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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:なし  G03G
管理番号 1355997
異議申立番号 異議2019-700614  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-01 
確定日 2019-10-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6463882号発明「電子写真用トナー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6463882号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6463882号の請求項1に係る特許(以下「本件特許1」という。)についての出願は、平成25年7月2日にしたものであって、平成31年1月11日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年8月1日に、特許異議申立人 松山徳子(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件特許発明
特許第6463882号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリエステル樹脂である結着樹脂と、ワックスと、着色剤と、トナー用相溶化剤との混合物を含有する電子写真用粉砕トナーであって、
前記トナー用相溶化剤は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含み、かつ1/2法による溶融温度が55℃以上である重合体であり、
CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) ・・・(1)
(式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)は炭素数18以上のアルキル基である。)
前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する、電子写真用トナー。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として以下に示す甲第1?5号証を提出し、本件特許1は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許1を取り消すべきものである旨主張する。また、特許異議申立人は、本件特許1は同法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから、本件特許1を取り消すべきものである旨主張する。

甲第1号証:特開平7-225496号公報
甲第2号証:特開平6-148936号公報
甲第3号証:射出成形特性を生かすプラスチック製品設計方法、2011年7月27日 初版第1刷発行、本間精一、日刊工業新聞社、第2?7頁
甲第4号証:特許異議申立人が、甲第1号証の段落【0108】の記載に基づき、相溶化剤(a)を作製し、相溶化剤(a)の1/2法による溶融温度をJIS K 7210:1999(ISO 1133:1997)に準拠し、フローテスターを用いて、本件特許1に係る明細書の段落【0066】に記載の条件で測定した結果の生データとして提出したもの
甲第5号証:特開2007-65435号公報

第4 甲号証等の記載事項
1 甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開平7-225496号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、甲第1号証に記載された発明の認定や判断に活用した箇所を示す(以下同様。)。また、○で囲まれた1?4の文字を、ぞれぞれ、「(丸数字1?4)」と表記する。

(1) 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は荷電制御剤、これを含有してなる、トナーバインダー組成物および電子写真用トナーに関する。さらに詳しくは負帯電用荷電制御剤、これを含有してなる、トナーバインダー組成物および電子写真用トナーに関する。
・・・(省略)・・・
【0005】
【問題点を解決するための手段】本発明者らは、実質的に無色で金属を含まず、帯電量、帯電の立ち上がり、環境安定性に優れ、かつ上記分散性、透明性の問題点のない荷電制御剤を開発すべく鋭意検討し本発明に到達した。すなわち、本発明は、下記[1]?[4]により各々構成される。
[1] トナーバインダー、着色材料および酸基を有する重合体からなる荷電制御剤を含有する電子写真用トナーにおいて、
(丸数字1)トナーバインダーの少なくとも一部が連続相を形成しており、
(丸数字2)荷電制御剤の少なくとも一部が不連続なドメインを形成しており、
(丸数字3)荷電制御剤中の不連続なドメインを形成している重合鎖部分(α)のSP値(SPa)とトナー中で連続相を形成しているトナーバインダー(β)のSP値(SPb)の差(SPa-SPb)が0?-2.5であり、
(丸数字4)(α)の酸価が50?400であり、かつその酸価を与える酸基のうち少なくとも3%が遊離酸基であることを特徴とする電子写真用トナー。
・・・(省略)・・・
【0006】本発明においてトナーバインダーとしてはスチレン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、・・・(省略)・・・などでトナーバインダーとして公知のものが挙げられる。・・・(省略)・・・ポリエステル系ポリマーとしては芳香族ジカルボン酸とビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物との重縮合物などが挙げられる。
・・・(省略)・・・
【0008】本発明[1]のトナーにおいて、(丸数字1)トナーバインダーの少なくとも一部が連続相を形成しており、(丸数字2)荷電制御剤の少なくとも一部が不連続なドメインを形成していることは、透過型電子顕微鏡などでトナーの切片を観察した場合の界面の有無で確認できる。・・・(省略)・・・上記(丸数字2)における該ドメインの分散粒径は、好ましくは0.01?0.8μmであり、さらに好ましくは0.05?0.5μmである。・・・(省略)・・・また、分散粒径を0.8μm以下にするために相溶化剤を併用することもできる。相溶化剤としては、該重合体部分(α)に対して相溶性を有し、かつ連続相を形成しているトナーバインダー(β)に対しても相溶性を有する重合体(γ)が有効である。
・・・(省略)・・・
【0012】上記物性値を与える荷電制御剤としては、炭素数6?50のアルキル基とカルボキシル基を有する重合体(A)などが挙げられる。
・・・(省略)・・・
【0054】また、(A)が形成する(α)の粒径を小さくする目的で、(A)に対して相溶性を有しかつトナーバインダーに対しても相溶性を有する重合体(γ)を相溶化剤として含有させることもできる。(γ)としては、(A)の構成単量体と実質的に同じ構造を有する単量体を50モル%以上含有する重合体鎖と、トナーバインダーの構成単量体と実質的に同じ構造を有する単量体を50モル%以上含有する重合体鎖がグラフト状またはブロック状に結合した重合体などが挙げられる。」

