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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2017701054 審決 特許
異議2016700780 審決 特許
異議2017700456 審決 特許
異議2017700366 審決 特許
異議2018700579 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1357623
異議申立番号 異議2019-700012  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-11 
確定日 2019-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6357464号発明「プロピレン系重合体及びホットメルト接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6357464号の、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6357464号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6357464号の請求項1?8に係る特許は、平成26年2月3日(優先権主張 平成25年2月22日 (JP)日本国)を国際出願日とする特許出願に係るものであり、平成30年6月22日にその特許権の設定登録がされ、同年7月11日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許についての異議申立ての経緯は、以下のとおりである。

平成31年1月11日: 特許異議申立人クラリアント・プロドゥクテ・(ドイチュラント)・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツングによる特許異議の申立て
平成31年3月14日付け:取消理由通知
令和元年5月17日: 訂正請求及び意見書の提出(特許権者)
令和元年7月19日: 意見書の提出(特許異議申立人)


第2 訂正の適否
1 訂正の内容

令和元年5月17日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1) 訂正事項1(請求項1?8に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項1に、

「エチレン系重合体(A)100質量部に対して、下記(1)及び(2)を満たすプロピレン系重合体(B)を1?30質量部含有し、前記エチレン系重合体(A)がエチレン-α-オレフィン共重合体であるホットメルト接着剤。
(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400
(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」

と記載されているのを、

「エチレン系重合体(A)100質量部に対して、下記(1)及び(2)を満たすプロピレン系重合体(B)を5?30質量部を含有し、
前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?100質量部を更に含み、
前記プロピレン系重合体(B)がプロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり、
前記エチレン系重合体(A)が、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体であり、かつエチレン-α-オレフィン共重合体である
ホットメルト接着剤。
(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400
(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」

と訂正する。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?8も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2(請求項7?8に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項7に、

「前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(C)50?200質量部及びワックス(D)50?200質量部を更に含む、請求項1?6のいずれかに記載のホットメルト接着剤。」

と記載されているのを、

「前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(C)50?200質量部を更に含む、請求項1?6のいずれかに記載のホットメルト接着剤。」

と訂正する。
また、請求項7を直接引用する請求項8も同様に訂正する。

2 訂正の適否に対する判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的

訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「ホットメルト接着剤」について、「エチレン系重合体(A)100質量部に対して、下記(1)及び(2)を満たすプロピレン系重合体(B)を1?30質量部含有し」と特定されていたところ、「エチレン系重合体(A)100質量部に対して、下記(1)及び(2)を満たすプロピレン系重合体(B)を5?30質量部含有し」と限定するとともに、「前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?100質量部を更に含み」との特定を付加し、
また、訂正前の請求項1の「エチレン系重合体(A)」について、「エチレン-α-オレフィン共重合体である」と特定されていたところ、「前記エチレン系重合体(A)が、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体であり」との特定を付加し、
さらに、訂正前の請求項1の「プロピレン系重合体(B)」について、「前記プロピレン系重合体(B)がプロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり」との特定を付加するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること

訂正事項1は、ホットメルト接着剤におけるエチレン系重合体(A)100質量部に対するプロピレン系重合体(B)の割合について、願書に添付した明細書の【0061】の記載に基づいて、その下限値を「1」から「5」に変更して「5?30質量部」と特定するとともに、
エチレン系重合体(A)100質量部に対するワックス(D)の割合について、願書に添付した明細書の【0066】及び【0094】の表2-2の実施例4においてエチレン系重合体(A)30質量部に対してワックス(D-1)の割合が30質量部(エチレン系重合体(A)100質量部に対してワックス(D-1)の割合が100質量部と換算できる。)であることに基づいて、その上限値を「200」から「100」に変更して「前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?100質量部を更に含み」と特定し、
また、「エチレン系重合体(A)」について、願書に添付した明細書の【0062】の記載に基づいて、「前記エチレン系重合体(A)が、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体であり」と特定し、
更に、「プロピレン系重合体(B)」について、願書に添付した明細書の【0008】の記載に基づいて、「前記プロピレン系重合体(B)がプロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり」と特定するものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと

訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的

本件訂正前の請求項7に係る発明では、「前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?200質量部を更に含む」ことを特定しているが、訂正事項1において、請求項1に「前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?100質量部を更に含み」との特定が付加されるので、ワックス(D)の含有量の上限値について、請求項1(100質量部)よりも請求項1を引用する請求項7(200質量部)の方が大きいという不合理を生じることとなる。
訂正事項2は、上記不合理を解消するために、請求項7における「前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?200質量部を更に含む」との特定を削除するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること

訂正事項2は、訂正事項1において、「前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?100質量部を更に含み」との特定を付加したことに対応して、不合理を生じることとなる記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと

訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

3 小括

訂正事項1、2は、それぞれ、一群の請求項を構成する請求項1?8、及び、請求項7?8を訂正の対象とし、特許法第120条の5第4項の規定に従って、請求されたものであるところ、上記のとおり、いずれも、同条第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、令和元年5月17日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?8]について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明

本件特許の請求項1?8に係る発明は、令和元年5月17日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された、以下のとおりのもの(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」・・・「本件訂正発明8」といい、これらをまとめて「本件訂正発明」ともいう。)と認める。

「 【請求項1】
エチレン系重合体(A)100質量部に対して、下記(1)及び(2)を満たすプロピレン系重合体(B)を5?30質量部を含有し、
前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?100質量部を更に含み、
前記プロピレン系重合体(B)がプロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり、
前記エチレン系重合体(A)が、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体であり、かつエチレン-α-オレフィン共重合体である
ホットメルト接着剤。
(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400
(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000
【請求項2】
前記プロピレン系重合体(B)がプロピレン単独重合体である、請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
前記プロピレン系重合体(B)が下記(a)?(d)を満たす、請求項1又は2に記載のホットメルト接着剤。
(a)[mmmm]=20?80モル%
(b)重量平均分子量(Mw)=10,000?80,000
(c)Mw/Mn≦2.5
(d)[rmrm]<2.5モル%
【請求項4】
前記プロピレン系重合体(B)が更に下記(a’)及び(b’)を満たす、請求項3に記載のホットメルト接着剤。
(a’)[mmmm]=60?80モル%
(b’)重量平均分子量(Mw)=10,000?55,000
【請求項5】
前記エチレン系重合体(A)がエチレン-1-オクテン共重合体である、請求項1?4のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項6】
前記エチレン系重合体(A)が、エチレンから導かれる構成単位を63?65質量%、1-オクテンから導かれる構成単位を35?37質量%含有するエチレン-1-オクテン共重合体である、請求項5に記載のホットメルト接着剤。
【請求項7】
前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(C)50?200質量部を更に含む、請求項1?6のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載のホットメルト接着剤を溶融し、少なくとも1つの基材に塗布する工程、及び塗布されたホットメルト接着剤に他の基材を接着する工程を含む、基材と他の基材との接着方法。」

第4 判断
1 取消理由通知書に記載した取消理由について
(1) 取消理由の概要

本件特許に対して、当審が平成31年3月14日付けで特許権者に通知した取消理由(以下、「取消理由1」という。)の概要は、
「本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記ア?エの点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号に該当)。

本件特許に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)の「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400、及び、(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000を満たすプロピレン系重合体(B)」の中には耐熱クリープ性を向上するための添加剤になりえないもの(ポリプロピレン1)が含まれているといえる。

本件特許発明の「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」がポリプロピレン2である場合であっても、その含有割合が、エチレン系重合体(A)100質量部に対し1?12.5質量部である態様は、課題を解決することができない蓋然性が高いと認められる。

本件特許発明の「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」が、さらに、[mmmm]=20?80モル%、重量平均分子量(Mw)=10,000?80,000、Mw/Mn≦2.5、及び、[rmrm]<2.5モル%をも満足するプロピレンの単独重合体であっても、必ずしも、ポリプロピレン2と同様に耐熱クリープ性を向上するための添加剤として作用するとはいえず、課題を解決することができない蓋然性が高いと認められる。

本件特許発明の「エチレン系重合体(A)」として、特定のエチレン1-オクテン共重合体(エチレン-1-オクテン共重合体(商品名:Affinity GA1950、ダウ・ケミカル社製、重量平均分子量:38000、1-オクテンの含有量:35?37重量%、メルトフローレート:500g/10min)以外のエチレン系共重合体を用いた場合には、課題を解決することができない蓋然性が高いと認められる。

