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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1356001
異議申立番号 異議2019-700584  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-24 
確定日 2019-10-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6459446号発明「虚像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6459446号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6459446号(以下「本件特許」という。)についての主な経緯は次のとおりである。
平成26年11月28日 :出願
平成31年 1月11日 :特許登録(請求項の数7)
平成31年 1月30日 :特許掲載公報発行
令和 元年 7月24日 :特許異議申立人間島千晶による請求項1?7 に係る特許に対する異議申立て

第2 本件発明
特許第6459446号の請求項1?7の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
光源からの光を用いて少なくとも一部のエリアに映像を表示する映像表示面と、
前記映像表示面に表示された前記映像を反射させてユーザに視認させることによって前記映像の虚像を生成する凹面鏡と、
前記映像表示面に対する前記映像の表示位置を、前記映像表示面内で移動する表示制御手段と、を有し、
前記映像表示面は、前記映像表示面と前記凹面鏡とを結ぶ光路に対して傾斜して配置され、
前記表示制御手段によって移動される前記映像の前記映像表示面内の表示位置に基づいて、前記ユーザから前記虚像までの距離である生成距離が変位し、
前記表示制御手段は、前記映像表示面に対する映像の表示位置を移動することによって前記生成距離が短くなる場合に、前記映像表示面に表示する映像のサイズを拡大することによって前記ユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更することを特徴とする虚像表示装置。
【請求項2】
前記映像表示面内における前記映像の表示位置が前記凹面鏡からの距離が変わる方向に変位すると、前記生成距離が変位することを特徴とする請求項1に記載の虚像表示装置。
【請求項3】
前記映像表示面内における前記映像の表示位置の変位量に対する前記生成距離の変位量
は、前記映像表示面内における前記映像の表示位置から前記凹面鏡までの距離で異なることを特徴とする請求項2に記載の虚像表示装置。
【請求項4】
前記映像表示面内における前記映像の表示位置の変位量に対する前記生成距離の変位量は、前記映像表示面内における前記映像の表示位置から前記凹面鏡までの距離が長いほど大きいことを特徴とする請求項3に記載の虚像表示装置。
【請求項5】
前記映像表示面は、生成される前記虚像の下端が上端よりも前記ユーザ側に位置する方向へ傾斜されるように前記光路に対して傾斜して配置されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の虚像表示装置。
【請求項6】
前記生成距離を決定する生成距離決定手段と、
前記生成距離決定手段により決定された前記生成距離に対応する前記映像表示面内の前記映像の表示位置を決定する表示位置決定手段と、を有し、
前記表示制御手段は、前記表示位置決定手段によって決定された表示位置に前記映像を表示することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の虚像表示装置。
【請求項7】
車両に設置され、
前記虚像は、走行予定経路に沿って前記車両が走行する為の前記車両の進行方向を案内する矢印であって、
前記表示位置決定手段は、前記矢印の先端と重畳して視認される地点が、前記走行予定経路に含まれる対象交差点上となるように前記映像の表示位置を決定することを特徴とする請求項6に記載の虚像表示装置。」

第3 申立理由の概要
1 進歩性欠如
請求項1、2及び5に係る発明は、次の引用例1、及び引用例2又は、引用例1、及び引用例3?8のいずれかに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1、2及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項3、4に係る発明は、次の引用例1、引用例2、引用例9及び引用例10又は、引用例1、引用例3?8のいずれか、引用例9及び引用例10に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項6に係る発明は、次の引用例1、引用例2及び引用例11又は引用例1、引用例3?8のいずれか、及び引用例11に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項7に係る発明は、次の引用例1、引用例2及び引用例12又は引用例1、引用例3?8のいずれか、及び引用例12に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

特開2014-126716号公報(甲第1号証、引用例1)
特開2009-150947号公報(甲第2号証、引用例2)
特開2009-196630号公報(甲第3号証、引用例3)
特開2009-90689号公報(甲第4号証、引用例4)
特開2005-69776号公報(甲第5号証、引用例5)
特開2005-189725号公報(甲第6号証、引用例6)
特開2005-346177号公報(甲第7号証、引用例7)
国際公開2014/038044号(甲第8号証、引用例8)
特開2014-26244号公報(甲第9号証、引用例9)
特開平8-244495号公報(甲第10号証、引用例10)
特開平7-257228号公報(甲第11号証、引用例11)
特開2010-221830号公報(甲第12号証、引用例12)

