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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1356544
審判番号 不服2018-655  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-17 
確定日 2019-10-30 
事件の表示 特願2013- 90217「発光素子及び発光素子パッケージ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月20日出願公開、特開2014- 33185〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月23日(パリ条約による優先権主張2012年8月6日、韓国)の出願であって、その手続の経緯は、次のとおりである。
平成28年 4月21日 :手続補正書
平成29年 2月24日付け:拒絶理由通知書(同年2月28日発送)
平成29年 5月 8日 :意見書・手続補正書
平成29年 9月14日付け:拒絶査定(同年9月19日送達)
平成30年 1月17日 :審判請求書・手続補正書
平成30年 9月27日付け:拒絶理由通知書(同年10月2日発送。当審がしたもの、最初)
平成30年12月27日 :意見書・手続補正書
平成31年 1月22日付け:拒絶理由通知書(同年1月29日発送。当審がしたもの、最後)
平成31年 4月25日 :意見書・手続補正書

以下、平成30年12月27日に提出された手続補正書による補正を、「第4次補正」といい、平成31年4月25日に提出された手続補正書による補正を、「第5次補正」という。
なお、明細書及び図面は、願書に最初に添付されたものから補正されていない。

第2 第5次補正の適法性について
1 第5次補正の内容
第5次補正は、特許請求の範囲の請求項1のみを補正するものであって、第5次補正の前後における請求項1は、次のとおりである。
(1)第5次補正前の請求項1
「第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層の上に配置された活性層と、
前記活性層の上に配置された第2導電型半導体層と、を含み、
前記活性層は、複数の井戸層と複数のバリア層を含み、
前記活性層は、
前記複数の井戸層のうち前記第2導電型半導体層の最も近くに配置される第3井戸層(13c)と、
前記第2導電型半導体層と前記第3井戸層との間に配置されるバリア層であって前記第3井戸層の最も近くに配置される第4バリア層(11d)と、
前記第3井戸層と前記第4バリア層との間に、前記第3井戸層と前記第4バリア層に接して配置される第5バリア層(15a)と、
前記第1導電型半導体層と前記第3井戸層との間に配置されるバリア層であって前記第3井戸層の最も近くに配置される第3バリア層(11c)と、
前記第3井戸層と前記第3バリア層との間に、前記第3井戸層と前記第3バリア層に接して配置される第6バリア層(15b)と、
前記複数の井戸層のうち前記第1導電型半導体層の最も近くに配置される第1井戸層(13a)と、
前記第1導電型半導体層と前記第1井戸層との間に配置されるバリア層であって前記第1井戸層の最も近くに配置される第1バリア層(11a)と、
前記第1井戸層と前記第1バリア層との間に、前記第1井戸層と前記第1バリア層に接して配置される第7バリア層(17a)と、
前記第2導電型半導体層と前記第1井戸層との間に配置されるバリア層であって前記第1井戸層の最も近くに配置される第2バリア層(11b)と、
前記第1井戸層と前記第2バリア層との間に、前記第1井戸層と前記第2バリア層に接して配置される第8バリア層(17b)と、
を含み、
前記第5バリア層(15a)及び前記第6バリア層(15b)の各々の厚さは、前記第7バリア層(17a)及び前記第8バリア層(17b)の各々の厚さより厚く、
前記第5バリア層及び前記第6バリア層の各々の厚さは、略同一であり、
前記第7バリア層及び前記第8バリア層の各々の厚さは、略同一であり、
前記第5バリア層(15a)のエネルギーバンドギャップは、前記第4バリア層(11d)のエネルギーバンドギャップと同一であり、前記第2導電型半導体層のエネルギーバンドギャップより小さく、
前記第7バリア層(17a)のエネルギーバンドギャップは、前記第1バリア層(11a)のエネルギーバンドギャップと同一であり、前記第1導電型半導体層のエネルギーバンドギャップより小さく、
前記第1バリア層乃至前記第4バリア層の各々の厚さは、略同一であり、
前記第1井戸層乃至前記第3井戸層は、InGaN井戸層であり、
前記第1バリア層乃至前記第8バリア層は、GaNバリア層であり、
前記第3井戸層のIn含有量は、前記第1井戸層及び前記第2井戸層の各々のIn含有量よりも多いことを特徴とする、発光素子。」

(2)第5次補正後の請求項1
「第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層の上に配置された活性層と、
前記活性層の上に配置された第2導電型半導体層と、を含み、
前記活性層は、複数の井戸層と複数のバリア層を含み、
前記活性層は、
前記複数の井戸層のうち前記第2導電型半導体層の最も近くに配置される第3井戸層(13c)と、
前記第2導電型半導体層と前記第3井戸層との間に配置される第4バリア層(11d)と、
前記第3井戸層と前記第4バリア層との間に、前記第3井戸層と前記第4バリア層に接して配置される第5バリア層(15a)と、
前記第1導電型半導体層と前記第3井戸層との間に配置される第3バリア層(11c)と、
前記第3井戸層と前記第3バリア層との間に、前記第3井戸層と前記第3バリア層に接して配置される第6バリア層(15b)と、
前記複数の井戸層のうち前記第1導電型半導体層の最も近くに配置される第1井戸層(13a)と、
前記第1導電型半導体層と前記第1井戸層との間に配置される第1バリア層(11a)と、
前記第1井戸層と前記第1バリア層との間に、前記第1井戸層と前記第1バリア層に接して配置される第7バリア層(17a)と、
前記第2導電型半導体層と前記第1井戸層との間に配置される第2バリア層(11b)と、
前記第1井戸層と前記第2バリア層との間に、前記第1井戸層と前記第2バリア層に接して配置される第8バリア層(17b)と、
を含み、
前記第5バリア層(15a)及び前記第6バリア層(15b)の各々の厚さは、前記第7バリア層(17a)及び前記第8バリア層(17b)の各々の厚さより厚く、
前記第5バリア層及び前記第6バリア層の各々の厚さは、略同一であり、
前記第7バリア層及び前記第8バリア層の各々の厚さは、略同一であり、
前記第5バリア層(15a)のエネルギーバンドギャップは、前記第4バリア層(11d)のエネルギーバンドギャップと同一であり、前記第2導電型半導体層のエネルギーバンドギャップより小さく、
前記第7バリア層(17a)のエネルギーバンドギャップは、前記第1バリア層(11a)のエネルギーバンドギャップと同一であり、前記第1導電型半導体層のエネルギーバンドギャップより小さく、
前記第1バリア層乃至前記第4バリア層の各々の厚さは、略同一であり、
前記第1井戸層乃至前記第3井戸層は、InGaN井戸層であり、
前記第1バリア層乃至前記第8バリア層は、GaNバリア層であり、
前記第3井戸層のIn含有量は、前記第1井戸層及び前記第2井戸層の各々のIn含有量よりも多いことを特徴とする、発光素子。」

なお、下線は、補正箇所として請求人が付したものである。

2 第5次補正の目的
第5次補正は、
(i)補正前の「前記第2導電型半導体層と前記第3井戸層との間に配置されるバリア層であって前記第3井戸層の最も近くに配置される第4バリア層(11d)」という明瞭でない記載を、「前記第2導電型半導体層と前記第3井戸層との間に配置される第4バリア層(11d)」に補正して明瞭とし、
(ii)補正前の「前記第1導電型半導体層と前記第3井戸層との間に配置されるバリア層であって前記第3井戸層の最も近くに配置される第3バリア層(11c)」という明瞭でない記載を、「前記第1導電型半導体層と前記第3井戸層との間に配置される第3バリア層(11c)」に補正して明瞭とし、
(iii)補正前の「前記第1導電型半導体層と前記第1井戸層との間に配置されるバリア層であって前記第1井戸層の最も近くに配置される第1バリア層(11a)」という明瞭でない記載を、「前記第1導電型半導体層と前記第1井戸層との間に配置される第1バリア層(11a)」に補正して明瞭とし、
(iv)補正前の「前記第2導電型半導体層と前記第1井戸層との間に配置されるバリア層であって前記第1井戸層の最も近くに配置される第2バリア層(11b)」という明瞭でない記載を、「前記第2導電型半導体層と前記第1井戸層との間に配置される第2バリア層(11b)」に補正して明瞭とするものである。

