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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E03C
管理番号 1355965
異議申立番号 異議2018-700353  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-26 
確定日 2019-09-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6225300号発明「排水栓装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6225300号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項[1?4]について、訂正することを認める。 特許第6225300号の請求項1及び4に係る特許を維持する。 特許第6225300号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6225300号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年8月10日に特許出願され、平成29年10月20日付けでその特許権の設定登録がされ、平成29年11月8日に特許掲載公報が発行された。その後、平成30年4月26日に特許異議申立人平賀博(以下「申立人」という。)より、請求項1?4に対して特許異議の申立てがされ、同年7月2日付け(発送日:同年7月6日)で取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月3日に意見書の提出及び訂正請求がされ、これに対して申立人より同年11月15日に意見書の提出がされ、平成31年2月4日付けで取消理由(決定の予告)(発送日:平成31年2月7日)が通知され、同年4月5日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ、令和1年7月1日に申立人より意見書が提出されたものである。

なお、本件訂正が請求されたことにより、平成30年9月3日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「槽体の底部に凹設された排水凹部と、
排水凹部より下方に向けて延設された排水筒部と、
排水筒部内に配置されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体から成り、
上記弁体は、弁体の下降時において、排水栓と、排水栓と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された、パッキンが嵌着された弁蓋下部を有するとともに、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し 、
当該蓋部は弁体の下降時において上記排水凹部内に配置されることを特徴とする排水栓装置。」と記載されているのを、
「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する排水凹部と、
排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部と、
上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体と、から成り、
上記弁体は、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し、
当該蓋部の外周部は弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置されることを特徴とする排水栓装置。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「前記蓋部は、
弁体の下降時において、槽体の底面と略同一高さとなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の排水栓装置。」と記載されているのを
「前記蓋部の上面は、
弁体の下降時において、槽体の底面と略同一高さとなることを特徴とする請求項1に記載の排水栓装置。」に訂正する。

オ 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0002】に
「従来の排水栓装置としては、槽体の底面に形成された開口と、当該開口の内周が下方に向けて延設されることによって形成された排水筒部と、当該排水筒部に取り付けられて排水口を形成する排水栓と、排水口を開閉する弁体から成る排水栓装置が知られている。排水栓は外周に雄螺子部を有するとともに、上端外周から外側に向けて鍔部が形成されており、槽体裏面に配置されたナット部材等に形成された雌螺子部と螺合されることで、鍔部がパッキンを介して槽体底面の開口周縁を境持することによって取り付けられている。
上記排水栓装置は、鍔部と排水筒部との隙間に水垢や塵芥等の汚れが堆積し、非常に見栄えが悪いという問題があった。」と記載されているのを、
「従来の排水栓装置としては、槽体の底面に形成された開口と、当該開口の内周が下方に向けて延設されることによって形成された排水筒部と、当該排水筒部に取り付けられて排水口を形成する排水栓と、排水口を開閉する弁体から成る排水栓装置が知られている。排水栓は外周に雄螺子部を有するとともに、上端外周から外側に向けて鍔部が形成されており、槽体裏面に配置されたナット部材等に形成された雌螺子部と螺合されることで、鍔部がパッキンを介して槽体底面の開口周縁を挟持することによって取り付けられている。
上記排水栓装置は、鍔部と排水筒部との隙間に水垢や塵芥等の汚れが堆積し、非常に見栄えが悪いという問題があった。」に訂正する。

カ 訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0007】に
「槽体の底部に凹設された排水凹部と、
排水凹部より下方に向けて延設された排水筒部と、
排水筒部内に配置されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体から成り、
上記弁体は、弁体の下降時において、排水栓と、排水栓と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された、パッキンが嵌着された弁蓋下部を有するとともに、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し、
当該蓋部は弁体の下降時において上記排水凹部内に配置されることを特徴とする排水栓装置である。」と記載されているのを、
「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する排水凹部と、
排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部と、
上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体と、から成り。
上記弁体は、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し、
当該蓋部の外周部は弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置されることを特徴とする排水栓装置である。」に訂正する。

キ 訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0008】を削除する。

ク 訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0009】を削除する。

ケ 訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0010】に
「請求項4に記載の本発明は、前記蓋部は、
弁体の下降時において、槽体の底面と略同一高さとなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の排水栓装置である。」と記載されているのを
「請求項4に記載の本発明は、前記蓋部の上面は、
弁体の下降時において、槽体の底面と略同一高さとなることを特徴とする請求項1に記載の排水栓装置である。」に訂正する。

コ 訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0011】に
「請求項1に記載の本発明によれば、上記特許文献1と比較し、排水栓装置を容易に製造可能であり、意匠性や止水性、及び排水流量を向上させることが可能となる。
請求項2又は請求項3に記載の本発明によれば、弁体の下降時に排水凹部内に配置された蓋部によって排水筒部を覆うことが可能となるため、排水栓を確実に覆い隠すことが可能となる。
請求項4に記載の本発明によれば、槽体が洗面ボウルの場合などにおいては、弁体の下降時に、蓋部の上方にヤカンや洗面器等を載置することが容易となる。又、槽体が浴槽の場合等においては、弁体の下降時において、弁体に脚を引っ掛けたりすることが防止できる。」と記載されているのを、
「請求項1に記載の本発明によれば、上記特許文献1と比較し、排水栓装置を容易に製造可能であり、意匠性や止水性、及び排水流量を向上させることが可能となる。
また、弁体の下降時に排水凹部内に配置された蓋部によって排水筒部を覆うことが可能となるため、排水栓を確実に覆い隠すことが可能となる。
請求項4に記載の本発明によれば、槽体が洗面ボウルの場合などにおいては、弁体の下降時に、蓋部の上方にヤカンや洗面器等を載置することが容易となる。又、 槽体が浴槽の場合等においては、弁体の下降時において、弁体に脚を引っ掛けたりすることが防止できる。」に訂正する。

サ 訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0012】に
「【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の要部を示す断面図である。
【図3】図2より弁体を除いた状態を示す断面図である。
【図4】弁体を示す断面図である。
【図5】第二実施形態を示す断面図である。
【図6】第三実施形態を示す断面図である。
【図7】第四実施形態を示す断面図である。」と記載されているのを、
「【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の要部を示す断面図である。
【図3】図2より弁体を除いた状態を示す断面図である。
【図4】弁体を示す断面図である。
【図5】第二実施形態を示す断面図である。
【図7】第四実施形態を示す断面図である。」に訂正する。

シ 訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0022】に
「本発明の第一実施形態は以上であるが、本発明は上記第一実施形態の形状に限られるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲において種々の形状変更を加えても良いものである。例えば、第一実施形態において、排水凹部1は平面視略円形であるが、楕円や矩形等種々の形状を成しても良いものである。更に、弁蓋61(特に蓋部62)の形状についても、平面視楕円や矩形等種々の形状を成しても良いものである。本発明では、弁蓋6 1は弁体6の下降時に排水凹部1内に配置されることから、排水凹部1の内周面に当接しない範囲内において自由に意匠を変更することが可能となる。
又、上記第一実施形態において、排水凹部1の内径は弁体6の弁蓋61の外径よりも大径であったが、図5に示す第二実施形態の様に、排水凹部1の内径と弁体6の外径が略同径であっても良い。この場合においては、弁体6と排水凹部1の間の隙間が極僅かとなるため、槽体Bと弁体6の間に一体感を生じさせることが可能となり、更に意匠性が向上する。
又、上記第一実施形態において、排水凹部1は段状に形成された円筒状であったが、図6に示す第三実施形態の様に、排水凹部1を傾斜面より形成された円錐状に形成しても良いものである。尚、この場合においては、排水筒部2を垂設する、又は排水筒部2の内周面を排水凹部1の内周面よりも垂直に近付けることにより、意匠性や排水流量が向上する。
又、図7に示す第四実施形態の様に、排水凹部1に化粧板200を載置しても良い。」と記載されているのを、
「本発明の第一実施形態は以上であるが、本発明は上記第一実施形態の形状に限られるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲において種々の形状変更を加えても良いものである。例えば、第一実施形態において、排水凹部1は平面視略円形であるが、楕円や矩形等種々の形状を成しても良いものである。更に、弁蓋61(特に蓋部62)の形状についても、平面視楕円や矩形等種々の形状を成しても良いものである。本発明では、弁蓋6 1は弁体6の下降時に排水凹部1内に配置されることから、排水凹部1の内周面に当接しない範囲内において自由に意匠を変更することが可能となる。
又、上記第一実施形態において、排水凹部1の内径は弁体6の弁蓋61の外径よりも大径であったが、図5に示す第二実施形態の様に、排水凹部1の内径と弁体6の外径が略同径であっても良い。この場合においては、弁体6と排水凹部1の間の隙間が極僅かとなるため、槽体Bと弁体6の間に一体感を生じさせることが可能となり、更に意匠性が向上する。
又、図7に示す第四実施形態の様に、排水凹部1に化粧板200を載置しても良い。」に訂正する。

ス 訂正事項13
願書に添付した図面の図6を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項
(1)訂正事項について
ア 訂正事項1
訂正事項1は、複数の訂正事項を含んでいるので、下記のとおり訂正事項1-1?訂正事項1-6に区分して整理する。

訂正事項1-1
訂正前の「槽体の底部に凹設された排水凹部」と記載されているのを、「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する排水凹部」に訂正すること。

訂正事項1-2
訂正前の「排水凹部より下方に向けて延設された排水筒部」と記載されているのを、「排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部」に訂正すること。

訂正事項1-3
訂正前の「排水筒部内に配置されて排水口を形成する排水栓」と記載されているのを、「上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓」に訂正すること。

訂正事項1-4
訂正前の「から成り」と記載されているのを、「と、から成り」に訂正すること。

訂正事項1-5
訂正前の「上記弁体は、弁体の下降時において、排水栓と、排水栓と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された、パッキンが嵌着された弁蓋下部を有するとともに、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し」と記載されているのを、「上記弁体は、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し」に訂正すること。

訂正事項1-6
訂正前の「蓋部は弁体の下降時において上記排水凹部内に配置される」と記載されているのを、「蓋部の外周部は弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置される」に訂正すること。

以下、訂正事項1-1?訂正事項1-6につき検討する。

(ア)訂正事項1-1
a 訂正の目的の適否について
訂正後の請求項1に係る発明は、排水凹部の形状をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、訂正事項1-1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記aで説示したように、訂正事項1-1は、「排水凹部」の構成について限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
まず「段状部」という用語についてみると、「段」には、「きざはし」や「かいだん」の意味があり、「状」には、「すがた」や「ありさま」の意味がある(いずれも、広辞苑<第三版>)ことから、「段状部」とは、階段のすがたをした部位と理解することができる。そうすると、図面の図1?3、図5及び図7には、排水凹部を意味する番号「1」で指示する部位に、階段のすがたをした部位を認めることができるから、排水凹部の「下方が上方よりも小径にされて下端に至る」箇所において、「段状部」を有している点が記載されているといえる。
なお、明細書の段落【0014】には、「・・本発明の第一実施形態について図1乃至図5を用いて説明する。」との記載があり、また、訂正前の段落【0022】には、「・・・又、上記第一実施例において、排水凹部1は段状に形成された円筒状であったが、図6に示す第三実施形態の様に、排水凹部1を傾斜面より形成された円錐状に形成しても良いものである。・・・」と記載されている。当該記載によれば、第一実施形態として示す図1乃至図5の排水凹部1は、「段状」という用語で説示された部位を有しているということができる。
以上のことから、訂正事項1-1は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(イ)訂正事項1-2
a 訂正の目的の適否について
訂正後の請求項1に係る発明は、排水凹部から排水筒部が延設される箇所をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、訂正事項1-2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記aで説示したように、訂正事項1-2は、排水凹部において排水筒部が延設される箇所について限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

c 願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
図面の図1?3、図5及び図7には、「排水凹部」を意味する番号「1」で示される部位の下端に、「排水筒部」を意味する番号「2」で示される部位が延設されている点が記載されている、すなわち、「排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部」の点が記載されているといえる。
したがって、訂正事項1-2は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)訂正事項1-3
a 訂正の目的の適否について
訂正後の請求項1に係る発明は、「排水栓」につき、上端部の構造、当該構造と排水筒部との配置状況、及び、下端部に接続されるものをより具体的に特定し、更に限定するものであるから、訂正事項1-3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記aで説示したように、訂正事項1-3は、「排水栓」の構成について限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

c 願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
図面の図1?3、図5及び図7には、「鍔部」を意味する番号「32」で示す部位が、「排水口」を意味する番号「3」で示される部材の上端部に形成されているとともに、当該「上端部」が排水筒部2内に配置されている点が記載されている。また、図1には、番号「3」で示される部材の「下端部」に、「配管」を意味する番号「100」で示す部材が接続されている点が記載されている。よって、前記図面には、「上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓」の点が記載されているといえる。
したがって、訂正事項1-3は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(エ)訂正事項1-4
a 訂正の目的の適否について
訂正前の請求項1には、「から成り」との記載があることにより、訂正前の請求項1に係る発明が、「排水栓装置」において、「排水凹部」、「排水筒部」及び「排水栓」に対して、「弁体」が並列的な構成要素であるかどうかが明瞭でなかったところ、本件訂正1-4は、「弁体」の後に「と、から成り」と記載することにより、「排水栓装置」において、「排水凹部」、「排水筒部」及び「排水栓」に対して、「弁体」が並列的な構成要素であるという、本来の意を明らかにするものである。
したがって、訂正事項1-4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記aで説示したように、訂正事項1-4は、明瞭でない記載を釈明するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

c 願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
明細書並びに図面の図1?3、図5及び図7には、「排水栓装置」において、「排水凹部」、「排水筒部」及び「排水栓」に対して、「弁体」が並列的な構成要素であることが記載されていることは明らかである。
したがって、訂正事項1-4は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(オ)訂正事項1-5
訂正事項1-5には、「弁体」に関する複数の訂正事項が含まれているので、さらに、以下(a)?(e)に区分して検討する。
a 訂正の目的の適否について
(a)「弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し」と訂正した点
訂正前の請求項1には、「弁体の下降時において」及び「パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し」の2つの語句が、互いに離れた箇所での記載となっていることにより、両者の関係が判然とせず、すなわち、「パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接」して「排水口を閉塞」することが、「弁体の下降時において」であるのか否かが明瞭でなかったところ、本件訂正は、「弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し」と記載することにより、「パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接」して「排水口を閉塞」することが、「弁体の下降時において」であるという本来の意味を明らかにするものである。
したがって、訂正事項1-5は、明瞭でない釈明を目的としたものを含んでいる。

