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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04G
管理番号 1356623
審判番号 不服2018-11776  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-03 
確定日 2019-11-08 
事件の表示 特願2013-251731「構造物構築用フレッシュコンクリート充填検知システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日出願公開、特開2015-108260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月5日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成29年11月 1日:拒絶理由通知
平成29年12月21日:意見書
平成29年12月21日:手続補正書
平成30年 6月 6日:拒絶査定(平成30年5月29日付け)
平成30年 9月 3日:審判請求
令和 1年 6月26日:拒絶理由通知(令和1年6月24日付け)
令和 1年 8月 7日:意見書

第2 本願発明(本願発明の認定)
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成29年12月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
対象物の下方に所定間隔をおいて配置された型枠との空間にフレッシュコンクリートを充填して固化させ構造物を構築する構造物構築用フレッシュコンクリート充填検知システムにおいて、
対象物の表面に固定され圧力及び温度を検知する樹脂でモールドして保護された単一のフレッシュコンクリート充填検知センサと、
前記フレッシュコンクリート充填検知センサと通信ケーブルで連結される作業現場近傍に設置した接続ボックスと、
前記接続ボックスと無線又はUSB接続で連結され作業現場及び作業現場と離れた場所に位置するパソコンと、
を備え、
フレッシュコンクリート充填時の圧力及び温度の数値データをフレッシュコンクリート充填検知センサで測定し、測定された数値データに基づいてフレッシュコンクリート充填状況を把握し、フレッシュコンクリート充填検知センサの圧力の数値データが予め設定された打止め管理値に達した時に密充填と判断しフレッシュコンクリートの充填作業を終了し、前記フレッシュコンクリート充填検知センサの機能を脱型時まで維持し、フレッシュコンクリート充填後のフレッシュコンクリート固化、養生の過程をフレッシュコンクリート充填検知センサによる圧力及び温度の数値データでモニタリングすることを特徴とする構造物構築用フレッシュコンクリート充填検知システム。
【請求項2】
前記接続ボックスには、前記フレッシュコンクリート充填検知センサに電流を供給する電流供給手段と、CPUと、USB接続モジュール及び無線通信モジュールと、データバックアップのためのマイクロSD及び測定時刻設定手段が少なくとも設置されていることを特徴とする請求項1に記載の構造物構築用フレッシュコンクリート充填検知システム。」

第3 当審における拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりのものである。
本願の請求項1及び2に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願(特願2013-239549号(特開2015-098734号))の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

第4 先の出願の明細書等の記載
当審が通知した拒絶の理由に引用された、本願の出願日前の他の特許出願であって、本願の出願後に出願公開された特願2013-239549号(特開2015-098734号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願当初明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。

