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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01F
管理番号 1356813
異議申立番号 異議2018-700498  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-19 
確定日 2019-09-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6250125号発明「電子部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6250125号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4、8、9〕、〔3、5-7、10-20〕について訂正することを認める。 特許第6250125号の請求項7、10、12、13、15、18、20に係る特許を取り消す。 同請求項1、3、5、6、8、9、11、14、16、17、19に係る特許を維持する。 同請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6250125号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成23年8月25日に出願した特願2011-183442号の一部を平成28年10月27日に新たな特許出願としたものであって、平成29年12月1日付けでその特許権の設定登録がなされ、同年12月20日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものである。
そして、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
平成30年 6月19日 特許異議申立人 小林 瞳による請求項1
ないし9に係る特許に対する特許異議の申
立て
平成30年 8月20日付け 取消理由通知書
平成30年10月18日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提

平成30年12月25日 特許異議申立人による意見書の提出
平成31年 3月 4日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年 5月 7日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提

令和 1年 6月20日 特許異議申立人による意見書の提出

なお、先にした平成30年10月18日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1.訂正の内容
令和1年5月7日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正部分を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分である
ことを特徴とする電子部品。」
とあるのを、
「多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は、金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有することにより、該金属粉間に空孔が存在する軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、
前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料である
ことを特徴とする電子部品。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項8も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、
前記電子部品の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする請求項1記載の電子部品。」
とあるのを、請求項1を引用しない独立形式に改め、
「多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、
前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、
前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする電子部品。」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項2又は3記載の電子部品。」
とあるのを、請求項2を引用する部分を削除し、
「前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項3記載の電子部品。」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に
「前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項2又は3記載の電子部品。」
とあるのを、請求項2を引用する部分を削除し、
「前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項3記載の電子部品。」
に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に
「前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とす請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品。」
とあるのを、請求項2乃至6を引用する部分を削除するとともに、請求項1を引用する部分を書き下し、
「多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、
前記基体は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とする電子部品。」
に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に
「前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とす請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品。」
とあるうち、請求項2を引用するものについて、訂正後の請求項7を引用して、
「前記浸透防止材料は、所定の成分を有するガラス材料であって、
前記基体の表層に、前記ガラス材料を含浸又はコーティングし、さらに、所定の温度で焼き付け処理が行われたものであることを特徴とする請求項7記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項10とする。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7に
「前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とす請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品。」
とあるうち、請求項3を引用するものについて、訂正後の請求項7を引用して、
「前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、
前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする請求項7記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項11とする。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7に
「前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とす請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品。」
とあるうち、請求項4を引用するものについて、訂正後の請求項10を引用して、
「前記電極は、前記電極材料もしくは前記電極材料と前記電極接合材料を焼成処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項10記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項12とする。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項7に
「前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とす請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品。」
とあるうち、請求項2を引用する請求項5を引用するものについて、訂正後の請求項10を引用して、
「前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項10記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項13とする。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項7に
「前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とす請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品。」
とあるうち、請求項3を引用する請求項5を引用するものについて、訂正後の請求項11を引用して、
「前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項11記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項14とする。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項7に
「前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とす請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品。」
とあるうち、請求項2を引用する請求項6を引用するものについて、訂正後の請求項10を引用して、
「前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項10記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項15とする。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項7に
「前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とす請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品。」
とあるうち、請求項3を引用する請求項6を引用するものについて、訂正後の請求項11を引用して、
「前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項11記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項16とする。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項8に
「前記電子部品は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電子部品。」
とあるのを、訂正前の請求項2乃至7を引用する部分を削除し、
「前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項1記載の電子部品。」
に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する)。
(なお、令和1年5月7日付け訂正請求書の8頁の「ソ 訂正事項15」では、「・・訂正前の請求項2乃至6を引用する部分を削除し・・」と記載されているが、上記のとおり「・・訂正前の請求項2乃至7を引用する部分を削除し・・」の誤記であると認められる。)

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項8に
「前記電子部品は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電子部品。」
とあるうち、請求項3、請求項3を引用する請求項5(訂正後の請求項5に相当)、請求項3を引用する請求項6(訂正後の請求項6に相当)、請求項3を引用する請求項7(訂正後の請求項11に相当)、請求項3を引用する請求項5を引用する請求項7(訂正後の請求項14に相当)、及び請求項3を引用する請求項6を引用する請求項7(訂正後の請求項16に相当)を引用するものについて、訂正後の請求項3、5、6、11、14、16を引用して、
「前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項3、5、6、11、14、16のいずれかに記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項17とする。

(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項8に
「前記電子部品は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電子部品。」
とあるうち、請求項1を引用する請求項7(訂正後の請求項7に相当)、請求項2を引用する請求項7(訂正後の請求項10に相当)、請求項4を引用する請求項7(訂正後の請求項12に相当)、請求項2を引用する請求項5を引用する請求項7(訂正後の請求項13に相当)、及び請求項2を引用する請求項6を引用する請求項7(訂正後の請求項15に相当)を引用するものについて、訂正後の請求項7、10、12、13、15を引用して、
「前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項7、10、12、13、15のいずれかに記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項18とする。

(18)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項9に
「前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項8記載の電子部品。」
とあるうち、請求項3を引用する請求項8、請求項3を引用する請求項5(訂正後の請求項5に相当)を引用する請求項8、請求項3を引用する請求項6(訂正後の請求項6に相当)を引用する請求項8、請求項3を引用する請求項7(訂正後の請求項11に相当)を引用する請求項8、請求項3を引用する請求項5を引用する請求項7(訂正後の請求項14に相当)を引用する請求項8、及び請求項3を引用する請求項6を引用する請求項7(訂正後の請求項16に相当)を引用する請求項8を引用するものについて、訂正後の請求項17を引用して、
「前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項17記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項19とする。

(19)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項9に
「前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項8記載の電子部品。」
とあるうち、請求項1を引用する請求項7(訂正後の請求項7に相当)を引用する請求項8、請求項2を引用する請求項7(訂正後の請求項10に相当)を引用する請求項8、請求項4を引用する請求項7(訂正後の請求項12に相当)を引用する請求項8、請求項2を引用する請求項5を引用する請求項7(訂正後の請求項13に相当)を引用する請求項8、及び請求項2を引用する請求項6を引用する請求項7(訂正後の請求項15に相当)を引用する請求項8を引用するものについて、訂正後の請求項18を引用して、
「前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項18記載の電子部品。」
と記載し、新たに請求項20とする。

(20)訂正事項20
明細書の段落【0005】に「前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であることを特徴とする。」とあるのを、
「前記多孔質の基体は、金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有することにより、該金属粉間に空孔が存在する軟磁性合金の粒子からなり、前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であることを特徴とする。」に訂正する。

(21)訂正事項21
明細書の段落【0006】、【0008】をそれぞれ削除する。

(22)訂正事項22
明細書の段落【0007】に
「請求項3記載の発明は、請求項1記載の電子部品において、前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、前記電子部品の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする。」
とあるのを、
「請求項3記載の発明は、多孔質の基体を有する電子部品であって、前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする。」
に訂正する。

(23)訂正事項23
明細書の段落【0009】、【0010】にそれぞれ「請求項2又は3記載の電子部品において、」とあるのを、「請求項3記載の電子部品において、」に訂正する。

(24)訂正事項24
明細書の段落【0011】に
「請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品において、前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とする。」
とあるのを、
「請求項7記載の発明は、多孔質の基体を有する電子部品であって、前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、前記基体は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とする。」
に訂正する。

(25)訂正事項25
明細書の段落【0012】に「請求項8記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の電子部品において、前記電子部品は、」とあるのを、「請求項8記載の発明は、請求項1記載の電子部品において、前記基体は、」に訂正する。

2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし9について、請求項2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし9に対応する訂正後の請求項1ないし20は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明における、
(a)軟磁性合金の粒子からなる「多孔質の基体」について、「金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有することにより、該金属粉間に空孔が存在する」ことの限定を付加し、
(b)「浸透防止材料」について、「所定の成分を有する樹脂材料である」ことの限定を付加するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

そして、上記(a)の点に関して、本件特許明細書の例えば段落【0040】には、「・・本実施形態に係る基体においては、金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有しているため、基体表面から内部にかけて略同様に、金属粉間に比較的大きな空孔が存在する。・・」と記載され、また上記(b)の点に関して、本件特許明細書の例えば段落【0050】には、「・・電極形成前に、基体にガラス又は樹脂材料を含浸又はコーティングし、焼き付け又は硬化させる下地処理を施すことにより、ガラスや樹脂材料が多孔質の基体の空孔部分に浸透して充填されるため、基体の表面又は表層の多孔質性が改善される。これにより、電極形成時に電極材料や接着剤(電極接合材料)等が基体に浸透してしまい、基体と電極の接合性や密着性が低下することを抑制することができる・・」と記載されていることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1は上述のとおり、訂正前の請求項1に係る発明における、軟磁性合金の粒子からなる「多孔質の基体」、及び「浸透防止材料」についてそれぞれ限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるとともに、「前記電子部品の表層に、」との記載を「前記基体の表層に、」と訂正することにより不明瞭さを正し、訂正後の請求項3に係る発明を明確なものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項3は上述のとおり、独立形式の請求項へ改めるとともに、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

エ.訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

オ.訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項2又は3を引用する記載であったものを、請求項2の引用を削除し、請求項3のみを引用する記載として引用請求項を減少させたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

そして、訂正事項5は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

カ.訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項6が請求項2又は3を引用する記載であったものを、請求項2の引用を削除し、請求項3のみを引用する記載として引用請求項を減少させたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

そして、訂正事項6は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

キ.訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項2ないし6の引用を削除するとともに、請求項1を引用する部分について、請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項へ改め、さらに、訂正前の請求項7における「前記電子部品は、」との記載を「前記基体は、」と訂正することにより不明瞭さを正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項7は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに独立形式の請求項へ改め、さらに、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ク.訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1、3ないし6の引用を削除するとともに、請求項2を引用する部分について、請求項間の引用関係を解消して訂正後の請求項7を引用する形式の請求項に改め、さらに、訂正前の請求項2における「前記電子部品の表層に、」との記載を「前記基体の表層に、」と訂正することにより不明瞭さを正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項8は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項7を引用する形式の請求項へ改め、さらに、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ケ.訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1、2、4ないし6の引用を削除するとともに、請求項3を引用する部分について、請求項間の引用関係を解消して訂正後の請求項7を引用する形式の請求項に改め、さらに、訂正前の請求項3における「前記電子部品の表層に、」との記載を「前記基体の表層に、」と訂正することにより不明瞭さを正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項9は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項7を引用する形式の請求項へ改め、さらに、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

コ.訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1ないし3、5、6の引用を削除するとともに、請求項4を引用する部分について、請求項間の引用関係を解消して訂正後の請求項10を引用する形式の請求項に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項10は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項10を引用する形式の請求項へ改めたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

サ.訂正事項11について
訂正事項11は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1ないし4、6の引用を削除するとともに、請求項2を引用する請求項5を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して訂正後の請求項10を引用する形式の請求項に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項11は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項10を引用する形式の請求項へ改めたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

シ.訂正事項12について
訂正事項12は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1ないし4、6の引用を削除するとともに、請求項3を引用する請求項5を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して訂正後の請求項11を引用する形式の請求項に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項12は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項11を引用する形式の請求項へ改めたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ス.訂正事項13について
訂正事項13は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1ないし5の引用を削除するとともに、請求項2を引用する請求項6を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して訂正後の請求項10を引用する形式の請求項に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項13は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項10を引用する形式の請求項へ改めたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

