• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1356377
審判番号 不服2018-2337  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-19 
確定日 2019-10-25 
事件の表示 特願2015-520580「ポリマーの使用法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 3日国際公開、WO2014/005039、平成27年10月29日国内公表、特表2015-530969〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年) 6月28日(パリ条約による優先権主張2012年(平成24年) 6月29日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 2月26日 :翻訳文提出
平成28年 5月11日 :手続補正書の提出
平成29年 2月27日付け:拒絶理由通知書
平成29年 9月 1日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 9月29日付け:拒絶査定
平成30年 2月19日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年 2月19日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年 2月19日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、本件補正前の、特許請求の範囲の請求項2の記載からみた補正箇所である。)
「対象における1種以上の毒素による汚染を処置するex vivoで行なわれる方法に使用するための収着剤であって、該毒素を収着することができ、そして、50Å?40,000Åの複数の細孔を含み0.5cc/g?5.0cc/gの細孔体積と0.05mm?2cmの大きさを有する収着剤であり、該毒素が、外因性毒素、または、細菌、ウイルス、菌類もしくは寄生生物の1またはそれ以上を含む微生物により産生される外毒素であり、該毒素が、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、核酸およびそれらの組み合わせを含む収着剤であり、ジビニルベンゼンを含むポリマーを含む収着剤。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年 9月 1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2の記載は次のとおりである。
「対象における1種以上の毒素による汚染を処置するex vivoで行なわれる方法に使用するための収着剤であって、該毒素を収着することができ、そして、50Å?40,000Åの複数の細孔を含み0.5cc/g?5.0cc/gの細孔体積と0.05mm?2cmの大きさを有する収着剤であり、該毒素が、外因性毒素、または、細菌、ウイルス、菌類もしくは寄生生物の1またはそれ以上を含む微生物により産生される外毒素であり、該毒素が、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、核酸およびそれらの組み合わせを含む収着剤。」

2.補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1を削除するとともに、国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文(以下、国際特許出願の明細書の翻訳文を「本願明細書」という。)【0054】の「・・・好ましい収着剤は、ジビニルベンゼン、・・・から選ばれる1種以上のモノマーから派生するポリマーを含む。」との記載に基づき、本件補正前の請求項2に記載された「収着剤」に、「ジビニルベンゼンを含むポリマーを含む」との限定を付加するものであるとともに、補正前の請求項2に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
そうすると、本件補正は、国際出願日における本願明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除及び同項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2011/123767号(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。(訳文:対応する日本語公表公報である特表2013-523772号公報より対応箇所を抜粋)

ア.「全身、限局性、または局所炎症に罹っているかまたはこうした炎症のリスクがある患者のこうした炎症を治療する方法であって、前記患者において炎症性仲介因子の吸着剤の療法的有効用量を投与する工程を含む、前記方法。」([請求項1])

イ.「前記吸着剤が生体適合ポリマーである、請求項1の方法。」([請求項8])

ウ.「前記生体適合ポリマーが、50Å?3000Åの範囲の孔サイズの総孔体積が0.5cc/gより大きく3.0cc/g乾燥ポリマーまでである孔構造を有する、請求項8の方法。」([請求項17])

エ.「いくつかの側面において、本発明は、患者において炎症性仲介因子を吸収する吸着剤の療法的有効用量を投与することによって、全身、限局性、または局所炎症に罹っているかまたはこうした炎症のリスクがある患者のこうした炎症を治療する方法に関する。本発明者らが定義するような炎症性仲介因子は、局所または遠隔細胞、組織または臓器の刺激、炎症、傷害または死を直接または間接的に引き起こしうる物質いずれかである。炎症性仲介因子には、限定されるわけではないが、酵素、サイトカイン、プロスタグランジン、エイコサノイド、ロイコトリエン、キニン、補体、凝固因子、毒素、内毒素、エンテロトキシン、リポ多糖、Fasリガンドなどのタンパク質を含む、細胞のアポトーシスを誘導する物質、細胞断片、酸性または塩基性分泌物などの腐食性物質、胆汁酸塩、脂肪酸、リン脂質、酸化副産物、反応性酸素種、酸素ラジカル、界面活性剤、イオン、および刺激性化学薬品が含まれる。炎症性仲介因子にはまた、インターフェロンおよび免疫調節性抗体、生物製剤または薬剤などの外因性に投与される剤も含まれる。間接的作用には、例えば、炎症促進性免疫応答の活性化を導く事象の連鎖の開始が含まれうる。」([0039])

