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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1356395
審判番号 不服2018-8866  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-27 
確定日 2019-11-12 
事件の表示 特願2016-160157「仮想マシンイメージファイルを抽出する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月18日出願公開、特開2017- 84334、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成28年8月17日(パリ条約による優先権主張2015年10月28日,中国)の出願であって,平成29年6月13日付けで拒絶の理由が通知され(同年6月27日発送),同年9月27日に意見書とともに手続補正書が提出され,平成30年2月23日付けで拒絶査定(謄本送達日同年2月27日)がなされ,これに対して同年6月27日に審判請求がなされると共に手続補正がなされ,同年10月23日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ,令和1年6月3日付けで当審により拒絶の理由が通知され(同年6月4日発送),同年9月4日に手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成30年2月23日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
2.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
3.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(進歩性)について
・請求項 1,4-10,13-18
・引用文献等 1-3

●理由2(実施可能要件)及び理由3(明確性)について
省略

<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項2-3,11-12に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。

<引用文献等一覧>
1.特開2014-021754号公報
2.米国特許出願公開第2014/0149696号明細書
3.国際公開第2015/083255号


第3 本願発明

本願請求項1乃至16に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明16」という。)は,令和1年9月4日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載された,次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを含むイメージ抽出コマンドを取得するステップであって、前記抽出されるべきイメージファイルは、基礎イメージファイルを含むか、或いは、前記基礎イメージファイルと増分ファイルとを含むステップと、
前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドであるかどうかを判断するステップと、
前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドである場合に、クラウドコンピューティングプラットフォームを構成する各物理マシンのうちの、仮想マシンに割り当てられるホスト物理マシンであるローカル物理マシンから、前記各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを取得するステップと、
前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイル及び増分ファイルを抽出するコマンドである場合に、前記各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを前記ローカル物理マシンから取得し、前記抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを満たす増分ファイルを前記ローカル物理マシンまたはミラーサーバから取得するステップとを含み、
前記抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを満たす増分ファイルを前記ローカル物理マシンまたはミラーサーバから取得するステップにおいては、
前記ローカル物理マシンに前記イメージ抽出コマンドを満たす増分ファイルが記憶されているかどうかを判断するステップと、
前記ローカル物理マシンに前記増分ファイルが記憶されていれば、前記ローカル物理マシンから前記増分ファイルを取得し、前記ローカル物理マシンに前記増分ファイルが記憶されていなければ、イメージファイル依存チェーンが記憶されているデータベースに増分ファイル検索コマンドを送信し、検索結果に基づいて、ミラーサーバから前記増分ファイルを抽出するステップと
を含むことを特徴とする仮想マシンイメージファイルを抽出する方法。
【請求項2】
前記のイメージファイル依存チェーンが記憶されているデータベースに増分ファイル検索コマンドを送信し、検索結果に基づいて、ミラーサーバから前記増分ファイルを抽出するステップにおいては、さらに、
前記データベースにおいて前記増分ファイルの依存関係を検索し、前記依存関係に基づいてローカル物理マシンに前記増分ファイルの依存ファイルが記憶されているかどうかを検索するステップと、
ローカル物理マシンに前記増分ファイルの依存ファイルが記憶されていなければ、前記ミラーサーバから前記依存ファイルを抽出するステップと
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルが仮想マシンに引用されるかどうかを検出するステップと、
各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルが仮想マシンに引用される場合に、検出された基礎イメージファイルをキープし、前記検出された基礎イメージファイルのタイムスタンプを検出時のタイムスタンプに更新するステップと、
各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルが仮想マシンに引用されず、且つ前記検出された基礎イメージファイルのタイムスタンプが指示する時間から現在時間までの間隔がプリセット時間間隔を超える場合に、前記検出された基礎イメージファイルを削除するステップと
を含むことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
所定時間おきに前記各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを更新するステップを含む
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記基礎イメージファイルは、
オリジナルイメージファイル、または
オリジナルイメージファイルおよびオリジナルイメージファイルのパッチファイルを含む
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基礎イメージファイルは、オリジナルイメージファイルおよびオリジナルイメージファイルの1つのパッチファイルを含む
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記増分ファイルは仮想マシンイメージファイルを作成する時に仮想マシンフロッピーディスクファイルのトップファイルに基づいて生成されるイメージファイルである
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記仮想マシンイメージファイルはqcow2チェーン式構造である
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを含むイメージ抽出コマンドを取得するための第1の取得ユニットであって、前記抽出されるべきイメージファイルは、基礎イメージファイルを含むか、或いは、基礎イメージファイルと増分ファイルとを含む第1の取得ユニットと、
前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドであるかどうかを判断するための判断ユニットと、
前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドである場合に、クラウドコンピューティングプラットフォームを構成する各物理マシンのうちの、仮想マシンに割り当てられるホスト物理マシンであるローカル物理マシンから、前記各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを取得するための第2の取得ユニットと、
前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイル及び増分ファイルを抽出するコマンドである場合に、前記各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを前記ローカル物理マシンから取得し、前記抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを満たす増分ファイルを前記ローカル物理マシンまたはミラーサーバから取得するための第3の取得ユニットとを含み、
前記第3の取得ユニットは、
前記ローカル物理マシンに前記イメージ抽出コマンドを満たす増分ファイルが記憶されているかどうかを判断するための判断サブユニットと、
前記ローカル物理マシンに前記増分ファイルが記憶されていれば、前記ローカル物理マシンから前記増分ファイルを取得するための第1の取得サブユニットと、
前記ローカル物理マシンに前記増分ファイルが記憶されていなければ、イメージファイル依存チェーンが記憶されているデータベースに増分ファイル検索コマンドを送信し、検索結果に基づいて、ミラーサーバから前記増分ファイルを抽出するための第1の抽出サブユニットと
を含むことを特徴とする仮想マシンイメージファイルの抽出を加速する装置。
【請求項10】
前記第1の抽出サブユニットは、
前記データベースにおいて前記増分ファイルの依存関係を検索し、前記依存関係に基づいてローカル物理マシンに前記増分ファイルの依存ファイルが記憶されているかどうかを検索するための検索サブユニットと、
ローカル物理マシンに前記増分ファイルの依存ファイルが記憶されていなければ、前記ミラーサーバから前記依存ファイルを抽出するための第2の抽出サブユニットと
を含むことを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
各物理マシンに予め分配された前記基礎イメージファイルが仮想マシンに引用されるかどうかを検出するための検出ユニットと、
各物理マシンに予め分配された前記基礎イメージファイルが仮想マシンに引用される場合に、検出された基礎イメージファイルをキープし、前記検出された基礎イメージファイルのタイムスタンプを検出時のタイムスタンプに更新するための第1の更新ユニットと、
各物理マシンに予め分配された前記基礎イメージファイルが仮想マシンに引用されず、且つ前記検出された基礎イメージファイルのタイムスタンプが指示する時間から現在時間までの間隔がプリセット時間間隔を超える場合に、前記検出された基礎イメージファイルを削除する削除ユニットと
をさらに含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の装置。
【請求項12】
所定時間おきに各物理マシンに予め分配された前記基礎イメージファイルを更新するための第2の更新ユニットをさらに含む
ことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記装置における前記基礎イメージファイルは、
オリジナルイメージファイル、または
オリジナルイメージファイルおよびオリジナルイメージファイルのパッチファイルを含む
ことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記装置における前記基礎イメージファイルは、オリジナルイメージファイルおよびオリジナルイメージファイルの1つのパッチファイルを含む
ことを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記装置における前記増分ファイルは仮想マシンイメージファイルを作成する時に仮想マシンフロッピーディスクファイルのトップファイルに基づいて生成されるイメージファイルである
ことを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記装置における前記仮想マシンイメージファイルはqcow2チェーン式構造である
ことを特徴とする請求項15に記載の装置。」


