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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G05D
管理番号 1357348
審判番号 不服2019-5429  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-24 
確定日 2019-12-17 
事件の表示 特願2016-135106「自律移動体および自律移動体の移動制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年1月11日出願公開、特開2018-5771、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年7月7日の出願であって、平成30年7月6日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年8月29日に意見書及び手続補正書が提出され、平成31年1月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成31年4月24日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成31年1月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-2、10に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2016-62441号公報
2.特開2006-190105号公報
3.特開2012-81941号公報(周知技術を示す文献)


第3 本願発明
本願の請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は、平成30年8月29日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であるところ、本願発明1、10は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
互いに独立して回転駆動される2つの駆動輪と、
前記駆動輪よりも径の小さい少なくとも1つの従動キャスタと、
前記2つの駆動輪および前記従動キャスタが配設される基体と、
前記駆動輪の回転駆動を制御する制御部と、
走行路上の段差の情報を取得する取得部と
を備え、
前記制御部は、前記取得部による前記情報の取得の結果、進行方向に前記段差がないと認識した場合には、前記基体の前記進行方向に対する前側が前記従動キャスタとなることを許容して前記駆動輪を制御し、前記進行方向に前記段差があると認識した場合には、前記2つの駆動輪の少なくともいずれかが前記従動キャスタよりも先に前記段差に接触するように前記基体の向きを変更して前記段差に進入するように前記駆動輪を制御する自律移動体。」

「【請求項10】
互いに独立して回転駆動される2つの駆動輪と、前記駆動輪よりも径の小さい少なくとも1つの従動キャスタと、前記2つの駆動輪および前記従動キャスタが配設される基体とを備える自律移動体の移動制御方法であって、
走行路上の段差の情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップによる前記情報の取得の結果、進行方向に前記段差がないと認識した場合には、前記基体の前記進行方向に対する前側が前記従動キャスタとなることを許容して前記駆動輪を制御し、前記進行方向に前記段差があると認識した場合には、前記2つの駆動輪の少なくともいずれかが前記従動キャスタよりも先に前記段差に接触するように前記基体の向きを変更して前記段差に進入するように前記駆動輪を制御する制御ステップとを含む自律移動体の移動制御方法。」

また、本願発明2-9は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本願発明1を減縮した発明である。


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は全方位移動車に関し、特に障害物検知センサを備えた全方位移動車に関する。」

イ 「【0012】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施形態1に係る全方位移動車1の外観を示す正面図である。図2は、実施形態1に係る全方位移動車1の外観を示す底面図である。図3は、実施形態1に係る全方位移動車1の概略的システム構成を示すブロック図である。全方位移動車1は、台車2と、台車2に支持されたアーム3と、アーム3の先端に設けられたエンドエフェクタ4と、制御装置5を備えている。
【0013】
台車2は、例えば、一対の対向する駆動車輪24a、24bと、一対の左右方向に回動可能な従動車輪25a、25bと、が設けられたアクティブキャスタ式の全方位台車として構成されている。台車2は、各駆動車輪24a、24bを回転駆動することで、全方位移動車1の前後進、左右旋回、加減速、停止などの任意の走行を行うことができる。なお、従動車輪25a、25bは、旋回可能なキャスタ又はオムニホイールなどであり、全方向へ移動可能となっている。
【0014】
本実施形態では、台車2は、上部天板21と、下部天板22と、軸部23と、駆動車輪24a、24bと、従動車輪25a、25bと、車輪用駆動機構26a、26bと、旋回用駆動機構27と、障害物検知センサ28とを有している。
【0015】
上部天板21と下部天板22は、軸部23を介して対向して設けられている。上部天板21の中央部には、アーム3の下部が設置されている。また、上部天板21は、軸部23を中心として、下部天板22に対して旋回可能に設けられている。具体的には、上部天板21は、旋回用駆動機構27による軸部23の回転(図中のZ軸回りの回転)により回転する。なお、Z軸は、下部天板22の中央を通る軸である。このように、上部天板21は、ホロノミックに全方向に移動させることが可能な構成となっている。
【0016】
下部天板22には、駆動車輪24a、24bと、従動車輪25a、25bと、車輪用駆動機構26a、26bと、旋回用駆動機構27と、障害物検知センサ28が設けられている。なお、本実施形態では、上部天板21と下部天板22は、円形の天板であるが、他の形状であってもよい。
【0017】
駆動車輪24aは、車輪用駆動機構26aの動作により回転駆動する。また、同様に、駆動車輪24bは、車輪用駆動機構26bの動作により回転駆動する。」