(2) 判断
ア 発明の詳細な説明の記載

本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は、当審が付した。

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、耐熱クリープ性を高めるプロピレン系重合体及び耐熱クリープ性に優れたホットメルト接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下のプロピレン系重合体、ホットメルト接着剤及び接着方法が提供される。
[1]下記(1)及び(2)を満たすプロピレン系重合体。
(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400
(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000
[2]前記プロピレン系重合体がプロピレン単独重合体である、上記[1]に記載のプロピレン系重合体。
[3]下記(a)?(d)を満たす、上記[1]又は[2]に記載のプロピレン系重合体。
(a)[mmmm]=20?80モル%
(b)重量平均分子量(Mw)=10,000?80,000
(c)Mw/Mn≦2.5
(d)[rmrm]<2.5モル%
[4]更に下記(a’)及び(b’)を満たす、上記[3]に記載のプロピレン系重合体。
(a’)[mmmm]=60?80モル%
(b’)重量平均分子量(Mw)=10,000?55,000
[5]上記[1]?[4]のいずれかに記載のプロピレン系重合体を1?50質量%含有するホットメルト接着剤。
[6]エチレン系重合体(A)100質量部に対して、前記プロピレン系重合体を1?30質量部を含有する、上記[5]に記載のホットメルト接着剤。
[7]前記エチレン系重合体(A)がエチレン-α-オレフィン共重合体である、上記[6]に記載のホットメルト接着剤。
[8]前記エチレン系重合体(A)がエチレン-1-オクテン共重合体である、上記[6]又は[7]に記載のホットメルト接着剤。
[9]前記エチレン系重合体(A)が、エチレンから導かれる構成単位を63?65質量%、1-オクテンから導かれる構成単位を35?37質量%含有するエチレン-1-オクテン共重合体である、上記[8]に記載のホットメルト接着剤。
[10]エチレン系重合体(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(C)50?200質量部及びワックス(D)50?200質量部を更に含む、上記[5]?[9]のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
[11]上記[5]?[10]のいずれかに記載のホットメルト接着剤を溶融し、少なくとも1つの基材に塗布する工程、及び塗布されたホットメルト接着剤に他の基材を接着する工程を含む、基材と他の基材との接着方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のプロピレン系重合体を改質剤として含有するホットメルト接着剤は、耐熱クリープ性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[プロピレン系重合体]
本発明における「プロピレン系重合体」とは、プロピレン単位が主成分であるプロピレン系重合体であり、プロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上の共重合体である。また、プロピレン単独重合体1種のみであってもよく、分子量や立体規則性等が異なる2種以上のプロピレン単独重合体の混合物であってもよい。
【0009】
本発明のプロピレン系重合体は、下記(1)及び(2)を満たす。
(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400
(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000
一般に、引張弾性率が小さいほど柔軟性があり、軟質材料として好適である。また、引張破断伸びが大きいほど曲げ加工時の切れが少なく、良好である。本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、耐熱クリープ性は、樹脂の伸長性と剛性(弾性)とのバランスに支配されていることを見出した。すなわち、高剛性(高弾性率)であるほど、一定荷重による樹脂の伸長変形を遅延させることが可能であるが、その一方で、高伸長性であるほど、一定荷重での樹脂の破壊を遅延させることが可能となる。したがって、樹脂の引張弾性率及び破断伸びをそれぞれ特定の範囲内とすることで、当該樹脂を用いたホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させることができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、なされるに至ったものである。」
「【0062】
(エチレン系重合体(A))
本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は本発明のホットメルト接着剤のベースポリマーであり、具体的には、ポリエチレンや、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体が挙げられる。接着性の観点からは、好ましくはエチレン-α-オレフィン共重合体である。α-オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン,1-ペンテン,4-メチル-1-ペンテン,1-ヘキセン,1-オクテン,1-デセン,1-ドデセン,1-テトラデセン,1-ヘキサデセン,1-オクタデセン,1-エイコセン等が挙げられる。本発明においては、これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。これらのα-オレフィンの中でも1-オクテンが好ましい。本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は、接着性の観点から、より好ましくはエチレン-1-オクテン共重合体であり、更に好ましくはエチレンから導かれる構成単位を63?65質量%、1-オクテンから導かれる構成単位を35?37質量%含有するエチレン-1-オクテン共重合体である。
【0063】
本発明に用いられるエチレン系重合体(A)の融点は、耐熱クリープ性の観点から、好ましくは60?100℃、より好ましくは60?75℃である。エチレン系重合体(A)の融点は、示差走査熱量測定により測定することができる。
【0064】
本発明に用いられるエチレン系重合体(A)の市販品としては、Exactシリーズ(エクソン・モービル社製)、Affinity polymerシリーズ(ダウ・ケミカル社製)等があり、より好ましくは、Affinity GA1950(ダウ・ケミカル社製)が挙げられる(いずれも商品名)。
【0065】
(粘着付与樹脂(C))
本発明のホットメルト接着剤は、粘着付与樹脂(C)を含有してもよい。
粘着付与樹脂(C)としては、例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂などからなる常温で固体、半固体あるいは液状のもの等を挙げることができる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明では、ベースポリマーとの相溶性を考慮して、水素添加物を用いることが好ましい。中でも、熱安定性に優れる石油樹脂の水素化物がより好ましい。
粘着付与樹脂(C)の市販品としては、アイマーブP-125、P-100、P-90(以上、出光興産(株)製)、ユーメックス1001(三洋化成工業(株)製)、ハイレッツT1115(三井化学(株)製)、クリアロンK100(ヤスハラケミカル(株)製)、ECR227、エスコレッツ2101(以上、トーネックス(株)製)、アルコンP100(荒川化学(株)製)、Regalrez 1078(ハーキュレス(Hercules)社製)、Eastotac H-130R(イーストマン・ケミカル社製)等を挙げることができる(いずれも商品名)。
本発明のホットメルト接着剤における粘着付与樹脂(C)の含有量は、粘着性向上及び粘度低下による被着体への濡れ性向上の観点から、エチレン系重合体(A)100質量部に対して、好ましくは50?200質量部、より好ましくは70?150質量部、更に好ましくは80?120質量部である。
【0066】
(ワックス(D))
本発明のホットメルト接着剤は、ワックス(D)を含有してもよい。
ワックス(D)としては、例えば、動物ワックス、植物ワックス、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、木蝋、蜜蝋、鉱物ワックス、石油ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、高級脂肪酸ワックス、高級脂肪酸エステルワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等が挙げられる。
本発明のホットメルト接着剤におけるワックス(D)の含有量は、柔軟性向上、粘度低下による濡れ性の向上の観点から、エチレン系重合体(A)100質量部に対して、好ましくは50?200質量部、より好ましくは60?150質量部、更に好ましくは70?120質量部である。ワックスの添加量が多くなると、ホットメルト接着剤の粘度が低くなる。」
「【実施例】
【0070】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0071】
合成例1
(中略)
【0080】
〔立体規則性の評価:NMR測定〕
(中略)
結果を表1に示す。
(中略)
【0086】
【表1-1】


【0087】
【表1-2】


【0088】
以下のホットメルト接着剤の製造に用いた原料を示す。
<エチレン系重合体(A)(ベースポリマー)>
エチレン-1-オクテン共重合体(商品名:Affinity GA1950、ダウ・ケミカル社製、重量平均分子量:38000、1-オクテンの含有量:35?37重量%、メルトフローレート:500g/10min)
<プロピレン系重合体(B)>
(B-X)エチレン-プロピレン共重合体(商品名:Licocene PP 2602、クラリアント社製、エチレン:プロピレン=15mol%:85mol%)
(B-Y)ポリプロピレン(商品名:ビスコール 660-P、三洋化成工業(株)製)
<粘着付与樹脂(C)>
(C-1)脂肪族系炭化水素石油樹脂の水素化誘導体(商品名:Eastotac H-130R、イーストマン・ケミカル社製、軟化点:130℃)
<ワックス(D)>
(D-1)フィッシャー・トロプシュワックス(商品名:Paraflint H1、サゾール・ワックス社製)
【0089】
比較例1?6、実施例1?9
(ホットメルト接着剤の製造)
表2に記載の材料を表2に記載の配合比でサンプル瓶に入れ、180℃で30分加熱して溶融させた後、金属スプーンで十分に混合・撹拌し、ホットメルト接着剤を作製した。得られたホットメルト接着剤について以下の評価を行った。
(中略)
【0093】
【表2-1】


【0094】
【表2-2】


【0095】
比較例1(参照用)のホットメルト接着剤と比べて、比較例2?6では耐熱クリープ性が向上せず、かえって低下したのに対し、本発明のプロピレン系重合体を用いた実施例1?9のホットメルト接着剤は、耐熱クリープ性に優れる。」

イ 本件訂正発明が解決しようとする課題について

上記アによれば、本件訂正発明が解決しようとする課題は、「耐熱クリープ性を高めるプロピレン系重合体及び耐熱クリープ性に優れたホットメルト接着剤を提供すること」(【0005】)であると認められる。
なお、「耐熱クリープ性」について、「恒温クリープ性」により評価したこと(【0092】)、及び、その結果「比較例1(参照用)のホットメルト接着剤と比べて、比較例2?6では耐熱クリープ性が向上せず、かえって低下したのに対し、本発明のプロピレン系重合体を用いた実施例1?9のホットメルト接着剤は、耐熱クリープ性に優れる」と判断していることから、「耐熱クリープ性」は、恒温クリープ性(以下では、「耐熱クリープ性」と表記する。)の値で評価されるものであると認められる。

ウ 本件訂正発明が解決しようとする課題を解決するための手段について

本件訂正発明が解決しようとする課題を解決するための手段は、発明の詳細な説明の【0006】及び【0009】並びに実施例等の記載からみて、エチレン系重合体(A)(エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体である、エチレン-α-オレフィン共重合体)及びワックス(D)を含むホットメルト接着剤において、エチレン系重合体(A)100質量部に対して、プロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり、かつ、(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400、及び、(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000を満たす、プロピレン系重合体(B)(以下、「(1)、(2)を満たすプロピレン重合体(B)」という。)を5?30質量部含有させることであると認められ、特に、「(1)、(2)を満たすプロピレン重合体(B)」を用いることにより、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させようとするものであることが、理解できる。

エ 発明の詳細な説明の記載の検討
(ア) ポリプロピレン1について

実施例2と比較例1を対比すると、実施例2は、エチレン系重合体35質量部に対し、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」として「ポリプロピレン1」を10質量部含有するものであるのに対し、比較例1は、ポリプロピレン1を含有しないものであり、耐熱クリープ性を劣化させる成分である「ワックス(D-1)」の含有量が一致している(30質量部)ものであって、その耐熱クリープ性は、それぞれ、76分、及び59分である。
そうすると、実施例2は、ポリプロピレン1を10質量部含有することにより、ポリプロピレン1を含有しない比較例1と比べて、耐熱クリープ性が向上していると解することが合理的である。
次に、実施例1と上記乙第3号証(実験成績証明書)に記載の追加実施例1を対比すると、実施例1は、エチレン系重合体35質量部に対し、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」として「ポリプロピレン1」を5質量部含有するものであるのに対し、追加実施例1は、ポリプロピレン1を10質量部含有するものであり、耐熱クリープ性を劣化させる成分である「ワックス(D-1)」の含有量が一致している(25質量部)ものであって、その耐熱クリープ性は、それぞれ、83分、及び100分である。
そうすると、追加実施例1は、実施例1よりも、「ポリプロピレン1」を5質量部多く含有することにより、耐熱クリープ性が向上していると解することが合理的である。
したがって、ポリプロピレン1は、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用していると認められる。

(イ) ポリプロピレン2について

実施例4と比較例1を対比すると、実施例4は、エチレン系重合体30質量部に対し、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」として「ポリプロピレン2」を5質量部含有するものであるのに対し、比較例1は、ポリプロピレン2を含有しないものであり、耐熱クリープ性を劣化させる成分である「ワックス(D-1)」の含有量が一致している(30質量部)ものであって、その耐熱クリープ性は、それぞれ、122分、及び59分である。
そうすると、実施例4は、ポリプロピレン2を5質量部含有することにより、ポリプロピレン2を含有しない比較例1と比べて、耐熱クリープ性が向上していると解することが合理的である。
したがって、ポリプロピレン2も、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用していると認められる。

(ウ) ポリプロピレン3、4、6について

比較例2と比較例1を対比すると、比較例2は、エチレン系重合体35質量部に対し、耐熱クリープ性を向上させる成分である「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」には該当しない「ポリプロピレン3」を5質量部含有するものであるのに対し、比較例1は、ポリプロピレン3を含有しないものであり、かつ、耐熱クリープ性を劣化させる成分である「ワックス(D-1)」の含有量も、比較例2の方が5質量部少ないものである。
また、その耐熱クリープ性は、それぞれ、38分、及び59分である。
そうすると、比較例2の耐熱クリープ性は、比較例1よりも、「ワックス(D-1)」の含有量が少ない分向上しているはずのところ、逆に、劣化しているから、ポリプロピレン3が、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用しているということはありえないと解することが合理的である。
また、ポリプロピレン4、6も、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」には該当しないものであるところ、上記と同様に、それぞれ、比較例3、または、比較例4と比較例1とを対比することにより、ポリプロピレン4、6もホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用しているということはありえないと解することが合理的である。

(エ) 「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」について

「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のプロピレン系重合体は、下記(1)及び(2)を満たす。(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」という記載に続けて、「一般に、引張弾性率が小さいほど柔軟性があり、軟質材料として好適である。また、引張破断伸びが大きいほど曲げ加工時の切れが少なく、良好である。本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、耐熱クリープ性は、樹脂の伸長性と剛性(弾性)とのバランスに支配されていることを見出した。すなわち、高剛性(高弾性率)であるほど、一定荷重による樹脂の伸長変形を遅延させることが可能であるが、その一方で、高伸長性であるほど、一定荷重での樹脂の破壊を遅延させることが可能となる。したがって、樹脂の引張弾性率及び破断伸びをそれぞれ特定の範囲内とすることで、当該樹脂を用いたホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させることができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、なされるに至ったものである。」と記載されている。
この記載は、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」が、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用する作用機序(原理)を説明しているものといえる。

また、上記(ア)?(ウ)のとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」に該当するポリプロピレン1及びポリプロピレン2が、いずれも、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用すること、及び、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」には該当しないポリプロピレン3、4、6が、いずれも、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用しないことが記載されている。
これらの記載は、具体例によって、上記作用機序の説明が合理的なものであることを裏付けるものであるといえる。

