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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1355977
異議申立番号 異議2019-700507  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-25 
確定日 2019-10-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6446123号発明「表面保護フィルム及び表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6446123号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 主な手続の経緯等
特許第6446123号(設定登録時の請求項の数は5。以下「本件特許」という。)は、国際出願日である平成28年3月29日(優先権主張 平成27年3月31日)にされたとみなされる特許出願に係るものであって、平成30年12月7日にその特許権が設定登録された。
そして、本件特許に係る特許掲載公報は平成30年12月26日に発行されたところ、特許異議申立人藤江桂子(以下、単に「異議申立人」という。)は、令和1年6月25日、請求項1?5に係る特許に対して特許異議の申立てをした。

2 本件発明
本件特許の請求項1?5の特許に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい、これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。

「【請求項1】
下記要件(A1)?(A5)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体(A):75?97重量%と下記要件(B1)?(B2)を満たすエチレン系エラストマー(B):3?25重量%(ただし、(A)+(B)=100重量%)を含むプロピレン共重合体組成物からなるフィルムを表面層として有することを特徴とする表面保護フィルム。
(A1)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによる重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が5.0以上である。
(A2)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによるZ平均分子量Mzと重量平均分子量の比(Mz/Mw)が3.5以上である。
(A3)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]insolが1.5?2.5dl/gである。
(A4)室温n-デカンに可溶な成分(Dsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]solが3.0?5.5dl/gである。
(A5)室温n-デカンに可溶な成分(Dsol)のエチレンに由来する骨格の含有量が35?50重量%である。
(B1)ASTM D1238の方法により190℃における2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.3?1.0g/10分である。
(B2)JIS K6922で測定した密度が860?900kg/m^(3)である。
【請求項2】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n-デカンに不溶な成分量が70?90重量%であり、室温n-デカンに可溶な成分量が10?30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
表面層の片面に粘着層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の表面保護フィルム。
【請求項4】
下記要件(A1)?(A5)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体(A):75?97重量%と下記要件(B1)?(B2)を満たすエチレン系エラストマー(B):3?25重量%(ただし、(A)+(B)=100重量%)とからなることを特徴とする表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物。
(A1)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによる重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が5.0以上である。
(A2)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによるZ平均分子量Mzと重量平均分子量の比(Mz/Mw)が3.5以上である。
(A3)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]insolが1.5?2.5dl/gである。
(A4)室温n-デカンに可溶な成分(Dsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]solが3.0?5.5dl/gである。
(A5)室温n-デカンに可溶な成分(Dsol)のエチレンに由来する骨格の含有量が35?50重量%である。
(B1)ASTM D1238の方法により190℃における2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.3?1.0g/10分である。
(B2)JIS K6922で測定した密度が860?900kg/m^(3)である。
【請求項5】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n-デカンに不溶な成分量が70?90重量%であり、室温n-デカンに可溶な成分量が10?30重量%であることを特徴とする請求項4に記載の表面保護フィルム用プロピレン系重合体組成物。」

3 取消理由の概要
異議申立人の主張は、概略、次のとおりである。

(1)本件発明1?5は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である(本決定の便宜上、以下「取消理由1」という。)。すなわち、本件発明1?5は、甲1に記載された発明を主たる引用発明、甲2?3に記載された発明を従たる引用発明としたとき、これらの引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1?5に係る発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)また、証拠方法として書証を申出、以下の文書(甲1?3)を提出する。

・甲1:国際公開第2014/030594号
・甲2:特開2004-175933号公報
・甲3:国際公開第2014/054673号

4 当合議体の判断
当合議体は、以下述べるように、取消理由1には理由はないと判断する。
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、以下の事項が記載されている

