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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C11B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C11B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C11B |
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管理番号 | 1357566 |
審判番号 | 不服2018-8446 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-20 |
確定日 | 2019-12-04 |
事件の表示 | 特願2016-186057「香料及び香料封入体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月23日出願公開、特開2017- 39939〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2010年(平成22年)12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年(平成21年)12月18日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2012-544809号の一部について、平成26年9月12日に新たな特許出願とした特願2014-186588号の一部について、平成27年2月12日に新たな特許出願とした特願2015-25749号の一部について、平成28年9月23日に新たな特許出願(外国語書面出願)としたものであって、その手続の経緯は、以下のとおりである。 平成28年 9月27日 :翻訳文の提出 同年 9月28日 :上申書、補正書の提出 平成29年12月 1日付け:拒絶理由通知 平成30年 3月 2日 :意見書、手続補正書の提出 同年 3月29日付け:拒絶査定 同年 6月20日 :審判請求書、手続補正書の提出 同年 7月12日付け:前置報告 同年10月25日 :上申書の提出 第2 平成30年6月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定 1 補正の却下の決定の結論 平成30年6月20日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 2 理由 (1) 本件補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲についてする補正であって、本件補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。 ア 本件補正前の特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 香料送達システムであって、前記香料送達システムが香料を含み、前記香料が、 a)2-メトキシナフタレン、及び1,3,3-トリメチル-2-オキサビシクロ[2,2,2]オクタンからなる、3%?20%の香料原料と、 b)2-メチルウンデカナール、2,4-ジメチルシクロヘキサ-3-エン-1-カルボアルデヒド、及び3-(4-tert-ブチルフェニル)プロパナールからなる、2%?35%の香料原料と、 c)エチル2-メチルブタノアート、5-ヘプチルオキソラン-2-オン、ジエチルブタ-2-エンジオアート、酢酸フロール、及び[(4Z)-1-シクロオクタ-4-エニル]メチルカルボナートからなる、2%?35%の香料原料と、 d)シクロペントール、左旋性トリサンドール、3,7-ジメチルオクタ-1,及び6-ジエン-3-オールからなる、0.8%?8%の香料原料と、 e)(E)-1-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキサ-3-エニル)ブタ-2-エン-1-オン、及び(E)-3-メチル-4-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキサ-2-エニル)ブタ-3-エン-2-オンからなる、2%?8%の香料原料と、 を含み、 前記香料送達システムが、ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムを含む、香料送達システム。 【請求項2】 前記香料送達システムが、マイクロカプセル(PMC)の形態である、請求項1に記載の香料送達システム。 【請求項3】 前記香料が、3重量%?7重量%の成分a)を含む、請求項1に記載の香料送達システム。 【請求項4】 前記香料が、2.5重量%?8重量%の成分b)を含む、請求項1に記載の香料送達システム。 【請求項5】 前記香料が、5重量%?35重量%の成分c)を含む、請求項1に記載の香料送達システム。 【請求項6】 前記香料が、2重量%?8重量%の成分d)を含む、請求項1に記載の香料送達システム。 【請求項7】 前記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムが、シェル材料及びコア材料を含む香料送達粒子を含み、前記シェル材料が、前記コア材料を封入し、前記コア材料が、前記香料を含み、前記シェルが、メラミンホルムアルデヒド及び/又は架橋メラミンホルムアルデヒドを含み、前記シェルが、ポリビニルアミン及びそのN-ビニルホルムアミドとのコポリマーからなる群から選択される水溶性カチオンポリマーによってコーティングされる、請求項1に記載の香料送達システム。 【請求項8】 請求項1?7のいずれか一項に記載の香料送達システムと、洗浄又はトリートメント成分とを含み、洗浄又はトリートメント組成物である、消費者製品。 【請求項9】 界面活性剤をさらに含む、請求項8に記載の消費者製品。」 