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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1357321
審判番号 不服2019-6031  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-09 
確定日 2019-11-22 
事件の表示 特願2018-188412「ウェハ加工方法及びウェハ加工システム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月24日出願公開、特開2019- 12850〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年11月16日に出願した特願2010-256217号の一部を平成28年4月26日に新たな特許出願とした特願2016-87866号の一部を平成28年11月14日に新たな特許出願とした特願2016-221841号の一部を平成30年4月20日に新たな特許出願とした特願2018-81524号の一部を平成30年6月28日に新たな特許出願とした特願2018-123505号の一部を平成30年10月3日に新たな特許出願とした特願2018-188412号であり,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成30年11月 2日:拒絶理由通知(起案日)
平成30年12月 4日:意見書,手続補正書
平成30年12月20日:最後の拒絶理由(起案日)
平成31年 1月22日:意見書
平成31年 2月 7日:拒絶査定(起案日)
令和 元年 5月 9日:審判請求
令和 元年 6月12日:拒絶理由通知(起案日)
令和 元年 8月 9日:意見書,手続補正書

第2 本願発明
令和元年8月9日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,以下のとおりである。
「【請求項1】
ウェハの内部に設定された目標面まで前記ウェハを薄化してチップに分割するため,レーザ照射により前記ウェハの内部にレーザ改質領域を切断ラインに沿って形成する改質領域形成工程を備え,
前記改質領域形成工程は,前記ウェハの裏面から前記目標面までを研削砥石を用いて研削して前記ウェハを薄化する薄化工程よりも先に行われる工程であって,前記ウェハのデバイス面側を保持した状態で,前記ウェハの裏面側からレーザ光を照射し,前記ウェハの厚みの半分よりも深い位置で前記目標面よりレーザ照射側にある前記ウェハの内部に前記レーザ光を集光して,前記レーザ改質領域を一定の間隔で独立して形成し,前記改質領域の形成後,前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面には到達せず,且つ,前記研削が行われた後も前記レーザ改質領域から延びる前記微小亀裂が前記ウェハに残るように前記レーザ改質領域を形成する,
ウェハ加工方法。」

第3 拒絶の理由
令和元年6月12日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は,大略,次のとおりのものである。
本願発明1?18は,本願のもととなった特許出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1?5に記載された発明に基づいて,そのもととなった特許出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:特開2009-290052号公報
引用文献2:特許第3762409号公報
引用文献3:国際公開2008/146744号
引用文献4:特開2009-124035号公報
引用文献5:特開2007-235068号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には,以下の事項が記載されている(下線は,当審で付した。以下同じ。)。
「【請求項2】
基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに該ストリートの表面に膜が被覆されているウエーハを,該ストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの分割方法であって,
該基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程と,
該変質層形成工程が実施されたウエーハを構成する該基板の裏面を研削し,ウエーハを所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
該裏面研削工程が実施されたウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該ストリートに沿って該膜に照射してレーザー加工溝を形成し,該膜を該ストリートに沿って分断する膜分断工程と,
環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面にウエーハの裏面を貼着した状態で該ダイシングテープを拡張することによりウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断するウエーハ破断工程と,を含む,
ことを特徴とするウエーハの分割方法。」

「【発明の効果】
【0008】
本発明におけるウエーハの分割方法によれば,基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程とウエーハの基板に形成されたストリートの表面に被覆された膜をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施し後に,ウエーハに外力を付与してウエーハをストリートに沿って破断するので,ウエーハをストリートに沿って破断する際には膜はストリートに沿って分断されているため,膜が破断されずに残ることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下,本発明によるウエーハの分割方法の好適な実施形態について,添付図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1には本発明によるウエーハの分割方法によって分割されるウエーハの斜視図が示されており,図2には図1に示すウエーハの要部を拡大した断面図が示されている。図1および図2に示すウエーハ2は,例えば厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されている。このウエーハ2には,図2に示すようにストリート22およびデバイス23を含む表面21aに図示の実施形態においてはポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されている。」

「【0012】
裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて実施する。図4の(a)に示す研削装置4は,被加工物を保持するチャックテーブル41と,該チャックテーブル41に保持された被加工物を研削するための研削砥石42を備えた研削手段43を具備している。」

