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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特174条1項  B32B
管理番号 1355938
異議申立番号 異議2019-700004  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-08 
確定日 2019-08-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6356960号発明「積層体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6356960号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6356960号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6356960号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年12月10日(優先権主張 平成24年12月11日)の特許出願であって、平成30年6月22日に特許権の設定登録がされ、平成30年7月11日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成31年1月8日:特許異議申立人浅野幸義(以下「申立人A」という。)による特許異議の申立て
平成31年1月9日:特許異議申立人岩崎勇(以下「申立人B」という。)による特許異議の申立て
平成31年1月11日:特許異議申立人岡林茂(以下「申立人C」という。)による特許異議の申立て
平成31年3月13日付け:取消理由通知書
令和元年5月14日:特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
令和元年6月25日:申立人Aによる意見書の提出
令和元年6月25日:申立人Bによる意見書の提出

第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和元年5月14日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6356960号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「重量平均分子量が15000?120000であり、かつ、
不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下である、」とあるのを、「重量平均分子量が15000?120000であり、
不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下であり、かつ、
食品用の包装材料として使用される、」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?6も同様に訂正する。)

(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項3に「包装材料」とあるのを、「食品用の包装材料」に訂正する。
(請求項3を引用する請求項4?6も同様に訂正する。)

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、積層体について、「食品用の包装材料として使用される」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0078】の「本発明の積層体は、特に食品向け包装材料として好適であり、」の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、包装材料について、「食品用」のものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、本件特許明細書の【0078】の「本発明の積層体は、特に食品向け包装材料として好適であり、」の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1?6は、請求項2?6が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?6について請求されている。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕についての訂正を認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1?6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
アルミニウムを含有する基材、接着層、ポリプロピレンを含有するシーラント層がこの順に積層されてなる積層体であって、
接着層が、ポリオレフィン樹脂を含有するものであって、
ポリオレフィン樹脂は、
オレフィン成分としてプロピレン成分(A)とプロピレン成分以外のオレフィン成分(B)とを質量比(A/B)60/40?95/5の範囲で含有し、
プロピレン成分以外のオレフィン成分(B)は、ブテン成分を含有し、エチレン成分を含有しないものであり、
不飽和カルボン酸単位をオレフィン成分の総量100質量部(A+B)に対して0.1?15質量部含有し、
重量平均分子量が15000?120000であり、
不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下であり、かつ、
食品用の包装材料として使用される、
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
接着層の量が、0.001?5g/m^(2)の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層体を用いた食品用の包装材料。
【請求項4】
アルミニウムを含有する基材上に設けた接着層の上に、溶融したシーラント樹脂を押出ラミネーションにより積層することを特徴とする請求項1?3いずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
押出ラミネーションに先立ち、アルミニウムを含有する基材の上に、前記ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体を塗布、乾燥することにより接着層を形成することを特徴とする請求項4記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
水性分散体中におけるポリオレフィン樹脂の重量平均粒子径が、0.15μm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の積層体の製造方法。」

第4 当審の判断
1 取消理由概要
本件訂正前の請求項1?6に対して通知した、平成31年3月13日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。

(1)(新規性)本件特許の請求項1、3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物甲C1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(2)(進歩性)本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物甲A1、甲B1又は甲C1に記載された発明及び甲A1?甲C5に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)(明確性要件)本件特許は、本件発明6の「重量平均粒子径」について、その算出手法が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)(実施可能要件)本件特許は、明細書の記載が、本件発明6の「重量平均粒子径」について、その算出手法が明確に記載されていない点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



申立人Aの特許異議の申立てを「異議A」といい、申立人Bの特許異議の申立てを「異議B」といい、申立人Cの特許異議の申立てを「異議C」という。
<刊行物>
甲A1:国際公開2004/104090号(異議Aの甲第1号証)
甲A2:特開平8-217835号公報(異議Aの甲第2号証)
甲A3:特開昭61-266411号公報(異議Aの甲第3号証)
甲A4:特開2002-121234号公報(異議Aの甲第4号証)
甲A5:葛良忠彦、”食品保存のための有機フィルム”、表面技術、1994年、Vol.45、No.5、p.29-35(異議Aの甲第5号証)
甲B1:特開2012-71491号公報(異議Bの甲第1号証)
甲B2:特開2007-270122号公報(異議Bの甲第2号証)
甲B3:特開2002-121234号公報(異議Bの甲第3号証)
甲B4の1:”THE MICROTRAC UPA 150 ULTRAFINE PARTICLE ANALYZER”のカタログ(異議Bの甲第4号証の1)
甲B4の2:”Nanotrac wave”の取扱説明書(異議Bの甲第4号証の2)
甲B4の3:”MICROTRAC粒子径分布測定装置”用ソフトウエアの取扱説明書(異議Bの甲第4号証の3)
甲C1:特開平11-222543号公報(異議Cの甲第1号証)
甲C2:特表2008-546890号公報(異議Cの甲第2号証)
甲C3:日本化学会編、「改訂5版 化学便覧 基礎編II」、丸善株式会社、平成16年2月20日、p.II-54、II-55(異議Cの甲第3号証)
甲C4:竹田 真菜美、”サイズ排除クロマトグラフィー”、2007年10月18日、平成31年1月9日検索、インターネット<URL:http://kohka.ch.t.kanazawa-u.ac.jp/lab7/kougi/seminar_2007/19-2-03.pdf#search=%27>(異議Cの甲第4号証)
甲C5:特開2008-230198号公報(異議Cの甲第5号証)