1 「【0001】
この発明は、掘削されたトンネルの吹付けコンクリート等の壁面と移動型枠との空間にフレッシュコンクリートを打ち込みトンネル覆工アーチコンクリートを構築するためのトンネル覆工アーチコンクリート打止管理方法に関する。
・・・(中略)・・・
【0006】
本発明は、従来の技術が持つ課題を解決する、フレッシュコンクリートの密充填を確実に確認してフレッシュコンクリートの打止することが可能で、コンクリート硬化後の脱型後までセンサの機能を維持させ、硬化したコンクリートの品質を確認することが可能なトンネル覆工アーチコンクリート打止管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のトンネル覆工アーチコンクリート打止管理方法は、前記課題を解決するために、掘削されたトンネル壁面と移動型枠との間の空間にフレッシュコンクリートを打ち込み充填し固化させ覆工アーチコンクリートを構築する際、トンネルの軸方向に沿って壁面の最凹部、褄(つま)型枠のそれぞれの天端の少なくともどちらか一方に圧力を数値で測定することが可能なフレッシュコンクリート打止管理センサを壁面に直接又は壁面に設置した防水シートに固定し、フレッシュコンクリート打ち込みにより前記複数のフレッシュコンクリート打止管理センサの圧力データが全て閾値に達したとき密充填と判断しフレッシュコンクリートの打ち込みを止めることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のトンネル覆工アーチコンクリート打止管理方法は、前記フレッシュコンクリート打止管理センサに温度を数値で測定することが可能な機能を組み込み、フレッシュコンクリート打ち込み時、水の接触による圧力データかフレッシュコンクリートの接触による圧力データかの判別を温度データにより行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明のトンネル覆工アーチコンクリート打止管理方法は、前記フレッシュコンクリート打止管理センサの機能を脱型後まで維持し、脱型時の圧力データの変化により構築された覆工アーチコンクリートの品質を確認することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のトンネル覆工アーチコンクリート打止管理方法は、前記フレッシュコンクリート打止管理センサと作業現場近傍に設置したデータ処理ボックスとを通信ケーブルで連結し、前記データ処理ボックスから無線またはUSB接続で作業現場及び作業現場から離れた場所のパソコン等と連結し、前記フレッシュコンクリート打止管理センサの測定データを作業現場及び作業現場から離れた位置で管理することを可能とすることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のトンネル覆工アーチコンクリート打止管理方法は、覆工アーチコンクリートの圧力を打込み時から脱型後まで計測することにより、打込みプレストレスの導入により覆工品質を向上するために、打込み時の圧力による打込み圧力管理、脱型圧力管理の方法を提供することを特徴とする。【0012】
掘削されたトンネル壁面と移動型枠との間の空間にフレッシュコンクリートを打ち込み充填し固化させ覆工アーチコンクリートを構築する際、トンネルの軸方向に沿って壁面の最凹部、褄(つま)型枠のそれぞれの天端の少なくともどちらか一方に圧力を数値で測定することが可能なフレッシュコンクリート打止管理センサを壁面に直接又は壁面に設置した防水シートに固定し、フレッシュコンクリート打ち込みにより前記複数のフレッシュコンクリート打止管理センサの圧力データが全て閾値に達したとき密充填と判断しフレッシュコンクリートの打ち込みを止めることで、フレッシュコンクリートの打止めを数値で管理、判断することができ確実に密充填を確認することが可能となり、構築されるトンネル覆工アーチコンクリートの品質を確保することが可能となる。
フレッシュコンクリート打止管理センサに温度を数値で測定する機能を組み込み、フレッシュコンクリート打ち込み時、水の接触による圧力データかフレッシュコンクリートの接触による圧力データかの判別を温度データにより行うことで、水の接触による圧力上昇による誤データを排除することが可能となる。
フレッシュコンクリート打止管理センサの機能を脱型後まで維持し、脱型時の圧力データの変化により構築された覆工アーチコンクリートの品質を確認することで、脱型時、圧力が低下するような場合、構築されたトンネル覆工アーチコンクリートの脱型時の強度が不足していると判別することが可能となる。
フレッシュコンクリート打止管理センサと作業現場近傍に設置したデータ処理ボックスとを通信ケーブルで連結し、前記データ処理ボックスから無線またはUSB接続で作業現場及び作業現場から離れた場所のパソコン等と連結し、前記フレッシュコンクリート打止管理センサの測定データを作業現場及び作業現場から離れた位置で管理することを可能とすることで、複数の管理者が同時に測定データを管理することで確実にフレッシュコンクリートの打止めを管理することが可能となる。
さらに、当該コンクリート打止管理方法によれば脱型後に覆工コンクリートに残留する圧縮力(以降、「打込みプレストレス」と称す。)を把握でき、好ましい「打込みプレストレス」を導入するための打込み管理、脱型管理に使用でき、「打込みプレストレス」の導入により覆工品質を向上できる。すなわち、適切な「打込みプレストレス」を導入することにより、覆工アーチコンクリートには、打込み時の圧力がある程度残留し、初期の温度低下、乾燥収縮のひび割れを抑制する効果が期待できる。」
・・・(中略)・・・
【0014】
本発明の実施の形態を図により説明する。図1は、岩盤等の地山1に掘削されたトンネル壁面内にトンネル覆工アーチコンクリートを構築する状態を示す側面図、図2は正面図、図3は上面図である。
【0015】
既構築トンネル覆工アーチコンクリート2の前側に地山1の壁面と一定空間を開けて移動型枠3が設置される。通常、掘削された壁面には防水シートが設置される。岩盤グラウチングを行う場合は防水シートを設置しない場合がある。