イ 本件補正後の特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 香料送達システムであって、前記香料送達システムが香料を含み、前記香料が、 a)2-メトキシナフタレン、及び1,3,3-トリメチル-2-オキサビシクロ[2,2,2]オクタンからなる、3%?7%の香料原料と、 b)2-メチルウンデカナール、2,4-ジメチルシクロヘキサ-3-エン-1-カルボアルデヒド、及び3-(4-tert-ブチルフェニル)プロパナールからなる、2.5%?10%の香料原料と、 c)エチル2-メチルブタノアート、5-ヘプチルオキソラン-2-オン、ジエチルブタ-2-エンジオアート、酢酸フロール、及び[(4Z)-1-シクロオクタ-4-エニル]メチルカルボナートからなる、5%?35%の香料原料と、 d)シクロペントール、左旋性トリサンドール、及び3,7-ジメチルオクタ-1,6-ジエン-3-オールからなる、2%?8%の香料原料と、 e)(E)-1-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキサ-3-エニル)ブタ-2-エン-1-オン、及び(E)-3-メチル-4-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキサ-2-エニル)ブタ-3-エン-2-オンからなる、2%?8%の香料原料と、 を含み、 前記香料送達システムが、ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムを含み、 前記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムが、シェル材料及びコア材料を含む香料送達粒子を含み、前記シェル材料が、前記コア材料を封入し、前記コア材料が、前記香料を含み、前記シェル材料が、メラミンホルムアルデヒド及び/又は架橋メラミンホルムアルデヒドを含む、香料送達システム。 【請求項2】 請求項1に記載の香料送達システムと、洗浄又はトリートメント成分と、界面活性剤とを含み、洗浄又はトリートメント組成物である、消費者製品。」 (2) 本件補正の適否 本件補正のうち、請求項1に係る補正は、補正前の請求項2?7の記載などに基づいて、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、香料a)?e)の含有量及び種類、並びに、ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムの内容を限定するものである。また、本件補正後の請求項2は、補正前の請求項9から派生したものであって、その補正内容は、当該請求項9において間接的に引用していた請求項1?7のいずれか一項に記載の香料伝達システムを、上記請求項1に係る補正後のものに限定するものである。 そして、当該補正の前後の請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更はなく、同一であると認められるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができる。 そこで、以下、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)、なかでも、同法第36条第6項第1号の規定に適合するか(サポート要件適合性)について、検討をする。 ア サポート要件の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か(以下、両範囲をまとめて「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明の課題が解決できると認識できる範囲」という。)を検討して判断すべきものであるから(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)、以下、当該観点に立って検討をする。 イ 特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記(1)イのとおりである。 ウ 発明の詳細な説明の記載 摘記は省略するが(必要箇所の摘記は、後記エにおいて行った。)、発明の詳細な説明には、本件補正発明の【技術分野】(【0001】)、【背景技術】(【0002】)、【発明が解決しようとする課題】(【0003】。ただし、記載内容は、【技術分野】について記載した【0001】と同じである。)、【発明を実施するための形態】(【0004】?【0090】)及び【実施例】(【0091】?【0127】)についての記載がある。 そして、当該【発明を実施するための形態】(【0004】?【0090】)には、具体的に、用語の定義に関する記載(【0004】?【0012】)、香料原料などの香料に関する記載(【0013】?【0021】)、ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムなどの香料伝達システムに関する記載(【0022】?【0038】)、封入体の製造プロセスに関する記載(【0039】?【0045】)、組成物の用途や添加成分(補助剤)に関する記載(【0046】?【0084】)、消費者製品の製造及び使用に関する記載(【0085】?【0086】)、試験方法に関する記載(【0087】?【0090】)がある。 エ 発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件訂正発明の課題が解決できると認識できる範囲 (ア) 本件補正発明の課題 発明の詳細な説明の【0003】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本願は、香料組成物、このような香料及び/又は送達システムを含むこのような香料製品を含む送達システム、並びに、これらを製造及び使用する方法に関する。」と記載されているところ、【背景技術】(【0002】)には、次の記載がある。 「汚れのレベルが高い洗濯条件、例えば、布地に集積する汚れ、例えば、身体の汚れのレベルが高いより温暖な地域、又は再使用するために洗濯水がリサイクルされる、若しくは、例えば、機械洗いと比較した手洗いなど洗濯プロセスの効率が低いことがある地理的条件では、洗剤香料があまり有効でなく、あるいは洗濯温度が低い洗濯条件においても、冷水中では従来の洗濯洗剤の性能が落ちるために洗剤香料があまり有効でないことが周知である。理論に制限されるものではないが、大半が比較的疎水性の香料物質は、そのような洗濯溶液内の高い濃度の疎水性汚れに引きつけられると考えられ、香料物質を汚れた水とともに洗い流され易くする(したがって、浪費され易くする)。更に、汚れがひどい状態で、又は冷水中で布地から汚れを除去するのはあまり効果的でなく、汚れ残留物が布地に残ることがある。