そうすると、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」は、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用すると認められる。また、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」に該当するものであれば、ポリプロピレン1やポリプロピレン2とは異なる重合体(例えば、プロピレン単独重合体ではないもの)であっても、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用すると推測することが合理的であり、また、エチレン系重合体(A)として、実施例で具体的に使用しているもの(エチレン-1-オクテン共重合体(商品名:Affinity GA1950))とは異なるものを使用する態様においても、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」が有する、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用するという機能が発揮されると推測することが合理的であると認められる。

なお、特許権者が提出した乙第3号証(実験成績証明書)に記載されている追加実施例3、4(下記参照。)は、上記推測と整合するものであり、このことからも、上記推測が合理的なものであることが確認できる。
<追加実施例3>
「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」として、プロピレン-エチレン共重合体(Licocene PP 3602 プロピレン単位の共重合比91モル%、23℃における引張弾性率320(MPa)、23℃における破断伸び570(%))を使用する態様。その耐熱クリープ性が79分であって、耐熱クリープ性が向上しているといえるものであることから、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」がプロピレン単独重合体ではないものであっても、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用するとの推測のとおりの結果が得られている。
<追加実施例4>
エチレン系重合体(A)として、エチレン-プロピレン共重合体(商品名Affinity GP1570、ダウ・ケミカル社製)を使用し、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」として、ポリプロピレン2(23℃における引張弾性率270(MPa)、23℃における破断伸び560(%))を使用する態様。その耐熱クリープ性が80分であって、耐熱クリープ性が向上しているといえるものであることから、エチレン系重合体(A)が、エチレン-1-オクテン共重合体(商品名:Affinity GA1950))ではない態様においても、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」が、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用するという推測のとおりの結果が得られている。

オ 小括

上記ア?エのとおり、本件訂正発明のホットメルト接着剤は、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」を含有することにより、耐熱クリープ性が優れたものとなっていると認められるから、その課題を解決することができるものであると認められる。
したがって、取消理由1によって、本件特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知書に記載しなかった異議申立理由について
(1) 取消理由通知書に記載しなかった異議申立理由の概要

特許異議申立人は、概略、以下の取消理由を主張している。

<取消理由A>
本件特許の請求項1?8に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第2?6、10、12、13号証に記載された事項に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書の45頁7行?53頁2行)。
なお、甲第5号証の公開日は、平成25年4月11日であるから、本件特許に係る優先日(平成25年2月22日)後に公開されたものである。
<取消理由B>
本件特許の請求項1?8に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第9号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第1?3、11?13号証に記載された事項に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書の53頁4行?59頁下から3行)。
なお、甲第11号証の発行日は、2018年(平成30年)3月であるから、本件特許に係る優先日(平成25年2月22日)後に公開されたものである。
<取消理由C>
本件特許の請求項1?8に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第1、2、4?6、12、13号証に記載された事項に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書の59頁末行?65頁21行)。
なお、甲第5号証の公開日は、平成25年4月11日であるから、本件特許に係る優先日(平成25年2月22日)後に公開されたものである。
<取消理由D>
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を下記ア?エの点で満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書の65頁23行?71頁下から3行)。


本件特許発明の課題は、耐熱クリープ性を高めるプロピレン系重合体及び耐熱クリープ性に優れたホットメルト接着剤を提供することである。
また、本件特許発明1は、エチレン系重合体(A)とプロピレン系重合体(B)を含有するホットメルト接着剤であるが、本件特許発明1において両成分の量は、エチレン系重合体(A)に対するプロピレン系重合体(B)の相対的な量のみによって特定されているから、例えば、プロピレン系重合体(B)の量が接着剤全体を基準として1質量%を大きく下回ることもあり得る。
従って、プロピレン系重合体(B)の量が極めて低いホットメルト接着剤の場合、例えばプロピレン系重合体(B)の量が接着剤全体を基準として1質量%を大きく下回る場合には、本件特許発明1?8のホットメルト接着剤は、上記課題を解決することができない。


本件特許明細書の段落[0013]には、プロピレン系重合体(B)が、プロピレンと1種または2種以上の他のオレフィンとの共重合体であってもよいことが記載されているが、本願の発明の詳細な説明(特に実施例)において実際に課題が解決されることが示されているのは、ホットメルト接着剤に含まれるプロピレン系重合体(B)としてプロピレン単独重合体(ポリプロピレン)を使用した場合のみである。
耐熱クリープ性を高める改質剤としてのプロピレン系重合体の作用は、他のオレフィンと組み合わせることによって変わり得ると考えられ、特に、プロピレン系重合体(B)においてプロピレン由来の構成単位の割合が低い場合には、実施例で示されているプロピレン単独重合体と同等の効果を奏しないこと、すなわち上記課題が解決されないことが予測される。それにもかかわらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記のような場合であっても本件特許発明が上記課題を解決できることを支持し得るような実験データまたはそれと同視し得る記載は存在しない。また、本願出願日前において上記の場合にも耐熱クリープ性に優れたホットメルト接着剤が提供できるという技術常識があったとも認められない。
従って、本件特許発明1?8には、上記課題を解決することができない態様が含まれる。


本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、ホットメルト接着剤において、引張弾性率と破断伸びさえ本件特許発明1の(1)および(2)に規定される範囲に含まれていれば、他の因子(例えば[mmmm])がどのような値を採る場合であっても、当該ホットメルト接着剤が上記課題を解決できることを支持し得るような実験データまたはそれと同視し得る記載は存在しない。また、本願出願日前において上記の場合にも耐熱クリープ性に優れたホットメルト接着剤が提供できるという技術常識があったとも認められない。
そうすると、ホットメルト接着剤がエチレン系重合体(A)とプロピレン系重合体(B)を一定の量比で含むことと、プロピレン系重合体(B)が特定の引張弾性率と破断伸びを有することだけが特定されている本件特許発明1?8には、上記課題を解決できないと考えられる態様が含まれる。よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超える発明を含むものであり、発明の詳細な説明に記載したものではない。


本件特許の明細書(【0014】)には、[rmrm]ペンタッドの測定方法について、^(13)C-NMRによる測定方法とそれが記載されている文献名が記載されているが、当該文献(甲第8号証)によると、当該測定方法は、プロピレンの単独重合体の場合にのみ有効であり、共重合体の場合には正確な値を測定することはできないから、本件特許発明3には、プロピレン系重合体(B)の[rmrm]を測定できない態様、すなわち、上記課題を解決できない態様が含まれる。

<取消理由E>
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、取消理由Dと同様の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書の65頁23行?71頁下から3行)。
<取消理由F>
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を下記オ、カの点で満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書の71頁末行?72頁9行)。


本件特許発明1は、エチレン系重合体(A)とプロピレン系重合体(B)を含有するホットメルト接着剤であるが、そこでは両成分の量は、エチレン系重合体(A)に対するプロピレン系重合体(B)の量という相対的な量によってのみ特定されているため、エチレン系重合体(A)やプロピレン系重合体(B)がそれぞれ、接着剤全体を基準としてどの程度の量で存在し得るのかが不明であるから、本件特許発明1?8は明確でない。


訂正により、請求項1に「ワックス(D)」がホットメルト接着剤の必須成分として追加された。また、特許権者は、意見書と共に乙第3号証を提出しプロピレン重合体(B)としてプロピレン-エチレン共重合体(Licocene PP 3602、クラリアント社製)を使用する追加実施例3を報告したが、甲第16号証には、当該重合体がワックスであると記載されている。また、甲第17号証を参照すると、ワックス(ろう)は、用語自体が一義的ではない。
従って、当業者は、訂正後の請求項1における「プロピレン重合体(B)」が何を示すのか、そして「ワックス(D)」が何を示すのかについてそれらの外延を明確に理解することができない。
したがって、訂正後の請求項1?8に係る発明は明確ではない。


(2) 取消理由A、B、Cについて
ア 証拠に記載されている事項
(ア)甲第1号証
甲第1号証(国際公開第2007/070091号)には、以下の記載がある。なお、訳は当審による。

(ア-1)
「1. 1,000?50,000グラム/モルの数平均分子量及び10?50重量%未満の結晶化度を有するシングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマー;
10,000超?200,000グラム/モルの数平均分子量及び50?100重量%の結晶化度を有する結晶性プロピレンベースポリマー;
粘着性付与剤; 及び
エラストマー;
を含む接着剤組成物。

2. 前記シングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマー20?70重量%、前記結晶性プロピレンベースポリマー5?35重量%、前記粘着性付与剤15?60重量%、及び前記エラストマー2?20重量%を含む、請求項1に記載の接着剤組成物。

3. 前記シングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマー25?60重量%、前記結晶性プロピレンベースポリマー8?30重量%、前記粘着性付与剤25?55重量%、及び前記エラストマー3?10重量%を含む、請求項1に記載の接着剤組成物。」(第27頁第1行?第20行)

(ア-2)
「前記シングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマーは、該接着剤組成物の約20?70重量%、または約25?60重量%、または約30?50重量%で存在するのが適切である。該プラストマーは、ポリオレフィンホモポリマーまたはコポリマーであることができ、コポリマーであることが適切である。該コポリマーは、約5?85重量%、または約10?50重量%、または約15?35重量%のC_(3)?C_(12)アルファ-オレフィンコモノマー、及び約15?95重量%、または約50?90重量%、または約65?85重量%のエチレンを含むことができる。特に好適なコモノマーはヘキセン及びオクテンである。該プラストマーは、択一的に、主コモノマー成分としてプロピレンまたは他のアルファ-オレフィンを、及び副コモノマー成分としてエチレンまたは他のアルファオレフィンを含んでよい。該プラストマーは、適切には、約1,000?約50,000グラム/モル、または約2,000?約30,000グラム/モル、または約3,000?約20,000グラム/モルの数平均分子量を有してよく、そして適切には約12?40重量%または約15?30重量%の結晶化度を有してよい。該プラストマーは、上記の性質を有するポリオレフィンベースのプラストマーを生成する任意のシングルサイト(例えばメタロセンまたは拘束形状)触媒を用いて製造し得る。該プラストマーは、182℃で少なくとも約3,000センチポイズ、適切には約5,000?25,000センチポイズ、または約10,000?20,000センチポイズのブルックフィールド粘度を有してよい。該プラストマーは、約1.5?4.0、適切には約2.0?3.5の(数平均分子量に対する重量平均分子量の比率として定義される)分子量分布を有してよい。該プラストマーは、約100?2000グラム/10分または約300?1200グラム/10分のメルトインデックス(190℃)、及び約0.850?0.890グラム/cm^(3)、適切には約0.860?0.880グラム/cm^(3)の密度を有してよい。該プラストマーは、-10℃未満または-30℃未満、または-50℃未満のガラス転移温度を有してよい。適当なポリオレフィンベースプラストマーは、AFFINITY(R)(原文中「○」の中に「R」と記載されたものが上付きで記載されている部分を、「(R)」と記載している。以下、同様。)の商品名でダウ・ケミカル・コーポレーションから製造されており、そして限定はされないが、AFFINITY(R)GA 1900及びGA 1950などがある。」(第7頁段落[0034])

(ア-3)
「上記結晶性プロピレンベースポリマーは、該接着剤組成物の約5?35重量%、または約8?30重量%、または約10?20重量%の量で存在することが適している。このポリマーは、プロピレンホモポリマーであるか、またはエチレンもしくはC_(4)?C_(12)アルファ-オレフィンコモノマーとのプロピレンのコポリマーであることができ、そして10重量%までの前記コモノマーを含んでいてよい。特に好適なプロピレンベースポリマーはポリプロピレンホモポリマー、及びエチレンまたはブテンとのプロピレンのブロックまたはランダムコポリマーである。該結晶性プロピレンベースポリマーは、適切には約15,000?150,000グラム/モルまたは約20,000?100,000g/モルの数平均分子量を有してよく、及び適切には、約55?90重量%、または約60?85重量%の結晶化度を有してよい。該結晶性プロピレンベースポリマーは、上記の性質を有するポリマーを生成する任意の触媒(例えばシングルサイトまたはチーグラーナッタ)を用いて製造し得る。」([0035])