「【0016】
図5に示すレーザー加工装置5を用いて変質層形成工程を実施するには,図5に示すようにチャックテーブル51上にウエーハ2の表面21aに貼着された保護テープ3側を載置する。そして,図示しない吸引手段を作動することにより,保護テープ3を介してウエーハ2をチャックテーブル51上に保持する(ウエーハ保持工程)。従って,チャックテーブル51に保持されたウエーハ2は,裏面21bが上側となる。このようにして,ウエーハ2を吸引保持したチャックテーブル51は,図示しない加工送り機構によって撮像手段53の直下に位置付けられる。」

「【0032】
次に,本発明によるウエーハの分割方法の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態においては,先ずウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程を実施するに際し,ウエーハ2の表面に形成されたデバイス23を保護するために,上記図3の(a)および(b)に示すようにウエーハ2の表面21aに塩化ビニール等からなる保護テープ3を貼着する(保護テープ貼着工程)。そして,上記図5に示すようにレーザー加工装置5を用いて上記図6に示す変質層形成工程と同様に実施する。この結果,図14に示すようにウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する。
【0033】
上述した変質層形成工程を実行したならば,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削し,ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて上記第1の実施形態における裏面研削工程と同様に実施する。この結果,図15に示すようにウエーハ2は,基板21の裏面21bが研削されて所定の厚さ(例えば100μm)に形成される。なお,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μm以内の位置に形成すれば上記裏面研削工程を実施した後にも変質層210は残るが,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μmの位置より裏面2bに形成することにより,上記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210は除去される。従って,ウエーハ2の基板21には,図15に示すようにストリート22に沿って形成されたクラック211が残される。
【0034】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2の裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。このウエーハ支持工程は,上記図8に示すウエーハ支持工程と同様に実施し,ウエーハ2における基板21の表面21aに貼着されている保護テープ3を剥離する(保護テープ剥離工程)。
【0035】
上述したウエーハ支持工程および保護テープ剥離工程を実施したならば,上記ウエーハ2を構成する基板21の表面21aに被覆された高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリート22に沿って高分子化合物膜24に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜24をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施する。この膜分断工程は,上記図9に示すレーザー加工装置5を用いて,上記図10に示す膜分断工程と同様に実施する。この結果,図16に示すようにストリート22に被覆された高分子化合物膜24は,レーザー加工溝240によってストリート22に沿って分断される。
【0036】
上記膜分断工程を実施したならば,ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を実施する。このウエーハ破断工程は,上記図12に示すテープ拡張装置6を用いて上記図13に示すウエーハ破断工程と同様に実施する。この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割される。このとき,ウエーハ2の基板21の表面に被覆されている高分子化合物膜24は上述したようにストリート22に沿って形成されたレーザー加工溝240によって分断されているので,破断されずに残ることはない。
【0037】
上述した実施形態においては,上記裏面研削工程でウエーハ2の基板21の裏面を研削して変質層210が除去されており,ウエーハ2は基板21に形成されたクラック211に沿って破断される。従って,個々の分割されたデバイス23の破断面には変質層210が残存しないため,デバイス23の抗折強度が向上する。」

(2)引用発明
上記(1)からみて,引用文献1には,引用文献1に記載された発明の第2の実施形態であるウエーハの分割方法に関する,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「(a)ウエーハ2を準備する工程であって,前記ウエーハ2は,厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されており,このウエーハ2には,ストリート22およびデバイス23を含む表面21aにポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されているものである工程と,
(b)ウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,ウエーハ2の表面2aから100μmの位置より裏面2bに,ストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程であって,前記変質層形成工程は,チャックテーブル51上にウエーハ2の表面21aに貼着された保護テープ3側を載置して,吸引手段を作動することにより,保護テープ3を介してウエーハ2をチャックテーブル51上に保持して実施するものであり,この結果,ウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する工程と,
(c)前記変質層形成工程を実行した後に,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削して100μmの厚さに形成することで前記変質層210を除去するとともに,ウエーハ2の基板21に,ストリート22に沿って形成されたクラック211を残す裏面研削工程であって,前記裏面研削工程は,被加工物を保持するチャックテーブル41と,該チャックテーブル41に保持された被加工物を研削するための研削砥石42を備えた研削手段43を具備している研削装置4を用いて実施する工程と,
(d)前記裏面研削工程が実施されたウエーハ2の裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
(e)ウエーハ2における基板21の表面21aに貼着されている保護テープ3を剥離する保護テープ剥離工程と,
(f)前記ウエーハ2を構成する基板21の表面21aに被覆された高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリート22に沿って高分子化合物膜24に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜24をストリートに沿って分断する膜分断工程と,
(g)前記ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程であって,前記ウエーハ破断工程は,テープ拡張装置6を用いて実施するものであって,この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割されるものである工程と,
を備えたウエーハの分割方法。」

