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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1356603
審判番号 不服2018-16624  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-12 
確定日 2019-10-31 
事件の表示 特願2015-111384号「乗員拘束制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月28日出願公開、特開2016-222145号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年6月1日の出願であって、平成30年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年8月1日に意見書が提出され、同年9月27日付けで拒絶査定がされ、同年12月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年12月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年12月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
車両前後方向に複数のシートを備えた車両の車室内に配置され、該車室内における全てのシートを撮像可能な撮像装置と、
前記撮像装置によって撮像された画像から、前記シートのそれぞれに対して、乗員の有無、乗員の体格及びシートベルトの装着状態を判定する判定部と、
前記判定部によって乗員が前記シートに着座していると判定された場合に、前記判定部が判定した乗員の体格に応じて該シートにおけるエアバッグ装置の展開条件及びプリテンショナの作動条件を変更する拘束条件変更部と、
前記判定部によって乗員が前記シートに着座しており、かつ、シートベルトが装着されていないと判定された場合に、乗員にシートベルトの装着を促すシートベルトリマインダ装置と、
を有する乗員拘束制御装置。」
と補正された(当審にて、補正された箇所に下線を付した。)。

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「車室」を、「車両前後方向に複数のシートを備えた車両の車室」に限定するものであり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

2.引用例及びその記載事項
(1)引用例1
(1-1)引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の出願前に頒布された特開2007-276577号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1a)「【請求項1】
車両乗員席上の対象物に関する情報を検出する対象物検出システムであって、
車室内にて車両後方へと向かう単一視点に関する画像を得るカメラと、
前記カメラにより得られた画像に基づいて、車両乗員席上の対象物に関する情報を導出する処理を行う処理手段と、
を備え、
前記カメラの視野は、前記単一視点から運転席の左右方向に関する中央領域を通って車両後方へと延在する第1の視線と、当該単一視点から助手席の左右方向に関する中央領域を通って車両後方へと延在する第2の視線とによって区画される領域を含む構成であることを特徴とする対象物検出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の対象物検出システムであって、
前記第1の視線及び第2の視線によって区画される前記カメラの視野に後席の領域を含むことを特徴とする対象物検出システム。
・・・
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の対象物検出システムであって、
前記処理手段は、前記第1の視線及び第2の視線によって区画される視野を有する前記カメラにより得られた画像に基づいて、運転席上の対象物及び助手席上の対象物の各々半分ずつを検出し、これによって当該対象物の有無、大きさ、位置、姿勢のうちの少なくとも1つを判別することを特徴とする対象物検出システム。
・・・
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の対象物検出システムと、
前記対象物検出システムの処理手段にて導出された、車両乗員席上の対象物に関する情報に基づいて作動する作動装置と、
前記作動装置を駆動制御する駆動制御手段と、
を備えることを特徴とする作動装置制御システム。」
(1b)「【0001】
本発明は、車両に搭載される乗員情報検出システムに係り、詳しくは車両乗員席上の対象物に関する情報を検出する技術に関するものである。」
(1c)「【0003】
ところで、上記特許文献1に記載の乗員検知装置のように、カメラを用いて車両乗員に関する情報を検出する場合には、カメラの視野角が広がるほどにレンズの明るさが低下し、且つ中央部に比べ周辺部に歪みが生じることが知られている。従って、一台のカメラを用いて一度に多くの車両乗員を検出しようとすると、レンズの特性上の画像の暗さや歪みが原因となって車両乗員に関する情報の検出精度が低下し、このような場合には高価なカメラが必要とされる。かといって、検出精度向上を図るべく視野角の狭いカメラを用いると、今度は検出可能な車両乗員の数が限られてしまい、所望の数の車両乗員に関する情報を検出するのが難しいという問題がある。具体的には、視野角が限られた一台のカメラで助手席を検出することが可能であるものの、当該カメラで運転席と助手席の両方の席を一度に検出することは難しい場合があり、このような場合には複数のカメラが必要とされる。そこで、この種の検出システムの設計に際しては、低コスト化を図るべくカメラの視野角を抑えるとともに、対象物に関する所望の情報を精度良く検出するのに有効な視野設定を行う技術が求められている。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、単一視点のカメラを用いて車両乗員席上の対象物に関する情報を検出する対象物検出システムにつき、当該カメラの合理的な視野設定を行うのに有効な技術を提供することを課題とする。」
