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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D21H
管理番号 1356419
審判番号 不服2019-929  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-24 
確定日 2019-10-24 
事件の表示 特願2015- 39818「キャストコータ及びキャストコート紙の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 5日出願公開、特開2016-160548〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月2日の出願であって、平成30年2月27日付けで拒絶理由が通知され、平成30年5月21日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年10月22日付けで拒絶査定がされ、平成31年1月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 平成31年1月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)後の請求項6に係る発明について
1 請求項6に係る本件補正について
本件補正後の特許請求の範囲の請求項6は、平成30年5月21日付けの補正書の特許請求の範囲の請求項7であり、本件補正により本件補正前の請求項3が削除されたことにより、請求項が繰り上がったものである。
よって、本件補正における請求項6に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる事項(請求項の削除)を目的とするものである。

2 請求項6記載の発明
本件補正後の請求項6に係る発明(以下「本願補正発明6」という。)は、特許請求の範囲の請求項6に記載された以下のとおりのものである。
「塗工液が塗布されたウェブをキャストドラムと圧接ロールとで挟持させることにより、塗工液の塗布面がキャストドラムの鏡面部に圧接されてキャストコート面が形成されるキャストコート紙の製造方法において、
前記ウェブの走行方向の、前記塗工液を塗布する塗布部の下流側で、前記キャストコート面の反対側である非キャストコート面のウェブの両端部に液体を付与して非キャストコート面を湿潤させる際に、該液体を付与する部分の範囲を調整可能とし、
前記キャストドラムと圧接ロールとによる挟持部にウェブを通してキャストコート面を形成することを特徴とするキャストコート紙の製造方法。」

3 平成30年10月22日付け拒絶査定の概要
本件補正前の請求項7に対して通知した平成30年10月22日付け拒絶査定は、以下の理由を含むものである。

この出願の請求項7に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された特開昭61-245398号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 当審の判断
(1)引用例
ア 引用例記載の事項
原査定の拒絶理由に引用された引用例には、次の事項が記載されている。
(ア)「「産業上の利用分野」
本発明はキャスト塗被紙の製造方法に関し、特に高温キャスト法で塗被紙両耳部等に発生するドラムピックを効果的に改良し、高品質のキャスト塗被紙を効率良く製造する方法に関するものである。」(1頁左欄下から5行?右欄1行)
(イ)「「従来の技術」
キャスト塗被紙と呼ばれる強光沢塗被紙の製造方法としては、鏡面を有する加熱仕上げ面に鉱物質顔料および接着剤を主成分とする湿潤塗被層を圧接して光沢仕上げするウェットキャスト法、湿潤塗被層を一旦乾燥した後、再湿潤により可塑化して鏡面を存する加熱仕上げ面に圧接するリウェットキャスト法、湿潤塗被層をゲル状態にして鏡面を有する加熱仕上げ面に圧接するゲル化キャスト法などが知られている。
これらの方法は、いずれも水で可塑状態にある塗被層を鏡面を有する加熱仕上げ面にプレスロールで圧接し、乾燥、離型させて強光沢仕上げする点で共通している。しかし、リウェットキャスト法及びゲル化キャスト法は、鏡面ドラムに圧接される前の塗被層が一旦乾燥又はゲル化されているため、90℃以上の高温ドラムに高圧下で圧接しても、ウェットキャスト法の如く、多量の水分の急激な蒸発による塗被層の破壊や紙切れが起こらず、ドラム表面に充分密着して高スピードでキャスト塗被紙を仕上げることができる。
ところが、これらの高温高圧キャスト法では所謂ドラムピックと称する、塗被層の一部が剥離してドラム表面に付着する欠陥が発生し易く、特にキャスト塗被紙の両耳部でその発生傾向が大きい。中央部でも筋状に発生することがあり、キャスト塗被紙の品質を損ねると同時に、安定操業をも損ねる大きな難点となっている。このドラムピックの発生傾向はスピードを上げたり、ドラム温度を高める程強くなるため、高温高圧キャスト法のうちでも、他のキャスト品質を維持するために、より高いドラム温度での操業が望まれているリウェットキャスト法においては致命的な欠陥となる恐れがある。」(1頁右欄2行?2頁左上欄15行)