2 取消理由についての判断
(1)甲A1を主引用例とした場合の本件発明1について
ア 甲A1に記載された発明
甲A1には以下の事項が記載されている。
(ア)「技術分野
本発明は、高沸点の水性化助剤を含有しておらず、しかも各種基材に対する接着性が良好な、ポリオレフィン樹脂水性分散体、その製造方法およびこれを用いた水性塗料に関する。」(1頁4?7行、空行を除く。以下同じ。)
(イ)「本発明におけるポリオレフィン樹脂は、炭素数3?6の不飽和炭化水素の含有量が50?98質量%、好ましくは60?98質量%、より好ましくは70?98質量%、さらに好ましくは80?98質量%である非塩素系のポリオレフィン樹脂である。炭素数3?6の不飽和炭化水素の含有量が50質量%未満では、ポリプロピレン等のポリオレフィン材料に対する接着性が低下し、98質量%を超えると、後述する不飽和カルボン酸単位の含有量が相対的に低下してしまうために樹脂の水性化が困難になる。炭素数3?6の不飽和炭化水素としては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-へキセン等のアルケン類や、ブタジエンやイソプレン等のジエン類が挙げられる。なかでも、樹脂の製造のし易さ、水性化のし易さ、各種材料に対する接着性、ブロッキング性等の点から、プロピレン成分またはブテン成分(1-ブテン、イソブテンなど)であることが好ましく、両者を併用することもできる。本発明におけるポリオレフィン樹脂は、上記した炭素数3?6の不飽和炭化水素以外に、さらにエチレン成分を2?50質量%含有していることが好ましい。エチレン成分を含有することで、樹脂の水性化や塗膜性能が向上する。」 (7頁10行?8頁5行)
(ウ)「ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、5,000?150,000であることが好ましく、20,000?120,000であることがより好ましく、30,000?100,000であることがさらに好ましく、35,000?90,000であることが特に好ましく、40,000?80,000であることが最も好ましい。重量平均分子量が5,000未満の場合は、基材との接着性が低下したり、得られる塗膜が硬くてもろくなる傾向がある。重量平均分子量が150,000を超える場合は、樹脂の水性化が困難になる傾向がある。なお、樹脂の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC) を用いてポリスチレン樹脂を標準として求めることができる。」 (11頁7?17行)
(エ)「本発明の水性塗料は、樹脂成分としてポリオレフィン樹脂(A)のほかに他の樹脂(B)を含有していてもよく、(A) と(B) の質量比(A)/(B) は100/0?10/90の範囲であり、99/1?15/85であることが好ましく、97/2?20/80であることがより好ましく、95/5?25/75であることがさらに好ましい。 ポリオレフィイン樹脂(A)のみであっても各種基材に対する密着性、ダイレクトラミネートが良好であるが、他の樹脂と混合することにより、耐タック性の向上や、特定の基材に対する密着性をさらに向上させることができる。」(23頁21行?24頁4行)
(オ)「 (10) ヒートシール強度評価
水性分散体を含むコート液を、延伸PPフィルム(東セロ社製、OP U-1、厚み20μm)の未処理面上、アルミニウム箔(三菱アルミニウム社製、厚み15μm)上、A4サイズの上質紙(大昭和製紙製)上のそれぞれに、乾燥後の塗布量が約5g/m^(2)になるようにメイヤーバーでコートし、100℃で2分間乾燥した。次に、他のPPフィルムと上記延伸PPフィルムへのコート面、他のPPフィルムとアルミニウム箔へのコート面、他のPPフィルムと上質紙へのコート面とがそれぞれ接するようにして、ヒートプレス機にて、シール圧3kg/cm^(2)、シール温度110℃で5秒間プレスし、サンプルを得た。このサンプルを15mm幅で切り出し、プレスから1日経過した後に、引張り試験機 (インテスコ社製精密 万能材料試験機2020型)を用い、引張り速度 200mm/分、引張り角度180度で塗膜の剥離強度を測定することで、ヒートシール強度を評価した。 」(37頁18行?38頁7行)
(カ)「(ポリオレフィン樹脂「P-1」の製造)
プロピレン-ブテン-エチレン三元共重合体 (ヒュルスジャパン社製、べストプラスト708、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%)280gを、4つ口フラスコ中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。その後、系内温度を170℃に保って、撹拌下、不飽和カルボン酸としての無水マレイン酸32.0gとラジカル発生剤としてのジクミルパーオキサイド6.0gとをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、ポリオレフィン樹脂「P-1」を得た。得られた樹脂の特性を表1に示す。」(41頁1?13行)
(キ)「表1


」(43頁)
(ク)「実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂「P-1」、45.0gのエチレングリコール-n-ブチルエーテル(和光純薬社製、特級、沸点171℃)、6.9gのN,N-ジメチルエタノールアミン(和光純薬社製、特級、沸点134℃)及び188.1gの蒸留水を上記のガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。その後、300メッシュのステンレス製フィルタ一(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa) し、乳白黄色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体「E-1」を得た。なお、フィルター上には残存樹脂は殆どなかった。水性分散体の各種特性および塗膜性能を表2に示す。」(44頁1?17行)
(ケ)「表2

