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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1356808
異議申立番号 異議2018-701034  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-20 
確定日 2019-09-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6345907号発明「ドレッシング」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6345907号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-2〕、〔3-4〕について訂正することを認める。 特許第6345907号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6345907号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成24年1月10日に出願されたものであり、平成30年6月1日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月20日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年12月20日 :特許異議申立人鈴木 佐知子(以下「申立
人」という。)による請求項1?4に係る
特許に対する特許異議の申立て
平成31年 2月26日付け:取消理由通知書
平成31年 4月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提

令和 元年 6月14日 :申立人による意見書の提出

2 訂正の適否
(1) 訂正の内容
平成31年4月26日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、「油脂を40重量%以上かつ50重量%未満含有し、キサンタンガムを含有し、乳化剤として卵黄を含有する乳化液状ドレッシングであって、粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5
を満たし、油脂が植物油脂を含むことを特徴とする、乳化液状ドレッシング。但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。」と訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を、「粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5
を満たす、乳化液状ドレッシングの製造方法であって、
1)油脂含量が40重量%以上かつ50重量%未満となるように、キサンタンガム及び乳化剤として卵黄を含む水相原料と、植物油脂を含む油相原料とを提供する工程、および
2)該水相原料と該油相原料とを乳化させる工程
を含み、かつ2)の乳化工程を、脱気をしながら行うことを特徴とする、方法。但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。」と訂正する。
(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1、2
訂正事項1、2は、請求項1、3に、それぞれ「但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。」との但し書きを追加することにより、請求項1、3に係る「乳化液状ドレッシング」から、「ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシング」を除外するものに減縮するものである。
従って、訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1、2が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、明らかである。
イ なお、訂正前の請求項1、2は、請求項2が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、訂正前の請求項3、4は、請求項4が、訂正の請求の対象である請求項3の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項[1?2]及び一群の請求項[3?4]について請求されている。
(3) 小括
上記のとおり、訂正事項1、2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6345907号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕、〔3?4〕について訂正することを認める。

3 本件発明
本件訂正による訂正後の請求項1?4に係る発明について、訂正特許請求の範囲には、以下のとおり記載されている。以下、訂正後の本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい、総称して「本件発明」という。

【請求項1】
油脂を40重量%以上かつ50重量%未満含有し、キサンタンガムを含有し、乳化剤として卵黄を含有する乳化液状ドレッシングであって、粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5
を満たし、油脂が植物油脂を含むことを特徴とする、乳化液状ドレッシング。但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。
【請求項2】
酵素分解チーズをさらに含有する、請求項1記載の乳化液状ドレッシング。
【請求項3】
粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5
を満たす、乳化液状ドレッシングの製造方法であって、
