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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23D
管理番号 1357629
異議申立番号 異議2019-700135  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-20 
確定日 2019-10-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6376265号発明「ブルーム抑制油脂」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6376265号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6376265号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6376265号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成29年10月12日に出願され、平成30年8月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成31年2月20日に特許異議申立人 上田 佳代子により特許異議の申立てがされ、当審は、令和1年5月23日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和1年7月16日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、令和1年8月29日に意見書を提出した。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。

特許請求の範囲の請求項1における「ブルーム抑制用油脂」の記載を「ブルーム抑制用油脂(ブルーム抑制用油脂のチョコレート様食品における配合量は1?10質量%である。また、20℃以下で生じるブルームの抑制態様への使用を除く)。」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する)。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1?5〕に対して請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正は、請求項1に記載のブルーム抑制用油脂のチョコレート様食品における配合量を限定するとともに、「20℃以下で生じるブルームの抑制態様への使用」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】には「ブルーム抑制用油脂は、チョコレート様食品中に1?10質量%含有することが望ましい。」と記載されている。よって、「ブルーム抑制用油脂のチョコレート様食品における配合量は1?10質量%である」ブルーム抑制用油脂の発明は本件特許明細書に記載されたものである。
また、「20℃以下で生じるブルームの抑制態様への使用を除く」とすることは、取消理由通知で引用された刊行物1には、チョコレートにおけるグレインの評価を5℃で1週間保存した後の状態の観察結果により行ったことが記載されていること(明細書の段落[0091])、及び、取消理由通知で引用された刊行物2には「本発明の油脂組成物は、カカオ脂肪分が油相中に5質量%以上含まれるソフトチョコレートにおいても、品質劣化を起こしやすい5?20℃に保持したとき、ブルーム耐性若しくはグレイン耐性、又はその両方の効果を奏する。」と記載されていること(段落【0038】)から、刊行物1及び刊行物2に記載されたそれらの態様を除くものである。
したがって、上記訂正は、本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下、順に「本件発明1」、……、「本件発明5」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
ハイエルシン酸菜種極度硬化油を1質量%以上含有し、かつ、ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを5:95?40:60の間のいずれかの比率で含有する、チョコレート様食品におけるブルーム抑制用油脂(ブルーム抑制用油脂のチョコレート様食品における配合量は1?10質量%である。また、20℃以下で生じるブルームの抑制態様への使用を除く)。ただしSは炭素数16?22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数16?22の不飽和脂肪酸を示す。
【請求項2】
ソルビタン脂肪酸エステルを0.5?5質量%含有する、請求項1に記載の、チョコレート様食品におけるブルーム抑制用油脂。
【請求項3】
請求項1又は2記載のブルーム抑制用油脂を、チョコレート様食品中、1?10質量%含有する、チョコレート様食品。但し、SSU型トリグリセリドの量は0.1?1.5質量%であり、かつ、ハイエルシン酸菜種極度硬化油の量は0.05?1質量%である。
【請求項4】
更に、ソルビタン脂肪酸エステルを0.01?0.3質量%含有する、請求項3に記載の、チョコレート様食品。
【請求項5】
SSU型トリグリセリドを0.1?1.5質量%および、ハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.05?1質量%含有するように、請求項1又は2に記載のブルーム抑制用油脂を配合する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート様食品の製造法。

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が令和1年5月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

[理由1]本件特許発明1?5は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。そうすると、本件特許発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。

刊行物1:国際公開第2013/061750号
刊行物2:特開2008-228641号公報
刊行物3:(独)食品総合研究所,「食品大百科事典」,株式会社朝倉書店,2005年2月20日,pp.238-239
刊行物4:五十嵐脩,「丸善食品総合辞典」,平成10年3月25日発行,丸善株式会社,p.960,「ブルーミング」の項
刊行物5:国際公開第2017/057131号

(2)刊行物の記載
ア 刊行物1
記載事項(1a)
「[請求項1] 下記の(a)から(e)の条件を満たす油脂組成物。
(a)X3含量が1?7質量%
(b)X2U含量が3?23質量%
(c)XU2含量が15?37質量%
(d)U3含量が40?65質量%
(e)XXUとUXUの合計含量が3?17質量%
(上記の(a)から(e)の条件において、X、U、X3、X2U、XU2、U3、XXU、及びUXUはそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16以上の飽和脂肪酸
U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
XXU:1位と3位にXとUがそれぞれ一つずつ、2位にXが結合しているトリグリセリド
UXU:1位と3位にU、2位にXが結合しているトリグリセリド)」

記載事項(1b)
「技術分野
[0002] 本発明は、グレイン(油脂結晶の粗大化)及び固液分離が発生しにくい、かつ、低温で硬くなく、口溶けの良い油性食品並びに該油性食品の製造に使用されるトランス脂肪酸含量の低い油脂組成物に関するものである。
背景技術
[0003] チョコレートは…(中略)…、近年、消費者の嗜好の多様化から、チョコクリームのような口溶けの良いソフトタイプの需要も増えている。また、ソフトタイプのチョコレートは、冷蔵保存されたものを取り出して直ぐに食することも多いため、低温でも硬くなりすぎないことが求められている。

[0004] チョコレートをソフト化する手段としては、チョコレートの油脂分に比較的多量の液体油を配合することが考えられる。しかしながら、カカオ脂やカカオ代用脂を多く含むチョコレートに比較的多量の液体油を配合した場合、チョコレート中の油脂結晶が移動及び結晶型転移を起こし易いため、グレインという品質欠陥が発生し易い。さらに、この液体油が配合されたチョコレートは、油脂中の固体脂と液体油とが分離し易いため、液体油がチョコレートから染み出す、いわゆる汗かき現象も発生し易い。このため、比較的多量の液体油を配合したソフトタイプのチョコレートは、カカオ脂やカカオ代用脂を少量しか配合できなかった。また、カカオ脂は、チョコレートを風味豊かなものとするために配合されるカカオマスにも約55質量%程度含まれる。従って、比較的多量の液体油を配合したソフトタイプのチョコレートは、カカオマスも少量しか配合できないため、風味が乏しいという問題があった。」

記載事項(1c)
「発明が解決しようとする課題
[0008] 本発明の目的は、グレイン及び固液分離が発生しにくい、かつ、低温で硬くなく、口溶けの良い油性食品並びに該油性食品の製造に使用されるトランス脂肪酸含量の低い油脂組成物を提供することである。
…(中略)…
発明の効果
[0011] 本発明によると、グレイン及び固液分離が発生しにくい、かつ、低温で硬くなく、口溶けの良い油性食品並びに該油性食品の製造に使用されるトランス脂肪酸含量の低い油脂組成物を提供することができる。」

記載事項(1d)
「[0028] 本発明の実施の形態に係る油脂組成物は、添加剤等の油脂以外の成分を加えることもできる。添加剤の具体例としては、例えば、乳化剤(レシチン、リゾレシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセライド)、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられ、好ましくはデカグリセリンベヘン酸エステル等のベヘン酸を構成脂肪酸とする乳化剤を使用することができる。)、トコフェロール、茶抽出物(カテキン等)、ルチン等の酸化防止剤、香料等が挙げられる。本発明の実施の形態に係る油脂組成物は、油脂以外の成分含量が好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。」

記載事項(1e)
「[0069] 本発明の実施の形態に係る油性食品における本発明の実施の形態に係る油脂組成物の配合量は、油性食品の油脂中に好ましくは50?100質量%、より好ましくは75?97質量%、さらに好ましくは85?95質量%である。なお、油性食品の油脂とは、配合される油脂の他に、含油原料(カカオマス、全脂粉乳等)中の油脂(カカオ脂、乳脂等)をも含むものである。」

記載事項(1f)
「[0082] 〔試験油脂2?6の準備〕
試験油脂2?6として、下記の油脂を準備した。
・試験油脂2:パームオレイン(ヨウ素価:65、日清オイリオグループ(株)製)
・試験油脂3:パームオレインのランダムエステル交換油(ヨウ素価:56、日清オイリオグループ(株)製)
・試験油脂4:菜種油(日清オイリオグループ(株)製)
・試験油脂5:ハイエルシン菜種油の極度硬化油(横関油脂工業(株)製)
・試験油脂6:菜種油の極度硬化油(横関油脂工業(株)製)
[0083] 〔実施例1?7及び比較例1?5の油脂組成物の製造〕
試験油脂を表1及び2に記載の配合比(質量%)で混合して、実施例1?7の油脂組成物及び比較例1?5の油脂組成物を得た。実施例7の油脂組成物の製造には、乳化剤(デカグリセリンベヘン酸エステル、阪本薬品工業(株)製、商品名:DDB-750)を用いた。
[0084][表1]