(ア-4)
「本発明の接着剤組成物は、ホットメルト加工可能であり、そしてホットメルト接着剤の施用に適切な任意の技術を用いて基材に施与し得る。」([0040])

(ア-5)
「実施例
[0068] 接着剤組成物は、四種のベースポリマーを用いて調合した。これらのベースポリマーは次のものであった:
A) REXTAC(R) 2115、ハンツマン・ポリマーズ社から入手可能 、非晶質ポリプロピレン;
B) REXTAC(R) 2715、ハンツマン・ポリマーズ社から入手可能 、非晶質プロピレン-ブテン-1コポリマー;
C) PP1023、イーストマン・ケミカル・コーポレーションから入手 可能、非晶質ポリプロピレン; 及び
D) AFFINITY(R) GA-1950、ダウ・ケミカル・コーポレー ションから入手可能、シングルサイト触媒ポリオレフィンプラストマ ー(POP)。

[0069] 前記の四種のベースポリマーは次の特性を有した。


上記特性は次のようにして測定した:
粘度: 下記の試験法
軟化点: 環球法、ASTM E-28
結晶化度: ASTM D3418-03(示差走査熱量測定)
ガラス転移温度: ASTM D3418-03
%伸び率: 下記試験法
分子量分布: 下記試験法
引張力: 引張力試験(下記)

[0070] 上記四種のベースポリマーを、以下の粘着性付与剤、アイソタクチック(結晶性)ポリプロピレン、エラストマー及び安定剤を用いてホットメルト接着剤中に調合した。


安定剤
IRGANOX(R)1010、チバ・スペシャリティ・ケミカル・コーポレーション製

[0071] ホットメルト接着剤調合物を表2(以下)に記載する。接着剤SA-16、SA-19及びSA-25は対照品である。他の調合物は本発明によるものである。


[0072] 制御されたメルトブロー結合条件を用いて、上記の接着剤のうちの多くを、フィンドレイ・アドヘッシブス・インコーポレーテッドのFINDLEY H2840と共に、17グラム/m^(2)の坪量を有するポリプロピレンスパンボンドウェブへのLYCRA(R)ストランドの積層体を調製して試験した。これらの積層体は、耐クリープ性試験(下記)に従って調製し、250%伸張し、そしてエージドクリープについて評価した。結果を表3に示す。


[0073] 上記に示されるように、本発明による接着剤SA-26が比較的高いクリープを有し及び対照接着剤H2840が、本発明によるサンプルの一部と同等のクリープを有したことは除き、本発明による接着剤(SA-24、26、27、28、29、30、31)は、全ての接着剤量において対照接着剤(SA-16、19、25及びH2840)よりもかなり低いクリープを一般的に示した。特に、SA-26及びSA-30は、軟化点が(本発明にとって好適な範囲の下限の)85?89℃の間の粘着性付与剤を用いて調製した。粘着性付与剤ブレンドを用いて調製した本発明による接着剤SA-31は、全ての接着剤量において最低のクリープを示した。」([0068]?[0073])

(イ)甲第2号証
甲第2号証(国際公開第03/091289号)には、以下の記載がある。
(イ-1)
「本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、組成が均一で、立体規則性が制御され、高流動で、且つ結晶性のプロピレン系重合体を効率よく製造する方法、プロピレン系重合体、該重合体からなる改質剤及び該重合体からなるホットメルト接着剤組成物を提供することを目的とするものである。」
(第3頁最終段落)

(イ-2)
「[1]プロピレン系重合体の製造方法
本発明におけるプロピレン系重合体の製造方法は、(A)一般式(I)


で表される遷移金属化合物、及び(B)有機ホウ素化合物を含有する重合用触媒の存在下、(a)プロピレンを単独重合させる方法並びに(a’)プロピレンとエチレン及び又は炭素数4?20のα-オレフィンを共重合させる方法である。」
(第8頁第1行?第9頁第3行。式の説明の記載は省略した。)

(イ-3)
「一般式( I ) で表される遷移金属化合物の具体例としては、(1,2’ -エチレン)(2,1’ -エチレン)-ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド,
(中略)

(1,2’-ジメチルシリレン)(2,1’-ジメチルシリレン)(インデニル)(3-トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、
(中略)

等、及びこれらの化合物におけるジルコニウムをチタン又はハフニウムに置換したものを挙げることができる。勿論これらに限定されるものではない。
又、他の族又はランタノイド系列の金属元素の類似化合物であってもよい。
又、上記化合物において、(1,2’ -)(2,1’-)が(1,1’-)(2,2’-)であってもよいが、(1,2’-)(2,1’-)の方が好ましい。」
(第12頁第13行?第20頁下から7行目。)

(ウ)甲第3号証
甲第3号証(特表2012-502127)には、以下の記載がある。

(ウ-1)
「【請求項1】
a)5?40重量%の、メタロセン触媒重合によって得られた、エチレンと少なくとも1種のC_(3)?C_(20)α-オレフィンとに基づく少なくとも1種のコポリマー、
b)10?65重量%の少なくとも1種の粘着付与樹脂、
c)0?35重量%の可塑剤、
d)0.01?30重量%の、安定剤、接着促進剤、充填剤または顔料、ワックスおよび/または他のポリマーから選択される、添加剤および助剤
を、それらの和が100%となるべく含んでなるホットメルト接着剤であって、該コポリマーが、
【数1】
(E’_(0c)-E_(25c))/E’_(25c)<1.5

に従って貯蔵弾性率E’の割合として測定された0℃?25℃で本質的に線形の弾性挙動を示すブロックコポリマーである、ホットメルト接着剤。」

(ウ-2)
「【0012】
コポリマーの分子量は、好ましくは200000g/mol未満、特に100000g/mol未満である。下限は、2000g/mol、好ましくは5000g/mol(数平均、M_(N)、GPCによって測定)である。これらの(コ)ポリマーは、狭い分子量分布を有することを特徴としている。M_(N)/M_(W)として表された分子量分布は、例えば2.5、好ましくは2.3未満であるべきである。このタイプのポリマーは、文献で知られており、様々な製造業者から商業的に入手できる。適当なポリマーの例は、VistamaxxまたはInfuseの商品名で市販されている。」

(ウ-3)
「【0052】
実施例2:
Vistamaxx VM 1120 25%
Regalite S 1100(Eastman Co.), 樹脂 53%
Priomol 352(Exxon), 可塑剤 20%
Licocene PP 6102, ワックス 1%
Irganox 1010(Ciba), 安定剤 0.5%
均質な組成物が得られるまで、160℃で成分を混合する。
140℃で、実施例2の接着剤を、25μmOPPフィルム(配向ポリプロピレン)上に噴霧した。噴霧パターンは整っており、曳糸性を有していなかった。

(中略)

【0056】
実施例5:
Exact 8230( Exxon) 45%
Vixtamaxx VM 2330 6%
Kraton GX 1726 2%
Regalite S 1100 (Eastman Co.) 40%
Vistanex PAR 950 ( EXXON) 5.5%
Licocene PP 6102 2%
Irganox 1010 (Ciba) 0.5%
均質な組成物が得られるまで、160℃で成分を混合する。
溶融接着剤をPEプラスチック基材(ポリエチレン)上に適用し、その直後に、ボール紙パッケージに接着することができる。」

(エ)甲第4号証
甲第4号証(DEXPLASTOMERS A DSM/ExxonMobil CHEMICAL joint venture,EXACT 8230 Octene-1 Plastomer DATA SHEET [on line] [ JULY 2011 2018年12月19日検索]、インターネット<URL: https://www.tanksireland.ie/uploadedfiles/Material-8230.pdf>)には、以下の記載がある。なお、訳は、当審による。

(エ-1)
「EXACT^(TM) 8230は、メタロセン触媒を用いる溶液重合において製造されるエチレン系オクテンプラストマーである。」
(第1頁の「Description and Attributes」の項の第1?3行)

(オ)甲第5号証
甲第5号証(特開2013-64055)の公開日は平成25年4月11日であって、本件特許に係る優先日(平成25年2月22日)後に公開されたものであり、取消理由A、Cの証拠になりえないものであるが、以下の記載がある。

(オ-1)
[【0079】
(B)エチレン系共重合体
(B1)エクソンモービル社製 商品名 「ビスタマックス 2330」
メタロセン触媒で重合して得られたプロピレン/エチレン共重合体
メルトインデックス200(g/10min:230℃)」

(カ)甲第6号証
甲第6号証(特開2013-28761)には、以下の記載がある。

(カ-1)
「【0075】
〔高流動オレフィン系熱可塑性エラストマー〕
軟質プロピレン系重合体:ビスタマックス2330(エクソンモービル社製)、MFR 300g/10min、硬さ A77」

(キ)甲第9号証
甲第9号証(特開2009-242533)には、以下の記載がある。

(キ-1)
「【請求項1】
(A)非晶性ポリα-オレフィン、
(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン、及び
(C)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である水素添加型熱可塑性ブロック共重合体
を含むことを特徴とするホットメルト接着剤。」

(キ-2)
「【0019】
(A)非晶性ポリα-オレフィンとして、例えば、非晶性のポリプロピレン、非晶性のポリエチレン、又は非晶性のプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、及び非晶性のエチレンと他のα-オレフィンとの共重合体を例示できる。
より具体的には、例えば、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン-1共重合体、プロピレン・ブテン-1・エチレンの3元共重合体、プロピレン・ヘキセン-1・オクテン-1の3元重合体、プロピレン・ヘキセン-1・4-メチルペンテン-1の3元共重合体、プロピレン・ヘキセン-1・4-メチルペンテン-1の3元共重合体、ポリブテン-1等を例示できる。」

(キ-3)
「【0021】
(B)結晶性ポリα-オレフィンとして、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンα-オレフィン共重合体、プロピレンα-オレフィン共重合体、エチレンプロピレンα-オレフィン共重合体、エチレンブテン共重合体、プロピレンブテン共重合体およびエチレンプロピレンブテン共重合体を例示できる。
メタロセン触媒を用いてα-オレフィンを重合すると、(i)結晶性が高く、(ii)非常に分子量分布の狭い重合体が合成される。(i)は、完全なアイソタクティック性、シンジオタクティック性を任意に制御できることを意味する。従って、結晶性に偏りを生じさせることが無く、分子の構成:例えば、プロピレン部位と他の構成単位との並び方;各構成単位の含有割合;等について均一な重合体が得られ、付着力低下の原因となる低結晶性部位が生じる可能性が低い。(ii)は、接着力の乏しい低分子量体を生じることが無くなり、接着力低下やタックの発現を招きにくいことを意味する。」