オ.「本発明の組成物は、非常に多様な炎症状態を治療するのに有用である。例えば、炎症性仲介因子が、ウイルス、細菌、真菌または寄生虫感染、自己免疫疾患、手術、細胞毒性化学療法、骨髄操作、主要組織傷害または外傷、腸間膜低灌流、腸粘膜傷害、マラリア、胃腸炎症性疾患、腸内感染、インフルエンザ、急性呼吸促迫症候群または急性肺傷害などの急性肺炎症、肺塞栓症、膵炎、自己免疫およびコラーゲン血管病、輸血関連疾患、火傷傷害、煙または吸入肺傷害、移植片対宿主病、虚血または梗塞、再灌流傷害、出血、アナフィラキシー、薬剤過剰摂取、放射線傷害および化学薬品傷害などの状況によって引き起こされる全身性炎症反応症候群(SIRS)または敗血症と関連する状態に対して、方法を用いてもよい。方法はまた、限定されるわけではないが、炭疽(炭疽菌(Bacillus anthracis))、インフルエンザ、天然痘、SARSコロナウイルス、腺ペスト(エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis))、ウイルス性出血性熱(エボラおよびマールブルグなどのフィロウイルス、ならびにラッサウイルスのようなアリーナウイルス)、野兎病(野兎病菌(Francisella tularensis))、ハンタウイルス心臓肺症候群(ハンタウイルス)、コレラ毒素、ボツリヌス毒素、リシン毒素、Q熱(コクシエラ・ブルネッティ)、チフス(発疹チフスリケッチア)、およびオウム病(オウム病クラミジア)を含む、潜在的な生物兵器病原体、毒素または原因物質によって特異的に引き起こされる状態を治療するのにも有用である。」
([0041])

カ.「当業者に周知の方法によって、本発明の組成物を投与してもよい。・・・いくつかの態様において、治療は体外である。体外投与には、吸着剤を含有するデバイスを通じて液体を循環させ、そしてこれを体に戻すことによる、血液または生理学的液体からの炎症性仲介因子の除去が含まれる。・・・」
([0044])

キ.「・・・特定のポリマーは、不規則であるかまたは規則的に成形された粒子状物質、例えば0.1ミクロン?2センチメートルの範囲の直径を持つ、粉末、ビーズ、または他の型であってもよい。」
([0052])

ク.「1つの態様において、本発明は、小さいか中程度のサイズのタンパク質分子を吸収し、そして巨大血液タンパク質の吸収を排除するための多孔性ポリマーに関し、ポリマーは、多数の孔を含む。孔は、50,000ダルトンに等しいかまたはこれ未満である、小さいか中適度の大きさのタンパク質分子を吸収する。」([0055])

ケ.「特定の好ましいポリマーは、多孔性高度架橋スチレンまたはジビニルベンゼンコポリマーである。これらのポリマーのいくつかは、最大7%分子量の塩素含量までの部分的クロロメチル化に供された、マクロ多孔性またはメソ多孔性スチレン-ジビニルベンゼン-エチルスチレンコポリマーである。これらのポリマーの他のものは、広範なクロロメチル化、およびそれに続く、膨潤状態での、フリーデル・クラフツ触媒で処理することによる後架橋によって、架橋スチレンコポリマーから生じる、超架橋ポリスチレンである。これらのポリマーのさらに他のものは、モノクロロジメチルエーテルおよびp-キシリレンジクロリドを含む群より選択される二官能性架橋剤で、膨潤状態での広範なさらなる後架橋によって、架橋スチレンコポリマーから生じる、超架橋ポリスチレンである。」([0062])

コ.「この研究は、CytoSorbents多孔性ポリマービーズが、ボツリヌス神経毒素A1型(BoNT/A1)に結合し、そしてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)からこれを一掃する能力を評価する。この研究で用いるビーズは、本特許出願に記載するポリマーの代表である。ジビニルベンゼンポリマー多孔性試験ビーズおよび非多孔性試験ビーズを無菌PBS(pH7.4)中に懸濁した。PBS中のBoNT/A1のストック溶液を100μg/mL(Tufts)で調製した。100μg/mLのBoNT/A1(Tufts、マサチューセッツ州ボストン)を含有する2mLのPBS溶液を、ビーズを含まないか、100μL脱湿(dewetted)非多孔性ビーズまたは100μL脱湿多孔性ビーズ(TDG-057-118-SS)のいずれかを含有する、無菌広口5mLコニカル試験管(Stockwell #3206; 5試験管/ビーズ型)中でインキュベーションした。余分なビーズ体積は、各場合で、わずかであった。0.5μLのストック溶液を除去し、そして後に分析するために、氷上(4℃)で保存した(T=0)。試験管を密封し、そして室温で穏やかに60分間攪拌した。ビーズを落ち着かせ、そして上清の0.5mL試料もまた、氷上に置いた。標準的BCA(ビシンコニン酸)タンパク質アッセイを通じて、BoNT/A1濃度に関して、試料を評価した。結果は、BoNT/A1除去における、ビーズなし、非多孔性ビーズおよび多孔性ビーズの相対的影響を示す。このアッセイにおいて、非多孔性ビーズによる8.6%の除去およびビーズ不含対照における3.9%増加に比較して、多孔性ビーズは、BoNT/A1を38.8%減少させた。結果を図1に示す。」([0076])

