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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02M
管理番号 1355998
異議申立番号 異議2019-700562  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-18 
確定日 2019-10-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6467075号発明「パルス電源装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6467075号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6467075号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年1月22日に出願され、平成31年1月18日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和1年7月18日に特許異議申立人 有限会社エイチ・エス・エレクトリック及び林 剛により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6467075号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
直流電源部と、
該直流電源に接続され、所定電圧のパルスを発生するスイッチ回路部と、
該スイッチ回路部に接続され、前記パルスのパルス幅を設定するパルス設定部と、
を備えたパルス電源装置であって、
前記パルス設定部は、前記パルスの立ち上がりから第1パルス幅T1で前記パルスを生成し、続いて第2オフ幅T2で前記パルスをオフし、続いて第3パルス幅T3で前記パルスを生成するパルス群を設定し、
かつT2<T1≦T3に設定すると共に、T3に続いて、連続パルスを生成するよう設定するパルス電源装置。
【請求項2】
前記パルス設定部は、T3に続いて、さらに前記連続パルスとして、第5オフ幅T5で前記パルスをオフした後に第6パルス幅T6で前記パルスを生成する1組の波形を2組以上繰り返す連続パルスを生成するよう設定し、
かつT5とT6がいずれもT3の1/10以下、
前記連続パルスの合計幅をT4とし、前記パルス群のパルス周期をTcとしたとき、T1+T2+T3+T4<Tcに設定する請求項1に記載のパルス電源装置。
【請求項3】
前記パルス設定部は、前記連続パルスにおけるT5+T6で表される周期を一定とし、
T6の比率を変えて前記連続パルスにおける電流を制御する請求項2に記載のパルス電源装置。
【請求項4】
T1=5?20μs、T2=1?30μs、T3=5?100μsである請求項1記載のパルス電源装置。
【請求項5】
T1=5?20μs、T2=1?30μs、T3=5?100μs、T4=10?100μs、T5=0.1?5μs、T6=0.1?5μsである請求項2又は3記載のパルス電源装置。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として下記の甲第1号証及び従たる証拠として下記の甲第2号証ないし甲第3号証を提出し、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

記(証拠一覧)

甲第1号証:特開2005-272948号公報
甲第2号証:米国特許出願公開第2011/0133651号明細書
甲第3号証:Surface & Coatings Technology, vol.203 (2009), p.3676-3685

第4 甲第1号証の記載
特許異議申立書において提示された甲第1号証には、「プラズマCVD装置」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

1 「【0029】
さらに、各被処理物40,40,…には、真空槽12の外部に設けられた電力供給手段としてのパルス電源装置58から、回転軸48,回転テーブル46,ギア機構44,44,…およびホルダ42,42,…を介して、被処理物電力としてのバイアス電圧Ebが印加される。このバイアス電圧Ebは、図3に示すような非対称パルス電圧であり、その周波数は、50[kHz]?250[kHz]の範囲内で任意に調整可能とされている。また、当該バイアス電圧Ebのデューティ比、具体的には1周期Taに対するパルス幅(ハイレベルの期間)Tbの比率R(=Tb/Ta)についても、例えば1[%]?40[%]の範囲内で任意に調整可能とされている。そして、ハイレベルの電圧値Vaもまた、設置電位を基準として例えば0[V]?+50[V]の範囲内で任意に調整可能とされている。さらに、ローレベルの電圧値Vbも、設置電位を基準として例えば0[V]?-2000[V]の範囲内で任意に調整可能とされている。なお、この実施形態では、バイアス電圧Ebの大きさを、図3に点線で示すように直流の電圧値、つまり平均値Vdcで表す。この平均値Vdcは、言うまでもなくデューティ比R,ハイレベルの電圧値Vaおよびローレベルの電圧値Vbによって変わるが、この実施形態では、ハイレベルの電圧値Vaを例えば+50[V]一定とし、デューティ比Rおよびローレベルの電圧値Vbによって当該平均値Vdcを調整することとする。」

