• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1355975
異議申立番号 異議2019-700378  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-09 
確定日 2019-09-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6423554号発明「ルウの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6423554号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第6423554号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成30年1月26日に出願され、同年10月26日にその特許権の設定登録がされ、同年11月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年5月9日に特許異議申立人 山田 大介より、同年同月13日に特許異議申立人 伊藤 礼子より、それぞれ特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6423554号の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、以下、これらを「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などといい、まとめて「本件特許発明」という場合もある。

「【請求項1】
ルウの製造方法であって、
(1)第1の油脂原料、澱粉質原料、及び第1の粉体原料を含有する第1原料を撹拌混合しながら加熱して、加熱処理混合物を得る工程と、
(2)前記加熱処理混合物に水系原料を添加して得られる第2原料を、撹拌混合しながら80℃以上の品温で熱処理して、熱処理混合物を得る工程と、
(3)前記熱処理混合物に第2の粉体原料を添加して得られる第3原料を撹拌混合して、ルウを得る工程と、
を含み、前記第2原料中の油脂の含有量が、前記第2原料の全質量に対して38質量%を超えることを特徴とする、ルウの製造方法。
【請求項2】
工程(1)と工程(2)との間で、前記加熱処理混合物の品温が、80℃以上で保たれている、請求項1に記載のルウの製造方法。
【請求項3】
工程(2)において、前記水系原料を、第2の油脂原料との混合物として添加する、請求項1又は2に記載のルウの製造方法。
【請求項4】
工程(3)において、前記第2の粉体原料を添加した後の前記第3原料の品温が、工程(2)の熱処理時の最高到達温度から約5℃以上低い、請求項1?3のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
【請求項5】
前記第1の粉体原料が、砂糖、カレーパウダー、野菜パウダー、粉乳、及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1?4のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
【請求項6】
前記第2の粉体原料が、食塩、砂糖、カレーパウダー、及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1?5のいずれか一項に記載のルウの製造方法。」

第3 申立理由の概要
1 特許異議申立人 山田 大介(以下、「申立人A」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証及び甲第2号証(以下、「甲1」及び「甲2」という。)を提出し、以下の取消理由を主張している。

(1)取消理由1(新規性)
本件特許発明1?6は、本件特許の出願前に日本国内おいて頒布された以下の甲1に記載された発明であるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)
本件特許発明1?6は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された以下の甲1に記載された発明並びに甲2に記載の技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(3)証拠方法
甲1:特開2004-154028号公報
甲2:特開2013-110982号公報

2 特許異議申立人 伊藤 礼子(以下、「申立人B」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証及び参考資料1及び参考資料2(以下、「参1」及び「参2」という。)を提出し、以下の取消理由を主張している。
なお、申立人Bの提出した甲第1号証は、申立人Aの提出した甲第1号証と同じ文献のため、以下では、いずれも単に「甲1」という。

(1)取消理由1(新規性)
本件特許発明1?6は、本件特許の出願前に日本国内おいて頒布された以下の甲1に記載された発明であるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)
本件特許発明1?6は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された以下の甲1に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(3)取消理由3(明確性)
本件特許発明1?6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(4)証拠方法
甲1:特開2004-154028号公報
参1:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
文部科学省(平成27年12月25日)
参2:平成22年国民健康・栄養調査報告
厚生労働省(平成24年5月)

第4 証拠方法に記載された事項
1 甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1a)「【請求項1】
ルウの製造方法であって、該方法が、
水分含有食材を含む風味原料を品温が100℃?150℃になるように第1の加熱釜中で加熱して水分含量が1重量%?15重量%の調味材を得る工程;
油脂および澱粉系原料を含む小麦粉ルウ原料を第2の加熱釜中で加熱して小麦粉ルウを得る工程;ならびに
該調味材と該小麦粉ルウとを混合および冷却してルウを得る工程であって、混合開始時の温度が70℃?150℃であり、混合物の品温が50℃?65℃になるまで冷却が行われる、工程
を包含する、方法。
・・・
【請求項11】
前記ルウの油脂含量が20重量%?60重量%である、請求項1に記載の方法。」

(甲1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、風味および香りのよいルウの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、ペースト、エキスなどの水分含量の高い食材を用いてルウを製造する方法に関する。」

(甲1c)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、優れた風味特性を有する新しいルウの製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、牛肉、豚肉、鶏肉、魚介類、野菜、果実、香辛料等の風味原料を出来るだけ少ない配合量で用い、原料の風味および香りの特性を最大限に発揮させることを可能とした高品質のルウ製品を製造する方法を提供することを目的とする。・・・
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、それらの問題点を確実に解消することができると共に、ルウの風味向上に寄与し得る原料、とりわけ、牛肉、豚肉、鶏肉、魚介類、野菜、果実、香辛料等のいわゆる風味原料の有する特有の風味特性を最大限に発揮せしめることが可能な高品質のルウ製品を製造するための新しい技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた。その結果、水分含有食材(例えば、肉類、魚介類、野菜、果実、香辛料等のペースト(磨砕物)またはエキス、糖質、乳系原料、調味料など)を含む風味原料を品温が100℃?150℃になるように加熱して水分含量が1重量%?15重量%の調味材を得て、この調味材を用いてルウを製造することによって、所期の目的を達成し得ることを見出し、これに基づいて本発明を完成した。」

(甲1d)「【0023】
(1)風味原料
本明細書中では、「風味原料」とは、ルウに風味を与えるために用いられる食材をいう。風味原料の例としては、水分含有食材および他の食材が挙げられる。風味原料には、澱粉系原料を含まないことが好ましい。本明細書中で、食材とは、食用にする物品をいう。風味原料は、未加熱(つまり、生)であってもよく、加熱済であってもよい。
【0024】
本明細書中では、「水分含有食材」とは、水分を含有する食材をいう。水分含有食材の水分含量は、好ましくは15重量%?95重量%、より好ましくは20重量%?80重量%、さらに好ましくは30重量%?70重量%であり、最も好ましくは40重量%?60重量%である。水分含有食材の例としては、肉類、魚介類、種実、海藻、野菜、果実または香辛料のペーストまたはエキス、糖類、乳系原料および調味料が挙げられる。
・・・
【0036】
本明細書において「調味料」とは、味を調える目的で添加される物質をいう。調味料の例としては、L-グルタミン酸ナトリウム、食塩、醤油、ウスターソース、核酸、酢およびトマトケチャップが挙げられる。」

(甲1e)「【0049】
(2)調味材調製用油脂
本発明の製造方法では、風味原料を加熱する工程において、風味原料を調味材調製用油脂の存在下で加熱することが好ましい。風味原料を調味材調製用油脂の存在下で加熱することにより、風味原料の風味および香りをより好適に醸成し得る。
・・・
【0051】
油脂を用いる場合は、加熱する風味原料の合計量100重量部に対して15重量部?50重量部用いることが好ましい。」

(甲1f)「【0052】
(3)小麦粉ルウ原料
本明細書中で「小麦粉ルウ」とは、油脂および澱粉系原料を含む小麦粉ルウ原料を加熱することによって得られるものをいう。・・・小麦粉ルウは必ずしも小麦粉を含まなくても良い。
・・・
【0055】
澱粉系原料としては、任意の澱粉および穀粉を用い得る。澱粉の例としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉などの地下澱粉;コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉(例えば、もち米澱粉、粳米澱粉)などの地上澱粉;および架橋澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、可溶性澱粉、漂白澱粉などの化工デンプンが挙げられる。穀粉の例としては、小麦粉、ライ麦粉、ソバ粉、米粉、コーンフラワー、あわ粉、きび粉、はと麦粉およびひえ粉が挙げられる。澱粉系原料は、小麦粉を含むことが好ましく、小麦粉であることがより好ましい。・・・
【0056】
使用される小麦粉ルウ原料の全量に占める油脂の割合は、好ましくは30重量%?80重量%であり、より好ましくは40重量%?55重量%である。使用される小麦粉ルウ原料の全量に占める澱粉系原料の割合は、好ましくは10重量%?70重量%であり、より好ましくは45重量%?60重量%である。
・・・
【0058】
小麦粉ルウ原料は、油脂および澱粉系原料に加えて、カレー粉、食塩、砂糖等の調味料を含有し得る。小麦粉ルウ原料はまた、本発明の方法の効果を損ねない限り、任意の他の原料を含有し得る。」

