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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B |
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管理番号 | 1357639 |
異議申立番号 | 異議2019-700047 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-01-24 |
確定日 | 2019-10-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6363769号発明「カバーフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6363769号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-5]について訂正することを認める。 特許第6363769号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6363769号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成29年6月19日に特許出願され、平成30年7月6日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年7月25日)がされた。 その後、請求項1?5に係る特許について、平成31年1月24日に特許異議申立人鈴木佐知子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、平成31年4月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年5月31日に意見書の提出及び訂正の請求(以下。「本件訂正請求」という。)がされ、同年6月24日付けで申立人に対し訂正の請求があった旨の通知がされ、その指定期間内である同年7月26日に申立人より意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。) ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「透明の基材フィルム」とあるのを、 「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」に訂正し、 「前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6である、カバーフィルム。」とあるのを、 「前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6であり、 前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている、カバーフィルム。」に訂正する。 請求項1を引用する請求項3?5も同様に訂正する。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「透明の基材フィルム」とあるのを、 「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」に訂正し、 「前記ハードコート層は厚みが2.0μm以下であり、」とあるのを、 「前記ハードコート層は厚みが0.5?2.0μmであり、」に訂正し、 「前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6である、カバーフィルム。」とあるのを、 「前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6であり、 前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている、カバーフィルム。」に訂正する。 請求項2を引用する請求項3?5も同様に訂正する。 ウ.訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に 「JIS5006-5-1」とあるのを、 「JISK5600-5-1」に訂正する。 請求項4を引用する請求項5も同様に訂正する。 エ.訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に 「1往復以上したときに、」とあるのを、 「1往復したときに、」に訂正する。 (2)訂正の適否 ア.一群の請求項について 訂正前の請求項1?5について、請求項3?5は直接的又は間接的に請求項1を引用し、また、請求項3?5は直接的又は間接的に請求項2を引用し、請求項5は直接的に請求項4を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1及び訂正事項2によって記載が訂正される請求項2ならびに訂正事項3によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、訂正事項1?4による訂正は、当該一群の請求項について請求されたものである。 イ.訂正の目的について 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における「透明の基材フィルム」が、「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」であることを限定するとともに、ハードコート層が、「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている」ことを限定するものであり、同請求項1を引用する請求項3?5についても同様である。 そして、訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2における「透明の基材フィルム」が、「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」であることを限定するとともに、「厚みが2.0μm以下であ」るハードコート層が、「厚みが0.5?2.0μmであり」、「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている」ことを限定するものであり、同請求項2を引用する請求項3?5についても同様である。 したがって、訂正事項1及び2による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項4における「JIS5006-5-1」は、そもそも、「JIS5006-5-1」なる規格は存在せず、本件特許明細書の段落【0028】に記載された「JISK5600-5-1」との記載を誤って記載したものであると解されるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。 訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項5における「60gf/cm^(2)の荷重で、スチールウール#0000を3cm/sec」で、「往復」する回数を、「1往復」に限定するとともに、「ハードコート層」に「傷が生じない」ことを確認する条件を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 ウ.新規事項の有無について 訂正事項1及び2による訂正は、願書に添付した明細書(本件特許明細書)の段落【0011】の「・・・本発明に係る基材フィルムは、透明の種々の材料で形成することができ、例えば、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、ポリイミドなどで形成することができる。・・・」との記載、段落【0036】の「まず、基材フィルムとして、50μm厚のPETフィルム(東レ株式会社製U483)を準備した。・・・」との記載、段落【0016】の「・・・電離放射線硬化型樹脂とは、電離放射線(紫外線または電子線)により高分子化または架橋反応するラジカル重合性を有する化合物を含み、例えば、構造単位中にエチレン性の不飽和結合を少なくとも1個以上含む化合物、またはこれらの混合物とすることができる。」、段落【0017】の「不飽和結合を1個含む単官能の化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。」、段落【0018】の「また、不飽和結合を2個含む二官能の化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。」、段落【0019】の「また、不飽和結合を3個以上含む多官能化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等の(メタ)アクリレート化合物を挙げることができる。」、段落【0020】の「その他、上記(メタ)アクリレート化合物に、ウレタン系樹脂を混合することもできる。ウレタン系樹脂としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を用いることができる。具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート化合物としては、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、トルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマーなどを用いることができる。」との記載、段落【0025】の「・・・ハードコート層の厚みは、0.25μmより大きく、3.0μm未満であり、0.5μm以上1.5μm以下であることが好ましく、0.75μm以上1.25μm以下であることがさらに好ましい。・・・」との記載に基づくものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 訂正事項3による訂正は、上記イ.で示したように、本件特許明細書の段落【0028】に記載された「JISK5600-5-1」との記載を誤って記載したものを正しい記載に訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 訂正事項4による訂正は、本件特許明細書の段落【0040】に記載された「実施例及び比較例のハードコート層の表面に60gf/cm^(2)荷重がかかるようにスチールウール#0000を配置し、3cm/secの速度で1往復させた。これを試験1とした。その後、スチールウールを往復させた箇所の傷の有無を目視で確認した。」との記載に基づくものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 したがって、訂正事項1?4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 エ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1?4による訂正は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 なお、申立人は、令和1年7月26日に提出された意見書1頁末行?2頁18行において、訂正事項4による訂正は、「1往復以上」のありとあらゆる往復回数が含まれていた請求項5の記載を「1往復」とする訂正であって、特許請求の範囲の減縮に該当しないばかりか、むしろその範囲を拡張ないし変更するものであるから、訂正要件を満たしていない旨を主張している。 しかし、上記イ.で示したように、訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項5における「60gf/cm^(2)の荷重で、スチールウール#0000を3cm/sec」で、「往復」する回数を、「1往復」に限定するとともに、「ハードコート層」に「傷が生じない」ことを確認する条件を明瞭にするものであり、また、本件特許明細書の段落【0040】の記載からみて、訂正前の請求項5の記載は、「1往復以上」のありとあらゆる往復回数が実質的に含まれていたと解すべき理由もない。 したがって、上記申立人の主張は当を得たものではなく、採用できない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求が認められることにより、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 【請求項1】 屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、 ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、 前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、 を備え、 前記基材フィルムの厚さが、25?300μmであり、 前記ハードコート層は、電離放射線硬化型樹脂で形成され、 前記ハードコート層は厚みが0.5?1.0μmであり、 前記ハードコート層のマルテンス硬さが、500N/mm^(2)以上であり、 前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6であり、 前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている、カバーフィルム。 