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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1355960
異議申立番号 異議2018-700796  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-03 
確定日 2019-09-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6304803号発明「樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6304803号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第6304803号の請求項4ないし12に係る特許を維持する。 特許第6304803号の請求項1ないし3及び13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6304803号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成26年1月20日の出願であって、平成30年3月16日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年4月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年10月3日に特許異議申立人 林 誠一(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年12月11日付けで取消理由が通知され、平成31年2月6日に特許権者 日本化薬株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年3月26日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年4月23日に意見書及び手続補正書が提出され、同年同月25日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、令和1年6月7日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
平成31年4月23日に提出された手続補正書により補正された同年2月6日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法で得られる電子部品用接着剤。」とあるのを「請求項4乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法を利用した電子部品用接着剤の製造方法。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項13を削除する。

(4)訂正事項4
発明の詳細な説明の【0012】に「本明細書において平均粒子径は、粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS-30)により測定することができる。また、市販品であれば、各社カタログにも明記されている。」とあるのを「本明細書において平均粒子径は、粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS-30)により測定することができる。また、市販品であれば、上記方法に限らず各社カタログに明記されている値を用いても良い。」に訂正する。

(5)訂正事項5
発明の詳細な説明の【0041】【表1】の成分(a)-1、成分(a)-2、成分(b)-1、成分(b)-2、成分(b)-3、成分(b)-4及び成分(b)-6に「一次平均粒子」とあるのを「平均粒子」に訂正し、成分(b)-5に「一次平均粒径」とあるのを「平均粒径」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4に「前記(a)が、アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。」とあるのを「平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)、平均粒子径B[μm]のフィラー(b)及び硬化性化合物(c)を含有する樹脂組成物の製造方法であって、
前記(a)が、アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子であり、
前記A[μm]及びB[μm]が、下記式(1)及び(2)で表される条件を満たし、かつ硬化性化合物(c)中にフィラー(a)及びフィラー(b)を分散する前に、フィラー(a)とフィラー(b)を攪拌混合する乾式工程を有する樹脂組成物の製造方法。
3μm≦A≦20μm・・・(1)
0.0005×A≦B≦0.010×A・・・(2)」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5ないし12についても、請求項4を訂正したことに伴う訂正をする。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項5に「樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(a)の含有量が5部以上50部未満である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。」とあるのを「樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(a)の含有量が5部以上50部未満である請求項4に記載の樹脂組成物の製造方法。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6ないし12についても、請求項5を訂正したことに伴う訂正をする。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に「樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(b)の含有量が1部以上20部未満である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。」とあるのを「樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(b)の含有量が1部以上20部未満である請求項4または5に記載の樹脂組成物の製造方法。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項6を直接又は間接的に引用する請求項7ないし12についても、請求項6を訂正したことに伴う訂正をする。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項7に「前記硬化性化合物(c)が、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂及び部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される1種もしくは2種以上であり、更に熱硬化剤(d)を含有する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。」とあるのを「前記硬化性化合物(c)が、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂及び部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される1種もしくは2種以上であり、更に熱硬化剤(d)を含有する請求項4乃至6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項7を直接又は間接的に引用する請求項8ないし12についても、請求項7を訂正したことに伴う訂正をする。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項10に「更に熱ラジカル重合開始剤(e)を含有する請求項1乃至9のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。」とあるのを「更に熱ラジカル重合開始剤(e)を含有する請求項4乃至9のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項10を直接又は間接的に引用する請求項11及び12についても、請求項10を訂正したことに伴う訂正をする。

ス 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項11に「更にシランカップリング剤(f)を含有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。」とあるのを「更にシランカップリング剤(f)を含有する、請求項4乃至10のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項11を直接引用する請求項12についても、請求項11を訂正したことに伴う訂正をする。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正前の請求項12に係る発明は、「電子部品用接着剤」という物の発明であるが、訂正前の請求項12には、「請求項1乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法で得られる」という「電子部品用接着剤」の製造方法が記載されているから、特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。
そして、訂正事項2は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前の請求項12を、「請求項4乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法を利用した電子部品用接着剤の製造方法。」とするものであって、下記第5 1(3)イ(ウ)のとおり、訂正後の請求項12に係る発明は「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項12が「請求項1乃至11のいずれか一項」を引用するものであったのを「請求項4乃至11のいずれか一項」を引用するものとするものであり、引用請求項数を削減するものである。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
さらに、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
さらにまた、訂正前の請求項12に係る発明と訂正後の請求項12に係る発明の課題及び課題解決手段には、実質的な変更はないし、訂正後の請求項12に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項12に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、訂正事項2に係る訂正により、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはなく、訂正前の請求項12に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものでもないので、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項13を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、発明の詳細な説明の記載と請求項4の記載を整合させるためののものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、発明の詳細な説明の記載と請求項4の記載を整合させるためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項5は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項7は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1ないし3のいずれか一項を引用するものであったのを、訂正前の請求項2又は3を引用するものを削除し、訂正前の請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項に改めるとともに「式(2)」の数値範囲の上限を「0.020×A」から「0.010×A」に訂正して、「式(2)」の数値範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項8は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
なお、特許異議申立人は、令和1年6月7日提出の意見書において、「式(2)」の数値範囲の上限値が「0.010×A」であることは記載されておらず、訂正事項8は願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであるとはいえない旨主張するが、願書に添付した明細書の【0011】には「フィラー(b)の平均粒子径は、・・・(略)・・・特に好ましくは、1000分の5以上1000分の10以下である。」と「1000分の10以下」、すなわち0.010以下であることが記載されており、「式(2)」の数値範囲の上限値として「0.010×A」であることが記載されているといえ、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(9)訂正事項9ないし13について
訂正事項9ないし13は、いずれも引用請求項数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項9ないし13は、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし13は、それぞれ、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明又は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1、3及び4号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし13は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項2ないし13は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし13は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし3及び6ないし13は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、訂正事項4及び5は、願書に添付した明細書に係る訂正であるが、当該訂正に係る請求項の全てについて本件訂正は行われており、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし13に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし13〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、平成31年4月23日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)、平均粒子径B[μm]のフィラー(b)及び硬化性化合物(c)を含有する樹脂組成物の製造方法であって、
前記(a)が、アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子であり、
前記A[μm]及びB[μm]が、下記式(1)及び(2)で表される条件を満たし、かつ硬化性化合物(c)中にフィラー(a)及びフィラー(b)を分散する前に、フィラー(a)とフィラー(b)を攪拌混合する乾式工程を有する樹脂組成物の製造方法。
3μm≦A≦20μm・・・(1)
0.0005×A≦B≦0.010×A・・・(2)
【請求項5】
樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(a)の含有量が5部以上50部未満である請求項4に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(b)の含有量が1部以上20部未満である請求項4または5に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記硬化性化合物(c)が、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂及び部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される1種もしくは2種以上であり、更に熱硬化剤(d)を含有する請求項4乃至6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記硬化性化合物(c)がレゾルシンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリルエステル化物である請求項7に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記熱硬化剤(d)が有機酸ヒドラジド化合物である請求項7又は8に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
更に熱ラジカル重合開始剤(e)を含有する請求項4乃至9のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
更にシランカップリング剤(f)を含有する、請求項4乃至10のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項4乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法を利用した電子部品用接着剤の製造方法。
【請求項13】
(削除)」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立て理由の概要
平成30年10月3日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立て理由の概要は次のとおりである。

(1)申立て理由1(本件特許発明1ないし7及び11ないし13に対する甲第1号証に基づく新規性並びに本件特許発明1、2、4、7、12及び13に対する甲第2号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし7及び11ないし13に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7及び11ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立て理由2(甲第1又は2号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立て理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立て理由4(明確性)
本件特許の請求項1、12及び13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(5)証拠方法
甲第1号証:国際公開第2009/054386号
甲第2号証:特開平7-118617号公報
甲第3号証:国際公開第2004/055099号
甲第4号証:特開平2-137715号公報
甲第5号証:特開2011-105898号公報
甲第6号証:特開2005-44773号公報
甲第7号証:特開2009-139922号公報
甲第8号証:特開2011-8048号公報
なお、文献名等の表記は概略特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由の概要
平成30年12月11日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は、次のとおりである。なお、該取消理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし13に対するものである。

(1)取消理由1(甲1に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし3、5ないし7、12及び13に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、5ないし7、12及び13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2(甲1又は2を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、甲1又は2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)取消理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

特許請求の範囲の請求項1の記載によると、本件特許発明1は、平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)、及び平均粒子径B[μm]のフィラー(b)が、下記式(1)及び(2)で表される条件を満たすものである。
3μm≦A≦20μm・・・ (1)
0.0005×A≦B≦0.020×A・・・(2)
また、発明の詳細な説明の【0006】によると、本件特許発明1ないし11の解決しようとする課題(以下、「発明の課題1」という。)は、「フィラーの凝集を無くし、該フィラーが高分散された樹脂組成物の製造方法」を提供することであり、本件特許発明12の解決しようとする課題(以下、「発明の課題2」という。)は、「フィラーの凝集物が無い為、ジェットディスペンスのような精密塗布作業性に優れ、また、平行でかつ正確なギャップ間距離で接合でき、更に接着強度も高いという特性を有する」「電子部品用接着剤」を提供することであり、本件特許発明13の解決しようとする課題(以下、「発明の課題3」という。)は、「フィラーの凝集物が無い為、ジェットディスペンスのような精密塗布作業性に優れ、また、平行でかつ正確なギャップ間距離で接合でき、更に接着強度も高いという特性を有する」「樹脂組成物」を提供することである(以下、「発明の課題1」ないし「発明の課題3」を総称して「発明の課題」という。)。
他方、発明の詳細な説明の【0037】ないし【0046】によると、B/Aが「0.020」に近い範囲で「ろ過性」が高い、すなわちフィラーの凝集が無いとは、当業者は認識しない。
したがって、発明の詳細な説明の記載では、本件特許発明1が発明の課題1を解決できるとは当業者といえども認識できない。
また、同様の理由で、発明の詳細な説明の記載では、本件特許発明12が発明の課題2を解決できるとは当業者といえども認識できないし、本件特許発明13が発明の課題3を解決できるとは当業者といえども認識できない。

(4)取消理由4(明確性)
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記アないしウの点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

ア 本件特許発明1の「前記A[μm]及びB[μm]が、下記式(1)及び(2)で表される条件を満たし、」は、製造方法のどの時点、すなわち原料の時点での平均粒子径が満たす条件なのか最終製品の時点での平均粒子径が満たす条件なのか不明確である。
また、請求項1を引用する本件特許発明2ないし13に関しても同様である。