(甲1g)「【0059】
(4)冷却工程添加用原料
本発明の製造方法の冷却工程においては、本発明の製造方法の効果を損ねない限り、任意の原料を添加し得る。
【0060】
冷却工程において添加され得る原料の例としては、上記で風味原料として列挙した原料、油脂、フレーバー、着色料などが挙げられる。」

(甲1h)「【0067】
本発明の方法においては、調味材を得る工程、小麦粉ルウを得る工程およびルウを得る工程の3工程のすべてを1つの調理器具(例えば、釜)のみを用いてルウを製造してもよく、複数の調理器具を用いて、各工程を別々にしてもよい。例えば、2つもしくは3つの調理器具を用いてもよい。好ましい実施形態では、1つ、2つまたは3つの調理器具を用いる。複数バッチを連続的に生産する場合、生産効率が最も良い点から、より好ましくは、3つの調理器具を用いる。
【0068】
1つの調理器具で上記3工程のすべてを行う場合、例えば、その調理器具でまず調味材を得てこれを取り出し、次いでその調理器具で小麦粉ルウを得、そしてその小麦粉ルウに調味材を添加してもよい。この場合、得られた調味材を、小麦粉ルウに添加するまでに温度が低下しすぎないように(好ましくは添加時の品温が70℃?150℃であるように)保温しておくことが好ましい。あるいは、あらかじめ小麦粉ルウを調製して取り出しておき、その後調味材を得、そこに小麦粉ルウを添加してもよい。この場合、得られた小麦粉ルウを、調味材に添加するまでに温度が低下しすぎないように(好ましくは添加時の品温が70℃?150℃であるように)保温しておくことが好ましい。
・・・
【0071】
なかでも、3つの調理器具でそれぞれ小麦粉ルウを得る工程、調味材を得る工程および混合冷却工程を行うことが工業的生産においては好ましい。なぜなら、加熱および混合冷却の一連のプロセスを行う複数のバッチを最も効率的に連続して行うことができるからである。」

(甲1i)「【0081】
・・・調味材が調製された後にこの調味材に小麦粉ルウ原料を加えて加熱を行うことは好ましくない。なぜなら、小麦粉ルウ原料中の澱粉系原料が、調味材に含まれる水分と反応して糊化することによって調味材と小麦粉ルウ原料との混合物の粘度が上昇してこの混合物の攪拌がうまくできなくなる場合、および澱粉系原料の十分な焙煎効果が得られず、小麦粉ルウが粉っぽい風味になる場合があるからである。小麦粉ルウを調製した後にこの小麦粉ルウに水分含有食材を加えて加熱を行うことも、同様に糊化が生じて攪拌がうまくできなくなる場合があるので好ましくない。
・・・
【0083】
このようにして調味材および小麦粉ルウが得られたら、調味材と小麦粉ルウとを高温(例えば、70℃?150℃)で混合し、混合物の品温が50℃?65℃になるまで攪拌しながら冷却してルウを得る。調味材と小麦粉ルウとは、好ましくは冷却手段内で混合される。調味材と小麦粉ルウとの混合は、調味材および小麦粉ルウのそれぞれの温度が低下しすぎないうちに行うことが好ましい。なぜなら、調味材の品温が低すぎると小麦粉ルウへの分散性が悪い場合があるからである。調味材と小麦粉ルウとを混合する際には、必要に応じて冷却工程添加用原料をさらに添加することができる。冷却工程添加用原料は、調味材および小麦粉ルウと同時に冷却手段に投入してもよく、調味材と小麦粉ルウとの混合後に投入してもよい。好ましくは、調味材と小麦粉ルウとの混合後に投入する。なお、本明細書中で「冷却する」とは、温度を低下させることをいい、放冷することを含む。必ずしも強制的に温度を低下させる手段を用いる必要はないが、強制的に温度を低下させる手段を用いることが好ましい。このような強制的に冷却する手段としては、例えば、釜の周囲に配置したジャケットに冷却水を流す水冷式の冷却装置などがある。」

(甲1j)「【0092】
(実施例1)
▲1▼予め加熱した開放型の加熱釜に油脂20重量部を投入し、油脂を溶解させた。このとき、溶解した油脂の品温は約60℃であった。次いで、この溶解した油脂に小麦粉20重量部を投入し、混合しながら、約50分間かけて到達品温が130℃になるように加熱して小麦粉ルウを製造した。
【0093】
▲2▼▲1▼で用いた加熱釜とは別の開放型の加熱釜(予め加熱した)に油脂7重量部を投入し、油脂を溶解させた。このとき、溶解した油脂の品温は約60℃であった。次いで、この溶解した油脂に、果実ペースト5重量部、野菜ペースト2重量部、ビーフエキス5重量部および香辛料3重量部を同時に投入し、混合しながら、約50分間かけて到達品温が約110℃になるまで加熱処理して調味材を製造した。調味材の水分含量は5.9重量%であった。
【0094】
▲3▼開放型の冷却釜に上記▲1▼で製造した小麦粉ルウ(約130℃)および▲2▼で製造した調味材(約110℃)を加え、撹拌混合しながらさらに油脂3重量部、カレー粉9重量部、砂糖10重量部、食塩9重量部、調味料5重量部およびカラメル2重量部を順次加え、約50分間かけて品温が60℃になるまで冷却混合処理し、カレールウを製造した。冷却は、原料の添加による冷却および冷却釜による強制冷却であった。得られたカレールウを容器に充填し、20℃になるまで冷却することによって、固形ルウが得られた。この固形ルウの水分含量は4.0重量%であった。
【0095】
得られたカレールウ(固形ルウ)を常法により調理してカレーソースを得た。このカレーソースを喫食したところ、このカレーソースの風味は、香辛料、ビーフエキス、果実ペーストなどの食材の加熱前の風味に加えて、これらの食材にメイラード反応、糖-アミノ酸反応およびカラメル反応が生じることによって付与された煮込んだ風味が加わり、素材本来の持ち味が発揮されたコクのある優れた風味であった。
【0096】
(実施例2)
▲1▼予め加熱した開放型の加熱釜に油脂25重量部を投入し、油脂を溶解させた。このとき、溶解した油脂の品温は約60℃であった。次いで、この溶解した油脂に小麦粉30重量部を投入し、混合しながら、約50分間かけて到達品温が130℃になるように加熱して小麦粉ルウを製造した。
【0097】
▲2▼▲1▼で用いた加熱釜とは別の開放型の加熱釜(予め加熱した)に油脂3重量部を投入し、油脂を溶解させた。このとき、溶解した油脂の品温は約60℃であった。次いで、この溶解した油脂に、果実ペースト4重量部、野菜ペースト2重量部およびビーフエキス6重量部を同時に投入し、混合しながら、約80分間かけて到達品温が約113℃になるまで加熱処理して調味材を製造した。調味材の水分含量は6.8重量%であった。
【0098】
▲3▼開放型の冷却釜に上記▲1▼で製造した小麦粉ルウ(約130℃)および▲2▼で製造した調味材(約113℃)を加え、撹拌混合しながらさらにカレー粉9重量部、砂糖8重量部、食塩8重量部、調味料2重量部、カラメル2重量部およびホエイパウダー1重量部を順次加え、約60分間かけて品温が60℃になるまで冷却混合処理し、カレールウを製造した。冷却は、原料の添加による冷却および冷却釜による強制冷却であった。得られたカレールウを容器に充填し、20℃になるまで冷却することによって、固形ルウが得られた。この固形ルウの水分含量は4.2重量%であった。
【0099】
得られたカレールウ(固形ルウ)を常法により調理してカレーソースを得た。このカレーソースを喫食したところ、このカレーソースの風味は、実施例1と同様に、香辛料、ビーフエキス、果実ペーストなどの食材の加熱前の風味に加えて、これらの食材にメイラード反応、糖-アミノ酸反応およびカラメル反応が生じることによって付与された煮込んだ風味が加わり、素材本来の持ち味が発揮されたコクのある優れた風味であった。」

