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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1357141
審判番号 不服2018-14889  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-07 
確定日 2019-11-14 
事件の表示 特願2014- 94156「ユーザ装置、基地局、及び通信方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月10日出願公開、特開2015-164281〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年4月30日(国内優先権主張 平成26年1月31日)の出願であって,その手続の経緯は概略以下の通りである。

平成30年 3月13日付け 拒絶理由通知書
平成30年 7月18日 意見書,及び手続補正書の提出
平成30年 8月 2日付け 拒絶査定
平成30年11月 7日 拒絶査定不服審判の請求,
及び手続補正書の提出
令和 元年 7月 4日 上申書の提出


第2 平成30年11月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月7日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の概要
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年7月18日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりである。

「 異なる識別子に対応付けられた複数の同期信号の受信電力を測定し,特定の同期信号を選択する同期信号受信手段と,
前記特定の同期信号に対応する識別情報を含む信号を送信する手段と,
複数の参照信号を受信する参照信号受信手段と,
参照信号の受信品質を測定し,当該受信品質に基づくフィードバック情報を送信する測定手段とを備え,
前記同期信号受信手段において,一部の周波数領域内のみにマッピングされた前記同期信号を受信し,
前記参照信号受信手段において,前記同期信号がマッピングされた周波数領域よりも広い周波数領域にマッピングされた前記参照信号を受信する
ことを特徴とするユーザ装置。」


(2)本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,次のとおり補正された。(下線は補正箇所を示す。)

「 異なる識別子に対応付けられた複数の同期信号の受信電力を測定し,特定の同期信号を選択する同期信号受信手段と,
前記特定の同期信号に対応する識別情報を含む信号を送信する手段と,
複数のCSI-RSを受信する参照信号受信手段と,
CSI-RSの受信品質を測定し,当該受信品質に基づくフィードバック情報を送信する測定手段とを備え,
前記同期信号受信手段において,一部の周波数領域内のみにマッピングされた前記同期信号を受信し,
前記参照信号受信手段において,前記同期信号がマッピングされた周波数領域よりも広い周波数領域にマッピングされた前記CSI-RSを受信する
ことを特徴とするユーザ装置。」


2 補正の適否
上記補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「参照信号」を「CSI-RS」に限定する補正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
したがって,上記補正は特許法17条の2第5項2号(補正の目的)に規定された事項を目的とするものである。また,同法17条の2第3項(新規事項)及び同法17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するところはない。


3 独立特許要件
上記補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて,以下に検討する。


(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記「第2 1(2)」のとおりのものと認める。


(2)本願の発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。(なお,下線は,当審が付与した。)