【0016】
既構築トンネル覆工アーチコンクリート2に移動式型枠の端部を重ね、移動型枠3の前端部を閉じる褄(つま)型枠5を設置する。移動型枠3の既設側に移動型枠3と壁面間の空間にフレッシュコンクリートを吹上げ方式で打ち込むためのフレッシュコンクリート打ち込み口が設けられる。また、移動型枠3の内側には、打ち込まれたフレッシュコンクリートを締固めるための各種型枠バイブレータ10(棒状・型枠・引抜等が使用される。)が複数設置される。
【0017】
褄(つま)型枠5の近傍の天端部にフレッシュコンクリート打止管理センサ6bを配置し、地山1の天端部の最凹部1aにフレッシュコンクリート打止管理センサ6cを配置する。この実施形態では2個のフレッシュコンクリート打止管理センサ6b、6cを配置しているが移動型枠3の長さに応じて褄(つま)型枠5の近傍の天端部または地山1の天端部の最凹部1aのどちらか一方でもよい。また、各部の詳細な管理のために型枠3のラップ側に設けたフレッシュコンクリート打込み口の近傍の天端部等にさらにフレッシュコンクリート打止管理センサを設置してもよい。
【0018】
フレッシュコンクリート打止管理センサ6b、6cは、圧力の大きさを数値で測定する機能を有しており、さらに温度を数値で測定する機能を組み込んでいる。図4はフレッシュコンクリート打止管理センサ6b、6cの一例を示す図である。フレッシュコンクリート打止管理センサ6b、6cは、小型でモールド7により保護されている。フレッシュコンクリート打止管理センサ6b、6cは、壁面に直接また壁面に設置された防水シート上に接着剤等の固定手段により設置される。
【0019】
各フレッシュコンクリート打止管理センサ6b、6cには、通信ケーブル7が連結され、通信ケーブル7は、褄(つま)型枠5に形成した挿通口にシールして挿通され、作業現場近傍に配置したデータ処理ボックス8に連結される。データ処理ボックス8は、フレッシュコンクリート打止管理センサ6b、6cに電力を供給する機能と、フレッシュコンクリート打止管理センサ6b、6cからの測定データを処理しそのデータを保管する機能を有している。さらに、データ処理ボックス9は、無線またはUSBで作業現場及び作業現場から離れた位置のパソコン等と連結され、データ送信、データ管理する機能を有している。」
【0020】
移動型枠3、褄(つま)型枠5、フレッシュコンクリート打止管理センサ6b、6cを図1のように配置し、移動型枠3ラップ側に設けたフレッシュコンクリート打ち込み口からフレッシュコンクリートの吹上げ方式による打ち込みを開始する。打ち込み時のフレッシュコンクリートの温度は30°Cで、地山の温度は16°Cであった。
【0021】
打ち込まれたフレッシュコンクリートは型枠バイブレータ10により締固められる。移動型枠3のラップ側に設けたフレッシュコンクリート打込み口の近傍の天端にフレッシュコンクリート打止管理センサを設置した(6a)ものを含め複数の試験を実施したが、フレッシュコンクリート打止管理センサ6a、6b、6cのフレッシュコンクリートの打止め時の圧力値は、フレッシュコンクリートの打ち込み口の近傍に配置したフレッシュコンクリート打止管理センサ6aの圧力値が最も高く0.031N/mm^(2)であるのに対して、最小は、褄(つま)型枠5近傍に配置したフレッシュコンクリート打止管理センサ6bの0.025N/mm^(2)であった。コンクリート圧力は、時間経過とともに除々に低下し、打止め約15時間後のフレッシュコンクリートの打ち込み口の近傍の圧力値は約6%低下した。施工条件によって変化するが、フレッシュコンクリート打込み口の近傍のセンサの圧力値よりも褄(つま)型枠近傍または地山1の天端部の最凹部のセンサの圧力値が低いことが確認され、少なくともどちらか一方のセンサが設置されていれば打込み管理が可能であることが確認できた。
【0022】
打ち止め時の各フレッシュコンクリート打止管理センサ6a、6b、6cの温度は、打ち込み開始時の温度30℃から打ち止め時の温度34℃であった。試験の結果、褄(つま)型枠5近傍に配置したフレッシュコンクリート打止管理センサ6bの圧力値0.025N/mm^(2)程度をフレッシュコンクリートの密充填と判定してフレッシュコンクリート打止めの閾値とすることが良いことが確認された。
【0023】
フレッシュコンクリート打止管理センサ6a、6b、6cの圧力値で、フレッシュコンクリートの接触による場合と、水の接触による場合がある。フレッシュコンクリートの接触によるものなのか、水の接触によるのかの判別は、フレッシュコンクリートの温度に比較して水の温度が数度低いのに着目し、温度の低いフレッシュコンクリート打止管理センサ6a、6b、6cを水の接触によるものと判断し、打止めの判定の誤判定を無くすことが可能となる。
【0024】
フレッシュコンクリート打止管理センサ6a、6b、6cの機能は、脱型後まで維持される。脱型時にフレッシュコンクリート打止管理センサ6a、6b、6cの圧力が急激に低下するような場合、構築されたトンネル覆工アーチコンクリートの脱型時の強度が不足していると判断して、脱型を中止し、品質を確認する。
【0025】
以上のように本発明のトンネル覆工アーチコンクリート打止管理方法によれば、フレッシュコンクリートの打止めを数値で管理、判断することができ確実に密充填を確認することが可能となり、構築されるトンネル覆工アーチコンクリートの品質を確保することが可能となる。
さらに、当該コンクリート打止管理方法によれば脱型後に覆工コンクリートに残留する圧縮力(以降、「打込みプレストレス」と称す。)を把握でき、好ましい「打込みプレストレス」を導入するための打込み管理、脱型管理に使用でき、「打込みプレストレス」の導入により覆工品質を向上できる。すなわち、適切な「打込みプレストレス」を導入することにより、覆工アーチコンクリートには、打込み時の圧力がある程度残留し、初期の温度低下、乾燥収縮のひび割れを抑制する効果が期待できる。」

