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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  A61B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1355945
異議申立番号 異議2018-701013  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-13 
確定日 2019-08-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6342431号発明「吻合を形成するためのステントおよび同ステントを含む医療用具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6342431号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、5?10、12、14、15〕、4、11、13について訂正することを認める。 特許第6342431号の請求項3、4、11、13に係る特許を維持する。 特許第6342431号の請求項1、2、5?10、12、14、15に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6342431号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成26年2月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年2月21日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年5月25日にその特許権の設定登録がされ(請求項の数:15、同年6月13日特許掲載公報発行)、その後、その特許に対し、特許異議申立人星正美より平成30年12月13日に特許異議の申立てがされたものである。
以下、特許異議の申立て後の経緯を整理して示す。
平成31年 2月 8日付け 取消理由通知
令和 元年 5月14日 意見書、訂正請求書の提出(特許権者より)
同年 5月28日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 7月 1日 意見書の提出(特許異議申立人より)

以下、上記の訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。


第2 本件訂正について
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1、2、5?10、12、14及び15を削除する。

(2)訂正事項2
請求項3に
「基端側フランジはステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備え、先端側フランジはステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備えている、請求項1に記載のステント。」
とあるのを
「ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端、及び基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側フランジ及び先端側フランジは、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側及び先端側フランジは各々2.94Nより大きい引抜力を有し、基端側フランジはステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備え、先端側フランジはステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備えている、ステント。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
請求項4に
「基端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されており、先端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されている、請求項1に記載のステント。」
とあるのを
「ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端、及び基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側フランジ及び先端側フランジは、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側及び先端側フランジは各々2.94Nより大きい引抜力を有し、基端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されており、先端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されている、ステント。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項11に
「基端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成され、先端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されている、請求項8に記載のステント。」
とあるのを
「自己拡張型の吻合ステントであって、
非拡張形態及び拡張形態を有する可撓性の本体を含んでなり、拡張形態は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端部、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端部、及び基端側フランジと先端側フランジとの間の円筒形領域を備え、少なくとも円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側及び先端側フランジはそれぞれ、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように円筒形領域の内部通路から離れるように突出しており、
ステントは、患者の体内で拡張形態から回収可能であるように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側フランジ及び先端側フランジは各々2.94Nより大きい引抜力を有し、基端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成され、先端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されている、ステント。」
と訂正する。

(5)訂正事項5
請求項13に
「医療用具であって、
ハンドル、
ハンドルに係合したシャフト、
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のステント、及び
前記ステントを拘束された状態に保持するように構成されたステント保持具を含んでなり、
ステント保持具は、前記ステントを拘束する材料であって、拘束された状態にステントを保持するように構成され、前記ステントが拡張するのを可能にするべく解けるように構成され、かつ前記ステントの留置後に除去可能であるように構成された材料を備えている、医療用具。」
とあるのを
「医療用具であって、
ハンドル、
ハンドルに係合したシャフト、
ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端、及び基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側フランジ及び先端側フランジは、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側及び先端側フランジは各々2.94Nより大きい引抜力を有する、ステント、及び
前記ステントを拘束された状態に保持するように構成されたステント保持具を含んでなり、
ステント保持具は、前記ステントを拘束する材料であって、拘束された状態にステントを保持するように構成され、前記ステントが拡張するのを可能にするべく解けるように構成され、かつ前記ステントの留置後に除去可能であるように構成された材料を備えている、医療用具。」
と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、5?10、12、14、15をそれぞれ削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項2?4に係る訂正は、いずれも引用関係の解消を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項5に係る訂正は、引用する請求項の数を1に減少させるとともに独立形式に書き改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び引用関係の解消を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 一群の請求項について
本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項1?15に対して請求されたものである。
そして、訂正事項3?5に係る訂正は、上記2で検討したとおり認められるものであるところ、特許権者から、請求項4、11、13について訂正が認められるときは一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項4、11、13については、請求項ごとに訂正することを認める。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、5?10、12、14、15〕、4、11、13について訂正することを認める。


第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項3、4、11、13に係る発明(以下、それぞれ請求項に対応して「本件発明3」などといい、また、まとめて「本件発明」と総称する。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項3、4、11、13に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記「第2」の「1 本件訂正の内容」欄参照。)。


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?15に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(理由1)
請求項1、5?8、12に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1、5?8、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(理由2)
請求項1?15に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(理由3)
請求項1?15に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。


甲第1号証:特表2011-519709号公報(以下「甲1」という。)