本発明者らは、香料原料(PRM)の特定の組み合わせにより、洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になることを発見した。そのような香料組成物の潜在的な欠点は、そのような組成物に使用される材料が、高い濃度で未希釈で使用された場合に、又はそのような材料の高いレベルの残留物が部位、例えば、湿った布地に存在する場合に、望ましくない不快な臭気を有する可能性があることである。したがって、本発明者らは、香料送達システムを介してこのような香料を使用することにより、例えば、本明細書で説明するように、このような香料組成物をカプセル化することにより、香料原料と汚れとの相互作用が軽減されるために、かつ過剰な量が汚れとともに洗い流されることがなく、過剰なレベルの残留香料物質が部位に蓄積されることもないので、適切なレベルの香料がそのような部位に加えられるために、ひどい汚れの条件下で香料の性能が更に向上すると気付いた。」 上記の記載から、本件補正発明は、従来の「香料組成物、このような香料及び/又は送達システムを含むこのような香料製品を含む送達システム、並びに、これらを製造及び使用する方法」について、以下の問題点(i)、(ii)に着目したものであることが分かる。 (i)「汚れのレベルが高い洗濯条件、例えば、布地に集積する汚れ、例えば、身体の汚れのレベルが高いより温暖な地域、又は再使用するために洗濯水がリサイクルされる、若しくは、例えば、機械洗いと比較した手洗いなど洗濯プロセスの効率が低いことがある地理的条件では、洗剤香料があまり有効でなく、あるいは洗濯温度が低い洗濯条件においても、冷水中では従来の洗濯洗剤の性能が落ちるために洗剤香料があまり有効でないことが周知である。理論に制限されるものではないが、大半が比較的疎水性の香料物質は、そのような洗濯溶液内の高い濃度の疎水性汚れに引きつけられると考えられ、香料物質を汚れた水とともに洗い流され易くする(したがって、浪費され易くする)。更に、汚れがひどい状態で、又は冷水中で布地から汚れを除去するのはあまり効果的でなく、汚れ残留物が布地に残ることがある」点。 (ii)「そのような香料組成物の潜在的な欠点は、そのような組成物に使用される材料が、高い濃度で未希釈で使用された場合に、又はそのような材料の高いレベルの残留物が部位、例えば、湿った布地に存在する場合に、望ましくない不快な臭気を有する可能性があることである」点。 そして、本件補正発明は、上記(i)の問題点に対しては、「香料原料(PRM)の特定の組み合わせにより、洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」ことを、また、上記(ii)の問題点に対しては、「香料送達システムを介してこのような香料を使用することにより、例えば、このような香料組成物をカプセル化することにより、香料原料と汚れとの相互作用が軽減されるために、かつ過剰な量が汚れとともに洗い流されることがなく、過剰なレベルの残留香料物質が部位に蓄積されることもないので、適切なレベルの香料がそのような部位に加えられるために、ひどい汚れの条件下で香料の性能が更に向上する」ことを、それぞれ見いだして創作されたものであることが理解できる。 そうすると、本件補正発明が解決しようとする課題は、上記の問題点にかんがみた、『「洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」「香料原料(PRM)の特定の組み合わせ」「をカプセル化することにより」「ひどい汚れの条件下で香料の性能」が「更に向上」した「香料送達システム」の提供』にあると解するのが相当である。 (イ) 本件補正発明の解決課題である「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」と「カプセル化による、ひどい汚れの条件下での香料の性能の更なる向上」に関連する記載 上記のとおり、本件補正発明に係る香料送達システムの課題は、端的にいうと、「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」と「カプセル化による、ひどい汚れの条件下での香料の性能の更なる向上」にあるから、これらに関連する記載(どのような技術的事項を具備することにより、これらの特性を発現することができたのかを示す、因果関係や作用機序に関連する記載など)に着目しながら、発明の詳細な説明を俯瞰してみると、一応、次の記載を認めることができる。 ・(香料原料について) 「【0018】 好適な香料原料 ひどい汚れの条件下、及び冷水中での香料性能が向上した香料は、下記の表1に示す香料原料を含むことができる。 【0019】 【表1】 【0020】 【表2】 【0021】 【表3】 」 ・(香料伝達システムについて) 「【0022】 香料送達システム 開示するように、香料送達システムを使用してそのような香料を付着させることで本明細書に開示した香料の利点を更に高めることができる。好適な香料送達システム、香料送達システムを製造する方法、及びそのような香料送達システムの使用法の非限定例が、米国特許出願公開第2007/0275866(A1)号に開示されている。このような香料送達システムには、以下のものが挙げられる。 【0023】 ポリマー支援型送達(PAD):この香料送達技術は、香料物質を送達するうえでポリマー性材料を用いるものである。古典的なコアセルベーション、水溶性又は部分水溶性?非水溶性の荷電又は中性ポリマー、液晶、ホットメルト、ヒドロゲル、香料付与プラスチック、マイクロカプセル、ナノ-、及びマイクロラテックス、ポリマー性フィルム形成剤、ポリマー性吸収剤、ポリマー性吸着剤などが一部の例である。PADにはこれらに限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。 ・・(中略)・・ 【0027】 リザーバシステム リザーバシステムは、コア/シェル型技術、すなわちフレグランスが保護シェルとして機能し得る香料放出制御膜によって包囲される技術としても知られる。マイクロカプセル内部の物質がコア、内部相、又は充填物と呼ばれるのに対して、壁は時としてシェル、コーティング、又は膜と呼ばれる。マイクロ粒子、感圧カプセル又はマイクロカプセルはこうした技術の例である。本発明のマイクロカプセルは、これらに限定されるものではないが、コーティング、押出し、スプレー乾燥、界面重合、その場での重合、及びマトリクス重合などの様々な方法によって形成される。