イ 本件特許発明1の「平均粒子径」は、発明の詳細な説明に定義が記載されておらず、出願時の技術常識でもないため、「平均粒子径」の意味内容を理解できない。
また、発明の詳細な説明の【0012】には、「本明細書において平均粒子径は、粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS-30)により測定することができる。また、市販品であれば、各社カタログにも明記されている。」と記載されているが、乾式のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器における測定範囲の下限値は、通常100nm程度であるから、特許発明1のフィラー(a)及びフィラー(b)の粒子径条件において、フィラー(b)の平均粒子径が測定不可能なものがある。
さらに、発明の詳細な説明の【0041】の【表1】によると、実施例では、フィラー(a)及びフィラー(b)の粒子径を「一次平均粒子径」としており、本件特許発明1の「平均粒子径」との関係が不明確である。
また、請求項1を引用する本件特許発明2ないし13に関しても同様である。

ウ 本件特許発明12は、「請求項1乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法で得られる電子部品用接着剤」であり、本件特許発明13は、「請求項1乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法で得られる樹脂組成物」である。
本件特許発明12及び13は、それぞれ、「電子部品用接着剤」及び「樹脂組成物」という物の発明であるが、「請求項1乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法で得られる」との記載は、製造方法の発明を引用する場合に該当するため、請求項12及び13にはその物の製造方法が記載されているといえる。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、特許権者から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。

第5 当審の判断
1 取消理由について
(1)取消理由1(甲1に基づく新規性)及び取消理由2(甲1又は2を主引用文献とする進歩性)について
ア 甲1及び2に記載された事項等
(ア)甲1に記載された事項及び甲1発明
a 甲1に記載された事項
甲1には、「被覆導電性粉体およびそれを用いた導電性接着剤」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「請求の範囲
[1] 導電性粒子の表面を絶縁性無機質微粒子で被覆処理した被覆導電性粉体であって、該被覆導電性粉体の体積固有抵抗値が1Ω・cm以下で、前記絶縁性無機質微粒子の比重が5.0g/ml以下で、前記導電性粒子との粒径比(絶縁性無機質微粒子/導電性粒子)が1/100以下であり、前記絶縁性無機質微粒子は導電性粒子の表面に付着していることを特徴とする被覆導電性粉体。
[2] 前記被覆処理が導電性粒子と絶縁性無機質微粒子とを乾式で混合する乾式法である請求項1記載の被覆導電性粉体。
[3] 前記導電性粒子の平均粒径が0.1?1000μmである請求項1又は2記載の被覆導電性粉体。
[4] 前記導電性粒子がニッケル、金、銀、パラジウム、銅及びハンダの群から選ばれる金属粒子である請求項1又は2記載の被覆導電性粉体。
[5] 前記導電性粒子が芯材粒子の表面を無電解めっきにより金属皮膜を形成した導電性めっき粒子である請求項1又は2記載の被覆導電性粉体。
[6] 前記金属皮膜がニッケル、金、銀、パラジウム、銅及びハンダの群から選ばれる1種又は2種以上の金属皮膜からなる請求項5記載の被覆導電性粉体。
[7] 前記金属皮膜が金又はパラジウムである請求項5記載の被覆導電性粉体。
[8] 前記芯材が樹脂である請求項6記載の被覆導電性粉体。
[9] 前記絶縁性無機質微粒子はシリカ、酸化チタン及び酸化アルミニウムの群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載の被覆導電性粉体。
[10] 前記絶縁性無機質微粒子はヒュームドシリカである請求項1又は2記載の被覆導電性粉体。
[11] 前記ヒュームドシリカは、疎水性を有するものを用いる請求項10記載の被覆導電性粉体。
[12] 請求項1乃至11の何れか1項に記載の被覆導電性粉体を用いてなることを特徴とする導電性接着剤。
[13] 異方性導電性接着剤として用いられる請求項12記載の導電性接着剤。
[14] 請求項12又は13の何れか1項に記載の導電性接着剤を用いてなることを特徴とするICタグ。」

・「[0012] 芯材粒子の表面を導電性金属で被覆処理した導電性粒子の好ましい実施形態について、更に詳細に説明する。使用できる芯材粒子としては、無機物であっても有機物であっても特に制限はなく用いることができる。無機物の芯材粒子としては、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、ハンダ等の金属粒子、合金、ガラス、セラミックス、シリカ、金属または非金属の酸化物(含水物も含む)、アルミノ珪酸塩を含む金属珪酸塩、金属炭化物、金属窒化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属硫化物、金属酸塩、金属ハロゲン化物及び炭素等が挙げられる。一方、有機物の芯材粒子としては、例えば、天然繊維、天然樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブテン、ポリアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル二トリル、ポリアセタール、アイオノマー、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂またはジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。」

・「[0016] また、芯材粒子のその他の物性は、特に制限されるものではないが、樹脂粒子の場合は、下記の式(2);
K値(kgf/mm^(2))=(3/√2)×F×S^( -3/2)×R^(-1/2)・・・(2)
〔ここに、計算式(2)で示されるF、Sは、微小圧縮試験機MCTM-500島津製作所製)で測定したときの、それぞれ該微球体の10%圧縮変形における荷重値(kgf)、圧縮変位(mm)であり、Rは該微球体の半径(mm)である〕で定義されるKの値が、20℃において10kgf/mm^(2)?10000kgf/mm^(2)の範囲であり、且つ10%圧縮変形後の回復率が20℃において1%?100%の範囲であるものが、電極同士を圧着する際に電極を傷つけることなく、電極と十分に接触させることが出来る点で好ましい。」

・「[0022] 使用する導電性粒子は、更に該導電性粒子表面に樹脂からなる絶縁層を形成したものであってよい。前記粒子表面に樹脂からなる絶縁層を形成したものの一例としては、例えば、特開平5-217617号公報、特開平5-70750号公報等に記載の導電性粒子がある。」

・「[0025] ヒュームドシリカは、一般に、四塩化珪素を酸水素炎中で燃焼させて製造され、比表面積がおよそ40?500m^(2)/gのものが市販されている。市販品としては、日本アエロジル社のAEROSIL、東新化成社のアエロジル、Degussa社のAEROSILやCabot社のCAB-O-SILなどを使用することができる。本発明においてヒュームドシリカは、親水性又は疎水性のものが使用することができ、特に疎水性のものを使用することが粒子に付着したときに粒子全体を疎水化し、耐湿性を向上させるなどの点で好ましい。なお、絶縁性無機質微粒子はヒュームドシリカに限らず、疎水性のものが上記した理由で、好ましく用いられる。」

・「[0034] 以下、異方導電性接着剤の好ましい実施形態について、更に詳細に説明する。
本発明の異方導電性接着剤は、前記被覆導電性粉体と、接着剤樹脂を含む。
接着剤樹脂としては、接着剤樹脂として用いられているものであれば、特に制限なく使用できるが、熱可塑性樹脂、熱硬化性いずれでも加熱によって接着性能が発現するものが好ましい。例えば、熱可塑性タイプ、熱硬化性タイプ、紫外線硬化タイプ等があり、また、熱可塑性タイプと熱硬化性タイプとの中間的な性質を示す、いわゆる半熱硬化性タイプ、熱硬化性タイプと紫外線硬化タイプとの複合タイプ等が用いられる。これらの接着剤樹脂は被着対象である回路基板等の表面特性や使用形態に合わせて適宜選択できるが、熱硬化性樹脂を含んで構成される接着剤樹脂が、接着後の材料的強度に優れるため好ましい。」

・「[0038] 本発明の被覆導電性粉体の使用量は、接着剤樹脂成分100重量部に対し通常0.1?30重量部、好ましくは0.5?25重量部、より好ましくは1?20重量部である。被覆導電性粉体の使用量が上記範囲内にあることにより、接続抵抗や溶融粘度が高くすることを抑制し、接続信頼性を向上させ、接続の異方性を十分に確保することができる。
[0039] 本発明に係る異方導電性接着剤には、その他に、当該技術分野において、公知の添加剤を使用でき、その添加量も当該技術分野において、公知の添加量の範囲内で行えばよい。他の添加剤としては、例えば粘着付与剤、反応性助剤、金属酸化物、光開始剤、増感剤、硬化剤、加硫剤、劣化防止剤、耐熱添加剤、熱伝導向上剤、軟化剤、着色剤、各種カップリング剤または金属不活性剤などを例示することができる。」

・「実施例
[0044] 以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[0045]<絶縁性無機質微粒子粉末>
表1に示す市販の絶縁性無機質微粒子を試料として用いた。
[表1]

・・・(略)・・・
[0046]{導電性粒子}
<金めっき導電性粒子の調製>
表2に示した金めっきで被覆処理した導電性粒子(試料2?4)は、以下のように調製した。
・・・(略)・・・
[0051][表2]

[0052]実施例1?14及び比較例1?5
表3に示す絶縁性無機質微粒子と導電性粒子の所定量と、更に見かけ体積0.3Lのジルコニアボール(粒径;1mm)を内容量0.7L、内径0.09mの円筒状容器(ポットミル)に入れ密封し、100rpmで回転させた。このときの回転数は下記式(t)において、aは0.71として求めた。絶縁性無機質微粒子が、導電性粒子に均一に付着するように、60分間処理した後、ジルコニアボールと、得られた被覆導電性粉体とを分別した。
・・・(略)・・・
[0053][表3]



・「[0058](2)分散性試験
(異方導電性接着剤の調製)
前記60℃、95%RHで1000時間処理する前後の実施例1?14の被導電性粉体及び比較例1?6の導電性粒子を用い、樹脂中の被覆導電性粉体又は導電性粒子が樹脂中に3億個/cm^(3)になるように約3?15重量、エポキシ主剤JER828(ジャパンエポキシレジン社製)を100重量部、硬化剤アミキュアPN23J(味の素ファインテクノ社製)を30重量部、粘度調整剤2重量部を遊星式攪拌機で1分混練してペーストを得た。」

b 甲1発明
甲1に記載された事項を、実施例6ないし10及び12ないし14に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「表2に示した芯材をニッケル-金めっきで被覆処理した導電性粒子の試料6ないし9及び表1に示す絶縁性無機微粒子粉末の試料AないしDを、表3に示す所定量で、ジルコニアボールが入った円筒状容器(ポットミル)に入れ、密封し、回転させて得た被覆導電性粉体を用い、樹脂中の被覆導電性粉体又は導電性粒子が樹脂中に3億個/cm^(3)になるように約3?15重量、エポキシ主剤JER828(ジャパンエポキシレジン社製)を100重量部、硬化剤アミキュアPN23J(味の素ファインテクノ社製)を30重量部、粘度調整剤2重量部を遊星式攪拌機で1分混練してペーストを得る異方導電性接着剤の調整方法。」(当審注:表1ないし3は、上記aを参照。)

(イ)甲2に記載された事項及び甲2発明
a 甲2に記載された事項
甲2には、「ファインピッチ用異方導電性接着剤」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 絶縁性樹脂と導電性粒子とからなり対向する電極間にだけ電流を導通させる異方導電接着剤において、当該導電性粒子が樹脂核材(2)に導電性金属(3)で被覆した粒子(1)に、当該粒子の径に対して1/3?1/100の範囲の粒径の絶縁性無機微粒子(4)を、前記粒子(1)の表面に当該無機微粒子を埋没状態で固定して、かつ前記粒子(1)の全表面の1/2以下で部分的に被覆した導電性粒子を含むことを特徴とするファインピッチ用異方導電性接着剤。」