【請求項2】 屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、 ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、 前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、 を備え、 前記基材フィルムの厚さが、25?300μmであり、 前記ハードコート層は、電離放射線硬化型樹脂で形成され、 前記ハードコート層は厚みが0.5?2.0μmであり、 前記ハードコート層のマルテンス硬さが、500N/mm^(2)以上であり、 前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6であり、 前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている、カバーフィルム。 【請求項3】 前記ハードコート層は、フッ素系の添加剤が含有されている、請求項1または2に記載のカバーフィルム。 【請求項4】 前記ハードコート層は、JISK5600-5-1に規定する円筒形マンドレル法により、前記ハードコート層にクラックが生じるマンドレルの最小径が、6mm未満である、請求項1から3のいずれかに記載のカバーフィルム。 【請求項5】 前記ハードコート層は、60gf/cm^(2)の荷重で、スチールウール#0000を3cm/secで1往復したときに、傷が生じない、請求項1から4のいずれかに記載のカバーフィルム。 (2)取消理由の概要 取消理由通知書に記載した本件発明1?5に係る特許に対する取消理由の概要は、以下のとおりである。 本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号並びに同条第6項第1号及び第2号に規定する要件(実施可能要件、サポート要件、明確性要件)を満たしていない。 記 ア.実施可能要件違反及びサポート要件違反について (ア)本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3?5について 本件発明1?5の解決すべき課題は、本件特許明細書の段落【0004】に記載された「耐屈曲性及び適度な表面硬度の両方を充足する屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムを提供する」ことであるが、一般に、物の屈曲性、剛性、柔軟性は、当該物の材料の材質や厚みに依存すると解される。 本件特許明細書には、本件発明1?5が、基材フィルムの材質やハードコート層の材質に依存することなく、前記課題を解決し得る理由は説明されていないところ、段落【0034】?【0042】には、実施例1?3は、上記課題を解決したと記載されているのみであり、しかも、この実施例1?3は、本件発明1?5における「基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6である」との要件を満たしているのかも不明であるから、上記実施例1?3は、本件発明1?5の実施例といえるのかも不明である。 したがって、本件特許明細書は、上記段落【0034】?【0042】に記載された事項を参酌したとしても、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3?5に含まれるものの全てが上記課題を解決し得るものと当業者が理解でき、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 また、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3?5は、上記課題を解決し得ないものをも含み得るものであるから、本件特許明細書に記載された発明であるとはいえない。 (イ)本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3?5について 本件発明1?5の解決すべき課題は、本件特許明細書の段落【0004】に記載された「耐屈曲性及び適度な表面硬度の両方を充足する屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムを提供する」ことであるが、一般に、物の屈曲性、剛性、柔軟性は、当該物の材料の材質や厚みに依存すると解される。 本件特許明細書には、本件発明1?5が、基材フィルムの材質やハードコート層の材質に依存することなく、前記課題を解決し得る理由は説明されていないところ、段落【0034】?【0042】には、実施例1?3は、上記課題を解決したと記載されているのみであり、しかも、この実施例1?3は、本件発明1?5における「基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6である」との要件を満たしているのかも不明であるから、上記実施例1?3は、本件発明1?5の実施例といえるのかも不明であり、さらに、ハードコート層の厚みが0.25μmである「比較例2」は、本件発明2の要件を満たしているにもかかわらず、上記課題を解決できなかった例とされている。 したがって、本件特許明細書は、上記段落【0034】?【0042】に記載された事項を参酌したとしても、本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3?5に含まれるものの全てが上記課題を解決し得るものと当業者が理解でき、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 また、本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3?5は、上記課題を解決し得ないものをも含み得るものであるから、本件特許明細書に記載された発明であるとはいえない。 イ.明確性要件違反について (ア)本件発明4について 本件発明4における「JIS5006-5-1」なる記載は、その規定しようとする事項が不明である。(本件特許明細書の段落[0028]に記載された「JISK5600-5-1」との整合も不明である。) (イ)本件発明5について 本件発明5における「60gf/cm^(2)の荷重で、スチールウール#0000を3cm/secで1往復以上したときに、傷が生じない」なる記載は、その規定しようとする事項が不明である。 例えば、60gf/cm^(2)の荷重で、スチールウール#0000を3cm/secで、1往復したのでは傷が生じなかったが、2往復目には傷が生じた場合には、「60gf/cm^(2)の荷重で、スチールウール#0000を3cm/secで1往復以上したときに、傷が生じない」ということになるのか否かが不明である。 (3)判断 ア.実施可能要件違反及びサポート要件違反について (ア)本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3?5について 本件発明1?5の解決すべき課題は、本件特許明細書の段落【0004】に記載された「耐屈曲性及び耐擦傷性の両方を充足する屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムを提供する」ことであって、特定の評価指標に基づく耐屈曲性及び表面硬度を満足することまでを解決すべき課題としているわけではない。 ここで、本件特許明細書には、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3?5が、基材フィルムの材質やハードコート層の材質に依存することなく、前記課題を解決し得る理由は直接的には説明されていない。 