(b)「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部」と訂正した点
訂正後の請求項1に係る発明は、「蓋部」につき、「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部」であるとし、「蓋部」が「覆い隠す」部位につき、「排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て」と、より具体的に特定し、更に限定するものである。
したがって、訂正事項1-5は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものを含んでいる。

(c)「排水栓」を記載しないことについて
訂正前の請求項1に係る発明は、弁体が、排水栓に形成されている排水口を閉塞するものであることから、弁体の蓋部は、当然に排水栓を覆い隠すものであるところ、訂正前の請求項1には、当然に覆い隠されることとなる「排水栓と、」の記載があることにより、蓋部が覆い隠す部位についての記載が明瞭でなかったところ、本件訂正は、覆い隠すことになる「排水栓」を記載しないことにより、覆い隠す部位を明瞭にするものである。
したがって、訂正事項1-5は、明瞭でない釈明を目的としたものを含んでいる。

(d)「蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部」と訂正した点
訂正前の請求項1には、「蓋部下方に形成された」及び「弁蓋下部」の2つの語句の関係が明瞭でなかったところ、本件訂正は、「蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部」と記載することにより、弁蓋下部が蓋部下方に形成されているとともに、パッキンが嵌着されているという、本来の意味を明らかにするものである。
したがって、訂正事項1-5は、明瞭でない釈明を目的としたものを含んでいる。

(e)「と、を有する」と訂正した点
訂正前の請求項1には、「を有する」との記載があることにより、訂正前の請求項1に係る発明が、「弁体」において、「蓋部」に対して「弁蓋下部」が並列的な構成要素であるのかどうかが明瞭でなかったところ、本件訂正は、「弁蓋下部」の後に「と、を有する」と記載することにより、「弁体」において、「蓋部」に対して「弁蓋下部」が並列的な構成要素であるという、本来の意を明らかにするものである。
したがって、訂正事項1-5は、明瞭でない釈明を目的としたものを含んでいる。

(f)まとめ
訂正事項1-5は、「蓋部」に関して限定するとともに、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記aで説示したように、訂正事項1-5は、「蓋部」に関して限定するとともに、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

c 願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
明細書の段落【0016】には、「弁蓋下部611は上記弁体6の下降時において、排水栓3の内側に配置されるとともに、パッキン7は排水口34の周縁に当接し、排水口34を閉塞する。」と記載されている。
また、段落【0016】には、「蓋部62はその外径が鍔部32の外径及び排水筒部2の内径よりも大径且つ排水凹部1の内径よりも小径であり」と記載されており、段落【0020】には、「蓋部62は排水栓3及び排水栓3と排水筒部2との間を全て覆っている。」と記載されている。また、図2には、外径が排水凹部1の下端の内径よりも大径の「蓋部62」が記載されているとともに、当該「蓋部62」が、「排水栓3の鍔部と排水筒部2との隙間を全て覆い隠している点が記載されている。
さらに、段落【0016】には、「弁体6は弁蓋61と・・・弁軸63と・・・目皿64から構成されている。弁蓋61は、排水栓3を覆う蓋部62と、蓋部62下方に形成された、周囲にパッキン7が嵌着された弁蓋下部611から構成された止水部材である。」と記載されていて、弁体61において、蓋部62と弁蓋下部611が並列的構成要素である点が記載されている。
したがって、訂正事項1-5は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(カ)訂正事項1-6
a 訂正の目的の適否について
訂正後の請求項1に係る発明は、蓋部が、弁体の下降時において排水凹部内において配置されることについて、「当該蓋部の外周部は弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置される」という記載により、排水凹部の形状をより具体的に特定し、更に限定するとともに、当該限定された形状の排水凹部内に配置される蓋部の部位及びその配置状況をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、訂正事項1-6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記aで説示したように、訂正事項1-6は、排水凹部の形状及び排水凹部内に配置される蓋部の部位及びその配置状況について限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

c 願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
明細書の段落【0020】には、「弁体6が下降している状態において、弁蓋61の蓋部62は排水凹部1内に配置される。この時、弁蓋下部611は排水栓3内に配置されるとともに、弁蓋下部611の周囲に嵌着されたパッキン7は排水口34の周縁と当接することで排水口34を閉塞しており、」と記載されている。
また、図2には、図面の図1、図2、図5及び図7には、「蓋部62」の外周部が、弁体6の下降時において排水凹部1内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置される点が記載されている。
したがって、訂正事項1-6は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(キ)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮または、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2及び3
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項2及び3は、訂正前の請求項2及び請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮を目的とするものである。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記(ア)で説示したように、訂正事項2及び3は、訂正前の請求項2及び請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項2及び3は、訂正前の請求項2及び請求項3を削除するものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項4
(ア)訂正の目的の適否について
訂正後の請求項4に係る発明は、弁体の下降時において、蓋部が槽体の底面と略同一高さとなる部位をより具体的に特定し、さらに限定するものであるとともに、訂正事項2及び3による請求項2及び3の削除にともなって引用する請求項を整合させるものであるから、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記(ア)で説示したように、訂正事項4は、弁体の下降時において、槽体の底面と略同一高さとなる部位について限定するものであるとともに明瞭でない記載を釈明するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
明細書の段落【0020】には、「弁体6が下降している状態において、弁蓋61の蓋部62は排水凹部1内に配置される。この時、弁蓋下部611は排水栓3内に配置されるとともに、弁蓋下部611の周囲に嵌着されたパッキン7は排水口34の周縁と当接することで排水口34を閉塞しており、槽体Bは内部に水栓からの吐水等を貯留することができる。又、弁蓋61の上端は、排水凹部1の上端高さHと略同一の高さとなっている・・・」と記載されている。
したがって、訂正事項4は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 訂正事項5
訂正前の明細書の段落【0002】の「鍔部がパッキンを介して槽体底面の開口周縁を境持することによって取り付けられている。」において、「境持」を漢字の表記どおりに読みすすめても技術的内容が理解できないのであるから、当該「境持」は、誤記であると認められる。
そこで、排水栓の槽体底面への取付け等に関して、本件の明細書の段落【0015】には、「当該フランジ部21は排水栓3とナット5によって挟持されている。」及び「パッキンやオーバーフローアダプター4を介し、ナット5と鍔部32とでフランジ部21を挟持することによって排水栓3を槽体Bに固定している。」との記載があることから、上記「境持」は、本来「狭持」と記載すべきところの誤りであることは明らかである。
そうすると、段落【0002】の「境持」との記載を「狭持」に訂正することは、誤記を本来の記載とするものであるから、訂正事項5は、誤記の訂正を目的とするものであると認められる。また、当該訂正事項5は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

オ 訂正事項6乃至9
訂正事項6乃至9は、上記訂正事項1乃至4の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項6乃至9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

カ 訂正事項10
訂正事項10は、上記訂正事項2及び3の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

キ 訂正事項11及び12
訂正事項11及び12は、後記訂正事項13の訂正に伴い、訂正後の図面と明細書の記載とを整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項11及び12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

ク 訂正事項13
訂正事項13は、上記訂正事項1の訂正によって、訂正発明1及び4の「槽体」の「排水凹部」が「下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する」ものに減縮されたことに伴い、特許請求の範囲と図面の記載との整合を図るべく、「下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する排水凹部」を備えていない排水栓装置を記載した訂正前の図面の図6を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

ケ 一群の請求項について
訂正前の請求項2乃至4は、いずれも訂正前の請求項1を引用するものであって、上記訂正事項1による請求項1の訂正により連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1乃至4に対応する訂正後の請求項1乃至4は一群の請求項である。

3 申立人の主張について
申立人は、
本件発明1では、「段状部」という構成要素を付加する訂正が請求されているが、特許権者の提出した訂正請求書及び意見書並びに明細書及び図面を参酌しても、下方向におけるどの範囲までが「段状部」であるのかを把握することができず、ひいては「排水凹部の下端」の位置を特定することができない。
また、「鍔部が排水筒部内に配置される」と規定されているが、鍔部の全体が排水筒部内に配置されるとは規定されておらず、鍔部の位置によって排水筒部の上端ひいては排水凹部の下端を特定することもできない。
さらに、「排水凹部の下端」について、槽体における鍔部外周部よりも下の部分であると捉えた場合には、「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部」という発明特定事項を満たしていたとしても、蓋部の外径が排水栓(鍔部)の外径よりも大径とはならないことがあり、そのときには、訂正前の本件発明1にて規定されていた、「排水栓と…を全て覆い隠す蓋部」という発明特定事項を満たさないことにはなる。したがって、本件発明1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であって、訂正要件を満たしていない、
旨主張している。(意見書2頁下から3行?3頁17行)

しかしながら、本件発明1に「段状部を有する排水凹部」と規定されているように、「段状部」は、排水凹部が有している部位であって、下方向の範囲でもって特定される事項ではない。なお、本件発明1においては、「段状部」の内容は、上記第2の2(1)ア(ア)で説示したとおり把握することができるものである。
また、本件発明1の「排水凹部」については、「下方が上方よりも小径にされて下端に至る」ものと規定されており、また、「排水筒部」については、「排水凹部の下端から下方に向けて延設」されたものと規定されている。したがって、「排水凹部」は、「下方」という用語で規定されているように上下の位置関係あることを前提に、下端という箇所が把握できるものであり、また、「排水筒部」は、前記「排水凹部」の下端から延設されていると理解することができる。したがって、鍔部の配置にかかわらず、排水凹部の下端、及び当該下端から延設される排水筒部は、明確に特定できるものである。
さらに、本件発明1の「鍔部」については、「上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置される」ものと規定されている。前記のとおり配置される箇所が「排水筒部内」としているのであるから、「鍔部」は、「排水筒部」の「内」にあるものであると解される。
したがって、申立人の、「排水凹部の下端」が、槽体における鍔部外周部よりも下の部分であると捉えた場合についての主張、すなわち、「鍔部」が、「排水筒部」の「内」にない場合を前提とした主張は失当であるといわざるを得ない。
以上のとおりであるから、申立人の主張を採用することはできない。

4 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?13は、特許法第120条の5第2項ただし書第1乃至3号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?4]について訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1及び4に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1及び4に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する排水凹部と、
排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部と、
上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体と、から成り、
上記弁体は、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し、
当該蓋部の外周部は弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置されることを特徴とする排水栓装置。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)。

【請求項2】
(削除)

【請求項3】
(削除)

【請求項4】
前記蓋部の上面は、
弁体の下降時において、槽体の底面と略同一高さとなることを特徴とする請求項1に記載の排水栓装置。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
平成30年9月3日付け訂正請求書により訂正された請求項1及び4に係る特許に対して通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1及び4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 各甲号証及び文献について
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2012-241489号公報)には、以下の事項が記載されている。(下線は当決定で付与。以下同様。)
(ア)「【0001】
本発明は、槽体の排水口に設けられた栓蓋を動作させるための排水栓装置に関する。」
(イ)「【0030】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、排水栓装置1は、図1に示すように、操作機構2、伝達部材(例えばワイヤー)4、オーバーフロー口部材5、支持軸部材6、排水口部材7、栓蓋駆動機構8、及び、栓蓋9を備えており、槽体としての浴槽100に取付けられている。
【0031】
浴槽100は、成形品であり、底壁部101と、当該底壁部101の外周に立設された側壁部102とを備えている。また、底壁部101には、浴槽100内の水を排出するための排水口103が設けられており、側壁部102の上部には、浴槽100からのオーバーフローを防止するためのオーバーフロー口104が設けられている。尚、本実施形態では、側壁部102が浴室の壁面(図示せず)に対して比較的接近しており、側壁部102の背面と前記浴室の壁面との間に形成される内部スペースがやや小さい状態となっている。
【0032】
加えて、排水口103は、図2に示すように、浴槽100から排出される水の流路となる筒状の配管105を備えている。配管105は、配管本体106と、配管本体106から枝分かれして上方側に延びる排水口接続部107とを備えている。また、排水口接続部107は、自身の端部に径方向外側に突出する鍔状のフランジ部107Aを有するとともに、自身の内周面に雌ねじ部107Bを有している。そして、排水口103に挿設され外周面に雄ねじ部71を有する前記排水口部材7を前記排水口接続部107に螺合することで、配管105を備えてなる排水口103が形成されている。
【0033】
尚、排水口103においては、排水口接続部107のフランジ部107Aと、排水口部材7のうちその上部から外周側へと突出する張出部72とにより、浴槽100の底壁部101が挟持された状態となっている。また、フランジ部107Aの上面と底壁部101の背面との間には、EPDMゴム等の弾性材料からなる環状のシール部材10が設けられている。当該シール部材10は、排水口接続部107に対する排水口部材7の螺合に伴い、フランジ部107Aと底壁部101との間で挟圧された状態となっており、その結果、排水口103からの排水時における漏水防止が図られている。加えて、排水口部材7の張出部72と底壁部101の表面との間にも、EPDMゴム等の弾性材料からなる環状のシール部材11が配置されており、浴槽100からの漏水防止が図られている。」
(ウ)「【0100】
加えて、プランジャー81(外筒812)に支持される栓蓋9は、排水口部材7や支持軸部材6の上方に位置しており、POM等の樹脂からなる蓋部91と、弾性変形可能な素材(例えば、樹脂やEPDMゴム等のゴム)からなる環状の栓蓋シール92とを備えている。
【0101】
蓋部91は、表面がなだらかに湾曲する形状をなしており、栓蓋シール92は、蓋部91の背面に設けられている。加えて、栓蓋シール92は、外周側に向けて徐々に薄くなるように構成されており、排水口103の閉時に、その外周縁の全周が排水口部材7の張出部72に対して接触するようになっている。
【0102】
上述した栓蓋駆動機構8においては、操作ハンドル21を回動させ、ハンドル支持部材23により伝達部材4を引くことで、図2に示すように、プランジャー81及び栓蓋9が下動し、排水口103が閉じられる。尚、排水口103が閉じた状態においては、栓蓋9(栓蓋シール92)が排水口部材7に接触するため、栓蓋9に下方側に向けた力を加えたとしても、その力が伝達部材4に対して伝達されることはない。
【0103】
一方で、操作ハンドル21を回動させ、ハンドル支持部材23により伝達部材4を押すことで、図15に示すように、伝達部材4の他端部が上動し、伝達部材4の他端部に押される形で蓋軸811が上動する。そして、栓軸811の上動に伴い、ショックアブソーバースプリング813とこれに支持された外筒812とが上動する(つまり、プランジャー81が上動する)ことで、外筒812に支持された栓蓋9が上動し、排水口103が開く。このとき、ハンドル支持部材23に設けられた第2被係止部237に内周ガイド部材25の係止部253が係止されることで、排水口103が開状態でロックされる。」