「[請求項1] 下記要件(1)?(3)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を75重量%以上97重量%以下、下記要件(1’)?(3’)を満たすエチレン系エラストマー(B)を3重量%以上25重量%以下含むプロピレン共重合体組成物(ただし、(A)と(B)の合計を100重量%とする)よりなるフィルムを表面層として有することを特徴とする表面保護フィルム;
(1)室温n-デカンに不溶な部分(Dinsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]insolが1.5dl/g以上2.5dl/g以下。
(2)室温n-デカンに可溶な部分(Dsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]solが2.5dl/g以上4.5dl/g以下。
(3)室温n-デカンに可溶な部分(Dsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量が35重量%以上50重量%以下。
(1’)190℃、2.16kg荷重下のメルトフローレート(MFR_(B))が0.1g/10分以上2g/10分以下。
(2’)密度が860kg/m^(3)以上890kg/m^(3)以下。
(3’)前記メルトフローレート(MFR_(B))が、前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の[η]solに対して、下記関係式(1)を満たす。
[η]sol≦(1.4/MFR_(B))+2.8 …(1)」

「[0091] 実施例および比較例における物性の測定方法は次の通りである。
(1)MFR(メルトフローレート)
MFRは、ASTM D1238(230℃または190℃、荷重2.16kg)に従って測定した。」

「[0104][表2]



甲1には、特に請求項1の記載からみて、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「下記要件(1)?(3)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を75重量%以上97重量%以下、下記要件(1’)?(3’)を満たすエチレン系エラストマー(B)を3重量%以上25重量%以下含むプロピレン共重合体組成物(ただし、(A)と(B)の合計を100重量%とする)よりなるフィルムを表面層として有することを特徴とする表面保護フィルム。
(1)室温n-デカンに不溶な部分(Dinsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]insolが1.5dl/g以上2.5dl/g以下。
(2)室温n-デカンに可溶な部分(Dsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]solが2.5dl/g以上4.5dl/g以下。
(3)室温n-デカンに可溶な部分(Dsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量が35重量%以上50重量%以下。
(1’)190℃、2.16kg荷重下のメルトフローレート(MFR_(B))が0.1g/10分以上2g/10分以下。
(2’)密度が860kg/m^(3)以上890kg/m^(3)以下。」
(3’)前記メルトフローレート(MFR_(B))が、前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の[η]solに対して、下記関係式(1)を満たす。
[η]sol≦(1.4/MFR_(B))+2.8 …(1)」

イ 一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明とを対比する。甲1発明(1’)のメルトフローレートは、甲1の[0091]の記載から、ASTM D1238の方法によって測定された値であると解される。
そして、甲1発明の(1)?(3)、(1’)及び(2’)の各要件は、本件発明1の、(A3)?(A5)、(B1)及び(B2)の各要件にそれぞれ相当し、それぞれ重複する数値範囲を有する。

そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。

・一致点
「下記要件(A3)?(A5)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体(A):75?97重量%と下記要件(B1)?(B2)を満たすエチレン系エラストマー(B):3?25重量%(ただし、(A)+(B)=100重量%)を含むプロピレン共重合体組成物からなるフィルムを表面層として有することを特徴とする表面保護フィルム。
(A3)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]insolが1.5?2.5dl/gである。
(A4)室温n-デカンに可溶な成分(Dsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]solが3.0?4.5dl/gである。
(A5)室温n-デカンに可溶な成分(Dsol)のエチレンに由来する骨格の含有量が35?50重量%である。
(B1)ASTM D1238の方法により190℃における2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.3?1.0g/10分である。
(B2)密度が860?890kg/m^(3)である。」点

・相違点1
本件発明1のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、以下の(A1)及び(A2)の要件を満たすのに対し、甲1発明は、そのような特定を有しない点
(A1)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによる重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が5.0以上である。
(A2)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによるZ平均分子量Mzと重量平均分子量の比(Mz/Mw)が3.5以上である。

・相違点2
本件発明1のエチレン系エラストマー(B)の密度は、JIS K6922で測定するものであるのに対し、甲1発明では、測定方法を特定しない点

ウ 相違点についての検討
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
異議申立人は、相違点1に係る構成について、甲2ないしは甲3に記載されている技術を甲1発明に適用することで本件発明は当業者が容易に発明できた旨主張するので、その当否について検討する。

a 甲2を副引用例とした検討
(a)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
担持型チタン系触媒を用いた重合で得られ、ASTM D-1238(230℃、2.16kg荷重)で測定したメルトフローレート(MFR)が0.2?0.7g/10分、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定したMnが100000以下、Mw/Mnが5.4以上、Mz/Mnが20以上、加熱溶融してTダイから押出したシートの直径200μ以上のフィッシュアイ個数が60個/600cm2以下となり、且つシートの230℃での溶融張力≧100mNであるシート成形に適したポリプロピレン樹脂。」

