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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H02J 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H02J 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02J |
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管理番号 | 1357287 |
審判番号 | 不服2018-3733 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-03-15 |
確定日 | 2019-11-20 |
事件の表示 | 特願2016-137721「無線充電システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月13日出願公開、特開2016-182035〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年6月28日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2012年12月17日 米国(US))を国際出願日として出願した特願2015-537692号の一部を平成28年7月12日に新たな出願としたものであって、平成29年6月14日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年11月9日付けで手続補正がなされたが、同年11月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成30年3月15日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。 第2 平成30年3月15日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成30年3月15日付けの手続補正を却下する。 [理 由] 1.補正の目的について 平成30年3月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、 「【請求項1】 アンテナコンポーネントと、 前記アンテナコンポーネントを通して第1の装置に無線で送信される電力を送信し、前記第1の装置が前記電力を受信して前記第1の装置の電源を充電することができる送信機であって、前記第1の装置に電力を提供するのと同時に第2の装置に電力を送信するように動作可能な前記送信機と、 前記送信機の前記電力を制御するための命令を実行するように動作可能な制御装置であって、前記第1又は第2の装置のうちの少なくとも1つの充電プロファイルを検出するための命令を実行するように動作可能である、制御装置とを備え、 前記第1及び第2の装置が、前記アンテナコンポーネントの放射領域の中に存在し、 前記制御装置が、前記放射領域の半径を調整するように動作可能である、装置。」 とあったものが、 「【請求項1】 アンテナコンポーネントと、 前記アンテナコンポーネントを通して第1の装置に無線で送信される電力を送信し、前記第1の装置が前記電力を受信して前記第1の装置の電源を充電することができる送信機であって、前記第1の装置に電力を提供するのと同時に第2の装置に電力を送信するように動作可能であり、エネルギーを外部電子装置に伝送することが可能であるエネルギー伝送ユニットを更に備え、前記エネルギー伝送ユニットが前記エネルギー伝送ユニットから前記外部電子装置にエネルギーが伝送され得るエネルギー伝送ゾーンを生成し、前記エネルギー伝送ゾーンが1センチメートル若しくはそれ以上の、少なくとも10センチメートルの、又は100センチメートル若しくはそれ以上の半径を有し得る、前記送信機と、 前記送信機の前記電力を制御するための命令を実行するように動作可能な制御装置であって、前記第1又は第2の装置のうちの少なくとも1つの充電プロファイルを検出するための命令を実行するように動作可能であるとともに、さらに、前記充電プロファイルの必要条件に従って前記エネルギー伝送ユニットのパラメータを調整することが可能であり、前記エネルギー伝送ユニットの前記パラメータが前記エネルギー伝送ユニットにより出力される波形の形を含む、制御装置とを備える、装置。」 と補正された。 そこで、本件補正前の請求項1の記載と本件補正後の請求項1の記載とを対比すると実質的に、 ア.請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「送信機」について、「エネルギーを外部電子装置に伝送することが可能であるエネルギー伝送ユニットを更に備え、前記エネルギー伝送ユニットが前記エネルギー伝送ユニットから前記外部電子装置にエネルギーが伝送され得るエネルギー伝送ゾーンを生成し、前記エネルギー伝送ゾーンが1センチメートル若しくはそれ以上の、少なくとも10センチメートルの、又は100センチメートル若しくはそれ以上の半径を有し得る」ことの限定が付加され、 イ.