2 当審の判断
本件訂正により、取消しの理由1の対象であった請求項1、5?8、12は削除され、理由のないものとなったので、以下、取消しの理由2、3について検討する。
理由2、3は要するに、本件発明3、4、11、13を特定するための事項である「引抜力」について、発明の詳細な説明に明確かつ十分な記載がなく(理由2)、また、特許請求の範囲においても明確でない(理由3)というものである。
(1)理由2について
「引抜力」に関連し、明細書には、次の記載がある。
「【0102】
・・・引抜力は、2つの異なる試験すなわちステント引抜力試験及び移植物アンカープルパウト(pull-pout)試験を使用して判定可能である。
【0103】
引抜力試験については、ステントは完全に拡張した形態で試験される。ステントは、ステントの円筒形鞍状領域の拡張状態の直径を収容する大きさの、材料に開いた穴を通して留置される。材料に開いた穴はステントの大きさに応じておよそ10mm又は15mmであってよい。ステント引抜試験は、完全に拡張したステントの先端側フランジを変形し、かつ開口部を通してステントの拡張した先端側フランジを引くのに必要な力を測定する。いくつかの実施形態では、ステントの引抜力は約260グラム(約2.55N)より大きい。いくつかの実施形態では、ステントの引抜力は約300グラム(約2.94N)より大きい。・・・
【0104】
移植物アンカーの試験については、ステントの基端側フランジが拘束配置状態でカテーテルデバイスによって保持されながら、先端側フランジの強度が試験される。先端側フランジは、カテーテルのシャフトを収容する大きさの穴を有する剛性材料の反対側に留置される。カテーテルは、先端側フランジを変形し、かつ剛性材料の穴を通して先端側フランジを引くために必要であると測定された力で引くことが可能である。いくつかの実施形態では、ステントは約1Nを超える移植物アンカー試験の強度を有する。いくつかの実施形態では、ステントは約2Nを超える移植物アンカー試験の強度を有する。いくつかの実施形態では、ステントは約3Nを超える移植物アンカー試験の強度を有する。・・・」

このように、明細書には、「引抜力」に関し、複数の試験方法が記載されてはいるが、本件発明は、「2.94Nより大きい引抜力」と、引抜力の下限値をも発明特定事項として含むものである。
そこで、「2.94Nより大きい引抜力」なる発明特定事項に着目しつつ明細書を見れば、段落【0103】には、「いくつかの実施形態では、ステントの引抜力は約300グラム(約2.94N)より大きい。」なる記載がある一方で、他に「2.94N」なる数値を裏付ける記載はないことから、同段落に記載の「引抜力試験」こそが、本件発明の「2.94Nより大きい引抜力」を測定するために適合した試験であるものと、当業者であれば普通に認識できるものといえる。
また、引抜力試験の諸条件に関連し、例えば、同段落には「材料に開いた穴はステントの大きさに応じておよそ10mm又は15mmであってよい。」なる記載があるが、この「10mm又は15mm」である「穴」は、一例示と解するのが相当であって、当該穴の径を含む、その他の諸条件は、試験を行うに当たり、対象となるステントの大きさ等に対応しつつ適宜に定め得るところである。
そうすると、本件の明細書の記載に接した当業者であれば、「2.94Nより大きい引抜力」を上記の「引抜力試験」を用いて実現しつつ、本件発明の「ステント」ないし「医療用具」を、過度の試行錯誤を経ることなく、製造し、また、使用することができるものといえる。
よって、明細書の発明の詳細な説明の記載に不備はなく、取消しの理由2によっては、本件発明に係る特許を取り消すことができない。

(2)理由3について
上記(1)で示したとおり、本件発明の「2.94Nより大きい引抜力」は、明細書段落【0103】において裏付けられているものであるから、当業者であれば、明細書の記載を参酌しつつ、その意味を明確に把握できるものである。
よって、「2.94Nより大きい引抜力」を発明特定事項として含む本件発明は明確であって、取消しの理由3によっては、本件発明に係る特許を取り消すことができない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、次の各理由も主張しているので、以下に検討する。
(理由4)
本件発明13は、甲1に記載された発明である。よって、本件発明13は特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(理由5)
本件発明3、4、11、13は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本件発明3、4、11、13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(理由6)
本件発明3、4、11は、下記の甲第2号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、まとめて「明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が甲第2号証に係る上記の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、その出願人が甲第2号証に係る上記の特許出願の出願人と同一でもない。よって、本件発明3、4、11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


甲第2号証:特開2015-66221号公報(以下、甲第2号証に係る特許出願(特願2013-203657号)を「甲2出願」という。)