(2)「【0107】実施例T1?T12および比較例CT1?CT7
表1の組成の荷電制御剤とスチレン系トナーバインダー{ハイマーUNI-3000、三洋化成工業(株)製}1000部、カーボンブラック{MA-100、三菱化成(株)製}80部および低分子量ポリプロピレン{ビスコール660P、三洋化成工業(株)製}40部を下記の方法でトナー化した。まず、ヘンシェルミキサ{FM10B、三井三池化工機(株)製}を用いて予備混合した後、二軸混練機{PCM-30、(株)池貝製}で混練した。ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェット{日本ニューマチック工業(株)製}を用いて微粉砕した後、気流分級機{MDS-I、日本ニューマチック工業(株)製}で分級し、5?20μmの粒径の粉体を得て、本発明のトナー(T1)?(T12)および比較トナー(CT1)?(CT7)を得た。
・・・(省略)・・・
【0108】実施例T13
(相溶化剤の合成)ステアリルアクリレート500部をキシレン中沸点下アゾビスイソブチロニトリル20部を開始剤として重合した。前記重合体の存在下にさらにスチレン500部をジターシャリーブチルパーオキサイド5部を開始剤として180℃でグラフト重合し、相溶化剤(a)を得た。
(トナーの作成および評価)相溶化剤(a)6部をさらに加える以外は実施例T1と同様にトナー化し、本発明のトナー(T13)を得た。」

2 甲1発明
甲第1号証の段落【0107】?段落【0108】には、実施例T13として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「 ステアリルアクリレート500部を重合し、さらにスチレン500部をグラフト重合し、相溶化剤(a)を得、
荷電制御剤とスチレン系トナーバインダー1000部、カーボンブラック、低分子量ポリプロピレン及び相溶化剤(a)6部を予備混合した後、混練し、微粉砕した後、分級して得られる、
トナー(T13)。」

3 甲第2号証の記載事項
甲第2号証(特開平6-148936号公報)には、以下の記載がある。

「【0030】実施例1
スチレン/n-ブチルアクリレート共重合体 100部
(Tg=65℃、Mw=160000、Mn=5300)
ポリアクリル酸ステアリル 3部
(融点(DSC法ピーク温度)53.8℃、Mw=114000、
Mn=5600、溶融粘度(140℃)532cP)
カーボンブラック 10部
(MA-600、三菱化成工業(株)製)
スピロンブラックTRH 3部
(保土ケ谷化学工業(株)製)
上記混合物をラボプラストミルにより140℃で15分間混練した後1mm以下に粗砕し、さらにジェットミルで微粉砕した後、風力分級機で分級し、平均粒子径7.5μmの静電荷現像用トナー原粉(1)を得た。
・・・(省略)・・・
【0034】実施例2
スチレン/n-ブチルアクリレート共重合体 100部
(Tg=63℃、Mw=2000000、Mn=7500)
ポリメタクリル酸ステアリル 5部
(融点(DSC法ピーク温度)37.8℃、Mw=256000、
Mn=19900、溶融粘度(140℃)6800cP)
マピコBL-200 60部
(チタン工業(株)製)
ボントロンE-82 3部
(オリエント化学工業(株)製)
上記混合物をラボプラストミルにより135℃で15分間混練した後1mm以下に粗砕し、さらにジェットミルで微粉砕した後、風力分級機で分級し、平均粒子径10.5μmの静電荷現像用トナー原粉(2)を得た。」

4 甲第3号証の記載事項
甲第3号証(射出成形特性を生かすプラスチック製品設計方法、2011年7月27日 初版第1刷発行、本間精一、日刊工業新聞社)には、以下の記載がある。

(1) 「

」(第2頁)

(2) 「

」(第6頁)

5 甲第4号証の記載事項
甲第4号証は、特許異議申立人が、甲第1号証の段落【0108】の記載に基づき、相溶化剤(a)を作製し、相溶化剤(a)の1/2法による溶融温度をJIS K 7210:1999(ISO 1133:1997)に準拠し、フローテスターを用いて、本件特許に係る明細書の段落【0066】に記載の条件で測定した結果の生データとして提出したものであり、以下のとおり記載されている。