・「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はファインピッチ回路用の接続部材に関し、さらに詳しくは集積回路、液晶パネル等の接続端子とそれに対向配置された回路基板上の接続端子とを、電気的、機械的に接続するための異方導電性接着剤に関する。」

・「【0007】本発明において、樹脂核材(2)の材質としては、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム、ポリスチレン、ポリオレフィン、ウレタン、ポリアミド、ポリアクリル、塩化ビニル等の熱可塑性樹脂が好ましい。当該樹脂核材(2)は後述の絶縁性無機微粒子(4)の一部分が埋没されるので、特性としては弾性または可塑性が必要となる。また、本発明の異方導電性接着剤が接続端子間で熱圧着される際、電極と接触する当該絶縁性無機微粒子(4)がさらに当該樹脂核材(2)に完全に埋没して導電性金属と電極との接触が可能となる。」

・「【0011】前記の手法で本発明の導電性粒子を調製する場合、絶縁性無機微粒子(4)の粒径は芯材となる樹脂核材(1)の粒径に対して小さくなければならず、本発明においては1/3?1/100の粒径が好ましい。」

・「【0014】
【実施例】以下、実施例を示して本発明を具体的に述べる。
【0015】導電性粒子の調整(1):樹脂核材(2)に市販の平均粒径30ミクロンのポリエチレンパウダー(商品名フローセンUF20、製鉄化学工業株式会社)に無電解メッキ法によりニッケルメッキの上に金メッキした粒子(a)を得た。さらに、当該金メッキ粒子100重量部と、市販の平均粒径0.3ミクロンの酸化チタン微粒子(商品名MT-500B、帝国化工株式会社)5重量部を株式会社奈良機械製作所製のハイブリダーゼンションシステムで混合攪拌して、酸化チタン微粒子で金メッキ粒子(a)の全表面の1/2以下を部分的に被覆して、かつ酸化チタンが埋没し星型形状の導電性粒子(A)を得た。
【0016】導電性粒子の調整(2):樹脂核材(2)に市販の平均粒径10ミクロンのシリコーンゴムパウダー(商品名トレフィルE501、トーレダウコーニング株式会社)に無電解メッキ法によりニッケルメッキの上に金メッキした粒子(b)を得た。さらに当該金メッキ粒子100重量部と、市販の平均粒径3ミクロンのシリカ粒子(商品名クリスタライトVX-S、土屋カオリン工業株式会社)1重量部を株式会社奈良機械製作所製のハイブリダーゼンションシステムで混合攪拌して、シリカ粒子で金メッキ粒子(b)の全表面の1/2以下を部分的に被覆して、かつシリカ粒子が埋没して星型形状の導電性粒子(B)を得た。
【0017】異方導電性接着剤ペーストの調整(1):ビスフェノールAエポキシ(商品名エピコート1004、油化シェル株式会社)100重量部と可撓性エポキシ(商品名YR-207、東都化成工業株式会社)30重量部をメチルセルソルブ30重量部に溶解したものにヒドラジド系硬化剤(商品名UDH、味の素株式会社)60重量部、及び超微粒子シリカ(商品名、アエロジル200、日本アエロゾル工業株式会社)5重量部を加えて3本ロールにて混錬して、絶縁性の接着剤ベースを調整した。さらに、樹脂固形分に対して5重量部の前述の導電性粒子(A)を加えて、再び3本ロールにて混錬して、異方導電性接着剤ペースト(A)を得た。比較のため、導電性粒子(A)に代えて前述の方法でアクリル微粒子(商品名MP-100、綜研化学株式会社)で全面被覆した導電性粒子(a’)を含む異方導電性接着剤(a)を得た。
【0018】異方導電性接着剤ペーストの調整(2):ビスフェノールAエポキシ(商品名エピコート1004、油化シェル株式会社)100重量部と可撓性エポキシ(商品名YR-207、東都化成工業株式会社)30重量部をメチルセルソルブ30重量部に溶解したものにヒドラジド系硬化剤(商品名UDH、味の素株式会社)60重量部、及び超微粒子シリカ(商品名、アエロジル200、日本アエロゾル工業株式会社)5重量部を加えて3本ロールにて混錬して、絶縁性の接着剤ベースを調整した。さらに樹脂固形分に対して10重量部の前述の導電性粒子(B)を加えて、再び3本ロールにて混錬して、異方導電性接着剤ペースト(B)を得た。比較のため、導電性粒子(B)に代えてシリカ粒子で被覆されていない導電性粒子(b)で同様な調製方法で異方導電性接着剤(b)を得た。」

b 甲2発明
甲2に記載された事項、特に請求項1を【0015】に具体的に示された実施例の特定の数値のものとして、整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「絶縁性樹脂と導電性粒子とからなり対向する電極間にだけ電流を導通させる異方導電性接着剤において、樹脂核材(2)に導電性金属(3)で被覆した粒子(1)に、当該粒子の径に対して1/100の粒径の絶縁性無機微粒子(4)を、前記粒子(1)の表面に当該無機微粒子を埋没状態で固定して、かつ前記粒子(1)の全表面の1/2以下で部分的に被覆したものである導電性粒子を含む異方導電性接着剤の製造方法。」

イ 取消理由1(甲1に基づく新規性)について
本件訂正により、訂正前の請求項1ないし3及び13に係る発明は削除されたので、本件特許発明5ないし7及び12について判断する。

本件特許発明5ないし7及び12は、取消理由1の対象となっていない訂正前の請求項4を引用する訂正前の請求項5ないし7及び12に係る発明に対応するものであるから、取消理由1によっては取り消すことはできない。

ウ 取消理由2のうち、甲1を主引用文献とする進歩性について
本件訂正により、訂正前の請求項1ないし3及び13に係る発明は削除されたので、本件特許発明4ないし12について判断する。

(ア)本件特許発明4について
a 対比
本件特許発明4と甲1発明を対比する。
甲1発明における「表2に示した芯材をニッケル-金めっきで被覆処理した導電性粒子の試料6ないし9」は、「表2に示した芯材」が有機物である各種樹脂(球状ベンゾグアナミン樹脂、球状アクリル樹脂又は球状スチレン樹脂)から構成されているから、本件特許発明1における「平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)」に相当する。また、以下、同様に、「表1に示す絶縁性無機微粒子粉末の試料AないしD」は「平均粒子径B[μm]のフィラー(b)」に、「エポキシ主剤JER828(ジャパンエポキシレジン社製)」は「硬化性化合物(c)」に、「異方性導電性接着剤」は「樹脂組成物」に、「調整方法」は「製造方法」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明における「表2に示した芯材をニッケル-金めっきで被覆処理した導電性粒子の試料6ないし9」の平均粒子径は、表2によれば、3μm以上20μm以内の範囲にある。
さらに、甲1発明における「表1に示す絶縁性無機微粒子粉末の試料AないしD」と「表2に示した芯材をニッケル-金めっきで被覆処理した導電性粒子の試料6ないし9」の平均粒子径の比は、表3によれば、0.0005以上0.010以下の範囲内にある。
さらにまた、甲1発明における「ジルコニアボールが入った円筒状容器(ポットミル)に入れ、密封し、回転させて」「被覆導電性粉体」を得る工程は、本件特許発明4における「化性化合物(c)中にフィラー(a)及びフィラー(b)を分散する前に、フィラー(a)とフィラー(b)を攪拌混合する乾式工程」に相当する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
「平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)、平均粒子径B[μm]のフィラー(b)及び硬化性化合物(c)を含有する樹脂組成物の製造方法であって、
前記A[μm]及びB[μm]が、下記式(1)及び(2)で表される条件を満たし、かつ硬化性化合物(c)中にフィラー(a)及びフィラー(b)を分散する前に、フィラー(a)とフィラー(b)を攪拌混合する乾式工程を有する樹脂組成物の製造方法。
3μm≦A≦20μm・・・(1)
0.0005×A≦B≦0.010×A・・・(2)」

そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
「有機フィラー(a)」に関して、本件特許発明4においては、「アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子」であるのに対し、甲1発明においては、「表2に示した芯材をニッケル-金めっきで被覆処理した導電性粒子の試料6ないし9」である点。

b 相違点1についての判断
「アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴム」が絶縁性のゴムであることは周知であるから、本件特許発明4における「アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子」は実質的に絶縁性のゴム粒子のことである。
他方、甲1発明における「表2に示した芯材をニッケル-金めっきで被覆処理した導電性粒子」は導電性の粒子である。
したがって、相違点1は、実質的な相違点である。
そして、甲1発明は、「異方導電性接着剤の調整方法」に係る発明であるから、甲1発明において、「表2に示した芯材をニッケル-金めっきで被覆処理した導電性粒子」を絶縁性のゴム粒子とすると、「導電性」という効果を奏しなくなることから、絶縁性のゴム粒子とすることには、阻害要因がある。
よって、甲1発明において、他の甲号証に記載された技術的事項を考慮しても、相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到しえたものであるとはいえない。
また、本件特許発明4は、「フィラーの凝集物が無い為、精密性が重要である、水平で狭ギャップ性が要求される電子部品において、非常に有利な効果を発揮する」及び「フィラーの凝集物が無いことは、高接着強度にも寄与する」(本件特許明細書の【0009】)という甲1発明及び他の甲号証に記載された技術的事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。
以上のとおりであるから、本件特許発明4は、甲1発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件特許発明5ないし12について
請求項5ないし12は請求項4を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明5ないし12は、本件特許発明4をさらに限定したものであるから、本件特許発明4と同様に、甲1発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 取消理由2のうち、甲2を主引用文献とする進歩性について
本件訂正により、訂正前の請求項1ないし3及び13に係る発明は削除されたので、本件特許発明4ないし12について判断する。

(ア)本件特許発明4について
a 対比
本件特許発明4と甲2発明を対比する。
甲2発明における「樹脂核材(2)に導電性金属(3)で被覆した粒子(1)」は、「樹脂核材(2)」が有機物である各種ゴム又は熱可塑性樹脂から構成されているから、本件特許発明4における「平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)」に相当する。以下、同様に、「当該粒子の径に対して1/100の粒径の絶縁性無機微粒子(4)」は「平均粒子径B[μm]のフィラー(b)」に、「絶縁性樹脂」は「硬化性化合物(c)」に、「異方導電性接着剤」は「樹脂組成物」にそれぞれ相当する。
また、甲2発明における「当該粒子の径に対して1/100の粒径の絶縁性無機微粒子(4)」と「樹脂核材(2)に導電性金属(3)で被覆した粒子(1)」の平均粒子径の比は、1/100、すなわち0.01であるから、0.0005以上0.010以下の範囲内にある。
さらに、甲2発明において、「樹脂核材(2)に導電性金属(3)で被覆した粒子(1)に、当該粒子の径に対して1/100の粒径の絶縁性無機微粒子(4)を、前記粒子(1)の表面に当該無機微粒子を埋没状態で固定して、かつ前記粒子(1)の全表面の1/2以下で部分的に被覆したものである導電性粒子」を得る工程は、【0016】及び【0017】によると、「粒子(1)」と「絶縁性無機微粒子(4)」を「絶縁性樹脂」中に分散する前に乾式工程の撹拌混合で行われているといえる。

