用粘着シート。」(以下、「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 甲B1に記載された発明(甲B1発明)について
甲B1には、「ウレタンポリマーを含有するフィルムを備えた基材層と、粘着剤層とを有する粘着シートであって、当該基材層は、」「200mm/minの引張速度で10%まで伸張させ、その状態で伸長を停止した時の応力が、最大応力の36.8%まで減衰する緩和時間が30秒以下である基材層である」「粘着シート」(【請求項1】)について記載されている。
そして、甲B1には、「基材層が、フッ素、ウレタン、または(メタ)アクリルのいずれかを含有する表面コート層を、少なくとも一方の面に有」(【請求項7】)し、「基材層が表面コート層を有する場合には、複合フィルム等の一方の面に表面コート層を有し、他方の面に粘着剤層を有」(【0051】)し、「被着体の表面を保護するための保護シートとして使用される」(【請求項9】)ことが記載されている。
また、甲B1には、「ウレタンポリマーは、ジオールとジイソシアネートとを反応させて得られる」(【0028】)ことが記載され、「ジオール」としては、「ポリエーテルポリオール」、「ポリエステルポリオール」(【0030】)が例示されている。
そして、【図1】から、基材層の5%伸長時の荷重は約5N/cmであることが看取される。

そうすると、甲B1には、
「表面コート層が一方の面に設けられた基材層と、前記基材層における前記一方の面とは反対側の面に設けられた粘着剤層とを有する粘着シートであって、
前記表面コート層は、フッ素、ウレタン、または(メタ)アクリルのいずれかを含有し、
前記基材層は、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるウレタンポリマーを含有し、
前記基材層の5%伸長時の荷重は約5N/cmであり、
前記基材層を、200mm/minの引張速度で10%まで伸張させ、その状態で伸長を停止した時の応力が、最大応力の36.8%まで減衰する緩和時間が30秒以下であり、
被着体の表面を保護するための保護シートとして使用される、粘着シート。」(以下、「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。

ウ 甲B2に記載された発明(甲B2発明)について
甲B2は、甲A1であるところ、甲B2(甲A1)には、さらに、「硬質層に属する層として、表面に設けられた汚染防止コート層を含む」(【請求項7】、【0024】)こと、「粘着シート」が「自動車の塗装鋼板表面への貼着用」(【請求項11】)であること、及び、「汚染防止コート層としては、ポリウレタン、ポリアクリル樹脂、シリコーン樹脂、若しくはフッ素系樹脂、又はこれらを混合したブレンドを使用すること」(【0024】)が記載されている。
また、甲B2(甲A1)には、「軟質層は、ポリウレタン樹脂からなり」(【0026】)、該ポリエステル樹脂として、「ポリエステル系ポリウレタン」(【0049】?【0052】)が実施例に用いられている。
そして、【表1】において、実施例1?4の「40%伸長3分後応力緩和率(%)」は、それぞれ、45.2、52.0、51.7、45.2である。

そうすると、甲B2(甲A1)には、「表面に設けられた汚染防止コート層を含む硬質層およびポリウレタン樹脂からなる軟質層を含む基材と、前記基材の汚染防止コート層とは反対側の表面に設けられた粘着剤層とを備える粘着シートであって、
前記汚染防止コート層を構成する樹脂は、ポリウレタン、ポリアクリル樹脂、シリコーン樹脂、若しくはフッ素系樹脂、またはこれらを混合したブレンドであり、
前記軟質層を構成する樹脂は、ポリエステル系ポリウレタンであり、
10%伸長応力は7.2?10.8N/cmであり、
40%伸長3分後応力緩和率は45.2?52.0%であり、
自動車の塗装鋼板表面に貼着してその表面を保護するために用いられる粘着シート。」(以下、「甲B2発明」という。)が記載されていると認められる。

エ 甲C1に記載された発明(甲C1発明)について
甲C1は、甲B1であるところ、甲C1(甲B1)の実施例5の「表面コート層」は、実施例1で用いられた「表面コート層用塗布液」を用いたものであり(【0098】)、実施例5の「表面コート層」について、【0078】?【0079】には、100部のLF600(旭硝子(株)製)と10.15部のコロネートHX(日本ポリウレタン(株)製)とを140℃で3分間加熱・硬化・乾燥させて得られたフルオロエチレンビニルエーテル層(フッ素系樹脂層)であることが記載されている。
また、実施例5においては、ポリオールとして「ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール」及び「ポリカーボネートジオール」を用いたことが記載され、「ポリオキシテトラメチレングリコール」は、「ポリテトラメチレンエーテルグリコール」とも呼ばれるように、エーテル系の化合物であることは明らかである。

そうすると、甲C1には、
「エーテル系/ポリカーボネート系ポリウレタンを含有する基材層、及び、表面コート層を備える粘着シートであって、
前記表面コート層が100部のLF600(旭硝子(株)製)と10.15部のコロネートHX(日本ポリウレタン(株)製)とを140℃で3分間加熱・硬化・乾燥させて得られたフルオロエチレンビニルエーテル層(フッ素系樹脂層)である
粘着シート。」(以下、「甲C1発明」という)が記載されていると認められる。