「【背景技術】
【0002】
LTE/LTE-Adancedでは,システム容量,セル端ユーザスループット等を増大させるMIMO技術が採用されている。また,異なるタイプの基地局(マクロセル,スモールセル等)を混在させつつセル間干渉を低減して高品質な通信を実現するヘテロジニアスネットワーク技術が採用されている。
【0003】
特に,ヘテロジニアスネットワークにおけるスモールセルでは,高周波数帯を使用することが想定されている。ここで,高周波数帯では伝搬ロスが増大することから,それを補うために,ビーム幅の狭いビームフォーミングを行うmassive MIMOを適用することが検討されている。
【0004】
massive MIMOは,基地局側に多数(例:100素子)のアンテナを設置する大規模MIMOであり,狭い領域に電界の強さを集中させることができるため,ユーザ間の干渉を小さくすることができる。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は,massive MIMOを適用した多数のスモールセルが存在する通信環境の例を示す図である。図1に示すように,各スモールセルの基地局から多数のビームが送信されている。このような環境においてユーザ装置(UE)が移動しながら通信を行う場合,ユーザ装置は,現在位置に適合した特定のビームを選択するとともに,移動に応じてビームを順次切り替えることが必要となる。
【0007】
このような動作を実現するために,ユーザ装置は候補となる全てのビームの参照信号を監視することが考えられる。しかし,仮に,1スモールセルあたりのビーム数を100とし,100個のスモールセルのいずれかに在圏する可能性があるとすると,ユーザ装置UEは,100×100=10000のビームを監視する必要がある。このような動作は,参照信号のオーバヘッドやフィードバックの情報量を増大させるとともに,ユーザ装置における処理が複雑化するという問題がある。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり,ビームフォーミングを行う基地局とユーザ装置とを有する無線通信システムにおいて,ユーザ装置が,基地局により形成される複数のビームのうち,通信に使用する特定のビームを効率的に選択することを可能とする技術を提供することを目的とする。
(中略)
【0042】
図6(c)は,測定用参照信号のマッピングスロットにおける測定用参照信号のマッピング例を示す。図6(c)において,1,2...等の番号は,測定用参照信号の識別番号(インデックス)であるとともに,当該測定用参照信号を送信する狭ビームの識別番号(インデックス)でもある。これをビームIDと呼んでもよい。当該識別番号は,例えば,測定用参照信号の系列から取得可能な情報である。図6(c)に示すように,測定用参照信号は,システム帯域の全体にマッピングされる。これはCSI-RS等の既存の参照信号と同様に,システム帯域全体にわたる受信品質を測定することを可能とするためである。
(中略)
【0049】
(無線通信システムの動作例)
次に,図8を主に参照して,本発明の実施の形態に係る無線通信システム(図2に示した無線通信システム)の動作例を説明する。図8に示す例では,ユーザ装置20はスモール基地局12から送信される発見信号を最も受信品質の良好な発見信号として検知することから,図8にはスモール基地局11とスモール基地局12のうちスモール基地局12が示されている。
【0050】
マクロ基地局10は,マクロセルのカバレッジに在圏するユーザ装置20に対して,例えば周期的にマクロ補助情報を送信しており,ユーザ装置20は当該マクロ補助情報を受信する(ステップ101)。例えば,ユーザ装置20はマクロ基地局10から送信されるシステム情報により,マクロ補助情報の送信周期,周波数等のリソースを把握しているものとする。
【0051】
スモール基地局12は,前述したように,広ビームを形成するプリコードされた複数の発見信号を送信している(ステップ102)。ユーザ装置20は,ステップ101で受信したマクロ補助情報に基づき,各発見信号の送信タイミング,及び系列(識別子,インデックス等の情報を含む)を把握しているので,これらを用いることで,スモール基地局12から送信された各発見信号を受信し,受信品質(受信電力等)を測定する。すなわち,マクロ補助情報により,複数の発見信号を測定するために使用する識別子(ビーム)の候補を限定する。
【0052】
発見信号は,LTEにおける同期信号(SS)と同様の機能を有しており,ユーザ装置20は,発見信号を受信することで,スモール基地局12との間で周波数同期をとるとともに,タイミング同期(シンボル同期,フレーム同期等)をとる。また,発見信号により,スモール基地局12のカバレッジでの通信に必要な情報(最小限のシステム情報等)を受信してもよい。
【0053】
ユーザ装置20は,検知できた発見信号についての受信品質(受信電力等)を測定し,測定結果を測定報告(measurement report)としてマクロ基地局103に送信する(ステップ103)。測定報告には,受信できた発見信号の識別情報(識別子,インデックス等),各発見信号についての受信品質(例:受信電力等)が含まれる。この測定報告で使用するチャネルの種類は限定はされないが,例えば,上りリンクの物理共有チャネル(PUSCH)を使用することができる。なお,例えば,受信品質が最も高い発見信号のみについての測定報告を送信してもよい。更に,例えば,受信品質が高いほうから所定数個の発見信号についての測定報告を送信することとしてもよい。
【0054】
発見信号についての測定報告をユーザ装置20から受信したマクロ基地局10は,当該測定報告に基づいて,ユーザ装置20が最も良好に受信した発見信号(広ビーム)を特定し,当該発見信号に対応するスモール基地局12とユーザ装置20が受信すべき測定用参照信号を決定する(割り当てる)。そして,マクロ基地局10は,当該スモール基地局12の識別情報(スモールセルのID等),ユーザ装置20が受信すべき測定用参照信号のタイミング及び系列等を含む制御情報をユーザ装置20に通知する(ステップ104)。当該無線通信システムがキャリアアグリゲーションをサポートする場合において,スモール基地局12の識別情報の通知は,Scellの割り当てとして行うこととしてもよい。つまり,この場合,ユーザ装置20は,マクロ基地局10により形成されるPcell(プライマリコンポーネントキャリアにより形成されるセル)とスモール基地局12により
形成されるScell(セカンダリコンポーネントキャリアにより形成されるセル)とを同時に使用して通信を行う。
【0055】
また,マクロ基地局10は,上記の割り当て情報(ユーザ装置12が通信を行うスモール基地局12の識別情報,Scellの割り当て情報,ユーザ装置20が受信すべき測定用参照信号の情報等)をバックホール回線を通じてスモール基地局12に送信することとしてもよい(ステップ105)。ただし,この動作は必須ではない。例えば,バックホール回線を経由した割り当て情報の通知がない場合,スモール基地局12は,全ての測定用参照信号を送信し,受信すべき測地用参照信号(狭ビーム)を把握しているユーザ装置20からのフィードバック情報に基づいて,ユーザ装置20にデータ信号通信用の狭ビームを割り当てればよい。
【0056】
スモール基地局12は,バックホール回線を介した割り当て情報を受信することで,キャリアアグリゲーションでのScellの動作や,ユーザ装置が存在しない方向への測定用参照信号を送信しない等の動作を実施できる。
【0057】
上記のステップ104での制御情報を受信したユーザ装置20は,狭ビームで送信される限定された数の測定用参照信号を受信することができる。
【0058】
ユーザ装置20は,上記の制御情報に従って,スモール基地局12から送信される各狭ビームの複数の測定用参照信号を受信し(ステップ106),受信品質(受信電力等)の測定を行って,受信品質に基づいて特定の測定用参照信号を選択し,選択した測定用参照信号の番号等の識別情報を含むフィードバック情報を上りチャネルを用いてスモール基地局12に送信する(ステップ107)。上記の選択は,受信品質が最も良いものを選択することとしてもよいし,受信品質が高いほうから所定数個を選択することとしてもよいし,その他の方法で選択してもよい。また,フィードバック情報には,受信電力に代えて,又は受信電力に加えて,CQI,ランク等のCSIが含まれていてもよい。スモール基地局12は,フィードバック情報に基づいて,ユーザ装置20へのデータ信号等(PDSCH,EPDCCH等)の送信のための狭ビームの決定を行い当該狭ビームにより下り方向の通信を行う。」