ウ 「【0020】
障害物検知センサ28は、例えば超音波、レーザなどを出射することにより検知範囲A内の障害物を検知するセンサである。障害物検知センサ28は、障害物を検知すると、検知信号を制御装置5に出力する。障害物検知センサ28は、台車2の前方部分、より具体的には下部天板22の前方部分(下部天板22における、X軸の正方向の端部付近)に設けられている。また、障害物検知センサ28の検知範囲Aが前方(図中のX軸の正方向)を向くように配置されている。ここで、障害物検知センサ28の検知方向について、次のように定義する。障害物検知センサ28の検知方向とは、障害物検知センサ28を起点とし、検知範囲A内の一点を終点とするベクトルである。例えば、検知範囲Aの中心を通る中心ベクトル(図中のX軸に重なるベクトル)が、検知方向の一例として該当する。以下の説明では、一例として、障害物検知センサ28の検知方向は、検知範囲Aの中心ベクトルを検知方向であるものとして説明する。
【0021】
なお、本実施形態では、図に示されるように、障害物検知センサ28は1つである。このため、障害物検知センサ28の検知範囲A以外の領域に存在する障害物については、全方位移動車1は、認知できない。」

エ 「【0024】
制御装置5は、例えば、制御処理、演算処理等を行うCPU(Central Processing Unit)5a、CPU5aによって実行される制御プログラム、演算プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)5b、処理データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)5c等からなるマイクロコンピュータを中心にして、ハードウェア構成されている。制御装置5は、作業や移動などの指示情報、各回転センサから出力される回転情報、及び障害物検知センサ28から出力される検知信号に基づいて、上述の各駆動機構を制御する。なお、指示情報は、例えば、ユーザにより図示しない入力装置から入力されてもよいし、ROM5bに予め記憶されていてもよい。
なお、上記全方位移動車1の構成は一例であり、これに限定されない。」

オ 「【0028】
動作計画部52は、全方位移動車1が初期位置から目標位置へと到達すため(当審注:「するため」の誤記と認める。)の動作を計画する。すなわち、動作計画部52は、目標位置算出部51により算出された初期位置と目標位置とをつなぐ全方位移動車1の空間上の軌道を算出する。動作計画部52は、例えば、RRT(Rapidly-exploring Random Tree)、A*(A-star)、ダイクストラ法等のサンプリングベースの探索手法あるいは非線形計画法などを用いてノードを探索することで、軌道を算出する。動作計画部52は、例えば、障害物にぶつからないなどといった、種々の制約条件満たす幾何学的な軌道を算出する。このため、動作計画部52は、障害物検知センサ28から障害物の検知信号が入力された場合、軌道の再算出を行う。動作計画部52は、探索したノード集合を軌道補間部53に出力する。」

カ 「【0062】
図9に示されるように、アクティブキャスタ式の台車では、下部天板22の後ろ側方向への走行が指示された場合、下部天板22の後ろ側以外の方向への走行が指示された場合と比べ、障害物検知センサ28の中心ベクトルが上部天板21の走行方向と略一致するまでに要する移動距離が長くなる。特に、下部天板22の真後ろの方向への走行が指示された場合には、駆動車輪24a、24bが後進を続けることとなり、走行方向と検知方向が真逆を向き続け、結果的に、速度制限が解除されないこととなる。なお、図9(a)は、初期位置における検知方向と走行方向とが直角の場合の全方位移動車1の走行例を示し、図9(b)は、初期位置における検知方向が走行方向とは逆方向を向いている場合の全方位移動車1の走行例を示している。また、図9において、実線の矢印は、検知方向を示し、破線の矢印は、走行方向を示す。」