第4 引用例

1 引用例1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の第一国出願前に既に公知である,特開2014-21754号公報(平成26年2月3日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は説明のために当審で付加。以下同様。)

A 「【0015】
図1に示すように、仮想マシン管理システム100は、サーバ等の一般的なコンピュータであり、記憶部110と、制御部120と、通信部130と、これらを相互に接続するシステムバス140と、を備えている。仮想マシン管理システム100は、ネットワークを介して複数のクライアント端末200に接続される。仮想マシン管理システム100は、クライアント端末200からの指示にしたがって、後述する登録、変更、削除といった各種操作に応じた処理を実行する。また、仮想マシン管理システム100は、クライアント端末200からの指示にしたがって、後述するブランチを作成し、仮想マシンを階層的に管理する。なお、クライアント端末200は、一般的なコンピュータである。
【0016】
記憶部110は、ハードディスクやメモリなどから構成され、プログラム111と、複数の履歴DB112と、差分情報テーブル113と、共通部分DB114と、が格納される。記憶部110には、仮想マシン起動領域が予め設定されている。
【0017】
プログラム111は、仮想マシン管理システム100上で実行される後述の処理を実施する機能を有するソフトウェアである。
【0018】
履歴DB112は、図2に示すように、リビジョン情報と、操作日時情報と、差分識別情報と、コメント情報と、仮想マシン識別情報と、作業者名情報と、操作内容情報と、を対応付けたレコードを1レコードとするデータベースであり、仮想マシン単位で格納されている。履歴DB112には、仮想マシンに対して、後述する登録、変更、削除といった各種操作(操作)が加えられる度に、各種情報が格納される。ここで、例えば、登録は、後述するコミット処理やブランチ作成処理を示し、変更は、マスタファイル登録処理を示し、削除は、ブランチ削除処理を示す。なお、履歴DB112には、初期の仮想マシンの状態を示すバイナリデータ(初期バイナリデータ)が記憶されている。
【0019】
リビジョン情報は、仮想マシンに対する操作が行われる度に割り当てられ、操作が行われた順に付与される通し番号である。操作日時情報は、仮想マシンに対する操作が行われた日時を示す情報である。差分識別情報は、後述する差分情報毎に付与される情報であり、当該差分情報を識別する識別情報である。コメント情報は、操作が行われた理由や仮想マシンの説明を示す情報である。仮想マシン識別情報は、複数構築された仮想マシンのうちのいずれの仮想マシンであるかを識別する情報である。作業者名情報は、操作を行った作業者を特定する情報である。操作内容情報は、登録、変更、削除などといった各種操作のうちのいずれの操作が行われたのかを示す情報である。
【0020】
差分情報テーブル113は、仮想マシンに対する操作が行われた場合に、操作の前後における仮想マシンの状態の差分を示す情報(差分情報)が、差分識別情報と対応付けられて格納されているテーブルである。具体的に、差分情報は、記憶部110に設けられた仮想マシン起動領域に記憶されている仮想マシンバイナリデータの内容と、変更処理が行われる以前の仮想マシンバイナリデータの内容との差分を示す情報である。
【0021】
共通部分DB114は、複数の仮想マシン間で共通する設定情報等が定義された共通情報を、仮想マシン識別情報とリビジョン情報とに応付けたレコードを1レコードとするデータベースである。共通情報には、共通するファイル名とそのパス情報が含まれている。
【0022】
制御部120は、CPU(Central Processing Unit)等から構成される。制御部120は、記憶部110に記憶されたプログラム111に従って動作し、プログラム111に従った処理を実行する。制御部120は、プログラム111により提供される主要な機能部として、コミット部121と、復元部122と、ブランチ作成部123と、ブランチ削除部124と、マスタファイル登録部125と、を備えている。
【0023】
コミット部121は、後述する通信部130を介してクライアント端末200からコミット命令を取得し、差分情報を生成して登録する機能を有している。復元部122は、通信部130を介してクライアント端末200から復元命令を取得し、当該復元命令に基づいて記憶部110の記憶されている差分情報と共通情報を特定して、仮想マシンの状態を、復元命令により要求される仮想マシンの状態に復元する機能を有している。」