(3)発明の詳細な説明に発明として記載されたもの
ア 発明が解決しようとする課題
上記段落0006-0008の記載によれば,発明の詳細な説明に記載された課題は,「massive MIMOを適用した多数のスモールセルが存在し,各スモールセルの基地局から多数のビームが送信されている環境において,ユーザ装置が,現在位置に適合した特定のビームを選択するとともに,移動に応じてビームを順次切り替えるために,候補となる全てのビームの参照信号を監視することは,参照信号のオーバヘッドやフィードバックの情報量を増大させるとともにユーザ装置における処理が複雑化する」との前提において,「ビームフォーミングを行う基地局とユーザ装置とを有する無線通信システムにおいて,ユーザ装置が,基地局により形成される複数のビームのうち,通信に使用する特定のビームを効率的に選択する」ことであるといえる。

イ 発明の詳細な説明の記載された課題を解決するための手段
上記段落0051-0058によると,以下のことが記載されているといえる。

(ア)スモール基地局は,広ビームを形成するプリコードされた複数の発見信号を送信する。

(イ)ユーザ装置は,スモール基地局から送信された各発見信号を受信し,受信品質を測定する。

(ウ)ユーザ装置は,測定結果を測定報告としてマクロ基地局に送信する。測定報告には,受信できた発見信号の識別情報,各発見信号についての受信品質が含まれる。

(エ)マクロ基地局は,ユーザ装置から受信した測定報告に基づいてユーザ装置が最も良好に受信した発見信号を特定し,当該発見信号に対応するスモール基地局と測定用参照信号を決定し,ユーザ装置が受信すべき測定用参照信号のタイミング及び系列等を含む制御情報をユーザ装置に通知する。

(オ)制御情報を受信したユーザ装置は,狭ビームで送信される限定された数の測定用参照信号を受信することができる。

(カ)ユーザ装置は,受信した制御情報に従って,スモール基地局から送信される各狭ビームの複数の測定用参照信号を受信し,受信品質の測定を行って,受信品質に基づいて特定の測定用参照信号を選択し,選択した測定用参照信号の識別情報を含むフィードバック情報をスモール基地局に送信する。

(キ)測定用参照信号は,CSI-RSと同様である。

上記(ア)-(キ)によると,発明の詳細な説明に発明として記載されたものは,上記(ア)の課題を解決するために,ビームフォーミングを行う基地局とユーザ装置とを有する無線通信システムにおいて,基地局は,広ビームを形成する複数の同期信号と,狭ビームを形成する複数のCSI-RSを送信し,ユーザ装置は,受信した前記同期信号の受信品質を測定し,前記測定に基づいて特定された発見信号に対応するCSI-RSを受信するものといえる。


(4)対比
本件補正発明と,発明の詳細な説明に記載された事項とを対比する。

ア 本件補正発明の「異なる識別子に対応付けられた複数の同期信号の受信電力を測定し,特定の同期信号を選択する同期信号受信手段」及び「複数のCSI-RSを受信する参照信号受信手段」との特定事項は,ユーザ装置が受信する同期信号及びCSI-RSとして,ビームを形成しない信号を含むものである。
他方,課題を解決するための手段は,「massive MIMOを適用した多数のスモールセルが存在し,各スモールセルの基地局から多数のビームが送信されている環境」を前提とする課題を解決するために,ビームフォーミングを行う基地局とユーザ装置とを有する無線通信システムにおいて,基地局は,広ビームを形成する複数の同期信号と,狭ビームを形成する複数のCSI-RSを送信し,ユーザ装置は,受信した前記同期信号の受信品質を測定し,前記測定に基づいて特定された発見信号に対応するCSI-RSを受信するものであるから,本件補正発明には,ビームを形成する信号の受信に関する内容が反映されていない。このため,特定のビームを効率的に選択するとの課題が解決されない。したがって,本件補正発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。

イ 本件補正発明において「参照信号受信手段」が受信するCSI-RSは,「同期信号受信手段」によって特定された同期信号とは,無関係に受信されるものを含んでいる。
他方,課題を解決するための手段は,基地局により形成される複数のビームのうち,通信に使用する特定のビームを効率的に選択するとの課題を解決するために,特定された発見信号に対応するCSI-RSを受信するものであるが,本件補正発明には,「同期信号受信手段」によって特定された同期信号と,「参照信号受信手段」が受信するCSI-RSとの関係についての内容が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。

したがって,本件補正発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではないから,特許法第36条第6項第1号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[請求人の主張について]
請求人は,審査官が平成30年12月6日付けで作成した前置報告書に対して,令和元年7月4日に提出した上申書において,「ビーム」に関する特定がなくても,請求項1に係る発明は,ユーザ装置において良好に受信できるビームを効率的に選択できるとの効果が得られるものである旨,及び,請求項1に係る発明は,明細書にサポートされており,発明の詳細な説明に記載したものである旨,を主張している。

