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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21F
管理番号 1356406
審判番号 不服2018-9065  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-02 
確定日 2019-10-24 
事件の表示 特願2014- 26986「セシウムの吸着装置及び吸着方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月24日出願公開、特開2015-152456〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年2月14日にされた出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成29年 9月29日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月 7日 :意見書・手続補正書
平成30年 3月30日付け:拒絶査定
平成30年 7月 2日 :審判請求書
令和 元年 5月13日付け:拒絶理由通知書(当審がしたもの)
令和 元年 7月11日 :意見書・手続補正書

2 本願発明の認定
本願の請求項に係る発明は、令和元年7月11日に提出された手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「水に溶解しているセシウムを吸着するシート状の吸着部材が複数枚積層された構造を含む吸着ユニットと、
浮き部材とを備え
複数の前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されていることを特徴とするセシウムの吸着装置。」

3 令和元年5月13日付け拒絶理由通知書において当審が通知した拒絶理由の概要
上記拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、要旨、次のものを含む。
本件補正前の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2012-180733号公報
引用文献2:特開2013-253949号公報

(なお、上記拒絶理由は、上記拒絶理由通知書における「4 引用文献2(当審注:特開2012-180733号公報)に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如」に対応するものであるので、審決において、主引用文献を「引用文献1」と表記するべく、引用文献に付した番号を、上記拒絶理由通知書のものとは入れ替えている。)

4 引用文献の記載事項の認定
(1)引用文献1(特開2012-180733号公報)について
ア 当審拒絶理由において当審が引用した引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「フロート部材、水浄化部材、水流量調節部材、及びこれらを接続する接続手段を含む水域浄化フェンスであって、該水浄化部材と該水流量調節部材が共に、略四角形の平面パネル状の単位構成要素(ユニット)として形成され、所定数の水浄化部材ユニットと所定数の水流量調節部材ユニットが、略平面を呈するように接続され、該略平面に、一又は複数の前記フロート部材が接続されていることを特徴とする前記水域浄化フェンス。」(【請求項1】)、
「前記水浄化部材は、複数の孔を配した略四角形の補強枠に固定した網からなる外袋の中に、より目の細かい網からなる単数又は複数の内袋の中に吸着剤を収容したものを、さらに収容した二重構造の袋体構造を有する、請求項1?4のいずれか一項に記載の水域浄化フェンス。」(【請求項5】)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】」、
「前記した従来技術の状況に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、水浄化領域の面積(吸着剤や微生物付着担体の量)及び水流量調節領域の面積(透水性やろ過性)を、浄化の状況に応じて、簡易な操作で、適宜容易に変更することができる水域浄化フェンスを提供することである。」(【0012】)

(ウ)「【発明の効果】」、
「本発明に係る水域浄化フェンスは、水浄化部材ユニット及び水流量調節部材ユニットを、水浄化の状況に応じて適宜選択し、それぞれ、所定数を略平面上に容易に配置又は変更することができるため、作業効率が向上し、ひいては最適な水域浄化に貢献する。」(【0024】)

(エ)「【発明を実施するための形態】」、
「以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、フロート部材、水浄化部材、水流量調節部材、及びこれらを接続する接続手段を含む水域浄化フェンスであって、該水浄化部材と該水流量調節部材が共に、略四角形の平面パネル状の単位構成要素(ユニット)として形成され、所定数の水浄化部材ユニットと所定数の水流量調節部材ユニットが、該フロート部材に、略平面を呈するように、接続されていることを特徴とする前記水域浄化フェンスであり、その第一の態様においては、前記フロート部材に、網からなる基材が、略平面を呈するように接続され、かかる基材に、所定数の水浄化部材ユニットと所定数の水流量調節部材ユニットが接続されている。」(【0026】)、
「本明細書中、「水域」とは、河川、ダム、水路、湖沼、お堀、海等を含み、水が存在する領域である限り特に限定されない。
本明細書中、「浄化」とは、該水域内に存在する水のいずれかの性質が変化することをいい、特定の性質の変化を意味しない。」(【0027】)、
「本明細書中、「水浄化部材」とは、主に、水を浄化する機能を有する材料、例えば、塩類、窒素、リン、重金属、有機溶剤、放射性物質等の吸着剤、例えば、天然又は合成ゼオライト、有機物を分解する微生物の担体、例えば、活性炭、炭素繊維等を提供する部材である。」(【0029】)