(エ)図2




図2から、以下の点が看て取れる。
a 浴槽100の底壁部101に、下方に向かって縮径する傾斜面部を有する排水するための凹部を備える点。
b 底壁部101に、排水するための凹部の下方に向かって縮径する傾斜面部の下方に連なる下方傾斜面部、当該下方傾斜面部に連なる微小の水平部、及び微小の水平部の端に連なる下向きの排水口103が設けられている点。
c 張出部72が、排水するための凹部の傾斜面部に連なる下方傾斜面部内に配置されている点。
d 雄ねじ部71が、排水口部材7の下端部に形成されている点。
e 環状の栓蓋シール92が栓蓋9の下方の部位で嵌合している点。
f 栓蓋9の下降時に、栓蓋9の上面が、浴槽100底面と略同一の高さとなる点。

イ 甲第1号証に記載された発明の認定
上記アの(ア)?(エ)から、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「操作機構2、伝達部材4、オーバーフロー口部材5、支持軸部材6、排水口部材7、栓蓋駆動機構8、及び、栓蓋9を備え、槽体としての浴槽100に取付けられる排水栓装置1において、
浴槽100の底壁部101に備えられた、下方に向かって縮径する傾斜面部を有する排水するための凹部と、
底壁部101に設けられた、排水するための凹部の下方に向かって縮径する傾斜面部の下方に連なる下方傾斜面部、当該下方傾斜面に連なる微小の水平部、及び微小の水平部の端に連なる下向きの排水口103と、
上部から外周側へと突出する張出部72を有し、当該張出部72が下方傾斜面部内に配置され、排水口103に挿設されるものであって、下端部に雄ねじ部71が形成され、配管105が備えている排水口接続部107に螺合される排水口部材7と、
栓蓋駆動機構8において、操作ハンドル21を回動させることで、上動し、排水口103が開き、下動し、排水口103が閉じられる栓蓋9と、を有し、
栓蓋9は、排水口部材7の上方に位置しており、蓋部91と、栓蓋9の下方の部位で嵌合する環状の栓蓋シール92とを備え、栓蓋シール92は、排水口103の閉時に、その外周縁の全周が排水口部材7の張出部72に対して接触するようになっており、
栓蓋9の下降時に、栓蓋9の上面が、浴槽100底面と略同一の高さとなる、
排水栓装置。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2014-34782号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、槽体の排水口に設けられる排水栓装置に関する。」
(イ)「【0021】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、排水栓装置1は、槽体としての浴槽100に取付けられており、排水口部材2と、栓蓋3と、アタッチメント部材4と、支持機構5とを備えている。
【0022】
浴槽100は、樹脂等からなる成形品であり、略水平方向に延びる底壁部101と、下方に向けて延びる垂下部102と、垂下部102の下端から径方向内側に向けて突出する環状の張出部103とを備えている。そして、張出部103の内周には、浴槽100に貯留された水を排出可能な排水口105が形成されている。また、浴槽100には、垂下部102の上端部と底壁部101の排水口105側端部とを連接する環状の連接部104が設けられている。
【0023】
加えて、連接部104は、その表面に、下方に向けて一定の割合で内径が徐々に縮径するテーパ面104Aを備えており、排水口部材2の中心軸を含む断面において、テーパ面104Aの外形線は直線状とされている。また、連接部104の表面のうち、前記テーパ面104Aと底壁部101の表面との間に位置する面と、テーパ面104Aと垂下部102の表面との間に位置する面は、排水口105側に向けて凸の湾曲面状とされている。従って、本実施形態では、少なくとも底壁部101から垂下部102にかけての表面が凹凸のない滑らかな表面形状を呈するように構成されている。
【0024】
排水口部材2は、樹脂等からなり、外周面に雄ねじ部21を有する本体部22と、本体部22の上端部から外周側に突出する鍔部23とを備えている。また、排水口部材2は、本体部22が排水口105に挿通されるとともに、鍔部23が張出部103の表面上に載置された状態で、排水口105に挿設されている。尚、本実施形態では、本体部22のうち少なくとも上端側の内周面は、凹凸のない表面形状を呈するように構成されている。
【0025】
加えて、排水口部材2に対して、浴槽100から排出される水の流路となる筒状の配管106が取付けられることで、浴槽100と配管106とが接続されている。より詳しくは、配管106は、自身の端部内周面に前記雄ねじ部21を螺合可能な雌ねじ部107を備えており、当該雌ねじ部107に前記雄ねじ部21を螺合し、鍔部23と配管106の上端面との間で張出部103を挟み込むことにより、排水口部材2に配管103(当決定注:「106」と記載すべきところの誤記。)が取付けられるとともに、浴槽100と配管103(当決定注:同じく誤記。)とが接続されている。
【0026】
さらに、張出部103の背面と配管106の上端面との間には、EPDMゴム等の弾性材料からなる環状のパッキン6が設けられている。パッキン6は、配管106に対する排水口部材2の螺合に伴い、張出部103の背面及び配管106の上端面で挟圧された状態となっており、その結果、排水口105からの排水時における漏水防止が図られている。
【0027】
また、本実施形態では、鍔部23の背面と張出部103の表面との間に、それぞれ環状をなすスリップワッシャ8とパッキン9とが設けられており、排水口部材2と浴槽100との間からの漏水防止が図られている。
【0028】
栓蓋3は、排水口105に設けられており、支持機構5の後述する支持軸51の上端部に取付けられている。さらに、栓蓋3は、樹脂等により形成され、自身の表面が底壁部101の表面に露出する蓋部31と、ゴム等の弾性材料からなり、前記蓋部31の背面側外周に設けられた環状のシール部材32とを備えている。
【0029】
また、蓋部31の外周端は、シール部材32の外周端よりも外周側に位置しており、蓋部31によりシール部材32が隠れる形となっている。さらに、蓋部31の外周端は、鍔部23の外周端よりも外周側に位置しており、蓋部31により鍔部23が隠れる形となっている。これにより、浴槽100の表面側から鍔部23やシール部材32を視認することが難しくなり、外観品質の向上を図ることができるようになっている。尚、蓋部31の表面にステンレス等の金属からなる薄肉の被覆部を設け、外観品質の一層の向上を図ることとしてもよい。
【0030】
アタッチメント部材4は、樹脂等からなり、筒状の保持部41と、当該保持部41の外周から径方向外側に延びる複数のアーム部42とを備えている。
【0031】
保持部41は、自身の内周において支持機構5を保持しており、保持部41の少なくとも下端側には、保持部41の中心軸方向に沿って延びる複数のスリット(図示せず)が設けられている。保持部41に対して支持機構5を挿入する際には、前記スリットを拡幅し保持部41の下端側開口を拡径した上で、前記下端側開口から保持部41の内周へと支持機構5が挿入されるようになっている。
【0032】
アーム部42は、周方向に沿って等間隔に複数(本実施形態では4つ)設けられている。そして、各アーム部42の外周部が排水口部材2の内周面に取付けられることで、アタッチメント部材4が排水口部材2に取付けられている。すなわち、本実施形態において、排水口部材2は、自身の内周において、アタッチメント部材4を介して間接的に支持機構5を保持している。尚、本実施形態では、排水口部材2の中心軸と栓蓋3の中心軸とが同軸上に設けられている。
【0033】
支持機構5は、樹脂等からなり、棒状の支持軸51と、当該支持軸51の外周に位置する円筒部材52とを備えている。そして、支持軸51の上端部が、蓋部31の背面中央に設けられた筒状部分に嵌合されることで、支持軸51に栓蓋3が取付けられている。
【0034】
加えて、支持軸51には、押しボタン等により構成された操作部(図示せず)の変位を前記支持軸51に伝達するための伝達部71(例えば、金属製のワイヤー)の端部が接続されている。そして、前記操作部の変位に伴い、伝達部71がその外周に設けられた外皮72の内周にて往復移動することで、支持軸51が浴槽100に対して上下動するようになっている。具体的には、図1及び図2に示すように、前記操作部の変位により、上昇端(正確には上昇端よりも若干だけ下側)における支持軸51のロックと、ロック解除に伴う支持軸51の下動とが交互に行われ、ひいては操作部を操作する度に栓蓋3の上昇・下降(排水口105の開閉)が交互に行われるようになっている。
【0035】
次いで、本発明の特徴部分について説明する。本実施形態において、排水口部材2の上端側内周には、下方に向けて徐々に内径が小さくなるテーパ状の縮径部24が設けられている。そして、図3に示すように、縮径部24は、連接部104の内周において、自身の表面が連接部104の表面と連続的に設けられている。本実施形態では、縮径部24の表面を含む仮想面VSに、テーパ面104Aが重なるように構成されている。
【0036】
尚、「縮径部24の表面が連接部104の表面と連続する」とあるのは、各表面同士の間に隙間や凹凸が何ら形成されていない場合のみならず、本実施形態のように、各表面同士の間に若干の隙間や凹凸が形成されている場合も含む。例えば、縮径部24の表面と連接部104の表面の間に、径方向に沿った大きさXが所定値(例えば、2mm、より好ましくは1mm)以下の隙間が設けられていてもよい。また、図4に示すように、連接部104の表面と縮径部24の表面との間に、距離Y(より詳しくは、縮径部24の表面を含む仮想面VSから連接部104の表面までの仮想面VSと直交する方向に沿った距離)が所定値(例えば、1mm、より好ましくは0.5mm)以下の段差を設けてもよい。
【0037】
加えて、本実施形態では、縮径部24の表面と連接部104の表面とが連続的に設けられることで、底壁部101の表面から排水口部材2(本体部22)の内周面にかけての面が、底壁部101の表面と、連接部104の表面及び縮径部24の表面からなる傾斜面と、排水口部材2(本体部22)の内周面とからなる三面構造となっている。
【0038】
さらに、本実施形態では、図1に示すように、排水口105の閉鎖時には、シール部材32の外周部全周が縮径部24の表面に接触するようになっている。そして、縮径部24の表面にシール部材105の外周部が接触した状態(すなわち、排水口105を閉鎖した状態)において、蓋部31の外周部の表面が、底壁部101の表面(より詳しくは、底壁部101の表面のうち排水口105側に位置する端部の表面)と同一の高さ位置に設けられるように構成されている。
【0039】
尚、「蓋部31の外周部の表面が底壁部101の表面と同一の高さ位置に設けられる」とあるのは、蓋部31の外周部の表面が、底壁部101の表面と厳密に同一の高さ位置に設けられる場合のみならず、図5に示すように、蓋部31の外周部の表面と底壁部の表面との間に、鉛直(高さ)方向に沿った大きさZが所定値(例えば、2mm、より好ましくは1mm)以下の位置ずれが存在していている場合も含む。
【0040】
以上詳述したように、本実施形態によれば、張出部103上に鍔部23が配置されるとともに、蓋部31の外周端が鍔部23の外周端よりも外周側に位置するように構成されている。従って、蓋部31により鍔部23が隠れる形となるため、浴槽100の表面側から鍔部23が視認しにくくなり、外観品質の向上を図ることができる。
【0041】
さらに、本実施形態では、排水口部材2の上端側内周に縮径部24が形成されており、縮径部24の表面は、連接部104の表面と連続的に設けられている。すなわち、底壁部101の表面から排水口部材2の内周面にかけての面が、底壁部101の表面、連接部104の表面と縮径部24の表面とからなる傾斜面、及び、排水口部材2の内周面(つまり、3つの面)により構成されている。従って、底壁部101の表面から排水口部材2の内周面にかけて、少ない面で構成されることにより滑らかな外観形状が呈されることとなり、外観品質をより一層向上させることができる。また、底壁部101の表面から排水口部材2の内周面にかけての面に、汚れが付着してしまうことを効果的に抑制できる。さらに、仮に汚れが付着したとしても、その汚れを容易に除去することができ、清掃性の向上を図ることができる。
【0042】
加えて、本実施形態では、排水口105の閉時に、縮径部24の表面に対してシール部材32の外周部が接触するように構成されている。ここで、栓蓋3の中心軸と排水口部材2の中心軸とは同軸上に配置されているため、浴槽100の形状に多少の寸法誤差がある場合であっても、排水口105の閉時には、栓蓋3(シール部材32)と排水口部材2との間で良好なシール性を確保することができる。その結果、優れた水密性を実現することができる。」

(ウ)「【0047】
(b)上記実施形態では、鍔部23の背面と張出部103の表面との間に、スリップワッシャ8及びパッキン9が設けられているが、スリップワッシャ8及びパッキン9のうちの一方のみを設けてもよい。また、鍔部23の背面と張出部103の表面との間において十分なシール性が確保される場合には、図6等に示すように、スリップワッシャ8及びパッキン9を省略してもよい。」

(エ)【図1】





図1から、以下の点が看て取れる。
a 垂下部102の下端から径方向内側に向けて突出する環状の張出部103の上方に水平状の面が形成されている点。
b 排水口部材2の本体部22の上端部から外周側に突出する鍔部24が、垂下部102内に配置された点。
c 排水口部材2の下端側に雄ねじ部21が形成されている点。
d 蓋部31の下方に形成された部位にシール部材32が嵌り、縮径部24に接触している点。
e 蓋部31の外周端が排水口部材2と垂下部102との隙間よりも外側に位置している点。
f 垂下部102が、環状の連接部104の下端から下方に延びている点。
g 蓋部31の外径が、環状の連接部104の下端よりも大径である点。