上記請求人の主張について検討する。
上記「(4) ア」のとおり,請求項1に係る発明には,「massive MIMOを適用した多数のスモールセルが存在し,各スモールセルの基地局から多数のビームが送信されている環境」を前提とする課題を解決するために必要な,ビームを形成する信号の受信に関する内容が反映されていないため,ビームを効率的に選択できるとの効果が得られるとはいえない。
また,上記「(4) イ」のとおり,請求項1に係る発明は,「同期信号受信手段」によって特定された同期信号と,「参照信号受信手段」が受信するCSI-RSとの関係についての内容が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
そうすると,請求項1に係る発明は,ユーザ装置において良好に受信できるビームを効率的に選択できるとの効果が得られるものではなく,また,上記(3)の課題を解決するための手段に関する内容が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載されたものではない。
したがって,上記請求人の主張は採用できない。

なお,本件補正発明は,同期信号の選択とCSI-RSの受信品質の測定との関連について,何ら特定されていないため,3GPPの技術仕様で規定される,同期信号の受信・選択手段,及びCSI-RSの測定・フィードバック手段を備えた,一般的なユーザ装置に対して特段の差異は見出せない。


4 本件補正についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明
平成30年11月7日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年7月18日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,上記「第2 1(1)」のとおりのものと認める。


2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は,以下のとおりである。

「1.(サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(中略)
3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由1(特許法第36条第6項第1号)について
・請求項 1-10
・備考
本願明細書の段落[0008]には
『ビームフォーミングを行う基地局とユーザ装置とを有する無線通信システムにおいて,ユーザ装置が,基地局により形成される複数のビームのうち,通信に使用する特定のビームを効率的に選択することを可能とする技術を提供することを目的とする。』
と記載されている。これが本願発明の解決すべき課題であると認める。
本願の発明の詳細な説明では,スモール基地局は広ビームの複数の発見信号を送信する([0051])。ユーザ装置は各発見信号の受信品質を測定し([0051]),受信できた発見信号の識別子及び受信電力をマクロ基地局に送信する([0053])。あるいは測定結果はスモール基地局に送信する([0067])。マクロ基地局あるいはスモール基地局は,ユーザ装置が受信すべき測定用参照信号を決定し,ユーザ装置に通知する([0054][0068])。前記通知に基づき,ユーザ装置は狭ビームで送信される限定された数の測定用参照信号を受信する([0057][0069])。
これにより,本願発明の課題を解決している。
しかし本願の請求項1-10には,「ビームフォーミングを行う」ことの特定すらない。また,第1参照信号(発見信号)が第2参照信号(測定用参照信号)よりもビーム幅が広くなければ測定回数を減らすことができない。すなわち通信に使用する特定のビームを効率的に選択することはできないと認められる。
さらに本願の請求項1-10には,マクロ基地局あるいはスモール基地局が,ユーザ装置が受信すべき測定用参照信号を決定し,ユーザ装置に通知すること,及び前記通知に基づいて,ユーザ装置が「限定された数」の測定用参照信号を受信すること,の特定がない。
したがって,請求項1-10には,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されておらず,請求項1-10に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
よって,請求項1-10に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。
(中略)

●理由(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-10
・引用文献等 1,2

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2013/032188号
2.特表2009-545226号公報」


3 当審の判断
(1)理由1(特許法第36条第6項第1号)について
本願発明は本件補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そして,上記「第2 3(4)」のとおり,発明が解決しようとする課題は,「ビームフォーミングを行う基地局とユーザ装置とを有する無線通信システムにおいて,ユーザ装置が,基地局により形成される複数のビームのうち,通信に使用する特定のビームを効率的に選択する」ことであるのに対して,本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した本件補正発明は,ビームを形成する信号の受信に関する内容が反映されておらず,上記課題が解決されないものである。
よって,本件補正発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるから,本願発明も同様の理由により,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
したがって,本願発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。


(2)理由3(特許法第29条第2項)について
ア 引用発明及び周知技術

(ア)引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2013/032188号(以下,「引用例1」という。)には以下の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同様。)