1)油脂含量が40重量%以上かつ50重量%未満となるように、キサンタンガム及び乳化剤として卵黄を含む水相原料と、植物油脂を含む油相原料とを提供する工程、および
2)該水相原料と該油相原料とを乳化させる工程
を含み、かつ2)の乳化工程を、脱気をしながら行うことを特徴とする、方法。但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。
【請求項4】
水相原料に酵素分解チーズを配合させることを含む、請求項3記載の方法。

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1) 取消理由の概要
当審が平成31年2月26日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、当該取消理由は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由を全て含んでいる。
ア 本件発明1?4の「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり」とされる数値範囲が、いかなる範囲を意味しているのかを当業者は理解できず、本件発明1?4に係る特許請求の範囲の記載は明確とはいえないので、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。
イ 本件発明1?4は、「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり」と特定される事項がどのような範囲を特定しているのかが明確でないため、本件発明1?4に関してどのように実施するのかが不明であり、当業者が、発明を実施することができる程度に発明の詳細な説明の記載が明確かつ十分にされているとはいえないから、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。
ウ 本件発明1?4は、以下の(ア)?(オ)の点で、発明の詳細な説明に記載されたものでないので、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。
(ア) 「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり」と特定される事項がどのような範囲と特定しているのか明確でなく、本件特許明細書の【表1】(【0048】)に記載の「粒子径(μm)メディアン」の項目に記載された数値が、本件発明の「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり」と同一の基準に基づくものであるか否か判別することができないため、本件発明1?4が本件特許明細書に記載されたものということはできない。
(イ)官能評価について、強弱(各2段階)の基準が明確でないため、仮に「-2、-1、0、1、2」の5段階とした場合に、各評価点で何を評価しているのか理解できない。
また、官能評価(味覚評価)が、仮に「-2、-1、0、1、2」の5段階で行われ、専門パネラー4名の評価の平均値によって酸味、コクそれぞれの評価結果が算出されているとすると、その平均値は、-2から2までの0.25刻みの数字の「-2、-1.75、-1.5、-1.25、-1、-0.75、-0.5、-0.25、0、0.25、0.5、0.75、1、1.25、1.5、1.75、2」のいずれかの値となるが、【表1】において、「0.1」や「-0.1」の評価結果を含むことは、理解でない。そうすると、官能試験の結果からも、本件発明が「油脂配合量を低減させた場合でも、十分なコクを有するドレッシング及びその製造方法を提供すること」(本願特許明細書【0005】)という発明の課題を解決し得たものとすることができない。
(ウ) コクの強さ値について、少なくとも実施例3の3.58を超える部分については、味覚試験の結果が「0」を必ずしも上回るとはいえず、上記課題を解決し得たものということはできない。
(エ)実施例1?3について、示されている平均粒子径は3.5?7μmの範囲のものである。一方、実施例7と比較例8を比べると、粒子径以外の条件は、ほぼ同様であるが、実施例7の粒子径(メディアン)が5.6μmの場合には、味覚評価(コク)は0.3という評価になっているのに対し、比較例8の平均粒子径(メディアン)が8.2μmの場合には、味覚評価(コク)は-0.3という評価になっている。このことから、【表1】の結果は、平均粒子径(メディアン)が3?10μmの範囲内であっても、8μm付近になるとコクの味覚試験結果が顕著に悪化することを示すものといえる。他の処方例の味覚評価結果を見ても、同様の平均粒子径(メディアン)で上記課題を解決できているといえるものは示されていない。
(オ) 本件発明1?4の、配合する油脂の成分について、本件特許明細書の【表1】で用いられている油脂は、菜種油のみであり、他の油脂を用いた場合については試験がなされていない。油脂に関しては、40重量%以上かつ50重量%未満と配合割合が多いため、その配合量のみならずその種類や植物油脂以外の配合成分(親油性のある着香料、香味油等)によってもコクの評価が大きく変わることが予測できる。そのため、本件発明1?4の「油脂が植物油脂を含む」との特定は、本件特許明細書の試験例(菜種油のみ)と比較して広範の特許請求の範囲を規定していて、菜種油の例のみで、本件発明1?4の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項を一般化することはできない。
エ 請求項1?4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。
オ 請求項1?4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。
証拠方法:
刊行物(特許異議申立書及び意見書に添付された甲各号証)
甲第1号証:特開昭60-227655号公報
甲第2号証:神保元二、外5名、「微粒子ハンドブック」、株式会社朝倉書店、1991年9月1日、p.52-61、174-207