サ.

(図1)

(3)引用文献1に記載された発明
上記(2)のア.?ウ.の記載より、引用文献1の請求項1を引用する請求項8をさらに引用する請求項17には、
「全身、限局性、または局所炎症に罹っているかまたはこうした炎症のリスクがある患者のこうした炎症を治療する方法であって、前記患者において炎症性仲介因子の吸着剤の療法的有効用量を投与する工程を含み、前記吸着剤が生体適合ポリマーであって、前記生体適合ポリマーが、50Å?3000Åの範囲の孔サイズの総孔体積が0.5cc/gより大きく3.0cc/g乾燥ポリマーまでである孔構造を有する、前記方法。」が記載されているといえるとともに、請求項17には当該方法に使用される吸着剤それ自体も記載されているといえることから、引用文献1には、

「全身、限局性、または局所炎症に罹っているかまたはこうした炎症のリスクがある患者のこうした炎症を治療する方法であって、前記患者において炎症性仲介因子の吸着剤の療法的有効用量を投与する工程を含む方法に使用される吸着剤であり、前記吸着剤が50Å?3000Åの範囲の孔サイズの総孔体積が0.5cc/gより大きく3.0cc/g乾燥ポリマーまでである孔構造を有する生体適合ポリマーである、吸着剤。」

の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(4)本件補正発明と引用発明との対比
ア.本件補正発明の「毒素」について、本願明細書【0016】には、「用語『毒素』は、陰性臨床転帰に結びつけられる病原因子として同定される物質」と記載されている。ここで、「臨床転帰」とは、通常疾患・怪我等の治療における症状の経過や結果をさすことから、「陰性」の「臨床転帰」に結びつけられる病原因子とは、症状を悪化する方向へ導く任意の病原因子を示すと解される。
一方、引用発明の「炎症性仲介因子」は、上記(2)エ.によれば「局所または遠隔細胞、組織または臓器の刺激、炎症、傷害または死を直接または間接的に引き起こしうる物質いずれか」と定義されており、上記「陰性臨床転帰に結びつけられる病原因子として同定される物質」であると解されるとともに、上記(2)エ.及びオ.に列挙される具体的な各「炎症性仲介因子」は、本願明細書【0016】【0017】【0029】-【0047】にも「毒素」として記載されている。
そうすると、引用発明の「炎症性仲介因子」は、本件補正発明の「毒素」に相当するものといえる。

イ.引用発明における「全身、限局性、または局所炎症に罹っているかまたはこうした炎症のリスクがある患者」は、本件補正発明における「対象」に相当し、本願明細書【0019】の「用語『収着剤』は、吸着剤及び吸収剤を含む」なる記載から、引用発明における「吸着剤」は、本件補正発明における「収着剤」に相当する。
また、引用発明の「炎症を治療する方法」は、「炎症性仲介因子の吸着剤の療法的有効用量を投与する工程を含む方法」であるところ、上記(2)エ.から、引用発明の吸着剤は炎症性仲介因子を吸収するものであり、引用発明の「炎症性仲介因子の吸着剤の療法的有効用量を投与する工程を含む方法」により、毒素の吸収、すなわち「毒素による汚染」が「処置」されることは明らかである。
すると、上記ア.と合わせて、引用発明における「全身、限局性、または局所炎症に罹っているかまたはこうした炎症のリスクがある患者のこうした炎症を治療する方法であって、前記患者において炎症性仲介因子の吸着剤の療法的有効用量を投与する工程を含む方法に使用される吸着剤」は、本件補正発明における「対象における1種以上の毒素による汚染を処置する・・・方法に使用するための収着剤であって、該毒素を収着することができ」に相当する。

