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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1356759
審判番号 不服2018-11640  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-29 
確定日 2019-11-07 
事件の表示 特願2015-61107「光学デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月13日出願公開,特開2016-180871〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-61107号(以下「本件出願」という。)は,平成27年3月24日の出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 3月27日付け:拒絶理由通知書
平成29年 5月26日付け:意見書
平成29年 5月26日付け:手続補正書
平成29年10月24日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月 7日付け:意見書
平成29年12月 7日付け:手続補正書
平成30年 5月30日付け:補正の却下の決定
(平成29年12月7日にされた手続補正が却下された。)
平成30年 5月30日付け:拒絶査定
平成30年 8月29日付け:審判請求書
平成30年 8月29日付け:手続補正書
平成31年 1月24日付け:上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年8月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の,平成29年5月26日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 厚み方向の一方の面に複数の溝が形成されたフレネル形状部と,
前記フレネル形状部の面上に形成されたハーフミラー層と,を備えた板状の光学材料により構成され,
前記フレネル形状部の複数の溝の各々は,前記フレネル形状部の表面形状が光学的に自由曲面特性を有しており,各溝の深さが一様ではなく,
前記ハーフミラー層は,金属又は無機多層薄膜からなる蒸着層であり,前記ハーフミラー層は,前記フレネル形状部における,複数の前記溝の各境界で厚み方向と平行な向きに延びるフレネル立壁の領域を除く面の全体に形成された,
ことを特徴とする光学デバイス。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,補正箇所を示す。
「 厚み方向の一方の面に複数の溝が形成されたフレネル形状部と,
前記フレネル形状部の面上に形成されたハーフミラー層と,を備えた板状の光学材料により構成され,
前記ハーフミラー層は,金属又は無機多層薄膜からなる蒸着層であり,前記ハーフミラー層は,前記フレネル形状部における,複数の前記溝の各境界で厚み方向と平行な向きに延びるフレネル立壁の領域を除く面の全体に形成され,
前記フレネル形状部の複数の溝の各々は,共通の中心部を有する円形の形状を有し,前記溝の各々における反射面の角度が前記溝に沿った円周方向の位置の違いに応じて連続的に変化し,前記溝の各々の深さが前記反射面の角度の変化に合わせて変化し,互いに隣接する前記溝の円周間のピッチが円周方向の位置にかかわらず一定である,
ことを特徴とする光学デバイス。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である,「前記フレネル形状部の複数の溝の各々は,前記フレネル形状部の表面形状が光学的に自由曲面特性を有しており,各溝の深さが一様ではなく」という構成を,「前記フレネル形状部の複数の溝の各々は,共通の中心部を有する円形の形状を有し,前記溝の各々における反射面の角度が前記溝に沿った円周方向の位置の違いに応じて連続的に変化し,前記溝の各々の深さが前記反射面の角度の変化に合わせて変化し,互いに隣接する前記溝の円周間のピッチが円周方向の位置にかかわらず一定である」という構成にする補正である。ここで,本件補正は,本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0036】の記載に基づく補正である。
そうしてみると,本件補正は,本件出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるから,特許法17条の2第3項の規定に適合する。

また,本件補正は,その補正の内容からみて,同法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項である,「フレネル形状部の複数の溝」の構成を限定することを含むものである。そして,本件補正前の請求項1に記載された発明と,本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は,同一である(明細書の【0001】及び【0008】参照。)。
そうしてみると,本件補正は,同法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものを含むものである。

そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1) 本件補正後発明
本件補正後発明は,前記1(2)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2014/041689号(以下「引用文献1」という。)は,本件出願前に,日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,虚像として画像を視認させる技術分野に関する。
背景技術
[0002] 従来から,虚像として画像を視認させるヘッドアップディスプレイなどの表示装置が知られている。一般的に,ヘッドアップディスプレイでは,小型液晶ディスプレイなどの小さな画面(実像)を,拡大された虚像として運転者に視認させるために,コンバイナ(合成器)と呼ばれるハーフミラーを用いている。
…(省略)…
発明が解決しようとする課題
[0004] ところで,一般的な凹面ハーフミラーをコンバイナとして用いた場合には,実像の位置が固定されると,コンバイナによって形成される虚像観察可能領域(以下では「アイボックス」と呼ぶ。)を運転者の頭部付近に形成するのに必要なコンバイナの設置角度が自動的に決まってしまう。
…(省略)…
[0006] 本発明が解決しようとする課題は上記のようなものが例として挙げられる。本発明は,フレネル構造の光学素子を有するヘッドアップディスプレイにおいて,観察者に圧迫感や違和感を与えることなく,アイボックスを適切に形成することを課題とする。」

イ 「課題を解決するための手段
[0007] 請求項1に記載の発明では,表示像を構成する光を出射する光源部と,前記光源部からの光が上方から入射され,移動体のフロントガラスの傾斜方向と同じ方向にて配置された光学素子とを備え,前記表示像を構成する光を前記光学素子で反射することで当該表示像を虚像として視認させるヘッドアップディスプレイであって,前記光学素子は,一の平板内に,フレネル構造のハーフミラーが形成され,当該ハーフミラーによって前記光源部からの光を反射し,前記ハーフミラーは,前記フレネル構造の元になる自由曲面の中心が,当該ハーフミラーの中心に位置しないフレネル構造が適用されており,前記ハーフミラーで反射した光が全反射することなく前記光学素子の外部へ出射されるように,前記光源部と前記光学素子との相対位置が設定されていることを特徴とする。
…(省略)…
発明を実施するための形態
[0009] 本発明の1つの観点では,表示像を構成する光を出射する光源部と,前記光源部からの光が上方から入射され,移動体のフロントガラスの傾斜方向と同じ方向にて配置された光学素子とを備え,前記表示像を構成する光を前記光学素子で反射することで当該表示像を虚像として視認させるヘッドアップディスプレイであって,前記光学素子は,一の平板内に,フレネル構造のハーフミラーが形成され,当該ハーフミラーによって前記光源部からの光を反射し,前記ハーフミラーは,前記フレネル構造の元になる自由曲面の中心が,当該ハーフミラーの中心に位置しないフレネル構造が適用されており,前記ハーフミラーで反射した光が全反射することなく前記光学素子の外部へ出射されるように,前記光源部と前記光学素子との相対位置が設定されている。
…(省略)…
[0023] 図3は,本実施例の基本概念を説明するための図を示している。図3は,3枚のコンバイナ10x1,10x2,10x3(以下では,これらを区別しない場合には単に「コンバイナ10x」と呼ぶ。)の例を示しており,コンバイナ10x1,10x2,10x3のそれぞれについて正面図及び断面図(側面図)を示している。なお,正面図及び断面図は,概略的に示したイメージ図を示している。コンバイナ10xは,図1に示したコンバイナ10の代わりにヘッドアップディスプレイに対して適用される(後述するコンバイナ10a,10bについても同様とする)。
[0024] コンバイナ10xは,内部にフレネル構造のハーフミラーが形成されている。具体的には,コンバイナ10xは,フレネル構造(フレネルパターン)の元になる仮想放物面S1の湾曲に応じた微小な反射面(ミラー面)S2が内部に複数形成されることで,ハーフミラーとして機能する。複数の反射面は,例えば仮想放物面S1を有するレンズを図3における垂直方向に等間隔で分割して配列したような形状を有する。例えば,コンバイナ10xは,仮想放物面S1の湾曲に応じた凹凸が形成された,同じ屈折率を有する2つの部材(以下では適宜「基板」と呼ぶ。基板は言い換えるとカバー層である。)の間に,ある程度の透過性を有する反射薄膜を挟み込むことで作成される。コンバイナ10x1,10x2,10x3に対して光が垂直に入射した場合,コンバイナ10x1,10x2,10x3のそれぞれに入射した光は,全て,内部に形成された反射面S2によって仮想放物面S1の焦点P1の方向に反射される(矢印Ar11,Ar12,Ar13参照)。
