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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08C
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08C
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08C
管理番号 1355947
異議申立番号 異議2019-700107  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-08 
確定日 2019-08-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6371202号発明「アクリル重合体及びその製法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6371202号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1及び2〕について訂正することを認める。 特許第6371202号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6371202号(請求項の数5。以下,「本件特許」という。)は,平成26年11月20日を出願日とする特許出願(特願2014-235316号)に係るものであって,平成30年7月20日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成30年8月8日である。)。
その後,平成31年2月8日に,本件特許の請求項1?3に係る特許に対して,特許異議申立人である岡林茂(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

平成31年 2月 8日 特許異議申立書
4月12日付け 取消理由通知書
令和 1年 6月11日 意見書,訂正請求書
7月 2日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
8月 5日 意見書(申立人)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和1年6月11日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1及び2について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「重量平均分子量が7500未満のアクリル重合体」を,「重量平均分子量が7500未満であり,数平均分子量が1000未満のアクリル重合体」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2における「重量平均分子量が7500未満のアクリル重合体」を,「重量平均分子量が7500未満であり,数平均分子量が1000未満のアクリル重合体」に訂正する。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について,請求項2は,請求項1を直接引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1及び2について
訂正事項1及び2に係る訂正は,それぞれ,訂正前の請求項1及び2に対して,「数平均分子量が1000未満」との記載を追加するものである。
これらの訂正は,訂正前の請求項1及び2における「アクリル重合体」について,「数平均分子量が1000未満」のものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面には,以下の記載がある。
「本発明のアクリル重合体は,ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)で決定される数平均分子量が,好ましくは5000未満,更に好ましくは2000未満,特に好ましくは1000未満である。」(【0027】)
以上の記載によれば,上記訂正は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?5に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分をラジカル重合する工程(工程I)と,該工程Iで得られた重合体に水素添加する工程(工程II)と,を有し,
該工程Iにおける重合温度が200℃以上350℃以下である,
重量平均分子量が7500未満であり,数平均分子量が1000未満のアクリル重合体の製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は,得られるアクリル重合体の末端ビニル基の含有量が0質量%以上,1質量%以下である,請求項1に記載の重量平均分子量が7500未満であり,数平均分子量が1000未満のアクリル重合体の製造方法。
【請求項3】
数平均分子量が1000未満であり,重量平均分子量が1500未満であり,
イオウ分の含有量が2ppm未満であり,リン分の含有量が2ppm未満であり,金属分の含有量が100ppm未満であり,
末端ビニル基の含有量が0質量%以上,1質量%以下である,アクリル重合体。
【請求項4】
請求項3のアクリル重合体を含むことを特徴とする冷凍機用潤滑油。
【請求項5】
冷媒が水素含有フロンを用いたものである請求項4の冷凍機用潤滑油。

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許の請求項1?3に係る特許は,下記(1)?(5)のとおり,特許法113条2号に該当する。証拠方法として,下記(6)の甲第1号証及び甲第2号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(3)申立理由3(新規性)
本件訂正前の請求項3に係る発明は,甲2に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(4)申立理由4(進歩性)
本件訂正前の請求項3に係る発明は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(5)申立理由5(進歩性)
本件訂正前の請求項3に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(6)証拠方法
・甲1 国際公開第2014/167999号
・甲2 国際公開第01/83619号

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(新規性)
上記1の申立理由1(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項1及び2に係る発明に対するもの。)と同旨。
(2)取消理由2(進歩性)
上記1の申立理由2(進歩性)(ただし,本件訂正前の請求項1及び2に係る発明に対するもの。)と同旨。
(3)取消理由3(明確性要件)
本件訂正前の請求項2及び3に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項2及び3に係る特許は,同法113条4号に該当し,取り消すべきものである。

第5 当審の判断
以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
以下,まず,取消理由3(明確性要件)について検討し,次に,取消理由1(新規性),取消理由2(進歩性),申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)についてまとめて検討し,続けて,申立理由3(新規性),申立理由4(進歩性)についてまとめて検討し,最後に,申立理由5(進歩性)について検討する。