2 引用文献2の記載
(1)引用文献2には,以下の事項が記載されている。
「【請求項2】
基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,前記基板の切断予定ラインに沿って前記基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程と,
前記切断起点領域を形成する工程後,前記切断起点領域を起点として前記基板の厚さ方向に発生した割れの少なくとも一部が前記基板に残存し,且つ前記基板に前記改質領域が残存しないように前記基板を研磨する工程と,
を備えることを特徴とする基板の分割方法。」

「ここで,集光点とは,レーザ光が集光した箇所のことである。また,研磨とは,切削,研削及びケミカルエッチング等を含む意味である。さらに,切断起点領域とは,基板が切断される際に切断の起点となる領域を意味する。したがって,切断起点領域は,基板において切断が予定される切断予定部である。そして,切断起点領域は,改質領域が連続的に形成されることで形成される場合もあるし,改質領域が断続的に形成されることで形成される場合もある。」(第4ページ第3-8行)

「さて,本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域としては,次の(1)?(3)がある。
(1)改質領域が1つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合
<途中省略>
(2)改質領域が溶融処理領域の場合
<途中省略>
本発明者は,シリコンウェハの内部で溶融処理領域が形成されることを実験により確認した。実験条件は次の通りである。
(A)基板:シリコンウェハ(厚さ350μm,外径4インチ)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10^(-8)cm^(2)
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:20μJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
倍率:50倍
N.A.:0.55
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)基板が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
図12は,上記条件でのレーザ加工により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。シリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13が形成されている。なお,上記条件により形成された溶融処理領域13の厚さ方向の大きさは100μm程度である。」(第6ページ第46行-第8ページ第31行)

「以上により切断起点領域を形成する工程が終了し,半導体基板1の内部に切断起点領域が形成される。半導体基板1の内部に切断起点領域が形成されると,自然に或いは比較的小さな力によって,切断起点領域を起点として半導体基板1の厚さ方向に割れが発生する。実施例1では,上述した切断起点領域を形成する工程において,半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成され,この切断起点領域を起点として半導体基板1の厚さ方向に割れが発生している。図16は切断起点領域形成後の半導体基板1を示す図である。図16に示すように,半導体基板1において切断起点領域を起点として発生した割れ15は,切断予定ラインに沿うよう格子状に形成され,半導体基板1の表面3にのみ到達し,裏面21には到達していない。すなわち,半導体基板1に発生した割れ15は,半導体基板1の表面にマトリックス状に形成された複数の機能素子19を個々に分割している。また,この割れ15により切断された半導体基板1の切断面は互いに密着している。
なお,「半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成される」とは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,半導体基板1の厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面3側に偏倚して形成されることを意味する。」(第11ページ第32-46行)

「なお,サファイア基板1の表面3上にn型層31及びp型層32を形成した後に,サファイア基板1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射し,サファイア基板1の内部に改質領域7を形成してもよい。また,レーザ光Lの照射は,サファイア基板1の表面3側から行ってもよいし,裏面21側から行ってもよい。n型層31及びp型層32の形成後に表面3側からレーザ光Lの照射を行う場合にも,レーザ光Lはサファイア基板1,n型層31及びp型層32に対して光透過性を有するため,n型層31及びp型層32が溶融するのを防止することができる。」(第14ページ第21-27行)

