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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21C
管理番号 1357626
異議申立番号 異議2018-700771  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-25 
確定日 2019-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6358771号発明「溶解クラフトパルプの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6358771号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6358771号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6358771号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成24年6月15日を出願日とする出願であって、平成30年6月29日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報発行 平成30年7月18日)、その後、その特許について、平成30年9月25日に特許異議申立人実川栄一郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成31年3月1日付けで申立人に審尋を通知し、平成31年4月26日に回答書が提出され、当審において令和1年5月28日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である令和1年7月19日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、申立人より、令和1年9月5日に本件訂正請求について意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりのものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前加水分解のPファクターが350?800」と記載されているのを、「前加水分解のPファクターが500?800」と訂正する(請求項1を引用する請求項2?7も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「木材チップ1kgあたりの水の液比が1.5?4.5L/kgにて耐圧性容器において前加水分解工程が行われる、請求項1に記載の方法。」と記載されているのを、「前加水分解工程が、170?180℃で30?150分間、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.5?3.2L/kgにて耐圧性容器において行われる、請求項1に記載の方法。」と訂正する(請求項2を引用する請求項3?7も同様に訂正する。)。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正事項1は、前加水分解のPファクターの数値範囲を、訂正前の請求項1では「350?800」であったものを「500?800」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正後の請求項2?7も、請求項1に係る訂正と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.上記ア.で述べたように、訂正事項1は、前加水分解のPファクターの数値範囲を限定するもので、カテゴリーや対象、目的の変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ.訂正事項1の「500?800」の「500」は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0049】の【表1】の記載に基づくものであるから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア.訂正事項2は、前加水分解処理の木材チップ1kgあたりの水の液比が「1.5?3.2L/kg」と、温度が「170?180℃」と、時間が「30?150分間」と、前加水分解処理の液比、温度、時間を、さらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正後の請求項3?7も、請求項2に係る訂正と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.上記ア.で述べたように、訂正事項2は、前加水分解処理の液比、温度、時間を、さらに限定するもので、カテゴリーや対象、目的の変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ.訂正事項2の、前加水分解処理の木材チップ1kgあたりの水の液比「1.5?3.2L/kg」の「3.2L/kg」は、本件特許明細書の段落【0041】の記載に、また、温度「170?180℃」の「170℃」は、同じく段落【0041】の記載に、また、時間「30?150分間」の「150分間」は、同じく段落【0024】の記載に、それぞれ基づくものであるから、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項2?7は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。

3.訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められたから、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
(a)広葉樹のチップを含む木材チップに水を添加し、下式:
Pファクター=∫exp(40.48-15106/T)dt
[式中、Tは、木材チップに水を添加した時点から前加水分解の終了時点までの絶対温度である]
で表される前加水分解のPファクターが500?800となるように温度150?180℃で30?400分間、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器において処理し、木材チップに含まれるヘミセルロース分の分解または溶出を行う前加水分解工程と、
(b)処理後の木材チップを水で洗浄し、木材チップを回収する工程と、
(c)回収した木材チップを、140?170℃にて60?320分間、木材チップ1kgあたりのクラフト蒸解液の液比が1.0?4.5L/kgにて耐圧性容器においてクラフト蒸解する工程と、