キ 図1から、従動車輪25aの径は、駆動車輪24aの径より小さいことが看取される。

ク 上記ウの記載事項及び図2から、障害物検知センサ28は、下部天板22の前方で、従動車輪25a、25bの前方に取り付けられていることが看取される。

【図1】


【図2】


したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「互いに独立して回転駆動される2つの駆動車輪24a、24bと、
前記駆動車輪24a、24bよりも径の小さい2つの従動車輪25a、25bと、
前記駆動車輪24a、24bおよび前記従動車輪25a、25bが配設される下部天板22と、
前記駆動車輪24a、24bの回転駆動を制御する制御装置5と、
障害物検知センサ28と
を備え、
前記障害物検知センサ28から出力される検知信号等に基づいて、前記駆動車輪24a、24bを制御する、アクティブキャスタ式の全方位移動車1。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
この発明は、車輪或いはクローラなどの移動機構が設けられた移動ロボットに係り、特に、移動しながら段差を検知し、乗越え可能なら当該段差を乗越える移動ロボットに関する。」

イ 「【0007】
非特許文献1に開示された移動ロボットでは、移動中に前方の障害物が検知されて衝突しないように回避行動が取られるが、床面上の障害物に関しては、高さ並びに奥行きなどの情報が得られないままに走行されることから、また、従動輪が本体に固定されていることから、従動輪の車輪径で乗越えられる以上の高さの障害物を乗越えることができない問題がある。また、乗越え時にも、移動ロボット本体が大きく傾き、不安定である問題もある。」

ウ 「【0009】
この発明は、上述したような事情に鑑みなされたものであって、その目的は、障害物に衝突せずに非接触で害物(当審注:「障害物」の誤記と認める。)が検知され、移動しながら障害物の乗越えの可否並びに乗越えの制御方法が速やかに決定され、安定して、且つ、効率的に障害物を乗越えて移動することができる移動ロボットを提供することにある。・・・」

エ 「【0014】
図1及び図2は、この発明の一実施例に係る移動ロボットを概略的に示す側面図及びその背面構造を示す背面図である。図1に示すように略円盤状の本体フレーム10上には、この移動ロボットを制御する制御部8が載置固定されている。この本体フレーム10は、移動機構としての駆動車輪6,12上に載置されている。図2に示すように本体フレーム10には、駆動車輪6,12が配置された切欠部が形成され、駆動車輪6,12の上部がこの切欠部を介して本体フレーム10上に突出されている。本体フレーム10の背面には、そのモータ軸4,14が同一直線状に配置されるようにモータ36,34が固定され、そのモータ軸4,14に駆動車輪6,12がモータ36,34によって回転されるように固定されている。従って、モータ36,34が駆動されると、駆動車輪6,12が回転され、本体フレーム10が矢印Fで示す方向に走行される。ここで、駆動車輪6,12は、夫々モータ36,34によって独立に駆動されることから、一方のモータ34,36の回転数を上げることによって回転数が少ない側に向けて回頭されて走行されることとなる。即ち、右側車輪12に対応するモータ34の回転数が上げられると、本体フレーム10は、左側に向けられるように走行され、左側車輪6に対応するモータ36の回転数が上げられると、本体フレーム10は、右側に向けられるように走行される。」