2 明確性要件違反
請求項1?7に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第4 進歩性についての判断
1 引用例の記載事項
(1)引用例1の記載事項の認定
ア 引用例1には、次の事項が記載されている。
(ア)「表示装置1は、乗用車、バス又はトラック等の車両に搭載されて、車両のフロントウインドウWに情報を表示するヘッドアップディスプレイである。」(【0011】)

(イ)「表示装置1は、車両のフロントパネルIP内に収納されている。表示装置1は、光源2と、表示パネル3と、ミラー4と、導光部10とを含む。光源2は、例えば、LED(Light Emitting Diode)であるが、これに限定されるものではない。表示パネル3は、液晶表示パネルであるが、これに限定されるものではない。ミラー4は凹面鏡である。導光部10は、表示パネル3とミラー4との間に設けられる。導光部10は、表示パネル3の表示面3PEから照射された光を導いてミラー4に照射し、画像Pを投影する。」(【0012】)

(ウ)「表示パネル3の表示面3PEに表示されている画像Pは、導光部10に入射した後、導光部10からミラー4に照射され、投影される。導光部10を介して表示パネル3から投影された画像Pは、ミラー4によって反射されて、開口部5を通過してフロントウインドウWに投影される。ミラー4は、画像Pを拡大してフロントウインドウWに投影する。運転者DRは、フロントウインドウWを通して、表示パネル3が投影した画像Pの虚像PGを視認する。」 (【0013】)

(エ)「図2に示す比較例では、表示装置1が備える表示パネル3を、光路K2の光路長k2を、光路長c2に比べて光路J2の光路長j2よりも短くなるように傾けることにより、虚像PGの平面の角度を浅くしている
。」(【0015】)

(オ)「本実施形態において、それぞれの導光部材10a、10b、10c、10dは、図4に示す光ファイバー11を複数束ねたものである。光ファイバー11の一方の端面が入射面PIa、PIb、PIc、PIdとなり、他方の端面が照射面PEa、PEb、PEc、PEdとなる。表示パネル3の表示面3PEから射出し、入射面PIa、PIb、PIc、PIdから入射した光は、複数の光ファイバー11内で反射を繰り返しながら、照射面PEa、PEb、PEc、PEdから照射する。このような構造により、表示パネル3の表示面3PEに表示された画像は、導光部10の照射部PEに浮かび上がって見える。」(【0022】)

(カ)「図5に示すように、複数の導光部材10a、10b、10c、10dの入射面PIa、PIb、PIc、PIdと対向する表示面3PEの領域を、それぞれ、領域3PEa、3PEb、3PEc、3PEdとする。」(【0025】)

(キ)「領域3PEa、3PEb、3PEc、3PEdに表示されたそれぞれの画像は、図6に示すように、導光部材10a、10b、10c、10dの照射面PEa、PEb、PEc、PEdにそれぞれ表示される。照射面PEa、PEb、PEc、PEdは、下方Dから上方Uに向かって表示面3PEからの距離が遠くなる。同じ位置からそれぞれの照射面PEa、PEb、PEc、PEdを見た場合、表示面3PEからの距離が遠い程、見る位置から近いため、照射面PEa、PEb、PEc、PEdに表示される画像は大きく見える。その結果、照射面PEa、PEb、PEc、PEdに示すように、表示面3PEからの距離が遠い照射面PEa、PEb、PEc、PEdの順に、表示される画像は小さくなる。すなわち、上方Uから下方Dへ向かって、照射面PEa、PEb、PEc、PEdに表示される画像は小さくなる。」(【0026】)