6 甲第5号証の記載事項
甲第5号証(特開2007-65435号公報)には、以下の記載がある。

(1) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真や静電印刷の如き画像形成方法において、静電画像を現像するためのトナー、又はトナージェット方式の画像形成方法におけるトナー像を形成するためのトナー、及び該トナーの製造方法に関し、特にトナーで形成されたトナー像を転写材の如きプリントシートに加熱加圧定着させる定着方式に供されるトナー、及び該トナーの製造方法に関する。
・・・(省略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
・・・(省略)・・・
【0016】
即ち、本発明の目的のひとつは、現像性に優れ、複写画像或いはプリンター画像を多数枚出力しても高解像度の画像を維持し得る耐久性に優れたトナー及び該トナーの製造方法を提供することにある。」

(2) 「【発明を実施するための最良の形態】
・・・(省略)・・・
【0027】
本発明のトナーにおいて、エチルベンゼン可溶分より形成した膜は、海島構造を有しており、該膜における島部の平均粒径は0.5乃至4.0μmであり、且つ、膜の破断面において島部の少なくとも40個数%以上が破断されていることを特徴としている。
・・・(省略)・・・
【0036】
本発明者等の検討によると、上記トナーのエチルベンゼン可溶分より溶媒キャスト法により形成した膜が海島構造を有し、該膜における島部の平均粒径が0.5乃至4.0μmであり、且つ、破断された島部の存在確率が40個数%以上である場合に、優れた定着性を有し、且つ、十分な保存安定性、耐久安定性が発現される。コア/シェル構造を有するトナーは良好な低温定着性、現像安定性、保存安定性を有するが、更なる低温定着化を目指した場合、現像器内でトナーが割れることにより現像安定性が低下しやすいことが見いだされた。これは、トナーの低温定着性を向上させた場合、コア部とシェル部との接着性が著しく低下するため、コア部とシェル部との界面で割れるものと考えられる。このため、割れたトナーの断面からは、ワックスの如きコア部が露出し、このコア部がトナー断面から遊離することでキャリアや現像部材を汚染し、現像安定性が低下すると考えられる。
・・・(省略)・・・
【0046】
本発明のトナーは、下記化学式(1)
【0047】
【化2】

(但し、R_(1)は-H又は-CH_(3)、nは18?32を示す)
で示される単量体を少なくとも含有する単量体系を重合することにより得られる重合体を、結着樹脂100質量部に対し3乃至30質量部含有することが好ましい。結着樹脂との親和性、及び、前記重合体におけるアルキル基の結晶性のバランスから、トナーの低温定着性を損ねることなく、結着樹脂を主成分とするシェル部と、ワックスを主成分とするコア部との接着性を向上し、耐久安定性能が向上する。上記化学式(1)において、nが18未満の場合、上記重合体とトナーに含有されるワックスとの親和性が不十分となりやすく、耐久安定性が低下する場合がある。nが32を越える場合、上記重合体とトナーに含有される結着樹脂との親和性が不十分となりやすく、耐久安定性が低下する場合がある。化学式(1)におけるnの値は、18?24であることがより好ましい。前記重合体の含有量が3質量部未満であると、十分な接着性が得られずに耐久安定性が低下する場合がある。前記重合体の含有量が30質量部を越える場合、該重合体に含有されるアルキル基の吸熱量が大きいため、低温定着性が低下する場合がある。
【0048】
上記重合体は、化学式(1)で示される単量体が5以上連続して結合した重合体を有するブロック又はグラフト共重合体を有することが好ましい。トナー中のコア部及びシェル部と、上記重合体との親和性が向上し、前記破断された島部の存在確立が大きい値となりやすく、トナーの耐久性が向上しやすい。
・・・(省略)・・・
【0065】
本発明のトナーにおいて、結着樹脂としては、下記の如き単量体からなる単重合体又は共重合体が用いられる。使用することができる重合性単量体としては、ビニル系重合性単量体が挙げられる。例えば、スチレン;α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチル、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレンの如きスチレン誘導体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、iso-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジメチルフォスフェートエチル(メタ)アクリレート、ジエチルフォスフェートエチル(メタ)アクリレート、ジブチルフォスフェートエチル(メタ)アクリレート、2-ベンゾイルオキシエチル(メタ)アクリレートの如き(メタ)アクリレート系重合性単量体(「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を意味する。);メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、蟻酸ビニルの如きビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルの如きビニルエーテル;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロピルケトンの如きビニルケトンが挙げられる。
・・・(省略)・・・
【0112】
本発明のトナーは、公知のトナー製法で製造することができる。好ましくは懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法、或は会合重合法の如き重合法を用いて製造する。特に好ましくは懸濁重合法である。
【0113】
懸濁重合法では、少なくともワックス、着色剤、重合性単量体、及び、前記重合体を含有する重合性組成物を調製し、これを分散媒体中に分散させ、そして重合し、重合の進行に伴ってコア/シェル構造を有するトナー粒子を形成する。」

