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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 E05F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E05F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E05F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 E05F
管理番号 1356325
審判番号 不服2018-12346  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-13 
確定日 2019-10-17 
事件の表示 特願2014-101796「ドア開閉装置およびドア開閉方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 7日出願公開、特開2015-218466〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、平成26年5月15日の出願であって、平成30年8月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月13日に拒絶査定不服審判の請求が行われるとともに手続補正が行われたものである。

第2 平成30年9月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年9月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
モータと前記モータの回転数をPWM制御により制御する制御部とを有し、前記モータの動力により、出力軸に取り付けられたアーム、前記アームに接続されているロッド、及び前記ロッドに接続されているヒンジと連動して、前記ヒンジが天井に固定されている車両のドアの開閉を行うドア開閉装置であって、
前記制御部は、前記モータが設置される被設置体の共振点の周波数より高く設定されたPWM周波数にて前記モータの前記PWM制御を行い、
前記PWM周波数は、15kHzより大きく、15kHz以上の高周波の音をカットするローパスフィルタを取り付けた状態において、当該ドア開閉装置を前記車両に設置して、開閉動作させた場合の音圧値が66dB以下であることを特徴とするドア開閉装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年3月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
モータと前記モータの回転数をPWM制御により制御する制御部とを有し、前記モータの動力により車両のドアの開閉を行うドア開閉装置であって、
前記制御部は、前記モータが設置される被設置体の共振点の周波数より高く設定されたPWM周波数にて前記モータの前記PWM制御を行い、
前記PWM周波数は、15kHz以上であることを特徴とするドア開閉装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ドア開閉装置」の開閉動作機構及び当該「ドア開閉装置」を開閉動作させた場合の音圧値について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明1」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)明確性
請求項1には、「15kHz以上の高周波の音をカットするローパスフィルタを取り付けた状態において、当該ドア開閉装置を前記車両に設置して、開閉動作させた場合の音圧値が66dB以下」であることが記載されているが、前記ローパスフィルタを取り付ける対象について規定されておらず、ローパスフィルタを「ドア開閉装置」や「車両」に取り付けるのであれば、一体どのような「ローパスフィルタ」をどのように取り付けるのか不明であるし、「ドア開閉装置」とも「車両」とも異なる部材に取り付けるのであれば、どの部材に取り付けるのか全く特定されていないから、上記記載が特定する事項が不明確となっている。
また、一般に、測定条件が変われば測定結果も変わることが技術常識であるところ、請求項1の記載においては、「66dB以下」の音圧値がどのような測定条件で測定したものであるか規定されておらず、明細書を参酌しても当業者が測定条件を理解できるとはいえないから、上記記載が特定する事項が不明確となっている。

ウ 小括
したがって、請求項1の記載及び当該請求項1を引用する請求項2の記載により特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)進歩性
ア 本件補正発明1
本件補正発明1は、上記1(1)の記載により特定されるとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項
引用文献1:特開2008-5656号公報
引用文献2:特開2006-304473号公報
引用文献3:特許第2712418号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開平11-119838号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2013-244699号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:米国特許第6407520号明細書(周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2011-017190号公報(周知技術を示す文献)
引用文献8:特開2011-137369号公報(周知技術を示す文献)
引用文献9:特開2000-96913号公報(周知技術を示す文献)
引用文献10:特開2002-242532号公報(周知技術を示す文献)


