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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
管理番号 1357128
審判番号 不服2018-2840  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-28 
確定日 2019-11-14 
事件の表示 特願2013-167160「列車制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月23日出願公開、特開2015- 37329〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年8月9日の出願であって、平成29年12月11日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成29年12月19日)、これに対し、平成30年2月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、当審により平成30年11月27日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成30年12月4日)、これに対し、平成31年2月4日に意見書及び手続補正書が提出され、当審により令和元年5月8日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:令和元年5月14日)、これに対し、令和元年6月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2.令和元年6月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月14日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
列車の車軸の回転速度を検出して信号を出力する速度発電機と、
前記速度発電機からの出力信号の周波数を解析する周波数解析部と、
前記速度発電機からの出力信号に関して前記速度発電機で解析された周波数について、当該周波数の変化を監視し、予めわかっている前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化の度合に基づき、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出する空転滑走検出部と、
前記速度発電機からの車輪の回転速度に比例した出力信号に基づく演算結果に、前記空転滑走検出部による空転、滑走状態の検出結果に応じた補正をして列車の位置を検出する列車位置検出部と、
を備えることを特徴とする列車制御装置。
【請求項2】
前記周波数解析部は、前記速度発電機からの出力信号を高速フーリエ変換処理して解析することを特徴とする請求項1に記載の列車制御装置。
【請求項3】
前記空転滑走検出部は、前記周波数解析部により解析された周波数が高くなった場合に空転と検出するとともに、前記周波数が低くなった場合に滑走と検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の列車制御装置。」

本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
列車の車軸の回転速度を検出して信号を出力する速度発電機と、
前記速度発電機からの出力信号の周波数を解析する周波数解析部と、
前記速度発電機からの出力信号に関して前記速度発電機で解析された周波数について、当該周波数の変化を監視し、前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化が生じたときに、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出する空転滑走検出部と、
前記速度発電機からの車輪の回転速度に比例した出力信号に基づく演算結果に、前記空転滑走検出部による空転、滑走状態の検出結果に応じた補正をして列車の位置を検出する列車位置検出部と、
を備えることを特徴とする列車制御装置。
【請求項2】
前記周波数解析部は、前記速度発電機からの出力信号を高速フーリエ変換処理して解析することを特徴とする請求項1に記載の列車制御装置。
【請求項3】
前記空転滑走検出部は、前記周波数解析部により解析された周波数が高くなった場合に空転と検出するとともに、前記周波数が低くなった場合に滑走と検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の列車制御装置。」


(2)目的要件
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
本件補正前後で請求項数は3で本件補正前後の請求項2、3の記載は同じであるから、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項1に対応するものとして検討する。

本件補正前の請求項1は、空転滑走検出部が、「予めわかっている前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化の度合に基づき、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出」しており、列車の車輪の粘着状態に対する高低変化の度合が予めわかっており(周波数の±約50%程度(規定値)の変化に限られない)、当該度合に基づき空転時あるいは滑走時を検出することになる。なお、請求人が、平成31年2月4日に提出した意見書で「周波数の変化がどの程度であれば粘着時であり、どの程度であれば、空転や滑走が発生するかは、列車や環境に応じて予め分かっている、という前提で捉える点が本願における重要な事項である。」と主張していることからも明らかである。
本件補正後の請求項1は、空転滑走検出部が、「前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化が生じたときに、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出」しており、列車の車輪の粘着状態における周波数に対して急激に周波数が変化すれば空転時あるいは滑走時と判断しており、その変化の度合は予めわかっている列車の車輪の粘着状態に対する高低変化の度合に限られないから、列車の車輪の粘着状態に対する高低変化の度合が予めわかっている必要性は無いこととなる。
そうすると、本件補正前の請求項1の、列車制御装置の構成をどの様に限定しても、本件補正後の請求項1の、列車制御装置とはならないから、本件補正は、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものには該当せず、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには該当しない。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正を目的としたものでないことは明らかであり、「予めわかっている前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化の度合に基づき」との記載が削除され、検出方法が全く異なる「前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化が生じたときに」に補正されており、先に検討したとおり、両者は意味が異なるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