2 「【0031】
さて、このように構成されたプラズマCVD装置10によれば、DLC膜等の高硬度被膜を生成するのに、極めて有効である。
【0032】
即ち、今、図1に示すように真空槽12内に複数の被処理物40,40,…が設置されているとする。なお、当該被処理物40,40,…は、例えば幅寸法が90[mm]、高さ寸法が200[mm]、厚みが1[mm]のステンレス(SUS304)製の板状体であり、それぞれの表面(一方主面)を同軸マグネトロンカソード34の側面に真っ直ぐに向けた状態で配置されているとする。そして、モータ50は停止状態にあり、つまり各被処理物40,40,…は公転も自転もしていないとする。また、全てのマスフローコントローラ26,28,30および32は閉じられた状態にあり、高周波電源装置38,パルス電源装置58および直流電源装置66はいずれもOFF(電源OFF)の状態にあるとする。
【0033】
この状態で、まず、真空ポンプによって真空槽12内を1×10-3[Pa]程度にまで排気させる。そして、この排気後に、マスフローコントローラ26の制御によって、20[SCCM]という流量で、ガス管18からガス導入口16を介して真空槽12内にアルゴンガスを導入させる。このとき、真空槽12内の圧力が0.2[Pa]?0.8[Pa]の範囲内に維持されるように、当該真空槽12内を真空ポンプによって継続して排気させる。そして、高周波電源装置38をON(電源ON)させて、当該高周波電源装置38から同軸マグネトロンカソード34に例えば周波数が13.56MHzの高周波電力Ecを1000[W]の大きさで供給させる。
【0034】
この高周波電力Ecの供給によって、同軸マグネトロンカソード34(筺体340の上側円筒部342)の表面に電界が生じ、これによってアルゴンガスの分子が電離されて、プラズマが発生する。ここで、同軸マグネトロンカソード34の表面には、これに内蔵された6個の永久磁石36,36,…によって、同図に点線68,68,…で示すように6個の概略円環状の磁界が発生している。換言すれば、同軸マグネトロンカソード34の表面には、当該表面に沿う方向に磁界68,68,…が発生しており、より換言すれば上述の電界に対して直交する磁界68,68,…が発生している。従って、電離によって生じたγ電子(二次電子)は、これらの磁界68,68,…によって同軸マグネトロンカソード34の表面の近傍に閉じ込められる。さらに、γ電子は、磁界68,68,…を軸として螺旋運動を行うので、当該γ電子とアルゴンガス分子との衝突確率が増大し、これによってプラズマの高密度化が図られる。なお、磁界68,68,…の強さ(磁束密度)は、同軸マグネトロンカソード34の表面付近において、約0.05[T](=500[G])である。また、このとき、同軸マグネトロンカソード34は数百[℃]にまで熱せられるが、上述の冷却水によって冷却される。
【0035】
図4(a)および同図(b)(参考図(a)および(b))に、このプラズマが発生している状態を実際に撮影した写真(画像)を示す。これら図4(a)および同図(b)のそれぞれにおいて、略中央に見える円柱状のものが、同軸マグネトロンカソード34である。そして、この同軸マグネトロンカソード34の周囲を取り巻く6個の円環状の白い部分が、高密度化されたプラズマである。このように高密度なプラズマが発生している状況下では、成膜過程において真空槽12内に導入される材料ガスの分子を効率よく電離させることができるので、DLC膜等の高硬度被膜の生成が可能となる。
【0036】
また、図4(a)および同図(b)から明らかなように、プラズマは、言わば同軸マグネトロンカソード34の延伸方向に沿って発生する。従って、同軸マグネトロンカソード34の延伸方向において、それぞれの被処理物40の表面に対して均一な成膜処理を施すことができる。さらに、同軸マグネトロンカソード34は、上述した従来技術におけるタングステンフィラメントのような熱陰極ではなく、一種の冷陰極である。しかも、その(上側円筒部342の)肉厚は、当該タングステンフィラメントの直径よりも大きい。従って、かかる同軸マグネトロンカソード34は、従来技術における熱陰極に比べて、極めて耐食性が高く、よって寿命も遥かに長い。
【0037】
次に、上述の如くプラズマが発生している状態において、パルス電源装置58をONさせて、当該パルス電源装置58から各被処理物40,40,…に対して、例えば周波数が100[kHz]で、デューティ比Rが30[%]、平均電圧値Vdcが-100[V]のバイアス電圧Ebを印加させる。これによって、プラズマ中のアルゴンイオンは、各被処理物40,40,…の表面に向かって加速され、当該各被処理物40,40,…の表面に入射される。ここで、高周波電源装置38を操作して、同軸マグネトロンカソード34に供給される13.56MHzの高周波電力Ecの大きさを、50[W]?1000[W]の範囲内で段階的に変化させる。そして、このときパルス電源装置58から各被処理物40,40,…に流れる電流Ibを測定した。その結果を、図5に実線の曲線100で示す。」