(ク)「導光部10は、照射部PEが有する照射面PEa、PEb、PEc、PEdが、上方Uから下方Dに向かって、この順に表示面3PEからの距離が遠くなっている。したがって、照射面PEa、PEb、PEc、PEdの順に、図1に示すミラー4までの光路長は長くなる。その結果、導光部10は、図1に示す光路K2の光路長k2を、光路C2の光路長c2と比べて光路J2の光路長j2よりも短くすることができるので、導光部10を備える表示装置1は、虚像PGを、路面と平行に近い状態又は平行に表示することができる。例えば、導光部10を備える表示装置1は、図7に示すように、運転者DRに近い手前側から離れるにしたがって、表示される画像の大きさが小さくなる、略台形形状の虚像PGを表示することができる。このように、導光部10を備えた表示装置1は、路面上に適切に虚像を表示することができる。」(【0027】)

イ 上記アによれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「表示装置1を車両に搭載し、車両のフロントウインドウWに情報を表示するヘッドアップディスプレイである表示装置であって、表示装置1は、車両のフロントパネルIP内に収納され、光源2と、表示パネル3と、凹面鏡であるミラー4と、導光部10とを含み、凹面鏡であるミラー4は、画像Pを拡大してフロントウインドウWに投影し、運転者DRは、フロントウインドウWを通して、表示パネル3が投影した画像Pの虚像PGを視認するよう構成され、表示パネル3の表示面3PEに表示された画像は、導光部10の照射部PEに浮かび上がって見えるように構成されており、導光部10は、照射部PEが有する照射面PEa、PEb、PEc、PEdが、上方Uから下方Dに向かって、この順に表示面3PEからの距離が遠くなっており、結果として、照射面PEa、PEb、PEc、PEdの順に、ミラー4までの光路長を長くするとともに、光路K2の光路長k2を、光路C2の光路長c2と比べて光路J2の光路長j2よりも短くして虚像PGを、路面と平行に近い状態又は平行に表示し、運転者DRに近い手前側から離れるにしたがって、表示される画像の大きさが小さくなる、略台形形状の虚像PGを表示する表示装置。」

(2)引用例2の記載事項の認定
ア 引用例2には、次の事項が記載されている。
(ア)しかし、投影手段と表示体との間の距離を変えると、周知の如く、虚像の倍率も変わる。例えば、投影手段と表示体との間の距離を大きくすると、虚像位置は運転者から見て遠ざかり、虚像の倍率は大きくなる。逆に、投影手段と表示体との間の距離を小さくすると、虚像位置は運転者から見て近づき、虚像の倍率は小さくなる。つまり、特許文献1において、複数の表示体を同時に駆動して複数の運転情報を表示させた場合、表示体毎の位置関係の違いによって、表示体毎で拡大倍率が異なり、映像(虚像)のサイズが統一されず、視認し難いという課題がある。(【0006】)

(イ)本発明は、上記した課題に鑑みてなされたもので、その目的は、投影される虚像の表示距離に係わらず、所定の大きさで、高輝度な映像を投影できる車両用ヘッドアップディスプレイ装置を提供することにある(【0008】)

(ウ)「実施例1によるHUD装置は、光源1と、光源1からの光を2次元状に走査する走査手段2と、走査手段2からの走査光によって映像(光学像)が描画されるスクリーン3(ここでは3A)と、スクリーン3の位置を投影方向(後述)に調整する可動手段8と、スクリーン3上の映像を反射投影する投影手段としてのミラー4と、光源1を光強度変調(以下、単に「変調」と省略)すると共に走査手段2を駆動する制御回路9と、を含んでなる。」(【0023】)

(エ)「ミラー4は、表示体としてのスクリーン3からの映像光を反射させて、フロントシールド5を介して、運転者の目55の前方に虚像6(図1では6A)を投影する投影手段である。拡大された虚像を投影するため、スクリーン3は、ミラー4の焦点距離f内に配置される。ミラー4としては、球面凹面鏡や、非球面凹面鏡、若しくは投影映像の歪みを補正するための自由曲面鏡が用いられる。」(【0028】)

(オ)「ミラー4の焦点距離fは固定値のため、スクリーン3とミラー4の間の距離aが小さくなると、ミラー4から虚像6の間の距離bも小さくなる。従って、図2では、スクリーン3Bの位置は、可動手段8によってスクリーン3A(点線で示す)がミラー4側に移動した位置であるため、スクリーン3Bに対応する虚像6Bの位置は、スクリーン3Aに対応する虚像6A(点線で示す)がフロントシールド5側に移動したものとなる。」(【0036】)