(1d)「【0008】
特に本発明では、上記カメラの構成に関し、当該カメラの視野は、単一視点から運転席の左右方向に関する中央領域を通って車両後方へと延在する第1の視線と、当該単一視点から助手席の左右方向に関する中央領域を通って車両後方へと延在する第2の視線とによって区画される領域を含む構成とされる。この場合、カメラの視野は、第1の視線と第2の視線とによって区画される領域を含んでいればよく、当該領域と合致するような設定や、当該領域を含んだ上で当該領域よりも広い設定とされ得る。運転席の左右方向に関する中央領域は、運転席上の対象物の中心部分とほぼ合致し、助手席の左右方向に関する中央領域は、助手席上の対象物の中心部分とほぼ合致する。従って、このような視野において、運転席上の対象物及び助手席上の対象物の各々半分ずつがカメラの視野範囲に入ることとなる。対象物の一例である車両乗員の場合には、運転席乗員の半身と、助手席乗員の半身が視野範囲に入る。
・・・
【0012】
(本発明の第2発明)
前記課題を解決する本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの対象物検出システムである。
請求項2に記載のこの対象物検出システムでは、請求項1に記載の構成において、第1の視線及び第2の視線によって区画されるカメラの視野に後席の領域を含む構成とされる。請求項2に記載の対象物検出システムのこのような構成によれば、運転席上の対象物及び助手席上の対象物に加えて、後席上の対象物に関しても所望の情報を得ることができる、更なる合理的な視野設定を行うことが可能となる。
なお、本発明においては、カメラの視野中心を通る視線が、後席の領域に概ね合致する構成とされるのが好ましい。ここで、カメラの視野中心領域は、レンズの特性上、画像の暗さや歪みが発生しにくい領域である。また、後席は前席よりもカメラからの距離は遠いが、カメラの視野中心領域は明るく歪みが少ないため、検出精度の低下がみられない。従ってこのような構成によれば、前席上の対象物のみならず、後席上の対象物に関しても、所望の情報を精度良く検出することが可能となる。
・・・
【0025】
本実施の形態に係る車両搭載用の対象物検出システム100の構成が図1に示される。
図1に示すように、本実施の形態の対象物検出システム100は、本発明における「車両」としての自動車車両にて、車両乗員をはじめ車内の対象物に関する情報を検出するために搭載されるものであり、撮影手段110及び制御手段120を主体に構成されている。更に、この対象物検出システム100は、車両側の駆動制御装置であるECU200及び乗員拘束手段210とともに、車両事故発生の際に車両乗員の拘束を図る乗員拘束装置(本発明における「作動装置制御システム」に対応)を構成する。当該車両は、特に図示しないものの、エンジン及び車両の走行に関与する系統であるエンジン走行系統、車両に使われる電機部品に関与する系統である電装系統、エンジン走行系統及び電装系統の駆動制御を行う駆動制御装置(ECU200)を備える。
・・・
【0027】
なお、本実施の形態のカメラ112は、自動車のインナーリヤビューミラー周辺部、サイドミラー周辺部、ダッシュボードの左右センター部分などに適宜埋め込み状に設置されるとともに、1または複数の車両乗員席の向きに取り付けられる。このカメラ112を用いて、運転席、助手席、後席などの車両乗員席上の対象物に関する情報が、周期的に複数回、計測されることとなる。また、特に図示しないものの、本実施の形態の対象物検出システム100には、車両バッテリの電力をこのカメラ112に供給する電源装置が搭載されている。このカメラ112によるこの撮影は、例えばイグニッションキーがON状態になったとき、あるいは運転席内に装着された着座センサ(図示省略)が、当該運転席に着座した車両乗員を検知したときに開始されるように設定される。
・・・
【0029】
画像処理手段130は、品質の良い画像を得るためのカメラ制御や、カメラ112によって撮影した画像を加工分析するための画像処理制御を行う手段として構成される。具体的には、カメラ制御においては、フレームシート、シャッター時間、感度調整、精度補正が行われ、ダイナミックレンジや輝度、ホワイトバランスなどが調整される。また、画像処理制御においては、画像の回転補正やレンズ歪み補正、フィルター演算、差分演算などの画像前処理演算と、形状判定やトラッキングなどの画像認識処理演算が実行される。
【0030】
本実施の形態の演算手段150は、対象物情報抽出部152を少なくとも備える。この対象物情報抽出部152は、画像処理手段130からの情報に基づいて、対象物に関する情報を抽出する処理を行う。具体的には、対象物の有無、大きさ、位置、姿勢などに関する情報、車両乗員に関しては、乗員の有無、乗員の大きさ(体格クラス)、頭、肩乃至上体の位置、アウトオブポジション(OOP)等が抽出(導出)される。
・・・
【0032】