甲第3号証:大塚電子株式会社のホームページ、「【入門】微粒子の粒子径(粒径)測定」のプリントアウト、(https://www.otsukael.jp/weblearn/chapter/learnid/65/page/2/categorylid/34)
甲第4号証:株式会社堀場製作所のホームページ、「【粒子径・粒度分布】今さら聞けない!粒子径・粒度分布測定【基礎編】<装置の基本構成・測定手順・メンテナンス>」のプリントアウト、(http://www.horiba.com/fileadmin/uploads/Scientific/Exhibitions/2013/JASIS2013/NewTechnologyDocument/JASIS2013_PSA_Basis.pdf)
甲第5号証:マイクロトラック・ベル株式会社のホームページ、「粒子計測ゼミナール:粒子径測定(粒度分布測定)」のプリントアウト、(https://www.microtrac-bel.com/tech/particle/entry130.html)
甲第6号証:ベックマンコールター社のホームページ、「粒度分布測定の基礎知識」のプリントアウト、(https://ls.beckmancoulter.co.jp/column/particle/basic/06)
甲第7号証:鈴木佐知子、「分析報告書」、2018年12月18日
甲第8号証:知恵袋、「『コクがあって美味しい』の”コク”って何?」のプリントアウト、出力日:2018年12月19日、(https://zexy-kitchen.net/columns/94)
甲第9号証:ウィキペディア「大豆油」のプリントアウト、(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%B1%86%E6%B2%B9)
甲第10号証:特開昭62-265964号公報
甲第11号証:特開2000-316522号公報
甲第12号証:特開昭61-289858号公報
甲第13号証:特開2002-300868号公報
甲第14号証:特開昭59-14767号公報
甲第15号証の1:SALD-3100取扱説明書[ハードウエア編]
甲第15号証の2:SALD-3100取扱説明書[ソフトウェア編]
甲第16号証:JISZ9080:2004
甲第17号証:「健康にやさしい油の選び方」のプリントアウト、(http://park6.wakwak.com/?acchan/essayadd2.htm)
(2) 当審の判断
ア 理由ア(第36条第6項第2号)について
(ア) 本件発明1は、「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり」とするものであるが、特許請求の範囲には「平均粒子径」の定義や測定方法の特定はなされていない。
そこで、検討するに、一般に平均粒子径を定義するには、i.1個の粒子の大きさをどのように表すか(代表径のとり方)、ii.粒子の大きさに分布がある粒子群をどのように表すか(粒度分布の表し方)、iii.粒子群を代表する平均的な大きさをどのように選ぶか(平均粒子径の選び方)の3点を定義する必要があることが技術常識である(甲第2号証参照。)と認められる。
そして、本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
「本明細書において乳化粒子(油滴)の『平均粒子径』とは、ドレッシング中の乳化粒子の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布計SALD-3100(株式会社島津製作所製)を用いて測定したときに得られるメディアン径、即ち、ドレッシング中の乳化粒子をある粒子直径を境に2つに分けたときに該粒子直径より大きい側の粒子と小さい側の粒子とが等量となる粒子直径を意味する」(【0028】)
当該記載より、本件発明1は、上記iii.(平均粒子径の選び方)に関しては、メディアン径(中位径)であることが理解できる。
一方、上記i.(代表径のとり方)に関し、レーザー回折を用いていることから、その代表径は光散乱径であることが理解でき、レーザ回折式粒度分布測定装置では、粒度分布を体積基準で測定するのが通常であり(株式会社島津製作所のウェブページの「粉博士のやさしい粉講座:実践コース」の「17 粒度分布における体積基準と個数基準について」のプリントアウト(乙第3号証)参照。)、本件特許明細書には個数基準で行った旨の記載はないことから、本願発明については、体積基準によりなされたものと認められる。
さらに、レーザー回折式粒度分布計SALD-3100の測定に用いる屈折率については、レーザー回折式粒度分布計SALD-3100(本件特許明細書の段落【0028】参照)に搭載されているソフトウェアWingSALDIIによると、屈折率の設定は、自動化されて設定できることが認められる(「レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-3100取扱説明書[ハードウェア編]、26-29」(乙第1号証)、「「粒子径分布測定装置SALDシリーズ用ソフトウェアWingSALDII」(島津評論 別刷,Vol.67, No.1・2, 77-84 (2010.9)」(乙第2号証)参照。)。
そうすると、本件特許明細書に、具体的な屈折率について特定されていないことからすると、当業者は、自動化による自動設定によるものと理解できるし、本件発明において、自動化により設定した屈折率を用いることができないとすることもない。
以上のことから、本件発明1?4の「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであ」ることは、平均粒子径の選び方として、メディアン径(中位径)を用い、粒度分布を体積基準で測定し、レーザー回折式粒度分布計SALD-3100の屈折率は、自動化により設定されるものを用いて特定されると理解でき、当該記載を含む本件発明1?4が、不明確であるとすることはできない。
(イ) 申立人は、以上の点について、以下の主張をしている。
a.「SALD-2100の中でもWingSALDIIが搭載された特別なモデルに関するものに過ぎません。」(申立人の令和元年6月14日の意見書4ページ)