(カ)「一方、スクリーン3上の画像サイズHと、走査手段2からスクリーン3の間の距離cとの間には、数3の式の関係がある。」(【0038】)
【数3】
H=A×c
(【0039】)

(キ)「数5の式から明らかなように、虚像6のサイズH’は、一定値Afとなるので、スクリーン3の位置には無関係となる。すなわち、走査手段2をミラー4の焦点位置近傍に配置することにより、スクリーン3の位置を変化させて、運転者の目55から虚像6までの表示距離を変えた場合でも、特別な制御アルゴリズムを用いることなく、虚像6のサイズを一定とすることができる。」(【0042】)

(3)引用例3の記載事項の認定
ア 引用例3には、次の事項が記載されている。
(ア)「 画像を表示する光を、ウインドシールド又はコンバイナにて反射させ、ドライバーの目に出力し、車両前方に前記画像を虚像として表示する虚像表示手段と、前記車両の周辺に存在する障害物を認識する障害物認識手段と、前記障害物認識手段により認識した前記障害物の危険度を、前記障害物と前記車両との距離、及び、前記車両に対する前記障害物の相対速度のうちの少なくとも一方に基づき、設定する危険度設定手段と、前記危険度設定手段により設定された危険度が、所定の範囲内である場合、前記ドライバーから見て、前記虚像が前記障害物を囲む軌道上を移動するように、前記虚像を表示するとともに、前記危険度に応じて前記虚像の表示方法を変化させる虚像制御手段と、を備えることを特徴とする表示装置。」(【請求項1】)

(イ)「しかしながら、障害物が自車両にとってどれだけ危険であるかは、障害物と自車両との距離、相対速度等に応じて多様であるのに、非特許文献1の技術では、虚像表示が一様であるため、ドライバーは、障害物の中で、特に危険度が高い障害物に早期に気付くことができないおそれがある。」(【0006】)

(ウ)「虚像21の表示方法は、車両2が障害物に到達するまでに要する到達時間の長さ(障害物の危険度)に応じて変化する。すなわち、到達時間がt1?10秒の場合は、危険度が比較的低いと判断され、虚像21が、通常の大きさで表示される。また、到達時間が5?t1秒の場合は、t1?10秒の場合よりも危険度が高いと判断され、虚像21の大きさが大きくなる。」(【0094】)

(4)引用例4の記載事項の認定
ア 引用例4には、次の事項が記載されている。
(ア)「虚像の表示サイズを変化させて奥行き感を持たせることにより、ドライバの運転支援を行うことが提案されている」(【0002】)

(イ)「虚像の結像位置はドライバから常に一定距離の位置にあるため、虚像に奥行き感が生じず、違和感が大きいという問題点があった。」(【0004】)

(ウ)「本発明の請求項1記載の発明にあっては、表示器の表示像をフロントガラスに反射させて、この反射した表示像の虚像をドライバの視界に重畳して表示すると共に、車両前方の対象物を前記虚像の表示対象にしたヘッドアップディスプレイであって、前記ドライバが視認可能な範囲内における前記虚像の表示サイズに、最大画像サイズと最小画像サイズの制限を設けると共に、この最大画像サイズと最小画像サイズの間で対象物までの距離に基づいて虚像の表示サイズを変更する画像サイズ変更手段と、前記最大画像サイズの虚像または最小画像サイズの虚像に、対象物までの距離に応じて虚像に奥行き感を生じさせる奥行き情報を付加する奥行き情報付加手段を備えるため、装置の大型化やコストアップを招くことなく、対象物までの距離に関わらずドライバに虚像を視認させることができると同時に、虚像の奥行きに関する違和感を低減できる。」(【0007】)

(エ)「ステップS3では、画像C2に対して、後述する画像サイズ変更処理を行って画像C3(図4(b)参照)を作成した後、ステップS4に移行する。」(【0021】)

(オ)「ここで、画像サイズ変更処理とは、対象物A1が遠方にあり、虚像8が小さくなってドライバ9による視認が困難になったり、対象物A1が至近であり、虚像8が大きくなってドライバ9による視認が困難になるのを回避するために、画像C2を拡大・縮小してサイズ変更することにより、ドライバ9による虚像8の視認性を向上させるための処理である。」(【0022】)