3 当審の判断
(1)理由A1について
まず、本件発明1と甲A1発明とを対比する。
甲A1発明の「基材」、「粘着剤層」、「軟質層」、「硬質層」及び「保護用粘着シート」は、本件発明1の「基材」、「粘着剤層」、「基材層」、「表面保護層」及び「粘着シート」にそれぞれ相当する。
本件発明1の「基材層がエステル系熱可塑性ポリウレタンを含有」する構成と、甲A1発明の「軟質層」が「ポリウレタン樹脂からなる」構成とは、「基材層がポリウレタンを含有」する点で共通する。
また、本件発明1の「表面保護層」と甲A1発明の「硬質層」は、「表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されている」点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲A1発明とは、
「少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シートであって、前記基材が表面保護層および基材層を有し、基材層がポリウレタンを含有し、表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されている粘着シート。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点a1)
基材の特性について、本件発明1では、「静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり」、「ΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であ」るのに対し、甲A1発明の基材の静摩擦係数及びΔL*値は不明な点。
(相違点a2)
表面保護層の材質について、本件発明1は、「アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有」するのに対し、甲A1発明の硬質層(本件発明1の表面保護層に相当)の材質がそのようなものかどうかは不明な点。
(相違点a3)
基材層の材質について、本件発明1は、「エステル系熱可塑性ポリウレタン」であるのに対し、甲A1発明の軟質層(本件発明1の基材層に相当)は、ポリウレタン樹脂である点。

ここで、相違点について検討する。
まず、相違点a1について検討する。
本件発明1の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」の値の測定は、「表面保護層」についてなされたものであることは明らかなところ(本件明細書【0123】?【0126】)、上記相違点a2で述べたように、甲A1発明の硬質層(本件発明1の表面保護層に相当)の材質は不明である。
そして、甲A1発明の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」は当該硬質層の材質や表面状態によって変化することは技術常識であるから、甲A1発明の基材が、本件発明1の表面保護層と同程度の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」(静摩擦係数が0.05以上、1.50以下、ΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下)であるかどうかは、不明というほかない。
したがって、上記相違点a1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、甲A1発明と同一であるということはできない。

そして、甲A1には、甲A1発明の基材について、「静摩擦係数」及び「ΔL*値」をどのような値とするかについての記載は見当たらず、甲A1発明において、上記相違点a1に係る本件発明1の発明特定事項を備えるようにする動機付けを見出すことはできない。

また、申立人Aが示したその他の文献には、上記動機付けを見出すことができるような文献は示されていない。
そして、本件発明1は、当該相違点a1に係る発明特定事項を備えることにより、「良好な表面滑り性を有しており、かつ、優れた耐汚染性を有する粘着シートを実現することができた。」(【0017】)という本件明細書記載の格別顕著な作用効果を奏するものである。

そうすると、相違点a2、a3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1発明に基いて、当業者が容易に発明し得るものである、とすることもできない。

また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲A1発明と同一であるということはできないし、甲A1発明に基いて、当業者が容易に発明し得るものである、とすることもできない。

よって、申立人Aの理由A1には、理由がない。

(申立人Aの主張について)
申立人Aは、上記相違点a1の「ΔL*値」に関して、次のように主張している。
「甲1発明の硬質層は、本件特許の表面保護層と材質が同等であり、表面の物理的性状も同等であって、軟質層の83倍のヤング率をとる硬質のものであり、『基材の△L*値の絶対値が、0.01以上、45.00以下』と広く規定された範囲内となる蓋然性が高い。」(特許異議申立書18頁21?24行)

しかしながら、甲A1発明の基材の「ΔL*値」は、甲A1発明の硬質層の材質や表面の物理的性状によって変化するものといえることは明らかであり、また、甲A1発明の硬質層と軟質層のヤング率の比を根拠に、硬質層の材質や表面の物理的性状までが同等といえる技術常識は見当たらないことから、申立人Aの上記主張は採用できない。

(2)理由A2について
ア 本件発明1の「表面保護層の静摩擦係数」の「0.05以上、1.50以下」という範囲について
表面保護層の静摩擦係数は、表面保護層の材質、表面性状等によって影響されることは技術常識であるところ、請求項1には、表面保護層の材質として、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有することが記載され、本件明細書の【0097】には、「本発明の粘着シートの各層には、すなわち、例えば基材層、表面保護層、粘着剤層等には、必要に応じて、通常使用される添加剤、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、顔料、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、光安定剤、レベリング剤、増粘剤などを本発明の効果を阻害しない範囲内で添加することができる。これらの添加剤は、その種類に応じて通常の量で用いられる。」と記載されている。

ここで、フッ素系樹脂には、静止摩擦係数が0.05程度のものが存在することは技術常識であり、レベリング剤等の添加剤の配合によって、表面保護層の表面性状を制御することによって、静摩擦係数を小さくできることも技術常識である。

そうすると、本件の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する表面保護層について、その静摩擦係数が0.05のものを製作することが不可能であるとはいえない。

したがって、表面保護層について、「0.05」という桁外れに小さい摩擦係数のフィルムをどのようにして製作するのかについて、本件明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されていないとはいえず、申立人Aの上記理由A2(ア)には理由がない。