したがって、両者は次の点で一致する。
「平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)、平均粒子径B[μm]のフィラー(b)及び硬化性化合物(c)を含有する樹脂組成物の製造方法であって、前記A[μm]及びB[μm]が、下記(2)で表される条件を満たし、かつ硬化性化合物(c)中にフィラー(a)及びフィラー(b)を分散する前に、フィラー(a)とフィラー(b)を攪拌混合する乾式工程を有する樹脂組成物の製造方法。
0.0005×A≦B≦0.010×A・・・(2)」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2>
「有機フィラー(a)」に関して、本件特許発明4においては、「アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子」であるのに対し、甲2発明においては、「樹脂核材(2)に導電性金属(3)で被覆した粒子(1)」である点。

<相違点3>
本件特許発明4においては、「平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)」が、「3μm≦A≦20μm・・・ (1)」で表される条件を満たすものであるのに対し、甲2発明においては、「樹脂核材(2)に導電性金属(3)で被覆した粒子(1)」が、そのような条件を満たすものであるか不明な点。

b 相違点2及び3についての判断
そこで、検討する。
「アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴム」は絶縁性のゴムであることは周知であるから、本件特許発明4における「アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子」は実質的に絶縁性のゴム粒子のことである。
他方、甲2発明における「樹脂核材(2)に導電性金属(3)で被覆した粒子(1)」は導電性の粒子である。
したがって、相違点2は、実質的な相違点である。
そして、甲2発明は、「異方導電性接着剤の製造方法」に係る発明であるから、甲2発明において、「樹脂核材(2)に導電性金属(3)で被覆した粒子(1)」を絶縁性のゴム粒子とすると、「導電性」という効果を奏しなくなることから、絶縁性のゴム粒子とすることには、阻害要因がある。
よって、甲2発明において、他の甲号証に記載された技術的事項を考慮しても、相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到しえたものであるとはいえない。
また、本件特許発明4は、「フィラーの凝集物が無い為、精密性が重要である、水平で狭ギャップ性が要求される電子部品において、非常に有利な効果を発揮する」及び「フィラーの凝集物が無いことは、高接着強度にも寄与する」(本件特許明細書の【0009】)という甲2発明及び他の甲号証に記載された技術的事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。
以上のとおりであるから、相違点3について判断するまでもなく、本件特許発明4は、甲2発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件特許発明5ないし12について
請求項5ないし12は請求項4を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明5ないし12は、本件特許発明4をさらに限定したものであるから、本件特許発明4と同様に、甲2発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

オ 取消理由1及び2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項4ないし12に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。

(2)取消理由3(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 判断
本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1ないし3及び13は削除されたので、特許請求の範囲の請求項4ないし12について検討する。

(ア)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の請求項4の記載は、上記第2の【請求項4】のとおりであり、本件特許発明4は、平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)、及び平均粒子径B[μm]のフィラー(b)が、下記式(1)及び(2)で表される条件を満たすものである。
3μm≦A≦20μm・・・ (1)
0.0005×A≦B≦0.010×A・・・(2)

(イ)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。

・「【0006】
本発明は、樹脂組成物の製造方法、及びその方法によって得られる電子部品用接着剤に関する。より詳細には、フィラーの凝集を無くし、該フィラーが高分散された樹脂組成物の製造方法に関する。この方法によって得られる樹脂組成物は、フィラーの凝集物が無い為、ジェットディスペンスのような精密塗布作業性に優れ、また、平行でかつ正確なギャップ間距離で接合でき、更に接着強度も高いという特性を有する。従って、特に半導体のような電子部品用接着剤として好適である。」

・「【0011】
また本発明の樹脂組成物の製造方法に用いられるフィラー(a)及びフィラー(b)の平均粒子径は以下の数式を満たす。すなわち、フィラー(a)の平均粒子径をA[μm]とし、フィラー(b)の平均粒子径をB[μm]とした場合に、A[μm]及びB[μm]が、下記数式(I)、(II)で表される条件を満たす。
3μm ≦ A ≦ 20μm ・・・ (I)
0.0005×A ≦ B ≦ 0.02×A ・・・ (II)
[数式(I)に関して]
数式(I)は、平均粒子径の大きいフィラー(a)の、平均粒子径を規定している。すなわち、フィラー(a)の平均粒子径は、3μm以上20μm以下である。フィラー平均粒子径が小さいと、その凝集力が高くなる傾向がある。従って、3μm未満である場合、本発明の効果が十分に得られない。また、フィラーの平均粒子径が大きすぎると、凝集していなくても、液晶表示セルの製造には不向きとなる。平均粒子径の更に好ましい範囲は、3μm以上15μm以下であり、特に好ましくは、4μm以上10μm以下である。
[数式(II)に関して]
数式(II)は、フィラー(a)とフィラー(b)の平均粒子径の関係を示したものである。すなわち、フィラー(b)の平均粒子径は、フィラー(a)の平均粒子径の2000分の1以上1000分の20以下である。フィラー(b)の平均粒子径がこの範囲である場合には、フィラー(a)の粒子とフィラー(a)の粒子の間に効率良く入り込み、フィラー(a)の分散性を高める効果を発現する。また、フィラー(a)が有機フィラーの場合には、外的応力によって形状が変形することがあるが、フィラー(b)が上記範囲であれば、その変形に追従することが可能であって、フィラー(a)から剥離することもない。フィラー(b)の平均粒子径は、更に好ましくは、1000分の2以上1000分の15以下であり、特に好ましくは、1000分の5以上1000分の10以下である。」

・「【0012】
本明細書において平均粒子径は、粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS-30)により測定することができる。また、市販品であれば、上記方法に限らず各社カタログに明記されている値を用いても良い。」

・「【実施例】
【0037】
以下、実験例、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。尚、特別の記載のない限り、本文中「部」及び「%」とあるのは質量基準である。
【0038】
[合成例1]
[レゾルシンジグリシジルエーテルの全アクリル化物の合成]
レゾルシンジグリシジルエーテル181.2g(EX-201:ナガセケムテックス株式会社製)をトルエン266.8gに溶解し、これに重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン0.8gを加え、60℃まで昇温した。その後、エポキシ基の100%当量のアクリル酸117.5gを加え更に80℃まで昇温し、これに反応触媒であるトリメチルアンモニウムクロライド0.6gを添加して、98℃で約30時間攪拌し、反応液を得た。この反応液を水洗し、トルエンを留去することにより、目的とするレゾルシンジグリシジルエーテルのエポキシアクリレート293gを得た。得られたエポキシアクリレートの反応性基当量は理論値で183である。
【0039】
[合成例2]
[1, 2-ビス(トリメチルシロキシ)-1,1, 2,2-テトラフェニルエタンの合成] 市販ベンゾピナコール(東京化成製)100部(0.28モル)をジメチルホルムアルデヒド350部に溶解させた。これに塩基触媒としてピリジン32部(0.4モル)、シリル化剤としてBSTFA(信越化学工業製)150部(0.58モル)を加え70℃まで昇温し、2時間攪拌した。得られた反応液を冷却し、攪拌しながら、水200部を入れ、生成物を沈殿させると共に未反応シリル化剤を失活させた。沈殿した生成物をろ別分離した後十分に水洗した。次いで得られた生成物をアセトンに溶解し、水を加えて再結晶させ、精製した。目的の1, 2-ビス(トリメチルシロキシ)-1,1, 2,2-テトラフェニルエタンを105.6部(収率88.3%)得た。
HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析した結果、純度は99.0%(面積百分率)であった。
【0040】
[実施例1?7、比較例1?4]
下記表1に示す量の成分(a)、(b)等を用い、樹脂組成物の製造を行った。製造方法は以下に示す通りである。
まず、熱混合し、冷却した成分(c)に成分(f)を添加し攪拌した。その後成分(a)、(b)、(d)及び(e)を順次添加し、3本ロールにより均一に混合した。
なお、実施例1?7、比較例3?4においては、成分(a)、(b)を事前混合し、それを成分(c)と(f)の混合物に添加したが、比較例1?2 では、成分(c)と(f)の混合物に対して、成分(a)、(b)をこの順で添加し、混合したものである。
また、成分(a)と(b)の事前混合は、(a):(b)=75:18の比率で混ぜ合
わせたものをジェットミル粉砕機を用いて3pass行った。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1?4、比較例1で調製した樹脂組成物について、以下の評価を行った。結果を表2にまとめる。
【0043】
[ろ過性試験]
凝集物の存在を評価する方法として、ろ過性試験を実施した。
これは、上記実施例1?4、比較例1で調整した樹脂組成物4gを6mmΦの635メッシュの金属メッシュでろ過し、時間とろ過できる量を測定する方法である。凝集物の多い樹脂組成物は次第にメッシュが詰まってくるため、ろ過速度が遅くなるが、分散されている樹脂組成物は一定の速度でろ過することができる。
ろ過性の評価
○:樹脂組成物4gが一定の速度でろ過できる。
△:樹脂組成物4gが徐々に速度が遅くなるがろ過できる。
×:樹脂組成物4gがろ過できず詰まってしまう。
【0044】
[接着強度試験]
凝集物が存在すると樹脂組成物中でのフィラーの均一性がなくなるため接着強度が低下するが、均一に分散されている樹脂組成物はフィラーの偏りがなくなるため接着強度が向上する。
樹脂組成物100gにスペーサーとして直径3μmのグラスファイバー(PF-30S:日本電気硝子株式会社製)1gを添加して混合撹拌を行う。この樹脂組成物を50mm×50mmのガラス基板上に塗布し、その樹脂組成物上に1.5mm×1.5mmのガラス片を貼り合わせ、120℃オーブンに1時間投入して硬化させた。そのガラス片のせん断接着強度をボンドテスター(SS-30WD:西進商事株式会社製)を使用して測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果より、本発明によって得られた樹脂組成物には、凝集物がなく、ろ過速度が落ちない結果となった。これに対し、比較例の樹脂組成物は凝集物の存在から、ろ過性が徐々に落ちていることが分かる。
また、本発明の樹脂組成物は接着強度についても、優れることが確認された。」