B 「【0038】
次に、復元処理について、図6および図7を参照して説明する。復元処理は、現在の仮想マシンの状態(現在のバイナリデータ)を、過去にコミット処理を行ったときの状態(過去のバイナリデータ)に戻す処理である。復元処理は、上記コミット処理にて差分情報を生成するときに実行される場合と、クライアント端末200からの復元命令に基づいて実行される場合とがあるが、ここでは、クライアント端末200からの復元命令に基づいて実行される場合を中心に説明する。なお、具体的には、現在の仮想マシンが図4に示す状態Cであり、状態Bの仮想マシンに復元する処理を例として説明する。復元処理において、制御部120は、まず、復元部122の機能により通信部130を介して受信した復元命令を取得する(ステップS201)。復元命令には、仮想マシン識別情報と、操作内容情報と、作業者名情報と、リビジョン情報と、が含まれている。
【0039】
続いて制御部120は、ステップS201で取得した復元命令に含まれる仮想マシン識別情報に基づいて、復元対象となる仮想マシンを特定する(ステップS202)。そして、ステップS202で特定した仮想マシンに対応する初期バイナリデータを、記憶部110に格納されている履歴DB112を参照して取得する(ステップS203)。
【0040】
ステップS203の処理を実行した後は、ステップS201で取得した復元命令に含まれるリビジョン情報に基づいて復元すべきリビジョンを特定する(ステップS204)。続いてステップS204で特定したリビジョンを、復元に必要な差分情報の数(履歴DB112を参照する回数)として記憶部110に格納する(ステップS205)。例えば、状態Bの仮想マシンに復元する場合には、状態Bの仮想マシンに対応するリビジョンは「2」であるため、復元に必要な差分情報の数を「2」として記憶部110に格納する。
【0041】
ステップS205の処理を実行した後は、記憶部110の履歴DB112を参照して、最初の(最も古い)リビジョン(リビジョン1)に対応する差分識別情報を特定し、差分情報テーブル113を参照して差分情報を取得する(ステップS207)(図7(B))。そして、ステップS203の処理にて取得した初期バイナリデータに適用する(ステップS208)(図7(C))。これにより、バイナリデータは、過去(過去にコミット処理を行ったとき)の状態(状態A)に復元されることとなる。なお、ステップS207で取得した差分情報内に共通部分に対する差分が含まれている場合には、ブランチに属する全ての仮想マシンを、特定した差分情報で上書きすることで、仮想マシンの状態を更新する。
【0042】
ステップS208の処理を実行した後は、ステップS205にて記憶部110へ記憶した、復元に必要な差分情報の数を「1」減算することで、記憶部110に記憶されている復元に必要な差分情報の数を更新する(ステップS209)。例えば、状態Bの仮想マシンに復元する場合には、ステップS209の処理にて、復元に必要な差分情報の数を「2」から「1」へと「1」減算する。続いて、復元に必要な差分情報の数が「0」であるか否かを判定し(ステップS210)、「0」でない場合には(ステップS210;No)、ステップS207の処理に戻る。例えば、上記の例のように、状態Bの仮想マシンに復元する場合には、一度ステップS209の処理を行った段階では、復元に必要な差分情報の数が「1」になっており、「0」ではないため、ステップS207の処理に戻ることとなる。この場合には、ステップS207の処理にて、前回取得した差分情報の次の差分情報(差分2)を取得するようにすればよい。具体的には、初期値として適用すべき差分情報を「1」と設定しておき、ステップS207の処理を実行する度に、適用すべき差分情報を「1」インクリメントし、ステップS207にて取得すべき差分情報を特定すればよい。
【0043】
ステップS210の処理にて復元に必要な差分情報の数が「0」であると判定した場合、復元すべきリビジョン情報の仮想マシンの状態(状態C)となったと判定し、当該バイナリデータを記憶部110の仮想マシン起動領域に登録するとともに(ステップS211)、ステップS201で取得した復元命令に含まれる情報等を記憶部110の履歴DB112に登録して、復元処理を終了する。例えば、状態Bの仮想マシンに復元する場合には、ステップS207の処理に戻り、ステップS207にて差分2の差分情報が取得される(図7(D))。そして、ステップS208にて、前回差分1が適用されたバイナリデータ(状態Aのバイナリデータ)に、差分2が適用され(図7(E))、状態Bのバイナリデータとなる。その後、ステップS209にて復元に必要な差分情報の数が「0」に更新され、ステップS211の処理にて、当該バイナリデータ(状態Bのバイナリデータ)が記憶部110の仮想マシン起動領域に登録される(図7(F))。」