(ア)引用文献1
a 原査定の拒絶の理由で引用された本願出願前に頒布された引用文献である引用文献1(平成20年1月10日出願公開)には、図面とともに、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる開閉体を自動的に開閉する車両用自動開閉装置に関する。
・・・(中略)・・・
【0019】
図2に示すように、この車両11には、スライドドア14を自動的に開閉するために、車両用自動開閉装置21(以下、開閉装置21とする。)が設けられている。この開閉装置21はガイドレール16の車両前後方向の略中央部に隣接して車体12の内部に固定される駆動ユニット22を有し、この駆動ユニット22からは車両前方側と後方側とに向けてケーブル23a,23bが引き出されており、駆動ユニット22から車両前方側に引き出されたケーブル23aはガイドレール16の前端に設けられた反転プーリ24aを介して車両前方側(閉側)からローラアッシー15に接続され、車両後方側に引き出されたケーブル23bはガイドレール16の後端に設けられた反転プーリ24bを介して車両後方側(開側)からローラアッシー15に接続されている。駆動ユニット22はケーブル23a,23bを駆動するようになっており、駆動ユニット22によりケーブル23a,23bが駆動されると、スライドドア14は閉側のケーブル23aまたは開側のケーブル23bに牽引されて自動開閉動作するようになっている。つまり、この開閉装置21は、いわゆるケーブル式となっている。
【0020】
図3は図2に示す自動開閉装置の制御体系を示す説明図であり、図4は図3に示すモータ駆動装置の回路図である。
【0021】
駆動ユニット22は、スライドドア14を開閉駆動するための駆動源となる電動モータ25を有しており、この電動モータ25の回転はこれに固定される減速機26により所定の回転数にまで減速して出力軸27から出力されるようになっている。電動モータ25はブラシ付き直流モータであり、供給される電流の向きに応じて正逆両方向に回転可能となっている。
・・・(中略)・・・
【0023】
減速機26には図示しない電磁クラッチが内装されており、スライドドア14が手動で開閉操作されるときには、電磁クラッチにより電動モータ25と出力軸27の間の動力伝達経路が断遮断されてスライドドア14の手動による開閉操作力が低減されるようになっている。また、図示はしないが、ドラム28とスライドドア14との間にはテンショナが設けられ、このテンショナによりケーブル張力が一定に保持されるようになっている。
【0024】
スライドドア14を予め設定された目標速度で開閉させるように電動モータ25の作動を制御するために、駆動ユニット22にはモータ駆動装置31が設けられている。
・・・(中略)・・・
【0026】
スイッチング素子SW1?SW4の作動を制御するために、モータ駆動装置31には制御手段としての制御装置34が設けられている。
・・・(中略)・・・
【0029】
また、制御装置34は、Hブリッジ回路32に設けられるスイッチング素子SW1?SW4のうち、電動モータ25に対して下段側つまり給電端子25a,25bを接地させる側の各スイッチング素子SW3,SW4をPWM制御することにより、電動モータ25の作動速度を増減させることができるようになっている。つまり、制御装置34は、各スイッチング素子SW1,SW2に対しては通常のオン・オフ制御し、各スイッチング素子SW3,SW4に対する制御信号をパルス状のPWM信号として出力するとともに、そのPWM信号のデューティー比を変化させることにより、電動モータ25の作動速度を増減させることができるようになっている。
・・・(中略)・・・
【0035】
図6(a)は電動モータを駆動するときのPWM信号を示すチャート図であり、図6(b)は電動モータを回生制動させるときのPWM信号を示すチャート図である。
【0036】
図6(a)に示すように、この開閉装置21では、電動モータ25が駆動制御されるときには、スイッチング素子SW3またはSW4に対するPWM信号のキャリア周波数は、制御装置34により、駆動用の所定の周波数に設定される。この駆動用の周波数は、予め実験等により設定されるもので、本実施の形態の場合は、約9.8KHzとされている。この周波数は制御音(PWM信号を発生するときのスイッチング素子の作動音等)や、スイッチング素子の発熱量、制御応答性等を考慮して選択されている。PWM信号のキャリア周波数を高くすると、電動モータ25の内部コイルのL成分により、回生電流が流れにくくなるため、車両11が傾斜地等にあってスライドドア14にその移動方向と同一方向に自重が加えられ、または乗員等によりスライドドア14にその移動方向と同一方向の手動操作力が加えられることにより、スライドドア14の開閉速度が目標速度を大きく超えるような使用下においては、制動力が不足することがある。ここで、PWM信号のキャリア周波数とはPWM信号の各パルスの周波数であり、キャリア周波数は低下すると各パルス信号の周期は長くなる。
・・・(中略)・・・
【0048】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、本実施の形態おいては、開閉体は車両に装着されるスライドドア14とされているが、これに限らず、電動モータ25により駆動されるものであれば、たとえば、車両11の後端部にヒンジを介して開閉自在に装着されるバックドアなど、他の開閉体であってもよい。」

b 上記aから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「電動モータと前記電動モータの動作速度をPWM制御により制御する制御装置とを有し、前記電動モータの駆動により、車両のドアの開閉を行う車両用自動開閉装置であって、
前記制御装置は、前記電動モータが駆動制御されるときの制御音(PWM信号を発生するときのスイッチング素子の作動音等)等を考慮して選択された駆動用のPWM信号のキャリア周波数にて前記電動モータの前記PWM制御を行うものであり、
スライドドア、又は、車両後端部にヒンジを介して開閉自在に装着されるバックドアの開閉に用いられ、
前記駆動用のPWM信号のキャリア周波数は、スライドドアの場合、約9.8KHzである車両用自動開閉装置」

