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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28G
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 F28G
管理番号 1357292
審判番号 不服2018-16306  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-06 
確定日 2019-11-20 
事件の表示 特願2017-146449号「プレート式熱交換器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日出願公開、特開2017-219305号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月20日に出願した特願2014-7445号の一部を平成29年7月28日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成30年 4月 3日付け:拒絶理由通知書
同年 6月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月 5日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年12月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
平成30年12月6日提出の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成30年6月7日提出の手続補正書により補正された)下記の(1)に示す特許請求の範囲を下記の(2)に示す特許請求の範囲に補正するものである。(下線は、補正箇所を示す。)

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
積層された複数の熱交換プレートのそれぞれを境にして低温流体を流通させる流路と高温流体を流通させる流路が交互に形成された熱交換ユニットを少なくとも1つ備えたプレート式熱交換器であって、
選択された少なくとも何れかの流路にオゾンを供給することにより、選択された前記流路に形成された付着物を除去する付着物除去手段が設けられており、
前記付着物除去手段が
選択された前記流路内の水を排水する排水機構と、
排水された前記流路内に気体のオゾンを供給するオゾン供給機構と、
供給された前記オゾンを、選択された前記流路を経由して形成された循環ラインに強制的に循環させるオゾン循環機構と
を備えており、
低温の流体供給管と流体排出管と間の温度差、または高温の流体供給管と流体排出管と間の温度差を監視する監視手段が設けられて、
前記監視手段による監視の結果に基づいて、対応する流路に対して、付着物除去手段を稼働させるように構成されていることを特徴とするプレート式熱交換器。
【請求項2】
積層された複数の熱交換プレートのそれぞれを境にして低温流体を流通させる流路と高温流体を流通させる流路が交互に形成された熱交換ユニットを少なくとも1つ備えたプレート式熱交換器であって、
選択された少なくとも何れかの流路にオゾンを供給することにより、選択された前記流路に形成された付着物を除去する付着物除去手段が設けられており、
前記付着物除去手段が
選択された前記流路内の媒体を清水に置換する清水置換機構と、
置換された前記流路内の清水にオゾンを供給するオゾン供給機構と、
前記オゾンが供給された清水を、選択された前記流路を経由して形成された前記循環ラインに強制的に循環させるオゾン循環機構と
を備えており、
低温の流体供給管と流体排出管と間の温度差、または高温の流体供給管と流体排出管と間の温度差を監視する監視手段が設けられて、
前記監視手段による監視の結果に基づいて、対応する流路に対して、付着物除去手段を稼働させるように構成されていることを特徴とするプレート式熱交換器。
【請求項3】
前記オゾン供給機構が、マイクロバブルノズルを備えており、前記清水にオゾンのマイクロバブルを供給するオゾン供給機構であることを特徴とする請求項2に記載のプレート式熱交換器。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
積層された複数の熱交換プレートのそれぞれを境にして低温流体を流通させる流路と高温流体を流通させる流路が交互に形成された熱交換ユニットを少なくとも1つ備えたプレート式熱交換器であって、
選択された少なくとも何れかの流路に、オゾンを供給することにより、選択された前記流路に形成された付着物を除去する付着物除去手段が設けられており、
前記付着物除去手段が
選択された前記流路内の水を排水する排水機構と、
排水された前記流路内に気体のオゾンを供給するオゾン供給機構と、
供給された前記オゾンを、選択された前記流路を経由して形成された循環ラインに強制的に循環させるオゾン循環機構と
を備えており、
低温の流体供給管と流体排出管と間の温度差、または高温の流体供給管と流体排出管と間の温度差を監視する監視手段が設けられて、
前記監視手段による監視の結果に基づいて、対応する流路に対して、付着物除去手段を稼働させるように構成されていることを特徴とするプレート式熱交換器。
【請求項2】
積層された複数の熱交換プレートのそれぞれを境にして低温流体を流通させる流路と高温流体を流通させる流路が交互に形成された熱交換ユニットを少なくとも1つ備えたプレート式熱交換器であって、
選択された少なくとも何れかの流路に、オゾンを供給することにより、選択された前記流路に形成された付着物を除去する付着物除去手段が設けられており、
前記付着物除去手段が
選択された前記流路内の媒体を清水に置換する清水置換機構と、
置換された前記流路内の清水にオゾンを供給するオゾン供給機構と、
前記オゾンが供給された清水を、選択された前記流路を経由して形成された前記循環ラインに強制的に循環させるオゾン循環機構と
を備えており、
低温の流体供給管と流体排出管と間の温度差、または高温の流体供給管と流体排出管と間の温度差を監視する監視手段が設けられて、
前記監視手段による監視の結果に基づいて、対応する流路に対して、付着物除去手段を稼働させるように構成されていることを特徴とするプレート式熱交換器。
【請求項3】
前記オゾン供給機構が、マイクロバブルノズルを備えており、前記清水にオゾンのマイクロバブルを供給するオゾン供給機構であることを特徴とする請求項2に記載のプレート式熱交換器。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1及び2における「選択された少なくとも何れかの流路に」との記載の後に読点を追加して、「選択された少なくとも何れかの流路に、」と補正するものであり、これにより「付着物除去手段」を設ける対象が「選択された少なくとも何れかの流路」であることが明確にされたから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とするものである。
また、本件補正は新規事項を追加するものではない。
したがって、本件補正は適法になされたものである。