(キ-4)
「【0030】
本発明では、(C)水素添加型熱可塑性ブロック共重合体として、これらのトリブロック共重合体、ジブロック共重合体は、単独で又は組み合わせて用いることができるが、SEPSを含むことが特に好ましい。
成分(A)、(B)、(C)の重量部については、成分(A)?(C)の合計の重量を基準、即ち、100重量部として、成分(B)の配合量は、10?40重量部であることが好ましく、20?30重量部であることが特に好ましい。成分(B)の配合量が10重量部未満の場合、ホットメルト接着剤の高温下での経時的な接着力が低くなり得、成分(B)の配合量が40重量部を超える場合、ホットメルト接着剤の凝集力が高くなりすぎて、接着力が低下し得る。
【0031】
本発明に係るホットメルト接着剤は、必要に応じて、更に各種添加剤を含んでもよい。そのような各種添加剤として、例えば、粘着付与樹脂、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤)、ワックス、及び微粒子充填剤等を例示することができる。
「(D)粘着付与樹脂」として、例えば、天然ロジン、変性ロジン、水添ロジン、天然ロジンのグリセロールエステル、変性ロジンのグリセロールエステル、天然ロジンのペンタエリスリトールエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、天然テルペンのコポリマー、天然テルペンの3次元ポリマー、水添テルペンのコポリマーの水素化誘導体、ポリテルペン樹脂、フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体、脂肪族石油炭化水素樹脂、脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、芳香族石油炭化水素樹脂、芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、環状脂肪族石油炭化水素樹脂、環状脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体を例示することができる。これらの粘着付与樹脂は、単独で、又は組み合わせて使用することができる。」

(キ-5)
「【0050】
ホットメルト接着剤を配合するための成分を、以下に示す。
(A)非晶性ポリオレフィン
(A1)非晶性エチレンプロピレン共重合体(ハンツマン(Huntsman)社製 商品名レキセンタック2304)
(B)α-オレフィンをメタロセン触媒を用いて重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン
(B1)結晶性エチレンプロピレン共重合体(クラリアント(Clariant)社製 商品名リコセンPP2602)
(C)水素添加型熱可塑性ブロック共重合体
(C1)SEPSトリブロック共重合体(クレイトンポリマー社製 商品名Septon2063)
(C2)SEBSトリブロック共重合体(クレイトンポリマー社製 商品名KratonG1657)
【0051】
その他添加剤
(D)粘着付与樹脂
(D1)固形タイプの粘着付与樹脂(石油炭化水素の水素化誘導体:荒川化学社製、商品名アルコンM100)
(D2)固形タイプの粘着付与樹脂(フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体:ヤスハラケミカル社製、商品名YSポリスターT115)
(D3)液状タイプの粘着付与樹脂(石油炭化水素の水素化誘導体:丸善石油化学社製、商品名マルカクリアH)
(D4)固形タイプの粘着付与樹脂(フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体:ヤスハラケミカル社製、商品名YSポリスターPX115)
(E)酸化防止剤
(E1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(エーピーアイコーポレーション社製 商品名トミノックスTT)
(F’)酸変性ポリプロピレン
(F’1)酸変性ポリプロピレン(三洋化成工業社製、商品名ユーメックス1010)
【0052】
これらの成分を表1及び2に示す割合で配合し、150℃で3時間かけて万能攪拌機を用いて溶融混合し、実施例1?5及び比較例1?6のホットメルト接着剤を調製した。
上述のホットメルト接着剤について、粘度、軟化点、接着力、密着安定性を評価した。
接着力については、ポリエチレンテレフタレートフィルムとポリエチレンシートとをホットメルト接着剤で張り合わせ、密着安定性については、不織布とポリエチレンシートをホットメルト接着剤で貼り合わせ、所定の温度でプレスし、得られた積層体を評価用のサンプルとした。以下に各評価の概要ついて記載する。」

(キ-6)
「【0057】
【表1】




(ク)甲第10号証
甲第10号証(特開2012-177009)には、以下の記載がある。
(ク-1)
「【0046】
以下にホットメルト接着剤の原料、および配合、評価方法を記載する。
(A)エチレン/炭素数3?20のオレフィン共重合体
(A1)エチレン/オクテン共重合体(1-オクテン含量:35?37重量%、メルトフローレート500g/10min、ダウ・ケミカル社製のAFFINITY GA1950(商品名))
(A2)プロピレン/エチレン/1-ブテンの共重合体(ガラス転移点-28℃、軟化点124℃、190℃溶融粘度2700mPa・s、エボニックデグサ社製のVESTPLAST703(商品名))」

(ク-2)
「【0056】




(ケ)甲第11号証
甲第11号証(クラリアント 「LICOWAX(R) CERIDUST(R) LICOLUB(R) LICOMONT(R) LICOCENE(R)」 クラリアントのワックス、滑剤、特殊ポリマー 技術資料」、2018年3月発行(第7版) なお、原文中「○」の中に「R」と記載されたものが上付きで記載されている部分を、「(R)」と記載している。)は、その発行年が2018年(平成30年)であって、本件特許に係る優先日(平成25年2月22日)よりも後であり、取消理由Bの証拠になりえないものであるが、以下の記載がある。

(ケ-1)
滴点が95-102℃であり、溶融粘度が170℃において5,500-7,000(mPa・s)であり、平均分子量(Mw)が29,700であること(第6頁、「1.PPグレード」の表の「LICOCENE PP 2602」の行)

(コ)甲第12号証
甲第12号証(クラリアント 「Licowax(R) Ceridust(R) Licolub(R) Licomont(R) Licocene(R) General leaflet-Waxes」、第12?13頁、2012年発行 なお、原文中「○」の中に「R」と記載されたものが上付きで記載されている部分を、「(R)」と記載している。)には、商品名が「LICOCENE PP 1602」、「LICOCENE PP 2602」及び「LICOCENE PP 6102」であるものについて、以下の記載がある。なお、訳は、当審による。

(コ-1)
「LICOCENE PP 1602」は、化学的特性が非極性、非晶質のメタロセン系PPワックスであり、主な用途が分散剤、顔料や添加剤のマスターバッチ製造用のキャリヤ、樹脂用の潤滑剤、ホットメルト接着剤であり、物理化学的性質については、落下点が約88℃であり、23℃での密度が約0.87g/cm^(3)であり、粘度が170℃において約6,000(mPa・s)であり、色が白色透明で弱粘着性であり、供給形態は粒状であること(表の「LICOCENE PP 1602」の行)

(コ-2)
「LICOCENE PP 2602」は、化学的特性が非極性、非晶質のメタロセン系PPワックスであり、主な用途が分散剤、顔料や添加剤のマスターバッチ製造用のキャリヤ、樹脂用の潤滑剤、ホットメルト接着剤であり、物理化学的性質については、落下点が約99℃であり、23℃での密度が約0.87g/cm^(3)であり、粘度が170℃において約6,300(mPa・s)であり、色が白色透明で弱粘着性であり、供給形態は粒状であること(表の「LICOCENE PP 2602」の行)

(コ-3)
「LICOCENE PP 6102」は、化学的特性が非極性、結晶質のメタロセン系PPワックスであり、主な用途が樹脂用の潤滑剤、マスターバッチ製造用の分散剤、PVC用の外部潤滑剤、ホットメルト接着剤であり、物理化学的性質については、落下点が約145℃であり、23℃での密度が約0.90g/cm^(3)であり、粘度が170℃において約60(mPa・s)であり、色が白色でもろくて硬く、供給形態は粒状または微粉であること(表の「LICOCENE PP 6102」の行)

(サ)甲第13号証
甲第13号証(特表2008-524431号)には、以下の記載がある。

(サ-1)
「【請求項1】
プロピレンから誘導された構造単位、ならびにエチレンおよびC_(4-20)α-オレフィンから成る群より選択される少なくとも一つのコモノマーを含むコポリマーを含み、前記コポリマーが(i)約50モルパーセントより大きな含有量のプロピレンから誘導された構造単位、(ii)190Cにおいて約50cPから約100,000cPまでのブルックフィールド粘度、および(iii)約1.5から約6までのMWDを有し、且つ、(iv)約50ppm未満の金属を含有する、接着剤組成物。

(中略)

【請求項15】
前記組成物がホットメルト接着剤である、請求項1に記載の接着剤組成物。

(中略)

【請求項40】
更に第二ポリマーを含む、請求項1に記載の接着剤組成物。

(中略)

【請求項78】
更に、約75,000psi未満のヤング率を有することを特徴とする、請求項54に記載のコポリマー。」

(サ-2)
「【0012】
第四実施形態においては、本発明は二つまたはそれ以上のポリマーのブレンドを含む接着剤組成物であり、ここで、そのブレンドの少なくとも一つの成分、即ち、第一成分は:(i)第二および第三実施形態において説明されているプロピレン/エチレンコポリマー及び/又はプロピレン/不飽和コモノマーコポリマー、即ち、P/EコポリマーまたはP/E^(*)コポリマー;および(ii)一つまたはそれ以上のプロピレンホモポリマー;のうちの少なくとも一つを含む。このブレンドの各ポリマー成分の量は、広範囲にわたって様々に変わり得るが、典型的には、上述の第一成分が本ブレンドのうちの少なくとも約50、60、70、80もしくは90重量パーセントまたはそれ以上を構成している。本ブレンドはホモ相(homophasic)またはヘテロ相(heterophasic)のどちらであってもよい。本ブレンドがヘテロ相である場合には、プロピレンホモポリマー及び/又はP/Eコポリマーは連続相または不連続相(即ち、分散相)のどちらであってもよい。この実施形態の特定の変形態様では、それらの組成物はホットメルト接着剤組成物である。」

(サ-3)
「【0048】
本発明の特定の実施形態においては、本発明のプロピレンコポリマーは、他のポリマーとの適合性を高めるための官能基を導入するため、他のポリマーおよび他の物質との反応性を促進させるための官能基を導入するため、ならびに接着特性及び/又は界面活性を高めるための官能基を導入するために官能基化される。特定の官能基の導入はそのプロピレンコポリマーの界面特性を変化させることがあり、これは、典型的には、界面活性の増大をもたらし、その効果は、しばしば、種々の特性の改善として現れ、そのような特性は、塗装性、強靱性、適合性、接着性および連結層内における密着性などを含む。更に、官能基化プロピレンコポリマーは、以下の特性のうちの一つまたはそれ以上が改善された樹脂を開発するため、一つもしくはそれ以上のポリマーとブレンドされてよい:粘度、耐熱性、耐衝撃性、強靱性、可撓性、引っ張り強さ、圧縮永久ひずみ、応力緩和、耐クリープ性、引き裂き強度、耐ブロッキング性、固化温度、耐摩耗性、収縮力、オイル保持力、顔料保持力およびフィラーキャパシティー(filler capacity)。」