(オ)「図2に示すように、水浄化部材20は、複数の鳩目を含む孔22を配した略四角形の補強枠21に固定した網からなる外袋23の中に、より目の細かい網からなる単数又は複数の内袋24の中に吸着剤等を収容したものを、さらに収容した二重構造の袋体構造を有する。」(【0035】)、


「ここで、水浄化部材20の孔22と補強枠21の構造、基材33への固定方法、大きさは、前記した水流量調節部材10と同様である。但し、水浄化部材20においては、前記した不織布13等に代えて、微生物を吸着する機能を有する吸着剤等25、例えば、多孔質の合成樹脂よりなる複数の接触ろ材、牡蠣殻を再利用したもの、微生物を付着させた炭素繊維、猿頬貝の殻を再利用したもの、窒素、リン、重金属、有機溶剤、放射性物質等を吸着し、また微生物をも担持するゼオライト、活性炭、油吸着剤等を、こぼれないように充填した目の細かい網からなる単数又は複数の内袋24を収容したより目が粗く、かつ、より強度の高い線材からなる網からなる外袋23が、補強枠21に固定されている。ゼオライトは、窒素吸着後に回収して肥料にすることができるため、好ましい吸着剤である。ここで、留意すべきは、単数又は複数の内袋24の中に収容される材料は、浄化の状況に応じて、適宜交換されることができるということである。すなわち、「水浄化部材」という名称であっても、内袋内の材料の有無、種類によっては、水流量調節部材と同様の機能を発揮することができる場合がある。」(【0036】)、
「本発明に係る水域浄化フェンスは、水流量調節部材10と水浄化部材20が、それぞれ、互換性のあるユニットとして提供されることを特徴とする。これにより、水域浄化の状況に応じて、これらのユニットを適宜、簡単な操作で、交換し又は増減することにより、該フェンスを通過する水の流出入量、懸濁浮遊物のろ過性、吸着剤や微生物担体の量を調節して最適な浄化が可能となる。例えば、水深6mの水域浄化フェンス4枚で浄化すべき水域を取り囲む場合、水深1mまでは全て不透水シートの水流量調節部材10を配置し、水深1m?5mまでは不織布の水流量調節部材10と吸着剤の水浄化部材20とを交互に配置し、水深5m?6mには、網の水流量調節部材10を全て配置するか又は水流量調節部材10と水浄化部材20のいずれも配置しないことができる。この場合に、浄化の程度に応じて、かかる互換性のあるユニットの位置や種類を適宜変更することによって、例えば、吸着剤の水浄化部材20の数の割合を増減することによって、浄化を最適化することができる。」(【0037】)、
「図4に示すように、本発明の第二の態様においては、所定数の水浄化部材ユニット20と所定数の水流量調節部材ユニット10同士が、網からなる基材を用いずに、直接接続されていることを特徴とする。これらの接続は、前記した基材への浄化部材ユニット20と水流量調節部材ユニット10の接続と同様であることができる。」(【0038】)、


「図5に示すように、本発明の第三の態様においては、一定幅の各フロート51に該一定幅よりも広い幅の水浄化部材ユニット20又は水流量調節部材ユニット10が、該各フロート51に縦方向に1列で接続され、短冊状を呈している。そしてかかる短冊状のものが左右に隣接することにより水域浄化フェンスが構成されている。ここで、左右に隣り合うユニット同士は補強枠が互いに重なるが、該ユニット同士は接続されていない。このようなユニット同士の重なりのみによっても、水域浄化フェンスとしての機能に影響を及ぼさない場合には、第三の態様は有効である。」(【0039】)、