2 甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2a)「【請求項3】
低油脂ルウの製造方法であって、
油脂原料と、小麦粉以外の澱粉質原料と、オニオンパウダーと、ガーリックパウダーと、大豆パウダーとを含有する第1原料を加熱混合する第1加熱混合工程と、
前記第1加熱混合工程後の第1原料と調味料とを含有する第2原料を加熱混合する第2加熱混合工程と、
を含み、
製造される低油脂ルウ中、油脂の含有量が5?25重量%であり、小麦粉以外の澱粉質原料の含有量が20?45重量%である、
前記方法。」

(甲2b)「【0001】
本発明は、油脂の含有量が低減され、且つ、小麦粉の含有量が0?10重量%である、カレー、ハヤシ、シチュー等を作るために用いる低油脂ルウに関する。」

(甲2c)「【0005】
そこで本発明者らは、澱粉質原料として小麦粉を使用せず、コーンスターチのみを用いて、特許文献2記載の低油脂ルウの製造を試みた。こうして製造された低油脂ルウは熱水中で十分な粘性を付与することが可能であり、かつ低カロリーであるものの、新たな課題を有することが見出された。すなわち、小麦粉と比較してコーンスターチ等の他の澱粉質原料は、ルウを用いた調理品の味に厚み及びコクが与えられないという課題が見出された。
【0006】
そこで本発明は、小麦粉以外の澱粉質原料を主成分とする澱粉質原料を含む低油脂ルウの、調理時の味を改善することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、小麦粉以外の澱粉質原料を主たる澱粉質原料として含む低油脂ルウにおいて、オニオンパウダー、ガーリックパウダー、及び大豆パウダーを組み合わせて配合することにより、調理時の味を改善することができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の発明を包含する。」

(甲2d)「【0024】
<他の調味料>
本発明のルウは、上記のオニオンパウダー、ガーリックパウダー、大豆パウダー以外にルウ製造のために用いられる他の調味料を適宜含有することができる。
【0025】
他の調味料としては、カレー、ハヤシ、シチュー等のルウを製造するときに通常使用されるものを使用することができ、具体的には、食塩、砂糖などの糖類、グルタミン酸ナトリウム、トマト、リンゴ、ニンジン、チーズ、はちみつ、チャツネ、酵母エキス、フルーツ、ブイヨンなどの粉末あるいはペースト、粉乳などの着味成分が例示できる。」

(甲2e)「【0028】
<製造方法>
本発明のルウは原料を加熱混合して調製することができる。原料を加える順序は任意で決定することができる。・・・
【0029】
低油脂ルウの風味の向上のためには、加熱混合を以下の2段階
油脂原料と、小麦粉以外の澱粉質原料と、オニオンパウダーと、ガーリックパウダーと、大豆パウダーとを含有する第1原料を加熱混合する第1加熱混合工程、および
前記第1加熱混合工程後の第1原料と調味料とを含有する第2原料を加熱混合する第2加熱混合工程
により行うことが好ましい。この場合、ルウの原料全てを一度に加熱混合する場合と比較して、第1原料中における油脂原料の含有量が相対的に多くなるため、オニオンパウダーと、ガーリックパウダーと、大豆パウダーとを高温で加熱混合することができ、これによりルウの味の厚み及びコクをより一層向上させることができる。
【0030】
第1加熱混合工程の加熱混合は、品温90?140℃で10?60分間行うことが好ましく、品温105?130℃で20?60分間行うことがより好ましい。
【0031】
第2加熱混合工程の加熱混合は、品温80?120℃で10?60分間行うことが好ましく、品温90?100℃で20?60分間行うことがより好ましい。
【0032】
・・・ルウ製造に用いられる油脂原料、オニオンパウダー、ガーリックパウダー、及び大豆パウダーのそれぞれについて、全量が第1原料に配合される必要はなく、一部が第1原料に配合され、残部が第2原料に配合されてもよい。」

3 参1には、以下の事項が記載されている。
「第2章 日本食品標準成分表」に、以下に示す食品の可食部100g当たりの水分がそれぞれ記載されている。
・ 1 穀類の食品名「こむぎ」の欄
[小麦粉]薄力粉 1等:14.0
2等:14.0
中力粉 1等:14.0
2等:14.0
・ 1 穀類の食品名「とうもろこし」の欄
コーンフラワー 黄色種:14.0
白色種:14.0
・ 2 いも及びでん粉類の食品名「じゃがいも」の欄
乾燥マッシュポテト:7.5
・ 2 いも及びでん粉類の食品名「<でん粉・でん粉製品>」の欄
さつまいもでん粉:17.5
じゃがいもでん粉:18.0
・ 3 砂糖及び甘味類の食品名「砂糖及び甘味類」の欄
車糖 上白糖:0.8
三温糖:1.2
・ 6 野菜類の食品名「(とうもろこし類)の欄
スイートコーン 未熟種子、生:77.1
・ 7 果実類の食品名「バナナ」の欄
生:75.4
乾:14.3
・ 13 乳類の食品名「(粉乳類)」の欄
全粉乳:3.0
脱脂粉乳:3.8
・ 13 乳類の食品名「(チーズ類)」の欄
パルメザン:15.4
・ 14 油脂類の食品名「(バター類)」の欄
有塩バター:16.2
・ 14 油脂類の食品名「(マーガリン類)」の欄
ファットスプレッド:30.2
・ 17 調味料及び香辛料類の食品名「(食塩類)」の欄
食塩:0.1

4 参2には、以下の事項が記載されている。
「大分類」が「野菜類」で、「中分類」が「その他の野菜」で、「小分類」が「その他の淡色野菜」に分類される、「食品名」に「・・・,スイートコーン,スイートコーン(ゆで),スイートコーン(冷凍ホール),スイートコーン(冷凍カーネル・全粒),・・・」と記載されている。

第5 当審の判断
1 取消理由1(新規性)について
申立人A及び申立人Bの取消理由1(新規性)は、同じ証拠方法(甲1)に基づくものであるため、まとめて検討する。

(1)甲1に記載された発明
ア 甲1の上記(甲1a)の請求項1及び請求項11の記載からみて、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。

甲1発明A:
「ルウの製造方法であって、該方法が、
(A1)水分含有食材を含む風味原料を品温が100℃?150℃になるように第1の加熱釜中で加熱して水分含量が1重量%?15重量%の調味材を得る工程;
(A2)油脂及び澱粉系原料を含む小麦粉ルウ原料を第2の加熱釜中で加熱して小麦粉ルウを得る工程;並びに
(A3)該調味材と該小麦粉ルウとを混合及び冷却してルウを得る工程であって、混合開始時の温度が70℃?150℃であり、混合物の品温が50℃?65℃になるまで冷却が行われる工程を包含する方法であって、
前記ルウの油脂含量が20重量%?60重量%である方法。」

イ 甲1の上記(甲1j)の実施例1の記載からみて、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。

甲1発明B:
「(B1)予め加熱した開放型の加熱釜に油脂20重量部を投入し、油脂を溶解させ、小麦粉20重量部を投入し、混合しながら、約50分間かけて到達品温が130℃になるように加熱して小麦粉ルウを製造する工程;
(B2)(B1)で用いた加熱釜とは別の予め加熱した開放型の加熱釜に油脂7重量部を投入し、油脂を溶解させ、果実ペースト5重量部、野菜ペースト2重量部、ビーフエキス5重量部及び香辛料3重量部を同時に投入し、混合しながら、約50分間かけて到達品温が約110℃になるまで加熱処理して調味材を製造する工程;ここで、調味材の水分含量は5.9重量%であり、
(B3)開放型の冷却釜に(B1)で製造した小麦粉ルウ(約130℃)及び(B2)で製造した調味材(約110℃)を加え、撹拌混合しながらさらに油脂3重量部、カレー粉9重量部、砂糖10重量部、食塩9重量部、調味料5重量部及びカラメル2重量部を順次加え、約50分間かけて品温が60℃になるまで冷却混合処理し、カレールウを製造する工程からなる、カレールウの製造方法。」