(サ-4)
「【0148】
(実施例1(サンプル1?32))
ポリマーの調製
一連のP/E^(*)コポリマーは、5リットル用のオイルジャケット付きオートクレーブ連続攪拌タンク反応器(CSTR)内で調製された。Ekatoインペラーと磁気的にカップリングされた攪拌機がこの混合をもたらした。反応器は28バールで液を充満して運転された。プロセスの流れは、底部で流入し、上部で流出した。幾分かの反応熱を取り除くため、反応器のジャケットを通じて伝熱オイルを循環させた。反応器の出口にMicro-Motion(商標)質量流量計を設け、この質量流量計により溶液の密度をモニタリングした。反応器の出口にあるすべてのラインは、30バールの蒸気でトレース(traced)され、絶縁(insulated)された。
【0149】
ShellsSol(商標)100-140溶媒(C_(8)異性体の溶媒)、コモノマー、プロピレンおよび水素を反応器に供給した。反応器に送り込まれた溶媒はMicro-Motion(商標)質量流量計で測定された。送り込まれた溶媒は、すべてのサンプルに対して、13kg/hrであった。可変速度隔膜ポンプが溶媒の流量を調節し、溶媒圧力を反応器圧力にまで高めた。プロピレンおよびコモノマーはRheomic(商標)質量流量計で計量され、溶媒の流れに送り込まれた。モノマーの流量は、サンプル28?30を除き、すべてのサンプルで4kg/hrであり、それらの例外的なサンプルでの流量は2.5kg/hrおよびサンプル30での3.5kg/hrであった。2台のBrooks(商標)流量計/制御装置(1?50sccmおよび10?400sccm)を用いて水素の流量を測定および調節し、この流れを溶媒の流れに送り込んだ。グリコール充填熱交換器を用いて全体の流れを冷却した。
【0150】
完全に自動化された希釈システムを用いて、その送給された触媒錯体を所望の濃度に希釈した。溶媒、ならびに濃縮触媒錯体は、この希釈プロセスの間にMicro-Motion(商標)質量流量計を通じて送り込まれた。同様なシステムを用いて、一次共触媒および二次共触媒を希釈した。反応器への別々な流れの調節により、この共触媒/触媒比が制御された。触媒および二次共触媒は、キャットフラッシュ溶媒流(cat-flush solvent stream)(即ち、全体的な溶媒の流れの一部であって、反応器に送り込まれる別々のフローフィード(flow feed);この流れに、希釈された触媒錯体および二次共触媒が加えられる)により反応器に送り込まれ、その共触媒成分が、溶媒、コモノマー、プロピレンおよび水素を含有するメインのフィードストリームに送り込まれた。サンプル1?18は図6Aに記述されている触媒錯体を用いて調製され、サンプル19?46は図6Bに記述されている触媒錯体を用いて調製された。図6Aの触媒は、ハフニウム、[N-[2,6-ビス(1-メチルエチル)フェニル]-α-[2-(1-メチル)フェニル]-6-(1-ナフタンレニル(naphthanlenyl)-κ-C2)-2-ピリジンメタンアミナート(2-)-κN1,κN2]ジメチル-であり、図6Bの触媒は、ハフニウム、[N-[2,6-ビス(1-メチルエチル)フェニル]-α-[2-(1-メチルエチル)フェニル]-6-(1-ナフタンレニル-κ-C2)-2-ピリジンメタンアミナート(2-)-κN1,κN2]ジメチル-である。これらの両触媒錯体に対する一次および二次共触媒は、それぞれ、ビス(水素化獣脂アルキル)メチル(アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートおよび修飾アルモキサンであった。」

(サ-5)
「【0165】
特性表の説明:
表1-Bは、177Cおよび190Cの温度におけるブルックフィールド粘度、密度、ショアA硬度、軟化点、25Cにおける針入度、ならびにコモノマーのwt%およびmol%、分子量分布(重量平均分子量M_(w)、数平均分子量M_(n)、および分子量分布M_(w)/M_(n)を含む)、熱挙動(融点T_(m)、融解終了点T_(me)を含む)、融解熱を165J/gで割り算して100を掛けることにより決定された結晶化度(パーセント)、結晶化温度T_(c)および結晶化発現温度T_(co)、ならびにガラス転移温度T_(g)(すべてDSCにより決定)、機械的特性(破断強度、降伏強度、破断時の伸長率(%)、ヤング率および破断エネルギーを含む)、ならびに上で説明されている手順および表1-Aに示されている条件により調製されたポリマーの歪度指数を示している。」

(サ-6)
「【表1-B-2】




(サ-7)
「【表1-B-5】




(サ-8)
「【表1-B-6】




イ 証拠に記載された発明
(ア) 甲第1号証

甲第1号証(摘記(ア-1))には、請求項1を引用する請求項3に係る接着剤組成物である以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「1,000?50,000グラム/モルの数平均分子量及び10?50重量%未満の結晶化度を有するシングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマー;
10,000超?200,000グラム/モルの数平均分子量及び50?100重量%の結晶化度を有する結晶性プロピレンベースポリマー;
粘着性付与剤; 及び
エラストマー;
を含む接着剤組成物であって、
前記シングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマー25?60重量%、前記結晶性プロピレンベースポリマー8?30重量%、前記粘着性付与剤25?55重量%、及び前記エラストマー3?10重量%を含むものである、
接着剤組成物。」

(イ) 甲第3号証

甲第3号証(摘記(ウ-1)、(ウ-3))には、請求項1のホットメルト接着剤について実施例5が記載されていることから、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「 a)5?40重量%の、メタロセン触媒重合によって得られた、エチレンと少なくとも1種のC_(3)?C_(20)α-オレフィンとに基づく少なくとも1種のコポリマー、
b)10?65重量%の少なくとも1種の粘着付与樹脂、
c)0?35重量%の可塑剤、
d)0.01?30重量%の、安定剤、接着促進剤、充填剤または顔料、ワックスおよび/または他のポリマーから選択される、添加剤および助剤
を、それらの和が100%となるべく含んでなるホットメルト接着剤であって、該コポリマーが、
【数1】
(E’_(0c)-E_(25c))/E’_(25c)<1.5

に従って貯蔵弾性率E’の割合として測定された0℃?25℃で本質的に線形の弾性挙動を示すブロックコポリマーであるホットメルト接着剤であって、
Exact 8230( Exxon) 45%、Vixtamaxx VM 2330 6%、Kraton GX 1726 2%、Regalite S 1100 (Eastman Co.) 40%、Vistanex PAR 950 ( EXXON) 5.5%、Licocene PP 6102 2%、Irganox 1010 (Ciba) 0.5%、からなる均質な組成物である、
ホットメルト接着剤。」

(ウ) 甲第9号証

甲第9号証(摘記(キ-1)、(キ-5)には、請求項1のホットメルト接着剤について実施例5が記載されていることから、以下の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認められる。

「 (A)非晶性ポリα-オレフィン、
(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン、及び
(C)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である水素添加型熱可塑性ブロック共重合体を含むホットメルト接着剤であって、
上記(A)として、レキセンタック2304を70部、
上記(B)として、リコセンPP2602を10部、
上記(C)として、セプトン2063を20部、
及び、アルコンM100を86部、マルカクリアHを14部、トミノックスTTを0.6部、からなるホットメルト接着剤。」

ウ 検討
(ア) 取消理由Aについて
a 本件訂正発明1と甲1発明の対比

甲1発明の「接着剤組成物」は、「ホットメルト加工可能」なものである(摘記(ア-4)参照。)から、本件訂正発明1の「ホットメルト接着剤」に相当する。
甲1発明の「1,000?50,000グラム/モルの数平均分子量及び10?50重量%未満の結晶化度を有するシングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマー」は、「該プラストマーは、ポリオレフィンホモポリマーまたはコポリマーであることができ、コポリマーであることが適切」であり、「約5?85重量%、または約10?50重量%、または約15?35重量%のC_(3)?C_(12)アルファ-オレフィンコモノマー、及び約15?95重量%、または約50?90重量%、または約65?85重量%のエチレンを含むことができる」ものである(摘記(ア-2)参照。)から、本件訂正発明1の「エチレン系重合体(A)が、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体であり、かつエチレン-α-オレフィン共重合体である」に相当する。
甲1発明の「10,000超?200,000グラム/モルの数平均分子量及び50?100重量%の結晶化度を有する結晶性プロピレンベースポリマー」は、「このポリマーは、プロピレンホモポリマーであるか、またはエチレンもしくはC_(4)?C_(12)アルファ-オレフィンコモノマーとのプロピレンのコポリマーであることができ、そして10重量%までの前記コモノマーを含んでいてよい」ものである(摘記(ア-3)参照。)から、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)がプロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり」に相当する。
甲1発明の「接着剤組成物」は、「シングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマー25?60重量%、前記結晶性プロピレンベースポリマー8?30重量%、前記粘着性付与剤25?55重量%、及び前記エラストマー3?10重量%を含むものである」から、「シングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマー」100重量部に対して「結晶性プロピレンベースポリマー」を13(=8/60*100)?120(=30/25*100)重量部含有するものである。
したがって、甲1発明の「接着剤組成物」は、本件訂正発明1のエチレン系重合体(A)に対するプロピレン系重合体(B)の含有割合について、範囲が重複一致している。

そうすると、本件訂正発明1と甲1発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
エチレン系重合体(A)100質量部に対して、プロピレン系重合体(B)を5?30質量部を含有し、
前記プロピレン系重合体(B)がプロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり、
前記エチレン系重合体(A)が、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体であり、かつエチレン-α-オレフィン共重合体である
ホットメルト接着剤

<相違点1>
本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」は、「下記(1)及び(2)を満たす (1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400 (2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」と特定されているのに対し、甲1発明の「結晶性プロピレンベースポリマー」は、そのような特定を備えていない点

<相違点2>
本件訂正発明1は、「エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?100質量部を更に含み」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点

<相違点3>
プロピレン系重合体(B)の含有割合について、本件訂正発明1の「ホットメルト接着剤」は、「エチレン系重合体(A)100質量部に対して、プロピレン系重合体(B)を5?30質量部」と特定されているのに対し、甲1発明の「接着剤組成物」は、「シングルサイト触媒ポリオレフィンベースプラストマー」100重量部に対して「結晶性プロピレンベースポリマー」を13?120重量部含有するものである点

b 相違点の検討

相違点1について検討する。
甲第1号証(摘記(ア-1)?(ア-4))には、甲1発明の「結晶性プロピレンベースポリマー」が備えると好ましい物性(特に、引張弾性率や破断伸び)については何も記載がない。
また、甲第1号証の実施例の記載(摘記(ア-5))を見ても、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」に対応する甲1発明の「結晶性プロピレンベースポリマー」として使用した「アイソタクチック(結晶性)ポリプロピレン」の「メルトフローレート」が記載されている(摘記(ア-5)の[0070])だけであって、引張弾性率や破断伸びは記載されていない。

なお、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」は、「下記(1)及び(2)を満たす (1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400 (2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」と特定されていることにより、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用する(上記1(2)エ(エ))ものであるから、念のため、耐熱クリープ性の観点からも甲第1号証の記載を検討すると、甲第1号証には、甲1発明の「接着剤組成物」の「エージドクリープ」を評価したことが記載されており(摘記(ア-5)の[0072])、当該エージドクリープは、”クリープ”という表現を含む点で本件訂正発明1の耐熱クリープ性と似ているといえる。
しかしながら、甲第1号証には、単にエージドクリープを評価した結果が記載されているだけであって、エージドクリープと、甲1発明の「結晶性プロピレンベースポリマー」の引張弾性率や破断伸びとを関連づけた記載などはない。そうすると、仮に、当業者がエージドクリープに着目したとしても、甲1発明の「結晶性プロピレンベースポリマー」の引張弾性率や破断伸びを特定の数値範囲に限定することを動機付けられるとはいえない。

また、甲第2号証には、遷移金属化合物を含有する重合用触媒の存在下、プロピレンを単独重合、あるいは、プロピレンとエチレン及び又は炭素数4?20のα-オレフィンを共重合させる方法について、当該遷移金属化合物として、「(1,2’-ジメチルシリレン)(2,1’-ジメチルシリレン)(インデニル)(3-トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロリド」(摘記(イ-3))が記載されており、この化合物は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」の製造に使用されている「錯体A」と一致する(本件特許の明細書の【0071】)。
しかしながら、甲第2号証には、上記遷移金属化合物(錯体A)以外にも多数の遷移金属化合物が記載されており、これらの中から上記化合物に注目する動機付けとなる記載はない。また、仮に、上記化合物に限定することを着想することができたとしても、共重合体の特性(引張弾性率及び破断伸びを含む)は、コモノマーの種類や濃度、重合温度や溶媒、有機金属活性化剤や共触媒、などの重合条件の影響を受けることが技術常識であって、遷移金属化合物の種類のみでは決まらないから、上記遷移金属化合物(錯体A)を含有する重合用触媒の存在下でプロピレンを重合して得た重合体であるというだけでは、その引張弾性率及び破断伸びの値が、「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を満足するとはいえない。
また、他に、当業者が、甲1発明の結晶性プロピレンベースポリマーの引張弾性率及び破断伸びを(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400 (2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」に限定する動機付けとなる事項は、記載されていない。