「第三の態様においては、フロート51にフック53が設けられ、該フロート51同士は、連結ロープ52を介して接続されている。該フック53は、水浄化部材ユニット20又は水流量調節部材ユニット10の孔に貫通し、フロート51と該ユニットを接続する。縦方向に隣接するユニット同士は、前記した第二の態様と同様に、接続手段(紐)54により接続されている。
尚、第三の態様の変形として、第三の態様における短冊状のものが、第一の態様における基材を介して各ユニットが接続されたものが挙げられる(図示せず)。」(【0040】)、
「水域浄化フェンスの施工やユニットの交換作業における第三の態様の貢献は多大である。なぜなら、左右に隣り合うユニット同士の接続が不要であるため、潜水作業を伴わずに、各フロート51に縦方向に1列で接続され短冊状を呈するものを略ユニットの大きさに折り畳んだものを、フロート51毎に船上に積載し、これをフロート毎に順番に水域に敷設すること、また、ユニット交換時に1つの短冊状のもののみを船上に引き上げて交換作業を行い、その後水に沈めることができるからである。」(【0041】)

イ 上記アの各記載によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明の認定に利用した段落番号等を、参考までに、括弧内に示してある(以下、同じ。)。
「フロート部材、水浄化部材、水流量調節部材、及びこれらを接続する接続手段を含む水域浄化フェンスであって、該水浄化部材と該水流量調節部材が共に、略四角形の平面パネル状の単位構成要素(ユニット)として形成され、所定数の水浄化部材ユニットと所定数の水流量調節部材ユニットが、略平面を呈するように接続され、該略平面に、一又は複数の前記フロート部材が接続されている前記水域浄化フェンスであって、(【請求項1】)
前記水浄化部材は、複数の孔を配した略四角形の補強枠に固定した網からなる外袋の中に、より目の細かい網からなる単数又は複数の内袋の中に吸着剤を収容したものを、さらに収容した二重構造の袋体構造を有し、(【請求項5】)
前記吸着剤は、放射性物質の吸着剤である、(【0029】)
水域浄化フェンス。」

(2)引用文献2(特開2013-253949号公報)について
ア 当審拒絶理由において当審が引用した引用文献2には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「不織布と、フェロシアン化物及びフェリシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、前記不織布を形成する繊維の外側で前記化合物を固定するバインダ樹脂と、を含む濾材であって、
前記バインダ樹脂は、前記不織布の通水性を維持するための内部空隙を閉塞しないように存在していることを特徴とするセシウム回収機能を有する濾材。」(【請求項1】)

(イ)「本実施形態の濾材を用いた浄水フィルタの形態は特に限定されない。具体的には、例えば、図3に示すような、濾材10(20)を円筒コア11に巻回して得られるようなワインドタイプの浄水フィルタ50や、図4に示すような、1枚の濾材10(20)をひだ折りにして折りたたんでろ過表面積を増大させたプリーツタイプの浄水フィルタ60や、図5に示すような、ディスク状に切断された濾材10(20)を複数層積み重ねた構造のスタックディスクタイプの浄水フィルタ70等が挙げられる。」(【0067】)