イ 本件発明1の「表面保護層の静摩擦係数」の測定方法について
表面保護層の静摩擦係数の測定方法について、【0123】?【0125】には、次のように記載されている。
「【0123】
(3)静摩擦係数の測定
基材を、幅80mm×長さ100mmのサイズに切断し、この基材を支持体に貼り付け、この支持体を両面粘着テープ等で標準試験板(JISG3141:日本テストパネル株式会社製)の上に貼着し、基材の上に滑り片を載せ、JISK7125に準じて最表面層(ex. 表面保護層)の静摩擦係数を測定した。なお、滑り片の接触面積は63mm×63mm、滑り片の全質量を200g(1.96N)とし、滑り片の基材表面との接触面にはスキージークロスを貼り付け、滑り速度100mm/minの条件で滑り片を引っ張って測定を行った。静摩擦係数は、JISK7125に準ずる下記算出式を用いて求めた。なお、基材の基材層面に厚さ50μmのアクリル系粘着剤層を形成し、粘着シートとして支持体に貼り付けてもよい。
【0124】
μ=Fs/Fp
(μ:静摩擦係数、Fs:静摩擦力(N)、Fp:滑り片の質量によって生じる法線力(=9.8N/kg×0.2kg))
【0125】
図1の(a)および(b)は、静摩擦係数の測定方法を説明するための概略図である。図1の(a)に示すように、試料1(ex. 基材、粘着シート)の測定面が上を向くように、試料1を相手材2(ex.標準試験板)の上に両面粘着テープ等を介して貼着して固定し、試料1の測定面の上に滑り片(接触面積63mm×63mm)を配置し、滑り片を試験速度100mm/minで引っ張る。法線力は滑り片によって生じさせるので、均一な圧力分布をかけるために、滑り片の底面を弾力性のある材料(フェルト等)で覆う。なお、試料1は直接相手材1に固定してもよいが、上記したように、支持体等の補助板に取り付けて固定してもよい。図1の(b)に示すように、また、滑り片はスプリングを介してロードセルに接続しても良い。図1の(b)に示すように、力は直線的に増加して摩擦を与え、最大荷重に達する。このピークが静摩擦力(Fs)を表す。静摩擦係数は、上記算出式(μ=Fs/Fp)から求められる。」

ここで、一般に、静摩擦係数は、静摩擦力と、滑り片の質量によって生じる法線力との比によって定義されることは技術常識であり、本件明細書の【0124】における静摩擦係数の定義も、そのような一般的な定義と異なるものではない。

また、一般に、フェルトとは、動物の毛や合成繊維を、薄く板状に圧縮して作るシート状製品であるところ、本件明細書においては、【0125】に、「法線力は滑り片によって生じさせるので、均一な圧力分布をかけるために、滑り片の底面を弾力性のある材料(フェルト等)で覆う。」と記載されるように、上記「フェルト等の弾力性のある材料」は、滑り片の質量による圧力を均一なものとするために用いられているものであって、「フェルト」と呼ばれるものであれば、滑り片の質量による圧力を均一なものとすることができるといえ、その材質や表面の荒さが異なることで、均一な圧力分布がかけられなくなるわけではない。

そうすると、本件明細書において、「フェルト」の材質、粗さ、硬さに種々のものがあるとしても、静摩擦係数の測定結果が大きく異なるものとはいえない。

そして、申立人Aは、材料の粗さ、硬さが変われば、滑り性が当然変わり、測定値も変わる旨主張しているが、材料の粗さ、硬さが変われば、基材表面と実質的に接触している部分の接触面積が変わるとしても、滑り片の質量が変わるものではなく、静摩擦係数の値が変化するとはいえない。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された表面保護層の静摩擦係数の測定方法は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものということができ、申立人Aの上記理由A2(イ)には理由がない。

(3)理由A3について
ア 本件発明について
本件発明1は、「基材の静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であ」りという発明特定事項と、「ΔL*値の絶対値が、0.001以上、30.00以下であ」りという発明特定事項を有している。

イ 本件発明の課題について
【0005】には、「本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明は表面滑り性を有しており、かつ、耐汚染性にも優れた粘着シートを提供することを目的とする。」と記載され、この記載によれば、本件発明の課題は、表面滑り性を有しており、かつ、耐汚染性にも優れた粘着シートを提供することと解される。

ウ 理由A3(ア)について
(ア)「基材の静摩擦係数が0.05以上、1.50以下」の点について
「表面滑り性」について、【0019】には、次の記載がある。
「【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の粘着シートは、基材と粘着剤層とを有する粘着シートであり、基材の静摩擦係数は、0.05以上、1.50以下であることが必要であり、好ましくは0.05以上、1.00以下であり、特に好ましくは0.05以上、0.5以下である。静摩擦係数が0.05未満または1.50より大きいと、良好な表面滑り性を実現することができない。なお、静摩擦係数の測定方法は実施例で具体的に説明する。」

この記載によれば、「静摩擦係数」は「表面滑り性」を数値化したものといえ、その値が「0.05以上、1.50以下」であることは、粘着シートが良好な表面滑り性を有していることが理解できることから、「静摩擦係数」の範囲をそのように定めた本件発明1は、表面滑り性を有した粘着シートであるということができる。

また、上記(2)アで述べたように、基材の「静摩擦係数」が「0.05」といった小さい値のものも実現可能であり、実質的に発明の詳細な説明に記載されたものとして認識できることから、発明の詳細な説明に、当該「静摩擦係数」が「0.05」付近の実施例がないことのみを理由に、本件発明1が規定する「静摩擦係数」の数値範囲の全域にわたる裏付けがないということはできない。

(イ)「基材のΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下」の点について
「耐汚染性」について、【0021】【0022】には、次の記載がある。
「【0021】
本発明においては、耐汚染性の指標としてΔL*値を採用する。ただし、ΔL*値の測定は、以下のようにして行う。すなわち、基材をアクリル焼付白色塗板に貼り付けた後、多角度分光測色計を用いて、初期のL*値(受光角度15度、25度、45度、75度、110度の平均値)を測定する。なお、基材の一方の面に厚さ50μmのアクリル系粘着剤層を形成して粘着シートを作製し、この粘着シートをアクリル焼付白色塗板にローラーを用いて貼り付けてもよい。
【0022】
その後、基材(ex.粘着シート)上に汚染水(JIS Z-8901-84)を塗布した後乾燥させる工程を8サイクル実施した後、水洗しながら汚染水塗布膜を洗浄した基材(ex.粘着シート)について、多角度分光測色計を用いて、試験後のL*値(受光角度15度、25度、45度、75度、110度の平均値)を測定する。これらの数値を次式に代入して、ΔL*値を算出する。