(2)引用文献2に記載されている技術的事項
上記記載から,引用文献2には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
・「基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,前記基板の切断予定ラインに沿って前記基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程と,
前記切断起点領域を形成する工程後,前記切断起点領域を起点として前記基板の厚さ方向に発生した割れの少なくとも一部が前記基板に残存し,且つ前記基板に前記改質領域が残存しないように前記基板を研磨する工程であって,前記研磨は,研削を含む意味で用いられている工程と,
を備えることを特徴とする基板の分割方法」において,
前記切断起点領域を,前記改質領域を断続的に形成すること。

・改質領域が溶融処理領域の場合,レーザ加工によりシリコンウェハの内部に形成される溶融処理領域の厚さ方向の大きさは100μm程度であること。

・半導体基板の内部の表面側に近い位置に切断起点領域が形成されるとは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,半導体基板の厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面側に偏倚して形成されることを意味すること。

・レーザ光の照射は,サファイア基板の表面側から行ってもよいし,裏面側から行ってもよいこと。

3 引用文献3の記載
(1)引用文献3には,以下の事項が記載されている。
「[0007]また,加工対象物を保持する保持手段に加工対象物を取り付ける工程を含むことが好ましい。この場合,切断後の加工対象物がばらばらに散乱するのを防止することができる。なお,保持手段に加工対象物を取り付けた上でエッチングを行う場合には,改質領域及び改質領域から発生した亀裂が,保持手段との界面に至らないようにする(界面よりも手前で改質領域及び亀裂の形成を止める)ことが好ましい。これは,エッチング材が改質領域及び亀裂を伝って界面に到達すると,例えば,このエッチング材により加工対象物が保持手段から剥離したり,デバイス面を汚染したりする場合があるためである。」

「[0024]なお,集光点Pとは,レーザ光Lが集光する箇所のことである。また,切断予定ライン5は,直線状に限らず曲線状であってもよいし,仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。また,改質領域7は,連続的に形成される場合もあるし,断続的に形成される場合もある。また,改質領域は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また,改質領域を起点に亀裂が形成される場合があり,亀裂及び改質領域は,加工対象物1の外表面(表面,裏面,若しくは外周面)に露出していてもよい。」

(2)引用文献3に記載されている技術的事項
上記記載から,引用文献3には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
・改質領域は,断続的に形成される場合もあること。

第5 対比
本願発明1と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
1 引用発明の「ウエーハ2」,「『レーザー光線を』『照射』」,「変質層210」,「ストリート22」,「『シリコン基板21』の『デバイス23を含む表面21a』」,「クラック211」は,本願発明1の「ウェハ」,「レーザ照射」,「レーザ改質領域」,「切断ライン」,「ウェハのデバイス面」,「微小亀裂」に相当する。

2 引用発明は,「(c)前記変質層形成工程を実行した後に,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削して100μmの厚さに形成することで前記変質層210を除去するとともに,ウエーハ2の基板21に,ストリート22に沿って形成されたクラック211を残す裏面研削工程」を備えるものであって,引用発明の前記「裏面研削工程」は,本願発明1の「ウェハの裏面から前記目標面までを研削砥石を用いて研削して前記ウェハを薄化する薄化工程」に相応するから,引用発明の「ウエーハ2の表面2aから100μmの位置」にある面は,本願発明1の「ウェハの内部に設定された目標面」に相当する。

3 引用発明は,「(b)ウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,ウエーハ2の表面2aから100μmの位置より裏面2bに,ストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程」を備えるものであって,上記2のとおり,引用発明の「ウエーハ2の表面2aから100μmの位置」にある面は,本願発明1の「ウェハの内部に設定された目標面」に相当し,さらに,引用発明の「ウェハの裏面側」は,本願発明1の「レーザ照射側」に相当することから,本願発明1と,引用発明は,「『目標面よりレーザ照射側にある前記ウェハの内部に前記レーザ光を集光して』『レーザ改質領域を』『形成』」する点で共通する。

4 引用発明は,「(c)前記変質層形成工程を実行した後に,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削して100μmの厚さに形成することで前記変質層210を除去するとともに,ウエーハ2の基板21に,ストリート22に沿って形成されたクラック211を残す裏面研削工程」の後に,「(g)前記ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程であって,前記ウエーハ破断工程は,テープ拡張装置6を用いて実施するものであって,この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割されるものである工程」を備えるのであるから,引用発明においては,裏面研削工程が終了した時点においては,ウエーハ2は分割されておらず,しかも,改質領域から延びるクラック211が,裏面研削工程終了後のウエーハ2に残っていることは明らかといえる。したがって,本願発明1と,引用発明は,「前記研削が行われた後も前記レーザ改質領域から延びる前記微小亀裂が前記ウェハに残るように前記レーザ改質領域を形成する」点で共通する。