(ウ)発明の課題
発明の詳細な説明の【0006】の記載によると、本件特許発明4ないし11の解決しようとする課題(以下、「発明の課題1」という。)は、「フィラーの凝集を無くし、該フィラーが高分散された樹脂組成物の製造方法」を提供することであり、本件特許発明12の解決しようとする課題(以下、「発明の課題2」という。)は、「フィラーの凝集物が無い為、ジェットディスペンスのような精密塗布作業性に優れ、また、平行でかつ正確なギャップ間距離で接合でき、更に接着強度も高いという特性を有する」「電子部品用接着剤の製造方法」を提供することである(以下、「発明の課題1」及び「発明の課題2」を総称して「発明の課題」という。)。

(エ)判断
発明の詳細な説明の【0037】ないし【0046】には、本件特許発明4ないし11の実施例として、B/Aが0.00054?0.00846である実施例1ないし7が記載され、B/Aが0.022及び0.02308である比較例3及び4が記載されている(当審注:【表2】に示す比較例3及び4の数値は誤記と認める。)ことが記載されている。
そして、B/Aが0.00054?0.00846である実施例1ないし7及び比較例1ないし4について、凝集物の存在を評価する「ろ過性試験」を実施し、実施例1ないし7について、「ろ過性」が「○」又は「△」になることを確認し、B/Aが0.022及び0.02308という「0.020」に極めて近い値の比較例3及び4について、「ろ過性」は「×」であることを確認している。
してみると、「0.00054」に極めて近い値である「0.0005」という値や「0.00846」に極めて近い値である「0.010」という値においても、「ろ過性」が「○」又は「△」になる、すなわち、「0.0005?0.010」の数値範囲で「ろ過性」が高い、すなわちフィラーの凝集が無いと当業者は認識するといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載によると、本件特許発明4ないし11が発明の課題1を解決できる範囲のものであると当業者は認識する。
また、本件特許発明12は、本件特許発明4ないし11を利用したものであるから、本件特許発明12も、「フィラーの凝集物が無い」という課題を解決でき、その結果として、発明の課題2を解決できる範囲のものであると当業者は認識する。
よって、本件特許発明4ないし12に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

ウ 取消理由3についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項4ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当するものではない。

(3)取消理由4(明確性)について
明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

イ 判断
本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1ないし3及び13は削除されたので、特許請求の範囲の請求項4ないし12について検討する。

(ア)アの点について
特許請求の範囲の請求項4の記載は、上記第2の【請求項4】のとおりである。
他方、発明の詳細な説明の【0012】の「本明細書において平均粒子径は、粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS-30)により測定することができる。また、市販品であれば、上記方法に限らず各社カタログに明記されている値を用いても良い。」という記載からみて、本件特許発明4における「平均粒子径」は、原料の時点の平均粒子径であることは明らかである。
したがって、本件特許発明4に関して、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、請求項4を直接又は間接的に引用する本件特許発明5ないし12に関しても同様である。

(イ)イの点について
本件特許発明4の「平均粒子径」は、下記の本件訂正前の発明の詳細な説明の【0041】の【表1】の記載及び特許権者が提出した乙第2号証として提出したカタログ(日本エアロジル株式会社 製品案内)の第6ページの記載からみて、「一次平均粒子径」であることは明らかである。
また、発明の詳細な説明の【0012】の記載からみて、「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS-30)」による測定が不可能な場合には、「各社カタログに明記されている値」を用いることが記載されているといえる。
さらに、発明の詳細な説明の【0041】の【表1】は訂正され、本件特許発明4の「平均粒子径」との関係は明確となっている。
したがって、本件特許発明4に関して、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、請求項4を直接又は間接的に引用する本件特許発明5ないし11に関しても同様である。

・本件訂正前の発明の詳細な説明の【0041】の【表1】の記載


・乙第2号証として提出したカタログ(日本エアロジル株式会社 製品案内)の第6ページの記載


(ウ)ウの点について
特許請求の範囲の請求項12の記載は、上記第3の【請求項12】のとおりであり、本件特許発明12は、「請求項4乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法を利用した電子部品用接着剤の製造方法」という製造方法の発明である。
したがって、特許請求の範囲の請求項12に関して、物の発明にその物の製造方法が記載されているとはいえない。
よって、本件特許発明12に関して、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

ウ 取消理由4についてのまとめ
したがって、本件特許発明4ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当するものではない。

2 特許異議申立書に記載した申立て理由のうち、取消理由で採用しなかった申立て理由について
特許異議申立書に記載した申立て理由のうち、取消理由で採用しなかった申立て理由について、以下、検討する。

(1)申立て理由1のうち、本件特許発明4及び11に対する甲1に基づく新規性について
本件特許発明4と甲1発明を対比するに、両者の一致点及び相違点は、上記1(1)ウ(ア)aのとおりであり、両者の相違点は、相違点1である。
そして、相違点1は上記1(1)ウ(ア)bのとおり、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明4は甲1発明であるとはいえない。
また、請求項11は、請求項4を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明11は、本件特許発明4をさらに限定したものであるから、本件特許発明4と同様に、甲1発明であるとはいえない。

(2)申立て理由1のうち、本件特許発明1、2、4、7、12及び13に対する甲2に基づく新規性について
本件訂正により、訂正前の請求項1、2及び13に係る発明は削除されたので、本件特許発明4、7及び12について判断する。

本件特許発明4と甲2発明を対比するに、両者の一致点及び相違点は、上記1(1)エ(ア)aのとおりであり、両者の相違点は、相違点2及び3である。
そして、相違点2は上記1(1)エ(ア)bのとおり、実質的な相違点である。
したがって、相違点3について判断するまでもなく、本件特許発明4は甲2発明であるとはいえない。
また、請求項7及び12は、請求項4を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明7及び12は、本件特許発明4をさらに限定したものであるから、本件特許発明4と同様に、甲2発明であるとはいえない。

(3)申立て理由4のうち、取消理由で採用しなかった理由について
ア 申立て理由4のうち、取消理由で採用しなかった理由
特許異議申立書に記載した明確性に関する申立て理由のうち、取消理由で採用しなかった理由は、概略、次のとおりである。

本件特許発明1に関して、乾式混合する際のフィラー(a)及びフィラー(b)の量、フィラー(a)及びフィラー(b)を分散させる際の硬化性化合物(c)に対するフィラー(a)及びフィラー(b)の量が重要であることは本件特許の出願時の技術常識であるので、単に、フィラー(a)及びフィラー(b)の乾式混合を硬化性化合物(c)中に分散する前に行うことを規定しただけでは、これらの発明特定事項がどのような技術的意味を有しているのか理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることは明らかである。

イ 判断
そこで、検討するに、本件訂正により、上記理由の対象である訂正前の請求項1に係る発明は削除されたので、上記理由は対象が存在しなくなった。
なお、請求項1に記載された事項が全て組み込まれた請求項4に係る発明、すなわち本件特許発明4について、念のため検討する。
乾式混合する際のフィラー(a)及びフィラー(b)の量、フィラー(a)及びフィラー(b)を分散させる際の硬化性化合物(c)に対するフィラー(a)及びフィラー(b)の量が特定されていないとしても、請求項4の記載自体は明確であり、また、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】には、請求項4に記載された数式(I)及び(II)の技術的意味も記載されているから、本件特許発明4は明確であるといえる。
また、上記1(2)のとおり、本件特許発明4に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満足するものであり、発明特定事項が不足しているとはいえない。
したがって、本件特許発明4に関して、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