1 理由4、5について
1-1 甲1に記載された発明
甲1には、【請求項1】、【請求項2】、【請求項9】、【請求項21】、【請求項23】、【請求項24】、【0001】、【0014】?【0016】、【0022】?【0024】、【0047】の記載があり、【図1】、【図12F】、【図12G】の図示がある。
これらの記載及び図示を参照すれば、甲1の記載内容につき次の事項を認めることができる。
ア)組織アンカは、複数の隣接する組織層を締結する際に使用される医療デバイスである(【0001】)。
イ)組織アンカは、細長い管状構成を有する織物フィラメント編組で形成された本体を含んでいる(【請求項1】、【0026】、【図1】)。また、細長い管状構成は、本体がシースにより拘束された状態である(【請求項21】、【0022】)。
ウ)本体は、短縮された構成を有する(【請求項1】)。
エ)短縮された構成は、拡張されて二重壁フランジ構成をなした本体の近位端部、拡張されて二重壁フランジ構成をなした本体の遠位端部、及び各二重壁フランジ構成の間に延びる円筒形のサドル領域を備える(【請求項1】)。
オ)少なくとも本体の円筒形のサドル領域には膜が付されている(【0014】、【0015】)。
カ)膜付きの円筒形のサドル領域は、同膜付きの円筒形のサドル領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な開放性通路を有する(【請求項2】、【図12F】、【図12G】)。
キ)各二重壁フランジはそれぞれ、各二重壁フランジを貫通して流れることを可能にするように構成され、また、円筒形のサドル領域の開放性通路から離れるように該通路の軸に直交する方向に突出している(【請求項2】、【図12F】、【図12G】)。
ク)各二重壁フランジは、各二重壁フランジの間の組織壊死を引き起こすことなく組織の隣接する層を一緒に保持するように構成されている(【請求項23】、【請求項24】、【0023】、【0024】、【図12F】)。
ケ)組織アンカは自己拡張型のアンカであり、また、吻合を形成するアンカである(【請求項9】、【0047】)。
コ)本体は、柔軟性のある本体である(【0016】)。
サ)組織アンカは、移植された後に取り外されることを可能にするように構成されている(【0014】、【0047】)。
シ)組織アンカを送達するシステムは、組織アンカ及び、シースを備える送達カテーテルを含む(【請求項21】)。
ス)該シースは、該組織アンカの本体を該組織アンカの細長い管状構成に保持し、該本体を拘束から解放し、フランジが容易に拡張することを可能にするように該アンカに対して後退させられる(【0022】、【請求項21】)。

以上によれば、甲1には次の各発明が記載されているものと認められる。
「組織アンカであって、
拘束された細長い管状構成を有する織物フィラメント編物で形成された本体を含んでなり、本体は、拡張されて二重壁フランジ構成をなした本体の近位端部、拡張されて二重壁フランジ構成をなした前記本体の遠位端部、及び各二重壁フランジ構成の間に延びる円筒形のサドル領域を備えた短縮された構成を有し、少なくとも本体の円筒形のサドル領域には膜が付されており、
膜付きの円筒形のサドル領域は、同膜付きの円筒形のサドル領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な開放性通路を有し、
各二重壁フランジはそれぞれ、各二重壁フランジを貫通して流れることを可能にするように構成され、円筒形のサドル領域の開放性通路から離れるように該通路の軸に直交する方向に突出しており、
各二重壁フランジは、各二重壁フランジの間の組織壊死を引き起こすことなく組織の隣接する層を一緒に保持するように構成されている、組織アンカ。」(以下「甲1発明A」という。)

「自己拡張型の、吻合を形成する組織アンカであって、
細長い管状構成及び短縮された構成を有する柔軟性のある本体を含んでなり、短縮された構成は、拡張されて二重壁フランジ構成をなした本体の近位端部、拡張されて二重壁フランジ構成をなした前記本体の遠位端部、及び各二重壁フランジ構成の間に延びる円筒形のサドル領域を備え、少なくとも本体の円筒形のサドル領域には膜が付されており、
膜付きの円筒形のサドル領域は、同膜付きの円筒形のサドル領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な開放性通路を有し、
各二重壁フランジはそれぞれ、各二重壁フランジを貫通して流れることを可能にするように構成され、円筒形のサドル領域の開放性通路から離れるように該通路の軸に直交する方向に突出しており、
組織アンカは、移植された後に取り外されることを可能にするように構成されており、
各二重壁フランジは、各二重壁フランジの間の組織壊死を引き起こすことなく組織の隣接する層を一緒に保持するように構成されている、組織アンカ。」(以下「甲1発明B」という。)

「組織アンカを送達するシステムであって、
甲1発明Aの組織アンカ、及び
シースを備える送達カテーテルを含んでなり、
該シースは、該組織アンカの本体を組織アンカの細長い管状構成に保持し、該本体を拘束から解放し、フランジが容易に拡張することを可能にするように該アンカに対して後退させられる、システム。」(以下「甲1発明C」という。)