(イ)引用文献2
a 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された引用文献2(平成18年11月2日出願公開)には、次の記載がある。
(a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された電気機器への駆動電流をPWM制御する車両部品駆動制御回路及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両部品駆動制御回路として、車両に搭載されたアクチュエータのロック解除用ソレノイドへの励磁電流(駆動電流)をPWM制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の車両部品駆動制御回路では、PWM制御に用いられる矩形パルスと同じ周波数の異音が発生するという問題が生じていた。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、PWM制御に起因した騒音を低減することが可能な車両部品駆動制御回路及びその製造方法の提供を目的とする。
・・・(中略)・・・
【0026】
ところで、ソレノイド46は上記の如く励磁されると、PWM制御で用いた矩形パルスPと同じ周波数fの音源となり得る。そして、ソレノイド46が発する音が車両10の共振周波数と一致すると、音が増幅されて車内に響く。これに対し、矩形パルスPの周波数を高周波に設定するとソレノイド46が高温になり得る。このため、例えば矩形パルスPの周波数は0.3?1.5[kHz]の範囲に制約される。また、ステアリングシャフト16、ラック12、ラックケース12Cを含む操舵系アッシ(本発明に係る「車両構成部品」に相当する)の組み付け誤差により、それら操舵系アッシ毎にソレノイド46と共振する周波数が異なる。
【0027】
これら事情に鑑み、本実施形態では、操舵系アッシが完成したら、図6(A)に示すようにその出荷検査時に、検査装置81をEEPROM80に接続し、周波数を順次変更してEEPROM80に書き込み、ロック解除プログラムを実行してソレノイド46を励磁し、音量を計測する。そして、各周波数毎に共鳴音量を比較して、各操舵系アッシ毎の共振周波数を特定する(本発明に係る「共振周波数計測工程」に相当する)。
【0028】
次いで、操舵系アッシの共振周波数から外れた特定周波数f1を決定する(本発明に係る「特定周波数決定工程」に相当する)。具体的には、共振周波数に対し、例えば0.3[kHz]を加えるか或いは引いて、0.3?1.5[kHz]の範囲に収まるように、特定周波数f1を決定する。そして、その特定周波数f1を検査装置81がEEPROM80に書き込む(本発明に係る「データ書き込み工程」に相当する)。検査装置81が所定のプログラムを実行することで上記検査及び特定周波数f1の書き込みを自動的に行う。以上により、ECU60の製造が完了する。そして、この操舵系アッシがECU60と共に車両に搭載される。
【0029】
このように本実施形態のECU60の製造方法によれば、出荷検査により各操舵系アッシ毎の特定周波数f1を決定して、その場で特定周波数f1をEEPROM80に書き込むので、特定周波数f1のデータROMを別途製作してから実装する場合に比べて作業効率が向上する。そして、このようにして製造されたECU60によれば、操舵系アッシの共振周波数から外れた特定周波数f1の矩形パルスPを用いてPWM制御を行うので車両内の共鳴が防がれ、PWM制御に起因した騒音を低減することができる。」
(b)上記(a)に示したように、PMW制御の特定周波数を決定するにあたり、共振周波数に対し、例えば0.3[kHz]を加えるか或いは引いているから、特定周波数を共振周波数よりも高い側に外れた周波数とすることが記載されているといえる。

b 上記aから、引用文献2には、次の事項が記載されていると認められる。
「車両に搭載された電気機器への駆動電流をPWM制御する車両部品駆動制御回路において、ソレノイドが発する音が車両の共振周波数と一致して音が増幅されて車内に響くことによる前記PWM制御に起因した騒音を低減するために、車両の共振周波数よりも高い側へ外れた特定周波数の矩形パルスを用いてPWM制御を行うことにより車両内の共鳴を防ぐこと」

(ウ)引用文献3
引用文献3には、次の記載がある。
「しかるに、従来のPWM形インバータ装置において、上述した如くPWM波形にて電動機を駆動すると、キャリア周波数に起因した高周波音が発生し騒音増加の原因となる。このことを回避するための1つの手段として、キャリア周波数を上昇させ人間の可聴周波数の上限域、あるいはより高い高周波数とする方法がある。
すなわち、キャリア周波数を増加していくと騒音レベルは徐々に低下し、キャリア周波数fcを10KHz?15KHzに定めると可聴領域の上限に近づき、騒音レベルも著しく低下する。更に20KHzをオーバさせると可聴範囲を超え、周波音は人間の聴覚には感知できなくなり商用電源で駆動したときとほぼ同等の騒音特性となる。」(第4欄第6?17行)

(エ)引用文献4
引用文献4には、次の記載がある。
「【0005】従来における他のノイズ除去方法として、PWM制御周波数を可聴周波数を超える高周波領域に設定することによってノイズの問題を実質的に解決する方法がとられていた。
【0006】通常、20KHz以上の高周波領域に対しては人間の可聴範囲を超え、通常の場合13?15KHz以上であれば、ほとんどの場合、ノイズが認識されず、これによって実質的なノイズ対策が行われていた。」