(カ)「これによって、対象物A1が遠方にある場合や至近である場合に虚像8がドライバ9から視認困難になるのを回避するために、画像C2を拡大・縮小してサイズ変更することにより、ドライバ9による虚像8の視認性を向上させることができる。」(【0025】)

(5)引用例5の記載事項の認定
ア 引用例5には、次の事項が記載されている。
(ア)「車両のウィンドシールドに設けられた表示領域に表示する情報を前記車両周囲の風景と重ねて前記車両の乗員に視認させる際の車両用表示方法であって、前記表示情報の対象となる対象物の前記表示領域における位置と異なる位置に前記表示情報を表示する際、前記対象物の位置と前記表示情報との対応関係を示す表示を付加して表示することを特徴とする車両用表示方法。」(【請求項1】)

(イ)「請求項1?請求項8の何れか1項に記載の車両用表示方法において、前記乗員と前記対象物の距離に応じて、前記対象物の位置、及び前記表示情報の少なくとも1つを示す表示の表示サイズを変更して表示することを特徴とする車両用表示方法。」(【請求項9】)

(ウ)「請求項9に記載の車両用表示方法では、乗員と対象物の距離に応じて、対象物の位置、及び表示情報の少なくとも1つを示す表示の表示サイズを変更して表示することを特徴とする。例えば、対象物までの距離が長い場合は表示サイズを小さく変更し、逆に、距離の短い場合には表示サイズを大きく変更して表示する。これにより、乗員に対して距離感を与えることができ、対象物の前後位置がより分かり易くなる。」(【0009】)

(6)引用例6の記載事項の認定
ア 引用例6には、次の事項が記載されている。
(ア)「また、本実施形態では、車線情報を看板の映像(バーチャル看板)51にして表示し、しかも、このバーチャル看板51は、車両の走行状況(走行速度、道路幅、道路の曲がり等)に応じて表示位置や表示サイズが制御され、見かけ上の設置位置に固定されて見えるように、即ち、通常の道路標識と同様の見え方となるようにされている。従って、運転者は、バーチャル看板を、通常の道路標識が示された看板などを見るときのように、違和感なく視認することができ、特別な注意を払う必要がないため、安全に情報を受け取ることができる。」(【0056】)

(7)引用例7の記載事項の認定
ア 引用例7には、次の事項が記載されている。
(ア)「 上述したシンボルのアニメーション表示では、対象物と運転者との間の距離をシンボルの表示サイズの変化によって表現するが、人間は他にも様々な視覚的な手がかりに基づいて距離感を認知することが知られており、それらの手がかりを利用することで距離感の知覚をさらに支援することが可能である。例えば、遠くのものほど物体がぼやけて見えたり、夜間であれば同じ明るさの対象物は遠くに位置する程暗く見えたりする。また遠くのものと近くのものとが観測者からみて重なり合う関係にある場合には近くのものに遠くのものが隠れることになる。そのような事実をシンボルのアニメーション表示でも表現することができる。」(【0041】)

(8)引用例8の記載事項の認定
ア 引用例8には、次の事項が記載されている。
(ア)「図5(b)、(c)、(d)、(e)は、それぞれ、車両80が位置P1、P2、P3、P4に到達した際に表示されるオブジェクト情報82a?82d(82)の例を模式的に示している。具体的には、図5(b)?(e)は、運転者がコンバイナ9を透して視認するオブジェクト情報82の例を示している(ここでは前方風景の図示を省略している)。この例では、図5(b)?(e)に示すように、車両80と地物81との距離が短くなるほど、つまり車両80が地物81に近付くにつれて、オブジェクト情報82の表示サイズを大きくしている。具体的には、車両80と地物81との距離と、オブジェクト情報82の表示サイズとが反比例の関係になるように、当該距離が短くなるほどオブジェクト情報82の表示サイズを大きくしている。こうしているのは、車両80が地物81に近付くと実際に視認される地物81のサイズが大きくなるので、そのように視認される地物81のサイズに合わせてオブジェクト情報82を表示させるためである。」(【0049】)