記載事項(1g)
「[0086]〔実施例及び比較例の油脂組成物の分析〕
実施例1?7の油脂組成物及び比較例1?5の油脂組成物について、上記の分析方法に従って脂肪酸含量(質量%)、トリグリセリド含量(質量%)、SFC(%)の測定を行った結果を表3及び4に示す(SFCは実施例のみを測定した。)。表3及び4から分かるように、実施例及び比較例の油脂組成物は、トランス脂肪酸含量が低いものであった。
[0087][表3]



記載事項(1h)
「[0089] 〔チョコレート評価試験〕
実施例1?7の油脂組成物及び比較例1?5の油脂組成物を使用し、表5の配合でソフトチョコレートを製造した(なお、ソフトチョコレートの水分含量は全て1質量%以下であった。)。製造した各油脂組成物及び各ソフトチョコレートについて、下記(1)?(6)の評価試験を行った。
[0090][表5]

・レシチン:日清オイリオグループ(株)製、商品名:レシチンDX
・カカオマス:大東カカオ(株)製、商品名:QM-P
・ココアパウダー:Delfi(株)製、商品名:DF-500
・砂糖:(株)徳倉製、商品名:粉糖」

記載事項(1i)
「[0091](1)グレイン
上記で製造したソフトチョコレートを60℃以上で完全融解後樹脂カップに充填し20℃で冷却固化した後、5℃で1週間保存した後にスプーンでかきとって状態を観察した。評価結果が◎又は○である場合を良いと判断した。
・評価基準
◎:粒がなく非常に滑らかかった。
〇:肌理がやや粗かった。
△:明らかな粒があった。
×:多量の粒がありザラザラしていた。
・・・
[0094](4)固液分離
上記で製造したソフトチョコレートを60℃以上で完全融解後、試験管に充填し20℃で冷却固化した後、30℃で2週間保管した後に試験管上部に分離した液油があるかを観察した。評価結果が○である場合を良いと判断した。
・評価基準
〇:上表面に艶がなく、固液分離はみられなかった。
△:上表面に艶がみられ、僅かな液状油の分離がみられた。
×:液状油の明らかな分離がみられた。
・・・
[0097] 上記の(1)?(6)の評価試験の結果は、表6及び表7に示すとおりであった。
[0098]
[表6]



イ 刊行物2
記載事項(2a)
「 【請求項1】
下記(A)?(E)を満たす、油脂組成物。
(A)構成脂肪酸中のトランス酸含量が、5質量%未満;
(B)構成脂肪酸中のZ含量が、20質量%以上40質量%未満;
(C)トリグリセリド中のジ飽和モノ不飽和トリグリセリド(Z2X)含量が、30質量%未満;
(D)トリグリセリド中のモノ飽和ジ不飽和トリグリセリド(ZX2)含量が、40質量%以上;
(E)ZX2に対するZ2Xの比(Z2X/ZX2)が、0.25以上0.45未満。
〔Zは、炭素数16?24の飽和脂肪酸であり、Xは炭素数16?24の不飽和脂肪酸である。〕
・・・
【請求項5】
前記油脂組成物が、エステル交換油からなり、
前記油脂組成物が、さらに構成脂肪酸中のZ含量が20質量%以上35質量%未満であることを満たす請求項1記載の油脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5いずれか記載の油脂組成物とハイエルシン菜種極度硬化油とを含む、ハイエルシン菜種極度硬化油を含有する油脂組成物であり、
該ハイエルシン菜種極度硬化油を含有する油脂組成物中のトリ飽和トリグリセリド(ZZZ)含量が、2質量%以上12質量%未満である、ハイエルシン菜種極度硬化油を含有する油脂組成物。
・・・
【請求項8】
前記油脂組成物が、チョコレートに用いられる請求項1から6いずれか記載の油脂組成物。
・・・
【請求項10】
請求項1から6いずれか記載の油脂組成物を含有するチョコレート。」

記載事項(2b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、特にソフトチョコレート用として、トランス酸含量が低く、カカオ脂肪分が高くてもグレイン(油脂結晶の粗大化)及びブルーム(表面の白色化)発生の抑制効果に優れ、風味及び口溶けが良い油脂組成物、及び該油脂組成物を使用したチョコレート組成物に関する。
【0002】
なお、本発明で「チョコレート(ソフトチョコレート)」とは、規約「チョコレート類の表示に関する公正規約」乃至法規上の規定により限定されるものではなく、いわゆるカカオ代用脂等を使用したチョコレート類及び油脂加工食品をも含むものである。
【背景技術】
【0003】
チョコレートは従来、いわゆる板チョコに代表されるスナップ性のあるハードタイプが主流であったが、近年、コンビニエンスストアの普及に伴う専門店以外での洋菓子の取扱や、パン食の普及で、スプレッド性を有するソフトタイプへと需要がシフトしつつある。
【0004】
チョコレートに可塑性を与え、ソフト化する手段としては、チョコレートの油脂分に比較的多量の液体油を配合することが考えられる。しかしながら、液体油の配合はチョコレート中の脂肪結晶(カカオバター)の移動及び結晶型転移を起こし易くするため、容易にブルーム(表面の白色化)やグレイン(結晶の粗大化)という品質欠陥や、液体油がチョコレートから染み出す、いわゆる汗かき現象を引き起こすことになる。従って、配合上、ソフトチョコレートではカカオバターを含むカカオマスを少量しか配合できず、チョコレートとしての風味が著しく制約されている状況である。」

記載事項(2c)
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特にソフトチョコレート用として、昨今の健康意識の高まりに応えるため低トランス酸という条件を満たしながら、カカオ脂肪分が高くてもブルーム・グレイン耐性を有し、良好な風味と口溶けを持った油脂組成物、及び該油脂組成物を使用したチョコレート組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、トランス酸5質量%未満であって、炭素数16?24の飽和脂肪酸(Z)を20質量%以上40質量%未満含有し、炭素数16?24の飽和脂肪酸(Z)と炭素数16?24の不飽和脂肪酸(X)とからなるジ飽和モノ不飽和トリグリセリド(Z2X)が30質量%未満、モノ飽和ジ不飽和トリグリセリド(ZX2)が40質量%以上であって、ZX2に対するZ2Xの比が0.25以上0.45未満である油脂を使用することで、上記課題を克服できることを見出し、低トランス酸という条件を満たしながら、カカオ脂肪分が高くてもブルーム・グレイン耐性を有し、良好な風味と口溶けを持った油脂組成物、及び該油脂組成物を使用したチョコレート組成物として完成したものである。」

記載事項(2d)
「【発明の効果】
【0022】
本発明の油脂組成物を使用することにより、特に近年需要が伸びているソフトチョコレートとして、近年健康上問題とされているトランス酸を低く抑えた上で、カカオ脂肪分が高くてもグレイン(油脂結晶の粗大化)及びブルーム(表面の白色化)発生の抑制効果に優れ、風味及び口溶けが良いチョコレート組成物を提供することができる。」

記載事項(2e)
「【0037】
(ハイエルシン菜種極度硬化油)
本発明の油脂組成物は、また、ハイエルシン菜種極度硬化油を添加して、添加後の油脂組成物中のトリ飽和トリグリセリド(ZZZ)が2質量%以上12質量%未満である油脂組成物を包含する。この油脂組成物は、ハイエルシン菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加することにより得られる。トリ飽和トリグリセリドを上記濃度にすることにより、グレイン・ブルーム耐性を強化することができる。トリ飽和トリグリセリドが2質量%未満の場合は処方によってはグレイン・ブルーム耐性が十分では無い場合があり、12質量%以上の場合は処方によっては口溶けが損なわれる場合がある。
【0038】
(ブルーム耐性・グレイン耐性)
本発明の油脂組成物は、カカオ脂肪分が油相中に5質量%以上含まれるソフトチョコレートにおいても、品質劣化を起こし易い5?20℃に保持したとき、ブルーム耐性若しくはグレイン耐性、又はその両方の効果を奏する。これにより、良好な結晶性を得ることができ、フィリング、スプレッド、チョコレートに用いたときに、良質なものが得られる。
【0039】
(フィリング、スプレッド、チョコレート)
本発明の油脂組成物は、フィリングまたはスプレッドに用いることができる。また、フィリングまたはスプレッドの一例として、ソフトチョコレートに用いることができる。フィリング、スプレッド、ソフトチョコレート(例えば、後述実施例)は、常法により、油脂組成物、粉糖、ココアパウダー、粉乳等の原材料のミキシング、ロール掛けによるリファイニング、コンチング工程の後、生地を急冷固化することにより製造することができる。
本発明の油脂組成物を、フィリング、スプレッド、チョコレートに用いる場合、その含有量に規定はないが、通常、20質量%以上(好ましくは25?65質量%、更に好ましくは、30?55質量%)含む。
本発明は、またフィリング、スプレッド、チョコレートの原料用として、ハイエルシン菜種極度硬化油を含有する油脂組成物を提供する。また、ハイエルシン菜種極度硬化油を含有するフィリング、スプレッド、チョコレート原料用油脂組成物を提供する。
本発明は、またフィリング、スプレッド、チョコレートの原料用として、カカオ脂等のカカオ成分を含む油脂組成物を提供する。また、カカオ脂等のカカオ成分を含むフィリング、スプレッド、チョコレート原料用油脂組成物を提供する。」