使用可能なシェル材料は水に対する安定性が大きく異なる。最も安定したものとして、水溶液(又は製品)中に特定のPRMをより長期にわたって保持することが可能なポリオキシメチレン尿素(PMU)系材料がある。こうしたシステムにはこれらに限定されるものではないが、尿素-ホルムアルデヒド、及び/又はメラミン-ホルムアルデヒドが含まれる。例えば架橋度に応じて水に速やかに又はゆっくりと溶解するようにゼラチン系マイクロカプセルを調製してもよい。多くの他のカプセル壁材料が入手可能であり、観察される香料の拡散安定性の程度が異なっている。理論に束縛されるものではないが、例えば一旦所定の表面に付着したカプセルからの香料の放出速度は、通常、製品内の香料拡散安定性の逆の次数である。このため、例えば尿素-ホルムアルデヒド、及びメラミン-ホルムアルデヒドマイクロカプセルは通常、機械力(例、摩擦力、圧力、剪断応力)などの、カプセルを破壊して香料(フレグランス)の放出速度を増大させる、拡散以外(拡散に加えて)の放出機構を香料の放出のために必要とする。他の誘因としては、融解、溶解、加水分解又は他の化学反応、電磁放射などが挙げられる。予備充填されたマイクロカプセルの使用には、製品内安定性、及び使用時及び/又は表面上(部位上)放出の適正な比に加えてPRMの適切な選択が求められる。尿素-ホルムアルデヒド、及び/又はメラミン-ホルムアルデヒドに基づいたマイクロカプセルは特に中性に近い水溶液中で比較的安定している。これらの材料は摩擦誘因を必要とする場合があるが、これは全ての製品用途に適用できるものではない。他のマイクロカプセル材料(例、ゼラチン)は水性製品中では不安定な場合があり、製品内エイジングした場合に(自由香料制御に対して)効果が低下する場合もある擦ると香りが出る(スクラッチアンドスニッフ)技術はPADの更なる別の例である。香料マイクロカプセル(PMC)としては、以下の参考文献に記載のもの:米国特許出願第2003/0125222(A1)号、同第2003/215417(A1)号、同第2003/216488(A1)号、同第2003/158344(A1)号、同第2003/165692(A1)号、同第2004/071742(A1)号、同第2004/071746(A1)号、同第2004/072719(A1)号、同第2004/072720(A1)号、同第2006/0039934(A1)号、同第2003/203829(A1)号、同第2003/195133(A1)号、同第2004/087477(A1)号、同第2004/0106536(A1)号、並びに、米国特許第6,645,479(B1)号、同第6,200,949(B1)号、同第4,882,220号、同第4,917,920号、同第4,514,461号、同第6,106,875号及び同第4,234,627号、同第3,594,328号、並びに米国再発行特許第32713号、を挙げることができる。 ・・(中略)・・ 【0033】 一態様では、ポリマー支援型送達(PAD)システムが開示され、上記ポリマー支援型(PAD)システムは、本明細書に開示した香料、例えば、本明細書の香料のセクションで開示した香料から選択される香料を含むことができるポリマー支援型(PAD)リザーバシステムを含むことができる。 【0034】 上記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムの一態様では、上記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムは、シェル材料及びコア材料を含むことができる香料送達粒子を含むことができ、上記シェル材料は、上記コア材料を封入し、上記コア材料は、本明細書に開示した香料、例えば、本明細書の香料のセクションで開示した香料から選択される香料を含むことができ、上記シェルは、ポリエチレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリカルボナート、ポリエステル、ポリアクリレート、アミノプラストからなる群から選択される材料を含み、一態様では、上記アミノプラストは、ポリウレア、ポリウレタン、及び/又はポリウレアウレタンを含み、一態様では、上記ポリウレアは、ポリオキシメチレンウレア及び/又はメラミンホルムアルデヒド、ポリオレフィン、多糖を含み、一態様では、アルギネート及び/又はキトサン、ゼラチン、セラック、エポキシ樹脂、ビニルポリマー、非水溶性無機物、シリコーン、並びにそれらの混合物を含む。 【0035】 上記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムの一態様では、上記シェルは、メラミンホルムアルデヒド及び/又は架橋メラミンホルムアルデヒドを含むことができる。 上記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムの一態様では、上記シェルは、多糖、カチオン修飾デンプン及びカチオン修飾グアー、ポリシロキサン、ポリハロゲン化ジメチルジアリルアンモニウム、ポリ塩化ジメチルジアリルアンモニウムとビニルピロリドンのコポリマー、アクリルアミド、イミダゾール、ハロゲン化イミダゾリニウム及びハロゲン化イミダゾリウム、並びにポリビニルアミン及びそのN-ビニルホルムアミドとのコポリマーからなる群から選択される水溶性カチオンポリマーによってコーティングすることができる。 【0036】 上記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムの一態様では、上記シェルをコーティングする上記コーティングは、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを含むことができる。 【0037】 上記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムの一態様では、上記カチオン性ポリマーは、ヒドロキシルエチルセルロースを含むことができ、上記アニオン性ポリマーは、カルボキシルメチルセルロースを含むことができる。 【0038】 一態様では、上記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムは香料マイクロカプセルである。」 ・(試験方法について) 「【0087】 試験方法 本出願の「試験方法」の項で開示される試験方法は、本出願人らの発明が本明細書に記載され及び特許請求されているように、本出願人らの発明のパラメータの各値を求めるために使用されるべきであると理解される。 【0088】 香料評価試験 1)2つに分割された汚れた衣類に対する性能を比較するので、試験は2つの製品試験A対Bのみである。 2)消費者から調達した汚く/ひどく汚れた物品からなる汚れた洗濯物を使用し、各衣類を2つに分割する。 【0089】 【表4】 【0090】 機械A内の衣類に対応する半体を機械Bに入れる。 3)この試験では、発泡抑制剤は何ら加えない。 4)a)+10/-10等級のにおい効果、b)悪臭の存在(0?4等級に基づく、ここで、0=悪臭なし、4=非常に強烈な悪臭)、c)A?D等級に基づく香料特性、ここで、A=変化なし、B=若干変化あり、C=変化あり、D=大幅な変化あり、に関して各衣類の2つの半体を互いに比較して採点する。通常は、におい効果が基本的尺度と考えられる。 」 ・(実施例について) 「【実施例】 【0091】 本発明の特定の実施形態が例示され、記載されてきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、他の様々な変更及び修正を実施できることが、当業者には明白であろう。したがって、本発明の範囲内にあるそのような全ての変更及び修正を、添付の「特許請求の範囲」で扱うものとする。 【0092】 実施例1.香料A?Lは、ひどい汚れ条件下で、及び冷水での洗濯において改良された香料性能を示す。本明細書の香料評価試験方法に従ってそのような香料を試験し、その試験結果は、その香料が優れた性能をもつことを示している。 【0093】 【表5】 【0094】 【表6】 【0095】 【表7】 【0096】 実施例2:84重量%コア/16重量%壁のメラミンホルムアルデヒド(MF)カプセル ・・(中略)・・ 【0097】 実施例3:80重量%コア/20重量%壁のメラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(中略)・・ 【0098】 実施例4:80重量%コア/20重量%メラミンホルムアルデヒド壁のカプセル ・・(中略)・・ 【0099】 実施例5:80重量%コア/20重量%壁のメラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(中略)・・ 【0100】 実施例6:メラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(省略)・・ 【0101】 実施例7:メラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(省略)・・ 【0102】(省略) 【0103】(省略) 【0104】(省略) 【0105】(省略) 【0106】 実施例8:メラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(省略)・・ 【0107】 実施例9:高コア密度(≧1)を有するメラミンホルムアルデヒド(MF)壁香料カプセル ・・(省略)・・ 【0108】 実施例10:噴霧乾燥マイクロカプセルの製造 ・・(省略)・・ 【0109】 実施例11 本発明の利益を実証するために、本出願人は以下の液体洗剤マトリックスAを調製した。 【0110】 【表10】 【0111】 【表11】 【0112】 (1)Merquat 5300:90% PAM/5% AA/5%MAPTACのモル比のターポリマー、Nalcoにより製造される。 【0113】 実施例12?19 香料組成物を含む洗濯洗剤組成物の実施例は以下に包含される。 【0114】 【表12】 【0115】 実施例20?27 香料組成物を含む粒状洗濯洗剤組成物の実施例は以下に包含される。 【0116】 【表13】 【0117】 実施例1?19に記載の機器及び物質は以下から入手することができる:IKA Werke GmbH & Co.KG(Staufen,Germany);CP Kelco(Atlanta,United States);Forberg International AS(Larvik,Norway);Degussa GmbH(Dusseldorf,Germany);Niro A/S(Soeberg,Denmark);Baker Perkins Ltd(Peterborough,United Kingdom);日本触媒(日本、東京);BASF(Ludwigshafen,Germany);Braun(Kronberg,Germany);Industrial Chemicals Limited(Thurrock,United Kingdom);Primex ehf(Siglufjordur,Iceland);ISP World Headquarters;Polysciences,Inc.(Warrington,Pennsylvania,United States);Cytec Industries Inc.(New Jersey,United States);International Specialty Products(Wayne,New Jersey,United States);P&G Chemicals Americas(Cincinnati,Ohio,United States);Sigma-Aldrich Corp.(St.Louis,Missouri,United States);Dow Chemical Company(Midland,MI,USA)。 【0118】 実施例28?37:布地柔軟仕上げ剤 本明細書に開示したポリマーコーティング香料カプセルを含有する布地柔軟仕上げ剤の非限定的な例を下記の表にまとめる。 【0119】 【表14】 ^(a) N,N-ジ(タローオイルオキシエチル)-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド。 ^(b) メチル-ビス(タローアミドエチル)-2-ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェート。 ^(c) 脂肪酸とメチルジエタノールアミンとのモル比1.5:1での反応生成物を塩化メチルで四級化して得られる、N,N-ビス(ステアロイル-オキシ-エチル)N,N-ジメチルアンモニウムクロリドとN-(ステアロイル-オキシ-エチル)N-ヒドロキシエチルN,Nジメチルアンモニウムクロリドとの1:1モル混合物。 ^(d) National Starchから商品名CATO(登録商標)で入手可能なカチオン性高アミローストウモロコシデンプン。 ^(f) BASF製のRheovis DCE ^(g) WackerからのSE39 ^(h) ジエチレントリアミン五酢酸。 ^(i) Rohm and Haas Co.から入手可能なKATHON(登録商標)CG。「PPM」は、「百万分の一」。 ^(j) グルタルアルデヒド ^(k) Dow Corning Corp.から商品名DC2310で入手可能なシリコーン消泡剤。 † 残部 【0120】 実施例38?43液体洗濯製剤(強力液体) 【0121】 【表15】 【0122】 実施例44?51:液体単位用量 以下のものは、液体組成物がPVAフィルム内に封入される単位用量の実施例である。本実施例において好適なフィルムは、Monosol M8630(厚さ76μm)である。 【0123】 【表16】 -NHにつき20個のエトキシル基を有するポリエチレンイミン(MW=600)。 ^(3) RA=アルカリ保存性(NaOHのg/投与量) 【0124】 実施例52シャンプー配合 【表17】 」 (ウ) 「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明の課題が解決できると認識できる範囲」の認定 a 前提となる考え方 一般に、化合物(組成物)の分野においては、当該化合物の構造や組成物の成分組成のみから、当該化合物(組成物)が発現する効用を理解することは困難である。そのため、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明(後記第3の「本願発明」についても同じ)の課題が解決できると認識できる範囲」の認定にあたっては、発明の詳細な説明に記載された具体例(具体的な化合物・組成物の実施例)の効用を斟酌しながら、当該具体例から拡張ないし一般化できる範囲(具体例の効用を類推適用できる化合物・組成物の範疇)を画定するのが合理的である。 したがって、化合物(組成物)に関連する発明にあっては、まずは、発明の詳細な説明に記載された実施例において、特許を受けようとする発明に係る化合物(組成物)が具体的に特定され、その化合物(組成物)の効用が十分に記載されていることが肝要である。 もっとも、当該実施例の記載が存在しない、あるいは、同記載が十分でない場合にあっても、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明(本願発明)の課題が解決できると認識できる範囲」を実質的なものとして認定し得る場合があることはいうまでもない。その場合にあっては、発明の詳細な説明の実施例以外の記載箇所において、特許を受けようとする発明に係る化合物(組成物)と、その効用との関係につき、実施例に代わるほどの、当業者が首肯できる合理的な説明を要すると考えるべきである。 b 前提となる技術常識 一般に、香料組成物においては、たとえ配合量がごく微量であっても、その香調に大きく影響を与える場合があるなど、化合物(配合成分、香料原料)によって、香気の強度、質、閾値が異なるものであるから、どのような配合成分が、当該香調に影響を与える「主要な」成分に当たるのかを一概に断定することは困難であり、当該配合成分の組み合わせや配合量が変化すれば、各配合成分がもたらす機能、特性、効果等が変化し得ることも技術常識である。 したがって、汚れた洗濯物に適用した場合の香りと香料組成物の組成(配合成分の種類や配合量等)との関係性(例えば、香料組成物中の特定の配合成分と、香料組成物全体が醸し出す香りとの対応関係)を認識するのは困難であるというのが技術常識であるというべきである。 c 実施例の記載及び技術常識に基づく「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明の課題が解決できると認識できる範囲」の認定 発明の詳細な説明の実施例(比較例)の部分は、【0091】?【0095】と、【0096】?【0124】に、内容面から分けることができる。 そして、【0096】?【0124】の部分には、香料マイクロカプセルの製造例及びこれらを用いて調製された各種洗剤が開示されている。しかしながら、そこには、得られた香料マイクロカプセルや各種洗剤についての香料評価試験の結果が示されていないから、これらの実施例が、上記課題(「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」と「カプセル化による、ひどい汚れの条件下での香料の性能の更なる向上」)を解決することができるとは、当業者といえども到底認識できないというほかない。 また、【0091】?【0095】の部分についてみても、【0093】【表5】?【0095】【表7】には、香料A?Lという、12の具体的な香料(組成物)が開示され、さらに、【0092】には、「香料A?Lは、ひどい汚れ条件下で、及び冷水での選択において改良された香料性能を示す。本明細書の香料評価試験方法に従ってそのような香料を試験し、その試験結果は、その香料が優れた性能を持つことを示している。」と記載されている。しかしながら、当該部分には、【0087】?【0090】に記載された「香料評価試験」による具体的な評価結果は何ら示されておらず、当該香料A?Lが上記課題に係る特性を発現することを客観的に認識し首肯するに足りる根拠は見当たらない。そのため、当該部分には、香料A?Lが香料評価試験の結果において優れた性能を示すことが形式的に記載されてはいるものの、このような形式的な記載だけでは、これに接した当業者において、当該香料A?L、例えば、香料Lが、上記課題を解決することができること(「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」と「カプセル化による、ひどい汚れの条件下での香料の性能の更なる向上」という課題のうち、後者はもとより、前者についても解決することができること)を、ただちに認識することはできないというべきである。 仮に、【0091】?【0095】の部分の記載に基づいて、香料Lが「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」という課題を解決することができると、当業者において認識できるとしても、当該香料Lは、次に示す特定の成分を含有するものである(なお、香料Lの成分組成を示す【0019】【表1】?