上記記載事項A及びBから,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「サーバ等の一般的なコンピュータである仮想マシン管理システム100は,記憶部110と,制御部120と,通信部130と,これらを相互に接続するシステムバス140とを備えていて,ネットワークを介して複数のクライアント端末200に接続され,クライアント端末200からの指示にしたがって,登録,変更,削除といった各種操作に応じた処理を実行するものであって,
前記記憶部110は,複数の履歴DB112と,差分情報テーブル113と,共通部分DB114と,が格納され,仮想マシン起動領域が予め設定されており,
前記履歴DB112は,リビジョン情報と,操作日時情報と,差分識別情報と,コメント情報と,仮想マシン識別情報と,作業者名情報と,操作内容情報と,を対応付けたレコードを1レコードとするデータベースであり,仮想マシン単位で格納されており,初期の仮想マシンの状態を示すバイナリデータ(初期バイナリデータ)が記憶されており,
前記操作日時情報は,仮想マシンに対する操作が行われた日時を示す情報であり,
前記差分識別情報は,後述する差分情報毎に付与される情報であり,当該差分情報を識別する識別情報であり,
前記仮想マシン識別情報は,複数構築された仮想マシンのうちのいずれの仮想マシンであるかを識別する情報であり,
前記差分情報テーブル113は,仮想マシンに対する操作が行われた場合に,操作の前後における仮想マシンの状態の差分を示す情報(差分情報)が,差分識別情報と対応付けられて格納されているテーブルであり,
前記差分情報は,記憶部110に設けられた仮想マシン起動領域に記憶されている仮想マシンバイナリデータの内容と,変更処理が行われる以前の仮想マシンバイナリデータの内容との差分を示す情報であり,
前記制御部120は,プログラム111により提供される主要な機能部として,コミット部121と,復元部122と,ブランチ作成部123と,ブランチ削除部124と,マスタファイル登録部125と,を備え,
前記復元部122は,通信部130を介してクライアント端末200から復元命令を取得し,当該復元命令に基づいて記憶部110の記憶されている差分情報と共通情報を特定して,仮想マシンの状態を,復元命令により要求される仮想マシンの状態に復元する機能を有していて,
復元処理は,現在の仮想マシンの状態(現在のバイナリデータ)を,過去にコミット処理を行ったときの状態(過去のバイナリデータ)に戻す処理であり,クライアント端末200からの復元命令に基づいて実行され,前記復元処理において,復元部122の機能により通信部130を介して受信した復元命令を取得し,前記復元命令には,仮想マシン識別情報と,操作内容情報と,作業者名情報と,リビジョン情報と,が含まれており,
前記復元命令に含まれる仮想マシン識別情報に基づいて,復元対象となる仮想マシンを特定し,前記特定した仮想マシンに対応する初期バイナリデータを,記憶部110に格納されている履歴DB112を参照して取得し,
前記復元命令に含まれるリビジョン情報に基づいて復元すべきリビジョンを特定し,
前記記憶部110の履歴DB112を参照して,最初の(最も古い)リビジョン(リビジョン1)に対応する差分識別情報を特定し,差分情報テーブル113を参照して差分情報を取得して初期バイナリデータに適用し,これにより,バイナリデータは,過去(過去にコミット処理を行ったとき)の状態(状態A)に復元され,
復元すべきリビジョン情報の仮想マシンの状態(状態C)となったと判定されたら,当該バイナリデータを記憶部110の仮想マシン起動領域に登録する
仮想マシン管理システムの仮想マシン復元方法。」

2 引用例2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の第一国出願前に既に公知である,米国特許公開第2014/0149696号明細書(2014年5月29日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

C 「[0034] The method 300 starts, and the processing logic, at block 302 , identifies a restore request. The processing logic, in one embodiment, identifies a restore request by receiving, via a user interface, a request from a user or client device to restore a virtual machine. In another embodiment the processing logic receives a restore request from the virtualization manager which may be configured to identify when a virtual machine has become unresponsive, for example.
[0035] At block 304 , the processing logic retrieves the virtual machine configuration data (e.g., metadata) from the data store. The processing logic, in one embodiment, is configured to retrieve a specific metadata and separate storage snapshot from the data store based upon the restore request. The restore request may include a snapshot identifier, such as a time stamp received from a user. In another embodiment, the processing logic retrieves a most recent snapshot, or alternatively, a snapshot of a last known functioning configuration. In one embodiment, the virtualization manager 160 , which monitors the health of the virtual machines, may maintain a list of known functioning virtual machines, and therefore provide the processing logic with a timestamp, for example, that is indicative of a known functioning version of the virtual machine. The processing logic also retrieves a storage snapshot of the storage devices that corresponds to the retrieved metadata snapshot. In one example, the storage snapshot of the storage devices is maintained by a host device (e.g., hardware 124 of FIG. 1 ), and the host device prepares the storage snapshot of the storage device for provisioning by, for example, mounting the storage snapshot.
[0036] At decision block 306 , the processing logic determines if the integrity of the virtual storage device snapshot is valid. In one embodiment, the processing logic determines if the integrity of the virtual storage device snapshot is valid by performing a cyclic redundancy check, or by comparing hash values. The processing logic, in one example, is also configured to determine if the desired storage snapshot of the storage devices no longer exists. Stated differently, over time, storage requirements may dictate that old storage snapshots of the storage devices be deleted. The processing logic determines if the storage snapshot corresponding to the retrieved metadata snapshot exists, and if the storage snapshot is valid. If not, the processing logic presents only the virtual machine metadata at block 308 . In a further embodiment, the processing logic may determine that while some virtual storage devices are corrupt, at least one virtual storage device is intact (i.e., integrity is verified). In this example, the processing logic presents the virtual machine configuration with the intact virtual storage device.
[0037] If the processing logic determines that the storage snapshot is valid, the processing logic, at block 310 , presents a preview of the virtual machine based upon the storage snapshot and the metadata snapshot, as described above with reference to FIG. 1 . At decision block 312 , the processing logic determines whether to “commit” the virtual machine to a host device. In other words, before provisioning the virtual machine based upon the metadata snapshot and storage snapshot, the processing logic presents the preview to the user and receives instructions from the user of whether to provision the virtual machine, or to preview a different snapshot. If yes, the processing logic, at block 314 , restores the virtual machine by provisioning, or instructing a hypervisor to provision a virtual machine based upon the metadata snapshot and the storage snapshot.」
(当審仮訳:
[0034]方法300が開始されると、処理ロジックは、ブロック302で、リストア要求を識別する。処理ロジックは、一実施形態では、ユーザインターフェースを介して、受信側のユーザまたはクライアント・デバイスからの要求を、仮想マシンを復元することにより、復元要求を識別する。別の実施形態では、処理ロジックは、仮想マシンが応答不能になったときを識別するように構成されていてもよい仮想化マネージャから復元要求を受信する。
[0035]ブロック304において、処理ロジックは、データストアから仮想マシンコンフィギュレーションデータ(例えば、メタデータ)を検索する。処理論理は、1つの実施形態では、リストア要求に基づいてデータ記憶部から特定のメタ情報と別個のストレージのスナップショットを取得するように構成される。復元要求は、ユーザから受信されたタイムスタンプのようなスナップショット識別子を含むことができる。別の実施形態では、処理論理は、最新のスナップショット、または代替的に、最後の既知の機能構成のスナップショットを検索する。一実施形態では、仮想マネージャ160は、仮想マシンの状態を監視するには、既知の機能するヴァーチャルマシンのリストを維持し、したがって、例えば、仮想マシンの既知の機能バージョンのタイムスタンプ処理論理を提供することができる。処理ロジックはまた、検索されたメタデータのスナップショットに対応する記憶装置のスナップショットを取得する。一例では、記憶装置のスナップショットは、ホスト装置(例えば、図1のハードウェア124)によって維持されると、ホスト装置は、例えば、スナップショットを提供する記憶装置のスナップショットを作成する。
[0036]判定ブロック306において、処理ロジックは、仮想ストレージ装置のスナップショットの完全性が有効であるかどうかを判定する。一実施形態では、処理ロジックは、仮想ストレージ装置のスナップショットの完全性は、巡回冗長検査を行うことにより、ハッシュ値を比較することによって、有効であるかどうかを判定する。処理ロジックは、また、一例では、記憶装置はもはや所望のストレージのスナップショットが存在しないかどうかを判定するように構成される。別の言い方をすれば、時間が経つにつれて、貯蔵要件は、ストレージ・デバイスのストレージのスナップショットを削除するよう指示することができる。処理論理は、検索したメタデータのスナップショットに対応するスナップショットが存在する場合には、スナップショットが有効であるかどうかを判定する。そうでない場合、処理ロジックは、ブロック308で仮想計算機のみメタデータを提示する。さらなる実施形態では、処理ロジックは、いくつかの仮想記憶装置が破壊されているが、少なくとも1つの仮想記憶装置が無傷である(すなわち、完全性が検証された)と決定することができる。この例では、処理ロジックは、完全な仮想ストレージ装置と仮想マシンの構成を示す。
[0037]処理ロジックは、ストレージスナップショットが有効であると判定した場合、処理ロジックは、ブロック310で、スナップショット・メタデータのスナップショットに基づいて仮想マシンのプレビューを提示することを、図1を参照して上述した通りである。判定ブロック312において、処理ロジックは、仮想マシンをホスト・デバイスに“commit”するか否かを判定する。換言すると、メタデータのスナップショットを記憶するスナップショットに基づき仮想マシンをプロビジョニングする前に、処理ロジックは、プレビューをユーザに提示して、仮想マシンを提供するために、異なるスナップショットをプレビューするか否かのユーザからの指示を受け付ける。肯定の場合、処理ロジックは、ブロック314では、プロビジョニング時の仮想マシンを復元する、またはメタデータのスナップショットを記憶するスナップショットに基づき仮想マシンをプロビジョニングするためにハイパーバイザを指示する。)