(ウ)「[実施例1]」、
「水溶性熱可塑性PVA系樹脂を海成分に用い、イソフタル酸変性度6モル%のPETを島成分とし、繊維1本あたりの島数が25島で、海成分/島成分が25/75(重量比)となるような溶融複合紡糸用口金を用い、260℃で海島型のフィラメントを口金より吐出した。そして、紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度2.1デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集した。そしてネット上に捕集された海島型長繊維を表面温度42℃の金属ロールで軽く押さえることにより表面の毛羽立ちを抑えてネットから剥離し、さらに、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させて熱プレスすることにより、表面の極細繊維が仮融着した目付31g/m^(2)の長繊維ウェブを得た。」(【0073】)、
「そして、得られた長繊維ウェブをクロスラッピングすることにより8枚重ね、これに、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、針先端からバーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで両面から交互に3300パンチ/cm^(2)のパンチ密度でニードルパンチングすることにより、目付320g/m^(2)の絡合された長繊維ウェブを得た。」(【0074】)、
「そして、長繊維ウェブを巻き取りライン速度10m/分で70℃の熱水中に14秒間浸漬することにより熱収縮させた。さらに95℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返すことにより変性PVAを溶解除去することにより、平均繊度0.1デシテックスの極細長繊維を25本含む繊維束が3次元的に交絡した極細繊維の不織布が得られた。そして、不織布は、スライス及びバフィング処理することにより見かけ密度が0.62g/cm^(3)で、厚み0.82mmの不織布に調整された。」(【0075】)、
「一方、ポリウレタンエマルジョンに、平均粒子系0.08μmのプルシアンブルー(大日精化(株)製の商品名:MILORIBLUE 905)を、プルシアンブルー/ポリウレタン固形分=1/3の質量比で分散させた。なお、ポリウレタンエマルジョンは、130℃における熱水膨潤率が9質量%であり、ソフトセグメントがポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなるポリオキシエチレン単位の含有量が0meq/gの架橋を形成する水乳化性ポリウレタンのエマルジョンであった。」(【0076】)、
「なお、130℃における熱水膨潤率は、厚さ200μmのポリウレタンフィルムを加圧下130℃で60分間熱水処理し、50℃に冷却後、ピンセットで取り出した。そして表面に付着した水をろ紙でふき取り、重量を測定した。浸漬前の重量に対する増加した重量の割合を熱水膨潤率とした。」(【0077】)、
「そして、厚み調整された不織布にプルシアンブルーを分散させたエマルジョンを不織布に対しポリウレタン固形分で6質量%になるように含浸付与し、乾燥した。このようにして、極細繊維の不織布と、極細繊維の表面にプルシアンブルーを固着して付着するポリウレタンとを含む濾材を得た。この濾材のプルシアンブルーの担持密度は12.5mg/cm^(3)であった。また、極細繊維は繊維束を形成しており、繊維束の内部にプルシアンブルーを固着して付着するポリウレタンが含浸していた。得られた濾材のSEM写真を図7に示す。このようにして得られた濾材を以下の方法に従って評価した。」(【0078】)、
「[塩化セシウム水溶液中のセシウムイオンの回収評価]
5×5mmに切り出した濾材を10ppmの塩化セシウム水溶液または0.01ppmの塩化セシウム水溶液に浸漬した。そして、平衡吸着量に達するまでの時間、及び、そのときのセシウムイオン濃度を測定した。そして、不織布の体積1cm^(3)あたりに吸着されたセシウムイオンの量を算出した。なお、吸着されたセシウムイオン濃度は誘電結合プラズマ発光分光分析器を用いて測定した。」(【0079】)、
「10ppmの塩化セシウム水溶液の場合には、約15分間で平行吸着量の1/2に達し、そのときの不織布1cm^(3)あたりに吸着されたセシウムイオン量は、64.5μg/cm^(3)であった。また、0.01ppmの塩化セシウム水溶液の場合には、約20分間で平行吸着量の1/2に達し、そのときの不織布1cm^(3)あたりに吸着されたセシウムイオン量は、6.2μg/cm^(3)であった。」(【0080】)、
「[汚染水中の放射性セシウムの回収評価]
直径68mmの円板状に切り出した濾材を10枚重ね、円筒状のカラムに充填した。そして、カラムに、福島県から入手した343Bq/Lの放射性セシウムを含む汚染水に60分間浸漬した。60分間の浸漬後の不織布1cm^(3)あたりに吸着された放射性セシウムの量は0.3Bq/cm^(3)であった。」(【0081】)