1 取消理由3(明確性要件)
平成31年4月12日付けの取消理由通知書では,本件訂正前の請求項2及び3に記載されるアクリル重合体の「末端ビニル基の含有量」について,その具体的な算出方法が明らかでないため,その意味が明確でないから,本件訂正前の請求項2及び3に係る発明は明確ではない旨,指摘した。
これに対して,特許権者は,意見書において,本件明細書には,「末端ビニル基の含有量は,例えば^(1)HNMRより,末端ビニル基と単量体構造のモル比を評価し,質量比に換算することにより算出することができる。」(【0026】),「^(1)H-NMRより,5.6ppm,6.2ppm付近の末端ビニル基由来のピークと4ppm付近のアクリル酸エステルの酸素に近いメチレン鎖に由来するピークの比より,繰り返し単位に対するビニル基のモル比を求め,質量換算することにより求めた。」(【0040】)と記載されているところ,実施例1で得られた重合体の^(1)H-NMRのチャートから,5.6ppm,6.2ppm付近の末端ビニル基のプロトン2個分の積分値(A)と,4ppm付近のアクリル酸エステルの酸素に近いメチレン鎖のプロトン2個分の積分値(B)とが,それぞれ,2.00及び29.74と算出され,これらの値から,アクリル酸エチルの単量体100モル%に対する重合体に残存する二重結合のモル比は,(2.00/2)/(29.74/2)×100=6.7モル%と算出され,ビニル基の式量27をアクリル酸エチルの式量100.12で除した値を掛けることにより,末端ビニル基の含有量が6.7×27/100.12=1.8質量%と算出されるから,当業者は,本件明細書の【0026】,【0040】の記載に基づき,本件発明2及び3におけるアクリル重合体の「末端ビニル基の含有量」の算出方法を理解することができると主張した。
以上の主張によれば,請求項2及び3に記載されるアクリル重合体の「末端ビニル基の含有量」の意味は明確といえるから,取消理由3(明確性要件)は解消した。
したがって,取消理由3(明確性要件)によっては,本件特許の請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由1(新規性),取消理由2(進歩性),申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,3?5,[0002]?[0007],[0018]?[0022],[0026]?[0029],製造例1?10,表1)によれば,特に,製造例1及び5,製造例2及び6?8並びに製造例4及び10に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式攪拌槽型反応器のジャケット温度を248℃に保ち,次いで,反応器の圧力を一定に保ちながら,単量体として,n-ブチルアクリレート(100部),重合溶媒として,イソプロピルアルコール(4.2部)及びメチルエチルケトン(12.2部),重合開始剤として,ジ-tert-ブチルパーオキサイド(1.0部)からなる単量体混合物を,一定の供給速度(48g/分,滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給を開始し,単量体混合物の供給量に相当する反応液を出口から連続的に抜き出し,反応開始直後に,一旦反応温度が低下した後,重合熱による温度上昇が認められたが,オイルジャケット温度を制御することにより,反応器の内温を239?241℃に保持し,反応器内温が安定してから36分後の時点を,反応液の採取開始点とし,これから25分間反応を継続し,この製造では,結果として,1.2kgの単量体混合物を供給し,1.2kgの反応液を回収し,その後,反応液を薄膜蒸発器に導入して,未反応モノマー等の揮発成分の分離及び除去を行い,重合体B1を製造し,
重合体B1のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,600,重量平均分子量(Mw)が3,000であり,E型粘度計による25℃における粘度が1,000mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-77℃であり,^(1)H-NMR測定による二重結合濃度は0.36meq/gであり,
オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式撹拌槽型反応器に,上記で得た重合体B1(700g)及び乾燥した5%パラジウムカーボン(3.5g)を入れ,反応器内の雰囲気を真空にし,その後,内温を130℃に加温し,水素で約1.5MPaまで加圧し,この状態で,8時間撹拌し,水素付加反応を行い,圧力をパージした後,ろ過助剤として,昭和化学工業社製珪藻土「ラジオライト#100」を用いて,ろ過し,重合体B5を製造し,
重合体B5のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,600,重量平均分子量(Mw)が3,000であり,E型粘度計による25℃における粘度が1,000mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-77℃であり,^(1)H-NMRによる二重結合濃度は検出下限(0.01meq/g)以下である,
重合体B5の製造方法。」(以下,「甲1発明1」という。)

「オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式攪拌槽型反応器のジャケット温度を245℃に保ち,次いで,反応器の圧力を一定に保ちながら,単量体として,2-エチルヘキシルアクリレート(75部)及びメチルメタクリレート(25部),重合溶媒として,メチルエチルケトン(4.6部),重合開始剤として,ジ-tert-ブチルパーオキサイド(0.77部)からなる単量体混合物を,一定の供給速度(48g/分,滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給を開始し,単量体混合物の供給量に相当する反応液を出口から連続的に抜き出し,反応開始直後に,一旦反応温度が低下した後,重合熱による温度上昇が認められたが,オイルジャケット温度を制御することにより,反応器の内温を240?242℃に保持し,反応器内温が安定してから36分後の時点を,反応液の採取開始点とし,これから25分間反応を継続し,この製造では,結果として,1.2kgの単量体混合物を供給し,1.2kgの反応液を回収し,その後,反応液を薄膜蒸発器に導入して,未反応モノマー等の揮発成分の分離及び除去を行い,重合体B2を製造し,
重合体B2のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,500,重量平均分子量(Mw)が2,400であり,E型粘度計による25℃における粘度が3,600mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-64℃であり,^(1)H-NMR測定による二重結合濃度は0.63meq/gであり,
オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式撹拌槽型反応器に,上記で得た重合体B2(700g)及び乾燥した5%パラジウムカーボン(3.5g)を入れ,反応器内の雰囲気を真空にし,その後,内温を60℃に加温し,水素で約0.3MPaまで加圧し,この状態で,4時間撹拌し,水素付加反応を行い,圧力をパージした後,ろ過助剤として,昭和化学工業社製珪藻土「ラジオライト#100」を用いて,ろ過し,重合体B6を製造し,
重合体B6のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,500,重量平均分子量(Mw)が2,400であり,E型粘度計による25℃における粘度が3,600mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-64℃であり,^(1)H-NMRによる二重結合濃度は0.22meq/gである,
重合体B6の製造方法。」(以下,「甲1発明2」という。)

「オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式攪拌槽型反応器のジャケット温度を245℃に保ち,次いで,反応器の圧力を一定に保ちながら,単量体として,2-エチルヘキシルアクリレート(75部)及びメチルメタクリレート(25部),重合溶媒として,メチルエチルケトン(4.6部),重合開始剤として,ジ-tert-ブチルパーオキサイド(0.77部)からなる単量体混合物を,一定の供給速度(48g/分,滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給を開始し,単量体混合物の供給量に相当する反応液を出口から連続的に抜き出し,反応開始直後に,一旦反応温度が低下した後,重合熱による温度上昇が認められたが,オイルジャケット温度を制御することにより,反応器の内温を240?242℃に保持し,反応器内温が安定してから36分後の時点を,反応液の採取開始点とし,これから25分間反応を継続し,この製造では,結果として,1.2kgの単量体混合物を供給し,1.2kgの反応液を回収し,その後,反応液を薄膜蒸発器に導入して,未反応モノマー等の揮発成分の分離及び除去を行い,重合体B2を製造し,
重合体B2のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,500,重量平均分子量(Mw)が2,400であり,E型粘度計による25℃における粘度が3,600mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-64℃であり,^(1)H-NMR測定による二重結合濃度は0.63meq/gであり,
オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式撹拌槽型反応器に,上記で得た重合体B2(700g)及び乾燥した5%パラジウムカーボン(3.5g)を入れ,反応器内の雰囲気を真空にし,その後,内温を100℃に加温し,水素で約0.3MPaまで加圧し,この状態で,4時間撹拌し,水素付加反応を行い,圧力をパージした後,ろ過助剤として,昭和化学工業社製珪藻土「ラジオライト#100」を用いて,ろ過し,重合体B7を製造し,
重合体B7のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,500,重量平均分子量(Mw)が2,400であり,E型粘度計による25℃における粘度が3,600mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-64℃であり,^(1)H-NMRによる二重結合濃度は0.13meq/gである,
重合体B7の製造方法。」(以下,「甲1発明3」という。)

「オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式攪拌槽型反応器のジャケット温度を245℃に保ち,次いで,反応器の圧力を一定に保ちながら,単量体として,2-エチルヘキシルアクリレート(75部)及びメチルメタクリレート(25部),重合溶媒として,メチルエチルケトン(4.6部),重合開始剤として,ジ-tert-ブチルパーオキサイド(0.77部)からなる単量体混合物を,一定の供給速度(48g/分,滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給を開始し,単量体混合物の供給量に相当する反応液を出口から連続的に抜き出し,反応開始直後に,一旦反応温度が低下した後,重合熱による温度上昇が認められたが,オイルジャケット温度を制御することにより,反応器の内温を240?242℃に保持し,反応器内温が安定してから36分後の時点を,反応液の採取開始点とし,これから25分間反応を継続し,この製造では,結果として,1.2kgの単量体混合物を供給し,1.2kgの反応液を回収し,その後,反応液を薄膜蒸発器に導入して,未反応モノマー等の揮発成分の分離及び除去を行い,重合体B2を製造し,
重合体B2のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,500,重量平均分子量(Mw)が2,400であり,E型粘度計による25℃における粘度が3,600mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-64℃であり,^(1)H-NMR測定による二重結合濃度は0.63meq/gであり,
オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式撹拌槽型反応器に,上記で得た重合体B2(700g)及び乾燥した5%パラジウムカーボン(3.5g)を入れ,反応器内の雰囲気を真空にし,その後,内温を130℃に加温し,水素で約1.5MPaまで加圧し,この状態で,8時間撹拌し,水素付加反応を行い,圧力をパージした後,ろ過助剤として,昭和化学工業社製珪藻土「ラジオライト#100」を用いて,ろ過し,重合体B8を製造し,
重合体B8のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,500,重量平均分子量(Mw)が2,400であり,E型粘度計による25℃における粘度が3,600mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-64℃であり,^(1)H-NMRによる二重結合濃度は検出下限(0.01meq/g)以下である,
重合体B8の製造方法。」(以下,「甲1発明4」という。)

「オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式攪拌槽型反応器のジャケット温度を244℃に保ち,次いで,反応器の圧力を一定に保ちながら,単量体として,2-エチルヘキシルアクリレート(77部),メチルメタクリレート(20部)及び3-メタクリロキシトリメトキシシラン(3部),重合溶媒として,メチルエチルケトン(13.1部)及びオルト酢酸メチル(3.8部),重合開始剤としてジ-tert-ブチルパーオキサイド(1.0部)からなる単量体混合物を,一定の供給速度(48g/分,滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給を開始し,単量体混合物の供給量に相当する反応液を出口から連続的に抜き出し,反応開始直後に,一旦反応温度が低下した後,重合熱による温度上昇が認められたが,オイルジャケット温度を制御することにより,反応器の内温を231?233℃に保持し,反応器内温が安定してから36分後の時点を,反応液の採取開始点とし,これから25分間反応を継続し,この製造では,結果として,1.2kgの単量体混合物を供給し,1.2kgの反応液を回収し,その後,反応液を薄膜蒸発器に導入して,未反応モノマー等の揮発成分の分離及び除去を行い,重合体B4を製造し,
重合体B4のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,400,重量平均分子量(Mw)が2,400であり,E型粘度計による25℃における粘度が2,200mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-65℃であり,^(1)H-NMR測定による二重結合濃度は0.56meq/gであり,
オイルジャケットを備えた容量1,000mLの加圧式撹拌槽型反応器に,上記で得た重合体B4(700g)及び乾燥した5%パラジウムカーボン(3.5g)を入れ,反応器内の雰囲気を真空にし,その後,内温を130℃に加温し,水素で約1.5MPaまで加圧し,この状態で,8時間撹拌し,水素付加反応を行い,圧力をパージした後,ろ過助剤として,昭和化学工業社製珪藻土「ラジオライト#100」を用いて,ろ過し,重合体B10を製造し,
重合体B10のGPC測定を行った結果,ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,400,重量平均分子量(Mw)が2,400であり,E型粘度計による25℃における粘度が2,200mPa・sであり,DSCによるガラス転移温度は-65℃であり,^(1)H-NMRによる二重結合濃度は検出下限(0.01meq/g)以下である,
重合体B10の製造方法。」(以下,「甲1発明5」という。)