[0025] なお,本明細書では,「フレネル構造」とは,公知のフレネルレンズの面形状に類似する形状が適用された構造を意味するものとする。つまり,「フレネル構造のハーフミラー」とは,公知のフレネルレンズの面形状に類似する形状が適用されたハーフミラーを意味するものとする。
[0026] ここで,コンバイナ10x1は,その中心(外形中心)に,仮想放物面S1の頂点P2(言い換えると仮想放物面S1の中心であり,以下同様とする。)が位置している。つまり,コンバイナ10x1は,ハーフミラーの面上における中心点P3x1に頂点P2が位置する仮想放物面S1を元にしたフレネル構造が適用されている。そのため,コンバイナ10x1では,内部に形成された反射面S2の傾きが小さい。他方で,コンバイナ10x2,10x3は,その中心(外形中心)に,仮想放物面S1の頂点P2が位置していない。つまり,コンバイナ10x2,10x3は,ハーフミラーの面上における中心点P3x2,P3x3から外れた場所に頂点P2が位置する仮想放物面S1を元にしたフレネル構造が適用されている。言い換えると,コンバイナ10x2,10x3は,フレネルパターンの中心から外れた領域が適用されている。そのため,コンバイナ10x2,10x3では,内部に形成された反射面S2の傾きが大きい(つまり反射面S2が立っている)。
[0027] 以下では,コンバイナ10x2,10x3のように,ハーフミラーの中心点P3x2,P3x3から外れた場所に頂点P2が位置する仮想放物面S1をフレネル構造に適用することを,適宜「オフセット」と呼ぶ。また,仮想放物面S1の頂点P2からのオフセットの量を「オフセット量」と呼ぶ。1つの例では,「オフセット量」は,仮想放物面S1の頂点P2がハーフミラーの中心点P3x2,P3x3からずらされている量(言い換えると頂点P2と中心点P3x2,P3x3との距離)で表される。図3に示す例では,コンバイナ10x2は,ハーフミラーの中心点P3x2からオフセット量OFSx2だけ頂点P2がずらされた仮想放物面S1を元にしたフレネル構造が適用されており,コンバイナ10x3は,ハーフミラーの中心点P3x3からオフセット量OFSx3だけ頂点P2がずらされた仮想放物面S1を元にしたフレネル構造が適用されている。
[0028] このようにオフセットが適用されたコンバイナ10x2,10x3を用いることで,図3中の矢印Ar12,Ar13に示すように,コンバイナ10x2,10x3のハーフミラーにおける入射光と反射光との成す角度を変えることができる。一方で,コンバイナ10x2,10x3における表面反射光(基板の表面で反射した光)の角度は変わらないため,上記したような2重像を回避することができるのである。また,図3中の矢印Ar21,Ar22,Ar23に示すように,コンバイナ10x1,10x2,10x3のハーフミラーにおける入射光と反射光との成す角度を一定に保ったまま,コンバイナ10x1,10x2,10x3との相対角度を変えることが可能となる。
[0029] なお,フレネル構造の元になる面として放物面を用いることに限定はされない。作り易さの観点から球面形状を用いても良いし,収差を補正するために非球面形状を用いても良い。つまり,種々の自由曲面(例えば焦点が規定されるような曲面)をフレネル構造の元になる面として適用することができる。好適な1つの例では,反射面を覆う基板(カバー層)を加味したハーフミラーの特性が放物面に従ったものであるように(つまり,コンバイナに垂直に光を入射させた場合に,反射面で反射して基板を透過して出射された光が放物面の焦点に向かうように),フレネル構造の元になる面として非放物面を適用することができる。
[0030] 図4は,上記したようなオフセットされたフレネル構造が適用されたコンバイナを用いることで,フロントガラスと同じ方向にコンバイナを傾斜させてもアイボックスEBを運転者の頭部付近に適切に形成できることについて説明する。図4は,図3に示したコンバイナ10x1,10x2,10x3を時計回りに90°させた後に,反射光の角度が水平になるように回転させた状態で車両内に設置した状態を示している。図4より,例えばコンバイナ10x3(オフセット量が比較的大きなフレネル構造を適用したもの)を用いた場合,コンバイナ10x3をフロントガラスと概ね同じ方向に傾斜させても,アイボックスEBを運転者の頭部付近に適切に形成できることがわかる。つまり,図2(b)に示したような不具合(フロントガラスと同じ方向に傾斜させたコンバイナ10では天井付近に設置した実像RIのアイボックスEB2が腹部に形成されてしまうといった不具合)を解決することができると言える。」