同じく請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「制御装置」について、「前記第1及び第2の装置が、前記アンテナコンポーネントの放射領域の中に存在し」、「前記放射領域の半径を調整するように動作可能である」とあったのが、「前記充電プロファイルの必要条件に従って前記エネルギー伝送ユニットのパラメータを調整することが可能であり、前記エネルギー伝送ユニットの前記パラメータが前記エネルギー伝送ユニットにより出力される波形の形を含む」と補正された。 そして、上記「ア.」については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 しかしながら、上記「イ.」については、制御装置による調整対象が、補正前には「放射領域の半径」であったのが、補正後には「エネルギー伝送ユニットにより出力される波形の形」を含む「エネルギー伝送ユニットのパラメータ」に変更されており、当該「イ.」についての補正は、補正前の発明特定事項を概念的に下位にするものではないことは明らかであり、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとはいえない。また、第1号に掲げる請求項の削除、第3号に掲げる誤記の訂正、及び第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。 2.予備的見解(独立特許要件について) 仮に、請求項1について補正は全体として、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当すると認められるとして、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについても以下に検討しておく。 2-1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件) (1)本願補正発明において、「アンテナコンポーネントと、前記アンテナコンポーネントを通して第1の装置に無線で送信される電力を送信し、前記第1の装置が前記電力を受信して前記第1の装置の電源を充電することができる送信機であって、・・・・エネルギーを外部電子装置に伝送することが可能であるエネルギー伝送ユニットを更に備え、」とあるが、かかる記載によれば、「エネルギー伝送ユニット」なるものは「送信機」が備えるものであり、「アンテナコンポーネント」とは別のものとされている。 しかしながら、本件明細書の段落【0018】の「・・外部電子装置130は、エネルギー伝送ユニット140に対する外部電子装置130自身の対応物を必要とし、対応物は、電力伝送のための受信機及びアンテナ(すなわち、恐らく外部電子装置のケースに組み込まれるインダクタ)を少なくとも備え得る、という点に注意を要する。」なる記載を踏まえると、本願補正発明でいう「装置」(無線充電ユニット)側における「エネルギー伝送ユニット」なるものは、「送信機」及び「アンテナコンポーネント」とからなるものであると解され、すなわち「エネルギー伝送ユニット」なるものは、少なくと「アンテナコンポーネント」を含むものである。 したがってこの点において、本願補正発明は、発明の詳細な説明の記載内容と対応がとれておらず、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。 (2)請求項1において、「・・前記エネルギー伝送ユニットが前記エネルギー伝送ユニットから前記外部電子装置にエネルギーが伝送され得るエネルギー伝送ゾーンを生成し、前記エネルギー伝送ゾーンが1センチメートル若しくはそれ以上の、少なくとも10センチメートルの、又は100センチメートル若しくはそれ以上の半径を有し得る・・」とある(特に下線を付した記載部分に注意)が、かかる記載によれば、エネルギー伝送ゾーンは、結局のところ「1センチメートル若しくはそれ以上」、つまり、1センチメートル以上の半径を有し得るものであって、例えば3?9センチメートルの半径も含まれている。 これに対して、本件明細書には段落【0019】に「・・エネルギー伝送ユニットの周辺の又は近傍における材料-又はユニットが埋め込まれるかもしれない材料-の性質に応じて、エネルギー伝送ゾーンは、約1センチメートル若しくは2センチメートルの、少なくとも10センチメートルの、又は100センチメートル若しくはそれ以上の半径を有し得る。」と記載があるのみであり、かかる記載によれば、3?9センチメートルの半径は含まれていない。 したがって、本願補正発明は、エネルギー伝送ゾーンの半径について発明の詳細な説明に記載されていない範囲も含むものである。 よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 2-2.特許法第36条第6項第2号(明確性要件) 本願補正発明における「アンテナコンポーネントと、前記アンテナコンポーネントを通して第1の装置に無線で送信される電力を送信し、前記第1の装置が前記電力を受信して前記第1の装置の電源を充電することができる送信機であって、前記第1の装置に電力を提供するのと同時に第2の装置に電力を送信するように動作可能であり、エネルギーを外部電子装置に伝送することが可能であるエネルギー伝送ユニットを更に備え、・・」なる記載によれば、送信機が備える「エネルギー伝送ユニット」なるものは、「アンテナコンポーネント」とは別のものと解される。一方、「・・前記エネルギー伝送ユニットが前記エネルギー伝送ユニットから前記外部電子装置にエネルギーが伝送され得るエネルギー伝送ゾーンを生成し、・・」なる記載によれば、「エネルギー伝送ユニット」なるものは「アンテナコンポーネント」を含むものであるかのようにも解される(なお、上記「2-1.(1)」で指摘したように、本件明細書の段落【0018】の記載を踏まえると、「エネルギー伝送ユニット」なるものは、「送信機」及び「アンテナコンポーネント」とからなるものであるとも解される。)。結局のところ、「エネルギー伝送ユニット」が如何なるものであるのか、「アンテナコンポーネント」や「送信機」との関係が不明確である。 また、「第1の装置・第2の装置」と「外部電子装置」との関係も不明確である。 よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 2-3.特許法第29条第2項(進歩性) 上記「2-2.」で指摘したように、本願補正発明には不明確な点があるが、(a)「エネルギー伝送ユニット」なるものは、「アンテナコンポーネント」とは別のものであって「送信機」が備えるものであり、(b)「外部電子装置」とは、「第1の装置」及び「第2の装置」のことを意味するものと解釈して、以下に検討する。 (1)引用例 (1-1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用された特表2006-517378号公報(以下、「引用例1」という。)には、「適応充電器システム」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項24】 1つまたは複数の装置を電磁誘導で充電する機器であって、 前記1つまたは複数の装置の充電レベルを示す信号を受け取るセンサと、 互いに異なる角度で位置決めされ、相互インダクタンスによって前記1つまたは複数の装置を充電することができる一連の複数の誘導コイルと、 前記一連の複数の誘導コイルにエネルギーを送り、前記1つまたは複数の装置に対して異なる向きの誘導磁界を作成するように設計された電源とを含む、1つまたは複数の装置を電磁誘導で充電する機器。」 イ.「【0010】 図1は、本発明の実施形態に従って設計された1連の装置104と適応誘導式充電器106(以下では誘導式充電器106)を示すブロック図である。誘導式充電器106は、充電のために選択されたオプションにより1つまたは複数の装置104を同時または順次充電することができる。装置104には、例えば、携帯情報端末(PDA)108、スマートデバイス/カード110、タイマ装置112、機器114、電話装置116、誘導による充電を受け取る他の装置118がある。 【0011】 動作に際して、ユーザは、誘導式充電器106の表面に1つまたは複数の装置104を置く。誘導式充電器106の表面は、様々な形状、サイズおよび向きに対応し、特に1つの装置を受け取るための特殊な面を持たない。その代わりに、誘導式充電器106は、本発明の実施形態による複数の誘導コイルを動作させて、各装置を充電するのに適切な磁界を1つまたは複数の各装置に提供する。1つの実施形態において、誘導式充電器106は、装置104を、各装置に最も適した磁界を使用してプラッタ上の各装置を漸増的に充電する、ラウンドロビン方式で充電することができる。誘導式充電器106は、装置104内を順番に、各装置に一定期間または可変期間、充電を提供しその後で別の装置に切り換えて充電する。」 ウ.「【0013】 図2は、本発明の1つの実施形態と適合する誘導式充電器106と装置204のブロック図を示す。誘導式充電器106は、複数のインダクタ用の可変周波数共振インバータ206、交流電源208、1連のインダクタ210?212、入力周波数制御部214、メモリ216、プロセッサ218、および個別のデータ通信チャネル220を介して通信するために使用される通信ポート243を含む。 【0014】 複数のインダクタ用の可変周波数共振インバータ(以下ではインバータ206)は、電源208の入力電圧の変化を検出して、インバータのスイッチング周波数を制御してインダクタ210?212の全体に比較的一定の電力を提供する。