セ.訂正事項14について
訂正事項14は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1ないし5の引用を削除するとともに、請求項3を引用する請求項6を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して訂正後の請求項11を引用する形式の請求項に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項14は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項11を引用する形式の請求項へ改めたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ソ.訂正事項15について
訂正事項15は、訂正前の請求項8が請求項1ないし7のいずれかを引用する記載であったものを、請求項2ないし7の引用を削除し、引用請求項を減少させるとともに、訂正前の請求項8における「前記電子部品は、」との記載を「前記基体は、」と訂正することにより不明瞭さを正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

そして、訂正事項15は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

タ.訂正事項16について
訂正事項16は、訂正前の請求項8が請求項1ないし7のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1、2、4の引用を削除するとともに、請求項3を直接又は間接的に引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して訂正後の請求項3、5、6、11、14、16を引用する形式の請求項に改め、さらに、訂正前の請求項8における「前記電子部品は、」との記載を「前記基体は、」と訂正することにより不明瞭さを正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項16は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項3、5、6、11、14、16を引用する形式の請求項へ改め、さらに、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

チ.訂正事項17について
訂正事項17は、訂正前の請求項8が請求項1ないし7のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1ないし6の引用を削除するとともに、請求項1を引用する請求項7、請求項2を引用する請求項7、請求項4を引用する請求項7、請求項2を引用する請求項5を引用する請求項7、及び請求項2を引用する請求項6を引用する請求項7を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して訂正後の請求項7、10、12、13、15を引用する形式の請求項に改め、さらに、訂正前の請求項8における「前記電子部品は、」との記載を「前記基体は、」と訂正することにより不明瞭さを正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

そして、訂正事項17は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項7、10、12、13、15を引用する形式の請求項へ改め、さらに、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ツ.訂正事項18について
訂正事項18は、訂正前の請求項9が請求項8を引用する記載であったところ、上記訂正事項15ないし17による請求項8の訂正に伴い、請求項3を直接又は間接的に引用する請求項8を引用するものについて、訂正後の請求項17を引用する形式の請求項に改め、実質的に引用請求項を減少させたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

そして、訂正事項18は上述のとおり、実質的に引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項17を引用する形式の請求項へ改めたものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

テ.訂正事項19について
訂正事項19は、訂正前の請求項9が請求項8を引用する記載であったところ、上記訂正事項15ないし17による請求項8の訂正に伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項8、請求項2を引用する請求項7を引用する請求項8、請求項4を引用する請求項7を引用する請求項8、請求項2を引用する請求項5を引用する請求項7を引用する請求項8、及び請求項2を引用する請求項6を引用する請求項7を引用する請求項8を引用するものについて、訂正後の請求項18を引用する形式の請求項に改め、実質的に引用請求項を減少させたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

そして、訂正事項19は上述のとおり、実質的に引用する請求項の一部を削除するとともに訂正後の請求項18を引用する形式の請求項へ改めたものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ト.訂正事項20について
訂正事項20は、上記訂正事項1による訂正に伴い、特許請求の範囲(請求項1)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

そして、訂正事項17は上述のとおり、特許請求の範囲(請求項1)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであって、上記訂正事項1と同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ナ.訂正事項21について
訂正事項21は、上記訂正事項2、4による訂正に伴い、特許請求の範囲(請求項2、4)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

そして、訂正事項21は上述のとおり、特許請求の範囲(請求項2、4)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであって、上記訂正事項2、4と同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ニ.訂正事項22について
訂正事項22は、上記訂正事項3による訂正に伴い、特許請求の範囲(請求項3)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

そして、訂正事項22は上述のとおり、特許請求の範囲(請求項3)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであって、上記訂正事項3と同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ヌ.訂正事項23について
訂正事項23は、上記訂正事項5、6による訂正に伴い、特許請求の範囲(請求項5、6)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

そして、訂正事項23は上述のとおり、特許請求の範囲(請求項5、6)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであって、上記訂正事項5、6と同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ネ.訂正事項24について
訂正事項24は、上記訂正事項7による訂正に伴い、特許請求の範囲(請求項7)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

そして、訂正事項24は上述のとおり、特許請求の範囲(請求項7)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであって、上記訂正事項8と同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ノ.訂正事項25について
訂正事項25は、上記訂正事項15による訂正に伴い、特許請求の範囲(請求項8)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

そして、訂正事項25は上述のとおり、特許請求の範囲(請求項8)の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであって、上記訂正事項14と同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正事項1、2、4ないし19については、「特許請求の範囲の減縮」を目的として含むものであるが、本件においては、訂正前の請求項1ないし9の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1、2、4ないし9に係る訂正事項1、2、4ないし19に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。そして、特許権者から、訂正後の請求項3、5?7、10?20について訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項〔1、2、4、8、9〕、〔3、5-7、10-20〕について一群の請求項ごとに訂正することを認める。
(なお、令和1年5月7日付け訂正請求書の37頁の「ウ 別の訂正単位とする求め」では、「訂正後の請求項3、7、10?16、17、18、19、20については・・」と記載されているが、訂正後の請求項5及び請求項6は請求項3を引用するものであることから、上記のとおり「・・訂正後の請求項3、5?7、10?20については・・」の誤記であると認められる。)

第3 当審の判断

1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし20に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明20」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は、金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有することにより、該金属粉間に空孔が存在する軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、
前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料である
ことを特徴とする電子部品。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、
前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、
前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする電子部品。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項3記載の電子部品。
【請求項6】
前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項3記載の電子部品。
【請求項7】
多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、
前記基体は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とする電子部品。
【請求項8】
前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項1記載の電子部品。
【請求項9】
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項8記載の電子部品。
【請求項10】
前記浸透防止材料は、所定の成分を有するガラス材料であって、
前記基体の表層に、前記ガラス材料を含浸又はコーティングし、さらに、所定の温度で焼き付け処理が行われたものであることを特徴とする請求項7記載の電子部品。
【請求項11】
前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、
前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする請求項7記載の電子部品。
【請求項12】
前記電極は、前記電極材料もしくは前記電極材料と前記電極接合材料を焼成処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項10記載の電子部品。
【請求項13】
前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項10記載の電子部品。
【請求項14】
前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項11記載の電子部品。
【請求項15】
前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項10記載の電子部品。
【請求項16】
前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項11記載の電子部品。
【請求項17】
前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項3、5、6、11、14、16のいずれかに記載の電子部品。
【請求項18】
前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項7、10、12、13、15のいずれかに記載の電子部品。
【請求項19】
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項17記載の電子部品。
【請求項20】
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項18記載の電子部品。」

2.取消理由通知(決定の予告)等に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
平成31年3月4日付け取消理由通知(決定の予告)等で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1-1)特許法第29条第2項
本件請求項1、2、4、5、7、12、14、15に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明及び周知の技術事項(引用例2や引用例3に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
本件請求項6、16に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明、引用例4に記載の技術事項及び周知の技術事項(引用例2や引用例3に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
本件請求項8、17に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて、または下記の引用例1に記載された発明及び引用例2?4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件請求項9、18に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明及び引用例3に記載の技術事項に基づいて、または下記の引用例1に記載された発明及び引用例3,4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1、2、4ないし9、12、14ないし18に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

引用例1:特開2011-14730号公報(甲第1号証)
引用例2:特開2001-11563号公報(甲第2号証)
引用例3:特開2008-195986号公報(甲第3号証)
引用例4:実願昭58-116053号(実開昭60-25114号)
のマイクロフィルム(甲第4号証)

(1-2)特許法第36条第6項第2号
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

ア.請求項2において、「前記電子部品の表層に、前記ガラス材料を含浸又はコーティングし、さらに、所定の温度で焼き付け処理が行われたものである・・」と記載されているが、引用する請求項1によれば、「電子部品」は、基体の表層に浸透防止材料、すなわちガラス材料を含浸又はコーティングし、その含浸又はコーティングした基体の表面に電極を形成した構成を有しているものであるから、請求項2の上記記載によれば、既に電極まで形成した電子部品の表層にさらにガラス材料を含浸又はコーティングして焼き付け処理が行われるものであるかのようにも解され、不明確である。
よって、請求項2及び請求項2に従属する請求項4?9に係る発明は明確なものでない。
イ.請求項3において、「前記電子部品の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものである・・」と記載されているが、かかる記載についても、上記(1)と同様、既に電極まで形成した電子部品の表層にさらに樹脂材料を含浸又はコーティングして硬化処理が行われるものであるかのようにも解され、不明確である。
よって、請求項3及び請求項3に従属する請求項5?9に係る発明は明確なものでない。
ウ.請求項7において、「前記電子部品は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体である・・」とあるが、「電子部品」を構成するどの部分が、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であるのかが不明確である。
よって、請求項7及び請求項7に従属する請求項8、9に係る発明は明確なものでない。
エ.請求項8において、「前記電子部品は、鉄、ケイ素、及び鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、・・」とあるが、「電子部品」を構成するどの部分が、鉄、ケイ素、及び鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成されてなるものであるのかが不明確である。
よって、請求項8及び請求項8に従属する請求項9に係る発明は明確なものでない。

(2)引用例の記載事項
(2-1)引用例1
引用例1(特開2011-14730号公報、甲第1号証)には、「コイル部品」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
第一接着面を有する第一コアと、
第二接着面を有し該第一接着面と該第二接着面との間に接着剤が介在して該第一コアと接着された第二コアと、
該第一コアに巻回された巻線と、
該第一コアと該第二コアとの少なくとも一方に装着されて、該巻線の一端及び他端がそれぞれ継線された一対の端子電極と、を有し、
該第一接着面と該第二接着面との少なくとも一方はガラス面から構成されていることを特徴とするコイル部品。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項3】
該第一コアは、該巻線が巻回された巻芯部と、板状をなし該巻芯部の一端に接続された第一鍔部と、板状をなし該巻芯部の他端に接続された第二鍔部とから構成されるドラムコアであり、
該第二コアは、該鍔部の周囲に配置された外装コアであり、
該ドラムコアには、該外装コアと向かい合う第一対向面が規定され、該外装コアには該ドラムコアと向かい合う第二対向面が規定され、該第一対向面と該第二対向面とのいずれか一方若しくは両方には、いずれか他方に当接する突起部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のコイル部品。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項5】
該第一鍔部には、該巻芯部の一端が接続されると共に該第二鍔部と向かい合う第一内面と、該巻芯部の軸方向において該ドラムコアの一端側端面になる第一外面と、該第一内面と該第一外面との間に位置する第一周面とが規定され、
該第二鍔部には該巻芯部の他端が接続されると共に該第一鍔部と向かい合う第二内面と、該巻芯部の軸方向において該ドラムコアの他端側端面になる第二外面と、該第二内面と該第二外面との間に位置する第一周面とが規定され、
該巻芯部には、該第一内面と該第二内面との間に位置する巻芯部周面が規定され、
該ドラムコアは全面にガラス層が施されて該ガラス面を構成し、該第一内面と該第二内面と該巻芯部周面とのガラス層の膜厚は、該第一外面、該第一周面、該第二外面、該第二周面の該ガラス層の膜厚より薄いことを特徴とする請求項3または請求項4のいずれかに記載のコイル部品。」

イ.「【0003】
前述の接着剤としては、エポキシ樹脂系の接着剤が例示される。一般に焼結により製造されるコアは微細な隙間を備えた多孔質であるので、エポキシ樹脂はこの微細な隙間に染み込み、所謂アンカー効果により接着を行っている。」

ウ.「【0008】
この様な構成によると、接着剤がガラス面と接着する。ガラス面は平滑であり、多孔質ではないため、接着剤が浸透することは防がれる。またガラス面を構成するガラスは、一般に接着剤のぬれ性が優れるため、強固な接着状態を得ることができる。またガラス面に接着剤が接着するため、コアの材質に関係なく安定した接着状態を得ることができる。」