イ 甲第2号証に記載された発明の認定
上記アの(ア)?(エ)から、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「槽体としての浴槽100に取付けられ、排水口部材2と、栓蓋3と、アタッチメント部材4と、支持機構5とを備えている排水栓装置1において、
浴槽100は、略水平方向に延びる底壁部101と、下方に向けて延びる垂下部102と、垂下部102の下端から径方向内側に向けて突出する環状の張出部103とを備え、浴槽100には、垂下部102の上端部と底壁部101の排水口105側端部とを連接する環状の連接部104が設けられ、連接部104は、その表面に、下方に向けて一定の割合で内径が徐々に縮径するテーパ面104Aを備えており、排水口部材2の中心軸を含む断面において、テーパ面104Aの外形線は直線状とされ、垂下部102が、環状の連接部104の下端から下方に延びており、
排水口部材2は、排水口105に挿設されるものであって、外周面に雄ねじ部21を有する本体部22と、本体部22の上端部から外周側に突出する鍔部23とを備えるとともに、鍔部23が、垂下部102内に配置され、下端側の外周面に有した雄ねじ部21を配管106の雌ねじ部107に螺合し、排水口部材2に配管106が取り付けられ、排水口部材2の上端側内周には、下方に向けて徐々に内径が小さくなるテーパ状の縮径部24が設けられていて、縮径部24は、連接部104の内周において、自身の表面が連接部104の表面と連続的に設けられており、
操作部を操作する度に栓蓋3の上昇・下降、すなわち排水口105の開閉が交互に行われるようになっていて、
栓蓋3は、樹脂等により形成され、自身の表面が底壁部101の表面に露出する蓋部31と、前記蓋部31の背面側外周に設けられた環状のシール部材32とを備えており、蓋部31の外径が、環状の連接部104の下端よりも大径であり、蓋部31の外周端が、排水口部材2と垂下部102との隙間よりも外側に位置しており、蓋部31により鍔部23が隠れる形となっていて、浴槽100の表面側から鍔部23を視認しにくくなり、外観品質の向上を図れるようになっており、また、蓋部31の下方に形成された部位に環状のシール部材32が嵌り、排水口105の閉時に、環状のシール部材32の外周部が排水口部材2の上端側内周に形成された縮径部24の表面に対して接触するように構成されている、
排水栓装置。」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2012-211449号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、槽体の排水口に設けられる排水口装置に関する。」
(イ)「【0030】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、排水口装置1は、図2に示すように、排水口部材2や支持軸部材3等を備えており、槽体としての浴槽100に取付けられている。まず、排水口装置1の説明に先立って、これが取付けられる浴槽100の構造について説明する。
【0031】
浴槽100は、成形品であり、図1に示すように、底壁部101と、当該底壁部101から上方に向かって延びる筒状の側壁部102と、当該側壁部102の上端から外側に向かって延びるフランジ部103とを備えている。
【0032】
また、図2及び図3に示すように、浴槽100の底壁部101には、浴槽100内の水を排出するための排水口104が形成されている。排水口104は、その上端部全周に、下方に向かって縮径し、断面において外形線が湾曲形状をなす縮径部104Tを備えている。また、排水口104のうち前記縮径部104Tよりも下方には、下方に向けて延び、略同一の内径を有する垂下部104Sと、垂下部104Sの下端から径方向内側に向けて突出する鍔部104Fとが形成されている。
【0034】
排水口部材2は、図3?図5(尚、図4及び図5において、栓蓋5は不図示)に示すように、所定の樹脂(例えば、POM等)により筒状に形成されている。また、排水口部材2の上端部には、径方向外側に突出する鍔状の係止部21が設けられており、当該係止部21は、前記鍔部104Fに対して係止されている。
【0035】
さらに、排水口部材2の下方側外周面には、雄ねじ部22が形成されており、当該雄ねじ部22は、排水用の配管105に形成された雌ねじ部106に螺合されている。これにより、排水口104から配管105へと通じる排水路が形成されている。尚、係止部21の上面には、前記雌ねじ部106に前記雄ねじ部22を螺合する際に、所定の工具が係合される凹状の工具係合部23が周方向に沿って等間隔に複数(本実施形態では、4つ)設けられている。また、配管105の上端面と鍔部104Fの下面との間には、水密性の向上を図るべく、EPDMゴム等の弾性材料からなる環状のパッキン7が設けられている。尚、当該パッキン7は、雌ねじ部106に対する雄ねじ部22の螺合に伴い、配管105の上端面と鍔部104Fの下面とにより挟まれて加圧された状態となっており、その結果、パッキン7と配管105及び鍔部104Fとの間のシール性が高められている。」
(ウ)「【0036】
支持軸部材3は、所定の樹脂(例えば、POM等)により形成されるとともに、環状の外筒部31と、筒状の内筒部37とを備えている。
【0037】
外筒部31は、環状をなす外筒部本体32と、外筒部本体32の上端から径方向外側に突出する鍔状の張出部33とを備えている。
【0038】
外筒部本体32は、自身の外周面が排水口部材2の内周面に沿う形状とされており、自身の外周面と排水口部材2の内周面との間にほとんど隙間がない状態で、排水口部材2の内周に配置されている。
【0039】
張出部33は、排水口部材2の係止部21上に配置されており、張出部33のうち少なくとも外周面上端は排水口104の垂下部104Sに対してほぼ接触している。そのため、係止部21や工具係合部23は、張出部33に隠れる形となり、浴槽100の表面側から係止部21等は視認できない状態となっている。尚、張出部33の上面は、内周側に向けて下方へと傾斜する傾斜面33Kとなっており、張出部33のうち少なくとも内周側下面は、係止部21に接触している。」
(エ)「【0050】
作動部4は、棒状の蓋軸41と、筒状部材42とを備えている。蓋軸41は、その先端部が栓蓋5の背面に形成された筒状部位に嵌着されている一方で、その基端部が前記操作装置6から延びるレリースワイヤ62(本発明のワイヤーに相当する)の他端部に接続されている。また、筒状部材42は、蓋軸41の外周に設けられ、これを上下動可能に支持している。本実施形態においては、操作装置6の操作により、レリースワイヤ62を介して上昇端における蓋軸41のロックと、ロック解除に伴う蓋軸41の下降とが交互に行われ、ひいては操作装置6を操作する度に栓蓋5の上昇・下降(排水口104の開閉)が交互に行われるようになっている。
【0051】
栓蓋5は、排水口部材2や支持軸部材3の上方に位置しており、POM等の樹脂からなる蓋部51と、弾性変形可能な素材(例えば、樹脂やEPDMゴム等のゴム)からなる環状の栓蓋シール52とを備えている。
【0052】
前記蓋部51は、表面がなだらかに湾曲する傘状部51Aと、当該傘状部51Aの背面内側から下方に向けて延びる筒状の突状部51Bとを備えており、また、突状部51Bの外周面には、前記栓蓋シール52が嵌合される環状の溝部51Cが設けられている。
【0053】
加えて、栓蓋シール52は、外周側に向けて徐々に薄くなるように構成されており、栓蓋5の閉時には、その外周縁の全周が張出部33の傾斜面33Kに対して接触するようになっている。尚、作動部4に支持される栓蓋5、及び、作動部4を支持する支持軸部材3は、それぞれの中心軸が一致しているため、栓蓋5の閉時には、栓蓋シール52(栓蓋5)の外周縁全周が張出部33(支持軸部材3)の傾斜面33Kに対して確実に接触する。また、本実施形態において、栓蓋シール52の外径は、蓋部51(傘状部51A)の外径よりも小さくされるとともに、前記栓蓋シール52が取付けられる溝部51Cは、傘状部51Aの直下方に設けられている。そのため、栓蓋シール52は蓋部51に隠れる形となり、外部から視認しにくいものとなっている。」
(オ)【図3】





図3から、以下の点が看て取れる。
a 鍔状の係止部21が、垂下部104S内に配置されている点。
b 蓋部51の最も外側の部位が、縮径部104Tの下端の位置より外側に位置している点。
c 蓋部51が備えている傘状部51Aの上端が、栓蓋5の下降時に、浴槽100の縮径部104Tと略同一高さとなる点。

イ 甲第3号証に記載された発明の認定
上記アの(ア)?(オ)から、甲第3号証には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲3発明)
「排水口部材2や支持軸部材3等を備えた排水口装置1において、
浴槽100の底壁部101には、浴槽100内の水を排出するための排水口104が形成され、排水口104は、その上端部全周に、下方に向かって縮径し、断面において外形線が湾曲形状をなす縮径部104Tを備え、
縮径部104Tよりも下方には、下方に向けて延びて形成された、略同一の内径を有する垂下部104Sが形成されており、
上端部に設けられた径方向外側に突出する鍔状の係止部21が、垂下部104S内に配置され、下方側外周面には、雄ねじ部22が形成されており、当該雄ねじ部22が、排水用の配管105に形成された雌ねじ部106に螺合されている、筒状に形成された排水口部材2と、
排水口部材2の係止部21上に配置された、支持軸部材3の張出部33と、
操作装置6を操作する度に上昇・下降(排水口104の開閉)が交互に行われるようになっている栓蓋5と、を有し
栓蓋5は、その最も外側の部位が縮径部104Tの下端の位置より外側に位置している蓋部51と、弾性変形可能な素材からなる環状の栓蓋シール52とを備えており、栓蓋シール52は、蓋部51に備えられている下方に向けて延びる筒状の突状部51Bの外周面に設けられる溝部51Cに嵌合され、栓蓋5の閉時には、栓蓋シール52の外周縁全周が、支持軸部材3の張出部33の傾斜面33Kに対して接触し、
栓蓋5が備えている傘状部51Aの上端が、栓蓋5の下降時に、浴槽100の縮径部104Tと略同一高さとなる、
排水口装置。」

(4)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載事項
本件出願より先に出願され、本件出願後に公開された甲第4号証(特開2015-119868号(特開2017-2651号))の願書に最初に添付された明細書及び図面には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、槽体の排水口に設けられる排水栓装置に関する。」