を含む、溶解クラフトパルプを製造する方法。
【請求項2】
前加水分解工程が、170?180℃で30?150分間、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.5?3.2L/kgにて耐圧性容器において行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶解クラフトパルプのセルロース含有量が90%以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記広葉樹チップが、ユーカリ属(Eucalyptus)の広葉樹チップである、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記広葉樹チップが、blood woodタイプのユーカリ属の広葉樹チップを含む、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記広葉樹チップが、ユーカリ・グロブラスのチップを含む、請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
クラフト蒸解したパルプを漂白する工程をさらに含む、請求項1?6のいずれかに記載の方法。」

2.取消理由の概要
本件発明1?7に対して、特許権者に通知した令和1年5月28日付けの取消理由の概要は、以下のとおりである。

本件特許の本件発明1?7は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)刊行物
甲第1号証:特表2002-533587号公報
甲第4号証:C.V.T.Mendes外5名、「Valorisation of hardwood hemicelluloces in the kraft pulping process by using an integrated biorefinery concept」、Food and Bioproducts processing、87(2009)、197-207頁
甲第5号証:特開2009-52187号公報
甲第6号証:特開2004-169203号公報

(2)本件発明1、2、7は、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)請求項3に係る発明について
本件発明3は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求項4?6に係る発明について
本件発明4?6は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、4?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.当審の判断
(1)甲第4号証に記載された事項
ア 「The major pulping process. the kraft cooking, uses sodium hydroxide and sodium sulphide in an aqueous solution, the so-called white liquor, to degrade and dissolve wood lignin. However, other wood components, such as hemicelluloses that represent about 25% (W/W) of the raw material, are also partly dissolved due to the severe process conditions in the digester: high pH and temperature (140-170 ℃). and long reaction times (1-3h) (Rydholm, 1965; Sjostrom,1981; Hon and Shiraishi. 1991). The hemicelluloses degradation products are quite complex and their separation and purification from the liquor is difficult (Rydholm. 1965; Simonson. 1971; Sjostrom, 1981). Therefore, the resulting black liquor(BL)is burned in the recovery boiler to produce electricity and thermal energy. Having lower calorific content than lignin, hemicelluloses could preferably be extracted, prior to cooking, to produce more value-added products, e.g. bioethanol (van Heiningen, 2006; Al-Dajani and Tschirner, 2008). However, this wood pretreatment must not jeopardise pulp quality or lower pulp yield as there is a growing demand for high quality pulp.
Prior to cooking, the chemical extraction of hemicelluloses from the wood chips soaked in water, designated as primary hydrolysis, can be: (i) only driven by temperature(auto-hydrolysis), (ii) catalysed by an inorganic acid (acid-hydrolysis) or (iii) catalysed by alkaline solutions ・・・・.」(198頁左欄8?34行。なお、oのウムラウトは、「o」と表記した。)
(当審訳:主要なパルプ化プロセスであるクラフト蒸解では、白液と呼ばれる、水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウム水溶液を使用し、木材リグニンを分解及び溶解させる。しかし、原料の約25% (W/W)を表すヘミセルロースなどの他の木材成分も、蒸解釜の高pH、高温(140-170℃)、長時間の反応時間(1-3時間)という厳しいプロセス条件下で部分的に溶解される(Rydholm,1965; Sjostrom,1981; Hon and Shiraishi,1991) 。 ヘミセルロース分解生成物は非常に複雑であり、液からの分離と精製は困難である(Rydholm,1965; Simonson,1971; Sjostrom. 1981)。そのため、得られた黒液(BL)を回収ボイラーで燃焼させることで、電気及び熱エネルギーを生成する。リグニンよりも低い発熱量を有するので、ヘミセルロースを好ましくは蒸解前に抽出することができ、より付加価値の高い製品、例えばバイオエタノールが生成される(van Heiningen, 2006; Al-Dajani and Tschimer, 2008)。しかし、この木材前処理は、高品質のパルプの需要が高まっているため、パルプの品質又はパルプの収量を低下させることがあってはならない。