ΔL*値=試験後のL*値 - 初期のL*値」

この記載によれば、「ΔL*値の絶対値」は汚染水に対する「耐汚染性」を数値化したものといえ、その値が、0.01以上、30.00以下であることは、粘着シートが耐汚染性に優れたものであることが理解できることから、「静摩擦係数」の範囲をそのように定めた本件発明1は、耐汚染性に優れたものであるということができる。

また、汚染水に対する耐汚染性を優れたものとするには、基材の疎水性を高めたり、レベリング剤や帯電防止剤によって、基材表面に汚染水の付着を防いだり、汚染水に含まれるダストといった物質の付着を低下させたりして、基材の耐汚染性を高めることができることは技術常識であって、その結果、「ΔL*値の絶対値」を0.01といった小さい値のものも実現可能であり、実質的に発明の詳細な説明に記載されたものとして認識できることから、発明の詳細な説明の実施例に、本件発明1が規定する「ΔL*値の絶対値」の範囲を網羅するデータがないとしても、このことをもって裏付けがないとすることはできない。

(ウ)「表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つ」における「エーテル系ウレタンポリマー」について

エーテル系ウレタンポリマーと、カーボネート系ウレタンポリマー(実施例4)とは、結合分子の違いがあるものの、ウレタン結合を有するポリマーとして、類似の特性を有するポリマーであるということができる。
そして、第4 2(4)で述べたように、表面保護層の材質が、カーボネート系ウレタンポリマーの場合のみ、請求項1に規定する静摩擦係数及びΔL*の範囲内のものとなり、エーテル系ウレタンポリマーの場合は、当該範囲外となるという技術常識は見当たらない。

(エ)そうすると、本件発明1は、本件発明の課題を解決できる範囲のものであることが、発明の詳細な説明から理解でき、申立人Aの上記理由A3(ア)の主張には理由がない。

(申立人Aの主張について)
申立人Aは、本件発明の「基材の静摩擦係数」及び「基材のΔL*値の絶対値」の範囲をサポートする記載が発明の詳細な説明に記載されてない、と主張しているが、本件発明の「基材の静摩擦係数」及び「基材のΔL*値の絶対値」の全ての範囲を網羅する実施例が記載されていないとしても、上述したように、技術常識によれば、当該範囲のものは、実質的に発明の詳細な説明に記載されたものとして認識できるのであるから、当該主張は採用できない。

また、申立人Aは、本件発明の「表面保護層が、・・・エーテル系ウレタンポリマー・・・を含有し」の範囲をサポートする記載が発明の詳細な説明に記載されてない、と主張しているが、上述したように、本件発明では、静摩擦係数及びΔL*が所定の範囲でありさえすれば、本件発明の課題を解決すると認識できるものであり、表面保護層がエーテル系ウレタンポリマーであるか、カーボネート系ウレタンポリマーであるかによって、本件発明の課題を解決できなくなるわけではなく、エーテル系ウレタンポリマーも、カーボネート系ウレタンポリマーも類似の特性を有するのであるから、本件発明の「表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し」という範囲は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている「表面保護層」の範囲よりも不当に広い範囲のものであるということはできない。

エ 理由A3(イ)について
【0141】【表1】には、50μm厚のアクリル系粘着剤層を設けた粘着テープについて、5%伸長時における荷重が1N/cm以上、15N/cm以下のものについて、実施例1?7に、2.79?8.44N/cmのものが示されている。

このアクリル系粘着剤層について、【0143】【0144】には、次のよう記載されている。
「【0143】
実施例1?7の基材を用いて粘着シートを作製した。
《粘着剤層の作製》
モノマー成分として、イソノニルアクリレート90部およびアクリル酸10部を混合した混合物に、光重合開始剤として、商品名「イルガキュア 651」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.05部と、商品名「イルガキュア 184」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.05部とを配合した後、粘度が約25Pa・s(BH粘度計No.5ローター、10rpm、測定温度30℃)になるまで紫外線を照射して、一部が重合したアクリル組成物(UVシロップ)を作製した。
【0144】
得られたUVシロップの100部に対して、イソノニルアクリレートを0.20部、トリメチロールプロパントリアクリレートを0.20部、ヒンダードフェノール型酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品名「イルガノックス1010」)を1部添加して粘着剤組成物を作製した。」

すなわち、上記アクリル系粘着剤層は、イソノニルアクリレートとアクリル酸との混合物を光重合によって粘度を約25Pa・sとしたUVシロップに対し、イソノニルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ヒンダードフェノール型酸化防止剤を添加したものであり、基材層や表面保護層と比較して、はるかに分子量が低く、容易に変形するものということができる。
そうすると、上記アクリル系粘着剤層は、その厚みにかかわらず、基材の5%伸長時の荷重である2.79?8.44N/cmの値には、有意な影響を与えないものといえる。

したがって、申立人Aが主張するような、粘着剤層の影響を理由に、請求項2における「基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上、15N/cm以下」という範囲をサポートする記載が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