ウ 【図3】,【図4】
図3:


図4:


(3) 引用発明
引用文献1の[0023]?[0030]には,図3及び図4から看取されるような,「車両のヘッドアップディスプレイに対して適用されるコンバイナ」が記載されている。また,引用文献1の[0030]の記載からみて,このコンバイナは,「フロントガラスと概ね同じ方向に傾斜させても,アイボックスEBを運転者の頭部付近に適切に形成できる」ものである。
そうしてみると,引用文献1からは,次の発明を把握することができる(以下「引用発明」という。)。
「 内部にフレネル構造のハーフミラーが形成された,車両のヘッドアップディスプレイに対して適用されるコンバイナであって,
コンバイナは,フレネル構造の元になる仮想放物面S1の湾曲に応じた微小な反射面S2が内部に複数形成されることで,ハーフミラーとして機能し,
コンバイナは,仮想放物面S1の湾曲に応じた凹凸が形成された,同じ屈折率を有する2つの基板の間に,ある程度の透過性を有する反射薄膜を挟み込むことで作成され,
コンバイナは,ハーフミラーの中心点から外れた場所に頂点P2が位置する仮想放物面S1をフレネル構造に適用し,
コンバイナをフロントガラスと概ね同じ方向に傾斜させても,アイボックスEBを運転者の頭部付近に適切に形成できる,
車両のヘッドアップディスプレイに対して適用されるコンバイナ。」

(4) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された特開2002-311377号公報(以下「引用文献2」という。)は,本件出願前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,判断等に活用した箇所を示す。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】 映像を表示する表示素子と,前記表示素子に表示された映像又はその中間像を虚像として拡大する接眼光学系を有する表示装置において,前記接眼光学系が回転非対称なフレネル面を備えていることを特徴とする表示装置。
【請求項2】 前記回転非対称なフレネル面は自由曲面からなることを特徴とする請求項1記載の表示装置。
【請求項3】 前記回転非対称なフレネル面が偏心して配置され,偏心により発生する偏心収差を補正するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の表示装置。」

イ 1欄14?38行
「【発明の属する技術分野】本発明は,表示装置に関し,特に,偏心して配置されても像歪み等の収差発生が少ない回転非対称なフレネル光学素子を用いた持ち歩ける小型投影表示装置等の表示装置に関するものである。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】従来の回転非対称な反射面を用いた接眼光学系は,頭部装着型の表示装置としての用途を前提に設計されており,観察者の眼球の瞳にあたる接眼光学系の射出瞳位置が光学系から比較的近い位置に配置されていた。接眼光学系の射出瞳径も小さく,携帯型表示装置として使うにはある程度の離れた距離から観察することができなければならないが,このように従来の接眼光学系の射出瞳位置は光学系から比較的近く,かつ,射出瞳径も小さので,その光学系をそのまま利用することは不可能であった。本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり,その目的は,射出瞳位置が光学系から比較的離れており,かつ,射出瞳径が大きな小型の携帯型表示装置用の光学系を提供することである。」

ウ 3欄18?30行
「さらに好ましくは,フレネル面を傾けて配置することにより,光学系を小さく構成することが可能となり,装置の小型化により好ましい。さらに,上記のように傾けたフレネル面で発生する偏心収差を補正するような回転非対称な面形状のフレネル面にすることにより偏心収差を補正することが可能である。さらに好ましくは,回転非対称な面形状として自由曲面によりフレネル面を構成することにより,偏心収差の補正がより少ない面で行うことが可能となる。ここで,自由曲面とは,例えば米国特許第6,124,989号(特開2000-66105号)の(a)式により定義される自由曲面であり,その定義式のZ軸が自由曲面の軸となる。」