3 引用例3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の第一国出願前に既に公知である,国際公開第2015/083255号(2015年6月11日国際公開。以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

D 「[0018] マスタイメージ50は、OS及びアプリケーションを含むブートイメージである。差分データ60は、各ユーザがOS又はアプリケーションを利用して生成及び更新したデータである。例えば、同一の組織のユーザはひとつのマスタイメージ50を複数のユーザで使用し、各ユーザがOSやアプリケーションを用いて生成又は更新したデータは、差分データ60としてユーザ毎に保持される。本実施例では、オリジナルのマスタイメージ50-iで表し、マスタイメージ50の複製をマスタイメージのコピー50-icで表す。ただし、iは個々のマスタイメージを示す添え字である。差分データ60も同様であり、オリジナルの差分データを60-iで表し、差分データの複製を差分データのコピー60-icで表す。」

E 「[0118] ステップS55で、端末管理サーバ3は、新マスタイメージで当該ユーザの仮想マシン113を起動させるために、ターミナルサーバ4に新たな仮想マシン113の割り当て要求を送信する。すなわち、端末管理サーバ3は、ユーザ情報管理テーブル202の当該ユーザのレコードを選択し、使用マスタイメージ2021と差分データ2022を取得する。そして、端末管理サーバ3は、使用マスタイメージ2021と差分データ2022を含めて仮想マシン113の割り当て要求をターミナルサーバ4に送信する。ターミナルサーバ4は、図17に示したVM割当プログラム110を実行して、新マスタイメージで仮想マシン113を起動させる。」

F 「[0121] 端末管理サーバ3は、マスタイメージ管理テーブル201を参照し、最終使用日2013の値を取得する(S61)。ステップS62では、端末管理サーバ3が、最終使用日2013の日付から本日までの日数が所定の日数を超えたマスタイメージ又はコピー(レコード)があるか否かを判定する。なお、所定の日数は、例えば、30日などに設定され、マスタイメージ(又はコピー)が使用されていない期間(未使用期間)の閾値である。最終使用日2013から本日までの日数が未使用期間の閾値を超えるレコードがある場合には、ステップS63へ進み、未使用期間の閾値を超えるレコードがない場合には処理を終了する。
…(中略)…
[0123] ステップS64では、端末管理サーバ3が、未使用期間が閾値を超え、かつ、ゴールデンイメージが当サイトにないマスタイメージ(又はコピー)をストレージ装置5から削除する。」