入力周波数制御部214は、インバータ206への入力周波数を、特定の装置に必要でかつ回路の共振周波数よりも高い周波数に維持する。 【0015】 プロセッサ218は、本発明の1つの実施形態に従ってメモリ216に記憶された命令とプログラムを実行する。インダクタ制御部222は、充電用の磁界を生成するために使用される複数のインダクタコイルのそれぞれに送られる電力量を指定する。誘導式充電器106上の様々な装置を充電するときに個々のインダクタ210?212によって提供される様々な磁界を組み合わせるために、ベクトル演算が計算され、インダクタ制御部222によって使用される。様々なベクトル演算は、インダクタコイルの幾何学形状とその互いに対する位置に依存して行われる。また、インダクタ制御部222は、誘導磁界の向き、強度、位相、振幅および周波数を含む、装置を電磁誘導的に充電するために使用される特定のパラメータを考慮する。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 【0017】 充電ロジック構成要素226は、複数の装置を充電するためのロジックを含み、誘導式充電器106上に置かれた各装置を充電するために使用されるプロファイルを決定する。さらに、充電ロジック構成要素226は、情報を処理して特定の装置が完全に充電されたか、または充電の障害が有るかを判定し、これをオペレータまたはユーザに通知する。例えば、充電ロジック構成要素226は、充電している装置から、装置の充電状況(例えば、完全に充電された、充電されていない、バッテリ故障)を示す信号を受け取ることができる。この信号は、充電チャネルまたは別個のデータ通信チャネル220を介して変調することができる。ランタイム構成要素228は、リソースの割り振りおよび誘導式充電器106の全体的な動作を管理するために使用されるリアルタイムまたはプリエンプティブな実行システムである。」 エ.「【0027】 図4は、本発明の1つの実施形態による誘導式充電器のパラメータと設定を選択する動作のフローチャート図である。様々な装置に対応するために、誘導式充電器を様々な方法で充電するように調整またはセットアップすることができる。前に述べたように、誘導式充電器は、各装置の充電パラメータを決定する前に1つまたは複数の装置の存在を検出する(402)。これは、誘導式充電器上の負荷の急変を検出することによって、あるいは充電を必要とする装置に関して充電チャネルまたはデータ通信チャネルを監視することによって行うことができる。本発明の1つの実施の形態において、装置は、本発明に従って設計され、誘導式充電器と共にあらかじめ登録される。したがって、誘導式充電器が装置と関連したパラメータを認識し一意に識別した場合は(406)、誘導式充電器に組み込まれたルックアップ表(LUT)から装置の充電パラメータと情報を得ることができる。RFIDタグが装置モデルおよびタイプを送り、誘導式充電器が続いて、ローカルに記憶されたLUT内の装置の最適な充電パラメータを決定するようにしてもよい。 【0028】 代替として、誘導式充電器は、装置から送られた充電パラメータと情報を受け取ることができる(408)。本発明に従って設計された装置のRFIDタグは、装置の適切な充電パラメータと情報とを含むことができる。このRFIDタグは、誘導式充電器と関連したRFIDリーダに情報を送り(416)、誘導式充電器はその情報を使用して、特定の装置を充電するために誘導コイルと回路を調節する。」 ・引用例1に記載された「誘導式充電器106」は、上記「ア.」、「イ.」の記載事項、及び図1、図2によれば、携帯情報端末(PDA)108などの複数の装置104を同時に電磁誘導で充電することができる機器であって、一連の複数の誘導コイル(インダクタ210?212)と、一連の複数の誘導コイル(インダクタ210?212)にエネルギーを送り、複数の各装置104を充電するのに適切な誘導磁界を作成するように設計された電源とを含むものである。 ・上記「ウ.」の記載事項、及び図2によれば、誘導式充電器106は、交流電源208、交流電源208と一連の複数の誘導コイル(インダクタ210?212)との間に接続されて当該一連の複数の誘導コイルに電力を提供する可変周波数共振インバータ206、可変周波数共振インバータ206への入力周波数を制御する入力周波数制御部214、メモリ216に記憶された命令とプログラムを実行するプロセッサ218、誘導磁界の向き、強度、位相、振幅および周波数を含む、装置を電磁誘導的に充電するために使用される特定のパラメータを考慮して一連の複数の誘導コイルのそれぞれに送られる電力量を指定するインダクタ制御部222、及び複数の各装置104を充電するために使用されるプロファイルを決定する充電ロジック構成要素226等を含むものである。 ここで、交流電源208、可変周波数共振インバータ206、及び入力周波数制御部214からなるものが、上述の複数の各装置104を充電するのに適切な誘導磁界を作成するように設計された「電源」を構成しているといえ、図2によれば、当該「電源」とプロセッサ218とは信号を送受可能に構成され、プロセッサ218とインダクタ制御部222や充電ロジック構成要素226とは信号線で接続されてなるものである。 ・そして、上記「エ.」の特に段落【0028】の記載事項によれば、誘導式充電器106は、複数の装置104から送られた充電パラメータと情報を受け取ることができ、それらを使用して特定の装置を充電するための誘導コイル(インダクタ210?212)と回路(上述の「電源」を構成する回路と解される。)を調節することができるものである。 したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「携帯情報端末(PDA)などの複数の装置を同時に電磁誘導で充電することができる誘導式充電器であって、一連の複数の誘導コイルと、当該一連の複数の誘導コイルにエネルギーを送り、前記複数の各装置を充電するのに適切な誘導磁界を作成するように設計された電源とを含む誘導式充電器において、 交流電源、当該交流電源と前記一連の複数の誘導コイルとの間に接続されて当該一連の複数の誘導コイルに電力を提供する可変周波数共振インバータ、当該可変周波数共振インバータへの入力周波数を制御する入力周波数制御部、メモリに記憶された命令とプログラムを実行するプロセッサ、誘導磁界の向き、強度、位相、振幅および周波数を含む、装置を電磁誘導的に充電するために使用される特定のパラメータを考慮して前記一連の複数の誘導コイルのそれぞれに送られる電力量を指定するインダクタ制御部、及び前記複数の各装置を充電するために使用されるプロファイルを決定する充電ロジック構成要素等を含み、 前記交流電源、前記可変周波数共振インバータ、及び前記入力周波数制御部からなるものが、前記複数の各装置を充電するのに適切な誘導磁界を作成するように設計された前記電源を構成し、当該電源と前記プロセッサとは信号を送受可能に構成され、前記プロセッサと前記インダクタ制御部や前記充電ロジック構成要素とは信号線で接続されてなり、 前記複数の装置から送られた充電パラメータと情報を受け取り、それらを使用して特定の装置を充電するための誘導コイルと前記電源を構成する回路を調節するようにした、誘導式充電器。」 (1-2)引用例2 新たに引用する特開2010-200511号公報(以下、「引用例2」という。)には、「充電器」について、図面とともに以下の記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【0001】 本発明は非接触充電型の充電器および電子機器に係り、例えば、クレードル等からなる充電器と、充電器と充電および光無線通信を行う携帯電話端末等の電子機器と、充電器及び電子機器からなる電子機器充電システムに関するものである。」 イ.「【0046】 図2にあるように、送電コイル3には電源部21が電気的に接続される。電源部21には、商用電源を直接または図不示のACアダプターなどの電圧変換器を介して、あるいは乾電池などから電気が供給される。電源部21は電圧変換回路、整流回路、周波数変換回路、負荷検出回路、制御回路で構成され、負荷状態、温度などの周囲環境、急速充電等のユーザーが選択する充電条件などに応じて、最適な条件となる振幅、周波数、波形形状の交流電流を送電コイル3に供給し、充電が完了したことを検知したら電流供給を停止する。 【0047】 電源部21から供給される電流により、送電コイル3は非接触充電用の交流磁界を発生する。送電コイル3が発生する交流磁界は、コイルの中心部が最も強度が大きくなるように分布する。」 上記記載事項を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。「電子機器を非接触充電する充電器において、充電条件に応じて最適な条件となる振幅、周波数、波形形状の交流電流を送電コイルに供給すること。」 (2)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア.引用発明における「携帯情報端末(PDA)などの複数の装置を同時に電磁誘導で充電することができる誘導式充電器であって、一連の複数の誘導コイルと、当該一連の複数の誘導コイルにエネルギーを送り、前記複数の各装置を充電するのに適切な誘導磁界を作成するように設計された電源とを含む誘導式充電器において、交流電源、当該交流電源と前記一連の複数の誘導コイルとの間に接続されて当該一連の複数の誘導コイルに電力を提供する可変周波数共振インバータ、当該可変周波数共振インバータへの入力周波数を制御する入力周波数制御部、・・・・を含み、前記交流電源、前記可変周波数共振インバータ、及び前記入力周波数制御部からなるものが、前記複数の各装置を充電するのに適切な誘導磁界を作成するように設計された前記電源を構成し、・・前記複数の装置から送られた充電パラメータと情報を受け取り、それらを使用して特定の装置を充電するための誘導コイルと前記電源を構成する回路を調節するようにした・・」によれば、 (a)引用発明における「一連の複数の誘導コイル」が、本願補正発明でいう「アンテナコンポーネント」に相当し、 (b)引用発明における、携帯情報端末(PDA)などの「複数の装置」が、本願補正発明でいう「第1の装置」及び「第2の装置」、つまり「外部電子装置」に相当する。 (c)また、引用発明における、交流電源、可変周波数共振インバータ、及び入力周波数制御部からなり、複数の各装置を充電するのに適切な誘導磁界を作成するように設計された「電源」は、複数の装置を「同時に」電磁誘導により電力を提供して充電することができるものであることから、本願補正発明でいう「送信機」に相当し、そして、引用発明における「電源を構成する回路」が、本願補正発明でいう「エネルギー伝送ユニット」に相当するとみることができる。 (d)そして、引用発明における「電源を構成する回路」にあっても、誘導コイルを介して誘導磁界(エネルギー)を外部の複数の装置に供給(伝送)することが可能なものであるから、誘導コイルも含めて当該ユニットを中心に所定の半径を有し得る、本願補正発明でいうところの「エネルギー伝送ゾーン」を生成してなるものであるといえる。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、「アンテナコンポーネントと、前記アンテナコンポーネントを通して第1の装置に無線で送信される電力を送信し、前記第1の装置が前記電力を受信して前記第1の装置の電源を充電することができる送信機であって、前記第1の装置に電力を提供するのと同時に第2の装置に電力を送信するように動作可能であり、エネルギーを外部電子装置に伝送することが可能であるエネルギー伝送ユニットを更に備え、前記エネルギー伝送ユニットが前記エネルギー伝送ユニットから前記外部電子装置にエネルギーが伝送され得るエネルギー伝送ゾーンを生成し、前記エネルギー伝送ゾーンが所定の半径を有し得る、前記送信機と」を備えるものである点で共通する。 ただし、エネルギー伝送ゾーンが有し得る所定の半径について、本願補正発明では、「1センチメートル若しくはそれ以上の、少なくとも10センチメートルの、又は100センチメートル若しくはそれ以上の半径」を有し得る旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違している。 イ.引用発明における「・・メモリに記憶された命令とプログラムを実行するプロセッサ、誘導磁界の向き、強度、位相、振幅および周波数を含む、装置を電磁誘導的に充電するために使用される特定のパラメータを考慮して前記一連の複数の誘導コイルのそれぞれに送られる電力量を指定するインダクタ制御部、及び前記複数の各装置を充電するために使用されるプロファイルを決定する充電ロジック構成要素等を含み、・・・・当該電源と前記プロセッサとは信号を送受可能に構成され、前記プロセッサと前記インダクタ制御部や前記充電ロジック構成要素とは信号線で接続されてなり、前記複数の装置から送られた充電パラメータと情報を受け取り、それらを使用して特定の装置を充電するための誘導コイルと前記電源を構成する回路を調節するようにした」によれば、 (a)引用発明にあっても、複数の装置から「充電パラメータ」を受け取ることが可能なものであって、受け取る「充電パラメータ」としては誘導磁界の向き、強度、位相、振幅および周波数といった一連のパラメータを含むものであるといえ、当該「充電パラメータ」は、本願補正発明でいう「充電プロファイル」に相当するとうことができる。 (b)そしてさらに、引用発明は「充電パラメータ」などの情報を使用して特定の装置を充電するための誘導コイルと電源を構成する回路を調節(制御)することが可能なものであるところ、メモリに記憶された命令とプログラムを実行し、電源と信号の送受が可能に構成された「プロセッサ」に加えて「インダクタ制御部」及び「充電ロジック構成要素」等を含めたものが、本願補正発明でいう「制御装置」に相当するとみることができる。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記送信機の前記電力を制御するための命令を実行するように動作可能な制御装置であって、前記第1又は第2の装置のうちの少なくとも1つの充電プロファイルを検出するための命令を実行するように動作可能であるとともに、さらに、前記充電プロファイルの必要条件に従って前記エネルギー伝送ユニットのパラメータを調整することが可能である、制御装置」とを備えるものである点で共通するといえる。 ただし、エネルギー伝送ユニットのパラメータについて、本願補正発明では、「前記エネルギー伝送ユニットにより出力される波形の形」を含む旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違している。 ウ.そして、引用発明における「誘導式充電器」が、本願補正発明でいう「アンテナコンポーネント」、「送信機」及び「制御装置」とを備える「装置」に相当する。 