[47]FIG. 4 illustrates signaling for beam acquisition in a wireless communication system according to an exemplary embodiment of the present invention.
[48]Referring to FIG. 4, in step 401, a BS 400 repeatedly transmits wide beam reference signals beamformed with wide beams, in all directions within a sector. The wide beam reference signals can be transmitted in a form of a synchronization channel, a preamble, a midamble and the like. As an example, exemplary embodiments of the present invention assume that all directions within one sector are supported by four wide beams. According to this, the BS 400 sequentially transmits four wide beam reference signals.
[49]As the wide beam reference signals are transmitted in all the directions within the sector, in step 403, a terminal 410 determines a preferred-wide beam, and feeds back information indicating the preferred-wide beam, to the BS 400. In other words, the terminal 410 measures a reception signal strength for each of the wide beam reference signals and determines, as the preferred-wide beam, a wide beam corresponding to a reference signal having a maximum reception signal strength. As an example, the terminal 410 determines which of the wide beam reference signals transmitted by the BS 400 corresponds to the preferred-wide beam. According to exemplary embodiments of the present invention, the terminal 410 can determine two or more wide beams as preferred-wide beams. For example, exemplary embodiments of the present invention assume that two wide beams are determined as the preferred-wide beams.
[50]After that, in step 405, the BS 400 receives information indicating preferred-wide beams from all terminals within a sector including the terminal 410 and then, transmits beam pattern information notifying transmission patterns of narrow beam reference signals to be transmitted hereafter, to the terminals. The beam pattern information can be constructed in an indexing scheme, a bitmap scheme, and the like. In a case of a 2-step beam acquisition procedure according to an exemplary embodiment of the present invention, measurement durations during which narrow beam reference signals are transmitted are continuous irrespective of the results of selection of preferred-wide beams. Accordingly, a position of a frame during which narrow beam reference signals corresponding to each preferred-wide beam are transmitted becomes different depending on the number of preferred-wide beams. However, the number and direction of the whole preferred-wide beams are known to only the BS 400, such that the terminal 410 cannot be aware of the number and direction of preferred-wide beams other than its own preferred-wide beam and accordingly, cannot be aware of the transmission patterns of the narrow beam reference signals. Therefore, the BS 400 provides information notifying the transmission patterns of the narrow beam reference signals to be transmitted hereafter, to the terminals.
[51]For example, if the terminal 410 can know whether narrow beam reference signals corresponding to a preferred-narrow beam are transmitted through any frames, in other words, if the terminal 410 can know a corresponding relationship between a preferred-wide beam and a frame, then the terminal 410 can detect the narrow beam reference signal only in frames corresponding to its own preferred-wide beam. Accordingly, the beam pattern information can include information notifying the corresponding relationship between the preferred-wide beam and the frame. Here, when a narrow beam reference signal is transmitted according to the order of an index of a wide beam, the corresponding relationship between the preferred-wide beam and the frame can be expressed by an index of at least one preferred-wide beam confirmed in the BS 400. Or, the corresponding relationship between the preferred-wide beam and the frame can be expressed by a combination of an index of each preferred-wide beam and an index of a corresponding frame.
[52]As another example, if the terminal 410 can know the number of narrow beam reference signals to be transmitted hereafter, the terminal 410 can detect all the narrow beam reference signals. Accordingly, the beam pattern information can include information notifying the number of narrow beam reference signals to be transmitted. Here, the number of narrow beam reference signals to be transmitted can be indirect expressed through the number of frames in which the narrow beam reference signals are to be transmitted, the number of preferred-wide beams, an index of the last one of frames in which the narrow beam reference signals are to be transmitted and the like.
[53]For example, the beam pattern information can include at least one of an index of a preferred-wide beam, a combination of an index of a preferred-wide beam and an index of a corresponding frame, the number of narrow beam reference signals to be transmitted, the number of frames in which the narrow beam reference signals are to be transmitted, the number of preferred-wide beams, and an index of the last one of frames in which the narrow beam reference signals are to be transmitted.
[54]Next, in step 407 to step 413, the BS 400 determines a direction range over which it is to transmit narrow beam reference signals depending on at least one preferred-wide beam and then, repeatedly transmits the narrow beam reference signals within the determined range. The narrow beam reference signal can be transmitted in a form of a pilot symbol. In detail, the BS 400 determines a propagation range of the at least one preferred-wide beam as the direction range over which it is to transmit the narrow beam reference signals. And, the BS 400 minutely turns a beam direction within the determined range while sequentially transmitting the narrow beam reference signals. Here, exemplary embodiments of the present invention assume that one wide beam reference signal corresponds to four narrow beam reference signals, and that two narrow beam reference signals per frame are transmitted. In this case, as illustrated in FIG. 4, when two preferred-wide beams are selected, the BS 400 transmits the total eight narrow beam reference signals through four frames (e.g., as illustrated at steps 407, 409, 411, and 413). According to another exemplary embodiment of the present invention, the frame of FIG. 4 can be substituted with a super frame. The super frame means a bundle of multiple frames.
[55]As the narrow beam reference signals are transmitted within the propagation ranges of the preferred-wide beams, in step 415, the terminal 410 determines a preferred-narrow beam, and feeds back information indicating the preferred-narrow beam, to the BS 400. In other words, the terminal 410 measures a reception signal strength for each of the narrow beam reference signals and determines, as the preferred-narrow beam, a narrow beam corresponding to a reference signal having a maximum reception signal strength. At this time, the terminal 410 can grasp transmission patterns of the narrow beam reference signals through the beam pattern information, and detect the narrow beam reference signals according to the transmission patterns. Particularly, when the beam pattern information transmitted in step 405 includes information notifying a corresponding relationship between a preferred-wide beam and a frame, the terminal 410 can detect the narrow beam reference signals only in frames corresponding to its own preferred-wide beam.
[56]In FIG. 4, the terminal 410 receives the last narrow beam reference signal in an (n+3)th frame, and feeds back information indicating a preferred-narrow beam to the BS 400 in the (n+3)th frame. But, a time point of feedback of the information indicating the preferred-narrow beam illustrated in FIG. 4 is one example and, according to another exemplary embodiment of the present invention, the terminal 410 can feed back the information indicating the preferred-narrow beam after the (n+3)th frame.