よって、第5次補正は、特許法第17条の2第5項第4号に規定する明りようでない記載の釈明を目的とするものである。

3 第5次補正についての小括
以上のとおりであるから、第5次補正は、適法である。

第3 平成31年1月22日付け拒絶理由通知書の概要
当審がした平成31年1月22日付け拒絶理由通知における拒絶の理由は、次の内容を含むものである。
第4次補正のうち、請求項1に「前記第3井戸層のIn含有量は、前記第1井戸層及び前記第2井戸層の各々のIn含有量よりも多い」ことを追加した補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

以下、第4次補正により請求項1に追加された「前記第3井戸層のIn含有量は、前記第1井戸層及び前記第2井戸層の各々のIn含有量よりも多い」という事項を「本件補正事項」という。
また、第4次補正後の請求項1に係る発明を「第4次補正後発明」という。

第4 当審の判断
1 認定事実
(1)本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】」、
「第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層の上に配置された活性層と、
前記活性層の上に配置された第2導電型半導体層と、を含み、
前記活性層は、
(T+1)個のバリア層と、
前記(T+1)個のバリア層の間に配置されたT個の井戸層と、
前記第2導電型半導体層に隣り合う(adjacent)N個の井戸層と前記N個の井戸層に隣り合うN個のバリア層との間に配置される第1ダミー層と、を含み、
T>N≧1であることを特徴とする、発光素子。」(【請求項1】)、
「前記活性層は、
前記第1導電型半導体層に隣り合うM個の井戸層と前記M個の井戸層に隣り合うM個のバリア層との間に配置される第2ダミー層をさらに含み、
N≧M≧1であることを特徴とする、請求項1に記載の発光素子。」(【請求項2】)

イ 「【技術分野】」、
「本発明は、発光素子に関するものである。」(【0001】)
「本発明は、発光素子パッケージに関する。」(【0002】)

ウ 「【背景技術】」、
「発光ダイオード(Light-Emitting Diode:LED)は、電流を光に変換させる半導体発光素子(semiconductor light emitting device)である。」(【0003】)、
「発光素子は、蛍光灯、白熱灯などのような既存の光源に比べて、低消費電力、半永久的な寿命、速い応答速度、安全性、環境親和性の長所を有する。これによって、既存の光源を半導体発光素子に取り替えるための多くの研究が進められている。」(【0004】)、
「併せて、半導体発光素子は室内外で使われる各種ランプ若しくは街灯のような照明装置の光源または液晶表示装置と電光板のような表示装置の光源として広く応用されている。」(【0005】)

エ 「【発明が解決しようとする課題】」、
「本発明の目的は、演色指数(CRI:Color Rendering Index)を向上させることができる発光素子を提供する。」(【0006】)、
「本発明の他の目的は、光出力を向上させることができる発光素子を提供することにある。」(【0007】)、
「本発明の更に他の目的は、駆動電圧を低めることができる発光素子を提供することにある。」(【0008】)

オ 「【課題を解決するための手段】」、
「本発明の様々な実施形態によれば、発光素子は、第1導電型半導体層、前記前記第1導電型半導体層の上に配置された活性層、及び前記前記活性層の上に配置された第2導電型半導体層を含み、前記前記活性層は、(T+1)個のバリア層、前記前記(T+1)個のバリア層の間に配置されたT個の井戸層、及び前記前記第2導電型半導体層に隣り合う(adjacent)N個の井戸層と前記前記N個の井戸層に隣り合うN個のバリア層との間に配置されるダミー層を含み、T>N≧1である。」(【0009】)、
「本発明の様々な実施形態によれば、発光素子は、基板、前記前記基板の上に配置された第1導電型半導体層、前記前記第1導電型半導体層の上に配置された活性層、及び前記前記活性層の上に配置された第2導電型半導体層を含み、前記前記活性層は、第1乃至第4バリア層、及び前記前記第1乃至第4バリア層の間に配置された第1乃至第3井戸層を含み、前記前記第1バリア層は前記前記第1導電型半導体層に接し(contact)、前記前記第4バリア層は前記前記第2導電型半導体層に接し(contact)、前記前記第3及び第4バリア層の厚さは前記前記第1及び第2バリア層の厚さより大きい。」(【0010】)、
「本発明の様々な実施形態によれば、発光素子パッケージは、支持体、前記前記支持体の上に第1及び第2電極ライン、及び前記前記支持体及び前記前記第1及び第2電極ラインのうち、いずれか1つの上に配置される発光素子を含み、前記前記発光素子は、第1導電型半導体層、前記前記第1導電型半導体層の上に配置された活性層、及び前記前記活性層の上に配置された第2導電型半導体層を含み、前記前記活性層は、(T+1)個のバリア層、前記前記(T+1)個のバリア層の間に配置されたT個の井戸層、及び前記前記第2導電型半導体層に隣り合う(adjacent)N個の井戸層と前記前記N個の井戸層に隣り合うN個のバリア層の間に配置されるダミー層を含み、T>N≧1である。」(【0011】)

カ 「【発明を実施するための形態】」、
「本発明を説明するに当たって、各層(膜)、領域、パターン、または構造物が、基板、各層(膜)、領域、パッド、またはパターンの“上(on)”にまたは“下(under)”に形成されるという記載は、直接(directly)または他の層を介して(indirectly)形成されることを全て含む。また、各層の上または下に対する基準は、図面を基準として説明する。」(【0013】)、
「以下、添付した図面を参照して実施形態を説明すると、次の通りである。図面において、各層の厚さやサイズは説明の便宜及び明確性のために誇張、省略、または概略的に図示された。また、各構成要素のサイズは実際のサイズを全的に反映するものではない。」(【0014】)