エ.「【0022】
以下、本発明の実施の形態に係るコイル部品について、図1から図5に基づき説明する。図1に示されるコイル部品1は、主にドラムコア2と、外装コア3と、巻線6と、電極7とから構成されている。
【0023】
ドラムコア2はマンガンを含む磁気材料、例えばMn-Zn系フェライトを基材としており、図1及び図3に示されるように、略円柱状の巻芯部23と、巻芯部23の中心軸方向両端に同軸に設けられた第一鍔部21及び第二鍔部22とから構成されている。第一鍔部21及び第二鍔部22はそれぞれ同形状に構成されている。」

オ.「【0032】
ドラムコア2にガラス層8をコーティングする際には、図5に示されるように、中央部分にスプレーノズル91を備え、スプレーノズル91を回転軸として回転するバレル9内に複数のドラムコア2を収容する。スプレーノズル91は、微粉体のガラスやバインダ等が懸濁されたガラススラリーを噴霧可能に構成されている。
【0033】
この状態でスプレーノズル91からガラススラリーを噴霧し、ドラムコア2に吹き付け塗装する。ガラススラリーの層をドラムコア2に形成した後に、バレル9内に約70度の乾燥空気を入れてドラムコア2に形成されたガラススラリーの層を乾燥させる。これによりドラムコア2にガラス微粉体の層が形成される。その後にドラムコア2を焼成し、不要なバインダ成分を揮発・燃焼させてガラス粉末を溶融(軟化)させ表面が平滑なガラス層8を構成する。」

カ.「【0038】
電極7は、ガラス層8がドラムコア2に形成された状態で第二鍔部22のガラス層8表面に、銀ペーストを塗布して焼き付けた後にニッケル及びスズのメッキを施すことにより形成されており、図4に示されるように、巻線6の一端側が継線される第一電極71と巻線6の他端側が継線される第二電極72とから構成されている。第一電極71は、第二外面22Bと第二周面22Cの一方の直線部22Dとに跨って配置され、一方の直線部22D位置において巻線6の一端が継線されている。第二電極72は、第二外面22Bと第二周面22Cの他方の直線部22Dとに跨って配置され、他方の直線部22D位置において巻線6の一端が継線されている。電極7がガラス層8表面に設けられることにより、ドラムコア2との間の絶縁性が保たれている。尚、電極7は、ガラス層8形成後に、銅製の金具を第二鍔部22に接着することにより形成されてもよい。」

キ.「【0040】
接着剤10が接着される第一接着面、第二接着面はそれぞれガラス層8の表面であり、ガラス層8は多孔質ではないため、ガラス層8に接着剤10が染み込むことはない。ガラス層8に接着剤10が染み込むことが抑制されているため、アンカー効果による接着力を過度に得ることはできないが、ガラス層8の接着剤10に対するぬれ性が優れるため、接着強度が落ちることはなく、ドラムコア2と第一分割コア4(外装コア3)とを好適に接着することができる。」

・上記引用例1に記載の「コイル部品」は、上記「ア.」の【請求項1】と【請求項3】、「エ.」の記載事項、及び図1、図2、図4によれば、ドラムコア2と、接着剤10を介在してドラムコア2と接着された外装コア3とを有し、ドラムコア2と外装コア3との接着面がガラス面から構成されてなるものである。
・上記「ア.」の【請求項5】、「ウ.」「オ.」、「キ.」の記載事項、及び図3、図5によれば、ドラムコア2と外装コア3との接着面におけるガラス面は、ドラムコア2の全面にガラススラリーを吹き付け塗装してガラススラリーの層を形成し、焼成することによってガラス粉末を溶融(軟化)させてガラス層8でコーティングすることにより構成されるものである。そして、ガラス層8の表面(ガラス面)は、平滑であり多孔質ではないため、接着剤10が浸透することを防ぐことができるものである。
・上記「ア.」の【請求項1】、「カ.」の記載事項、及び図1、図2、図4によれば、ドラムコア2にコーティングされたガラス層8の表面には、一対の電極7が銀ペーストを塗布して焼き付けた後にニッケル及びスズのメッキを施すことにより、または銅製の金具を接着することにより形成されてなるものである。
・上記「エ.」の段落【0023】の記載事項によれば、ドラムコア2は、例えばMn-Zn系フェライトを基材としてなるものである。また、上記「イ.」、「ウ.」、「キ.」の記載事項によれば、表面が平滑なガラス層がコーティングされたドラムコア2は、多孔質であると理解することができる。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「ドラムコアと、接着剤を介在して前記ドラムコアと接着された外装コアとを有するコイル部品であって、
前記ドラムコアの全面は、接着剤が浸透することを防ぐガラス層によりコーティングされ、当該ガラス層は、前記ドラムコアにガラススラリーを吹き付け塗装してガラススラリーの層を形成し、焼成によってガラス粉末を溶融(軟化)させることによって形成されたものであり、
前記ガラス層の表面には、銀ペーストを塗布して焼き付けた後にニッケル及びスズのメッキを施すことにより、または銅製の金具を接着することにより一対の電極が形成され、
前記ドラムコアは、例えばMn-Zn系フェライトを基材とし多孔質である、コイル部品。」

(2-2)引用例2、引用例3、平成30年8月20日付け取消理由通知で提示した特開2011-36007号公報
(2-2-1)引用例2(特開2001-11563号公報、甲第2号証)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】 鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)を主成分とする合金粉末と結着剤からなる混合物を圧縮成形後、酸化性雰囲気中で熱処理したことを特徴とする複合磁性材料の製造方法。」

イ.「【0003】高周波で用いられるチョークコイルとしては、フェライト磁芯や圧粉磁芯が使用されている。これらのうち、フェライト磁芯は飽和磁束密度が小さいという欠点を有している。これに対して、金属磁性粉を成形して作製される圧粉磁芯は、軟磁性フェライトに比べて著しく大きい飽和磁束密度を有しているため小型化に有利であるが、透磁率およびコア損失についてはフェライトより優れているとはいえず、そのためチョークコイルやインダクターに使用するコアでは、コア損失が大きい分コアの温度上昇が大きくなるため、小型化が図りにくいものであった。」

ウ.「【0014】
【発明の実施の形態】本発明の請求項1記載の発明は、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)を主成分とする合金粉末と結着剤からなる混合物を圧縮成形後、酸化性雰囲気中で熱処理したことを特徴とする複合磁性材料の製造方法であり、酸化性雰囲気で熱処理することで圧縮成形時に合金粉末表面の絶縁層が破れたところに酸化層(アルミナ)が形成され合金粉末間の粒子間絶縁が確実になり渦電流損失が低下しコア損失を低減できるとともに個々の合金粉末が確実に絶縁できることで合金粉末間の粒子間距離が均一になり良好な直流重畳特性を実現できる。」

(2-2-2)引用例3(特開2008-195986号公報、甲第3号証)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
エ.「【0002】
近年、モーターコアやトランスコアなどの電気電子部品において高密度化および小型化と、より精密な制御を小電力で行えることが求められている。このため、これらの電気電子部品に使用される軟磁性材料であって、特に中高周波領域において優れた磁気的特性を有する軟磁性材料の開発が進められている。軟磁性金属粉末を用いて作製される圧粉磁心は、従来から使用されていたフェライト磁心よりも高い飽和磁束密度を有しているため電子部品の小型化には有利である。」

オ.「【0015】
本発明により製造した軟磁性金属粉末を用いることにより、圧粉磁心(磁性コア)の渦電流損失とヒステリシス損失の双方を大幅に低減することが可能である。
【0016】
上述の製造方法により絶縁性酸化物を付着させることに加えて、軟磁性金属粉末中に固溶する添加元素であるCrが高温での熱処理により粉末表面へ逆拡散し、粉末表面でCrリッチな酸化物を形成することにより、良好な電気絶縁性が得られる。したがって、従来の絶縁被覆技術と異なり、700℃以上、好ましくは900℃以上の高温焼鈍によっても絶縁被覆が破壊されず、むしろその形成が促進される。」

カ.「【0027】
(実施例1)
Fe-6.5%Si-1%Crからなる組成で、平均粒径が40μmの軟磁性原料粉末500gを、テトラアルコキシシラン(関東化学)/IPA溶液100mLと混合し、プロペラ攪拌機を用いて、3時間攪拌した。その後、軟磁性粉末とテトラアルコキシシラン/IPA溶液を分離し、100℃で1時間乾燥させた。得られた軟磁性粉末に、バインダーとして3%PVA水溶液を0.5wt%、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.3wt%混合した。こうして得られた軟磁性粉末を室温下で1200MPaで圧縮成形し、外径14mm、内径8mm、高さ4.5mmのリング試料を作製し、これを窒素ガス中、1000℃で2時間の熱処理を行った。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0029】
また、リング状試料を樹脂に埋め込み研磨し、その断面の元素分析を行った。実施例1のEPMAによる線分析結果を図1(a)に、比較例1の線分析結果を図1(b)にそれぞれ示す。図1(a)、図1(b)共に、Feの濃度が減少している部分が軟磁性粉末の端部を測定したものであり、その間の測定部分は軟磁性粉末の内部を測定した部分である。軟磁性粉末の端部でFeが減少してCrが多く検出されている。Crのピーク間、即ち粉末内部を示す領域を拡大するとCr濃度に若干の勾配があり、また、Crのピークが見られる位置でOが検出されていることから金属粉末の表面側に濃化したCrが酸化物として存在していると考えられる。・・・・・(以下、略)」

(2-2-3)特開2011-36007号公報には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
キ.「【0003】
圧粉磁心は、軟磁性材料であり、個々の絶縁コーティングされた微小な鉄粉を圧縮成形によって固定子や回転子などの部品形状を形成することができ、珪素鋼板などの鉄板に比べ、三次元の形状が形成できる点が利点であり、モータの小形化に利用される例がある。」

ク.「【0023】
圧粉磁心は、図2に図示のように粒径0.05?0.2mmの鉄粉が1GPa程度の高い圧力によって圧縮成形されて構成される。このため、図1に示すように、圧粉磁心粉001の成形体の表面には、表面キャビティー002と呼ばれる粉と粉の間にできた空隙が存在する構造となる。圧粉磁心は、通常、磁性体として用いるため、圧縮成形時に鉄粉に生じる残留応力を除去するため、歪取り焼鈍処理を行う。通常は500℃近傍の温度での焼鈍となる。実際にはこの温度では、充分な歪除去は困難であるが、鉄粉表面にコーティングされている絶縁膜の耐熱温度が600℃までは対応できないことがこの理由である。500℃近傍の熱処理においては、鉄粉間に拡散結合が発生しないため、圧縮成形された時の鉄粉形状,位置を保持したままになる。このとき、圧粉磁心中に混合されているバインダ,潤滑材などは、熱処理時に消失,揮発する。このため、表面のキャビティーと同様に、鉄粉と鉄粉の間には、内部キャビティー003と呼ばれ微小な隙間が存在する構造となっている。」

上記「ア.」ないし「ク.」の記載事項によれば、周知といえる次の技術事項が記載されている。
「コアの特性向上(特に高飽和磁束密度)のために、コアとして、絶縁被覆された軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を圧縮形成した圧粉磁心を用いること。」
そして、このような軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を用いて形成したコア(圧粉磁心)にあっても、上記「ウ.」、「オ.」、「カ.」の記載事項によれば、金属粉間には絶縁性の酸化層が存在する、つまり、絶縁性の酸化層を介して金属粉同士が結合した構造であり、特に上記「ク.」の記載事項によれば、金属粉間には微小な隙間(キャビティー)が存在し、いわゆる多孔質なもの(上記特開2011-36007号公報の【要約】の記載も参照)であるといえる。