(当審訳:
[47]図4は,本発明の第1実施形態による無線通信システムにおけるビーム獲得のためのシグナリングを示す図である。
[48]前記図4を参照すると,ステップ401で基地局400は広いビームにビームフォーミングされた複数の広いビーム参照信号をセクタ内の全ての方向に繰り返し送信する。前記広いビーム参照信号は同期チャネル,プリアンブル(preamble),ミッドアンブル(midamble)などの形態で送信される。ここで,本発明の実施形態は4つの広いビームで一つのセクタ内の全方向が支援されることを仮定する。それによって,前記基地局400は4つの広いビーム参照信号を順次に送信する。
[49]前記セクタ内の全ての方向に複数の広いビーム参照信号が送信されることでステップ403で端末410は好みの広いビームを決定し,前記好みの広いビームを指示する情報をフィードバックする。言い換えると,前記端末410は前記広いビーム参照信号それぞれに対する受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する参照信号に対するビームを好みのビームとして決定する。この際,前記端末410は2つ以上の広いビームを好みの広いビームとして決定する。本発明は,2つの広いビームが好みの広いビームとして決定されることを仮定する。
[50]次に,ステップ405で前記基地局400は前記端末410を含むセクタ内の全ての端末から好みの広いビームを指示する情報を受信した後,後に送信される狭いビーム参照信号の伝送パターンを知らせるビームパターン情報を送信する。前記ビームパターン情報はインデックス(indexing)方式,ビットマップ(bitmap)方式などで構成される。本発明の実施形態による2つのステップのビーム獲得手順の場合,好みの広いビームの選択結果とは関係なく狭いビームを参照信号が送信される測定区間が連続する。よって,好みの広いビームの個数に応じて各好みの広いビームに対応する狭いビーム参照信号が送信されるフレームの位置が異なる。しかし,好みの広いビームの全体の個数及び方向は前記基地局400のみが知っているため,前記端末410は自らの好みの広いビーム以外の他の好みの広いビームの個数及び方向を知ることができず,それによって前記狭いビーム参照信号の伝送パターンを知ることができない。よって,前記基地局400は端末に後に送信される狭いビーム参照信号の伝送パターンを知らせる情報を提供すべきである。
[51]例えば,前記端末410が好みの広いビームに対応する狭いビーム参照信号がどのフレームを介して送信されるのかを知ることができれば,言い換えると,前記端末410が好みの広いビーム及びフレームの対応関係を知ることができれば,前記端末410は自らの好みの広いビームに対応するフレームでのみ狭い参照信号を検出する。よって,前記ビームパターン情報は好みの広いビーム及びフレームの対応関係を知らせる情報を含む。ここで,広いビームのインデックス順番に応じて狭いビーム参照信号が送信される場合,前記好みの広いビーム及びフレームの対応関係は前記基地局400で確認された少なくとも一つの好みの広いビームのインデックスとして表現される。又は,前記好みの広いビーム及びフレームの対応関係は,各好みの広いビームのインデックス及び対応するフレームのインデックスの組み合わせで表現される。
[52]他の例として,前記基地局410が後に送信される狭いビーム参照信号の個数を知ることができれば,前記端末410は全ての狭いビーム参照信号を検出する。よって,前記ビームパターン情報は前記送信される狭いビーム参照信号の個数を知らせる情報を含む。ここで,送信される狭いビーム参照信号の個数は,前記狭いビーム参照信号が送信されるフレームの個数,好みの広いビームの個数,前記狭いビーム参照信号が送信されるフレームのうち最後のフレームのインデックスなどを介して間接的に表現される。
[53]即ち,前記ビームパターン情報は好みの広いビームのインデックス,好みの広いビームのインデックス及び対応するフレームのインデックスの組み合わせ,前記送信される狭いビームの参照信号の個数,前記狭いビーム参照信号が送信されるフレームの個数,好みの広いビームの個数,前記狭い参照信号が送信されるフレームのうち最後のフレームのインデックスのうち少なくとも一つを含む。
[54]次に,ステップ407乃至ステップ413で前記基地局400は少なくとも一つの好みの広いビームに応じて狭いビーム参照信号を送信する方向の範囲を決定した後,決定された範囲内で狭いビーム参照信号を繰り返し送信する。前記狭いビームの参照信号はパイロットシンボルの形態で送信される。詳しくは,前記基地局400は前記少なくとも一つの好みの広いビームの電波範囲を前記狭いビーム参照信号を送信する方向の範囲として決定する。そして,前記基地局400は前記決定された範囲内で細密にビーム方向を変更しながら前記狭いビーム幅参照信号を順次に送信する。ここで,本発明では一つの広いビーム参照信号は4つの狭いビーム参照信号と対応し,フレーム当たり2つの狭いビーム参照信号が送信されることを仮定する。この場合,前記図4に示したように2つの好みの広いビームが選択された場合,前記基地局400は4つのフレーム(例えば,ステップ407,ステップ409,ステップ411,ステップ413に示した)を介して総8つの狭いビーム参照信号を送信する。本発明の他の実施形態によって,前記図4のフレームはスーパーフレームに代替される。前記スーパーフレームは多数のフレームの束を意味する。
[55]前記好みの広いビームの電波範囲内で狭いビーム参照信号が送信されるにつれ,ステップ415で前記端末410は好みの狭いビームを決定し,前記好みの狭いビームを指示する情報をフィードバックする。言い換えると,前記端末410は前記狭いビーム参照信号それぞれに対する受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する参照信号に対するビームを好みの狭いビームとして決定する。この際,前記端末410は前記ビームパターン情報を介して前記狭いビーム参照信号の伝送パターンを把握し,前記伝送パターンに応じて前記狭いビーム参照信号を検出する。特に,前記ステップ405で送信されるビームパターン情報が好みの広いビーム及びフレームの対応関係を知らせる情報を含む場合,前記端末410は自らの好みの広いビームに対応するフレームでのみ前記狭いビーム参照信号を検出する。
[56]前記図4において,前記端末410はn+3番目のフレームで最後の狭いビーム参照信号を受信し,前記n+3番目のフレームで前記好みの狭いビームを指示する情報をフィードバックする。しかし,前記図4に示した前記好みの狭いビームを指示する情報のフィードバック時点は一例であり,本発明の他の実施形態によって前記端末は前記n+3番目のフレームの後に前記好みの狭いビームを指示する情報をフィードバックする。
)