本実施の形態の入出力手段190は、車両全体に関する制御を行うECU200との間で、車両に関する情報、周辺の交通状況に関する情報、天候や時間帯に関する情報などが入力され認識結果を出力する。車両に関する情報の例としては、車両ドアの開閉、シートベルトの装脱着、ブレーキの作動、車速、ステアリング操舵角度などがある。本実施の形態では、この入出力手段190から出力された情報に基づいて、ECU200が作動装置である乗員拘束手段210に対し駆動制御信号を出力する構成とされる。この乗員拘束手段210としては、エアバッグやシートベルトにより乗員を拘束するべく作動する装置などがあげられる。この乗員拘束手段210が、本発明における「作動装置」に相当し、この乗員拘束手段210を駆動制御するECU200が、本発明における「駆動制御手段」に相当する。また、この乗員拘束手段210に加えて、警報出力(表示出力、音声出力など)を行う警報装置や、乗員の姿勢に合わせて調節される装置(例えば、シートのヘッドレストの高さを調節するもの)駆動を、ECU200によって制御する構成を採用することもできる。
・・・
【0034】
図2及び図3に示すように、本実施の形態のカメラ112は、車室内にて車両後方へと向かう単一視点に関する画像を得るカメラであり、本発明における「車室内にて車両後方へと向かう単一視点に関する画像を得るカメラ」に相当する。このカメラ112の視野114は、単一視点から運転席S1の左右方向に関する中央領域(図2中の中央領域A)を通って車両後方へと延在する視線(図2中の第1の視線L1)と、当該単一視点から助手席S2の左右方向に関する中央領域(図2中の中央領域B)を通って車両後方へと延在する視線(図2中の第2の視線L2)とによって区画される領域を含む設定とされる。この場合、カメラ112の視野は、第1の視線L1と第2の視線L2とによって区画される領域を含んでいればよく、当該領域と合致するような設定や、当該領域を含んだ上で当該領域よりも広い設定とされ得る。また、このカメラ112の視点に関しては、前席よりも前方位置から車両後方へと向かう場合や、例えば車両乗員が前席を車両前方へスライドさせた際に、前席よりも後方位置から車両後方へと向かう場合が想定される。
・・・
【0038】
具体的には、カメラ112の視野114に関し、運転席S1上の乗員C1の左半身と、助手席S2上の乗員C2の左半身が視野範囲となる。従って、乗員C1及び乗員C2に関する情報(乗員の有無、乗員の大きさ(体格クラス)、頭、肩乃至上体の位置、姿勢等)を精度良く検出することができる。この場合、乗員C1及び乗員C2に関する各種の情報のうちの少なくとも1つの情報を検出(判別)することができ、典型的には乗員C1及び乗員C2の有無を判別した上で、当該乗員が有ると判別した場合に、更に当該乗員に関する他の情報のうちの少なくとも1つを判別することができる。
なお、本実施の形態のように、カメラ112のレンズ周辺部のイメージを乗員に関する情報の検出に用いる場合には、レンズによる画像の歪みや明るさを改善するべく自由曲面補正レンズを使用するのが好ましい。このような自由曲面補正レンズを使用することによって、レンズ周辺部への照射光量を増加させるとともに、歪みを補正することができ、乗員C1及び乗員C2に関する情報を更に精度良く検出することが可能となる。
【0039】
また、カメラ112の視野114に関し、当該視野114には後席S3が存在し(第1の視線L1及び第2の視線L2によって区画される視野114に後席S3の領域を含み)、且つカメラ112の視野中心を通る視線L3が、後席S3の領域に概ね合致する構成とされる。この視野中心領域は、レンズの特性上、画像の暗さや歪みが発生しにくい領域とされる。また、後席は前席よりもカメラ112からの距離は遠いが、カメラ112の視野中心領域は明るく歪みが少ないため、検出精度の低下がみられない。従って、前席上の乗員のみならず、後席S3上の乗員に関しても、精度良く所望の情報、例えば乗員C3の有無、大きさ(体格クラス)、位置、姿勢、乗員C3が大人か子供か等を検出することができる。この場合、乗員C3に関する各種の情報のうちの少なくとも1つの情報を検出(判別)することができ、典型的には乗員C3の有無を判別した上で、当該乗員C3が有ると判別した場合に、更に当該乗C3員に関する他の情報のうちの少なくとも1つを判別することができる。
【0040】
そして、上記構成の対象物検出システム100によって検出された情報は、連続的或いは一定時間毎に図1中のECU200に伝送され、このECU200によって乗員拘束手段210が駆動制御される。例えば、エアバッグ装置やシートベルト装置からなる乗員拘束手段210による拘束能力(乗員拘束態様)が、乗員の有無、体格、位置、姿勢などに応じて変わるように制御される。具体的には、運転席S1上の乗員C1や助手席S2上の乗員C2に関する情報として、当該乗員の大きさや位置の情報に基づいて体格クラスを推定し、推定した体格クラスに応じてエアバッグやシートベルトのエネルギー吸収能力を可変としたり、エアバッグ展開速度を可変としたりすることで、拘束能力(乗員拘束態様)を変える制御を行う。
【0041】
なお、本実施の形態によれば、車両乗員席上における乗員の有無を検出することで、乗員がいる場合にのみ乗員拘束手段210を作動させる制御が可能となるため、乗員拘束手段210の不要な作動を抑止することができる。また、前席(運転席S1及び助手席S2)や、後席S3における乗員の有無を検出した場合には、警報出力(表示出力、音声出力など)を行う警報装置を用いて、シートベルトを装着していない乗員に対し着用を促す制御を行うこともできる。
【0042】
以上のように、本実施の形態の対象物検出システム100を用いれば、カメラ112の視野角を抑えることで、低コスト化を図るとともに車両乗員の検出精度を向上させることができ、しかも限られた視野を、運転席S1上の乗員C1及び助手席S2上の乗員C2の各々半分ずつがカメラの視野範囲に入るように振分けることによって、運転席S1上の乗員C1及び助手席S2上の乗員C2に関する情報を精度良く取得することができる、カメラ112の合理的な視野設定を行うことが可能となる。