第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(あ)引用発明の「仮想マシン管理システム100」は,「クライアント端末200からの指示にしたがって,登録,変更,削除といった各種操作に応じた処理を実行するもの」であり,「記憶部110」に格納される「履歴DB112」には,「初期の仮想マシンの状態を示すバイナリデータ(初期バイナリデータ)が記憶されて」いる。
そして,「制御部12」の「主要な機能部」の一つである「復元部122」は,「クライアント端末200から復元命令を取得し,当該復元命令に基づいて記憶部110の記憶されている差分情報と共通情報を特定して,仮想マシンの状態を,復元命令により要求される仮想マシンの状態に復元する機能を有して」いて,「現在の仮想マシンの状態(現在のバイナリデータ)を,過去にコミット処理を行ったときの状態(過去のバイナリデータ)に戻す処理」である「復元処理」は,「クライアント端末200からの復元命令に基づ」いて実行され,「前記復元命令に含まれる仮想マシン識別情報」に基づいて,「復元対象となる仮想マシンを特定し,前記特定した仮想マシンに対応する初期バイナリデータを,記憶部110に格納されている履歴DB112を参照して取得」し,「前記復元命令に含まれるリビジョン情報に基づいて復元すべきリビジョンを特定」し,「前記記憶部110の履歴DB112を参照して,最初の(最も古い)リビジョン(リビジョン1)に対応する差分識別情報を特定し,差分情報テーブル113を参照して差分情報を取得して初期バイナリデータに適用し,これにより,バイナリデータは,過去(過去にコミット処理を行ったとき)の状態(状態A)に復元」されることから,当該「初期バイナリデータ」及び「差分情報」は,当該復号の際に必要となる情報であって,本願発明1の「抽出されるべきイメージファイル」に対応し,引用発明の「初期バイナリデータ」は,本願発明1の「基礎イメージファイル」に対応するといえる。また,引用発明の「復元処理」は,「クライアント端末200からの復元命令に基づ」いて実行されることから,当該「復元命令」は,本願発明1の「イメージ抽出コマンド」に対応するといえるので,引用発明と本願発明1とは,“抽出されるべきイメージファイルのイメージ抽出コマンドを取得するステップであって,前記抽出されるべきイメージファイルは,基礎イメージファイルを含むステップ”を含む点で一致する。

(い)引用発明の「復元処理」では,「復元対象となる仮想マシンを特定し,前記特定した仮想マシンに対応する初期バイナリデータを,記憶部110に格納されている履歴DB112を参照して取得」する処理を含む一方,「前記復元命令に含まれるリビジョン情報に基づいて復元すべきリビジョンを特定」し,「最初の(最も古い)リビジョン(リビジョン1)に対応する差分識別情報を特定し,差分情報テーブル113を参照して差分情報を取得して初期バイナリデータに適用し,これにより,バイナリデータは,過去(過去にコミット処理を行ったとき)の状態(状態A)に復元」されることに鑑みれば,当該「差分情報」を用いない,すなわち「初期バイナリデータ」のみを用いた復元も行われ得ることが読み取れるから,上記(あ)の認定を踏まえて,引用発明と本願発明1とは,“前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドであるかどうかを判断するステップ”を含む点,及び“前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドである場合に,基礎イメージファイルを取得するステップ”を含む点で一致するといえる。

(う)引用発明の「復元処理」ではまた,「初期バイナリデータを,記憶部110に格納されている履歴DB112を参照して取得」するとともに,「差分情報テーブル113を参照して差分情報を取得」していて,当該「差分情報」と本願発明1の「増分ファイル」とは,“基礎イメージファイル”とともに取得される“他の情報”である点で共通するといえる。
そして,当該「差分情報」は,「差分情報テーブル113を参照」して「取得」され,当該「差分情報テーブル113」は,「サーバ等の一般的なコンピュータである仮想マシン管理システム100」の「記憶部110」に「格納されている」ものであり,“他の情報をサーバから取得”しているといえることから,引用発明と本願発明1とは,“前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイル及び他の情報を抽出するコマンドである場合に,前記他の情報をサーバから取得するステップ”を含む点で一致する。

(え)引用発明において,「差分情報テーブル113を参照して差分情報を取得」する際には,「差分情報テーブル113を参照して」取得される。上記(う)のとおり,当該「差分情報テーブル113」は,「サーバ等の一般的なコンピュータである仮想マシン管理システム100」が備える「記憶部110」に格納されるものであり,当該「差分情報テーブル113」から「差分情報を取得」する際にはそのようなテーブルが設けられた“データベース”といい得るものに対して“コマンドを送信”してなされることは当業者にとって自明であるから,引用発明と本願発明1とは,“前記他の情報を前記サーバから取得するステップにおいて”,“データベースにコマンドを送信し,検索結果に基づいて,前記サーバから前記他の情報を抽出するステップ”を含む点で一致するといえる。

(お)引用発明の「仮想マシン復元方法」は,上記(あ)乃至(う)で検討したとおり,本願発明1の「抽出されるべきイメージファイル」に対応する情報を抽出する方法であるともいえる。また,引用発明においては,「復元すべきリビジョン情報の仮想マシンの状態(状態C)となったと判定されたら,当該バイナリデータを記憶部110の仮想マシン起動領域に登録」して,仮想マシンを復元していることから,引用発明の「仮想マシン復元方法」と本願発明1の「仮想マシンイメージファイルを抽出する方法」とは,“仮想マシンイメージファイルを抽出する方法”の点で共通するといえる。

(か)以上,(あ)乃至(お)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
抽出されるべきイメージファイルのイメージ抽出コマンドを取得するステップであって,前記抽出されるべきイメージファイルは,基礎イメージファイルを含むステップと,
前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドであるかどうかを判断するステップと,
前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドである場合に,基礎イメージファイルを取得するステップと,
前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイル及び他の情報を抽出するコマンドである場合に,前記他の情報をサーバから取得するステップとを含み,
前記他の情報を前記サーバから取得するステップにおいては,
データベースにコマンドを送信し,検索結果に基づいて,前記サーバから前記他の情報を抽出するステップと
を含む仮想マシンイメージファイルを抽出する方法。