(2-3)引用例4
ア.「実用新案登録請求の範囲
1.フェライトで構成されたつつみ状(ドラム状)コアにコイルを巻装してなるインダクタンスにおいて、該コアの両側の鍔に少なくとも一平坦面を形成し、該平坦面に電極用導電膜を形成したことを特徴とするインダクタンス素子。
・・・・・(中 略)・・・・・
4.前記インダクタンス素子において、電極膜がスパッタリングによって形成された膜である実用新案登録請求の範囲第1項、第2項又は第3項記載のインダクタンス素子。」(1頁4?2頁1行)

イ.「第3図は本案の一例を示す斜視図である。ドラム型(つつみ型)コア11は、その両端に正方形状の鍔13が一体にフェライト材で形成され、かつ所要のコイル12が巻回される中央径小部11bが形成される。そして両鍔13の一辺又は複数辺(側面13a及び底面13b)に電極を形成するため、Au,Cu又はステンレス材等をスパッタリング等により蒸着膜が形成される。」(3頁5?12行)

上記「ア.」、「イ.」の記載事項、及び第3図によれば、引用例4には、次の技術事項が記載されている。
「ドラム状コアの鍔部の底面及び側面に、Au,Cu等をスパッタリング等により蒸着して電極膜を形成するようにしたこと。」

(3)当審の判断
(3-1)特許法第29条第2項
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「ドラムコアと、接着剤を介在して前記ドラムコアと接着された外装コアとを有するコイル部品であって、・・・・ 前記ドラムコアは、例えばMn-Zn系フェライトを基材とし多孔質である、コイル部品。」によれば、
引用発明における「ドラムコア」は、多孔質であることから、本件発明1でいう「多孔質な基体」に相当し、
引用発明における、ドラムコアを有する「コイル部品」は、本件発明1でいう「電子部品」に相当するものである。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「多孔質の基体を有する電子部品」である点で一致する。

(イ)引用発明における「前記ドラムコアの全面は、接着剤が浸透することを防ぐガラス層によりコーティングされ、当該ガラス層は、前記ドラムコアにガラススラリーを吹き付け塗装してガラススラリーの層を形成し、焼成によってガラス粉末を溶融(軟化)させることによって形成されたものであり、」によれば、
引用発明における「ガラス層」は、ドラムコアの表層に接着剤が浸透するのを防ぐためのものであるから、本件発明1でいう「浸透防止材料」に相当する。
また、引用発明における、ガラス層がコーティングされた「ドラムコア」は、多孔質であり、また、ガラス層は、ドラムコアにガラススラリーを吹き付け塗装してガラススラリーの層を形成し、焼成によってガラス粉末を溶融させることによって形成されたものであることを踏まえると、引用発明においても、ガラス層は、少なくともドラムコアの表層の空孔部分に浸透して充填されているものと解される。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されて」いる点で一致するということができる。

(ウ)引用発明における「前記ガラス層の表面には、銀ペーストを塗布して焼き付けた後にニッケル及びスズのメッキを施すことにより、または銅製の金具を接着することにより一対の電極が形成され、」によれば、
引用発明における、一対の「電極」は、ガラス層が形成されたドラムコアの表面に形成されるものであるから、本件発明1でいう「電極」に相当する。

よって、本件発明1と引用発明とは、
「多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していることを特徴とする電子部品。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
多孔質の基体について、本件発明1では、「金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有することにより、該金属粉間に空孔が存在する軟磁性合金の粒子」からなり、その空孔部分が「粒子間」の空孔部分である旨特定するのに対し、引用発明では、例えばMn-Zn系フェライトであり、そのような特定を有していない点。

[相違点2]
浸透防止材料について、本件発明1では、「所定の成分を有する樹脂材料」である旨特定するのに対し、引用発明では、ガラス層である点。

そこで、上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用例1の段落【0045】には「また本実施の形態では、Mn-Zn系フェライトを基材としてドラムコア2及び外装コア3を成型したが、他の材料、・・・であってもよい。・・・・コアの材質に関係なく安定した接着状態を得ることができる。」と記載されているところ、引用例2や引用例3、さらには平成30年8月20日付け取消理由通知で提示した特開2011-36007号公報に記載のように、コアの特性向上(特に高飽和磁束密度)のために、コアとして、絶縁被覆された軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を圧縮形成した圧粉磁心を用いることは周知といえる技術事項である。そして、かかる軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を用いて形成したコア(圧粉磁心)にあっても、絶縁性の酸化層を介して金属粉同士が結合した構造であるとともに、金属粉間には微小な隙間(キャビティー)が存在し、いわゆる多孔質なものであるから、引用発明において上記周知の技術事項を採用し、ドラムコアの基材として、Mn-Zn系フェライトに代えて絶縁被覆された軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を圧縮形成した圧粉磁心を用いることによって相違点1に係る構成とすることも当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2]について
引用例1以外の引用例2ないし4、さらには甲第5号証や上記特開2011-36007号公報には、コア表面を樹脂材料でコーティングするといったことについては記載も示唆もない。一方、甲第6号証(特開平1-169909号公報)には、コア表面に特に高い電気絶縁性を必要とする場合、電気絶縁性レジン、塗装材(エポキシレジン、メラミンエポキシ等)によりコア全体を絶縁塗装被膜を被膜することが記載(2頁左下欄5?9行を参照)されている。
しかしながら、そもそも引用発明にあっては、「ガラス層」によってコア表面の電気絶縁性は確保されていることに加えて、「ガラス層」は接着剤が浸透することを防止するとともに、接着剤とのぬれ性が優れ強固な接着状態を得ることができるようにするためのものであり、単に電気絶縁性を確保するためだけのものではない。したがって、引用発明においては、浸透防止材料として「ガラス層」を用いることを前提(技術的特徴)とするものであるといえ、あえてかかる「ガラス層」に代えて甲第6号証に記載のようなエポキシレジン等の樹脂材料で被膜(コーティング)するようにすることの動機付けがなく、むしろ阻害要因があるといえる。
よって、本件発明1における相違点2に係る構成を導き出すことはできない。

したがって、本件発明1は、引用発明、甲第6号証に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明8、9について
請求項8、9は、請求項1に従属する請求項であり、本件発明8、9は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明8、9は、引用発明、甲第6号証に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明3について
本件発明3と引用発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点1]
多孔質の基体について、本件発明3では、「軟磁性合金の粒子」からなり、その空孔部分が「粒子間」の空孔部分である旨特定するのに対し、引用発明では、例えばMn-Zn系フェライトであり、そのような特定を有していない点。

[相違点2]
浸透防止材料について、本件発明3では、「所定の成分を有する樹脂材料であって、前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたもの」である旨特定するのに対し、引用発明では、ドラムコアにガラススラリーを吹き付け塗装してガラススラリーの層を形成し、焼成によってガラス粉末を溶融(軟化)させることによって形成されたガラス層である点。

そこで、上記相違点について検討する。
[相違点1]について
上記「ア.本件発明1について」における[相違点1]について検討したように、引用発明において、コアの特性向上(特に高飽和磁束密度)のために、コアとして、絶縁被覆された軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を圧縮形成した圧粉磁心を用いるという周知の技術事項を採用し、ドラムコアの基材として、Mn-Zn系フェライトに代えて絶縁被覆された軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を圧縮形成した圧粉磁心を用いることによって相違点1に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2]について
上記「ア.本件発明1について」における[相違点2]について検討したのと同様のことがいえ、本件発明3における相違点2に係る構成については導き出すことはできない。

したがって、本件発明3は、引用発明、甲第6号証に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明5、6について
請求項5、6は、請求項3に従属する請求項であり、本件発明5、6は、本件発明3の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明3についての判断と同様の理由により、本件発明5、6は、引用発明、甲第6号証に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.本件請求項7について
本件発明7と引用発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点]
多孔質の基体について、本件発明7では、「軟磁性合金の粒子」からなり、その空孔部分が「粒子間」の空孔部分であり、「吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体」である旨特定するのに対し、引用発明では、例えばMn-Zn系フェライトであり、そのような特定を有していない点。

そこで、上記相違点について検討すると、
引用例3の段落【0034】に示された【表2】には、Fe-6.5%Si-1%Crからなる組成の軟磁性粉末を圧縮成形した圧粉磁心の密度(見かけ密度)として、5.7g/cm^(3)、5.9g/cm^(3)、6.0g/cm^(3)、6.3g/cm^(3)、6.4g/cm^(3)の例が記載されている。
一方、Fe-6.5%Si-1%Crからなる組成の軟磁性粉末の真密度は、当該軟磁性粉末1gのうち、Feが0.925g、Siが0.065g、Crが0.01gであると仮定し、それぞれの元素の密度をFeが7.87g/cm^(3)、Siが2.33g/cm^(3)、Crが7.19g/cm^(3)とする(甲第7号証を参照)と、真密度=1/{(Fe質量/Fe密度)+(Si質量/Si密度)+(Cr質量/Cr密度)}≒6.81g/cm^(3)であるから、上記圧粉磁心の密度(見かけ密度)の各例について、
空孔率(%)=100-{(見かけ密度/真密度)×100}
の式により空孔率を計算すると、それぞれ16.2%、13.2%、11.8%、7.4%、5.9%となり、本件発明7で特定する空孔率が「10?25%」の範囲と重複する。
そして、本件特許明細書の記載を参照しても、本件発明7で特定する空孔率の範囲について、下限値を「10%」と定めたことや、上限値を「25%」と定めたことに格別の臨界的意義は見出せない(本件発明7で特定する空孔率の範囲は、単に、多孔質の基体を軟磁性合金の粒子から形成したことによって通常とり得る範囲を特定したにすぎないものと解される。)。
以上のことから、上記「ア.本件発明1について」における[相違点1]について検討したように、引用発明において、コアの特性向上(特に高飽和磁束密度)のために、コアとして、絶縁被覆された軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を圧縮形成した圧粉磁心を用いるという周知の技術事項を採用し、ドラムコアの基材として、Mn-Zn系フェライトに代えて絶縁被覆された軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を圧縮形成した圧粉磁心を用いるようにした際には、少なくとも空孔率については、ごく普通に本件発明7で特定する範囲を満たし得るものであるといえ、上記相違点に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

ここで、特許権者は、令和1年5月7日提出の意見書において、「本件発明7における空孔率は、『前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分である。』とあるように、基体の粒子間の空孔部分のみを空孔として算出されるものである。すなわち、本件発明7における空孔率は、粒子内部の欠陥等により粒子内部に空隙部分が含まれることがあっても、その部分を除いたものであることを意味する。そのため、引用例3に記載された圧粉磁心の密度(見かけ密度)から、上記式により、本件発明7において意味される空孔率(基体の粒子間の空孔部分に関する空隙率)を計算することはできない。」、「さらに、引用例3においては、絶縁被膜による、基体の粒子間の空孔部分の空孔率への影響も定かでない。これらによっても、上記式では、引用例あにおける基体の粒子間の空孔部分に関する空隙率は計算することができない。」などと主張している。
しかしながら、本件特許明細書には、本件発明7でいう「空孔率」を、粒子内部の欠陥等により空隙部分を含まず、厳密に粒子間の空孔部分のみを空孔として算出することやその算出方法の記載はない。本件特許明細書には段落【0039】に、真密度が7.6g/cm^(3)、見かけ密度が6.2g/cm^(3)のとき、空孔率が18.4%となる(なお、これらの数値は上記式を満たしている)ことが記載されているのみであり、見かけ密度から粒子内部の空隙部分を除くことは技術的に困難であるから、当該段落【0039】に記載された「見かけ密度」は、厳密には粒子内部の空隙部分も含んだものであると解するのが妥当である。よって、本件発明7における「空孔率」が基体の粒子間の空孔部分のみを空孔として算出されるものであるとする特許権者の上記主張は、採用できない。
ここで、引用例3に記載された圧粉磁心の密度(見かけ密度)は、粒子内部の空隙部分だけでなく、引用例3の【表2】からも明らかなように絶縁被膜(具体的にはCr酸化物の被覆)の影響を含んだものであるところ、Fe-6.5%Si-1%Crからなる組成の軟磁性粉末の真密度の算出では絶縁被膜の影響は考慮していない。しかし、絶縁被膜形成の元となるCrが真密度の値に与える影響はごく僅か、つまり、その一部が酸化して形成された絶縁被膜(Cr酸化物の被覆)が真密度の値に与える影響もごく僅かであり、たとえ絶縁被膜を影響を踏まえたとしても、真密度の値は6.8g/cm^(3)から大きくずれることはなく、引用例3に記載された圧粉磁心の空隙率が、本件発明7で特定する「10?25%」の範囲と重複するといえるものであることに変わりがない。