2 本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明1との対比
引用発明1においては、「表示パネル3の表示面3PEに表示された画像は、導光部10の照射部PEに浮かび上がって見えるように構成されて」いるのであるから、「導光部10の照射部PE」が本件発明1の「映像を表示する映像表示面」に相当するといえる。
そうすると、引用発明1の「光源2と、表示パネル3、導光部10」は本件発明1の「光源からの光を用いて少なくとも一部のエリアに映像を表示する映像表示面」に相当する。また、引用発明1においては、「導光部10は、照射部PEが有する照射面PEa、PEb、PEc、PEdが、上方Uから下方Dに向かって、この順に表示面3PEからの距離が遠くなっており、結果として、照射面PEa、PEb、PEc、PEdの順に、ミラー4までの光路長を長くする」のであるから、「前記映像表示面は、前記映像表示面と前記凹面鏡とを結ぶ光路に対して傾斜して配置され」ているといえる。
引用発明1の「凹面鏡であるミラー4」は、「画像Pを拡大してフロントウインドウWに投影し、運転者DRは、フロントウインドウWを通して、表示パネル3が投影した画像Pの虚像PGを視認するよう構成され」ているのであるから、本件発明の「映像表示面に表示された映像を反射させてユーザに視認させることによって映像の虚像を生成する凹面鏡」に相当する。
引用発明1の「光路K2の光路長k2を、光路C2の光路長c2と比べて光路J2の光路長j2よりも短くして虚像PGを、路面と平行に近い状態又は平行に表示し」は、本件発明1の「前記映像の前記映像表示面内の表示位置に基づいて、前記ユーザから前記虚像までの距離である生成距離が変位し、」に相当する。
また、技術常識を踏まえれば、引用発明1の表示パネル3が表示を制御する表示制御手段を有することは明らかであるといえる。

してみれば、本件発明1と引用発明1とは次の点で一致する。
一致点
「光源からの光を用いて少なくとも一部のエリアに映像を表示する映像表示面と、
前記映像表示面に表示された前記映像を反射させてユーザに視認させることによって前記映像の虚像を生成する凹面鏡と、表示制御手段と、を有し、
前記映像表示面は、前記映像表示面と前記凹面鏡とを結ぶ光路に対して傾斜して配置され、
前記映像の前記映像表示面内の表示位置に基づいて、前記ユーザから前記虚像までの距離である生成距離が変位する虚像表示装置。」

そして、本件発明1と引用発明1とは次の点で相違する。
相違点1
本件発明1の表示制御手段が、映像表示面に対する映像の表示位置を、映像表示面内で移動するようにしたのに対し、引用発明1ではその点明示がされていない点。

相違点2
本件発明1の表示制御手段は、映像表示面に対する映像の表示位置を移動することによって生成距離が短くなる場合に、映像表示面に表示する映像のサイズを拡大することによってユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更するようにしたのに対し、引用発明1はそのような構成を採用していない点。

イ 判断
(ア)相違点1に対する判断
技術常識を踏まえれば、引用発明1においても、表示制御手段による制御により、様々な映像を表示することが可能であるといえるところ、映像表示面に対する映像の表示位置を、映像表示面内で移動させるようにすることは、単に、様々な映像の表示の一態様に過ぎないものと認められ、この点は実質的な相違であるとは認められない。