ウ.本願明細書【0065】以降に「本発明はさらに以下の実施例によって例示される」として記載される実施例において製造された多孔性ポリマー吸着剤の細孔分布を示す本願明細書【0084】の【表11】及び図1に記載されるとおり、本件補正発明にはその態様として、50Å?1000Åの細孔のみを有するもの(実施例1)、細孔の大部分が1000Å?10000Åであるもの(実施例8)、あるいはその大部分が10000Å?40000Åであるもの(実施例17)等、多様な細孔分布を有するものが包含されると解されるところ、本件補正発明の「50Å?40000Åの複数の細孔を含み」なる記載は、50Å?40000Åの任意の範囲において、その分布を問わず複数の細孔が存在することを示すものといえる。
一方、引用発明の「50Å?3000Åの範囲の孔サイズの『総』孔体積」なる記載、及び「孔」を有する吸着剤の技術常識からみて、引用発明の吸着剤が少なくとも50Å?3000Åの範囲に複数の細孔を含むことは明らかであるとともに、「50Å?3000Å」は本件補正発明の「50Å?40000Å」の範囲に包含される。
そうすると、引用発明の「50Å?3000Åの範囲の孔サイズ」の「孔」を有する吸着剤は、本件補正発明の「50Å?40000Åの複数の細孔」を含む収着剤に相当する。

エ.以上ア.?ウ.をふまえると、本件補正発明と引用発明とは、

「対象における1種以上の毒素による汚染を処置する方法に使用するための収着剤であって、該毒素を収着することができ、そして、50Å?40000Åの複数の細孔を含む、収着剤」
である点で一致し、両発明は以下の点において相違する。

(相違点1)
本件補正発明では「毒素」が「外因性毒素、または、細菌、ウイルス、菌類もしくは寄生生物の1またはそれ以上を含む微生物により産生される外毒素であり、該毒素が、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、核酸およびそれらの組み合わせを含む」ものであるのに対し、引用発明では「炎症性仲介因子」である点。

(相違点2)
本件補正発明は「ex vivoで行われる方法」に使用するものであるのに対し、引用発明は「吸着剤・・・を投与する工程を含む方法」に使用するものである点。

(一応の相違点3)
本件補正発明は「0.5cc/g?5.0cc/gの細孔体積」を有する収着剤であるのに対し、引用発明は「50Å?3000Åの範囲の孔サイズの総孔体積が0.5cc/gより大きく3.0cc/g乾燥ポリマーまでである孔構造を有する」吸着剤である点。

(相違点4)
本件補正発明は「0.05mm?2cmの大きさを有する」収着剤であるのに対し、引用発明の吸着剤はその旨特定されていない点。

(相違点5)
本件補正発明は「ジビニルベンゼンを含むポリマーを含む」収着剤であるのに対し、引用発明は吸着剤が「生体適合ポリマー」である点。

(5)判断
以下、上記相違点について検討する。
ア.相違点1について
上記(2)エ.及びオ.のとおり、引用発明の「炎症性仲介因子」は、エンテロトキシンやコレラ毒素、ボツリヌス毒素、リシン毒素等の、タンパク質であって外毒素に分類されるものを含むものであり、上記(2)コ.及びサ.に示されるとおり、引用文献1には実際にタンパク質であって外毒素の一つであるボツリヌス毒素を吸着剤に吸着させる態様も記載されているところ、引用発明を実施する際、患者の症状に応じ、吸着すべき「炎症性仲介因子」として、例えば上記したようなエンテロトキシン、コレラ毒素、ボツリヌス毒素、リシン毒素を対象とすることに、特段の困難性は見い出せない。

イ.相違点2について
上記(2)カ.の記載から、引用発明の「投与」とは、「吸着剤を含有するデバイスを通じて液体を循環させ、そしてこれを体に戻すことによる、血液または生理学的液体からの炎症性仲介因子の除去」を含む体外投与をも包含するものと解され、本願優先日当時、種々の毒素による疾患の治療のため、血液等を体外に循環し吸着剤と接触させて毒素を除去し、血液等を浄化することは、当業者に周知慣用の手段である。
すると、当該記載から、引用発明を実施する際、症状や炎症性仲介因子の種類等に応じ、「投与」の態様として「吸着剤を含有するデバイスを通じて液体を循環させ、そしてこれを体に戻す」態様、すなわち「ex vivo」で行われる態様を採用することに、何ら困難性は認められない。