【0021】【表3】中の数値が、何を意味するのかについては記載がないため、ここでは当該数値は重量%を示すものと解釈した。)。 ・特定の香料原料a)を合計で3.2重量% ・特定の香料原料b)を合計で9.0重量% ・特定の香料原料c)を合計で11.7重量% ・特定の香料原料d)を合計で6.9重量% ・特定の香料原料e)を合計で3.8重量% (以上の香料原料a)ないしe)の合計は34.6重量%) ・香料原料a)ないしe)のいずれにも属さない特定の香料原料を2.0 重量% ・実体が不明な成分を63.4重量% そのため、上記bの技術常識に照らすと、香料Lが上記課題を解決することができたのは、「香料原料a)ないしe)のいずれにも属さない特定の香料原料」や「実体が不明な成分」の影響であることは否めないし、香料原料a)ないしe)を特定の配合量に調整したからであるともいえる。 そうである以上、当該香料Lを論拠にして、「香料原料a)ないしe)のいずれにも属さない特定の香料原料」や「不明な成分香料原料」、さらには、「香料原料a)ないしe)の特定の配合量」に依らずとも、本件補正発明が規定する香料の成分組成(香料原料の構成)であれば、その全般にわたって上記課題が解決できることを、ただちに導出することは困難であるといわざるを得ない(後記dにおいて検討した、実施例以外の記載を参酌しても、当該香料Lを論拠に、本件補正発明が規定する香料の成分組成まで拡張ないし一般化することはできない。)。 d 実施例以外の記載及び技術常識に基づく「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明の課題が解決できると認識できる範囲」の認定 発明の詳細な説明の実施例以外の記載には、上記(イ)において摘記したとおり、【0018】には 、「ひどい汚れの条件下、及び冷水中での香料性能が向上した香料は、下記の表1に示す香料原料を含むことができる。」と記載され、当該表1(【0019】【表1】?【0021】【表3】)には、115もの有用な香料原料が示されている。 しかしながら、当該【0018】に記載された評価を、首肯し得るものと認めるに足りる根拠(試験結果等)は示されていない上、これら115の香料原料が当該評価となる機序(特定の化学構造によることなど)が示されているわけでもない。その上、上記bの技術常識に照らすと、それら115の香料原料をどのように配合するか(配合成分と配合量)により、得られる香料組成物の香調は大きく異なるものとなると考えるのが合理的であるから(実際の配合例である、上記香料A?Lの香調も少なからず異なったものとなっていると解される。)、これら115の香料原料を使用しさえすれば、その配合成分や配合量によらず、得られた香料組成物は上記課題(「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」と「カプセル化による、ひどい汚れの条件下での香料の性能の更なる向上」)を解決することができるとまで、当業者が認識することはないというべきである。 また、【0022】?【0038】などに記載された香料伝達システムに関する記載も、一般的な香料伝達システムについての記載にとどまり、当該香料伝達システムを使用しさえすれば、本件補正発明の上記課題を解決することができるとまで、当業者が認識するに足りるほどのものではない。 その他の実施例以外の記載をみても同じである。 e 小括 以上のとおり、発明の詳細な説明の実施例及び実施例以外の記載、並びに技術常識を参酌しても、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明の課題が解決できると認識できる範囲」として、特定の範囲を認定することはできない。加えて、発明の詳細な説明に、香料組成物の実施例(具体例)として記載された香料L(あるいは、これを用いた態様)ですら、本件補正発明の課題である「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」と「カプセル化による、ひどい汚れの条件下での香料の性能の更なる向上」のいずれをも解決することができるといえず、これを論拠にして、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明の課題が解決できると認識できる範囲」を、本件補正発明が規定する香料の成分組成の範囲にまで拡張ないし一般化することもできない。 オ サポート要件の判断(上記イとエの広狭関係の検討) 上記エ(ウ)eのとおり、上記「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明の課題が解決できると認識できる範囲」は、存在しないか、本件補正発明まで拡張ないし一般化できないような範囲のものであるから、上記イの特許請求の範囲の記載により画定される範囲は、これを超えるものであることは明らかである。 したがって、本件補正発明に係る請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。 カ 平成28年9月28日提出の上申書に添付された実験成績証明書について ここで、標記実験成績証明書について触れておく。 もとより、発明の詳細な説明に、当業者が本件補正発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。 そのため、実験成績証明書として許容されるのは、発明の詳細な説明に既に記載された内容を、その記載内で補足する程度のものに限られると解するのが相当である。 これらの点を踏まえて、本件の発明の詳細な説明の記載をみると、その【0087】?【0090】には、香料評価試験に係る試験方法について詳述されているのであるから、追試実験は、当該試験方法に則して行われてはじめて、発明の詳細な説明の記載内での補足というべきである。しかしながら、標記実験成績証明書における試験方法は、これとは異なるものであるから、当該実験成績証明書による補足は、発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足するものと解するのが妥当であり、上記特許制度の趣旨に照らすと、これを参酌することは許されない。 