また、甲第13号証には、プロピレンから誘導された構造単位、ならびにエチレンおよびC_(4-20)α-オレフィンから成る群より選択される少なくとも一つのコモノマーを含むコポリマーを含む、接着剤組成物(摘記(サ-1))について、当該コポリマーの合成例とその機械的特性(ヤング率(PSI)及び破断時の伸長率(%))などを測定した結果(摘記(サ-6)?(サ-8))が記載されており、その中には、本件訂正発明1の「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足する例(サンプル番号28?32、36)が含まれている。
しかしながら、本件訂正発明1の「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足しない例(サンプル番号33など)も記載されているし、単にヤング率(PSI)及び破断時の伸長率(%)の測定値が記載されているだけであって、ヤング率(PSI)及び破断時の伸長率(%)に基づき優劣などが評価されているわけでもなければ、「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足する例(サンプル番号28?32、36)が、充足しない例よりも耐熱クリープ性が優れていることが記載されているわけでもない。
したがって、甲第13号証にも、当業者が、甲1発明の結晶性プロピレンベースポリマーの引張弾性率及び破断伸びを「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものに限定する動機付けとなる事項は、記載されていない。

また、甲第3、4、6、10、12号証にも、当業者が、甲1発明において、「結晶性プロピレンベースポリマー」の引張弾性率及び破断伸びに着目してそれぞれ「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものに特定することを動機づける事項は、なんら記載されていない。
また、甲第5号証の公開日は、平成25年4月11日であって、本件特許に係る優先日(平成25年2月22日)後に公開されたものであるから、取消理由Aの証拠として採用することができないものである。

そうすると、相違点1について、異議申立人が提出した甲第1?4、6、10、12、13号証に記載された事項に基づき、甲1発明の「結晶性プロピレンベースポリマー」を「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものに特定することは、当業者といえども容易になし得たとは認められない。

c 効果の検討

本件訂正発明1は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」が、「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を満たすものに特定されていることによって、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用し、本件訂正発明のホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を優れたものとしている(上記1(2)オを参照。)という、甲第1?4、6、10、12、13号証に記載されている事項からは当業者が予測することができない効果を奏するものであると認められる。

d 小括

上記のとおりであるから、さらに相違点2、3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第2?6、10、12、13号証に記載された事項に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
また、本件訂正発明2?7は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用し、さらに特定したホットメルト接着剤の発明であり、本件訂正発明8は、本件訂正発明1?7のホットメルト接着剤の発明を直接引用し、さらに特定した接着方法の発明であるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第2?6、10、12、13号証に記載された事項に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるとは認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明2?8も、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第2?6、10、12、13号証に記載された事項に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(イ) 取消理由Bについて
a 本件訂正発明1と甲9発明の対比

甲9発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」は、「上記(B)として、リコセンPP2602」と特定されており、当該「リコセンPP2602」は、甲第12号証(摘記(コ-2))によれば、「非晶質のメタロセン系PPワックス」である。
そうすると、「リコセンPP2602」は、「非晶質」と表記されている点で、甲9発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」に該当しない可能性があるが、結晶性と非晶質の区別(定義)は、文献毎に異なりうるものである。また、甲9発明は、甲第9号証に、「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」として、「リコセンPP2602」を使用する実施例5が記載されていることに基づいて認定したものである。
したがって、甲9発明の「リコセンPP2602」は、「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」に該当すると認める。
そうすると、甲9発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン 上記(B)として、リコセンPP2602」は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」と、プロピレンをメタロセン触媒で重合して得られたポリプロピレンである点で一致する。
一方、甲9発明の「リコセンPP2602」は、プロピレン単位の共重合比、引張弾性率及び破断伸びが不明である。

そうすると、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」と甲9発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」が、「プロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり」及び「下記(1)及び(2)を満たす (1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400 (2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」と特定されているのに対し、甲9発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」は、「リコセンPP2602」であって、プロピレン単位の共重合比、引張弾性率及び破断伸びが不明である点で相違している。

ここで、上記相違点は、以下の相違点4、5に分けることができ、かつ、相違点4は、実質的に相違点1と同じものであるから、事案に鑑み、先に相違点4について、上記(ア)bを踏まえて、相違点の検討、等を行う。

<相違点4>
本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」は、「下記(1)及び(2)を満たす (1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400 (2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」と特定されているのに対し、甲9発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」は、「リコセンPP2602」であって、引張弾性率及び破断伸びが不明である点

<相違点5>
本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」は、「下記(1)及び(2)を満たす (1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400 (2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」と特定されているのに対し、甲9発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」は、「リコセンPP2602」であって、プロピレン単位の共重合比が不明である点

b 相違点の検討

甲9発明は、「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」として「リコセンPP2602」を使用するものであるが、甲第9号証(摘記(キ-1)?(キ-3))には、甲9発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」が備えると好ましい物性(特に、引張弾性率や破断伸び)については何も記載がないし、「リコセンPP2602」の引張弾性率や破断伸びに関する記載もない。
そうすると、甲第9号証には、当業者が、甲9発明において、甲9発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」の引張弾性率や破断伸びに着目し、「リコセンPP2602」に代えて、「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものとすることを動機付ける事項は、記載されていない。

また、(ア)bのとおり、甲第1、2、13号証にも、当業者が、甲9発明において、「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」の引張弾性率及び破断伸びに着目してそれぞれ「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものに特定することを動機づける事項は、なんら記載されていない。
また、甲第3、12号証にも、当業者が、甲9発明において、「結晶性プロピレンベースポリマー」の引張弾性率及び破断伸びに着目してそれぞれ「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものに特定することを動機づける事項は、なんら記載されていない。
また、甲第11号証の発行日は、2018年(平成30年)3月であるから、本件特許に係る優先日(平成25年2月22日)後に公開されたものであるから、取消理由Bの証拠として採用することができないものである。

そうすると、相違点4について、異議申立人が提出した甲第1?3、9、12、13号証に記載された事項に基づき、甲9発明の「結晶性プロピレンベースポリマー」を「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものに特定することは、当業者といえども容易になし得たとは認められない。

c 効果の検討

本件訂正発明1は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」が、「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を満たすものに特定されていることによって、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用し、本件訂正発明のホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を優れたものとしている(上記1(2)オを参照。)という、甲第1?3、9、12、13号証に記載されている事項からは当業者が予測することができない効果を奏するものであると認められる。

d 小括

上記のとおりであるから、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第9号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第1?3、12、13号証に記載された事項に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
また、本件訂正発明2?7は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用し、さらに特定したホットメルト接着剤の発明であり、本件訂正発明8は、本件訂正発明1?7のホットメルト接着剤の発明を直接引用し、さらに特定した接着方法の発明であるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、甲第9号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第1?3、12、13号証に記載された事項に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるとは認められないものである。
そうすると、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明2?8も、甲第9号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第1?3、12、13号証に記載された事項に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(ウ) 取消理由Cについて
a 本件訂正発明1と甲3発明の対比

甲3発明の「Exact 8230( Exxon)」は、甲第4号証(摘記(エ-1))によれば、「メタロセン触媒を用いる溶液重合において製造されるエチレン系オクテンプラストマー」であるから、本件訂正発明1の「エチレン系重合体(A)」に該当するものであって、「プロピレン系重合体(B)」に相当するものではない。

甲3発明の「Vixtamaxx VM 2330」は、甲第6号証(摘記(カ-1))によれば、「軟質プロピレン系重合体」であるが、プロピレン単位の共重合比、引張弾性率及び破断伸びは不明である。
また、甲第3号証(摘記(ウ-2))には、甲3発明の「a)メタロセン触媒重合によって得られた、エチレンと少なくとも1種のC_(3)?C_(20)α-オレフィンとに基づく少なくとも1種のコポリマー 該コポリマーが、【数1】 (E’_(0c)-E_(25c))/E’_(25c)<1.5 に従って貯蔵弾性率E’の割合として測定された0℃?25℃で本質的に線形の弾性挙動を示すブロックコポリマー」について、「適当なポリマーの例は、VistamaxxまたはInfuseの商品名で市販されている。」と記載されているから、甲3発明の「Vixtamaxx VM 2330」は、「a)メタロセン触媒重合によって得られた、エチレンと少なくとも1種のC_(3)?C_(20)α-オレフィンとに基づく少なくとも1種のコポリマー 該コポリマーが、【数1】 (E’_(0c)-E_(25c))/E’_(25c)<1.5 に従って貯蔵弾性率E’の割合として測定された0℃?25℃で本質的に線形の弾性挙動を示すブロックコポリマー」に該当するものである。

甲3発明の「Licocene PP 6102」は、甲第12号証(摘記(コ-3))によれば、「結晶質のメタロセン系PPワックス」である。
また、甲第3号証(摘記(ウ-3)の【0052】)にも、甲3発明の「Licocene PP 6102」について、「Licocene PP 6102, ワックス」(下線は、当審による。)と記載されている。
したがって、甲3発明の「Licocene PP 6102」は、「d)0.01?30重量%の、安定剤、接着促進剤、充填剤または顔料、ワックスおよび/または他のポリマーから選択される、添加剤および助剤」のうちの「ワックス」に該当するものであるが、本件訂正発明1は、「プロピレン系重合体(B)」の他に「ワックス(D)」を含むものである。
そうすると、甲3発明の「Licocene PP 6102」は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」に相当するものではない。

甲3発明の「Kraton GX 1726」がどのような樹脂なのか、甲第3号証には記載がないし、証拠も提出されていないので不明である。なお、Kraton 社から”G”シリーズの製品としてスチレン系のブロック重合体が市販されているので、甲3発明の「Kraton GX 1726」もスチレン系のブロック重合体である蓋然性が高い。したがって、甲3発明の「Kraton GX 1726」は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」に相当するものではない。

甲3発明の「Regalite S 1100」は、その商品名に基づき、Eastman社から市販されている炭化水素樹脂であると認められるから、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」に相当するものではない。

甲3発明の「Vistanex PAR 950」は、その商品名に基づき、EXXON社から市販されているポリイソブチレン樹脂であると認められるから、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」に相当するものではない。

甲3発明の「Irganox 1010 (Ciba)」は、甲第3号証(摘記(ウ-3)の【0052】)に、「Irganox 1010(Ciba), 安定剤」と記載されているから、「d)0.01?30重量%の、安定剤、接着促進剤、充填剤または顔料、ワックスおよび/または他のポリマーから選択される、添加剤および助剤」のうちの「安定剤」に該当するものであって、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」に相当するものではない。

以上によれば、甲3発明の「Vixtamaxx VM 2330」が、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」と甲3発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」が、「プロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり」及び「下記(1)及び(2)を満たす (1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400 (2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」と特定されているのに対し、甲3発明の「a)メタロセン触媒重合によって得られた、エチレンと少なくとも1種のC_(3)?C_(20)α-オレフィンとに基づく少なくとも1種のコポリマー 該コポリマーが、【数1】 (E’_(0c)-E_(25c))/E’_(25c)<1.5 に従って貯蔵弾性率E’の割合として測定された0℃?25℃で本質的に線形の弾性挙動を示すブロックコポリマー」は、「Vixtamaxx VM 2330」であって、プロピレン単位の共重合比、引張弾性率及び破断伸びが不明である点で相違している。