1-2 本件発明3について
(1)対比
本件発明3と甲1発明Aとを対比すると、後者の「組織アンカ」は、その用語、形状、機能等からみて前者の「ステント」に相当する。
以下同様に、
「拘束された細長い管状構成」は「拘束された形態」に、
「織物フィラメント編物で形成された本体」は「製織フィラメント編組物で形成されたステント本体」に、
「二重壁フランジ構成をなした本体の近位端部」の「二重壁フランジ構成」は「基端側フランジ」に、
「近位端部」は「基端」に、
「二重壁フランジ構成をなした本体の遠位端部」の「二重壁フランジ構成」は「先端側フランジ」に、
「遠位端部」は「先端」に、
「各二重壁フランジ構成の間に延びる」は「基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる」に、
「円筒形のサドル領域」は「円筒形領域」に、
「短縮された構成」は「拡張形態」に、
「膜」は「カバー」に、
「開放性通路」は「内部通路」に、
「各二重壁フランジはそれぞれ、各二重壁フランジを貫通して」は「基端側フランジ及び先端側フランジは、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して」に、
「各二重壁フランジは、各二重壁フランジの間の組織壊死を引き起こすことなく組織の隣接する層を一緒に保持する」は「基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置する」に、
それぞれ相当する。
また、後者の「各二重壁フランジ」は、「組織の隣接する層を一緒に保持する」のであるから所定の保持力、即ち引抜力を有するものといえるので、前者の「基端側及び先端側フランジ」とは、“基端側及び先端側フランジは各々所定の引抜力を有する”点で共通する。

してみると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端、及び基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側フランジ及び先端側フランジは、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側及び先端側フランジは各々所定の引抜力を有する、ステント。」

<相違点1>
引抜力に関し、前者では、「基端側及び先端側フランジは各々2.94Nより大きい引抜力を有する」のに対し、後者では、基端側及び先端側フランジがどのような大きさの引抜力を有するのか不明な点。

<相違点2>
前者は、「基端側フランジはステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備え、先端側フランジはステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備えている」のに対し、後者では、基端側フランジ及び先端側フランジは、内部通路から離れるように該通路の軸に直交する方向に突出するものであって、巻き込み型の壁を備えるものではない点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1には、通路の軸に直交する方向に突出する二重壁フランジを、巻き込み型の形状に変更する点について記載も示唆もないし、この変更を行うことが単なる設計事項であるともいえない。
また、ステントに形成される二重壁フランジを用いて、巻き込み型の壁を形成することが、本技術分野において従来周知であったとする証拠も見当たらない。
そして、本件発明3は、相違点2における前者の特定事項を備えることにより、本件特許明細書(【0114】、【0121】)記載の作用効果を奏するものである。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明Aに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
したがって、本件発明3に係る特許は、特許異議申立人による理由5によっては、取り消すことができない。

1-3 本件発明4について
(1)対比
上記「1-2」の「(1)対比」での検討を踏まえつつ、本件発明4と甲1発明Aとを対比すると、両者は、上記の一致点で一致するとともに、相違点1に加え、次の点で相違する。
<相違点3>
前者は、「基端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されており、先端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されている」のに対し、後者では、基端側フランジ及び先端側フランジは、内部通路から離れるように該通路の軸に直交する方向に突出するものであって、円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されるものではない点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1には、通路の軸に直交する方向に突出する二重壁フランジを、円筒形領域を覆うような屈曲形状に変更する点について記載も示唆もないし、この変更を行うことが単なる設計事項であるともいえない。
また、ステントに形成される二重壁フランジを用いて、円筒形領域を覆うような屈曲を形成することが、本技術分野において従来周知であったとする証拠も見当たらない。
そして、本件発明4は、相違点3における前者の特定事項を備えることにより、本件特許明細書(【0109】)記載の作用効果を奏するものである。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明Aに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
したがって、本件発明4に係る特許は、特許異議申立人による理由5によっては、取り消すことができない。

1-4 本件発明11について
(1)対比
本件発明11と甲1発明Bとを対比すると、後者の「自己拡張型の、吻合を形成する組織アンカ」は、その用語、形状、機能等からみて前者の「自己拡張型の吻合ステント」に相当する。
以下同様に、
「細長い管状構成」は「非拡張形態」に、
「短縮された構成」は「拡張形態」に、
「柔軟性のある本体」は「可撓性の本体」に、
「二重壁フランジ構成をなした本体の近位端部」の「二重壁フランジ構成」は「基端側フランジ」に、
「近位端部」は「基端」に、
「二重壁フランジ構成をなした本体の遠位端部」の「二重壁フランジ構成」は「先端側フランジ」に、
「遠位端部」は「先端」に、
「各二重壁フランジ構成の間に延びる」は「基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる」に、
「円筒形のサドル領域」は「円筒形領域」に、
「膜」は「カバー」に、
「開放性通路」は「内部通路」に、
「各二重壁フランジはそれぞれ、各二重壁フランジを貫通して流れることを可能にするように構成され、円筒形のサドル領域の開放性通路から離れるように該通路の軸に直交する方向に突出しており」は「基端側及び先端側フランジはそれぞれ、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように円筒形領域の内部通路から離れるように突出しており」に、
「移植された後に取り外されることを可能にする」は「患者の体内で拡張形態から回収可能である」に
「各二重壁フランジは、各二重壁フランジの間の組織壊死を引き起こすことなく組織の隣接する層を一緒に保持する」は「基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置する」に、
それぞれ相当する。
また、後者の「各二重壁フランジ」は、「組織の隣接する層を一緒に保持する」のであるから所定の保持力、即ち引抜力を有するものといえるので、前者の「基端側及び先端側フランジ」とは、“基端側及び先端側フランジは各々所定の引抜力を有する”点で共通する。