」(49頁)
(コ)甲A1の実施例1(上記摘記事項(ク))のポリオレフィン樹脂水性分散体E-1について、上記摘記事項(オ)のアルミニウム箔上に乾燥後の塗布量が約5g/m^(2)になるようにコートし、他のPPフィルムと該コート面とが接するようにしてヒートプレス機でプレスしたサンプルに着目して整理すると、甲A1には、以下の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されている。
「アルミニウム箔、ポリオレフィン樹脂水性分散体から媒体を除去してなる層、PPフィルムの順に積層されたサンプルであって、
ポリオレフィン樹脂水性分散体は、プロピレン-ブテン?エチレン三元共重合体(ヒュルスジャパン社製、べストプラスト708、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%)280gを、4つ口フラスコ中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させ、その後、系内温度を170℃に保って、撹拌下、不飽和カルボン酸としての無水マレイン酸32.0gとラジカル発生剤としてのジクミルパーオキサイド6.0gとをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させ、反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させ、この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥した、重量平均分子量が40,000であるポリオレフィン樹脂「P-1」によるポリオレフィン樹脂水性分散体「E-1」であるサンプル。」

イ 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比する。
(ア)甲A1発明の「アルミニウム箔」は、その機能及び構造から本件発明1の「アルミニウムを含有する基材」に相当し、同様に「ポリオレフィン樹脂水性分散体から媒体を除去してなる層」は「ポリオレフィン樹脂を含有する」「接着層」に、「PPフィルム」は「ポリプロピレンを含有するシーラント層」に、それぞれ相当する。
(イ)甲A1発明の「プロピレン-ブテン?エチレン三元共重合体(ヒュルスジャパン社製、べストプラスト708、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%)」は、本件発明1の「オレフィン成分としてプロピレン成分(A)とプロピレン成分以外のオレフィン成分(B)とを」「含有」することに相当する。
(ウ)甲A1発明の「不飽和カルボン酸としての無水マレイン酸32.0g」を加えることは、プロピレン-ブテン?エチレン三元共重合体280gに対して加えられているから、本件発明1の「不飽和カルボン酸単位をオレフィン成分の総量100質量部(A+B)に対して0.1?15質量部含有」することに相当する。
(エ)甲A1発明の「サンプル」は、「アルミニウム箔、ポリオレフィン樹脂水性分散体から媒体を除去してなる層、PPフィルムの順に積層された」ものであるから、「積層体」と表現できるものである。

したがって、本件発明1と甲A1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「アルミニウムを含有する基材、接着層、ポリプロピレンを含有するシーラント層がこの順に積層されてなる積層体であって、
接着層が、ポリオレフィン樹脂を含有するものであって、
ポリオレフィン樹脂は、
オレフィン成分としてプロピレン成分(A)とプロピレン成分以外のオレフィン成分(B)とを含有し、
不飽和カルボン酸単位をオレフィン成分の総量100質量部(A+B)に対して0.1?15質量部含有する、
積層体。」

<相違点1>
ポリオレフィン樹脂について、本件発明1は、「プロピレン成分以外のオレフィン成分(B)は、ブテン成分を含有し、エチレン成分を含有しないものであり、」「オレフィン成分としてプロピレン成分(A)とプロピレン成分以外のオレフィン成分(B)とを質量比(A/B)60/40?95/5の範囲で含有」し、「重量平均分子量が15000?120000であ」るのに対して、甲A1発明は、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%であり、重量平均分子量が40,000である点。
<相違点2>
ポリオレフィン樹脂について、本件発明1は、「不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下である」のに対して、甲A1発明は、不明である点。
<相違点3>
本件発明1は、「食品用の包装材料として使用される」のに対して、甲A1発明は、そのように特定されていない点。