記載事項(2e’)
「【0047】
<油脂結晶の評価方法>
試験油脂96質量部とハイエルシン菜種極度硬化油(商品名:「ハイエルシン菜種極度硬化油」、横関油脂工業(株)製)4質量部とを混合融解して、可塑性油脂を用意した(この可塑性油脂中のZZZ含量は、約4%である。)。
この可塑性油脂90質量部とカカオ脂(ココアバターD、大東カカオ株式会社製)10質量部とを混合した。更にヘプタベヘン酸デカグリセリン(商品名:HB-750、坂本薬品工業株式会社)0.5質量部とショ糖ステアリン酸エステル(商品名:S-170、三菱化学フーズ株式会社)0.5質量部を添加した後、80℃以上で結晶を完全に溶かしてシャーレに分注した。
このシャーレを60℃で1時間、20℃で1時間保持した後、5℃、15℃、20℃の各温度で保持した。保持後3日目、6日目、10日目の結晶の状態を目視で観察し、以下の評価基準により評価した。
【0048】
(評価基準)
◎:良好
○:概ね可
△G:グレイン(0.1?1mm程度の粒)が少量発生
△B:ブルーム(粉が吹いた様な状態)が局所的に発生
×G:グレインが全体に発生
×B:ブルームが全体に発生」

記載事項(2f)
「【0070】
[実験例4](綿実油、大豆油)
試験油脂として以下の油脂L?P、及びRを準備した。
菜種微水添分別油は、実験例1と同様のものを使用した。
油脂L:綿実ステアリン(商品名:綿実ステアリン、日清オイリオグループ株式会社製)。
油脂M:IE綿実ステアリン(綿実ステアリンをエステル交換した油脂、日清オイリオグループ株式会社内製造品)。
油脂N:綿実サラダ油(商品名:綿実サラダ油、日清オイリオグループ株式会社製)。
油脂O:IE綿実白絞油(綿実白絞油をエステル交換した油脂、日清オイリオグループ株式会社内製造品)。
油脂P:IE大豆白絞油(大豆白絞油をエステル交換した油脂、日清オイリオグループ株式会社内製造品)。
油脂R:菜種微水添分別油
【0071】
〔エステル交換方法〕
油脂を減圧下過熱して十分に水分を飛ばした後、触媒(ナトリウムメチラート)を対油0.2%添加して減圧下100?120℃で30分間エステル交換反応を行った。反応終了後触媒を水洗し、常法に従ってエステル交換油を精製(脱色脱臭)した。」

記載事項(2g)
「【0072】
上記分析方法で測定した試験油脂L?P、Rの分析値(トランス酸量、飽和脂肪酸量、トリ飽和トリグリセリド(ZZZ)量、トリ不飽和トリグリセリド(XXX)量、ジ飽和モノ不飽和トリグリセリド(Z2X)量、モノ飽和ジ不飽和トリグリセリド(ZX2)量及びZ2X/ZX2比)を表7に示す。
【0073】
【表7】



記載事項(2h)
「【0078】
[実験例5](ソフトチョコレート)
試験油脂として以下の油脂D、G、K、O、及びRを準備した。
油脂D、G、K、O、及びRは、実験例1?4と同様のものを使用した。
油脂D:PL70
油脂G:PL64/HOLL菜種=質量比70/30混合油脂
油脂K:PL70/HOLL菜種=質量比50/50混合油脂
油脂O:IE綿実白絞油
油脂R:菜種微水添分別油
【0079】
上記分析方法で測定した試験油脂D、G、K、O、Rの分析値(トランス酸量、飽和脂肪酸量、トリ飽和トリグリセリド(ZZZ)量、トリ不飽和トリグリセリド(XXX)量、ジ飽和モノ不飽和トリグリセリド(Z2X)量、モノ飽和ジ不飽和トリグリセリド(ZX2)量及びZ2X/ZX2比)を表9に示す。
【0080】
【表9】

【0081】
〔ソフトチョコレートの製造方法〕
試験油脂96質量部とハイエルシン菜種極度硬化油(商品名:「ハイエルシン菜種極度硬化油」、横関油脂工業(株)製)4質量部とを混合溶解して、可塑性油脂を用意した(この可塑性油脂中のZZZ含量は、約4%である。)。
この可塑性油脂100質量部に対して、更にヘプタベヘン酸デカグリセリン(商品名:HB-750、坂本薬品工業株式会社)0.5質量部とショ糖ステアリン酸エステル(商品名:S-170、三菱化学フーズ株式会社)0.5質量部を添加した油脂組成物を調製した。この油脂組成物を使用して、以下の配合で、公知の方法によりソフトチョコレートD’、G’、K’、O’及びR’を試作した。
【0082】
〔ソフトチョコレートの配合〕
油脂組成物36質量部、レシチン0.5質量部、香料0.3質量部、粉糖34質量部、乳糖9質量部、全粉乳5質量部、ハイファットココアパウダー(油分23%)16質量部。
【0083】
〔保存性の確認〕
調製したソフトチョコレートD’、G’、K’、O’及びR’の保存性を確認するため、各ソフトチョコレートを15℃に定温静置した。定温静置後1ヵ月及び2ヵ月後の組織の状態を目視で観察し、以下の評価基準により評価した。結果を表10に示す。
【0084】
(評価基準)
◎:良好
○:概ね良好
△:組織が荒れている。
×:グレイン(0.1?1mm程度の粒)が発生
【0085】
【表10】



ウ 刊行物3
記載事項(3a)
「ココアバターはきわめて安定性が高く変質しにくい油脂で保存性もよいが,融点以上に温度が上がり再冷却されるとチョコレート中のココアバターが再結晶、粗大化して表面が白くなることがある.これはブルーミングと呼ばれチョコレートの風味,外観を損なうことになる.」(第238頁右欄下から2行?第239頁左欄第5行)

エ 刊行物4
記載事項(4a)
「ブルーミング[blooming] チョコレート表面にココアバター*や砂糖の極微細結晶が浮き出る現象.チョコレートが保蔵,流通中に高温あるいは多湿にさらされると起こる.また,製造中のテンパリング*の不良や急冷などによっても起こる.」(第960頁左欄第2行?第6行)

オ 刊行物5
記載事項(5a)
「[0020]
本発明の油性食品は、油脂中にLOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7?5である。そのことにより、油性食品の油脂中にLOLが含有されても、ブルームやグレインの発生が効果的に抑制される。
・・・
推測ではあるが、LOLとL2MもしくはLM2との間において混晶が形成されることにより、LOL単体の結晶に由来する、グレインやブルームが抑制されると考えられる。」

(3)刊行物に記載された発明
ア 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、実施例5として、ハイエルシン菜種油の極度硬化油を4.0質量%含有する油脂組成物が記載され(記載事項(1f))、当該油脂組成物は、X2Uを13.6質量%含有しており、XUX/X2Uは、0.49であることが記載されている(記載事項(1g))。さらに、実施例5の油脂組成物を使用したソフトチョコレートを製造し、評価試験を実施して、グレイン(油脂結晶の粗大化)について、粒がなく非常に滑らかだったことが記載されている(記載事項(1h))。
以上のことから、刊行物1には、「ハイエルシン酸菜種極度硬化油を4.0質量%以上含有し、X2Uトリグリセリドを13.6質量%で含有する、チョコレート様食品における油脂。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

イ 刊行物2に記載された発明
刊行物2には、16.1%のZ2X(ジ飽和モノ不飽和トリグリセリド)を含有する「油脂O」を96質量部とハイエルシン菜種極度硬化油4質量部とを混合溶解して、可塑性油脂を用意し、この可塑性油脂100質量部に対して、更にヘプタベヘン酸デカグリセリン0.5質量部とショ糖ステアリン酸エステル0.5質量部を添加した油脂組成物を調製したことが記載されている(記載事項(2h))。
そして、この油脂組成物を使用したソフトチョコレートを試作し、保存性の確認をしたところ、グレイン(0.1?1mm程度の粒)の発生もなく、良好な結果であったことが記載されている(記載事項(2h))。
以上のことから、刊行物2には、「ハイエルシン酸菜種極度硬化油を4.0質量%以上含有し、Z2Xトリグリセリドを16.1質量%で含有する、チョコレート様食品における油脂。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