イ 上記アの各記載によれば、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「不織布と、フェロシアン化物及びフェリシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、前記不織布を形成する繊維の外側で前記化合物を固定するバインダ樹脂と、を含む濾材であって、前記バインダ樹脂は、前記不織布の通水性を維持するための内部空隙を閉塞しないように存在しているセシウム回収機能を有する濾材を、(【請求項1】)
直径68mmの円板状に切り出して10枚重ね、円筒状のカラムに充填して、放射性セシウムを含む汚染水に60分間浸漬したところ、60分間の浸漬後の不織布1cm^(3)あたりに吸着された放射性セシウムの量が0.3Bq/cm^(3)であったこと。(【0081】)」

5 対比、一致点及び相違点の認定
(1)本願発明と引用発明1との対比
ア 本願発明の「水に溶解しているセシウムを吸着するシート状の吸着部材が複数枚積層された構造を含む吸着ユニットと、」との特定事項について
(ア)引用発明1の「水浄化部材ユニット」は、「水浄化部材」を「形成」する「略四角形の平面パネル状の単位構成要素(ユニット)」であるところ、当該「水浄化部材」は、「複数の孔を配した略四角形の補強枠に固定した網からなる外袋の中に、より目の細かい網からなる単数又は複数の内袋の中に吸着剤を収容したものを、さらに収容した二重構造の袋体構造を有」するとともに「前記吸着剤は、放射性物質の吸着剤である」とされている。
このように、引用発明1の「水浄化部材ユニット」は、「放射性物質の吸着剤」を含んでいるのであるから、当該「水浄化部材ユニット」は、本願発明の「水に溶解しているセシウムを吸着するシート状の吸着部材が複数枚積層された構造を含む吸着ユニット」と、「吸着ユニット」である点で共通する。

(イ)よって、引用発明1は、本願発明でいう「吸着ユニットと、」との特定事項を備える。
しかし、引用発明1における(本願発明でいう)「吸着ユニット」は、「水に溶解しているセシウムを吸着するシート状の吸着部材が複数枚積層された構造を含む」ものではない。

イ 本願発明の「浮き部材とを備え」との特定事項について
(ア)引用発明1の「フロート部材」は、本願発明の「浮き部材」に相当する。

(イ)よって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。

ウ 本願発明の「複数の前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されている」との特定事項について
(ア)引用発明1の「水浄化部材ユニット」は、「フロート部材」に「接続」されているといえるから、上記ア及びイにも照らせば、引用発明1は、本願発明でいう「前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されている」との特定事項を備える。

(イ)しかし、引用発明1は、「前記浮き部材に連結されている」「前記吸着ユニット」が、「複数」であることを明示的には特定しない。

エ 本願発明の「セシウムの吸着装置」との特定事項について
(ア)引用発明1の「水域浄化フェンス」は、「水浄化部材」を備えるところ、当該「水浄化部材」は、「放射性物質の吸着剤」を含むものである。
このように、引用発明1の「水域浄化フェンス」は、「放射性物質の吸着剤」を含むのであるから、本願発明でいう「吸着装置」であるといえる。

(イ)しかし、引用発明1は、吸着装置が「セシウムの」ためのものであることまでを特定しない。

(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本願発明と引用発明1とは、
「吸着ユニットと、
浮き部材とを備え
前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されている吸着装置。」である点で一致し、次の点で相違する、又は、一応相違する。

[相違点1]
「吸着ユニット」が、本願発明では、「水に溶解しているセシウムを吸着するシート状の吸着部材が複数枚積層された構造を含む」ものであるのに対し、引用発明では、そうではなく、「放射性物質の吸着剤」を含む「水浄化部材ユニット」であって、当該「水浄化部材ユニット」は、「水浄化部材」を「形成」する「略四角形の平面パネル状の単位構成要素(ユニット)」であり、当該「水浄化部材」は、「複数の孔を配した略四角形の補強枠に固定した網からなる外袋の中に、より目の細かい網からなる単数又は複数の内袋の中に吸着剤を収容したものを、さらに収容した二重構造の袋体構造を有」するものである点。