したがって、本件発明7は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

カ.本件発明10について
引用発明における「ガラス層」にあっても、ドラムコアにガラススラリーを吹き付け塗装してガラススラリーの層を形成し、焼成によってガラス粉末を溶融(軟化)させることによって形成されたものであり、ガラス粉末を溶融(軟化)させる処理は、本件発明10でいう「焼き付け処理」に相当するといえる。
したがって、本件発明10は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

キ.本件発明11について
本件発明11における、浸透防止材料が「所定の成分を有する樹脂材料であって、前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたもの」であるという特定事項については、上記「ア.本件発明1について」の[相違点2]で検討したのと同様のことがいえ、本件発明11における当該特定事項を導き出すことはできない。
したがって、本件発明11は、引用発明、甲第6号証に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ク.本件発明12について
引用発明における一対の「電極」にあっても、銀ペーストを塗布して焼き付けた後にニッケル及びスズのメッキを施すことにより形成され得るものであり、その場合、本件発明12と同様、電極材料(銀ペースト)を焼成処理(焼き付け処理)することにより形成されてなるものである。
したがって、本件発明12は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ケ.本件発明13について
引用発明における一対の「電極」にあっても、銅製の金具を接着することにより形成され得るものであり、その場合、本件発明13と同様、電極材料からなる板状部材(銅製の金具)を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されてなるものである。
したがって、本件発明13は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

コ.本件発明14、16について
請求項14、16は、請求項11に従属する請求項であり、本件発明14、16は、本件発明11の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明11についての判断と同様の理由により、本件発明14、16は、引用発明、甲第6号証に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

サ.本件発明15について
引用例4には、ドラム状コアの鍔部の底面及び側面に、Au,Cu等をスパッタリング等により蒸着して電極膜を形成するようにした技術事項が記載されており、引用発明においてもかかる技術事項を採用し、一対の電極を、電極材料(Au,Cu等)を例えばスパッタリング法を用いて金属薄膜により形成されたものとすることは当業者であれば容易になし得ることである。 したがって、本件発明15は、引用発明、引用例4に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

シ.本件発明17について
本件発明17は、請求項3、5、6、11、14、16のいずれかを引用するものであり、少なくとも「前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料」であることの発明特定事項を含むものであるから、上記本件発明3、5、6、11、14、16についての判断と同様の理由により、本件発明17は、引用発明、甲第6号証に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ス.本件発明18について
上記「オ.本件請求項7について」における[相違点]の検討でも述べたように、コアの特性向上(特に高飽和磁束密度)のために、コアとして、絶縁被覆された軟磁性金属(合金)の粒子(粉末)を圧縮形成した圧粉磁心を用いることは周知といえる技術事項であるところ、引用例2には、コアが、鉄、アルミニウム、珪素を主成分とする合金粉末から構成され、その合金粉末の表面には酸化層(アルミナ)が形成され、合金粉末同士が当該酸化層(アルミナ)を介して結合されるようにしたものが記載(上記「(2-2-1)ウ.」を参照)され、また、引用例3には、コアが、FeSiCr軟磁性粉末から構成され、その粉末表面にはCrの酸化物が形成され、粉末同士が当該Crの酸化層を介して結合されるようにしたものが記載(上記「(2-2-2)オ.」を参照)されている。ここで、引用例2の「アルミニウム」や引用例3の「Cr」は、本件発明18でいう「鉄よりも酸化しやすい元素」に相当し、また、引用例2の「酸化層(アルミナ)」や引用例3の「Crの酸化層」が、本件発明18でいう「酸化層」に相当するところであり、引用発明において、コアの特性向上(特に高飽和磁束密度)のために、ドラムコアの基材として、Mn-Zn系フェライトに代えて引用例2や引用例3に記載の上記技術事項を採用し、表面に酸化層が生成された、鉄、ケイ素、及び鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金粒子(粉末)群から構成され、粒子(粉末)同士が酸化層を介して結合してなる圧粉磁心を用いることは当業者が容易になし得ることである。

したがって、本件発明18は、引用発明及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて、または引用発明及び引用例2?4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

セ.本件発明19について
請求項19は、請求項17に従属する請求項であり、本件発明19は、本件発明17の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明17についての判断と同様の理由により、本件発明19は、引用発明、甲第6号証に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ソ.本件発明20について
引用例3には、「Cr」の含有量として0重量%を超え、3重量%以下であることが記載(【請求項1】、段落【0018】を参照)されており、本件発明20で特定する「2?15wt%」と重複している。
したがって、本件発明20は、引用発明及び引用例3に記載の技術事項に基づいて、または引用発明及び引用例3,4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-2)特許法第36条第6項第2号
ア.上記(1-2)の「ア.」、「イ.」の記載不備の指摘に対して、本件訂正請求よる訂正(訂正事項2、3、8、9)により、請求項2は削除され、請求項3、10、11において、「前記電子部品の表層に、」との記載が「前記基体の表層に、」と訂正され不明瞭さは正された。

イ.上記(1-2)の「ウ.」、「エ.」の記載不備の指摘に対して、本件訂正請求よる訂正(訂正事項7、15ないし17)により、請求項7、8、17、18において、「前記電子部品は、」との記載が「前記基体は、」と訂正され、請求項7、8、17、18にそれぞれ記載の事項が、電子部品を構成する「基体」についての特定であることが明確となった。

したがって、当審による取消理由で指摘した不備な点は解消され、請求項3、7、8、10、11、17、18及びこれら請求項に従属する請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明7、10、12、13、15、18、20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.取消理由通知(決定の予告)等において採用しなかった特許異議申立理由等について
(1)特許法第36条第6項第1号
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし9に係る特許発明に関して次のような記載不備を主張している。
「浸透防止材料」について、本件特許明細書には、ガラススラリーの場合には脱バインダ処理及びガラス焼き付け処理を経た後に電極形成することのみが記載され、樹脂溶液の場合には乾燥処理及び硬化処理を経た後に電極形成することのみが記載されているだけであり、ガラススラリーや樹脂溶液に対する処理の限定のない本件請求項1ないし9に係る特許発明は、当業者が課題解決できると認識できる範囲を超えているものを含んでおり、発明の詳細な説明に記載したものではない。
さらに、特許異議申立人は、令和1年6月20日提出の意見書において、本件発明1(訂正後の請求項1に係る発明)に関して次のような記載不備も主張している。
本件発明1は、「前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料である」との特定を行うだけで、樹脂材料の硬化処理までは特定されておらず、含浸させた樹脂材料を硬化処理させることなく電極を形成する態様までも含むものであり、このような態様のものは発明の課題を解決することができない。しかし、本件特許明細書には、一貫して樹脂材料の含浸及び硬化処理を経ることが記載されており、出願時の技術常識に照らしても、発明の課題を解決することができない態様までも含む本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

しかしながら、訂正後の本件発明1ないし20は、「電子部品」という物の発明であって、独立形式で記載された請求項1,3,7には、「前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されて」と記載され、浸透防止材料として「電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する」ことができるものとし、かかる浸透防止材料を基体の表層に「含浸又はコーティングしている」とともに、「基体の空孔部分に浸透させて充填」させるという発明の課題を解決するための手段が適切に反映されているといえ、そして、ガラススラリーに対する焼き付け処理等や樹脂溶液に対する硬化処理等の所定の処理は、かかる発明の課題を解決するための手段を得るための具体例にすぎず、このような所定の処理の限定がないからといって、発明の詳細な説明に記載したものではないとまではいえない。
特に、特許異議申立人は、本件発明1に関して、「多孔質の基体に含浸させた樹脂材料を硬化させることなく電極を形成する場合には、樹脂材料が多孔質の基体の空孔部分にさらに浸透してしまい、電極形成時の電極材料や接着剤(電極接合材料)等の基体への浸透を抑制できずに所望の固着強度を獲得することができなくなる。」旨主張しているが、そもそも、樹脂材料が多孔質の基体の内部側の空孔部分にさらに浸透してしまい、基体の表層に樹脂材料で充填されていない空孔部分が生じているような構成のものは、上述したように本件発明1における、浸透防止材料を基体の表層に含浸又はコーティングしているとともに、基体の空孔部分に浸透させて「充填」させてなる発明特定事項を有するものに該当しない。

よって、特許異議申立人による、特許法第36条第6項第1号に関する上記主張は理由がない。

(2)特許法第36条第6項第2号
特許異議申立人は、訂正前の請求項1ないし6に係る特許発明に関して、次のような記載不備を主張している。
ア.物の発明についての訂正前の請求項1ないし6の各請求項には、その物の製造方法が記載されているが、本件特許の出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能である、又はおよそ実際的でないという事情が存在することの証拠も何ら示されていないから、訂正前の請求項1ないし6に係る特許発明は明確なものでない。
イ.訂正前の請求項2には、「所定の温度で焼き付け処理が行われたものである」との記載があるが、ガラス材料の焼き付け温度、言い換えると、ガラス材料の軟化点ないし融点は、ガラス材料の成分や結晶性、粒子径等によって変化するところ、それらの特定が一切なされておらず、「所定の温度」がどの程度の温度であるのか不明であるから、訂正前の請求項2に係る特許発明は不明確である。

まず、上記「ア.」について、特許異議申立人が指摘する各請求項に関連する記載部分ついて検討する。訂正後の請求項1、3では、樹脂材料からなる浸透防止材料が多孔質の基体の表層に含浸又はコーティングされているとともに、基体の空孔部分に浸透して充填されてなり、当該浸透防止材料が含浸又はコーティングされた基体の表面に電極が設けられているという構造が明確に特定されている。また、訂正後の請求項3、11では、さらに基体の表層に樹脂材料が硬化した状態で含浸又はコーティングされているという構造が特定でき、訂正後の請求項5、13、14では、さらに電極が電極材料からなる板状部材を接着剤を介して貼付られているという構造が特定でき、訂正後の請求項6、15、16では、さらに電極が電極材料を用いて金属薄膜として設けられているという構造が特定でき、訂正後の請求項10では、基体の表層にガラス材料からなる浸透防止材料が焼き付けられた状態で含浸又はコーティングされているという構造が特定でき、訂正後の請求項12では、電極が電極材料もしくは電極材料と電極接合材料が焼成された状態で設けられているという構造が特定できるものである。
したがって、特許異議申立人が指摘する各請求項の記載部分は、いずれも当該物のどのような構造を表しているのかが明らかであるといえるから、訂正後の関連する各請求項に係る発明が明確なものでないとはいえない。
また、上記「イ.」については、「所定の温度」とは、用いられるガラス材料を焼き付けることが可能な通常想定される得る温度であると解釈でき、「所定の温度」がどの程度の温度であるのか具体的に特定されていないとしても、訂正前の請求項2に関連する訂正後の請求項10に係る発明が不明確であるとまではいえない。