(ウ)「「問題を解決するための手段」
上記の如き現状に鑑み、本発明者等は特に高温キャスト法で発生するドラムピックの改良について、長年のキャスト塗被紙製造経験に基づき鋭意研究を重ねた結果、キャスト塗被紙の両耳部で発生するドラムピックの主な原因の一つがキャストドラムの温度プロファイルの不均一性であるとの結論を得るに至った。
即ち、キャスト塗被紙の両耳部から外側部分のドラム温度は、塗被層乾燥に伴うクーリング作用を受けていないため中央部に比べて高くなっており、両耳部では湿潤塗被層がキャストドラムに圧接された時、温度上昇によって水分が急激に膨張し、層内分離を起こしてキャストドラム面に剥ぎ取られドラムピックとなるものと推定される。
また、ドラム中央部で発生する筋状のドラムピックは、湿潤塗被層のコート量ムラ等が影響して乾燥が不均一となり、結果的にドラム温度が不均一な時と同じ状態となってドラムピックが発生するものと推定される。
かかる推定に基づき、本発明者等はキャストドラムの温度プロファイルをより均一にし、しかもドラムピックの発生を効果的に解消し得る方法を開発するべくさらに検討を加えた結果、湿潤塗被層をドラム表面に圧接するプレスニップ部或いはそれ以前に、ドラムピックの発生が認められる部分に対応する塗被紙裏面部に水を作用させると、ドラムピックの発生が極めて効果的に抑えられることを見出し本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は顔料及び接着剤を主成分とする塗被層を、ゲル化又は乾燥後再湿潤して、加熱された鏡面を有するドラム表面に圧接し、強光沢仕上げするキャスト塗被紙の製造方法において、該塗被層をドラム表面に圧接するプレスニップ部或いはそれ以前に、ドラムピックの発生が認められる部分に対応する塗被紙裏面部に水を作用させることを特徴とするキャスト塗被紙の製造方法である。」(2頁右上欄1行?左下欄下から3行)

(エ)「塗被紙裏面部に水を作用させる方法としては、ドラムピックの発生が認められる部分に対応するプレスロールに水を噴きつけ、ニップ部で塗被紙裏面に転移させる方法、塗被紙がプレスニップに入る直前に塗被紙裏面に直接水を噴きつけたり、水塗りロール等を用いて水を作用させる方法等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。またこれらの方法は併用することも可能である。
ドラムピック発生個所の確認は、作業者の目視判定によって行うことが出来るが、スポットディテクター等の欠陥検出装置をキャストドラム等に設置し、ドラムピックの発生個所を確認すると同時に、その部分に対応する水供給装置を連動させることも出来る。かかる方法によれば自動的にドラムピックの発生が解消され極めて効率的な操業が可能になるものである。」(3頁右下欄9行?4頁左上欄5行)

(オ)「「実施例」
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。また特に断らない限り、例中の部および%はそれぞれ重量部及び重量%を示す。
実施例1?3、比較例1?3
カオリン70部、軽質炭酸カルシウム30部、ポリアクリル酸ソーダ0.5部をコーレス分散機を用いて水中に分散し、固型分濃度60%の顔料スラリーを調製した。これに消泡剤としてトリブチルフォスフェート0.5部、離型剤としてステアリン酸アンモニウム1.0部、接着剤としてアンモニアを用いて溶解したカゼイン水溶液(濃度18%)8部及びアクリル酸・ブタジエン・メチルメタクリレート(2・33・65%)共重合体ラテックス18部(固形分)を加え、さらに硫酸亜鉛水溶液(15%)3部を加え充分に攪拌した後、アンモニア水を用いてpH9.0に調節して固形分濃度46%の塗被液を調製した。
かくして得られた塗被液を用い、第1図に示す如き装置によってリウェットキャストを行った。即ち、米坪100g/m^(2)の原紙(1)に、乾燥塗被量が22g/m^(2)となるように上記塗被液をエアーナイフコーター(2)で塗被し、エアーホイル乾燥機(3)で紙水分が6%になるように乾燥した。
次いで、直径750mmのゴム被覆されたプレスロール(4)と直径1220mmのクロムメッキキャストドラム(5)で形成されるプレスニップ(6)に通紙し、ノズル(7)から供給されるカルシウムステアレートの0.5%水溶液からなる再湿潤液により塗被層を再湿潤して、プレスニップ圧150kg/cmで125℃に加熱したキャストドラム(5)に圧着した。乾燥後テークオフロール(8)でドラムから剥離してキャスト塗被紙(9)として巻き取った。
なお、実施例1では塗被紙がプレスニップ(6)に入る前に、塗被紙裏面両耳部にスプレー(a)によって水をエッヂシャワーし、実施例2ではプレスロール(4)の塗被紙の両耳部に相当する部分にスプレー(b)で水を噴きつけた。また実施例3ではスプレー(a)とスプレー(b)を併用して塗被紙裏面両耳部に水を作用させた。」(4頁右上欄末行?右下欄末行)