(2)本件特許発明1について
ア 甲1発明Aとの対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明Aとを対比する。
a 甲1発明Aと本件特許発明1とは「ルウの製造方法」である点で一致する。

b 甲1発明Aの「(A2)油脂及び澱粉系原料を含む小麦粉ルウ原料を第2の加熱釜中で加熱して小麦粉ルウを得る工程」は、本件特許発明1の「(1)第1の油脂原料、澱粉質原料、及び第1の粉体原料を含有する第1原料を撹拌混合しながら加熱して、加熱処理混合物を得る工程」と、「(1)第1の油脂原料、澱粉質原料を含有する原料を撹拌混合しながら加熱して、加熱処理混合物を得る工程」である点で共通する。

c よって、両発明は、次の一致点及び相違点1A?4Aを有する。

一致点:
「ルウの製造方法であって、
(1)第1の油脂原料、澱粉質原料を含有する原料を撹拌混合しながら加熱して、加熱処理混合物を得る工程を含む、ルウの製造方法。」である点。

相違点1A:
本件特許発明1は、工程(1)で、第1の油脂原料、澱粉質原料、及び第1の粉体原料を含有する第1原料を撹拌混合しながら加熱して、「加熱処理混合物」を得て、工程(2)で、工程(1)で得られた「加熱処理混合物」に水系原料を添加して得られる第2原料を、撹拌混合しながら80℃以上の品温で熱処理して、「熱処理混合物」を得て、工程(3)で、工程(2)で得られた「熱処理混合物」に第2の粉体原料を添加して得られる第2原料を撹拌混合して、「ルウ」を得るという一連の工程を含むルウの製造方法であるのに対し、
甲1発明Aは、工程(A1)で、水分含有食材を含む風味原料を品温が100?150℃になるように第1の加熱釜中で加熱して水分含量が1重量%?15重量%の「調味材」を得て、これとは別途、工程(A2)で、油脂及び澱粉系原料を含む小麦粉ルウ原料を第2の加熱釜中で加熱して「小麦粉ルウ」を得て、次いで、得られた「調味材」及び「小麦粉ルウ」を、工程(A3)で混合及び冷却して「ルウ」を得るという工程を含むルウの製造方法である点。

相違点2A:
本件特許発明1は、工程(1)で「第1の粉体原料」を含有する原料を用い、工程(3)で「第2の粉体原料」を添加するのに対し、
甲1発明Aは、そのような工程を有さない点。

相違点3A:
本件特許発明1は、工程(2)で、「前記加熱処理混合物に水系原料を添加して得られる第2原料を、撹拌混合しながら80℃以上の品温で熱処理」すると特定しているのに対し、
甲1発明Aは、工程(A3)で、「該調味材と該小麦粉ルウとを混合及び冷却してルウを得る工程であって、混合開始時の温度が70℃?150℃」であると特定している点。

相違点4A:
本件特許発明1は、「前記第2原料中の油脂の含有量が、前記第2原料の全質量に対して38質量%を超える」と特定しているのに対し、
甲1発明Aは、「前記ルウの油脂含量が20重量%?60重量%である」と特定している点。

(イ)上記相違点1A?4Aについて検討する。
a 相違点1Aについて
(a)甲1発明Aの、工程(A1)で得られる「調味材」は、「水分含有食材を含む風味原料」から得られるものであり、「水分含量が1重量%?15重量%」のものである。
そして、甲1の上記(甲1d)によれば、甲1発明Aの「水分含有食材」は、水分を含有する肉類、魚介類、種実、海藻、野菜、果実又は香辛料のペースト又はエキスなどであり、「風味原料」はルウに風味を与えるために用いられる食材であって「水分含有食材」を含むものである。
一方、本件特許発明1の「水系原料」について、本件特許明細書【0016】に、「本明細書に記載の『水系原料』とは、ある程度の水分を含有する食品原料のことをいい、固体、液状又はペースト状であり得る。前記水系原料の水分量は、特に限定されないが、例えば、当該水系原料の全質量に対して約20質量%以上であってもよい。前記水系原料の具体例としては、果実(リンゴ、バナナ、及びチャツネなど)のペースト又はエキス、畜肉(ビーフ、チキン、及びポークなど)のペースト又はエキス、野菜(オニオン、ガーリックなど)のペースト又はエキス、チーズ、及び生クリームなどを挙げることができ、これらからなる群より選択される少なくとも1種を使用してもよい。」と記載されている。
そうすると、甲1発明Aの工程(A1)で得られる「調味材」は、本件特許発明1の工程(2)で添加される「水系原料」と成分としては同様のものであるということができる。

(b)そこで検討するに、甲1発明Aは、工程(A1)で「調味材」を得て、工程(A2)で澱粉系原料を含む原料から「小麦粉ルウ」を得て、工程(A3)で得られた「小麦粉ルウ」と「調味材」とを混合していることから、別々に調製された「小麦粉ルウ」と本件特許発明1の「水系原料」と成分としては同様のものであるといえる「調味材」とを混合する工程を有するルウの製造方法とはいえる。
しかしながら、本件特許発明1は、工程(1)で、甲1発明Aの工程(A2)とは異なる、澱粉質原料を含む原料から「加熱処理混合物」を得て、次いで、工程(2)でその得られた「加熱処理混合物」に「水系原料」を添加する工程を有するルウの製造方法であるから、両発明は、用いる原料、及び処理された原料を組み合わせる手順が異なっており、両発明の「ルウの製造方法」は、全体として異なる工程からなるものである。
すなわち、甲1発明Aは、本件特許発明1の工程(2)、及びそれに続く工程(3)に相当する工程を有さないものである。
したがって、相違点1Aは実質的な相違点である。

b 相違点2Aについて
甲1の上記(甲1f)に、小麦粉ルウ原料は、「油脂」及び「澱粉系原料」に加えて「カレー粉、食塩、砂糖等の調味料」を含有し得ることが記載されている。
そうすると、甲1には、甲1発明Aの工程(A2)が、「油脂」、「澱粉系原料」及び「カレー粉、食塩、砂糖等の調味料」を含有する「小麦粉ルウ原料」を撹拌混合しながら加熱して「小麦粉ルウ」を得る工程を有する発明も記載されているに等しいということができ、本件特許発明1の工程(1)に用いる原料成分としては相当する「第1の粉体原料」を含有する原料を用いるルウの製造方法の一工程が記載されているということはできる。
しかしながら、上記aのとおり、本件特許発明1と甲1発明Aとは、ルウを製造する方法において一連の工程が異なっており、甲1発明Aは、本件特許発明1の工程(3)に相当する工程を有しておらず、当然に、工程(1)とは別に工程(3)で「第2の粉体原料」を添加する構成も有さない。
したがって、相違点2Aは実質的な相違点である。

c 相違点3Aについて
上記bのとおり、甲1発明Aの工程(A2)は、本件特許発明1の工程(1)に相当するということができ、また、上記aのとおり、甲1発明Aの「調味材」は、本件特許発明1の「水系原料」に相当するということができるので、甲1発明Aの工程(A3)は、「第1の粉体原料」に相当する原料を含む「小麦粉ルウ原料」から得られた「小麦粉ルウ」と「水系原料」に相当する「調味材」とを、「混合開始時の温度が70℃?150℃」で混合する工程を含むといえる。
しかしながら、上記aのとおり、本件特許発明1の工程(2)は、工程(1)で得られた「加熱処理混合物」に、続けて「水系原料を添加」する工程であるのに対し、甲1発明Aの工程(A3)は、工程(A2)で得られた「小麦粉ルウ」と、別途工程(A1)で得られた「調味材」とを混合するものであって、両者は異なる工程である。
また、甲1発明Aの工程(A3)は、「小麦粉ルウ」と「調味材」とを「70?150℃」という温度範囲で混合を開始すると特定するのに対し、本件特許発明1は、「80℃以上」の温度で熱処理することを特定するものであって、この点においても、両者は異なるものである。
したがって、相違点3Aは実質的な相違点である。

d 相違点4Aについて
甲1発明Aは、得られた「ルウ」の油脂含量を特定するものであるのに対し、本件特許発明1は、工程(1)で得られた「加熱処理混合物」に、工程(2)で「水系原料」を添加して得られる「第2原料」中の油脂の含有量を特定するものである。
そして、本件特許発明1で得られる「ルウ」は、さらに工程(3)で「第2の粉体原料」が添加されるものである。
そうすると、両発明は、油脂の含有量を特定するための基準となるものが異なっている。
したがって、相違点4Aは実質的な相違点である。