(3) 「【実施例】
・・・(省略)・・・
【0130】
<重合体の合成例1>
・ステアリルアクリレート 330質量部
・チオグリコール酸 4.5質量部
・4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸) 1.5質量部
・トルエン 2000質量部
からなる混合物を、窒素雰囲気下、60℃で20時間重合した。再沈殿により精製し、回収、乾燥してプレポリマーを得た。
【0131】
・上記プレポリマー 120質量部
・メタクリル酸グリシジル 3.1質量部
・クロロベンゼン 1000質量部
からなる混合物を120℃で6時間反応させた。再沈殿により精製し、回収、乾燥して、ステアリルアクリレートのホモポリマーであり、末端にメタクリロイル基を有する重合体1を得た。
【0132】
得られた重合体1は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が8200、メタクリロイル基の含有量は1.6×10^(-4)mol/gであり、吸熱ピーク温度が50℃であり、該ピークの半値幅は6℃であった。
【0133】
<重合体の合成例2>
ステアリルアクリレートをドコシルアクリレート(CH_(2)=CHCOOC_(22)H_(45))に変更した以外は、重合体の合成例1と同様にして、ドコシルアクリレートのホモポリマーであり、末端にメタクリロイル基を有する重合体2を得た。
【0134】
得られた重合体2は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が6800、メタクリロイル基の含有量は1.5×10^(-4)mol/gであり、吸熱ピーク温度が62℃であり、該ピークの半値幅は7℃であった。
・・・(省略)・・・
【0151】
〔実施例1〕
四つ口容器中にイオン交換水800質量部と0.1モル/リットルのNa_(3)PO_(4)水溶液450質量部を添加し、高速撹拌装置TK-ホモミキサーを用いて12,000rpmで撹拌しながら、60℃に保持した。ここに1.0モル/リットル-CaCl_(2)水溶液70質量部を徐々に添加し、微細な難水溶性無機微粒子Ca_(3)(PO_(4))_(2)を含む水系分散媒体を調製した。
【0152】
・スチレン 80質量部
・n-ブチルアクリレート 20質量部
・銅フタロシアニン顔料 6質量部
・ジビニルベンゼン 0.01質量部
・飽和ポリエステル樹脂(テレフタル酸-プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA共重合体、重量平均分子量16400、酸価23mgKOH/g) 4質量部
・負荷電性制御剤(ジターシャリーブチルサリチル酸のアルミ化合物)
2質量部
・前記重合体1 10質量部
・ワックス(ペンタエリスリトールテトラベヘネート、融点79℃)
10質量部
【0153】
アトライターを用い上記混合物を6時間分散させた後、重合開始剤である2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)4質量部を添加した重合性単量体組成物を水系分散媒体中に投入し、撹拌機の回転数を10,000rpmに維持しつつ5分間造粒した。その後、高速撹拌装置をプロペラ式撹拌器に代えて、内温を70℃に昇温させ、ゆっくり撹拌しながら12時間反応させた。
【0154】
次いで、容器内を温度90℃に昇温して300分間維持し、その後毎分1℃の冷却速度で徐々に30℃まで冷却した。容器内に希塩酸を添加して分散安定剤を除去せしめた。更に洗浄、回収、及び乾燥してシアン色のトナー粒子を得た。
・・・(省略)・・・
【0167】
〔実施例2?6及び比較例1?3〕
用いる材料を表1に示すものとすること以外は、実施例1と同様にしてトナー粒子を生成した。次いで二成分系現像剤を調製し、実施例1と同様の評価試験を行った。結果を表1及び表2に示す。
・・・(省略)・・・
【0174】
【表1】

【0175】
【表2】



7 甲5発明
甲第5号証の段落【0130】?段落【0134】、段落【0151】?段落【0154】、段落【0167】、段落【0174】【表1】及び段落【0175】【表2】には、実施例2として、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。

「 ドコシルアクリレート(CH_(2)=CHCOOC_(22)H_(45))、チオグリコール酸、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、トルエンからなる混合物を、重合してプレポリマーを得、
上記プレポリマー、メタクリル酸グリシジル、クロロベンゼンからなる混合物を反応させ、ドコシルアクリレートのホモポリマーであり、末端にメタクリロイル基を有する、吸熱ピーク温度が62℃の重合体2を得、
スチレン80質量部、n-ブチルアクリレート20質量部、銅フタロシアニン顔料、ジビニルベンゼン、飽和ポリエステル樹脂、負荷電性制御剤、前記重合体2を10質量部、ワックスの混合物を分散させた後、重合開始剤を添加した重合性単量体組成物を水系分散媒体中に投入し、造粒し、反応させ、冷却し、洗浄、回収、及び乾燥して得られる、
シアン色のトナー粒子。」