(4)当審の判断
ア 引用発明1との対比・判断
(ア)本件発明1
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1におけるX2U含量とXUX/X2Uから計算すると、実施例5の油脂組成物におけるXXU含有量は、6.9質量%(13.6×(1-0.49))であるといえる。
ここで、Xは炭素数16以上の飽和脂肪酸、Uは炭素数16以上の不飽和脂肪酸であり、X2Uは、Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリドであるから(記載事項(1a))、X2Uは本件発明のモノUジS型トリグリセリド(SSU)に相当する。
したがって、実施例5の油脂組成物におけるハイエルシン酸菜種極度硬化油(4.0質量%)とSSU型トリグリセリド(6.9質量%)の比率は、37:63であるといえる。
以上のことから、本件発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
「ハイエルシン酸菜種極度硬化油を4.0質量%含有し、かつ、ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを37:63の比率で含有する、チョコレート様食品における油脂。」

(相違点1)
本件発明1では、用途が「ブルーム抑制用」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制への使用を除く」ものであり、チョコレート様食品における配合量が「1?10質量%である」のに対し、引用発明1では、用途及び配合量が特定されていない点

刊行物1には、引用発明1の属する技術分野、課題及び効果に関して、上記記載事項(1b)及び記載事項(1c)のとおり記載されている。
また、刊行物1には、グレインについての評価に関して、上記記載事項(1i)のとおり記載されている。
また、刊行物1には、ソフトチョコレートの評価試験における引用発明1の配合割合が36.00%であったことが記載されている(上記記載事項(1h))。

記載事項(1b)、記載事項(1c)及び記載事項(1i)から、引用発明1は、冷蔵状態など低温保存される口溶けの良いソフトタイプのチョコレートにおけるグレイン(油脂結晶の粗大化)の抑制を発明の課題とするものであって、20℃以下で生じるブルーム(表面の白色化)の抑制態様を除くブルーム(表面の白色化)の抑制を発明の課題とするものではないと認められる。
そして、刊行物1には、引用発明1がチョコレート様食品に対して、記載事項(1h)に記載された配合割合を大きく外れる1?10質量%の割合で配合された場合に、20℃を超える温度でのブルーム(表面の白色化)の発生抑制に有用であることを示す記載はなく、刊行物1?5及び異議申立人の令和1年8月29日提出意見書に添付された参考資料1?2の記載を検討しても、冷蔵状態など低温保存される口溶けの良いソフトタイプのチョコレートにおけるグレイン(油脂結晶の粗大化)の発生抑制に有用な油脂が、チョコレート様食品に対して1?10質量%の割合で配合された場合に、20℃以下で生じるブルーム(表面の白色化)の抑制態様を除くブルーム(表面の白色化)の抑制にも有用であるとの記載を見出すことはできず、そのような技術常識があるとも認められない。
してみると、引用発明1に対して相違点1に係る技術的事項を採用した本件発明1は当業者が容易に想到し得たものではなく、20℃以下で生じるブルームの抑制態様を除くブルーム抑制に有用であるという本件発明1による効果は当業者の予測を超えた顕著なものである。
よって、本件発明1は、引用発明1、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2?5
本件発明2?4はいずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであり、前記(ア)で説示したとおり、本件発明1が、引用発明1、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2?4も、引用発明1、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明5は、本件発明1又は本件発明2のブルーム抑制用油脂を配合するチョコレート様食品の製造法であって、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであり、前記(ア)で説示したとおり、本件発明1が、引用発明1、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明5も、引用発明1、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 引用発明2との対比・判断
(ア)本件発明1
本件発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2における油脂のエステル交換は、「油脂を減圧下過熱して十分に水分を飛ばした後、触媒(ナトリウムメチラート)を対油0.2%添加して減圧下100?120℃で30分間エステル交換反応を行った」(記載事項(2f))との記載からすると、ナトリウムメチラートと触媒としたエステル交換は、位置特異性のないランダム型エステル交換反応となることは技術常識であることから、油脂Oのエステル交換は、トリグリセリドのランダム型エステル交換反応である。そして、ランダム型エステル交換反応は、トリグリセリドの1位、2位、3位に各脂肪酸が結合する確率が等しく、生成するZZU、UZZ、ZUZが等しくなることから、ZZUをZZUとUZZの合計含量とすると、Z2U中のZZU含有量が66.6質量%であるといえる。そして、引用発明2におけるZ2Xトリグリセリドが16.1質量%であることから、ZZUの含有量は、10.2質量%(16.1×0.66)である。
ここで、Zは炭素数16?24の飽和脂肪酸、Xは炭素数16?24の不飽和脂肪酸、Z2Xはジ飽和モノ不飽和トリグリセリドであることが記載されていることから(記載事項(2c))、引用発明2のZ、X、Z2Xは、それぞれ本件発明1のS、U、SSUに相当する。
したがって、引用発明2の油脂組成物Oにおけるハイエルシン酸菜種極度硬化油(4.0質量%)とSSU型トリグリセリド(10.2質量%)の比率は、28:72であるといえる。
以上のことから、本件発明1と引用発明2との一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
「ハイエルシン酸菜種極度硬化油を4.0質量%含有し、かつ、ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを28:72の比率で含有する、チョコレート様食品における油脂。」

(相違点2)
本件発明1では、用途が「ブルーム抑制用」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制への使用を除く」ものであり、チョコレート様食品における配合量が「1?10質量%である」のに対し、引用発明2では、用途及び配合量が特定されていない点

刊行物2には、引用発明2の属する技術分野、課題及び効果に関して、上記記載事項(2b)、記載事項(2c)及び記載事項(2d)のとおり記載されている。
また、刊行物2には、引用発明2のブルーム及びグレインについての評価に関して、上記記載事項(2e’)及び記載事項(2h)のとおり記載されている。
また、刊行物2の記載事項(2h)からは、ソフトチョコレートの保存性の確認に用いられた引用発明2の配合割合が36%であったことが算出できる。