蒸解前に、水に浸した木材チップからのヘミセルロースの化学抽出は、前加水分解として規定され:(i)温度(自己加水分解)によって駆動されるだけで、(ii)無機酸によつて触媒(酸加水分解)又は,(iii)アルカリ溶液によって触媒可能である・・・・。)
イ 「2. Methods and materials
2.1. Primary hydrolysis of wood
A preliminary assessment of pre-hydrolysis conditions was conducted on screened industrial Eucalyptus globulus wood chips, to study the effect of different temperatures (100 to 150℃), extraction durations (20 to 180 min), wood conditioning and acid concentrations on hydrolysis yield and hydrolysates composition (a total of 40 experiments). The wood chips (200g, dry basis) and the extraction liquor (liquor to wood ratio of 4:1 dm^(3) kg^(-1)) were introduced in rotary reactors and the target temperature was reached by using an oil bath. Nearly 2.5 dm^(3) kg^(-1) of hydrolysate were collected. The extracted wood was washed with water at room temperature for 2h and the washing liquid was disregarded. This initial study enabled to select two sets of operating conditions, whose hydrolysates fermentation results are to be presented here together with the repercussions upon kraft pulp quality: a) an auto-hydrolysis carried out in water, at 150 ℃ during 180 min and b)an acid-hydrolysis of wood chips using 0.4% (w/w) sulphuric acid at 140 ℃ for 120 min.」(199頁左欄下から13行?右欄7行)
(当審訳:2. 方法及び材料
2.1. 木材の前加水分解
分別した商業的なユーカリの木材チップを用いて、加水分解収率及び加水分解物の組成に及ぼす前加水分解時の温度(100?150℃)、抽出時間(20?80分)、木材条件、及び酸濃度の影響を調査した(全部で40実験)。木材チップ(200g、乾燥重量)及び抽出液(液と木材の比率は4:1 dm^(3) kg^(-1))をロータリーリアクタ一に入れ、オイルバスで温度を調節した。約2.5 dm^(3) kg^(-1)の加水分解物を回収した。抽出した木材を室温で2時間水で洗浄し、洗浄液は実験に用いなかったこの最初の研究により、2セットの操作条件の選択が可能になり、それぞれの加水分解物の発酵試験結果は、クラフトパルプの品質と一緒に示してある。: a)水を用い、150℃で180分間実施した自己加水分解、b)木材チップあたり0.4%(W/W)の硫酸を添加して、140℃で120分間実施した酸加水分解。)
ウ 「2.3. Kraft cooking
Original wood and extracted wood samples (auto- and acid-hydrolysis) were air-dried before they were submitted to kraft cooking, in the same rotary reactors, using active alkali charge of 16% on wood, as Na_(2)O, sulphidity of 28%, activity of 90% and liquid to wood ratio of 4:1dm^(3) kg^(-1). The initial temperature was 40 ℃ and a temperature gradient of 1 ℃ min-1 was imposed until the target temperature of 160 ℃ was reached. Time and temperature can be integrated in a common variable named H-factor proposed by Vroom (1957). The cooking time at target temperature was 60 min leading to three experiments at a constant H-factor of 470 h. The H-factor concept has been confirmed as an adequate variable to follow the effect of both cooking time and temperature on the degree of delignification of Portuguese E.globulus pulps if the remaining operating conditions are kept constant (Carvalho et al., 2003). Residual lignin in the pulp is commonly estimated by the determination of pulp kappa number. Since the resulting pulps exhibited different kappa numbers. the time at target temperature was also adjusted in order to reach a given kappa number in the range 13-14 (variable H-factor). For that. additional cookings were performed using 100, 25 and 30 min, respectively with reference wood and with auto- and acid-hydrolysis pre treated wood chips.」(199頁右欄30?53行)