(カ)「第1図



イ 引用例に記載された発明
引用例の上記摘記事項(オ)において、実施例1に着目して整理すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「原紙(1)に、塗被液をエアーナイフコーター(2)で塗被し、エアーホイル乾燥機(3)で紙水分が6%になるように乾燥し、
塗被紙がプレスニップ(6)に入る前に、塗被紙裏面両耳部にスプレー(a)によって水をエッヂシャワーし、塗被紙裏面両耳部に水を作用させ、
その後、プレスロール(4)とクロムメッキキャストドラム(5)で形成されるプレスニップ(6)に通紙した、
キャスト塗被紙の製造方法。」

(2)対比
ア 対比
本願補正発明6と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「塗被液」は、その作用より、本願補正発明6の「塗工液」に相当し、同様に、「プレスロール(4)」は「圧接ロール」に、「クロムメッキキャストドラム(5)」は「キャストドラム」に、「水」は「液体」に、「塗被紙裏面両耳部」は「キャストコート面の反対側である非キャストコート面のウェブの両端部」に、「キャスト塗被紙」は「キャストコート紙」に相当する。

(イ)引用発明の「塗被液をエアーナイフコーター(2)で塗被し」た「原紙(1)」は、本願補正発明6の「塗工液が塗布されたウェブ」に相当する。

(ウ)引用発明の「塗被液をエアーナイフコーター(2)で塗被し」た「原紙(1)」を「プレスロール(4)とクロムメッキキャストドラム(5)で形成されるプレスニップ(6)に通紙する」態様は、「クロムメッキキャストドラム(5)」の表面が鏡面部といえ、その結果、キャストコート面が形成されることは明らかであるから、本願補正発明6の「ウェブをキャストドラムと圧接ロールとで挟持させることにより、塗工液の塗布面がキャストドラムの鏡面部に圧接されてキャストコート面が形成される」態様に相当する。

(エ)引用発明の「塗被紙がプレスニップ(6)に入る前に、塗被紙裏面両耳部にスプレー(a)によって水をエッヂシャワーし、塗被紙裏面両耳部に水を作用させ」る態様は、原紙(1)の進行方向の、塗被液を塗被した下流側で行われているから、本願補正発明6の「前記ウェブの走行方向の、前記塗工液を塗布する塗布部の下流側で、前記キャストコート面の反対側である非キャストコート面のウェブの両端部に液体を付与して非キャストコート面を湿潤させる」態様に相当する。

(オ)引用発明の「プレスロール(4)とクロムメッキキャストドラム(5)で形成されるプレスニップ(6)に通紙する」ことは、その結果、キャストコート面が形成されることは明らかであるから、本願補正発明6の「前記キャストドラムと圧接ロールとによる挟持部にウェブを通してキャストコート面を形成する」ことに相当する。

イ 一致点、相違点
そうすると、本願補正発明6と引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点1>
「塗工液が塗布されたウェブをキャストドラムと圧接ロールとで挟持させることにより、塗工液の塗布面がキャストドラムの鏡面部に圧接されてキャストコート面が形成されるキャストコート紙の製造方法において、
前記ウェブの走行方向の、前記塗工液を塗布する塗布部の下流側で、前記キャストコート面の反対側である非キャストコート面のウェブの両端部に液体を付与して非キャストコート面を湿潤させ、
前記キャストドラムと圧接ロールとによる挟持部にウェブを通してキャストコート面を形成するキャストコート紙の製造方法。」

<相違点1>
キャストコート面の反対側である非キャストコート面のウェブの両端部に液体を付与して非キャストコート面を湿潤させる際に、本願補正発明6では、「該液体を付与する部分の範囲を調整可能と」するのに対して、引用発明は、調整可能であることが特定されていない点。