b.「乳化粒子(油滴)の『比表面積(S)』が本件発明の構成要素として規定されており、その定義として本件明細書の段落【0028】には、『本明細書において乳化粒子(油滴)の『比表面積(S)』とは、乳化粒子の平均粒子径を基準として導かれるドレッシング1kgあたりに含まれる油脂の表面積(単位:m^(2)/kg)を意味する。 S=4π×(平均粒子径/2)^(2)×n (n:乳化粒子数)』と乳化粒子数に着目した定義がなされており、それゆえ、この『平均粒子数』の定義としても乳化粒子の数を基準に算定されていると解釈するのが整合的と考えられます」(同7ページ)
上記a.については、レーザ回析式粒度分布測定装置SALD-3100の取扱説明書[ハードウエア編]に「SALD-3100の操作は基本的にパソコンからおこないます。パソコンを使用した操作方法は【WingSALDII取扱説明書】に詳しく説明されていますので・・・」と記載されているように(乙第1号証参照。)、製品としてSALD-3100と、WingSALDIIとが組み合わされたものが用いられていることから、上記判断に影響を与えるものではない。
また、上記b.については、段落【0028】には、「S=4π×(平均粒子径/2)^(2)×n (n:乳化粒子数)」に続いて、以下の事項が記載されている。
「ドレッシング1kg中の乳化粒子の体積は、
4/3×π×(平均粒子径/2)^(3)×n
であるから、
S=3×(ドレッシング1kg中の乳化粒子の体積)/(平均粒子径/2)
である。
ここでドレッシング1kg中の乳化粒子の体積は、
(油脂配合量)/(油脂の比重)であるから、比表面積(S)は
S=6×(油脂配合量)/(油脂の比重)/(平均粒子径)
により計算される。尚、ここでいう『油脂の比重』は25℃におけるものを示す。
本明細書において乳化粒子(油滴)の『平均粒子径』とは、ドレッシング中の乳化粒子の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布計SALD-3100(株式会社島津製作所製)を用いて測定したときに得られるメディアン径、即ち、ドレッシング中の乳化粒子をある粒子直径を境に2つに分けたときに該粒子直径より大きい側の粒子と小さい側の粒子とが等量となる粒子直径を意味する。」
当該記載は、理論上、比表面積(S)を立式するに際して、乳化粒子数nを用いて定式化を行ったものであり、比表面積Sを求める式においては、結果的に乳化粒子数nは含まれていない。そして、特定される平均粒子径について、「ドレッシング中の乳化粒子をある粒子直径を境に2つに分けたときに該粒子直径より大きい側の粒子と小さい側の粒子とが等量となる粒子直径を意味する」と記載されるものの、当該記載は、比表面積Sを立式するに際して、乳化粒子数nを用いたことと、ドレッシング中の乳化粒子をある粒子直径を境に2つに分けたときに該粒子直径より大きい側の粒子と小さい側の粒子とが等量となる基準とを関連付けているものではなく、平均粒子径を求める際に、個数基準で行うこととを、必ずしも対応付けるものとはいえない。
したがって、上記a.及びb.に係る申立人の主張は採用できない。
(ウ) 以上のとおりであるから、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は不明確であるとすることはできず、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないものではない。
イ 理由イ(第36条第4項第1号)について
上記アに述べたとおり、本件発明の「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり」とされる数値範囲は、不明確なものであるとはいえない。
したがって、本件発明に関して、どのように実施すればよいかも明確であって、本件発明を実施することができる程度に発明の詳細な説明の記載が明確かつ十分にされていないとはいえず、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないものではない。
ウ 理由ウ(第36条第6項第1号)について
(ア)理由ウの(ア)について
上記アに述べたとおり、本件発明の「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり」とされる数値範囲は、不明確なものであるとはいえない。
したがって、本件特許明細書の【表1】(【0048】)に記載の「粒子径(μm)メディアン」の項目に記載された数値が、本件発明の「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり」と同一の基準に基づくものであると判別することができるため、本件発明1?4が本件特許明細書に記載されたものといえる。
(イ)理由ウの(イ)について
一般に官能評価試験においては、同じ条件であっても結果にばらつきが生じ得るため、結果の信頼性と妥当性を高めるため、通常2又は3回以上繰り返し試験を行うことが、行われる得るものである(官能評価試験(Sensory analysis)に関する国際標準化機構(ISO)規格(ISO 13299:2003(E)(2003年3月1日発行)(乙第4号証)の「7.3.5 Duplicate tests」欄参照)。
そして、本件特許明細書の表1及び表2に記されている味覚評価の数値が、実際には、専門パネラー4名による3回の繰り返し試験の評価結果の平均値、すなわち、母数12の評価結果の平均値であり、そのことが本件特許明細書に記載されていなかったとしても、官能評価試験の結果を理解できないという程のことではなく、また、本件発明の課題を解決できないとすることではない。
(ウ)理由ウの(ウ)について
本件特許発明の課題は、本件特許明細書の段落【0005】に記載の、「油脂配合量を低減させた場合でも、十分なコクを有するドレッシング及びその製造方法を提供すること」であり、コクの評価が「0」であっても、油脂配合量を低減させる前と同等のコクを有するのであれば、十分なコクを有すると理解できる。