(オ)引用文献5
引用文献5には、次の記載がある。
「【0036】
前述のように、負荷電力が増加すると、フィードバック電圧(FB)そのものも増加する関係にある。図21から明らかなように、フィードバック電圧がVfb2≦FB<Vfb3にある場合には、基本周波数、例えば、60KHzでPWM制御が実行される。一方、Vfb1≦FB<Vfb2にある場合には、スイッチング周波数が次第に変化する。こうした制御をPFM(パルス周波数変調)と呼ぶ。図示のように、FB=Vfb1のとき、スイッチング周波数は最低周波数f(min)となり、これは、例えば、人間の可聴音域の上限値15KHzなどとすることが好ましい。FB≦Vfbの領域では、前記最低周波数でPWM制御が実行される。」

(カ)引用文献6
引用文献6には、次の記載がある。(仮訳は当審による。)
「Preferably the pulse-width modulation frequency is 15 kHz or more so that the control operations themselves do not generate any audible sound level.」(第3欄第25-28行)(PWM周波数は15kHz以上であることが好ましい。それによって制御操作自体による可聴領域レベルの音は発生しない。)

(キ)引用文献7
引用文献7には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉窓の障子又は収納庫の蓋若しくは扉等の開閉体を電動で開閉操作する開閉装置及びこれを用いた窓に関するものである。
・・・(中略)・・・
【0005】
しかしながら、特許文献1のものは、金属製ハウジングに収められた減速機構のギア群の騒音等に限って防音及び防振効果を得ることができるものであり、モータの騒音や振動に対しては何ら対策がなされておらず、このモータの騒音や振動によって使用者に不快感を与えるものである。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとするものは、製造コストを徒に高くすることなく、モータの騒音や振動に対しても防音及び防振効果を発揮し、開閉装置全体の作動音を低減した開閉機構及びこれを用いた窓を提供する点にある。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る開閉装置によれば、電動モータが緩衝部材を介して基体に固定されているため、電動モータの回転の振動が基体及び固定側部材等に伝わらず、作動音を小さくすることができる。
・・・(中略)・・・
【0028】
上記構成により、本実施形態の開閉装置2は、障子取付前における作動音を43dB(デシベル)、障子取付後における作動音を48?53dBとし、同じタイプの従来品(障子取付前65dB、障子取付後70dB)に比して、その作動音を著しく小さくすることができるものである。」

(ク)引用文献8
a 引用文献8には、次の記載がある。
「【0012】
図1に示すように、開閉体をなすバックドア1は、車体のルーフ2内の後端部に左右方向を向くヒンジ軸3により上下方向へ開閉自在に枢支され、車体後部の開口部を閉塞する実線で示す全閉位置と、後端部が上方に跳ね上げられてほぼ水平状態となって開口部を開放する2点鎖線で示す全開位置との間を開閉動作する。
【0013】
ルーフ2内には、バックドア1を電動モータ5の動力により開閉動作させるための開閉装置4が設けられている。なお、本実施形態においては、開閉装置4は、ルーフ2内の後部左側に配置される片側駆動タイプであるが、ルーフ2内の後部左右両側に配置する両側駆動タイプとしても良い。
【0014】
図2、3に示すように、開閉装置4は、ルーフ2内に固定され、各種部品が組み付けられるケース11と、電動モータ5と、電動モータ5に連動する減速機構6と、減速機構6の動力伝達経路を断続可能な電磁クラッチ7と、電磁クラッチ7が接続状態にあるとき、減速機構6に連動する出力ギヤ8と、出力ギヤ8に連動する出力アーム9と、出力アーム9に連動する連結ロッド10とを備える。なお、図2は、内部構造を示すため、ケース11の上面の一部を切り欠いて示している。
・・・(中略)・・・
【0020】
出力アーム9は、上側ギヤケース部12の上面から上方へ突出した出力軸19の上端部に、図3に明示されるようにクラッチケース部14の上部を形成する蓋部14aよりも上方へ突出しないように金属円筒状のスペーサ20を介して固定されることにより、上側ギヤケース部12の上面側、すなわち電磁クラッチ7が設けられた側と同一面側に回動可能に配置されて、出力ギヤ8と共に図2に実線で示す全閉位置Cから反時計方向へほぼ90度回動した2点鎖線で示す全開位置Oへ、及びその逆へ回動する。
【0021】
出力アーム9の回動端部における下面には、連結ロッド10の前端部(一端部)101が揺動自在に連結される連結部91が設けられている。この連結部91は、ケース11に対して上下方向に重なり合うことがないように、ケース11の側方に沿って移動する。
【0022】
連結ロッド10は、図3に示すように、ケース11における下側面よりも下方(外方)へ突出しないように、前述のように前端部101が出力アーム9の連結部91に揺動自在に連結され、後端部がバックドア1におけるヒンジ軸3から離れた位置に揺動自在に連結されることにより、図2に示すように、出力アーム9の回動に伴って、前後方向(第1方向)へ直線往復運動して、その運動をバックドア1に伝達してバックドア1を開閉動作させる。さらに、連結ロッド10は、出力アーム9の回動に伴って前後方向へ直線往復運動する全行程において、ケース11、減速機構6及び電動モータ5の全てに対して上下方向に重ならない領域を移動するように、ケース11の側方に配置される。」