「【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレン樹脂は機械的強度、電気絶縁性が高く、食品衛生性、および透明性に優れているところから、食品包装用、または産業用シートもしくはフィルムなどとして使用されている。」

「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、ポリプロピレン樹脂であって、シートおよびフィルムを成形した際にフィッシュアイが少なく、高溶融張力のポリプロピレン樹脂、それからなるシート、およびそのポリプロピレン樹脂の製造方法を提供することである。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはポリプロピレン樹脂組成とフィッシュアイ、高溶融張力との関係を研究する中で、分子量分布とフィッシュアイ、高溶融張力の因果関係を見出し本発明を完成するに至った。」

「【0010】
本発明のポリプロピレン樹脂は結晶性のポリプロピレン樹脂であり、プロピレン単独重合体、またはプロピレンとエチレンもしくは炭素数が4?20のα-オレフィンとの共重合体である。・・・(中略)・・・これらの中ではエチレンまたは炭素数が4?10のα-オレフィンが好ましい。これらのα-オレフィンは、プロピレンとランダム共重合体を形成してもよく、またブロック共重合体を形成してもよい。これらのα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量は、ポリプロピレン樹脂中に5モル%以下、好ましくは2モル%以下であるのが望ましい。」

「【0063】
本発明のポリプロピレン樹脂を原料としてシートまたはフィルムなどを成形する場合、本発明のポリプロピレン樹脂には、必要に応じて、他の樹脂またはゴムなどの他の重合体を本発明の目的を損なわない範囲内で添加してもよい。前記他の樹脂またはゴムとしては、たとえばポリエチレン・・・」

「【表2】



上記記載から、甲2には、食品包装用、または産業用シートもしくはフィルムなどとして使用されているポリプロピレン樹脂からなるシートに関し、成形した際にフィッシュアイが少なく、高溶融張力のポリプロピレン樹脂を提供することを課題として、分子量分布とフィッシュアイ並びに高溶融張力との間に因果関係があることに着目し、分子量分布を特定の値にすることで上記課題を解決することが記載され、その特許請求の範囲には「Mw/Mnが5.4以上」とすることが、また【表2】に実施例1?3には、Mz/Mwを計算すると順に、5.2、5.3、5.3となる例がそれぞれ記載されている。
また、甲2におけるポリプロピレン樹脂は、その【0010】の記載から、エチレンとの共重合やブロック共重合体の形成は任意とされ、また、ポリプロピレン樹脂に添加する樹脂として、その【0063】には、任意添加成分として、樹脂またはゴムとしてのポリエチレンが例示されている。

(b)動機付けについて
甲1発明は「フィッシュアイが少なく、かつ巻取フィルムの引き出し性(繰り出し性、耐ブロッキング性)に優れる表面保護フィルムを提供すること」(【0012】)を課題とする。
上記課題を解決する樹脂に関し、甲1発明の要件(2)及び(3)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を得るためには、プロピレン・エチレン共重合エラストマーを重合する第二重合である[工程2]において、エチレンとの共重合条件を制御することが必要である。
また、甲1発明は、(1’)及び(2’)の要件を満たすエチレン系エラストマー(B)を、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)と共に含むことによって、表面保護フィルムに求められるフィッシュアイ及び耐ブロッキング性を両立させる技術である。
すなわち、甲1発明は、表面保護フィルム技術において、フィッシュアイ及び耐ブロッキング性を課題とし、樹脂組成物は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)という「エチレンとの共重合体」で且つ「ブロック共重合体」であるものに加え、エチレン系エラストマー(B)の含有を前提とするものである。

さすれば、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の重合制御及びエチレン系エラストマー(B)のメルトフローレートや密度制御を前提とする甲1発明は、甲2記載の技術とは、フィッシュアイ防止という点で共通の課題を解決するものではあるものの、技術分野が相違すること、そして耐ブロッキング性という別の課題もあり、甲1発明において、エチレンとの共重合やブロック共重合体形成及びエチレン系エラストマーの含有を任意とする甲2記載のポリプロピレン重合体技術を採用しようとする動機をそもそも見いだすことができない