3 「【図1】



4 「【図3】



・上記1及び3によれば、パルス電源装置58は、被処理物40にバイアス電圧Ebを印加するものである。
・上記1によれば、バイアス電圧Ebは、非対称パルス電圧であり、1周期Taに対するハイレベルの期間のパルス幅Tbの比率であるバイアス電圧Ebのデューティ比R=Tb/Taが、1[%]?40[%]の範囲内で任意に調整可能とされている。
・上記1によれば、バイアス電圧Ebのハイレベルの電圧値Vaは0[V]?+50[V]の範囲内で任意に調整可能とされており、ローレベルの電圧値Vbは0[V]?-2000[V]の範囲内で任意に調整可能とされており、ハイレベルの電圧値Vaを+50[V]一定とし、デューティ比Rおよびローレベルの電圧値Vbによってバイアス電圧Ebの平均値Vdcを調整するものである。
・上記2によれば、パルス電源装置58は、被処理物40に、周波数が100[kHz]で、デューティ比Rが30[%]、平均電圧値Vdcが-100[V]のバイアス電圧Ebを印加させるものである。
・上記4によれば、非対称パルス電圧であるバイアス電圧Ebは、パルス幅Tbでハイレベルの電圧値Vaを有するパルスと、それに続いてローレベルの電圧値Vbを有するパルスとからなる一連のパルスを、周期Taで繰り返すものであることが読み取れる。また上記4によれば、ローレベルの電圧値Vbを有するパルスのパルス幅はTa-Tbであることが読み取れる。したがって、バイアス電圧Ebは、パルス幅Tbでハイレベルの電圧値Vaを有するパルスと、それに続いてパルス幅Ta-Tbでローレベルの電圧値Vbを有するパルスとからなる一連のパルスを、周期Taで繰り返すものである。

これらの記載と図面とを総合的に勘案すると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が開示されている。

「被処理物40に非対称パルス電圧であるバイアス電圧Ebを印加するパルス電源装置58であって、前記バイアス電圧Ebは、パルス幅Tbでハイレベルの電圧値Vaを有するパルスと、それに続いてパルス幅Ta-Tbでローレベルの電圧値Vbを有するパルスとからなる一連のパルスを、周期Taで繰り返すものであり、前記バイアス電圧Ebのデューティ比R=Tb/Taが、1[%]?40[%]の範囲内で任意に調整可能とされ、前記バイアス電圧Ebのハイレベルの電圧値Vaは0[V]?+50[V]の範囲内で任意に調整可能とされ、ローレベルの電圧値Vbは0[V]?-2000[V]の範囲内で任意に調整可能とされ、前記パルス電源装置58は、ハイレベルの電圧値Vaを+50[V]一定とし、デューティ比Rおよびローレベルの電圧値Vbによってバイアス電圧Ebの平均値Vdcを調整し、周波数が100[kHz]で、デューティ比Rが30[%]、平均電圧値Vdcが-100[V]のバイアス電圧Ebを印加させるパルス電源装置58。」