(2)本件発明1について
ア 甲1発明1との対比
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1においては,「単量体として」の「n-ブチルアクリレート」を「重合」して重合体B1を製造しているが,その際,「重合開始剤として,ジ-tert-ブチルパーオキサイド」を用いていることから,上記「重合」がラジカル重合であることは明らかである。よって,甲1発明1において,「重合開始剤として,ジ-tert-ブチルパーオキサイド」を用い,「単量体として」の「n-ブチルアクリレート」を「重合」して重合体B1を製造することは,本件発明1における「(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分をラジカル重合する工程(工程I)」に相当する。
甲1発明1においては,重合体B1を製造する際に,「反応器の内温を239?241℃に保持し,反応器内温が安定してから36分後の時点を,反応液の採取開始点とし,これから25分間反応を継続し」ているが,「重合」時の温度は「239?241℃」といえるから,本件発明1における「該工程Iにおける重合温度が200℃以上350℃以下である」ことに相当する。
甲1発明1における「上記で得た重合体B1」に「水素付加反応を行」うことは,本件発明1における「該工程Iで得られた重合体に水素添加する工程(工程II)」に相当する。
甲1発明1における「重合体B5」は,アクリル重合体であることが明らかであり,「重量平均分子量(Mw)が3,000」であるから,本件発明1における「重量平均分子量が7500未満のアクリル重合体」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明1とは,
「(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分をラジカル重合する工程(工程I)と,該工程Iで得られた重合体に水素添加する工程(工程II)と,を有し,
該工程Iにおける重合温度が200℃以上350℃以下である,
重量平均分子量が7500未満のアクリル重合体の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,アクリル重合体の「数平均分子量が1000未満」であるのに対して,甲1発明1では,重合体B5の「ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,600」である点。

(イ)相違点1の検討
a まず,相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明1は,本件発明1と対比する前提で適切と解される発明を,甲1の記載のうち,特に製造例1及び5に着目して認定したものであるところ,その製造例1及び5で実際に製造された重合体である重合体B5は,その「ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,600」であるから,本件発明1におけるアクリル重合体の「数平均分子量が1000未満」とは,明らかに異なる。
以上によれば,相違点1は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