以上述べたように、申立人Aの理由A3(イ)には、理由がない。

オ 理由A3(ウ)について
上記エで述べたように、粘着剤層は、基材層や表面保護層と比較して、はるかに分子量が低く、容易に変形するものということができ、上記アクリル系粘着剤層のみについて「10%まで伸長させ、その状態で伸長を停止してから600秒経過後の応力緩和率」が存在するとすると、ほぼ100%といえるものであり、その厚みにかかわらず、粘着剤層の有無は、「基材を10%まで伸長させ、その状態で伸長を停止してから600秒経過後の応力緩和率」の値には、有意な影響を与えないものといえる。

そうすると、請求項3における「基材を10%まで伸長させ、その状態で伸長を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上、100%以下」という範囲をサポートする記載が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

以上述べたように、申立人Aの理由A3(ウ)には、理由がない。

カ 理由A3(エ)?(カ)について
本件発明1?3のいずれかを引用する本件発明4?6については、本件発明1?3と同様に、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。
したがって、申立人Aの理由A3(エ)?(カ)には、理由がない。

キ 理由A3(キ)について
基材層のショア硬度は、基材層を構成するポリマーの種類やポリマーの重合度、含まれる充填剤の量等によって制御できることは技術常識であるところ、発明の詳細な説明(【0133】?【0139】)には、「ショア硬度95A」(実施例1?4、6)、「ショア硬度85A」(実施例5、7)のものが記載されており、ポリマーの種類を選択し、ポリマーの重合度、含まれる充填剤の量を制御することで、基材層のショア硬度が80A以上、65D以下ものを製作できることは、当業者にとって明らかなことといえる。

そうすると、本件請求項7における「基材層のショア硬度が80A以上、65D以下」の全ての範囲の実施例がなくても、その範囲をサポートする記載が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

したがって、申立人Aの理由A3(キ)には、理由がない。

ク 理由A3(ク)、(ケ)について
本件発明1?7のいずれかを引用する本件発明8、本件発明1?8のいずれかを引用する本件発明9については、本件発明1?7と同様に、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

したがって、申立人Aの理由A3(ク)、(ケ)には、理由がない。

(4)理由B1について
ア 理由B1-1について
「基材のΔL*値の絶対値」については、本件明細書の【0126】?【0127】に、L*値の測定方法やΔL*値の求め方について明確に定義されており、「基材のΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下である」という記載が不明確とはいえない。
また、申立人Bは上記1(2)イ(ア)a?eについて主張するものの、以下の(ア)?(ウ)に述べるように、申立人Bの主張する点について「ΔL*の絶対値」が一義的に解釈できないとすることはできず、理由B1-1には理由がない。
(ア)理由B1-1 a について
汚染水を基材に塗布した際に、基材に付着する汚染水中のダスト等は、基材表面がポリマーであって多孔質であるという特性によって、その表面に捕捉されるものであるから、申立人Bが主張するように、塗布量が2倍になれば付着量が2倍になるなどといった、その塗布量によって大きく変化するものとはいえない。
そうすると、汚染水の塗布の条件によって、基材に蓄積される汚れの量が有意に変動するということはできない。
(イ)理由B1-1 b について
基材が汚染水をはじいてしまうような場合は、汚染水中のダスト等が付着しないため、「ΔL*の絶対値」が小さいものとなることが想定されるものの、そのような基材は、本件発明の「ΔL*の絶対値」の範囲内のものということができても、本件発明の範囲が不明確となるものではない。
(ウ)理由B1-1 c?e について
上記(ア)で述べたように、基材に付着する汚染水中のダスト等は、基材表面がポリマーであって多孔質であるという特性によって、その表面に捕捉されるものをいうのであるから、水洗の条件やウェスの種類、水洗する際にウェスに与えられる力によって、大きく変動するものとはいえない。

イ 理由B1-2について
上述したように、粘着剤層は、基材層や表面保護層と比較して、はるかに分子量が低く、容易に変形するものということができ、その厚さにかかわらず、「基材」の5%伸長時の荷重、応力緩和率、ショア硬度の値を左右するものではないといえる。
したがって、本件請求項1?9の記載が不明確であるということはできず、理由B1-2には理由がない。

ウ 理由B1-3について
本件発明6においては、「表面保護層が、イソシアネート系架橋剤及び/又はオキサゾリン系架橋剤を用いて形成された層である」という規定があるものの、当該表面保護層のように、ポリマーを架橋剤によって形成するものにおいては、どのように架橋されるか、架橋後の特性がどのようなものであるかは、おおよそのことは推定できても、明確に定めることができないことは、技術常識である。

そうすると、本件発明6において、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されているとしても、本件発明6においては、そのような記載をする「不可能・非実際的事情」、すなわち、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情があるというべきであって、本件発明6が不明確であるとすることはできず、申立人Bの上記理由B1-3には理由がない。

(5)理由B2について
ア 理由B2-1について
上記(3)ウで述べたように、請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとすることはできない。
また、申立人Bは、具体的にどのようにして「表面滑り性」や「耐汚染性」を評価し、そしてどの程度のレベルをもって、表面滑り性が「良好」/耐汚染性が「優れた」と判断したのか等は、明細書の記載から全く明らかでない旨主張しているが、【0141】【表1】から、本件発明のもの(実施例1?7)と、本件発明ではないもの(比較例1?4)が示され、実施例1?7は、比較例1?4に比較して、表面滑り性が良好であり、耐汚染性が優れたものであることが理解できるというべきである。

イ 理由B2-2について
上記(3)エで述べたように、粘着剤層の有無によって、基材の5%伸長時の荷重や応力緩和率の値が左右されるものではなく、請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとすることはできない。

ウ 理由B2-3について
上記(3)ウ(イ)で述べたように、「基材のΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下」の点について請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとすることはできない。