してみると、両者は、
「自己拡張型の吻合ステントであって、
非拡張形態及び拡張形態を有する可撓性の本体を含んでなり、拡張形態は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端部、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端部、及び基端側フランジと先端側フランジとの間の円筒形領域を備え、少なくとも円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側及び先端側フランジはそれぞれ、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように円筒形領域の内部通路から離れるように突出しており、
ステントは、患者の体内で拡張形態から回収可能であるように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側フランジ及び先端側フランジは各々所定の引抜力を有する、ステント。」
である点で一致し、上記の相違点1及び相違点3で相違する。

(2)判断
事案に鑑み、相違点3について検討するに、相違点3については、上記「1-3」において検討したとおりである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明11は、甲1発明Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
したがって、本件発明11に係る特許は、特許異議申立人による理由5によっては、取り消すことができない。

1-5 本件発明13について
(1)対比
上記「1-2」の「(1)対比」での検討を踏まえつつ、本件発明13と甲1発明Cとを対比する。
ア)後者の「組織アンカを送達するシステム」は、その機能等からみて前者の「医療用具」に相当し、同様に、後者における
「組織アンカの本体を組織アンカの細長い管状構成に保持」する「シース」は、前者の
「ステントを拘束された状態に保持するように構成されたステント保持具」に相当する。
イ)後者に含まれる「シースを備える送達カテーテル」には、「後退させられる」「シース」を後退操作するための適宜のハンドル部材やシャフト部材が実質的に備えられているものと解される。そうすると、両者は、「ハンドル、ハンドルに係合したシャフト、」及び「ステント保持具」を「含んでな」る点で一致する。
ウ)後者の「シース」が適宜の材料を備えること、また、組織アンカの留置後に除去されるものであることは、いずれも技術常識からみて明らかであることを踏まえると、後者の「該シースは、該組織アンカの本体を組織アンカの細長い管状構成に保持し、該本体を拘束から解放し、フランジが容易に拡張することを可能にするように該アンカに対して後退させられる」事項は、前者の「ステント保持具は、前記ステントを拘束する材料であって、拘束された状態にステントを保持するように構成され、前記ステントが拡張するのを可能にするべく解けるように構成され、かつ前記ステントの留置後に除去可能であるように構成された材料を備えている」事項と、“ステント保持具は、前記ステントを拘束する材料であって、拘束された状態にステントを保持するように構成され、前記ステントが拡張するのを可能にするべく構成され、かつ前記ステントの留置後に除去可能であるように構成された材料を備えている”点で共通する。

してみると、両者は、
「医療用具であって、
ハンドル、
ハンドルに係合したシャフト、
ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端、及び基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側フランジ及び先端側フランジは、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側及び先端側フランジは各々所定の引抜力を有する、ステント、及び
前記ステントを拘束された状態に保持するように構成されたステント保持具を含んでなり、
ステント保持具は、前記ステントを拘束する材料であって、拘束された状態にステントを保持するように構成され、前記ステントが拡張するのを可能にするべく構成され、かつ前記ステントの留置後に除去可能であるように構成された材料を備えている、医療用具。」
である点で一致するとともに、上記相違点1に加え、次の点で相違する。
<相違点4>
ステントが拡張するのを可能にするに当たり、前者では、ステントを拘束する材料が「解けるように構成され」ているのに対し、後者では、解けるのではなく、後退する点。

(2)判断
上記のとおり、本件発明13と甲1発明Cとは、相違点1及び相違点4で相違することから、本件発明13は、甲1発明Cではない。
そこで、各相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、相違点4について検討するに、甲1には、甲1発明Cのシースを解くことによりステントを拡張させる点について記載も示唆もないし、甲1発明Cのシースを解けるシースに変更することが単なる設計事項であるともいえない。
また、ステントを拘束する材料を、ステントが拡張するのを可能にするべく解けるように構成することが、本技術分野において従来周知であったとする証拠も見当たらない。
そして、本件発明13は、相違点4における前者の特定事項を備えることにより、本件特許明細書(【0078】?【0081】)記載の作用効果を奏するものである。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明Cに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
したがって、本件発明13に係る特許は、特許異議申立人による理由4及び理由5によっては、取り消すことができない。