よって、特許異議申立人による、特許法第36条第6項第2号に関する上記主張はいずれも理由がない。

(3)その他
特許異議申立人は、平成30年12月25日提出の意見書において、本件発明7(訂正後の請求項7に係る発明)に関して、「前記基体は、吸水率が1.0%以上」と下限値のみ規定されており、上限値が規定されておらず、また、本件特許明細書には吸水率の測定方法が記載されていないため、当業者は発明の外延を確定することができないから、本件発明7は不明確である旨主張している。
また、特許異議申立人は、令和1年6月20日提出の意見書において、本件発明3(訂正後の請求項3に係る発明)、及び本件発明7(訂正後の請求項7に係る発明)は、「前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり」との特定を行うだけで、酸化膜の形成までは特定されておらず、軟磁性合金粒子の表面に酸化膜を形成しない態様までも含むものであり、このような態様のものは発明の課題を解決することができない。しかし、本件特許明細書には、一貫して軟磁性合金粒子の表面に酸化膜が形成されたものとして記載されており、出願時の技術常識に照らしても、発明の課題を解決することができない態様までも含む本件発明3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえな旨主張している。

しかしながら、本件発明3(訂正後の請求項3に係る発明)、及び本件発明7(訂正後の請求項7に係る発明)は、それぞれ訂正前の請求項3、訂正前の請求項1を引用する請求項7を独立形式の記載したものにすぎず、本件訂正請求がなされる前から同じ内容のものが存在していたのであるから、これら記載不備に関する主張はいずれも、本件訂正請求に付随して生じたものではなく、実質的に新たな内容を含むものである。よって、これらを取消理由としては採用しない。