エ 9欄35行?10欄2行
「フレネル面は,基礎となる曲面を細い輪状の小面に切り分け,その切り分けた多数の輪状の小面を輪帯状に配列したもので,本発明で用いるフレネル面はその基礎となる曲面が回転非対称な面形状のものであり,図11にその模式図を示す。図11(a)は本発明で用いるフレネル面60の斜視図,図11(b)はその縦断面図,図11(c)はその横断面図である。図示の例では,回転非対称なフレネル面60を実現するために,フレネルピッチを回転非対称な楕円形状することによって,回転非対称なフレネル面を実現している。また,フレネルピッチは回転対称で,スロープ角を回転非対称にする方法でも実現することが可能である。さらに好ましくは,自由曲面のフレネル面も同様にフレネルピッチを回転非対称にする方法とピッチは回転対称で,スロープ角を回転非対称にする方法もある。そして,このフレネル面60を屈折面とすることによりフレネル透過面となり,フレネル面60を反射面とすることによりフレネル反射面となる。」

オ 図11


(5) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比する。
引用発明の「コンバイナは,フレネル構造の元になる仮想放物面S1の湾曲に応じた微小な反射面S2が内部に複数形成されることで,ハーフミラーとして機能」するものである。また,引用発明の「コンバイナは,仮想放物面S1の湾曲に応じた凹凸が形成された,同じ屈折率を有する2つの基板の間に,ある程度の透過性を有する反射薄膜を挟み込むことで作成され」るものである。
上記の構成及びフレネルミラーに関する技術常識を勘案すると,引用発明の「基板」の「仮想放物面S1の湾曲に応じた凹凸」は複数の溝であり,この「凹凸が形成された」側は,「基板」の厚み方向の一方の面である。そして,引用発明の「基板」の「フレネル構造」はフレネル形状部と称することができ,「ハーフミラーとして機能」する「ある程度の透過性を有する反射薄膜」は,「フレネル構造」の面上に形成されたハーフミラー層ということができる。加えて,引用発明の「2つの基板」と「ある程度の透過性を有する反射薄膜」を併せたものは,板状の光学材料ということができ,引用発明の「コンバイナ」は,「2つの基板」と「ある程度の透過性を有する反射薄膜」を併せたものにより構成されるものといえる。
そうしてみると,引用発明の「仮想放物面S1の湾曲に応じた凹凸」,「フレネル構造」,「ある程度の透過性を有する反射薄膜」,「2つの基板」と「ある程度の透過性を有する反射薄膜」を併せたもの,及び「コンバイナ」は,それぞれ本件補正後発明の「複数の溝」,「フレネル形状部」,「ハーフミラー層」,「板状の光学材料」及び「光学デバイス」に相当する。
また,引用発明の「コンバイナ」は,本件補正後発明の「光学デバイス」における,「厚み方向の一方の面に複数の溝が形成されたフレネル形状部と」,「前記フレネル形状部の面上に形成されたハーフミラー層と,を備えた板状の光学材料により構成され」という要件を満たす。

(6) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 厚み方向の一方の面に複数の溝が形成されたフレネル形状部と,
前記フレネル形状部の面上に形成されたハーフミラー層と,を備えた板状の光学材料により構成される,
光学デバイス。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「ハーフミラー層」に関して,本件補正後発明は,「前記ハーフミラー層は,金属又は無機多層薄膜からなる蒸着層であり,前記ハーフミラー層は,前記フレネル形状部における,複数の前記溝の各境界で厚み方向と平行な向きに延びるフレネル立壁の領域を除く面の全体に形成され」という構成を具備するのに対して,引用発明は,このような構成を具備するとはされていない点。