これらの記載事項(2b)、記載事項(2c)、記載事項(2d)、記載事項(2e’)及び記載事項(2h)から、引用発明2は、冷蔵状態など低温保存される口溶けの良いソフトタイプのチョコレートにおけるグレイン(油脂結晶の粗大化)及びブルーム(表面の白色化)の抑制を発明の課題とするものであって、20℃以下で生じるブルーム(表面の白色化)の抑制態様を除くブルーム(表面の白色化)の抑制を発明の課題とするものではないと認められる。
そして、刊行物2には、引用発明2がチョコレート様食品に対して、記載事項(2h)から算出される配合割合を大きく外れる1?10質量%の割合で配合された場合に、20℃を超える温度でのブルーム(表面の白色化)の発生抑制に有用であることを示す記載はなく、刊行物1?5及び異議申立人の令和1年8月29日提出意見書に添付された参考資料1?2の記載を検討しても、冷蔵状態など低温保存される口溶けの良いソフトタイプのチョコレートにおけるグレイン(油脂結晶の粗大化)の発生抑制に有用な油脂が、チョコレート様食品に対して1?10質量%の割合で配合された場合に、20℃以下で生じるブルーム(表面の白色化)の抑制態様を除くブルーム(表面の白色化)の抑制にも有用であるとの記載を見出すことはできず、そのような技術常識があるとも認められない。
してみると、引用発明2に対して相違点2に係る技術的事項を採用した本件発明1は当業者が容易に想到し得たものではなく、20℃以下で生じるブルームの抑制態様を除くブルーム抑制に有用であるという本件発明1による効果は当業者の予測を超えた顕著なものである。
よって、本件発明1は、引用発明2、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2?5
本件発明2?4はいずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであり、前記(ア)で説示したとおり、本件発明1が、引用発明2、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2?4も、引用発明2、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明5は、本件発明1又は本件発明2のブルーム抑制用油脂を配合するチョコレート様食品の製造法であって、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであり、前記(ア)で説示したとおり、本件発明1が、引用発明2、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明5も、引用発明2、刊行物1?5及び参考資料1?2の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人 上田 佳代子は、令和1年8月29日に提出した意見書において、参考資料1(特開昭58-198245号公報)及び参考資料2(特開昭63-56250号公報)の記載を示しつつ、引用発明1のグレイン抑制効果を有する油脂及び引用発明2のグレイン抑制効果を有する油脂を、20℃を超える温度のブルーム抑制用に転用してみることは、当業者が容易に想到するものであり、引用発明1の油脂及び引用発明2の油脂のチョコレート様食品における配合量を1?10質量%にすることは、当業者が容易に想到するものであるので、本件発明1?本件発明5は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。
しかし、前記ア及びイにも説示したとおり、刊行物1及び刊行物2のいずれにも、引用発明1又は引用発明2がチョコレート様食品に対して、1?10質量%の割合で配合された場合に、20℃を超える温度でのブルーム(表面の白色化)の発生抑制に有用であることを示す記載はなく、刊行物1?5及び異議申立人の令和1年8月29日提出意見書に添付された参考資料1?2の記載を検討しても、冷蔵状態など低温保存される口溶けの良いソフトタイプのチョコレートにおけるグレイン(油脂結晶の粗大化)の発生抑制に有用な油脂が、チョコレート様食品に対して1?10質量%の割合で配合された場合に、20℃以下で生じるブルーム(表面の白色化)の抑制態様を除くブルーム(表面の白色化)の抑制にも有用であるとの記載を見出すことはできず、そのような技術常識があるとも認められないことから、本件発明1?5は当業者が容易に想到し得たものではなく、20℃以下で生じるブルームの抑制態様を除くブルーム抑制に有用であるという本件発明1?5による効果は当業者の予測を超えた顕著なものであるので、特許異議申立人の上記意見は受け入れられない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲第1号証(国際公開第2013/061750号(取消理由通知で引用された刊行物1))に記載された発明を引用例とする本件発明1に対する新規性についての特許異議申立理由
(特許異議申立人の主張)
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略、以下のように述べて、訂正前の請求項1に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張する。
甲第1号証の段落[0004]、段落[0008]、段落[0028]、段落[0069]、段落[0082]、段落[0083]、段落[0084]の[表1]、段落[0087]の[表3]、段落[0089]、段落[0090]の[表5]、段落[0098]の[表6]、及び請求項1の記載によれば、甲第1号証には以下の発明(「甲1-1発明」?「甲1-6発明」という。)が記載されている。
「甲1-1発明」:「ハイエルシン菜種油極度硬化油を4.0質量%、X2Uを12.2質量%含有し、XUX/X2Uが0.49である、チョコレートにおけるグレイン抑制用油脂。」
「甲1-2発明」:「ハイエルシン菜種油極度硬化油を4.0質量%、X2Uを13.6質量%含有し、XUX/X2Uが0.49である、チョコレートにおけるグレイン抑制用油脂。」
「甲1-3発明」:「ハイエルシン菜種油極度硬化油を3.0質量%、X2Uを15.1質量%含有し、XUX/X2Uが0.48である、チョコレートにおけるグレイン抑制用油脂。」
「甲1-4発明」:「甲1-1発明を36.00%含有し、総油分40.00%、総油分中のカカオ脂10.00%である、グレインの発生が抑制されたソフトチョコレート。」
「甲1-5発明」:「甲1-2発明を36.00%含有し、総油分40.00%、総油分中のカカオ脂10.00%である、グレインの発生が抑制されたソフトチョコレート。」
「甲1-6発明」:「甲1-3発明を36.00%含有し、総油分40.00%、総油分中のカカオ脂10.00%である、グレインの発生が抑制されたソフトチョコレート。」
甲1-1発明?甲1-3発明のXXU含有量は、X2U含有量及びXUX/X2Uから算出することができ、甲1-1発明?甲1-3発明のXXUは本件特許発明1のSSUに相当するから、甲1-1発明?甲1-3発明は、SSUをそれぞれ、6.2質量%、6.9質量%、7.9質量%含有する。
甲1-1発明?甲1-3発明のハイエルシン酸菜種極度硬化油含有量及びSSU含有量より、甲1-1発明?甲1-3発明のハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSUの比率(ハイエルシン酸菜種極度硬化油:SSU)を算出すると、それぞれ39:61、37:63、28:72である。
これらより、甲1-1発明?甲1-3発明は、以下の通りの構成となる。
「甲1-1発明?甲1-3発明」:
「A:ハイエルシン酸菜種極度硬化油を、それぞれ4.0質量%、4.0質量%、3.0質量%、含有し、かつ、
B:ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを、それぞれ39:61、37:63、28:72の比率で含有する、
C:チョコレート様食品におけるグレイン抑制用油脂。ただしSは炭素数16?22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数16?22の不飽和脂肪酸を示す。」
甲第1号証の段落[0004]の記載より、チョコレートでのグレインの発生は、油脂結晶の移動及び結晶型転移によるものであるといえる。甲1-1発明?甲1-3発明が配合されたチョコレートはグレインの発生が抑制されているので、甲1-1発明?甲1-3発明が配合されたチョコレートは油脂結晶の移動及び結晶型転移が抑制されているものであるといえる。また、甲第2号証の段落【0004】の記載より、チョコレートでのブルームの発生は、グレインと同様に油脂結晶の移動及び結晶型転移によるものであるといえる。甲1-1発明?甲1-3発明が配合されたチョコレートは油脂結晶の移動及び結晶型転移が抑制されているものであるから、甲1-1発明?甲1-3発明はチョコレートでのブルームの発生を抑制する効果を有するといえ、甲1-1発明?甲1-3発明はブルーム抑制用油脂であるといえる。
してみると、本件特許発明1と甲1-1発明?甲1-3発明とは、全ての点で一致する。よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明である。
(特許異議申立書21頁2行?24頁17行、37頁9行?39頁4行)

(当審の判断)
甲第1号証に異議申立人の主張する甲1-1発明?甲1-3発明が記載されているとしても、それらの発明の用途が「ブルーム抑制用」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制への使用を除く」ものであり、甲1-1発明?甲1-3発明のチョコレート様食品における配合量が「1?10質量%である」ことは記載されておらず、技術常識から明らかであるとも認められないので、甲1-1発明?甲1-3発明の用途及びチョコレート様食品における配合量が、本件発明1の用途及びチョコレート様食品における配合量に相当するものであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は受け入れられず、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

(2)甲第2号証(特開2008-228641号公報(取消理由通知で引用された刊行物2))に記載された発明を引用例とする本件発明1に対する新規性についての特許異議申立理由

(特許異議申立人の主張)
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略、以下のように述べて、訂正前の請求項1に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張する。
甲第2号証の【請求項1】、【請求項5】、【請求項6】、【請求項8】、段落【0004】、段落【0009】、段落【0022】、段落【0037】、段落【0038】、段落【0039】、段落【0070】、段落【0071】、段落【0078】、段落【0079】、段落【0080】の【表9】、段落【0081】、段落【0082】、及び段落【0085】の【表10】の記載によれば、甲第2号証には以下の発明(「甲2-1発明」、「甲2-2発明」という。)が記載されている。
「甲2-1発明」:「ハイエルシン酸菜種極度硬化油を4質量%、Z2Xを15.3質量%含有する、チョコレートにおけるグレイン抑制用油脂。」
「甲2-2発明」:「甲2-1発明を36質量%含有する、グレインの発生が抑制されたソフトチョコレート。」
甲第2号証の段落【0070】、段落【0078】、及び段落【0081】の記載から、甲2-1発明は、油脂O(綿実白絞油をエステル交換した油脂)を95質量%含有する。甲第2号証の段落【0071】の記載から、甲2-1発明に配合されている油脂Oは、ナトリウムメチラートを触媒としてエステル交換された油脂である。甲第6号証の220頁右欄3?6行の記載より、甲2-1発明に配合されている油脂Oのエステル交換反応は、ランダム型エステル交換反応である。
ここで、トリグリセリドのランダム型エステル交換では、トリグリセリドの1位、2位、3位に各脂肪酸が結合する確率が等しいことから、生成するS2U中のSSU含有量は66.6質量%である。
そして、ハイエルシン酸極度硬化油はZ2Xを含まないので、甲2-1発明に含まれるZ2X(15.3質量%)は、全て油脂O由来であるから、甲2-1発明のZZX含有量は10.2質量%(15.3×0.66)である。甲2-1発明のZZXは、本件特許発明1のSSUに相当する。よって、甲2-1発明は、SSU含有量を10.2質量%含有する。
次に、甲2-1発明のハイエルシン酸菜種極度硬化油含有量及びSSU含有量より、甲2-1発明のハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSUの比率(ハイエルシン酸菜種極度硬化油:SSU)を算出すると、28:72である。
これらより、甲2-1発明は、以下の通りの構成となる。
「甲2-1発明」:
「A:ハイエルシン酸菜種極度硬化油を4質量%、含有し、かつ、
B:ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを28:72の比率で含有する、
C:チョコレート様食品におけるグレイン抑制用油脂。ただしSは炭素数16?22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数16?22の不飽和脂肪酸を示す。」
甲第2号証の段落【0004】及び【0022】の記載より、チョコレートでのブルームの発生は、グレインと同様に油脂結晶の移動及び結晶型転移によるものであるといえ、チョコレートでのグレインの発生を抑制する効果を有する場合、チョコレートでのブルームの発生を抑制する効果を有するといえる。甲2-1発明が配合されたチョコレートはグレインの発生を抑制する効果を有するものであるから、甲2-1発明はチョコレートでのブルームの発生を抑制する効果を有するといえ、チョコレートでのブルームの発生を抑制する効果を有する甲2-1発明はブルーム抑制用油脂であるといえる。
してみると、本件特許発明1と甲2-1発明とは、全ての点で一致する。よって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明である。
(特許異議申立書24頁18行?27頁下から4行、43頁28行?46頁9行)