(イ)相違点2に対する判断
a 引用例2に記載された発明の適用について
引用例2に記載された発明は、虚像の位置が6Aから6Bに近づいた場合、スクリーンは3Aから3Bへと変化することになる。この場合、スクリーン3上の画像サイズHと、走査手段2からスクリーン3の間の距離cとの間にはH=A×cの関係がある(第4 1(2)ア(カ))から、確かに、虚像の位置が運転者の目55に近づいたとき、言い換えれば光路長が短くなるとき、スクリーンの画像サイズは大きくなるといえる。
しかしながら、引用例2に記載された発明は「表示体毎の位置関係の違いによって、表示体毎で拡大倍率が異なり、映像(虚像)のサイズが統一されず、視認し難い」(第4 1(2)ア(ア))という課題を解決するべく「投影される虚像の表示距離に係わらず、所定の大きさで、高輝度な映像を投影できる車両用ヘッドアップディスプレイ装置を提供する」(第4 1(2)ア(イ))ということなのであって、このような課題は引用発明1には存在しない。むしろ、引用例1には「導光部10を備える表示装置1は、図7に示すように、運転者DRに近い手前側から離れるにしたがって、表示される画像の大きさが小さくなる、略台形形状の虚像PGを表示することができる。このように、導光部10を備えた表示装置1は、路面上に適切に虚像を表示することができる。」(第4 1(1)ア(ク))と記載され、引用発明1は生成距離が変化したときの虚像PGの大きさを変化させるものであるといえる。したがって、引用発明1に引用例2に記載された発明を適用する動機はない。さらに、仮に、引用例2に記載された発明を引用発明1に適用しようとしたとしても、引用発明1は既に、「照射面PEa、PEb、PEc、PEdの順に、ミラー4までの光路長を長く」し「光路K2の光路長k2を、光路C2の光路長c2と比べて光路J2の光路長j2よりも短くして虚像PGを、路面と平行に近い状態又は平行に表示し」ており、虚像の位置が運転者の目55から一定でないのであるから、適用することは不可能である。
したがって、当業者が、引用発明1において、引用例2に記載された発明を適用し、相違点2に係る構成に容易に想到し得たということはできない。

b 引用例3?8に記載された発明の適用について
引用例3?8に記載された発明はいずれも、虚像の表示場所自体は、一定としつつ、虚像を拡大表示するものであって、引用発明1のように、「光路K2の光路長k2を、光路C2の光路長c2と比べて光路J2の光路長j2よりも短くして虚像PGを、路面と平行に近い状態又は平行に表示」するようなものではないため、拡大表示をするといっても、その前提が異なる。そのため、当業者であれば、引用発明1に引用例3?8に記載された発明を適用しようとは考えないというべきである。
すなわち、引用例3に記載された発明は、「虚像が障害物を囲む軌道上を移動するように、虚像を表示する」(第4 1(3)ア(ア))ものであって、「、車両2が障害物に到達するまでに要する到達時間が5?t1秒の場合は、t1?10秒の場合よりも危険度が高いと判断され、虚像21の大きさが大きくなる。」(第4 1(3)ア(ウ))ものであり、障害物が近づけば該障害物を囲む軌道上を移動する虚像の大きさが大きくなるものであると認められる。そして、引用例3に記載された発明においてこのような構成を採用しているのは、「虚像表示が一様であるため、ドライバーは、障害物の中で、特に危険度が高い障害物に早期に気付くことができないおそれがある。」(第4 1(3)ア(イ))という課題を解決するためであると認められるが、このような課題は、虚像の表示場所自体が一定であるがゆえに生じるものである。引用発明1のように、「光路K2の光路長k2を、光路C2の光路長c2と比べて光路J2の光路長j2よりも短くして虚像PGを、路面と平行に近い状態又は平行に表示」すれば、障害物が近づいた場合の虚像の表示位置自体も近くに変化させることができると考えられ、「虚像表示が一様である」という状況がそもそも生じない。
また、引用例4に記載された発明は、「虚像の結像位置はドライバから常に一定距離の位置にあるため、虚像に奥行き感が生じず、違和感が大きいという問題点」(第4 1(4)ア(イ))を解決するべく「対象物までの距離に基づいて虚像の表示サイズを変更する」(第4 1(4)ア(ウ))ものである。
引用例5に記載された発明は、「乗員に対して距離感を与える」(第4 1(5)ア(ウ))ために、「対象物までの距離が長い場合は表示サイズを小さく変更し、逆に、距離の短い場合には表示サイズを大きく変更して表示する」(第4 1(5)ア(ウ))ものである。
引用例6に記載された発明は、「バーチャル看板51は、車両の走行状況(走行速度、道路幅、道路の曲がり等)に応じて表示位置や表示サイズが制御され、見かけ上の設置位置に固定されて見えるように、即ち、通常の道路標識と同様の見え方となるようにされ」(第4 1(6)ア(ア))たものである。
引用例7に記載された発明は「シンボルのアニメーション表示では、対象物と運転者との間の距離をシンボルの表示サイズの変化によって表現する」(第4 1(7)ア(ア))ものである。
引用例8に記載された発明は、「車両80が地物81に近付くと実際に視認される地物81のサイズが大きくなるので、そのように視認される地物81のサイズに合わせてオブジェクト情報82を表示させるため」(第4 1(8)ア(ア))、「車両80と地物81との距離が短くなるほど、つまり車両80が地物81に近付くにつれて、オブジェクト情報82の表示サイズを大きく」(第4 1(8)ア(ア))したものである。
これら引用例4?8に記載された発明は、いずれも、虚像の表示場所自体が一定であることを前提に、虚像に奥行き感を出す等のために、虚像のサイズを変更するものなのであって、「光路K2の光路長k2を、光路C2の光路長c2と比べて光路J2の光路長j2よりも短くして虚像PGを、路面と平行に近い状態又は平行に表示」する引用発明1にあっては、引用例4?8に記載された発明において行われている上記の工夫をする必要がない。
さらには、引用例1には、上記第4 2イ(イ)aで述べたとおり、「導光部10を備える表示装置1は、図7に示すように、運転者DRに近い手前側から離れるにしたがって、表示される画像の大きさが小さくなる、略台形形状の虚像PGを表示することができる。このように、導光部10を備えた表示装置1は、路面上に適切に虚像を表示することができる。」と記載されているのであるから、引用発明1に引用例3?8に記載された発明を適用する余地はないというべきである。
したがって、当業者が、引用発明1において、引用例3?8に記載された発明を適用し、相違点2に係る構成に容易に想到し得たということはできない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、引用発明1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明1及び引用例3?8に記載された発明のいずれかに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものである。さらに、引用例9?12には、上記相違点2に係る構成について記載も示唆もされていない。よって、上記2に示した理由と同様の理由により、本件発明2?7は、上記引用例1?12に記載された発明に基いて当業者が容易になし得るものではない。