第4 むすび

以上のとおり、本件発明7、10、12、13、15、18、20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明1、3、5、6、8、9、11、14、16、17、19に係る特許については、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明1、3、5、6、8、9、11、14、16、17、19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件の請求項2、4に係る特許については、訂正により削除され、本件特許の請求項2、4に対して、特許異議申立人 小林 瞳がした特許異議申立てについてはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電子部品
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に関し、特に、磁気コアを有し、回路基板上への面実装が可能な小型化されたインダクタ等の電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯型の電子機器における電源の昇降圧回路用コイルや高周波回路で用いられるチョークコイル等として磁気コアを有するインダクタが知られている。
このようなインダクタとしては、例えば特許文献1に記載されているように、フェライトコアにコイル導線を巻回し、該コイル導線の両端をフェライトコアの該表面に設けられた一対の端子電極に接続した構造のものが知られている。ここで、フェライトコアは、巻芯部と該巻芯部の上端及び下端に設けられた一対の鍔部とを有する、いわゆるドラム型の形状を有している。このような構造を有するインダクタは、一般に外形寸法(特に高さ寸法)の小型化が可能であることから、回路基板上への高密度実装や低背実装に適しているという特長を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特開2011-009644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器の小型薄型化や高機能化に伴って、インダクタ特性及び信頼性を向上させつつ、さらなる高密度実装や低背実装が可能な巻線型インダクタが求められている。
本発明は、所望の電気特性及び高い信頼性を有しつつ、回路基板上への良好な高密度実装や低背実装が可能なインダクタ等に良好に適用することができる電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係る電子部品は、
多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、前記多孔質の基体は、金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有することにより、該金属粉間に空孔が存在する軟磁性合金の粒子からなり、前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であることを特徴とする。
【0006】(削除)
【0007】
請求項3記載の発明は、多孔質の基体を有する電子部品であって、前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする。
【0008】(削除)
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の電子部品において、前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の電子部品において、前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする。
【0011】
請求項7記載の発明は、多孔質の基体を有する電子部品であって、前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、前記基体は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とする。
【0012】
請求項8記載の発明は、請求項1記載の電子部品において、前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする。
【0013】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の電子部品において、前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所望の電気特性及び高い信頼性を有しつつ、回路基板上への良好な高密度実装や低背実装が可能なインダクタ等の良好に適用することができる電子部品を提供することができ、当該電子部品を搭載する電子機器の小型薄型化や高機能化に加え、信頼性の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】 本発明に係る電子部品の電極形成方法の第1の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】 本発明に係る電子部品の電極形成方法の第2の実施形態を示すフローチャートである。
【図3】 本実施形態に係る電子部品の基体に適用される金属粉の成形体とフェライトとにおける、樹脂溶液の含浸に関する特性を示す図である。
【図4】 本実施形態に係る基体と、フェライトからなる基体とにおける表面近傍の断面を示す模式図である。
【図5】 本実施形態に係る基体における表面近傍の断面を説明するための拡大模式図である。
【図6】 第1の実施形態に係る電子部品の電極形成方法を適用した場合の固着強度の測定結果を示す表である。
【図7】 第2の実施形態に係る電子部品の電極形成方法を適用した場合の固着強度の測定結果を示す表である。
【図8】 本発明に係る電極形成方法を適用可能な電子部品の第1の構成例(第1の適用例)を示す概略斜視図である。
【図9】 第1の適用例に係る電子部品の内部構造を示す概略断面図である。
【図10】 本発明に係る電極形成方法を適用可能な電子部品の第2の構成例(第2の適用例)を示す概略構成図である。
【図11】 第2の適用例に係る電子部品の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電子部品の電極形成方法について、実施形態を示して詳しく説明する。
ここで、本発明に係る電子部品の電極形成方法は、所定の吸水率、又は、所定の空孔率を有する多孔質の基体の表面に、電極材料や電極接合材料の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングする下地処理を施した後、電極を形成することを特徴としている。
【0017】
まず、本発明に係る電子部品の電極形成方法が適用される多孔質の基体について説明する。
本発明に係る電子部品の電極形成方法が適用される電子部品は、吸水率が概ね1.0%以上、又は、空孔率が概ね10?25%の多孔質の基体を有している。具体的には、電子部品の基体として、例えば鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には、当該軟磁性合金粒子が酸化した酸化層が形成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して、上記鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士が当該酸化層を介して結合された、金属粉の成形体を良好に適用することができる。なお、本実施形態において、上記鉄よりも酸化しやすい元素としては、クロム(Cr)やアルミニウム(Al)等を適用することができる。
【0018】
ここで、軟磁性合金粒子の組成や含有率等を適宜調整することにより、高い飽和磁束密度Bs(例えば1.2T以上)と高い透磁率μ(例えば37以上)を実現することができるとともに、100kHz以上の周波数においても、粒子内で渦電流損失が生じることを抑制することができる。したがって、このような磁気特性を有する多孔質の基体を、インダクタ等の電子部品のコア部材として良好に適用することができる。
このような多孔質の基体を有する電子部品において、電極を形成する方法の実施形態を次に示す。
【0019】
<第1の実施形態>
図1は、本発明に係る電子部品の電極形成方法の第1の実施形態を示すフローチャートである。
第1の実施形態に係る電子部品の電極形成方法は、図1に示すように、概略、ガラススラリー準備工程S101と、ガラスコーティング工程S102と、脱バインダ工程S103と、ガラス焼き付け工程S104と、電極形成工程S105と、を有している。
【0020】
ガラススラリー準備工程S101においては、バインダ樹脂及び溶剤に所定の比率でガラス粉末(ガラスフリット)を混合したものを、ボールミルにて所定時間攪拌させて、ガラススラリー(スラリー状のガラス)を生成する。具体的には、ガラススラリーに使用されるガラス粉末は、平均粒径が例えば0.1?10μm程度であり、軟化点が概ね800℃以下であることが好ましい。また、バインダ樹脂としては、例えばポリビニルアルコールやその変性体を良好に適用することができる。また、溶剤としては、水を含んでいることが好ましく、さらに例えばエタノールやイソプロピルアルコール等の水溶性のアルコールを一定割合で混合したものであってもよい。また、ガラススラリー中のガラス粉末及びバインダ樹脂からなる固形分量は、例えばガラススラリーの重量に対して、0.1?20wt%程度に設定されていることが好ましく、さらに、ガラス粉末及びバインダ樹脂の合計重量に対するバインダ樹脂の重量は、例えば1?20wt%程度に設定されていることが好ましい。ボールミルによる攪拌時間は、例えば16時間程度に設定される。このようにして生成されるガラススラリーの粘度は、例えば0.001?0.01Pa・s程度に設定される。
【0021】
ガラスコーティング工程S102においては、上述したような電子部品の多孔質の基体を温調バレルスプレー装置のバレル内に投入し、当該バレルを所定の回転数で回転させつつ、基体にガラススラリーを吹き付けて基体表面に薄いガラス塗膜を形成する。具体的には、バレル内に例えば10000?20000個の電子部品の基体を投入し、スプレー法により120ccのガラススラリーを30?50分程度吹き付ける。ここで、基体にガラススラリーを吹き付ける際の、ガラススラリーの温度は、溶剤の組成にもよるが例えば40?100℃程度に設定される。
【0022】
脱バインダ工程S103においては、ガラス塗膜が形成された基体を焼成炉内で所定の温度で熱処理することにより、ガラス塗膜に含まれる樹脂成分を除去(脱バインダ処理)する。具体的には、基体の脱バインダ処理は、例えば600℃で120分程度熱処理を行う。
【0023】
ガラス焼き付け工程S104においては、脱バインダ処理された基体を焼成炉内で所定の温度で熱処理することにより、基体表面にガラス膜を形成(ガラス焼き付け処理)する。具体的には、ガラス焼き付け処理は、大気中又はN2ガス雰囲気中で、例えば700?800℃で20分程度熱処理を行う。これにより、少なくとも基体の電極形成領域にガラス膜が形成される。
【0024】
電極形成工程S105においては、ガラス焼き付け処理された基体の所定の領域(電極形成領域)に、電極を形成する。具体的には、電極は、上記基体に、例えば電極材料にガラスを添加した電極ペーストを塗布し、所定の温度で焼成して得られる焼成電極を良好に適用することができる。また、電極の他の形態としては、例えば電極材料からなる導電性の板状部材(フレーム)を接着剤を用いて基体表面に接着して形成される電極フレームも良好に適用することができる。また、電極のさらに他の形態としては、例えば電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて、基体表面に金属薄膜を形成して得られる電極膜も良好に適用することができる。ここで、上述した焼成電極においては、電極材料として、例えば銀(Ag)、銀(Ag)とパラジウム(Pd)の合金、銀(Ag)と白金(Pt)の合金、銅(Cu)等を良好に適用することができる。また、上述した電極フレームにおいては、電極材料として、例えばリン青銅板等を良好に適用することができ、基体に接着するための接着剤として、例えばエポキシ系の樹脂を良好に適用することができる。さらに、上述した電極膜においては、電極材料として、例えばチタン(Ti)や、チタン(Ti)を含む合金等を良好に適用することができる。さらに、電極として、上述した焼成電極や電極膜を適用する場合には、その表面に電解メッキにより金属メッキ層が形成されているものであってもよい。
【0025】
なお、本実施形態においては、電子部品の基体へのガラスコーティングの方法として、回転するバレル内で、基体にガラススラリーを吹き付けて、基体の全面にガラス塗膜を形成する手法を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、基体にガラス塗膜を形成する手法としては、上述したようなスプレー法のほか、印刷やローラー、刷毛塗り、真空含浸、ポッティング等の種々の手法を良好に適用することができる。そして、このような手法により、基体の全面、もしくは、少なくとも電極形成領域にガラス塗膜を良好に形成することができる。
【0026】
<第2の実施形態>
図2は、本発明に係る電子部品の電極形成方法の第2の実施形態を示すフローチャートである。
第2の実施形態に係る電子部品の電極形成方法は、図2に示すように、概略、樹脂溶液準備工程S201と、樹脂含浸工程S202と、乾燥工程S203と、硬化工程S204と、電極形成工程S205と、を有している。
【0027】
樹脂溶液準備工程S201においては、所定の比率の樹脂材料を含む樹脂溶液を準備する。ここで、樹脂溶液は、固形フィラーの添加がない、もしくは、添加が微少の有機系樹脂材料(例えばシリコン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)や無機系材料からなることが好ましい。具体的には、例えば30wt%のシリコン樹脂をトルエンで希釈したものを樹脂溶液として良好に適用することができる。このような樹脂溶液には、適宜硬化剤等が添加される。
【0028】
樹脂含浸工程S202においては、多孔質の電子部品の基体を樹脂溶液に浸し、基体を真空状態にすることにより、基体の内部の空気を追い出し、樹脂溶液を含浸(真空含浸)させる。具体的には、真空含浸時の圧力は、例えば20Torr(26hpa)以下まで減圧することが好ましい。
【0029】
乾燥工程S203においては、基体を乾燥処理して、表面及び内部の樹脂溶液を乾燥させる。具体的には、例えば1時間程度、自然放置することにより、基体表面及び内部の樹脂溶液を風乾する。
【0030】
硬化工程S204においては、基体を所定の温度で熱処理することにより、基体に含浸した樹脂溶液を硬化させる。具体的には、湿気雰囲気中で、例えば200℃、1時間程度、基体を熱処理する。熱処理後、例えば30分以上、基体を放置して自然冷却する。
【0031】
電極形成工程S205においては、樹脂溶液が含浸、硬化した基体の所定の領域(電極形成領域)に、電極を形成する。具体的には、電極は、上記基体に、例えば電極材料からなる導電性の板状部材(フレーム)を接着剤を用いて基体表面に接着して形成される電極フレームを良好に適用することができる。また、電極の他の形態としては、例えば電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて、基体表面に金属薄膜を形成して得られる電極膜も良好に適用することができる。ここで、上述した電極フレームにおいては、電極材料として、例えばリン青銅板等を良好に適用することができ、基体に接着するための接着剤として、例えばエポキシ系の樹脂を良好に適用することができる。また、上述した電極膜においては、電極材料として、例えばチタン(Ti)や、チタン(Ti)を含む合金等を良好に適用することができる。さらに、電極として、上述した電極膜を適用する場合には、その表面に電解メッキにより金属メッキ層が形成されているものであってもよい。
【0032】
なお、本実施形態においては、電子部品の基体への樹脂溶液の含浸方法として、基体を樹脂溶液に浸して真空含浸させ、基体の全面に樹脂溶液を含浸させる手法を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、基体に樹脂溶液を含浸させる手法としては、スプレーや印刷、ローラー、刷毛塗り、ポッティング等の種々の手法を良好に適用することができる。そして、このような手法により、基体の全面、もしくは、少なくとも電極形成領域に樹脂溶液を良好に含浸させることができる。
【0033】
また、本実施形態においては、樹脂溶液としてシリコン樹脂を適用した場合について、説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば75wt%のエポキシ樹脂を樹脂溶液として適用するものであってもよい。この場合、硬化工程における熱処理は、例えば180℃、1時間程度に設定される。
【0034】
また、本発明においては、さらに他の樹脂溶液として、例えばシリコン樹脂の原料となるアルコキシシラン化合物を主成分とした無溶剤1液型の無機系封孔剤(例えば株式会社ディーアンドディ製の「パーミエイト HS-100」(商品名))を良好に適用することもできる。この種の無機系封孔剤は、アルコキシシラン化合物又はその部分加水分解縮合物と、無機顔料、無機添加剤、硬化触媒からなる。
【0035】
そして、このような無機系封孔剤を樹脂溶液として使用した場合の、電子部品の基体への含浸方法は、まず、無機系封孔剤と基体を真空中で5?10分程度、脱泡処理したのち、真空中で無機系封孔剤と基体を混合する。次いで、真空状態を解除させて、基体に無機系封孔剤を含浸させる。その後、基体の脱液処理を行い、湿気雰囲気中に例えば24時間放置することにより、基体に含浸した無機系封孔剤を良好に硬化させることができる。
【0036】
(作用効果の検証)
次に、上述した各実施形態に係る電子部品の電極形成方法における作用効果について説明する。
【0037】
ここでは、本実施形態に係る電子部品の電極形成方法における作用効果を検証するために、比較対象として、電子部品の基体が周知のフェライトからなり、上述した各実施形態に示したような下地処理を施していない場合を示す。なお、フェライトからなる基体を有する電子部品は、例えばインダクタ等をはじめとして、既に一般に市販されて種々の電子機器に搭載されているものであって、固着強度をはじめ、様々な信頼性試験において、市場の高い評価を受けているものである。
【0038】
図3は、本実施形態に係る電子部品の基体に適用される金属粉の成形体とフェライトとにおける、樹脂溶液の含浸に関する特性を示す図である。ここで、図3(a)は、本実施形態に係る基体と、フェライトからなる基体とにおける吸水率、密度(見かけ密度、真密度)、空孔率の違いを示す表であり、図3(b)は、本実施形態に係る基体と、フェライトからなる基体とにおける吸水率の違いを示す図である。また、図4は、本実施形態に係る基体と、フェライトからなる基体とにおける表面近傍の断面を示す模式図である。図4(a)は、本実施形態に係る基体における表面近傍の断面を示す模式図であり、図4(b)は、フェライトからなる基体における表面近傍の断面を示す模式図である。図5は、本実施形態に係る基体における表面近傍の断面を説明するための拡大模式図である。
【0039】
上述したように、本実施形態に係る電子部品の基体に適用される金属粉の成形体は多孔質であるため、図3(a)、(b)に示すように、緻密な結晶構造を有する周知のフェライトと比較して、吸水率や空孔率が高い。具体的には、本実施形態に係る基体においては、真密度が7.6g/cm3の基体が見かけ密度6.2g/cm3のとき、吸水率が2%、空孔率が18.4%と高い値を示す。これに対して、フェライトからなる基体においては、真密度が5.35g/cm3の基体が見かけ密度5.34g/cm3のとき、吸水率が0.2%、空孔率が0.2%と、本実施形態に係る基体に比較して概ね1/10以下の低い値を示す。この状態を図4、図5に示す。
【0040】
すなわち、図4(a)に示すように、本実施形態に係る基体においては、金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有しているため、基体表面から内部にかけて略同様に、金属粉間に比較的大きな空孔が存在する。これに対して、図4(b)に示すように、周知のフェライトからなる基体においては、緻密な結晶構造を有しているため、基体内部には空孔が略皆無の状態になっている。