しかし、本件特許明細書には、前記課題の解決に関し、以下の記載がある(下線は当審にて付与。)。 「【0012】 基材フィルムの厚みは、例えば、25μm以上300μm以下であることが好ましく、75μm以上250μm以下であることがさらに好ましい。厚さが25μm未満であると、ハードコート層の表面において十分な耐擦傷性が得られず、300μmより大きいと十分な屈曲耐久性を得ることが困難となるからである。 【0013】 また、基材フィルムは、マルテンス硬さ試験で、200?600N/mm^(2)の硬さを有するものであることが好ましく、250?500N/mm^(2)の硬さであることがより好ましく、300?450N/mm^(2)の硬さであることが特に好ましい。これにより、耐擦傷性が向上する。 【0014】 マルテンス硬さは、ダイナミック超微小硬度計DUH-211(株式会社島津製作所)にて測定することができる。圧子として、稜間角115度の三角すい圧子を用い、押し込み深さ0.25μm 負荷速度0.15mN/secの条件で測定することができる。そして、具体的なマルテンス硬さは、以下の式により算出される値である。 マルテンス硬さ[N/mm^(2)]=荷重[μN]/(24.5×(深さ最大値hmax(μm)^(2))」 「【0025】 <3.ハードコート層の物性> ハードコート層の厚みは、0.25μmより大きく、3.0μm未満であり、0.5μm以上1.5μm以下であることが好ましく、0.75μm以上1.25μm以下であることがさらに好ましい。これは、0.25μm以下であると、十分な耐擦傷性能が得られず、また、3.0μm以上であると屈曲性の点で好ましくないからである。 【0026】 ハードコート層は、マルテンス硬さ試験で、500N/mm^(2)以上の硬さを有するものであることが好ましく、650N/mm^(2)以上の硬さであることがより好ましく、700N/mm^(2)以上の硬さであることが特に好ましい。これにより、耐擦傷性が向上する。一方、ハードコート層のマルテンス硬さは、300N/mm^(2)以上であることが好ましい。これによっても耐擦傷性が良好になる。マルテンス硬さは、上述した方法で測定することができる。 【0027】 ハードコート層の膜厚が薄い場合でも高い表面硬度を発現するためには、ハードコート層は、基材フィルムのマルテンス硬さと同等である必要がある。この観点から、マルテンス硬さの比(ハードコートのマルテンス硬さ/基材フィルムのマルテンス硬さ)は、0.8?2.6であることが好ましく、1.0?2.5であることがより好ましく、1.2?2.4であることがさらに好ましい。 【0028】 また、上記のようなフィルム基材及びハードコート層によって形成されたカバーフィルムは、円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき屈曲させた後、直径が6mm以上の円筒でハードコート層にクラックが生じないことが好ましい。」 また、本件特許明細書には、本件発明1の実施に関し、ハードコート層を形成する「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂」について、段落【0015】?【0024】に、どのような樹脂を用いれば良いかが具体的に説明されている。 ゆえに、本件発明1は、「基材フィルムの厚さが、25?300μm」である基材フィルムの一方の面に、「厚みが0.5?1.0μmであり」、上記段落【0014】で説明されている「マルテンス硬さ試験で、500N/mm^(2)以上の硬さを有する」「ハードコート層」を形成し、「前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6であ」るようにするという事項により、「耐屈曲性及び耐擦傷性の両方を充足する」ものであることが、定性的に理解されるものといえるから、これらの事項を発明特定事項に含む本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3?5は、上記段落【0034】?【0042】に記載されたものが実施例として開示されているか否かということを問うまでもなく、上記課題を解決し得るものと当業者が理解できるというべきであるし、また、本件特許明細書は、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるというべきである。 したがって、本件特許明細書及び特許請求の範囲の記載は、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3?5について、実施可能要件及びサポート要件を満たしている。 (イ)本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3?5について 上記2.で示したように、本件訂正請求による訂正が認められたため、前記課題を解決できなかった例とされている、ハードコート層の厚みが0.25μmである「比較例2」は、本件発明2からは除外されたところ、「ハードコート層は厚みが0.5?2.0μmであ」るとの点を除き、本件発明1とその発明特定事項を同じくする本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3?5は、上記(ア)で示した理由と同様の理由により、上記課題を解決し得るものと当業者が理解できるというべきであるし、また、本件特許明細書は、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるというべきである。 したがって、本件特許明細書及び特許請求の範囲の記載は、本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3?5について、実施可能要件及びサポート要件を満たしている。 イ.明確性要件違反について 上記2.で示したように、本件訂正請求による訂正が認められたため、本件発明4は、本件特許明細書の段落【0028】に記載された「また、上記のようなフィルム基材及びハードコート層によって形成されたカバーフィルムは、円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき屈曲させた後、直径が6mm以上の円筒でハードコート層にクラックが生じないことが好ましい。」との記載とも整合する、「ハードコート層は、JISK5600-5-1に規定する円筒形マンドレル法により、前記ハードコート層にクラックが生じるマンドレルの最小径が、6mm未満である」ことを発明特定事項とするものとなり、また、本件発明5は、「ハードコート層は、60gf/cm^(2)の荷重で、スチールウール#0000を3cm/secで1往復したときに、傷が生じない」ことを発明特定事項とするものとなり、「ハードコート層」に「傷が生じない」ことを確認する条件が明瞭となった。 したがって、本件発明4及び5は、明確性要件を満たしている。 (4)小括 以上のとおり、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第4号の規定に該当することを理由として取り消すことはできない。 (5)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1?5に記載の発明は、甲第1号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項1?5に記載の発明に係る特許は、甲第1号証?甲第5号証の記載からみて、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである旨を主張する。 この主張について、本件発明1?5に対する当否を、以下、検討する。 特許異議申立書に添付された、甲第1号証である特開2017-33031号公報(以下、「甲1」という。)には、「タッチパネル用ハードコートフィルム、及び、折り畳み式画像表示装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.「【技術分野】 【0001】 本発明は、タッチパネル用ハードコートフィルム、及び、折り畳み式画像表示装置に関する。」 イ.「【0011】 本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、基材フィルムとハードコート層とを有する。 上記基材フィルムとしては特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレナフタレートフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリアミドフィルム、又は、アラミドフィルムが好適に用いられる。これらの材料からなる基材フィルムは、後述する耐久折り畳み試験において割れが発生せず、透明性等の光学的性質にも優れたものが用いられることが好ましい。なかでも、上記基材フィルムとしては、優れた硬度を有することからポリイミドフィルムが好ましい。 ここで、ポリイミドフィルム及びアラミドフィルムは、分子中に芳香環を有することから、着色(黄色)されているものが一般的であるが、光学フィルム用途に用いる場合、上記分子中の骨格を変更して透明性を高めた「透明ポリイミド」や「透明アラミド」と呼ばれるフィルムを用いることが好ましい。一方、着色された従来のポリイミドフィルム等は、耐熱性と屈曲性との面から、プリンターや電子回路等の電子材料用に使用されることが好ましいものである。 【0012】 上記基材フィルムは、厚さが10?100μmであることが好ましい。上記基材フィルムの厚さが10μm未満であると、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムのカールが大きくなり、また、硬度も不充分となって後述する鉛筆硬度が7H以上にできないことがあり、更に、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムをRoll to Rollで製造する場合、シワが発生しやすくなるため外観の悪化を招く恐れがある。一方、上記基材フィルムの厚さが100μmを超えると、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムの折り畳み性能が不充分となり、後述する耐久折り畳み試験の要件を満たせないことがあり、また、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムが重くなり、軽量化の面で好ましくない。」 ウ.「【0028】 上記ハードコート層は、上記第一ハードコート層及び第二ハードコート層のいずれの場合であっても、上述したマルテンス硬さを充足する範囲で、上述した材料以外の材料を含んでいてもよく、例えば、樹脂成分の材料として、電離放射線の照射により硬化物を形成する重合性モノマーや重合性オリゴマー等を含んでいてもよい。 上記重合性モノマー又は重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートモノマー、又は、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。 上記分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートモノマー、又は、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、ポリフルオロアルキル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等のモノマー又はオリゴマーが挙げられる。これら重合性モノマー又は重合性オリゴマーは、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、多官能(6官能以上)で重量平均分子量が1000?1万のウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。」 エ.「【0038】 上記ハードコート層の層厚さとしては、上記第一ハードコート層である場合、10.0?40.0μmであることが好ましく、上記第二ハードコート層である場合、0.5?15.0μmであることが好ましい。上記各層厚さの下限未満であると、上記ハードコート層の硬度が著しく低下することがあり、上記各層厚さの上限を超えると、上記ハードコート層を形成するための塗液のコーティングが困難となり、また、厚さが厚すぎることに起因した加工性(特に、耐チッピング性)が悪化することがある。 上記第一ハードコート層の層厚さのより好ましい下限は15.0μm、より好ましい上限は35.0μmであり、上記第二ハードコート層の層厚さのより好ましい下限は1.0μm、より好ましい上限は10.0μmである。 なお、上記ハードコート層の層厚さは、断面の電子顕微鏡(SEM、TEM、STEM)観察により測定して得られた任意の10カ所の厚さの平均値である。」 オ.「【0042】 また、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、防汚性を有することが好ましい 。このような防汚性は、例えば、上記ハードコート層に防汚剤を含有させることで得ることができる。 上記防汚剤を含有するハードコート層は、表面の水に対する接触角が100°以上であることが好ましく、製造直後の本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムにおいては、上記ハードコート層の表面の水に対する接触角は105°以上であることがより好ましく、上記条件3における耐スチールウール試験を行った後のハードコート層の表面の水に対する接触角は90°以上であることが好ましく、103°以上であることがより好ましい。 【0043】 上記防汚剤は、上記ハードコート層の最表面側に偏在して含まれていることが好ましい。