(イ)「【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1及び図2に示すように、排水栓装置1は、槽体としての洗面器100等に取付けられており、操作装置2と、レリースワイヤ3と、栓蓋側機構部4と、排水口装置5とを備えている。尚、洗面器100は、下方に向けて延びる筒状の立設部101と、当該立設部101の下端から径方向内側に向けて突出する環状の張出部102とを備えている。そして、張出部102の内周に、排水口103が形成されている。
【0030】
操作装置2は、図2に示すように、洗面器100の近傍に設けられた壁状のバックガード104に取付けられた筒状のガイド部21と、当該ガイド部21の内周において往復移動可能に配置された操作部材22とを備えている。操作部材22の一端部には、レリースワイヤ3の後述する伝達部材31の他端部が取付けられている。
【0031】
また、ガイド部21の一端部外周には、ほぼ直角に屈曲する筒状をなす操作側屈曲ガイド部材23が取付けられている。そして、操作側屈曲ガイド部材23の内周においてレリースワイヤ3の後述するチューブ部材32の他端部が保持されている。
【0032】
レリースワイヤ3は、ワイヤー等からなる長尺状の伝達部材31と、樹脂等からなる長尺筒状のチューブ部材32とを備えている。伝達部材31は、チューブ部材32の内周に配置されており、操作部材22の変位に伴いチューブ部材32に対し往復移動するようになっている。
【0033】
図1に戻り、栓蓋側機構部4は、下端部に穴部を有する棒状の軸部41と、当該軸部41が上下動可能な状態で挿通された円筒状の被挿通部42Aを有してなる保持部42と、被挿通部42Aの下端部内周にねじ止め固定され、被挿通部42Aからの軸部41の抜けを防ぐ底部43とを備えている。底部43は、軸部41の軸方向に延びる貫通孔を備えており、チューブ部材32の一端部が当該貫通孔の内周において保持している。一方、伝達部材31は、前記貫通孔を通って軸部41の前記穴部へと配置可能となっている。そして、伝達部材31の往動に伴い、伝達部材31の一端部が軸部41を押し上げることで、軸部41が上動し、伝達部材31の復動に伴い、伝達部材31の一端部による軸部41の押し上げが解除されることで、軸部41が下動するようになっている。
【0034】
また、栓蓋側機構部4は、保持部42の外周環状部分が配管52の内周に設けられた段差部分に対し載置されることで、配管52に対し取付けられている。尚、後述する配管52の本体管52Aが、螺合により直列的に接続される2つの部材を備えるものとし、1の部材に対しその他の部材を螺合した状態において、保持部42の外周環状部分が両部材により挟まれるように構成することで、栓蓋側機構部4が配管52に対し取付けられるようにしてもよい。
【0035】
加えて、保持部42の外周環状部分と被挿通部42Aとは、被挿通部42Aの周方向に沿って間隔をあけて設けられた複数のアーム部42Bによって連結されている。そして、各アーム部42B間の隙間を通って排水が流れ落ちるようになっている。
【0036】
排水口装置5は、排水口部材51と、配管52と、下部捕集部材53と、支持軸54と、ヘアキャッチャー55と、栓蓋56とを備えている。
【0037】
排水口部材51は、筒状に形成されており、自身の中心軸CL1と前記排水口103の中心軸とがほぼ一致するように排水口103に挿設されている。また、排水口部材51は、その上端部に、径方向外側に突出形成された鍔状のフランジ部51Aを有し、当該フランジ部51Aよりも下方側の外周に、雄ねじ部51Bを備えている。尚、排水口部材51の内周部分の構成、及び、フランジ部51Aと洗面器100との位置関係については、後に詳述する。
【0038】
配管52は、筒状の本体管52Aと、当該本体管52Aの外周からほぼ水平方向に突出形成され、自身の内部空間が本体管52Aの内部空間に連通する筒状の枝分かれ管52Bとを備えている。
【0039】
本体管52Aは、鉛直方向に沿って延びるとともに、その一端部(上端部)内周に前記雄ねじ部51Bを螺合可能な雌ねじ部52Cを備えている。そして、フランジ部51Aを前記張出部102に載置した上で、前記雄ねじ部51Bを雌ねじ部52Cに螺合し、フランジ部51A及び本体管52Aの上端面により張出部102を挟み込むことで、配管52は排水口部材51に接続されるとともに、洗面器100に取付けられている。
【0040】
また、本実施形態においては、配管52の上端面と洗面器100との間には、弾性変形可能な材料により形成された環状のシール部材57が介在されており、当該シール部材57によって、排水口部材51及び配管52と洗面器100との間からの漏水防止が図られている。尚、漏水防止を図るという点では、フランジ部51Aと洗面器100との間にシール部材を設けることとしてもよい。
【0041】
枝分かれ管52Bは、洗面器100に設けられた図示しないオーバーフロー口と所定の配管を介して接続されており、オーバーフロー口を通った排水が流れ込むようになっている。
【0042】
下部捕集部材53は、配管52(本体管52A)内において上下動可能に配置されており、環状の外周壁部53Aと、当該外周壁部53Aの内周から内側に向けて延びる下部捕集部53Bとを備えている。
【0043】
外周壁部53Aは、配管52(本体管52A)の内周面に沿うようにして配管52(本体管52A)内に配置されている。尚、本実施形態では、外周壁部53Aと配管52(本体管52A)との間に若干(例えば、1mm程度)の隙間が形成されている。このように外周壁部53Aと配管52(本体管52A)との間の隙間が比較的小さなものとされることで、下部捕集部材53の径方向に沿った移動が抑制され、ひいては支持軸54や栓蓋56の傾きが防止されるようになっている。つまり、下部捕集部材53は、支持軸54や栓蓋56の傾きを防止する機能をも備えている。
【0044】
下部捕集部53Bは、その内周部分が支持軸54に固定されており、外周壁部53Aの径方向に沿って延びる複数のリブを有している。下部捕集部53Bにおいて、本体管52Aを流れる排水は前記リブ間に形成された隙間を通って流れ落ち、その一方で、排水に含まれるゴミ等は捕集されることとなる。
【0045】
支持軸54は、棒状をなし、その上端部が栓蓋56の背面中央部に取付けられている。また、支持軸54の下端部が前記軸部41に載置状態とされることで、支持軸54は、軸部41により配管52(本体管52A)内で支持されている(但し、軸部41が最も下方に配置された状態では、支持軸54の下端部から軸部41が離間するようになっている)。そして、軸部41が上下動することで支持軸54が上下動した際には、支持軸54とともに、下部捕集部材53及び栓蓋56等が上下動するようになっている。
【0046】
ヘアキャッチャー55は、支持軸54の外周から外周側に向けて広がっており、本体管52Aを流れる排水に含まれるゴミ等を捕集する機能を備えている。
【0047】
栓蓋56は、樹脂等からなる円板状の栓蓋本体部56Aと、当該栓蓋本体部56Aに取付けられたパッキン部56Bとを備えている。
【0048】
栓蓋本体部56Aは、排水口部材51と略同軸に設けられており、その背面の外周側には、下方に向けて延びる筒状部56Cが形成されている。そして、当該筒状部56Cの外周に対し前記パッキン部56Bが嵌め込まれている。
【0049】
パッキン部56Bは、弾性変形可能な材料(例えば、ゴムや樹脂等)によって環状に形成されている。そして、操作部材22の変位に伴い軸部41が下動した際に、下部捕集部材53及び支持軸54とともに栓蓋56が下動し、パッキン部56Bの外周部分全域が排水口部材51に接触することで、排水口103が閉鎖されるようになっている。一方で、操作部材22の変位に伴い軸部41が上動した際には、下部捕集部材53及び支持軸54とともに栓蓋56が上動し、パッキン部56Bが排水口部材51から離間することで、排水口103が開放されるようになっている。尚、パッキン部56Bの外周部分の形状については後に詳述する。
【0050】
また、本実施形態では、排水口103の開放時において、軸部41は支持軸54の下端部に接触しているが、排水口103の閉鎖時において、軸部41は支持軸54の下端部から離間するようになっている。これにより、排水口103の閉鎖時において、パッキン部56Bを確実に排水口部材51へと接触させることができ、良好な水密性を得ることができる。
【0051】
尚、本実施形態では、洗面器100の表側から栓蓋56や支持軸54を引き上げることで、下部捕集部材53、支持軸54、ヘアキャッチャー55及び栓蓋56からなるユニット58を配管52から一度に取外すことができるようになっている。そのため、メンテナンス性や清掃性の向上を図ることができる。
【0052】
加えて、上述の通り、外周壁部53Aと配管52(本体管52A)との間に若干の隙間が形成されていることから、栓蓋56は、排水口部材51の径方向に沿って排水口部材51に対し若干(例えば、1mm程度)だけ相対移動可能となっている。
【0053】
次いで、排水口部材51の内周部分の形状、及び、フランジ部51Aと洗面器100との位置関係について詳述する。
【0054】
本実施形態では、図3に示すように、排水口部材51は、その内周に、洗面器100の貯水空間側に位置し、当該貯水空間側(上方側)を向く上向面部51Cが設けられている。上向面部51Cは、前記中心軸CL1を中心とする環状をなしており、排水口部材51の径方向に沿ってある程度の幅を有している。さらに、上向面部51Cの最内周部には、環状をなす角張った形状の角部51Dが形成されている。本実施形態において、角部51Dは、前記中心軸CL1を含む断面において直角状となっている。尚、「角部51Dが直角状をなす」とあるのは、排水口部材51のうち、角部51Dを挟む2つの面がほぼ直角に延びている状態であるということもできる。加えて、排水口部材51の内周下部には、所定の工具を係合するための凸部51E(図1参照)が周方向に沿って等間隔に複数形成されている。
【0055】
また、本実施形態において、角部51Dは、頂点部分がいくらか丸みを帯びたものとされている。そして、本実施形態では、パッキン部56Bの全周が前記角部51Dの頂点部分に接触することで、排水口103が閉鎖されるように構成されている。尚、角部51Dのうちパッキン部56Bに接触する部位の傾斜角度(角部51Dのうちパッキン部56Bと接触する部位に接する接線と前記中心軸CL1とのなす角のうち鋭角の角度)は、例えば、45°程度とされている。
【0056】
加えて、排水口部材51の内周面のうち、角部51Dの外周からフランジ部51Aの外周面上端に連なる連接面51F(上向面部51Cから角部51Dを除いた部位)は、基本的には(後述する凹面51Gを除いて)、上方側に向けて徐々に内径が大きくなる拡径面とされている。但し、連接面51Fのうち、角部51Dの近傍には、排水口部材51の中心軸CL1から遠ざかる方向に向けて窪んだ形状をなす環状の凹面51Gが形成されている。

(ウ)図1




図1から、以下の点が看て取れる。
a 槽体としての洗面器100の底部に、下方が上方よりも小径とされている傾斜面部を有した排水するための凹部を設けた点。
b 排水するための凹部の下方が上方よりも小径とされている傾斜面部の下端に筒状の立設部101が下方に向けて連なり、立設部101に排水口103が形成された張出部102が連なっている点。
c 排水口部材51が雄ねじ部51Bを備え、前記雄ねじ部51Bを、本体管52Aが備える雌ねじ部52Cに螺合させている点。
d 栓蓋56の外方端部が、排水口部材51のフランジ部51Aと立設部101との隙間の上方外側に位置している点。

【図2】




イ 甲第4号証に記載された発明の認定
上記アの(ア)?(ウ)から、甲第4号証には以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲4発明)
「槽体としての洗面器100に取付けられ、操作装置2、レリースワイヤ3、栓蓋側機構部4及び排水口装置5を備えている排水栓装置1において、
槽体としての洗面器100の底部に、下方が上方よりも小径とされている傾斜面部を有した排水するための凹部と、
排水するための凹部の下方が上方よりも小径とされている傾斜面部の下端に連なる筒状の立設部101及び、当該筒状の立設部101の下端から径方向内側に向けて突出する、排水口103が形成された張出部102と、
上端部に径方向外側に突出形成された鍔状のフランジ部51Aを有し、当該フランジ部51Aを、張出部102に載置し、当該フランジ部51Aよりも下方側の外周に、雄ねじ部51Bを備え、前記雄ねじ部51Bを、本体管52Aが備える雌ねじ部52Cに螺合させている排水口部材51と、
上下動するようになっていて、下動し、パッキン部56Bの外周部分全域が排水口部材51に接触することで、排水口103が閉鎖され、上動し、パッキン部56Bが排水口部材51から離間することで、排水口103が開放されるようになっている栓蓋56と、から成り
栓蓋56は、外方端部が、排水口部材51のフランジ部51Aと立設部101との隙間の上方外側に位置しており、円板状の栓蓋本体部56Aと、当該栓蓋本体部56Aに取付けられたパッキン部56Bとを備えていて、栓蓋本体部56Aは、排水口部材51と略同軸に設けられており、その背面の外周側には、下方に向けて延びる筒状部56Cが形成されており、当該筒状部56Cの外周に対し前記パッキン部56Bが嵌め込まれていて、栓蓋56が、下方が上方よりも小径とされている傾斜面部を有した排水するための凹部に接触することなく配置される、
排水栓装置。」

(5)甲第5号証
ア 甲第5号証の記載事項
本件出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開2013-144898号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、浴槽や洗面ボウルなどの水槽の排水口を開閉するのに使用される遠隔操作式の排水栓装置に関する。」
(イ)「【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の実施形態にかかる排水栓装置を示す概略図である。
排水栓装置100は、浴槽200(水槽)に設けられた排水口210に取り付けられる排水栓部100Aと、浴槽200のリム面220に形成された貫通孔221(図2参照)に取り付けられる操作部100Bと、を備え、排水栓部100Aと操作部100Bとをレリースワイヤ160で接続した遠隔操作式の排水栓装置である。レリースワイヤ160は、操作部100Bと排水栓部100Aとを接続するように設けられたホース170の内部に配設され、アウターチューブの内部でインナーワイヤが進退するように構成されている。
【0018】
排水栓部100Aは、浴槽200の排水口210の下部に取り付けられた支持金具180にレリースワイヤ160の一端に設けられた作動部165を保持させ、その作動部165に排水口210を閉じる排水栓蓋190を取り付けている。後述する操作ボタン150の操作によってレリースワイヤ160を介して作動部165が排水栓蓋190を昇降させることにより、排水口210を開閉する。なお、図示しないが、支持金具180には、前述したホース170の一端が取り付けられている。」
(ウ)【図1】





図1から、以下の点が看て取れる。
浴槽200の底部には、排水栓蓋190が収容された凹部が設けられており、排水栓蓋190の下降時において、排水栓蓋190の上端が前記凹部内に配置されている点。

(6)甲第6号証
ア 甲第6号証の記載事項
本件出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開2015-71902号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、排水口などの管口や孔に取り付けられ、機械的に開閉可能な機構を備える栓装置に関する。」
(イ)「【0002】
従来、排水口などを機械的に開閉可能な排水口装置として、特許文献1記載の装置などが存在した。
図7は、従来技術としての排水口装置Dの断面図である。浴槽の底面に設けられた排水口付近を拡大して示した。この排水口装置Dでは、作動軸部材Lの先端部L1を、蓋体Vに設けられたツメV1にはめ込むことによって、作動軸部材Lに蓋体Vが一体的に取り付けられている。作動軸部材Lには、上下に往復動させるためのレリースワイヤWが接続されている。レリースワイヤWを操作することによって、作動軸部材Lおよび蓋体Vを上下動させることができ、排水口を開閉することができる。」
(ウ)「【0022】
本発明の栓装置につき、浴槽の排水口に取り付ける排水口装置として構成した場合の実施例を以下に示す。
図1は、排水口装置1の全体構成を示す説明図である。排水口装置1は、浴槽100の底板101に設けられた排水口104を開閉するための装置である。本実施例では、排水口104は円形であるものとする。開閉機構4を構成する操作ボタン2は、槽体102の上部のリム103に設けられている。操作ボタン2を押し下げると、その動作がレリースワイヤ3で伝達され、排水口装置1を機械的に開閉することができる。
【0023】
図2,3は、排水口部分の拡大図である。図2に、排水口装置1が閉栓状態である場合の排水口部分を示し、図3に、排水口装置1が開栓状態である場合の排水口部分を示した。
図示する通り、排水口104の下部には、保持部材9およびシール11を介して、配管に接続するための配管継手106が取り付けられている。保持部材9は、排水口装置1を組み付けるための環状のホルダー10を配管継手106の内側に固定する役割も奏している。ホルダー10の内部には、排水口104を閉じるための蓋体6を開閉する機構を支持する支持部材8が取り付けられている。保持部材9、ホルダー10、支持部材8、配管継手106は、樹脂からなるものとした。また、シール11は、ゴムからなるものとした。
支持部材8の内側には、レリースワイヤ3の動作によって上下動する作動軸部材5が挿入されており、作動軸部材5の先端には、排水口104を塞ぐための傘状の蓋体6が取り付けられている。作動軸部材5の周囲には、作動軸部材5を下方に付勢して閉栓するための戻しバネ54が設けられている。
作動軸部材5と蓋体6とは、後述するように、蓋体6側の磁石(第1磁石)と作動軸部材5側の磁石(第2磁石)との磁力によって吸着されている。蓋体6には、第1磁石を保持する第1磁石保持部材が取り付けられており、作動軸部材5には、第2磁石を保持する第2磁石保持部材7が取り付けられている。これらの構造については、後から詳しく説明する。
図3に示したように、操作ボタン2が操作されて、作動軸部材5と蓋体6と第2磁石保持部材7とが、レリースワイヤ3の動作に従って、戻しバネ54の付勢力に逆らって一体的に押し上げられると、排水口装置1は開栓する。また、図2に示したように、操作ボタン2が操作されて、レリースワイヤ3が下がると、作動軸部材5と蓋体6と第2磁石保持部材7とが、戻しバネ54の付勢力によって下降し、排水口装置1は閉栓する。戻しバネ
54を省略して、作動軸部材5と蓋体6と第2磁石保持部材7との自重によって閉栓するようにしてもよい。」
(エ)a【図2】




b【図7】




上記【図2】から、以下の事項が看て取れる。
「排水口装置1により開閉される排水口104において、浴槽100の底板101から、排水口の104の鉛直方向に延びる部位までの途中に水平状となっている部分が形成されている点。」

(7)文献1
ア 文献1の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である特開2015-68073号公報(以下、「文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、槽体の底面に設けられた排水口を遠隔的に開閉する遠隔操作式排水栓装置に関するものである。」
(イ)「【0022】
浴槽Bは内部に湯水を貯留可能な槽体であって、当該貯留した湯水を下流側の配管へと排出するための排水口30が底面において開口している。又、当該排水口30の周縁を挟持するように排水栓本体31と排水配管32が螺合し、排水口30を開閉する機構として、遠隔操作式排水栓装置1が取り付けられている。
排水栓本体31は内部に排水が流れる流路を形成する円筒状の部材であって、上部において外向きに拡径するフランジ部を有し、円筒部分の外周に雄螺子が設けられているとともに、内周にはワイヤ受け34が取り付け可能な突起が設けられている。
ワイヤ受け34は外周が上記排水栓本体31の内周と略同径であって、排水栓本体31の内周に設けられた突起と嵌合する爪を有している。又、ワイヤ受け34はその中心において、後述する弁軸11を支持固定している。
排水配管32は上記排水栓本体31の雄螺子と螺合する雌螺子を内部に有するナット状の部材であって、挿通部33を有し、パッキンを介して目皿54と当接している。挿通部33は天地方向に対して傾斜して設けられた筒状であり、内部において後述するレリースワイヤ2が挿通され、その端部にキャップ体17、キャップ固定具20が取り付けられている。
【0023】
遠隔操作式排水栓装置1はレリースワイヤ2、操作部6、弁体13、弁軸11、キャップ体17、キャップ固定具20、ガイド部材23より構成されている。そして、遠隔操作式排水栓装置1は、操作部6の操作をレリースワイヤ2が弁軸11へと伝達し、弁体13が押し上げられることによって排水口30を開閉する構造となっている。」
(ウ)【図2】