キ 「図1は、本発明の実施形態に従う発光素子を示す断面図である。」(【0015】)、


「図1を参照すると、実施形態に従う発光素子1は、基板3、及び前記前記基板3の上に配置された発光構造物20を含むことができる。」(【0016】)、
「前記前記基板3は、サファイア(Al_(2)O_(3))、SiC、Si、GaAs、GaN、ZnO、Si、GaP、InP、及びGeからなるグループから選択された少なくとも1つで形成できる。」(【0017】)、
「前記前記基板3と前記前記発光構造物20との間にバッファ層5が配置できるが、これに対して限定するものではない。」(【0018】)、
「前記前記バッファ層5は、前記前記基板3と前記前記発光構造物20との間の大きい格子定数(lattice constant)差を緩和してくれるために形成できる。即ち、前記前記基板3の上に前記前記バッファ層5が形成され、前記前記バッファ層5の上に前記前記発光構造物20が形成できる。このような場合、前記前記発光構造物20は前記前記バッファ層5との格子定数の差が小さいので、前記前記発光構造物20が前記前記バッファ層5の上に不良無しで安定的に成長されて電気的及び光学的特性が向上できる。」(【0019】)、
「前記前記発光構造物20は、少なくとも第1導電型半導体層7、活性層10、及び第2導電型半導体層9を含むことができるが、これに対して限定するものではない。」(【0020】)、
「例えば、前記前記活性層10は前記前記第1導電型半導体層7の上に配置され、前記前記第2導電型半導体層9は前記前記活性層10の上に配置できる。」(【0021】)、
「前記前記バッファ層5、前記前記第1導電型半導体層7、前記前記活性層10、及び前記前記第2導電型半導体層9は、II-VI族またはIII-V族化合物半導体材質で形成できる。例えば、前記前記第1導電型半導体層7、前記前記活性層10、及び前記前記第2導電型半導体層9は、InAlGaN、GaN、AlGaN、InGaN、AlN、InN、及びAlInNからなるグループから選択された少なくとも1つを含むことができるが、これに対して限定するものではない。」(【0022】)、
「例えば、前記前記第1導電型半導体層7はn型ドーパントを含むn型半導体層であり、前記前記第2導電型半導体層9はp型ドーパントを含むp型半導体層であるが、これに対して限定するものではない。前記前記n型ドーパントは、Si、Ge、Snなどを含み、前記前記p型ドーパントはMg、Zn、Ca、Sr、Baなどを含むが、これに対して限定するものではない。」(【0023】)、
「前記前記活性層10は、前記前記第1導電型半導体層7を通じて注入される第1キャリア、例えば電子と、前記前記第2導電型半導体層9を通じて注入される第2キャリア、例えば正孔とが互いに結合されて、前記前記活性層10の形成物質に従うエネルギーバンドギャップ(energy bandgap)の差に相応する波長を有する光を放出することができる。」(【0024】)、
「前記前記活性層10は、単一量子井戸構造(SQW)、多重量子井戸構造(MQW)、量子点構造、または量子線構造のうち、いずれか1つを含むことができる。前記前記活性層10は、井戸層とバリア層とを一周期にして井戸層とバリア層とが繰り返して形成できる。前記前記井戸層とバリア層との反復周期は発光素子の特性によって変形可能であるので、これに対して限定するものではない。」(【0025】)、
「前記前記活性層10は、例えば、InGaN/GaNの周期、InGaN/AlGaNの周期、InGaN/InGaNの周期などで形成できる。前記前記バリア層のバンドギャップは、前記前記井戸層のバンドギャップより大きく形成できる。」(【0026】)、
「図示してはいないが、前記前記第2導電型半導体層9の上に前記前記第1導電型半導体層7と同一な導電型ドーパントを含む第3導電型半導体層が配置できる。」(【0027】)、
「図示してはいないが、前記前記第1導電型半導体層7に接するように第1電極が配置され、前記前記第2導電型半導体層9または前記前記第3導電型半導体層に接するように第2電極が配置できる。」(【0028】)、
「前記前記発光素子1は、水平型(lateral type)構造、フリップチップ型(flip-chip type)構造、及び垂直型(vertical type)構造のうちの1つを含むことができる。」(【0029】)、
「前記水平型構造や前記フリップチップ型構造では、前記第1電極は前記第1導電型半導体層7の上に配置され、前記第2電極は前記第2導電型半導体層9の上に配置できる。言い換えると、前記水平型構造や前記フリップチップ型構造では前記第1及び第2電極が同一方向に向けて配置できる。」(【0030】)、
「前記垂直型構造では、前記第1電極は前記第1導電型半導体層7の上に配置され、前記第2電極は前記第2導電型半導体層9の下に配置できる。言い換えると、前記垂直型構造は前記第1及び第2電極が互いに反対方向に向けて配置され、前記第1及び第2電極の一部が少なくても重畳されるように配置できるが、これに対して限定するものではない。」(【0031】)、
「図2に示すように、一般的に演色指数(CRI:Color Rendering Index)と光出力とは反比例関係を有することができる。」(【0032】)、


「即ち、発光素子1の波長が増加するほど演色指数は増加することに反して、光出力は減少する。特に、450nm以下のピーク波長では波長が増加するほど演色指数の増加と共に光出力も増加するが、450nmのピーク波長からは波長が増加するほど演色指数は増加するが、光出力は減少する。」(【0033】)、
「したがって、450nm以上のピーク波長で演色指数の増加と共に光出力が増加乃至少なくとも維持できる発光素子の開発が切実である。」(【0034】)、
「450nm以上では蛍光体が低下し、蛍光体の低下に起因して光出力が低下する。」(【0035】)、
「発光素子1で450nm以上のピーク波長を有するためには、活性層10のエネルギーバンドギャップの調節が必要である。例えば、活性層10がInGaN井戸層/GaNバリア層の場合、井戸層のIn含有量を調節することによって、エネルギーバンドギャップを調節することができる。ところが、Inの含有量を高めれば、活性層10の膜品質を低下させるので、これを補完するためにバリア層の厚さを増加させる必要がある。バリア層が複数の場合、複数個のバリア層の厚さを全て増加させることによって補完することができる。」(【0036】)、
「図3は、活性層10の複数のバリア層の厚さを65Åから70Å、80Å、及び90Åに変化を与えた後、発光素子1の光出力(Po)を測定した実験データである。図3に示すように、バリア層の厚さを増加させればさせるほど、光出力(Po)が低下することが分かる。」(【0037】)、


「バリア層の厚さが90Å、80Å、及び70Åに減るほど、450nm以上のピーク波長で光出力は増加することが分かる。即ち、90Åの厚さを有するバリア層よりは80Åの厚さを有するバリア層でより大きい光出力が得られ、80Åの厚さを有するバリア層よりは70Åの厚さのバリア層でより大きい光出力が得られる。但し、90Åの厚さのバリア層、80Åの厚さを有するバリア層、及び70Åの厚さを有するバリア層の全てで波長が増加するにつれて光出力が徐々に減少する傾向を見せている。特に、バリア層の厚さが65Åの場合、光出力が急激に減少する傾向を見せている。」(【0038】)、
「ここで、活性層に含まれた全てのバリア層の厚さは同一でありうる。例えば、活性層に含まれた全てのバリア層の厚さが90Åでありうる。」(【0039】)、
「図3に示すように、バリア層の厚さが減少するにつれて光出力が向上するが、駆動電圧は増加する問題がある。これは、バリア層の厚さが減少するにつれて、活性層のバルク抵抗(bulk resistance)が増加し、このようなバルク抵抗の増加によって駆動電圧が増加することと見える。即ち、バルク抵抗の増加によって電流の流れが妨害を受けるので、所望の電流が流れるためには、より高い駆動電圧が求められる。」(【0040】)、
「実施形態は、演色指数及び光出力を向上させながら駆動電圧を低める発光素子を具現することができる。」(【0041】)、
「図4は、図1の発光素子における第1実施形態に従う活性層を示す断面図である。」(【0042】)、