よって、本願補正発明と引用発明とは、 「アンテナコンポーネントと、 前記アンテナコンポーネントを通して第1の装置に無線で送信される電力を送信し、前記第1の装置が前記電力を受信して前記第1の装置の電源を充電することができる送信機であって、前記第1の装置に電力を提供するのと同時に第2の装置に電力を送信するように動作可能であり、エネルギーを外部電子装置に伝送することが可能であるエネルギー伝送ユニットを更に備え、前記エネルギー伝送ユニットが前記エネルギー伝送ユニットから前記外部電子装置にエネルギーが伝送され得るエネルギー伝送ゾーンを生成し、前記エネルギー伝送ゾーンが所定の半径を有し得る、前記送信機と、 前記送信機の前記電力を制御するための命令を実行するように動作可能な制御装置であって、前記第1又は第2の装置のうちの少なくとも1つの充電プロファイルを検出するための命令を実行するように動作可能であるとともに、さらに、前記充電プロファイルの必要条件に従って前記エネルギー伝送ユニットのパラメータを調整することが可能である、制御装置とを備える、装置。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] エネルギー伝送ゾーンが有し得る所定の半径について、本願補正発明では、「1センチメートル若しくはそれ以上の、少なくとも10センチメートルの、又は100センチメートル若しくはそれ以上の半径」を有し得る旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。 [相違点2] エネルギー伝送ユニットのパラメータについて、本願補正発明では、「前記エネルギー伝送ユニットにより出力される波形の形」を含む旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。 (3)判断 上記相違点について検討する。 [相違点1]について 本願補正発明の「1センチメートル若しくはそれ以上の、少なくとも10センチメートルの、又は100センチメートル若しくはそれ以上の半径」について、結局のところ、「1センチメートル以上」の半径ということになるが、例えば原査定の拒絶の理由にも引用された特表2010-527226号公報の段落【0076】に記載のように、誘導式の充電器における有効作動距離(本願補正発明でいう「エネルギー伝送ゾーン」の距離(半径))としては、誘導コイルに供給される電力や周波数などに依存し、数インチの作動距離が得られることは周知の技術事項であるといえ、引用発明においても、一連の複数の誘導コイルから放射される誘導磁界によって複数の装置を充電することが可能な範囲、つまり上記有効作動距離を数インチ(1インチは約2.54センチメートル)とし、相違点1に係る構成とすることは当業者が適宜なし得ることである。 [相違点2]について 引用発明における、誘導コイルと電源を構成する回路を調節するために使用される「充電パラメータ」としては、誘導磁界の向き、強度、位相、振幅および周波数といったパラメータが挙げられ、「波形の形」については挙げられていないものの、引用例2(上記(1-2)を参照)には、電子機器を非接触充電する充電器において、充電条件に応じて最適な条件となる振幅、周波数、波形形状の交流電流を送電コイルに供給することが記載されており(なお、送電コイルに供給する交流電流の「波形形状」を変えれば、当然、送電コイルから発生する交流磁界(誘導磁界)によるエネルギー伝送の波形の形も変わることになる。)、引用発明においても、「充電パラメータ」として誘導磁界の振幅や周波数などだけでなく「波形形状」も含むようにし、相違点2に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得ることである。 そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願補正発明が奏する効果は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項から当業者が十分に予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。 (4)むすび 以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.本件補正についてのむすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反し、また、仮に同法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当すると認められるとしても同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定する要件を満たさないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 平成30年3月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年11月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。 