[相違点2]
「吸着装置」が、本願発明では、「セシウムの」ためのものであるのに対し、引用発明1では、そうとは特定されていない点。

[相違点3]
「前記浮き部材に連結されている」「前記吸着ユニット」が、本願発明では、「複数」であるのに対し、引用発明1では、そうとは明示的には特定されていない点。

6 相違点の判断
(1)相違点1及び相違点2について
相違点1及び相違点2は関連しているので、まとめて判断をする。
ア 引用発明1の「水浄化部材ユニット」は「放射性物質の吸着剤」を含んでいる(上記5(1)ア(ア))のであるから、引用発明1に接した当業者は、当該「放射性物質の吸着剤」として具体的にどのようなものを用いるのかについて検討する動機がある。その際、当該「放射性物質の吸着剤」としては、多くの量の放射性物質を吸着できたり、長時間にわたって利用できたりするものが当然に望まれるから、そのような希望に適う「放射性物質の吸着剤」を採用しようとする動機もある。

イ 他方、引用文献2には、上記4(2)イで認定した技術的事項が記載されているところ、かかる技術的事項は、セシウム回収機能を有する濾材であるとともに、放射性セシウムを吸着するものであるから、放射性物質の吸着剤に関係するということができ、そうであれば、上記アで説示した当業者は、当該技術的事項に接することができる。
しかるに、そのようにして当該技術的事項に接した当業者は、上記アで説示した動機をもっている以上、当該技術的事項を、放射性物質の吸着剤としての観点に着目しつつ、次のように理解できると認められる。
すなわち、上記技術的事項は、セシウム回収機能を有する濾材に係るものであるけれども、セシウム回収機能を有する吸着要素に係るものでもある。そして、かかる吸着要素は、円板状に切り出されたものを10枚重ねて構成されているのであるから、吸着要素としての表面積が増大しており、よって、より多くの量のセシウムを吸着できるとともに、より長時間にわたって利用できるものである。さらに、当然ながら、かかる吸着要素は、それを重ねる枚数をより多くすれば、さらに多くの量のセシウムを吸着できるとともに、さらに長時間にわたって利用できる。

ウ そうすると、当業者は、上記アで説示した動機に従い、引用発明1の水浄化部材ユニットにおける「放射性物質の吸着剤」として、引用文献2に記載された技術的事項に照らして、円板状に切り出したセシウム回収機能を有する吸着要素を複数枚重ねた構造を採用し、相違点1及び2に係る構成を得ることを、適宜なし得るというべきである。

エ これに対し、請求人は、令和元年7月11日に提出した意見書において種々反論するが、次のとおりいずれも採用できない。
(ア)請求人は、引用文献1の請求項1が、水浄化部材ユニットとして「略四角形の平面パネル状」以外のものを積極的に除外しているとした上で、引用発明1に引用文献2に記載された技術的事項を適用することには阻害要因がある旨主張する。
しかしながら、引用発明1(引用文献1の請求項1も同じである。)は、「平面パネル」ではなく、平面パネル「状」と記載するにとどまるから、当業者が上記ウで説示した構成に至ることが阻害されるとまではいえない。
また、引用発明1が解決しようとする課題は、「水浄化領域の面積(吸着剤や微生物付着担体の量)及び水流量調節領域の面積(透水性やろ過性)を、浄化の状況に応じて、簡易な操作で、適宜容易に変更することができる水域浄化フェンスを提供すること」(引用文献1の【0012】)であるのであり、上記ウで説示した構成であっても、かかる課題を解決することができるといえる。よって、この点からも、当業者が当該構成に至ることが阻害されるとまではいえない。