〈相違点1〉
本願発明1の「イメージ抽出コマンド」が,「抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを含む」とともに,当該「抽出されるべきイメージファイル」が,「基礎イメージファイルを含むか、或いは、前記基礎イメージファイルと増分ファイルとを含む」ものであるのに対し,引用発明は,「履歴DB112」に「リビジョン情報」や「仮想マシンに対する操作が行われた日時を示す情報」である「操作日時情報」が含まれるものの,「クライアント端末200」から取得されるところの「復元命令」にタイムスタンプが含まれることや,「抽出されるべきイメージファイル」に「基礎イメージファイルと増分ファイルとを含む」ことまでは特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明1が,「クラウドコンピューティングプラットフォームを構成する各物理マシンのうちの、仮想マシンに割り当てられるホスト物理マシンであるローカル物理マシンから、前記各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを取得する」ステップを有するのに対し,引用発明は,「クラウドコンピューティングプラットフォームを構成」する「各物理マシン」が特定されておらず,また当該「各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを取得する」ことも特定されていない点。

〈相違点3〉
本願発明1が,「前記イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイル及び増分ファイルを抽出するコマンドである場合に、前記各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを前記ローカル物理マシンから取得し、前記抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを満たす増分ファイルを前記ローカル物理マシンまたはミラーサーバから取得するステップ」を含むのに対し,引用発明は,「各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを前記ローカル物理マシンから取得」することが特定されておらず,「抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを満たす増分ファイルを前記ローカル物理マシンまたはミラーサーバから取得する」ものではない点。

〈相違点4〉
本願発明1が,「前記抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを満たす増分ファイルを前記ローカル物理マシンまたはミラーサーバから取得するステップ」において,「前記ローカル物理マシンに前記イメージ抽出コマンドを満たす増分ファイルが記憶されているかどうかを判断」し,「前記ローカル物理マシンに前記増分ファイルが記憶されていれば、前記ローカル物理マシンから前記増分ファイルを取得し、前記ローカル物理マシンに前記増分ファイルが記憶されていなければ、イメージファイル依存チェーンが記憶されているデータベースに増分ファイル検索コマンドを送信し、検索結果に基づいて、ミラーサーバから前記増分ファイルを抽出するステップ」を有するのに対し,引用発明は,「ローカル物理マシン」や「ミラーサーバ」に相当する構成を有さず,したがって,「前記ローカル物理マシンに前記イメージ抽出コマンドを満たす増分ファイルが記憶されているかどうかを判断」したり,「前記ローカル物理マシンに前記増分ファイルが記憶されていれば、前記ローカル物理マシンから前記増分ファイルを取得し、前記ローカル物理マシンに前記増分ファイルが記憶されていなければ、イメージファイル依存チェーンが記憶されているデータベースに増分ファイル検索コマンドを送信し、検索結果に基づいて、ミラーサーバから前記増分ファイルを抽出する」ようなことは行われていない点。

(2) 相違点についての判断

事案に鑑み,先に相違点2及び3について検討する。
本願発明1は,従来,クラウドコンピューティングプラットフォームアーキテクチャが仮想マシンを作成する場合に,クラウドコンピューティングプラットフォームアーキテクチャにおける仮想マシン管理モジュールが仮想マシンイメージ管理モジュールによってイメージファイルを検索してミラーサーバからイメージファイルを抽出することで仮想マシンを作成することができ(本件明細書段落2),ハードウェア仮想化技術に基づくKVM仮想マシンにおいて,仮想マシンシステムディスクのイメージファイルは,サイズが通常G bytesのオーダーであり,仮想マシンシステムディスクはWindowsオペレーティングシステムを用いると,該オペレーティングシステムのイメージファイルはほぼ10Gのオーダーであり(同段落3),上記のクラウドコンピューティングプラットフォームアーキテクチャにおける仮想マシン管理モジュールは仮想マシンイメージ管理モジュールによってイメージファイルを検索してイメージファイルを抽出することで仮想マシンを作成し,仮想マシンを作成するたびに,仮想マシンイメージ管理モジュールによってミラーサーバからイメージファイルを抽出するので,仮想マシンイメージ管理モジュールが所在するサーバおよびミラーサーバに対する負荷が非常に大きく,且つ仮想マシンの作成速度が遅いことを技術的背景及び解決しようとする課題としたものであって(同段落4),イメージ抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドである場合に,各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルをローカルから取得し,基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドではない場合に,各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルをローカルから取得し,前記抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを満たす増分ファイルをローカルまたはミラーサーバから取得することをその解決手段として採用している。
そして本願発明1は,それにより仮想マシンを作成する時に抽出されるべきイメージファイルのデータ量を効果的に減少させ,イメージファイルを抽出する時間を減少させるとともに,仮想マシンイメージ管理モジュールが所在するサーバおよびミラーサーバの負荷を軽減し,それにより仮想マシンの作成速度を向上でき,仮想マシンに迅速な配信サービスを提供できるようにしたものである(同段落19)。
してみれば,上記相違点2及び3に係る構成,とりわけ,「クラウドコンピューティングプラットフォームを構成する各物理マシンのうちの、仮想マシンに割り当てられるホスト物理マシンであるローカル物理マシンから、前記各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを取得する」こと,及び「前記各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルを前記ローカル物理マシンから取得し、前記抽出されるべきイメージファイルのタイムスタンプを満たす増分ファイルを前記ローカル物理マシンまたはミラーサーバから取得する」ことを欠き,単に,「クライアント端末200」からの「復元命令に含まれる仮想マシン識別情報に基づいて,復元対象となる仮想マシンを特定し,前記特定した仮想マシンに対応する初期バイナリデータを,記憶部110に格納されている履歴DB112を参照して取得」し,「前記復元命令に含まれるリビジョン情報に基づいて復元すべきリビジョンを特定」し,「前記記憶部110の履歴DB112を参照して,最初の(最も古い)リビジョン(リビジョン1)に対応する差分識別情報を特定し,差分情報テーブル113を参照して差分情報を取得して初期バイナリデータに適用」し,これにより,「バイナリデータ」を「過去(過去にコミット処理を行ったとき)の状態(状態A)に復元」する引用発明からは,当業者といえども相違点2及び3に係る構成を導き出すことは容易とはいえず,また,相違点2及び3に係る構成は,本願の第一国出願前に周知な構成ともいえない。
さらに,上記第4 2及び3に示した,引用例2及び引用例3に記載された技術的事項をもってしても,相違点2及び3に係る構成を見いだすことはできず,したがって,上記その余の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明,引用例2及び引用例3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2乃至8について
本願発明2乃至8は,本願発明1をさらに限定するものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用例2及び引用例3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明9について
本願発明9は,本願発明1とカテゴリー表現のみ異なるものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用例2及び引用例3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明10乃至16について
本願発明10乃至16は,本願発明9をさらに限定するものであるから,本願発明9と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用例2及び引用例3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 当審拒絶理由の概要