そして、本件特許明細書の実施例1?3の味覚試験結果によれば、いずれも参考例と比較して油脂配合量を低減させた場合でも、十分なコク(参考例と同等かそれ以上(0以上)のコク)を実現している。そして、実施例1?3のコクの強さ値は、2.72、3.27、3.58となっており、「油脂を40重量%以上かつ50重量%未満含有し、キサンタンガムを含有し、乳化剤として卵黄を含有する乳化液状ドレッシングであって、粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであ」ることを前提に、「油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S」で求まるコクの強さ値を、3.58からさらに大きくして、「5」までの範囲とした場合には、上記前提の範囲の中で、油脂含量O(重量%)、粘度V(mPa・s)、油脂の比表面積S(m^(2)/kg)のいずれかを高めることになると認められる。そうすると、コクを高める要素であることが明らかな、油脂含量O(重量%)、粘度V(mPa・s)、油脂の比表面積S(m^(2)/kg)のいずれかを高めて、コクの強さ値を2.5?5としたものも、当然に、コクについては、十分なコクがあると評価されると認められる。
(エ)理由ウの(エ)について
この点について検討するに、本件特許明細書に記載された実施例7、比較例8の粘度は、4600mPa・sであって、本件発明の範囲外である。そして、粘度について本件発明の粘度の範囲である、5300?6000mPa・sの範囲とすれば、粘度が高まったものは、コクが高まることが明らかといえるので、比較例8の平均粒子径である8.2μmを超えても、コクが参考例と同程度ならないといえるものではない。そして、平均粒子径について、10μmを大きく超える比較例7の油脂含有量が40重量%、粘度が4800mPa・sで、平均粒子径が13.8μmであっても、コクの評価が「-0.5」程度であり、また、同じく、基準となる参考例は、油脂が50重量%であるが、粘度が5400mPa・sで、平均粒子径が12.2μmのものが、コクについて基準となっていることを勘案すると、「油脂を40重量%以上かつ50重量%未満含有し、キサンタンガムを含有し、乳化剤として卵黄を含有する乳化液状ドレッシングであって、粘度が5300?6000mPa・sであ」ることを前提に、「乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであ」るものは、参考例と同程度のコクを有していると理解し得るものである。
(オ)理由ウの(オ)について
植物油脂の種類や植物油脂以外の配合成分が、風味等の付加的な効果を有しているとしても、食品にコクを与えるという油脂が有する性質において、変わるところはあるとはいえず、菜種油は、油脂の代表的な例として、本件特許明細書において示されているに過ぎない。そして、本件特許明細書において、菜種油の例が示されていれば、これに加えて、さらに種々の油脂についてまで、評価がなされなければ、本件発明が本願明細書に記載されていないといえるものではない。
この点について、申立人は、「被申立人自身『酵素分解チースやアンチョビソースなどの植物油脂以外の配合成分は、より深いコクを出すために配合される』と主張しているように、これらがコクに大きな影響を与えることは明らかであり、本件特許明細書の表1の効果は、いずれもこれらのコクの影響を多分に受けていると考えられます。従いまして、油脂の量を減らしたことによるコクの変化についても、その影響を強く受けることが容易に推測され、油脂の減少に伴うコクの減少分がこれらによって補われていることも容易に推測されます。・・・これらの植物油脂以外の配合成分が存在しなければ、表1とは全く異なる評価結果になることが予測できますので、この結果を本件訂正発明の範囲にまで一般化・抽象化できるとは到底認められません。」(同16ページ)と主張する。
この点については、参考例(基準となるもの)の油脂含有量50重量%、アンチョビソース4、酵素分解チーズ1を含有し、粘度5400、平均粒子径12.2、コクの強さ値2.76、コクの評価「0」であるものと、実施例1の油脂含有量40重量%、アンチョビソース4、酵素分解チーズ1を含有し、粘度5300、平均粒子径7.0、コクの強さ値2.72、コクの評価「0」であるものとを比較すると、油脂含有量を減らしても、平均粒子径を調整し、コクの強さ値を同程度とすれば、コクの評価も同程度となっている。このことを踏まえると、アンチョビソースや、酵素分解チーズを乳化液状ドレッシングに含むことを特定しなければならないというものではない。
(カ)以上のとおりであるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法第36条第6項第1号の要件を満さないものではない。
エ 理由エ(第29条第1項第3号)について
(ア) 甲第1号証を主引用例として
a. 引用文献
(a) 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
「本発明は、乳化型ドレッシングの新規製造方法に関するものである。」(公報1ページ左欄9?10行)
「発酵乳を用いた乳化型ドレッシングに対して、食用油脂を配合しても、あるいはまた、更に食酢を配合しても、その含有発酵乳由来の特有のさわやかな風味の低減が比較的認め難いもの、即ちこれらを配合して作られた従来のものに比べてこの風味が一段と高まったものへの要望がある。
本発明は、このような要望がかなった乳化型ドレッシングを製造する方法を提供することを目的とする。」(公報1ページ右欄下から4行?2ページ左上欄6行)
「例 1
下記の表1に示した配合割合の原料を用いて以下の通りにして乳化型ドレッシングを製造した。
まず、大豆サラダ油を除いた全原料をミキサーで充分に混合したのちここに大豆サラダ油を撹絆しながら注入し、更に充分に混合した。
こうして得られたドレッシングはオンレータ一により65℃×3分間の条件下で殺菌処理して製品とした。」(公報3ページ右上欄1?9行)
「例 2
下記の表2に示した配合割合の原料を用い、製造手順は上記例1にすべて準じて乳化型ドレッシングを製造した。
表 2
配 合 原 料 配合割合(%)