b 図1から、ヒンジ軸3が車両後部に固定されていることが見て取れる。



c 上記a及びbから、引用文献8には、次の事項が記載されていると認められる。
「モータの動力により、出力軸19に取り付けられたアーム9、前記出力アーム9に接続されている連結ロッド10、及び前記連結ロッド10に接続されているヒンジ軸3と連動して開閉動作を行い、前記ヒンジ軸3がルーフ2内の後端部に固定されている車両のバックドア1の開閉を行うドア開閉動作機構」

(ケ)引用文献9
a 引用文献9には、次の記載がある。
「【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明を具体化した一実施の形態を図1?図11に従って説明する。図1に示すように、車両1の後部にはトランクルーム2が形成され、トランクルーム2の上部には略四角形状の開口部2aを有している。トランクルーム2の開口部2aには、トランクルーム2を密閉するトランクドア3が備えられている。このトランクドア3は、その両側に設けられるアーム式ヒンジ4にて車両1に開閉可能に支持されている。
【0019】前記各ヒンジ4は、図2に示すように、略U字状のアーム5と支軸6から構成されている。即ち、アーム5の一端はトランクドア3の裏面にそれぞれ固定され、他端は支軸6にて車両1に回動可能にそれぞれ支持されている。そして、アーム5近傍の車両1には、該アーム5を揺動させてトランクドア3を開閉させるドア開閉装置10が設けられている。
【0020】前記ドア開閉装置10には開閉アクチュエータ11が備えられる。開閉アクチュエータ11には、図3及び図4に示すようにその駆動源として正逆転可能なモータ12と、そのモータ12の回転を減速し、その回転運動をアクチュエータ11の出力軸14の回動運動に変換する減速部13が備えられる。又、該モータ12には回転センサ15が一体に組み付けられている。この回転センサ15は、モータ12の回転に応じたパルス信号を生成する。
【0021】前記出力軸14には回転プレート16が一体回動可能に固定されている。この回転プレート16は、図5に示すように前記出力軸14に固定される円柱状の軸部16aと、その軸部16aの軸線を中心に円弧状に形成される円弧溝部16bと、同じく軸線を中心に円弧溝部16bより外周側に形成される円弧状のガード16cとからなる。
【0022】前記軸部16aにはクランクアーム17が回動可能に支持され、前記軸部16aからの抜けを防止する抜止部材18が取着されている。クランクアーム17は、前記円弧溝部16bに嵌着される円環部17aと、円環部17aの外周側面から突出し、前記ガード16cが形成されていない部分(以下、切り欠き部16dという)に配置される連結部17bとからなる。つまり、クランクアーム17は、その連結部17bが前記切り欠き部16dにおいてガード16cの両端面16eに当接するまでの回動範囲内で回動可能に組み付けられている。そして、前記回転プレート16が回動すると、ガード16cの端面16eが連結部17bの側面に当接して、クランクアーム17が一体回動するようになっている。又、本実施の形態では、クランクアーム17の連結部17bが下方に向くように、前記回転プレート16が開閉アクチュエータ11の出力軸14に対して組み付けられている。
【0023】前記連結部17bにはロッド19の一端が回動可能に連結されている。ロッド19の他端には、前記アーム5の所定の位置に固定される連結プレート20が回動可能に連結されている。そして、このロッド19及び連結プレート20によって、前記クランクアーム17の回動運動が前記支軸6を支点としたアーム5の揺動運動、即ちトランクドア3の開閉運動に変換される。
・・・(中略)・・・
【0062】○上記実施の形態では、ドア開閉装置10はトランクドア3を開閉するものであったが、ヒンジ4にて前記トランクドア3と同様に支持されていれば、車両のその他のドア、例えばボンネットドア、サイドドア、バックドア等に前記ドア開閉装置10を適用してもよい。」

b 図2から、アーム式ヒンジ4の支軸6が設置箇所の天井に固定されていることが見て取れる。


c 上記a及びbから、引用文献9には、次の事項が記載されていると認められる。
「モータの動力により、回転出力軸14に取り付けられたクランクアーム17の連結部17b、前記連結部17bに接続されているロッド19、及び前記ロッド19に接続されているアーム式ヒンジ4と連動して開閉動作を行い、アーム5と支軸6から構成される前記アーム式ヒンジ4の前記支軸6が車両の天井に固定されている車両のバックドアの開閉を行うドア開閉動作機構」