「図4を参照すると、前記活性層10は、多数のバリア層11a、11b、11c、11d、多数の井戸層13a、13b、13c、及び第1及び第2ダミー層15a、15bを含むことができる。」(【0043】)、
「前記井戸層13a、13b、13cは、前記バリア層11a、11b、11c、11dの間に配置できる。例えば、第1バリア層11aの上に第1井戸層13aが配置され、前記第1井戸層13aの上に第2バリア層11bが配置され、前記第2バリア層11bの上に第2井戸層13bが配置できる。前記第2井戸層13bの上に第3バリア層11cが配置され、前記第3バリア層11cの上に第3井戸層13cが配置され、前記第3井戸層13cの上に第4バリア層11dが配置できる。」(【0044】)、
「前記第1乃至第3井戸層13a、13b、13cは、隣り合うバリア層11a、11b、11c、11dから提供された電子または正孔が詰められることができる。前記電子または正孔が再結合(recombination)して光が生成できる。」(【0045】)、
「前記第1ダミー層15aと前記第2ダミー層15bは、前記第3井戸層13cに接して(contact)配置できる。即ち、前記第1ダミー層15aは、前記第4バリア層11dと前記第3井戸層13cに接し(contact)、前記第2ダミー層15bは前記第3井戸層13cと前記第3バリア層11cに接して(contact)配置できるが、これに対して限定するものではない。」(【0046】)、
「前記第1及び第2ダミー層15a、15bの各々は、前記第3バリア層11c及び第4バリア層11dに編入できる。これによって、前記第1及び第2ダミー層15a、15bが含まれた前記第3バリア層11c及び第4バリア層11dの各々の厚さが増加して第3井戸層13cと前記第4バリア層11dとの間の格子定数差によるエネルギーバンドが曲がること(band bending)が緩和されて光出力が増加できる。」(【0047】)、
「これは、450nm以上の主ピーク(main peak)領域を有するように、発光に大きく寄与する第3井戸層13cの化合物半導体材質の組成を調節しても、膜品質には影響を及ぼさない役割をすることができる。」(【0048】)、
「また、第2導電型半導体層9に隣り合う(adjacent)第3バリア層11c及び第4バリア層11dに接して(contact)、第1及び第2ダミー層15a、15bを形成することによって、全体バルク抵抗の増加は最小化しながら光出力を増加させることができる。」(【0049】)、
「実施形態の活性層10は、450nm以上のピーク波長の光を生成できるが、これに対して限定するものではない。」(【0050】)、
「図4には、前記第1及び第2ダミー層15a、15bは第3井戸層13cの両側に配置されることと図示されているが、前記第2ダミー層15bは前記第2導電型半導体層9に隣り合うN個の井戸層と前記N個の井戸層に隣り合うN個のバリア層との間に配置されることもできる。ここで、Nは1以上の自然数(N≧1)である。」(【0051】)、
「この際、全体井戸層はT個であり、全体バリア層は(T+1)個でありうる(T>N)。図示してはいないが、前記第2ダミー層15bは前記第2井戸層13bと前記第3バリア層11cとの間に配置されることもできる。即ち、前記第2バリア層11bの上に前記第2井戸層13bが配置され、前記第2井戸層13bの上に第2ダミー層15bが配置され、前記第2ダミー層15bの上に第3バリア層11cが配置できる。このような場合、前記第2ダミー層15bは前記第3バリア層11cの厚さを増加させて第2井戸層13bと前記第3バリア層11cとの間の格子定数差によるエネルギーバンドが曲がることを緩和して光出力を増加させる役割をすることができる。」(【0052】)、
「例えば、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dの各々は、5nmの厚さ(S1、S2、S3、S4)を有し、前記第1及び第2ダミー層15a、15b各々は2nmの厚さ(t1、t2)を有することができるが、これに対して限定するものではない。」(【0053】)、
「前記第1及び第2ダミー層15a、15bの各々は、2nm乃至4nmの範囲の厚さ(t1、t2)を有することができるが、これに対して限定するものではない。2nm以下の厚さは製造することが難しく、4nm以上の厚さの場合、光出力が低下することがある。」(【0054】)、
「図5は、図4の活性層のエネルギーバンドダイヤグラムを示す一例示図である。図5は説明の便宜のために、伝導帯(conduction band)のエネルギーバンドダイヤグラムを図示しているが、エネルギーバンドダイヤグラムは伝導帯及び価電子帯(valance band)を全て含んでいる。」(【0055】)、


「図5に示すように、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dは同一なエネルギーバンドギャップを有し、前記第1乃至第3井戸層13a、13b、13cより大きいエネルギーバンドギャップを有することができる。したがって、第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dを経由した電子や正孔が前記第1乃至第3井戸層13a、13b、13cに詰められることができる。」(【0056】)、
「例えば、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dはGaN、AlGaN、及びInGaNのうちの1つを含むことができ、前記第1乃至第3井戸層13a、13b、13cはInGaNを含むことができるが、これに対して限定するものではない。」(【0057】)、
「前記第1導電型半導体層7または前記第2導電型半導体層9は、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dと等しいか大きいバンドギャップを有することができ
るが、これに対して限定するものではない。例えば、前記第1導電型半導体層7または前記第2導電型半導体層9は、GaNまたはAlGaNを含むことができるが、これに対して限定するものではない。」(【0058】)、
「前記第1及び第2ダミー層15a、15bは、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dと同一なエネルギーバンドギャップを有することができるが、これに対して限定するものではない。」(【0059】)、
「前記第1及び第2ダミー層15a、15bは、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dと同一な種類の化合物半導体材質で形成できるが、これに対して限定するものではない。」(【0060】)、
「したがって、前記第1及び第2ダミー層15a、15bの各々は、前記第3バリア層11cの厚さ(S3+t1)及び前記第4バリア層11dの厚さ(S4+t2)を実質的に増加させてエネルギーバンドが曲がることを防止する役割をすることができる。」(【0061】)、
「前述したように、前記第2ダミー層15bは前記第2井戸層13bと前記第3バリア層11cとの間に配置されることもできるが、これに対して限定するものではない。」(【0062】)、
「前記第2ダミー層15bが前記第2井戸層13bと前記第3バリア層11cとの間に配置されるか、前記第3バリア層11cと前記第3井戸層13cとの間に配置される場合、前記第2ダミー層15bは前記第3バリア層11cの厚さ(S3+t1)を増加させることができる。」(【0063】)、
「図6は、図4の活性層のエネルギーバンドダイヤグラムを示す他の例示図である。図6は説明の便宜のために、伝導帯(conduction band)のエネルギーバンドダイヤグラムを図示しているが、エネルギーバンドダイヤグラムは伝導帯と価電子帯(valance band)を全て含んでいる。」(【0064】)、


「図6に示すように、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dは互いに同一なエネルギーバンドギャップを有し、前記第1乃至第3井戸層13a、13b、13cより大きいエネルギーバンドギャップを有することができる。」(【0065】)