3 本件補正発明
本件補正は適法になされたものであるから、本願の請求項1ないし3に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記1(2)の【請求項1】に記載のとおりのものである。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次のとおりである。
請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献4ないし6に記載された周知技術に基いて、請求項2に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献4ないし6に記載された周知技術に基いて、請求項3に係る発明は、引用文献2及び3に記載された発明並びに引用文献4ないし6に記載された周知技術に基いて、それぞれその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開平6-137785号公報
2.特開平10-311699号公報
3.国際公開第2011/064880号
4.特開2002-317919号公報
5.特開平10-300388号公報
6.特開昭57-157998号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平6-137785号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付したものである。)。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は熱交換器における微生物の除去方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、例えば火力発電所等において発電に用いられた蒸気を冷却する熱交換器の一種である復水器がある。そして、この種の復水器の冷却には、通常海水を用いて復水器内を連続的に循環させるようにしている。しかし、海水中には多量の微生物等が含まれており、これらが繁殖すると復水器内の微細な伝熱管の閉塞や、熱交換器の悪化という不都合を引き起こす。そこで、微生物等の繁殖を回避させる目的で殺生作用を有するオゾンガスを用いて微生物等を除去する方法がある。
【0003】この方法によると復水器内の海水を全て排水し、その後復水器の内部領域と外部領域の接続を遮断し、密閉状態にした後、復水器内にオゾンガスを直接注入し、復水器内に付着した微生物等を除去する。そして、所定時間経過後に復水器の内部領域と外部領域を接続し、オゾンガスを外部領域へ排出している。」