オ 「【0016】
本体フレーム10の背面には、第1及び第2の支持脚20,22を支持固定する為のブラケット16,18が走行面に向かって突出するように固定され、このブラケット16,18に第1及び第2の支持脚20,22の第1及び第2のリンクアーム24-1,24-2,26-1,26-2の一端が回動可能に固定されている。支持脚20の第1及び第2のリンクアーム24-1,24-2の他端は、回動可能にブラケット25に連結され、このブラケット25上には、距離センサ部28が載置されている。このブラケット25には、補助輪としての従動輪30が固定されている。支持脚22の第1及び第2のリンクアーム26-1,26-2の他端は、同様に回動可能にブラケット27に連結され、このリンク(当審注:「ブラケット」の誤記と認める。)27には、同様に補助輪としての従動輪30(当審注:「32」の誤記と認める。)が固定されている。従動輪30、32は、矢印Fで示される移動方向に回転可能であるともにブラケット25,27の周りに回転可能に軸支されている。この従動輪30、32から(当審注:「従動輪30、32の走行路への接地面から」の誤記と認める。)本体フレーム10までの距離は、駆動車輪6,12の走行路への接地面から本体フレーム10までの距離に略等しくなるように設定され、本体フレーム10が平坦な走行路を駆動車輪6,12によって走行される限りにおいては、この従動輪30、32によって本体フレーム10は、走行路に対して常に略平行に維持される。」

カ 「【0021】
CPU72には、外部の入力部74からの目標値等の入力に応じて駆動信号を発生し、インタフェース70を介してモータドライバ66に供給される。従って、このモータドライバ66によってモータ34,36が附勢されて目標に向けて駆動車輪6,12が回転されて本体フレーム10が移動する。また、CPU72は、センサ信号に従って走行方向における障害物或いは段差を検出して予めプログラムされた駆動信号を発生し、インタフェース70を介してモータドライバ68に供給される。従って、このモータドライバ66(当審注:「68」の誤記と認める。)によってモータ38,40が附勢されて目標に向けて支持脚20,22が上昇或いは降下されて本体フレーム10が後に述べるように障害物或いは段差を乗り越えて段差上の走行路に乗って走行される。」

キ 「【0025】
移動ロボットが図5に示される距離D1にまで移動される間は、段差がないことから、図6(a)に示されるように、本体フレーム10は、走行路に対して略平行に維持されて走行され、距離センサ部28の観察距離Lは、観察距離L0に維持される。図5に示されるように移動距離D1で段差が検出されると、観察距離Lは、所定観察距離L0より短くなり、距離(L0-ΔL)が検出される。その後、図6(b)に示すように支持脚20が上昇されて、図5に示すように距離センサ部28が一次的に観察距離L0を検出する。図6(c)に示すように、移動距離D2?D3において、駆動車輪6,12が段差に接してこの段差に乗り上げる動作に移行すると、本体フレーム10自体の姿勢が僅かに乱れることとなる。従って、移動距離D2?D3において図5に示すように距離センサ部28の観察距離が急激に上昇される。移動距離D3?D4において、図6(d)に示すように駆動車輪6,12が完全に段差上の平坦部に乗るとともに支持脚20が降下されて従動輪30が段差上の平坦部に乗せられる。この間においては、図5の移動距離D3?D4に示すように距離センサ部28の観察距離は、急激に減少される。その後、支持脚22を上昇させて後方の従動輪32を段差に接触させない為に、図7(e)及び(f)に示すように本体フレーム10が前傾姿勢の状態に維持された状態で従動輪32が上昇される。即ち、始めに、図7(e)に示すように支持脚20が僅かに上昇され、支持脚22が一次的に降下されて本体フレーム10が前傾される。次に、図7(f)に示すように本体フレーム10が前傾姿勢のままに維持された状態で、支持脚22が上昇されて移動ロボットの移動とともに従動輪32が段差上に移動される。図7(e)及び図7(f)に示される前傾姿勢では、距離センサ部28は、観察距離L0よりも近い位置の観察地点を観察することとなることから、図5の移動距離D3?D4に示すように観察距離が距離L0よりも小さいくなる。その後、図7(g)に示されるように支持脚22が段差上に降下されるとともに支持脚20が上昇されて本体フレーム10が前傾姿勢から段差上の走行路に略平行となりながら、移動ロボットの走行が継続される。従って、図5に示すように走行距離D5?D6においては、走行距離0?D1までと同様に、観察距離L0を検出することとなる。」