エ 理由B2-4について
上記(3)ウ(ウ)で述べたように、「表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し」の点について請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとすることはできない。

オ まとめ
以上述べたように、理由B2には理由がない。

(6)理由B3について
ア 理由B3-1について
理由B3-1についての申立人Bの主張は、本件発明1?9は、「基材の静摩擦係数」及び「基材のΔL*値の絶対値」について、公知の課題を数値に置き換えたものであって、極めて限られた材料を用いた実施例のみしか実施可能に記載されておらず、いわゆる「願望クレーム」にあたるものであるから、実施可能要件を満たさない、というものである。

しかしながら、上記第4 2(4)ウで述べたように、本件明細書の実施例1?7は、本件発明の課題を解決することが確認されたものであり、同エで述べたように、静摩擦係数やΔL*値は、潤滑剤、充填剤、レベリング剤といった添加剤を含有させて静摩擦係数を調整したり、表面保護層の樹脂に親水基又は疎水基を表面に備えるようにして親水性や撥水性を持たせたりして、適宜変更できることは技術常識であって、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例のものに、さらに、添加剤を用いること等によって、実施例に基いて、静摩擦係数やΔL*値を実施例のものとは異なる、所望の値とすることが記載されていると認められるのであるから、静摩擦係数とΔL*値の両方について、実施例のものとは異なる、本件発明の範囲のものとすることは当業者が容易に実施可能であるといえる。

したがって、本件明細書には、極めて限られた材料を用いた実施例のみしか実施可能に記載されていない、ということはできず、いわゆる「願望クレーム」にあたるものであるから、実施可能要件を満たさない、という申立人Bの上記主張は採用することができない。

したがって、理由B3-1には、理由がない。

イ 理由B3-2について
理由B3-2についての申立人Bの主張は、「基材の静摩擦係数が0.05以上、1.5以下」及び「基材のΔL*値の絶対値」の範囲全体を実施することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものであるについて、実施可能要件を満たさない、というものである。

しかしながら、上記アで述べたように、本件明細書には、実施例に基いて、静摩擦係数やΔL*値を実施例のものとは異なる、所望の値とすることが記載されていると認められるのであるから、静摩擦係数とΔL*値の両方について、実施例のものとは異なる、本件発明の範囲のものとすることは当業者が容易に実施可能であるといえる。

したがって、申立人Bの上記主張は採用することができず、理由B3-2には、理由がない。

ウ 理由B3-3について
理由B3-3についての申立人Bの主張は、「基材の5%伸長時の荷重」について、「1N/cm以上、15N/cm以下」と規定された本件発明2?9は当業者が容易に実施可能ではない、というものである。

しかしながら、本件明細書の実施例1?7には、「基材の5%伸長時の荷重」が「2.79N/cm(実施例7)?9.26N/cm(実施例3)」のものが示され、実施例7では、基材層として厚さ90μmの「シュア硬度85Aの無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン」が使用され、実施例3では、基材層として厚さ240μmの「ショア硬度95Aの無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン」が使用され、一般に、基材層の「厚み」を増したり、「ショア硬度」の値の大きいものを選択すれば、「基材の5%伸長時の荷重」が大きくなり、基材層の「厚み」を減少させたり、「ショア硬度」の値の小さいものを選択すれば、「基材の5%伸長時の荷重」が小さくなることは明らかであるから、本件明細書の記載や実施例1?7に基づき、「基材の5%伸長時の荷重」を、「1N/cm以上、15N/cm以下」のものとすることは、当業者が容易に実施可能であるといえる。

したがって、申立人Bの上記主張は採用することができず、理由B3-3には、理由がない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明1?9について、明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、理由B3-1?3-3には理由がない。


(7)理由B4について
ア 理由B4-1について
まず、本件発明1と甲B1発明とを対比する。
甲B1発明の「表面コート層が一方の面に設けられた基材層」、「基材層における一方の面とは反対側の面に設けられた粘着剤層」、「基材層」(表面コート層がない基材層自体)、「表面コート層」及び「粘着シート」は、本件発明1の「基材」、「粘着剤層」、「基材層」、「表面保護層」及び「粘着シート」にそれぞれ相当する。
甲B1発明の「表面コート層は、フッ素、ウレタン、または(メタ)アクリルのいずれかを含有」する構成は、本件発明1の「表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有」し、「表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されている」構成に相当する。
本件発明1の「基材層がエステル系熱可塑性ポリウレタンを含有」する構成と、甲B1発明の「基材層は、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるウレタンポリマーを含有」する構成とは、「基材層」が「ポリウレタン樹脂からなる」構成とは、「基材層がポリウレタンを含有」する点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲B1発明とは、
「少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シートであって、前記基材が表面保護層および基材層を有し、該表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、基材層がポリウレタンを含有し、表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されている粘着シート。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点b1-1)
基材の特性について、本件発明1では、「静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり」、「ΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であ」るのに対し、甲B1発明の「表面コート層が一方の面に設けられた基材層」の静摩擦係数及びΔL*値は不明な点。
(相違点b1-2)
基材層の材質について、本件発明1は、「エステル系熱可塑性ポリウレタン」であるのに対し、甲B1発明の基材層は、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるウレタンポリマーである点。

ここで、相違点について検討する。
まず、相違点b1-1について検討する。
本件発明1の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」の値の測定は、「表面保護層」についてなされたものであることは明らかなところ(本件明細書【0123】?【0126】)、甲B1発明の「表面コート層」の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」は硬質層の材質や表面状態によって変化することは技術常識であるから、甲B1発明の基材が、本件発明1の表面保護層と同程度の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」と「静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり」、「ΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であ」るかどうかは、不明というほかない。
したがって、上記相違点b1-1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、甲B1発明と同一であるということはできない。