(3)請求項1の記載を請求人の主張に基づき解釈した場合
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、請求人は、令和元年6月14日に提出した意見書で「また、「周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化」に関して、上記典型的一例以外の態様については、当業者が想定できる範囲が相当すると考える。すなわち、車輪の空転や滑走の発生が、所定の周波数の変化として現れ得る範囲が、「周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化」に相当すると考える。そもそも、鉄道では、列車は、規定の箇所に敷設された線路上を走行するものであり、かつ、各箇所を通過する際の速度制限や積載重量の範囲、ブレーキ能力等は、ある程度の範囲内に定まっているため、例えば道路を走行する自動車等の変容範囲とは著しく異なる。すなわち、鉄道に関する技術においては、前提として、例えば、急激な周波数の変化については、粘着時との比較から、どのような場合に、空転や滑走が発生するかはある程度予めわかっている。また、列車の場合、列車のブレーキ等の性能がわかっているとともに、通過する線路の状況等がある程度、予めわかっている。したがって、当業者であれば、ある程度の経験則から、例えば線路の敷設箇所の状況等に応じて、適宜、車輪の空転や滑走の発生と周波数の高低変化との関係について、考えられ得る走行時の想定状況から設定することは可能であると思料する。」と主張しているので、当該主張に基づいて更に検討する。


(3-1)新規事項
本件補正後の請求項1には、「前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化が生じたときに、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出」とあるから、列車の車輪の粘着状態における周波数に対して急激に周波数が変化すれば空転時あるいは滑走時を検出する(図2、図3参照)とともに、明細書【0027】、【0028】等に記載された粘着状態に対する周波数の急激な変化に限らない線路の敷設箇所の状況等に応じた予めわかっている所定の周波数の高低変化の度合による空転時あるいは滑走時も検出することとなる。

そこで、当該補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
当初明細書等には、
「【請求項3】
前記空転滑走検出部は、前記周波数解析部により解析された周波数が高くなった場合に空転と検出するとともに、前記周波数が低くなった場合に滑走と検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の列車制御装置。」
「ここで、図2に示すように、列車2の車輪5が粘着状態、すなわち、レールに沿って適正に転がっている状態では、列車2の速度に比例してタコジェネレータ6の周波数が変化することがわかっている。そして、列車2の車輪5が空転した場合には、タコジェネレータ6の周波数は、車輪5が粘着状態にある場合に比較して、高い周波数を示すことがわかっており、列車2の車輪5が滑走した場合には、タコジェネレータ6の周波数は、車輪5が粘着状態にある場合に比較して、低い周波数を示すことがわかっている。そのため、空転滑走検出部8により、タコジェネレータ6の周波数を監視している状態で、周波数が急激に高くなった場合には、列車2の車輪5が空転したと検出し、周波数が急激に低くなった場合には、列車2の車輪5が滑走したと検出するように構成されている。
そして、図2に示すように、車輪5の粘着状態における周波数に対する車輪5の空転時の周波数と、車輪5の滑走時の周波数との関係を考慮すると、車輪5の粘着時における周波数に対して、約50%程度高くなった場合に、車輪5が空転したと検出し、車輪5の粘着時における周波数に対して、約50%程度低くなった場合に、車輪5が滑走したと検出することにより、車輪5の空転または滑走を検出することができるものである。」(【0021】?【0022】)
「その後、空転滑走検出部8により、周波数解析部7から送られる周波数を監視し、周波数の急激な変化があるか否か監視する(ST3)。そして、周波数の急激な変化がない場合には、列車2の車輪5が粘着状態であると検出する。
一方、周波数が急激に高くなった場合には、列車2の車輪5が空転したと検出し(ST5)、周波数が急激に低くなった場合には、列車2の車輪5が滑走したと検出する(ST6)。」(【0027】?【0028】)
と記載されるにすぎず、粘着状態では列車の速度に比例してタコジェネレータの周波数が変化することがわかっていること、タコジェネレータの周波数を監視して空転した場合には粘着状態にある場合に比較して高い周波数を示すことがわかっていること、及び、タコジェネレータの周波数を監視して滑走した場合には粘着状態にある場合に比較して低い周波数を示すことがわかっていることは記載はあるが、明細書【0027】、【0028】等に記載された粘着状態に対する周波数の急激な変化に限らない線路の敷設箇所の状況等に応じた予めわかっている所定の周波数の高低変化の度合による空転時あるいは滑走時も検出することは記載も示唆も無い(例えば、加速を行えば急激な変化には満たなくても必ず空転が起こり、滑走も同様であり、これらをタコジェネレータの周波数を監視して検出できることとなる。)。