上記1ないし4から,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,相違する。
<一致点>
「ウェハの内部に設定された目標面まで前記ウェハを薄化してチップに分割するため,レーザ照射により前記ウェハの内部にレーザ改質領域を切断ラインに沿って形成する改質領域形成工程を備え,
前記改質領域形成工程は,前記ウェハの裏面から前記目標面までを研削砥石を用いて研削して前記ウェハを薄化する薄化工程よりも先に行われる工程であって,前記ウェハのデバイス面側を保持した状態で,前記ウェハの裏面側からレーザ光を照射し,前記目標面よりレーザ照射側にある前記ウェハの内部に前記レーザ光を集光して,前記レーザ改質領域を形成し,且つ,前記研削が行われた後も前記レーザ改質領域から延びる前記微小亀裂が前記ウェハに残るように前記レーザ改質領域を形成する,
ウェハ加工方法。」

<相違点>
・相違点1:本願発明1は,「ウェハの厚みの半分よりも深い位置」でレーザ光を集光するのに対して,引用発明は,この点が特定されていない点。

・相違点2:本願発明1は,レーザ改質領域を「一定の間隔で独立」して形成するのに対して,引用発明は,この点が特定されていない点。

・相違点3:本願発明1は,「前記改質領域の形成後,前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面には到達せず」と特定されているのに対して,引用発明は,この点が特定されていない点。

第6 判断
上記相違点について,判断する。
・相違点1について
引用発明は,「厚さが600μmのシリコン基板21」からなる「ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削して100μmの厚さに形成することで前記変質層210を除去するとともに,ウエーハ2の基板21に,ストリート22に沿って形成されたクラック211を残す裏面研削工程」の後に,この残されたクラック211によって強度が低下せしめられたストリート22に沿って,100μmの厚さに形成したウエーハ2を破断して個々のデバイス23に分割する発明であり,この残されたクラック211は,変質層210から発生したものである。
そして,当該変質層210を,100μmの厚さに形成したウエーハ2に残されるクラック211の近傍に形成することは,当該クラック211の形成の制御性を高める等の当業者が通常考慮する課題に照らして当然であるから,引用発明においても,当該変質層210を形成するレーザ光の集光は,100μmの厚さに形成したウエーハ2に残されるクラック211の近傍である「厚さが600μmのシリコン基板21」の「厚みの半分よりも深い位置」に行われるものと理解することが自然といえる。したがって,相違点1は,実質的なものではない。
また,仮に,引用文献1の記載からは,引用発明において,レーザ光を「厚さが600μmのシリコン基板21」の「厚みの半分よりも深い位置」に集光することが理解できないとしても,変質層210を,100μmの厚さに形成したウエーハ2に残されるクラック211の近傍に形成することは,当業者が容易に想到し得たことであるから,相違点1について本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

・相違点2について
上記第4の2(2)のとおり,引用文献2には,「基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,前記基板の切断予定ラインに沿って前記基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程と,前記切断起点領域を形成する工程後,前記切断起点領域を起点として前記基板の厚さ方向に発生した割れの少なくとも一部が前記基板に残存し,且つ前記基板に前記改質領域が残存しないように前記基板を研磨する工程であって,前記研磨は,研削を含む意味で用いられている工程と,を備えることを特徴とする基板の分割方法」において,前記切断起点領域を,前記改質領域を断続的に形成することが記載されている。
また,上記第4の3(2)のとおり,引用文献3には,改質領域は,断続的に形成される場合もあることが記載されている。
すなわち,レーザ改質領域を,「一定の間隔で独立して形成」することは,引用文献2,3の記載から周知の手段であると認められるから,引用発明において,相違点2について,本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