(コ)引用文献10
引用文献10には、次の記載がある。
「【0023】出力アーム(13)は、軸(21)をもって、ベースプレート(8)の左側面(8c)に、出力ギヤ(12)と一体的に回動しうるよう枢着され、かつ遊端部に左右方向の軸(23)により枢着されたリンク(24)を介して、ヒンジアーム(2)の適所に連結される。
・・・(中略)・・・
【0025】開閉装置(7)をパネルに取り付け、かつリンク(24)をヒンジアーム(2)に連結した取り付け状態において、出力アーム(13)は、モータ(9)の回転により、減速手段(10)及び電磁クラッチ(11)を介して、トランクリッド(1)を全閉位置とする図2に実線で示す全閉位置(A)と、全閉位置(A)から開方向(反時計方向)へ回動して、トランクリッド(1)を全開位置とする2点鎖線で示す全開位置(B)との間を回動可能である。
・・・中略・・・
【0048】本発明は、トランクリッドの他に、上下方向に開閉するバックドア、フード等にも適用できる。」

b 図1から、ヒンジアーム2のヒンジ軸2aが設置箇所の天井に固定されていることが見て取れる。


c 上記a及びbから、引用文献10には、次の事項が記載されていると認められる。
「モータの動力により、モータの回転力が伝達される出力ギヤ12と一体的に回転し得るように枢着された出力アーム13、前記出力アーム13に接続されているリンク24、及び前記リンク24に接続されているヒンジアーム2と連動して開閉動作を行い、前記ヒンジアーム2のヒンジ軸2aが天井に固定されている車両のバックドアの開閉を行うドア開閉動作機構」


ウ 本件補正発明1と引用発明1との対比
(ア)本件補正発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「電動モータ」、「前記電動モータの動作速度をPWM制御により制御する制御装置」、「前記電動モータの駆動により」、「車両のドアの開閉を行う車両用自動開閉装置」は、本件補正発明1における「モータ」、「前記モータの回転数をPWM制御により制御する制御部」、「モータの動力により」、「車両のドアの開閉を行うドア開閉装置」に相当する。
引用発明1における「車両の後端部にヒンジを介して開閉自在に装着されるバックドア」と、本件補正発明1における「ヒンジが天井に固定されている車両のドア」とは、「ヒンジが車両に固定されている車両のドア」である点で共通する。
引用発明1における「前記制御装置は、前記電動モータが駆動制御されるときの制御音(PWM信号を発生するときのスイッチング素子の作動音等)等を考慮して選択された駆動用のPWM信号のキャリア周波数にて前記電動モータの前記PWM制御を行う」ことと、本件補正発明1における「前記制御部は、前記モータが設置される被設置体の共振点の周波数より高く設定されたPWM周波数にて前記モータの前記PWM制御を行い、前記PWM周波数は、15kHzより大き」いこととは、「前記制御部は、所定のPWM周波数にて前記モータの前記PWM制御を行う」という点で共通する。

(イ)上記(ア)から、本件補正発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「モータと前記モータの回転数をPWM制御により制御する制御部とを有し、前記モータの動力により、ヒンジが車両に固定されている車両のドアの開閉を行うドア開閉装置であって、
前記制御部は、所定のPWM周波数にて前記モータの前記PWM制御を行うドア開閉装置」

【相違点1】
PWM制御を行う所定のPWM周波数が、本件補正発明1においては「前記モータが設置される被設置体の共振点の周波数より高く設定されたPWM周波数」であり「15kHzより大き」いのに対して、引用発明1においては、電動モータが駆動制御されるときの制御音(PWM信号を発生するときのスイッチング素子の作動音等)等を考慮して選択することや、スライドドアの場合に約9.8kHzに設定することを示すものの、被設置体の共振点の周波数より高く設定することや15kHzより大きい周波数とすることは特定されていない点。