したがって、本件補正後の請求項1の上記記載事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。


(3-2)目的要件
「2.(2)」と同様に、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項1に対応するものとして検討する。

本件補正前の請求項1は、空転滑走検出部が、「予めわかっている前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化の度合に基づき、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出」しているから、列車の車輪の粘着状態に対する高低変化の度合が予めわかっており(周波数の±約50%程度(規定値)の変化に限られない)、当該度合に基づき空転時あるいは滑走時を検出することになる。
本件補正後の請求項1は、空転滑走検出部が、「前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化が生じたときに、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出」しており、列車の車輪の粘着状態における周波数に対して急激に周波数が変化すれば空転時あるいは滑走時と判断するとともに、明細書【0027】、【0028】等に記載された粘着状態に対する周波数の急激な変化に限らない線路の敷設箇所の状況等に応じた予めわかっている所定の周波数の高低変化の度合による空転時あるいは滑走時も検出することとなる。

そうすると、本件補正前の請求項1の、列車制御装置の予めわかっている所定の周波数の高低変化の度合による空転・滑走の検出方法に加え、本件補正後の請求項1には、列車の車輪の粘着状態における周波数の急激な周波数の変化による空転・滑走の検出方法も加わっているから、本件補正は、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものには該当せず、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには該当しない。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するもの、または、特許法第17条の2第3項及び特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)特許法第36条第4項、第6項について
本件補正後の請求項1に「前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化が生じたときに、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出」とあるが、「周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化」とは、周波数の値が急激に変化する意味か、令和元年6月14日付意見書の主張に基づけば、周波数の変化率が急激に変化するものも含む意味か、それ以外か、構成を特定できず不明である。
更に、本件補正後の請求項1に「前記速度発電機からの車輪の回転速度に比例した出力信号に基づく演算結果に、前記空転滑走検出部による空転、滑走状態の検出結果に応じた補正をして列車の位置を検出する列車位置検出部」とあり、【0012】に「列車の位置を正確に算出することができるので、列車の走行の安全性を著しく高めることができる。」とあるが、空転・滑走発生時に列車の位置をどの様にして正確に求めているのか明細書を参照しても演算方法が不明(検知信号を用いて列車の位置をどの様に補正するのか何等開示が無く不明である。しかも、実施例において車輪5の粘着時における周波数に対して、周波数の急激な変化による空転・滑走の検出のための規定値(±50%)より小さく変化(±48%)したときや、空転滑走検出部が検出できない空転・滑走が継続したときは、空転滑走検出部は検知信号を出力しないから、空転滑走検出部による空転、滑走状態の検出結果に基づき補正することはできないが、何故列車の位置を正確に求めることができるのか何ら開示が無く不明である。更に、列車が粘着状態から図3でいう空転状態に変化したと検出したとき、既に列車は粘着状態の最終地点から空転状態検出時点である程度の距離を移動しているが、当該距離は列車の位置を正確に算出するためにどの様に補正するのか何等開示が無く不明である。)である。