2 理由6について
2-1 甲2出願の明細書等に記載された発明
甲第2号証には、【請求項1】、【0014】?【0016】、【0032】?【0035】、の記載があり、【図1】?【図3】の図示がある。
これらの記載及び図示を参照すれば、甲2出願の明細書等の記載内容につき次の事項を認めることができる。
ア)ステントは、管腔臓器と他の管腔臓器とをバイパス接続するための管腔臓器間バイパス用ステントであって、筒状の本体部12を含む。
イ)筒状の本体部12は、ベアステント13を含み、ベアステント13は編込みで形成されている(【0016】)。
ウ)ベアステント13は、弾性を有する線状の部材により形成された第1フッキング部14をなした本体部の第1端部、弾性を有する線状の部材により形成された第2フッキング部15をなした本体部の第2端部を有する(【0015】、【0032】、【0033】)
エ)ベアステント13は、第1フッキング部14と第2フッキング部15との間に延びる筒状領域を備え、該領域には、被覆フィルム部12aが付され、また、被覆フィルム部12a付きの筒状領域は、該領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部流路を有している(【0016】、【図1】)
オ)第1フッキング部14及び第2フッキング部15は、筒状領域の内部流路から離れるように突出しており、第1フッキング部14及び第2フッキング部15との間の臓器組織を傷つけることなく構成されている(段落【0035】、【図1】)。
カ)第1フッキング部14は被覆フィルム部12a付きの筒状領域を覆うように屈曲するように構成されており、第2フッキング部15は被覆フィルム部12a付きの筒状領域を覆うように屈曲するように構成されている(【請求項1】、【図1】)。
キ)ステントは、自己拡張型である(段落【0014】)。

以上によれば、甲2出願の明細書等には次の各発明が記載されているものと認められる。
「管腔臓器と他の管腔臓器とをバイパス接続するための管腔臓器間バイパス用ステントであって、
編込みで形成されたベアステントを含んでなり、ベアステントは、弾性を有する線状の部材により形成された第1フッキング部14をなした本体部の第1端部、弾性を有する線状の部材により形成された第2フッキング部15をなした本体部の第2端部、及び
第1フッキング部14と第2フッキング部15との間に延びる筒状領域を備え、筒状領域には、被覆フィルム部12aが付されており、
被覆フィルム部12a付きの筒状領域は、該領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部流路を有し、
第1フッキング部14及び第2フッキング部15は、第1フッキング部14及び第2フッキング部15との間の臓器組織を傷つけることなく構成されており、第1フッキング部14は被覆フィルム部12a付きの筒状領域を覆うように屈曲するように構成されており、第2フッキング部15は被覆フィルム部12a付きの筒状領域を覆うように屈曲するように構成されている、ステント。」(以下「甲2発明A」という。)

「自己拡張型の、管腔臓器と他の管腔臓器とをバイパス接続するための管腔臓器間バイパス用ステントであって、
ベアステントを含んでなり、弾性を有する線状の部材により形成された第1フッキング部14をなした本体部の第1端部、弾性を有する線状の部材により形成された第2フッキング部15をなした本体部の第2端部、及び第1フッキング部14と第2フッキング部15との間に延びる筒状領域を備え、筒状領域には、被覆フィルム部12aが付されており、
被覆フィルム部12a付きの筒状領域は、該領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部流路を有し、
第1フッキング部14及び第2フッキング部15は、筒状領域の内部流路から離れるように突出しており、
第1フッキング部14及び第2フッキング部15は、第1フッキング部14及び第2フッキング部15との間の臓器組織を傷つけることなく構成されており、第1フッキング部14は被覆フィルム部12a付きの筒状領域を覆うように屈曲するように構成されており、第2フッキング部15は被覆フィルム部12a付きの筒状領域を覆うように屈曲するように構成されている、ステント。」(以下「甲2発明B」という。)

2-2 本件発明3について
(1)対比
本件発明3と甲2発明Aとを対比すると、後者の「管腔臓器間バイパスステント」は、その用語、形状、機能等からみて前者の「ステント」に相当する。
以下同様に、
「編込みで形成されたベアステント」は「製織フィラメント編組物で形成されたステント本体」に、
「第1端部」は「基端」に、
「第2端部」は「先端」に、
「筒状領域」は「円筒形領域」に、
「被覆フィルム部」は「カバー」に、
「内部流路」は「内部通路」に、
「臓器組織」は「身体組織」に、
それぞれ相当する。
後者の「第1フッキング部」は、「第2フッキング部」は、それぞれ、“基端側突出部”、“先端側突出部”である点で、前者の「基端側フランジ」、「先端側フランジ」と共通するところ、ステントの使用形態を踏まえると、後者のステントも、留置手技中は、拘束された形態を有し、留置後は、拡張形態を有するものといえるので、両者は、“拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側突出部をなした前記本体の基端、拡張されて先端側突出部をなした前記本体の先端、及び基端側突出部と先端側突出部との間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されている”点で共通する。
また、後者は、「管腔臓器と他の管腔臓器とをバイパス接続するための管腔臓器間バイパス用ステント」であるところ、明細書の「本体部12の全長Hは、バイパス接続すべき管腔臓器間の距離に応じて決定されるが、10mm?200mmとすることができ、40mm?120mmとすることが好ましい。」(【0026】)の記載からみて、少なくとも近くにある組織の層と層とを並置するためのものといえるので、後者の各「フッキング部」は、“身体組織の近くの層を並置する”点で共通する。
そして、このような並置に当たり、後者の「第1フッキング部」及び「第2フッキング部」は、所定の引抜力を当然に有するものといえることから、前者の「基端側及び先端側フランジ」とは、“各々所定の引抜力を有する”点で共通する。