第5 特許法第29条第2項についての当審の判断
1 甲1発明との対比及び判断
(1) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。

ア 電子写真用粉砕トナー
甲1発明は、「トナーバインダー」、「カーボンブラック」、「低分子量ポリプロピレン」及び「相溶化剤(a)」を「予備混合した後、混練し、微粉砕した後、分級して得られる」、「トナー(T13)」である。
甲1発明の「トナーバインダー」、「カーボンブラック」及び「低分子量ポリプロピレン」は、技術常識からみて、それぞれ、本件特許発明1の「結着樹脂」、「着色剤」及び「ワックス」に該当する。また、甲1発明の「相溶化剤(a)」は、その名称が意味するところの機能からみて、本件特許発明1の「トナー用相溶化剤」に該当する。加えて、甲1発明の「トナー(T13)」は、その製法及び用途からみて、本件特許発明1でいう「電子写真用粉砕トナー」に該当する。
そうしてみると、甲1発明の「トナー(T13)」は、本件特許発明1の「結着樹脂と、ワックスと、着色剤と、トナー用相溶化剤との混合物を含有する電子写真用粉砕トナー」という要件を満たす。

イ トナー用相溶化剤の材料組成
甲1発明の「相溶化剤(a)」は、「ステアリルアクリレート500部を重合し、さらにスチレン500部をグラフト重合し」て得られるものである。
甲1発明の「ステアリルアクリレート」は、CH_(2)=CH-COOC_(18)H_(37)で表される構造式を有するから、本件特許発明1の「一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体」のうち、R^(1)が水素原子およびR^(2)がC_(18)H_(37)の場合に該当する。また、甲1発明の「相溶化剤(a)」は、「ステアリルアクリレート」と「スチレン」の重合量からみて、本件特許発明1の「一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含み」という要件を満たす。
そうしてみると、甲1発明の「相溶化剤(a)」は、本件特許発明1でいう「前記トナー用相溶化剤は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含」む「重合体であり、
CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) ・・・(1)
(式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)は炭素数18以上のアルキル基である。)」という要件を満たす。

ウ トナー用相溶化剤の含有量
甲1発明の「トナー(T13)」は、「スチレン系トナーバインダー1000部」に対し、「相溶化剤(a)6部」を含有する。
したがって、甲1発明の「トナー(T13)」は、「スチレン系トナーバインダー」100部に対して、「相溶化剤(a)」を0.6部含有することになる。
そうしてみると、甲1発明の「トナー(T13)」は、本件特許発明1の「前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する」という要件を満たす。

(2) 一致点
本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で一致する。

「 結着樹脂と、ワックスと、着色剤と、トナー用相溶化剤との混合物を含有する電子写真用粉砕トナーであって、
前記トナー用相溶化剤は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含む重合体であり、
CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) ・・・(1)
(式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)は炭素数18以上のアルキル基である。)
前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する、電子写真用トナー。」

(3) 相違点
本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
結着樹脂が、本件特許発明1は、「ポリエステル樹脂」であるのに対し、甲1発明は、「スチレン系」である点。

(相違点2)
トナー用相溶化剤の1/2法による溶融温度が、本件特許発明1は「55℃以上」であるのに対し、甲1発明は、これが明らかでない点。

(4) 判断
ア 相違点1
(ア) 甲第1号証の段落【0005】の記載からみて、甲1発明の課題は、「分散性」「の問題点のない荷電制御剤を開発」することと認められる。

(イ) 甲第1号証の段落【0012】には、「荷電制御剤としては、炭素数6?50のアルキル基とカルボキシル基を有する重合体(A)などが挙げられる。」と記載され、さらに、段落【0054】には、「(A)が形成する(α)の粒径を小さくする目的で、(A)に対して相溶性を有しかつトナーバインダーに対しても相溶性を有する重合体(γ)を相溶化剤として含有させることもできる。」と記載されている。ここで、段落【0005】の記載によると、「α」は、荷電制御剤中の不連続なドメインを形成している重合鎖部分である。
加えて、段落【0054】には、「(γ)としては、(A)の構成単量体と実質的に同じ構造を有する単量体を50モル%以上含有する重合体鎖と、トナーバインダーの構成単量体と実質的に同じ構造を有する単量体を50モル%以上含有する重合体鎖がグラフト状またはブロック状に結合した重合体などが挙げられる。」と記載されている。そうしてみると、甲1発明の「相溶化剤(a)」は、トナー中の「荷電制御剤中の不連続なドメインを形成している重合鎖部分」の「粒径」を小さくするための材料と認められる。

(ウ) したがって、甲1発明の「トナー(T13)」は、「トナーバインダーの構成単量体と実質的に同じ構造を有する」「重合体鎖」が結合した「重合体」を「相溶化剤(a)」として使用することにより、荷電制御剤の「分散性」に関する課題を解決しているものと認められる。