上記ハードコート層に均一に防汚剤が含有されている場合、充分な防汚性能を付与するために添加量を増やす必要があり、ハードコート層の膜強度の低下につながる恐れがある。なお、上記ハードコート層が上述した第一ハードコート層及び第二ハードコート層を有する場合、上記防汚剤は、最表面側に配置される第二ハードコート層の最表面側に偏在して含まれていることが好ましい。 ・・・ 【0044】 上記防汚剤としては特に限定されず、例えば、含シリコーン系防汚剤、含フッ素系防汚剤、含シリコーン系かつ含フッ素系防汚剤が挙げられ、それぞれ単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。また、上記防汚剤としては、アクリル系防汚剤であってもよい。 上記防汚剤の具体例としては、例えば、含フッ素系防汚剤(商品名オプツールDAC、ダイキン工業社製)等が挙げられる。 ・・・ 【0045】 更に、上記反応性官能基を有する防汚剤は、防汚性の性能持続性(耐久性)が良好となり、なかでも、上述した含フッ素系防汚剤を含むハードコート層は、指紋が付きにくく(目立ちにくく)、拭き取り性も良好である。更に、上記ハードコート層形成用組成物の塗工時の表面張力を下げることができるので、レベリング性がよく、形成するハードコート層の外観が良好なものとなる。 また、上記含シリコーン系防汚剤を含むハードコート層は、滑り性がよく、耐スチールウール性が良好である。 このような含シリコーン系防汚剤をハードコート層に含む本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムを搭載したタッチパネルは、指やペンなどで接触したときの滑りがよくなるため、触感がよくなる。また、上記ハードコート層に指紋も付きにくく(目立ちにくく)、拭き取り性も良好となる。更に、上記ハードコート層を形成する際の組成物(ハードコート層用組成物)の塗工時の表面張力を下げることができるので、レベリング性がよく、形成するハードコート層の外観が良好なものとなる。 ・・・」 カ.「【0069】 本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、上述した構成を有し、上記(条件1)を満たす、すなわち、耐久折り畳み試験で割れないものであるため、極めて優れた折り畳み性を有し、上記(条件2)を満たし、すなわち、鉛筆硬度試験(1kg荷重)の硬度が、7H以上である。 このような本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、従来公知のハードコート層を備えたハードコートフィルムと同様に、液晶表示装置等の画像表示装置の表面保護フィルムとして使用できるだけでなく、曲面ディスプレイや、曲面を有する製品の表面保護フィルム、折り畳み式の部材の表面保護フィルムとして使用できる。 なかでも、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、極めて優れた折り畳み性を有するため、折り畳み式の部材の表面保護フィルムとして好適に用いられる。 ・・・」 キ.「【発明の効果】 【0071】 本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、上述した構成からなるものであるため、極めて優れた硬度及び耐久折り畳み性能を有するものとなる。 このため、本発明のハードコートフィルムは、従来のハードコート層を備えたハードコートフィルムと同様の表面保護フィルムのほか、曲面を有する製品の表面保護フィルムや、折り畳み式画像表示装置といった折り畳み式の部材の表面材として好適に使用することができる。」 ク.「【0075】 (実施例1) 基材フィルムとして、厚さ30μmのポリイミドフィルム(ポリイミド1、ネオプリムL-3450、三菱ガス化学社製)を準備し、該基材フィルムの一方の面上に、下記組成のハードコート層用組成物1を塗布し、塗膜を形成した。 次いで、形成した塗膜に対して、70℃1分間加熱させることにより塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、紫外線を空気中にて積算光量が100mJ/cm^(2)になるように照射して塗膜をハーフキュアーさせて厚さ15μmの第一ハードコート層を形成した。 次いで、第一ハードコート層上に、下記組成のハードコート層用組成物Aを塗布し、塗膜を形成した。次いで、形成した塗膜に対して、70℃1分間加熱させることにより塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、紫外線を酸素濃度が200ppm以下の条件下にて積算光量が200mJ/cm^(2)になるように照射して塗膜を完全硬化させることにより、厚さ5μmの第二ハードコート層を形成し、タッチパネル用ハードコートフィルムを製造した。 【0076】 (ハードコート層用組成物1) ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成社製) 25質量部 ジペンタエリスリトールEO変性ヘキサアクリレート(A-DPH-6E、新中村化学社製) 25質量部 異型シリカ微粒子(平均粒子径25nm、日揮触媒化成社製) 50質量部(固形換算) 光重合開始剤(Irg184) 4質量部 フッ素系レベリング剤(F568、DIC社製) 0.2重量部(固形換算) 溶剤(MIBK) 150質量部 なお、得られた第一ハードコート層のマルテンス硬さは、830MPaであった。 【0077】 (ハードコート層用組成物A) ウレタンアクリレート(UX5000、日本化薬社製) 25質量部 ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成社製) 50質量部 多官能アクリレートポリマー(アクリット8KX-012C、大成ファインケミカル社製) 25質量部(固形換算) 防汚剤(BYKUV3500、ビックケミー社製) 1.5質量部(固形換算) 光重合開始剤(Irg184) 4質量部 溶剤(MIBK) 150質量部 なお、得られた第二ハードコート層のマルテンス硬さは、500MPaであった。」 ケ.「【0081】 (実施例5) 第二ハードコート層の厚さを2μmとした以外は、実施例1と同様にしてタッチパネル用ハードコートフィルムを製造した。」 コ.「【0092】 (実施例10) 基材フィルムとして、厚さ30μmのポリイミドフィルム(ポリイミド1、ネオプリムL-3450、三菱ガス化学社製)に代えて、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、東レ社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてタッチパネル用ハードコートフィルムを製造した。」 サ.「【0121】 (耐久折り畳み試験) 実施例及び比較例に係るタッチパネル用ハードコートフィルムを、30mm×100mmの長方形にカットして作製したサンプルを、耐久試験機(DLDMLH-FU、ユアサシステム機器社製)に曲げR半径が1.5mm(直径3.0mm)となるようにして取り付け、サンプルのハードコート層が形成された側の面が内側となるように全面を180°折り畳む試験を10万回行い、以下の基準にて評価した。 ○:サンプルに割れが生じていない ×:サンプルに割れが生じた」 シ.「【0123】 (耐スチールウール(SW)性) 実施例及び比較例に係るタッチパネル用ハードコートフィルムのハードコート層の最表面を、#0000番のスチールウール(商品名:BON STAR、日本スチールウール社製)を用いて、1kg/cm^(2)の荷重をかけながら、速度50mm/secで3500回往復摩擦し、その後のハードコート層表面に傷の有無を目視し下記の基準にて評価した。 ○:傷なし ×:傷があった」 ス.「【0126】 表2に示したように、実施例に係るタッチパネル用ハードコートフィルムは、耐久折り畳み性能、耐擦傷性及び防汚性に優れ、また、鉛筆硬度も7H以上と優れていた。・・・」 ここで、上記ク.に摘記した段落【0075】に記載の「厚さ30μmのポリイミドフィルム(ポリイミド1、ネオプリムL-3450、三菱ガス化学社製)」は、甲第4号証(リードエグジビションジャパン株式会社主催に係る展示会のホームページ(三菱ガス化学(株)、「高耐熱性透明ポリイミド樹脂ネオプリム」の紹介頁) Https://d.material-expo.jp./ja/Expo/2523637/Products/1109787)の記載からみて、無色透明のものであると解され、上記ケ.に摘記した実施例5に係るタッチパネル用ハードコートフィルムは、上記サ.?ス.に摘記した事項からみて、耐久折り畳み性能、耐擦傷性及び防汚性に優れたものといえる。 これらの記載事項等を整理すると、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。 《甲1発明》 厚さ30μmのポリイミドフィルム(ポリイミド1、ネオプリムL-3450、三菱ガス化学社製)からなる基材フィルムの一方の面上に、第一ハードコート層、第二ハードコート層を順に積層し、該第二ハードコート層は、ウレタンアクリレート(UX5000、日本化薬社製)25質量部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成社製)50質量部、多官能アクリレートポリマー(アクリット8KX-012C、大成ファインケミカル社製)25質量部(固形換算)、防汚剤(BYKUV3500、ビックケミー社製)1.5質量部(固形換算)、光重合開始剤(Irg184)4質量部、溶剤(MIBK)150質量部からなるハードコート層用組成物Aを塗布し、塗膜を形成し、次いで、形成した塗膜に対して、70℃1分間加熱させることにより塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、紫外線を酸素濃度が200ppm以下の条件下にて積算光量が200mJ/cm^(2)になるように照射して塗膜を完全硬化させることにより得た、厚さ2μmの層であり、耐久折り畳み性能、耐擦傷性及び防汚性に優れた、折り畳み式画像表示装置のタッチパネル用ハードコートフィルム。 ここで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「厚さ30μmのポリイミドフィルム(ポリイミド1、ネオプリムL-3450、三菱ガス化学社製)からなる基材フィルム」、「第二ハードコート層」、「耐久折り畳み性能、耐擦傷性及び防汚性に優れた、折り畳み表示装置のタッチパネル用ハードコートフィルム」は、各々、本件発明1の「透明の基材フィルム」、「ハードコート層」、「屈曲ディスプレイ用のカバーフィルム」に対応するところ、両者の一致点および相違点は以下のとおりである。 《一致点》 屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、 ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、 ハードコート層と、を備え、 前記基材フィルムの厚さが、25?300μmであり、 前記ハードコート層は、電離放射線硬化型樹脂で形成されている、カバーフィルム。 《相違点1》 ハードコート層について、本件発明1のハードコート層は、透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたものであって、厚みが0.5?1.0μmであり、そのマルテンス硬さが、500N/mm^(2)以上であり、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されているのに対し、甲1発明の第二ハードコート層は、基材フィルムの一方の面上に、第一ハードコート層を介して、積層されたものであって、厚みが2μmであり、そのマルテンス硬さは特定されておらず、ウレタンアクリレート(UX5000、日本化薬社製)25質量部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成社製)50質量部、多官能アクリレートポリマー(アクリット8KX-012C、大成ファインケミカル社製)25質量部(固形換算)、防汚剤(BYKUV3500、ビックケミー社製)1.5質量部(固形換算)、光重合開始剤(Irg184)4質量部を含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている点。 《相違点2》 本件発明1は、基材フィルムのマルテンス硬さに対するハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6であるのに対し、甲1発明は、基材フィルムのマルテンス硬さに対するハードコート層のマルテンス硬さについての特定がない点。 まず、相違点1について検討する。 本件発明1における「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層」なる事項について、「透明基材フィルム」と「ハードコート層」との間に、他のハードコート層を含む何らかの層を介在させ得るものと解すべきとする理由は、本件発明1の発明特定事項からは見いだせないし、本件特許明細書にも、そのような事項は記載されておらず、これを示唆する記載もない。 一方、甲1発明は、基材フィルムの一方の面上に、第一ハードコート層、第二ハードコート層を順に積層したものであって、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させることを前提とした発明であるところ、甲1発明において、その前提を無視し、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することには、阻害要因があるというべきであるし、当然のことながら、甲1には、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することは記載されておらず、これを示唆する記載もないし、特許異議申立書に添付された、甲第2号証(「成績証明書」、(株)ミツバ環境ソリューション、平成30年11月23日)、甲第3号証(特許第6334035号公報)、甲第4号証及び甲第5号証(特許第5683734号公報)にも、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させることを前提とした発明である甲1発明において、その前提を無視し、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することを動機付けるような記載やこれを示唆する記載はない。 