してみると、両者は、
「ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側突出部をなした前記本体の基端、拡張されて先端側突出部をなした前記本体の先端、及び基端側突出部と先端側突出部との間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側突出部及び先端側突出部は、基端側突出部と先端側突出部との間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の近くの層を並置する構成されており、基端側及び先端側突出部は各々所定の引抜力を有する、ステント。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点5>
基端側突出部及び先端側突出部前者に関し、前者では、基端側突出部、先端側突出部がそれぞれ、「基端側フランジ」、「先端側フランジ」であって、各「フランジ」は、「同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており」、「身体組織の隣接する層を並置するように構成されており」、「各々2.94Nより大きい引抜力を有し」、「ステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備え」るのに対し、
後者では、弾性を有する線状の部材により形成された第1フッキング部、第2フッキング部であって、
i)線状であるが故に、流れは線状の部材を「貫通して流れる」ものではなく、また、「ステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁」を備えるものでなく、
ii)「各々2.94Nより大きい引抜力を有し」ているものか否か不明であり、
iii)並置される身体組織の層が近くの層ではあるものの互いに接する「隣接する層」であるのか否か不明である点。

(2)判断
上記(1)で示したとおり、本件発明3と甲2発明Aとの間に相違点がないとはいえない。
また、相違点5に係る前者の事項、即ち、ステントにおける基端側及び先端側の各突出部を拡張可能なフランジ形状とし、「フランジを貫通して流れることを可能にするように構成」した上で、「身体組織の隣接する層を並置するように構成」し、かつ「各々2.94Nより大きい引抜力を有し」、「ステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備え」るフランジと成すことが、本技術分野における従来周知の技術であったともいえないことから、相違点5は、周知技術の付加、削除、転換等に該当せず、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。
そうすると、本件発明3は、甲2発明Aと実質同一であるともいえない。

2-3 本件発明4について
(1)対比
上記「2-2」の「(1)対比」での検討を踏まえつつ、本件発明4と甲2発明Aとを対比すると、両者は、
「ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側突出部をなした前記本体の基端、拡張されて先端側突出部をなした前記本体の先端、及び基端側突出部と先端側突出部との間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側突出部及び先端側突出部は、基端側突出部と先端側突出部との間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の近くの層を並置する構成されており、基端側及び先端側突出部は所定の引抜力を有し、基端側突出部はカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されており、先端側突出部はカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されており、基端側及び先端側突出部は各々所定の引抜力を有する、ステント。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点6>
基端側突出部及び先端側突出部前者に関し、前者では、基端側突出部、先端側突出部がそれぞれ、「基端側フランジ」、「先端側フランジ」であって、各「フランジ」は、「同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており」、「身体組織の隣接する層を並置するように構成されており」、「各々2.94Nより大きい引抜力を有し」、「基端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されており、先端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されている」のに対し、
後者では、基端側突出部、先端側突出部が、それぞれ、弾性を有する線状の部材により形成された第1フッキング部、第2フッキング部であって、
i)線状であるが故に、流れは線状の部材を「貫通して流れる」ものではなく、また、「フランジがカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲する」ものでもなく、
ii)「各々2.94Nより大きい引抜力を有し」ているのか否か不明であり、
iii)突出部により並置される身体組織の層は、近くの層ではあるものの互いに接する「隣接する層」であるのか否かも不明である点。

(2)判断
上記(1)で示したとおり、本件発明4と甲2発明Aとの間に相違点がないとはいえない。
また、相違点6に係る前者の事項、即ち、ステントにおける基端側及び先端側の各突出部を拡張可能なフランジ状の形状とし、「貫通して流れることを可能にするように構成」した上で、「身体組織の隣接する層を並置するように構成」し、かつ「各々2.94Nより大きい引抜力を有し」、「カバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成され」た「基端側及び先端側フランジ」と成すことが、本技術分野における従来周知の技術であったともいえないことから、相違点6は、周知技術の付加、削除、転換等に該当せず、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。
そうすると、本件発明4は、甲2発明Aと実質同一であるともいえない。

2-4 本件発明11について
(1)対比
上記「2-2」の「(1)対比」、での検討を踏まえつつ、本件発明11と甲2発明Bとを対比する。
後者の「管腔臓器と他の管腔臓器とをバイパス接続するための管腔臓器間バイパス用ステント」は、その機能からみて、前者の「吻合ステント」に相当する。
後者の「ステント」も「自己拡張型」であるから、非拡張形態及び拡張形態を有すると共に適宜の可撓性も有することは明らかといえるので、両者は、
“非拡張形態及び拡張形態を有する可撓性の本体を含んでなり、拡張形態は、拡張されて基端側突出部をなした前記本体の基端部、拡張されて先端側突出部をなした前記本体の先端部、及び基端側フランジと先端側フランジとの間の円筒形領域を備え、少なくとも円筒形領域にはカバーが付されている”点で共通する。