なお、請求人は、令和元年6月14日付意見書で「既述のように、本願発明において、列車の車輪の空転時あるいは滑走時として検出するのは、粘着状態である場合に対する周波数の高低変化のうち空転あるいは滑走による急激な変化が生じたときである。すなわち、「空転あるいは滑走による急激な変化」として規定できるものを対象範囲としているのであるから、補正を行うに際しても、そこから当業者にとって技術常識の範囲で導くことのできる範囲で補正量の算出がなされることになる。例えば、以下のように考えられる。
本願明細書では、一例として、粘着時に対する周波数の変化が50%程度の場合に空転や滑走が発生したと捉えるものとしている。この例であれば、例えば周波数の変化直前と直後とで、50%程度の変化があったことで、空転や滑走の発生が検知され、元に戻れば空転や滑走が終了するということになる。
また、一典型例として、空転の発生時や滑走の発生時には(列車とレールの間にはたらく摩擦等が無いものと見做せるとして)、粘着時のようには加速や減速がなされず慣性の法則から等速度あるいはほぼ等速度となると考えられ、空転や滑走の発生が検知された時刻から元に戻った時刻までとの積算から、この間における正しい移動距離を導き出す、といったこと等は、一般常識であると考える。
また、列車とレールの間にはたらく摩擦等が無いものと見做せず、空転や滑走の発生の検知の時点と、元に戻った時点とで、速度が異なっているような場合であっても、例えば発生の直前での時速と、元に戻った直後の時点での時速とを平均し(平均速度を求め)、求めた平均速度と、空転や滑走の発生が検知された時刻から元に戻った時刻までの時間との積算値を算出することは、一般常識であり、この値をもって、この間における正しい移動距離として導き出す、といったこと等は、わざわざ明細書に記載しなくても、当業者であれば理解可能な事項であると思料する。
上記に関して、数式を用いた例として示すと、発生の直前での時速をV_(0)とし、元に戻った直後の時点での時速をV_(1)とし、これらの平均をVaとし、空転や滑走の発生が検知された時刻をt_(1)とし、元に戻った時刻をt_(2)とし、空転や滑走の発生が検知された時刻t_(1)から元に戻った時刻t_(2)までの時間をTとすれば、Va=(V_(0)+V_(1))/2
T=t_(2)-t_(1)
であり、本来の移動距離とすべき距離Lは、L=Va×T
となる。すなわち、上記距離Lを採用するような位置補正を行えば良い。より具体的には、時間Tの間に速度発電機からの車輪の回転速度に比例した出力信号に基づく演算結果としての距離を距離L1とすると、距離L_(1)に代えて距離Lを採用することで、位置補正がなされる。さらに言うと、L-L1が、上記の場合における補正量ということになる。」と主張するが、そもそも慣性の法則は外力が加わらないことが前提であって実際には列車には外力が加わっているから等速度移動とはならず、又、本願の列車制御装置は速度発電機は有していても、速度計は有していないから、空転滑走が周波数発電機が車輪粘着時に対して規定値以上の周波数の変化で空転滑走を検出しても、その際の空転滑走時の列車速度は検出できず、又、Va=(V_(0)+V_(1))/2としているが、V_(0)は空転滑走発生の直前での時速であるから、空転滑走時の実際の速度ではなく、しかも元に戻った直後の時点での時速V_(1)をどの様に検出するのか不明(例えば減速時、車輪が滑走(V_(0)検出)しても車輪とレールの摩擦により速度はV_(0)より減速されるから、どの状態・速度になれば元に戻ったと判断できるのか不明。)であり、又、一般常識・技術常識と主張するが、当該技術を列車制御装置に適用することを示す文献の開示が無く、更に上記方法では、本願【0008】記載の、位置検出の誤差を低減させることをどのように達成できるのか不明であるから、請求人の上記主張は採用できない。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1-3の記載は、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。


(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、上記した平成31年2月4日付手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものである。


(1)最後の拒絶の理由
当審の令和元年5月8日付の最後の拒絶の理由は以下のとおりである。
「I 平成31年2月4日にした手続補正(以下、「本件補正」という。)は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