念のため、標記実験成績証明書の内容をみても、追試実験に供されたものが、「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」と「カプセル化による、ひどい汚れの条件下での香料の性能の更なる向上」という、本件補正発明の課題を解決することができたものであることを看取することはできない。 すなわち、実験成績証明書には、下記のような結果が表にまとめられている。 なお、表中の製品A、B、Cは、それぞれ、 A.Genesis Ariel+Herbal HDL III Stab 7(96722118) -35.87g B.Genesis Ariel+Herbal HDL III Stab 7(96722118)+ 0.50%の香料Lの香油-35.87g C.Genesis Ariel+Herbal HDL III Stab 7(96722118)+ 0.50%の香料LのPMC-35.87g を表し、また、上下二段で表された数値は、それぞれ3人のパネリストにより濡れた布地及び乾いた布地について評価を行い、次の尺度により強度及び悪臭について、等級を付けたものである旨説明されている。 ・上段の数値(強度):「世界標準化した強度尺度(GSIS)0?100;Δ2.5=技術的差異;Δ5=消費者が気づく」 ・下段の括弧内の数値(悪臭):「悪臭等級:(0)-悪臭なし,(1)-僅かな悪臭,(2)-中程度の悪臭,(3)-強烈な悪臭,(4)-非常に強烈な悪臭」 そして、上記製品Cの説明にある「PMC」とは、本願明細書【0027】の「香料マイクロカプセル(PMC)」のことであり、本件補正発明のポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムに対応するものと推察されるから、製品Cは、本件補正発明の実施例として示されたものと解される(ただし、当該PMCのシェル材料が、本件補正発明の要件:「前記シェル材料が、メラミンホルムアルデヒド及び/又は架橋メラミンホルムアルデヒドを含む」を満たすものであるかは不明である。)。 しかしながら、当該結果をみても、本件補正発明である製品Cは、香料Lの香油がカプセル化されずに用いられている製品Bよりも「香料の性能が更に向上」しているとはいえないし(例えば、上記の表を参酌すると、「濡れた状態」では、製品Bの方が製品Cよりも悪臭が抑制され、優れた結果を示しており、また、「摩擦前に1日乾燥された系」では、製品B、Cの結果はあまり変わらないことが示されている。)、本件補正発明である製品Cが、「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」という課題を解決するものであることを看取することもできない(例えば、「摩擦前に1日乾燥させた系」の「汚れた物品」中の「ふきん」及び「肌着」の結果をみると、本件補正発明である製品Cの方が、無香料の製品Aよりも悪臭についての結果が劣っている。)。 このように、標記実験成績証明書は、香料Lを用いた態様において、本件補正発明の課題である「香料原料(PRM)の特定の組み合わせによる、洗濯後に布地に汚れが残った場合でさえの優れた臭気遮断/布地の臭いの低減」と「カプセル化による、ひどい汚れの条件下での香料の性能の更なる向上」を解決することができることを教示するものとはいえないから、これを参酌することにより、上述のサポート要件違反が解消するわけではない。 (3) 本件補正についてのむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成30年6月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成30年3月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の2(1)アに記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶理由 原査定の拒絶理由は、要するに、本願は、請求項1の記載がサポート要件に適合しないという理由を含むものである。 3 当審の判断 本件補正発明に係る請求項1の記載は、上記第2の2(2)のとおり、本願発明に係る請求項1の記載を減縮したものであるから、本願発明に係る請求項1に記載された範囲は、本件補正発明に係る請求項1に記載された範囲よりも広いものである。 そうすると、本願発明に係る請求項1に記載された範囲は、上記第2の2(2)エ(ウ)において認定した「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件補正発明の課題が解決できると認識できる範囲」(本件補正発明を本願発明としても同じ)を超えることは明らかであるから、当該請求項1の記載はサポート要件に適合しない。 第4 むすび 以上の検討のとおり、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する明細書のサポート要件に適合するものでなく、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本願は、同項に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は、請求項2ないし9に係る発明について検討するまでもなく、特許法第49条第4号の規定に該当し、拒絶されるべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2019-07-11 |
結審通知日 | 2019-07-12 |
審決日 | 2019-07-24 |
出願番号 | 特願2016-186057(P2016-186057) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C11B)
P 1 8・ 536- Z (C11B) P 1 8・ 575- Z (C11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 恵理 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 蔵野 雅昭 |
発明の名称 | 香料及び香料封入体 |
代理人 | 出口 智也 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 小島 一真 |
代理人 | 佐藤 泰和 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 朝倉 悟 |