2 図1及び図2から見て、移動型枠3はフレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cが固定される壁面1よりも下方に配置されることが見て取れる。

3 図1から見て、フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6c、データ処理ボックス9、無線・USB及びPCによりシステムが構築されていることが見て取れる。

4 上記1?3の記載から、先願当初明細書等には、以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「掘削されたトンネル壁面1と当該トンネル壁面1の下方に配置された移動型枠3との間の空間にフレッシュコンクリートを打ち込み充填し固化させ覆工アーチコンクリート2を構築する際に、フレッシュコンクリートの密充填を判断してフレッシュコンクリート打ち込みを止める管理に用いられるシステムにおいて、
前記壁面1に直接固定され、圧力の大きさを数値で測定する機能と温度を数値で測定する機能を組み込んでおり、小型でモールド7により保護されているフレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cと、
前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cと通信ケーブル8で連結される作業現場近傍に配置したデータ処理ボックス9と、
前記データ処理ボックス9と無線またはUSB接続で連結される、作業現場及び作業現場から離れた位置で複数の管理者が同時に測定データを管理することを可能とするパソコンと、
を備え、
フレッシュコンクリート打ち込み時、圧力及び温度を前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cで数値で測定し、水の接触による圧力データかフレッシュコンクリートの接触による圧力データかの判別を前記温度データにより行うことで、水の接触による圧力上昇による誤データを排除し、前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cの圧力データが閾値に達したときに密充填と判断してフレッシュコンクリート打ち込みを止め、前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cの機能を脱型後まで維持し、フレッシュコンクリートの打込み時から覆工アーチコンクリート2の脱型後まで前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cにより圧力を測定し、構築された覆工アーチコンクリート2の品質を確認するシステム」

第5 対比
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。他の請求項についても同じ。)と、先願発明とを対比する。

1 先願発明における「掘削されたトンネル壁面1」及び「覆工アーチコンクリート2」は、それぞれ本願発明1における「対象物」及び「構造物」に相当する。
また、先願発明において「覆工アーチコンクリート2を構築する際に、フレッシュコンクリートの密充填を判断してフレッシュコンクリート打ち込みを止める管理」を行うことは、フレッシュコンクリートの密充填を判断することを含むから、本願発明1における「構造物構築用フレッシュコンクリート充填検知」に相当する。
そうすると、先願発明における「掘削されたトンネル壁面1の下方に配置された移動型枠3との間の空間にフレッシュコンクリートを打ち込み充填し固化させ覆工アーチコンクリート2を構築する際に、フレッシュコンクリートの密充填を判断してフレッシュコンクリート打ち込みを止める管理に用いられるシステム」は、本願発明1における「対象物の下方に所定間隔をおいて配置された型枠との空間にフレッシュコンクリートを充填して固化させ構造物を構築する構造物構築用フレッシュコンクリート充填検知システム」に相当する。