「【0011】図1に示すように、火力発電所用冷却ユニット1は火力発電時において発電機より排出された高温水蒸気を冷却しかつ再利用するために、水蒸気排出経路上に設置されるものである。この冷却ユニット1は熱交換器としての復水器2を備えている。復水器2には図示しない海水供給口に接続される海水供給用パイプ3と、図示しない海水排出口に接続される海水排水用パイプ4に接続されている。海水供給用パイプ3上には海水の供給量を調整するためのメインバルブV_(M3)が設けられている。海水排出用パイプ4上には、海水の排出量を調整するためのメインバルブV_(M4)が設けられている。従って、供給口より取り込まれた冷却用の海水は、海水供給用パイプ3、復水器2、及び海水排出用パイプ4を経て、排水口より排出される。そして、水蒸気の冷却時においては、復水器2に供給された海水と高温の水蒸気との間で熱交換が行われ、その結果として水蒸気が所定温度まで冷却される。
【0012】各メインバルブV_(M)3,V_(M)4と復水器2との間における海水供給用パイプ3と海水排水用パイプ4上には、復水器2内にオゾンガスを連続的に循環するための循環用パイプP_(1) が接続されている。すなわち、循環用パイプP_(1) と海水供給用パイプ3及び海水排水用パイプ4により循環経路Cが形成されている。循環用パイプP_(1) 上にはバルブV_(1) ,循環手段としてのブロアファン5,バルブV_(7) ,バルブV_(2) が直列に介在されている。そして、ブロアファン5は循環経路C及び復水器2内のオゾン処理前、オゾン処理及びオゾン処理後に駆動するようになっており、循環経路C内の気流を反時計回り方向に循環させるようになっている。
【0013】バルブV_(1) とブロアファン5間における循環用パイプP_(1) 上には、オゾン供給用パイプP_(3) を介してオゾナイザ6が接続されている。オゾン供給用パイプP_(3)上にはオゾンガスの供給量を調整するためのバルブV_(3) が介在され、このバルブV_(3) の開度は後記する制御装置8にて制御されている。又、ブロアファン5とバルブV_(7) 間における循環用パイプP_(1) 上には、乾燥用パイプP_(5) を介してゼオライト槽を備えた乾燥器7が接続されている。乾燥用パイプP_(5) 上にはバルブV_(5)が介在されている。
【0014】さらに、バルブV_(7) とバルブV_(2) 間における循環用パイプP_(1) 上には、オゾンガスから酸素への転化を促進する触媒を備えた排オゾン処理塔9がオゾン排出用パイプP_(4) を介して接続されている。オゾン排出用パイプP_(4) 上にはバルブV_(4)が介在され、このバルブV_(4) の開度は後記する制御装置8にて制御されている。又、バルブV_(7) とバルブV_(2) 間における循環用パイプP_(1) 内には、オゾンガスの濃度を検出するオゾンセンサS_(O) と、同循環用パイプP_(1) 内の圧力を検出する圧力センサS_(P) が設けられている。そして、前記オゾナイザ6、オゾンセンサS_(O)及び圧力センサS_(P) は、これらを制御する制御装置8に電気的に接続されている。すなわち、制御装置8はオゾンセンサS_(O) の濃度検出信号に基づいてバルブV_(4) の開度を調整するとともに、オゾナイザ6から発生させるオゾンガス濃度の調整が可能となっている。さらに、制御装置8は圧力センサS_(P) の検出信号に基づいてバルブV_(3) の開度を調整可能となっている。尚、メインバルブV_(M4)と復水器2との間における海水排水用パイプ4上には、ドレーンパイプP_(6) 及びバルブV_(6) が接続されており、これらのドレーンパイプP_(6) 、バルブV_(6) を介して大気圧領域に接続されている。そして、冷却ユニット1の運転時には、各バルブV_(1) ?V_(6) は閉成されている。
【0015】次に、復水器1内に繁殖した微生物をオゾンガス処理により除去する方法について詳細に説明する。
(a)オゾン処理前
オゾン処理を行う前にあたりメインバルブV_(M3)は閉成及びメインバルブV_(M4)は開放され、復水器1内の海水は予め外部に排出される。次いで、復水器2内の海水を完全に排出した後に、メインバルブV_(M4)を閉成して、復水器2の内部領域と外部領域との接続を遮断する。そして、バルブV_(1) ,V_(5) ,V_(6) を拡開し、循環経路Cを連通させる。それとともに、ブロアファン5及び乾燥器7を作動させ、乾燥器7から乾燥用パイプP_(5) を介してゼオライト槽から生成されるドライエアーを循環用パイプP_(1) 、海水供給用パイプ3、復水器2、海水排水用パイプ4、ドレーンパイプP_(6) を介して大気圧領域へ排出する。この結果、各パイプP_(1) ,3,4内及び復水器2内の水分は除去されるとともに乾燥する。乾燥後は乾燥器7を停止し、バルブV_(5) ,V_(6) を閉成するとともに、バルブV_(2) ,V_(7) を拡開する。この時、ブロアファン5は作動状態であるとともに、バルブV_(1) は拡開したままである。
【0016】(b)オゾン処理
続いて、オゾン処理を行うにあたり、バルブV_(3) を拡開するとともに、オゾナイザ6を作動させる。そして、所定濃度のオゾンガスを連続的に発生させるとともに、そのオゾンガスをオゾン供給用パイプP_(3) を介して循環用パイプP_(1) へ注入される。すると、循環用パイプP_(1) へ注入されたオゾンガスはブロアファン5からの風圧により、循環用パイプP_(1) 、海水供給用パイプ3、復水器2、海水排水用パイプ4の順に循環経路C内を流動的に循環される。
【0017】オゾンガスを循環して所定時間経過後、オゾンセンサS_(O) は循環用パイプP_(1)内のオゾンガス濃度が所定濃度(約600ppm)になったことを検出すると、制御装置8にその検出信号を出力する。すると、制御装置8はこの検知信号に基づきオゾナイザ6を停止させるとともに、バルブV_(3) を閉成する。又、オゾンセンサS_(O) が循環用パイプP_(1) を循環するオゾンガス濃度が所定濃度以下となったことを検出すると、制御装置8にその検出信号を出力し、この検知信号に基づき制御装置8はオゾナイザ6を再び作動させるとともに、バルブV_(3) を拡開する。すなわち、上記一連の動作により各パイプP_(1) ,3,4内及び復水器2内のオゾンガス濃度は一定に保持される。
【0018】さらに、圧力センサS_(P) はオゾンガス注入により循環用パイプP_(1) の管内圧力が所定値よりも上昇したことを検出すると、制御装置8にその検出信号を出力する。すると、制御装置8はこの検知信号に基づきバルブV_(4) を拡開して放圧する。そして、圧力センサS_(P) は循環用パイプP_(1) の管内圧力が所定値以下となったことを検出すると、制御装置8にその検出信号を出力し、制御装置8はこの検知信号に基づきバルブV_(4) を再び閉成する。この一連の動作により復水器2内に繁殖する微生物に対し均一にオゾンガスが接触し、殺菌除去作業が完了される。微生物除去後はオゾナイザ6を停止し、バルブV_(3) を閉成する。この時、ブロアファン5は作動状態である。」