II この出願は、明細書、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

理由I

(1)本件補正後の請求項1には、「予めわかっている前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化の度合に基づき、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出」とあるから、列車の車輪の粘着状態が予めわかっており、粘着状態における周波数に対して±約50%程度変化すれば空転時あるいは滑走時を検出することに加え、当該粘着状態に対する周波数の±約50%程度の変化に限らない高低変化の度合いによる空転時あるいは滑走時も予めわかっていることとなる。なお、請求人が、平成31年2月4日に提出された意見書で「周波数の変化がどの程度であれば粘着時であり、どの程度であれば、空転や滑走が発生するかは、列車や環境に応じて予め分かっている、という前提で捉える点が本願における重要な事項である。」と主張していることからも明らかである。
そこで、当該補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
当初明細書等には、
「【請求項3】
前記空転滑走検出部は、前記周波数解析部により解析された周波数が高くなった場合に空転と検出するとともに、前記周波数が低くなった場合に滑走と検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の列車制御装置。」
「ここで、図2に示すように、列車2の車輪5が粘着状態、すなわち、レールに沿って適正に転がっている状態では、列車2の速度に比例してタコジェネレータ6の周波数が変化することがわかっている。そして、列車2の車輪5が空転した場合には、タコジェネレータ6の周波数は、車輪5が粘着状態にある場合に比較して、高い周波数を示すことがわかっており、列車2の車輪5が滑走した場合には、タコジェネレータ6の周波数は、車輪5が粘着状態にある場合に比較して、低い周波数を示すことがわかっている。そのため、空転滑走検出部8により、タコジェネレータ6の周波数を監視している状態で、周波数が急激に高くなった場合には、列車2の車輪5が空転したと検出し、周波数が急激に低くなった場合には、列車2の車輪5が滑走したと検出するように構成されている。
そして、図2に示すように、車輪5の粘着状態における周波数に対する車輪5の空転時の周波数と、車輪5の滑走時の周波数との関係を考慮すると、車輪5の粘着時における周波数に対して、約50%程度高くなった場合に、車輪5が空転したと検出し、車輪5の粘着時における周波数に対して、約50%程度低くなった場合に、車輪5が滑走したと検出することにより、車輪5の空転または滑走を検出することができるものである。」(【0021】?【0022】)
「その後、空転滑走検出部8により、周波数解析部7から送られる周波数を監視し、周波数の急激な変化があるか否か監視する(ST3)。そして、周波数の急激な変化がない場合には、列車2の車輪5が粘着状態であると検出する。
一方、周波数が急激に高くなった場合には、列車2の車輪5が空転したと検出し(ST5)、周波数が急激に低くなった場合には、列車2の車輪5が滑走したと検出する(ST6)。」(【0027】?【0028】)
と記載されるにすぎず、粘着状態では列車の速度に比例してタコジェネレータの周波数が変化することがわかっていること、空転した場合には粘着状態にある場合に比較して高い周波数を示すことがわかっていること、及び、滑走した場合には粘着状態にある場合に比較して低い周波数を示すことがわかっていることは記載はあるが、粘着状態に対する周波数の±約50%程度の変化に限らない高低変化の度合いによる空転時あるいは滑走時も予めわかっていることは記載も示唆も無い(例えば、加速を行えば約50%程度の変化には満たなくても必ず空転が起こり、滑走も同様である。また、空転が発生した時に何らかの障害のためにブレーキングすれば約50%程度の変化には満たなくなる。)。
なお、請求人は、平成31年2月4日に提出された意見書で「予めわかっている粘着時に対する周波数の変化に基づき空転時あるいは滑走時であるかを検出すること等については、既に補正前において実質的に限定している事項であるが、明確化のために記載順や記載態様を変更した。」と主張するが、平成30年2月28日付手続補正書の請求項1には、「予めわかっている粘着時に対する周波数の変化に基づき空転時あるいは滑走時であるかを検出」とあって、予めわかっているのは粘着時の周波数であり、当該粘着時に対する周波数の変化に基づき空転時あるいは滑走時を検出しているから、空転時・滑走時の状態は予めわかっている必要性が無く、この点は図3に示されているので、請求人の上記主張は採用できない。
したがって、本件補正後の請求項1の上記記載事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。