(当審の判断)
甲第2号証に異議申立人の主張する甲2-1発明が記載されているとしても、その発明の用途が「ブルーム抑制用」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制への使用を除く」ものであり、甲2-1発明のチョコレート様食品における配合量が「1?10質量%である」ことは記載されておらず、技術常識から明らかであるとも認められないので、甲2-1発明の用途及びチョコレート様食品における配合量が、本件発明1の用途及びチョコレート様食品における配合量に相当するものであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は受け入れられず、本件発明1は甲第2号証に記載された発明ではない。

(3)甲第3号証(国際公開第2016/125791号)に記載された発明を主引用例とする本件発明1?5に対する進歩性についての特許異議申立理由

(特許異議申立人の主張)
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略、以下のように述べて、訂正前の請求項1?5に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張する。
甲第3号証の段落[0008]、段落[0039]、段落[0041]、段落[0044]、段落[0059]、段落[0060]、段落[0065]、段落[0066]、段落[0067]、段落[0068]、段落[0070]、段落[0071]、及び[請求項8]の記載によれば、甲第3号証には以下の発明(「甲3-1発明」?「甲3-4発明」という。)が記載されている。
「甲3-1発明」:「菜種極度硬化油を4重量%、SSUを23重量%含有する、チョコレートにおけるブルーム抑制用油脂。」
「甲3-2発明」:「菜種極度硬化油を4重量%、SSUを44重量%含有する、チョコレートにおけるブルーム抑制用油脂。」
「甲3-3発明」:「甲3-1発明を21重量%含有し、油脂中にSSUを12重量%含有する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート。」
「甲3-4発明」:「甲3-2発明を21重量%含有し、油脂中にSSUを23重量%含有する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート。」
甲3-1発明及び甲3-2発明の菜種極度硬化油含有量及びSSU含有量より、甲3-1発明及び甲3-2発明の菜種極度硬化油とSSUの比率(菜種極度硬化油:SSU)を算出すると、それぞれ、15:85、8:92である。
これより、甲3-1発明及び甲3-2発明は、以下の通りの構成となる。
「甲3-1発明及び甲3-2発明」
「A:菜種極度硬化油を4重量%、含有し、かつ、
B:菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを、それぞれ15:85、8:92の比率で含有する、
C:チョコレート様食品におけるブルーム抑制用油脂。ただしSは炭素数16?22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数16?22の不飽和脂肪酸を示す。」

本件特許発明1と甲3-1発明及び甲3-2発明とは、本件特許発明1が「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」であるのに対して、甲3-1発明及び甲3-2発明は「菜種極度硬化油」である点で相違する。
甲第3号証の段落[0059]?[0060]に記載される比較例1-6Aと実施例1-10Aのチョコレートについて、比較例1-6Aのチョコレートはブルームが発生しているのに対して、実施例1-10Aのチョコレートはブルームが発生していないことから、ハイエルシン酸菜種極度硬化油には、ブルームの発生を抑制する効果があることがわかる。また、甲第2号証の段落【0037】の記載からも、ハイエルシン酸菜種極度硬化油には、ブルームの発生を抑制することが分かる。してみると、甲3-1発明及び甲3-2発明のようなチョコレートのブルーム抑制用油脂を作成する場合において、菜種極度硬化油の代わりに、ハイエルシン酸菜種極度硬化油を使用してみることは、当業者が容易に想到するものであり、本件特許発明1により得られる作用効果は、甲3-1発明及び甲3-2発明と甲第3号証及び甲第2号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明又は、甲第3号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明2と甲3-1発明及び甲3-2発明とは、本件特許発明2が「ソルビタン脂肪酸エステルを0.5?5質量%含有する」のに対して、甲3-1発明及び甲3-2発明はソルビタン脂肪酸エステルを含有していない点で相違する。
甲4号証の【請求項1】、【請求項10】及び【請求項28】の記載から、甲3-1発明及び甲3-2発明に、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステルを0.5?3.5質量%程度添加してみることも、当業者が容易に想到するものであり、本件特許発明2により得られる作用効果は、甲3-1発明及び甲3-2発明と甲第3号証、甲第2号証及び甲第4号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明2は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明又は、甲第3号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

甲第3号証の記載から、甲3-3発明及び甲3-4発明のSSU含有量を算出するとそれぞれ4.8重量%、9.2重量%であり、甲3-3発明及び甲3-4発明の菜種極度硬化油の含有量を算出すると、0.8重量%である。
これらより、甲3-3発明及び甲3-4発明は、以下の通りの構成となる。
「甲3-3発明及び甲3-4発明」:
「E:ブルーム抑制用油脂である甲3-1発明及び甲3-2発明を、チョコレート様食品中、21重量%含有する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート様食品。
F:但し、SSU型トリグリセリドの量はそれぞれ4.8重量%、9.2重量%であり、かつ、
G:菜種極度硬化油の量は0.8重量%である。」
本件特許発明3と甲3-3発明及び甲3-4発明とは、「ブルーム抑制用油脂の含有量」、「SSU含有量」及び「菜種極度硬化油」の点で相違する。
甲3-3発明及び甲3-4発明のようなチョコレート中にSSU含有量を0.1?1.5質量%含有させることは、当業者が容易に想到するものであり、菜種極度硬化油の代わりにハイエルシン菜種極度硬化油を使用してみることは、当業者が容易に想到するものである。
本件特許発明3により得られる作用効果は、甲3-3発明及び甲3-4発明と甲第3号証及び甲第2号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明3は、甲第3号証に記載された発明又は、甲第3号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明4と甲3-3発明及び甲3-4発明とは、本件特許発明4が「ソルビタン脂肪酸エステルを0.01?0.3質量%含有する」のに対して、甲3-1発明及び甲3-2発明はソルビタン脂肪酸エステルを含有していない点で相違する。
甲4号証の【請求項1】、【請求項10】及び【請求項28】の記載から、甲3-1発明及び甲3-2発明に、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステルを0.5?3.5質量%程度添加してみることは、当業者が容易に想到するものであり、甲3-3発明及び甲3-4発明には甲3-1発明及び甲3-2発明が添加されているので、甲3-3発明及び甲3-4発明に、ソルビタン脂肪酸エステルを0.01?0.3質量%含有させることは、当業者が容易に想到するものである。
本件特許発明4により得られる作用効果は、甲3-3発明及び甲3-4発明と甲第3号証、甲第2号証及び甲第4号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明4は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明又は、甲第3号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明5と甲3-3発明及び甲3-4発明とは、「SSU含有量」及び「菜種極度硬化油」の点で相違する。
甲3-3発明及び甲3-4発明のようなチョコレート中にSSU含有量を0.1?1.5質量%含有させることは、当業者が容易に想到するものであり、菜種極度硬化油の代わりにハイエルシン菜種極度硬化油を使用してみることは、当業者が容易に想到するものである。
本件特許発明5により得られる作用効果は、甲3-3発明及び甲3-4発明と甲第3号証及び甲第2号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明5は、甲第3号証に記載された発明又は、甲第3号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。
(特許異議申立書27頁下から3行?32頁6行、50頁1行?54頁最終行)

(当審の判断)
特許異議申立人の主張にもかかわらず、甲第3号証の記載並びに甲第2号証の記載は、ハイエルシン酸菜種極度硬化油が、「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものに有用であることを示す記載とはいえず、これらの記載に接した当業者が、ハイエルシン酸菜種極度硬化油が、「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものに有用であると認識するとは認められない。また、ハイエルシン酸菜種極度硬化油の含有量及びSSU型トリグリセリドの含有量を特定の量あるいは量比にすることで、チョコレート様食品において「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものができることについての記載はなく、技術常識から明らかであるともいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は受け入れられず、本件発明1?5は、甲第3号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第4号証の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲第4号証(特開2013-18984号公報)に記載された発明を主引用例とする本件発明1?5に対する進歩性についての特許異議申立理由

(特許異議申立人の主張)
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略、以下のように述べて、訂正前の請求項1?5に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張する。
甲第4号証の【請求項1】、【請求項3】、【請求項5】、【請求項9】、【請求項10】、【請求項28】、段落【0026】、段落【0027】、段落【0028】、段落【0064】、段落【0065】の【表3】の記載によれば、甲第4号証には以下の発明(「甲4-1発明」、「甲4-2発明」という。)が記載されている。
「甲4-1発明」:「S_(2)Uタイプのトリグリセリドの全含有量が55?80重量%であり、SSU/SUSタイプのトリグリセリドの比が>1.5かつ≦2であり、S_(3)タイプのトリグリセリド又はソルビタントリステアレートからなる群から選択される1つ又は複数の高融点脂肪成分を含有し、S_(3)タイプのトリグリセリドの全含有量が2?8重量%、ソルビタントリステアレートの含有量が0.5?3.5重量%である、ブルーム抑制用脂肪組成物。」
「甲4-2発明」:「甲4-1発明を5?50重量%含有する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート。」