ウ.一応の相違点3について
本件補正発明の「0.5cc/g?5.0cc/gの細孔体積」なる記載について、本願明細書【0079】にはその測定装置こそ記載されるものの、細孔体積をどのような細孔径の範囲で測定したのかは定かでない。
しかしながら、本願明細書【0084】の【表11】には「直径50Å?40000Åの細孔の体積」と記載されているとともに、本願明細書【0024】-【0027】にも記載されるように、そもそも本件補正発明は収着対象に応じた細孔径を設定するものであり、その目的からみて設定された細孔径の範囲内の細孔体積に着目したものと認められるので、本件補正発明の「細孔体積」とは、「直径50Å?40000Åである細孔の総孔体積」を意味するものと解するのが相当である。
一方、引用発明では、直径50Å?3000Åである細孔の総孔体積が0.5cc/gより大きく3.0cc/gまでであることは特定されているものの、直径の上限を40000Åとした場合の細孔の総孔体積は特定されていない。
しかしながら、上記(2)ク.に示されるとおり、引用発明の吸着剤は、小?中程度のサイズのタンパク質分子を吸着する一方で、巨大血液タンパク質の吸収を排除するものである点からみて、3000Åを超える細孔が主たる分布となることはないので、引用発明の吸着剤が仮に3000Åを超える細孔を多少有しており、50Å?3000Åである細孔の総孔体積に比して50Å?40000Åである細孔の総孔体積がある程度増大するとしても、引用発明における直径50Å?40000Åである細孔の総孔体積の範囲が本件補正発明の上限値である5.0cc/gを上回ることはないと解される。
したがって、一応の相違点3は、相違点ではない。

エ.相違点4について
上記(2)キ.に示されるとおり、引用文献1には、吸着剤を0.1ミクロン?2センチメートルの範囲の直径を持つ、粉末、ビーズまたは他の型である粒子状物質とすることも記載されていることから、必要に応じて引用発明の吸着剤の大きさを0.1ミクロン?2センチメートルとすることに、格別の困難を要するとはいえない。

オ.相違点5について
上記(2)ケ.に示されるとおり、引用文献1には、吸着剤を構成する好ましいポリマーとしてジビニルベンゼンコポリマーが記載されているところ、当該記載に基づき、必要に応じ引用発明においてジビニルベンゼンコポリマーを用いることに、格別の困難を要するとはいえない。

カ.そして、引用発明においても外毒素を吸着することは引用文献1に実施例として示されているとともに、本願明細書では、実施例の多孔性ポリマー吸着剤がin vitroにおいて各種毒素を吸着することを具体的に示すのみであり、ex vivo特有の作用効果や、収着剤の大きさ及び構成ポリマーの相違による作用効果の差異等は特段示されていないことから、本件補正発明により、引用発明から予測し得ない有利な効果が奏されたとはいえない。

キ.請求人は審判請求書において、
「引用文献1に記載の発明は、その背景技術を説明した段落0005?0018に記載から分かるように、サイトカインの除去が課題となっており、患者に対する吸着剤ポリマーの経口投与を具体的に示した唯一の実施例である Example4 でもサイトカインの除去が扱われている。・・・
上記のように、エンドトキシンは、外毒素とは、化学組成、化学構造、及び、水溶性又は水中での挙動が大きく相違するから、ジビニルベンゼンを含むポリマーを含む収着剤での被吸着性も大きく相違する。当業者は、引用文献1?4の記載から、ジビニルベンゼンを含むポリマーを含む収着剤で、外因性毒素や外毒素を除去しようとは考えない。 」
なる旨主張する。
しかしながら、上記(2)エ.及びオ.に示されるとおり、引用文献1には吸着対象である炎症性仲介因子として、出願人が指摘するサイトカインの他、種々の外毒素が記載されており、また上記(2)コ.及びサ.のとおり、外毒素であるボツリヌス毒素を、吸着剤を使用し経口投与ではなくin vitroで吸着する実施例も記載されているのだから、上記出願人の主張は当を得ないものである。

ク.以上より、本件補正発明は、引用発明並びに引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年 2月19日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年 9月 1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定されるものであり、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項2に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1.(2)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項に1?33に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2011/123767号

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2.で検討した本件補正発明から、「ジビニルベンゼンを含むポリマーを含む」なる限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2.(3)?(5)に記載したとおり、引用発明並びに引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明並びに引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願請求項2に係る発明は、引用発明並びに引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-05-31 
結審通知日 2019-06-03 
審決日 2019-06-17 
出願番号 特願2015-520580(P2015-520580)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 光本 美奈子
特許庁審判官 小川 知宏
滝口 尚良
発明の名称 ポリマーの使用法  
代理人 宮前 徹  
代理人 山本 修  
代理人 中西 基晴  
代理人 中田 隆  
代理人 小野 新次郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