【相違点2】
本件補正発明1が、ドア開閉装置を開閉動作させた場合の音圧値について、「15kHz以上の高周波の音をカットするローパスフィルタを取り付けた状態において、当該ドア開閉装置を前記車両に設置して、開閉動作させた場合の音圧値が66dB以下である」ことを特定するのに対し、引用発明1においては、車両用自動開閉装置を開閉動作させた場合の音圧値について特定されていない点。

【相違点3】
ドア開閉装置の開閉動作機構が、本件補正発明1においては「出力軸に取り付けられたアーム、前記アームに接続されているロッド、及び前記ロッドに接続されているヒンジと連動」して開閉動作を行い、「前記ヒンジが天井に固定されている」のに対し、引用発明1においては、バックドアを開閉する場合の開閉動作機構について特定されていない点。

エ 判断
以下、相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用文献2には、上記(2)イのとおりの事項が記載されており、引用発明1と、引用文献2に記載された事項とは、いずれも、車両部品を駆動するモータのPWM制御において音の発生を考慮してPWM周波数を選択するという課題を有する点で共通するものであるから、引用発明1におけるPWM信号のキャリア周波数を、引用文献2に記載された事項のように、車両の共振周波数よりも高い側へ外れた特定周波数としてPWM制御を行うことは当業者が容易に想到し得たことである。
また、PWM制御を用いる技術において、人間の可聴領域より高い周波数を用いることにより、可聴領域での騒音レベルを低下させる技術は周知であり(例えば、引用文献3、引用文献4等参照)、人間の可聴領域の上限値が15kHz程度であることは技術常識である(例えば、引用文献5、引用文献6等参照)から、引用発明1において、スライドドアの場合、電動モータの駆動用のPWM信号のキャリア周波数として約9.8kHzを例示していることも踏まえると、引用発明1においてバックドアの場合に電動モータが駆動制御されるときの制御音等を考慮してPWM信号のキャリア周波数を選択するにあたっては、PWM信号のキャリア周波数として15kHzより大きい周波数を選択することは当業者が適宜なし得る事項である。
そして、引用発明1において、電動モータが駆動制御されるときの制御音等を考慮してPWM信号のキャリア周波数を選択するにあたり、上記車両の共振周波数よりも高い側へ外れた特定周波数とすることや、上記15kHzより大きい周波数を選択することは、いずれもPWM信号のキャリア周波数としてより高い周波数を選択することであるから、引用発明1に引用文献2に記載された事項及び周知技術を適用してPWM周波数をより高い周波数とする際に、その周波数を引用文献2に記載された事項及び周知技術の両者を満たすように選択することにより、本件補正発明1の相違点1に係る構成を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
上記2(1)に示したように、「15kHz以上の高周波の音をカットするローパスフィルタを取り付けた状態において、当該ドア開閉装置を前記車両に設置して、開閉動作させた場合の音圧値が66dB以下である」という事項は明確でないが、以下では、なんらかの測定装置に15kHz以上の高周波の音をカットするローパスフィルタを取り付けた状態で、なんらかの所定の測定条件の下で測定を行った場合の音圧値が66dB以下であると仮定して検討をおこなう。
一般に、装置が発生する騒音レベルの低減を課題として有する当業者であれば、騒音レベルの許容値等を考慮して、測定した音圧値が小さくなるように行動することは明らかであり、それによる測定結果の音圧値が66dB以下であるものも本件特許出願前に知られている(例えば、引用文献7参照)。
そして、ドア開閉装置の開閉時の音圧が、被測定物がどのような部材であるかやその形状によって異なることや、測定方法によって異なることは明らかであるところ、本件明細書や図面には、本件補正発明1の装置を車両に設置して、開閉動作させた場合の音圧値を測定する上で、被測定物の具体的な部材や形状、及び、具体的な測定方法について記載はない。また、上記(ア)のとおり、上記相違点1が当業者にとって容易に想到し得たものであるところ、本件補正発明1は、他に音圧値を抑制するための事項を備えたものでもない。
そうすると、上記のような当業者の一般的な行動を勘案すれば、引用発明1に引用文献2に記載された事項及び周知技術を適用する際に、電動モータが駆動制御されるときの制御音等を考慮して測定した音圧値が小さくなるように車両用自動開閉装置を設計するにあたり、「15kHz以上の高周波の音をカットするローパスフィルタを取り付けた状態において、当該ドア開閉装置を前記車両に設置して、開閉動作させた場合の音圧値が66dB以下である」ようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