そして、甲B1には、甲B1発明の基材について、「静摩擦係数」及び「ΔL*値」をどのようなものとするかについての記載は見当たらず、甲B1発明において、上記相違点b1-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えるようにする動機付けを見出すことはできない。

また、申立人Bが示したその他の文献には、上記動機付けを見出すことができるような文献は示されていない。
そして、本件発明1は、当該相違点b1-1に係る発明特定事項を備えることにより、「良好な表面滑り性を有しており、かつ、優れた耐汚染性を有する粘着シートを実現することができた。」(【0017】)という本件明細書記載の格別顕著な作用効果を奏するものである。

そうすると、相違点b1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明に基いて、当業者が容易に発明し得るものである、とすることもできない。

また、本件発明2?8は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲B1発明と同一であるということはできないし、甲B1発明に基いて、当業者が容易に発明し得るものである、とすることもできない。

イ 理由B4-2について
まず、本件発明1と甲B2発明とを対比する。
甲B2発明の「表面に設けられた汚染防止コート層を含む硬質層およびポリウレタン樹脂からなる軟質層を含む基材」、「基材の汚染防止コート層とは反対側の表面に設けられた粘着剤層」、「ポリウレタン樹脂からなる軟質層」、「表面に設けられた汚染防止コート層」及び「粘着シート」は、本件発明1の「基材」、「粘着剤層」、「基材層」、「表面保護層」及び「粘着シート」にそれぞれ相当する。
本件発明1の「基材層がエステル系熱可塑性ポリウレタンを含有」する構成と、甲B2発明の「基材層がエステル系熱可塑性ポリウレタンを含有」する構成とは、「基材層がポリウレタンを含有」する点で共通する。
甲B2発明の「汚染防止コート層を構成する樹脂は、ポリウレタン、ポリアクリル樹脂、シリコーン樹脂、若しくはフッ素系樹脂、またはこれらを混合したブレンドであ」る構成は、本件発明1の「表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有」する構成に相当する。
本件発明1の「基材層がエステル系熱可塑性ポリウレタンを含有」する構成と、甲B2発明の「軟質層を構成する樹脂は、ポリエステル系ポリウレタンであ」る構成とは、「基材層がエステル系ポリウレタンを含有」する点で共通する。
また、本件発明1の「表面保護層」と甲B2発明の「硬質層」は、「表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されている」点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲B2発明とは、
「少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シートであって、前記基材が表面保護層および基材層を有し、該表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、該基材層が、基材層がエステル系ポリウレタンを含有し、表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されている粘着シート。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点b2-1)
基材の特性について、本件発明1では、「静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり」、「ΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であ」るのに対し、甲B2発明の基材の「静摩擦係数」及び「ΔL*値の絶対値」は不明な点。
(相違点b2-2)
基材層のエステル系ポリウレタンについて、本件発明1は、「熱可塑性」であるのに対し、甲B2発明の汚染防止コート層は、熱可塑性かどうか不明な点。

ここで、相違点について検討する。
まず、相違点b2-1について検討する。
本件発明1の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」の値の測定は、「表面保護層」についてなされたものであることは明らかなところ(本件明細書【0123】?【0126】)、甲B2発明の汚染防止コート層を構成する樹脂は、どのようなものか特定されておらず、その「静摩擦係数」及び「ΔL*値」は、」は、甲B2発明の汚染防止コート層の材質や表面状態によって変化することは技術常識であるから、甲B2発明の基材が、本件発明1の基材と同程度の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」と「静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり」、「ΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であ」るかどうかは、不明というほかない。
したがって、上記相違点b2-1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、甲B2発明と同一であるということはできない。

そして、甲B2には、甲B2発明の基材について、「静摩擦係数」及び「ΔL*値」をどのようなものとするかについての記載は見当たらず、甲B2発明において、上記相違点b2-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えるようにする動機付けを見出すことはできない。

また、申立人Bが示したその他の文献には、上記動機付けを見出すことができるような文献は示されていない。
そして、本件発明1は、当該相違点b2-1に係る発明特定事項を備えることにより、「良好な表面滑り性を有しており、かつ、優れた耐汚染性を有する粘着シートを実現することができた。」(【0017】)という本件明細書記載の格別顕著な作用効果を奏するものである。

そうすると、相違点b2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B2発明に基いて、当業者が容易に発明し得るものである、とすることもできない。

また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲B2発明と同一であるということはできないし、甲B2発明に基いて、当業者が容易に発明し得るものである、とすることもできない。