第6 結語
上記第5のとおり、本件特許の請求項4ないし12に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立て理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項4ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1ないし3及び13に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項1ないし3及び13に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
樹脂組成物の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造方法、及びその方法によって得られる電子部品用接着剤に関する。より詳細には、フィラーの凝集を無くし、該フィラーが高分散された樹脂組成物の製造方法に関する。この方法によって得られる樹脂組成物は、フィラーの凝集物が無い為、ジェットディスペンスのような精密塗布作業性に優れ、また、平行でかつ正確なギャップ間距離で接合でき、更に接着強度も高いという特性を有する。従って、特に半導体のような電子部品用接着剤として好適である。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子部品に使用される樹脂組成物、例えば基板用の樹脂、半導体素子と基板の接着剤、フレキシブル基板における耐熱フィルムと銅箔の接着剤等には、熱硬化型のエポキシ系樹脂組成物が適用されている。
このエポキシ系樹脂組成物は、主にエポキシ樹脂、硬化剤、フィラーによって構成されており、特にフィラーは80質量%程度を占める程に高充填されている(特許文献1)。これは、応力を逃がし、熱によるソリ等の変形を抑えたり、接着強度を向上させたりする等の目的でなされているものである。
【0003】
しかし、近年では、半導体パッケージを初めとする電子部品の小型化への要望に伴い、複数の電子部品を積層して多層の半導体チップ積層体とする3次元実装技術の開発が進んできている。また、半導体チップ積層体等の電子部品を更に小型化させる研究が進められている。これに伴い、例えば半導体チップは極めて薄い薄膜となり、更に半導体チップには微細な配線が形成されるようになってきた。このような3次元実装の半導体チップ積層体においては、各半導体チップを損傷なく、かつ、均一なギャップ間距離で水平を保って積層することが求められている。
このような用途に用いる場合には、上記フィラーの分散性が非常に重要な要求特性となる。すなわち高充填されたフィラーに凝集物が多いと、ギャップ間距離を厚くせざるを得ず、薄膜積層を困難とし、また水平な積層にも妨げとなる。
【0004】
この課題を解決する為に、例えば平均粒子径の異なる2種のフィラーを、ボールミルを用いて分散する方法が開示されている(特許文献2)。しかしこの方法は、ボールミルのような特殊な分散装置を必要とするものであり、またボールミルでは製造する樹脂組成物の粘度の制約を受けるといった課題を有する為、更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】
特開平08-109242号公報
【特許文献2】
特開平5-86204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、樹脂組成物の製造方法、及びその方法によって得られる電子部品用接着剤に関する。より詳細には、フィラーの凝集を無くし、該フィラーが高分散された樹脂組成物の製造方法に関する。この方法によって得られる樹脂組成物は、フィラーの凝集物が無い為、ジェットディスペンスのような精密塗布作業性に優れ、また、平行でかつ正確なギャップ間距離で接合でき、更に接着強度も高いという特性を有する。従って、特に半導体のような電子部品用接着剤として好適である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、平均粒子径異なる2種類のフィラー(フィラー(a)、フィラー(b))を用い、硬化性化合物(c)中に分散する前に、前記フィラー(a)とフィラー(b)を攪拌混合することによって、フィラーの分散性を高め、非常に優れた樹脂組成物の提供が可能であることを発見し本発明に至ったものである。
なお、本明細書中、「(メタ)アクリル」とは「アクリル及び/又はメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリロイル基」とは「アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基」を意味する。
【0008】
すなわち本発明は、
1)
平均粒子径A[μm]のフィラー(a)、平均粒子径B[μm]のフィラー(b)及び硬化性化合物(c)を含有する樹脂組成物の製造方法であって、前記A[μm]及びB[μm]が、下記式(I)及び(II)で表される条件を満たし、かつ硬化性化合物(c)中にフィラー(a)及びフィラー(b)を分散する前に、フィラー(a)とフィラー(b)を攪拌混合する工程を有する樹脂組成物の製造方法、
3μm ≦ A ≦ 20μm ・・・ (I)
0.0005×A ≦ B ≦ 0.020×A ・・・ (II)
2)
上記(a)が、有機フィラーである上記1)に記載の樹脂組成物の製造方法、
3)
上記(b)が、シリカ及び/又はアルミナである上記1)又は2)に記載の樹脂組成物の製造方法、
4)
上記(a)が疎水性フィラーであり、上記(b)が親水性フィラーである上記1)乃至3)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法、
5)
上記(a)が、アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子である上記1)乃至4)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法、
6)
樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(a)の含有量が5部以上50部未満である上記1)乃至5)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法、
7)
樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(b)の含有量が1部以上20部未満である上記1)乃至6)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法、
8)
上記硬化性化合物(c)が、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂及び部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される1種もしくは2種以上であり、更に熱硬化剤(d)を含有する上記1)乃至7)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法、
9)
上記硬化性化合物(c)がレゾルシンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリルエステル化物である上記8)に記載の樹脂組成物の製造方法、
10)
上記熱硬化剤(d)が有機酸ヒドラジド化合物である上記8)又は9)に記載の樹脂組成物の製造方法、
11)
更に熱ラジカル重合開始剤(e)を含有する上記1)乃至10)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法、
12)
更にシランカップリング剤(f)を含有する、上記1)乃至11)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法、
13)
上記1)乃至12)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法で得られる電子部品用接着剤、
14)
上記1)乃至12)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法で得られる樹脂組成物を硬化して得られる硬化物接着された電子部品、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によって得られる樹脂組成物は、フィラーの凝集物が無い為、精密性が重要である、水平で狭ギャップ性が要求される電子部品において、非常に有利な効果を発揮する。また、フィラーの凝集物が無いことは、高接着強度にも寄与するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、平均粒子径の異なる2種類のフィラー(フィラー(a)、フィラー(b))を用い、硬化性化合物(c)中に分散する前に、前記(a)と(b)を攪拌混合する工程を有することを特徴とする樹脂組成物の製造方法である。
2種類のフィラーを含有する樹脂組成物を製造する場合、例えばエポキシ樹脂のような硬化性化合物中に、2種類のフィラーをそれぞれ添加し、攪拌混合し、その後2本ロール等の混練器によってフィラーを分散する方法が一般的である。しかし、この方法では、2種のフィラーがそれぞれ独立して、硬化性化合物中に分散され、相互に作用することはない。
本発明は、平均粒子径の大きいフィラー(a)と平均粒子径の小さいフィラー(b)を、事前に攪拌混合することによって、フィラー(a)の表面にフィラー(b)を付着させることができ、これを硬化性化合物(c)中に分散することによって、最終的に凝集物のない樹脂組成物の製造を可能にするものである。
なお、フィラー(a)とフィラー(b)の攪拌混合は、プラネタリーミキサーやジェットミル粉砕機等を用いて行うことができる。
【0011】
また本発明の樹脂組成物の製造方法に用いられるフィラー(a)及びフィラー(b)の平均粒子径は以下の数式を満たす。すなわち、フィラー(a)の平均粒子径をA[μm]とし、フィラー(b)の平均粒子径をB[μm]とした場合に、A[μm]及びB[μm]が、下記数式(I)、(II)で表される条件を満たす。
3μm ≦ A ≦ 20μm ・・・ (I)
0.0005×A ≦ B ≦ 0.02×A ・・・ (II)
[数式(I)に関して]
数式(I)は、平均粒子径の大きいフィラー(a)の、平均粒子径を規定している。すなわち、フィラー(a)の平均粒子径は、3μm以上20μm以下である。フィラー平均粒子径が小さいと、その凝集力が高くなる傾向がある。従って、3μm未満である場合、本発明の効果が十分に得られない。また、フィラーの平均粒子径が大きすぎると、凝集していなくても、液晶表示セルの製造には不向きとなる。平均粒子径の更に好ましい範囲は、3μm以上15μm以下であり、特に好ましくは、4μm以上10μm以下である。
[数式(II)に関して]
数式(II)は、フィラー(a)とフィラー(b)の平均粒子径の関係を示したものである。すなわち、フィラー(b)の平均粒子径は、フィラー(a)の平均粒子径の2000分の1以上1000分の20以下である。フィラー(b)の平均粒子径がこの範囲である場合には、フィラー(a)の粒子とフィラー(a)の粒子の間に効率良く入り込み、フィラー(a)の分散性を高める効果を発現する。また、フィラー(a)が有機フィラーの場合には、外的応力によって形状が変形することがあるが、フィラー(b)が上記範囲であれば、その変形に追従することが可能であって、フィラー(a)から剥離することもない。フィラー(b)の平均粒子径は、更に好ましくは、1000分の2以上1000分の15以下であり、特に好ましくは、1000分の5以上1000分の10以下である。
【0012】
本明細書において平均粒子径は、粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS-30)により測定することができる。また、市販品であれば、上記方法に限らず各社カタログに明記されている値を用いても良い。
【0013】
上記フィラー(a)は、有機フィラー及び/又は無機フィラーを意味する。
有機フィラーとしては、例えばナイロン6、ナイロン12、ナイロン66等のポリアミド微粒子、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン等のフッ素系微粒子、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系微粒子、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系微粒子、天然ゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム等のゴム微粒子等が挙げられる。このうち好ましいものはゴム微粒子であって、例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM、EP)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM、ANM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、ウレタンゴム(PUR)、シリコーンゴム(SI、SR)、フッ素ゴム(FKM、FPM)、多硫化ゴム(チオコール)などが挙げられる。これら固形成分(I)は2種以上を混合して用いても良い。これらのうち、好ましくは、シリコーンゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、アクリルゴムである。
【0014】
上記シリコーンゴムとしてはKMP-594、KMP-597、KMP-598(信越化学工業製)、トレフィル^(RTM)E-5500、9701、EP-2001(東レダウコーニング社製)が好ましく、ウレタンゴムとしてはJB-800T、HB-800BK(根上工業株式会社)、スチレンゴムとしてはラバロン^(RTM)T320C、T331C、SJ4400、SJ5400、SJ6400、SJ4300C、SJ5300C、SJ6300C(三菱化学製)が好ましく、スチレンオレフィンゴムとしてはセプトン^(RTM)SEPS2004、SEPS2063が好ましい。なお本明細書中、上付きの「RTM」は登録商標を意味する。
【0015】
また、上記アクリルゴムを使用する場合、2種類のアクリルゴムからなるコアシェル構造のアクリルゴムである場合が好ましく、特に好ましくはコア層がn-ブチルアクリレートであり、シェル層がメチルメタクリレートであるものが好ましい。これはゼフィアック^(RTM)F-351としてアイカ工業株式会社から販売されている。
【0016】
上記無機フィラーの例としては、溶融シリカ、結晶シリカ、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、硝子繊維、炭素繊維、二硫化モリブデン、アスベスト等が挙げられ、好ましくは溶融シリカ、結晶シリカ、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウムであり、更に好ましくは溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、タルクである。これら無機フィラーは2種以上を混合して用いても良い。
【0017】
フィラー(a)として好ましいものは有機フィラーである。
有機フィラーの中で好ましいものは、アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子であり、更に好ましいものは、アクリルゴム及び/又はシリコーンゴムである。
有機フィラーとして特に好ましいものは、KMP-594、KMP-597、KMP-598(信越化学工業製)、AFX-8、AFX-15(積水化成品工業製)、JB-800T、HB-800BK(根上工業製)である。
【0018】
上記フィラー(b)は、有機フィラー及び/又は無機フィラーを意味する。
有機フィラーとしては、ゼフィアックRTMF-325、F-340、F-351(アイカ工業株式会社製)、パラロイドEXL-2655(呉羽化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0019】
上記無機フィラーの例としては、上記フィラー(a)に挙げたものと同様のものが挙げられる。ただし、平均粒子径は上記数式(II)を満たすもの、又は、解砕工程を経て、上記数式(II)を満たすものとしたものに限られる。また、無機フィラーは様々の方法によって表面処理をされたものでも良いが、未処理のものが好ましい。
このフィラー(b)としては、シリカ又はアルミナが好ましく、特に好ましくはフュームドシリカ、フュームドアルミナである。
【0020】
フィラー(a)とフィラー(b)の表面極性について、フィラー(a)が疎水性であって、フィラー(b)が親水性である場合は、本願発明の好ましい態様の一つである。硬化性樹脂(c)は、比較的極性の高いものである為、疎水性のフィラー(a)の表面を親水性のフィラー(b)によって保護することによって、より高い分散性が得られる為である。