(ウ)小括
よって、本件特許発明1は、甲1発明Aと同一ではない。

イ 甲1発明Bとの対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明Bとを対比する。
a 甲1発明Bの「カレールウの製造方法」と、本件特許発明1の「ルウの製造方法」は、「ルウの製造方法」である点で一致する。

b 甲1発明Bの「(B1)予め加熱した開放型の加熱釜に油脂20重量部を投入し、油脂を溶解させ、小麦粉20重量部を投入し、混合しながら、約50分間かけて到達品温が130℃になるように加熱して小麦粉ルウを製造する工程」は、本件特許発明1の「(1)第1の油脂原料、澱粉質原料、及び第1の粉体原料を含有する第1原料を撹拌混合しながら加熱して、加熱処理混合物を得る工程」と、「(1)第1の油脂原料、澱粉質原料を含有する原料を撹拌混合しながら加熱して、加熱処理混合物を得る工程」である点で共通する。

c よって、両発明は、次の一致点及び相違点1B?4Bを有する。

一致点:
「ルウの製造方法であって、
(1)第1の油脂原料、澱粉質原料を含有する原料を撹拌混合しながら加熱して、加熱処理混合物を得る工程を含む、ルウの製造方法。」である点。

相違点1B:
本件特許発明1は、工程(1)で、第1の油脂原料、澱粉質原料、及び第1の粉体原料を含有する第1原料を撹拌混合しながら加熱して、「加熱処理混合物」を得て、工程(2)で、工程(1)で得られた「加熱処理混合物」に水系原料を添加して得られる第2原料を、撹拌混合しながら80℃以上の品温で熱処理して、「熱処理混合物」を得て、工程(3)で、工程(2)で得られた「熱処理混合物」に第2の粉体原料を添加して得られる第2原料を撹拌混合して、「ルウ」を得るという一連の工程を含むルウの製造方法であるのに対し、
甲1発明Bは、工程(B1)で、油脂を溶解させ、小麦粉を投入し、混合しながら加熱して「小麦粉ルウ」を製造し、これとは別途、工程(B2)で、油脂を溶解させ、果実ペースト、野菜ペースト、ビーフエキス、香辛料を同時に投入し、混合しながら加熱処理して「調味材」を製造し、次いで、得られた「小麦粉ルウ」及び「調味材」を、工程(B3)で混合及び冷却して「カレールウ」を製造するという工程を含むカレールウの製造方法である点。

相違点2B:
本件特許発明1は、工程(1)で「第1の粉体原料」を含有する原料を用い、工程(3)で「第2の粉体原料」を添加するのに対し、
甲1発明Bは、工程(B3)で「油脂3重量部、カレー粉9重量部、砂糖10重量部、食塩9重量部、調味料5重量部及びカラメル2重量部」を添加する点。

相違点3B:
本件特許発明1は、工程(2)で、「前記加熱処理混合物に水系原料を添加して得られる第2原料を、撹拌混合しながら80℃以上の品温で熱処理」すると特定しているのに対し、
甲1発明Bは、工程(B3)で、開放型の冷却釜に「(B1)で製造した小麦粉ルウ(約130℃)及び(B2)で製造した調味材(約110℃)」を加えて撹拌混合すると特定している点。

相違点4B:
本件特許発明1は、「前記第2原料中の油脂の含有量が、前記第2原料の全質量に対して38質量%を超える」と特定しているのに対し、
甲1発明Bは、工程(B1)で「油脂20重量部」、工程(B2)で「油脂7重量部」を用いている点。

(イ)上記相違点1B?4Bについて検討する。
a 相違点1Bについて
甲1発明Bは、工程(B1)で「小麦粉ルウ」を製造し、それとは別途、工程(B2)で「調味材」を製造し、工程(B3)で得られた「小麦粉ルウ」と「調味材」とを混合しているから、上記ア(イ)aと同様に、本件特許発明1の「ルウの製造方法」と、全体として異なる工程からなるものである。
そして、甲1発明Bも、本件特許発明1の工程(2)、及びそれに続く工程(3)に相当する工程を有さないものである。
したがって、相違点1Bは実質的な相違点である。

b 相違点2Bについて
甲1発明Bの工程(B1)は、「油脂」と「小麦粉」を混合して「小麦粉ルウ」を製造しており、本件特許発明1の「第1の粉体原料」に相当する原料を用いていない。
したがって、相違点2Bは実質的な相違点である。

c 相違点3Bについて
上記aのとおり、甲1発明Bは、本件特許発明1の工程(2)を有さず、甲1発明Bの工程(B3)の温度条件は、本件特許発明1の工程(2)の温度条件に相当するものとはいえない。
したがって、相違点3Bは実質的な相違点である。

d 相違点4Bについて
上記aのとおり、甲1発明Bは、本件特許発明1の工程(2)を有さないから、油脂の含有量を特定する対象である「第2原料」自体を有さない。
したがって、相違点4Bは実質的な相違点である。

(ウ)小括
よって、本件特許発明1は、甲1発明Bと同一ではない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。

(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1についてさらに、工程(1)と工程(2)との間で、前記加熱処理混合物の品温が、80℃以上で保たれていることを特定するものである。
しかしながら、甲1発明A及び甲1発明Bは、いずれも本件特許発明1の工程(2)を有さない。
また、本件特許発明2と甲1発明A及び甲1発明Bとは少なくともそれぞれ、相違点1A?4A及び相違点1B?4Bで相違する。
したがって、本件特許発明2は、甲1に記載された発明ではない。

(4)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2についてさらに、工程(2)において、前記水系原料を、第2の油脂原料との混合物として添加することを特定するものである。
そこで検討するに、甲1には、上記(甲1e)に調味材調製用油脂を用いることが好ましいと記載されている。また、甲1発明Bでは、工程(B2)で調味材を製造する際に油脂を用いている。
そうすると、甲1発明A及び甲1発明Bは、本件特許発明3で新たに特定された「水系原料を、第2の油脂原料との混合物として添加する」ことについては記載されているか、そうでなくても記載されているに等しいといえる。
しかしながら、本件特許発明3と甲1発明A及び甲1発明Bとは少なくともそれぞれ、相違点1A?4A及び相違点1B?4Bで相違する。
したがって、本件特許発明3は、甲1に記載された発明ではない。

(5)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1?3についてさらに、工程(3)において、前記第2の粉体原料を添加した後の前記第3原料の品温が、工程(2)の熱処理時の最高到達温度から約5℃以上低いことを特定するものである。
しかしながら、甲1発明A及び甲1発明Bは、いずれも本件特許発明1の工程(2)及びそれに続く工程(3)を有さない。
また、本件特許発明4と甲1発明A及び甲1発明Bとは少なくともそれぞれ、相違点1A?4A及び相違点1B?4Bで相違する。
したがって、本件特許発明4は、甲1に記載された発明ではない。

(6)本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1?4についてさらに、前記第1の粉体原料が、砂糖、カレーパウダー、野菜パウダー、粉乳、及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特定するものである。
そこで検討するに、上記(2)イ(イ)bのとおり、甲1発明Bは、「第1の粉体原料」に相当する原料を有していない。
一方、上記(2)ア(イ)bで検討したとおり、甲1発明Aは、本件特許発明1の工程(1)に相当する「第1の粉体原料」であって「カレー粉、食塩、砂糖等の調味料」を含有する原料を用いるルウの製造方法が記載されているとまではいうことができる。
しかしながら、本件特許発明5と甲1発明A及び甲1発明Bとは少なくともそれぞれ、相違点1A?4A及び相違点1B?4Bで相違する。
したがって、本件特許発明5は、甲1に記載された発明ではない。

(7)本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明1?5についてさらに、前記第2の粉体原料が、食塩、砂糖、カレーパウダー、及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特定するものである。
しかしながら、甲1発明A及び甲1発明Bは、いずれも本件特許発明1の工程(2)及びそれに続く工程(3)を有さない。
また、本件特許発明6と甲1発明A及び甲1発明Bとは少なくともそれぞれ、相違点1A?4A及び相違点1B?4Bで相違する。
したがって、本件特許発明6は、甲1に記載された発明ではない。