」(図1)

2 上記1の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、熱交換器としての復水器2における微生物等の除去に関するものである(【0001】及び【0011】を参照。)。
b 復水器2は、供給された海水と高温の水蒸気との間で熱交換を行うものである(【0011】を参照。)。
c 復水器2には、海水供給用パイプ3と海水排水用パイプ4が接続される(【0011】を参照。)。
d 海水供給用パイプ3と海水排水用パイプ4上には、復水器2内にオゾンガスを連続的に循環するための循環用パイプP_(1) が接続される(【0012】を参照。)。
e 循環用パイプP_(1)上には、循環手段としてのブロアファン5が設けられるととともに、オゾナイザ6が接続される(【0012】及び【0013】を参照。)。
f オゾン処理を行う前に、海水排出用パイプ4上に設けられたメインバルブV_(M4)が開放されて、復水器2内の海水は外部に排出される(【0011】及び【0015】を参照。)。
g オゾン処理を行うにあたり、オゾナイザ6を作動させて、オゾンガスを循環用パイプP_(1)へ注入し、オゾンガスはブロアファン5からの風圧により、循環用パイプP_(1)、海水供給用パイプ3、復水器2、海水排水用パイプ4の順に循環経路C内を流動的に循環される(【0016】を参照。)。
h 復水器2内に繁殖した微生物をオゾンガス処理により除去する(【0015】を参照。)

3 上記1、2から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「供給された海水と高温の水蒸気との間で熱交換を行う復水器2であって、
復水器2には、海水供給用パイプ3と海水排水用パイプ4が接続され、
海水供給用パイプ3と海水排水用パイプ4上には、復水器2内にオゾンガスを連続的に循環するための循環用パイプP_(1) が接続され、
循環用パイプP_(1)上には、循環手段としてのブロアファン5が設けられるととともに、オゾナイザ6が接続され、
オゾン処理を行う前に、海水排出用パイプ4上に設けられたメインバルブV_(M4)が開放されて、復水器2内の海水は外部に排出され、
オゾン処理を行うにあたり、オゾナイザ6を作動させて、オゾンガスを循環用パイプP_(1)へ注入し、オゾンガスはブロアファン5からの風圧により、循環用パイプP_(1)、海水供給用パイプ3、復水器2、海水排水用パイプ4の順に循環経路C内を流動的に循環され、
復水器2内に繁殖した微生物をオゾンガス処理により除去する、復水器2。」

第5 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると次のとおりとなる。
ア 引用発明における「復水器2」は、「供給された海水と高温の水蒸気との間で熱交換を行う」ものであり、低温の「海水」と高温の「水蒸気」のそれぞれの流路が形成されるものであることは明らかであるから、本件補正発明における「積層された複数の熱交換プレートのそれぞれを境にして低温流体を流通させる流路と高温流体を流通させる流路が交互に形成された熱交換ユニットを少なくとも1つ備えた」、「プレート式熱交換器」と、「低温流体を流通させる流路と高温流体を流通させる流路が形成された熱交換ユニットを少なくとも1つ備えた」、「熱交換器」という限りにおいて一致する。