また、本実施の形態の対象物検出システム100を用いれば、カメラ112の視野中心を通る視線L3が、後席S3の領域に概ね合致する構成を用いることによって、乗員C2の右半身がカメラ112の視野中心領域に位置することとなり、これによって後席S3の乗員C3に関しても、所望の情報を精度良く検出することが可能となる。
また、本実施の形態の対象物検出システム100を用いれば、カメラ112の視野角を概ね110度を下回るような設定とすることによって、平均的な大きさや明るさの安価なレンズを使用することができ、システムのコスト低減を図ることが可能となる。
また、本実施の形態の対象物検出システム100を用いれば、当該対象物検出システムの検出結果に応じた適正な態様で乗員拘束手段210を駆動制御することで、乗員拘束手段210のきめ細かい制御が可能となる。
また、本実施の形態によれば、カメラ112の合理的な視野設定を行うことが可能な対象物検出システム100を搭載する車両10が提供される。」
(1e)引用例1には、以下の図が示されている。


(1-2)引用例1に記載された発明
ア 引用例1には、「車両乗員席上の対象物に関する情報を検出する技術」(摘示(1b))に関し開示されているところ、その特許請求の範囲の請求項1?2、4、6には、「作動装置制御システム」の構成について摘示(1a)のとおり記載されている。
イ また、摘示(1d)によれば、「作動装置制御システム」の実施の態様について、
a 対象物検出システム100は、車両側の駆動制御装置であるECU200及び乗員拘束手段210とともに、車両事故発生の際に車両乗員の拘束を図る作動装置制御システムを構成するものであり、(1a)請求項6の「作動装置」は「乗員拘束手段」であり、(1a)請求項6の「駆動制御装置」は「ECU200」であること(請求項6、段落【0025】)
b カメラ112を用いて、運転席、助手席、後席などの車両乗員席上の対象物に関する情報が計測されること(段落【0027】)、
c 画像処理手段130は、カメラ112によって撮影した画像を加工分析するための画像処理制御を行う手段として構成されること(段落【0029】)、
d 対象物情報抽出部152は、画像処理手段130からの情報に基づいて、乗員の有無、乗員の体格クラス等を導出する処理を行うものであり、(1a)請求項1の「前記カメラにより得られた画像に基づいて、車両乗員席上の対象物に関する情報を導出する処理を行う処理手段」における「処理手段」は「対象物情報抽出部152」であること(請求項1,段落【0030】)
e 入出力手段190は、車両全体に関する制御を行うECU200との間で、シートベルトの装脱着が入力され認識結果を出力し、入出力手段190から出力された情報に基づいて、ECU200が乗員拘束手段210に対し駆動制御信号を出力すること(段落【0032】)、
f 運転席S1上の乗員C1及び助手席S2上の乗員C2の有無、体格クラス等を検出することができ、乗員C1及び乗員C2の有無を判別した上で、当該乗員が有ると判別した場合に、更に当該乗員に関する他の情報のうちの少なくとも1つを判別することができること(段落【0038】)、
g 後席S3上の乗員C3の有無、体格クラス等を検出することができ、乗員C3の有無を判別した上で、当該乗員C3が有ると判別した場合に、更に当該乗員C3に関する他の情報のうちの少なくとも1つを判別することができること(段落【0039】)、
h 運転席S1上の乗員C1や助手席S2上の乗員C2に関する情報として、当該乗員の大きさや位置の情報に基づいて体格クラスを推定し、推定した体格クラスに応じてエアバッグやシートベルトのエネルギー吸収能力を可変としたり、エアバッグ展開速度を可変としたりすることで、乗員拘束態様を変える制御を行うこと(段落【0040】)、
i 運転席S1及び助手席S2や、後席S3における乗員の有無を検出した場合には、警報出力を行う警報装置を用いて、シートベルトを装着していない乗員に対し着用を促す制御を行うことができること(段落【0041】)、
j 対象物検出システム100が車両10に搭載されること(段落【0042】)
が理解できる。

以上によれば、「作動装置制御システム」に着目すると、引用例1には、
「車両乗員席上の対象物に関する情報を検出する対象物検出システム100であって、
車室内にて車両10後方へと向かう単一視点に関する画像を得るカメラ112と、
カメラ112により得られた画像に基づいて、車両乗員席上の対象物に関する情報を導出する処理を行う対象物情報抽出部152と、
を備え、
カメラ112の視野114は、前記単一視点から運転席S1の左右方向に関する中央領域Aを通って車両10後方へと延在する第1の視線L1と、当該単一視点から助手席S2の左右方向に関する中央領域Bを通って車両10後方へと延在する第2の視線L2とによって区画される領域を含む構成であり、
第1の視線L1及び第2の視線L2によって区画されるカメラ112の視野114に後席S3の領域を含み、
対象物情報抽出部152は、第1の視線L1及び第2の視線L2によって区画される視野114を有するカメラ112により得られた画像に基づいて、運転席S1上の対象物及び助手席S2上の対象物の各々半分ずつを検出し、これによって当該対象物の有無、大きさ、位置、姿勢のうちの少なくとも1つを判別する対象物検出システム100と、
対象物検出システム100の対象物情報抽出部152にて導出された、車両乗員席上の対象物に関する情報に基づいて作動する乗員拘束手段210と、
乗員拘束手段210を駆動制御するECU200と、
を備える作動装置制御システムであって、