(イ)請求人は、引用文献1が水浄化部材ユニットを平面パネル状としているのは、該水浄化部材の単位体積当たりの水と接する表面積を大きくすることにより、単位体積当たりの水の浄化率を向上させるためであると考えられる一方、引用文献2に記載された技術的事項のような積層体では、単位体積当たりの水と接する表面積が小さくなるため、引用発明1に引用文献2に記載された技術的事項を適用する動機付けはない旨主張する。
a しかしながら、引用発明1に接した当業者が上記ウで説示した構成に至る動機があることについては、上記ア?ウで説示したとおりである。

b そして、請求人の主張は、次のとおり、引用文献1の記載に基づかないものである。
まず、引用文献1は、請求人が主張する事項を明記しない。
次に、引用発明1において水浄化部材ユニットを平面パネル状にしている技術的意義についてみると、引用文献1の【0024】は、発明の効果として、「本発明に係る水域浄化フェンスは、水浄化部材ユニット及び水流量調節部材ユニットを、水浄化の状況に応じて適宜選択し、それぞれ、所定数を略平面上に容易に配置又は変更することができるため、作業効率が向上し、ひいては最適な水域浄化に貢献する。」と記載する。そうすると、引用発明1において水浄化部材ユニットを平面パネル状にしている技術的意義は、水浄化部材ユニット及び水流量調節部材ユニットを、水浄化の状況に応じて適宜選択し、それぞれ、所定数を略平面上に容易に配置又は変更することができるという作用効果に適するというにとどまると解される。そして、かかる技術的意義は、請求人が主張する技術的意義とは関係しない。
このように、請求人の主張は、引用文献1の記載に基づかないものである。よって、請求人の主張は、採用できない。

(ウ)請求人は、引用文献2に記載されている濾材が積層された構造の浄水フィルタを、引用文献1に記載のようにポンプなどによる一定方向の加圧無しに、単に海などに浮かせておいても、浄水フィルタの中心付近まで水が染みこみにくくなる旨主張する。さらに、請求人は、仮に、浄水フィルタの中心付近まで水が染みこんだとしても、「浄水フィルタの中心付近に染みこんだ水」と「浄水フィルタの周囲にある水」との循環が起こりにくくなるため、フィルタの体積あたりのセシウムの回収効率が落ちると考えられる旨主張する。
請求人の主張は、要するに、引用文献2に記載された濾材は、あくまで「濾材」である以上、ポンプなどによる一定方向の加圧無しに用いることはないのであり、よって、引用発明1(ポンプなどによる一定方向の加圧はないものである。)に当該濾材を採用することはない、というものだと解される。
しかしながら、引用文献2に記載されている濾材は、セシウムに対する吸着作用をも有する(すなわち、吸着要素でもある。)のであるし、また、当該濾材が有する濾過作用の効率が落ちるのだとしても、全くなくなるわけではないから、上記アで説示した動機を有する当業者であれば、請求人が主張する事情をもって、ただちに、引用発明1において当該濾材を吸着要素として採用することを断念することはないというべきである。

オ 以上のとおりであるから、相違点1及び2は、格別ではない。

(2)相違点3について
引用発明1は、浮き部材(本願発明の「フロート部材」に相当。)に「所定数の」水浄化部材ユニット(本願発明の「吸着ユニット」に相当。)が接続されているといえるから、水浄化部材ユニットが浮き部材に「複数」接続されていることが明らかに想定されていると認められる。よって、相違点3は実質的ではない。
また、仮に、相違点3が実質的だとしても、上記認定に照らせば、相違点3の構成を得ることは当業者が適宜なし得たことにすぎない。

(3)本願発明の効果について
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明が奏する効果は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に照らして当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものではない。

(4)相違点の判断についての小括
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
以上によれば、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-21 
結審通知日 2019-08-27 
審決日 2019-09-10 
出願番号 特願2014-26986(P2014-26986)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 純生  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
井上 博之
発明の名称 セシウムの吸着装置及び吸着方法  
代理人 菅河 忠志  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  
代理人 植木 久一  
代理人 植木 久彦  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久彦  
代理人 植木 久一  

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