第5 当審の判断
1 対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。

ア 甲1発明の「被処理物40に非対称パルス電圧であるバイアス電圧Ebを印加するパルス電源装置58」と、本件発明1の「直流電源部と、該直流電源に接続され、所定電圧のパルスを発生するスイッチ回路部と、該スイッチ回路部に接続され、前記パルスのパルス幅を設定するパルス設定部と、を備えたパルス電源装置」とは、「パルス電源装置」である点で共通する。ただし、本件発明1は、「直流電源部と、該直流電源に接続され、所定電圧のパルスを発生するスイッチ回路部と、該スイッチ回路部に接続され、前記パルスのパルス幅を設定するパルス設定部と」を備えるのに対し、甲1発明は、その旨の特定がなされていない。

イ 本件発明1は、「パルス設定部」が「パルスの立ち上がりから第1パルス幅T1で前記パルスを生成し、続いて第2オフ幅T2で前記パルスをオフし、続いて第3パルス幅T3で前記パルスを生成するパルス群を設定し、かつT2<T1≦T3に設定すると共に、T3に続いて、連続パルスを生成するよう設定する」のに対し、甲1発明は上記アのとおり「パルス設定部」を備える旨の特定がなされておらず、したがって、「パルス設定部」が「パルスの立ち上がりから第1パルス幅T1で前記パルスを生成し、続いて第2オフ幅T2で前記パルスをオフし、続いて第3パルス幅T3で前記パルスを生成するパルス群を設定し、かつT2<T1≦T3に設定すると共に、T3に続いて、連続パルスを生成するよう設定する」ことも特定されていない。

よって、本件発明1と甲1発明とは、
「パルス電源装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「直流電源部と、該直流電源に接続され、所定電圧のパルスを発生するスイッチ回路部と、該スイッチ回路部に接続され、前記パルスのパルス幅を設定するパルス設定部と」を備えるのに対し、甲1発明は、その旨の特定がなされていない点。

<相違点2>
本件発明1は、「前記パルス設定部は、前記パルスの立ち上がりから第1パルス幅T1で前記パルスを生成し、続いて第2オフ幅T2で前記パルスをオフし、続いて第3パルス幅T3で前記パルスを生成するパルス群を設定し、かつT2<T1≦T3に設定すると共に、T3に続いて、連続パルスを生成するよう設定する」のに対し、甲1発明は、その旨の特定がなされていない点。

事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。
甲第1号証に記載された「プラズマCVD装置10」は、「高周波電源装置38」から同軸マグネトロンカソード34に高周波電力Ecを供給させ、この高周波電力Ecの供給によってプラズマを発生させ、プラズマが発生している状態において、「パルス電源装置58」から平均電圧値Vdcが-100[V]のバイアス電圧Ebを印加させるものである(上記「第4」の「2」を参照。)。すなわち、甲1発明の「パルス電源装置58」は、プラズマを発生させるための電源ではなく、負の平均電圧値Vdcを有するバイアス電圧Ebを供給するための電源である。
そうすると、負の平均電圧値Vdcを有するバイアス電圧Ebを供給するための電源である甲1発明は、デューティ比R=Tb/Taおよびローレベルの電圧値Vbによって、バイアス電圧Ebの平均電圧値Vdcを調整できればよいのであるから、甲1発明の「非対称パルス電圧であるバイアス電圧Eb」を生成するに際し、「パルスの立ち上がりから第1パルス幅T1で前記パルスを生成し、続いて第2オフ幅T2で前記パルスをオフし、続いて第3パルス幅T3で前記パルスを生成するパルス群を設定し、かつT2<T1≦T3に設定すると共に、T3に続いて、連続パルスを生成するよう設定する」必要性は何ら認められない。