b 次に,相違点1の容易想到性について検討する。
(a)本件発明1は,アクリル重合体の製造方法に関するものである。
本件明細書の記載(【0001】?【0010】,【0013】?【0018】,【0022】,【0026】?【0030】,【0039】?【0045】,表1,図1,図2)によれば,本件発明1は,熱安定性等の耐久性に優れる低分子量アクリル重合体を簡便に製造することができる方法及び該方法により製造されるアクリル重合体を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,本件発明1は,「重量平均分子量が7500未満」であり,「数平均分子量が1000未満」のアクリル重合体の製造方法において,「重合温度が200℃以上350℃以下」で,「(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分をラジカル重合」し,「得られた重合体に水素添加する」ものであり,それにより,熱安定性等の耐久性に優れる低分子量アクリル重合体を簡便に製造することができるという効果のほか,製造されるアクリル重合体は,安定性に優れる(長時間高温にさらされても分子量の変化や色目の変化が少ない。)とともに,連鎖移動剤や金属系の触媒を使用しないことにより,連鎖移動剤に由来する臭気等の問題を回避することや,種々の安定性低下の要因となるイオウ分,リン分,金属分の含有量を少なく設定することが可能となり,また,冷凍機用潤滑油のごとき高い耐久性の要求される用途に好適に用いることができるという効果を奏するものである。
(b)一方,甲1発明1は,重合体B5の製造方法に関するものである。
甲1の記載(請求項1,3?5,[0002]?[0007],[0009],[0018]?[0022],[0026]?[0029],製造例1?10,表1)によれば,甲1に係る発明(請求項1)は,硬化性が良好であり,柔軟性に優れた硬化物を与える活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,甲1に係る発明は,活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれる重合体(B)として,ビニル系単量体を150?350℃の温度で重合した後,水素を付加することにより得られた重合体を用いるものであり,それにより,硬化性が良好であり,柔軟性に優れた硬化物,又は,基材に対する密着性が優れた硬化物を与えることができるという効果を奏するものである。
甲1発明1は,上記重合体(B)の具体的な製造例である製造例1及び5に着目して認定した,重合体B5の製造方法に関するものであって,その概要を示すと,単量体としてのn-ブチルアクリレートを239?241℃でラジカル重合して重合体B1を製造した後,重合体B1に水素付加反応を行うことにより,重量平均分子量が3,000である重合体B5を製造するものである。
(c)上記のとおり,本件発明1と甲1発明1とは,その解決しようとする課題が異なるものである。甲1には,熱安定性等の耐久性に優れる低分子量アクリル重合体を簡便に製造することができる方法及び該方法により製造されるアクリル重合体を提供することについて,何ら記載されておらず,また,そのために,「重量平均分子量が7500未満」であり,「数平均分子量が1000未満」のアクリル重合体の製造方法において,「重合温度が200℃以上350℃以下」で,「(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分をラジカル重合」し,「得られた重合体に水素添加する」ことについても,何ら記載されていない。
甲1には,重合体(B)の重量平均分子量について,好ましくは1,000?50,000であることが記載されているものの(請求項3,[0029]),数平均分子量については,特に1000未満が好ましい旨の記載はない。甲1には,製造例5?10で実際に製造された重合体B5?10における数平均分子量の値が記載されているが,そのいずれもが1000を超えるものである([0051]?[0056])。このような甲1の記載から,甲1発明1において,重合体B5の数平均分子量を1000未満とすることが動機付けられるとはいえない。
そして,本件発明1は,上記(a)で述べたとおりの,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,甲1発明1において,重合体B5の「ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)」につき,「1,600」に代えて,「1000未満」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 甲1発明2?5との対比
本件発明1と甲1発明2?5とを対比すると,上記アで述べたのと同様に,甲1発明2?5では,重合体B6?8及び10のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が,それぞれ,「1,500」,「1,500」,「1,500」,「1,400」である点で,本件発明1と相違するが,上記アで述べたのと同様の理由により,これらの相違点は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
また,上記アで述べたのと同様の理由により,甲1発明2?5において,重合体B6?8及び10の「ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)」につき,それぞれ,「1,500」,「1,500」,「1,500」,「1,400」に代えて,「1000未満」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 申立人の主張について
申立人は,甲1の【0018】?【0021】,【0027】には,重合体(B)の製造方法として,ビニル単量体を150?350℃の温度で重合する工程及び得られた重合体に水素を付加する工程が記載され,ビニル単量体として,(メタ)アクリレートを用いることが記載されていること,また,甲1の【0029】には,重合体(B)の重量平均分子量は,好ましくは1,000?50,000であることが記載されていることを指摘した上で,分子量分布のない樹脂でない限り,重合体の数平均分子量の数値は,必然的に重量平均分子量の値より小さくなることは明らかであるから,重量平均分子量が1,000?50,000であれば,その数平均分子量は,本件発明1における「数平均分子量が1000未満」と重複する蓋然性が高いとして,甲1に記載された重合体(B)の製造方法は,本件発明1に該当し,本件発明1は,甲1に記載された発明であるか,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する(意見書1?2頁)。
しかしながら,申立人が指摘する甲1の記載を前提としても,甲1には,重量平均分子量が1,000?50,000である重合体(B)の製造方法として,(メタ)アクリレート等のビニル単量体を150?350℃の温度で重合した後,得られた重合体に水素を付加するものが記載されているといえるにとどまる。
甲1には,重量平均分子量について,特に7500未満が好ましい旨の記載はなく,また,数平均分子量についても,特に1000未満が好ましい旨の記載はない。甲1には,製造例5?10で実際に製造された重合体B5?10における数平均分子量の値が記載されているが,そのいずれもが1000を超えるものである。このように,甲1は,本件発明1のような,「重量平均分子量が7500未満」であり,「数平均分子量が1000未満」のアクリル重合体に着目するものではない。上記ア(イ)bで検討した本件発明1と甲1に係る発明との相違も踏まえると,申立人が主張するように,重量平均分子量及び数平均分子量について,本件発明1における範囲と甲1における範囲とが重複する可能性があるとしても,そのことのみで,本件発明1が甲1に記載された発明であるなどということはできない。
上記のとおり,本件発明1と,(申立人が主張する)甲1に記載された重合体(B)の製造方法とは,少なくとも,重量平均分子量及び数平均分子量の点で相違するが,この相違点は実質的な相違点であるから,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。また,この相違点については,上記アで述べたのと同様の理由により,当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって,申立人の主張は採用できない。

(3)本件発明2について
本件発明2は,本件発明1を直接引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明3について
ア 甲1に記載された発明
上記(1)のとおり,甲1には,甲1発明1が記載されていると認められるところ,甲1には,甲1発明1に係る製造方法で製造された重合体B5自体に関する発明(以下,「甲1発明1’」という。)についても記載されていると認められる。この点,甲1発明2?5についても同様であり,甲1には,重合体B6?8及び10自体に関する発明(以下,それぞれ「甲1発明2’」?「甲1発明5’」という。)についても記載されていると認められる。