(8)文献2
ア 文献2の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である特開2014-129699号公報(以下、「文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、浴室の排水口の下水からの異臭や害虫の室内側への逆流を防止する排水トラップを含む排水装置に関するものである。」
(イ)「【0029】・・・
浴槽1は、箱体であって、底部に浴槽1内の排水を排出する為の排水口11を開口している。また、当該排水口11には、排水栓12と呼ばれる、外周に雄ねじを刻設した円筒体に上端に外側方向に凸出する鍔を構成した部材を水密的に取り付ける。
浴槽パン21は、浴槽1を載置する防水パン2であって、洗い場パン22の横に配置される。また、底部には浴槽1からの排水及び浴槽パン21上の排水を下水へと排水するための開口部23を開口して構成している。・・・」
(ウ)【図2】





(9)文献3
ア 文献3の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である特開2011-241665号公報(以下、「文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、洗面化粧台、浴槽、流し台などにおける水槽の底部に形成された排水口部を覆うカバーが設けられた排水栓装置に係るものである。」
(イ)「【0012】
本発明の排水栓装置は、図1に示す如く、洗面化粧台、浴槽、流し台などの水槽の底部1に円筒状陥没部10を形成し、該陥没部の底部には内向きフランジ部11が形成され、該内向きフランジ部が排水口金具3と接続管5とでパッキン材4を介して挟持取付けられて排水口部2を構成している。
排水口部2には、その陥没部10内を上下動可能で水槽の底部1に概ね面一とされるカバー6が設けられ、該カバーの下面には、排水口金具3とで密閉可能にするパッキン7を挿通保持する軸部61が設けられて排水栓20を構成している。」
(ウ)【図1】





(10)文献4
ア 文献4の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である特開2011-246903号公報(以下、「文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、槽体の排水口に取付けられるとともに、配管に対して接続される排水口装置を備えた排水口構造に関する。」
(イ)「【0023】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明に係る排水口構造は、図3に示すように、浴槽100(本発明における「槽体」に相当する)に取付けられた排水口装置1と、浴槽100の後述する排水口104を開閉するための排水栓装置4とを備える。排水口装置1及び排水栓装置4の説明に先立って、これらが取付けられる浴槽100の構造について説明する。
【0024】
浴槽100は、図1に示すように、成形品であり、底壁部101と、当該底壁部101から上方に向かって延びる筒状の側壁部102と、当該側壁部102の上端から外側に向かって延びるフランジ部103とを備えている。
【0025】
また、図2に示すように、浴槽100の底壁部101には、浴槽100内の水を排出するための排水口104が形成されている。排水口104は、その上端部全周に、下方に向かって縮径するテーパ部104Tを備えており、また、前記テーパ部104Tより下方において、鉛直方向に延び、略同一の内径を有するストレート部104Sを備えている。尚
、本実施形態では、浴槽100の成形時において、排水口104は有底筒状をなしており、後加工により上述の形状とされている。具体的には、底壁部101において背面側へと突出形成されたカップ状部位(有底筒状部材)の側面部分を全周に亘って切断することで上述した形状の排水口104が形成されている。
【0026】
さらに、浴槽100には、上述の通り、前記排水口装置1が取付けられており、当該排水口装置1は、排水口部材7と、保持部材8とを備えている。」
(ウ)「【0032】
さらに、前記排水栓装置4は、図2及び図3に示すように、前記浴槽100のフランジ
部103に取付けられた操作部2と、当該操作部2に一端部が接続されたレリースワイヤ3と、可動部材としての作動部5と、栓蓋6と、支持軸部材9とを備えている。
【0033】
前記操作部2は、押しボタン式であり、遠隔操作により前記栓蓋6を動作させることで、排水口104を開閉させるものである。また、前記レリースワイヤ3は、操作部2の動きを排水口装置1(栓蓋6)側へと伝達するものである。
【0034】
加えて、前記作動部5は、ロッド部材51と、筒状部材52とを備えている。ロッド部材51は、その先端部が栓蓋6の背面に形成された筒状部位に嵌着されている一方で、その基端部が前記レリースワイヤ3の他端部に接続されている。また、筒状部材52は、前記ロッド部材51の外周に設けられ、これを上下動可能に支持している。本実施形態においては、操作部2の操作により、レリースワイヤ3を介して上昇端におけるロッド部材51のロックと、ロック解除に伴うロッド部材51の下降とが交互に行われ、ひいては操作部2を操作する度に栓蓋6の上昇・下降(排水口104の開閉)が交互に行われるように
【0035】
前記栓蓋6は、POM等の樹脂からなる蓋部61と、弾性変形可能な素材(例えば、樹脂やEPDMゴム等のゴム)からなる環状のパッキン62とを備えている。前記蓋部61は、表面がなだらかに湾曲する傘状部61Aと、当該傘条部61Aの背面内側から下方に向けて延びる筒状の突状部61Bとを備えており、また、突状部61Bの外周面には、前記パッキン62が嵌合される環状の凹部61Cが設けられている。加えて、前記パッキン62は、外周側に向けて徐々に薄くなるように構成されており、栓蓋6の閉時には、その外周部分の全周が排水口104のテーパ部104Tに対して接触するようになっている。尚、本実施形態において、パッキン62の外径は、蓋部61(傘状部61A)の外径よりも小さくされるとともに、前記パッキン62が取付けられる凹部61Cは、傘状部61Aの直下方に設けられている。そのため、パッキン62は蓋部61に隠れる形となり、外部から視認しにくいものとなっている。」
(エ)【図2】




上記【図2】から、以下の事項が看て取れる。
「排水栓装置4を取り付けて開閉される排水口104において、浴槽100の底壁部101から、排水口の104の鉛直方向に延びるストレート部104Sまでの途中に水平状となっている部分が形成されている点。」

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
(ア)甲2発明の「浴槽100」及び「排水栓装置」は、本件発明1の「槽体」及び「排水栓装置」に相当し、甲2発明の「略水平方向に延びる底壁部101」は、本件発明1の「底部」に相当する。
(イ)甲2発明は、「浴槽100は、略水平方向に延びる底壁部101と、下方に向けて延びる垂下部102」とを備えており、「環状の連接部104」は、「垂下部102の上端部と底壁部101の排水口105側端部とを連接」して形成されたものであるから、底壁部101において凹んだ状態になるといえるとともに、排水のために形成されたものであるといえる。したがって、甲2発明の「環状の連接部104」は、本件発明1の「排水凹部」に相当する。
また、「環状の連接部104」は、「その表面に、下方に向けて一定の割合で内径が徐々に縮径するテーパ面104Aを備えており、排水口部材2の中心軸を含む断面において、テーパ面104Aの外形線は直線状とされ」ていることから、環状の連接部104の形状は、本件発明1の「下方が上方よりも小径にされて下端に至る」ものと同様である。
そうすると、甲2発明の「浴槽100は、略水平方向に延びる底壁部101と、下方に向けて延びる垂下部102」において、「垂下部102の上端部と底壁部101の排水口105側端部とを連接する」「環状の連接部104」は、本件発明1の「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る排水凹部」に相当する。
(ウ)甲2発明の「垂下部102」は、環状の連接部104の下端から下方に延びている部位であるから、本件発明1の「排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部」に相当するといえる。
(エ)甲2発明の「排水口部材2」の「本体部22の上端部から外周側に突出する鍔部23」は、本件発明1の「排水栓」の「上端部に形成された鍔部」に相当し、甲2発明の「鍔部23が、垂下部102内に配置され」が、本件発明1の「鍔部」が「排水筒部内に配置される」に相当し、甲2発明の「下端側の外周面に有した雄ねじ部21を配管106の雌ねじ部107に螺合」されている「排水口部材2」は、本件発明1の「下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓」に相当する。
(オ)甲2発明の「操作部を操作する度に」「上昇・下降、すなわち排水口105の開閉が交互に行われるようになって」いる「栓蓋3」は、本件発明1の「上下動することによって排水口を開閉する弁体」に相当する。
(カ)甲2発明の「蓋部31」及び「蓋部31の下方に形成された部位」が「栓蓋3」の一部分であること、及び「蓋部31」及び「蓋部31の下方に形成された部位」の互いの位置関係から、甲2発明の「栓蓋3」、「蓋部31」及び「蓋部31の下方に形成された部位」は、「弁体」、「蓋部」及び「弁蓋下部」に、それぞれ相当する。
(キ)甲2発明の「蓋部31の外径が、環状の連接部104の下端よりも大径であ」ることは、本件発明1の「蓋部」の「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径」であることに相当し、また甲2発明の「蓋部31の外周端」が「排水口部材2と垂下部102との隙間よりも外側に位置しており」、「蓋部31により鍔部23が隠れる形となって」いる「蓋部31」は、径方向における「蓋部31」の「外周端」と、「排水口部2」と「垂下部102」との隙間との位置関係からみて、「排水口部材2」と「垂下部102」との間を覆い隠すことができる位置にあることは明らかである。そうすると、甲2発明の「蓋部31の外径が、環状の連接部104の下端よりも大径であり、蓋部31の外周端が、排水口部材2と垂下部102との隙間よりも外側に位置して」いる「蓋部31」は、本件発明1の「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部」に相当する。
(ク)上記(キ)の相当関係を踏まえるとともに、甲2発明の「環状のシール部材32の外周部が排水口部材2の上端側内周に形成された縮径部24の表面に対して接触」すれば、排水口105を塞ぐことができることが明らかであることから、甲2発明の「蓋部31の下方に形成された部位に環状のシール部材32が嵌り、排水口105の閉時に、環状のシール部材32の外周部が排水口部材2の上端側内周に形成された縮径部24の表面に対して接触するように構成されている」ことは、本件発明1の「蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞」することに相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る排水凹部と、
排水凹部より下方に向けて延設された排水筒部と、
上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体と、から成り、
上記弁体は、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞する、
排水栓装置。」

<相違点1>
排水凹部について、本件発明1では、段状部を有するのに対して、甲2発明では、段状部を有しておらず、下方に向けて一定の割合で内径が徐々に縮径するテーパ面104Aを備えている点。

<相違点2>
蓋部の外周部について、本件発明1では、弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置されているのに対して、甲2発明では、そのような特定がなされていない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
甲第6号証及び文献4には、上記第4の2(6)イ及び(10)イのとおりの事項が記載されており、浴槽の底板等から、排水口の鉛直方向に延びる部位までの途中に水平状となっている部分を形成することは周知技術であるといえる。
ところで、甲2発明の排水口部材2は、排水口105に挿設されているものであり、また、蓋部31の外径が、環状の連接部104の下端よりも大径であり、蓋部31の外周端が、排水口部材2と垂下部102との隙間よりも外側に位置しており、蓋部31により鍔部23が隠れる形となっていものであるのに対して、甲第6号証及び文献4に記載された事項は、排水口に排水口部材が挿設されたものではないのであるから、甲2発明と甲第6号証及び文献4に記載された事項とは、構成が大きく異なっているとともに、蓋部が果たす機能も異なるものといえる。また、甲第6号証及び文献4には、上記の水平状となっている部分がどのような課題を解決し、どのような機能を有するのかについて何ら記載されていない。
そうすると、甲2発明と上記周知技術とは、技術分野は共通するものの、機能や課題の共通性があるとはいえないので、上記周知技術を甲2発明に適用する動機付けがあるとはいえない。
また、甲2発明の鍔部23の縮径部24は、自身の表面が連接部104の表面と連続的に設けられているものであり、当該構成により、底壁部101の表面から排水口部材2の内周面にかけて、少ない面で構成し、より滑らかな外観形状を呈し、外観品質をより一層向上させ、底壁部101の表面から排水口部材2の内周面にかけての面の汚れの付着を効果的に抑制し、さらに、仮に汚れが付着しても、その汚れを容易に除去して、清掃性の向上を図るという効果を奏することができるものである(上記第4の2(2)ア(イ)【0041】等)。したがって、甲2発明に、上記周知技術の段状部を設けると、底壁部101の表面から排水口部材2の内周面にかけて、面の数が増加してしまうのであるから、上記周知技術の段状部を設けることに阻害要因があるといえる。
したがって、甲2発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易に想到することはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は、他の相違点を検討するまでもなく、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含み更に減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、
特許権者の提出した訂正請求書及び意見書並びに明細書及び図面を参酌しても、下方向におけるどの範囲までが「段状部」であるのかを把握することができず、ひいては「排水凹部の下端」の位置を特定することができない。さらに「鍔部が排水筒部内に配置される」と規定されているが、鍔部の全体が排水筒部内に配置されるとは規定されておらず、鍔部の位置によって排水筒部の上端ひいては排水凹部の下端を特定することもできない。そのため、「排水凹部の下端」については、槽体における鍔部外周部よりも下の部分であると捉えた場合には、「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部」という発明特定事項を満たしていたとしても、蓋部の外径が鍔部の外径よりも大径とはならないことがあり、「排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す」という発明特定事項を満たさないことになるため、「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部」という発明特定事項の技術的意味を当業者が理解することができず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかである。また、上記意見書の記載から、本件発明1の課題は、「弁体の蓋部の直上方向から、排水栓と排水筒部との隙間に堆積した水垢や塵芥等の汚れを全て覆い隠す」ことであると考えられるところ、上記のように捉えた場合には、上記課題を解決することができないから、本件発明1は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものである。したがって、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る記載及びこの請求項1の記載を引用する本件の特許請求の範囲の請求項4に係る記載は、それぞれサポート要件を満たしておらず、また、不明確である、
旨主張する。(意見書3頁18行?4頁下から2行)