また、特許異議申立書において提示された甲第2号証には、プラズマスパッタ装置100において、パルス電源102がカソードアセンブリ116に多段階電圧パルスを印加することによりプラズマを生成し(段落[0021]、[0028]-[0035]、[0049]、図1を参照。)、多段階電圧パルスを印加するためのパルス電源が、ドライバ557、高電力ソリッドステートスイッチ558、パルストランス562、出力駆動回路568を備え、高電力ソリッドステートスイッチ558のドライバ557によって生成される信号のデューティサイクルを所定の時間変化させることによって、多段階電圧パルスを生成するパルス電源552であり(段落[0136]-[0142]、[0145]、[0147]、[0149]、[0151]、図10A、10Bを参照。)、第一段階の間、プロセッサ578は、高電力ソリッドステートスイッチ558のドライバ557に、15μsのパルス幅および50μsの周期でパルスを生成するように指示し(段落[0143]を参照。)、第二段階の間、プロセッサ578は、高電力ソリッドステートスイッチ558のドライバ557に、16μsの持続時間と40μsの周期を有するパルスを生成するように指示する(段落[0144]を参照。)という技術事項が記載されている。
さらに、特許異議申立書において提示された甲第3号証には、変調パルス電力(MPP)プラズマ発生装置が、マイクロパルスにおける電圧オン時間τ_(on)及び電圧オフ時間τ_(off)を制御可能なスイッチング電源であり(p.3677左欄第20行-第35行を参照。)、マイクロパルスのパルス幅、周波数、τ_(on)及びτ_(off)を操作することにより、パルスプラズマを生成するものであり、MPPにおける全パルス幅が、500μsの弱いイオン化期間と250μsの強いイオン化期間からなり、弱いイオン化期間中のマイクロパルスのτ_(off)とτ_(on)をそれぞれ34μsと6μsに設定し、強いイオン化期間中のマイクロパルスのτ_(off)とτ_(on)をそれぞれ6μsと16μsに変化させる(p.3678左欄第9行-第19行を参照。)という技術事項が記載されている。
そうすると、甲第2号証に記載された「パルス電源」及び甲第3号証に記載された「MPPプラズマ発生装置」は、いずれもプラズマを発生させるための電源である。一方、甲1発明の「パルス電源装置58」は、上述のとおり、プラズマを発生させるための電源ではなく、負の平均電圧値Vdcを有するバイアス電圧Ebを供給するための電源であるから、甲1発明の「パルス電源装置58」と、甲第2号証に記載された「パルス電源」及び甲第3号証に記載された「MPPプラズマ発生装置」とは、電源の用途が全く異なるものである。
したがって、プラズマを発生させるための電源ではない甲1発明の「パルス電源装置58」が印加するバイアス電圧Ebとして、甲第2号証に記載された、プラズマを発生させるための上記「パルス」や、甲第3号証に記載された、プラズマを発生させるための上記「マイクロパルス」を当業者が採用しようとする動機付けはない。
さらに、甲第2号証、甲第3号証のいずれにも、パルス群として「パルスの立ち上がりから第1パルス幅T1で前記パルスを生成し、続いて第2オフ幅T2で前記パルスをオフし、続いて第3パルス幅T3で前記パルスを生成」し、かつ「T2<T1≦T3」であると共に、「T3に続いて、連続パルスを生成する」ことは記載されていないし、そのようなパルス群を生成することが周知技術であるとも認められない。

したがって、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術事項から、上記相違点2に係る本件発明1の「パルス設定部は、パルスの立ち上がりから第1パルス幅T1で前記パルスを生成し、続いて第2オフ幅T2で前記パルスをオフし、続いて第3パルス幅T3で前記パルスを生成するパルス群を設定し、かつT2<T1≦T3に設定すると共に、T3に続いて、連続パルスを生成するよう設定する」という事項を当業者が容易に想到することはできない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(1)で述べたのと同様の理由で、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-16 
出願番号 特願2018-7823(P2018-7823)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H02M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高野 誠治  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 須原 宏光
宮本 秀一
登録日 2019-01-18 
登録番号 特許第6467075号(P6467075)
権利者 東京電子株式会社 学校法人加計学園
発明の名称 パルス電源装置  
代理人 平山 巌  
代理人 山田 智重  
代理人 平山 巌  
代理人 山田 勝重  
代理人 山田 智重  
代理人 山田 勝重  

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