イ 引用発明における「メインバルブV_(M4)」、「ブロアファン5」及び「オゾナイザ6」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、それぞれ本件補正発明における「排水機構」、「オゾン循環機構」及び「オゾン供給機構」に相当する。そして、引用発明において、「海水供給用パイプ3と海水排水用パイプ4上には、復水器2内にオゾンガスを連続的に循環するための循環用パイプP_(1) が接続され」、「循環用パイプP_(1)上には、循環手段としてのブロアファン5が設けられるととともに、オゾナイザ6が接続され」、「オゾン処理を行う前に、海水排出用パイプ4上に設けられたメインバルブV_(M4)が開放されて、復水器2内の海水は外部に排出され」、「オゾン処理を行うにあたり、オゾナイザ6を作動させて、オゾンガスを循環用パイプP_(1)へ注入し、オゾンガスはブロアファン5からの風圧により、循環用パイプP_(1)、海水供給用パイプ3、復水器2、海水排水用パイプ4の順に循環経路C内を流動的に循環され」、「復水器2内に繁殖した微生物をオゾンガス処理により除去する」のであるから、引用発明における「メインバルブV_(M4)」と「循環用パイプP_(1) 」と「ブロアファン5」と「オゾナイザ6」とを併せた部分は、本件補正発明における「付着物除去手段」に相当する。

ウ 引用発明における「メインバルブV_(M4)」と「循環用パイプP_(1) 」と「ブロアファン5」と「オゾナイザ6」とを併せた部分(本件補正発明における「付着物除去手段」に相当)は、前記「海水供給用パイプ3」及び「海水排水用パイプ4」にオゾンガスを供給することにより、前記「海水供給用パイプ3」及び「海水排水用パイプ4」に形成された付着物を除去するものであるから、本件補正発明における「選択された少なくとも何れかの流路に、オゾンを供給することにより、選択された前記流路に形成された付着物を除去する」、「付着物除去手段」と、「流路に、オゾンを供給することにより、前記流路に形成された付着物を除去する」、「付着物除去手段」という限りにおいて一致する。

エ 引用発明において、「オゾン処理を行う前に、海水排出用パイプ4上に設けられたメインバルブV_(M4)が開放されて、復水器2内の海水は外部に排出され」るのであるから、引用発明における「メインバルブV_(M4)」は、「開放され」ることにより、前記「海水供給用パイプ3」及び「海水排水用パイプ4」内の水を排水するものであることは明らかである。

オ 引用発明において、「オゾン処理を行うにあたり、オゾナイザ6を作動させて、オゾンガスを循環用パイプP_(1)へ注入し、オゾンガスはブロアファン5からの風圧により、循環用パイプP_(1)、海水供給用パイプ3、復水器2、海水排水用パイプ4の順に循環経路C内を流動的に循環され」るのであり、また、前記「海水供給用パイプ3」及び「海水排水用パイプ4」内の水がオゾン処理を行う前に排水されることは上記エにおいて記載したとおりであるから、引用発明における「オゾナイザ6」が、排水された前記「海水供給用パイプ3」及び「海水排水用パイプ4」内に気体のオゾンを供給することは明らかである。

カ 引用発明において、「オゾン処理を行うにあたり、オゾナイザ6を作動させて、オゾンガスを循環用パイプP_(1)へ注入し、オゾンガスはブロアファン5からの風圧により、循環用パイプP_(1)、海水供給用パイプ3、復水器2、海水排水用パイプ4の順に循環経路C内を流動的に循環され」るのであるから、引用発明における「ブロアファン5」が、供給されたオゾンガスを、前記「海水供給用パイプ3」及び「海水排水用パイプ4」を経由して形成された循環ラインに強制的に流動させることは明らかである。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「低温流体を流通させる流路と高温流体を流通させる流路が形成された熱交換ユニットを少なくとも1つ備えた熱交換器であって、
流路に、オゾンを供給することにより、前記流路に形成された付着物を除去する付着物除去手段が設けられており、
前記付着物除去手段が
前記流路内の水を排水する排水機構と、
排水された前記流路内に気体のオゾンを供給するオゾン供給機構と、
供給された前記オゾンを、前記流路を経由して形成された循環ラインに強制的に循環させるオゾン循環機構と
を備えている、熱交換器。」

[相違点1]
本件補正発明においては、「熱交換器」が「積層された複数の熱交換プレートのそれぞれを境にして低温流体を流通させる流路と高温流体を流通させる流路が交互に形成された」、「プレート式熱交換器」であるのに対して、引用発明においては、熱交換器である「復水器2」がそのような構成を有するのか不明である点(以下「相違点1」という。)