(c)室温n-デカンに不溶な成分及び(Mz/Mw)について
また、甲1発明のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)に甲2記載の分子量分布制御技術を適用したとしても、甲2は、樹脂全体から計測される分子量分布を対象として、パラメータには(Mz/Mn)を特定するが、本件発明のように、室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)の分子量分布を対象にすること及び(Mz/Mw)を制御対象とすることについて記載や示唆がなく、これらの点は、当業者であっても甲1発明及び甲2に記載された事項から導出できず、結果として本件発明1に至らない。

(d)効果について
本件発明1は、相違点1に係る構成を有することで、フィッシュアイに加え、耐ブロッキング性(表面粗さ)を両立させる効果を有するものであり、この効果は、甲1発明及び甲2に記載された事項から当業者が予想しうるものとは言えない。

(e)小括
よって、相違点1に係る構成は、甲2に記載された事項から想到容易であるとはいえない。

b 甲3を副引用例とした検討
(a)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

「[0001] 本発明は、レトルトフィルム用のプロピレン系樹脂組成物に関する。詳しくは、シール性、耐ゆず肌性、ぬれ性に優れ、フィッシュアイの発生や抽出成分量の少ない、レトルトフィルム用シーラント原料に適した、プロピレン系樹脂組成物に関する。 」

「[0017] まず、本発明のプロピレン樹脂組成物を説明する。本発明は、(A)マグネシウム、チタン、ハロゲン、およびスクシネート系化合物から選択される電子供与体化合物を必須成分として含有する固体触媒;
(B)有機アルミニウム化合物;および
(C)ケイ素化合物から選択される外部電子供与体化合物 を含む触媒を用いて、プロピレンとエチレンとを共重合させて得た、プロピレン単独重合体の中にプロピレン-エチレン共重合体が分散している形態のプロピレン樹脂組成物であって、以下の値:
該プロピレン樹脂組成物中のエチレン-プロピレン共重合体の量が、25?35重量%;
該共重合体中のプロピレン含量が60重量%以上;
該プロピレン樹脂組成物のキシレン可溶分の極限粘度[η]が1.8?3.2dl/g;
該プロピレン樹脂組成物のメルトフローレートが2.0?5.0g/10分
を満たす、前記プロピレン樹脂組成物に関する。」

「[0037] 本発明のプロピレン樹脂組成物のキシレン不溶成分の分子量分布[Mw/Mn]は、6.5?10、好ましくは7?9という幅広いものである。プロピレン樹脂組成物のキシレン不溶成分の分子量分布が広いということは、ポリプロピレン単独重合体部分だけでなく共重合体部分の分子量分布も広いことが予想され、ポリプロピレン単独重合体と共重合体との分散性が向上すると考えられる。・・・(中略)・・・本発明のプロピレン樹脂組成物は幅広い分子量分布を有しているため、同一のメルトフローレート[MFR]、プロピレン樹脂組成物中のプロピレン-エチレン共重合体の量[BIPO]、プロピレン樹脂組成物のキシレン可溶分の極限粘度[XSIV]で比較した場合に、シーラントフィルムに加工したときに共重合体成分に由来して発生しうるフィッシュアイが少なくなる。」

上記記載から甲3には、レトルトフィルム用のプロピレン系樹脂組成物に関し、シール性、耐ゆず肌性、ぬれ性に優れ、フィッシュアイの発生や抽出成分量の少ないことを課題とすること、そして、課題解決手段として、プロピレンとエチレンとを共重合させて得た、プロピレン単独重合体の中にプロピレン-エチレン共重合体が分散している形態のプロピレン樹脂組成物が記載され、当該プロピレン樹脂組成物のキシレン不溶成分の分子量分布[Mw/Mn]は、6.5?10であること、幅広い分子量分布を有しているため、共重合体成分に由来して発生しうるフィッシュアイが少なくなることが記載されている。

(b)動機付けについて
甲1発明は、上記a(b)で述べたように、表面保護フィルム技術において、特定のエチレン系エラストマー(B)の含有を前提として、フィッシュアイ及び耐ブロッキング性の課題解決するものである。
さすれば、甲1発明は、甲3記載の技術とは、フィッシュアイ防止という点で共通の課題を解決するものではあるものの、技術分野が相違すること、そして耐ブロッキング性という別の課題もあり、甲1発明において、エチレン系エラストマーの含有を行わない甲3のプロピレン樹脂組成物という基本的な樹脂組成が異なる技術を、甲1発明のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の組成に採用しようとする動機をそもそも見いだすことができない