イ 甲1発明1’との対比
本件発明3と甲1発明1’とを対比すると,上記(2)ア(ア)と同様に,両者は,少なくとも,
「アクリル重合体。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点1’
本件発明3では,アクリル重合体の「数平均分子量が1000未満」であるのに対して,甲1発明1’では,重合体B5の「ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1,600」である点。
上記相違点1’について検討する。
相違点1’は,上記(2)ア(イ)で検討した相違点1と同様のものであるところ,上記(2)ア(イ)で述べたのと同様の理由により,相違点1’は実質的な相違点である。
したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
また,上記(2)ア(イ)で述べたのと同様の理由により,甲1発明1’において,重合体B5の「ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)」につき,「1,600」に代えて,「1000未満」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 甲1発明2’?5’との対比
本件発明3と甲1発明2’?5’とを対比すると,上記イで述べたのと同様に,甲1発明2’?5’では,重合体B6?8及び10のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が,それぞれ,「1,500」,「1,500」,「1,500」,「1,400」である点で,本件発明3と少なくとも相違するが,上記イで述べたのと同様の理由により,これらの相違点は実質的な相違点である。
したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
また,上記イで述べたのと同様の理由により,甲1発明2’?5’において,重合体B6?8及び10の「ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)」につき,それぞれ,「1,500」,「1,500」,「1,500」,「1,400」に代えて,「1000未満」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1?3は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由1(新規性),取消理由2(進歩性),申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(新規性),申立理由4(進歩性)
(1)甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1,3,12,1頁7?16行,3頁3?25行,4頁8?16行,5頁3?13行,23?25行,7頁22?27行,8頁5行?9頁22行,表1)によれば,特に,表1の重合体3及び5に着目すると,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「原料単量体としてアクリル酸エチル100質量部,溶剤としてイソプロピルアルコール20質量部,重合開始剤としてジターシャリブチルパーオキサイド0.5質量部を含むモノマー混合溶液を調製し,
電熱式ヒータを備えた容量300mlの加圧式攪拌槽型反応器を,3-エトキシプロピオン酸エチルで満たし,反応器内温度を230℃に維持し,圧力調節器により反応器内の圧力を2.45?2.65MPaに調整し,
反応器の圧力を一定に保ちながら,上記モノマー溶液を原料タンクから反応器に連続的に供給し,このとき,モノマー溶液の反応器内での滞留時間が13分となるように供給速度を設定し,また,単量体混合物の供給体積と等しい体積の反応物を反応器の出口から連続的に抜き出し,
単量体混合物の供給開始直後に,反応器内温度が一旦低下し,その後, 重合熱により,反応器内温度が上昇し,ヒータの制御により,反応温度は230℃に保持され,反応温度が安定した時点から,反応液の回収を開始し,回収開始時から154分間にわたって,反応を継続し,これにより,2000gの単量体混合液が供給され,1950gの反応液が回収され,
回収した反応液を薄膜蒸発器に導入し,235℃,30mmHgの雰囲気下で,反応液から未反応単量体および溶剤等の揮発成分を除去することにより得られた,約1500gの液状樹脂であり,重量平均分子量が1230,Q値が15.1,粘度が2710cP,末端二重結合指数が0.24の重合体3。」(以下,「甲2発明1」という。)

「原料単量体としてアクリル酸n-ブチル100質量部,溶剤としてイソプロピルアルコール20質量部,重合開始剤としてジターシャリブチルパーオキサイド0.5質量部を含むモノマー混合溶液を調製し,
電熱式ヒータを備えた容量300mlの加圧式攪拌槽型反応器を,3-エトキシプロピオン酸エチルで満たし,反応器内温度を230℃に維持し,圧力調節器により反応器内の圧力を2.45?2.65MPaに調整し,
反応器の圧力を一定に保ちながら,上記モノマー溶液を原料タンクから反応器に連続的に供給し,このとき,モノマー溶液の反応器内での滞留時間が13分となるように供給速度を設定し,また,単量体混合物の供給体積と等しい体積の反応物を反応器の出口から連続的に抜き出し,
単量体混合物の供給開始直後に,反応器内温度が一旦低下し,その後, 重合熱により,反応器内温度が上昇し,ヒータの制御により,反応温度は230℃に保持され,反応温度が安定した時点から,反応液の回収を開始し,回収開始時から154分間にわたって,反応を継続し,これにより,2000gの単量体混合液が供給され,1950gの反応液が回収され,
回収した反応液を薄膜蒸発器に導入し,235℃,30mmHgの雰囲気下で,反応液から未反応単量体および溶剤等の揮発成分を除去することにより得られた,約1500gの液状樹脂であり,重量平均分子量が1360,Q値が12.7,粘度が340cP,末端二重結合指数が0.21の重合体5。」(以下,「甲2発明2」という。)

(2)本件発明3について
ア 甲2発明1との対比
(ア)対比
本件発明3と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1における「重合体3」は,「モノマー混合溶液」に含まれる「アクリル酸エチル」を「重合」して製造していることから,アクリル系重合体であることが明らかであり,「重量平均分子量が1230」であるから,本件発明3における「重量平均分子量が1500未満」である「アクリル重合体」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲2発明1とは,
「重量平均分子量が1500未満である,アクリル重合体。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明3では,「イオウ分の含有量が2ppm未満であり,リン分の含有量が2ppm未満であり,金属分の含有量が100ppm未満」であるのに対して,甲2発明1では,イオウ分,リン分,金属分の各含有量が不明である点。
・相違点3
本件発明3では,アクリル重合体の「数平均分子量が1000未満」であるのに対して,甲2発明1では,重合体3の数平均分子量は不明である点。
・相違点4
本件発明3では,アクリル重合体の「末端ビニル基の含有量が0質量%以上,1質量%以下」であるのに対して,甲2発明1では,重合体3の「末端二重結合指数が0.24」である点。