理由II

(1)請求項1に「前記速度発電機からの出力信号に関して前記速度発電機で解析された周波数について、当該周波数の変化を監視し、予めわかっている前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化の度合に基づき、前記列車の車輪の空転時あるいは滑走時を検出する空転滑走検出部」とあり、「予めわかっている前記列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数の高低変化の度合に基づき」とあるが、予めわかっているのは列車の車輪が粘着状態である場合に対する周波数だけか、粘着状態である場合に対する周波数の高低変化の度合もわかっているのか、それ以外か、特定できず不明であり、又、空転滑走検出方法は、【0022】に記載のように、粘着状態に対する周波数の±約50%程度の急激な変化に限らないこととなるが、他にどの様な検出方法があるのか何等開示が無く不明(例えば、加速を行えば周波数の約50%程度の変化には満たなくても必ず空転が起こり、滑走も同様であるから、当該状態をもって空転滑走とすることができる。また、列車の運転状態について何等特定は無いから、空転が発生した時に何らかの障害のためにブレーキングすれば約50%程度の変化には満たない空転滑走が生ずるが、空転滑走をどの様に検出するのか不明である。更に、列車や環境に応じて空転滑走が予め分かっている旨主張するが、降雨、降砂等の天候状態には強弱があり、何れの場合にも事前にわかっているのか否か不明であり、列車が貨物列車の場合、積荷・編成によって総重量が大きく異なるが、これらについても事前にわかっているのか否か不明であり、わかっているならばどの様な手段でこれらを判別したのか不明である。)である。
(2)請求項1に「前記速度発電機からの車輪の回転速度に比例した出力信号に基づく演算結果に、前記空転滑走検出部による空転、滑走状態の検出結果に応じた補正をして列車の位置を検出する列車位置検出部」とあり、【0012】に「列車の位置を正確に算出することができるので、列車の走行の安全性を著しく高めることができる。」とあるが、空転・滑走発生時に列車の位置をどの様にして正確に求めているのか明細書を参照しても演算方法が不明(検知信号を用いて列車の位置をどの様に補正するのか何等開示が無い。しかも、実施例において車輪5の粘着時における周波数に対して±48%変化したときや、空転滑走検出部が検出できない空転・滑走が継続したときは、空転滑走検出部は検知信号を出力しないから、空転滑走検出部による空転、滑走状態の検出結果に基づき補正することはできないが、何故列車の位置を正確に求めることができるのか不明である。更に、列車が粘着状態から図3でいう空転状態に変化したと検出したとき、既に列車は粘着状態の最終地点からある程度の距離を移動しているが、当該距離は列車の位置を正確に算出するためにどの様に補正するのか不明である。)である。
なお、請求人は、平成31年2月4日に提出された意見書で「また、空転の発生時や滑走の発生時には粘着時のようには加速や減速がなされず慣性の法則から等速度あるいはほぼ等速度となると考えられる、といったこと等は、一般常識であると考える。」と主張するが、列車の空転の発生時や滑走の発生時に当該事項が常識である証拠が全く示されておらず(一般常識である以上特許文献ではない書籍等の文献を示されたい。)、しかも、この様な状態は列車とレールの間に全く摩擦が無い場合のことであり、上り坂で加速、下り坂で減速をすると、列車は所望しない動きをすることとなるから、請求人の上記主張は採用できない。
請求人が、平成31年2月4日に提出された意見書で挙げる特開2002-281614号公報に記載の事項は、本願明細書等に全く開示の無い事項であり、しかも、空転滑走の際に定速としているのは後続車両との関係のためであるから、当該事項を採用することはできない。」


(2)当審の最後の拒絶の理由についての判断
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項は、令和元年6月14日付意見書及び平成31年2月4日付意見書を参照しても、「3.(1)理由I(1)」に示したとおり、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。
したがって、平成31年2月4日付でした手続補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、明細書及び令和元年6月14日付意見書及び平成31年2月4日付意見書を参照しても、「3.(1)理由II」に示したとおり、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


(3)むすび
したがって、平成31年2月4日付でした手続補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、請求項1-3の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-06 
結審通知日 2019-09-10 
審決日 2019-09-30 
出願番号 特願2013-167160(P2013-167160)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (B60L)
P 1 8・ 55- WZ (B60L)
P 1 8・ 572- WZ (B60L)
P 1 8・ 537- WZ (B60L)
P 1 8・ 536- WZ (B60L)
P 1 8・ 575- WZ (B60L)
P 1 8・ 561- WZ (B60L)
P 1 8・ 537- WZ (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 創  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 柿崎 拓
堀川 一郎
発明の名称 列車制御装置  
代理人 福田 充広  
代理人 山川 啓  
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