(当審訳:2.3. クラフト蒸解
元の木材、及び抽出した木材サンプル(自己加水分解、及び酸加水分解)は、クラフト蒸解を行う前に風乾した(クラフト蒸解条件:ロータリーリアクター、木材あたりの活性アルカリ添加量16%;Na_(2)Oとして、硫化度28%、活性90%、木材に対する液体の比率は4:1dm^(3) kg^(-1))。開始時の温度は、40℃で1℃/分の速度で160℃まで上昇させた。時間と温度は、Vroom(l957)が提案した共通の変数であるH-ファクターで積分できる。3つの実験での目的の蒸解時間は、60分でH-ファクター470で行った。H-ファクターの概念は、ポルトガル産のユーカリ・グロブラスのパルプの脱リグニンの程度に及ぼす蒸解時間と温度の影響(他の条件は一定の場合)を調べることにより適切な変数であることを確認した(Carvalho et al., 2003)。パルプ中の残存リグニンは、一般的にパルプのカッパー価を決定することにより予測されている。得られたパルプは、異なるカッパー価を示したため、カッパー価を13?14の範囲にするために温度を調節した。そのために、追加の蒸解(対象の木材、自己加水分解及び酸加水分解で前処理した木材チップ)を100、25、及び30分で各々実施した。)
エ 「2.4. ECF bleaching
Unbleached pulp was submitted to an Elemental Chlorine Free (ECF) bleaching sequence, D_(0)E_(1)D_(1)E_(2)D_(2) (D-chlorine dioxide stage; E-NaOH extraction stage) using a consistency of 10%. The chlorine dioxide charge in each stage was adjusted in order to reach a final pulp's ISO brightness of 90%. The pulp was bleached in the first D stage (D_(0)) at 50 ℃ during 25 min, with an initial pH of 3.0. D_(1) and D_(2) stages were carried out at 70 ℃ for 240 min with an initial pH of 4.0.」(199頁右欄下から5行?200頁左欄4行)
(当審訳:2.4. ECF漂白
未漂白パルプを、10%の濃度(consistency)を用いて、元素状塩素のない(ECF)漂白操作D_(0)E_(1)D_(1)E_(2)D_(2) (D-二酸化塩素工程、E-NaOH抽出工程)に供した。最終パルプのISO白色度が90%になるように、各工程における二酸化塩素の投入量を調整した。パルプは、初期pH3.0で50℃25分間、最初のD工程(D_(0))で漂白した。 D_(1)およびD_(2)工程は、初期pH4.0で70℃で240分間行った。)
オ 「3. Results and analysis
3.1. Kraft cooking
The eucalyptus wood used in this work was characterised elsewhere (Evtuguin et al., 2003; Santiago et al., 2008) and contained 21.5% of lignin, 52.5% of glucose, 14.8 % of xylose, l.4 % of galactose, 1.2% of mannose, 0.4% of arabinose, 0.3% of rhamnose, 3.5% of acetyl groups, 3% of methylglucuronic acid, 0.2% ash and 1.3% of extractives in ethanol/toluene mixture. Consequently, the cellulose and the hemicelluloses contents were estimated as ?50% and ?26%, respectively.
An ideal pre-hydrolysis stage to be tailored would remove selectively the target wood components (chiefly hemicelluloses) without affecting overall pulp yield and pulp's quality. Two different wood hydrolysis processes were studied in this work: auto-hydrolysis (150℃, 180 min. H-factor ?500 h), and acid-hydrolysis (0.4% w/w H_(2)SO_(4), 140 ℃. 120 min, H-factor ?130 h). These particular conditions allowed the extraction of wood material in similar amounts: 125 and 131 g/kg of wood, respectively, based on dissolved solids. Higher extraction yield (up to 165 g/kg of wood), using harsher auto-hydrolysis conditions (170 ℃ for 30 min, H-factor ?560 h or 165 ℃, 45 min,H-factor ?580 h), has led in other works (Hakansson et al., 2005; Goyal et al., 2007) to significantly lower pulp strength properties and pulp yield when compared to the control sample.」(200頁右欄42行?201頁左欄4行)