ウ まとめ
以上のとおり、理由B4には理由がない。

(8)理由C1について
まず、本件発明1と甲C1発明とを対比する。
甲C1発明の「エーテル系/ポリカーボネート系ポリウレタンを含有する基材層、及び、表面コート層を備える粘着シート」(粘着性を有する部分を除く)、「エーテル系/ポリカーボネート系ポリウレタンを含有する基材層」及び「表面コート層」は、本件発明1の「基材」、「基材層」及び「表面保護層」にそれぞれ相当する。
甲C1発明の「粘着シート」は、粘着性であるから、「粘着剤層」を備えているといえる。
甲C1発明の「表面コート層が100部のLF600(旭硝子(株)製)と10.15部のコロネートHX(日本ポリウレタン(株)製)とを140℃で3分間加熱・硬化・乾燥させて得られたフルオロエチレンビニルエーテル層(フッ素系樹脂層)である」構成は、本件発明1の「表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有」し、「表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されている」構成に相当する。
本件発明1の「基材層がエステル系熱可塑性ポリウレタンを含有」する構成と、甲C1発明の「エーテル系/ポリカーボネート系ポリウレタンを含有する基材層」とは、「基材層がポリウレタンを含有」する点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲C1発明とは、
「少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シートであって、前記基材が表面保護層および基材層を有し、該表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、基材層がポリウレタンを含有し、表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されている粘着シート。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点c1)
基材の特性について、本件発明1では、「静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり」、「ΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であ」るのに対し、甲C1発明の基材の静摩擦係数及びΔL*値は不明な点。
(相違点c2)
基材層の材質について、本件発明1は、「エステル系熱可塑性ポリウレタン」であるのに対し、甲C1発明の基材層は、エーテル系/ポリカーボネート系ポリウレタンからなる点。

ここで、相違点について検討する。
まず、相違点c1について検討する。
本件発明1の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」の値の測定は、「表面保護層」についてなされたものであることは明らかなところ(本件明細書【0123】?【0126】)、甲C1発明の「表面コート層」の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」は硬質層の材質や表面状態によって変化することは技術常識であるから、甲C1発明の基材が、本件発明1の表面保護層と同程度の「静摩擦係数」及び「ΔL*値」と「静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり」、「ΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であ」るかどうかは、不明というほかない。
したがって、上記相違点c1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、甲B1発明と同一であるということはできない。

そして、甲C1には、甲C1発明の基材について、「静摩擦係数」及び「ΔL*値」をどのようなものとするかについての記載は見当たらず、甲C1発明において、上記相違点c1に係る本件発明1の発明特定事項を備えるようにする動機付けを見出すことはできない。

また、申立人Cが示したその他の文献には、上記動機付けを見出すことができるような文献は示されていない。
そして、本件発明1は、当該相違点c1に係る発明特定事項を備えることにより、「良好な表面滑り性を有しており、かつ、優れた耐汚染性を有する粘着シートを実現することができた。」(【0017】)という本件明細書記載の格別顕著な作用効果を奏するものである。

そうすると、相違点c2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲C1発明に基いて、当業者が容易に発明し得るものである、とすることもできない。

また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲C1発明と同一であるということはできないし、甲C1発明に基いて、当業者が容易に発明し得るものである、とすることもできない。

したがって、理由C1には理由がない。

(9)理由C2について
ア 理由C2(ア)について
上記(3)ウ(ウ)で述べたように、本件発明1の表面保護層にエーテル系ウレタンポリマーを含む場合について、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえ、本件請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとすることはできない。

イ 理由C2(イ)について
上記(3)エで述べたように、本件発明2の基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上、15N/cm以下である点について、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえ、本件請求項2の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとすることはできない。

ウ 理由C2(ウ)について
「基材を10%まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上、100%以下」であれば、基材の応力緩和率が大きく、曲面追従性が向上したものであることは明らかである。
そして、「基材を10%まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上、100%以下」である本件発明について、【0148】に、曲面追従性が向上したものであることが確認されていることが記載されている。

そうすると、本件請求項3の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとすることはできない。

エ まとめ
以上述べたとおり、理由C2には、いずれも理由がない。

(10)理由C3について
本件明細書の実施例1?7において、基材層の「エステル系熱可塑性ポリウレタン」として、「無黄変カプロラクトンエステル系熱可塑性ポリウレタン」(A層:a1、a3及びa4)及び「無黄変アジペートエステル系熱可塑性ポリウレタン」(A層:a2)、が使用されており、それらの化学構造、製造例、入手先等は不明であるとしても、基材層の「エステル系熱可塑性ポリウレタン」について、伸長時の荷重や応力緩和率等の特性に寄与する主要な構造である「カプロラクトン」、「アジペート」といった組成について特定されているのであるから、分子量等を適宜選択することにより、「基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上、15N/cm以下」及び「基材を10%まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上、100%以下」であるものとすることは、当業者にとって、過度の試行錯誤を有するものということはできない。

したがって、本件発明2、3について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、理由C3には理由がない。

第6 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材と粘着剤層とを有する粘着シートであって、前記基材の静摩擦係数が0.05以上、1.50以下であり、また、該基材のΔL*値の絶対値が、0.01以上、30.00以下であり、前記基材が表面保護層および基材層を有し、該表面保護層が、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びエーテル系ウレタンポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、該基材層がエステル系熱可塑性ポリウレタンを含有し、前記表面保護層が前記粘着シートの最表面に配置されていることを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記基材の5%伸長時の荷重が1N/cm以上、15N/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記基材を10%まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから600秒経過後の応力緩和率が40%以上、100%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記エステル系熱可塑性ポリウレタンが、無黄変性エステル系熱可塑性ポリウレタンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記基材は、測定角度20度におけるグロス値が70以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記表面保護層が、イソシアネート系架橋剤及び/又はオキサゾリン系架橋剤を用いて形成された層であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記基材層のショア硬度が80A以上、65D以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記アクリル系樹脂は、水酸基価20?120(KOHmg/g)の(メタ)アクリル系ポリマーを含有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項9】
前記粘着シートが、被着体の表面を保護するための保護シートとして使用されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の粘着シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-06 
出願番号 特願2014-128122(P2014-128122)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 天野 宏樹
川端 修
登録日 2018-05-18 
登録番号 特許第6340257号(P6340257)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 粘着シート  
代理人 岩田 克子  
代理人 大島 由美子  
代理人 杉山 一夫  
代理人 大島 由美子  
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