ク 「図7は、図1の発光素子における第2実施形態に従う活性層を示す断面図である。」(【0072】)、


「図7を参照すると、前記活性層10は、多数のバリア層11a、11b、11c、11d、多数の井戸層13a、13b、13c、及び第1乃至第4ダミー層15a、15b、17a、17bを含むことができる。」(【0073】)、
「前記3井戸層13a、13b、13cは、前記バリア層11a、11b、11c、11dの間に配置できる。例えば、第1バリア層11aの上に第1井戸層13aが配置され、前記第1井戸層13aの上に第2バリア層11bが配置され、前記第2バリア層11bの上に第2井戸層13bが配置できる。前記第2井戸層13bの上に第3バリア層11cが配置され、前記第3バリア層11cの上に第3井戸層13cが配置され、前記第3井戸層13cの上に第4バリア層11dが配置できる。」(【0074】)、
「前記第1乃至第3井戸層13a、13b、13cは隣り合うバリア層11a、11b、11c、11dから提供された電子または正孔が詰められることができる。前記電子または正孔が再結合して光が生成できる。」(【0075】)、
「前記第1ダミー層15a及び前記第2ダミー層15bは、前記第3井戸層13cに接して(contact)配置できる。即ち、前記第1ダミー層13aは前記第4バリア層11dと前記第3井戸層13cに接し(contact)、前記第2ダミー層15bは前記第3井戸層13cと前記第3バリア層11cに接して(contact)配置できるが、これに対して限定するものではない。」(【0076】)、
「前記第1及び第2ダミー層15a、15bの各々は、前記第3バリア層11c及び第4バリア層11dの厚さを増加させて第3井戸層13cと前記第4バリア層11dとの間の格子定数差によるエネルギーバンドが曲がること(band bending)を緩和して光出力を増加させる役割をすることができる。」(【0077】)、
「図示してはいないが、前記第1ダミー層15aは、前記第2井戸層13bと前記第3バリア層11cとの間に配置されることもできる。即ち、前記第2バリア層11cの上に前記第2井戸層13bが配置され、前記第2井戸層13bの上に第2ダミー層15bが配置され、前記第2ダミー層15bの上に第3バリア層11cが配置できる。このような場合、前記第2ダミー層15bは、前記第3バリア層11cの厚さを増加させて第2井戸層13bと前記第3バリア層11cとの間の格子定数差によるエネルギーバンドが曲がることを緩和して光出力を増加させる役割をすることができる。」(【0078】)、
「前記第3及び第4ダミー層17a、17bは、前記第1井戸層13aに接して(contact)配置できる。即ち、前記第3ダミー層17aは前記第1バリア層11aと前記第1井戸層13aに接し(contact)、前記第4ダミー層17bは前記第1井戸層13aと前記第2バリア層11bに接して(contact)配置できるが、これに対して限定するものではない。」(【0079】)、
「前記第3及び第4ダミー層17a、17bの各々は、前記第1バリア層11a及び第2バリア層11bの厚さを増加させて第1井戸層13aと前記第2バリア層11bとの間の格子定数差によるエネルギーバンドが曲がること(band bending)を緩和して光出力を増加させる役割をすることができる。」(【0080】)、
「前記第3及び第4ダミー層17a、17bは、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dと同一な種類の化合物半導体材質で形成できるが、これに対して限定するものではない。」(【0081】)、
「図7には、前記第3及び第4ダミー層17a、17bは第1井戸層13aの両側に配置されることと図示されているが、前記第4ダミー層17bは前記第1導電型半導体層7に隣り合うM個の井戸層と、前記M個の井戸層に隣り合うM個のバリア層との間に配置されることもできる。ここで、Mは1以上の自然数(M≧1)である。」(【0082】)、
「併せて、図7には、前記第1及び第2ダミー層15a、15bは第3井戸層13cの両側に配置されることと図示されているが、前記第2ダミー層15bは前記第2導電型半導体層9に隣り合うN個の井戸層と、前記N個の井戸層に隣り合うN個のバリア層との間に配置されることもできる。ここで、Nは1以上の自然数(N≧1)である。」(【0083】)、
「このような場合、NはMと同一または相異することができる。例えば、NはMより大きいことがあるが、これに対して限定するものではない。」(【0084】)、
「この際、全体井戸層はT個であり、全体バリア層は(T+1)個でありうる(T>N≧M)。」(【0085】)、
「図示してはいないが、前記第4ダミー層17bは前記第2バリア層11bと前記第2井戸層13bとの間に配置されることもできる。即ち、前記第2バリア層11bの上に前記第4ダミー層17bが配置され、前記第4ダミー層17bの上に第2井戸層13bが配置できる。このような場合、前記第4ダミー層17bは前記第2バリア層11bの厚さを増加させて第2井戸層13bと前記第2バリア層11bとの間の格子定数差によるエネルギーバンドが曲がることを緩和して光出力を増加させる役割をすることができる。」(【0086】)、
「前記第1及び第2ダミー層15a、15bと前記第3及び第4ダミー層17a、17bとは相異する厚さを有することができる。例えば、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dの各々は、5nmの厚さ(S1、S2、S3、S4)を有し、前記第1及び第2ダミー層15a、15bの各々は2nmの厚さ(t1、t2)を有し、前記第3及び第4ダミー層17a、17bの各々は1nmの厚さ(u1、u2)を有することができるが、これに対して限定するものではない。」(【0087】)、
「例えば、前記第1及び第2ダミー層15a、15bの各々は2nm乃至4nmの範囲の厚さ(t1、t2)を有し、前記第3及び第4ダミー層17a、17bの各々は1nm乃至2nmの範囲の厚さ(u1、u2)を有することができるが、これに対して限定するものではない。」(【0088】)、
「図8は、図7の活性層のエネルギーバンドダイヤグラムを示す一例示図である。図8は説明の便宜のために、伝導帯(conduction band)のエネルギーバンドダイヤグラムを図示しているが、エネルギーバンドダイヤグラムは伝導帯と価電子帯(valance band)を全て含んでいる。」(【0089】)、


「図8は、第3及び第4ダミー層を除いては図5とほとんど類似または同一であるので、第3及び第4ダミー層を中心として説明する。」(【0090】)、
「図8に示すように、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dは同一なエネルギーバンドギャップを有し、前記第1乃至第3井戸層13a、13b、13cより大きいエネルギーバンドギャップを有することができる。」(【0091】)、
「前記第1及び第2ダミー層15a、15bは、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dと同一なエネルギーバンドギャップを有することができるが、これに対して限定するものではない。」(【0092】)、
「前記第1及び第2ダミー層15a、15bは前記第1乃至第4バリア層と同一な種類の化合物半導体材質で形成できるが、これに対して限定するものではない。」(【0093】)、
「したがって、前記第1及び第2ダミー層15a、15bの各々は、前記第3バリア層11cの厚さ(S3+t1)及び前記第4バリア層11dの厚さ(S4+t2)を実質的に増加させてエネルギーバンドが曲がることを防止する役割をすることができる。」(【0094】)、
「併せて、第3及び第4ダミー層17a、17bは前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dと同一なエネルギーバンドギャップを有することができるが、これに対して限定するものではない。」(【0095】)、
「前記第3及び第4ダミー層17a、17bは、前記第1乃至第4バリア層11a、11b、11c、11dと同一な種類の化合物半導体材質で形成できるが、これに対して限定するものではない。」(【0096】)、
「したがって、前記第3及び第4ダミー層17a、17bの各々は、前記第1バリア層11aの厚さ(S1+u1)及び前記第2バリア層11bの厚さ(S2+u2)を実質的に増加させてエネルギーバンドが曲がることを防止する役割をすることができる。」(【0097】)、
「図9は、図7の活性層のエネルギーバンドダイヤグラムを示す他の例示図である。図9は説明の便宜のために、伝導帯(conduction band)のエネルギーバンドダイヤグラムを図示しているが、エネルギーバンドダイヤグラムは伝導帯と価電子帯(valance band)を全て含んでいる。」(【0098】)、


ケ 「実施形態は、バリア層に隣接してバリア層と類似するバンドギャップを有するダミー層を形成することによって、450nm以上のピーク波長で演色指数と光出力が向上し、電圧が低くなる。」(【0162】)

(2)上記(1)の各記載によれば、当初明細書等には、第1実施形態に関し、次の技術的事項が記載されていると認めるのが相当である。なお、認定を行った根拠を角括弧内に説示してある。
ア 本発明は、発光素子に関するものであり、演色指数を向上させるとともに、光出力を向上させ、さらに、駆動電圧を低めることを、目的とする。
[【0001】・【0006】・【0008】。]

イ 本発明の発光素子は、発光構造物20を含んでいる。そして、発光構造物20は、少なくとも第1導電型半導体層7、活性層10、及び第2導電型半導体層9を含む。活性層10は、井戸層とバリア層とを一周期にして井戸層とバリア層とが繰り返して形成される。井戸層はInGaNであり、バリア層はGaNであることができる。
[【0016】・【0020】・【0025】・【0026】・図1。]

ウ 発光素子の波長が増加するほど、演色指数は増加するが、光出力が減少する。特に、450nmのピーク波長からは、そうなる。そこで、ピーク波長が450nm以上であるとともに、光出力が増加乃至少なくとも維持できるような発光素子を開発する必要がある。
[【0032】?【0035】・図2。]