ウ 判断
以下、相違点について検討する。
<相違点1について>
甲A1には、請求項2に「ポリオレフィン樹脂に含まれる炭素数3?6の不飽和炭化水素が、プロピレンおよび/またはブテンである」と記載され、請求項3の記載も参酌すると、エチレン成分を含有しないポリオレフィン樹脂によるポリオレフィン樹脂水性分散体を用いることが示唆されているといえる。
また、甲A2には、【0001】?【0003】に、接着性の観点から、非晶質プロピレン-エチレン共重合体より、非晶質プロピレン-ブテン-1共重合体の方が優れている点、並びに【0018】に、プロピレン含量71%モルのプロピレン-ブテン-1共重合体、及び【0199】の表1に、プロピレン含量が73.9%のプロピレン-ブテン-1共重合体を用いることが記載されている。
さらに、甲B2には、接着剤としてプロピレン-ブテン共重合体を用いる点が記載されている(下記(2)ウの<相違点4について>の欄参照。)。
しかし、甲A1には、上記アの摘記事項(イ)?(エ)のとおり、様々なポリオレフィン樹脂が使用できることが記載されているものの、上記相違点1に係る本件発明1のポリオレフィン樹脂を使用することは記載も示唆もされておらず、上記のとおり、甲A1及び甲B2に、ポリオレフィン樹脂としてプロピレン-ブテン共重合体が記載されているとしても、甲A1発明において、甲A2及び甲B2記載のプロピレン-ブテン共重合体を用いる動機付けはない。
したがって、甲A1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の事項とすることが、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
<相違点2について>
甲A3には、「変性ポリオレフィンは、接着性を疎害(当審注:「阻害」の誤記である。)する未反応の無水マレイン酸を含有しているので、これを除く精製が必要である。」(3頁右上欄11?19行)と記載されており、甲A4には、「未反応不飽和カルボン酸若しくはその無水物の含有量を30ppm以下」(請求項1)とすること、及び「未反応不飽和カルボン酸若しくはその無水物の含有量が前記範囲超過では、変性エチレン系重合体として被着材に対する接着力が劣ることとなり」(【0018】)、甲C2の【0217】には、遊離酸基の量を1000ppm未満とすることが記載されている。
そして、甲1A発明は、「得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させ、この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去」するのであるから、不飽和カルボン酸モノマーの残存量を極力少なくしていることは明らかであり、甲A3、甲A4及び甲C2記載事項からも、不飽和カルボン酸モノマーの残存量を1000ppm以下とする程度のことは、当業者が容易に想到し得たことである。
<相違点3について>
甲A1には、「通常、食品包装用のフィルムは、基材フィルムに塗料を施した後、ポリオレフィン樹脂フィルム等をラミネートして使用される。」(3頁19?21行)と記載されている。
したがって、甲A1発明のアルミニウム箔、ポリオレフィン樹脂水性分散体から媒体を除去してなる層、PPフィルムの順に積層されたサンプルを食品用の包装材料に用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
<本件発明1の奏する効果について>
そして、甲A1?甲C5には、耐内容物性について、何ら記載も示唆もないところ、本件発明1は、本件特許明細書の【表3】を参照すると、食品を包装した際に、十分な耐内容物性を有することは明らかであり、格別な効果を有するものである。
ここで、申立人Aは、令和元年6月25日の意見書において、接着性には、初期の接着性だけでなく接着性の経時的な維持、すなわち「耐内容物性」が想定されている旨主張する(15頁1行?18頁3行)。
しかし、食品用の包装材料において、接着性の経時的な維持、すなわち「耐内容物性」の向上が必要であることについて、何ら証拠は示されていないから、申立人Aの主張は採用できない。

エ 小括
上記のとおり、本件発明1は、甲A1発明及び甲A1?甲C5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)甲B1を主引用例とした場合の本件発明1につて
ア 甲B1に記載された発明
甲B1には以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリア層、接着層、シーラント層がこの順に積層されてなり、前記接着層が、酸変性オレフィンエラストマーを含有することを特徴とする積層体。
【請求項2】
酸変性オレフィンエラストマーを構成するオレフィンエラストマーが、エチレン・α-オレフィン共重合体エラストマー、プロピレン・α-オレフィン共重合体エラストマーのうち少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
接着層の量が、0.001?5g/m^(2)の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
バリア層がアルミニウムを含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
シーラント層がポリオレフィン樹脂を含有することを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂がポリプロピレンであることを特徴とする請求項5に記載の積層体。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
包装材料は、複数の層を積層させた積層体構造となっているものが多い。例えば、アルミニウム箔などのバリア層の上面に、接着層(プライマー、アンカーコート層とも呼ばれる)を介して、シーラント層としてポリオレフィン樹脂フィルムを積層した構成の包装材料が多く使用されている。シーラント樹脂としては、ポリエチレンまたはポリプロピレンが用いられる。中でもポリプロピレンは、耐熱性、耐油性に優れることからボイルやレトルト等の加熱殺菌処理を必要とする食品用包装材料のシーラント樹脂として用いられている。」
(ウ)「【0019】
本発明の積層体を構成する接着層は、酸変性オレフィンエラストマーを含有する。
酸変性オレフィンエラストマーにおける、酸成分を有するオレフィンエラストマーの主成分であるオレフィンエラストマーとは、分子内に、少なくとも一つのオレフィン系エラストマー重合体部からなるソフトセグメントと、少なくとも一つのオレフィン系エラストマー重合体部からなるハードセグメントとを有するブロック共重合体である。
オレフィン系エラストマー重合体部からなるソフトセグメントとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどのα-オレフィンランダム重合体部、ブタジエン、イソプレンなどのジエン化合物(ジオレフィン)の重合体部あるいはその水素添加物があり、ハードセグメントとしては、通常エチレン、プロピレン、1-ブテンなどのα-オレフィン重合体部で結晶性を有するもの、ポリスチレン重合体部などのガラス転移点が常温以上の重合体部、ブタジエン共重合体部の水素添加物で結晶性を有するものなどがある。
ブロック共重合体の成分としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体で代表されるエチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセンなどのα-オレフィンの単独または2種類以上の共重合体であるオレフィンエラストマーが挙げられる。また、ノルボルネン系共重合体、単環の環状ポリオレフィン系重合体、環状共役ジエン系共重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体およびこれらの水素添加物などの脂環式構造含有重合体も用いることができる。」
(エ)甲B1の【請求項1】?【請求項6】の記載を総合すると、甲B1には、以下の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されている。