(c)(Mz/Mw)について
また、甲1発明のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)に甲3記載の分子量分布制御技術を適用したとしても、甲3には、そもそもMzや、分子量分布を評価するパラメータとして(Mw/Mn)に加えて、(Mz/Mw)を制御対象とすることに関して記載や示唆がなく、この点で当業者が甲1発明及び甲3に記載された事項から本件発明1に至らない。

(d)効果について
本件発明1は、相違点1に係る構成を有することで、フィッシュアイに加え、耐ブロッキング性(表面粗さ)を両立させる効果を有するものであり、この効果は、甲1発明及び甲3に記載された事項から当業者が予想しうるものとは言えない。

(e)小括
よって、相違点1に係る構成は、甲3に記載された事項から想到容易であるとはいえない。

(イ)相違点2について
エチレン重合体の密度を測定する場合、JIS K6922に準拠して実施することは当業者にとって技術常識であり、甲1に接した当業者はJIS K6922に基づいて測定された値であると認識するといえるから、この点は実質的な相違点とはならない。
なお、甲1の[0104][表2]には、エチレン系エラストマー(B)として「三井化学社製 商品名 タフマーA-0585X 密度:885kg/m^(3)を実施例に用いたことが記載されているところ、このエチレン系エラストマーは、本件特許の実施例1?8で使用される物質と同一である(【0163】)。

エ 異議申立人の主張について
異議申立人は、上記相違点1に係る構成について、異議申立書の第20頁第16行?第18行において、「以下のように主張している。

「甲2号証には、フィッシュアイが少なく、溶融張力の大きいポリプロピレン樹脂として、Mw/Mnが5.4以上であって、Mz/Mwが5.2以上であるポリプロピレン樹脂が記載されていることから、甲第3号証の記載に基づいて室温n-デカンに不溶な成分の分子量分布の比Mw/Mnを5.0以上とするとともに、甲第2号証の記載に基づいて室温n-デカンに不溶な成分の分子量分布の比Mz/Mwを3.5以上とすることは当業者が適宜設定しうる設計的事項である。」

しかしながら、上記a及びbで説示したとおり、甲2には、計算値として導出は可能なものの、(Mz/Mw)を制御対象とすること及び室温n-デカンに不溶な成分の分子量分布を評価することについて記載や示唆がなく、甲3には、Mzを用いて(Mz/Mw)を算出して制御対象とすることについて記載や示唆がない。
そして、甲2及び甲3は共に、表面保護フィルムに供するものでなく、技術分野及び課題が異なるため、甲1発明の課題解決手段であるエチレン系エラストマー(B)の含有を前提とせず、基本的な樹脂組成が相違するものである。
よって、相違点1に係る構成は、当業者が適宜設定しうる設計的事項ではないから、異議申立人の上記主張は採用できない。

オ 結論
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないしは甲3記載の事項から想到容易であるということはできない。

(2)本件発明2?5について
請求項2及び3の記載は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして、本件発明1が甲1発明及び甲2ないしは甲3記載の発明から想到容易であるといえないのは、上記(1)で検討のとおりである。よって、本件発明2及び3は、甲1発明及び甲2ないしは甲3記載の事項から想到容易であるとはいえない。
また、請求項4に係る本件発明4は、請求項1に係る表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物の発明であり、その成分は請求項1における記載のものと同一であることから、請求項1に関して上記(1)で検討したのと同様、本件発明4は、甲1発明及び甲2ないしは甲3記載の事項から想到容易であるとはいえない。また、請求項5の記載は、請求項4を引用するものであるから同様である。

(3)まとめ
以上のとおり、異議申立人が主張する取消理由1には理由がない。

5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-27 
出願番号 特願2017-510041(P2017-510041)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安積 高靖  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
大畑 通隆
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6446123号(P6446123)
権利者 株式会社プライムポリマー
発明の名称 表面保護フィルム及び表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
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