エ 発光素子が450nm以上のピーク波長を有するためには、活性層10のエネルギーバンドギャップの調節が必要である。活性層10がInGaN井戸層/GaNバリア層である場合、井戸層のIn含有量を高めればよい。しかし、井戸層のIn含有量を高めると、活性層10の膜品質が低下する。このような膜品質の低下を補完するためには、バリア層の厚さを増加させる必要がある。バリア層が複数の場合、複数個全てのバリア層の厚さを増加させることによって補完できる。
ここで、バリア層の厚さを増加させる際に、複数個のバリア層のうち、一部だけでなく、複数個全てのバリア層を対象にして厚さを増加させる理由は、複数個のバリア層があるときは、井戸層も複数個あり、そして、それらの全ての井戸層においてIn含有量を高めたからである。
[【0036】・【0025】。
当初明細書等には、バリア層の厚さを増加させる際に、複数個のバリア層のうち、一部だけでなく、複数個全てを対象にして厚さを増加させる理由は、明記されていないが、上記において認定した根拠は次のとおりである。
【0025】によれば、複数個のバリア層があるときは、複数個の井戸層がある。そして、【0036】の「Inの含有量を高めれば、活性層10の膜品質を低下させるので、これを補完するためにバリア層の厚さを増加させる必要がある。」によれば、バリア層の厚さを増加させる理由は、活性層10のうち井戸層について、膜品質が低下してしまうことを補完することにあると解される。そうすると、複数個全てのバリア層の厚さを増加させているということは、膜品質の低下を補完する必要がある井戸層が、複数個全ての井戸層であることを意味すると解される。そして、複数個全ての井戸層の膜品質の低下を補完しているということは、複数個全ての井戸層においてIn含有量を高めていることを意味すると解される。よって、複数個のバリア層の厚さを増加させる際に、複数個のバリア層のうち、一部だけでなく、複数個全てを対象にして厚さを増加させる理由は、複数個全ての井戸層においてIn含有量を高めたからであるといえる。]

オ このように、活性層の膜品質の低下を補完するためには、バリア層の厚さを増加させる必要があるけれども、複数個全てのバリア層の厚さを増加させる前提において、バリア層の厚さを増加させすぎると、光出力が低下してしまう(例えば、バリア層の厚さが70Åと90Åとでは、後者が、前者よりも光出力が低くなってしまう。)。そのため、バリア層の厚さを増加させすぎない(例えば、70Å)ようにすると、光出力が向上する。
[【0037】?【0039】・図3・上記エ。
【0037】?【0039】が「複数個全てのバリア層の厚さを増加させる前提」に立っていると認定した根拠は、上記エからの文脈、【0037】の「活性層10の複数のバリア層の厚さ」との記載である。なお、【0039】の「活性層に含まれた全てのバリア層の厚さは同一でありうる」との記載は、「複数個全てのバリア層の厚さを増加させる前提」に立ちつつ、「厚さが同一でありうる」としたにすぎないと解されるから、上記の認定を左右しない。]

カ しかし、バリア層の厚さを増加させすぎない(例えば、70Å)ようにした場合でも、複数個全てのバリア層の厚さを増加させているので、所望の電流を流すために必要な駆動電圧が大きく増加するという問題がある。なぜならば、複数個全てのバリア層の厚さを増加させると、活性層のバルク抵抗が大きく増加するからである。
[【0040】・上記エ?オ。
上記のとおり認定した根拠は次のとおりである。
まず、【0040】の「バリア層の厚さが減少するにつれて、活性層のバルク抵抗・・・が増加し、」との記載は、ただちには理解し難い。なぜならば、バリア層の厚さが減少するとバリア層の抵抗が小さくなるのが技術常識であるからである。しかも、この記載は、【0049】の「・・・第1及び第2ダミー層15a、15bを形成することによって、全体バルク抵抗の増加は最小化しながら光出力を増加させることができる。」との記載にも整合しない。なぜならば、【0049】の上記記載は、バリア層の厚さが増加すると、活性層のバルク抵抗が増加することを前提としたものと解されるからである。そうすると、【0040】における「バリア層の厚さが減少する」は、「バリア層の厚さが増加する」の誤記であると解される。なお、パリ優先権主張の基礎出願である韓国出願10-2012-0086010には、「バリア層の厚さが増加されることによって活性層のバルク抵抗が増加される」旨記載されており、上記の理解と整合する。
これを踏まえると、【0040】冒頭にある「・・・バリア層の厚さが減少するにつれて光出力が増加するが、駆動電圧が増加する問題がある。」との文言を、「バリア層の厚さが減少すること」が原因となって「駆動電圧が増加する」という結果が得られるとの意味では解せない。なぜならば、この理解は、【0040】の「バリア層の厚さが増加するにつれて、活性層のバルク抵抗・・・が増加」するとの上記記載(誤記を正したもの)と矛盾してしまうからである。よって、当該文言の理解は、これまでの文脈からの整合性を、より重視して行うのが相当である。
そこで、これまでの文脈をみると、上記エ及びオのとおり、「複数個全てのバリア層の厚さを増加させる前提」に立っていることが読み取れるのであるから、【0040】冒頭にある上記文言は、「・・・バリア層の厚さが減少するにつれて光出力が増加するが、」複数個全てのバリア層の厚さを増加させる前提に立っているから、「駆動電圧が」大きく「増加する問題がある。」という意味で理解するのが相当である。そして、この理解は、【0049】の「・・・第1及び第2ダミー層15a、15bを形成することによって、全体バルク抵抗の増加は最小化しながら光出力を増加させることができる。」との記載に整合する。]

キ そこで、本発明の実施形態により、450nm以上のピーク波長を有するとともに、光出力を向上し、駆動電圧を低める発光素子を具現する。
[【0040】、上記ウ。]

ク 第1実施形態は、図1の発光素子における活性層に関するものであって、図4に断面図が示されている。そして、第1ダミー層15aと第2ダミー層15bが、第3井戸層13cに接して配置されている。第1?第4バリア層11a?11dは、各々5nmの厚さを有することができる。第1ダミー層15a及び第2ダミー層15bは、各々2nmの厚さを有することができる。
[【0042】?【0046】・【0053】・【0054】・図1・図4]

ケ 第1ダミー層15a及び第2ダミー層15bの各々は、第3バリア層11c及び第4バリア層11cに編入できる。これによって、第1ダミー層15a及び第2ダミー層15bが含まれた第3バリア層11c及び第4バリア層11dの各々の長さが増加して、第3井戸層13cと第4バリア層11dとの間の格子定数差によるエネルギーバンドが曲がることが緩和されて光出力が増加できる。
[【0047】]

コ 第1ダミー層15a及び第2ダミー層15bが含まれた第3バリア層11c及び第4バリア層11dの厚さが増加したことがもつ役割は、発光に大きく寄与する第3井戸層13cの化合物半導体材質の組成を調節しても、膜品質に影響を及ぼさないことである。
[【0048】。
上記のとおり、【0048】を、「第1ダミー層15a及び第2ダミー層15bが含まれた第3バリア層11c及び第4バリア層11dの厚さが増加したことがもつ役割」を主語にした形で認定した根拠は次のとおりである。
【0048】冒頭にある「これ」は、「前記第1及び第2ダミー層15a、15bが含まれた前記第3バリア層11c及び第4バリア層11dの各々の厚さが増加」することを指すと解される。そして、【0048】は、「これ」が「・・・役割をすることができる」という構造をもつ文である。よって、【0048】は、「これ」の「役割」が何であるのかを説明した文であると解される。そこで、「これ」の「役割」を主語にした形で、上記のとおり認定した。]