ク 「【0028】
図3及び図10を参照して図1に示される制御部8の動作について説明する。始めに、入力部74からの指示でCPU72は、インタフェース70を介してモータドライバ66に駆動信号を与えてモータ34,36を駆動させる。従って、駆動車輪6,12が駆動を開始して、ステップS10に示すように移動ロボットが予め定められた方向に移動を開始する。この移動開始に際して、同様にCPU72によって距離センサ部28が動作されて走行路の障害物の検出が開始される。移動ロボットの移動距離は、車輪駆動モータ34,36の軸出力がエンコーダ62で検出されてカウンタ信号としてインタフェース70を介してCPUに72に入力される。このカウンタ信号がCPUに72において積算されて移動ロボットの移動距離が図示しない記憶装置に記憶される。ステップS12において、距離センサ部28からのインタフェース70を介するセンサ信号によって移動に伴い移動路上に段差が検出されると、ステップS13に示すアプローチ動作が開始される。即ち、移動ロボットがこの段差に向けて更に近づけられるとともにインタフェース70を介してモータ38に駆動信号が与えられて、図4(b)に示されるように支持脚とともに距離センサ部28が上昇される。距離センサ部28の上昇及び移動に伴い、CPU72は、段差の高さHをセンサ信号から求める。ここで、CPU72は、ステップS14に示すようにこの段差を踏破可能であるかを判断する。段差が駆動車輪6,12の半径より高い場合には、この移動ロボットは、段差を乗越えることはできないと判断される。段差が踏破可能な高さHを有している場合、或いは、段差の複雑な形状で高さHが検出されない場合には、ステップS15に示されるようにこの段差を回避する動作が開始される。回避動作にあって、CPU72によって従動輪30,32がいずれも降下された状態で車輪駆動モータ34,36の回転駆動に差が与えられて駆動輪6,12が異なる回転数で回転されて走行方向が変更される。走行方向が変更されると、再びステップS10に戻されてステップS10からステップS14が同様に繰り返される。
【0029】
ステップS14において、CPU72が段差を踏破可能であると判断する場合には、図6(c)参照して説明した段差を上る動作であるか、図8を参照して説明した段差を降りる動作であるか、或いは、図9を参照して説明した段差を上がり直ぐに降りる動作であるかを判断する。(ステップS16,S17,S18)この判断の後に、夫々の動作が実行されて段差が踏破される。段差が踏破されると再びステップS10に戻され、次の段差に対処する走行が続けられる。」

ケ 図1から、従動輪30、32の径は、駆動輪6、12の径より小さいことが看取される。

コ 図1、6から、移動ロボットは、走行方向Fの前方に段差が検出されると、走行方向Fに対して前方にある従動輪30を上昇させて、駆動輪6、12が、走行方向Fに対して後方にある従動輪32よりも先に段差に接触するように段差に進入して段差を乗り超える動作をするように制御されることが看取される。

【図1】


【図6】


したがって、上記引用文献2には、「互いに独立して回転駆動される2つの駆動輪6、12と、走行方向Fに対して、前記駆動輪6、12の前方及び後方に、それぞれ支持脚20、22により上下する前記駆動輪6、12よりも径の小さい2つの従動輪30、32と、前記駆動輪6、12および前記従動輪30、32が配設される本体フレーム10と、前記駆動輪6、12の回転駆動を制御するCPU72と、走行路上の段差の情報を取得する距離センサ部28とを備える移動ロボットが、距離センサ部28の情報により走行方向Fの前方に段差が検出されると、走行方向Fに対して前方にある従動輪30を上昇させて、駆動輪6、12が、走行方向Fに対して後方にある従動輪32よりも先に段差に接触するように段差に進入して段差を乗り越える。」という技術的事項が記載されていると認められる。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明における「2つの駆動車輪24a、24b」は、本願発明1における「2つの駆動輪」に相当し、以下同様に、「2つの従動車輪25a、25b」は「少なくとも1つの従動キャスタ」に、「下部天板22」は「基体」に、「制御装置5」は「制御部」に、「アクティブキャスタ式の全方位移動車1」は「自律移動体」に、それぞれ相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「互いに独立して回転駆動される2つの駆動輪と、
前記駆動輪よりも径の小さい少なくとも1つの従動キャスタと、
前記2つの駆動輪および前記従動キャスタが配設される基体と、
前記駆動輪の回転駆動を制御する制御部と、
を備える、自律移動体。」