「アルミニウムを含有するバリア層、接着層、ポリプロピレンを含有するシーラント層がこの順に積層されてなり、前記接着層が、酸変性オレフィンエラストマーを含有することを特徴とする積層体。」

イ 対比
そして、本件発明1と甲B1発明とを対比する。
甲B1発明の「アルミニウムを含有するバリア層」は、本件発明1の「アルミニウムを含有する基材」に相当し、同様に「接着層」は「接着層」に、「ポリプロピレンを含有するシーラント層」は「ポリプロピレンを含有するシーラント層」に、それぞれ相当する。

したがって、本件発明1と甲B1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「アルミニウムを含有する基材、接着層、ポリプロピレンを含有するシーラント層がこの順に積層されてなる積層体。」
<相違点4>
ポリオレフィン樹脂について、本件発明1は、「オレフィン成分としてプロピレン成分(A)とプロピレン成分以外のオレフィン成分(B)とを質量比(A/B)60/40?95/5の範囲で含有し、プロピレン成分以外のオレフィン成分(B)は、ブテン成分を含有し、エチレン成分を含有しないものであり、不飽和カルボン酸単位をオレフィン成分の総量100質量部(A+B)に対して0.1?15質量部含有し、重量平均分子量が15000?120000であり、不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下であ」るのに対して、甲B1発明は、具体的な成分等が不明である点。
<相違点5>
本件発明1は、「食品用の包装材料として使用される」のに対して、甲B1発明は、そのように特定されていない点。

ウ 判断
以下相違点について検討する。
<相違点4について>
甲B2の実施例6(【0215】?【0217】)には、無水マレイン酸基含量0.8重量%、重量平均分子量156,000の無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体を用いる点が記載されている。そして、無水マレイン酸グラフト後に、甲B2の【0216】に記載のようにアセトンでの精製を行っていることから、不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下である蓋然性が高い。
そうすると、甲B2の実施例6のプロピレン-ブテン共重合体は、本件発明1の上記相違点4に係るオレフィン樹脂に相当する。
しかし、甲B1には、「積層体を構成する接着層は、酸変性オレフィンエラストマーを含有する」(【0019】?【0021】)と記載され、様々な酸変性オレフィンエラストマーが挙げられているところ、甲B1発明の積層体において、接着層として、甲B2記載のプロピレン-ブテン共重合体を用いる動機付けがあるということはできない。
したがって、甲B1発明の接着層において、上記甲B2の実施例6に記載のプロピレン-ブテン共重合体を用いることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
<相違点5について>
甲B1には、「中でもポリプロピレンは、耐熱性、耐油性に優れることからボイルやレトルト等の加熱殺菌処理を必要とする食品用包装材料のシーラント樹脂として用いられている。」(【0002】)と記載されている。
そして、甲B1発明において、上記記載を参照して、積層体を食品用の包装材料に用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
<本件発明1の奏する効果について>
そして、甲A1?甲C5には、耐内容物性について、何ら記載も示唆もないところ、本件発明1は、本件特許明細書の【表3】を参照すると、食品を包装した際に、十分な耐内容物性を有することは明らかであり、格別な効果を有するものである。

エ 小括
上記のとおり、本件発明1は、甲B1発明及び甲A1?甲C5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)甲C1を主引用例とした場合の本件発明1につて
ア 甲C1に記載された発明
甲C1には以下の事項が記載されている。なお、下線は削除している。
(ア)「【請求項1】不飽和カルボン酸またはその無水物によって、一部もしくは全部がグラフト変性された変性プロピレン系樹脂が有機溶剤に固体状で分散してなる樹脂分散物において、該分散物を常温で蒸発乾固して得られる変性プロピレン系樹脂が、下記(a)?(c)の性状を有するものであることを特徴とする、低温ヒートシール性に優れた樹脂分散物。
(a)示差熱分析で測定した融点が、120℃未満、
(b)極限粘度[η]が0.2?2.0dl/g
(c)不飽和カルボン酸またはその無水物の含有量が、0.1?15重量%
【請求項2】プロピレン系樹脂が、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとのランダム共重合体であり、共重合体中のプロピレン成分が55モル%以上であることを特徴とする請求項1項記載の樹脂分散物。
【請求項3】有機溶剤が、プロピレン系樹脂に対して親溶媒の炭化水素系溶剤と、プロピレン系樹脂に対して貧溶媒である極性溶剤の混合溶剤である請求項1項記載の樹脂分散物。」
(イ)「【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】本発明は塗料や接着剤として有用な樹脂分散物に関するものであり、より詳細には低温ヒートシール性に優れた樹脂分散物に関する。」
(ウ)「【0016】
【実施例】以下に実施例を示す。
実施例1
プロピレン-ブテン共重合体(融点;110℃、ブテン含量;26モル%、[η]:2.0dl/g)100重量部、トルエン435重量部を撹拌機付きの1.5lのオートクレーブに入れ、140に昇温、撹拌し、完全に溶解した。この溶液に、撹拌下140℃に保ったまま、無水マレイン酸16重量部、ジクミルパーオキサイド1.5重量部をそれぞれ4時間かけて滴下し、終了後、さらに140℃で1時間撹拌し、後反応を行い、変性共重合体を得た。反応終了後、溶液を室温まで冷却し、溶液にアセトンを加えて変性共重合体を析出した。析出した変性共重合体を繰り返しアセトンで洗浄した後、乾燥し、試料を得た。この変性共重合体の分子量は[η]:0.68dl/g、無水マレイン酸のグラフト量は2.6重量%であった。
【0017】次いで、この変性共重合体15重量部とトルエン17重量部、メチルエチルケトン(MEK)68重量部を、撹拌機付きオートクレーブに入れ、130℃に加熱して樹脂を完全に溶解した後、撹拌しながら25℃/時間の冷却速度で90℃まで降温した後、5℃/時間の冷却速度で60℃まで冷却した。次いで、20℃/時間の冷却速度で、30℃まで降温したところ、乳白色の均一な分散物を得た。該分散物の分散粒子径をコールターカウンターで測定したところ、10μmであった。該分散物をバーコーターを使用して、アルミ箔に塗布、風乾した後、200℃にセットしたエア・オーブン中で20秒間加熱し、均一透明な塗工箔を得た。この塗工箔とポリプロピレンシート(東セロ#500T-T)をJIS Z1707に準拠した方法により140℃で2秒間、2kg/cm^(2)の圧力をかけて熱接着し、試料とした。この試料の180°剥離強度を常温で測定したところ、2.5kg/15mmであった。また、同様に120℃で熱接着を行った試料の常温での剥離強度は、2.0kg/15mmであった。結果を表1、表2に記した。」
(エ)甲C1の実施例1(【0016】、【0017】)の記載を総合すると、甲C1には、以下の発明(以下「甲C1発明」という。)が記載されている。