(3)判断
上記相違点1について検討する。
引用例の上記摘記事項(1)の(イ)及び(ウ)には、ドラムピックがキャスト塗被紙の両耳部で発生する傾向が大きく、ドラム中央部でも発生しうることが記載されており、塗被層をドラム表面に圧接するプレスニップ部以前に、ドラムピックの発生が認められる部分に対応する塗被紙裏面部に水を作用させることで、ドラムピックの発生が極めて効果的に抑えられることが記載されている。また、上記摘記事項(1)(エ)には、「スポットディテクター等の欠陥検出装置をキャストドラム等に設置し、ドラムピックの発生個所を確認すると同時に、その部分に対応する水供給装置を連動させることも出来る。かかる方法によれば自動的にドラムピックの発生が解消され極めて効率的な操業が可能になるものである。」と記載されている。
そうすると、引用例には、ドラムピックが、キャスト塗被紙の両耳部で発生するところ、中央でも発生するものであるから、ドラムピックの発生する範囲は、両耳部から中央に向けて状況に応じて変わるものであり、その際に、ドラムピックの発生個所に対応する水供給装置を作動させることが示唆されているといえる。
また、スプレーにおいて、噴射範囲を調整可能とすることは慣用手段である。
そして、引用発明は、スプレーによって水をエッヂシャワーするものであるから、水を所望の範囲に作用させるものであるところ、上記示唆に従い、上記慣用手段を踏まえ、水を作用させる範囲を調整可能とする程度のことは、当業者が容易に想到し得たことである。

<本願補正発明6の奏する効果について>
本願補正発明6の奏する効果は、引用発明から、当業者が容易に想到し得る範囲のものであって、格別なものでない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願補正発明6は、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。


第3 まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明6は、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。
ゆえに、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


第4 請求項1に係る発明について
以下、請求項1に係る発明についても、予備的に検討する。
1 平成31年1月24日付けの手続補正の補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年1月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、平成30年5月21日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の
「塗工液が塗布されたウェブをキャストドラムと圧接ロールとで挟持させることにより、塗工液の塗布面がキャストドラムの鏡面部に圧接されてキャストコート面が形成されるキャストコータにおいて、
前記ウェブの走行方向の、前記塗工液を塗布する塗布部の下流側であって、前記キャストドラムと圧接ロールとによる挟持部の上流側に、前記キャストコート面と反対側の非キャストコート面のウェブの両端部に液体を付与して、該非キャストコート面を湿潤させる湿潤装置を設け、
前記湿潤装置をウェブの幅方向に移動可能として、ウェブの両端部に対する液体の付与範囲を変更可能としたことを特徴とするキャストコータ。」を
「塗工液が塗布されたウェブをキャストドラムと圧接ロールとで挟持させることにより、塗工液の塗布面がキャストドラムの鏡面部に圧接されてキャストコート面が形成されるキャストコータにおいて、
前記ウェブの走行方向の、前記塗工液を塗布する塗布部の下流側であって、前記キャストドラムと圧接ロールとによる挟持部の上流側に、前記キャストコート面の反対側である非キャストコート面のウェブの両端部に液体を噴霧して、非キャストコート面を湿潤させる噴霧ノズルを備えたシャワー装置を設け、
前記シャワー装置をウェブの幅方向に移動可能として、ウェブの両端部に対する液体の付与範囲を変更可能としたことを特徴とするキャストコータ。」と補正した。

そして、この補正は、特許請求の範囲に記載した発明を特定するために必要な事項である、湿潤装置について、「液体を噴霧」する「噴霧ノズルを備えたシャワー装置」に限定するものであり、この補正により、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかである。

よって、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的とするものである。

(2)独立特許要件違反についての検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

ア 引用装置発明
引用例の上記摘記事項第2の4(1)ア(オ)において、実施例1に着目して整理すると、引用例には、次の発明(以下「引用装置発明」という。)が記載されている。

「原紙(1)に、塗被液をエアーナイフコーター(2)で塗被し、エアーホイル乾燥機(3)で紙水分が6%になるように乾燥し、
塗被紙がプレスニップ(6)に入る前に、塗被紙裏面両耳部にスプレー(a)によって水をエッヂシャワーし、塗被紙裏面両耳部に水を作用させ、
その後、プレスロール(4)とクロムメッキキャストドラム(5)で形成されるプレスニップ(6)に通紙した、
リウェットキャスト装置。」

イ 対比
本願補正発明1と引用装置発明と対比する。
(ア)引用装置発明の「塗被液」は、その作用より、本願補正発明1の「塗工液」に相当し、同様に、「プレスロール(4)」は「圧接ロール」に、「クロムメッキキャストドラム(5)」は「キャストドラム」に、「水」は「液体」に、「塗被紙裏面両耳部」は「キャストコート面の反対側である非キャストコート面のウェブの両端部」、「リウェットキャスト装置」は「キャストコータ」に相当する。