2 先願発明における「前記壁面1に直接固定され、圧力の大きさを数値で測定する機能と温度を数値で測定する機能を組み込んでおり、小型でモールド7により保護されているフレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6c」は、フレッシュコンクリートの密充填を判断してフレッシュコンクリート打ち込みを止める管理を行うためのセンサであり、フレッシュコンクリートの密充填を判断するために用いられるから、本願発明1における「対象物の表面に固定され圧力及び温度を検知する樹脂でモールドして保護された単一のフレッシュコンクリート充填検知センサ」に相当する。

3 先願発明における「前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cと通信ケーブル8で連結される作業現場近傍に配置したデータ処理ボックス9」及び「前記データ処理ボックス9と無線またはUSBで連結される、作業現場及び作業現場から離れた位置で複数の管理者が同時に測定データを管理することを可能とするパソコン」は、本願発明1における「前記フレッシュコンクリート充填検知センサと通信ケーブルで連結される作業現場近傍に設置した接続ボックス」及び「前記接続ボックスと無線又はUSB接続で連結され作業現場及び作業現場と離れた場所に位置するパソコン」に相当する。

4 先願発明における「フレッシュコンクリート打ち込み時、圧力及び温度を前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cで数値で測定し、水の接触による圧力データかフレッシュコンクリートの接触による圧力データかの判別を前記温度データにより行うことで、水の接触による圧力上昇による誤データを排除し、前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cの圧力データが閾値に達したときに密充填と判断してフレッシュコンクリート打ち込みを止め」ることは、水の接触による圧力上昇による誤データを排除することにより、フレッシュコンクリートの接触による圧力データであるという充填状況を把握できるから、本願発明1における「フレッシュコンクリート充填時の圧力及び温度の数値データをフレッシュコンクリート充填検知センサで測定し、測定された数値データに基づいてフレッシュコンクリート充填状況を把握し、フレッシュコンクリート充填検知センサの圧力の数値データが予め設定された打止め管理値に達した時に密充填と判断しフレッシュコンクリートの充填作業を終了」することに相当する。

5 先願発明において「前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cの機能を脱型後まで維持し、フレッシュコンクリートの打込み時から覆工アーチコンクリート2の脱型後まで前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cにより圧力を測定し、構築された覆工アーチコンクリート2の品質を確認する」ことと、本願発明1において「前記フレッシュコンクリート充填検知センサの機能を脱型時まで維持し、フレッシュコンクリート充填後のフレッシュコンクリート固化、養生の過程をフレッシュコンクリート充填検知センサによる圧力及び温度の数値データでモニタリングする」こととは、「前記フレッシュコンクリート充填検知センサの機能を脱型時まで維持し、フレッシュコンクリート充填後のフレッシュコンクリート固化、養生の過程をフレッシュコンクリート充填検知センサにより、少なくとも圧力の数値データでモニタリングする」という点で共通する。

6 上記1?5から見て、本願発明1と先願発明とは、
「対象物の下方に所定間隔をおいて配置された型枠との空間にフレッシュコンクリートを充填して固化させ構造物を構築する構造物構築用フレッシュコンクリート充填検知システムにおいて、
対象物の表面に固定され圧力及び温度を検知する樹脂でモールドして保護された単一のフレッシュコンクリート充填検知センサと、
前記フレッシュコンクリート充填検知センサと通信ケーブルで連結される作業現場近傍に設置した接続ボックスと、
前記接続ボックスと無線又はUSB接続で連結され作業現場及び作業現場と離れた場所に位置するパソコンと、
を備え、
フレッシュコンクリート充填時の圧力及び温度の数値データをフレッシュコンクリート充填検知センサで測定し、測定された数値データに基づいてフレッシュコンクリート充填状況を把握し、フレッシュコンクリート充填検知センサの圧力の数値データが予め設定された打止め管理値に達した時に密充填と判断しフレッシュコンクリートの充填作業を終了し、前記フレッシュコンクリート充填検知センサの機能を脱型時まで維持し、フレッシュコンクリート充填後のフレッシュコンクリート固化、養生の過程をフレッシュコンクリート充填検知センサにより、少なくとも圧力の数値データでモニタリングする構造物構築用フレッシュコンクリート充填検知システム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点
本願発明1においては、フレッシュコンクリート充填後のフレッシュコンクリート固化、養生の過程をフレッシュコンクリート充填検知センサによる圧力及び温度の数値データでモニタリングするのに対して、先願発明においては、温度の数値データでモニタリングすることは特定されていない点。