カメラ112を用いて、運転席S1、助手席S2、後席S3などの車両乗員席上の対象物に関する情報が計測され、
画像処理手段130は、カメラ112によって撮影した画像を加工分析するための画像処理制御を行う手段として構成され、
対象物情報抽出部152は、画像処理手段130からの情報に基づいて、乗員の有無、乗員の体格クラス等を導出する処理を行い、
入出力手段190は、車両10全体に関する制御を行うECU200との間で、シートベルトの装脱着が入力され認識結果を出力し、入出力手段190から出力された情報に基づいて、ECU200が乗員拘束手段210に対し駆動制御信号を出力し、
運転席S1上の乗員C1、助手席S2上の乗員C2及び後席S3上の乗員C3の有無、体格クラス等を検出することができ、乗員C1、乗員C2及び乗員C3の有無を判別した上で、当該乗員が有ると判別した場合に、更に当該乗員に関する他の情報のうちの少なくとも1つを判別することができ、
運転席S1上の乗員C1や助手席S2上の乗員C2に関する情報として、当該乗員の大きさや位置の情報に基づいて体格クラスを推定し、推定した体格クラスに応じてエアバッグやシートベルトのエネルギー吸収能力を可変としたり、エアバッグ展開速度を可変としたりすることで、乗員拘束態様を変える制御を行い、
運転席S1及び助手席S2や、後席S3における乗員の有無を検出した場合には、警報出力を行う警報装置を用いて、シートベルトを装着していない乗員に対し着用を促す制御を行うことができる、
作動装置制御システム」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)引用例2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として示され、本願の出願前に頒布された特開2008-247277号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
本発明は、エアバッグ装置を備える乗員拘束装置の制御方法及び乗員拘束装置に関する。」
(2b)「【0010】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、衝突の条件に適応して、近接乗員に加わる力が最適になるように、拘束装置を制御する方法を提供することである。」
(2c)「【0029】
乗員カメラ6Aは、例えば、CCD(Charge Coupled Device)などでレンズの結像を電気信号に変換し、画素ごとにデジタル化した画像データを出力する。乗員カメラ6Aは、乗員の上半身の階調画像を取得する。制御装置1は、乗員カメラ6Aの画像から、乗員の輪郭、大きさ、シートベルトを検出し、乗員の体格、姿勢、シートベルト着用の有無を判断する。
・・・
【0033】
乗員カメラ6A、着座センサ6B、シート位置センサ6C及びベルトセンサ6Dなどは、乗員の状態を検出するためのセンサであって、乗員状態センサ6と総称する。乗員状態センサ6としては、前述の乗員カメラ6A、着座センサ6B、シート位置センサ6C及びベルトセンサ6Dなどが必須なわけではない。それらは適宜選択して用いることができる。例えば、シート位置センサ6Cとベルトセンサ6Dを用いて、乗員の体格を推定し、シートベルト着用の有無を判定してもよい。
・・・
【0062】
乗員状態判定部29は、乗員データ取得部28で入力した乗員状態センサ6のデータから、乗員の状態を判定する。例えば、乗員カメラ6Aの画像から、乗員の輪郭とシートベルトを抽出し、乗員の体格、姿勢、シートベルト着用の有無を判断する。また、乗員の画像から、乗員の頭部、胸部又は肩部の位置を検出する。
・・・
【0093】
乗員が着座している場合は(ステップC2;Yes)、シートベルトを着用しているかどうかを判定する(ステップC3)。シートベルト着用有無の判定は、例えば、乗員カメラ6Aの画像からシートベルトを抽出して判断するか、ベルトセンサ6Dのシートベルト引出量で判断する。シートベルト着用している場合は(ステップC3;Yes)、乗員状態にシートベルト着用を設定する(ステップC4)。シートベルトを着用していないと判
断される場合は(ステップC3;No)、乗員状態にシートベルト非着用を設定する(ステップC5)。」
(2d)引用例2には、以下の図が示されている。


3.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「車両10」は本願補正発明の「車両」に相当し、以下同様に「運転席S1、助手席S2、後席S3」は「複数のシート」に、「カメラ112」は「撮像装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「運転席S1、助手席S2、後席S3」は、図2(適示(1e))に示されているとおり、車両10の前後方向に配置されていることが理解できる。
加えて、引用発明は「車室内にて車両10後方へと向かう単一視点に関する画像を得るカメラ112」であり、図1、図2を参照すると「撮影手段110」としての「カメラ112」が車両の車室内に配置されていることが理解できる。
さらに、引用発明は、「カメラ112を用いて、運転席S1、助手席S2、後席S3などの車両乗員席上の対象物に関する情報が計測され」るものであるから、上記「カメラ112」が、車両10の車室内に配置おける運転席S1、助手席S2及び後席S3を撮像可能なものであることも理解できる。
したがって、引用発明の「カメラ112」は、本願補正発明の「車両前後方向に複数のシートを備えた車両の車室内に配置され、該車室内における全てのシートを撮像可能な撮像装置」に相当する。