本件特許発明1と甲4-1発明とは、本件特許発明1が「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」であるのに対して、甲4-1発明は「極度硬化油」である点で相違する。
甲第3号証の段落[0059]?[0060]の記載から、ハイエルシン酸菜種極度硬化油には、ブルームの発生を抑制する効果があることがわかる。また、甲第2号証の段落【0037】の記載からも、ハイエルシン酸菜種極度硬化油には、ブルームの発生を抑制することが分かる。してみると、甲4-1発明のようなチョコレートのブルーム抑制用油脂を作成する場合において、極度硬化油(S_(3))の代わりに、ハイエルシン酸菜種極度硬化油を使用してみることは、当業者が容易に想到するものであり、本件特許発明1により得られる作用効果は、甲4-1発明と甲第2号証及び甲第3号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明2と甲4-1発明とは、本件特許発明1の相違点以外は一致する。
よって、本件特許発明1と同様の理由から、本件特許発明2は、甲第4号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明3と甲4-2発明とを対比するに際し、甲第4号証の記載から、甲4-2発明のSSU含有量を算出すると1.7重量%を超え2.7重量%以下であり、甲4-2発明の極度硬化油の含有量を算出すると、0.1?0.4重量%である。
これらより、甲4-2発明は、以下の通りの構成となる。
「甲4-2発明」:
「E:ブルーム抑制用油脂である甲4-1発明を、チョコレート様食品中、5重量%含有する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート様食品。
F:但し、SSU型トリグリセリドの量は1.7重量%を超え2.7重量%以下であり、かつ、
G:極度硬化油の量は0.1重量%?0.4重量%である。」
本件特許発明3と甲4-2発明とは、本件特許発明3が「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」であるのに対して、甲4-2発明は「極度硬化油」である点と「SSU含有量」の点で相違する。
甲第3号証の段落[0059]?[0060]の記載から、ハイエルシン酸菜種極度硬化油には、ブルームの発生を抑制する効果があることがわかるし、甲第2号証の段落【0037】の記載から、ハイエルシン酸菜種極度硬化油には、ブルームの発生を抑制する効果があることがわかる。また、甲4-1発明のようなチョコレートのブルーム抑制用油脂を作成する場合において、極度硬化油の代わりに、ハイエルシン菜種極度硬化油を使用してみることは、当業者が容易に想到するものである。してみると、甲4-2発明において、極度硬化油の代わりに、ハイエルシン菜種極度硬化油を使用してみることも、当業者が容易に想到するものである。
チョコレートにおいて、油脂の配合量の設計変更は、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内である。してみると、ブルーム抑制用油脂である甲4-1発明を、甲4-2発明のようなチョコレート中に1重量%程度含有させることは、当業者が容易に想到するものである。また、甲第4号証の記載から、甲4-2発明において、SSUの含有量を0.1?1.5質量%にすることは、当業者が容易に想到するものである。
本件特許発明3により得られる作用効果は、甲4-2発明と甲第2号証及び甲第3号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明3は、甲第4号証に記載された発明又は、甲第4号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明4と甲4-2発明とは、本件特許発明3の相違点以外は一致する。
よって、本件特許発明3と同様の理由から、本件特許発明4は、甲第4号証に記載された発明又は、甲第4号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明5と甲4-2発明とを対比するに際し、甲第4号証の記載より、甲4-2発明は、以下の通りの構成となる。
「甲4-2発明」:
「I:SSU型トリグリセリドを、1.7重量%を超え2.7重量%以下および、
J:極度硬化油を0.1重量%?0.4重量%含有するように、
K:ブルーム抑制用油脂である甲4-1発明を配合する。
L:ブルームの発生が抑制されたチョコレート様食品の製造法。」
本件特許発明5と甲4-2発明とは、本件特許発明5が「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」であるのに対して、甲4-2発明は「極度硬化油」である点と「SSU含有量」の点で相違する。
甲4-2発明において、極度硬化油の代わりに、ハイエルシン菜種極度硬化油を使用してみることは、当業者が容易に想到するものである。SSUの含有量を0.1?1.5質量%にすることは、当業者が容易に想到するものである。
本件特許発明5により得られる作用効果は、甲4-2発明と甲第2号証及び甲第3号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明5は、甲第4号証に記載された発明又は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。
(特許異議申立書32頁7行?34頁4行、55頁1行?59頁最終行)

(当審の判断)
特許異議申立人の主張にもかかわらず、甲第3号証の記載並びに甲第2号証の記載は、ハイエルシン酸菜種極度硬化油が、「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものに有用であることを示す記載とはいえず、これらの記載に接した当業者が、ハイエルシン酸菜種極度硬化油が、「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものに有用であると認識するとは認められない。また、ハイエルシン酸菜種極度硬化油の含有量及びSSU型トリグリセリドの含有量を特定の量あるいは量比にすることで、チョコレート様食品において「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものができることについての記載はなく、技術常識から明らかであるともいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は受け入れられず、本件発明1?5は、甲第4号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)甲第5号証(公開平2-138937号公報)に記載された発明を主引用例とする本件発明1?5に対する進歩性についての特許異議申立理由

(特許異議申立人の主張)
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略、以下のように述べて、訂正前の請求項1?5に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張する。
甲第5号証の請求項1、請求項3、1頁右欄5?10行、3頁左下欄4?10行、4頁左上欄13行?右上欄の表、5頁右上欄12?16行、及び6頁左上欄6行?右上欄の表の記載によれば、甲第5号証には以下の発明(「甲5発明」、「甲5-1発明」、「甲5-2発明」という。)が記載されている。
「甲5発明」:「SSUを20重量%以上含有するブルーム抑制用油脂。」
「甲5-1発明」:「SSUを50.9重量%含有するブルーム抑制用油脂。」
「甲5-2」発明」:「甲5-1発明を2.5重量%、カカオマスを23重量%、ココアパウダーを12重量%、粉糖を45重量%、カカオバターを10重量%、市販ハードバターを7.5重量含有する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート。」

本件特許発明1と甲5発明及び甲5-1発明とは、本件特許発明1が「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」を使用しているのに対して、甲5発明及び甲5-1発明は「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」を使用していない点で相違する。
甲第2号証の段落【0037】の記載から、ハイエルシン酸菜種局独行か油には、ブルームの発生を抑制する効果があり、油脂組成物に添加される場合、ハイエルシン菜種極度硬化油は0.5%以上10質量%未満添加されることがわかる。さらに、甲第3号証の段落[0059]?[0060]の記載からも、ハイエルシン酸菜種極度硬化油には、ブルームの発生を抑制する効果があることがわかる。してみると、甲5発明及び甲5-1発明のブルーム抑制用油脂に、更なるブルームの発生を抑制する効果を期待して、ハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加することは、当業者が容易に想到するものである。
甲5発明及び甲5-1発明にハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加した場合、以下の通りの構成となる。
「甲5発明」:
「A:ハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5以上10重量%未満、含有し、かつ、
B:ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを、2:98以上33:67未満の比率で含有する、
C:チョコレート様食品におけるブルーム抑制用油脂。ただしSは炭素数16?22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数16?22の不飽和脂肪酸を示す。」
「A:ハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5以上10重量%未満、含有し、かつ、
B:ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを、1:99以上16:84未満の比率で含有する、
C:チョコレート様食品におけるブルーム抑制用油脂。ただしSは炭素数16?22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数16?22の不飽和脂肪酸を示す。」
ここで、本件特許発明1と、甲5発明及び甲5-1発明にハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加した場合とを対比すると、全ての点で一致する。
そして、本件特許発明1により得られる作用効果は、甲5発明及び甲5-1発明と甲第2号証及び甲第3号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲第5号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明2と甲5発明及び甲5-1発明とは、本件特許発明2が「ソルビタン脂肪酸エステルを0.5?5質量%含有する」のに対して、甲5発明及び甲5-1発明はソルビタン脂肪酸エステルを含有していない点で相違する。
甲5発明及び甲5-1発明のブルーム抑制用油脂にハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加することは当業者が容易に想到するものである。また、甲第4号証の記載から、チョコレートに使用される油脂組成物に、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステルを0.5?3.5重量%程度添加してみることは、当業者が容易に想到するものである。してみると、甲5-1発明のブルーム抑制用油脂にハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加したものに、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステルを0.5?3.5重量%程度添加してみることも、当業者が容易に想到するものである。
そして、本件特許発明2により得られる作用効果は、甲5発明及び甲5-1発明と甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明2は、甲第5号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