(エ) そうしてみると、甲1発明において「トナーバインダー」として、「スチレン系」のものに替えて「ポリエステル樹脂」を使用し、そのまま「相溶化剤(a)」と使用すると、「荷電制御剤中の不連続なドメインを形成している重合鎖部分」の「粒径」を小さくするという効果が得られなくなり、荷電制御剤の「分散性」に関する課題を解決できなくなる。
よって、甲1発明において、「スチレン系トナーバインダー」を「ポリエステル樹脂」に替えることには、阻害要因がある。
(当合議体注:仮に当業者が、「トナーバインダー」として、「ポリエステル樹脂」のものに替えようとした場合については、下記「イ 相違点2」を参照。)

(オ) 本件特許発明1は、結着樹脂として「ポリエステル樹脂」を使用することにより、「結着樹脂がポリエステル樹脂であり、かつトナーが後述する荷電制御剤をさらに含有する場合には、荷電制御剤の効果、すなわち長時間経過後の帯電性の低下を防止する効果がとりわけ発揮される。」(段落【0033】)ものである。
一方、甲第1?5号証には、「結着樹脂がポリエステル樹脂であり、かつトナーが後述する荷電制御剤をさらに含有する場合に」、「長時間経過後の帯電性の低下を防止する効果がとりわけ発揮される」ことが記載されておらず、その点について、当業者であっても容易に予測し得たということもできない。
したがって、本件特許発明1の効果は、甲第1?5号証の記載事項からみて、予想外のものということができる。

イ 相違点2
(ア) 甲第1号証には、「相溶化剤(a)」の溶融温度について、記載も示唆もない。また、甲第2?5号証の記載を参照しても、トナー用相溶化剤の1/2法による溶融温度の下限を「55℃」とする動機づけはない。

(イ) 前記「ア 相違点1」で述べたとおり、甲1発明において、「スチレン系トナーバインダー」を「ポリエステル樹脂」に替えることには、阻害要因があるが、仮に、甲1発明において、トナーバインダーとして「ポリエステル樹脂」を使用した場合について検討すると、甲第1号証の段落【0054】の記載からみて(前記第4の「1(1)」を参照。)、当業者は、「ポリエステル」構造を有する「重合体鎖」が「グラフト状またはブロック状に結合した」重合体を「相溶化剤(a)」として使用することとなる。
甲第2号証には、ポリアクリル酸ステアリルの融点(DSC法ピーク温度)が53.8℃、ポリメタクリル酸ステアリルの融点(DSC法ピーク温度)が37.8℃であることが記載されている。また、甲第3号証には、ポリスチレンのガラス転移温度が90℃程度であることが記載されている。加えて、甲第4号証の記載によると、「相溶化剤(a)」の1/2法による溶融温度は85.8℃である。
しかしながら、「ステアリルアクリレート」を重合したものに、「ポリエステル」構造を有する「重合体鎖」が「グラフト状またはブロック状に結合した」重合体の溶融温度については、甲第1?5号証に記載されていない。
また、甲第3号証には、ポリスチレンのガラス転移温度が90℃程度であることが記載されているものの、ポリエステルの熱特性については記載がない。したがって、「ステアリルアクリレート」を重合したものに、「ポリエステル」構造を有する「重合体鎖」が「グラフト状またはブロック状に結合した」重合体の溶融温度が、55℃以上となる蓋然性が高いとはいえない。
そして、甲第1?5号証に、「ステアリルアクリレート」を重合したものに、「ポリエステル」構造を有する「重合体鎖」が「グラフト状またはブロック状に結合した」重合体の溶融温度について何らかの技術思想の開示がない以上、甲1発明に甲第2?5号証の技術事項を適用したとしても、本件特許発明1の相違点2に係る構成には到らない。

(ウ) 本件特許発明1は、「低温定着性、耐ホットオフセット性、および保存安定性に優れたトナーを、結着樹脂やワックスの種類が制限されることなく様々な組み合わせで得ることができるトナー用相溶化剤、および電子写真用トナーの提供」(段落【0010】)という課題を解決するために、トナー用相溶化剤が、「1/2法による溶融温度が55℃以上である重合体である」(段落【0011】)という構成を採用したものであり、これにより、「本発明の相溶化剤の存在により、結着樹脂とワックスとが分離することなく十分に混合され、低温定着性および耐ホットオフセット性に優れたトナーが得られる。」(段落【0026】)という効果が得られるものである。
そして、上記事項は、段落【0067】【表1】、段落【0068】【表2】、段落【0100】【表3】及び段落【0101】【表4】の記載によっても裏付けられている。
一方、甲第1?5号証には、トナー用相溶化剤が、「1/2法による溶融温度が55℃以上である重合体である」ことが記載されていない。そして、甲第1?5号証の記載事項からは、本件特許発明1の要件を満たすことにより、「結着樹脂とワックスとが分離することなく十分に混合され、低温定着性および耐ホットオフセット性に優れたトナーが得られる」という点について、当業者であれば容易に予測し得たということもできない。
したがって、本件特許発明1の効果は、甲第1?5号証の記載事項からみて、予想外のものということができる。