第5 明確性要件についての判断
本件発明1の「前記映像表示面に表示する映像のサイズを拡大することによって前記ユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更する」は、明確である。
異議申立人は、「前記映像表示面に表示する映像のサイズを拡大することによって前記ユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更する」との発明特定事項は、本件特許明細書を参酌しても、それが意味するところは著しく不明確であって、少なくとも「解釈A」と「解釈B」の2通りの解釈を含み得る。と主張する。
ここで、異議申立人のいう「解釈A」とは、
「前記映像表示面に表示する映像のサイズを拡大することによって、空間に生成される虚像の物理的なサイズを変えずに、前記ユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更する」
であり、「解釈B」とは、
「前記映像表示面に表示する映像のサイズを拡大することによって、空間に生成される虚像の物理的なサイズを拡大して、前記ユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更する」
である。
そこで、「前記映像表示面に表示する映像のサイズを拡大することによって前記ユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更する」との発明特定事項について検討するに、まず、「映像表示面に表示する映像のサイズを拡大する」は明確である。そして、「ユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更する」の「より大きいサイズ」とは、拡大される前の映像表示面に表示された映像と比較していることも明らかであって不明確な点はない。
異議申立人は、「空間に生成される虚像の物理的なサイズ」を変えない場合と拡大する場合という2つ場合がある旨主張するが、「空間に生成される虚像の物理的なサイズ」という事項は、そもそも本件発明1には存在しない。本件発明1は、「空間に生成される虚像の物理的なサイズ」を変える、変えないにかかわらず、「像表示面に表示する映像のサイズを拡大することによってユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更する」ものであって、不明確な点はない。もっとも、本件発明1は、映像表示面や凹面鏡自体を移動させるものではないから、「空間に生成される虚像」の位置は一定である。そうすると、本件発明1は「前記映像表示面に表示する映像のサイズを拡大することによって(空間に生成される虚像の物理的なサイズを拡大して)前記ユーザに視認させる虚像をより大きいサイズへと変更する」ものであることも明らかであるといえる。
いずれにしても、本件発明1にそもそも存在しない事項を持ち出して、不明確云々を議論する、異議申立人の主張に理由はなく、本件発明1は明確である。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-09 
出願番号 特願2014-242402(P2014-242402)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G02B)
P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 右田 昌士  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 瀬川 勝久
近藤 幸浩
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6459446号(P6459446)
権利者 アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
発明の名称 虚像表示装置  
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