(2)引用発明の「画像処理手段130」は、「カメラ112によって撮影した画像を加工分析するための画像処理制御を行う」ものであり、引用発明の「対象物情報抽出部152」は、「画像処理手段130からの情報に基づいて、乗員の有無、乗員の体格クラス等を導出する処理を行」うものであるところ、引用発明は、「運転席S1上の乗員C1、助手席S2上の乗員C2及び後席S3上の乗員C3の有無、体格クラス等を検出することができ」るものであるものであるから、上記「対象物情報抽出部152」が、カメラ112によって撮影された画像から、運転席S1、助手席S2及び後席S3のそれぞれに対して、乗員C1、乗員C2及び後席S3の有無、体格クラスを判定することが理解できる。
したがって、引用発明の「対象物情報抽出部152」と、本願補正発明の「前記撮像装置によって撮像された画像から、前記シートのそれぞれに対して、乗員の有無、乗員の体格及びシートベルトの装着状態を判定する判定部」とは、上記アをも踏まえると、「前記撮像装置によって撮像された画像から、前記シートのそれぞれに対して、乗員の有無及び乗員の体格を判定する判定部」において共通する。
(3)引用発明の「エアバッグ」は、本願補正発明の「エアバッグ装置」に相当する。
また、引用発明の「乗員拘束手段210」は、「対象物情報抽出部152にて導出された、車両乗員席上の対象物に関する情報に基づいて作動する」ものであり、引用発明の「ECU200」は、「乗員拘束手段210を駆動制御する」ものであるところ、引用発明は、「乗員C1、乗員C2及び乗員C3の有無を判別した上で、当該乗員が有ると判別した場合に、更に当該乗員に関する他の情報のうちの少なくとも1つを判別することができ、運転席S1上の乗員C1や助手席S2上の乗員C2に関する情報として、当該乗員の大きさや位置の情報に基づいて体格クラスを推定し、推定した体格クラスに応じてエアバッグやシートベルトのエネルギー吸収能力を可変としたり、エアバッグ展開速度を可変としたりすることで、乗員拘束態様を変える制御を行」うものであるから、引用発明の「乗員拘束手段210」及び「ECU200」が、対象物情報抽出部152によって乗員が有ると判別された場合に、対象物情報抽出部152が推定した乗員の体格クラスに応じてエアバッグやシートベルトのエネルギー吸収能力、またはエアバッグ展開速度を可変とすることが理解できる。
したがって、引用発明の「乗員拘束手段210」及び「ECU200」と、本願補正発明の「前記判定部によって乗員が前記シートに着座していると判定された場合に、前記判定部が判定した乗員の体格に応じて該シートにおけるエアバッグ装置の展開条件及びプリテンショナの作動条件を変更する拘束条件変更部」とは、上記アないしイをも踏まえると、「前記判定部によって乗員が前記シートに着座していると判定された場合に、前記判定部が判定した乗員の体格に応じて該シートにおけるエアバッグ装置の展開条件を変更する拘束条件変更部」において共通する。
(4)引用発明は、「入出力手段190は、車両10全体に関する制御を行うECU200との間で、シートベルトの装脱着が入力され認識結果を出力し、入出力手段190から出力された情報に基づいて、ECU200が乗員拘束手段210に対し駆動制御信号を出力」するものであって、かつ、「運転席S1及び助手席S2や、後席S3における乗員の有無を検出した場合には、警報出力を行う警報装置を用いて、シートベルトを装着していない乗員に対し着用を促す制御を行うことができる」ものであるから、上記「警報装置」が、運転席S1、助手席S2及び後席S3の乗員の有無が検出された場合に、入出力手段190によってシートベルトが装着されていないとの認識結果が出力された乗員に対して、シートベルトの着用を促すことが理解できる。
したがって、引用発明の「警報装置」は、上記イないしウをも踏まえると、本願補正発明の「前記判定部によって乗員が前記シートに着座しており、かつ、シートベルトが装着されていないと判定された場合に、乗員にシートベルトの装着を促すシートベルトリマインダ装置」とは、「乗員が前記シートに着座しており、かつ、シートベルトが装着されていないと判定された場合に、乗員にシートベルトの装着を促すシートベルトリマインダ装置」において共通する。
(5)引用発明の「作動装置制御システム」は、本願補正発明の「乗員拘束制御装置」に相当する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「車両前後方向に複数のシートを備えた車両の車室内に配置され、該車室内における全てのシートを撮像可能な撮像装置と、
前記撮像装置によって撮像された画像から、前記シートのそれぞれに対して、乗員の有無及び乗員の体格を判定する判定部と、
前記判定部によって乗員が前記シートに着座していると判定された場合に、前記判定部が判定した乗員の体格に応じて該シートにおけるエアバッグ装置の展開条件を変更する拘束条件変更部と、
乗員が前記シートに着座しており、かつ、シートベルトが装着されていないと判定された場合に、乗員にシートベルトの装着を促すシートベルトリマインダ装置と、
を有する乗員拘束制御装置。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
「判定部」に関して、本願補正発明では、撮像装置によって撮像された画像から、シートのそれぞれに対して、「シートベルトの装着状態」をも判定するものであるのに対し、引用発明では、入出力手段190により「シートベルトの装脱着」が入力され認識結果を出力する点。
<相違点2>
「乗員が前記シートに着座しており、かつ、シートベルトが装着されていないと判定された場合に、乗員にシートベルトの装着を促すシートベルトリマインダ装置」に関して、本願補正発明では、「前記判定部によって」乗員が前記シートに着座しており、かつ、シートベルトが装着されていないと判定された場合であるのに対して,引用発明では、乗員の有無は対象物情報抽出部152(判定部)により判定するものの、入出力手段190により「シートベルトの装脱着」が入力される点。