ウ 小括
以上のとおりであるから、甲1発明において、甲第2?5号証に記載された技術事項を参照して、上記相違点に係る構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

2 甲5発明との対比及び判断
(1) 対比
本件特許発明1と甲5発明を対比する。

ア 電子写真用トナー
甲5発明は、「ドコシルアクリレート(CH_(2)=CHCOOC_(22)H_(45))、チオグリコール酸、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、トルエンからなる混合物を、重合してプレポリマーを得、上記プレポリマー、メタクリル酸グリシジル、クロロベンゼンからなる混合物を反応させ、ドコシルアクリレートのホモポリマーであり、末端にメタクリロイル基を有する、吸熱ピーク温度が62℃の重合体2を得、スチレン、n-ブチルアクリレート、銅フタロシアニン顔料、ジビニルベンゼン、飽和ポリエステル樹脂、負荷電性制御剤、前記重合体2、ワックスの混合物を分散させた後、重合開始剤を添加した重合性単量体組成物を水系分散媒体中に投入し、造粒し、反応させ、冷却し、洗浄、回収、及び乾燥して得られる、シアン色のトナー粒子」である。
甲5発明の「ワックス」及び「銅フタロシアニン顔料」は、技術常識からみて、それぞれ、本件特許発明1の「ワックス」及び「着色剤」に該当する。また、甲第5号証の段落【0065】の記載及び甲5発明の「トナー粒子」の製法からみて、甲5発明の「トナー粒子」は、「スチレン、n-ブチルアクリレート」の共重合体からなる「結着樹脂」を含有する。加えて、本件特許の明細書の段落【0015】?段落【0016】及び段落【0020】の記載並びに甲5発明の「重合体2」の製法からみて、甲5発明の「重合体2」は、本件特許発明1の「トナー用相溶化剤」に該当する。
したがって、甲5発明の「トナー粒子」は、本件特許発明1の「結着樹脂と、ワックスと、着色剤と、トナー用相溶化剤との混合物を含有する」「電子写真用」「トナー」という要件を満たす。

イ トナー用相溶化剤の材料組成
甲5発明の「重合体2」は、「ドコシルアクリレート(CH_(2)=CHCOOC_(22)H_(45))」の「ホモポリマー」である。
甲5発明の「ドコシルアクリレート」は、CH_(2)=CH-COOC_(22)H_(45)で表される構造式を有するから、本件特許発明1の「一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体」のうち、R^(1)が水素原子およびR^(2)がC_(22)H_(45)の場合に該当する。また、甲5発明の「重合体2」は、「ドコシルアクリレート」の「ホモポリマー」であるから、本件特許発明1の「一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含み」という要件を満たす。
そうしてみると、甲5発明の「重合体2」は、本件特許発明1でいう「前記トナー用相溶化剤は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含」む「重合体であり、
CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) ・・・(1)
(式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)は炭素数18以上のアルキル基である。)」という要件を満たす。

ウ トナー用相溶化剤の含有量
甲5発明の「重合体2」は、「スチレン80質量部」、「n-ブチルアクリレート20質量部」及び「重合体2を10質量部」を含有する混合物を反応させることにより「トナー粒子」を製造するものである。
甲第5号証の段落【0065】に記載のとおり、「スチレン」及び「n-ブチルアクリレート」は、結着樹脂を構成する重合性単量体である。したがって、甲5発明の「トナー粒子」は、「結着樹脂」100部に対して、「重合体2」を10部含有することになる。
そうしてみると、甲5発明の「トナー粒子」は、本件特許発明1の「前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する」という要件を満たす。

(2) 一致点
本件特許発明1と甲5発明は、以下の点で一致する。

「 結着樹脂と、ワックスと、着色剤と、トナー用相溶化剤との混合物を含有する電子写真用トナーであって、
前記トナー用相溶化剤は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含む重合体であり、
CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) ・・・(1)
(式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)は炭素数18以上のアルキル基である。)
前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する、電子写真用トナー。」

(3) 相違点
本件特許発明1と甲5発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
結着樹脂が、本件特許発明1は、「ポリエステル樹脂」であるの対し、甲5発明は、「スチレン」及び「n-ブチルアクリレート」の共重合体である点。