a 上記段落48,49によれば,端末は,基地局から同期チャネルの形態で送信される複数の広いビーム参照信号の受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する広いビーム参照信号に対するビームを好みのビームとして決定することが記載されているといえるところ,前記端末が当該処理を行うための手段を備えていることは,当業者にとって明らかであるから,引用例1には,端末が,基地局から同期チャネルの形態で送信される複数の広いビーム参照信号の受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する広いビーム参照信号に対するビームを好みのビームとして決定する手段を備えることが記載されているといえる。

b 上記段落49,50によれば,端末は,決定した好みの広いビームを指示する情報をフィードバックすることが記載されているといえるところ,前記端末が当該処理を行うための手段を備えていることは,当業者にとって明らかであるから,引用例1には,端末が,決定した好みの広いビームを指示する情報をフィードバックする手段を備えることが記載されているといえる。

c 上記段落51,54によれば,端末は,パイロットシンボルの形態で送信される複数狭いビーム参照信号を検出することが記載されているといえるところ,前記端末が当該処理を行うための手段を備えていることは,当業者にとって明らかであるから,引用例1には,端末が,パイロットシンボルの形態で送信される複数の狭いビーム参照信号を検出する手段を備えることが記載されているといえる。

d 上記段落55によれば,端末は,狭いビーム参照信号それぞれに対する受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する狭いビーム参照信号に対するビームを好みの狭いビームとして決定し,前記好みの狭いビームを指示する情報をフィードバックすることが記載されているといえるところ,前記端末が当該処理を行うための手段を備えていることは,当業者にとって明らかであるから,引用例1には,端末が,狭いビーム参照信号それぞれに対する受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する狭いビーム参照信号に対するビームを好みの狭いビームとして決定し,前記好みの狭いビームを指示する情報をフィードバックする手段を備えることが記載されているといえる。

したがって,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「 基地局から同期チャネルの形態で送信される複数の広いビーム参照信号の受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する広いビーム参照信号に対するビームを好みのビームとして決定する手段と,
決定した好みの広いビームを指示する情報をフィードバックする手段と,
パイロットシンボルの形態で送信される複数の狭いビーム参照信号を検出する手段と,
狭いビーム参照信号それぞれに対する受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する狭いビーム参照信号に対するビームを好みの狭いビームとして決定し,前記好みの狭いビームを指示する情報をフィードバックする手段と,
を備える端末。」


(イ)周知技術
a 引用例2
原査定の拒絶の理由で引用された特表2009-545226号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに以下の記載がある。


【0219】
図17は前記の2次同期チャンネルがサブフレームの第1シンボルに位置する場合にパイロット副搬送波と2次同期チャンネル副搬送波間同期チャンネル帯域内でFDMで構成されている本発明の方法を示す。
【0220】
一方,同期チャンネル占有帯域を割り当てる方法としてはシステムに割り当てられた全体帯域のうちの一部のみを同期チャンネルが占めることもできる。前記方法に適用できるシステムの例としては,OFDMシステムのように測定可能な(scalable)な帯域幅を支援するシステムがある。
【0221】
つまり,1.25MHzのみを使用する移動局,2.5MHzを使用する移動局,5MHz,10MHz,15MHz,20MHzなどを使用する全ての移動局が基地局システムの同期を獲得するためには,図18に例示されたように同期チャンネルシンボルそれぞれは全システム帯域幅310の一部のみを占めることがよい。
(中略)

【図17】


【図18】




(I)上記図17によると,パイロット副搬送波は,全体OFDM帯域にわたって分布していることが見てとれる。

(II)上記段落0220,図18によると,全体帯域のうち一部のみを同期チャネルが占めることが記載されているといえる。


b 引用例3
服部 武ほか監訳,3G Evolutionのすべて -LTEモバイルブロード方式技術-,丸善株式会社,平成21年12月25日発行,p.359,466-467(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに以下の記載がある。

(a)「



」(359ページ2行-22行)

(b)「



」(466ページ7行-467ページ10行)

(I)上記(a)によると,セル固有下りリンク基準信号は,下りリンクセルの周波数帯全体にまたがっていることが記載されているといえる。

(II)上記(b)図18.2及び図18.3によると,PSS及びSSSは,中心の73サブキャリアにマップされることが記載されているといえる。

したがって,引用例2,3の記載を総合すると,「同期信号は全体の帯域のうち一部のみにマッピングし,参照信号は同期信号よりも広い帯域にマッピングする。」ことは,周知技術(以下,「周知技術」という。)であると認められる。