(イ)相違点2の検討
a 甲2には,アクリル系重合体に,イオウ分,リン分,金属分が含まれることについては,何ら記載がなく,また,アクリル系重合体において,「イオウ分の含有量が2ppm未満」,「リン分の含有量が2ppm未満」,「金属分の含有量が100ppm未満」であることが技術常識であるともいえないから,甲2発明1におけるイオウ分,リン分,金属分の各含有量は不明である。
以上によれば,相違点2は実質的な相違点である。
b また,上記のような甲2の記載から,甲2発明1において,「イオウ分の含有量が2ppm未満であり,リン分の含有量が2ppm未満であり,金属分の含有量が100ppm未満」とすることが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲2発明1において,「イオウ分の含有量が2ppm未満であり,リン分の含有量が2ppm未満であり,金属分の含有量が100ppm未満」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
c 申立人は,甲2には,アクリル系重合体は180?350℃の温度での重合反応により得られ,この重合温度では,重合開始剤や連鎖移動剤を使用することなく,比較的低分子量のアクリル系重合体が得られることが記載されている(4頁8?10行)として,実施例に記載されている高温連続重合法により得られたアクリル重合体は,「イオウ分の含有量が2ppm未満であり,リン分の含有量が2ppm未満であり,金属分の含有量が100ppm未満」である蓋然性が高いと主張する(意見書6頁)。
しかしながら,甲2発明1において,連鎖移動剤を使用せず,また,触媒として金属化合物を使用していないからといって,必ず,「イオウ分の含有量が2ppm未満であり,リン分の含有量が2ppm未満であり,金属分の含有量が100ppm未満」であるとはいえず,これらの含有量は不明というほかない。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

(ウ)相違点3の検討
a 甲2には,例えば重合体1については,数平均分子量が1710であることが記載されているが,甲2発明1に係る重合体3については,数平均分子量は不明である。また,甲2には,アクリル系重合体の重量平均分子量について,500?10000の低分子量のものが好ましいことが記載されているものの(請求項3,3頁22?25行),数平均分子量については,特に1000未満が好ましい旨の記載はない。
以上によれば,相違点3は実質的な相違点である。
b また,上記のような甲2の記載から,甲2発明1において,重合体3の数平均分子量を「1000未満」とすることが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲2発明1において,重合体3の数平均分子量を「1000未満」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

(エ)相違点4の検討
a 甲2には,甲2発明1に係る重合体3の「末端ビニル基の含有量」については,明記されていない。
甲2には,アクリル系重合体が末端に二重結合を有すること,甲2発明1における「末端二重結合指数」とは,上記の末端二重結合の総数を重合体の分子数で除することにより得られる,重合体1分子当たりの末端二重結合の平均個数を意味するものであることが記載されている(請求項12,5頁3?13行)。
上記「末端二重結合」は,本件発明3における「末端ビニル基」に相当すると解されるものの,本件発明3における「末端ビニル基の含有量」は,アクリル重合体における末端ビニル基の割合(質量%)を意味するものであるから(上記1参照),甲2発明1における「末端二重結合指数」とは,異なるものである。そうである以上,甲2発明1に係る重合体3の「末端ビニル基の含有量」は,不明というほかない。
以上によれば,相違点4は実質的な相違点である。
b 甲2発明1は,重合体3の「末端二重結合指数が0.24」であるところ,甲2の記載(5頁3?13行)によれば,アクリル系重合体が末端に二重結合を有することにより,特に優れた相溶性を有し,また,表面のべとつきにくい成形物を成形するのに効果的な可塑剤となることが理解できる。
一方,本件発明3は,アクリル重合体の「末端ビニル基の含有量が0質量%以上,1質量%以下」であるところ,本件明細書の記載(【0003】,【0004】,【0007】,【0009】,【0010】,【0013】)によれば,高温重合や熱分解により製造される低分子量アクリル重合体が不可避的に有する末端ビニル基が、低分子アクリル重合体の熱安定性等の耐久性を損なう主な要因であり,末端ビニル基を有さないアクリル重合体とすることにより,上記2(2)ア(イ)bで述べたとおりの効果を奏することが理解できる。
そうすると,アクリル系重合体の末端に二重結合を有することに技術的意義があると解される甲2発明1に係る重合体3において,その末端二重結合を有さないようにすることが動機付けられるとはいえない。むしろ,そのようなことは阻害されているといえる。
そうすると,甲2発明1において,重合体3の末端に有する二重結合を有さないようにし,「末端ビニル基の含有量」を「0質量%以上,1質量%以下」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
c 申立人は,本件発明3における「末端ビニル基の含有量」は,C=Cの式量「24」と,1H-NMRの測定から直接的に求められる「(サンプル1g中の二重結合モル濃度)」とから,
(末端ビニル基の含有量)[質量%]=(サンプル1g中の二重結合モル濃度)[mol/g]×24×100 (A)
と表され,一方,甲2における「末端二重結合指数」は,
(末端二重結合指数)=(サンプル1g中の二重結合モル濃度)[mol/g]×(数平均分子量)[g/mol] (D)
と表されるから,式(A)と式(D)から,「末端ビニル基の含有量」は,
(末端ビニル基の含有量)[質量%]=(末端二重結合指数)/(数平均分子量)[g/mol]×24×100 (E)
と表されると指摘した上で,重合体3の重量平均分子量が1230であることを考慮すると,数平均分子量は576?1000の間になる蓋然性が高く,そうであれば,「末端ビニル基の含有量」が1質量%以下となると主張する(申立書2?25)。
しかしながら,申立人の主張を前提としても,「末端ビニル基の含有量」を算出するには,重合体3の数平均分子量が必要であるが,上記(ウ)で述べたとおり,重合体3の数平均分子量は不明であるから,申立人の主張は前提を欠くものである。
よって,申立人に主張は,採用することができない。