<相違点>
本願発明1は、自律移動体が、「走行路上の段差の情報を取得する取得部」を備え、「前記制御部は、前記取得部による前記情報の取得の結果、進行方向に前記段差がないと認識した場合には、前記基体の前記進行方向に対する前側が前記従動キャスタとなることを許容して前記駆動輪を制御し、前記進行方向に前記段差があると認識した場合には、前記2つの駆動輪の少なくともいずれかが前記従動キャスタよりも先に前記段差に接触するように前記基体の向きを変更して前記段差に進入するように前記駆動輪を制御する」のに対し、引用発明は、アクティブキャスタ式の全方位移動車1が、障害物検知センサ28を備え、障害物検知センサ28から出力される検知信号等に基づいて、駆動車輪24a、24bを制御するものであり、本願発明1のように、進行方向における段差の有無により基体の向きを変更するように駆動輪を制御するものではない点。

(2)相違点についての判断
上記第4の2.で示したとおり、引用文献2には、「互いに独立して回転駆動される2つの駆動輪6、12と、走行方向Fに対して、前記駆動輪6、12の前方及び後方に、それぞれ支持脚20、22により上下する前記駆動輪6、12よりも径の小さい2つの従動輪30、32と、前記駆動輪6、12および前記従動輪30、32が配設される本体フレーム10と、前記駆動輪6、12の回転駆動を制御するCPU72と、走行路上の段差の情報を取得する距離センサ部28とを備える移動ロボットが、距離センサ部28の情報により走行方向Fの前方に段差が検出されると、走行方向Fに対して前方にある従動輪30を上昇させて、駆動輪6、12が、走行方向Fに対して後方にある従動輪32よりも先に段差に接触するように段差に進入して段差を乗り越える」との技術的事項(以下、「引用文献2の技術的事項」という。)が記載されている。
また、車椅子で段差を通過する場合に、車椅子を後ろ向きに反転させて車輪径の大きい主車輪を前方にして段差を通過することは従来周知の技術的事項(引用文献3の段落【0002】等を参照。)である。

しかしながら、以下のアないしエの点で、引用発明と、引用文献2の技術的事項及び従来周知の技術的事項に基づいて、本願発明1とすることは当業者が容易になし得たものとはいえない。

ア 引用発明は、アクティブキャスタ式の全方位移動車1であるから、上記第4の1.カの記載事項や技術常識に鑑みれば、該全方位移動車1は、走行方向と障害物検知センサ28の検知方向とが一致するように走行する、すなわち、走行方向に対して前側に、障害物検知センサ28と従動車輪25a、25bがくるように下部天板22の向きを変更する制御がなされるものである。
他方、引用文献2の技術的事項に記載された移動ロボットは、駆動輪6、12の前方及び後方に、それぞれ支持脚20、22により上下する従動輪30、32を備えるものであるから、引用発明とは移動車の車輪の配置構成が異なり、アクティブキャスタ式の制御を行うものではないから、引用発明に引用文献2の技術的事項を適用する動機付けがない。