(8)申立人の主張について
ア 申立人Aの主張について
申立人Aは、異議申立書9?10頁において甲1発明を認定しているが、申立人Aのいう甲1発明は、甲1の記載どおりに認定されたものではなく、本件特許発明の発明特定事項に沿うように、関連していない各記載を組み合わせて作成されたものであり、ひとまとまりの技術思想として甲1の記載全体から認定できる発明ではない。
よって、申立人Aの主張は前提において誤っており、採用できない。

イ 申立人Bの主張について
申立人Bの主張は、要するに、本件特許発明の範囲が不明確であるため、甲1に記載された発明のみならず、公知のルウの製造方法とも区別がつかないというものと解される。
しかしながら、下記3のとおり、本件特許発明は明確であり、また、上記(2)?(7)で検討したとおり、本件特許発明は、甲1に記載された発明ではない。
よって、申立人Bの主張は前提において誤っており、採用できない。

(9)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、同法第29条第1項の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。
なお、上記(甲1j)に記載の実施例2に基づいて甲1に記載された発明を認定したとしても、甲1発明Bについてした判断と変わらない。

2 取消理由2(進歩性)について
申立人A及び申立人Bの取消理由2(進歩性)は、主たる証拠として同じ証拠方法(甲1)に基づくものであるため、まとめて検討する。

(1)甲1に記載された発明
甲1に記載された発明は、上記1(1)ア及びイで認定したとおりである。

(2)本件特許発明1について
ア 甲1発明Aとの対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点1A?4Aは、上記1(2)ア(ア)cで認定したとおりである。

(イ)相違点1A?4Aについて検討する。
a 相違点1Aについて
(a)甲1の上記(甲1h)には、「調味材を得る工程」、「小麦粉ルウを得る工程」及び「ルウを得る工程」の3つの工程のすべてを1つの調理器具のみを用いてルウを製造してもよいこと、あるいは、複数の調理器具を用いて、各工程を別々に行ってもよいことが記載されている。
そして、1つの調理器具で3つ工程のすべてを行う場合は、まず調味材を得てこれを取り出し、その後小麦粉ルウを得、そこに調味材を添加してもよいことと、まず小麦粉ルウを得てこれを取り出し、その後調味材を得、そこに小麦粉ルウを添加してもよいことが併記され、なかでも、3つの調理器具でそれぞれ、小麦粉ルウを得る工程、調味材を得る工程及びルウを得る工程を行うことが工業的生産においては好ましいことが記載されている(上記(甲1h))。
そうすると、甲1には、甲1発明Aの工程(A1)と工程(A2)とを、いずれか一方の工程で得られた原料に、他方の工程で得られた原料を加えてさらに処理をすすめるようにしてもよいことは記載されているとはいえる。
しかしながら、甲1発明Aについて、工程(A2)で「第1の粉体原料」に相当する原料を加えたうえで「小麦粉ルウ」を得て、次いでそこに工程(A1)で得られた「調味材」を添加して、混合及び冷却するとともに「第2の粉体原料」に相当する原料を加えてルウを得る製造方法とすることが動機付けられるところはない。
よって、相違点1Aは、甲1発明Aに基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(b)そこで、申立人Aが提示した甲2について検討する。
i 甲2は、「油脂原料と、小麦粉以外の澱粉質原料と、オニオンパウダーと、ガーリックパウダーと、大豆パウダーとを含有する第1原料」を加熱混合する「第1加熱混合工程」と、該工程後の「第1原料と調味料とを含有する第2原料」を加熱混合する「第2加熱混合工程」を含む低油脂ルウの製造方法に関する技術を開示するものである(上記(甲2a))。
そして、澱粉質原料として小麦粉を使用せず、コーンスターチのみを用いて低油脂ルウを製造すると、ルウを用いた調理品の味に厚み及びコクが与えられないが、オニオンパウダー、ガーリックパウダー、及び大豆パウダーを組み合わせて配合することにより、調理時の味を改善することができたというものである(上記(甲2c))。
また、甲2には、加熱混合は、第1加熱混合工程と第2加熱混合工程との2段階で行うことが好ましく、それぞれの工程を、品温90?140℃で10?60分間、及び品温80?120℃で10?60分間行うことが好ましいことが記載されているうえ(上記(甲2e))、甲2全体の記載を参酌しても、前記第1加熱混合工程後の第1原料と調味料とを含有する第2原料を加熱混合する第2加熱混合工程において、調味料として水分含有食材を用いるべきことは記載されていない。

ii 一方、甲1は、ペースト、エキスなどの水分含量の高い食材を用いてルウを製造する方法に関し(上記(甲1b))、水分含有食材を含む風味原料を品温が100℃?150℃になるように加熱して水分含量が1重量%?15重量%の調味材を得て、この調味材を用いてルウを製造することによって、優れた風味特性を有するルウを製造できるというものである(上記(甲1c))。
そして、小麦粉ルウは必ずしも小麦粉を含まなくてもよいと記載されているが、澱粉系原料は任意の澱粉及び穀類を用い得ることが記載され、小麦粉であることがより好ましいことが記載され(上記(甲1f))、実施例でも澱粉質原料として小麦粉のみを用いている(上記(甲1j))。
また、甲1には、調味材を調製した後に小麦粉ルウ原料を加えて加熱を行うことや、小麦粉ルウを調製した後に水分含有食材を加えて加熱を行うことは好ましくなく、調味材及び小麦粉ルウとを高温で混合した後は冷却することが記載されている(上記(甲1i))。

iii そうすると、甲1と甲2は、ルウの製造方法という点では技術分野が共通するものの、その目的とするところや、製造工程も異なっており、甲1発明Aに甲2に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けはない。
よって、相違点1Aは、甲1発明A並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たことではない。

b 相違点2Aについて
(a)甲1の上記(甲1f)には、甲1発明Aの工程(A2)における「小麦粉ルウ原料」は「カレー粉、食塩、砂糖等の調味料」を含有し得ることが記載されている。
また、甲1の上記(甲1g)及び(甲1i)には、甲1発明Aの工程(A3)における調味材と小麦粉ルウとの混合後の冷却工程において、冷却工程添加用原料を添加し得ることが記載されており、上記(甲1j)の実施例1では、油脂、カレー粉、砂糖、食塩、調味料及びカラメルを順次加えたこと、実施例2では、カレー粉、砂糖、食塩、調味料、カラメル及びホエイパウダーを順次加えたことが記載されている。
しかしながら、甲1には、他に、甲1発明Aの工程(A2)と工程(A3)の両方の工程で、カレー粉等を加えることについては記載されていない。
そのうえ、甲1の上記(甲1d)には、「調味料」の例として、L-グルタミン酸ナトリウムや食塩のような粉体原料と共に、醤油、ウスターソースなどの液体原料が区別することなく記載され、冷却工程添加用原料として例示される風味原料も、水分含有食材として例示されたものでよいことが記載されている(上記(甲1d)、(甲1g))。
そうすると、甲1には、そもそも本件特許発明1の工程(1)?工程(3)の一連の工程が記載されていないうえに、甲1発明Aの工程(A2)又は工程(A3)のいずれかの工程で任意の原料を添加し得ることが示されているに留まり、その両方の工程で粉体原料を添加すると共に、それを「第1の粉体原料」及び「第2の粉体原料」に分けて添加することについては記載も示唆もされていない。
また、ルウの製造方法において、そのような製造方法とすることが技術常識であるともいえない。
よって、相違点2Aは、甲1発明Aに基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(b)甲2の上記(甲2d)には、オニオンパウダー、ガーリックパウダー、大豆パウダー以外にルウ製造のために用いられる他の調味料として、「食塩、砂糖などの糖類、グルタミン酸ナトリウム、トマト、リンゴ、ニンジン、チーズ、はちみつ、チャツネ、酵母エキス、フルーツ、ブイヨンなどの粉末あるいはペースト、粉乳などの着味成分」が例示され、上記(甲2e)には、オニオンパウダー、ガーリックパウダー、大豆パウダーは、一部が第1原料に配合され、残部が第2原料に配合されてもよいことが記載されている。
しかしながら、上記a(b)で検討したとおり、甲1発明Aに甲2に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けはない。
よって、相違点2Aは、甲1発明A並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たことではない。