(オ)小括
以上のとおりであるから,本件発明3は,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 甲2発明2との対比
本件発明3と甲2発明2とを対比すると,上記アで述べたのと同様に,甲2発明2では,イオウ分,リン分,金属分の各含有量が不明である点,重合体5の数平均分子量が不明である点,重合体5の「末端二重結合指数が0.21」である点で,本件発明3と相違するが,上記アで述べたのと同様の理由により,これらの相違点は実質的な相違点である。
したがって,本件発明3は,甲2に記載された発明であるとはいえない。
また,上記アで述べたのと同様の理由により,甲2発明2において,「イオウ分の含有量が2ppm未満であり,リン分の含有量が2ppm未満であり,金属分の含有量が100ppm未満」とすること,重合体5の数平均分子量を「1000未満」とすること,重合体5の末端に有する二重結合を有さないようにし,「末端ビニル基の含有量」を「0質量%以上,1質量%以下」とすることが,いずれも,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明3は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明3は,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由3(新規性),申立理由4(進歩性)によっては,本件特許の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由5(進歩性)
申立理由5(進歩性)は,要するに,本件発明3は,甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであることをいうものと解される。
以下,検討する。
甲2発明1は,上記3(2)ア(エ)で述べたとおり,重合体3の「末端二重結合指数が0.24」であるところ,甲2の記載(5頁3?13行)によれば,アクリル系重合体が末端に二重結合を有することにより,特に優れた相溶性を有し,また,表面のべとつきにくい成形物を成形するのに効果的な可塑剤となることが理解できる。このように,甲2発明1は,アクリル系重合体の末端に二重結合を有することに技術的意義があると解される(甲2発明2についても,同様である。)。
一方,甲1発明1は,上記2(2)ア(イ)b(b)で述べたとおり,その概要を示すと,単量体としてのn-ブチルアクリレートを239?241℃でラジカル重合して重合体B1を製造した後,重合体B1に水素付加反応を行うことにより,重量平均分子量が3,000である重合体B5を製造するものである。甲1の記載([0006],[0007])によれば,アクリル系高分子が分子末端に二重結合を有しているため,このアクリル系高分子を添加した組成物では,活性エネルギー線による硬化において十分な硬化性が得られないが,ビニル系単量体を150?350℃で重合した後に水素を付加して分子末端の二重結合を消失させることにより,これを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物より得られる硬化物が、柔軟性及び硬化性に優れることが理解できる。このように,甲1発明1は,アクリル系高分子の末端に二重結合を有しないことに技術的意義があると解される(甲1発明2?5,甲1発明1’?5’についても,同様である。)。
以上のとおり,甲2に記載された発明と甲1に記載された発明とは,アクリル系重合体の末端二重結合の有無について全く逆の技術的意義を有するものであるから,このような両発明を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
この点,申立人は,申立書及び意見書において,甲1及び甲2には,いずれも,重複する温度範囲(180℃?350℃)で重合させて得られるアクリル重合体が記載されており,甲1と甲2とを組み合わせることに阻害要因はないと主張するのみであり,甲1と甲2をどのように組み合わせるのか等,その具体的な理由は明らかではない。
以上のとおりであるから,本件発明3は,甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由5(進歩性)によっては,本件特許の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分をラジカル重合する工程(工程I)と、該工程Iで得られた重合体に水素添加する工程(工程II)と、を有し、
該工程Iにおける重合温度が200℃以上350℃以下である、
重量平均分子量が7500未満であり、数平均分子量が1000未満のアクリル重合体の製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、得られるアクリル重合体の末端ビニル基の含有量が0質量%以上、1質量%以下である、請求項1に記載の重量平均分子量が7500未満であり、数平均分子量が1000未満のアクリル重合体の製造方法。
【請求項3】
数平均分子量が1000未満であり、重量平均分子量が1500未満であり、
イオウ分の含有量が2ppm未満であり、リン分の含有量が2ppm未満であり、金属分の含有量が100ppm未満であり、
末端ビニル基の含有量が0質量%以上、1質量%以下である、アクリル重合体。
【請求項4】
請求項3のアクリル重合体を含むことを特徴とする冷凍機用潤滑油。
【請求項5】
冷媒が水素含有フロンを用いたものである請求項4の冷凍機用潤滑油。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-20 
出願番号 特願2014-235316(P2014-235316)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (C08C)
P 1 652・ 113- YAA (C08C)
P 1 652・ 121- YAA (C08C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 督  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 井上 猛
佐藤 健史
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6371202号(P6371202)
権利者 株式会社日本触媒
発明の名称 アクリル重合体及びその製法  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
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