サ 第2導電型半導体層9に隣り合う第3バリア層11c及び第4バリア層11dに接して、第1ダミー層15a及び第2ダミー層15bを形成することによって、全体バルク抵抗の増加を最小化しながら、発光素子の光出力を増加させることができる。
すなわち、ダミー層を形成した位置が、第3井戸層13cに接したところのみであり、よって、全てのバリア層の厚さを増やしていないことになるから、全体バルク抵抗の増加を最小化することができる。この場合において、発光素子の光出力を増加させることができる理由は、ダミー層を形成した位置が、第3井戸層13cという井戸層の中でも発光に大きく寄与する井戸層における膜品質の低下を補完させることができる位置だからである。
[【0049】・上記カ?コ。
【0049】は、上記カ?コ(特に上記ケ・コ)との文脈に照らせば、上記のとおり解するのが相当である。
なお、「第2導電型半導体層9に隣り合う(adjacent)第3バリア層11c及び第4バリア層11d」の「隣り合う」は、「接する」ことに限定されない意味であると解される。なぜならば、同段落中に、別途「接して(contact)」との表現が存在するからである。]

シ 第2ダミー層15bは、第2導電型半導体層9に隣り合うN個の井戸層と前記N個のバリア層との間に配置されることもできる(Nは1以上の自然数。)。この際、井戸層はT個あり、バリア層は(T+1)個であり得、T>Nである。
[【0051】・【0052】]

(3)上記(2)でした認定によれば、第1実施形態の技術的意義は、次のとおりであると認められる。
InGaN井戸層/GaNバリア層を複数有する活性層を含む発光素子において、450nm以上のピーク波長を有するようにするために、複数個全ての井戸層のIn含有量を高めると、活性層の膜品質が低下する。この膜品質の低下を補完するために、複数個全てのバリア層の厚さを増加させることができるけれども、複数個全てのバリア層の厚さを増加させてしまうと、活性層のバルク抵抗が大きくなってしまい、所望の電流が流れるための駆動電圧も大きくなる。そこで、複数個全てのバリア層の厚さを増加させるのではなく、発光に大きく寄与する井戸層(第2導電型半導体層9に隣り合う井戸層)に接したバリア層を対象にして、厚さを増加させる。このように構成したので、活性層のバルク抵抗の増加を最小化しつつ、光出力を増加させることができる。

(4)次に、上記(1)の各記載によれば、当初明細書等には、第2実施形態に関し、次の技術的事項が記載されていると認めるのが相当である。なお、認定を行った根拠を角括弧内に説示してある。
ア 第2実施形態は、図1の発光素子における活性層に関するものであって、図7に断面図が示されている。第1実施形態に係る図4と比べると、第1ダミー層15a及び第2ダミー層15bに加えて、第3ダミー層17a及び第4ダミー層17bが設けられており、第3ダミー層17a及び第4ダミー層17bは、第1井戸層13aに接して配置されている。第1ダミー層15a及び第2ダミー層15bは、2nmの厚さを有することができる一方、第3ダミー層17a及び第4ダミー層17bは、1nmの厚さを有することができる。
[【0072】?【0079】・【0087】・【0088】・図7。]

イ 第3ダミー層17a及び第4ダミー層17bは、第1バリア層11a及び第2バリア層11bの厚さを増加させて、第1井戸層13aと第2バリア層11bとの格子定数差によるエネルギーバンドが曲がることを緩和して光出力を増加させる。
[【0080】。]

ウ 第4ダミー層17bは、第1導電型半導体層7に隣り合うM個の井戸層と前記M個の井戸層に隣り合うM個のバリア層との間に配置されることもできる(Mは1以上の自然数。)。第2ダミー層15bは、第2導電型半導体層9に隣り合うN個の井戸層と前記N個のバリア層との間に配置されることもできる(Nは1以上の自然数。)。この際、井戸層はT個あり、バリア層は(T+1)個であり得、T>N≧Mである。
[【0082】?【0085】。]

(5)上記(4)でした認定によれば、第2実施形態の技術的意義は、次のとおりであると認められる。
第1実施形態において、さらに、第1導電型半導体層7に隣り合う井戸層に接したバリア層をも対象にして、厚さを増加させた(ただし、各バリア層が増加した厚さは、第1実施形態における各バリア層が増加した厚さよりも、少ない。)ので、活性層のバルク抵抗の増加を最小化しつつ、光出力を増加させることができる。

2 判断
(1)明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法第17条の2第3項)、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。

(2)第4次補正に対する判断
ア 上記第3のとおり、平成31年1月22日付け拒絶理由通知における拒絶の理由は、第4次補正のうち、本件補正事項を請求項1に追加した補正が新規事項追加であると判断したものである。
そこで、第4次補正の適法性から検討することにする。

イ まず、本件補正事項が請求項1に記載されたことにより追加された技術的事項について検討する。
(ア)本件補正事項は、「前記第3井戸層のIn含有量は、前記第1井戸層及び前記第2井戸層の各々のIn含有量よりも多い」というものである。
そのため、本件補正事項は、まずは当然のことながら、井戸層のIn含有量の観点からみると、(i)「前記第3井戸層のIn含有量は、前記第1井戸層及び前記第2井戸層の各々のIn含有量よりも多い」という技術的事項(以下「技術的事項1」という。)を意味することになる。

(イ)次に、本件補正事項は、これを発光波長の観点から整理すれば、第3井戸層からの発光波長が、第1井戸層及び第2井戸層からの発光波長に比べて、長いということを意味する。とすれば、本件補正事項は、(ii)発光波長の帯域が広くなる発光素子を得ることができる、という技術的事項(以下「技術的事項2」という。)を意味することになる。

(ウ)さらに、本件補正事項は、これを膜品質の観点から整理すれば、第1井戸層及び第2井戸層が、第3井戸層に比べて、膜品質が低下しにくいことを意味することになる。
そして、第3井戸層の膜品質の低下を補完するのは、第1ダミー層(15a)及び第2ダミー層(16b)(第4次補正後発明でいう「第5バリア層」及び「第6バリア層」)である(【0077】)一方、第1井戸層の膜品質の低下を補完するのは、第3ダミー層(17a)及び第4ダミー層(17b)(第4次補正後発明でいう「第7バリア層」及び「第8バリア層」)である(【0080】)。
加えて、第4次補正後発明の特定事項によれば、第3井戸層のための前記バリア層の各々の厚さは、第1井戸層のための前記バリア層の各々の厚さよりも厚い。
とすれば、本件補正事項は、(iii)膜品質の低下の度合いが大きい第3井戸層に対しては、より大きく厚くしたバリア層を充てて、その膜品質の低下を補完させる一方、膜品質の低下の度合いが小さい第1井戸層に対しては、より小さく厚くしたバリア層を充てて、その膜品質の低下を補完させることにより、活性層のバルク抵抗の増加を抑制しつつ光出力を増加する、という技術的事項(以下「技術的事項3」という。)を意味することになる。

ウ しかるところ、以下のとおり、技術的事項1?3は、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内にあるということはできない。
(ア)まず、当初明細書等は、各井戸層のInの含有量が異なることを明記しないから、技術的事項1?3も明記していないことになる。

(イ)そして、技術的事項1?3は、第1実施形態及び第2実施形態の技術的意義とは異なる。
すなわち、第1実施形態及び第2実施形態の技術的意義は、上記第2で認定したところであるが、要するに、複数個全ての井戸層のIn含有量を高めるときにおいて、複数個全てのバリア層の厚さを増加させてしまうことによる駆動電圧の増加を嫌って、特定の位置にある一部のバリア層に限りその厚さを増加させることにより、バリア層全体の厚さの増加を抑えるようにしたものであるということができる。この技術的意義における「複数個全ての井戸層のIn含有量を高める」との前提は、「複数個全てのバリア層の厚さを増加させてしまうことによる駆動電圧の増加」という課題を生じさせているという意味において、重要なものというべきところ、このように重要な上記前提に係る技術的事項が、技術的事項1?3と一致しないし、これらを当然に導かない。
また、技術的事項3は、井戸層のIn含有量の大小に応じて、膜品質を補完させるためのバリア層厚の大小を調整しているといえるが、これは、要するに、バリア層厚の最適化を井戸層のIn含有量の相違に基づいて行うものといえる。他方で、第1実施形態及び第2実施形態は、バリア層厚の最適化をバリア層の位置に基づいて行うにとどまるものであり、そこに、井戸層のIn含有量の相違を考慮する思想は、存在しない。
このように、技術的事項1?3は、第1実施形態及び第2実施形態の技術的意義とは異なるというべきである。