c 相違点3Aについて
(a)相違点3Aは、本件特許発明1の工程(2)の温度条件を特定するものであるところ、上記a及びbで検討したとおり、相違点1A及び相違点2Aが容易になし得たことといえない以上、相違点3Aも、甲1発明Aに基いて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
しかも、甲1発明Aは、混合開始時の温度を70℃?150℃の範囲とするものであり、甲1の記載全体を考慮しても、この温度について、80℃以上という範囲に変更する動機付けもない。
よって、相違点3Aは、甲1発明Aに基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(b)甲2には、油脂原料と、小麦粉以外の澱粉質原料と、オニオンパウダーと、ガーリックパウダーと、大豆パウダーとを含有する第1原料を加熱混合する第1加熱混合工程と、前記第1加熱混合工程後の第1原料と調味料とを含有する第2原料を加熱混合する第2加熱混合工程と含み、第2加熱混合工程を、品温80?120℃で10?60分間行うことが好ましいことが記載されている(上記(甲2e))。
しかしながら、甲1発明Aに甲2に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けがないことは、上記a(b)で検討したとおりである。
よって、相違点3Aは、甲1発明A並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たことではない。

d 相違点4Aについて
(a)甲1には、甲1発明Aで特定するルウの全量に対する油脂の含有量の他に、工程(A1)で用いる風味原料の全量に対する油脂の割合や(上記(甲1e))、工程(A2)で用いる小麦粉ルウ原料の全量に対する油脂の割合についての記載がある(上記(甲1f))。
しかしながら、相違点4Aは、本件特許発明1の工程(2)の「第2原料」中の油脂の含有量を特定するものであるところ、上記a及びbで検討したとおり、相違点1A及び相違点2Aが容易になし得たことといえない以上、甲1発明Aについて「第2原料」に相当するものを用いることが容易になし得たこととはいえないから、油脂の含有量を特定する基準となるものが異なり、相違点4Aが容易になし得たものということはできない。
よって、相違点4Aは、甲1発明Aに基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(b)甲1発明Aに甲2に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けがないことは、上記a(b)で検討したとおりである。
しかも、甲2は低油脂ルウの製造方法に関し、製造される低油脂ルウ中の油脂の含有量は、5?25重量%と特定されている(上記(甲2a))。
よって、相違点4Aは、甲1発明A並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1発明Aもしくは甲1発明A並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲1発明Bとの対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明Bとの一致点及び相違点1B?4Bは、上記1(2)イ(ア)cで認定したとおりである。

(イ)相違点1B?4Bについて検討する。
a 相違点1Bについて
(a)甲1発明Bは、甲1の実施例から認定される発明であり、完成した1つの方法として実施例に具体的に示された製造方法を、相違点1Bに係る本件特許発明1のルウの製造方法に変更する動機付けはない。
加えて、上記ア(イ)aと同様に、甲1の記載から甲1発明Bの工程を変更することが動機付けられるところもない。
よって、相違点1Bは、甲1発明Bに基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(b)また、上記ア(イ)a(b)と同様に、目的や工程全体の内容が異なる甲2の記載を考慮しても、甲1発明Bに甲2に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けはない。
よって、相違点1Bは、甲1発明B並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たことではない。

b 相違点2Bについて
(a)甲1発明Bは、甲1の実施例から認定される発明であり、実施例に具体的に示された工程を他の工程とする動機付けはない。
そして、甲1全体の記載を参酌しても、甲1発明Bについて、工程(B3)で添加する「油脂3重量部、カレー粉9重量部、砂糖10重量部、食塩9重量部、調味料5重量部及びカラメル2重量部」を、工程(B1)で添加することに変える動機付けもないし、ましてや、これを工程(B1)と工程(B3)に分けて添加する動機付けもない。
よって、相違点2Bは、甲1発明Bに基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(b)また、上記ア(イ)a(b)と同様に、甲1発明Bに甲2に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けはない。
よって、相違点2Bは、甲1発明B並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たことではない。

c 相違点3Bについて
(a)甲1発明Bの工程(B3)は、「(B1)で製造した小麦粉ルウ(約130℃)」と「(B2)で製造した調味材(約110℃)」とを混合するものであるから、これらを混合してしばらくは、80℃以上の温度で撹拌混合されているといえる。
そうすると、甲1発明Bは、「小麦粉ルウ」と「調味材」との混合物を、撹拌混合しながら80℃以上の品温で熱処理する工程を有するといえる。
しかしながら、上記bのとおり、甲1発明Bについて、工程(B1)で「第1の粉体原料」に相当する原料を用いることは、当業者が容易になし得たことではないから、80℃以上の品温で熱処理するものが異なり、相違点3Bが容易になし得たものということはできない。
よって、相違点3Bは、甲1発明Bに基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(b)また、上記ア(イ)a(b)と同様に、甲1発明Bに甲2に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けはない。
よって、相違点3Bは、甲1発明B並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たことではない。

d 相違点4Bについて
(a)甲1発明Bは、工程(B1)で、油脂20重量部と小麦粉20重量部を混合し、工程(B2)で、油脂7重量部と、果実ペースト5重量部、野菜ペースト2重量部、ビーフエキス5重量部及び香辛料3重量部を混合し、水分含量5.9重量%の調味材を得て、得られた小麦粉ルウと調味材とを混合する工程を有する。
そうすると、この時点での混合物中の油脂の量は、(20+7)/(20+7+20+5+2+5+3)×100から約44%と計算することができ、油脂の含有量が「38質量%を超える」という数値範囲を形式的には満たしている。(なお、甲1の実施例1では加熱することで水分含有食材の水分含量を減少させているので、それを考慮しても油脂の量が44%を下回ることはない。)
しかしながら、上記bのとおり、甲1発明Bについて、工程(B1)で「第1の粉体原料」に相当する原料を用いることは、当業者が容易になし得たことではないから、油脂の含有量を特定する基準となるものが異なり、相違点4Bが容易になし得たものということはできない。
よって、相違点4Bは、甲1発明Bに基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(b)また、上記ア(イ)a(b)と同様に、甲1発明Bに甲2に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けはない。
よって、相違点4Bは、甲1発明B並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たことではない。

(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1発明Bもしくは甲1発明B並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明もしくは甲1に記載された発明並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明2?6について
上記1(3)?(7)のとおり、甲1発明A又は甲1発明Bと、本件特許発明2?6とは、少なくともそれぞれ相違点1A?4A又は相違点1B?4Bにおいて相違しているところ、上記(2)のとおり、相違点1A?4A又は相違点1B?4Bは、甲1に記載された発明もしくは甲1に記載された発明並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たことではないから、本件特許発明2?6も、甲1に記載された発明もしくは甲1に記載された発明並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明の効果について
本件特許発明は、本件特許明細書【0004】?【0006】に記載されているとおり、油脂原料及び澱粉質原料を加熱する際に粉体原料及び水系原料も添加して、一緒に撹拌混合しながら加熱すると、当該混合物は温度上昇に伴って急激に硬化してしまうという課題に基づき、粉体原料を第1の粉体原料と第2の粉体原料に分け、油脂原料、澱粉原料及び第1の粉体原料を含む原料を加熱するという構成を採用することで、ルウの原料を高温で加熱した場合であっても製造過程におけるルウの硬化を防止しつつ、各原料に由来する風味が向上されたルウを製造できるという効果を奏するものである。
それに対し、甲1の上記(甲1i)には、調味材と小麦粉ルウ原料を混合した後や、小麦粉ルウに水分含有食材を加えて加熱を行うと、混合物の粘度が上昇して撹拌がうまくできなくなる場合があることが記載されており、本件特許発明の上記効果は、甲1から予測もし得ないものである。

(5)申立人の主張について
上記1(8)のとおり、申立人A及び申立人Bの主張は前提において誤っており、採用できない。

(6)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6は、甲1に記載された発明もしくは甲1に記載された発明並びに甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。
なお、上記(甲1j)に記載の実施例2に基づいて甲1に記載された発明を認定したとしても、甲1発明Bについてした判断と変わらない。