(イ)引用装置発明の「塗被液をエアーナイフコーター(2)で塗被し」た「原紙(1)」は、本願補正発明1の「塗工液が塗布されたウェブ」に相当する。

(ウ)引用装置発明の「スプレー(a)によって水をエッヂシャワー」する装置は、本願補正発明1の「噴霧ノズルを備えたシャワー装置」に相当するから、引用装置発明の「塗被紙がプレスニップ(6)に入る前に、塗被紙裏面両耳部にスプレー(a)によって水をエッヂシャワーし、塗被紙裏面両耳部に水を作用させ」る態様は、原紙(1)の進行方向の、塗被液を塗被した下流側で行われているから、本願補正発明6の「前記ウェブの走行方向の、前記塗工液を塗布する塗布部の下流側であって、前記キャストドラムと圧接ロールとによる挟持部の上流側に、前記キャストコート面の反対側である非キャストコート面のウェブの両端部に液体を噴霧して、非キャストコート面を湿潤させる噴霧ノズルを備えたシャワー装置を設け」る態様に相当する。

そうすると、本願補正発明1と引用装置発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点2>
「塗工液が塗布されたウェブをキャストドラムと圧接ロールとで挟持させることにより、塗工液の塗布面がキャストドラムの鏡面部に圧接されてキャストコート面が形成されるキャストコータにおいて、
前記ウェブの走行方向の、前記塗工液を塗布する塗布部の下流側であって、前記キャストドラムと圧接ロールとによる挟持部の上流側に、前記キャストコート面の反対側である非キャストコート面のウェブの両端部に液体を噴霧して、非キャストコート面を湿潤させる噴霧ノズルを備えたシャワー装置を設けたキャストコータ。」

<相違点2>
本願補正発明1では、「前記シャワー装置をウェブの幅方向に移動可能として、ウェブの両端部に対する液体の付与範囲を変更可能とした」のに対して、引用装置発明は、スプレー(a)によって水をエッヂシャワーするものの、幅方向に移動可能であるとは特定されていない点。

ウ 判断
上記相違点2について検討する。
引用例には、ドラムピックの発生する範囲は、両耳部から中央に向けて状況に応じて変わるものであり、その際に、ドラムピックの発生個所に対応する水供給装置を作動させることが示唆されている。
そして、スプレーの噴射位置を調整するためにスプレーを移動可能とすることは慣用手段であって、引用装置発明は、スプレーによって水をエッヂシャワーするものであるから、水を所望の範囲に作用させるものであるところ、上記示唆に従い、当該慣用手段を適用して、引用装置発明において、スプレーを幅方向に移動可能とし、水を作用させる範囲を調整可能とする程度のことは、当業者が容易に想到し得たことである。

<本願補正発明1の奏する効果について>
本願補正発明1の奏する効果は、引用装置発明及び慣用手段から、当業者が容易に想到し得る範囲のものであって、格別なものでない。

エ 小括
したがって、本願補正発明1は、引用装置発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
以上のとおりであり、本願補正発明1は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

2 本願発明1について
(1)本願発明1
平成31年1月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、平成30年5月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「1 平成31年1月24日付けの手続補正の補正却下の決定」の「(1)本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例記載事項並びに引用装置発明については、上記「第2 平成31年1月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)後の請求項6に係る発明について」の「4 当審の判断」の「(1)引用例」「(ア) 引用例記載の事項」及び「1 平成31年1月24日付けの手続補正の補正却下の決定」の「(2)独立特許要件違反についての検討」の「ア 引用装置発明」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明1は、本願補正発明1から、湿潤装置について、「液体を噴霧」する「噴霧ノズルを備えたシャワー装置」であることの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明1を特定するための事項をすべて含み、更に他の事項を付加したものに相当する本願補正発明1が、前記「1 平成31年1月24日付けの手続補正の補正却下の決定」の「(2)独立特許要件違反についての検討」の「イ 対比」及び「ウ 判断」に記載したとおりの引用装置発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様の理由により、引用装置発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。
 
審理終結日 2019-08-19 
結審通知日 2019-08-20 
審決日 2019-09-11 
出願番号 特願2015-39818(P2015-39818)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D21H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 大輔  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 石井 孝明
佐々木 正章
発明の名称 キャストコータ及びキャストコート紙の製造方法  
代理人 アイアット国際特許業務法人  

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