しかしながら、本件特許の請求項1の「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する排水凹部」との記載から、「排水凹部」は、「下方が上方よりも小径にされて下端に至る」ものであり、また、「段状部を有する」ものであると明確に理解できる。また、「段状部」の内容が、上記第2の1ア(ア)cで説示したように、階段のすがたをした部位であると理解することができる。したがって、請求項1の上記記載から、「段状部」が、下方向における範囲でもって規定されているものではないことは明らかである。
また、「排水凹部」の「下端」は、「排水凹部」における下方の「端」を意味することは明らかであるから、「排水凹部」の「下端」の位置を特定することができることは明らかである。
そして、本件特許の請求項1に記載の「排水凹部」についての上記構成は、発明の詳細な説明に記載されているといえる。

申立人は、本件発明1は、下方におけるどの範囲までが「段状部」であるのかを把握することができないこと、及び、「排水凹部の下端」の位置を特定することができないこと等を踏まえ、特許請求の範囲の請求項1及び請求項4の記載が不明確であり、また、サポート要件を満たしていないことを縷々説明するが、上記のとおり、いずれも「段状部」及び「排水凹部」の「下端」の位置について、把握ないし特定することはできるから、申立人の主張を採用することはできない。

イ 申立人は、
「段状部」を特許請求の範囲の請求項1の文言とおりに解釈した場合、本件発明1及び4と甲2発明との間に相違点はなく、本件発明1及び4と甲2発明とは同一発明であるから、本件発明1及び4は新規性を有しない。また、本件発明1及び4は、甲2発明から当業者であれば容易に想到し得たものであるから、本件発明1及び4は進歩性を有しない。
また、
「段状部」を、水平面状の面、及び、この面の内縁部から下に延びて下方が上方よりも小径にされた部分からなる部分であると仮定した場合、甲2発明と本件発明1とは、本件発明1が、槽体の底部に凹設された排水凹部が、下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する点(相違点1)、及び、蓋部の外周部が、弁体の下降時において排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置される点(相違点2)において、相違すると言えるかもしれないが、甲第6号証及び参考資料4に記載されているとおり、相違点1及び相違点2にかかる本件発明1の構成は、従来周知の技術であり、甲第6号証及び参考資料4に記載された各発明は、甲2発明と同様に排水栓装置に関するものであるから、甲2発明に対し当該周知の技術を適用する動機付けがあるといえるので、当業者であれば甲2発明及び周知技術から容易に想到し得たものである、
旨主張する。(意見書4頁下から1行?10頁1行)

しかしながら、本件特許1の「段状部」及び「排水凹部の下端」の構成については、上記のとおり理解でき、また、上記(1)で説示したとおり、本件発明1及び4と甲2発明とは、相違点1及び2を有しているので、本件発明1及び4と甲2発明が、同一発明であるとはいえないし、甲第6号証及び参考資料4に記載された段状の部位を形成すること周知技術であるとしても、当該周知技術を甲2発明に適用する動機付けはないのであるから、甲2発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易に想到することができない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。

(4)まとめ
したがって、本件発明1及び4は、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第4 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由
(1)請求項1及び4に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1及び4に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)請求項1及び4に係る発明は、甲1発明又は甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1又は4に係る特許は、取り消されるべきものである。
(3)請求項1及び4に係る発明は、甲第4号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、その特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、請求項1及び4に係る特許は、取り消されるべきである。
(4)なお、請求項2及び3は本件訂正により削除されたから、請求項2及び請求項3に係る特許異議申立理由は対象となる請求項が存在しないものとなった。

2 新規性欠如及び進歩性欠如について(特許法第29条第1項第3号及び第2項)
(1)甲第1号証を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 甲1発明の「排水栓装置」は、本件発明1の「排水栓装置」に相当し、以下同様に、「排水口部材7」は、「排水栓」に、「栓蓋」は、「弁体」に、それぞれ相当する。
b 甲1発明の「浴槽100の底壁部101に備えられた、下方に向かって縮径する傾斜面部を有する排水するための凹部」と、本件発明1の「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する排水凹部」とは、「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る排水凹部」である点で共通する。
c 甲1発明の「底壁部101に設けられた、排水するための凹部の下方に向かって縮径する傾斜面部の下方に連なる下方傾斜面部、当該下方傾斜面部に連なる微小の水平部、及び微小の水平部の端に連なる下向きの排水口103」は、排水するための凹部の下端から下方に向けて設けられた部位であり、排水するところの周囲を囲む筒状の部位であるといえるから、本件発明1の「排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部」に相当する。
d 甲1発明の「上部から外周側へと突出する張出部72」は、本件発明1の「上端部に形成された鍔部」に相当し、甲1発明の「下端部に雄ねじ部71が形成され」た排水口部材7が、配管105が備えている排水口接続部107に螺合されるのであるから、「排水口部材7」の下端部が配管に接続されていることは明らかである。また、甲1発明の「当該張出部72が排水するための凹部の傾斜面に連なる傾斜面内に配置され」ることは、本件発明1の「上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置され」ることに相当する。
そうすると、甲1発明の「上部から外周側へと突出する張出部72を有し、出部72が下方傾斜面部内に配置され、排水口103に挿設されるものであって、下端部に雄ねじ部71が形成され、配管105が備えている排水口接続部107に螺合される排水口部材7」と、本件発明1の「上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓」とは、「上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓」である点で共通する。
e 甲1発明の「栓蓋駆動機構8において、操作ハンドル21を回動させて、上動し、排水口103が開き、下動し、排水口103が閉じられる栓蓋9」と、本件発明1の「上下動することによって排水口を開閉する弁体」とは、「上下動することによって排水口を開閉する弁体」である点で共通する
f 甲1発明の「蓋部91」、「栓蓋9の下方の部位」及び「環状の栓蓋シール92」は、本件発明1の「蓋部」、「蓋部下方に形成された弁蓋下部」及び「パッキン」に相当する。また、甲1発明の「排水口103」が閉じるのは、「栓蓋9」が、下降した時であるから、甲1発明の「排水口103の閉時に、その外周縁の全周が排水口部材7の張出部72に対して接触する」ことは、本件発明1の「弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞」することに相当する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る排水凹部と、
排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部と、
上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体と、から成り、
上記弁体は、蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞する、
排水栓装置。」

<相違点3>
排水凹部について、本件発明1では、段状部を有するのに対して、甲1発明では、傾斜状に形成されていて、段状部を有していない点。

<相違点4>
弁体の蓋部について、本件発明1では、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部であるのに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。

<相違点5>
蓋部の外周部について、本件発明1では、弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置されるのに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
a 相違点3について
甲第1号証には、排水凹部について、段差部を有するものとすることについて記載も示唆もない。また、排水凹部について、段差部を有するものとすることすることが、自明であることや設計事項であるとの証拠はない。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点であり、甲1発明は、相違点3に係る本件発明1の構成を備えていない。

また、本件発明1は、上記相違点3に係る構成を備えることにより、本件明細書に記載された作用効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明において、排水凹部について、段差部を有する構成とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。

したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

イ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含み更に減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、請求項1及び4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではなく特許法第29条第1項第3号に該当しないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、請求項1及び4に係る発明は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)甲第2号証を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明との対比は、上記第4の3(1)アで説示したとおりである。

(イ)判断
相違点1について検討すると、
甲第2号証には、排水凹部について、段差部を有するものとすることについて記載も示唆もない。また、排水凹部について、段差部を有するものとすることすることが、自明であることや設計事項であるとの証拠はない。
よって、甲2発明は、相違点1に係る本件発明1の構成を備えていない。
また、本件発明1は、上記相違点1に係る構成を備えることにより、本件明細書に記載された作用効果を奏するものであるから、上記相違点は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。

イ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含み更に減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明ではない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、請求項1及び4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明ではなく特許法第29条第1項第3号に該当しないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

(3)甲第3号証を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、
a 甲3発明の「排水栓装置1」は、本件発明1の「排水栓装置」に相当し、以下同様に、「排水口部材2」は、「排水栓」に、「栓蓋5」は、「弁体」に、それぞれ相当する。
b 甲3発明の「浴槽100の底壁部101」に形成された「排水口104」が備える「外形線が湾曲形状をなす縮径部104T」は、本件発明1の「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る排水凹部」に相当する。
c 甲3発明の「縮径部104Tよりも下方」に、「下方に向けて延びて形成された、略同一の内径を有する垂下部104S」は、本件発明1の「排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部」に相当する。
d 甲3発明の「排水口部材2」の「上端部」に設けられた「径方向外側に突出する鍔状の係止部21」は、「上端部に形成された鍔部」に相当する。また、甲3発明の「下方側外周面」に形成された「雄ねじ部22」が、排水用の配管105に形成された雌ねじ部106に螺合されているのであるから、「筒状に形成された排水口部材2」において、下端部が配管に接続されているといえる。
そうすると、甲3発明の「上端部に設けられた径方向外側に突出する鍔状の係止部21が、垂下部104S内に配置され、下方側外周面には、雄ねじ部22が形成されており、当該雄ねじ部22が、排水用の配管105に形成された雌ねじ部106に螺合されている、筒状に形成された排水口部材2」と、本件発明1の「上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓」とは、「上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓」で共通する。
e 甲3発明の「栓蓋5」の「上昇・下降」は、「排水口104の開閉」に対応するようになされていると理解できるから、「上昇」と「下降」により、排水口104が開閉がなされるといえる。よって、甲3発明の「操作装置6を操作する度に上昇・下降が交互に行われるようになっている栓蓋5」は、本件発明1の「上下動することによって排水口を開閉する弁体」に相当する。
f 甲3発明の「蓋部51」、「蓋部51に備えられている下方に向けて延びる筒状の突状部51B」及び「栓蓋シール52」は、本件発明1の「蓋部」、「弁蓋下部」及び「パッキン」に、それぞれ相当する。
g 甲3発明の「最も外側の部位が縮径部104Tの下端の位置より外側に位置している蓋部51」と、本件発明1の「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部」とは、「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部」点で共通する。
h 甲3発明の「栓蓋5」が「下降」して、「栓蓋5の閉時には、栓蓋シール52の外周縁全周が、支持軸部材3の張出部33の傾斜面33Kに対して接触」することと、本件発明1「弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞」することとは、「弁体の下降時において、パッキンが排水口を閉塞」する点で共通する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る排水凹部と、
排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部と、
上端部に形成された鍔部が配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体と、から成り、
上記弁体は、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水口を閉塞する、
排水栓装置。」

<相違点6>
排水凹部について、本件発明1では、段状部を有するのに対して、甲3発明では、そのような特定がなされていない点。

<相違点7>
本件発明1は、「蓋部」が、排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠しているのに対して、甲3発明は、排水口部材2の係止部21上に、支持軸部材3の張出部33が、配置され点。

<相違点8>
本件発明1は、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞しているのに対して、甲3発明は、栓蓋5の閉時には、その外周縁の全周が排水口部材2の係止部21上に配置された張出部33の傾斜面33Kに対して接触するようになっている点。

<相違点9>
蓋部の外周部について、本件発明1では、弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置されるのに対して、甲3発明では、そのような特定がなされていない点。

(イ)判断
a 相違点6について
甲第3号証には、排水凹部について、段差部を有するものとすることについて記載も示唆もない。また、排水凹部について、段差部を有するものとすることすることが、自明であることや設計事項であるとの証拠はない。
よって、上記相違点6は、実質的な相違点であり、甲3発明は、相違点6に係る本件発明1の構成を備えていない。

また、本件発明1は、上記相違点6に係る構成を備えることにより、本件明細書に記載された作用効果を奏するものである。
そうすると、甲3発明において、排水凹部について、段差部を有する構成とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。

したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

イ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含み更に減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、請求項1及び4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明ではなく特許法第29条第1項第3号に該当しないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、請求項1及び4に係る発明は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

3 拡大先願(甲4発明)(特許法第29条の2)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明と対比すると、
(ア)甲4発明の「排水栓装置1」は、本件発明1の「排水栓装置」に相当し、以下同様に、「排水口部材51」は、「排水栓」に、「栓蓋56」は、「弁体」に、それぞれ相当する。
(イ)甲4発明の「槽体としての洗面器100の底部に、下方が上方よりも小径とされている傾斜面部を有した排水するための凹部」は、本件発明1の「槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る排水凹部」に相当する。
(ウ)甲4発明の「立設部101」は、「排水するための凹部の下方が上方よりも小径とされている傾斜面部の下端に連なる」「筒状」のものであり、「張出部102」は、「筒状」の「立設部101」から径方向内側に向けて突出したものであって、排水するところの周囲を囲む筒状の部位であるといえるから、これらの部位を併せたものは、本件発明1の「排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部」に相当する。
(エ)甲4発明の「排水口部材51」の「上端部に径方向外側に突出形成された鍔状のフランジ部51A」は、本件発明1の「排水栓」の「上端部に形成された鍔部」に相当する。また、甲4発明の「当該フランジ部51Aよりも下方側の外周」に備えた「雄ねじ部51B」を、「本体管52Aが備える雌ねじ部52Cに螺合させている」のであるから、「排水口部材51」において、下端部に配管が接続されているものといえる。
そうすると、甲4発明の「上端部に径方向外側に突出形成された鍔状のフランジ部51Aを有し、当該フランジ部51Aを、張出部102に載置し、当該フランジ部51Aよりも下方側の外周に、雄ねじ部51Bを備え、前記雄ねじ部51Bを、本体管52Aが備える雌ねじ部52Cに螺合させている排水口部材51」と、本件発明1の「上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓」である点で共通する。
(オ)甲4発明の「栓蓋56」は「上下動」し、「下動」することで「排水口103が閉鎖」され、「上動」することで「パッキン部56Bが排水口部材51から離間」し「排水口103が開放されるようになっている」のであるから、甲4発明の「上下動するようになっていて、下動し、パッキン部56Bの外周部分全域が排水口部材51に接触することで、排水口103が閉鎖され、上動し、パッキン部56Bが排水口部材51から離間することで、排水口103が開放されるようになっている栓蓋56」は、本件発明1の「上下動することによって排水口を開閉する弁体」に相当する。
(カ)甲4発明の「栓蓋本体部56A」、「下方に向けて延びる筒状部56C」及び「パッキン部56B」は、本件発明1の「蓋部」、「弁蓋下部」及び「パッキン」に、それぞれ相当する。
(キ)甲4発明の「円板状の栓蓋本体部56A」の「外方端部」が、「排水口部材51のフランジ部51Aと立設部101との隙間の上方外側に位置して」いることは、本件発明1の「蓋部」が、「排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部」ことに対応し、また、このような対応関係がいえることから、「円板状の栓蓋本体部56A」の「外方端部」「円板状の栓蓋本体部56A」の外形が、「立設部101」が連なる「排水するための凹部の傾斜面の下端」の内径よりも大径である構造となっていることがいえる。
そうすると、甲4発明の「外方端部が、排水口部材51のフランジ部51Aと立設部101との隙間の上方外側に位置している、円板状の栓蓋本体部56A」と、本件発明1の「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部」とは、「外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部」の点で共通する。
(ク)甲4発明の「栓蓋5」が「下動し、パッキン部56Bの外周部分全域が排水口部材51に接触することで、排水口103が閉鎖され」るようになっていることは、本件発明1の「弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞」することに相当する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る排水凹部と、
排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部と、
上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体と、から成り、
上記弁体は、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞する、
排水栓装置。