「【請求項1】 アンテナコンポーネントと、 前記アンテナコンポーネントを通して第1の装置に無線で送信される電力を送信し、前記第1の装置が前記電力を受信して前記第1の装置の電源を充電することができる送信機であって、前記第1の装置に電力を提供するのと同時に第2の装置に電力を送信するように動作可能な前記送信機と、 前記送信機の前記電力を制御するための命令を実行するように動作可能な制御装置であって、前記第1又は第2の装置のうちの少なくとも1つの充電プロファイルを検出するための命令を実行するように動作可能である、制御装置とを備え、 前記第1及び第2の装置が、前記アンテナコンポーネントの放射領域の中に存在し、 前記制御装置が、前記放射領域の半径を調整するように動作可能である、装置。」 1.引用例及び引用発明 原査定の拒絶の理由で引用された引用例とその記載事項、及び引用発明は、前記「第2 2-3.」の「(1-1)引用例1」に記載したとおりである。 2.対比 本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「送信機」について、「エネルギーを外部電子装置に伝送することが可能であるエネルギー伝送ユニットを更に備え、前記エネルギー伝送ユニットが前記エネルギー伝送ユニットから前記外部電子装置にエネルギーが伝送され得るエネルギー伝送ゾーンを生成し、前記エネルギー伝送ゾーンが1センチメートル若しくはそれ以上の、少なくとも10センチメートルの、又は100センチメートル若しくはそれ以上の半径を有し得る」ことの限定を省き、さらに、同じく発明特定事項である「制御装置」について、「前記充電プロファイルの必要条件に従って前記エネルギー伝送ユニットのパラメータを調整することが可能であり、前記エネルギー伝送ユニットの前記パラメータが前記エネルギー伝送ユニットにより出力される波形の形を含む」ことに代えて「前記第1及び第2の装置が、前記アンテナコンポーネントの放射領域の中に存在し」、「前記放射領域の半径を調整するように動作可能である」としたものである。 そして、引用発明にあっても、複数の装置に対して「同時に」電磁誘導により電力を提供して充電することができるものであるから、当然、複数の装置(本願発明でいう「第1及び第2の装置」)は、一連の複数の誘導コイル(本願発明でいう「アンテナコンポーネント」)から放射される誘導磁界の放射領域中に存在していることになる点も踏まえて、本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 2-3.(2)」で認定した[相違点1]は無くなり、[相違点2]に換えて下記の[相違点]で相違し、その余の点で一致するということができる。 [相違点] 制御装置が、本願発明では、「前記放射領域の半径を調整するように動作可能」である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。 3.判断 そこで、上記[相違点]について検討する。 引用発明は、「充電パラメータ」として誘導磁界の向き、強度、位相、振幅および周波数といったパラメータを含むものであるところ、これらパラメータのうち、特に強度、振幅、周波数を調節(調整)するようにすることは当業者が適宜なし得ることである。そして、これら強度、振幅、周波数を調節(調整)した場合、誘導磁界の放射領域の半径も調節(調整)されることになるのは自明なことである(原査定の拒絶の理由にも引用された特表2010-527226号公報の段落【0076】の記載も参照)。 よって、引用発明においても、強度、振幅、周波数といったパラメータを調整することにより、結果として誘導磁界の放射領域の半径を調整するように動作可能なものとし、相違点に係る構成とすることは当業者であれば適宜なし得ることである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2019-06-24 |
結審通知日 | 2019-06-25 |
審決日 | 2019-07-08 |
出願番号 | 特願2016-137721(P2016-137721) |
審決分類 |
P
1
8・
574-
Z
(H02J)
P 1 8・ 537- Z (H02J) P 1 8・ 121- Z (H02J) P 1 8・ 575- Z (H02J) P 1 8・ 572- Z (H02J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 古河 雅輝 |
特許庁審判長 |
國分 直樹 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 井上 信一 |
発明の名称 | 無線充電システム |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠彦 |