イ 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「端末」は,本願発明と同様の「ユーザ装置」といえる。

b 同期チャネルの形態で送信される信号は同期信号であることが,当業者の技術常識であるから,引用発明の「基地局から同期チャネルの形態で送信される広いビーム参照信号」は,同期信号に含まれるものである。
そうすると,引用発明の「基地局から同期チャネルの形態で送信される複数の広いビーム参照信号」は,本願発明の「複数の同期信号」に含まれる。

c 受信信号強度の測定は,受信した信号の電力を測定であることが,当業者の技術常識であるところ,引用発明の「最大の受信信号強度を有する広い参照信号に対するビームを好みのビームとして決定する」ことは,「特定の同期信号を選択する」といえるから,引用発明の「基地局から同期チャネルの形態で送信される複数の広いビーム参照信号の受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する広いビーム参照信号に対するビームを好みのビームとして決定する手段」は,「複数の同期信号の受信電力を測定し,特定の同期信号を選択する同期信号受信手段」を備える点で,本願発明と共通する。

d 所定の信号を指示する情報は,所定の信号を識別する識別情報であることは明らかであるところ,引用発明において「決定した好みの広いビームを指示する情報」は,決定した好みの広いビームに対応する参照信号を指示する情報であるといえるから,本願発明の「前記特定の同期信号に対応する識別情報」に含まれる。
そして,情報をフィードバックすることは,情報をフィードバック先に送信することであるから,引用発明の「決定した好みの広いビームを指示する情報をフィードバックする手段」は,本願発明の「前記特定の同期信号に対応する識別情報を含む信号を送信する手段」に含まれる。

e 引用発明において「狭いビーム参照信号を検出する」ために,狭いビーム参照信号を受信していることは自明であるところ,引用発明の「パイロットシンボルの形態で送信される複数の狭いビーム参照信号」は,本願発明と同様の「参照信号」といえるから,引用発明の「パイロットシンボルの形態で送信される複数の狭いビーム参照信号を検出する手段」は,本願発明の「複数の参照信号を受信する参照信号受信手段」に相当する。

f 引用発明において,「好みの狭いビームを指示する情報」は,受信した狭いビーム参照信号を測定した受信品質に基づくフィードバック情報であることは明らかであるから,引用発明の「狭いビーム参照信号それぞれに対する受信信号強度を測定し,最大の受信信号強度を有する狭いビーム参照信号に対するビームを好みの狭いビームとして決定し,前記好みの狭いビームを指示する情報をフィードバックする手段」は,本願発明の「参照信号の受信品質を測定し,当該受信品質に基づくフィードバック情報を送信する測定手段」に含まれる。

したがって,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

[一致点]
「複数の同期信号の受信電力を測定し,特定の同期信号を選択する同期信号受信手段と,
前記特定の同期信号に対応する識別情報を含む信号を送信する手段と,
複数の参照信号を受信する参照信号受信手段と,
参照信号の受信品質を測定し,当該受信品質に基づくフィードバック情報を送信する測定手段とを備える,
ユーザ装置。」

[相違点1]
本願発明の「複数の同期信号」は,「異なる識別子に対応付けられた」ものであるのに対して,引用発明の「複数の広いビーム参照信号」は,当該事項について特定されていない点。

[相違点2]
本願発明の同期信号受信手段が受信する同期信号は,「一部の周波数領域内のみにマッピング」されるものであるのに対して,引用発明の同期信号受信手段が受信する同期信号は,周波数帯域内のマッピングに関して特定されていない点。

[相違点3]
本願発明の参照信号受信手段が受信する参照信号は,「前記同期信号がマッピングされた周波数領域よりも広い周波数領域にマッピング」されるものであるのに対して,引用発明の参照信号受信手段が受信する参照信号は,周波数帯域のマッピングについて特定されていない点。


ウ 判断
(ア)相違点1について
受信した複数の信号を識別するために,異なる識別子に対応付けられた複数の信号を用いることは,常套手段にすぎない。
したがって,引用発明において,異なる識別子に対応付けられた複数の広いビーム参照信号を用いることに,格別の点は認められない。

(イ)相違点2,及び相違点3について
同期信号は全体の帯域のうち一部のみにマッピングし,参照信号は同期信号よりも広い帯域にマッピングすることは,上記「ア (イ)」のとおり,周知技術であるから,引用発明において,同期信号を「一部の周波数領域内のみにマッピング」し,参照信号を「前記同期信号がマッピングされた周波数領域よりも広い周波数領域にマッピング」とすることは,当業者が適宜行うべき事項にすぎない。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明,及び周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲のものであり,格別なものではない。

したがって,本願発明は,引用例1に記載された発明,及び周知技術に基づき,当業者が容易に想到できたものである。


3 むすび
以上のとおり,本願は,特許法第36条条6項1号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。また,本願発明は,引用発明,及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-11 
結審通知日 2019-09-17 
審決日 2019-09-30 
出願番号 特願2014-94156(P2014-94156)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊東 和重  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 井上 弘亘
脇岡 剛
発明の名称 ユーザ装置、基地局、及び通信方法  
代理人 石原 隆治  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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