また、甲1発明の第二ハードコート層は、「ウレタンアクリレート(UX5000、日本化薬社製)25質量部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成社製)50質量部、多官能アクリレートポリマー(アクリット8KX-012C、大成ファインケミカル社製)25質量部(固形換算)、防汚剤(BYKUV3500、ビックケミー社製)1.5質量部(固形換算)、光重合開始剤(Irg184)4質量部、溶剤(MIBK)150質量部からなるハードコート層用組成物Aを塗布し、塗膜を形成し」たものであるから、「ウレタンアクリレート(UX5000、日本化薬社製)」、すなわち、ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を含有するものであるところ、上記ウ.に摘記したように、甲1には、電離放射線の照射により硬化物を形成する重合性モノマーや重合性オリゴマー等を含む場合、「なかでも、多官能(6官能以上)で重量平均分子量が1000?1万のウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。」と記載されていることを踏まえると、上記「第二ハードコート層」が含有する「ウレタンアクリレート(UX5000、日本化薬社製)」を、「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する」ものに変更することには、阻害要因があるというべきであるし、甲1には、そのような変更を動機付ける記載もない。 以上のとおりであるから、甲1発明における第二ハードコート層を、本件発明1のハードコート層の如くその構成を変更することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、本件発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 また、「ハードコート層は厚みが0.5?2.0μmであ」るとの点を除き、本件発明1とその発明特定事項を同じくする本件発明2は、上記と同様の理由により、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 さらに、本件発明1または本件発明2の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明3?5についても、上記と同様の理由により、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 以上のとおりであるから、申立人のかかる主張は、採用することができない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができず、また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、 ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、 前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、 を備え、 前記基材フィルムの厚さが、25?300μmであり、 前記ハードコート層は、電離放射線硬化型樹脂で形成され、 前記ハードコート層は厚みが0.5?1.0μmであり、 前記ハードコート層のマルテンス硬さが、500N/mm^(2)以上であり、 前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6であり、 前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている、カバーフィルム。 【請求項2】 屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、 ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、 前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、 を備え、 前記基材フィルムの厚さが、25?300μmであり、 前記ハードコート層は、電離放射線硬化型樹脂で形成され、 前記ハードコート層は厚みが0.5?2.0μmであり、 前記ハードコート層のマルテンス硬さが、500N/mm^(2)以上であり、 前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する前記ハードコート層のマルテンス硬さが、0.8?2.6であり、 前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている、カバーフィルム。 【請求項3】 前記ハードコート層は、フッ素系の添加剤が含有されている、請求項1または2に記載のカバーフィルム。 【請求項4】 前記ハードコート層は、JISK5600-5-1に規定する円筒形マンドレル法により、前記ハードコート層にクラックが生じるマンドレルの最小径が、6mm未満である、請求項1から3のいずれかに記載のカバーフィルム。 【請求項5】 前記ハードコート層は、60gf/cm^(2)の荷重で、スチールウール#0000を3cm/secで1往復したときに、傷が生じない、請求項1から4のいずれかに記載のカバーフィルム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-10-07 |
出願番号 | 特願2017-120039(P2017-120039) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B) P 1 651・ 121- YAA (B32B) P 1 651・ 113- YAA (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 加賀 直人 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
渡邊 豊英 白川 敬寛 |
登録日 | 2018-07-06 |
登録番号 | 特許第6363769号(P6363769) |
権利者 | グンゼ株式会社 |
発明の名称 | カバーフィルム |
代理人 | 山下 未知子 |
代理人 | 桝田 剛 |
代理人 | 山下 未知子 |
代理人 | 桝田 剛 |
代理人 | 立花 顕治 |
代理人 | 立花 顕治 |