<相違点3>
前記判定部によって判定がなされた場合に拘束条件を変更する「拘束条件変更部」に関して、本願補正発明は、「プリテンショナの作動条件」をも変更するものであるのに対し、引用発明は、「シートベルトのエネルギー吸収能力を可変と」するものである点。

4.判断
(1)相違点1,2について
ア 引用例2には、「乗員拘束装置」の制御に関する技術について開示されており(摘示(2a))、具体的には、摘示(2b)のとおり、「衝突の条件に適応して、近接乗員に加わる力が最適になるように、拘束装置を制御する方法を提供する」という課題を解決するために、摘示(2c)のとおり、「乗員カメラ6Aは、乗員の上半身の階調画像を取得する。制御装置1は、乗員カメラ6Aの画像から、・・・シートベルトを検出し、乗員の・・・シートベルト着用の有無を判断する」こと(段落【0029】)、「乗員状態判定部29は、乗員データ取得部28で入力した乗員状態センサ6のデータから、乗員の状態を判定する。・・・乗員カメラ6Aの画像から、乗員の輪郭とシートベルトを抽出し、乗員の・・・シートベルト着用の有無を判断する」こと(段落【0062】)、及び「シートベルト着用有無の判定は、・・・乗員カメラ6Aの画像からシートベルトを抽出して判断する」こと(段落【0093】)が記載されているから、引用例2には、判定部(乗員状態判定部29)が、撮像装置(乗員カメラ6A)によって撮像された画像から、シートベルトの装着状態を判定すること(以下、「引用例2に記載された技術事項」という。)が記載されていると認められる。
イ まず、引用発明及び引用例2に記載された発明はいずれも、乗員拘束装置の制御に関するものである点で共通する。また、引用発明の「警報装置」は、上記「3.(4)」で述べたとおり、「運転席S1、助手席S2及び後席S3の乗員の有無が検出された場合に、入出力手段190によってシートベルトが装着されていないとの認識結果が出力された乗員に対して、シートベルトの着用を促す」ものであり、引用発明において、運転席S1、助手席S2及び後席S3のそれぞれに対してシートベルトの装着状態を判定する判定部が必要であることは明らかであるから、そのような判定部を構成するに際し、上記引用例2に記載された技術事項を適用する動機付けは十分に存在する。
ウ また、引用発明の「対象物情報抽出部152」は、「画像処理手段130からの情報に基づいて、乗員の有無、乗員の体格クラス等を導出する処理を行」うものであるところ、さらに引用例1には「運転席上の対象物及び助手席上の対象物に加えて、後席上の対象物に関しても所望の情報を得ることができる、更なる合理的な視野設定を行うことが可能となる。」(段落【0012】)とも記載されているから、上記「対象物情報抽出部152」がカメラ112によって撮影された画像から、乗員の有無、乗員の体格クラス以外の情報も導出し得ることは明らかである。
エ してみると、引用発明において、シートベルトの装着状態を判定する判定部を構成するに際し、上記引用例2に記載された技術事項を適用して、引用発明の「対象物情報抽出部152」を、撮像装置によって撮像された画像から、シートのそれぞれに対して、シートベルトの装着状態をも判定する構成とすること、いいかえると「対象物情報抽出部152」という判定部によって、乗員のシートへの着座の有無及びシートベルトの装着状態の有無を判定するものとして、上記相違点1,2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
(2)相違点3について
引用発明の「乗員拘束手段210」及び「ECU200」は、上記「3.(3)」で述べたとおり、「対象物情報抽出部152が推定した乗員の体格クラスに応じてエアバッグやシートベルトのエネルギー吸収能力、またはエアバッグ展開速度を可変とする」ものである。そして、そのように「シートベルトのエネルギー吸収能力」を可変とするために、プリテンショナの作動条件を調整する必要があることは技術常識に照らして明らかである。
さらに、上記(1)で検討したように、引用発明の「対象物情報抽出部152」を、撮像装置によって撮像された画像から、シートのそれぞれに対して、シートベルトの装着状態をも判定する構成として、判定部としての「対象物情報抽出部152」の判定によりプリテンショナの作動条件を変更するようにすることも、当業者が適宜なし得たものである。
(3)そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び引用例2に記載された技術事項から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。
(4)請求人の主張の検討
ア 請求人の主張
(ア)請求人は、平成30年8月1日付け意見書の「3.出願人の意見(1)」の項において、「引用文献1の技術は、運転席上の対象物と助手席上の対象物の各々半分ずつがカメラの視野範囲に入るように視野設定を行うことを前提としているため、シートベルトの装着状態を撮像された画像から判定するのが困難であるのは明白です。」と主張する。
(イ)また、請求人は、平成30年12月12日付け審判請求書の「(D)本願発明と引用発明との対比」の項において、「引用文献1に記載の技術は、あくまで運転席の半分と助手席の半分とを撮像するものであり、後席まで撮像する構成にはなっておらず、補正後の本願請求項1とは構成が相違するものと思料する。」、「引用文献1の技術では、運転席及び助手席の画像を得ることが主体となっており、全てのシートを撮像可能な構成とはなっていない。」と主張する。