3 取消理由3(明確性)について
(1)申立人Bは、特許異議申立書6?8頁において、以下の旨を主張している。
ア 本件特許明細書【0016】の「本明細書に記載の『水系原料』とは、ある程度の水分を含有する食品原料のことをいい、固体、液状又はペースト状であり得る。前記水系原料の水分量は、特に限定されない・・・」との定義によれば、「水系原料」は、水分をわずかでも含む食品原料は全て包含する非常に広い概念である。
そして、参1の記載によれば、上白糖(水分含量0.8%。以下同じ)、食塩(0.1%)、コーンフラワー(14.0%)、じゃがいもでん粉(18.0%)、さつまいもでん粉(17.5%)、全粉乳(3.0%)、脱脂粉乳(3.8%)は、全て「水系原料」に包含される。
そうすると、「澱粉質原料」、「第1の粉体原料」、「第2の粉体原料」はほぼ全て「水系原料」に含まれることになる。
さらに、本件特許明細書【0008】で「油脂原料」として挙げられているバター(有塩バター:16.2%)、マーガリン(ファットスプレッド:30.2%)も「水系原料」の定義に当てはまり、「水系原料」と「油脂原料」の区別も明確でない。
したがって、特許請求の範囲の記載は、「水系原料」の範囲が明確でないため、特許法第36条第6項第2号の要件に違反する。

イ 参2に記載されるように、トウモロコシ(コーン)は野菜に含まれるから、コーンフラワーは、「澱粉系原料」かつ野菜パウダー(「第1の粉体原料」)である。
したがって、特許請求の範囲の記載は、「澱粉系原料」と「第1の粉体原料」の区別が明確でないため、特許法第36条第6項第2号の要件に違反する。

ウ 参1の記載によれば、本件特許明細書【0016】に「水系原料」の具体例として記載されたバナナ(乾:14.3%)及びチーズ(パルメザン:15.4%)は、「澱粉質原料」である馬鈴薯澱粉(じゃがいもでん粉:18.0%)、甘藷澱粉(さつまいもでん粉:17.5%)よりも水分含量が少ないので、これらを加えてもルウの製造時の硬化は起こらないと考えられる。
また、本件特許発明は「水系原料」の配合量が限定されていないため、「水系原料」として水分量の多いものを使用した場合でも、配合量が微量であればルウの製造時の硬化は起こらないと考えられ、「水系原料」の配合量が一定以下であればルウの製造時の硬化は生じない。
したがって、特許請求の範囲の記載は、「水系原料」の配合量を記載していないため不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件に違反する。

エ 「粉体原料」について、本件特許明細書【0011】に「当技術分野で通常採用される粉状の食品原料を、特に制限されることなく使用することできる。」と記載されているので、「澱粉質原料」が「粉体原料」に含まれることは明らかであり、粉末油脂のような油脂原料さえも「粉体原料」に含まれることになる。
また、「第2の粉体原料」について、本件特許明細書【0019】に「前記第2原料中の油脂の含有量が低下するのを防ぐために前記工程2の熱処理の前に添加するのを控えていた粉状の食品原料」であることが記載されており、「第1の粉体原料」と「第2の粉体原料」の配合量、或いはこれらの配合比率は製造時のルウの硬化を防止するために極めて重要である。例えば、「第2の粉体原料」の配合量が極端に少ない場合、「第1の粉体原料」が粉体原料のほぼ全てを占めることになり、この場合、ルウの全成分を加えて混合するのと実質的な相違はなく、ルウの製造時の硬化を抑えることができない。
したがって、特許請求の範囲の記載は、「第1の粉体原料」の配合量と「第2の粉体原料」の配合量についていずれも限定されていないため不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件に違反する。

オ 本件特許明細書の実施例1によれば、小麦粉25質量部由来の水分3.5質量部(25×0.14)は、水系原料であるリンゴペースト(水分量30質量%)1質量部由来の水分0.3質量部(1×0.3)の約11.67倍存在している。
例えば、小麦粉の代わりに馬鈴薯澱粉(参1より水分含量18.0%)を25質量部使用すると、水分は4.5質量部(25×0.18)になり小麦粉を用いた場合と比較して1質量部(4.5-3.5)増加しており、この増加分である1質量部は水系原料であるリンゴペースト(水分量30質量%)1質量部由来の水分0.3質量部よりもはるかに大きい。
本件特許発明において、ルウの製造過程における硬化が第1原料、第2原料における水分含量に影響を受けるのであれば、水系原料よりも水分含量に対する影響が大きい澱粉質原料の種類と配合量を特許請求の範囲で規定すべきである。
したがって、特許請求の範囲の記載は、「澱粉質原料」の種類及び配合量の規定がないため不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件に違反する。

(2)そこで、申立人Bの主張について順に検討する。
ア 本件特許明細書【0016】には、「水系原料」について「前記水系原料の水分量は、特に限定されないが、例えば、当該水系原料の全質量に対して約20質量%以上であってもよい。前記水系原料の具体例としては、果実(リンゴ、バナナ、及びチャツネなど)のペースト又はエキス、畜肉(ビーフ、チキン、及びポークなど)のペースト又はエキス、野菜(オニオン、ガーリックなど)のペースト又はエキス、チーズ、及び生クリームなどを挙げることができ、これらからなる群より選択される少なくとも1種を使用してもよい。」と記載されており、技術的に不明確なところはない。
また、砂糖、食塩、粉乳は、本件特許明細書【0011】に「粉体原料」として例示され、コーンフラワー、じゃがいもでん粉(馬鈴薯澱粉)、さつまいもでん粉(甘藷澱粉)は、同【0009】に「澱粉質原料」として例示され、また、バター、マーガリンは、同【0008】に「油脂原料」として例示されている。
当業者であれば、技術常識から、これらを水系原料とは理解しないといえる。
よって、本件特許発明の「水系原料」は明確である。

イ 本件特許明細書【0010】に、「本明細書に記載の『粉体原料』とは、前記澱粉質原料以外の粉状の食品原料のことをいう。」と定義されており、「澱粉質原料」にあたるコーンフラワーは、「第1の粉体原料」にはあたらない。
よって、本件特許発明の「澱粉質原料」と「第1の粉体原料」の区別は明確である。

ウ 本件特許明細書【0016】に、「前記水系原料の添加量は、前記ルウを製造することができる限り特に限定されないが、例えば、前記第2原料の全質量に対して、約0.1?約10質量%であってもよく、好ましくは約0.1?約4質量%であり、前記ルウの原料の全質量に対して、約0.05?約7質量%であってもよく、好ましくは約0.05?約3質量%である。」と記載されており、当業者であれば、この程度の配合量であることを理解するといえる。
また、「水系原料」の配合量が特定されていないことから、ルウの製造時の硬化が生じない範囲が形式的に含まれているとしても、本件特許発明の明確性の問題とは関係ない。
よって、「水系原料」の配合量が記載されていないことによって、本件特許発明が不明確であるとはいえない。

エ 上記イのとおり、「粉体原料」に「澱粉質原料」が含まれないことは明確である。
また、本件特許明細書【0011】に「粉体原料」の具体例が示されており、当業者であれば、本件特許発明の「粉体原料」の範囲を理解できる。
そして、特許請求の範囲に各成分の配合量が明記されていないからといって、直ちに不明確となるものではない。本件特許発明では、第2原料中の油脂の含有量が、前記第2原料の全質量に対して38質量%を超えることが特定されており、それを満たす範囲で、第1の油脂原料、澱粉質原料、第1の粉体原料及び水系原料の量を決定すればよいことは明確である。
また、「第1の粉体原料」の配合量と「第2の粉体原料」の配合量が特定されていないことから、ルウの製造時の硬化が生じない範囲が形式的に含まれているとしても、本件特許発明の明確性の問題とは関係ない。
よって、「第1の粉体原料」の配合量と「第2の粉体原料」の配合量が記載されていないことによって、本件特許発明が不明確であるとはいえない。

オ 本件特許明細書【0009】に、「澱粉質原料」の種類や配合量が記載されており、これらは、ルウの製造における技術常識といえ、本件特許発明の「澱粉質原料」は明確である。

(3)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-09 
出願番号 特願2018-11284(P2018-11284)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松原 寛子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 瀬良 聡機
関 美祝
登録日 2018-10-26 
登録番号 特許第6423554号(P6423554)
権利者 ハウス食品株式会社
発明の名称 ルウの製造方法  
代理人 須田 洋之  
代理人 服部 博信  
代理人 山崎 一夫  
代理人 市川 さつき  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 小松 邦光  
代理人 田中 伸一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