<相違点10>
排水凹部について、本件発明1では、段状部を有するのに対して、甲3発明では、そのような特定がなされていない点。
<相違点11>
蓋部の外周部について、本件発明1では、弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置されるのに対して、甲3発明では、そのような特定がなされていない点。

(イ)判断
相違点10について検討すると、
上記のとおり、本件発明1は、排水凹部に段差部を有する点で、甲4発明とは構造上、明らかに相違しており、また、上記相違点10に係る本件発明1の構成である排水凹部に段差部を有することにより、本件明細書に記載された作用効果を奏するものである。
よって、上記相違点10は、実質的な相違点である。
また、相違点11に係る本件発明1の構成は、排水凹部に段差部を有していることを前提とする構成であるから、相違点11も実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲4発明と同一でない。

イ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含み更に減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲4発明と同一でない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、請求項1及び4に係る発明は、甲4発明と同一でないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び4に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また、本件請求項2及び3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、本件請求項2及び3に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
排水栓装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗面ボウルやシンク、浴槽等の槽体の底面に形成された排水口の開閉を行う排水栓装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の排水栓装置としては、槽体の底面に形成された開口と、当該開口の内周が下方に向けて延設されることによって形成された排水筒部と、当該排水筒部に取り付けられて排水口を形成する排水栓と、排水口を開閉する弁体から成る排水栓装置が知られている。排水栓は外周に雄螺子部を有するとともに、上端外周から外側に向けて鍔部が形成されており、槽体裏面に配置されたナット部材等に形成された雌螺子部と螺合されることで、鍔部がパッキンを介して槽体底面の開口周縁を挟持することによって取り付けられている。
上記排水栓装置は、鍔部と排水筒部との隙間に水垢や塵芥等の汚れが堆積し、非常に見栄えが悪いという問題があった。
【0003】
そこで、特許文献1に記載の排水栓装置においては、排水筒部内に配置された弁体が、排水栓が露出しないように覆うことで汚れを隠し、上記問題を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-241665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の排水栓装置は、排水栓の鍔部と排水筒部との間に隙間を形成してしまうと、当該隙間に水垢や塵芥等が堆積してしまうことから、鍔部の外径と排水筒部の内径は略同一となる様に形成される。又、上述の通り、弁体は排水筒部内に配置されるものであるから、弁体の外径は排水筒部の内径よりも小径でなければならない。一方、特許文献1は弁体によって鍔部を覆い隠す構造であることから、弁体の外径は鍔部の外径よりも大径である必要がある。即ち、特許文献1に記載の排水栓装置は「鍔部の外径≒排水筒部の内径」、且つ「鍔部の外径≦弁体の外径≦排水筒部の内径」を満たす必要がある。従って、鍔部の外径と排水筒部の内径、及び弁体の外径はそれぞれ略同一でなければならず、製造には高い精度が必要であった。又、鍔部の外径と弁体の外径が略同一であることから、角度によっては鍔部が見えてしまうことがあり、弁体によって十分に鍔部を覆い隠すことができているとは言えなかった。
又、上記排水装置は、弁体の外径と排水筒部の内径が略同一であることから、弁体の上昇時に何らかの衝撃が加わる等して弁体が少しでも傾斜した場合、下降時に弁体が排水筒部内に配置されず、止水不良となる問題が生じた。
更に、上記排水装置は、弁体の外径と排水筒部の内径が略同一であることから、弁体の周囲に隙間がほとんど存在せず、弁体上昇時の排水流量が非常に悪いという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題に鑑み、容易に製造可能であり、意匠性や止水性、及び排水流量を向上させた排水栓装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の本発明は、槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する排水凹部と、
排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部と、
上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体と、から成り、
上記弁体は、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し、
当該蓋部の外周部は弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置されることを特徴とする排水栓装置である。
【0008】
(削除)
【0009】
(削除)
【0010】
請求項4に記載の本発明は、前記蓋部の上面は、
弁体の下降時において、槽体の底面と略同一高さとなることを特徴とする請求項1に記載の排水栓装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の本発明によれば、上記特許文献1と比較し、排水栓装置を容易に製造可能であり、意匠性や止水性、及び排水流量を向上させることが可能となる。
また、弁体の下降時に排水凹部内に配置された蓋部によって排水筒部を覆うことが可能となるため、排水栓を確実に覆い隠すことが可能となる。
請求項4に記載の本発明によれば、槽体が洗面ボウルの場合などにおいては、弁体の下降時に、蓋部の上方にヤカンや洗面器等を載置することが容易となる。又、槽体が浴槽の場合等においては、弁体の下降時において、弁体に脚を引っ掛けたりすることが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の要部を示す断面図である。
【図3】図2より弁体を除いた状態を示す断面図である。
【図4】弁体を示す断面図である。
【図5】第二実施形態を示す断面図である。
【図7】第四実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の排水栓装置を説明する。尚、以下に記載する説明は実施形態の理解を容易にするためのものであり、これによって発明が制限して理解されるものではない。
【0014】
以下に、本発明の第一実施形態について図1乃至図5を用いて説明する。尚、第一実施形態に係る槽体Bは洗面ボウルである。
【0015】
図1に示すように、槽体Bは断面視箱状であって、底部には排水凹部1が凹設され、当該排水凹部1の中央には排水筒部2が形成されている。
排水凹部1は槽体B底部を凹状に窪ませることによって形成され、その内径は後述する弁体6の弁蓋61の外径よりも大径である。尚、図3等に記載された上端高さHは、排水凹部1の上縁部分を示しており、排水凹部1外端に形成された円弧の上端を繋いだ高さである。
排水筒部2は排水凹部1の中央に形成された開口より下方に向けて延設された筒状部分であり、その下端には内向きに突出するフランジ部21が形成されており、当該フランジ部21は排水栓3とナット5によって挟持されている。
排水栓3は内部に排水流路を形成する中空且つ円筒状の排水配管であって、円筒状の筒部31と、筒部31上端外周から外側に向けて形成された鍔部32から構成されている。筒部31は上方側面において、槽体Bの側面に形成された図示しないオーバーフロー孔からの排水流路が合流する窓部33が開口しており、オーバーフローアダプター4が周囲に取り付けられている。又、筒部31は窓部33下方において、外周に雄螺子が形成されており、ナット5の雌螺子と螺合されている。尚、鍔部32の外径は排水筒部2の内径と略同一であって、パッキンやオーバーフローアダプター4を介し、ナット5と鍔部32とでフランジ部21を挟持することによって排水栓3を槽体Bに固定している。
ここで、当該排水栓3の取り付け状態において、排水栓3の上端は排水筒部2の上端、即ち排水凹部1底面と略同一の高さとなる。そして、排水栓3の内部に形成された排水流路は、その上端が排水口34として機能し、槽体B内部に吐水された湯水や毛髪等を、下端に取り付けられた配管100を通じて下水へと排出する。
【0016】
図4に示すように、弁体6は排水口34の開閉を行う弁蓋61と、弁蓋61の裏面に取り付けられた弁軸63、塵芥を補足する目皿64から構成されている。
弁蓋61は、排水栓3を覆う蓋部62と、蓋部62下方に形成された、周囲にパッキン7が嵌着された弁蓋下部611から構成された止水部材である。
図2に示すように、蓋部62はその外径が鍔部32の外径及び排水筒部2の内径よりも大径且つ排水凹部1の内径よりも小径であり、弁体6の下降時において排水栓3及び排水栓3と排水筒部2との隙間を全て覆い隠すことができる。尚、弁体6の下降時において、蓋部62(特に蓋部62の最も大径となる部分)は排水凹部1内に配置されるが、図2に示すように、本発明においては蓋部62の外縁が排水凹部1の上端高さHよりも下方に位置することが好ましい。このように配置することにより、槽体Bの底面上に載置された物体等が蓋部62に引っ掛かってしまうことが無く好適である。
弁蓋下部611は弁蓋61の内、上記蓋部62より下方に形成された部分であって、周囲にパッキン7が嵌着されており、上記蓋部62よりも小径となるよう形成されている。尚、弁蓋下部611は上記弁体6の下降時において、排水栓3の内側に配置されるとともに、パッキン7は排水口34の周縁に当接し、排水口34を閉塞する。
弁軸63は金属製の軸部材であり、目皿64の中心を貫通しているとともに、上端が弁蓋61の裏面に嵌合されている。又、弁軸63の下端は伝達部8端部と接続された昇降部91上に載置されている。
【0017】
伝達部8は樹脂製のチューブ体であるアウターチューブと、アウターチューブ内に配置された金属製の撚り線であるインナーワイヤより成る公知のレリースワイヤである。伝達部8は操作部9に加えられた操作に伴いインナーワイヤがアウターチューブ内を摺動することによって昇降部91を作動させ、昇降部91上に載置されている弁体6を昇降させる構造となっている。
【0018】
操作部9は槽体Bの縁部に取り付けられており、端部にはインナーワイヤが接続されている。従って、操作部9に押し引き操作を加えることによって上記インナーワイヤを進退させ、遠隔的に弁体6を昇降させることが可能となる。
【0019】
上記各部材から成る排水栓装置は以下のように動作する。
【0020】
図2に示すように、弁体6が下降している状態において、弁蓋61の蓋部62は排水凹部1内に配置される。この時、弁蓋下部611は排水栓3内に配置されるとともに、弁蓋下部611の周囲に嵌着されたパッキン7は排水口34の周縁と当接することで排水口34を閉塞しており、槽体Bは内部に水栓からの吐水等を貯留することができる。又、弁蓋61の上端は、排水凹部1の上端高さHと略同一の高さとなっているとともに、蓋部62は排水栓3及び排水栓3と排水筒部2との間を全て覆っている。又、蓋部62の外縁は排水凹部1の上端高さHよりも下方に配置されている。
上記弁体6の下降状態より、操作部9に操作を加えると、昇降部91が駆動することによって弁体6が押し上げられる。この時、図2において破線で示すように、上記パッキン7が排水口34周縁から離間することによって排水口34が開放され、槽体B内部の吐水等を排出することが可能となる。
【0021】
上記本発明の排水栓装置においては、弁蓋61の蓋部62、特に蓋部62の最も大径となる部分は弁体6の下降時において排水凹部1内に配置されている。従って、蓋部62は排水栓3の鍔部32や排水筒部2よりも大径に形成することが可能であるため、容易に排水栓3の外縁を覆い隠すことが可能となる。又、蓋部62と排水凹部1との間には十分な隙間が形成されているため、弁体6を上昇させた際の排水流量を向上させることが可能となる。
【0022】
本発明の第一実施形態は以上であるが、本発明は上記第一実施形態の形状に限られるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲において種々の形状変更を加えても良いものである。例えば、第一実施形態において、排水凹部1は平面視略円形であるが、楕円や矩形等種々の形状を成しても良いものである。更に、弁蓋61(特に蓋部62)の形状についても、平面視楕円や矩形等種々の形状を成しても良いものである。本発明では、弁蓋61は弁体6の下降時に排水凹部1内に配置されることから、排水凹部1の内周面に当接しない範囲内において自由に意匠を変更することが可能となる。
又、上記第一実施形態において、排水凹部1の内径は弁体6の弁蓋61の外径よりも大径であったが、図5に示す第二実施形態の様に、排水凹部1の内径と弁体6の外径が略同径であっても良い。この場合においては、弁体6と排水凹部1の間の隙間が極僅かとなるため、槽体Bと弁体6の間に一体感を生じさせることが可能となり、更に意匠性が向上する。
又、図7に示す第四実施形態の様に、排水凹部1に化粧板200を載置しても良い。
【符号の説明】
【0023】
1 排水凹部
2 排水筒部
21 フランジ部
3 排水栓
31 筒部
32 鍔部
33 窓部
34 排水口
4 オーバーフローアダプター
5 ナット
6 弁体
61 弁蓋
611 弁蓋下部
62 蓋部
63 弁軸
64 目皿
7 パッキン
8 伝達部
9 操作部
91 昇降部
100 配管
200 化粧板
B 槽体
H 上端高さ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽体の底部に凹設された排水凹部であって下方が上方よりも小径にされて下端に至る段状部を有する排水凹部と、
排水凹部の下端から下方に向けて延設された排水筒部と、
上端部に形成された鍔部が排水筒部内に配置されるとともに下端部に配管が接続されて排水口を形成する排水栓と、
上下動することによって排水口を開閉する弁体と、から成り、
上記弁体は、外径が排水凹部の下端の内径よりも大径の蓋部であって排水栓の鍔部と排水筒部との隙間を全て覆い隠す蓋部と、蓋部下方に形成された弁蓋下部であってパッキンが嵌着された弁蓋下部と、を有するとともに、弁体の下降時において、パッキンが排水栓の排水口の周縁と当接することで排水口を閉塞し、
当該蓋部の外周部は弁体の下降時において上記排水凹部内における下端よりも上方の段状部に接触することなく配置されることを特徴とする排水栓装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記蓋部の上面は、
弁体の下降時において、槽体の底面と略同一高さとなることを特徴とする請求項1に記載の排水栓装置。
【図面】







 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-30 
出願番号 特願2016-157092(P2016-157092)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (E03C)
P 1 651・ 113- YAA (E03C)
P 1 651・ 537- YAA (E03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 七字 ひろみ  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 西田 秀彦
秋田 将行
登録日 2017-10-20 
登録番号 特許第6225300号(P6225300)
権利者 丸一株式会社
発明の名称 排水栓装置  
代理人 小澤 壯夫  
代理人 松本 好史  
代理人 竹田 千穂  
代理人 竹田 千穂  
代理人 松本 好史  
代理人 小澤 壯夫  

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