[相違点2]
流路にオゾンを供給することに関し、本件補正発明においては、「選択された少なくとも何れかの流路」に対してオゾンを供給するのに対して、引用発明においては「海水供給用パイプ3」及び「海水排水用パイプ4」にオゾンガスを供給する点(以下「相違点2」という。)

[相違点3]
本件補正発明においては、「低温の流体供給管と流体排出管と間の温度差、または高温の流体供給管と流体排出管と間の温度差を監視する監視手段が設けられて」、「前記監視手段による監視の結果に基づいて、対応する流路に対して、付着物除去手段を稼働させるように構成されている」のに対して、引用発明においては、そのような構成が特定されていない点(以下「相違点3」という。)

第6 判断
上記相違点について検討する。

[相違点1について]
熱交換器の技術分野において、復水器等に用いられる熱交換器の種類として「積層された複数の熱交換プレートのそれぞれを境にして低温流体を流通させる流路と高温流体を流通させる流路が交互に形成された」、「プレート式熱交換器」は、広く知られたものであり(例えば、特開2012-176364号公報の明細書の【0022】及び図3等、国際公開第2007/148482号の明細書の[0003]及び図7等、特開平10-267592号公報の明細書の【0011】等を参照。)、引用発明における復水器2の種類として、当該プレート式熱交換器を採用し、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得た程度のことである。

[相違点2について]
本件補正発明における「選択された少なくとも何れかの流路」について、本件補正発明では「低温流体を流通させる流路」及び「高温流体を流通させる流路」の両者が選択可能であることは特定しておらず、また、明細書においても、「低温流体を流通させる流路」にオゾンを供給する例が示されており、「低温流体を流通させる流路」のみにオゾンが供給されるものも、本件補正発明の範囲に含むものと解される。
また、「選択された」について、本件補正発明では具体的にどのタイミングで又はどのような条件で「選択された」のかを特定していないから、例えば、熱交換器の設計時に(オゾンの供給が必要な流路として)選択された流路も、その文言上、発明の範囲に含み得ると解され、明細書の記載を参酌してもそのようなものが発明の範囲から明確に排除されているとはいえない。
以上を踏まえると、引用発明における「海水供給用パイプ3」及び「海水排水用パイプ4」は、「オゾンガスを連続的に循環するための循環用パイプP_(1) が接続され」るものであり、復水器の設計時において、複数の流路がある中からオゾンガスにより微生物等を除去する対象として「選択された」流路であることは明らかであるから、相違点2は実質的な相違点ではない。
仮に相違点2が実質的な相違点であるとしても、微生物等の付着物の除去が必要な範囲で対象となる流路を選択できるように構成することは、当業者が適宜なし得た程度のことである。

なお、請求人は、審判請求書において、「引用文献1、2は、「高温流路」側にもオゾンの供給回路を設けることについて全く気付いていません。従って、第三者が、引用文献1、2を見ても、「高温流路」側にオゾンの供給回路を設けるという考えは浮かばず、さらに両者を選択できるように構成するという考えは、全く浮かびません。このため、本願発明のような「高温流路」側にオゾンの供給回路を設けるという考え、さらに低温流路側と高温流路側の両者を選択できるように構成するという考えは、当業者と雖も、引用文献1、2に周知技術を組み合わせても、到底出て来るものではございません。」と主張する。
しかし、本件補正発明においては、「選択された少なくとも何れかの流路」に対して、オゾンを供給する付着物除去手段を設けることを特定しており、高温流路に対してオゾンを供給する手段を設けることは必須の構成とされていない。
したがって、上記主張は本件補正発明の発明特定事項に基づくものではなく、採用することはできない。
仮に、本件補正発明において、高温流路にオゾンを供給する手段を設けることが必須であることが特定されたとしても、例えば、実願平3-1929号(実開平4-100695号)のマイクロフィルム(【0012】及び図3等を参照。)に記載されているように、必要に応じて低温側のみでなく高温側にも付着物の除去手段を設けることは、当業者が適宜なし得た程度のことである。