(当審訳:3. 結果及び分析
3.1. クラフト蒸解
本研究で使用したユーカリの木は、他で特徴付けられており (Evtuguin et aL. 2003; Santiago et al.. 2008)、リグニンを21.5%、グルコースを52.5%、キシロースを14.8%、ガラクトースを1.4%、マンノースを1.2%、アラビノース0.4%、ラムノースを0.3%、アセチル基を3.5%、メチルグルクロン酸を3%、灰分を0.2%、及び抽出成分を1.3%(溶剤はエタノール/トルエン混合物)を含有する。その結果、セルロース及びヘミセルロースの含量は、それぞれ約50%及び約26%と推定された。
理想的な前加水分解を行えば、全体のパルプ収量及びパルプ品質に影響を与えずに選択的に標的木材成分(主にヘミセルロース)を取り除くことができると考えられる。本稿では、2つの異なる木材の加水分解プロセスを研究した。自己加水分解(150℃、180分、?500のHファクター)及び酸加水分解(0.4% W/W H_(2)SO_(4)、140℃、12分、?130のHファクター)である。これらの特定の条件は、同様の量の木材材料の抽出を可能にし、それぞれ溶解した固形分は、木材1kgあたり125g及び131gであった。より厳しい自己加水分解条件(170℃、30分約560のHファクター又は165℃、45分、約580のHファクター)を用いた場合、より高い抽出収量(木材1kgあたり最大165g)は、他の研究(Hakansson et al., 2005; Goyal et al., 2007)では、対照試料と比較した場合のパルプ強度特性及びパルプ収量を有意に低下させた。)

(2)甲第4号証に記載された発明
上記記載からみて、甲第4号証には、以下の「引用発明」が記載されている。
「クラフト蒸解を行う前に、木材チップからヘミセルロースを抽出する前加水分解を行う方法であって、
木材チップは、ユーカリから得たものであり、
前加水分解は、木材チップ1kgに対して水を4dm^(3)を用い、150℃で180分間実施し、
抽出した木材を、2時間、水で洗浄し、
クラフト蒸解は、木材1kgに対してNa_(2)Oの溶液4dm^(3)を用い、160℃で60分間実施するものであり、
クラフト蒸解の後、漂白を行う方法。」

(3)本件発明1について
ア 引用発明の「前加水分解は、木材チップ1kgに対して水を4dm^(3)を用い、150℃で180分間実施し、」は、「木材チップ1kgに対して水を4dm^(3)」が「木材チップ1kgあたりの水の液比が4.0L/kg」を意味し、引用発明のクラフト蒸解を「木材1kgに対してNa_(2)Oの溶液4dm^(3)」で行うことは、「木材チップ1kgあたりのクラフト蒸解液の液比が4.0L/kg」を意味するものである。
また、ユーカリが広葉樹であることは技術常識である。
そして、150℃で180分(3時間)実施する前加水分解のPファクターは、150℃に達するまでのPファクターを考慮しても、400以下程度であることは明らかである。
そうすると、本件発明1と引用発明とは、前加水分解工程について、本件発明1が、「Pファクターが500?800」で「木材チップ1kgあたりの水の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器」で処理するのに対し、引用発明は、Pファクターが400以下程度であり、木材チップ1kgあたりのクラフト蒸解液の液比を4.0L/kgで処理を行うものの、耐圧性容器において処理するか特定されていない点で相違し、その余で一致する。
イ 上記相違点について検討する。
木材チップの加水分解及びクラフト蒸解を行う反応槽は、甲第5号証に「第一および第二反応槽は、実質的に垂直形状で、少なくとも100フィートの高さ、槽の上部の入口、および槽の底部近くの排出口を備え得る。反応槽に加えられる熱エネルギーは、大気圧以上の圧力スチームとし得る。」(段落【0017】)と記載されるように、100℃を超える高温下で高圧がかかるものであるから、そのような高温高圧に耐えられるように耐圧性容器とすることは容易である。
しかし、前加水分解工程において反応系に加える熱量について、引用発明が記載された甲第4号証には、150℃で180分間実施する具体例が示される他、「前加水分解時の温度(100?150℃)、抽出時間(20?80分)」(回答書添付の甲第4号証の和訳文5頁下から3行?2行)の条件で実験を行った旨記載されているが、いずれの条件の組み合わせも、本件発明1の「Pファクターが500?800」を下回る熱量であることは明らかである。
そして、本件特許明細書の段落【0026】に、Pファクター(Pf)の数値範囲の技術的意義について、「Pf350未満であれば、ヘミセルロースの除去が不十分となり、ヘミセルロースを除去したことによる脱リグニン性の向上効果も少なくなる。また、Pf800を超えると、加水分解が過剰となりα-セルロース分が減少してパルプ収率の低下を招くとともに、リグニンの縮合により、後に続くクラフト蒸解工程における蒸解性の悪化を招いてしまう。」と記載されており、「Pファクターが500?800」であることにより、ヘミセルロースを除去したことによる脱リグニン性の向上と、加水分解が過剰となることによるパルプ収率の低下の回避を、併せて達成できるものといえる。このように、前加水分解工程において反応系に加える熱量を、ヘミセルロースを除去したことによる脱リグニン性の向上と、加水分解が過剰となることによるパルプ収率の低下の回避を、併せて達成できるように調整することは、甲第4号証に記載されていないし示唆もされていない。そのため、引用発明の前加水分解において加えられる熱量を、150℃で180分間実施するものから、「Pファクターが500?800」となるように増やす動機付けが存在するとはいえない。また、他の甲第1、5、6号証にも、そのような動機付けについて記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明1の上記相違点に係る構成は、引用発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 申立人は、意見書(2?3頁)において、甲第2号証の図4.106の図示内容に基づき、Pファクターが350?400であっても、Pファクターが500であっても、広葉樹材の主要ヘミセルロースであるキシラン残量に大きな相違は認められず、溶解パルプ品質に重要なセルロース純度はほとんど変わらないことから、Pファクターを、350?400の範囲から、500?800の範囲に変更することによって、予想できない顕著な効果を奏することはなく、本件発明1は、甲第4号証の記載から容易に想到できた発明である旨主張する。