(相違点2)
トナーが、本件特許発明1は、「粉砕トナー」であるのに対し、甲5発明は、「重合性単量体組成物を水系分散媒体中に投入し、造粒し、反応させ、冷却し、洗浄、回収、及び乾燥して得られる」「トナー」である点。

(相違点3)
トナー用相溶化剤の1/2法による溶融温度が、本件特許発明1は「55℃以上」であるのに対し、甲5発明は、これが明らかでない点。

(4) 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
ア 甲第5号証には、段落【0112】に、「本発明のトナーは、公知のトナー製法で製造することができる。好ましくは懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法、或は会合重合法の如き重合法を用いて製造する。特に好ましくは懸濁重合法である。」と記載されている。しかしながら、甲5発明の「トナー粒子」が、周知の技術事項である「粉砕」法で製造できることについては記載も示唆もなく、当業者であっても、甲5発明の「トナー粒子」を、「粉砕」法で製造しようとはしない。
また、甲5発明に周知技術を組み合わせても、「粉砕トナー」には到らない。

イ 甲5発明は、トナー粒子に、「結着樹脂を主成分とするシェル部と、ワックスを主成分とするコア部」(段落【0047】を参照。)を具備させることにより、「耐久性に優れたトナー及び該トナーの製造方法を提供する」という課題を解決しようとするものであり、当該トナーを作製するために、、「少なくともワックス、着色剤、重合性単量体、及び、前記重合体を含有する重合性組成物を調製し、これを分散媒体中に分散させ、そして重合し、重合の進行に伴ってコア/シェル構造を有するトナー粒子を形成する」方法を採用するものである(段落【0113】を参照。)。
ここで、「粉砕トナー」は、例えば、甲第1号証の段落【0055】に記載のとおり、「トナーを構成する成分を乾式ブレンドした後、溶融混練し、その後粗粉砕し、最終的にジェット粉砕機などを用いて微粒化」して作製するものである。そうしてみると、「粉砕トナー」は、「トナーを構成する成分」を「溶融混練」する工程を含み、さらに、「粗粉砕」や「ジェット粉砕機などを用いて微粒化」を行う工程を含む以上、甲5発明のトナーを「粉砕トナー」としたときに、甲第5号証に記載されている、「結着樹脂を主成分とするシェル部と、ワックスを主成分とするコア部」を具備する構成とすることができるとは考え難い。
したがって、甲5発明の「トナー粒子」を「粉砕トナー」とすることには、阻害要因がある。

ウ 小括
以上のとおりであるから、その余の相違点を検討するまでもなく、甲5発明において、甲第1?4号証に記載された技術事項を参照して、上記相違点に係る構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲5発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

第6 特許法第36条第6項第1号についての当審の判断
本件特許1の明細書の段落【0010】の記載によると、本件特許発明1の課題は、「低温定着性、耐ホットオフセット性、および保存安定性に優れたトナーを、結着樹脂やワックスの種類が制限されることなく様々な組み合わせで得ることができるトナー用相溶化剤、および電子写真用トナーの提供」と認められる。
そして、発明の詳細な説明には、上記課題を解決するための具体物として、本件特許発明1に係る電子写真用トナーが記載され、段落【0032】に、「相溶化剤の含有量が0.3質量部以上であれば、相溶化剤の効果が十分に得られ、結着樹脂とワックスとが分離することなく十分に混合される。よって、保存安定性が低下することなく、トナーの低温定着性および耐ホットオフセット性が向上する。」と記載されている。
したがって、相溶化剤の含有量について、請求項1に記載の条件を満足すれば課題を解決できるといえる根拠は、本件特許の明細書の記載に見いだすことができる。
この点につき、特許異議申立人は、令和元年8月1日に提出された意見書において、「本件特許の実施例では、結着樹脂100質量部に対するトナー用相溶化剤の割合が6質量%を超える場合において、発明の効果を得ることができるか示されていない。」(意見書第19頁第5?7行)と主張している。
しかしながら、本件特許1の明細書の段落【0032】に、「相溶化剤の含有量が0.3質量部以上であれば、相溶化剤の効果が十分に得られ、結着樹脂とワックスとが分離することなく十分に混合される。」と記載されていることから、相溶化剤の割合が6質量%を超える場合であっても、「結着樹脂とワックス」は、「分離することなく十分に混合」するものと認められる。
したがって、特許異議申立人の意見は採用しない。
以上より、特許請求の範囲の記載に不備があるとはいえず、本件特許1は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものとはいえない。

第7 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-16 
出願番号 特願2013-138939(P2013-138939)
審決分類 P 1 651・ - Y (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 本田 博幸  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 高松 大
宮澤 浩
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6463882号(P6463882)
権利者 藤倉化成株式会社
発明の名称 電子写真用トナー  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 小室 敏雄  

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