(ウ)さらに、請求人は、平成30年8月1日付け意見書の「3.出願人の意見(1)」の項において、「引用文献1では、乗員の有無や体格についてはカメラが撮像した画像から検出し、この画像と、着座センサやバックルスイッチなどの入出力手段としてのセンサ類の信号とを組み合わせてシートベルトを装着していない乗員を検出するように制御されています。これに対して、本願請求項1に係る発明では、上述したように、撮像装置によって撮像された画像から、乗員の有無、乗員の体格及びシートベルトの装着状態を判定する構成であり、入出力手段を備えていない点で引用文献1とは相違しています。そして、本願請求項1に係る発明では、乗員がシートベルトを装着していないことを画像から判定することで、着座センサやバックルスイッチなどのセンサ類が不要となり、シート周辺の部品点数を削減できる効果を有しており、この効果は引用文献1では奏し得ないものと思料致します。」、「引用文献2では、乗員の状態を検出するための乗員状態センサとして、カメラの他に、着座センサやベルトセンサを備えた構成となっています。」と主張する。
イ 検討
(ア)本願の図2を参照すると、「運転席上の対象物と助手席の対象物の各々半分ずつがカメラの視野範囲に入るように視野設定を行」っても、シートベルトは十分に認識可能であることから、シートベルトの装着状態を撮像された画像から判定することが困難であるとはいえず、さらに、引用発明の「カメラ112」は、摘示(1d)段落【0008】及び【0034】のとおり、その視野が、「第1の視線L1と第2の視線L2とによって区画される領域を含んでいればよく」、「当該領域を含んだ上で当該領域よりも広い設定とされ得る」ものであるから、上記「カメラ112」の視野が第1の視線L1と第2の視線L2とによって区画される領域を含んだ上で当該領域よりも広い設定とされた場合に、当該視野がシートベルトがさらに十分に認識可能なものとなることからシートベルトの装着状態を撮像された画像から判定することは十分に可能であるといえる。
さらに、引用例2では、カメラの画像からシートベルトの装着状態を認識していることから、引用発明のカメラの画像からシートベルトの装着状態を認識できないとする合理性もない。
(イ)引用発明の上記「カメラ112」は、上記「3.(1)」で述べたとおり、運転席及び助手席のみでなく後席の画像も得られるものである。
(ウ)引用発明は、摘示(1c)のとおり、低コスト化を課題とするものである上、引用例2には、「乗員状態センサ6としては、前述の乗員カメラ6A、着座センサ6B、シート位置センサ6C及びベルトセンサ6Dなどが必須なわけではない。それらは適宜選択して用いることができる」こと(摘示(2c)段落【0033】)が記載されているから、着座センサ6B、ベルトセンサ6Dを用いずに乗員カメラのみを用いてシートベルトの着用の有無を判定するものとすることの示唆があるといえる。
したがって、請求人の上記主張アないしウは採用できない。
(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
車室内に配置され、該車室内における全てのシートを撮像可能な撮像装置と、
前記撮像装置によって撮像された画像から、前記シートのそれぞれに対して、乗員の有無、乗員の体格及びシートベルトの装着状態を判定する判定部と、
前記判定部によって乗員が前記シートに着座していると判定された場合に、前記判定部が判定した乗員の体格に応じて該シートにおけるエアバッグ装置の展開条件及びプリテンショナの作動条件を変更する拘束条件変更部と、
前記判定部によって乗員が前記シートに着座しており、かつ、シートベルトが装着されていないと判定された場合に、乗員にシートベルトの装着を促すシートベルトリマインダ装置と、
を有する乗員拘束制御装置。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1,2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2007-276577号公報(上記第2 2.(1)の引用例1と同じ)
引用文献2:特開2008-247277号公報(上記第2 2.(2)の引用例2と同じ)

3.引用文献とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、その記載事項及び引用発明は、上記「第2 2.(1)(1-1)(1-2)(2)」に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、「車両前後方向に複数のシートを備えた車両の」として特定される「車室」の事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 4.判断」に記載したとおり、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-30 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-17 
出願番号 特願2015-111384(P2015-111384)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
P 1 8・ 575- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯島 尚郎  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 藤井 昇
中川 真一
発明の名称 乗員拘束制御装置  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  

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