第6 判断
1 上記相違点について検討する。

先願発明においては、フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cの機能は脱型後まで維持される。当該フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cが有する機能としては、「圧力の大きさを数値で測定する機能」と「温度を数値で測定する機能」が組み込まれており、先願発明がフレッシュコンクリートの打込み時から覆工アーチコンクリート2の脱型後まで前記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cにより圧力を測定し、構築された覆工アーチコンクリート2の品質を確認する以上、少なくとも上記機能のうち圧力の数値データを測定する機能は、フレッシュコンクリート打ち込み時から脱型後まで維持されるといえる。
一方、先願当初明細書等には、上記「温度を数値で測定する機能」がフレッシュコンクリート打ち込み時から脱型後まで維持されることは特定されていないが、先願当初明細書等の[0012]及び[0025]に記載されているように、先願発明に係るコンクリート打止管理方法によれば、適切な「打込みプレストレス」を導入することにより、覆工アーチコンクリートには、打込み時の圧力がある程度残留し、初期の温度低下、乾燥収縮のひび割れを抑制する効果が期待できるとされている。
初期の温度低下を抑制する効果が期待どおりに得られているかどうかをモニタリングすることは、当業者が適宜行う事項であるところ、フレッシュコンクリート充填後のフレッシュコンクリート固化、養生の過程を温度の数値データでモニタリングする技術は周知であり(例えば、特開昭63-107695号公報の第2頁右下欄第18行-第3頁左上欄第18行に「・・・各センサー8、9、10の温度分布および経時変化を観察することにより注入が正常に行われたか否かが判定できるのである。・・・注入作業完了後から順次温度が上昇し始め、それぞれの部分において、25?27度の温度分布で最高点を示し、その後順次降下することが観察された。・・・従って、裏込め注入が確実に行われているか否かと同時にその反応が確実に行われているか否かも確認することができるのである。」、特開平5-306599号公報の[0010]-[0022]に「本発明の圧着コンクリート覆工型枠装置の脱型時期の判定方法は、一次覆工したコンクリートの強度を積算温度により推定して、型枠装置の型枠の脱型時期を判定しようとするものである。・・・これにより、・・・所望の圧縮力強度に達したことが判り、・・・」、特開2012-242346号公報の[0092]-[0094]に「・・・本実施形態の強度推定装置80では、・・・表示部91は、並列的に実行された算出処理によって得られた各スパンS1?S4における覆工コンクリートCの現時点の圧縮強度や、現時点までの圧縮強度及びコンクリート温度の履歴などの関連情報をすべて表示可能である。・・・スパンS1の覆工コンクリートCがセントル1で初期養生されている場合には、スパンS1に取り付けられた測定装置81が当該スパンS1の覆工コンクリートCの内部温度を強度推定装置80に無線送信する。この場合、強度推定装置80の制御部93が、スパンS1の覆工コンクリートCの現時点の圧縮強度を算出して表示部91に出力する。このため、作業員が表示部91を操作してスパンS1についての圧縮強度を画面表示させることにより、スパンS1の覆工コンクリートCの品質管理を行うことができる。・・・」、京免継彦、他「脱型時期判定を目的とした積算温度管理に関する一考察」土木学会第65回年次学術講演会、平成22年9月、第25-26頁の第25頁「1.はじめに」における「・・・最近のトンネル工事における覆工コンクリートの品質向上に関する技術提案では、覆工コンクリートの強度発現を保証し、安全かつ確実に脱型する方法として積算温度管理を利用する提案が多く採用されている。本報告は、覆工コンクリートの脱型時期判定に積算温度管理システムを導入する準備段階として、新設トンネル工事現場において試験的に養生期間中の積算温度を測定した結果について考察するものである。・・・」等の記載を参照)、上記フレッシュコンクリート打止管理センサ6a?6cの「温度を数値で測定する機能」を「圧力の大きさを数値で測定する機能」とともに用いて、フレッシュコンクリート打ち込み時から脱型時まで圧力とともに温度を測定してモニタリングすることは周知技術の付加にすぎず、実質的な相違点とはいえない。