しかし、上記イで述べたように、「Pファクターが500?800」とすることにより、ヘミセルロースを除去したことによる脱リグニン性の向上と、加水分解が過剰となることによるパルプ収率の低下の回避を、併せて達成することができるという、甲第4号証及び甲第2号証の記載からは予想できない顕著な効果を奏するものであるから、申立人の上記主張は採用できない。
エ よって、本件発明1は、引用発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明2?7について
本件発明2、3、7は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記(3)で述べたように、本件発明1は、引用発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2、3、7も、引用発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明4?6は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記(3)で述べたように、本件発明1は、引用発明及び甲第5号証に記載された事項、さらに甲第1、4?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明4?6も、引用発明及び甲第1、4?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)取消理由で採用しなかった申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証及び甲第4?6号証の他、甲第2号証(Herbert Sixta編、「Handbook of Pulp」、WILEY-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA、2006年、329-347頁、628-629頁、722-729頁、933-944頁)と甲第3号証(Moritz Leschinsky 他4名、「Effect of autohydrolysis of Eucalyptus globulus wood on lignin structure. Part2: Influence of autohydrolysis intensity」、Holzforschung、2008年、Vol.62、653-658頁)を提出して、本件発明1?3、6は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4、5、7は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨申立てている。
しかし、提出された甲第1号証?甲第6号証のいずれにも、ヘミセルロースを除去したことによる脱リグニン性の向上と、加水分解が過剰となることによるパルプ収率の低下の回避を、併せて達成することができるように、前加水分解工程のPファクターとして「500?800」の範囲を選択することは記載されておらず、本件発明1?7を、これらの文献に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(6)小活
よって、本件発明1?7は、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものではないから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)広葉樹のチップを含む木材チップに水を添加し、下式:
Pファクター=∫exp(40.48-15106/T)dt
[式中、Tは、木材チップに水を添加した時点から前加水分解の終了時点までの絶対温度である]
で表される前加水分解のPファクターが500?800となるように温度150?180℃で30?400分間、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器において処理し、木材チップに含まれるヘミセルロース分の分解または溶出を行う前加水分解工程と、
(b)処理後の木材チップを水で洗浄し、木材チップを回収する工程と、
(c)回収した木材チップを、140?170℃にて60?320分間、木材チップ1kgあたりのクラフト蒸解液の液比が1.0?4.5L/kgにて耐圧性容器においてクラフト蒸解する工程と、
を含む、溶解クラフトパルプを製造する方法。
【請求項2】
前加水分解工程が、170?180℃で30?150分間、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.5?3.2L/kgにて耐圧性容器において行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶解クラフトパルプのセルロース含有量が90%以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記広葉樹チップが、ユーカリ属(Eucalyptus)の広葉樹チップである、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記広葉樹チップが、blood woodタイプのユーカリ属の広葉樹チップを含む、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記広葉樹チップが、ユーカリ・グロブラスのチップを含む、請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
クラフト蒸解したパルプを漂白する工程をさらに含む、請求項1?6のいずれかに記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-07 
出願番号 特願2012-136398(P2012-136398)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 阿川 寛樹  
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 久保 克彦
井上 茂夫
登録日 2018-06-29 
登録番号 特許第6358771号(P6358771)
権利者 日本製紙株式会社
発明の名称 溶解クラフトパルプの製造方法  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 新井 規之  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 新井 規之  
代理人 中村 充利  
代理人 中村 充利  
代理人 小野 新次郎  

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