(相違点2)
「フレネル形状部」に関して,本件補正後発明は,「前記フレネル形状部の複数の溝の各々は,共通の中心部を有する円形の形状を有し,前記溝の各々における反射面の角度が前記溝に沿った円周方向の位置の違いに応じて連続的に変化し,前記溝の各々の深さが前記反射面の角度の変化に合わせて変化し,互いに隣接する前記溝の円周間のピッチが円周方向の位置にかかわらず一定である」という構成を具備するのに対して,引用発明は,このような構成を具備するとはされていない点。

(7) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「フレネル構造」は「反射面S2」を具備するところ,反射面を,金属又は無機多層薄膜からなる蒸着層により形成することは周知技術であり,また,蒸着層を,反射面として機能すべき面の全体のみに設ける(複数の前記溝の各境界で厚み方向と平行な向きに延びるフレネル立壁の領域を除く面の全体に形成すること)も周知技術である(例えば,特開2013-137379号公報の【0029】及び【図3】,特開2009-206078号公報の【0036】及び【図10】,特開2008-64911号公報の【0042】及び【図6】,特開2004-157520号公報【0026】?【0034】を参照。)。
引用発明の反射面S2を形成するに際し,上記周知技術を採用することは,引用発明を具体化する当業者における選択肢の一つにすぎない。

イ 相違点2について
引用発明の「仮想放物面S1」に替えて,自由曲面をフレネル構造の元になる面として適用することは,引用文献1の[0029]の記載が示唆するところである。また,引用発明の「コンバイナ」は,偏心・傾斜させて使用されるものであるから,偏心収差・軸外収差の補正手段として,光軸に非対称な自由曲面ミラーの採用が適していることは明らかである。
(当合議体注:引用文献1でいう「自由曲面」は,放物面を含む広義のものであり,狭義の「自由曲面」よりも広い概念と理解される。しかしながら,「自由曲面」という用語に接した当業者が理解する「自由曲面」は,少なくとも光軸に対して非回転対称なものであり,通常は,引用文献2の3欄28行において言及された特開2000-66105号(以下「参考文献」という。)の【0039】?【0041】の記載から理解される,非回転対称のものである。)
そこで,引用発明の「仮想放物面S1」に替えて,自由曲面をフレネル構造の元になる面とし,引用文献1の図3における垂直方向に等間隔で分割して配列した([0024])場合を想定すると,そのフレネル構造の形状は,相違点2に係る本件補正後発明の構成を具備したものとなる。
引用発明のフレネル構造に替えて,相違点2に係る本件補正後発明の構成を具備したフレネル構造を採用することは,引用文献1の示唆を参考にした当業者における,通常の創意工夫の範囲内の事項である。

あるいは,引用文献2には,傾けたフレネル面で発生する偏心収差を補正する手段として,回転非対称な面形状からなるフレネル面や,自由曲面からなるフレネル面を採用することが開示されている(前記(4)ア及びウ)。また,引用文献2には,そのための具体的手段として,ピッチは回転対称で,スロープ角を回転非対称にする方法(前記(4)エ)が開示されている。
引用発明の「コンバイナ」も,フレネル構造が「フロントガラスと概ね同じ方向に傾斜さ」れていることから,偏心により収差が発生するものであり,引用文献2に記載された技術を採用するに適したものといえる。そして,引用文献1の図3から看取されるように垂直方向に等間隔の同心円で分割して配列した場合や「ピッチは回転対称で,スロープ角を回転非対称にする方法」(前記(4)エ)を想定すると,引用文献2に記載された技術を採用してなる,引用発明の「コンバイナ」は,相違点2に係る本件補正後発明の構成を具備したものとなる(なお,偏心収差を回転対称光学系のみで補正できないことは,技術常識である(参考文献の【0032】)。)。
したがって,引用発明のフレネル構造に替えて,相違点2に係る本件補正後発明の構成を具備したフレネル構造を採用することは,引用文献2に記載された技術を心得た当業者における,通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(8) 本件発明の効果について
本件補正後発明の,「HUD装置の投影用に利用可能な反射面及び光学的な拡大機能を有し,投影用光学系等に存在する三次元状の歪みを解消することが可能になる」(本件出願の明細書の【0016】)という効果は,引用文献2に例示される周知技術からみて,当業者の予測を超えるような顕著な効果であるとはいえない。