「アルミ箔に変性共重合体の分散物を塗布した塗工箔に、ポリプロピレンシート(東セロ#500T-T)をJIS Z1707に準拠した方法により140℃で2秒間、2kg/cm^(2)の圧力をかけて熱接着した試料であって、
変性共重合体が、プロピレン-ブテン共重合体(融点;110℃、ブテン含量;26モル%、[η]:2.0dl/g)を無水マレイン酸でグラフト変性した変性共重合体であり、分子量は[η]:0.68dl/g、無水マレイン酸のグラフト量は2.6重量%である試料。」

イ 対比
そして、本件発明1と甲C1発明とを対比する。
(ア)甲C1発明の「アルミ箔」は、本件発明1の「アルミニウムを含有する基材」に相当し、同様に「変性共重合体」は「接着層」に、「ポリプロピレンシート(東セロ#500T-T)」は「ポリプロピレンを含有するシーラント層」に、それぞれ相当する。
(イ)甲C1発明の変性共重合体が、「プロピレン-ブテン共重合体(融点;110℃、ブテン含量;26モル%、[η]:2.0dl/g)」を変性したものであることは、本件発明1の「接着層が、ポリオレフィン樹脂を含有するものであって、ポリオレフィン樹脂は、オレフィン成分としてプロピレン成分(A)とプロピレン成分以外のオレフィン成分(B)とを質量比(A/B)60/40?95/5の範囲で含有し、プロピレン成分以外のオレフィン成分(B)は、ブテン成分を含有し、エチレン成分を含有しないものであ」ることに相当する。
(ウ)甲C1発明の「無水マレイン酸のグラフト量は2.6重量%である」ことは、本件発明1の「不飽和カルボン酸単位をオレフィン成分の総量100質量部(A+B)に対して0.1?15質量部含有」することに相当する。

したがって、本件発明1と甲C1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「アルミニウムを含有する基材、接着層、ポリプロピレンを含有するシーラント層がこの順に積層されてなる積層体であって、
接着層が、ポリオレフィン樹脂を含有するものであって、
ポリオレフィン樹脂は、
オレフィン成分としてプロピレン成分(A)とプロピレン成分以外のオレフィン成分(B)とを質量比(A/B)60/40?95/5の範囲で含有し、
プロピレン成分以外のオレフィン成分(B)は、ブテン成分を含有し、エチレン成分を含有しないものであり、
不飽和カルボン酸単位をオレフィン成分の総量100質量部(A+B)に対して0.1?15質量部含有する、
積層体。」
<相違点6>
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量について、本件発明1は、「15000?120000であ」るのに対して、甲C1発明は、不明である点。
<相違点7>
ポリオレフィン樹脂の不飽和カルボン酸モノマーの残存量について、本件発明1は、「1000ppm以下である」のに対して、甲C1発明は、不明である点。
<相違点8>
本件発明1は、「食品用の包装材料として使用される」のに対して、甲C1発明は、そのように特定されていない点。