(ウ)相違点3について
車両の後端部にヒンジを介して開閉自在に装着されるバックドアの開閉動作を行う車両用自動開閉装置として、「出力軸に取り付けられたアーム、前記アームに接続されているロッド、及び前記ロッドに接続されているヒンジと連動して開閉動作を行い、前記ヒンジが天井に固定されている」開閉動作機構は周知であり(例えば、引用文献8?10等参照)、引用発明1における車両の後端部にヒンジを介して開閉自在に装着されるバックドアの開閉動作を行う車両用自動開閉装置の具体化にあたり、前記周知技術の開閉動作機構とすることは当業者が適宜選択することができる事項である。

(エ)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明1の奏する作用効果は、引用発明1、引用文献2に記載された事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書「(3-3)本件発明と引用発明との対比」において、
「しかしながら、引用文献1?5には、モータとモータの回転数をPWM制御により制御する制御部とを有し、モータの動力により、出力軸に取り付けられたアーム、アームに接続されているロッド、及びロッドに接続されているヒンジと連動して、ヒンジが天井に固定されている車両のドアの開閉を行うドア開閉装置であって、制御部は、モータが設置される被設置体の共振点の周波数より高く設定されたPWM周波数にてモータのPWM制御を行い、PWM周波数は、15kHzより大きく、15kHz以上の高周波の音をカットするローパスフィルタを取り付けた状態において、当該ドア開閉装置を車両に設置して、開閉動作させた場合の音圧値が66dB以下である本願の請求項1に係るドア開閉装置は全く記載されておらず、これを示唆する記載もない。
本願明細書の段落[0035]に記載されているように、固有振動数は、ドア開閉装置や車両の具体的な構成に応じて定まる。本願の請求項1に係るドア開閉装置では、PWM周波数を、音圧値が最大となる固有振動数15kHz(図5参照)より大きく設定しているため、音圧値が66dB以下となることが実測により確認されている。従って、本願の請求項1に係るドア開閉装置は、PWM周波数を15kHzより大きく設定したことにより、音圧値を少なくとも66dB以下にすることができるという顕著な効果を奏する。
これに対して、引用文献1?5には、具体的な音圧値が開示されていない。すなわち、引用文献1、2に基づいて、PWM周波数を共振周波数からずらすように設定したとしても、具体的に音圧値をどの程度まで低減することができるか否かは不明である。
従って、本願の請求項1に係るドア開閉装置は、引用文献1?5に記載された技術では得られない格別な効果を奏するものであり、引用文献1?5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは言い難い。」
と主張している。
しかしながら、上記エに示したとおり、アーム、ロッド、ヒンジ等を有する相違点3の開閉動作機構を採用することは当業者が適宜選択できた事項であり、PWM周波数を車両の共振周波数より高い側へ外れた特定周波数に設定することや15kHzより大きく設定することは、当業者が容易に想到し得たことであり、15kHz以上の高周波の音をカットするローパスフィルタを取り付けた状態において、当該ドア開閉装置を前記車両に設置して、開閉動作させた場合の音圧値が66dB以下であるようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることであるから、上記の主張は採用できない。

カ 小括
したがって、本件補正発明1は、引用発明1、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
上記2(1)ウ及び(2)カのとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件発明について
1 本件発明
平成30年9月13日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、平成30年3月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その記載は、前記第2[理由]1(2)に示したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本件発明1は、下記の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2008-5656号公報
引用文献2:特開2006-304473号公報
引用文献3:特許第2712418号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開平11-119838号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2013-244699号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1?5の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)イ(ア)?(オ)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本件発明1は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明1から、「ドア開閉装置」の開閉動作機構及び当該「ドア開閉装置」を開閉動作させた場合の音圧値に係る限定事項を削除したものであって、上記第2の[理由]2(2)ウにおける対比を踏まえると、本件発明1と引用発明1とは、相違点1において相違し、その余の点で一致するものである。
そして、前記第2の[理由]2(2)イに記載した引用文献6は、上記引用文献5が示す周知技術と同様の周知技術を示すものであり、また、前記第2の[理由]2(2)イに記載した引用文献7?10は、本件補正発明1と引用発明1との相違点2及び3に係る、上記音圧値及び開閉動作機構に係る限定事項について周知技術を追加的に示すものである。
そうすると、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明1が、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおり、引用発明1、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本件発明1も、本件補正発明1の検討で言及した引用発明1、引用文献2に記載された事項及び引用文献3?5に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-15 
結審通知日 2019-08-20 
審決日 2019-09-03 
出願番号 特願2014-101796(P2014-101796)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E05F)
P 1 8・ 121- Z (E05F)
P 1 8・ 537- Z (E05F)
P 1 8・ 572- Z (E05F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富士 春奈佐々木 龍  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 有家 秀郎
秋田 将行
発明の名称 ドア開閉装置およびドア開閉方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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