イ また、本願発明1は、進行方向に段差があると認識した場合には、「2つの駆動輪の少なくともいずれかが前記従動キャスタよりも先に前記段差に接触するように前記基体の向きを変更」するものであるが、引用文献2の技術的事項においては、走行方向Fに対して前方にある従動輪30を上昇させることで段差を乗り越えており、本体フレーム10の向きを変更して段差を乗り越えるものではないため、仮に、引用発明に上記引用文献2の技術的事項を適用したとしても、段差を乗り越えるために、下部天板22の向きを変更する制御を行うことにはならない。加えて、上述したとおり、引用発明は、進行方向に対する前側に障害物検知センサ2と従動車輪25a、25bがくるように下部天板22の向きを変更する制御を行うアクティブキャスタ式の全方位移動車1に関する発明であるから、引用発明に引用文献2の技術的事項を適用して、駆動車輪24a、24bの方が、従動車輪25a、25bよりも先に段差に接触するように下部天板22(基体)の向きを制御することはアクティブキャスタ式の制御に反することになり阻害事由があるともいえる。

ウ さらに、車椅子の分野で、車椅子を後ろ向きに反転させて車輪径の大きい主車輪を前方にして段差を通過することは従来周知の技術的事項であるとしても、引用発明は自律走行車に関するものであるから人間が操作する車椅子とは技術分野が異なるし、上記イで説示したとおり、引用発明は、進行方向に対する前側に障害物検知センサ2と従動車輪25a、25bがくるように下部天板22の向きを変更する制御を行うアクティブキャスタ式の全方位移動車1に関する発明であるから、上記従来周知の技術的事項に鑑みたとしても、駆動車輪24a、24bの方が、従動車輪25a、25bよりも先に段差に接触するように下部天板22(基体)の向きを変更する制御は行わないと考えられる。

エ そして、本願発明1は、「段差を乗り越える場合以外の通常の移動時においては、2つの駆動輪と従動キャスタの位置関係を拘束しないので、全方向への移動が可能であり、採用し得る移動経路の選択肢が増えるという効果を奏する。すなわち、移動の自由度が格段に向上する。一方、段差を乗り越える場合は、駆動輪を前側にしてキャスタより先に駆動輪から段差を乗り越えようとするので、段差を乗り越えるための推進力が小さくてすみ、円滑に乗り越えることができる」(段落【0007】)という効果、すなわち、自律走行体が、通常の移動時においては、採用し得る移動経路の選択肢が増えるという効果を享受しつつ、段差を乗り越える場合は、段差を乗り越えるための推進力が小さくてすむとの効果を奏することは、引用発明、引用文献2の技術的事項及び引用文献3にみられる従来周知の技術的事項から予測し得るものとはいえない。

したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2の技術的事項及び引用文献3にみられる従来周知の技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2-9について
本願発明2-9は、本願発明1の発明特定事項の全てを含むものであり、上記1.(1)に示した、本願発明1の相違点と同じ相違点を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2の技術的事項及び引用文献3にみられる従来周知の技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明10について
本願発明10は、本願発明1の「自律移動体」との物の発明に対応する、「自律移動体の移動制御方法」との方法の発明であり、発明特定事項として、「走行路上の段差の情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップによる前記情報の取得の結果、進行方向に前記段差がないと認識した場合には、前記基体の前記進行方向に対する前側が前記従動キャスタとなることを許容して前記駆動輪を制御し、前記進行方向に前記段差があると認識した場合には、前記2つの駆動輪の少なくともいずれかが前記従動キャスタよりも先に前記段差に接触するように前記基体の向きを変更して前記段差に進入するように前記駆動輪を制御する制御ステップとを含む」との構成を含むものである。
してみると、本願発明10も、上記1.(1)に示した、本願発明1の相違点と同様の相違点を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2の技術的事項及び引用文献3にみられる従来周知の技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-10は、当業者が、引用発明、引用文献2の技術的事項及び引用文献3にみられる従来周知の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-12-03 
出願番号 特願2016-135106(P2016-135106)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G05D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 影山 直洋  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 大山 健
刈間 宏信
発明の名称 自律移動体および自律移動体の移動制御方法  
代理人 家入 健  

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