・相違点3について
引用発明は,「『変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する』段階を含む『変質層形成工程』」,「裏面研削工程」及び「(g)前記ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程であって,前記ウエーハ破断工程は,テープ拡張装置6を用いて実施するものであって,この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割されるものである工程」を備えた発明である。
そして,前記「分割されるものである工程」において,「ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下」しているものの,「ウエーハ2」には,「外力を付与」することができるのであるから,当該「分割されるものである工程」が始まる時点においては,クラック211は,シリコン基板21の表面21aには到達していないこと,すなわち,シリコン基板21が,クラック211によって,個々のデバイスに分かれていないことが理解できる。
そして,「分割されるものである工程」が始まる時点において,クラック211が,シリコン基板21の表面21aには到達していないのであれば,それよりも前の時点である,変質層形成工程の終了時において,クラック211が,シリコン基板21の表面21aには到達していないことは当然である。
一方,上記「相違点1について」で検討したように,引用発明において,レーザ光の集光は,「ウェハの厚みの半分よりも深い位置」に行われていたか,もしくは,レーザ光の集光を,「ウェハの厚みの半分よりも深い位置」に行うことが容易であったことが認められる。
そうすると,変質層形成工程の終了時において,クラック211が,レーザ光の集光する位置からより近い距離にあるシリコン基板21の表面21aに到達していないのであるから,同じ変質層形成工程の終了時において,クラック211が,レーザ光の集光する位置からより遠い距離にあるシリコン基板21の裏面21bに到達していないことは明らかといえる。したがって,相違点3は,実質的なものではない。
また,仮に,引用文献1の記載からは,引用発明が,「前記改質領域の形成後,前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面には到達せず」という構成を備えることを,直ちに理解することができないとしても,クラック211が,レーザ光の集光する位置からより近い距離にあるシリコン基板21の表面21aに到達していない引用発明において,変質層形成工程の後に,レーザ光の集光する位置からより遠い距離にあるシリコン基板21の裏面21bに到達しないようにすることは当業者が適宜なし得たことであり,また,このような構成を採用したことによる格別の効果も認められない。
すなわち,相違点3は,相違点1と同様に実質的なものではないか,あるいは,引用発明において,相違点3について,本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

審判請求人は,令和元年8月9日に提出した意見書において,「(イ)ここで,引用文献1の段落[0032]の「・・・第2の実施形態においては,先ずウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。・・・この結果,図14に示すようにウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する。」の記載および図14の記載からみて,引用発明においては,変質層形成工程が終了した時点では,変質層210から裏面21bに向けて発生したクラック211は裏面21bに到達していることは明らかといえる。」と主張するが,特許公報に記載される図面は,発明の理解を補助するためのものであって,図示の目的に応じて内容が取捨されて簡略なものとなっていることは周知の事項である。そして,図14及び【0032】の記載は,変質層210から表面21aおよび裏面21bに「向けて」クラック211が「発生」するという,クラック211の生成の機序と,その方向を説明するものに過ぎず,当該図面及び明細書の当該記載が,クラック211が,表面21aおよび裏面21bに到着することを説明するものであると認めることはできない。従って,審判請求人の主張は,引用文献1の記載の誤った理解に基づくものであり,当該理解に基づく前記主張は採用することができない。

そして,これらの相違点1ないし3を総合的に勘案しても,本願発明1の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
なお,審判請求人は,令和元年8月9日に提出した意見書において,「本願発明1は,相違点Aに係る本願発明1の構成により,ウェハの裏面を研削する際に,レーザ光が透過した部分を含むレーザ改質領域を除去することが可能となると共に,研削中に研削液などがウェハ内部に浸透せず,研削中のチップ飛びを軽減し,レーザ改質領域から延びる微小亀裂のみをチップ断面に残すことが可能となり,安定した品質のチップを効率よく得ることができる,という効果を奏し,この効果はその構成を採用することではじめてもたらされるものであるから,当業者が予想できたものとはいえないものである。」と主張するが,これらの効果は,明細書に記載されたものではないから,審判請求人の前記主張を採用することはできない。
したがって,本願発明1は,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1は,本願のもととなった特許出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2,3に記載された事項に基づいて,そのもととなった特許出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-06 
結審通知日 2019-09-09 
審決日 2019-10-10 
出願番号 特願2018-188412(P2018-188412)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 加藤 浩一
小田 浩
発明の名称 ウェハ加工方法及びウェハ加工システム  
代理人 松浦 憲三  

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