ヨーグルト(市販品) 32.0
大豆サラダ油 40.0
食酢(酸度10%の米酢) 6.0
卵黄液 1.0
食塩 2.0
砂糖 4.0
キサンタンガム 0.2
発酵乳酸 1.0
(C_(3)H_(6)0_(3)として
85%含量の市販品)
清 水 残 部
100.0」(公報3ページ左下欄1?18行)
(b) 甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
「<実施例1?3および比較例1?6>
第1表に示す砂糖、キサンタンガム、タマリンド種子ガムをよく混合し、加塩卵黄、デカグリセリンモノステアレートを溶解した水に分散・溶解した。食塩を溶解した食酢を加え、さらにトマトケチャツプを加えて水相部とした。上記水相部をTKホモミキサーにて攪拌しながら、大豆サラダ油を滴下し、全量投入後さらに7000rpmにて10分間、攪拌を続け、乳化液状ドレッシングを調製した。」(公報2ページ右下欄10?19行)
(c) 甲第11号証には、以下の事項が記載されている。
「【0007】本発明において、粒入りチーズドレッシングの構成成分の一つである「酵素処理チーズ」とは、チーズをプロテアーゼ等の蛋白質分解酵素で処理し、清水に可溶性とした液状乃至ペースト状の物質をいう。酵素処理チーズの名称で市販されているので、これを用いればよい。酵素処理チーズは粒入りチーズドレッシングにチーズ本来の味を付けるために用いるものであり、製品に対して0.3?1%程度配合するのが適当である。少な過ぎるとドレッシングにチーズの味が付けられなくなる傾向にあり、また多過ぎるとチーズ風味の強すぎるドレッシングになってしまうからである。」
(d) 甲第12号証には、以下の事項が記載されている。
「〔実施例〕
次に実施例及び比較例で本発明を更に詳細に説明する。
実施例1?5及び比較例1?4
下記第1表に記載の配合組成に従って、先ず、所定量の水に、粉末チーズ又は酵素処理チーズ、食酢、食塩、上白糖、グルタミン酸ナトリウム、ラクトアルブミン及びポリグリセリンエステルを混合溶解して水相を調製する。次に、水相をゆるやかに攪拌しながら、一部の油脂に糊化澱粉及びキサンタンガムを分散させたものを添加し、更によく攪拌しながら残りの油脂を添加し、水中油型予備乳化物を得る。得られた水中油型予備乳化物を日本精機製コロイドミルにかけて仕上乳化を行い、マヨネーズ様のチーズ含有酸味性水中油型乳化食品を得る。」(公報3ページ左下欄5?20行)
(e) 甲第13号証には、以下の事項が記載されている。
「【0020】
【実施例】以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において部は重量部である。
(実施例1?2、比較例1)表1に示す配合により、食用油脂にポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン飽和脂肪酸モノエステル、グリセリン不飽和脂肪酸モノエステル、及び蔗糖不飽和脂肪酸ポリエステルを加えて混合し、70℃まで加温、溶解したものを油相とした。一方、水に食塩、酵素処理チーズとチーズパウダーの混合物、デキストリンを加え、十分混合・懸濁し、水相とした。油相中に水相を徐々に加えて油中水型に乳化した後冷却して本発明のレトルト食品に添加するための油中水型乳化油脂組成物を得た。また、比較例1として乳化剤を用いずに混合物を同様に調製した。」
(f) 甲第14号証には、以下の事項が記載されている。
「実施例3
中性水相 食 塩 2.0重量部
砂 糖 1.5
グルタミン酸ナトリウム 0.2重量部
脱脂粉乳 1.9
水 42.8
油 相 コーンサラダ油 45.0
キサンタンガム 0.6
酸性水相 リンゴ酸(酸度8%) 5.5
辛子粉 0.5
上記組成のドレツシングを製造するにあたり全原料100kg中、水相48.4kgを40?50℃で羽根式攪拌機で攪拌混合溶解し、70?80℃で20分間殺菌をする。次に70?80℃で殺菌した油相45.6kgを羽根式攪拌機を回転しながら3分間で添加し、粗い水中油型乳化物をつくり、ホモゲナイザ-(圧力150kg/cm^(2))で均質化後、脱気(65cmHg)しながら酸性水相6kgを添加し、20分攪拌してドレツシングを製造した。
当該ドレツシングは、加熱分離油が極めて少なく造花性良好であつてベーキング評価も良好であつた。」(公報4ページ右上欄下から3行?左下欄末行)
b. 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、乳化型ドレッシングとして、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「配合原料として、
ヨーグルト(市販品)32.0%、大豆サラダ油40.0%、食酢(酸度10%の米酢)6.0%、卵黄液1.0%、食塩2.0%、砂糖4.0%、キサンタンガム0.2%、発酵乳酸(C_(3)H_(6)0_(3)として85%含量の市販品)1.0%、清水を残部とした、
乳化型ドレッシング。」
また、以下の方法発明(以下「甲1方法発明」という。)も認識することができる。
<甲1方法発明>
「ヨーグルト(市販品)32.0%、食酢(酸度10%の米酢)6.0%、卵黄液1.0%、食塩2.0%、砂糖4.0%、キサンタンガム0.2%、発酵乳酸(C_(3)H_(6)0_(3)として85%含量の市販品)1.0%、清水をミキサーで混合した後、大豆サラダ油40.0%を撹拌しながら注入し、混合して、殺菌処理する、乳化型ドレッシングの製造方法。」
c. 対比・判断
(a) 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「油脂を40重量%以上かつ50重量%未満含有し、キサンタンガムを含有し、乳化剤として卵黄を含有する乳化液状ドレッシングであって、油脂が植物油脂を含む、乳化液状ドレッシング。」
(相違点1)
本件発明1は、「粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5を満たし」ているのに対して、甲1発明は、各数値について特定されていない点。
(相違点2)