ここで、親水性とは、表面が水酸基、アミノ基などの水素結合性水酸基を有する官能基で構成されているか金属酸化物などの水素結合受容成分であるものをいう。また疎水性とは、親水性表面をジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン、シリコーンオイルまたは末端に非極性の官能基を有するカップリング剤などで化学的に結合させたものをいう。
【0021】
フィラー(a)の樹脂組成物中の含有量としては、樹脂組成物の総量を100質量部とした場合に、5?50質量部である場合が好ましく、7?40である場合がより好ましく、10?30である場合が更に好ましい。
また、フィラー(b)の樹脂組成物中の含有量としては、樹脂組成物の総量を100質量部とした場合に、1?20質量部である場合が好ましく、2?15である場合がより好ましく、3?10である場合が更に好ましい。
【0022】
本発明の製造方法で得られる樹脂組成物は、硬化性化合物(c)を含有する。
この硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂、(メタ)アクリル酸エステルのモノマー、(メタ)アクリル酸エステルのオリゴマー、部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂等を挙げることができる。また、接着剤用途の場合には、上記のうち、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂及び部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される1種もしくは2種以上からなる硬化性樹脂である場合が特に好ましい。 例えば、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル化エポキシ樹脂の混合物、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂、部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂等が挙げられる。特に液晶表示セル用接着剤として用いる場合であり、液晶と直接接触する部分で使用する場合には、液晶に対する汚染性、溶解性が低いものが好ましく、好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン骨格を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂、その他、二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびそれらのハロゲン化物、水素添加物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。(メタ)アクリロイル化エポキシ樹脂、部分(メタ)アクリロイル化エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸の周知の反応により得ることができる。例えば、エポキシ樹脂に所定の当量比の(メタ)アクリル酸と触媒(例えば、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルスチビン等)と、重合防止剤(例えば、メトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、フェノチアジン、ジブチルヒドロキシトルエン等)を添加して、例えば80?110℃でエステル化反応を行うことにより得られる。原料となるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、2官能以上のエポキシ樹脂が好ましく、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン骨格を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂、その他、二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびそれらのハロゲン化物、水素添加物などが挙げられる。これらのうち液晶汚染性の観点から、より好ましいものはビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂である。また、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基との比率は限定されるものではなく、工程適合性及び液晶汚染性の観点から適切に選択される。
【0023】
本発明の製造方法で得られる樹脂組成物には、さらに必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステルのモノマー及び/又はオリゴマーを使用しても良い。そのようなモノマー、オリゴマーとしては、例えば、ジペンタエリスリトールと(メタ)アクリル酸の反応物、ジペンタエリスリトール・カプロラクトンと(メタ)アクリル酸の反応物等が挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0024】
本発明の製造方法で得られる樹脂組成物は、熱硬化剤(d)を含有しても良い。
この熱硬化剤は特に限定されるものではなく、多価アミン類、多価フェノール類、ヒドラジド化合物等を挙げることができるが、固形の有機酸ヒドラジドが特に好適に用いられる。例えば、芳香族ヒドラジドであるサリチル酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、1-ナフトエ酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジンジヒドラジド、1,2,4-ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド等をあげることが出来る。また、脂肪族ヒドラジド化合物であれば、例えば、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等のヒダントイン骨格、好ましくはバリンヒダントイン骨格(ヒダントイン環の炭素原子がイソプロピル基で置換された骨格)を有するジヒドラジド化合物、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレート、ビス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート等をあげることができる。この熱硬化剤は、単独で用いても2種以上混合しても良い。硬化反応性と潜在性とのバランスから好ましくは、イソフタル酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレートであり、特に好ましくはマロン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドである。かかる熱硬化剤を使用する場合の含有量としては、樹脂組成物の総量を100質量部とした場合に、1?30質量部程度である。
【0025】
本発明の製造方法で得られる樹脂組成物は、更に熱ラジカル重合開始剤(e)を含有しても良い。この熱ラジカル重合開始剤は、加熱によりラジカルを生じ、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、有機過酸化物、アゾ化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾピナコール等が挙げられ、ベンゾピナコールが好適に用いられる。例えば、有機過酸化物としては、カヤメック^(RTM)A、M、R、L、LH、SP-30C、パーカドックスCH-50L、BC-FF、カドックスB-40ES、パーカドックス14、トリゴノックス^(RTM)22-70E、23-C70、121、121-50E、121-LS50E、21-LS50E、42、42LS、カヤエステル^(RTM)P-70、TMPO-70、CND-C70、OO-50E、AN、カヤブチル^(RTM)B、パーカドックス16、カヤカルボン^(RTM)BIC-75、AIC-75(以上、化薬アクゾ株式会社製)、パーメック^(RTM)N、H、S、F、D、G、パーヘキサ^(RTM)H、HC、パTMH、C、V、22、MC、パーキュアー^(RTM)AH、AL、HB、パーブチル^(RTM)H、C、ND、L、パークミル^(RTM)H、D、パーロイル^(RTM)IB、IPP、パーオクタ^(RTM)ND、(以上、日油株式会社製)等などが市販品として入手可能である。また、アゾ化合物としては、VA-044、V-070、VPE-0201、VSP-1001等(以上、和光純薬工業株式会社製)等が市販品として入手可能である。なお、本明細書中、上付きのRTMは登録商標を意味する。
上記(e)熱ラジカル重合開始剤として、好ましいのは、分子内に酸素-酸素結合(-O-O-)又は窒素-窒素結合(-N=N-)を有さない熱ラジカル重合開始剤である。分子内に酸素-酸素結合(-O-O-)や窒素-窒素結合(-N=N-)を有する熱ラジカル重合開始剤は、ラジカル発生時に多量の酸素や窒素を発するため、樹脂組成物中に気泡を残した状態で硬化し、接着強度等の特性を低下させる虞がある。ベンゾピナコール系の熱ラジカル重合開始剤(ベンゾピナコールを化学的に修飾したものを含む)が特に好適である。具体的には、ベンゾピナコール、1,2-ジメトキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1,2-ジエトキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1,2-ジフェノキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1,2-ジメトキシ-1,1,2,2-テトラ(4-メチルフェニル)エタン、1,2-ジフェノキシ-1,1,2,2-テトラ(4-メトキシフェニル)エタン、1,2-ビス(トリメチルシロキシ)-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1,2-ビス(トリエチルシロキシ)-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1,2-ビス(t-ブチルジメチルシロキシ)-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1-ヒドロキシ-2-トリメチルシロキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1-ヒドロキシ-2-トリエチルシロキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1-ヒドロキシ-2-t-ブチルジメチルシロキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン等、が挙げられ、好ましくは1-ヒドロキシ-2-トリメチルシロキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1-ヒドロキシ-2-トリエチルシロキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1-ヒドロキシ-2-t-ブチルジメチルシロキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1,2-ビス(トリメチルシロキシ)-1,1,2,2-テトラフェニルエタンであり、さらに好ましくは1-ヒドロキシ-2-トリメチルシロキシ-1,1,2,2-テトラフェニルエタン、1,2-ビス(トリメチルシロキシ)-1,1,2,2-テトラフェニルエタンであり、特に好ましくは1,2-ビス(トリメチルシロキシ)-1,1,2,2-テトラフェニルエタンである。
上記ベンゾピナコールは東京化成工業株式会社、和光純薬工業株式会社等から市販されている。また、ベンゾピナコールのヒドロキシ基をエーテル化することは、周知の方法によって容易に合成可能である。また、ベンゾピナコールのヒドロキシ基をシリルエーテル化することは、対応するベンゾピナコールと各種シリル化剤をピリジン等の塩基性触媒下で加熱させる方法により合成して得ることができる。シリル化剤としては、一般に知られているトリメチルシリル化剤であるトリメチルクロロシラン(TMCS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)やトリエチルシリル化剤としてトリエチルクロロシラン(TECS)、t-ブチルジメチルシリル化剤としてt-ブチルメチルシラン(TBMS)等が挙げられる。これらの試薬はシリコン誘導体メーカー等の市場から容易に入手することが出来る。シリル化剤の反応量としては対象化合物の水酸基1モルに対して1.0?5.0倍モルが好ましい。さらに好ましくは1.5?3.0倍モルである。1.0倍モルより少ないと反応効率が悪く、反応時間が長くなるため熱分解を促進してしまう。5.0倍モルより多いと回収の際に分離が悪くなったり、精製が困難になったりしてしまう。
【0026】
(e)熱ラジカル重合開始剤は粒径を細かくし、均一に分散することが好ましい。その平均粒径は、大きすぎると狭ギャップの電子部品製造時にギャップ形成が上手くできない等の不良要因となるため、5μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以下である。また、際限なく細かくしても差し支えないが、通常下限は0.1μm程度である。粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS-30)により測定できる。
【0027】
(e)熱ラジカル重合開始剤の含有量としては、本発明で製造される樹脂組成物の総量を100質量部とした場合、0.0001?10質量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.0005?5質量部であり、0.001?3質量部が特に好ましい。
【0028】
本発明の製造方法で得られる樹脂組成物は、(f)シランカップリング剤を用いて、接着強度向上や耐湿信頼性向上を図ることができる。シランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N-(2-(ビニルベンジルアミノ)エチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤はKBMシリーズ、KBEシリーズ等として信越化学工業株式会社等によって販売されているため、市場から容易に入手可能である。シランカップリング剤の樹脂組成物に占める含有量は、本発明で使用される樹脂組成物の全体を100質量部とした場合、0.05?3質量部が好適である。
【0029】
本発明の製造方法で得られる樹脂組成物は上記成分及び必要な場合に含有される成分以外にも、例えば光重合開始剤、ラジカル重合防止剤、硬化促進剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、溶剤などを含有するものであってもよい。
【0030】
上記光重合開始剤としては、紫外線や可視光の照射によって、ラジカルや酸を発生し、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジエチルチオキサントン、ベンゾフェノン、2-エチルアンスラキノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-メチル-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノ-1-プロパン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスヒンオキサイド、カンファーキノン、9-フルオレノン、ジフェニルジスルヒド等を挙げることができる。具体的には、IRGACURE^(RTM) 651、184、2959、127、907、396、379EG、819、784、754、500、OXE01、OXE02、DAROCURE^(RTM)1173、LUCIRIN^(RTM) TPO(いずれもBASF社製)、セイクオール^(RTM)Z、BZ、BEE、BIP、BBI(いずれも精工化学株式会社製)等を挙げることができる。
また、液晶汚染性の観点から、分子内に(メタ)アクリル基を有するものを使用する事が好ましく、例えば2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートと1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2メチル-1-プロパン-1-オンとの反応生成物が好適に用いられる。この化合物は国際公開第2006/027982号記載の方法にて製造して得ることができる。