【0041】
上述した各実施形態においては、このような多孔質の基体に対して、電極形成工程に先立って、ガラス又は樹脂を含浸又はコーティングし、焼き付け処理又は硬化処理を施すことにより、空孔部分にガラス又は樹脂が浸透して充填され、少なくとも基体の表面又は表層における多孔質性が改善される。
【0042】
次に、多孔質の基体に電極を形成した場合の固着強度について検証する。
図6は、第1の実施形態に係る電子部品の電極形成方法を適用した場合の固着強度の測定結果を示す表であり、図7は、第2の実施形態に係る電子部品の電極形成方法を適用した場合の固着強度の測定結果を示す表である。
【0043】
まず、固着強度の測定方法について説明する。
まず、基体の表面に電極を形成し、例えばガラス-エポキシ樹脂基板上に形成された銅箔からなる実装ランド上に、上記電極を半田接合することにより、基体を基板上にして実装した。ここで、基板上への基体の実装方法は、基板上にクリーム半田を印刷した後、実装ランド上に基体を搭載し、245℃に加熱してリフロー半田付け処理して実装した。そして、基体が実装された基板に対して、基体の側面から基板の上面に平行な方向に剥離強度試験装置の治具で基体を加圧して、その剥離強度を測定し、これを固着強度として評価を行った。
【0044】
次に、第1の実施形態に係る電極形成方法を適用して得られた電極を有する基体の固着強度について、図6を参照しながら検証する。ここでは、多孔質の基体として金属粉の成形体を適用した場合について、下地処理の有無と固着強度、及び、基体として金属粉の成形体を適用した場合とフェライトを適用した場合の固着強度について検証した。
【0045】
第1の実施形態に示したように、基体として金属粉の成形体を適用し、下地処理としてガラスコーティングを行い、銅(Cu)からなる電極材料を所定の焼成条件(焼き付け温度、焼き付け雰囲気;図6参照)で焼成して、焼成電極を形成した場合の、基体の固着強度は、291Nであった。これに対して、基体として金属粉の成形体を適用し、下地処理を行わず、銅(Cu)からなる電極材料を所定の焼成条件(焼き付け温度、焼き付け雰囲気;図6参照)で焼成して、焼成電極を形成した場合の、基体の固着強度は、54N、95Nであった。すなわち、本実施形態に係る基体は、下地処理を行わなかった場合に比較して、概ね3倍以上の固着強度を有していることが確認された。
【0046】
また、基体としてフェライトを適用し、銀(Ag)又は銅(Cu)からなる電極材料を所定の焼成条件(焼き付け温度、焼き付け雰囲気;図6参照)で焼成して、焼成電極を形成した場合の、基体の固着強度は、それぞれ、244N、336Nであった。すなわち、本実施形態に係る基体は、フェライトを適用した場合と比較して、同等程度の固着強度を有していることが確認された。
【0047】
次に、第2の実施形態に係る電極形成方法を適用して得られた電極を有する基体の固着強度について、図7を参照しながら検証する。ここでも、多孔質の基体として金属粉の成形体を適用した場合について、下地処理の有無と固着強度、及び、基体として金属粉の成形体を適用した場合とフェライトを適用した場合の固着強度について検証した。
【0048】
第2の実施形態に示したように、基体として金属粉の成形体を適用し、下地処理としてエポキシ樹脂の含浸を行い、リン青銅からなる板状部材を、エポキシ系樹脂の接着剤を用いて接着して、電極フレームを形成した場合の、基体の固着強度は、141Nであった。また、同様に、下地処理としてシリコン樹脂の含浸を行い、リン青銅からなる板状部材を、エポキシ系樹脂の接着剤を用いて接着して、電極フレームを形成した場合の、基体の固着強度は、139Nであった。これに対して、基体として金属粉の成形体を適用し、下地処理を行わず、リン青銅からなる板状部材を、エポキシ系樹脂の接着剤を用いて接着して、電極フレームを形成した場合の、基体の固着強度は、69Nであった。すなわち、本実施形態に係る基体は、下地処理を行わなかった場合に比較して、概ね2倍以上の固着強度を有していることが確認された。
【0049】
また、基体としてフェライトを適用し、リン青銅からなる板状部材を、エポキシ系樹脂の接着剤を用いて接着して、電極フレームを形成した場合の、基体の固着強度は、142Nであった。すなわち、本実施形態に係る基体は、フェライトを適用した場合と比較して、同等程度の固着強度を有していることが確認された。
【0050】
このように、上述した各実施形態に係る電子部品の電極形成方法によれば、電極形成前に、基体にガラス又は樹脂材料を含浸又はコーティングし、焼き付け又は硬化させる下地処理を施すことにより、ガラスや樹脂材料が多孔質の基体の空孔部分に浸透して充填されるため、基体の表面又は表層の多孔質性が改善される。これにより、電極形成時に電極材料や接着剤(電極接合材料)等が基体に浸透してしまい、基体と電極の接合性や密着性が低下することを抑制することができるので、概ねフェライトを基体に適用した場合と同等の固着強度を実現することができ、このような電子部品を搭載した電子機器の信頼性の向上に寄与することができる。
【0051】
(適用例)
上述した各実施形態に示した電極形成方法は、例えば面実装型のインダクタ等の電子部品に良好に適用することができる。以下、適用例について簡単に説明する。なお、ここで示す構成は、本発明が適用可能な一例を示すものであって、これに何ら限定されるものではない。
【0052】
図8は、本発明に係る電極形成方法を適用可能な電子部品の第1の構成例(第1の適用例)を示す概略斜視図である。ここで、図8(a)は、本適用例に係る電子部品を上面側(上鍔部側)から見た概略斜視図であり、図8(b)は、本適用例に係る電子部品を底面側(下鍔部側)から見た概略斜視図である。図9は、第1の適用例に係る電子部品の内部構造を示す概略断面図である。ここで、図9は、図8に示したA-A線に沿った電子部品の断面を示す図である。
【0053】
第1の適用例に係る電子部品は、図8、図9に示すように、ドラムコア構造を有する巻線型インダクタ10であって、コア部材11と、該コア部材11に巻回されたコイル導線12と、コイル導線12の端部13A、13Bが接続される一対の端子電極16A、16Bと、上記巻回されたコイル導線12の外周を被覆する、磁性粉含有樹脂からなる外装部材18と、を有している。
【0054】
コア部材11は、図8(a)、図9に示すように、コイル導線12が巻回される柱状の巻芯部11aと、該巻芯部11aの図面上端に設けられた上鍔部11bと、巻芯部11aの図面下端に設けられた下鍔部11cとを備え、その外観はドラム型の形状を有している。ここで、コア部材11は、上述した各実施形態に示した基体に対応し、例えば、鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成される多孔質の成形体が適用される。特に、本適用例に係る巻線型インダクタにおいては、上記鉄よりも酸化しやすい元素として、クロム(Cr)を2?15wt%含有した軟磁性合金粒子を使用することにより、優れたインダクタ特性(インダクタンス-直流重畳特性:L-Idc特性)を実現することができる。
【0055】
また、図8(b)、図9に示すように、コア部材11の下鍔部11cの底面(外表面)11Bには、巻芯部11aの中心軸CLの延長線を挟んで一対の端子電極16A、16Bが形成されている。ここで、底面11Bには、一対の端子電極16A、16Bが形成される領域(電極形成領域)に、例えば図8(b)、図9に示すように、溝15A、15Bが形成されているものであってもよい。
【0056】
コイル導線12は、図9に示すように、銅(Cu)や銀(Ag)等からなる金属線13の外周に、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂等からなる絶縁被覆14が形成された被覆導線が適用される。そして、コイル導線12は、上記コア部材11の柱状の巻芯部11aの周囲に巻回されるとともに、図8(b)、図9に示すように、一方及び他方の端部13A、13Bが、絶縁被覆14が除去された状態で、上記端子電極16A、16Bにそれぞれ半田17A、17Bにより導電接続されている。
【0057】
ここで、コイル導線12は、例えば直径0.1?0.2mmの被覆導線が、コア部材11の巻芯部11aの周囲に3.5?15.5回巻回されている。コイル導線12に適用される金属線13は、単線に限定されるものではなく2本以上の線や、撚り線であってもよい。また、該コイル導線12の金属線13は、円形の断面形状を有するものに限定されるものではなく、例えば長方形の断面形状を有する平角線や、正方形の断面形状を有する四角線等を用いることもできる。また、上記端子電極16A、16Bが溝15A、15Bの内部に設けられる場合には、コイル導線12の端部13A、13Bの直径が、溝15A、15Bの深さよりも大きくなるように設定されていることが好ましい。
【0058】
一対の端子電極16A、16Bには、コイル導線12の両端部13A、13Bが、絶縁被覆14が除去された状態で、それぞれ半田17A、17Bにより導電接続されている。ここで、端子電極16A、16Bは、上述した各実施形態に示した電極に対応し、基体である多孔質のコア部材11の底面11Bに、上述した各実施形態に示した電極形成方法を用いて形成される。すなわち、端子電極16A、16Bの形成工程に先立って、ガラス又は樹脂を含浸又はコーティングし、焼き付け又は硬化させる下地処理を施すことにより、多孔質のコア部材11の空孔部分にガラス又は樹脂が浸透して充填され、少なくとも電極形成領域のコア部材11の表面又は表層における多孔質性が改善される。ここで、端子電極16A、16Bは、上述したように、コア部材11の電極形背領域に電極ペーストを塗布し、所定の温度で焼成して得られる焼成電極や、導電性の板状部材を接着剤を用いて接着する電極フレーム、電極材料をスパッタリングや蒸着により薄膜形成して得られる電極膜を適用することができる。
【0059】
なお、端子電極16A、16Bとして、銅(Cu)や銀(Ag)の焼成電極を適用する場合、又は、純銅、リン青銅からなる電極フレームを適用する場合にあっては、コア部材11として、例えば粒度6?23μmの金属粉(例えばアトミクス株式会社製の4.5Cr3SiFe)を成形(例えば6.0?6.6g/cm3→理論空孔率22?13%)、研削、焼き付けしたものを用いることにより、上述した作用効果の検証に示したように、コア部材11と端子電極16A、16Bとの高い固着強度を実現することができる。
【0060】
図10は、本発明に係る電極形成方法を適用可能な電子部品の第2の構成例(第2の適用例)を示す概略構成図である。ここで、図10(a)は、第1の適用例に係る電子部品の概略斜視図であり、図10(b)は、図10(a)に示したB-B線に沿った電子部品の断面を示す図である。図11は、第2の適用例に係る電子部品の分解斜視図である。
【0061】
第2の適用例に係る電子部品は、図10、図11に示すように、積層型インダクタ20であって、直方体形状の部品本体21と、該部品本体21の長さ方向の両端部に設けられた一対の端子電極24、25と、を有している。
【0062】
部品本体21は、図10(a)、(b)に示すように、直方体形状の磁性体部22と、該磁性体部22によって被覆された螺旋状のコイル部23と、を有しており、該コイル部23の一端は端子電極24に接続され、他端は端子電極25に接続されている。
【0063】
磁性体部22は、図11に示すように、例えば計20層の磁性体層ML1?ML6を積層して一体化した構造を有している。ここで、磁性体部22は、上述した各実施形態に示した基体に対応し、鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、クロム(Cr)を含有する軟磁性合金の粒子群から構成される多孔質の成形体が適用される。
【0064】
また、コイル部23は、例えば銀(Ag)粒子群を主体として構成され、図11に示すように、複数のコイルセグメントCS1?CS5と、該コイルセグメントCS1?CS5を接続する中継セグメントIS1?IS4とが、螺旋状に一体化してコイル構造を有している。
【0065】
各コイルセグメントCS1?CS4は帯状を有し、図11に示すように、それぞれ所定の平面パターンを有している。また、各中継セグメントIS1?IS4は磁性体層ML1?ML4を貫通する柱状を有している。そして、図10(b)、図11に示すように、最上層のコイルセグメントCS1は、連続的に形成された引出部分LS1を介して端子電極24に接続され、また、最下層のコイルセグメントCS5は、連続的に形成された引出部分LS2を介して端子電極25に接続されている。
【0066】
一対の端子電極24、25は、コイル部23と同様に、例えば銀(Ag)粒子群を主体として構成され、図10(a)、(b)に示すように、部品本体21の長さ方向の各端面と該端面近傍の4側面に形成されている。ここで、端子電極24、25は、上述した各実施形態に示した電極に対応し、基体である多孔質の部品本体21の長さ方向の両端部に、上述した各実施形態に示した電極形成方法を用いて形成される。すなわち、端子電極24、25の形成工程に先立って、ガラス又は樹脂を含浸又はコーティングし、焼き付け又は硬化させる下地処理を施すことにより、多孔質の部品本体21の空孔部分にガラス又は樹脂が浸透して充填され、少なくとも電極形成領域の部品本体21の表面又は表層における多孔質性が改善される。
【0067】
以上のように、上述した各適用例によれば、回路基板上への面実装が可能な各種のインダクタにおいて、電極形成時に電極材料又は電極接合材料又は接着剤等が基体であるコア部材や部品本体に浸透してしまい、端子電極の接合性や密着性が低下することを抑制することができる。したがって、インダクタの基体と端子電極との高い固着強度を実現することができるので、このようなインダクタを搭載した電子機器の製造歩留まりや信頼性の向上に寄与することができる。
【0068】
なお、上述した適用例においては、インダクタの端子電極に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明に係る電子部品の電極形成方法は、多孔質の基体を有する電子部品に、電極材料や電極接合材料を用いて電極を形成するものであれば、他の電子部品であっても良好に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、回路基板上への面実装が可能な小型化されたインダクタ等の電子部品に適用して好適である。特に、多孔質の基体を有する電子部品において、当該基体に良好に電極を形成することができ極めて有効である。
【符号の説明】
【0070】
10 巻線型インダクタ
11 コア部材
11a 巻芯部
11b 上鍔部
11c 下鍔部
12 コイル導線
16A、16B 端子電極
18 外装部材
20 積層型インダクタ
21 部品本体
22 磁性体部
23 コイル部
24、25 端子電極
S101 ガラススラリー準備工程
S102 ガラスコーティング工程
S103 脱バインダ工程
S104 ガラス焼き付け工程
S105 電極形成工程
S201 樹脂溶液準備工程
S202 樹脂含浸工程
S203 乾燥工程
S204 硬化工程
S205 電極形成工程
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は、金属粉の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して金属粉同士が結合した構造を有することにより、該金属粉間に空孔が存在する軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、
前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料である
ことを特徴とする電子部品。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、
前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、
前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする電子部品。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項3記載の電子部品。
【請求項6】
前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項3記載の電子部品。
【請求項7】
多孔質の基体を有する電子部品であって、
前記基体はその表層に、電極材料又は電極接合材料又は接着剤の浸透を防止する浸透防止材料を含浸又はコーティングしているとともに、前記浸透防止材料を前記多孔質の基体の空孔部分に浸透させて充填されており、かつ、前記浸透防止材料が含浸又はコーティングされた前記多孔質の基体の表面に電極を形成していること、及び、
前記多孔質の基体は軟磁性合金の粒子からなり、
前記空孔部分は前記多孔質の基体の粒子間の空孔部分であり、
前記基体は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10?25%の金属粉の成形体であることを特徴とする電子部品。
【請求項8】
前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項1記載の電子部品。
【請求項9】
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項8記載の電子部品。
【請求項10】
前記浸透防止材料は、所定の成分を有するガラス材料であって、
前記基体の表層に、前記ガラス材料を含浸又はコーティングし、さらに、所定の温度で焼き付け処理が行われたものであることを特徴とする請求項7記載の電子部品。
【請求項11】
前記浸透防止材料は、所定の成分を有する樹脂材料であって、
前記基体の表層に、前記樹脂材料を含浸又はコーティングし、さらに、硬化処理が行われたものであることを特徴とする請求項7記載の電子部品。
【請求項12】
前記電極は、前記電極材料もしくは前記電極材料と前記電極接合材料を焼成処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項10記載の電子部品。
【請求項13】
前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項10記載の電子部品。
【請求項14】
前記電極は、前記電極材料からなる板状部材を接着剤を用いて貼付処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項11記載の電子部品。
【請求項15】
前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項10記載の電子部品。
【請求項16】
前記電極は、前記電極材料をスパッタリング法や蒸着法等を用いて形成された金属薄膜により形成されたものであることを特徴とする請求項11記載の電子部品。
【請求項17】
前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項3、5、6、11、14、16のいずれかに記載の電子部品。
【請求項18】
前記基体は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項7、10、12、13、15のいずれかに記載の電子部品。
【請求項19】
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項17記載の電子部品。
【請求項20】
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2?15wt%含有することを特徴とする請求項18記載の電子部品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-23 
出願番号 特願2016-210230(P2016-210230)
審決分類 P 1 651・ 537- ZDA (H01F)
P 1 651・ 121- ZDA (H01F)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 池田 安希子  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 井上 信一
石坂 博明
登録日 2017-12-01 
登録番号 特許第6250125号(P6250125)
権利者 太陽誘電株式会社
発明の名称 電子部品  
代理人 鹿嶋 英實  
代理人 鹿嶋 英實  

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