(ウ)さらにいえば、第1実施形態及び第2実施形態は、技術的事項1と、次の点でも異なる。
すなわち、第1実施形態及び第2実施形態は、複数個全ての井戸層のIn含有量が同程度になっていると解されるのであり、このことは、エネルギーバンドダイヤグラムである図5、図6、図8及び図9において、3個ある井戸層のバンドエネルギーが、3個とも同一であると見て取れることや、【0036】が、「発光素子1で450nm以上のピーク波長を有するためには、活性層10のエネルギーバンドギャップの調節が必要である。」としており、もっぱら「ピーク波長」について述べていることから、理解される。
これに対し、技術的事項1は、複数個全ての井戸層のIn含有量を、あえて同程度にしないというものにほかならない。
そうすると、技術的事項1は、この意味においても、第1実施形態及び第2実施形態とは異なる。

(エ)当初明細書等に記載された請求項1(唯一の独立項である。)及び同請求項2と、技術的事項1?3との関係についても、上記(イ)及び(ウ)と同様であるといえる。
すなわち、同請求項1は第1実施形態に対応し、同請求項2は第2実施形態に対応すると解される。そして、同請求項1及び2は、第1実施形態及び第2実施形態よりは、抽象的な表現となっているけれども、かかる表現ぶりにより、上記の判断が左右されることはない。

(オ)そして、技術的事項1?技術的事項3が、技術常識に照らして自明であるとする根拠もない。このことは、当初明細書等に記載された発明の技術的意義と技術的事項1?3とが異なるといえる(上記(イ)?(エ))ことからも、明らかである。
当初明細書等の他の記載をみても、以上の判断を左右しない。

(カ)よって、技術的事項1?3は、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内にあるということはできない。

エ 請求人は、平成31年4月25日に提出した意見書において、本件補正事項は、【0036】、【0047】及び【0048】から、当初明細書等に記載されているか、又は、自明なことである旨主張するので、以下、検討する。
(ア)具体的には、請求人は、次のとおり主張する。
「ここで、段落0036の記載に基づくと、活性層がInGaN井戸層/GaNバリア層によって構成される場合、発光素子が450nm以上のピーク波長を有するために井戸層のIn含有量を調節することが必要であるものの、井戸層のIn含有量を増加させるとバリア層の厚さを増加させることが必要になることが理解できます。
また、段落0048の記載に基づくと、450nm以上の主ピーク(main peak)領域を有するように第3井戸層13cの化合物半導体材質の組成が調節されることは理解できるものの、第1井戸層13a及び第2井戸層13bの化合物半導体材質の組成までもが調整されることは理解できません。
また、段落0047の記載に基づくと、当該第3井戸層13cの化合物半導体材質の組成の調節を可能にするために、第1ダミー層15a及び第2ダミー層15bの各々を第3バリア層11c及び第4バリア層11dに編入してバリア層をより厚くしていることが理解できます。
そして、上述のとおり、バリア層をより厚くすることが必要とされるのはInの含有量を増加させる場合(段落0036参照)であることを踏まえると、第3井戸層においてなされた化合物半導体材質の組成の調整は、Inの含有量の増加を意味すると解するのが相当です。また、上述のとおり、このような化合物半導体材質の組成の調整が第1井戸層13a及び第2井戸層13bに対しても行われているとは認められないため(段落0048)、相対的にみて、第3井戸層13cのIn含有量が第1井戸層13a及び第2井戸層13bの各々のIn含有量よりも多くなっていると解するのが相当です。
以上を踏まえると、請求項1の「前記第3井戸層のIn含有量は、前記第1井戸層及び前記第2井戸層の各々のIn含有量よりも多い」ことは、当初明細書等に記載され、又は、当該記載から自明なことであると認められ、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと思料いたします。」

(イ)請求人の主張における要点は、【0048】の「これは、450nm以上の主ピーク(main peak)領域を有するように、発光に大きく寄与する第3井戸層13cの化合物半導体材質の組成を調節しても、膜品質には影響を及ぼさない役割をすることができる。」との記載が、化合物半導体材質の組成を調整する井戸層として、第3井戸層13cのみを明記しており、第1井戸層13a及び第2井戸層13bを明記していないことをもって、第3井戸層13cのみがIn含有量を増加されていることが読み取れる、ということにあると解される。
a しかしながら、【0048】が、化合物半導体材質の組成を調整する井戸層として、第1井戸層13a及び第2井戸層13bを明記していないとしても、このことは、文理的には、第1井戸層13a及び第2井戸層13bのIn含有量が増加されていない、ということを意味しない。

b そして、【0048】の内容をみても、【0048】は、第1井戸層13a及び第2井戸層13bのIn含有量が増加されていないことを示唆しない。
すなわち、上記1(2)コで認定したとおり、【0048】は、「これ」の「役割」が何であるのかを説明した文であると解されるとともに、「これ」とは、「前記第1及び第2ダミー層15a、15bが含まれた前記第3バリア層11c及び第4バリア層11dの各々の厚さが増加」することを意味すると解される。このように、【0048】は、「厚さが増加した第3バリア層11c及び第4バリア層11dの役割」が何であるのかを説明した文なのであるから、【0048】が明記した井戸層が第3井戸層13aのみである理由は、これらの層の役割に関係する井戸層が第3井戸層13aのみであったからにすぎないと解するのが相当である。
そうだとすれば、【0048】は、第1井戸層13a及び第2井戸層13bのIn含有量については、何ら示唆しないと解すべきである。

c よって、【0048】の記載をもって、本件補正事項が導き出されることはない。

(ウ)そして、上記1(2)及び(3)で認定したとおり、【0036】、【0047】及び【0048】の記載を含む第1実施形態は、InGaN井戸層/GaNバリア層を複数有する活性層を含む発光素子において、450nm以上のピーク波長を有するようにするために、複数個全ての井戸層のIn含有量を高めたものを前提としていると認められるところ、複数個全ての井戸層のIn含有量を高めたということは、本件補正事項を意味しないし、本件補正事項を意味することが自明であるともいえない。

(エ)したがって、本件補正事項が、【0036】、【0047】及び【0048】に基づき、当初明細書等に記載されているとはいえないし、自明なことであるともいえない。
請求人の主張は、失当である。

オ 以上のとおり、技術的事項1?3は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより、当業者によって導かれる技術的事項の範囲内にあるということはできないから、本件補正が、新たな技術的事項を導入しないものということはできない。
したがって、第4次補正のうち、本件補正事項を請求項1に追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(3)第5次補正がなされたことを考慮した判断
第5次補正によっても本件補正事項は請求項1に維持されており、また、第5次補正による補正内容は、上記(2)の判断を左右しない。
よって、第5次補正がなされたことは、上記(2)の拒絶理由を解消しない。

第5 むすび
以上のとおり、本件補正事項を請求項1に追加する補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-05-28 
結審通知日 2019-06-04 
審決日 2019-06-17 
出願番号 特願2013-90217(P2013-90217)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高椋 健司  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 山村 浩
森 竜介
発明の名称 発光素子及び発光素子パッケージ  
代理人 金山 賢教  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 重森 一輝  
代理人 小野 誠  
代理人 市川 英彦  

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