本件発明1は、「乳化液状ドレッシング」について、「但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。」とされているのに対して、甲1発明は、「配合原料として、ヨーグルト(市販品)32.0%、大豆サラダ油40.0%、食酢(酸度10%の米酢)6.0%、卵黄液1.0%、食塩2.0%、砂糖4.0%、キサンタンガム0.2%、発酵乳酸(C_(3)H_(6)0_(3)として85%含量の市販品)1.0%、清水を残部とした、乳化型ドレッシング。」である点。
事案に鑑み、まず相違点2について、検討する。
本件発明1は、本件訂正により、「前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシング」を除くものとなった。
そうすると、本件発明1は、甲1発明の「配合原料として、ヨーグルト(市販品)32.0%、大豆サラダ油40.0%、食酢(酸度10%の米酢)6.0%、卵黄液1.0%、食塩2.0%、砂糖4.0%、キサンタンガム0.2%、発酵乳酸(C_(3)H_(6)0_(3)として85%含量の市販品)1.0%、清水を残部とした、乳化型ドレッシング。」を含むものを除いており、相違点2は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(b) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を更に限定した発明であるから、同様に、甲1発明であるとはいえない。
(c)本件発明3について
本件発明3と甲1方法発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「乳化液状ドレッシングの製造方法であって、
1)油脂含量が40重量%以上かつ50重量%未満となるように、キサンタンガム及び乳化剤として卵黄を含む水相原料と、植物油脂を含む油相原料とを提供する工程、および
2)該水相原料と該油相原料とを乳化させる工程
を含む、方法。」
(相違点3)
本件発明3は、「粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5
を満たす」としているのに対して、甲1方法発明は、各数値の特定はしていない点。
(相違点4)
本件発明3は、「2)の乳化工程を、脱気をしながら行うこと」としているのに対して、甲1方法発明は、そのような特定をしていない点。
(相違点5)
本件発明3は、「乳化液状ドレッシング」について、「但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。」とされているのに対して、甲1方法発明は、「配合原料として、ヨーグルト(市販品)32.0%、大豆サラダ油40.0%、食酢(酸度10%の米酢)6.0%、卵黄液1.0%、食塩2.0%、砂糖4.0%、キサンタンガム0.2%、発酵乳酸(C_(3)H_(6)0_(3)として85%含量の市販品)1.0%、清水を残部とした、乳化型ドレッシング。」である点。
事案に鑑み、まず相違点5について、検討する。
本件発明3は、本件訂正により、「前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシング」を除くものとなった。
そうすると、本件発明3は、乳化型ドレッシングから甲1方法発明の「配合原料として、ヨーグルト(市販品)32.0%、大豆サラダ油40.0%、食酢(酸度10%の米酢)6.0%、卵黄液1.0%、食塩2.0%、砂糖4.0%、キサンタンガム0.2%、発酵乳酸(C_(3)H_(6)0_(3)として85%含量の市販品)1.0%、清水を残部とした、乳化型ドレッシング。」を含むものを除いており、相違点5は実質的な相違点である。
したがって、本件発明3は、甲1方法発明であるとはいえない。
(d)本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を更に限定した発明であるから、同様に、甲1方法発明であるとはいえない。
(e)以上のとおりであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
オ 理由オ(第29条第2項)について
引用文献の記載事項、引用発明、本件発明と引用発明との一致点・相違点については、上記「エ 理由エ(第29条第1項第3号)について」で述べたと同様である。
(ア) 本件発明1について
上記相違点1について、以下に検討する。
甲1発明の課題は、「発酵乳を用いた乳化型ドレッシングに対して、食用油脂を配合しても、あるいはまた、更に食酢を配合しても、その含有発酵乳由来の特有のさわやかな風味の低減が比較的認め難いもの、即ちこれらを配合して作られた従来のものに比べてこの風味が一段と高まったもの」(公報1ページ右欄下から4行?2ページ左上欄3行)を提供することと認められる。
そうすると、甲1発明は、乳酸に着目することはあっても、コクに着目するところはなく、さらに、十分なコクを得るために、「粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5を満た」すとして、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)の関係から油脂の比表面積を特定することについて記載するところもない。
また、他の甲第2号証?甲第17号証にも、十分なコクを得るために、「粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5を満た」すことについて記載するところはない。
そうすると、本件発明1とは解決しようとするする課題も異なり、コクについて言及するところのない、特定のドレッシングについての発明である甲1発明において、当業者といえども、相違点1に係る本件発明1の特定事項を採用することが容易に想到し得たとすることはできない。
さらに、本件発明1が除いている甲1発明において、その組成を変更することの動機付けはないし、仮に、各組成を変更したとしても、「油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5を満た」すものとすることが、当業者にとって容易に想到し得たとすることはできない。