ウ 判断
以下相違点について検討する。
<相違点6について>
甲C1発明の「135℃デカリン中における極限粘度」(【0011】)は、「[η]:0.68dl/g」であるから、甲C3(II-54、II-55頁)のMark-Houwink-櫻田の式から粘度平均分子量が算出されるところ、表7.32には、当該式に用いる「ポリプロピレン」の定数は記載されているが、甲C1発明の「プロピレン-ブテン共重合体」については記載されていない。
そして、「ポリプロピレン」と「プロピレン-ブテン共重合体」とでは、Mark-Houwink-櫻田の式に用いる定数が異なることは技術常識であって、甲C1発明の「プロピレン-ブテン共重合体」についての定数は不明であるから、甲C1発明の粘度平均分子量は不明であって、重量平均分子量も不明である。
そして、甲C1発明の重量平均分子量を、15000?120000とする理由はないから、甲C1発明において、重量平均分子量を15000?120000の範囲とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
<相違点7について>
甲C1(【0016】)には、変性共重合体を繰り返しアセトンで洗浄することが記載されており、その結果、甲C1発明の「無水マレイン酸のグラフト量は2.6重量%である」と記載されており、少なくとも0.1重量%までは、正確なカルボン酸量が測定可能であるのだから、不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下である蓋然性が高い。
また、そうでないとしても、甲A3の「変性ポリオレフィンは、接着性を疎害(当審注:「阻害」の誤記である。)する未反応の無水マレイン酸を含有しているので、これを除く精製が必要である。」(3頁右上欄11?19行)、甲A4の「未反応不飽和カルボン酸若しくはその無水物の含有量を30ppm以下」(請求項1)、及び「未反応不飽和カルボン酸若しくはその無水物の含有量が前記範囲超過では、変性エチレン系重合体として被着材に対する接着力が劣ることとなり」(【0018】)、並びに甲C2の【0217】の遊離酸基の量を1000ppm未満とすることの記載から、甲C1発明の不飽和カルボン酸モノマーの残存量を1000ppm未満とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
<相違点8について>
甲C1には、食品用の包装材料として使用することについて、何ら記載も示唆もされていない。
したがって、甲C1発明の試料において、食品用の包装材料として使用することを当業者が容易に想到し得たことはいえない。

<本件発明1の奏する効果について>
そして、甲A1?甲C5には、耐内容物性について、何ら記載も示唆もないところ、本件発明1は、本件特許明細書の【表3】を参照すると、食品を包装した際に、十分な耐内容物性を有することは明らかであり、格別な効果を有するものである。

エ 小括
上記のとおり、少なくとも、相違点6及び相違点8は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲C1発明であるとはいえない。
また、本件発明1は、甲C1発明及び甲A1?甲C5記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1の発明特定事項を全て有し、更に限定を付加したものであるから、本件発明2?6と甲A1発明とを比較すると、少なくとも上記相違点1?3で相違し、本件発明2?6と甲B1発明とを比較すると、少なくとも上記相違点4及び5で相違し、本件発明2?6と甲C1発明とを比較すると、少なくとも上記相違点6及び8で相違する。
そして、上記相違点1?8については、上記(1)ウ、(2)ウ及び(3)ウで検討したとおりである。
したがって、本件発明3は、甲C1発明であるとはいえない。
また、本件発明2?6は、甲A1発明及び甲A1?甲C5の記載に基いて、甲B1発明及び甲A1?甲C5の記載に基いて、又は、甲C1発明及び甲A1?甲C5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)明確性要件について
ア 請求項6には、「重量平均粒子径が、0.15μm以下である」と記載されている。
イ 本件特許明細書の【0082】には、「2.水性分散体
(1)ポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径及び重量平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用いて、数平均粒子径(mn)及び重量平均粒子径(mw)を測定した。なお、樹脂の屈折率は1.5とした。」と記載されているところ、甲B4の1?甲B4の3を参照すると、重量平均粒子径は、日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)により測定された後、データ処理を行って、算出されると理解される。
そして、特許権者が提出した令和元年5月14日の意見書に添付された乙3((特許第3584751号公報)の【0031】の「(1)重量平均粒子径
光回折散乱粒径測定機(マイクロトラック粒度分析計Model 9220 FRA:リーズアンド ノースラップ社(Leeds & Northrup,Ltd.)製)で測定し、D_(50)の値を平均粒子径とした。」、乙4(特開2011-249302号公報)の【0059】の「金属粒子の重量平均粒子径は、レーザー回折・散乱法を適応したレーザー回折式粒度分布装置(例えば、日機装株式会社のマイクロトラックシリーズMT3300)を用いて測定され、重量累積粒度分布曲線を小粒径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径に対応する。」の記載を参照すると、重量平均粒子径は、粒度分布計を用いて、粒子の重量と粒子径を得て、当該粒子の小粒径側からの重量累積が50%となる粒子径、いわゆるD50を意味し、計測器のバラツキ等があるとしても、その算出手法は明確であるから、請求項6の当該記載は明確である。
ウ ここで、申立人Bは、令和元年6月25日の意見書において、乙3及び乙4の記載は測定に使用する装置も異なり、粒子径には、D50以外に、D10、D90、体積平均径、個数平均径及び面積平均径も存在するから、乙3及び乙4の記載から重量平均粒子径を一義的に決定することはできない旨主張する。
しかし、粒子径に種々の粒子径があるとしても、重量平均粒子径は、上記のとおり、通常算出されるものであって、本件特許明細書の【0048】に記載された「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)は、甲第4の2によると体積平均径が計測でき、粒子の密度が一定であるとすると、上記の算出手法における重量平均粒子径が測定できる。
したがって、上記算出手法は本件特許明細書の記載と整合するものであるから、重量平均粒子径は、上記のとおり明確であって、申立人Bの主張は当を得ないものである。
また、申立人Bは、参考資料1(特開2017-57257号公報、【0043】、【0091】)、参考資料2(特開2015-230796号公報、【0105】)及び参考資料3(特開2006-169477号公報、【0043】、【0057】)を挙げて、重量平均粒子径として体積平均粒子径を使用していることがある旨主張する。
しかし、重量は、密度×体積で求められることから、粒子の密度が一定である場合、重量累積が50%と体積累積が50%であることは等価であるから、参考資料1?3を参酌しても、申立人Bの主張は採用できない。