してみると、両者は、
「自己拡張型の吻合ステントであって、
非拡張形態及び拡張形態を有する可撓性の本体を含んでなり、拡張形態は、拡張されて基端側突出部をなした前記本体の基端部、拡張されて先端側突出部をなした前記本体の先端部、及び基端側突出部と先端側突出部との間の円筒形領域を備え、少なくとも円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側及び先端側突出部はそれぞれ、同基端側突出部及び先端側突出部を貫通して流れることを可能にするように円筒形領域の内部通路から離れるように突出しており、
基端側突出部及び先端側突出部は、基端側突出部と先端側突出部との間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の近くの層を並置する構成されており、ており、基端側及び先端側突出部は各々所定の引抜力を有し、基端側突出部はカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されており、先端側突出部はカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されている、ステント。」
である点で一致し、上記相違点6に加え、次の点で相違する。
<相違点7>
前者では、「ステントは、患者の体内で拡張形態から回収可能であるように構成されて」いるのに対し、後者では、ステントが回収可能であるのか否か不明な点。

(2)判断
上記(1)で示したとおり、本件発明11と甲2発明Bとの間に相違点がないとはいえない。
また、相違点6については、上記「2-3」の「(2)判断」において検討したとおりであるから、本件発明11は、他の相違点について検討するまでもなく、甲2発明Bと実質同一であるともいえない。

2-5 小括
したがって、本件発明3、4、11に係る特許は、特許異議申立人による理由6によっては、取り消すことができない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載の理由及び証拠によっては、請求項3、4、11、13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項3、4、11、13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1、2、5?10、12、14、15に係る特許は、上記のとおり削除されたので、特許異議申立人がした請求項1、2、5?10、12、14、15に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったことから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端、及び基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側フランジ及び先端側フランジは、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側及び先端側フランジは各々2.94Nより大きい引抜力を有し、基端側フランジはステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備え、先端側フランジはステントの通行可能な内部通路に向かって巻いている巻き込み型の壁を備えている、ステント。
【請求項4】
ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端、及び基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側フランジ及び先端側フランジは、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側及び先端側フランジは各々2.94Nより大きい引抜力を有し、基端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されており、先端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されている、ステント。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
自己拡張型の吻合ステントであって、
非拡張形態及び拡張形態を有する可撓性の本体を含んでなり、拡張形態は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端部、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端部、及び基端側フランジと先端側フランジとの間の円筒形領域を備え、少なくとも円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側及び先端側フランジはそれぞれ、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように円筒形領域の内部通路から離れるように突出しており、
ステントは、患者の体内で拡張形態から回収可能であるように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側フランジ及び先端側フランジは各々2.94Nより大きい引抜力を有し、基端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成され、先端側フランジはカバー付きの円筒形領域を覆うように屈曲するように構成されている、ステント。
【請求項12】(削除)
【請求項13】
医療用具であって、
ハンドル、
ハンドルに係合したシャフト、
ステントであって、
拘束された形態を有する製織フィラメント編組物で形成されたステント本体を含んでなり、ステント本体は、拡張されて基端側フランジをなした前記本体の基端、拡張されて先端側フランジをなした前記本体の先端、及び基端側フランジと先端側フランジとの間に延びる円筒形領域を備えた拡張形態を有し、少なくともステントの円筒形領域にはカバーが付されており、
カバー付きの円筒形領域は、同カバー付きの円筒形領域を貫通して流れることを可能にするように構成された、通行可能な内部通路を有し、
基端側フランジ及び先端側フランジは、同基端側フランジ及び先端側フランジを貫通して流れることを可能にするように構成されており、
基端側フランジ及び先端側フランジは、基端側フランジと先端側フランジとの間の身体組織を傷つけることなく同身体組織の隣接する層を並置するように構成されており、基端側及び先端側フランジは各々2.94Nより大きい引抜力を有する、ステント、及び
前記ステントを拘束された状態に保持するように構成されたステント保持具を含んでなり、
ステント保持具は、前記ステントを拘束する材料であって、拘束された状態にステントを保持するように構成され、前記ステントが拡張するのを可能にするべく解けるように構成され、かつ前記ステントの留置後に除去可能であるように構成された材料を備えている、医療用具。
【請求項14】(削除)
【請求項15】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-19 
出願番号 特願2015-559009(P2015-559009)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61B)
P 1 651・ 16- YAA (A61B)
P 1 651・ 113- YAA (A61B)
P 1 651・ 536- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 槻木澤 昌司  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 寺川 ゆりか
関谷 一夫
登録日 2018-05-25 
登録番号 特許第6342431号(P6342431)
権利者 ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
発明の名称 吻合を形成するためのステントおよび同ステントを含む医療用具  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  

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