よって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲第1号証?甲第17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を更に限定した発明であるから、同様に、甲1発明及び甲第1号証?甲第17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ) 本件発明3について
本件発明3と甲1方法発明との相違点3についての判断は、上記相違点1についてと同様である。
そうすると、本件発明3とは解決しようとするする課題も異なり、コクについて言及するところのない、特定のドレッシングについての発明である甲1方法発明において、当業者といえども、相違点3に係る本件発明3の特定事項を採用することが容易に想到し得たとすることはできない。
よって、本件発明3は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1方法発明及び甲第1号証?甲第17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を更に限定した発明であるから、同様に、甲1方法発明及び甲第1号証?甲第17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 申立人は、「本件訂正に基づく新たな明確性要件違反の取消理由(取消理由6)について」として、「単に『食酢』、『発酵乳酸』のように規定するのみでは、具体的にどのようなものを指しているのか(甲1の『酸度10%の米酢』ないし『C_(3)H_(6)O_(3)』として85%含量の市販品』と同一であるのか否か)判断のしようもなく、第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確であると言えます。」(同じく17ページ)と主張する。
この点について検討するに、本件発明が除く範囲として特定している事項は、「但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。」とするものであり、文言上、不明確とするところはなく、甲1発明及び甲1方法発明が特定する「配合原料として、ヨーグルト(市販品)32.0%、大豆サラダ油40.0%、食酢(酸度10%の米酢)6.0%、卵黄液1.0%、食塩2.0%、砂糖4.0%、キサンタンガム0.2%、発酵乳酸(C_(3)H_(6)0_(3)として85%含量の市販品)1.0%、清水を残部とした、乳化型ドレッシング。」との特定事項を含む、「前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシング」が除かれていることは、明らかである。
(オ)以上のとおりであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を40重量%以上かつ50重量%未満含有し、キサンタンガムを含有し、乳化剤として卵黄を含有する乳化液状ドレッシングであって、粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5
を満たし、油脂が植物油脂を含むことを特徴とする、乳化液状ドレッシング。但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。
【請求項2】
酵素分解チーズをさらに含有する、請求項1記載の乳化液状ドレッシング。
【請求項3】
粘度が5300?6000mPa・sであり、乳化粒子の平均粒子径が3?10μmであり、油脂含量をO(重量%)、粘度をV(mPa・s)、油脂の比表面積をS(m^(2)/kg)としたときに、下記式:
2.50×10^(-2)×O+1.74×10^(-4)×V+2.09×10^(-3)×S=2.5?5
を満たす、乳化液状ドレッシングの製造方法であって、
1)油脂含量が40重量%以上かつ50重量%未満となるように、キサンタンガム及び乳化剤として卵黄を含む水相原料と、植物油脂を含む油相原料とを提供する工程、および
2)該水相原料と該油相原料とを乳化させる工程
を含み、かつ2)の乳化工程を、脱気をしながら行うことを特徴とする、方法。但し、前記乳化液状ドレッシングは、ドレッシング100重量%に対して、ヨーグルトを32.0重量%、大豆サラダ油を40.0重量%、食酢を6.0重量%、卵黄液を1.0重量%、食塩を2.0重量%、砂糖を4.0重量%、キサンタンガムを0.2重量%、発酵乳酸を1.0重量%を含み、かつ残部が清水である乳化液状ドレッシングではない。
【請求項4】
水相原料に酵素分解チーズを配合させることを含む、請求項3記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-12 
出願番号 特願2012-2622(P2012-2622)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅原 洋平上村 直子  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 山崎 勝司
槙原 進
登録日 2018-06-01 
登録番号 特許第6345907号(P6345907)
権利者 味の素株式会社
発明の名称 ドレッシング  
代理人 高島 一  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 戸崎 富哉  
代理人 戸崎 富哉  
代理人 當麻 博文  
代理人 中 正道  
代理人 赤井 厚子  
代理人 土井 京子  
代理人 中 正道  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 當麻 博文  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 土井 京子  
代理人 赤井 厚子  
代理人 高島 一  

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