(9) 備考
ア 蒸着層
周知技術を示す例として挙げた文献の反射面の多くは,全反射面と解されるのに対して,引用発明の反射面S2はハーフミラーであるが,蒸着層の膜厚の問題にすぎない。

イ 反射薄膜を挟み込む
引用発明の「2つの基板の間に,ある程度の透過性を有する反射薄膜を挟み込むことで作成され」という構成は,「反射薄膜を挟み込む」工程を意味するようにも解される。
仮にそうであるとしても,引用発明の工程に替えて,蒸着を採用することは,当業者におけるより現実的な製造方法の選択にすぎない。

ウ 円形
本件補正後発明の「円形」を一周にわたる「円の形」と理解すると,引用文献1の図3の10x2及び10x3のフレネル構造は「円形」とはいえなくなる(弧の形ということになる。)。
しかしながら,車両のフロントガラスには,鉛直に近い形状のものもあり,また,コンバイナの取付け位置は,フロントガラスの比較的上方を含むものであっても良く,この場合には,ハーフミラーの範囲内に頂点P2が入って「円形」(一周にわたる円の形)を含むコンバイナとなるから,審決の結論を左右しない。

(10) 請求人の主張について
請求人は,平成31年1月24日付け上申書において,概略,引用文献2の指摘箇所には,「ピッチが回転対称で,スロープ角を回転非対称にする」点が記載されているだけで,少なくとも「溝の各々の深さが反射面の角度の変化に合わせて変化する」点について何らの開示も示唆もないと主張する。
しかしながら,溝の底に平らな部分を設ける等の特殊な加工を敢えて施す場合を想定しない限り,「溝の各々の深さが反射面の角度の変化に合わせて変化する」形状が,自然に導き出されるものである。

請求人は,補正案を示している。
しかしながら,請求人の補正案は,発明特定事項の一部を差し替えるものであり,採用に適さないものである。
あるいは,引用文献1の図3の説明においては,フレネル構造の元になる面を等間隔で分割して配列することが記載されているが,フレネル構造の高さが揃うように分割することは周知技術である(例えば,引用文献6の【図10-1】を参照。)。
引用発明の「仮想放物面S1」に替えて,自由曲面をフレネル構造の元になる面とし,フレネル構造の高さが揃うように分割した場合のフレネル構造の形状は,補正案の下線部の構成を具備したものとなる。

請求人の主張は採用できない。

(11) 小括
以上のとおりであるから,本件補正後発明は,本件出願前に,周知技術を心得た当業者が,引用文献1に記載された発明(及び引用文献2に記載された技術)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は,平成29年5月26日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件出願前に,日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された国際公開第2014/041689号(引用文献1)に記載された発明(及び特開2002-311377号公報(引用文献2)に記載された技術)に基づいて,本件出願前の周知技術を心得た当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用文献1の記載及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明,並びに,引用文献2の記載は,前記「第2」[理由]2(2)?(4)に記載したとおりである。

4 対比,判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明の「前記フレネル形状部の複数の溝の各々は,共通の中心部を有する円形の形状を有し,前記溝の各々における反射面の角度が前記溝に沿った円周方向の位置の違いに応じて連続的に変化し,前記溝の各々の深さが前記反射面の角度の変化に合わせて変化し,互いに隣接する前記溝の円周間のピッチが円周方向の位置にかかわらず一定である」という構成を,「前記フレネル形状部の複数の溝の各々は,前記フレネル形状部の表面形状が光学的に自由曲面特性を有しており,各溝の深さが一様ではなく」という構成に替えたものである。
そうしてみると,本願発明も,前記「第2」[理由]2(5)?(10)で述べたのと同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-28 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-20 
出願番号 特願2015-61107(P2015-61107)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
樋口 信宏
発明の名称 光学デバイス  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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