光重合開始剤を用いる場合の樹脂組成物総量中の含有率は、通常0.001?3質量%、好ましくは0.002?2質量%である。
【0031】
上記ラジカル重合防止剤としては、光重合開始剤や熱ラジカル重合開始剤等から発生するラジカルと反応して重合を防止する化合物であれば特に限定されるものではなく、キノン系、ピペリジン系、ヒンダードフェノール系、ニトロソ系等を用いることができる。具体的には、ナフトキノン、2-ヒドロキシナフトキノン、2-メチルナフトキノン、2-メトキシナフトキノン、2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6,-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6,-テトラメチル-4-メトキシピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6,-テトラメチル-4-フェノキシピペリジン-1-オキシル、ハイドロキノン、2-メチルハイドロキノン、2-メトキシハイドロキノン、パラベンゾキノン、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルクレゾール、ステアリルβ-(3,5-ジt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス-3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]、2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-sec-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、パラメトキシフェノール、4-メトキシ-1-ナフトール、チオジフェニルアミン、N-ニトロソフェニルヒドロキシアミンのアルミニウム塩、商品名アデカスタブLA-81、商品名アデカスタブLA-82(株式会社アデカ製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうちナフトキノン系、ハイドロキノン系、ニトロソ系ピペラジン系のラジカル重合防止剤が好ましく、ナフトキノン、2-ヒドロキシナフトキノン、ハイドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-P-クレゾール、ポリストップ7300P(伯東株式会社製)が更に好ましく、ポリストップ7300P(伯東株式会社製)が最も好ましい。
ラジカル重合防止剤は、成分(c)を合成する際に添加する方法や、樹脂組成物の製造時において成分(c)に溶解させる方法があるが、より有効な効果を得る為には樹脂組成物の製造時において成分(c)に溶解させるほうが好ましい。
ラジカル重合防止剤の含有量としては樹脂組成物総量中、0.0001?1質量%が好ましく、0.001?0.5質量%が更に好ましく、0.01?0.2質量%が特に好ましい。
【0032】
上記硬化促進剤としては、有機酸やイミダゾール等を挙げることができる。
有機酸としては、有機カルボン酸や有機リン酸等が挙げられるが、有機カルボン酸である場合が好ましい。具体的には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、フランジカルボン酸等の芳香族カルボン酸、コハク酸、アジピン酸、ドデカン二酸、セバシン酸、チオジプロピオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、トリス(2-カルボキシメチル)イソシアヌレート、トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2-カルボキシプロピル)イソシアヌレート、ビス(2-カルボキシエチル)イソシアヌレート等を挙げることができる。
また、イミダゾール化合物としては、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6(2’-ウンデシルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6(2’-エチル-4-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールイソシアヌル酸の2:3付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-3,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ヒドロキシメチル-5-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニル-3,5-ジシアノエトキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
硬化促進剤を使用する場合には、樹脂組成物の総量を100質量部とした場合に、通常0.1?10質量%、好ましくは1?5質量%である。
【0033】
本発明の製造方法によって得られる樹脂組成物は、電子部品用、特に狭ギャップが要求される電子部品用とし、好適に用いられる。狭ギャップが要求される電子部品としては、例えば液晶表示セルを挙げることができる。
液晶表示セルは、基板に所定の電極を形成した一対の基板を所定の間隔に対向配置し、周囲を本発明の樹脂組成物で接着し、その間隙に液晶が封入されたものである。封入される液晶の種類は特に限定されない。ここで、基板とはガラス、石英、プラスチック、シリコン等からなる少なくとも一方に光透過性がある組み合わせの基板から構成される。その製法としては、本発明で得られる樹脂組成物に、グラスファイバー等のスペーサー(間隙制御材)を添加後、該一対の基板の一方にディスペンサー、またはスクリーン印刷装置等を用いて該樹脂組成物を塗布した後、必要に応じて、80?120℃で仮硬化を行う。その後、該樹脂組成物の堰の内側に液晶を滴下し、真空中にてもう一方のガラス基板を重ね合わせ、ギャップ出しを行う。ギャップ形成後、必要に応じて1000mJ/cm^(2)?6000mJ/cm^(2)の紫外線を照射し、その後90?130℃で1?2時間硬化することにより本発明の液晶表示セルを得ることができる。このようにして得られた液晶表示セルは、液晶汚染による表示不良が無く、接着性、耐湿信頼性に優れたものである。スペーサとしては、例えばグラスファイバー、シリカビーズ、ポリマービーズ等があげられる。その直径は、目的に応じ異なるが、通常2?8μm、好ましくは4?7μmである。その使用量は、本発明の樹脂組成物100質量%に対し通常0.1?4質量%、好ましくは0.5?2質量%、更に、好ましくは0.9?1.5質量%程度である。
【0034】
本発明の樹脂組成物の製造方法は例えば次のような方法が挙げられる。まず、成分(c)(複数の場合は熱混合を行い、冷却する)に必要に応じ、成分(f)を溶解する。次いで事前に混合した成分(a)及び(b)、また必要に応じて、成分(d)、(e)、消泡剤、レベリング剤、溶剤等を添加し、公知の混合装置、例えば2本ロール、3本ロール等により均一に混合し、金属メッシュにて濾過する。
【0035】
本発明の製造方法によって得られる樹脂組成物は、フィラーの凝集物が無い為、ディスペンスやスクリーン印刷といった塗布作業性に優れ、また液晶表示セルのセルギャップ不良を引き起こさない。また、液晶の差込への耐性も良好であり、液晶滴下工法における基板の貼り合せ工程、加熱工程においても液晶が差し込んだり、決壊したりする現象をおこさない。従って、安定した液晶表示セルの作成が可能である。また、構成成分の液晶への溶出も極めて少なく、液晶表示セルの表示不良を低減することが可能である。また、保存安定性にも優れる為、液晶表示セルの製造に適している。更に、その硬化物は接着強度、耐熱性、耐湿性等の各種硬化物特性にも優れる、特に透湿度は非常に低い。従って、本発明の樹脂組成物を用いることにより、信頼性に優れる液晶表示セルを作成することが可能である。また、本発明の樹脂組成物を用いて作成した液晶表示セルは、電圧保持率が高く、イオン密度が低いという液晶表示セルとして必要な特性も充足される。
【0036】
本発明の製造方法によって得られる樹脂組成物は、液晶の差し込みへの耐性が高い為、熱のみによる液晶滴下工法への適用も可能であり、生産タクト等の観点から、より好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実験例、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。尚、特別の記載のない限り、本文中「部」及び「%」とあるのは質量基準である。
【0038】
[合成例1]
[レゾルシンジグリシジルエーテルの全アクリル化物の合成]
レゾルシンジグリシジルエーテル181.2g(EX-201:ナガセケムテックス株式会社製)をトルエン266.8gに溶解し、これに重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン0.8gを加え、60℃まで昇温した。その後、エポキシ基の100%当量のアクリル酸117.5gを加え更に80℃まで昇温し、これに反応触媒であるトリメチルアンモニウムクロライド0.6gを添加して、98℃で約30時間攪拌し、反応液を得た。この反応液を水洗し、トルエンを留去することにより、目的とするレゾルシンジグリシジルエーテルのエポキシアクリレート293gを得た。得られたエポキシアクリレートの反応性基当量は理論値で183である。
【0039】
[合成例2]
[1,2-ビス(トリメチルシロキシ)-1,1,2,2-テトラフェニルエタンの合成]
市販ベンゾピナコール(東京化成製)100部(0.28モル)をジメチルホルムアルデヒド350部に溶解させた。これに塩基触媒としてピリジン32部(0.4モル)、シリル化剤としてBSTFA(信越化学工業製)150部(0.58モル)を加え70℃まで昇温し、2時間攪拌した。得られた反応液を冷却し、攪拌しながら、水200部を入れ、生成物を沈殿させると共に未反応シリル化剤を失活させた。沈殿した生成物をろ別分離した後十分に水洗した。次いで得られた生成物をアセトンに溶解し、水を加えて再結晶させ、精製した。目的の1,2-ビス(トリメチルシロキシ)-1,1,2,2-テトラフェニルエタンを105.6部(収率88.3%)得た。
HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析した結果、純度は99.0%(面積百分率)であった。
【0040】
[実施例1?7、比較例1?4]
下記表1に示す量の成分(a)、(b)等を用い、樹脂組成物の製造を行った。製造方法は以下に示す通りである。
まず、熱混合し、冷却した成分(c)に成分(f)を添加し攪拌した。その後成分(a)、(b)、(d)及び(e)を順次添加し、3本ロールにより均一に混合した。
なお、実施例1?7、比較例3?4においては、成分(a)、(b)を事前混合し、それを成分(c)と(f)の混合物に添加したが、比較例1?2 では、成分(c)と(f)の混合物に対して、成分(a)、(b)をこの順で添加し、混合したものである。
また、成分(a)と(b)の事前混合は、(a):(b)=75:18の比率で混ぜ合わせたものをジェットミル粉砕機を用いて3pass行った。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1?4、比較例1で調製した樹脂組成物について、以下の評価を行った。結果を表2にまとめる。
【0043】
[ろ過性試験]
凝集物の存在を評価する方法として、ろ過性試験を実施した。
これは、上記実施例1?4、比較例1で調整した樹脂組成物4gを6mmΦの635メッシュの金属メッシュでろ過し、時間とろ過できる量を測定する方法である。凝集物の多い樹脂組成物は次第にメッシュが詰まってくるため、ろ過速度が遅くなるが、分散されている樹脂組成物は一定の速度でろ過することができる。
ろ過性の評価
○:樹脂組成物4gが一定の速度でろ過できる。
△:樹脂組成物4gが徐々に速度が遅くなるがろ過できる。
×:樹脂組成物4gがろ過できず詰まってしまう。
【0044】
[接着強度試験]
凝集物が存在すると樹脂組成物中でのフィラーの均一性がなくなるため接着強度が低下するが、均一に分散されている樹脂組成物はフィラーの偏りがなくなるため接着強度が向上する。
樹脂組成物100gにスペーサーとして直径3μmのグラスファイバー(PF-30S:日本電気硝子株式会社製)1gを添加して混合撹拌を行う。この樹脂組成物を50mm×50mmのガラス基板上に塗布し、その樹脂組成物上に1.5mm×1.5mmのガラス片を貼り合わせ、120℃オーブンに1時間投入して硬化させた。そのガラス片のせん断接着強度をボンドテスター(SS-30WD:西進商事株式会社製)を使用して測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果より、本発明によって得られた樹脂組成物には、凝集物がなく、ろ過速度が落ちない結果となった。これに対し、比較例の樹脂組成物は凝集物の存在から、ろ過性が徐々に落ちていることが分かる。
また、本発明の樹脂組成物は接着強度についても、優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法によって得られた樹脂組成物は、フィラーの凝集物が無い為、ディスペンスやスクリーン印刷といった塗布作業性に優れ、また電子部品のギャップ不良を引き起こさない。更に接着強度等のような接着剤としての一般的な特性においても優れる為、長期信頼性に優れる電子部品の製造を容易にすることができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
平均粒子径A[μm]の有機フィラー(a)、平均粒子径B[μm]のフィラー(b)及び硬化性化合物(c)を含有する樹脂組成物の製造方法であって、
前記(a)が、アクリルゴム、スチレンゴム、スチレンオレフィンゴム、及びシリコーンゴムからなる群より選択される1又は2以上のゴム微粒子であり、
前記A[μm]及びB[μm]が、下記式(1)及び(2)で表される条件を満たし、かつ硬化性化合物(c)中にフィラー(a)及びフィラー(b)を分散する前に、フィラー(a)とフィラー(b)を攪拌混合する乾式工程を有する樹脂組成物の製造方法。
3μm≦A≦20μm・・・(1)
0.0005×A≦B≦0.010×A・・・(2)
【請求項5】
樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(a)の含有量が5部以上50部未満である請求項4に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
樹脂組成物の総量を100質量部としたときの(b)の含有量が1部以上20部未満である請求項4または5に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記硬化性化合物(c)が、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル化エポキシ樹脂及び部分(メタ)アクリル化エポキシ樹脂から選択される1種もしくは2種以上であり、更に熱硬化剤(d)を含有する請求項4乃至6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記硬化性化合物(c)がレゾルシンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリルエステル化物である請求項7に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記熱硬化剤(d)が有機酸ヒドラジド化合物である請求項7又は8に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
更に熱ラジカル重合開始剤(e)を含有する請求項4乃至9のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
更にシランカップリング剤(f)を含有する、請求項4乃至10のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項4乃至11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法を利用した電子部品用接着剤の製造方法。
【請求項13】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-26 
出願番号 特願2014-7383(P2014-7383)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 渕野 留香
加藤 友也
登録日 2018-03-16 
登録番号 特許第6304803号(P6304803)
権利者 日本化薬株式会社
発明の名称 樹脂組成物の製造方法  
代理人 小笠原 亜子佳  
代理人 小笠原 亜子佳  

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