ここで、上記相違点は、以下の相違点6,7に分けることができ、かつ、相違点6は、実質的に相違点1と同じものであるから、事案に鑑み、先に相違点6について、上記(ア)bを踏まえて、相違点の検討、等を行う。

<相違点6>
本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」と甲3発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」が、「プロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり」及び「下記(1)及び(2)を満たす (1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400 (2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」と特定されているのに対し、甲3発明の「a)メタロセン触媒重合によって得られた、エチレンと少なくとも1種のC_(3)?C_(20)α-オレフィンとに基づく少なくとも1種のコポリマー 該コポリマーが、【数1】 (E’_(0c)-E_(25c))/E’_(25c)<1.5 に従って貯蔵弾性率E’の割合として測定された0℃?25℃で本質的に線形の弾性挙動を示すブロックコポリマー」は、「Vixtamaxx VM 2330」であって、引張弾性率及び破断伸びが不明である点

<相違点7>
本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」と甲3発明の「(B)α-オレフィンをメタロセン触媒で重合して得られた結晶性ポリα-オレフィン」は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」が、「プロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり」及び「下記(1)及び(2)を満たす (1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400 (2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」と特定されているのに対し、甲3発明の「a)メタロセン触媒重合によって得られた、エチレンと少なくとも1種のC_(3)?C_(20)α-オレフィンとに基づく少なくとも1種のコポリマー 該コポリマーが、【数1】 (E’_(0c)-E_(25c))/E’_(25c)<1.5 に従って貯蔵弾性率E’の割合として測定された0℃?25℃で本質的に線形の弾性挙動を示すブロックコポリマー」は、「Vixtamaxx VM 2330」であって、プロピレン単位の共重合比が不明である点

b 相違点の検討

甲3発明は、「メタロセン触媒重合によって得られた、エチレンと少なくとも1種のC_(3)?C_(20)α-オレフィンとに基づく少なくとも1種のコポリマー 該コポリマーが、【数1】 (E’_(0c)-E_(25c))/E’_(25c)<1.5 に従って貯蔵弾性率E’の割合として測定された0℃?25℃で本質的に線形の弾性挙動を示すブロックコポリマー」(以下、「甲3発明のブロックコポリマー」という。)として「Vixtamaxx VM 2330」を使用するものであるが、甲第3号証(摘記(ウ-1)、(ウ-2))には、「甲3発明のブロックコポリマー」は、「【数1】 (E’_(0c)-E_(25c))/E’_(25c)<1.5 に従って貯蔵弾性率E’の割合として測定された0℃?25℃で本質的に線形の弾性挙動を示す」という物性ですでに特定されているが、その他にも備えると好ましい物性(特に、引張弾性率や破断伸び)については何も記載がない。
また、甲第3号証の実施例の記載(摘記(ウ-3))を見ても、「Vixtamaxx VM 2330」の引張弾性率や破断伸びは記載されていない。
そうすると、甲第3号証には、当業者が、甲3発明において、「甲3発明のブロックコポリマー」の引張弾性率や破断伸びに着目し、「Vixtamaxx VM 2330」に代えて、「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものを使用することを動機付ける事項は、記載されていない。

また、(ア)bのとおり、甲第1、2、13号証にも、当業者が、甲3発明において、「結晶性プロピレンベースポリマー」の引張弾性率及び破断伸びに着目してそれぞれ「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものに特定することを動機づける事項は、なんら記載されていない。
また、甲第4、6、12号証にも、当業者が、甲3発明において、「結晶性プロピレンベースポリマー」の引張弾性率及び破断伸びに着目してそれぞれ「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものに特定することを動機づける事項は、なんら記載されていない。
また、甲第5号証の公開日は、平成25年4月11日であって、本件特許に係る優先日(平成25年2月22日)後に公開されたものであるから、取消理由Cの証拠として採用することができないものである。

そうすると、相違点6について、異議申立人が提出した甲第1?4、6、12、13号証に記載された事項に基づき、甲3発明の「結晶性プロピレンベースポリマー」を「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を充足するものに特定することは、当業者といえども容易になし得たとは認められない。

c 効果の検討

本件訂正発明1は、本件訂正発明1の「プロピレン系重合体(B)」が、「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を満たすものに特定されていることによって、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用し、本件訂正発明のホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を優れたものとしている(上記1(2)オを参照。)という、甲第1?4、6、12、13号証に記載されている事項からは当業者が予測することができない効果を奏するものであると認められる。

d 小括

上記のとおりであるから、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第1、2、4、6、12、13号証に記載された事項に基づき、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
また、本件訂正発明2?7は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用し、さらに特定したホットメルト接着剤の発明であり、本件訂正発明8は、本件訂正発明1?7のホットメルト接着剤の発明を直接引用し、さらに特定した接着方法の発明であるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第1、2、4、6、12、13号証に記載された事項に基づき、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるとは認められないものである。
そうすると、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明2?8も、甲第3号証に記載された発明を主たる引用発明とし、これと、甲第1、2、4、6、12、13号証に記載された事項に基づき、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(3) 取消理由Dについて

上記1(2)オのとおり、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」は、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用すると認められるものであり、より具体的には、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」に該当するものであれば、ポリプロピレン1やポリプロピレン2とは異なる重合体(例えば、プロピレン単独重合体ではないもの)であっても、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用すると認められるし、エチレン系重合体(A)として、実施例で具体的に使用しているもの(エチレン-1-オクテン共重合体(商品名:Affinity GA1950))とは異なるものを使用する態様においても、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」が有する、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させるための添加剤として作用するという機能が発揮されると認められるものである。
そうすると、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」を含有する本件訂正発明のホットメルト接着剤は、「(1)、(2)を満たすプロピレン系重合体(B)」を含有することにより、その含有量によらず、その耐熱クリープ性が向上していると認められるから、取消理由Dのアは、採用できない。
また、ポリプロピレン1やポリプロピレン2とは異なる重合体(例えば、プロピレン単独重合体ではないもの)であっても、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を向上させることができると認められるのであるから、取消理由Dのイ、ウも、採用できない。
また、取消理由Dのエは、要するに[rmrm]のピークに近接する位置に別のピークが存在する場合には正確な値が得られないというものであるが、測定値には多かれ少なかれ誤差が含まれるのであって、特許異議申立人も有効であると認めているプロピレンの単独重合体の場合においても、その測定値には誤差が含まれている。
また、具体的に[rmrm]ペンタッドの場合における測定誤差の大きさを示して、実質的に測定が不可能であるといえる程大きいことを立証しているものでもない。
しかも、そもそも、甲第8号証には、「^(13)C-NMRによる[rmrm]ペンタッドの測定方法は、プロピレンの単独重合体の場合にのみ有効である」という記載はないし、特許異議申立人が、甲第8号証のどの記載に基づいてそのような理解をしたのかも具体的には示されていないので、不明である。
加えて、特許異議申立人が提出した甲第7号証(本件特許の出願日後に作成された文書ではあるが)の第3頁の表には、プロピレン-エチレン共重合体A?Cの[rmrm]ペンタッドを^(13)C-NMRで測定した結果が2つ(「PPペンタッドrmrmの場合(積分)」及び「PPペンタッドrmrmの場合(デコンボリューション)」)づつ記載されているが、いずれのサンプルでも、両者は、測定方法(「積分」か「デコンボリューション」)が異なるにも関わらず概ね一致しているといえるから、出願時の技術常識に基づいてピークの帰属及び積分値の計算を適切に行えば、共重合体であっても、[rmrm]ペンタッド分率の測定は不可能であるとはいえないことを裏付けているものといえる。
したがって、取消理由Dのエも、採用できない。

(4) 取消理由Eについて

取消理由Eは、要するに取消理由Dが採用できるものであることを前提にして、取消理由Dと同様の理由で取消理由Eで本件訂正発明を取り消すべきであると主張するものであるが、上記(3)のとおり、取消理由Dは、いずれも採用できない。
そうすると、さらに検討するまでもなく、取消理由Eも採用できない。

(5) 取消理由Fについて

本件訂正発明は、上記第3のとおりのものであって、エチレン系重合体(A)に対するプロピレン系重合体(B)の量という相対的な量によってのみ特定されているものであり、エチレン系重合体(A)やプロピレン系重合体(B)がそれぞれ、接着剤全体を基準としてどの程度の量で存在し得るのかについては特定がない(いかようであってもよい)ものであると理解することができ、他の解釈をする余地はない。
そうすると、取消理由Fのオは、採用できない。
また、本件訂正発明の「プロピレン系重合体(B)」は、プロピレン系重合体であって、「(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400」及び「(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000」を満たすか否かで明確に区別することができるものであり、本件訂正発明の「ワックス」は、発明の詳細な説明の【0066】にその具体例について、例えば、動物ワックス、植物ワックス等が挙げられるとの説明や、柔軟性向上、粘度低下による濡れ性の向上の観点から、適切な含有量とすることが説明されているから、明確である。そして、ホットメルト接着剤以外の技術分野においても、ワックスという技術用語が使用されており、その際、上記とは異なる意味を有することがある(甲第16、17号証)としても、本件訂正発明の「プロピレン系重合体(B)」及び「ワックス」の意味するところが明確であることは上記のとおりである。
したがって、取消理由Fのカも採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系重合体(A)100質量部に対して、下記(1)及び(2)を満たすプロピレン系重合体(B)を5?30質量部を含有し、
前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、ワックス(D)50?100質量部を更に含み、
前記プロピレン系重合体(B)がプロピレン単独重合体又はプロピレン単位の共重合比が70モル%以上の共重合体であり、
前記エチレン系重合体(A)が、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体であり、かつエチレン-α-オレフィン共重合体である
ホットメルト接着剤。
(1)125≦23℃における引張弾性率(MPa)≦400
(2)100≦23℃における破断伸び(%)≦1000
【請求項2】
前記プロピレン系重合体(B)がプロピレン単独重合体である、請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
前記プロピレン系重合体(B)が下記(a)?(d)を満たす、請求項1又は2に記載のホットメルト接着剤。
(a)[mmmm]=20?80モル%
(b)重量平均分子量(Mw)=10,000?80,000
(c)Mw/Mn≦2.5
(d)[rmrm]<2.5モル%
【請求項4】
前記プロピレン系重合体(B)が更に下記(a’)及び(b’)を満たす、請求項3に記載のホットメルト接着剤。
(a’)[mmmm]=60?80モル%
(b’)重量平均分子量(Mw)=10,000?55,000
【請求項5】
前記エチレン系重合体(A)がエチレン-1-オクテン共重合体である、請求項1?4のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項6】
前記エチレン系重合体(A)が、エチレンから導かれる構成単位を63?65質量%、1-オクテンから導かれる構成単位を35?37質量%含有するエチレン-1-オクテン共重合体である、請求項5に記載のホットメルト接着剤。
【請求項7】
前記エチレン系重合体(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(C)50?200質量部を更に含む、請求項1?6のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載のホットメルト接着剤を溶融し、少なくとも1つの基材に塗布する工程、及び塗布されたホットメルト接着剤に他の基材を接着する工程を含む、基材と他の基材との接着方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-10 
出願番号 特願2015-501384(P2015-501384)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
P 1 651・ 537- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保 道弘  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
蔵野 雅昭
登録日 2018-06-22 
登録番号 特許第6357464号(P6357464)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 プロピレン系重合体及びホットメルト接着剤  
代理人 江崎 光史  
代理人 大谷 保  
代理人 虎山 一郎  
代理人 大谷 保  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 上西 克礼  

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