<特許法36条6項2号について>

当審では,下記(1)乃至(4)の点につき特許請求の範囲の請求項1の記載が,下記(5)の点につき特許請求の範囲の請求項2乃至8の記載が,及び,下記(6)の点につき特許請求の範囲の請求項9乃至16の記載がそれぞれ不明確であるとの拒絶理由を通知したが,上記第3に記載のとおり補正されることによって,上記拒絶理由は解消した。



(1)請求項1には,「前記抽出コマンド」と記載されているが,当該事項の前には,「抽出コマンド」が前記されておらず,不明確である点。

(2)請求項1に特定される,
「各物理マシンに予め分配された基礎イメージファイルをローカルから取得」
「増分ファイルをローカルまたはミラーサーバから取得」
における,「ローカル」が,具体的に何を意味するものか不明確である点。

(3)請求項1に特定される,「ローカルまたはミラーサーバから取得」の意味するところが不明確である点。

(4)請求項1に特定される,「イメージファイル」,並びに「基礎イメージファイル」及び「増分ファイル」の関係が不明確である点。

(5)上記(1)乃至(4)の点が,請求項2乃至8に特定される事項によっても明確ではない点。

(6)請求項1乃至8と概ねそのカテゴリーのみ異なる請求項9乃至16に係る発明が,上記(1)乃至(5)と同じ理由によって不明確である点。


第7 原査定についての判断

<特許法29条2項について>

令和1年9月4日付けの補正により,補正後の請求項1乃至16は,上記第3に記載されたものとなり,上記第5で示したとおり,本願発明1乃至16は,当業者であっても,原査定における引用文献1乃至3(上記第4の引用例1乃至3に同じ。)に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

<特許法36条4項1号及び同条6項2号について>

原査定では,「トップファイル」の意味についてその具体的な内容が不明である点,及び,「仮想マシンフロッピーイメージファイルのトップファイル」につき不明確である点で特許法36条4項1号及び同条6項2号の要件を満たさないものと判断されたが,本件明細書段落35に,「例示的に、本願の実施例に係る基礎イメージファイルを示す構造図である図3に示すように、仮想マシンシステムディスクにパッチがない場合に、システムディスクファイルの構造510は基礎イメージファイルおよび基礎イメージファイルに依存するトップファイルを含み、仮想マシンシステムディスクにパッチがある場合に、システムディスクファイルの構造520は基礎イメージファイル、ユーザカスタマイズまたはシステムパッチおよびトップファイルを含み、ただし、ユーザカスタマイズまたはシステムパッチは基礎イメージファイルに依存し、トップファイルはユーザカスタマイズまたはシステムパッチファイルに依存し、仮想マシンフロッピーディスクに記憶された必要としない大容量ファイルを更に減少させるために、ユーザカスタマイズまたはシステムパッチを基礎イメージファイルにマージし、パッチがマージされるイメージファイルを取得して、パッチがマージされるイメージファイルを新しい基礎イメージファイルとし、これにより、新しい基礎イメージファイルの共有率を向上させることができる。」旨,同段落41に「本実施例において、上記の仮想マシン管理モジュールは、抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドではないと判定すれば、仮想マシンに割り当てられるホスト物理マシンに取得コマンドを送信し、ホスト物理マシンに仮想マシンの作成ファイルをそれぞれ抽出させ、ここで、基礎イメージファイルがローカルから直接的に抽出されてもよい。基礎イメージファイル以外の増分ファイルは、増分ファイルの記憶位置に基づいて、ローカルから抽出したり、クラウドコンピューティングプラットフォームアーキテクチャにおける仮想マシンイメージ管理モジュールによってミラーサーバから抽出したりしてもよい。ここで、増分ファイルは仮想マシンイメージファイルを作成する時に仮想マシンフロッピーディスクファイルのトップファイルに基づいて生成されるイメージファイルである。」旨,同段落60に「本実施例において、第3の取得ユニット640は判断ユニット620の二番目の判断結果に基づいて仮想マシンの作成ファイルを抽出することができ、抽出コマンドが基礎イメージファイルのみを抽出するコマンドではないと判定すれば、仮想マシンの作成ファイルをそれぞれ抽出し、基礎イメージファイルはローカルから直接的に抽出してもよく、基礎イメージファイル以外の増分ファイルは、増分ファイルの記憶位置に基づいて、ローカルから抽出し、またはクラウドコンピューティングプラットフォームアーキテクチャにおける仮想マシンイメージ管理モジュールによってミラーサーバから抽出してもよい。増分ファイルは仮想マシンイメージファイルを作成する時に仮想マシンフロッピーディスクファイルのトップファイルに基づいて生成されるイメージファイルである。いくつかの実現形態において、装置における増分ファイルは仮想マシンイメージファイルを作成する時に仮想マシンフロッピーディスクファイルのトップファイルに基づいて生成されるイメージファイルである。」旨がそれぞれ記載され,さらに,同段落45及び61等には,仮想マシンイメージファイルが例えばqcow2フォーマットのチェーン式構造であってもよいことが説示されていることから,必ずしも不明確とはいえず,したがって本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,当業者が請求項7及び15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえず,また当該請求項に係る発明が不明確であるともいえない。

したがって,原査定を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-28 
出願番号 特願2016-160157(P2016-160157)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 貴俊石川 亮今城 朋彬多賀 実  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 山崎 慎一
松平 英
発明の名称 仮想マシンイメージファイルを抽出する方法および装置  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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