[相違点3について]
熱交換器の技術分野において、流体供給管と流体排出管との間の温度差を監視する監視手段を設けて、前記監視手段による監視の結果に基づいて、対応する流路に対して付着物除去手段を稼働させることは、例えば、特開2002-317919号公報(【0030】、【0032】等を参照。)、特開平10-300388号公報(【0013】、【0017】、【0018】等を参照。)、特開昭57-157998号公報(第1ページ右下欄第16行ないし第2ページ左上欄第3行等を参照。)に示されるように、周知技術である。
引用文献1(【0002】、【0003】等を参照。)には、復水器内の伝熱管に微生物等が付着し該伝熱管の閉塞を引き起こすことが記載されており、微生物等の付着量を把握し、伝熱管の閉塞を引き起こす前に付着物の除去を行う必要があることは自明のことであるから、引用発明において、付着量を把握しその除去処理を行うタイミングを判断するための手段として上記周知技術を適用し、流体供給管である「海水供給用パイプ3」と流体排出管である「海水排水用パイプ4」との間の温度差を監視する監視手段を設けて、前記監視手段による監視の結果に基づいて、「海水供給用パイプ3」及び「海水排水用パイプ4」に対してオゾン処理を開始するよう構成することで、相違点3に係る発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

なお、請求人は、審判請求書において、上記主張の他に次のアないしウの主張をしているので、これらの主張について検討する。
ア プレート式熱交換器への採用の非容易性について
請求人は、「プレート式熱交換器は、厚みがなく流路が狭いプレートをゴムのガスケットを用いて組み立てることにより形成されています。そして、このようなプレート式熱交換器は、オゾンを避けることが一般的な考え方です。
即ち、プレート式熱交換器については、ゴムを腐食する恐れがあるオゾンの存在はよくないとされています。例えば、2017年3月、アルファ・ラバル社発行のプレート式熱交換器のカタログ(翻訳版)(参考文献1)の「まえがき」の「屋内の保管」の項目には、「ガスケットの損傷を防ぐため、保管する部屋に、電気モーターや溶接機器などのオゾンを発生する機器等が存在してはなりません。」と記載されており、プレート式熱交換器の保管に際しては、オゾンを発生する機器等が存在してはならないとされています。
このように、オゾンを避けることが一般的な考え方であるプレート式熱交換器において、プレートの洗浄に際して、オゾンを使用しようなどということは、慎重な取り扱いが求められる当業者であれば通常考えるものではなく、たとえ、引用文献1?3にオゾン洗浄の記載があったとしても、当業者であれば、この技術をプレート式熱交換器に適用しようと考えるものではございません。」と主張する。
しかし、プレート式熱交換器において、付着物の除去のためにオゾンを用いることは、例えば、特開平10-267592号公報(【0020】等を参照。)、特開平7-294184号公報(【0002】ないし【0009】等を参照。)、特開平11-351795号公報(【0002】ないし【0010】等を参照。)、特開2001-38366号公報(【0011】ないし【0017】等を参照。)等に記載されているように本願の出願前に普通に知られていることであるから、当業者であればプレート式熱交換器へのオゾン洗浄の技術の適用は考えないという旨の上記主張は採用することができない。

イ 監視手段の有無について
請求人は、「このような運転途中における付着物の除去について、引用文献1、2には、何ら記載されておらず、示唆する記載もございません。」と主張する。
しかし、引用発明において、流体供給管と流体排出管との間の温度差を監視する監視手段を設けて、前記監視手段による監視の結果に基づいて、対応する流路に対して付着物除去手段を稼働させることが容易に想到し得たものであることは、上記[相違点3について]で示したとおりである。
したがって、上記主張を採用することはできない。

ウ 各引用文献の公開日から本願出願までの期間の長さについて
請求人は、「本願発明の原出願である「特願2014-7445」の出願日は、以下のように、各引用文献の公開日に対して長い期間が開いており、このような長い期間の空白は、各引用文献から本願発明に至ることが決して容易ではないことを示しています。」と主張する。
しかし、各引用文献の公開日から本願出願までの期間の長さが、上記[相違点1について]ないし[相違点3について]で示した容易想到性の判断を否定する根拠にはならないことは明らかである。
したがって、上記主張を採用することはできない。

そして、本件補正発明は、全体としてみても引用発明及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない

第7 むすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-19 
結審通知日 2019-09-24 
審決日 2019-10-08 
出願番号 特願2017-146449(P2017-146449)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F28G)
P 1 8・ 574- Z (F28G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 裕介  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 大屋 静男
槙原 進
発明の名称 プレート式熱交換器  
代理人 上代 哲司  

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