そうすると、本願発明1と先願発明とは、実質同一である。

2 請求人の主張について
請求人による令和1年8月7日付け意見書に記載された主張について検討する。

請求人は、
「しかしながら、先願発明においては、フレッシュコンクリート充填時、フレッシュコンクリート充填検知センサによる圧力及び温度の数値データにより重点(当審注:「充填」の誤記と考えられる。)を検知している。先願発明の特許公報(特許第6179767号公報)の請求項1には、「掘削されたトンネル壁面と移動型枠との間の空間にフレッシュコンクリートを打ち込み充填し固化させ覆工アーチコンクリートを構築する際、トンネルの軸方向に沿って壁面の最凹部、褄(つま)型枠のそれぞれの天端の少なくともどちらか一方に圧力を数値で測定することが可能なフレッシュコンクリート打止管理センサを壁面に直接又は壁面に設置した防水シートに固定し、前記フレッシュコンクリート打止管理センサに温度を数値で測定する機能を組み込み、フレッシュコンクリート打ち込み時、水の接触による圧力データかフレッシュコンクリートの接触による圧力データかの判別を温度データにより行い、フレッシュコンクリート打ち込みにより前記複数のフレッシュコンクリート打止管理センサの圧力データが全て閾値に達したとき密充填と判断しフレッシュコンクリートの打ち込みを止めることを特徴とするトンネル覆工アーチコンクリート打止管理方法。」と記載されているように、先願発明では、フレッシュコンクリート充填時、温度データの数値が極めて重要な機能を有している。
一方、請求項1に係る発明は、請求項1の「フレッシュコンクリート充填時の圧力及び温度の数値データをフレッシュコンクリート充填検知センサで測定し、測定された圧力の数値データに基づいてフレッシュコンクリート充填状況を把握し、フレッシュコンクリート充填検知センサの数値データが予め設定された打止め管理値に達した時に密充填と判断しフレッシュコンクリートの充填作業を終了し、」填作業を終了し、」(当審注:「填作業を終了し、」」の箇所は誤記と考えられる。)と記載されているように、請求項1に係る発明においては、フレッシュコンクリート充填時には、温度データは活用されていない。
方法の発明で複数のセンサーのデータがどの工程で活用され、どの工程で活用されないかは重要の要素であり、本願発明と先願発明は、フレッシュコンクリート充填時の圧力データ、温度データの活用が相違し、さらに、フレッシュコンクリート固化、養生の工程においても、圧力データ、温度データの活用が相違する。」(意見書第2頁第4?29行)
との意見を述べている。

しかしながら、先願発明は、先願当初明細書等の[0012]に記載されているように、フレッシュコンクリート打止管理センサに温度を数値で測定する機能を組み込み、フレッシュコンクリート打ち込み時、水の接触による圧力データかフレッシュコンクリートの接触による圧力データかの判別を温度データにより行うことで、水の接触による圧力上昇による誤データを排除することにより、フレッシュコンクリートの接触による圧力データであるという充填状況を把握できるのであって、フレッシュコンクリートの接触による圧力データである場合に、温度データの数値を活用してフレッシュコンクリートの密充填と判定するものではないから、請求人の「方法の発明で複数のセンサーのデータがどの工程で活用され、どの工程で活用されないかは重要の要素であり、本願発明と先願発明は、フレッシュコンクリート充填時の圧力データ、温度データの活用が相違し」との主張は前提を欠き、失当であるから採用できない。

また、請求人は、「方法の発明で複数のセンサーのデータがどの工程で活用され、どの工程で活用されないかは重要の要素であり、本願発明と先願発明は、・・・フレッシュコンクリート固化、養生の工程においても、圧力データ、温度データの活用が相違する。」(意見書第2頁第26?29行)
との意見を述べているが、「温度を数値で測定する機能」を「圧力の大きさを数値で測定する機能」とともに用いて、フレッシュコンクリート打ち込み時から脱型後まで圧力とともに温度を測定してモニタリングすることは周知技術の付加にすぎず、実質的な相違点とはいえないことは上記1において示したとおりであるから上記の主張は採用できない。

3 小括
よって、本願発明1は、先願当初明細書等に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願発明2について審理するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-10 
結審通知日 2019-09-11 
審決日 2019-09-25 
出願番号 特願2013-251731(P2013-251731)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 直史  
特許庁審判長 小林 俊久
特許庁審判官 有家 秀郎
秋田 将行
発明の名称 構造物構築用フレッシュコンクリート充填検知システム  
代理人 田中 貞嗣  
代理人 片寄 武彦  
代理人 小山 卓志  

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