甲第5号証には、以下の甲5-1発明が配合された甲5-2発明が記載されている。
「甲5-2発明」:「甲5-1発明を2.5重量%、カカオマスを23重量%、ココアパウダーを12重量%、粉糖を45重量%、カカオバターを10重量%、市販ハードバターを7.5重量含有する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート。」
甲第5号証及び本特許発明の明細書の段落【0018】表1の記載から、甲5-2発明は、SSUを1.3?1.45重量%含有する。
本件特許発明3と甲5-2発明とは、本件特許発明3が「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」を使用しているのに対して、甲5-2発明は「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」を使用していない点で相違する。
甲5-1発明のブルーム抑制用油脂に、更なるブルームの発生を抑制する効果を期待して、ブルームの発生を抑制する効果を有意するハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加することは、当業者が容易に想到するものである。
甲5-1発明にハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加した場合、以下の通りの構成となる。
「甲5-2発明」:
「E:ブルーム抑制用油脂である甲5-1発明を、チョコレート様食品中、2。5重量%含有する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート様食品。
F:但し、SSU型トリグリセリドの量は1.3?1.45重量%であり、かつ、
G:ハイエルシン酸菜種極度硬化油の量は0.01重量%以上0.3重量%未満である。」
ここで、本件特許発明3と甲5-1発明にハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加した場合の甲5-2発明とを対比すると、全ての点で一致する。
そして、本件特許発明3により得られる作用効果は、甲5-2発明と甲第2号証及び甲第3号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明5は、甲第5号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明4と甲5-2発明とは、本件特許発明4が「ソルビタン脂肪酸エステルを0.01?0.3質量%」のに対して、甲5-2発明はソルビタン脂肪酸エステルを含有していない点で相違する。
甲5-1発明に、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステルを0.5?3.5重量%程度添加してみることは、当業者が容易に想到するものである。してみると、甲5-2発明には甲5-1発明が添加されているので、甲5-2発明に、ソルビタン脂肪酸エステルを0.01?0.3質量%含有させることは、当業者が容易に想到するものである。
そして、本件特許発明4により得られる作用効果は、甲5-2発明と甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明4は、甲第5号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

本件特許発明5と甲5-2発明とは、本件特許発明5が「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」を使用しているのに対して、甲5-2発明は「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」を使用していない点で相違する。
甲5-1発明のブルーム抑制用油脂に、更なるブルームの発生を抑制する効果を期待して、ブルームの発生を抑制する効果を有意するハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加することは、当業者が容易に想到するものである。
甲5-1発明にハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加した場合、以下の通りの構成となる。
「甲5-2発明」:
「I:SSU型トリグリセリドを1.3?1.45重量%および、
J:ハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.01重量%以上0.3重量%未満含有するように、
K:ブルーム抑制用油脂である甲5-1発明を配合する、
L:ブルームの発生が抑制されたチョコレート様食品の製造法。」
ここで、本件特許発明5と、甲5-1発明にハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.5%以上10質量%未満添加した場合の甲5-2発明とを対比すると、全ての点で一致する。
そして、本件特許発明5により得られる作用効果は、甲5-2発明と甲第2号証及び甲第3号証の記載から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない。
よって、本件特許発明5は、甲第5号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。
(特許異議申立書34頁5行?36頁8行、60頁1行?64頁最終行)

(当審の判断)
特許異議申立人の主張にもかかわらず、甲第3号証の記載並びに甲第2号証の記載は、ハイエルシン酸菜種極度硬化油が、「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものに有用であることを示す記載とはいえず、これらの記載に接した当業者が、ハイエルシン酸菜種極度硬化油が、「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものに有用であると認識するとは認められない。また、ハイエルシン酸菜種極度硬化油の含有量及びSSU型トリグリセリドの含有量を特定の量あるいは量比にすることで、チョコレート様食品において「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものができることについての記載はなく、技術常識から明らかであるともいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は受け入れられず、本件発明1?5は、甲第5号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載事項、並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明1?5のサポート要件についての特許異議申立理由
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略、以下のように述べて、訂正前の請求項1?5に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張する。

(特許異議申立人の主張)
本件特許発明の課題は、「簡易な方法で得られる、チョコレート様食品におけるブルーム発生抑制剤、もしくは該抑制剤を使用したチョコレート様食品を提供すること」と認められる(段落【0004】参照)。
チョコレート様食品におけるブルームの発生は、通常、配合される油脂の影響を受ける。従って、チョコレート様食品におけるブルームの発生は,油脂の配合比率によって変わるものである。
そして、本件特許発明の実施例によると、……上記課題を解決するためには、ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドの比率が11.3:88.7?35.2:64.8のブルーム発生抑制用油脂を用いることが必要であると認められる。
したがって、本件特許発明1?5には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本件特許発明1?5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
よって、本件特許発明1?5は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(特許異議申立書65頁1?18行)

(当審の判断)
本件発明1?5の課題は、本件明細書の発明の詳細な説明及び訂正された請求項1?5(特に、発明の詳細な説明の段落【0004】)の記載から、「チョコレート様食品におけるブルーム抑制用油脂(チョコレート様食品における配合量は1?10質量%であり、20℃以下で生じるブルームの抑制への使用を除くもの)、もしくは該抑制剤を使用したチョコレート様食品またはその製造方法を提供すること」であると認められる。
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】には、ブルーム発生を抑制するための、ハイエルシン酸菜種極度硬化油及びSSU型トリグリセリドの含有量及び量比について、
「【0014】
本発明をチョコレート様食品の側からみると、チョコレート様食品においてブルームの発生を抑制するためには、SSU型トリグリセリドを0.1?10質量%および、ハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.01?3質量%含有することが望ましい。この量は、SSU型トリグリセリドにおいては、0.2?5質量%がより望ましく、0.3?1.5質量%が更に望ましい。また、ハイエルシン酸菜種極度硬化油においては、0.02?1質量%がより望ましく、0.05?0.2質量%が更に望ましい。無論、これらの量比は、ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを5:95?30:70の間のいずれかの比率であることが望ましい。
チョコレート様食品において、ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを適当な量含むことで、チョコレート様食品におけるブルームの発生を効率的に抑制することができる。」と記載されており、さらに、同段落【0017】?段落【0030】には、ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドの含有量及び量比をさまざまに変更した実施例・比較例についてのブルーム発生抑制効果の評価が示されている。
これらの記載に接した当業者は、たとえ同段落【0017】?段落【0030】において実施例として示されたチョコレート様食品に用いられた油脂におけるハイエルシン酸菜種極度効果油とSSU型トリグリセリドの量比が11.3:88.7?35.2:64.8の範囲であったとしても、ハイエルシン酸菜種極度効果油とSSU型トリグリセリドの量比が、発明の詳細な説明の段落【0014】に示された範囲内である5:95?40:60にあれば、「ブルーム抑制」のうち「20℃以下で生じるブルームの抑制」を除くものに有用であると認識でき、本件発明1?5は、その課題を解決できるものであると認識できる。
したがって、特許異議申立人の主張は受け入れられず、本件特許発明1?5は、発明の詳細な説明に記載したものである。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイエルシン酸菜種極度硬化油を1質量%以上含有し、かつ、ハイエルシン酸菜種極度硬化油とSSU型トリグリセリドを5:95?40:60の間のいずれかの比率で含有する、チョコレート様食品におけるブルーム抑制用油脂(ブルーム抑制用油脂のチョコレート様食品における配合量は1?10質量%である。また、20℃以下で生じるブルームの抑制態様への使用を除く)。ただしSは炭素数16?22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数16?22の不飽和脂肪酸を示す。
【請求項2】
ソルビタン脂肪酸エステルを0.5?5質量%含有する、請求項1に記載の、チョコレート様食品におけるブルーム抑制用油脂。
【請求項3】
請求項1又は2記載のブルーム抑制用油脂を、チョコレート様食品中、1?10質量%含有する、チョコレート様食品。但し、SSU型トリグリセリドの量は0.1?1.5質量%であり、かつ、ハイエルシン酸菜種極度硬化油の量は0.05?1質量%である。
【請求項4】
更に、ソルビタン脂肪酸エステルを0.01?0.3質量%含有する、請求項3に記載の、チョコレート様食品。
【請求項5】
SSU型トリグリセリドを0.1?1.5質量%および、ハイエルシン酸菜種極度硬化油を0.05?1質量%含有するように、請求項1又は2に記載のブルーム抑制用油脂を配合する、ブルームの発生が抑制されたチョコレート様食品の製造法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-30 
出願番号 特願2017-198775(P2017-198775)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23D)
P 1 651・ 121- YAA (A23D)
P 1 651・ 113- YAA (A23D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 齊藤 真由美
村上 騎見高
登録日 2018-08-03 
登録番号 特許第6376265号(P6376265)
権利者 不二製油株式会社
発明の名称 ブルーム抑制油脂  

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