(6)実施可能要件について
重量平均粒子径については、上記(5)で検討したとおりであるから、本件特許明細書には、「重量平均粒子径」について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

3 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1)新規事項について
ア 申立人Aは、請求項1中の「プロピレン成分以外のオレフィン成分(B)は、ブテン成分を含有し、エチレン成分を含有しないものであり、」は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でない旨主張する。
イ しかし、当初明細書等の【0023】?【0034】には、ポリオレフィン樹脂に含有するプロピレン成分以外のオレフィン成分(B)として、ブテン成分やエチレン成分を含めて、種々の成分が挙げられ、実施例10?16に、エチレンが0であるプロピレン/ブテン共重合体を用いたポリオレフィン樹脂P-10?P-13が記載されているから、プロピレン成分以外のオレフィン成分(B)として、ブテン成分を含有し、エチレン成分を含有しないポリオレフィン樹脂を用いることは、記載されているといえる。
したがって、請求項1中の「プロピレン成分以外のオレフィン成分(B)は、ブテン成分を含有し、エチレン成分を含有しないものであり、」は、当初明細書等に記載された範囲内である。

(2)サポート要件について
ア 申立人Bは、請求項1には、「不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下である」と記載されているところ、本件特許明細書には、を0ppmとすることが記載されていないから、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含している旨主張する。
イ しかし、本件特許明細書の【0034】には、不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下であって、より少ないことに技術的意義があることが記載されている。そして、不飽和カルボン酸モノマーの残存量は、ポリオレフィン樹脂の製造方法から、実質的に下限値を有することが技術常識であるから、請求項1の当該記載は、発明の詳細な説明に記載された範囲内のものである。
ウ また、申立人Cは、請求項1に「接着層が、ポリオレフィン樹脂を含有するもの」と記載されているところ、本件特許明細書の【0035】には、「液状物に加工しないで、ホットメルトなどの手段により樹脂から直接的に接着層を形成」するものも記載されているが、実施例は水性分散体のみであるから、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された範囲内のものでない旨主張する。
エ しかし、本件発明の課題は、「特定組成の接着層を用いることにより、ポリプロピレンをシーラント樹脂として用いた場合でも、これを押出ラミネート法で積層してシーラント層を形成しても、シーラント層とバリア層が十分な接着力を有し、かつ耐内容物性にも優れる積層体と、その積層体を低コストで安定的に製造する方法とを提供すること」(【0011】)である。
そして、本件特許明細書には、具体的に実施例10?16として、本件発明1の水性分散体から形成した接着層が本件発明の課題を解決することが示されており、当該接着層は、積層体としては、乾燥して、水分が除かれた状態であるから、例えばホットメルトなどの手段により直接的に形成されたものであるとしても、水性分散体から形成したのと同程度の接着性や耐内容物性を有するものと理解される。
したがって、本件特許明細書には、接着層について、水性分散体以外の、例えばホットメルトなどの手段により直接的に形成されたものであるとしても本件発明の課題を解決することが記載されているといえるから、申立人Cの主張は当を得ないものである。


第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含有する基材、接着層、ポリプロピレンを含有するシーラント層がこの順に積層されてなる積層体であって、
接着層が、ポリオレフィン樹脂を含有するものであって、
ポリオレフィン樹脂は、
オレフィン成分としてプロピレン成分(A)とプロピレン成分以外のオレフィン成分(B)とを質量比(A/B)60/40?95/5の範囲で含有し、
プロピレン成分以外のオレフィン成分(B)は、ブテン成分を含有し、エチレン成分を含有しないものであり、
不飽和カルボン酸単位をオレフィン成分の総量100質量部(A+B)に対して0.1?15質量部含有し、
重量平均分子量が15000?120000であり、
不飽和カルボン酸モノマーの残存量が1000ppm以下であり、かつ、
食品用の包装材料として使用される、
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
接着層の量が、0.001?5g/m^(2)の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層体を用いた食品用の包装材料。
【請求項4】
アルミニウムを含有する基材上に設けた接着層の上に、溶融したシーラント樹脂を押出ラミネーションにより積層することを特徴とする請求項1?3いずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
押出ラミネーションに先立ち、アルミニウムを含有する基材の上に、前記ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体を塗布、乾燥することにより接着層を形成することを特徴とする請求項4記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
水性分散体中におけるポリオレフィン樹脂の重量平均粒子径が、0.15μm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の積層体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-05 
出願番号 特願2013-255005(P2013-255005)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 55- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 團野 克也近野 光知福井 弘子  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 白川 敬寛
佐々木 正章
登録日 2018-06-22 
登録番号 特許第6356960号(P6356960)
権利者 ユニチカ株式会社
発明の名称 積層体及びその製造方法  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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